(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】緩衝ストッパ
(51)【国際特許分類】
F16F 7/00 20060101AFI20220901BHJP
B62D 3/12 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
F16F7/00 F
F16F7/00 L
B62D3/12 503C
B62D3/12 511
B62D3/12 503D
(21)【出願番号】P 2018184386
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】河村 祥太
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-013573(JP,A)
【文献】特開2017-077874(JP,A)
【文献】特公昭27-005153(JP,B1)
【文献】実開昭63-118440(JP,U)
【文献】実開平05-050188(JP,U)
【文献】特開2010-112542(JP,A)
【文献】特開2001-271850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 7/00
B62D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に形成され、可動部材の端面および前記端面に対向する静止部材の端面ならびに前記静止部材の外周壁によって三方を囲まれる装着空間に装着されるゴム状弾性体と、
前記ゴム状弾性体の一方の端部に取り付けられた可動部材側金具と、
前記ゴム状弾性体の他方の端部に取り付けられた静止部材側金具と、
緩衝ストッパの静止部材側端面に開口し、前記静止部材側金具を貫通するように前記ゴム状弾性体および前記静止部材側金具に設けられ
、前記静止部材に前記静止部材側金具が接触したときに内部にエアを閉じ込め、空気バネとして作用する有底の孔部と、
を備えることを特徴とする緩衝ストッパ。
【請求項2】
請求項1記載の緩衝ストッパにおいて、
前記ゴム状弾性体と一体の膜部が前記緩衝ストッパの静止部材側端面に設けられ、
前記孔部が前記膜部を貫通し、前記膜部の端面に開口するように設けられて
おり、
前記孔部の内部空間と前記緩衝ストッパの外部とを連通させるスリットが前記膜部に設けられていることを特徴とする緩衝ストッパ。
【請求項3】
請求項
1又は2記載の緩衝ストッパにおいて、
前記ゴム状弾性体の外周面には、周方向に沿って環状の凹部が設けられていることを特徴とする緩衝ストッパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝ストッパに関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝ストッパは、例えば自動車等車両のステアリング装置におけるステアリングラックおよびラックハウジング間に装着され、ステアリング装置の作動時、緩衝作用を発揮しながらステアリングラックの変位を停止させる機能を発揮する。
【0003】
図8に示すように緩衝ストッパ1は、ステアリングラック51の端面52およびこの端面52に対向するラックハウジング61の端面62ならびに同ラックハウジング61の外周壁63によって三方を囲まれる装着空間71に装着される円筒状のゴム状弾性体11を備え、このゴム状弾性体11の一方の端部にステアリングラック51の端面52に接触するラック側金具21が取り付けられ、ゴム状弾性体11の他方の端部にラックハウジング61の端面62に接触するハウジング側金具31が取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記緩衝ストッパ1は、ステアリングラック51の変位に伴う衝撃荷重の入力に対しゴム状弾性体11の圧縮バネ(線形領域)およびラックハウジング61への体積充満(非線形領域)により衝突エネルギーを受容(吸収)する緩衝機能を発揮する。
【0006】
このため、設定の狙いとする受容エネルギー量およびストローク制御に応じて、ゴム状弾性体11の外周面に
図9または
図10に示すような凹部12を設けて外周壁63との間に隙間空間を設けているが、
図9に示すように凹部12の容積が小さい場合には、
図11のグラフ図におけるラインAにて示すようにストローク小で受容エネルギー量が不足することがあり(ラインAの立ち上がりが早過ぎる)、反対に
図10に示すように凹部12の容積が大きい場合には、
図11のグラフ図におけるラインBにて示すように受容エネルギー量が大となるがストロークも大となり、よってゴム状弾性体11の変形応力が高まり耐久性が悪化することが懸念される(ラインBの立ち上がりが遅過ぎる)。
【0007】
受容エネルギー量を大きく設定することができ、しかもゴム状弾性体の耐久性を高めることが可能な緩衝ストッパを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
緩衝ストッパは、円筒状に形成され、可動部材の端面および前記端面に対向する静止部材の端面ならびに前記静止部材の外周壁によって三方を囲まれる装着空間に装着されるゴム状弾性体と、前記ゴム状弾性体の一方の端部に取り付けられた可動部材側金具と、前記ゴム状弾性体の他方の端部に取り付けられた静止部材側金具と、緩衝ストッパの静止部材側端面に開口し、前記静止部材側金具を貫通するように前記ゴム状弾性体および前記静止部材側金具に設けられ、前記静止部材に前記静止部材側金具が接触したときに内部にエアを閉じ込め、空気バネとして作用する有底の孔部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
受容エネルギー量を大きく設定することができ、しかもゴム状弾性体の耐久性を高めることが可能な緩衝ストッパを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係る緩衝ストッパの装着状態を示す断面斜視図
【
図2】同緩衝ストッパの装着前の状態を示す断面斜視図
【
図7】孔部の他の例を示す緩衝ストッパの一部下面図
【
図8】背景技術に係る緩衝ストッパの装着状態を示す断面斜視図
【
図10】同緩衝ストッパの装着状態を示す要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態に係る緩衝ストッパは、自動車等車両のステアリング装置におけるステアリングラックおよびラックハウジング間に装着され、ステアリング装置の作動時、緩衝作用を発揮しながらステアリングラックの変位を停止させる機能を発揮する。
【0014】
図1ないし
図5に示すように実施の形態に係る緩衝ストッパ1は、以下のように構成されている。
【0015】
すなわち
図1に示すように、ステアリングラック51の端面52およびこの端面52に対向するラックハウジング61の端面62ならびに同ラックハウジング61の外周壁63によって三方を囲まれる環状の装着空間71に装着される円筒状のゴム状弾性体11が設けられ、このゴム状弾性体11の一方の端部にステアリングラック51の端面52に接触する内周円筒22付きの環状のラック側金具(スリーブ)21が取り付けられ、ゴム状弾性体11の他方の端部にラックハウジング61の端面62に接触または対向する環状のハウジング側金具31が取り付けられている。
【0016】
ゴム状弾性体11の外周面に環状の凹部12が設けられている。凹部12底面の外径は外周壁63の内径よりも小さく形成され、これによりゴム状弾性体11と外周壁63との間にこの凹部12による初期的な隙間空間が形成される。凹部12の大きさとしては、上記
図9に示した比較的小さな容積の凹部12に相当する。
【0017】
図2および
図3に示すように、緩衝ストッパ1のハウジング側端部に孔部41が設けられている。
【0018】
孔部41は、緩衝ストッパ1のハウジング側端面に開口し、緩衝ストッパ1の軸方向(中心軸線方向)に沿って延設され、ハウジング側金具31を軸方向(厚み方向)に貫通するように設けられている。したがって孔部41はゴム状弾性体11およびハウジング側金具31に跨って設けられている。孔部41は所定の開口面積および深さを有する先止まり状の孔部として設けられている。孔部41の開口形状は円形とされている。また孔部41は緩衝ストッパ1の円周上に複数の孔部41が一定の間隔をあけて設けられている(例えば8等配)。
【0019】
また、緩衝ストッパ1のハウジング側端面に、ゴム状弾性体11と一体の膜部13が設けられている。したがってハウジング側金具31はゴム状弾性体11および膜部13によって囲まれ、これらの内部に埋設されている。またこのように膜部13が設けられているので、孔部41はそれぞれ膜部13を軸方向に貫通し、膜部13の端面に開口するように設けられている。
【0020】
また、膜部13に、孔部41の内部空間と緩衝ストッパ1の外部とを連通させるスリット14が孔部41から緩衝ストッパ1の径方向内方へ向けて設けられている。
【0021】
上記構成の緩衝ストッパ1は、以下のように作動する。
【0022】
初動姿勢・・・・
図4および
図5は、緩衝ストッパ1がステアリングラック51およびラックハウジング61間の装着空間71に装着された緩衝ストッパ1の初動姿勢を示している。この初動姿勢において膜部13はラックハウジング61の端面62に接触し、孔部41を閉塞している。したがって孔部41の内部にエアが閉じ込められ、このエアが空気バネとして作用する。空気バネはゴム状弾性体11よりもバネ定数が高く設定される。
【0023】
作動第1段階・・・・
上記初動姿勢において、ステアリングラック51が変位(ストローク)して衝撃荷重Fが入力すると、ゴム状弾性体11が圧縮され、ゴム状弾性体11の圧縮バネ(線形領域)による衝突エネルギー受容(吸収)機能が発揮される。
図11のグラフ図で云うと実施の形態に係るラインCにおけるポイントP
1からポイントP
2に相当する。尚このとき、上記空気バネはバネ定数が高く設定されているので、孔部41は容積を未だ縮小せず、スリット14は閉じたままとされている。
【0024】
作動第2段階・・・・
次いで、ステアリングラック51が更に変位(ストローク)してさらに大きな衝撃荷重Fが入力すると、ゴム状弾性体11がさらに圧縮され上記空気バネも圧縮され、孔部41の容積が縮小し、スリット14が押し開かれ、上記エアが徐々に外部へ放出される。
図11のグラフ図で云うと実施の形態に係るラインCにおけるポイントP
2からポイントP
3に相当する。
【0025】
作動第3段階・・・・
次いで、ステアリングラック51が更に変位(ストローク)してさらに大きな衝撃荷重Fが入力すると、ゴム状弾性体11および上記空気バネがさらに圧縮され、孔部41の容積が限度まで縮小し、上記エアが限度まで放出され、引きつづきゴム状弾性体11のラックハウジング61への体積充満(非線形領域)による衝突エネルギー受容(吸収)機能が発揮される。
図11のグラフ図で云うと実施の形態に係るラインCにおけるポイントP
3以降に相当する。
【0026】
したがって、上記構成の緩衝ストッパ1によると
図11のグラフ図から判るように、上記
図9相当の比較的小さな凹部12を備えるものでありながら、上記
図10相当の比較的大きな凹部12を備える緩衝ストッパ1とほぼ同様な衝突エネルギー受容(吸収)特性が発揮されるため、受容エネルギー量を大きく設定することが可能とされている。
【0027】
またそのうえ、作動第2段階では、孔部41の容積が縮小するだけでゴム状弾性体11の体積が殆んど変化しないため、このあいだ、ゴム状弾性体11では変形応力が殆んど増大しない。したがってゴム状弾性体11の変形応力が増大し、これに伴ってゴム状弾性体11の耐久性が悪化するのを抑制することが可能とされている。
【0028】
また、上記構成の緩衝ストッパ1では、孔部41がハウジング側金具31を貫通するように設けられているため、金具31による補強作用が発揮され、ゴム状弾性体11が変形してゆく過程で孔部41の開口部が塞がれてしまうと云った事態が発生しない。したがって上記エアの放出さらには吸入を繰り返し円滑に行うことが可能とされている。
【0029】
また、ゴム状弾性体11と一体の膜部13が設けられているため、この膜部13がラックハウジング61の端面62に密着することによりエアに対するシール作用が発揮される。したがって上記作動第1段階において孔部41を閉塞しやすく、孔部41内部にエアを封入しやすい。
【0030】
また、膜部13にスリット14が設けられているため、このスリット14を介して外部のエアが孔部41内部へ導入される。したがって上記作動第3段階から初動姿勢へ緩衝ストッパ1が復帰動するときに、緩衝ストッパ1が吸盤のごとくラックハウジング61の端面62に吸着してしまって復帰動しないと云った事態が発生するのを防止することができ、緩衝ストッパ1の復帰動を円滑化することができる。尚、緩衝ストッパ1に膜部13やスリット14が設けられていない場合には、ハウジング側金具31がラックハウジング61の端面62に直接接触するので、両者の金属接触による隙間を介してエアが放出・吸入される。
【0031】
本発明において、孔部41の形成数は特に限定されない。例えば
図6の例では、上記実施の形態の2倍の、16等配とされている。
【0032】
また、孔部41の開口形状はこれも特に限定されない。すなわち上記実施の形態では
図7(A)に示すように孔部41の開口形状が円形であったところ、例えば
図7(B)の例では、孔部41の開口形状が円周方向に長い長円形または楕円形とされている。
【符号の説明】
【0033】
1 緩衝ストッパ
11 ゴム状弾性体
12 凹部
13 膜部
14 スリット
21 ラック側金具(可動部材側金具)
22 内周円筒
31 ハウジング側金具(静止部材側金具)
41 孔部
51 ステアリングラック(可動部材)
52,62 端面
61 ラックハウジング(静止部材)
63 外周壁
71 装着空間