(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】ミスト加工用水溶性金属加工油剤組成物および金属加工方法
(51)【国際特許分類】
C10M 173/02 20060101AFI20220901BHJP
C10M 129/16 20060101ALN20220901BHJP
C10M 129/74 20060101ALN20220901BHJP
C10M 133/16 20060101ALN20220901BHJP
C10M 129/70 20060101ALN20220901BHJP
C10M 129/26 20060101ALN20220901BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220901BHJP
C10N 40/22 20060101ALN20220901BHJP
【FI】
C10M173/02
C10M129/16
C10M129/74
C10M133/16
C10M129/70
C10M129/26
C10N30:00 Z
C10N40:22
(21)【出願番号】P 2018185414
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000115083
【氏名又は名称】ユシロ化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594142207
【氏名又は名称】トヨタ自動車北海道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001623
【氏名又は名称】弁理士法人真菱国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂上 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】水梨 健太
(72)【発明者】
【氏名】日向 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】丹野 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 太樹
(72)【発明者】
【氏名】山崎 徹
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-173730(JP,A)
【文献】特開2006-124609(JP,A)
【文献】特表2018-523748(JP,A)
【文献】特開昭54-001481(JP,A)
【文献】特開平06-057279(JP,A)
【文献】米国特許第03507792(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される1種類以上の非イオン性界面活性剤を、25質量%以上50質量%以下と、
ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステルおよび脂肪酸アルカノールアミドから選ばれる1種類以上の非イオン性界面活性剤を、10質量%以上30質量%以下と、
式(2)で表される1種類以上の脂肪酸エステル化合物を、10質量%以上30質量%以下と、
を含むことを特徴とするミスト加工用水溶性金属加工油剤組成物。
R
1O-(C
2H
4O)
n-H (1)
(式(1)において、R
1は炭素数8以上18以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基を示し、nはオキシエチレン基の平均付加モル数を示し、3以上9以下の数である。)
R
2-COO-R
3 (2)
(式(2)において、R
2は炭素数8以上20以下の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基を示し、R
3は炭素数1以上12以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基を示す。)
【請求項2】
炭素数3以上18以下の脂肪酸塩から選ばれる1種類以上のアニオン性界面活性剤を、1質量%以上10質量%以下、さらに含むことを特徴とする請求項1に記載のミスト加工用水溶性金属加工油剤組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のミスト加工用水溶性金属加工油剤組成物が含まれる加工液を、ミスト状にして加工点に供給することを特徴とする金属加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量の加工液をミスト状にして加工点に供給するミスト加工用の水溶性金属加工油剤組成物および金属加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減を図るため、加工液の使用量を削減した金属加工方法の検討が行われている。この種の金属加工方法として、ミスト加工、すなわち微量の加工液をミスト状にして加工点に供給する手法が注目されている。ミスト加工に用いられる加工液として、特許文献1が開示するように、油性のものが実用化されている。
【0003】
もっとも、加工液が油性であると、ミスト状になった加工液が飛散することにより、作業環境の悪化や火災の危険が伴う。そこで、これらの課題を解決するものとして、特許文献2が開示するように、ミスト加工用水溶性金属加工油剤組成物に対するニーズが高まっている。なお、以下では、ミスト加工用水溶性金属加工油剤組成物を、「水溶性金属加工油剤」ともいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-192686号公報
【文献】特開2002-212584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の水溶性金属加工油剤には、潤滑性付与を目的として、鉱物油や合成油などの被乳化体を多用し、これらを安定に乳化するための界面活性剤が多量に配合されている。このため、水溶性金属加工油剤が含まれる加工液が加工装置内に飛散し、加工液から水分が蒸発すると、加工液が増粘する。増粘した加工液には、金属加工時に加工対象物から発生した微細な切りくずが付着しやすい。その結果、加工装置において、加工対象物の保持部やセンサーなどに、増粘した加工液を介して、加工対象物の切りくずが付着することとなり、加工精度やセンサーの検出精度の低下を招いてしまうという課題がある。
【0006】
本発明は、切りくず付着量を低減させることができるミスト加工用水溶性金属加工油剤組成物および金属加工方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のミスト加工用水溶性金属加工油剤組成物は、式(1)で表される1種類以上の非イオン性界面活性剤を、25質量%以上50質量%以下と、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステルおよび脂肪酸アルカノールアミドから選ばれる1種類以上の非イオン性界面活性剤を、10質量%以上30質量%以下と、式(2)で表される1種類以上の脂肪酸エステル化合物を、10質量%以上30質量%以下と、を含むことを特徴とする。
R1O-(C2H4O)n-H (1)
(式(1)において、R1は炭素数8以上18以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基を示し、nはオキシエチレン基の平均付加モル数を示し、3以上9以下の数である。)
R2-COO-R3 (2)
(式(2)において、R2は炭素数8以上20以下の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基を示し、R3は炭素数1以上12以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基を示す。)
【0008】
この構成によれば、切りくず付着量を低減させることができる。
【0009】
本発明の金属加工方法は、上記のミスト加工用水溶性金属加工油剤組成物が含まれる加工液を、ミスト状にして加工点に供給することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、切りくず付着量の少ない水溶性金属加工油剤が含まれる加工液を用いることで、金属加工を良好に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(水溶性金属加工油剤)
本発明のミスト加工用水溶性金属加工油剤組成物(水溶性金属加工油剤)は、成分Aと、成分Bと、成分Cとを含む。
・成分A:式(1)で表される非イオン性界面活性剤
R1O-(C2H4O)n-H (1)
・成分B:ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステルおよび脂肪酸アルカノールアミドから選ばれる非イオン性界面活性剤
・成分C:式(2)で表される脂肪酸エステル化合物
R2-COO-R3 (2)
【0012】
また、水溶性金属加工油剤は、成分A、成分Bおよび成分Cに加えて、成分D、成分E、成分Fおよび成分Gから選ばれる1以上の成分を含むことが好ましい。
・成分D:炭素数3以上18以下の脂肪酸塩から選ばれるアニオン性界面活性剤
・成分E:成分Aおよび成分Bのいずれとも異なる非イオン性界面活性剤
・成分F:成分Dとは異なる金属防食剤
・成分G:水
なお、水溶性金属加工油剤は、成分Aないし成分G以外の成分を含んでいてもよい。
【0013】
(成分A)
成分Aは、上述したように、式(1)で表される非イオン性界面活性剤である。
R1O-(C2H4O)n-H (1)
成分Aは、水溶性金属加工油剤が含まれる加工液において、成分Cを乳化させる乳化剤として機能する。また、成分Aを配合することで、切りくず付着量を少なくすることができる。
【0014】
式(1)において、R1は炭素数8以上18以下のアルキル基を示す。R1の炭素数は、好ましくは、8以上12以下である。R1の炭素数が8以上18以下であることで、切りくず付着量を少なくすることができる。R1は、分岐鎖状でもよいが、直鎖状であることが好ましい。R1が直鎖状である場合には、R1が分岐鎖状である場合に比べ、切りくず付着量をより少なくすることができる。炭素数8以上18以下のアルキル基としては、例えば、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-デシル基、イソデシル基、n-ドデシル基、n-テトラデシル基、n-ヘキサデシル基、n-オクタデシル基などを挙げることができる。
【0015】
式(1)において、nは、オキシエチレン基の平均付加モル数を示す。nは、3以上9以下の数である。nが3以上9以下であることで、切りくず付着量を少なくすることができる。
【0016】
成分Aは、例えば、炭素数8以上18以下のアルコールに、アルカリ触媒下、オキシエチレン基を付加することによって、得ることができる。
【0017】
水溶性金属加工油剤における成分Aの含有量は、25質量%以上50質量%以下である。成分Aの含有量が25質量%以上であることで、切りくず付着量を少なくすることができる。ミスト加工性を向上させる成分Cの配合を考慮すると、成分Aの含有量は、50質量%以下が望ましい。
【0018】
水溶性金属加工油剤は、成分Aとして、式(1)で表される非イオン性界面活性剤を、1種類単独で含んでもよく、2種類以上を組み合わせて含んでもよい。
【0019】
(成分B)
成分Bは、上述したように、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステルおよび脂肪酸アルカノールアミドから選ばれる非イオン性界面活性剤である。成分Bは、加工液において、成分Aと共に成分Cを乳化させる乳化剤として機能する。
【0020】
ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステルとしては、例えば、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルなどを挙げることができる。ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルにおけるエステルの個数は、特に限定されず、モノエステル体、ジエステル体およびトリエステル体のいずれでもよい。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルについても同様である。
【0021】
ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、炭素数8以上20以下であることが好ましく、飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸のいずれでもよく、直鎖状および分岐鎖状のいずれでもよい。このような脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、2-ブチルオクタン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アラキジン酸、などを挙げることができる。ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステルは、例えば、多価アルコール脂肪酸エステル(例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル)に、オキシエチレン基を付加することによって、得ることができる。
【0022】
脂肪酸アルカノールアミドを構成する脂肪酸は、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸と同様に、炭素数8以上20以下であることが好ましく、飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸のいずれでもよく、直鎖状および分岐鎖状のいずれでもよい。脂肪酸アルカノールアミドを構成するアルカノールアミンとしては、例えば、(モノ、ジ)エタノールアミン、(モノ、ジ)-n-プロパノールアミン、(モノ、ジ)イソプロパノールアミンなどを挙げることができる。脂肪酸アルカノールアミドは、例えば、脂肪酸とアルカノールアミンとを加熱して脱水縮合させることによって、得ることができる。
【0023】
水溶性金属加工油剤における成分Bの含有量は、10質量%以上30質量%以下である。成分Bの含有量が10質量%以上であることで、加工液の乳化安定性を向上させることができる。成分Bの含有量が30質量%以下であることで、切りくず付着量を少なくすることができる。
【0024】
水溶性金属加工油剤は、成分Bとして、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステルおよび脂肪酸アルカノールアミドから選ばれる非イオン性界面活性剤を、1種類単独で含んでもよく、2種類以上を組み合わせて含んでもよい。すなわち、成分Bは、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステルから選ばれる1種類以上の非イオン性界面活性剤で構成されてもよい。また、成分Bは、脂肪酸アルカノールアミドから選ばれる1種類以上の非イオン性界面活性剤で構成されてもよい。さらに、成分Bは、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステルから選ばれる1種類以上の非イオン性界面活性剤と、脂肪酸アルカノールアミドから選ばれる1種類以上の非イオン性界面活性剤と、で構成されてもよい。
【0025】
(成分C)
成分Cは、上述したように、式(2)で表される脂肪酸エステル化合物である。
R2-COO-R3 (2)
成分Cは、加工液において、成分Aおよび成分Bにより乳化される被乳化体として機能する。成分Cを配合することで、水溶性金属加工油剤に適度な潤滑性を付与することができる。
【0026】
式(2)において、R2は、炭素数8以上20以下の脂肪族炭化水素基を示す。R2の炭素数が8以上であることで、水溶性金属加工油剤の潤滑性を向上させることができる。R2の炭素数が20以下であることで、切りくず付着量を少なくすることができる。R2は、不飽和の脂肪族炭化水素基でもよいが、飽和の脂肪族炭化水素基、すなわちアルキル基であることが好ましい。R2が飽和の脂肪族炭化水素基であることで、水溶性金属加工油剤のミスト加工性を向上させることができる。また、R2は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。炭素数8以上20以下の脂肪族炭化水素基としては、例えば、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、イソデシル基、n-ウンデシル基、n-トリデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘプタデシル基、n-ノナデシル基、n-ペンタデセニル基、n-ヘプタデセニル基などを挙げることができる。
【0027】
式(2)において、R3は、炭素数1以上12以下のアルキル基を示す。R3の炭素数が12以下であることで、切りくず付着量を少なくすることができる。R3は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。炭素数1以上12以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-デシル基、n-ドデシル基などを挙げることができる。
【0028】
式(2)で表される脂肪酸エステル化合物は、例えば、構成脂肪酸としてR2-COO-基が含まれる油脂中のグリセライド類と、アルコール(R3-OH)とのエステル交換反応、或いは、油脂を加水分解して得られた脂肪酸(R2-COOH)とアルコール(R3-OH)とのエステル化反応により得ることができる。
【0029】
成分Cの動粘度(40℃)は、20mm2/s以下であることが好ましい。成分Cの動粘度(40℃)が20mm2/s以下であることで、切りくず付着量を少なくすることができる。
【0030】
水溶性金属加工油剤における成分Cの含有量は、10質量%以上30質量%以下である。成分Cの含有量が10質量%以上であることで、水溶性金属加工油剤の潤滑性を向上させ、水溶性金属加工油剤のミスト加工性を向上させることができる。成分Cの含有量が30質量%以下であることで、切りくず付着量を少なくすることができる。
【0031】
水溶性金属加工油剤は、成分Cとして、式(2)で表される脂肪酸エステル化合物を、1種類単独で含んでもよく、2種類以上を組み合わせて含んでもよい。
【0032】
(成分D)
成分Dは、上述したように、炭素数3以上18以下の脂肪酸塩から選ばれるアニオン性界面活性剤である。成分Dは、水溶性金属加工油剤において、金属防食剤として機能する。また、成分Dは、他のアニオン性界面活性剤に比べ、動粘度が低いため、成分Dを配合することで、切りくず付着量を少なくすることができる。
【0033】
脂肪酸塩を構成する脂肪酸は、飽和の脂肪酸でもよく、不飽和の脂肪酸でもよい。また、脂肪酸塩を構成する脂肪酸は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。なお、炭素数3以上18以下の脂肪酸塩とは、脂肪酸塩を構成する脂肪酸の炭素数が、3以上18以下であることを意味する。炭素数3以上18以下の脂肪酸としては、例えば、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、2-ブチルオクタン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などを挙げることができる。脂肪酸塩を構成する塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アミン塩などを挙げることができる。アルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などを挙げることができる。アミン塩としては、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジエチレングリコールアミン塩などを挙げることができる。
【0034】
水溶性金属加工油剤における成分Dの含有量は、1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。成分Dの含有量が1質量%以上であることで、水溶性金属加工油剤の金属防食性を向上させることができる。成分Dの含有量が10質量%以下であることで、切りくず付着量を少なくすることができる。
【0035】
水溶性金属加工油剤は、成分Dとして、炭素数3以上18以下の脂肪酸塩から選ばれるアニオン性界面活性剤を、1種類単独で含んでもよく、2種類以上を組み合わせて含んでもよい。なお、成分Dは、必ずしも脂肪酸塩として水溶性金属加工油剤に配合される必要はなく、脂肪酸と塩とがそれぞれ別個に添加され、加工液中で脂肪酸塩が形成されてもよい。
【0036】
(成分E)
成分Eは、上述したように、成分Aおよび成分Bのいずれとも異なる非イオン性界面活性剤である。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(式(1)で表されるものを除く)、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。水溶性金属加工油剤における成分Eの含有量は、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。水溶性金属加工油剤は、成分Eとして、成分Aおよび成分Bのいずれとも異なる非イオン性界面活性剤を、1種類単独で含んでもよく、2種類以上を組み合わせて含んでもよい。
【0037】
(成分F)
成分Fは、上述したように、成分Dとは異なる金属防食剤である。金属防食剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾールなどを用いることができる。水溶性金属加工油剤における成分Fの含有量は、0.05質量%以上0.3質量%以下であることが好ましい。水溶性金属加工油剤は、成分Fとして、成分Dとは異なる金属防食剤を、1種類単独で含んでもよく、2種類以上を組み合わせて含んでもよい。
【0038】
(成分G)
成分Gは、上述したように、水である。水溶性金属加工油剤は、成分Gとして予め水を含むことで、水溶性金属加工油剤を水で希釈した加工液における乳化安定性を向上させることができる。水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水或いは水道水を用いることができる。水溶性金属加工油剤における成分Gの含有量は、1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0039】
(金属加工方法)
本発明の金属加工方法は、上記の水溶性金属加工油剤が含まれる加工液を、ミスト状にして加工点に供給するものである。加工液としては、水溶性金属加工油剤を希釈することなくそのまま用いてもよいが、水溶性金属加工油剤を水で希釈したものを用いることが好ましい。希釈濃度は、好ましくは2倍以上100倍以下、より好ましくは5倍以上20倍以下である。希釈水としては、上記の成分Gと同様に、例えば、蒸留水、イオン交換水或いは水道水を用いることができる。加工液をミスト状にして供給する方法としては特に限定されず、例えば、MQL(Minimum Quantity Lubrication)などのセミドライ加工に使用されるミスト供給装置を用いることができる。
【0040】
加工液の1時間当たりの供給量は、好ましくは1ml以上2000ml以下、より好ましくは10ml以上400ml以下、さらに好ましくは50ml以上200ml以下である。加工液の1時間当たりの供給量が1ml以上であることで、加工点を適切に冷却することができ、加工対象物を良好に加工することができる。また、加工液の1時間当たりの供給量が2000ml以下であることで、環境負荷を低減させることができる。
【0041】
水溶性金属加工油剤が用いられる金属加工の種類は特に限定されないが、例えば、切削加工または研削加工に用いることができる。また、加工対象物の材質は特に限定されないが、例えば、鋼、アルミニウム或いはアルミニウム合金から成る加工対象物を用いることができる。
【実施例】
【0042】
(水溶性金属加工油剤の調製)
水溶性金属加工油剤の各材料を、表1に示した配合量で容器に投入し、攪拌することにより、実施例1~9および比較例1~9の水溶性金属加工油剤を調製した。表1では、各成分の配合量を質量%で示す。なお、各成分の配合量は、小数点以下または小数点第二位を四捨五入したものである。また、比較例5の水溶性金属加工油剤は、上記の特許文献2(特開2002-212584号公報)の実施例4に相当するものである。なお、比較例3は、水溶性ではなく油性であるが、説明の便宜上、他の実施例および比較例と同様に、「水溶性金属加工油剤」と称する。
【0043】
(切りくず付着量)
実施例1~7および比較例1~6の水溶性金属加工油剤について、以下のようにして切りくず付着量を測定した。
各水溶性金属油剤を水で10倍に希釈して試料液とし、ステンレス鋼板の表面に試料液を塗布した後、10分間以上、室温で乾燥させ、ステンレス鋼板に残った試料液の不揮発分の質量を測定した。ステンレス鋼板の塗布面に切りくずを約10g付着させた後、ステンレス鋼板に一定の衝撃を加えて切りくずを落とし、塗布面に残った切りくずの質量を測定した。比較のため、不揮発分1g当たりの切りくず付着量を算出して、測定結果とした。ステンレス鋼板としては、50mm×100mm×0.5mmサイズのSUS430板を使用した。また、切りくずとしては、50メッシュの篩を通したアルミニウム合金(ADC12)の微粉末を使用した。測定結果を表1,2に示す。
【0044】
【0045】
【0046】
表1,2に示したように、成分Aを25質量%以上50質量%以下と、成分Bを10質量%以上30質量%以下と、成分Cを10質量%以上30質量%以下と、を含む実施例1~8の水溶性金属加工油剤では、切りくず付着量が少なかった。一方、成分Aの含有量が25質量%よりも少ない比較例1,2,4,6の水溶性金属加工油剤では、切りくず付着量が多かった。なお、比較例6は、希釈液が不安定であった。また、油性の金属加工油剤である比較例3では、切りくず付着量がやや多かった。さらに、比較例3は、油性であるため、作業性や火災の危険の点でも課題がある。成分A、成分Bおよび成分Cのいずれも含まない比較例5の水溶性金属加工油剤は、切りくず付着量が多かった。なお、成分Aを含まず、その分、成分Bの含有量を多くした比較例7では、希釈液が分離し、試験を行うことができなかった。同様に、成分Bを含まず、その分、成分Aの含有量を多くした比較例8では、希釈液がかなり不安定であり、試験を行うことができなかった。
【0047】
(ミスト加工性)
実施例1,8,9および比較例9の水溶性金属加工油剤について、以下のようにしてミスト加工性を評価した。
各水溶性金属加工油剤を水で10倍に希釈した加工液を、ミスト状にして75ml/時の供給量で加工点に供給しながら、アルミニウム合金(ADC12)に対してネジ穴加工を6穴連続加工×3セット実施し、16穴目のネジ穴面の良否を目視にて観察し、良好な方から順に、4,3,2,1の4段階でミスト加工性を評価した。また、実施例1,8,9の水溶性金属加工油剤について、各水溶性金属加工油剤を水で10倍に希釈した加工液の供給量を、50ml、75ml、100mlおよび200mlと変えたときの、タップの折損の有無を確認した。評価結果を表1,2に示す。
【0048】
表1,2に示したように、成分Cの含有量が10質量%以上である実施例1,8,9は、成分Cを含まない比較例9に比べて優れたミスト加工性を示した。また、実施例1,8では、加工液の供給量が50ml/時の場合でも、タップの折損が認められず、実施例9についても、加工液の供給量が75ml/時の場合には、タップの折損が認められなかった。