(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20220901BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20220901BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20220901BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220901BHJP
H01M 50/54 20210101ALI20220901BHJP
H01M 50/548 20210101ALI20220901BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/48
H01M4/58
H01M10/0562
H01M50/54
H01M50/548 101
(21)【出願番号】P 2018201183
(22)【出願日】2018-10-25
【審査請求日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2018027714
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 信三
(72)【発明者】
【氏名】後藤 裕二
(72)【発明者】
【氏名】小林 正一
(72)【発明者】
【氏名】藤沢 友弘
(72)【発明者】
【氏名】河野 羊一郎
(72)【発明者】
【氏名】中西 正典
(72)【発明者】
【氏名】山本 智妃呂
(72)【発明者】
【氏名】加藤 彰彦
【審査官】高木 康晴
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 4/48
H01M 4/58
H01M 10/0562
H01M 50/54
H01M 50/548
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に正極活物質と固体電解質とを含む正極層、前記固体電解質からなる電解質層、および負極活物質と前記固体電解質とを含む負極層がこの順に積層されてなる電極体を備えた全固体電池であって、
前記正極活物質は、化学式Li
2Fe
(1-x)M
xP
(2-y)A
yO
7で表される化合物であり、
前記化学式中の前記Mとして、少なくともTi、V、Cr、Ni、Coのいずれか1種類の金属を含むとともに、前記Aとして、少なくともB、C、Al、Si、Ga、Geのいずれか1種類の元素を含み、
前記化学式中のxが、0.8<x≦1であり、
前記化学式中のyが、0≦y≦0.07であり、
前記負極活物質は、化学式TiO
2で表されるアナターゼ型酸化チタンである、
ことを特徴とする全固体電池。
【請求項2】
請求項1に記載の全固体電池であって、前記正極活物質は、前記化学式中の前記Mとして、Ni、Coのうち、少なくとも1種類の金属を含むことを特徴とする全固体電池。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の全固体電池であって、前記化学式中のAとして、AlあるいはSiのうち、少なくとも1種類の元素を含むことを特徴とする全固体電池。
【請求項4】
請求項1に記載の全固体電池であって、
前記正極活物質は、化学式Li
2Fe
(1-x)Co
yP
2O
7で表される化合物であり、
前記化学式中のxは、0.8<x<1であり、
前記正極活物質は、前記化学式に含まれる2個目のLiがレドックス反応に寄与するとともに、エネルギー密度が791mWh/gよりも大きい、
ことを特徴とする全固体電池。
【請求項5】
請求項1に記載の全固体電池であって、前記正極活物質は、Li
2CoP
2O
7であることを特徴とする全固体電池。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の全固体電池であって、前記固体電解質は、一般式Li
1.5Al
0.5Ge
1.5(PO
4)
3で表される化合物であることを特徴とする全固体電池。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の全固体電池であって、
前記上下方向と直交する一方を前後方向として、直方体状の焼結体からなる電池本体の前後一方の端面に正極端子が形成され、前後他方の端面に負極端子が形成され、
前記電池本体は、固体電解質中に一つ以上の素電池が埋設されてなり、
前記素電池は、前記電極体の上下一方と上下他方とに正極集電体と負極集電体とが積層されてなり、
所定の前記正極集電体が前記正極端子に接続されているとともに、所定の前記負極集電体が前記負極端子に接続されている、
ことを特徴とする全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、各種二次電池の中でもエネルギー密度が高いことで知られている。しかし一般に普及しているリチウム二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いている。そのため、リチウム二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められている。そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料であり、従来のリチウム二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。そして、一般的な全固体電池は層状の正極(正極層)と層状の負極(負極層)との間に層状の固体電解質(電解質層)が狭持されてなる一体的な焼結体(以下、積層電極体とも言う)に集電体を形成した構造を有している。
【0003】
上記積層電極体は、例えば、周知のグリーンシート法を用いて作製することができる。グリーンシート法を用いた積層電極体の作製方法の一例を示すと、まず、正極活物質と固体電解質を含むスラリー状の正極層材料、負極活物質と固体電解質を含むスラリー状の負極層材料、および固体電解質を含むスラリー状の電解質層材料をそれぞれシート状のグリーンシートに成形し、電解質層材料からなるグリーンシート(以下、電解質層シートとも言う)を正極層材料からなるグリーンシート(以下、正極層シートとも言う)と負極層材料からなるグリーンシート(以下、負極層シートとも言う)とで挟持して得た積層体を圧着し、その圧着後の積層体を焼成する。それによって焼結体である積層電極体が完成する。なお、全固体電池の基本的な製造方法は、例えば、以下の特許文献1に記載されている。また、以下の特許文献2には、ドクターブレード法を用いて作製されるチップ型の全固体電池について記載されている。
【0004】
電極活物質には、従来のリチウム二次電池に使用されていた材料を使用することができる。また、全固体電池では可燃性の電解液を用いないことから、より高い電位差が得られ、エネルギー密度が高い電極活物質についても研究されている。例えば、特許文献3には、第1原理計算に基づくシミュレーションにより、エネルギー密度が極めて高い化学式Li2Fe(1-x)MxP2O7で表される正極活物質について記載されている。また、特許文献4にも、エネルギー密度が極めて高い、化学式Li2MP(2-x)AxO7で表されるリチウム二次電池用正極活物質について記載されている。
【0005】
固体電解質としては、一般式LiaXbYcPdOeで表されるNASICON型酸化物系の固体電解質を用いることができる。当該NASICON型酸化物系の固体電解質としては、以下の非特許文献1に記載されている、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3(以下、LAGPとも言う)がよく知られている。なお、以下の非特許文献2には、全固体電池の概要について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-206094号公報
【文献】特開2017-182945号公報
【文献】特開2014-194846号公報
【文献】特許第5312969号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】J.K.Feng,L.Lu、“Lithium storage capability of lithium ion conductor Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3”、Journal of Alloys and Compounds Volume 501, Issue 2, 9 July 2010,Pages 255-258
【文献】辰巳砂昌弘、林 晃敏、大阪府立大学大学院工学研究科、”全固体電池の最前線”、[online]、[平成30年9月13日検索]、インターネット<URL:http://www.chem.osakafu-u.ac.jp/ohka/ohka2/research/battery_li.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
全固体電池の特性の向上には、正負極間の電位差を大きくすることが重要となる。すなわち、正極と負極に用いる電極活物質を適切に選択することが必要である。この点で、正極活物質は、金属リチウム電位に対して高電位(vs Li/Li+)であることが望ましく、負極活物質の場合は低電位のものが望ましい。しかし、その一方で、安全性などを考慮し、より安定した電極活物質を選択することも必要となる。
【0009】
上記特許文献3、および4に記載されている正極活物質は、統一的に、化学式Li2Fe(1-x)MxP(2-y)AyO7と表わすことができる。そして、当該化学式によって表される正極活物質は、第1原理計算を用いたシミュレーションによれば、多電子反応が期待でき、高いエネルギー密度を有するものとなる。しかし、実用的な正極活物質を得るためには、化学式中のxやyの値、およびMに対応する金属やAに対応する元素を適切に選択する必要がある。また、全固体電池は、正極のみでは成立しないことから、正極活物質に適合する負極活物質を適切に選択することも必要となる。
【0010】
そこで本発明は、正極活物質としてLi2Fe(1-x)MxP(2-y)AyO7で表される化合物が用いられて、高いエネルギー密度を有する全固体電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、上下方向に正極活物質と固体電解質とを含む正極層、前記固体電解質からなる電解質層、および負極活物質と前記固体電解質とを含む負極層がこの順に積層されてなる電極体を備えた全固体電池であって、
前記正極活物質は、化学式Li2Fe(1-x)MxP(2-y)AyO7で表される化合物であり、
前記化学式中の前記Mとして、少なくともTi、V、Cr、Ni、Coのいずれか1種類の金属を含むとともに、前記Aとして、少なくともB、C、Al、Si、Ga、Geのいずれか1種類の元素を含み、
前記化学式中のxが、0.8<x≦1であり、
前記化学式中のyが、0≦y≦0.07であり、
前記負極活物質は、化学式TiO2で表されるアナターゼ型酸化チタンである、
ことを特徴とする全固体電池である。
【0012】
前記正極活物質が、前記化学式中の前記Mとして、NiあるいはCoのうち、少なくとも1種類の金属を含む全固体電池としてもよい。さらに、前記化学式中のAとして、AlあるいはSiのうち、少なくとも1種類の元素を含む全固体電池とすることもできる。
【0013】
前記正極活物質は、化学式Li2Fe(1-x)CoyP2O7で表される化合物であり、
前記化学式中のxは、0.8<x<1であり、
前記正極活物質は、前記化学式に含まれる2個目のLiがレドックス反応に寄与するとともに、エネルギー密度が791mWh/gよりも大きい、
ことを特徴とする全固体電池であれば好適である。前記正極活物質が、Li2CoP2O7である全固体電池としても好適である。そして、前記固体電解質が、一般式Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3で表される化合物であればより好適である。
【0014】
また、前記上下方向と直交する一方を前後方向として、直方体状の焼結体からなる電池本体の前後一方の端面に正極端子が形成され、前後他方の端面に負極端子が形成され、
前記電池本体は、固体電解質中に一つ以上の素電池が埋設されてなり、
前記素電池は、前記電極体の上下一方と上下他方とに正極集電体と負極集電体とが積層されてなり、
所定の前記正極集電体が前記正極端子に接続されているとともに、所定の前記負極集電体が前記負極端子に接続されている、
全固体電池も本発明の範囲である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、正極活物質としてLi2Fe(1-x)MxP(2-y)AyO7で表される化合物が用いられて、高いエネルギー密度を有する全固体電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例に係る全固体電池を示す図である。
【
図2】上記実施例に係る全固体電池を作製する際に使用されるLAGPガラスの作製手順を示す図である。
【
図3】上記実施例に係る全固体電池の製造手順を示す図である。
【
図4】上記実施例に係る全固体電池の充放電特性を示す図である。
【
図5】上記実施例に係る全固体電池の充放電特性を示す図である。
【
図6】本発明のその他の実施例に係る全固体電池を示す図である。
【
図7】上記その他の実施例に係る全固体電池の作製手順を示す図である。
【
図8】上記その他の実施例に係る全固体電池の変形例を示す図である。
【
図9】上記その他の実施例に係る全固体電池の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
===本発明に想到する過程===
上記特許文献3、および特許文献4には、第1原理計算を用いたシミュレーションに基づいて、多電子反応によって作動するリチウム二次電池用の正極活物質が示されている。特許文献3と特許文献4とに記載の正極活物質は、統一的に、化学式Li2Fe(1-x)MxP(2-y)AyO7で表した上で、化学式中のMが、少なくともTi、V、Cr、Ni、Coのいずれか1種類以上の金属であり、当該化学式中のAがB、C、Al、Si、Ga、Geのいずれか1種類の元素である化合物と規定することができる。また、特許文献3や4には、MをCoとし、x=1、y=0とした、Li2CoP2O7について記載されている。さらに、特許文献3には、上記シミュレーションに基づいて、上記化学式中のyの値が、0<y≦0.07であることが好ましいとの旨が記載されている。したがって、上記特許文献3、および特許文献4に記載の正極活物質の双方を包含する正極活物質は、化学式Li2Fe(1-x)MxP(2-y)AyO7で表わされ、Mが、少なくともTi、V、Cr、Ni、Coのいずれか1種類以上の金属であり、AがB、C、Al、Si、Ga、Geのいずれか1種類の元素であり、0<x≦1、0≦y≦0.07である化合物となる。この正極活物質は、シミュレーションによって、多電子反応によって金属リチウム電位に対して高電位(vs Li/Li+)を有するものであることが期待される。そして、本発明の実施例に係る全固体電池は、当該化合物を正極活物質(以下、実施例の正極活物質と言うことがある)としている。
【0018】
しかし、上述したように、全固体電池は、正極だけでは成立しない。そこで、本発明者は、上記実施例の正極活物質を用いた全固体電池の負極について鋭意研究を重ねた。その結果、上記実施例の正極活物質を用いつつ、負極活物質に化学式TiO2で表されるアナターゼ型酸化チタンを用いることで、高いエネルギー密度を有する全固体電池を得ることができた。本発明は、このような過程を経てなされたものである。
【0019】
===実施例===
本発明の実施例について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明に用いた図面において、同一又は類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。図面によっては説明に際して不要な符号を省略することもある。
【0020】
図1は本発明の実施例に係る全固体電池1aの構造を示す図である。
図1は、全固体電池1aを、積層電極体10における各層(2~4)の積層方向を含む面で切断したときの縦断面図である。そして、その積層方向を上下方向とするとともに、電解質層4に対して正極層2が上方に積層されていることとすると、当該全固体電池1aの積層電極体10は、上方から下方に向けて、正極層2、電解質層4、および負極層3がこの順に積層されており、正極層2の上面と負極層3の下面とに、それぞれ金属箔からなる正極集電体5と負極集電体6とが形成された構造を有している。
【0021】
本発明の実施例に係る全固体電池1aは、正極層に上記実施例の正極活物質が含まれ、負極層にアナターゼ型酸化チタン(以下、TiO2)からなる負極活物質が含まれている。また、固体電解質にLAGPを用いている。そして、実施例に係る全固体電池1aの特性を評価するために、組成が異なる実施例の正極活物質を用いつつ、負極活物質が異なる各種全固体電池、および正極活物質をLiCoPO4とし、負極活物質をTiO2とした全固体電池もサンプルとして作製するとともに、各サンプルの充電容量と放電容量とを測定した。
【0022】
===サンプルの作製手順===
実施例に係る全固体電池1aにおいて、正極活物質や負極活物質は、例えば、固相法により作製することができる。固体電解質は、固相法やガラス溶融法を用いて作製することができる。なお、負極活物質については製品として提供されているものを使用することができる。そして、実施例に係る全固体電池1aは、例えば、グリーンシート法を用いて作製することができる。以下に、LAGP、正極活物質、および全固体電池の作製手順について説明する。
【0023】
<LAGPの作製手順>
実施例に係る全固体電池1aは、固体電解質にLAGPを用いている。LAGPは、例えば、ガラス溶融法を用いて作製することができる。
図2に、ガラス溶融法を用いたLAGPの作製手順の一例を示した。まず、原料として、Li
2CO
3、Al
2O
3、GeO
2、NH
4H
2PO
4の粉末を用い、これらの原料を秤量した後、ボールミルで混合する(s1、s2)。次いで、その混合物をアルミナルツボなどに入れて300℃~400℃の温度で3h~5hの時間を掛けて仮焼成する(s3)。仮焼成工程(s3)によって得た仮焼き粉体を1200℃~1400℃の温度で1h~2h熱処理し、仮焼き粉体を溶解させるとともに、その溶解した試料を急冷してガラス化する(s4)。それによって、非晶質のLAGPの粉体が得られる。また、ガラス化工程(s4)によって得た非晶質のLAGPの粉体を、ボールミルなどを用いて粉砕し(s5)、その粉砕後の非晶質のLAGP粉体を、例えば、600℃5h以上の条件で焼成することで結晶化したLAGPの粉体を得ることができる(s6)。そして、これらの非晶質、あるいは結晶化したLAGPを用いて全固体電池を作製する。
【0024】
<正極活物質の作製手順>
次に正極活物質と負極活物質の作製手順を挙げる。ここでは、化学式Li2CoP(2-y)AyO7において、y=0.03、y=0.07のいずれかで、Pの一部がSi、またはAlで置換されたピロリン酸コバルトリチウムからなる正極活物質の作製手順と、化学式中のyをy=0とした、Li2CoP2O7の作製手順とを個別に説明する。
【0025】
まず、Pの一部がSiまたはAlで置換されたピロリン酸コバルトリチウムの作製手順について説明する。最初に、原料として、NH4H2PO4、Li2CO3、CoO、およびPと置換するSiまたはAlの起源となるSiO2またはγ―Al2O3を秤量する。このとき、化学式中のyの値に応じてNH4H2PO4とSiO2またはγ―Al2O3の割合を調整する。ここでは、y=0.03、あるいはy=0.07となるように調整した。
【0026】
次に、秤量した正極活物質の原料をメノウ乳鉢などで混合粉砕する。そして、その混合物を、大気雰囲気中、625℃の温度で4時間加熱して本焼成を行う。ここでは、焼成炉内に大気組成のガスを流して、試料である粉体を焼成し、Li2CoP(2-y)SiyO7、またはLi2CoP(2-y)AlyO7生成させる。また、焼成品を、所定の平均粒径(例えば、7μm)の粉体となるようにメノウ乳鉢で粉砕したのち、その粉砕したものをボールミルでアルコール媒体を用いてさらに粉砕する。それによって、所定の平均粒子径(例えば、1μm)に調整されたLi2CoP(2-y)SiyO7、またはLi2CoP(2-y)AlyO7の粉体が得られる。そして、この粉体を正極層材料に含ませる正極活物質とした。
【0027】
次に、Li2CoP2O7の作製手順について説明する。ここでは、NH4H2PO4、LiNO3、Co(NO3)2・6H2O、クエン酸、純水を原料としてLi2CoP2O7を作製する手順を挙げる。まず、原料を秤量する。秤量に際しては、Li2CoP2O7の原料のうち、Liのみが化学量論比に対して過剰となるように調整した。次いで、原料をビーカー内で混合した後、そのビーカーをホットプレート上において、原料中の純水を蒸発させた。さらに、真空乾燥機を用いてビーカー内の原料の混合物をさらに乾燥させて原料の混合物を粉体状にし、その粉体状の混合物をメノウ乳鉢で粉砕した。そして、粉砕後の混合物を、大気雰囲気中、625℃の温度で4時間加熱して本焼成を行った。ここでは、焼成炉内に大気組成のガスを流さずに試料である粉体を焼成し、Li2CoP2O7を生成させた。また、焼成品を、所定の平均粒径(例えば、7μm)の粉体となるようにメノウ乳鉢で粉砕したのち、その粉砕したものをボールミルでアルコール媒体を用いてさらに粉砕した。それによって、所定の平均粒子径(例えば、1μm)に調整されたLi2CoP2O7の粉体を得た。なお、サンプル2の正極活物質であるLiCoPO4については、例えば、CH3COOLi、CO(NO3)2・6H2O、NH4H2PO4、クエン酸、純水を原料としつつ、上記のLi2CoP2O7を作製する手順と同様にして作製することができる。
【0028】
<全固体電池の作製手順>
図3に、全固体電池1aの作製手順を示した。まず、積層電極体10を構成する正極層シート、負極層シート、および電解質層シートを作製する(s11a,s12a、s11b,s12b、s11c,s12c)。正極層シートについては、正極活物質、非晶質や結晶質のLAGP、導電助剤、バインダー、可塑剤を含むスラリー状の電極層材料を上述したドクターブレード法によりシート状に成形する。負極層シートについても、同様にして、負極活物質、非晶質や結晶質のLAGP、導電助剤、バインダー、可塑剤を含むスラリー状の電極層材料を上述したドクターブレード法によりシート状に成形する。
【0029】
正極層シートおよび負極層シート(以下、電極層シートと総称することもある)の材料となるペースト状の正極層材料および負極層材料(以下、電極層材料と総称することもある)は、非晶質のLAGPの粉体と、正負それぞれの極に応じた電極活物質とを、例えば、質量比で50:50となるように混合したものをセラミック粉体としている。そして、そのセラミック粉体に対し、バインダーを、例えば、20wt%~30wt%添加する。次いで、溶媒としてエタノールなどの無水アルコールをセラミック粉体に対し30wt%~50wt%添加して得た混合物を、ボールミルなどで、例えば、20h混合する。それによって、スラリー状の電極層材料が得られる。なお、正極層と負極層(以下、電極層と総称することもある)には必要に応じて炭素材料などからなる導電助剤を添加する。
【0030】
一方、電解質層シートの材料となるペースト状の電解質層材料は、非晶質や結晶質のLAGP粉体を、セラミック粉体としている。そして、そのセラミック粉体に対し、バインダーを、例えば、20wt%~30wt%添加するとともに、溶媒としてエタノールなどの無水アルコールをセラミック粉体に対し30wt%~50wt%添加することで得た混合物をボールミルなどで、例えば、20h混合することで作製される。
【0031】
以上のように作製されたペースト状の電極層材料と電解質層材料は、それぞれ、真空中にて脱泡した後、ドクターブレード法にてPETフィルム上に塗工し、正極層と負極層のそれぞれに対応するシート状の電極層材料と、電解質層に対応するシート状の電解質層材料とを得る。さらに、各層のシートを目的の厚さに調整するために、一回の塗工で得られた1枚のシート状の材料を複数枚積層するとともに、その積層したものをプレス圧着したものを所定の平面サイズに裁断してグリーンシートである正極層と負極層のそれぞれの電極層シートと、電解質層シートとを完成させる。
【0032】
次に、電解質層シートを正極層シートと負極層シートとによって狭持したものをプレス圧着して積層体を作製する(s13)。そして、その積層体に対し、脱脂工程を行う(s14)。この脱脂工程(s14)では、バインダーを熱分解させる。なお、脱脂工程は、使用するバインダーの分解温度に合わせ、大気中で、300-600℃程度の温度で行う。ここでは、LAGPの軟化点が約530℃であることから、この温度以下で脱脂工程(s14)を行い、その脱脂工程(s14)を経た積層体を、非酸化性雰囲気下で脱脂工程よりも高い温度で焼成して積層電極体10を得る(s15)。ここでは、600℃5hの条件で焼成した。そして、積層電極体10の最上層と最下層の表面にスパッタリングや蒸着によって金などの金属からなる薄膜を形成して集電体(5、6)を形成し(s16)、全固体電池1aを完成させた。
【0033】
===特性評価===
実施例に係る全固体電池1aの特性を評価するために、上述した手順で作製した全固体電池1aに対して充電と放電とを行った。具体的には、LiCoPO4、Li2CoP2O7、Li2CoP1.97Si0.03O7、Li2CoP1.93Si0.07O7、Li2CoP1.97Al0.03O7、およびLi2CoP1.93Al0.07O7の6種類の正極活物質と、TiO2、Li3V2(PO4)3、Li4Ti5O12のいずれかの負極活物質と、LAGPからなる固体電解質とを用いが全固体電池をサンプルとして作製した。
【0034】
以下の表1に、作製したサンプルの正極活物質と負極活物質の組み合わせを示した。
【0035】
【表1】
表1に示したように、サンプル1、3~16の正極活物質は、実施例の正極活物質であり、化学式Li
2Fe
(1-x)M
xP
(2-y)A
yO
7において、x=1としつつ、yの値が、y=0、y=0.03、y=0.07のいずれかであるとともに、y≠0のときは、AをSiまたはAlとした化合物である。負極活物質は、TiO
2、Li
3V
2(PO
4)
3、Li
4Ti
5O
12のいずれかである。サンプル2の正極活物質、および負極活物質は、それぞれLiCoPO
4、およびTiO
2である。
【0036】
表1において、サンプル1、3、4、11、12が実施例に係る全固体電池1aに対応している。サンプル2は、負極活物質がTiO2で、実施例に係る全固体電池1aと同様であるが、正極活物質がLCoPO4である。サンプル5~10、およびサンプル13~16は、実施例の正極活物質と、Li3V2(PO4)3、またはLi4Ti5O12のいずれかを負極活物質とを用いて作製した全固体電池である。
【0037】
<充放電試験>
表1に示した各サンプルに対し、充電した後に放電させる充放電試験を行い、充電容量と放電容量を測定し、充電容量と電圧、放電容量と電圧との関係を調べた。なお、サンプル2以外のサンプルに対しては、室温にて電池電圧が4.3Vになるまで1/20Cのレートで定電流充電するとともに、室温にて終止電圧1.5Vになるまで1/20Cのレートで定電流放電する充放電試験を行った。サンプル2に対しては、室温にて電池電圧が3.3Vになるまで1/20Cのレートで定電流充電するとともに、室温にて終止電圧1.1Vになるまで1/20Cのレートで定電流放電する充放電試験を行った。
【0038】
まず、サンプル1の充放電特性と、正極活物質がLiCoPO
4である以外はサンプル1と同じ構成のサンプル2の充放電特性とを比較した。サンプル2は、正極活物質に含まれる元素がLi、Co、P、Oであり、組成に含まれる元素の種類は、サンプル1と同じである。そして、負極活物質は、サンプル1と同じTiO
2である。
図4にサンプル1とサンプル2の充放電特性を示した。
図4に示したように、サンプル1が、平均放電電圧3.0Vで、3.3mAhの容量を示したのに対し、サンプル2は、平均放電電圧2.8Vで容量は2.9mAhであった。すなわち、サンプル1は、比較例に対し、エネルギー密度が22%程度向上していた。
【0039】
なお、Li2CoP2O7を含む、化学式Li2Fe(1-x)CoxP2O7で表される正極活物質は、化学式中のxの値を0.8≦x≦1とすることで、エネルギー密度が791mWh/gよりも大きくなることが第1原理計算を用いたシミュレーションにより明らかになっている。そして、この791mWh/gよりも大きなエネルギー密度は、近年、全固体電池用の正極活物質として注目されている周知のオビリン酸鉄リチウム(LiFePO4)のエネルギー密度の1.5倍程度である。具体的には、LiFePO4は、平均作動電位3.4V(vs Li/Li+)で約160mAh/gの容量密度を有し、約540Wh/gのエネルギー密度を示す。そして、上記化学式中のxをx=0.8とすると、エネルギー密度が約791mWh/gとなり、このエネルギー密度は、LiFePO4のエネルギー密度の1.46倍である。なお、x=1とすると、エネルギー密度は約891mWh/gとなる。また、サンプル2の正極活物質であるLiCoPO4は、理論上、平均作動電圧が4.8Vで167mAh/gの容量密度を有する。すなわち、理論上、801mWh/gのエネルギー密度を有する。なお、サンプル1とサンプル2とでは、正極活物質のみが異なっており、理論上では、サンプル1は、比較例より11%程度エネルギー密度が高い。しかし、サンプル1は、比較例よりもエネルギー密度が25%も優れていた。
【0040】
図5に、実施例に係る全固体電池1aに対応するサンプル1、3、4、11、12の充放電特性と、実施例に係る全固体電池1aに対し、負極活物質が異なる全固体電池に対応するサンプル5~10、13~16の充放電特性とを示した。
図5(A)は、正極活物質と負極活物質との組み合わせが、表1におけるサンプル1、3~10の全固体電池の充放電特性を示している。すなわち、正極活物質にLi
2CoP
2O
7、およびLi
2CoP
(2-y)A
yO
7において、Pに置換される元素AをSiとした化合物を用いた全固体電池1aの充放電特性を示している。
図5(B)は、表1におけるサンプル1、5、8、11~16の充放電特性を示している。すなわち、正極活物質にLi
2CoP
2O
7、およびPに置換される元素AをAlとした化合物を用いた全固体電池1aの充放電特性を示している。
【0041】
図5(A)、および
図5(B)では、負極活物質にLi
3V
2(PO
4)
3を用いたサンプル5~7、13、14の充放電特性が実線で示され、負極活物質にLi
4Ti
5O
12を用いたサンプル8~10、15、16の充放電特性が点線で示されている。なお、
図5(A)、
図5(B)に示したように、点線あるいは実線で示された充電特性と放電特性とが一つの特性曲線として示されているように、負極活物質にLi
3V
2(PO
4)
3、あるいはLi
4Ti
5O
12を用いたサンプル5~10、13~16は、負極活物質が同じであれば、正極活物質の種類によらず、図中では各サンプルの特性曲線が区別できないほど、極めて近似した充放電特性を示した。そして、実施例に係る全個体電池1aに対応するサンプル1、3、4、11、12は、実施例に係る全固体電池1aと同じ正極活物質と、TiO
2とは異なる負極活物質とを用いたサンプル5~10、13~16に対し、充放電特性が明らかに優れていることが確認できた。
【0042】
具体的には、負極活物質にTiO
2を用いたサンプル1~3、11、12のうち、正極活物質にLi
2CoP
2O
7を用いたサンプル1は、上述したように、平均放電電圧3.0Vで、容量が3.3mAhであった。
図5(A)に示した、Li
2CoP
1.97Si
0.03O
7を正極活物質としたサンプル3は、平均放電電圧3.03Vで、3.65mAhの容量を示し、Li
2CoP
1.93Si
0.07O
7を正極活物質としたサンプル4は、平均放電電圧3.05Vで、3.99mAhの容量を示した。また、
図5(B)に示した、Li
2CoP
1.97Al
0.03O
7を正極活物質としたサンプル11は、平均放電電圧3.02Vで、3.49mAhの容量を示し、Li
2CoP
1.93Al
0.07O
7を正極活物質としたサンプル12は、平均放電電圧3.04Vで、3.82mAhの容量を示した。
【0043】
このように、正極活物質が実施例に係る全固体電池1aのものと同じであっても、負極がTiO
2でなければ、優れた充放電特性が得られないことが確認できた。また、
図4に示した、サンプル1とサンプル2の充放電特性の差から、Li
2CoP
2O
7を正極活物質とし、TiO
2を負極活物質とした全固体電池は、理論通りの性能が得られ易い、と考えることができる。さらに、
図5に示したように、Li
2CoP
2O
7におけるPの一部をSiあるいはAlに置換した化合物を正極活物質としつつ、負極にTiO
2を用いたサンプル3、4、11、12の充放電特性が、サンプル1の充放電特性よりも優れていた。したがって、0≦x≦1、0≦y≦0.07として、化学式Li
2Fe
(1-x)Co
xP
(2-y)A
yO
7で表される化合物を正極活物質とし、TiO
2を負極活物質とした実施例に係る全固体電池1aは、理論通りの性能が得られ易いと考えることができる。そして、理論通りの性能が得られ易いということは、製造条件の管理を容易にすることにも繋がる。言い換えれば、実施例に係る全固体電池1aは、製造条件をより詳細に検討することで、さらなる特性の向上が見込まれる。
【0044】
===その他の実施例===
本発明の実施例に係る全固体電池1aは、
図1に示した構造に限らず、例えば、積層チップ部品と同様の構造であってもよい。そこで、本発明のその他の実施例として、積層チップ部品と同様の構造を有する全固体電池(以下、チップ型電池)を挙げる。
図6にそのチップ型電池1bの一例を示した。
図6(A)は、チップ型電池1bの外観を示す図であり、
図6(B)は、
図6(A)におけるa-a矢視断面図である。なお、
図6では、
図1と同様に、積層電極体10を構成する各層(2、3、4)の積層方向を上下方向とし、上下方向と直交する所定の方向を前後方向としている。また、
図5では、全固体電池1bの構成要素を異なるハッチングで示している。
【0045】
図6(A)に示したように、チップ型電池1bは、直方体状の電池本体40と、その電池本体40において、互いに対面する二面に、外部電極として設けられた正極端子50と負極端子60とによって構成されている。なお、電池本体40は、一体的な焼結体で、
図6(B)に示したように、内部に積層電極体10が埋設されてなる。
【0046】
ここで、正極端子50と負極端子60の対面方向を前後方向とし、正極端子50が前方に形成されていることとすると、正極端子50は、直方体状の電池本体40の前端面4fと、それに連続する電池本体40の側面4sとに形成され、負極端子60は、電池本体40の後端面4bと、それに連続する電池本体40の側面4sとに形成されている。
【0047】
上述したように、電池本体40は、固体電解質140中に積層電極体10が埋設された構造を有している。なお、ここに示したチップ型電池1bの電池本体40では、三組の積層電極体10が集電体(5、6)を介して上下方向に積層された状態で固体電解質140中に埋設された構造を有している。また、このチップ型電池1bでは、一組の積層電極体10に正極と負極の集電体(5、6)を設けた全固体電池を一つの素電池として、電池本体40内に三つの素電池が並列接続されるように、上下方向に積層された状態で埋設されている。そのため、内層にある集電体(5i、6i)の上面と下面には、同じ極の層(2、3)が積層されているとともに、各素電池の正極集電体5と負極集電体6とが、それぞれ正極端子50と負極端子60とに接続されている。なお、作製したチップ型電池1bにおける素電池の上下方向の厚さHは0.47mmであり、正極層2、負極層3、電解質層4、および集電体層(5、6)の上下方向の厚さは、それぞれ、0.09mm、0.10mm、0.08mmおよび0.1mmであり、電池本体40は、三つの素電池が積層されていても、非常に薄いものとなっている。そして、チップ型電池1bは、電子回路を構成する他の電子部品と同様に、リフロー半田付けなどの方法によって回路基板上に実装することができる。
【0048】
図6に示したチップ型電池1bは、例えば、積層チップ部品と同様の方法で作製することができる。すなわち、ドクターブレード法とスクリーン印刷法とを基本とした製造手順を採用することができる。また、チップ型電池1bは、一個ずつ個別に作製されるのではなく、まず、焼成前の電池本体40を個片として、上下方向を法線とする平面上に多数の個片が配置されたシートを作製する。次いで、そのシートを裁断して各個片に分離したのち、各個片を焼成して焼結体である電池本体40を得る。そして、電池本体40の前後の端面とそれに連続する側面に正極端子50と負極端子60とを形成してチップ型電池1bを完成させる。なお、電池本体40内に埋設されている正極層2、負極層3、および電解質層4や積層電極体10を囲繞する固体電解質140については、グリーンシート法で用いたペースト状の正極層材料、負極層材料、および電解質層材料を使用することができる。また、集電体については銀ペーストなどの導電体ペーストを使用することができる。
【0049】
図7に、
図6に示した全固体電池1bの作製手順の一例を示した。なお、
図7では、各個片に対応する平面領域(以下、個片領域と言うことがある)内において、積層電極体10を構成する、正極層2、電解質層4、負極層3、および集電体(5、6)のそれぞれに対応する、正極層材料、電解質層材料、負極層材料、導電体ペーストのパターンを、ドクターブレード法によって塗布したりスクリーン印刷法によって選択的に形成したりする手順を示している。以下、
図6(B)と
図7とを参照しつつ、全固体電池1bの作製手順について説明する。
【0050】
まず、電解質層材料41を塗工し(s21)、その電解質層材料41の上方に集電体となる導電体ペーストのパターン51をスクリーン印刷法により形成する(s22)。ここでは、銀ペーストを用いた。次いで、導電体ペーストのパターン51上に正極層あるいは負極層となる電極層材料のパターン21を形成する(s23)。ここでは、正極集電体5と正極層2とに対応するパターン(51、21)を形成する。なお、正極層材料のパターン51は、個片領域の中央に矩形状に形成され、正極集電体5となる導電体ペーストのパターン51は、正極層材料のパターン21が形成されている領域を覆いつつ個片領域の前端まで形成される。
【0051】
正極層材料のパターン21を形成したならば、この正極層材料のパターン21を覆いつつ個片領域全体にわたって電解質層材料42を塗工し(s24)、その電解質層材料42の上方に負極層材料のパターン31と負極集電体6となる導電体ペーストのパターン61とを、この順に形成する(s25、s26)。このようにして、まず、一つ目の素電池に対応する積層構造が形成される。なお、負極層材料は、正極層材料と同様に、個片領域の中央に矩形状に形成され、負極集電体6となる導電体ペーストのパターン61は、負極層材料のパターン31が形成されている領域を覆いつつ個片領域の後端まで形成される。
【0052】
次に、この一つ目の素電池となる積層構造の上方に、二つ目の素電池となる積層構造を形成していく。ここでは、一つ目の素電池の負極集電体6に対応する導電体ペーストのパターン61上に負極層材料のパターン32を形成し、その負極層材料のパターン32を電解質層材料43で覆う(s27)。
【0053】
さらに、正極層材料のパターン22と正極集電体5となる導電体ペーストのパターン52をこの順に形成し(s28)、二つ目の素電池に対応する積層構造を完成させる。そして、二つ目の素電池の正極集電体5に対応する導電体ペーストのパターン52上に、正極層材料のパターン23を形成し、そのパターン23の上方から電解質層材料44を塗工し、さらに、負極層材料のパターン33と導電体ペーストのパターン62を形成し、三つ目の素電池に対応する積層構造を完成させる。そして、三つ目の素電池における負極集電体6に対応する導電体ペーストのパターン62の上方を電解質層材料45で覆う(s29)。それによって、互いに並列接続された三つの素電池に対応する積層構造が電解質層材料(41~45)中に埋設されるように形成される。このようにして、平面上に各個片に並列接続された三つの素電池に対応する積層構造が多数形成されたシートが作製される。なお、上記工程(s21~s29)では、積層電極体10の電極層(2、3)や集電体(5、6)に対応する材料(21~23、31~33、51、52、61、62)のパターンを形成するそれぞれの工程後、および電解質層4や積層電極体10を囲繞する固体電解質140に対応する電解質層材料(41~45)を塗工する工程後に熱処理による乾燥工程を実施している。
【0054】
次に、そのシートを裁断する。それによって、シートが直方体状の各個片に分離される。各個片を焼成すると直方体状の焼結体からなる電池本体40が完成する(s30)。そして、電池本体40の前端面4fと後端面4b、およびこれらの端面(4f、4b)に連続する電池本体40の側面4sに導電体ペーストを塗布し、その導電体ペーストを熱処理によって焼き付ければ、正極端子50と負極端子60が形成されて、
図5に示した全固体電池1bが完成する。
【0055】
なお、チップ型電池における素電池同士の接続は並列接続に限らない。例えば、
図8に示したチップ型電池1cでは、三組の素電池が直列に接続されている。そのため、積層構造の内層側の集電体(5i、6i)の上面と下面には異なる極の電極層(2、3)が形成されている。すなわち、内層側の集電体(5i、6i)は、正極集電体5と負極集電体6とを兼ねている。また、最下層の集電体5dと最上層の集電体6dとが、それぞれ、電池本体40の前端面4f側の正極端子50と、後端面4b側の負極端子60とに接続され、内層側の集電体(5i、6i)は、正極層2や負極層3の形成領域にのみ形成されている。
【0056】
また、
図9に示したように、直列接続と並列接続とが混在したチップ型電池1dとすることもできる。
図9に示した例では、三組の素電池が直列接続されてなる二つの全固体電池(100a、100b)が上下方向に積層されて、これら二つの全固体電池(100a、100b)が並列に接続されている。すなわち、3直2並列型のチップ型電池1dとなっている。
【0057】
本実施例に係る全固体電池(1a~1d)の正極活物質は、化学式Li2Fe(1-x)MP(2-y)AyO7で表される物質であって、Mを金属、AをPに置換する13、14族の元素としていた。具体的には、MをCo、AをSi又はAlとするとともに、x=1とし、y=0.03又はy=0.07とした化合物を正極活物質としていた。もちろん、上記化学式において、Mは、Coと同じ金属Ti、V、Cr、Niのいずれかに置換しても多電子反応によって作動するリチウム二次電池用の正極活物質として利用できることが期待できる。特に、物性がCoに近似するNiに置換すれば、確実に実施例と同様の特性が得られることが期待できる。なお化学式中に含まれる金属は1種類に限らず、上記の各金属が複数含まれていてもよい。
【0058】
AについてはPと同じく4個の酸素(O)を配する構造を取り得る元素であればよく、SiやAlに限らず、周期律表においてPの近傍にある13族あるいは14族のB、C、Ga、Geなどに置換することが可能である。なお、Aについても化学式中に複数種類の元素が含まれていてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1a 全固体電池、1b~1d 全固体電池(チップ型電池)、2 正極層、
3 負極層、4 電解質層、5,5i,5d 正極集電体、
6,6i,6u 負極集電体、10 積層電極体、21~23 正極層材料のパターン、31~33 負極層材料のパターン、40 電池本体、41~45 電解質層材料、
51,52,61,62 導電体ペーストのパターン、50 正極端子、60 負極端子、100a,100b 並列接続された素電池、140 固体電解質