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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】高電圧装置およびX線画像診断装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20220901BHJP
【FI】
H02M3/28 Q
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018202190
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2020068643
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河口 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】進藤 将太郎
(72)【発明者】
【氏名】初見 智
(72)【発明者】
【氏名】小川 美奈
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-156773(JP,A)
【文献】特開2017-099182(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0236600(US,A1)
【文献】特表2015-520602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
H05G 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイッチング素子を有し、直流電源に接続されるスイッチング回路と、
整流回路と、
前記スイッチング回路に接続された一次巻線、および、前記整流回路に接続された二次巻線を備えたトランスと、
前記スイッチング回路を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、複数の前記スイッチング素子のうち少なくとも一の前記スイッチング素子をオン状態にして、前記二次巻線における電圧の極性を反転させるように、前記スイッチング回路と前記トランスとの間で電流を環流させる環流機能を有し、
前記スイッチング回路は、前記直流電源に対して直列接続された第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子と、前記直流電源に対して直列接続された第3のスイッチング素子および第4のスイッチング素子と、を備え、
前記制御装置は、
前記第1のスイッチング素子と前記第4のスイッチング素子とを共にオン状態にし、または、前記第2のスイッチング素子と前記第3のスイッチング素子とを共にオン状態にして前記直流電源から前記トランスに電力を供給する電力供給機能を有し、
前記第1のスイッチング素子および前記第4のスイッチング素子のうち一方をオン状態にし他方をオフ状態にし、または、前記第2のスイッチング素子および前記第3のスイッチング素子のうち一方をオン状態にし他方をオフ状態にすることによって前記環流機能を実行し、
前記制御装置は、
前記第1のスイッチング素子および前記第4のスイッチング素子のうち一方をオン状態にし他方をオフ状態にし、または、前記第2のスイッチング素子および前記第3のスイッチング素子のうち一方をオン状態にし他方をオフ状態にすることによって前記電流を環流させる第1の環流機能と、
前記第1のスイッチング素子および前記第4のスイッチング素子のオン/オフ状態、または前記第2のスイッチング素子および前記第3のスイッチング素子のオン/オフ状態を、前記第1の環流機能とは逆にして前記電流を環流させる第2の環流機能と、
を有し、前記第1の環流機能と、前記第2の環流機能とを交互に実行する
ことを特徴とする高電圧装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第1のスイッチング素子と前記第3のスイッチング素子とを共にオン状態にし、または前記第2のスイッチング素子と前記第4のスイッチング素子とを共にオン状態にすることによって前記環流機能を実行する
ことを特徴とする請求項1に記載の高電圧装置。
【請求項3】
複数のスイッチング素子を有し、直流電源に接続されるスイッチング回路と、
整流回路と、
前記スイッチング回路に接続された一次巻線、および、前記整流回路に接続された二次巻線を備えたトランスと、
前記スイッチング回路を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、複数の前記スイッチング素子のうち少なくとも一の前記スイッチング素子をオン状態にして、前記二次巻線における電圧の極性を反転させるように、前記スイッチング回路と前記トランスとの間で電流を環流させる環流機能を有し、
前記スイッチング回路は、前記直流電源に対して直列接続された第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子と、前記直流電源に対して直列接続された第3のスイッチング素子および第4のスイッチング素子と、を備え、
前記制御装置は、
前記第1のスイッチング素子と前記第4のスイッチング素子とを共にオン状態にし、または、前記第2のスイッチング素子と前記第3のスイッチング素子とを共にオン状態にして前記直流電源から前記トランスに電力を供給する電力供給機能を有し、
前記第1のスイッチング素子および前記第4のスイッチング素子のうち一方をオン状態にし他方をオフ状態にし、または、前記第2のスイッチング素子および前記第3のスイッチング素子のうち一方をオン状態にし他方をオフ状態にすることによって前記環流機能を実行し、
前記制御装置は、
前記第1のスイッチング素子および前記第4のスイッチング素子のうち少なくとも一方がオフ状態、または、前記第2のスイッチング素子および前記第3のスイッチング素子のうち少なくとも一方がオフ状態であり、前記トランスの一次巻線に流れる電流がゼロである状態から、前記環流機能を実行し、その後に前記電力供給機能を実行する
ことを特徴とする高電圧装置。
【請求項4】
前記一次巻線に流れる電流を検出する電流検出回路をさらに備え、前記電流検出回路の検出結果に基づいて、前記環流機能または前記電力供給機能の実行タイミングを決定する
こと
を特徴とする請求項1ないし3の何れか一項に記載の高電圧装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記環流機能を実行する毎に、前記第1のスイッチング素子および前記第4のスイッチング素子のうち一方をオン状態にし他方をオフ状態にする状態と、前記第2のスイッチング素子および前記第3のスイッチング素子のうち一方をオン状態にし他方をオフ状態にする状態と、を周期的に繰り返す
ことを特徴とする請求項に記載の高電圧装置。
【請求項6】
前記二次巻線の端子間の浮遊容量を共振コンデンサとし、前記二次巻線における電圧によって前記共振コンデンサを充電する
ことを特徴とする請求項1ないしの何れか一項に記載の高電圧装置。
【請求項7】
X線を放射するX線管と、
請求項1ないしの何れか一項に記載の高電圧装置と、
を備え、前記高電圧装置の出力電圧を前記X線管に印加する
ことを特徴とするX線画像診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧装置およびX線画像診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、X線CT装置や一般X線撮影装置等のX線画像診断装置では、商用の交流電源を入力として、負荷であるX線管に数十kV~100kV程度の任意の直流電圧を印加する。この種の高電圧装置の一例として、下記特許文献1の請求項1には、「直流電圧を入力しこの直流電圧を交流電圧に変換するインバータと、このインバータの出力電圧を昇圧する高圧変圧器と、この高圧変圧器の出力電圧を整流する整流器と、この整流器の出力電圧が印加されるX線管とを備えたインバータ式X線装置において、前記高圧変圧器の鉄心の脚部に間隙を設けたことを特徴とするインバータ式X線装置。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平2-242597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載されているようなX線画像診断装置では、撮影時に被検者の体格や撮影部位に応じて、X線管の電圧(以下、管電圧と記す)やX線管の電流(以下、管電流と記す)を可変するため、広い負荷条件に対応する高電圧装置が要求される。また、X線画像診断装置では、管電流の大きな重負荷条件では撮影時間が短時間であるのに対し、管電流が小さい軽負荷条件では長時間連続した撮影に対応することが要求される。このため、高電圧装置には広い負荷条件において電力変換効率の高効率化が要求される。広い負荷条件に対応する高周波インバータの制御方式としては、PWM制御が広く知られている。PWM制御では、フルブリッジ回路の対角位置にあるスイッチング素子を組とし、同時にオン・オフさせ、スイッチング周期中における各スイッチング素子のオン期間の比率であるデューティ比を可変することで広い負荷条件における出力制御が可能となる。
【0005】
X線画像診断装置に使用される高電圧装置では、一般的な電源装置と比較してトランスの巻数比が大きいため、トランス2次側に存在する浮遊容量が回路動作に対して無視できないほど大きい。このため、高電圧装置では、浮遊容量を積極的に共振素子として利用することでトランスの巻数比以上の昇圧比(出力電圧/直流電源の電圧)を稼ぐことでトランスの小型化を図ることが考えられる。しかし、管電圧が低い条件では、浮遊容量に起因した昇圧効果によって、高周波インバータの電流ピークが大きくなるため、スイッチング素子の遮断電流の増加によってスイッチング損失が大きくなるため、高電圧装置の高効率化が難しくなるという問題が生じる。また、浮遊容量が大きい場合では、フルブリッジ回路のスイッチング素子を全てオフ状態としても、トランスには浮遊容量の電圧が印加されるため、スイッチング素子を全てオフ状態とする停止期間を可変することで出力電力を制御する間欠制御を適用することも考えられる。しかし、この場合には、トランスの磁気飽和が問題となる。トランスの磁気飽和は、電源からトランスに流れる短絡電流を誘発するため、短絡電流に起因した回路の損失増加により高電圧装置の高効率化が難しくなるという問題が生じる。
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、高効率な高電圧装置およびX線画像診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明の高電圧装置は、複数のスイッチング素子を有し、直流電源に接続されるスイッチング回路と、整流回路と、前記スイッチング回路に接続された一次巻線と、前記整流回路に接続された二次巻線と、を備えたトランスと、前記スイッチング回路を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、複数の前記スイッチング素子のうち少なくとも一の前記スイッチング素子をオン状態にして、前記二次巻線における電圧の極性を反転させるように、前記スイッチング回路と前記トランスとの間で電流を環流させる環流機能を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高効率な高電圧装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態による高電圧装置の回路構成図である。
図2】第1比較例による高電圧装置の動作説明図である。
図3】第1比較例による高電圧装置の他の動作説明図である。
図4】第1比較例における要部の等価回路図である。
図5】第1比較例における各部の波形図である。
図6】第1実施形態における制御プログラムのフローチャートである。
図7】第1実施形態の低圧モードにおける動作説明図である。
図8】第1実施形態の低圧モードにおける他の動作説明図である。
図9】第1実施形態の低圧モードにおける各部の動作波形図である。
図10】第2実施形態によるX線画像診断装置の回路構成図である。
図11】第2実施形態における動作説明図である。
図12】第2実施形態における他の動作説明図である。
図13】第2実施形態における各部の動作波形図である。
図14】第2比較例における動作説明図である。
図15】第2比較例における他の動作説明図である。
図16】第2比較例における他の動作説明図である。
図17】第2比較例における各部の動作波形図である。
図18】第3実施形態における制御プログラムのフローチャートである。
図19】第3実施形態における動作説明図である。
図20】第3実施形態における他の動作説明図である。
図21】第3実施形態における他の動作説明図である。
図22】第3実施形態における各部の動作波形図である。
図23】第3実施形態における他の動作波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1実施形態]
〈第1実施形態の構成〉
図1は、本発明の第1実施形態による高電圧装置101の回路構成図である。
高電圧装置101は、平滑コンデンサCdcと、高周波インバータ2と、トランス3と、共振コンデンサCp2と、整流回路4と、制御装置5と、を備え、直流電源1から出力される直流電圧(以下、電源電圧Vdcという)を変圧して負荷装置6に任意の直流電圧を印加する。ここで、負荷装置6に印加される直流電圧を出力電圧Vxと呼ぶ。共振コンデンサCp2は、トランス3の二次巻線N2に接続されている。但し、共振コンデンサCp2として、トランス3の二次巻線N2の端子間や整流回路4の素子とグランド間に存在する浮遊容量等を用いてもよい。
【0010】
高周波インバータ2は、直流電源1から入力された直流電圧を変調し、トランス3に任意の周波数の交流電圧を出力するものであり、第1レグ201と、第2レグ202と、を備えている。第1レグ201は、直列接続されたスイッチング素子S1,S2と、これらに各々逆並列接続されたダイオードD1,D2と、を備えている。同様に、第2レグ202は、直列接続されたスイッチング素子S3,S4と、これらに各々逆並列接続されたダイオードD3,D4と、を備えている。なお、図1に示す例では、スイッチング素子S1~S4としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を適用しているが、これに代えてMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等、他の半導体デバイスを適用してもよい。
【0011】
トランス3は、高周波インバータ2から供給された交流電圧を変圧して整流回路4に印加するものであり、一次巻線N1と、磁性体コアT1と、二次巻線N2と、を備えている。また、二次巻線N2の端子を端子TA,TBと呼ぶ。ここで、トランス3は、一次巻線N1の漏れインダクタンスである昇圧インダクタLeと、励磁インダクタンスLmとを有している。但し、一次巻線N1の漏れインダクタンスのみではインダクタンスが不足する場合は、外付けのインダクタを昇圧インダクタLeとして適用してもよい。
【0012】
整流回路4は、トランス3の二次巻線N2から供給された交流電圧を整流するとともに平滑し、負荷装置6に印加するものであり、各々がコッククロフト・ウォルトン回路である増倍回路401,402を備えている。ここで、増倍回路401は、整流コンデンサCH1と、ダイオードDH11,DH12と、平滑コンデンサCm1と、を備えている。また、増倍回路402は、整流コンデンサCH2と、ダイオードDH21,DH22と、平滑コンデンサCm2と、を備えている。
【0013】
制御装置5は、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等、一般的なコンピュータとしてのハードウエアを備えており、ROMには、CPUによって実行される制御プログラム、DSPによって実行されるマイクロプログラムおよび各種データ等が格納されている。CPU等によって実行される制御プログラムの詳細は後述する。
【0014】
制御装置5は、図示せぬ上位装置から、出力電圧Vxの指令値である出力電圧指令値Vxrefを受信する。そして、制御装置5は、出力電圧Vxが出力電圧指令値Vxrefに近づくように、スイッチング素子S1~S4のオン/オフ状態を制御するゲート信号VG1~VG4を出力する。
【0015】
〈第1比較例〉
ここで、本実施形態の動作を説明する前に、第1比較例の構成および動作を説明する。まず、第1比較例による高電圧装置の回路構成は、上述した第1実施形態のもの(図1参照)と同様である。
図2は、本比較例による高電圧装置の状態MH1~MH4を示し、図3は、同状態MH5~MH7を示している。また、図4は、状態MH2,MH3における要部の等価回路図であり、図5は、本比較例における各部の波形図である。図5において、電圧VQ1~VQ4は、スイッチング素子S1~S4の端子電圧であり、電流IQ1~IQ4は、スイッチング素子S1~S4とダイオードD1~D4との各並列回路に流れる電流である。
【0016】
図2および図3において、スイッチング素子S1~S4はスイッチの記号によってオン/オフ状態を表している。また、破線の矢印は、電流Iinv等が流れる経路を示すものである。ここで、図2および図3は、主としてスイッチング素子S1~S4のオン/オフ状態と、電流Iinvが流れる経路とを示すものであり、一部の要素について符号が省略されている。図2および図3において省略した符号は、図1に示した符号と同一である。また、整流回路4の動作に関しては、周知の従来技術のものと同様であるため、詳細な動作説明は省略する。
【0017】
(状態MH1:t10~t11)
図2の状態MH1において、スイッチング素子S1~S4は全てオフ状態であり、高周波インバータには電流が流れていない。この状態MH1は、図5において時刻t10~t11の期間に対応する。状態MH1において、共振コンデンサCp2には、二次巻線N2の端子TBを正方向として、電荷が充電されている。従って状態MH1において、電圧VCp2は負値になっている(図5参照)。状態MH1において、スイッチング素子S1,S4をオン状態にすると、状態はMH2に遷移する。
【0018】
(状態MH2:t11~t12)
図5に示すように、ゲート信号VG1~VG4がハイレベルである期間、すなわちスイッチング素子S1~S4がオン状態になる期間を、オン期間Ton1~Ton4と呼ぶ。本比較例においては、スイッチング素子S1とS4、スイッチング素子S2とS3を組とし、組となる2つのスイッチング素子をオン状態にすることによってPWM制御を実行する。そして、本比較例においては、これらオン期間Ton1~Ton4の長さは同一である。従って、高周波インバータ2(図1参照)におけるデューティ比DFは、下式(1)によって表現できる。
DT=(2×Ton1)/Tf=(2×Ton3)/Tf …式(1)
式(1)において、Tfはスイッチング周期である。
【0019】
図2に示すように、状態MH2においては、スイッチング素子S1,S4がオン状態になるため、トランス3の一次側では、スイッチング素子S1、昇圧インダクタLe、共振コンデンサCp2、スイッチング素子S4の経路で電流が流れる。このとき、高周波インバータ2に流れる電流Iinvは、概ね下式2で表される。
Iinv=(Vdc+VCp)×Δt/(ωLe) …式(2)
【0020】
式(2)において、ωはスイッチング角周波数であり、「2π/Tf」に等しい。また、VCpは、共振コンデンサCp2の両端の電圧VCp2を一次換算した値であり、以下、一次換算コンデンサ電圧と呼ぶ。トランス3の昇圧比をPとすると、「VCp=VCp2/P」に等しい。なお、昇圧比Pは、一次巻線N1および二次巻線N2の巻線比にほぼ等しい。また、Δtは、状態がMH2に遷移した時刻t11以降の経過時間である。状態MH2の開始時点では、上述の状態MH1に引き続いて、共振コンデンサCp2には、端子TBを正方向として電荷が充電されている。
【0021】
図4の等価回路において、Cpは、共振コンデンサCp2を一次換算したものであり、以下、一次換算共振コンデンサCpと呼ぶ。一次換算共振コンデンサCpの容量は、共振コンデンサCp2の容量に対して、昇圧比Pの二乗を乗算した値に等しい。図4の状態MH2において、一次換算コンデンサ電圧VCpは負値であるため、昇圧インダクタLeには、|Vdc|+|VCp|に等しい電圧が印加される。このため、電流Iinvは、共振コンデンサCp2が無い場合と比較して、急峻に立ち上がる。状態MH2の期間中において、共振コンデンサCp2は一旦放電し、昇圧インダクタLeにエネルギーを充電する。その後、共振コンデンサCp2は、端子TAの方向を正として再度充電される。このコンデンサ電圧VCpが出力電圧Vxに到達すると、状態はMH3に遷移する。
【0022】
(状態はMH3:t12~t13)
図2に示すように、状態MH3では、状態MH2に引き続いて、スイッチング素子S1,S4がオン状態のままである。従って、トランス3(図1参照)の一次側には、スイッチング素子S1、昇圧インダクタLe、共振コンデンサCp2、スイッチング素子S4の経路で電流が流れる。このとき、高周波インバータに流れる電流Iinvは、概ね上述した式(2)で表される。但し、図4に示すように、状態MH3では、一次換算共振コンデンサCpは、端子TAを正方向として電荷が充電されている。
【0023】
従って、昇圧インダクタLeには|Vdc|-|VCp|に等しい電圧が印加される。このため、図5に示すように、状態MH3におけるインバータ電流Iinvの傾きは状態MH2と比較すると、緩やかになる。そして、状態MH3において、スイッチング素子S1,S4を同時にオフ状態にすると、状態はMH4に遷移する。
【0024】
(状態MH4:t13~t14)
図2に示すように、状態MH4では、ダイオードD2、昇圧インダクタLe、共振コンデンサCp2、ダイオードD3の経路で電流が流れる。これにより、昇圧インダクタLeに蓄積されたエネルギーが共振コンデンサCp2に供給され、さらに、電源側の平滑コンデンサCdcに回生される。この状態MH4において、昇圧インダクタLeのエネルギーがゼロになると、状態はMH5に遷移する。
【0025】
(状態MH5:t14~t15)
図3に示すように、状態MH5では、状態MH4に引き続いて、全てのスイッチング素子S1~S4がオフ状態であり、昇圧インダクタLeには電流が流れていない。このとき、共振コンデンサCp2には、二次巻線N2の端子TA(図1参照)を正方向として電荷が充電されている。状態MH5において、スイッチング素子S2,S3を同時にオン状態にすると、状態はMH6に遷移する。
【0026】
(状態MH6,MH7:t15~t17)
状態MH6,MH7では、上述した状態MH2,MH3に対する対称動作が行われる。従って、図3に示すように、スイッチング素子S3、共振コンデンサCp2、昇圧インダクタLe、スイッチング素子S2の経路で電流が流れる。そして、制御装置5が、スイッチング素子S2,S3を同時にオフ状態にすると、状態MH4,MH5の対称動作が実行される。
【0027】
比較例の定常状態においては、基本的には上述した状態MH1~MH7またはこれらの対称動作が繰り返し実行される。このように、比較例の状態MH2(図2図4参照)においては、共振コンデンサの昇圧効果を利用しているため、電流Iinv電流が急峻に立ち上がる期間が存在する。ここで、出力電圧Vxが高い条件では、状態MH3において、一次換算コンデンサ電圧VCpは、電源電圧Vdcよりも大きくなり、「電源電圧Vdc<一次換算コンデンサ電圧VCp」が成立するため、インバータ電流Iinvの傾きは負となる。このため、スイッチング素子S1およびS4のターンオフ時の遮断電流を低減することが可能となる。
【0028】
しかし、出力電圧Vxが低い条件では、状態MH3において、「電源電圧Vdc>一次換算コンデンサ電圧VCp」になる。すると、図5の時刻t12~t13における電流Iinvの波形のように、インバータ電流Iinvの傾きは正となり、電流Iinvが大きくなってゆく。このため、時刻t13において、スイッチング素子S1,S4のターンオフ時の遮断電流が大きくなる。
このように、比較例の高電圧装置では、共振コンデンサCp2の昇圧効果の影響により、出力電圧Vxが低い条件下では、電流Iinvの電流ピークが大きくなり、出力電圧Vxが高い場合と比較して、スイッチング損失が大きくなるという問題がある。
【0029】
〈第1実施形態の全体動作〉
次に、第1実施形態の全体動作を説明する。図6は、本実施形態の制御装置5において実行される制御プログラムのフローチャートである。
図6において処理が開始されると、ステップS101において、制御装置5は、図示せぬ上位装置から、出力電圧Vxの指令値である出力電圧指令値Vxrefを受信する。次に、処理がステップS102に進むと、制御装置5は、出力電圧指令値Vxrefが、所定の閾値Vcmpを超えているか否かを判定する。ここで「Yes」と判定されると、処理はステップS105に進み、動作モードとして高電圧モードが選択される。一方、「No」と判定されると、処理はステップS104に進み、動作モードとして低電圧モードが選択される。そして、ステップS104またはS105の処理が終了すると、本プログラムの処理が終了する。
【0030】
〈高圧モードの動作〉
ステップS105において高圧モードが選択された場合の動作は、上述した比較例の動作(図2図5参照)と同様である。
但し、本実施形態において高圧モードが選択される場合には、出力電圧Vx(または出力電圧指令値Vxref)が高いため、状態MH3における電流Iinvの波形は、図5に示したものとは異なる。すなわち、状態MH3(時刻t12~t13)において、電流Iinvの傾きが負になるため、時刻t13において、電流Iinvのレベルは充分に低くなる。このため、時刻t13において、スイッチング素子S1,S4のターンオフ時の遮断電流が小さくなり、スイッチング損失も小さくなる。
【0031】
〈低圧モードの動作〉
図7および図8は、第1実施形態の低圧モードにおける各状態の動作説明図である。また、図9は、低圧モードにおける各部の動作波形図である。
(状態ML1:t20~t21)
図7の状態ML1において、スイッチング素子S1~S4は全てオフ状態であり、高周波インバータには電流が流れていない。この状態ML1は、図9において時刻t20~t21の期間に対応する。状態ML1において、共振コンデンサCp2(図1参照)には、二次巻線N2の端子TBを正方向として、電荷が充電されている。状態ML1において、スイッチング素子S1をオン状態にすると、状態はML2に遷移する。
【0032】
(状態ML2:t21~t22)
状態ML2では、スイッチング素子S1がオン状態であるため、図7に示すように、共振コンデンサCp2を電源として、ダイオードD3、スイッチング素子S1、昇圧インダクタLeの経路で電流Iinvが環流する。このように、昇圧インダクタLeを介して電流が環流する状態を環流モードと呼ぶ。これにより、共振コンデンサCp2は、二次巻線N2の端子TBを正方向として充電されていた電荷を、全て放電する。
【0033】
その後、共振コンデンサCp2には、二次巻線N2の端子TAを正方向として電荷が再度充電される。従って、図9の時刻t21~t22の電圧VCp2の波形に示すように、電圧VCp2の極性は、同期間内に負から正に反転する。そして、状態ML2において、高周波インバータを流れる電流Iinvがゼロになると、状態はML3に遷移する。
【0034】
(状態ML3:t22~t23)
状態ML3では、スイッチング素子S1はオン状態になっているが、高周波インバータを流れる電流Iinvはゼロである。そして、共振コンデンサCp2は、端子TAを正方向として充電された状態になっている。従って、図9に示すように、状態ML3(時刻t22~t23)においては、電圧VCp2の極性は正になっている。この状態ML3において、スイッチング素子S4をオン状態にすると、状態はML4に遷移する。
【0035】
(状態ML4:t23~t24)
図7において、状態ML4では、スイッチング素子S1,S4がオン状態であるため、スイッチング素子S1、昇圧インダクタLe、共振コンデンサCp2、スイッチング素子S4の経路で電流Iinvが流れる。この状態ML4は、上述した高圧モード(および比較例)における状態MH3に対応し、電流Iinvは、上述した式(2)で求められる。そして、図4の状態MH3と同様に、昇圧インダクタLeには、電源電圧Vdcとコンデンサ電圧Vcpとの差分が印加されるため、インバータ電流Iinvの傾きは電源電圧Vdcのみが印加される場合と比較して緩やかになる。状態ML4において、スイッチング素子S1、S4をオフ状態にすると、状態はML5に遷移する。
【0036】
(状態ML5:t24~t25)
図8に示すように、状態ML5では、全てのスイッチング素子S1~S4がオフ状態であり、ダイオードD2、昇圧インダクタLe、共振コンデンサCp2、ダイオードD3の経路で電流が流れる。これにより、昇圧インダクタLeに蓄積されていたエネルギーは、共振コンデンサCp2と、平滑コンデンサCdcと、に供給される。状態ML5において、昇圧インダクタLeのエネルギーが全て放出されると、状態はML6に遷移する。
【0037】
(状態ML6:t25~t26)
図8に示すように、状態ML6では、全てのスイッチング素子S1~S4がオフ状態であり、高周波インバータに流れる電流Iinvはゼロである。また、状態ML6においては、共振コンデンサCp2には、二次巻線N2の端子TAを正方向として電荷が充電されているため、図9に示すように電圧VCp2の極性は正である。この状態ML6においてスイッチング素子S3をオン状態にすると、状態はML7に遷移する。
【0038】
(状態ML7:t26~t27)
図8に示すように、状態ML7では、スイッチング素子S3のみがオン状態である。そして、状態ML7では、共振コンデンサCp2を電源として、昇圧インダクタLe、ダイオードD1、スイッチング素子S3の経路で電流Iinvが流れる環流モードの動作が行われる。このとき、共振コンデンサCp2は、二次巻線N2の端子TAを正方向として充電されていた電荷を全て放電する。その後、共振コンデンサCp2には、二次巻線N2の端子TBを正方向として電荷が再度充電される。従って、図9の時刻t25~t26の電圧VCp2の波形に示すように、電圧VCp2の極性は、同期間内に正から負に反転する。そして、状態ML7において、高周波インバータに流れる電流Iinvがゼロになると、状態はML8に遷移する。
【0039】
(状態ML8:時刻t27~t28)
状態ML8では、スイッチング素子S3がオン状態であり、高周波インバータに流れる電流Iinvはゼロである。このとき、共振コンデンサCp2には、二次巻線N2の端子TBを正方向として電荷が充電されているため、図9に示すように、電圧VCp2の極性は負である。
【0040】
(時刻t28以降)
状態ML8において、スイッチング素子S2をオン状態にすると、図9における時刻t28~t29の期間、上述した状態ML4の対称動作が実行される。ここで、スイッチング素子S2,S3をオフ状態にすると、図9における時刻t29~t110の期間、状態ML5の対称動作が実行される。
以降、定常状態においては、基本的には、上述した状態ML1~ML8、またはこれらの対称動作が繰り返される。
【0041】
上述した状態ML2および状態ML7において、高周波インバータに流れる電流Iinvがゼロとなる前に、スイッチング素子S4またはS2をオン状態にすると、ダイオードD3またはD1のリカバリ動作に起因したスイッチング損失が大きくなる。また、スイッチング損失の大きさによっては、素子破壊が生じる場合もある。このため、スイッチング素子S4およびS2をオン状態にするタイミングは、事前に環流モード(状態ML2および状態ML7)の期間を考慮して決定しておくことが好ましい。
【0042】
〈第1実施形態の効果〉
以上のように、本実施形態によれば、出力電圧Vxが低い条件において、共振コンデンサCp2の電圧VCp2の極性を反転させる環流機能(状態ML2および状態ML7)を設けている。これにより、第1比較例において電流の傾きが急峻となる状態(例えば図2図4図5における状態MH2)を回避することができる。これにより、出力電圧Vxが低い条件において、高周波インバータ2の電流ピークを抑制することができる。
【0043】
電流ピークを抑制すると、スイッチング素子S1~S4のターンオフ時の遮断電流を低減することができる。これにより、スイッチング損失を抑制することができ、高電圧を発生する際の高効率化を図ることができる。一方、出力電圧Vxが高い条件下では、第1比較例と同様に、共振コンデンサの昇圧効果を活用することができ、高電圧を発生する際の高効率化を図ることができる。
【0044】
換言すれば、本実施形態における制御装置(5)は、複数のスイッチング素子(S1~S4)のうち少なくとも一のスイッチング素子(S1~S4)をオン状態にして、二次巻線(N2)における電圧(VCp2)の極性を反転させるように、スイッチング回路(2)とトランス(3)との間で電流を環流させる環流機能を有する。
これにより、スイッチング損失等を抑制でき、高効率な高電圧装置(101)を実現できる。
【0045】
より詳細には、制御装置(5)は、第1のスイッチング素子(S1)と第4のスイッチング素子(S4)とを共にオン状態にし、または、第2のスイッチング素子(S2)と第3のスイッチング素子(S3)とを共にオン状態にして直流電源(1)からトランス(3)に電力を供給する電力供給機能(ML4,t28~t29)を有し、第1のスイッチング素子(S1)および第4のスイッチング素子(S4)のうち一方をオン状態にし他方をオフ状態にし、または、第2のスイッチング素子(S2)および第3のスイッチング素子(S3)のうち一方をオン状態にし他方をオフ状態にすることによって環流機能(ML2,ML7)を実行する。
これにより、環流機能と、電力供給機能とを連続的に実行することができる。
【0046】
また、制御装置(5)は、第1のスイッチング素子(S1)および第4のスイッチング素子(S4)のうち少なくとも一方がオフ状態、または、第2のスイッチング素子(S2)および第3のスイッチング素子(S3)のうち少なくとも一方がオフ状態であり、トランス(3)の一次巻線(N1)に流れる電流がゼロである状態(ML1)から、環流機能(ML2)を実行し、その後に電力供給機能(ML4)を実行することを特徴とする。
これにより、トランス(3)の一次巻線(N1)に流れる電流がゼロである状態(ML1)から、環流機能(ML2)および電力供給機能(ML4)の順で、連続的に機能を実行することができる。
【0047】
また、制御装置(5)は、環流機能を実行する毎に、第1のスイッチング素子(S1)および第4のスイッチング素子(S4)のうち一方をオン状態にし他方をオフ状態にする状態(ML2)と、第2のスイッチング素子(S2)および第3のスイッチング素子(S3)のうち一方をオン状態にし他方をオフ状態にする状態(ML7)と、を周期的に繰り返す。
これにより、各スイッチング素子の導通損失およびスイッチング損失に起因する発熱を平均化することができる。
【0048】
また、二次巻線(N2)の端子間の浮遊容量を共振コンデンサ(Cp2)とし、二次巻線(N2)における電圧(VCp2)によって共振コンデンサ(Cp2)を充電する態様によれば、浮遊容量を回路素子である共振コンデンサ(Cp2)として、有効利用できる。
【0049】
[第2実施形態]
〈第2実施形態の構成〉
図10は、本発明の第2実施形態によるX線画像診断装置120の回路構成図である。なお、以下の説明において、上述した第1実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
X線画像診断装置120は、高電圧装置102と、その負荷装置6としてのX線管602と、を備えている。そして、本実施形態における高電圧装置102は、第1実施形態のもの(図1参照)と同様に、平滑コンデンサCdcと、高周波インバータ2と、トランス3と、共振コンデンサCp2と、整流回路4と、制御装置5と、を備えている。さらに、本実施形態の高電圧装置102は、高周波インバータ2とトランス3との間に、電流Iinvを計測する電流検出回路7を備えている。
【0050】
電流検出回路7は、電流Iinvの測定結果と、トリガ信号Trgとを出力する。ここで、トリガ信号Trgとは、環流モードにおいて電流Iinvが非ゼロ値であればハイレベルになり、それ以外の場合にロウレベルになる信号である。本実施形態の高電圧装置102では、電流検出回路7によって環流モードの開始および終了タイミングを検出することができる。従って、損失が小さくなる適切なタイミングでスイッチング素子S1~S4をスイッチングできる。そのため、以下に述べる動作にて詳述するように、ダイオードD1~D4のリカバリによるスイッチング損失や、素子破壊のリスクを、一層低減することができる。
【0051】
〈第2実施形態の動作〉
図11および図12は、第2実施形態における各状態の動作説明図である。また、図13は、第2実施形態における各部の動作波形図である。本実施形態においても、制御装置5は、スイッチング素子S1とS4、スイッチング素子S2とS3を組とし、組となる2つのスイッチング素子をオン状態にすることによってPWM制御を実行する。但し、本実施形態においては、図13に示すように、組となる2つのスイッチング素子のオン期間が非対称となる、非対称PWM制御を適用する。
【0052】
(状態MK1:t30~t31)
図11の状態MK1において、スイッチング素子S1~S4は全てオフ状態であり、高周波インバータには電流が流れていない。この状態MK1は、図13において時刻t20~t31の期間に対応する。状態MK1において、共振コンデンサCp2(図1参照)には、二次巻線N2の端子TBを正方向として、電荷が充電されている。状態MK1において、スイッチング素子S1をオン状態にすると、状態はMK2に遷移する。
【0053】
(状態MK2:t31~t32)
図11に示すように、状態MK2では、スイッチング素子S1がオン状態であるため、共振コンデンサCp2を電源として、ダイオードD3、スイッチング素子S1、昇圧インダクタLeの経路で電流Iinvが環流する。すなわち、環流モードの動作が実行される。電流検出回路7(図10参照)は、時刻t31において電流Iinvの立上りを検出すると、トリガ信号Trgをハイレベルに立ち上げる。電流Iinvが環流すると、共振コンデンサCp2は、二次巻線N2の端子TBを正方向として充電されていた電荷を、全て放電する。
【0054】
その後、共振コンデンサCp2には、二次巻線N2の端子TAを正方向として電荷が再度充電される。従って、図13の時刻t31~t32の電圧VCp2の波形に示すように、電圧VCp2の極性は、同期間内に負から正に反転する。その後、電流Iinvがゼロになると、電流検出回路7は、トリガ信号Trgをロウレベルに立ち下げる。そして、制御装置5(図10参照)がトリガ信号Trgの立下りを検出すると、状態はMK3に遷移する。
【0055】
(状態MK3:t32~t33)
図11の状態MK3において、スイッチング素子S1はオン状態になっているが、高周波インバータに流れる電流Iinvはゼロである。そして、共振コンデンサCp2は、端子TAを正方向として充電された状態になっている。従って、図13に示すように、状態MK3(時刻t32~t33)においては、電圧VCp2の極性は正になっている。状態MK3において、ゲート信号VG4を立ち上げ、スイッチング素子S4をオン状態に設定すると、状態はMK4に遷移する。すなわち、状態がMK3である期間(時刻t32~t33)は、制御装置5がトリガ信号Trgの立下りを検出した後、これに応じてゲート信号VG4を立ち上げるまでの、制御装置5内部の遅れ時間に相当する。
【0056】
(状態MK4:t33~t34)
図11の状態MK4においては、スイッチング素子S1,S4がオン状態であるため、スイッチング素子S1、昇圧インダクタLe、共振コンデンサCp2、スイッチング素子S4の経路で電流Iinvが流れる。この状態MK4は、上述した第1実施形態の高圧モード(および比較例)における状態MH3に対応し、電流Iinvは、上述した式(2)で求められる。その際、図4の状態MH3と同様に、昇圧インダクタLeには、電源電圧Vdcとコンデンサ電圧Vcpとの差分が印加されるため、インバータ電流Iinvの傾きは、電源電圧Vdcのみが印加される場合と比較して緩やかになる。状態MK4において、スイッチング素子S4をオン状態に保ったままスイッチング素子S1をオフ状態にすると、状態はMK5に遷移する。
【0057】
(状態MK5:t34~t35)
図12の状態MK5においては、スイッチング素子S4のみがオン状態になっている。従って、スイッチング素子S4、ダイオードD2、昇圧インダクタLe、共振コンデンサCp2の経路で電流Iinvが流れ、昇圧インダクタLeに蓄積されたエネルギーが共振コンデンサCp2に供給される。そして、共振コンデンサCp2には、二次巻線N2の端子TAを正方向として電荷が蓄積される。状態MK5において、昇圧インダクタLeに蓄積されたエネルギーがゼロになると、電流Iinvがゼロになり、状態はMK6に遷移する。
【0058】
(状態MK6:t35~t36)
状態MK6では、スイッチング素子S1~S4のうちS4のみがオン状態であり、高周波インバータに流れる電流Iinvはゼロである。そして、共振コンデンサCp2には、二次巻線N2の端子TAを正方向として電荷が蓄積されている。従って、図13に示すように、状態MK6(t35~t36)においては、電圧VCp2の極性は正になっている。この状態MK6において、スイッチング素子S4をオフ状態にすると、状態はMK7に遷移する。
【0059】
(状態MK7:t36~t37)
図12の状態MK7では、全てのスイッチング素子S1~S4がオフ状態であり、電流Iinvはゼロになっている。状態MK7において、スイッチング素子S3をオン状態にすると、状態はMK8に遷移する。
【0060】
(状態MK8:t37~t38)
図12の状態MK8では、スイッチング素子S3のみがオン状態であり、共振コンデンサCp2を電源として、昇圧インダクタLe、ダイオードD1、スイッチング素子S3の経路で電流Iinvが環流する。すなわち、環流モードの動作が実行される。電流Iinvが環流すると、共振コンデンサCp2は、二次巻線N2の端子TAを正方向として充電されていた電荷を、全て放電する。
【0061】
その後、共振コンデンサCp2には、二次巻線N2の端子TBを正方向として電荷が再度充電される。従って、図13の時刻t37~t38の電圧VCp2の波形に示すように、電圧VCp2の極性は、同期間内に正から負に反転する。その後、電流Iinvがゼロになると、電流検出回路7は、図13の時刻t38において、トリガ信号Trgをロウレベルに立ち下げる。そして、制御装置5(図10参照)が該トリガ信号Trgの立下りを検出すると、高電圧装置102は、次の状態に遷移する。
【0062】
(時刻t38以降)
図13の時刻t38~t130の期間には、上述した状態MK3~MK6の対称動作が実行される。この時刻t30~t130の期間Tf1は、スイッチング周期Tfに等しい。そして、これに続く時刻t130~t230の期間Tf2が、次のスイッチング周期Tfになる。これら期間Tf1,Tf2を比較すると、組となるスイッチング素子のオン/オフタイミングが入れ替わっている。すなわち、期間Tf2では、ゲート信号VG4は、ゲート信号VG1よりも先にハイレベルに立ち上がり、かつ、ゲート信号VG1よりも先にロウレベルに立ち下がっている。同様に、ゲート信号VG2は、ゲート信号VG3よりも先にハイレベルに立ち上がり、かつ、ゲート信号VG3よりも先にロウレベルに立ち下がっている。
【0063】
換言すれば、本実施形態においては、スイッチング周期Tf毎に、環流モード(例えば状態MK2、MK8)にてオン状態にするスイッチング素子を入れ替えている。このように、スイッチング素子S1~S4を制御することにより、各スイッチング素子の導通損失およびスイッチング損失に起因する発熱を平均化することができる。従って、本実施形態によれば、環流モードにおいて特定のスイッチング素子のみを駆動する場合と比較して素子の故障率を低減することができる。
【0064】
〈第2実施形態の効果〉
図7に示した例におけるゲート信号VG1~VG4によれば、組となる二つのスイッチング素子(すなわちS1とS4、または、S2とS3)のターンオフタイミングは同一であり、ターンオンタイミングは異なっている。しかし、図示の例とは逆に、組となる二つのスイッチング素子のターンオンタイミングを同一にし、ターンオフタイミングを異ならせてもよい。このように、組となる2つのスイッチング素子のオン期間が非対称となる、非対称PWM制御を適用することにより、スイッチング素子S1~S4の電流IQ1~IQ4がゼロ(またはゼロ付近)になった状態で、スイッチング素子S1~S4スイッチング素子をターンオフさせることが可能になる。これにより、本実施形態によれば、第1実施形態と比較して、高電圧装置102を一層効率化することができる。
【0065】
さらに本実施形態によれば、一次巻線(N1)に流れる電流を検出する電流検出回路(7)をさらに備え、電流検出回路(7)の検出結果に基づいて、環流機能または電力供給機能の実行タイミングを決定する。
これにより、適切なタイミングで環流機能または電力供給機能を実行でき、損失を一層少なくすることができる。
【0066】
[第3実施形態]
〈第3実施形態の構成〉
次に、本発明の第3実施形態の高電圧装置について説明する。本実施形態の回路構成は、第1実施形態のもの(図1参照)と同様であり、負荷装置6に任意の直流電圧を印加するものである。なお、以下の説明において、上述した他の実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0067】
本実施形態においては、特に、負荷装置6に供給する出力電流が小さい軽負荷領域の高効率化を目的とし、高周波インバータ2を周期的に駆動・停止させる間欠制御を適用する。制御装置5は、出力電流が十分大きい場合は、高周波インバータ2の駆動周波数Fswとして、所定の基本周波数Fsw_refを適用する。一方、制御装置5は、出力電流が小さい場合には、基本周波数Fsw_refよりも低い駆動周波数Fswを適用し、低くすることで出力電力を制御する。
【0068】
〈第2比較例〉
本実施形態の動作を説明する前に、間欠制御を行う第2比較例の内容について説明する。第2比較例の回路構成は、第1,第3実施形態のもの(図1参照)と同様である。
図14図16は、本比較例における各状態の動作説明図である。また、図17は、本比較例における各部の動作波形図である。図17において電流ILe2は、二次巻線N2に流れる電流である。ここでは、高周波インバータ2の駆動周波数Fswを基本周波数Fsw_refの概ね1/2にした場合の例について説明する。
【0069】
(状態MQ1:t80~t81)
図14の状態MQ1において、スイッチング素子S1~S4は全てオフ状態であり、高周波インバータには電流が流れていない。この状態MQ1は、図17において時刻t80~t81の期間に対応する。状態MQ1において、共振コンデンサCp2(図1参照)には、二次巻線N2の端子TAを正方向として、電荷が充電されている。状態MQ1において、スイッチング素子S1,S4をオン状態にすると、状態はMQ2に遷移する。
【0070】
(状態MQ2:t81~t82)
図14の状態MQ2では、スイッチング素子S1,S4がオン状態であるため、スイッチング素子S1、昇圧インダクタLe、共振コンデンサCp2、スイッチング素子S4の経路で電流Iinvが流れる。このとき、共振コンデンサCp2の電圧VCp2は、二次巻線N2の端子TAを正方向とする極性を有する。状態MQ2においてスイッチング素子S1をオフ状態にすると、状態はMQ3に遷移する。
【0071】
(状態MQ3:t82~t83)
図14に示すように、状態MQ3においては、スイッチング素子S4のみがオン状態になっている。従って、スイッチング素子S4、ダイオードD2、昇圧インダクタLe、共振コンデンサCp2の経路で電流Iinvが流れ、昇圧インダクタLeに蓄積されたエネルギーが共振コンデンサCp2に供給される。そして、共振コンデンサCp2には、二次巻線N2の端子TAを正方向として電荷が蓄積される。状態MQ3において、昇圧インダクタLeに蓄積されたエネルギーがゼロになると、電流Iinvがゼロになり、状態はMQ4に遷移する。
【0072】
(状態MQ4:t83~t84)
図14に示すように、状態MQ4においても、スイッチング素子S1~S4のうちS4のみがオン状態であり、高周波インバータに流れる電流Iinvはゼロである。そして、共振コンデンサCp2には、二次巻線N2の端子TAを正方向として電荷が蓄積されている。従って、図17に示すように、状態MQ4(時刻t83~t84)においては、電圧VCp2の極性は正になっている。状態MQ4において、トランス3(図1参照)に印加された電圧時間積が所定の値に到達すると、状態はMQ5に遷移する。
【0073】
(状態MQ5:t84~t85)
図15に示すように、状態MQ5においても、スイッチング素子S1~S4のうちS4のみがオン状態であり、高周波インバータに流れる電流Iinvはゼロである。しかし、トランス3は、磁気飽和に起因して励磁インダクタンスLmが急激に小さくなるため、二次巻線N2には、トランス3のインダクタンスと共振コンデンサCp2の容量で決まる共振電流が流れる。共振コンデンサCp2は、一旦電荷を放電した後に、端子TBを正方向として、再度電荷を蓄積する。従って、図17の時刻t84~t85の電圧VCp2の波形に示すように、電圧VCp2の極性は、同期間内に正から負に反転する。そして、端子TBを正方向とする共振コンデンサCp2の充電が完了すると、状態はMQ6に遷移する。
【0074】
(状態MQ6:t85~t86)
図15に示すように、状態MQ6においても、スイッチング素子S1~S4のうちS4のみがオン状態であり、共振コンデンサCp2を放電・充電する動作が行われる。すなわち、共振コンデンサCp2を電源として、スイッチング素子S4、ダイオードD2、昇圧インダクタLeの経路で電流が流れる。状態MQ6において、スイッチング素子S4をオフ状態にすると、状態はMQ7に遷移する。
【0075】
(状態MQ7:t86~t87)
図15に示すように、状態MQ7においては、全てのスイッチング素子S1~S4がオフ状態になっている。そして、ダイオードD2、昇圧インダクタLe、共振コンデンサCp2、ダイオードD3の経路で電流Iinvが流れる。状態MQ7において、昇圧インダクタLeに蓄積されたエネルギーがゼロになると、電流Iinvがゼロになり、状態はMQ8に遷移する。
【0076】
(状態MQ8:t87~t88)
図15に示すように、状態MQ8においては、全てのスイッチング素子S1~S4がオフ状態になっており、高周波インバータに流れる電流Iinvはゼロである。そして、共振コンデンサCp2には、二次巻線N2の端子TAを正方向として電荷が蓄積されている。従って、図17に示すように、状態MQ8(時刻t87~t88)においては、電圧VCp2の極性は正になっている。状態MQ8においてトランス3(図1参照)が磁気飽和すると状態はMQ9に遷移する。
【0077】
(状態MQ9:t88~t89)
図16に示すように、状態MQ9においても、全てのスイッチング素子S1~S4はオフ状態であり、流れる電流Iinvはゼロである。しかし、トランス3は、磁気飽和に起因して励磁インダクタンスLmが急激に小さくなるため、二次巻線N2には、トランス3のインダクタンスと共振コンデンサCp2の容量で決まる共振電流が流れる。共振コンデンサCp2は、一旦電荷を放電した後に、端子TBを正方向として、再度電荷を蓄積する。従って、図17の時刻t87~t88の電圧VCp2の波形に示すように、電圧VCp2の極性は、同期間内に正から負に反転する。そして、端子TBを正方向とする共振コンデンサCp2の充電が完了すると、状態はMQ10に遷移する。
【0078】
(状態MQ10:t89~t90)
図16に示すように、状態MQ10では、全てのスイッチング素子S1~S4がオフ状態であり、高周波インバータには電流が流れていない。状態MQ10において、共振コンデンサCp2には、二次巻線N2の端子TBを正方向として、電荷が充電されている。状態MQ10において、スイッチング素子S2,S3をオン状態にすると、状態は、次の状態に遷移する。
【0079】
(時刻t90以降)
図17において、状態MQ10が終了した時刻t90以降は、状態MQ2~MQ10の対称動作が実行される。図17に示す駆動周期Tswは、上述した駆動周波数Fswの逆数である。また、デッドタイム期間Tdは、高周波インバータ2からトランス3(図1参照)への電力供給を休止する期間である。このように、図17に示した例のように間欠制御を適用した場合には、主として状態MQ1~状態MQ4および状態MQ10のタイミングを制御することによってデッドタイム期間Tdを変更し、出力制御を行うことができる。第2比較例の装置のように、トランスの二次巻線N2と並列に共振コンデンサCp2が接続された回路構成においては、デッドタイム期間Tdの期間においても、トランス3は共振コンデンサCp2の電圧VCp2が印加された励磁状態になる。
【0080】
しかし、第2比較例の構成によれば、スイッチング素子S1~S4をスイッチングするタイミングによっては、トランス3に磁気飽和に起因した過大な電流が流れる可能性がある。トランス3の磁気飽和は、トランス3の巻数やコアの特性、負荷条件等、複合的な要因で決定されるため、磁気飽和のタイミングを事前に予測することは困難である。また、トランス3の巻数を多くすることによってコアの磁束密度を低減し、トランス3の磁気飽和を防止する手法も考えられる。しかし、この手法では、トランス3が大型化するという問題が生じる。
【0081】
〈第3実施形態の動作〉
(制御プログラム)
次に、第3実施形態の動作を説明する。図18は、本実施形態の制御装置5において実行される制御プログラムのフローチャートである。
図18において処理が開始されると、ステップS301において、制御装置5(図1参照)は、図示せぬ上位装置から、出力電圧指令値Vxrefと出力電流指令値Ixrefとを受信する。ここで、出力電流指令値Ixrefは、負荷装置6に流れる出力電流Ixの指令値である。
【0082】
次に、処理がステップS302に進むと、制御装置5は、出力電圧指令値Vxref、出力電流指令値Ixref、出力電圧Vxおよび出力電流Ixに基づいて、デューティ比DFを演算する。
【0083】
次に、処理がステップS303に進むと、制御装置5は、演算したデューティ比DFに基づいて、高周波インバータ2の駆動周波数Fswを演算する。例えば、演算したデューティ比DFと、所定の閾値DFthとを比較し、デューティ比DFが閾値DFth以上である場合は、駆動周波数Fswを基本周波数Fsw_refにするとよい。一方、デューティ比DFが閾値DFth未満である場合は、駆動周波数Fswを基本周波数Fsw_refよりも低い値に設定するとよい。
【0084】
次に、処理がステップS304に進むと、制御装置5は、駆動周波数Fswが上述した基本周波数Fsw_ref未満であるか否かを判定する。ステップS304において「No」(Fsw≧Fsw_ref)と判定されると、処理はステップS305に進み、制御装置5は、環流モード周波数Fd_swをゼロに設定する。ここで、環流モード周波数Fd_swとは、高周波インバータ2において電流Iinvが環流する際の周波数である。そして、環流モード周波数Fd_swがゼロの場合とは、間欠制御を行わない場合(例えば第1実施形態と同様の動作を行う場合)である。
【0085】
一方、ステップS304において「Yes」(Fsw<Fsw_ref)と判定されると、処理はステップS306に進み、制御装置5は、下式(3)~(5)に基づいて、環流モード周波数Fd_swを演算する。
α=Fsw_ref/Fsw …式(3)
Td_sw=(1/Fsw-1/Fsw_ref)/2 …式(4)
Fd_sw=1/(Td_sw/A) …式(5)
【0086】
ここで、「Fsw<Fsw_ref」という条件により、式(3)における値αは1以上の実数になる。従って、「N-1<α≦N」を満たす「2」以上の自然数Nは一意に求まる。式(5)における交番数Aは、「A=N-1」によって求まる、「1」以上の自然数である。
【0087】
ステップS305またはS306の処理が終了すると、処理はステップS307に進む。ここでは、制御装置5は、駆動周波数Fsw、デューティ比DF、および環流モード周波数Fd_swに基づいて、スイッチング素子S1~S4を駆動するためのゲート信号VG1~VG4のパターンを決定する。以上により、本プログラムの処理が終了する。それ以降、制御装置5は、ステップS307において決定したパターンに従って、ゲート信号VG1~VG4を繰り返し出力する。
【0088】
図19図21は、第3実施形態において、環流モード周波数Fd_swが非ゼロ値である場合の各状態の動作説明図である。但し、環流モード周波数Fd_sw=0である場合の各部の波形は、上述したように、第1実施形態のものと同様になる。また、図22は、第3実施形態における各部の動作波形図である。これらの図に示す例は、高周波インバータ2の駆動周波数Fswを基本周波数Fsw_refの概ね1/2に設定した場合の例である。
【0089】
(状態MP1:t40~t41)
図19において、状態MP1では、全てのスイッチング素子S1~S4がオフ状態であり、高周波インバータには電流が流れていない。このとき、共振コンデンサCp2には、二次巻線N2の端子TB(図1参照)を正方向として電荷が充電されている。状態MP1において、スイッチング素子S1,S4を同時にオン状態にすると、状態はMP2に遷移する。
【0090】
(状態MP2:t41~t42)
図19において、状態MP2ではスイッチング素子S1,S4がオン状態であるため、スイッチング素子S1、昇圧インダクタLe、共振コンデンサCp2、スイッチング素子S4の経路で電流が流れる。状態MP2においてスイッチング素子S1をオフ状態にすると、状態はMP3に遷移する。
【0091】
(状態MP3:t42~t43)
図19において、状態MP3ではスイッチング素子S4のみがオン状態であるため、ダイオードD2、昇圧インダクタLe、共振コンデンサCp2、スイッチング素子S4の経路で電流が環流する。その際、共振コンデンサCp2の電圧VCp2は、二次巻線N2の端子TAが正方向になる。この状態MP3において、昇圧インダクタLeのエネルギーがゼロになると、状態はMP4に遷移する。
【0092】
(状態MP4:t43~t44)
図19において、状態MP4では、引き続いてスイッチング素子S4のみがオン状態であり、高周波インバータには電流が流れていない。その際においても、共振コンデンサCp2の電圧VCp2は、二次巻線N2の端子TAが正方向になる。状態MP4において、スイッチング素子S4をオフ状態にすると、状態はMP5に遷移する。
【0093】
(状態MP5:t44~t45)
図20において、状態MP5では、全てのスイッチング素子S1~S4がオフ状態であり、高周波インバータには電流が流れていない。その際においても、共振コンデンサCp2の電圧VCp2は、二次巻線N2の端子TAが正方向になる。状態MP5においてスイッチング素子S2をオン状態にすると、状態はMP6に遷移する。
【0094】
(状態MP6:t45~t46)
図20において、状態MP6では、スイッチング素子S2がオン状態であり、共振コンデンサCp2を電源として、ダイオードD4、共振コンデンサCp2、昇圧インダクタLe、スイッチング素子S2の順で電流が環流する。すなわち、環流モードの動作が実行される。その際、共振コンデンサCp2は、一旦電荷を放電した後に、端子TBを正方向として、再度電荷を蓄積する。従って、図19の時刻t45~t46の電圧VCp2の波形に示すように、電圧VCp2の極性は、同期間内に正から負に反転する。そして、端子TBを正方向とする共振コンデンサCp2の充電が完了すると、状態はMP7に遷移する。
【0095】
(状態MP7:t46~t47)
図20において、状態MP7では、スイッチング素子S2がオン状態であり、高周波インバータには電流が流れていない。このとき、共振コンデンサCp2には、上述の状態MP6に引き続いて、二次巻線N2の端子TBを正方向として電荷が蓄積されている。状態MP7において、スイッチング素子S2をオフ状態にすると同時にスイッチング素子S4をオン状態にすると、状態はMP8に遷移する。
【0096】
(状態MP8:t47~t48)
図20において、状態MP8では、スイッチング素子S4がオン状態であり、共振コンデンサCp2を電源として、ダイオードD2、昇圧インダクタLe、共振コンデンサCp2、スイッチング素子S4の経路で電流が環流する。すなわち、環流モードの動作が実行される。その際、共振コンデンサCp2は、一旦電荷を放電した後に、端子TAを正方向として、再度電荷を蓄積する。従って、図19の時刻t47~t48の電圧VCp2の波形に示すように、電圧VCp2の極性は、同期間内に負から正に反転する。そして、端子TAを正方向とする共振コンデンサCp2の充電が完了すると、状態はMP9に遷移する。
【0097】
(状態MP9:t48~t49)
図21の状態MP9では、スイッチング素子S4がオン状態であり、高周波インバータには電流が流れていない。このとき、共振コンデンサCp2には、二次巻線N2の端子TAを正方向として電荷が蓄積されている。状態MP9において、スイッチング素子S4をオフ状態にすると、状態はMP10に遷移する。
【0098】
(状態MP10:t49~t50)
図21の状態MP10では、全てのスイッチング素子S1~S4がオフ状態になっており、高周波インバータには電流が流れていない。状態MP10において、スイッチング素子S2,S3がオン状態になると、状態はMP11に遷移する。
【0099】
(状態MP11:t50~t51)
図21の状態MP11においては、状態MP2の対称動作が実行される。すなわち、状態MP11においてはスイッチング素子S2,S3がオン状態であり、スイッチング素子S3、共振コンデンサCp2、昇圧インダクタLe、スイッチング素子S2の経路で電流が流れる。状態MP11において、スイッチング素子S3をオフ状態にすると、次の状態に遷移する。
【0100】
(時刻t51以降)
図22の時刻t51以降の期間には、状態MP4~状態MP9の対称動作が実行される。以降、状態MP1~状態MP9またはこれらの対称動作が繰り返される。
このように本実施形態によれば、間欠制御を行うにあたって、デッドタイム期間中に、電圧VCp2の極性を切り替える環流モード(状態MP6,MP8)を設けている。これにより、トランス3の磁気飽和を防止することができ、磁気飽和に起因する高周波インバータ2の過電流を防止することができ、導通損失およびスイッチング損失を低減し、高電圧装置101の高効率化を図ることができる。
【0101】
図22において、状態MP6~状態MP9の期間が、式(4)における環流モード期間Td_swになる。本実施形態によれば、式(5)に示したように、デッドタイム期間Tdの時間長に応じて環流モード周波数Fd_sw(および環流モード期間Td_sw)を設定できる。
【0102】
図23は、第3実施形態における他の動作波形図である。図示の例は、高周波インバータ2の駆動周波数Fswを基本周波数Fsw_refの概ね1/4に設定した場合の例である。この場合、式(5)における交番数Aは、「2」になる。
図23において、時刻t140~t149の各波形は、図19の時刻t40~t49の各波形と同様である。また、時刻t156~t159の波形は、時刻t146~t149の各波形と同様である。また、時刻t159~t161の波形は、図19の時刻t49~t51の各波形と同様である。すなわち、図示の例において、時刻t145~t159の環流モード期間Td_sw内で、ゲート信号VG2,VG4が2回ずつ立上っている。これに伴い、環流モード周期Td_sw内で、電圧VCp2の極性が4回切り替わっている。
【0103】
このように、本実施形態によれば、デッドタイム期間Tdの時間長に応じて環流モード周期Td_sw、交番数Aおよび環流モード周波数Fd_swを設定することができる。これにより、トランス3の磁気飽和を防止しながら、高周波インバータ2を任意の周波数で駆動することができる。
【0104】
〈第3実施形態の効果〉
以上のように、本実施形態によれば、制御装置(5)は、第1のスイッチング素子(S1)および第4のスイッチング素子(S4)のうち一方をオン状態にし他方をオフ状態にし、または、第2のスイッチング素子(S2)および第3のスイッチング素子(S3)のうち一方をオン状態にし他方をオフ状態にすることによって電流を環流させる第1の環流機能(MP6)と、第1のスイッチング素子(S1)および第4のスイッチング素子(S4)のオン/オフ状態、または第2のスイッチング素子(S2)および第3のスイッチング素子(S3)のオン/オフ状態を、第1の環流機能(MP6)とは逆にして電流を環流させる第2の環流機能(MP8)と、を有し、第1の環流機能(MP6)と、第2の環流機能(MP8)とを交互に実行する。
これにより、トランス(3)の磁気飽和を防止しながら、スイッチング回路(2)を幅広い周波数で駆動することができる。
【0105】
[変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について削除し、もしくは他の構成の追加・置換をすることが可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
【0106】
(1)図7図9に示した例においては、状態ML2においてスイッチング素子S1をオン状態とし、状態ML7においてスイッチング素子S3をオン状態にしているが、状態ML2においてスイッチング素子S4をオン状態とし、状態ML7においてスイッチング素子S2をオン状態にしてもよい。
【0107】
(2)上記各実施形態においては、整流回路4としてコッククロフト・ウォルトン回路を適用したが、整流回路4として、他の種々の方式を適用することができる。例えば、整流回路4は、対称型コッククロフト・ウォルトン回路、全波整流回路、または倍電圧整流回路であってもよい。
【0108】
(3)上記各実施形態において、環流モード(例えば図7の状態ML2、図8の状態ML7)ではスイッチング素子S1~S4のうち1個のスイッチング素子のみをオン状態にしたが、上側アームのスイッチング素子S1,S3のうち何れかをオン状態にするときは、スイッチング素子S1,S3を共にオン状態にしてもよい。同様に、下側アームのスイッチング素子S2,S4のうち何れかをオン状態にするときは、スイッチング素子S2,S4を共にオン状態にしてもよい。
【0109】
(4)上記実施形態における制御装置5のハードウエアは一般的なコンピュータによって実現できるため、図6図18に示したフローチャートに係るプログラム等を記憶媒体に格納し、または伝送路を介して頒布してもよい。
【0110】
(5)図6図18に示した処理は、上記実施形態ではプログラムを用いたソフトウエア的な処理として説明したが、その一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit;特定用途向けIC)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いたハードウエア的な処理に置き換えてもよい。
【0111】
(6)また、各実施形態の高電圧装置101,102は、第2実施形態のX線画像診断装置120のみならず、通信機器、工業機械等、種々の電気機器に適用することができる。これにより、これらの電気機器においては、その用途に応じて優れた性能を発揮できる。
【符号の説明】
【0112】
1 直流電源(直流電源)
2 高周波インバータ(スイッチング回路)
3 トランス
4 整流回路
5 制御装置
6 負荷装置
7 電流検出回路
101,102 高電圧装置(高電圧装置)
120 X線画像診断装置
602 X線管
Cp2 共振コンデンサ
ML4 状態(電力供給機能)
N1 一次巻線
N2 二次巻線
S1~S4 スイッチング素子(第1~第4のスイッチング素子)
Vx 出力電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23