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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】転舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20220901BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018227226
(22)【出願日】2018-12-04
(65)【公開番号】P2020090130
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】511056585
【氏名又は名称】ジェイテクト・ヨーロッパ
【氏名又は名称原語表記】JTEKT EUROPE
【住所又は居所原語表記】Z.I. du Broteau, 69540 IRIGNY, FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】玉泉 晴天
(72)【発明者】
【氏名】スラーマ タヘル
(72)【発明者】
【氏名】ムレア パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ラミニ ピエール
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-223832(JP,A)
【文献】特開2016-179748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04, 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機が内蔵されて且つ転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータを操作対象とし、
運転者が入力する操舵トルクを目標トルクにフィードバック制御するための操作量であって前記電動機に要求されるトルクに換算可能な操作量である操舵側操作量を算出するトルクフィードバック処理と、
前記操舵側操作量に基づき、前記転舵輪の転舵角に換算可能な換算可能角度の指令値である角度指令値を算出する角度指令値算出処理と、
前記換算可能角度を前記角度指令値にフィードバック制御するための操作量であって前記電動機に要求されるトルクに換算可能な操作量である転舵側操作量を算出する角度フィードバック処理と、
前記操舵側操作量が前記電動機に要求されるトルクに換算された量および前記転舵側操作量が前記電動機に要求されるトルクに換算された量の和に応じたトルク指令値に前記電動機のトルクを制御すべく前記電動機の駆動回路を操作する操作処理と、を実行する転舵制御装置。
【請求項2】
前記角度フィードバック処理は、前記換算可能角度および前記電動機に要求されるトルクを入力として前記換算可能角度の推定値を算出する角度推定処理と、前記推定値を前記角度指令値にフィードバック制御する処理と、を含む請求項1記載の転舵制御装置。
【請求項3】
前記角度フィードバック処理は、微分要素を用いて算出したフィードバック操作量に前記角度指令値の2階時間微分値に基づくフィードフォワード操作量を加算した値に基づき前記転舵側操作量を算出する処理である請求項1または2記載の転舵制御装置。
【請求項4】
前記操舵側操作量と前記操舵トルクとを同一の物体に働く力に換算した量同士の和に基づき、前記目標トルクを算出する目標トルク算出処理を実行する請求項1~3のいずれか1項に記載の転舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機が内蔵された転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータを操作対象とする転舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、操舵角センサによって検出される操舵角を目標操舵角にフィードバック制御する操作量によって、転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータ内蔵の電動機のトルクを設定する車両用操舵装置(転舵制御装置)が記載されている。詳しくは、この転舵制御装置では、目標操舵角を、操舵トルクセンサによって検出される操舵トルクに基づき設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-151360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記操舵トルクセンサによって検出される操舵トルクや操舵角センサによって検出される操舵角にはノイズが重畳される。そのため、上記フィードバック制御を実行する制御器には、操舵トルクのノイズと操舵角のノイズとの双方のノイズが重畳されることからノイズの影響が大きくなる懸念があるため、フィードバック制御の応答性を高めることは困難であり、その結果、転舵輪を転舵させる制御の応答性を高めることが困難となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.電動機が内蔵されて且つ転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータを操作対象とし、運転者が入力する操舵トルクを目標トルクにフィードバック制御するための操作量であって前記電動機に要求されるトルクに換算可能な操作量である操舵側操作量を算出するトルクフィードバック処理と、前記操舵側操作量に基づき、前記転舵輪の転舵角に換算可能な換算可能角度の指令値である角度指令値を算出する角度指令値算出処理と、前記換算可能角度を前記角度指令値にフィードバック制御するための操作量であって前記電動機に要求されるトルクに換算可能な操作量である転舵側操作量を算出する角度フィードバック処理と、前記操舵側操作量が前記電動機に要求されるトルクに換算された量および前記転舵側操作量が前記電動機に要求されるトルクに換算された量の和に応じたトルク指令値に前記電動機のトルクを制御すべく前記電動機の駆動回路を操作する操作処理と、を実行する転舵制御装置である。
【0006】
上記構成では、トルクフィードバック処理の入力となる操舵トルクに、ノイズが重畳するおそれがある。一方、トルクフィードバック処理によって算出される操舵側操作量に基づき、角度指令値が算出され、角度指令値に基づき角度フィードバック処理がなされることから、角度フィードバック処理には、換算可能角度に重畳するノイズに加えて、角度指令値に含まれる操舵トルクのノイズが影響する。そのため、トルクフィードバック処理と比較して角度フィードバック処理の応答性を高めにくい。そこで上記構成では、電動機のトルク指令値を、転舵側操作量のみから定める代わりに、転舵側操作量と操舵側操作量との双方に応じた量とする。これにより、制御の応答性を高めることができる。
【0007】
2.上記1記載の転舵制御装置において、前記角度フィードバック処理は、前記換算可能角度および前記電動機に要求されるトルクを入力として前記換算可能角度の推定値を算出する角度推定処理と、前記推定値を前記角度指令値にフィードバック制御する処理と、を含む。
【0008】
上記構成では、フィードバック制御量を、センサ検出値に基づく換算可能角度とする代わりに、それから推定された推定値とすることにより、換算可能角度に重畳するノイズが角度フィードバック処理に与える影響を軽減できる。
【0009】
3.前記角度フィードバック処理は、微分要素を用いて算出したフィードバック操作量に前記角度指令値の2階時間微分値に基づくフィードフォワード操作量を加算した値に基づき前記転舵側操作量を算出する処理である上記1または2記載の転舵制御装置である。
【0010】
上記構成では、微分要素を用いてフィードバック操作量を算出するため、微分要素を用いない場合と比較して、フィードバック操作量に基づく制御の応答性を高めることができる。また、上記構成では、フィードフォワード操作量を用いるため、フィードフォワード操作量を用いることなく転舵側操作量を算出する場合と比較して、転舵側操作量に基づく制御の応答性を高めることができる。
【0011】
4.前記操舵側操作量と前記操舵トルクとを同一の物体に働く力に換算した量同士の和に基づき、前記目標トルクを算出する目標トルク算出処理を実行する上記1~3のいずれか1つに記載の転舵制御装置である。
【0012】
操舵側操作量は、電動機に要求されるトルクに換算可能であることから、操舵側操作量と操舵トルクとによって、転舵輪を転舵させるために車両側から加える力が定まり、この力から、横力が定まる。一方、運転者による操舵フィーリングを良好とする上で要求される目標トルクは、横力に応じて定まる傾向がある。このため、上記構成では、上記和に基づき目標トルクを定めることにより、目標トルク算出処理の設計が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態にかかる電動パワーステアリング装置を示す図。
図2】同実施形態にかかる転舵制御装置が実行する処理を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、転舵制御装置にかかる一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置10は、運転者のステアリングホイール22の操作に基づいて転舵輪12を転舵させる操舵機構20、および転舵輪12を電動で転舵させる転舵アクチュエータ30を備えている。
【0015】
操舵機構20は、ステアリングホイール22と、ステアリングホイール22に固定されたステアリングシャフト24と、ラックアンドピニオン機構27と、を備えている。ステアリングシャフト24は、ステアリングホイール22と連結されたコラムシャフト24aと、コラムシャフト24aの下端部に連結されたインターミディエイトシャフト24bと、インターミディエイトシャフト24bの下端部に連結されたピニオンシャフト24cとを有している。ピニオンシャフト24cの下端部は、ラックアンドピニオン機構27を介して転舵軸としてのラック軸26に連結されている。ラック軸26の両端には、タイロッド28を介して、左右の転舵輪12が連結されている。したがって、ステアリングホイール22、すなわちステアリングシャフト24の回転運動は、ピニオンシャフト24cおよびラック軸26からなるラックアンドピニオン機構27を介してラック軸26の軸方向(図1の左右方向)の往復直線運動に変換される。当該往復直線運動が、ラック軸26の両端にそれぞれ連結されたタイロッド28を介して、転舵輪12にそれぞれ伝達されることにより、転舵輪12の転舵角が変化する。
【0016】
一方、転舵アクチュエータ30は、ラック軸26を操舵機構20と共有し、また、電動機32や、インバータ33、ボールねじ機構34、ベルト式減速機構36を備えている。電動機32は、転舵輪12を転舵させるための動力の発生源であり、本実施形態では、電動機32として、3相の表面磁石同期電動機(IPMSM)を例示する。ボールねじ機構34は、ラック軸26の周囲に一体的に取り付けられており、ベルト式減速機構36は、電動機32の出力軸32aの回転力をボールねじ機構34に伝達する。電動機32の出力軸32aの回転力は、ベルト式減速機構36およびボールねじ機構34を介して、ラック軸26を軸方向に往復直線運動させる力に変換される。このラック軸26に付与される軸方向の力によって、転舵輪12を転舵させることができる。
【0017】
転舵制御装置40は、転舵輪12を制御対象とし、その制御量である転舵角を制御すべく、転舵アクチュエータ30を操作する。転舵制御装置40は、制御量の制御に際し、トルクセンサ50によって検出される、運転者がステアリングホイール22を介して入力するトルクである操舵トルクThや、車速センサ52によって検出される車速Vを参照する。また、転舵制御装置40は、回転角度センサ54によって検出される出力軸32aの回転角度θmや、電動機32を流れる電流iu,iv,iwを参照する。なお、電流iu,iv,iwは、インバータ33の各レッグに設けられたシャント抵抗における電圧降下として検出されるものとすればよい。
【0018】
転舵制御装置40は、CPU42、ROM44および周辺回路46を備え、それらが通信線48を介して接続されているものである。なお、周辺回路46は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路や、電源回路、リセット回路等を含む。
【0019】
図2に、転舵制御装置40が実行する処理の一部を示す。図2に示す処理は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42により実行することにより実現される。
ベース目標トルク算出処理M10は、後述する軸力Tafに基づき、ステアリングホイール22を介して運転者がステアリングシャフト24に入力すべき目標トルクTh*のベース値であるベース目標トルクThb*を算出する処理である。ここで、軸力Tafは、ラック軸26に加わる軸方向の力である。軸力Tafは、転舵輪12に作用する横力に応じた量となることから、軸力Tafによって横力を把握することができる。一方、ステアリングホイール22を介して運転者がステアリングシャフト24に入力すべきトルクは、横力に応じて定めることが望ましい。したがって、ベース目標トルク算出処理M10は、軸力Tafから把握される横力に応じてベース目標トルクThb*を算出する処理となっている。
【0020】
詳しくは、ベース目標トルク算出処理M10は、軸力Tafの絶対値が同一であっても車速Vが小さい場合に大きい場合よりも、ベース目標トルクThb*の絶対値をより小さい値に算出する処理である。これは、たとえば、軸力Tafまたは軸力Tafから把握される横加速度および車速Vを入力変数とし、ベース目標トルクThb*を出力変数とするマップデータが予めROM44に記憶された状態でCPU42によりベース目標トルクThb*をマップ演算することによって実現できる。ここで、マップデータとは、入力変数の離散的な値と、入力変数の値のそれぞれに対応する出力変数の値と、の組データである。またマップ演算は、たとえば、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれかに一致する場合、対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とするのに対し、一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値の補間によって得られる値を演算結果とする処理とすればよい。
【0021】
ヒステリシス処理M14は、転舵輪12の転舵角に換算可能な換算可能角度であるピニオンシャフト24cの回転角度(ピニオン角θp)に基づき、ベース目標トルクThb*を補正するヒステリシス補正量Thysを算出して出力する処理である。詳しくは、ヒステリシス処理M14は、ピニオン角θpの変化等に基づき、ステアリングホイール22の切込み時および切り戻し時を識別し、切込み時において切り戻し時と比較して目標トルクTh*の絶対値がより大きくなるように、ヒステリシス補正量Thysを算出する処理を含む。詳しくは、ヒステリシス処理M14は、車速Vに応じてヒステリシス補正量Thysを可変設定する処理を含む。
【0022】
加算処理M12は、ベース目標トルクThb*にヒステリシス補正量Thysを加算することによって、目標トルクTh*を算出する処理である。
偏差算出処理M16は、操舵トルクThから目標トルクTh*を減算することによって、偏差ΔThを算出する処理である。
【0023】
トルクフィードバック処理M18は、偏差ΔThに基づき、操舵トルクThを目標トルクTh*に制御するための操作量である操舵側操作量Ts*を算出する処理である。操舵側操作量Ts*は、操舵トルクThを目標トルクTh*にフィードバック制御するための操作量を含んだ量である。フィードバック操作量は、たとえば操舵トルクThおよび目標トルクTh*の符号がともに正の場合、操舵トルクThが目標トルクTh*よりも大きい場合に、電動機32に対する要求トルクを増加させるための量となる。なお、操舵側操作量Ts*は、電動機32に対する要求トルクに応じた量であるが、本実施形態では、操舵側操作量Ts*は、ステアリングシャフト24に加わるトルクに換算された量となっている。
【0024】
軸力算出処理M20は、操舵側操作量Ts*に操舵トルクThを加算することによって、軸力Tafを算出する処理である。なお、操舵トルクThは、ステアリングシャフト24に加わるトルクのため、本実施形態において軸力Tafは、ラック軸26の軸方向に加わる力を、ステアリングシャフト24に加わるトルクに換算した値となっている。
【0025】
角度指令値算出処理M30は、軸力Tafに基づき、ピニオン角θpの指令値であるピニオン角指令値θp*を算出する処理である。詳しくは、角度指令値算出処理M30は、以下の式(c1)にて表現されるモデル式を用いて、ピニオン角指令値θp*を算出する処理である。
【0026】
Taf=K・θp*+C・θp*’+J・θp*’’ …(c1)
上記の式(c1)にて表現されるモデルは、軸力Tafと等しい量のトルクがステアリングシャフト24に入力された場合にピニオン角θpが示す値をモデル化したものである。上記の式(c1)において、粘性係数Cは、電動パワーステアリング装置10の摩擦等をモデル化したものであり、慣性係数Jは、電動パワーステアリング装置10の慣性をモデル化したものであり、バネ係数Kは、電動パワーステアリング装置10が搭載される車両のサスペンションやホイールアライメント等の仕様をモデル化したものである。
【0027】
積算処理M40は、電動機32の回転角度θmの積算値Inθを算出する処理である。なお、本実施形態では、車両が直進するときの転舵輪12の転舵角を「0」としており、転舵角が「0」であるときの積算値Inθを「0」とする。換算処理M42は、積算値Inθを、ステアリングシャフト24から電動機32までの減速比Kmで除算することによって、ピニオン角θpを算出する処理である。
【0028】
角度フィードバック処理M50は、ピニオン角θpをピニオン角指令値θp*に制御するための操作量である転舵側操作量Tt*を算出する処理である。角度フィードバック処理M50は、ピニオン角θpを入力として、電動機32が出力するトルク以外に、ピニオン角θpに影響するトルクを、外乱トルクTldとしてこれを推定する外乱オブザーバM52を含む。
【0029】
なお、本実施形態では、推定の外乱トルクTldをステアリングシャフト24に加わるトルクに換算しており、外乱オブザーバM52は、ステアリングシャフト24に加わるトルクに換算された電動機32に対する要求トルクTdを用いて、以下の式(c2)によって、外乱トルクTldを推定する。
【0030】
J・θp*’’=Td+Tld …(c2)
詳しくは、本実施形態では、ピニオン角θpの推定値θpe、要求トルクTdおよびオブザーバゲインを規定する3行1列の行列Lを用いて以下の式(c3)にて、推定の外乱トルクTldや推定値θpeを算出する。
【0031】
【数1】
偏差算出処理M54は、ピニオン角指令値θp*から推定値θpeを減算した偏差Δθpを算出する処理である。
【0032】
フィードバック項算出処理M56は、偏差Δθpを入力とする比例要素の出力値および微分要素の出力値の和であるフィードバック操作量Ttfbを算出する処理である。
2階微分処理M58は、ピニオン角指令値θp*の2階時間微分値を算出する処理である。第1フィードフォワード項算出処理M60は、2階微分処理M58の出力値に慣性係数Jを乗算することによって第1フィードフォワード操作量Ttffを算出する処理である。2自由度操作量算出処理M62は、フィードバック操作量Ttfbと、第1フィードフォワード操作量Ttffと、第2フィードフォワード操作量としての推定の外乱トルクTldとを加算して、転舵側操作量Tt*を算出する処理である。
【0033】
加算処理M70は、操舵側操作量Ts*と転舵側操作量Tt*とを加算して、電動機32に対する要求トルクTdを算出する処理である。
換算処理M72は、要求トルクTdを減速比Kmで除算することによって、要求トルクTdを、電動機32に対するトルクの指令値であるモータトルク指令値Tm*に換算する処理である。
【0034】
操作信号生成処理M74は、電動機32のトルクをモータトルク指令値Tm*に制御するためのインバータ33の操作信号MSを生成して出力する処理である。
ここで、本実施形態の作用および効果について説明する。
【0035】
CPU42は、軸力Tafに基づきピニオン角指令値θp*を算出し、ピニオン角θpをピニオン角指令値θp*に制御する。これにより、上記の式(c1)のモデル式にて想定した挙動に応じて転舵輪12を転舵させることができることから、路面が転舵輪12に加える反力の影響を抑制することができる。ただし、ピニオン角θpにはノイズが重畳し、また、ピニオン角指令値θp*は、操舵トルクThに重畳したノイズの影響を受けていることから、角度フィードバック処理M50の応答性を高めることは困難である。
【0036】
そこで本実施形態では、転舵側操作量Tt*を要求トルクTdとするのではなく、転舵側操作量Tt*に操舵側操作量Ts*を加算した値を要求トルクTdとした。ここで、トルクフィードバック処理M18は、操舵トルクThに重畳されたノイズの影響を受けるもののピニオン角θpに重畳されたノイズの影響は受けないから、角度フィードバック処理M50よりも応答性を高めやすい。そのため、転舵側操作量Tt*を要求トルクTdとする場合と比較して、要求トルクTdを応答性の高い量とすることができる。
【0037】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1]換算可能角度は、ピニオン角θpに対応し、操作処理は、加算処理M70、換算処理M72および操作信号生成処理M74に対応する。駆動回路は、インバータ33に対応する。[2]角度推定処理は、外乱オブザーバM52に対応する。[3]「2階時間微分値に基づくフィードフォワード操作量」は、第1フィードフォワード操作量Ttffに対応する。[4]ベース目標トルク算出処理M10において、軸力Tafが用いられていることに対応する。「同一の物体に働く力」は、ステアリングシャフト24に働くトルクに対応する。
【0038】
<その他の実施形態>
なお、上記実施形態の各事項の少なくとも1つを、以下のように変更してもよい。
・「角度指令値算出処理について」
上記実施形態では、軸力Tafを入力とし、上記の式(c1)に基づきピニオン角指令値θp*を算出したが、これに限らない。また、軸力Tafを入力とするものに限らず、たとえば、操舵側操作量Ts*を入力としてもよい。
【0039】
・「外乱オブザーバについて」
推定の外乱トルクTldの算出手法としては、上記実施形態において例示したものに限らない。たとえば、上記の式(c2)に基づき、要求トルクTdから、ピニオン角指令値θp*の2階時間微分値、ピニオン角θpの2階時間微分値または推定値θpeの2階時間微分値に慣性係数Jを乗算した値を減算することによって算出してもよい。
【0040】
・「角度フィードバック処理について」
上記実施形態では、第1フィードフォワード操作量Ttffを、ピニオン角指令値θp*の2階時間微分値に基づき算出したが、これに限らず、たとえばピニオン角θpに基づき算出してもよい。
【0041】
フィードバック項算出処理M56の入力となる偏差Δθpとしては、ピニオン角指令値θp*と推定値θpeとの差に限らない。たとえば、推定値θpeに代えて、ピニオン角θp自体としてもよい。
【0042】
たとえば2自由度操作量算出処理M62において、第1フィードフォワード操作量Ttffをフィードバック操作量Ttfbに加算しなくてもよい。また、2自由度操作量算出処理M62において、推定の外乱トルクTldをフィードバック操作量Ttfbに加算しなくてもよい。
【0043】
たとえば偏差Δθpを、ピニオン角指令値θp*とピニオン角θpとの差として且つ、転舵側操作量Tt*に、推定の外乱トルクTldを含めない場合、ピニオン角θpとピニオン角指令値θp*との定常偏差を低減するうえでは、フィードバック項算出処理M56に、積分要素を含めることが望ましい。もっとも転舵側操作量Tt*に推定の外乱トルクTldを含める場合であっても、たとえば「外乱オブザーバについて」の欄に記載したように推定の外乱トルクTldの算出に積分演算が用いられない場合には、フィードバック項算出処理M56に、積分要素を含めることが望ましい。
【0044】
・「換算可能角について」
上記実施形態では、換算可能角度として、ピニオン角θpを用いたが、これに限らない。たとえば、転舵輪の転舵角自体としてもよい。
【0045】
・「操舵側操作量について」
上記実施形態では、操舵側操作量Ts*を、ステアリングシャフト24のトルクに換算したが、これに限らない。たとえば、電動機32のトルクとしてもよい。
【0046】
・「転舵側操作量について」
上記実施形態では、転舵側操作量Tt*をステアリングシャフト24のトルクに換算したが、これに限らない。たとえば、電動機32のトルクとしてもよい。
【0047】
・「目標トルク算出処理について」
ベース目標トルク算出処理としては、軸力Tafと車速Vとに応じてベース目標トルクThb*を算出する処理に限らない。たとえば軸力Tafのみに基づきベース目標トルクThb*を算出する処理であってもよい。
【0048】
ベース目標トルクThb*をヒステリシス補正量Thysで補正すること自体必須ではない。
・「ベース目標トルクについて」
軸力Tafに基づきベース目標トルクThb*を求めることは必須ではない。たとえば、操舵トルクThに基づきアシストトルクを算出し、アシストトルクと操舵トルクとの和に基づきベース目標トルクThb*を算出してもよい。
【0049】
・「転舵制御装置について」
転舵制御装置がCPU42とROM44とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理する専用のハードウェア回路(たとえばASIC等)を備えてもよい。すなわち、転舵制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア処理回路や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。すなわち、上記処理は、1または複数のソフトウェア処理回路および1または複数の専用のハードウェア回路の少なくとも一方を備えた処理回路によって実行されればよい。
【0050】
・「電動機、駆動回路について」
電動機としては、SPMSMに限らず、IPMSM等であってもよい。また、同期機に限らず誘導機であってもよい。さらに、たとえばブラシ付きの直流電動機であってもよい。その場合、駆動回路としては、Hブリッジ回路を採用すればよい。
【符号の説明】
【0051】
10…電動パワーステアリング装置、12…転舵輪、20…操舵機構、22…ステアリングホイール、24…ステアリングシャフト、24a…コラムシャフト、24b…インターミディエイトシャフト、24c…ピニオンシャフト、26…ラック軸、27…ラックアンドピニオン機構、28…タイロッド、30…転舵アクチュエータ、32…電動機、32a…出力軸、33…インバータ、34…ボールねじ機構、36…ベルト式減速機構、40…転舵制御装置、42…CPU、44…ROM、46…周辺回路、48…通信線、50…トルクセンサ、52…車速センサ、54…回転角度センサ。
図1
図2