(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】浮上防止構造
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20220901BHJP
【FI】
E21D9/06 301E
(21)【出願番号】P 2018236018
(22)【出願日】2018-12-18
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 英明
(72)【発明者】
【氏名】金田 修一
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-130001(JP,A)
【文献】特開2003-106087(JP,A)
【文献】特公平07-062433(JP,B2)
【文献】特開2003-227290(JP,A)
【文献】特開2013-014894(JP,A)
【文献】特開2003-041886(JP,A)
【文献】特開平04-093430(JP,A)
【文献】特開平04-149391(JP,A)
【文献】特開2002-364289(JP,A)
【文献】特開2007-023770(JP,A)
【文献】特開2014-201897(JP,A)
【文献】特開平06-158980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/04-9/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド機の上面に沿って、当該シールド機の掘進方向に並設された複数のアーチ状横桁と、
前記アーチ状横桁同士を連結する縦桁と、
前記シールド機の後方に組み立てられた仮組セグメントと、
前記仮組セグメントが載置される支持架台と、
前記仮組セグメントの側面を支持する横ズレ防止材と、を備える浮上防止構造であって、
前記アーチ状横桁の端部は、トンネル坑口部予定箇所に形成された土留壁の前面から延設された支持部材または前記シールド機の側方に形成された側壁に設けられた支持部材に固定されてい
て、
前記仮組セグメントは、注入孔に挿通された治具を介して前記支持架台に固定されており、
前記横ズレ防止材は、前記シールド機の掘進方向と交差する方向に進退可能であることを特徴とする、浮上防止構造。
【請求項2】
前記アーチ状横桁上に、足場が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の浮上防止構造。
【請求項3】
前記シールド機の外周面と前記アーチ状横桁の下面との間に所定の大きさの隙間が設けられていることを特徴とする、請求項1
または請求項2に記載の浮上防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドトンネルの初期掘進時に使用する浮上防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
シールドトンネルの初期掘進時には、シールド機の後方に形成された反力受け構造から反力を取るのが一般的である。
このような反力受け構造としては、例えば特許文献1に示すように、シールド機の後方に組み立てられた仮組セグメントにより形成するものがある。
また、特許文献2には、坑口部にシールド機を内挿する円筒形部材を設け、円筒径部材内のシールド機の後方に配備する仮組セグメントから反力を取る初期掘削方法が開示されている。円筒形部材の内面とシールド機の外面との間には、シール材が介設されている。
ここで、初期掘進時に推進ジャッキの推力が仮組セグメントに作用すると、シールド機に比べて軽量な仮組セグメントが浮き上がるおそれがある。仮組セグメントが浮き上がると、シールド機による掘進方向がズレてしまう。そのため、従来の反力受け構造では、両端部がアンカー等により固定された線材(例えばPC鋼線)を仮組セグメントの上半部分の外面に周設することで、仮組セグメントが浮き上がるのを防止する場合がある。
シールド機は、進行方向前部分の重量が後部分に比べて大きい。そのため、気中で実施される初期掘進時にはシールド機の後部分が浮き上がるおそれがある。一方、掘進に伴って移動するシールド機に対しては、仮組セグメントと同様の線材を外周面に周設して固定することはできない。
特許文献2の初期掘削方法によれば、円筒形部材によりシールド機の掘進方向の精度を維持することは可能であるものの、大断面トンネルの施工において、シールド機を内挿する円筒形部材を設置するためには、多大な労力と費用を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-020693号公報
【文献】特開平08-021183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記の問題点を解決することを目的とするものであり、簡易な構成で、初期掘進を高精度に行うことを可能とした浮上防止構造を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明の第一の浮上防止構造は、シールド機の上面に沿って、当該シールド機の掘進方向に並設された複数のアーチ状横桁と、前記アーチ状横桁同士を連結する縦桁と、前記シールド機の後方に組み立てられた仮組セグメントと、前記仮組セグメントが載置される支持架台と、前記仮組セグメントの側面を支持する横ズレ防止材とを備えている。前記アーチ状横桁の端部は、トンネル坑口部予定箇所に形成された土留壁の前面から延設された支持部材または前記シールド機の側方に形成された側壁に設けられた支持部材に固定されている。また、仮組セグメントは、注入孔に挿通された治具を介して前記支持架台に固定されている。さらに、前記横ズレ防止材は、前記シールド機の掘進方向と交差する方向に進退可能である。
かかる浮上防止構造によれば、シールド機が浮き上がった場合に、アーチ状横桁によって大きなズレを抑制することができる。また、アーチ状横桁は、土留壁や側壁等に固定されているため、底版(地面)等から立設させた支柱を必要としない。そのため、大断面トンネルの施工であっても、大規模な支持構造を要することなく、比較的簡易な構成とすることができる。なお、アーチ状横桁上(浮上防止構造上)に足場を形成することで、坑口部処理用の足場として利用することができる。なお、シールド機の外周面とアーチ状横桁の下面との間に、所定の大きさの隙間が設けられているか、ローラ等が介設されていれば、シールド機の掘進時にアーチ状横桁がシールド機と接触して掘進を妨げることがない。なお、ローラを設置する場合には、シールド機の外面の不陸に追従可能であるのが望ましい。
【0006】
また、かかる浮上防止構造によれば、仮組セグメントが治具を介して支持架台に固定されているため、仮組セグメントの浮き上がりが防止されている。また、横ズレ防止材により仮組セグメントが横方向にずれることが防止されているとともに、仮組セグメントが楕円形状に変形することも防止されている。このように、本発明によれば、シールドトンネルの初期掘進時に仮組セグメントのズレが抑制されるため、仮組セグメントのズレに起因するシールド機のズレも抑制される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の浮上防止構造によれば、複数のアーチ状横桁と縦桁との簡易な構成により、通常時はシールド機との間に隙間を有しているため掘進を妨げることがなく、シールド機に浮上がりが生じた場合にはシールド機と接触して大きなズレを抑制するため、シールドトンネルの初期掘進を高精度に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る浮上防止構造の平面図である。
【
図3】(a)および(b)は浮上防止構造の一部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態では、道路トンネル用のシールドトンネルの初期掘進時において、気中に配設されたシールド機10の浮き上がりを防止するための浮上防止構造1について説明する。
本実施形態では、
図1に示すように、気中において組み立てたシールド機10を利用して、トンネルを掘削する。トンネル坑口部予定箇所には、土留壁W1が形成されており、シールド機10を挟んで土留壁W1と対向するように反力版W2が形成されている。さらにシールド機10の一方の側方には側壁W3が形成されていて、他方の側方には門型クレーンのクレーン用架台Sが形成されている。なお、トンネル坑口部の構成は限定されるものではない。例えば、クレーン用架台Sは必要に応じて形成すればよい。また、初期掘進は、周囲が土留壁により囲まれた立坑内から開始してもよい。
浮上防止構造1は、
図1および
図2に示すように、アーチ状横桁2と、縦桁3と、支持部材4と、足場5と、仮組セグメント6とを備えている。なお、
図1では、足場5の図示を省略している。
【0011】
アーチ状横桁2は、シールド機10の上面に沿って配設された鋼材である。本実施形態では、シールド機10の掘進方向に間隔をあけて、3つのアーチ状横桁2が並設されている。なお、アーチ状横桁2の数は限定されるものではない。また、本実施形態では、アーチ状横桁2がH形鋼により構成されているが、アーチ状横桁2を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、溝形鋼やL形鋼であってもよい。アーチ状横桁2は、アーチ状のアーチ部21とアーチ部21の両端から延びる左右の直線部22,22とを備えている。
アーチ部21は、中心角が60°~90°程度の円弧状を呈している。なお、アーチ部21の中心角の大きさは限定されるものではない。アーチ部21(アーチ状横桁2)の下面は、シールド機10の上部分の外周面と平行である。また、アーチ部21(アーチ状横桁2)の下面とシールド機10の外周面との間には所定の大きさの隙間が設けられている。なお、アーチ状横桁2とシールド機10との隙間の大きさは限定されるものでないが、本実施形態では、10mm~20mmとする。
直線部22は、直線状の鋼材からなり、アーチ部21の端部に一体に固定されている。直線部22の先端(アーチ状横桁2の下端部)は、支持部材4に固定されている。
【0012】
縦桁3は、
図3(a)および(b)に示すように、隣り合うアーチ状横桁2のウェブ同士の間隔以下の長さの直線状の鋼材からなり、アーチ状横桁2同士の間に介設されている。縦桁3は、シールド機10の掘進方向で隣り合うアーチ状横桁2同士を連結している。本実施形態では、アーチ状横桁2のアーチ部21同士を縦桁3により連結している。縦桁3は、アーチ状横桁2の長さ方向に所定の間隔をあけて複数本配設されている。なお、縦桁3の数および配置(配設ピッチ)は限定されるものではない。また、縦桁3は、必ずしもアーチ状横桁2同士の間に介設する必要はない。例えば、縦桁3として、アーチ状横桁2同士の間隔よりも大きな長さの鋼材を使用して、複数のアーチ状横桁2の上面または下面において連結してもよい。アーチ状横桁2の下面に縦桁3を固定する場合には、縦桁3の下面とシールド機10の外面との間に隙間を設けておく。
【0013】
支持部材4は、アーチ状横桁2を支持するものであって、鋼材を組み合わせることにより形成されている。
図1および
図2に示すように、支持部材4は、シールド機10の左右にそれぞれ形成されている。一方の支持部材4(第一支持部材41)は、
図3(a)に示すように、トンネル坑口部予定箇所に形成された土留壁W1の前面からシールド機10の軸方向に沿って延設されている。なお、第一支持部材41の先端部(土留壁W1と反対側の端部)は、シールド機10の側方に形成された架台に固定されたブラケット43によって支持されている。また、他方の支持部材4(第二支持部材42)は、
図3(b)に示すように、シールド機10の側方に形成された側壁W3から張り出している。第二支持部材42は、側壁W3に固定された上下の第一部材44と、上下の第一部材44同士を連結する第二部材45と、前後に隣り合う第一部材44同士を連結する第三部材46とを組み合わせることにより形成された台座である。アーチ状横桁2の一方の端部(直線部22の先端)は、第一支持部材41の上面に固定されていて、アーチ状横桁2の他方の端部(直線部22の先端)は第二支持部材42の上面に固定されている。なお、支持部材4の構成は限定されるものではない。例えば、底版Bに立設された支柱を介して設けられていてもよい。
【0014】
足場5は、
図2に示すように、アーチ状横桁2上に形成されている。足場5は、アーチ状横桁2の上面に固定された支持枠51と、支持枠51の上面に敷設された足場板52と、手摺り53とを備えている。支持枠51は、鋼材を組み合わせることにより形成されている。本実施形態の足場5は、アーチ状横桁2の頂部に形成された平場54と、平場54の断面視左右にそれぞれ複数段形成された小段55とを有している。隣り合う小段55同士は、階段56により行き来が可能である。なお、足場5の小段55の段数や段差の大きさは限定されるものではない。また、足場5は、
図3(a)および(b)に示すように、平場54から前方(土留壁W1側)に延びる張出部57を備えている。
【0015】
仮組セグメント6は、
図1に示すように、シールド機10の後方に組み立てられている。仮組セグメント6は、
図4に示すように、底版Bに形成された支持架台7に載置されている。本実施形態の仮組セグメント6は、裏込め材の注入孔(図示せず)に挿通された治具71を介して支持架台7に固定されている。本実施形態では、治具71としてPC鋼棒を使用する。なお、治具71を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、PC鋼線やボルトであってもよい。支持架台7は、鋼材を組み合わせることにより構成されている。また、仮組セグメント6は、治具71の取り付け箇所に応じて、注入孔(挿通孔)を増加してもよい。支持架台7の上面には、一対の三角形状の凸部72が間隔をあけて形成されている。一対の凸部72が形成されていることにより、支持架台7の上面には、円形の仮組セグメント6の下部を挿入可能な凹部73が形成されている。仮組セグメント6は、凹部73に下部を挿入した状態で、一対の凸部72に載置する。その後、注入孔に治具71を挿通し、凸部72に治具71を固定する。
また、仮組セグメント6は、横ズレ防止材8により側面が支持されている。横ズレ防止材8は、ジャッキ(図示せず)を備えており、シールド機10の掘進方向と交差する方向に進退可能に構成されている。横ズレ防止材8は、仮組セグメント6の高さ方向中間部(スプリングラインSL)の位置において、仮組セグメント6の側面に接している。また、横ズレ防止材8は、仮組セグメント6の側方に形成された側壁W3やクレーン用架台Sに固定されている。
シールド機10による掘進に伴い、シールド機10の後方においてアーチ状横桁2の下に組み立てられた仮組セグメント6は、アーチ状横桁2によって浮上がりを抑制する。仮組セグメント6は、シールド機10よりも外径が小さいために、アーチ状横桁2と仮組セグメント6との間に隙間が形成されるが、当該隙間にスペーサ(例えば鋼材)を挟み込むことで、仮組セグメント6の浮上がりを防止する。なお、スペーサの構成は限定されるものではなく、例えば、ジャッキ等でってもよい。
【0016】
本実施形態の浮上防止構造1によれば、シールド機10の上方にアーチ状横桁2が横架されているため、初期掘進時にシールド機10の後方が浮き上がったとしても、アーチ状横桁2によって大きな変位が抑制される。そのため、シールド機10による掘進方向に大きなズレが生じることを抑制することができる。また、シールド機10とアーチ状横桁2との間には隙間が形成されているため、シールド機10にズレが生じることなく掘進している場合には、シールド機10とアーチ状横桁2とが接触することはない。そのため、アーチ状横桁2がシールド機10の掘削の妨げになることもない。また、アーチ部21(アーチ状横桁2)の下面は、シールド機10の上部分の外周面と平行であるため、シールド機10の横方向のズレも抑制することができる。また、アーチ状横桁2は、坑口部管理用(坑口部からの漏水処理や、グラウト注入用のバルブ操作等)の足場5の土台として使用できるため、別途足場を組み立てる手間と費用を削減できる。すなわち、アーチ状横桁2(浮上防止構造1)は、シールド機10の浮き上がりを抑制するための引張材として機能するとともに、足場5の土台として機能する。
また、アーチ状横桁2は、土留壁W1や側壁W3等から延設された支持部材4に固定されているため、シールド機10の周囲に大掛かりな支持構造を構築する必要がない。そのため、比較的簡易かつ安価に浮上防止構造1を形成することができる。
【0017】
また、仮組セグメント6は、治具71を介して支持架台7に固定されているため、浮上がりが防止されている。そのため、仮組セグメント6が浮き上がりに起因するシールド機10の後部の浮き上がりが防止されている。また、横ズレ防止材8が仮組セグメント6の側方に配設されているため、仮組セグメント6が横方向にずれることが防止されているとともに、仮組セグメント6が楕円形状に変形することも防止されている。そのため、シールドトンネルの初期掘進時にシールド機10の掘進方向のズレが抑制されて、高精度に施工を行うことができる。
【0018】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、道路トンネルを施工する場合について説明したが、トンネルの使用目的は限定されるものではない。
また、足場5は、必要に応じて形成すればよい。
また、仮組セグメント6は、必ずしも支持架台7に固定する必要はなく、固定することなく支持架台7に載置してもよい。
また、横ズレ防止材8は、必要に応じて設ければよい。また、横ズレ防止材8は、必ずしも進退可能である必要はない。
また、シールド機10の側方にも、横ズレ防止材8を設けておくことで、シールド機10の横ズレを制御するようにしてもよい。このとき、シールド機10の外面と横ズレ防止材8との間には、隙間を設けておき、シールド機10にズレが生じた場合のみにおいて、横ズレ防止材8と接触するようにするのが望ましい。
また、両端部がアンカー等により底版Bに固定された線材(例えばPC鋼線)Rを仮組セグメント6の外面に周設してもよい。
また、前記実施形態では、シールド機10の外周面とアーチ状横桁2の下面との間に、所定の大きさの隙間を設けるものとしたが、隙間は必ずしも形成する必要はない。例えば、シールド機10の外周面とアーチ状横桁2の下面との間に、球ローラやシールド機10の進行方向と直交する軸を中心に回転可能なタイヤ式のローラ等を介設してもよい。シールド機10とアーチ状横桁2との間にローラを設ければ、シールド機10の掘進を妨げることなく、シールド機10の大きな変位を抑制することができる。なお、このようなローラは、シールド機10の外面の不陸に追従可能であるのが望ましい。
【符号の説明】
【0019】
1 浮上防止構造
10 シールド機
2 アーチ状横桁
3 縦桁
4 支持部材
5 足場
6 仮組セグメント
7 支持架台
8 横ズレ防止材
W1 土留壁
W3 側壁