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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20220901BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C11/12 C
B60C11/12 B
B60C11/03 300C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018238270
(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公開番号】P2020100194
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】里井 彩
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-269064(JP,A)
【文献】特開平11-129709(JP,A)
【文献】特開平10-029412(JP,A)
【文献】特開2007-069652(JP,A)
【文献】特開平05-330319(JP,A)
【文献】特開2014-172483(JP,A)
【文献】特開2005-205988(JP,A)
【文献】特開2013-103621(JP,A)
【文献】特開2011-255878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/12
B60C 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロックを複数含むトレッド部を備える空気入りタイヤであって、
前記複数のブロックは、タイヤ幅方向最外側にショルダーブロックを含み、
前記ショルダーブロックには、前記ショルダーブロックを区画する溝よりも幅の小さい複数のサイプからなるサイプ群が形成され、
前記ショルダーブロックに形成された前記サイプ群は、3次元サイプである第1サイプと3次元サイプである第2サイプとを備え、
前記第2サイプは、前記第1サイプの開口幅よりも大きい開口幅を有し、タイヤ周方向における前記ショルダーブロックの中央線を中心とした前記ショルダーブロックのタイヤ周方向長さの50%の範囲となる中央領域に配置されていることを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第2サイプの開口幅は、前記第2サイプの底部におけるサイプ幅よりも大きい、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第2サイプは、一対のサイプ壁の一方から突出する突出部と、前記一対のサイプ壁の他方に形成されて前記突出部を受容する受容部とを有し、前記突出部と前記受容部とが噛み合う、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記複数のブロックのうち、前記ショルダーブロックを除くブロックにおいて設けられるサイプは、2次元サイプである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記第2サイプにおいて、サイプ中央部が波形状でありサイプ両端部がストレート形状である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記空気入りタイヤは氷雪路用タイヤである、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロックを多数配置したトレッド部を備える空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ブロックを多数配置したトレッド部を備える空気入りタイヤにおいて、各ブロックにサイプと呼ばれる切り込みを多数形成することで、エッジ効果を高めて氷雪路面でのトラクション性能を高めた空気入りタイヤが知られている(特許文献1、2参照)。
【0003】
近年、氷雪路面でのトラクション性能と乾燥路面での操縦安定性能との両立が要求されている(下記特許文献3参照)。氷雪路面でのトラクション性能を高めるためには、ブロック内のサイプの数を増やすことが有効である。しかしながら、ブロック内のサイプを増やすと、ブロック剛性が低下しやすく、乾燥路面での操縦安定性能の低下をもたらす傾向にある。ブロックのサイズを大きくするとブロック剛性の低下が抑えられるものの、ブロックの中央領域とブロックの周辺領域との間に生じる局所的なブロック剛性のばらつきが大きくなり、氷雪路面でのトラクション性能と乾燥路面での操縦安定性能との両立に寄与しにくい。
【0004】
特許文献4、5には、深さ方向に厚みの異なる3次元サイプを使用してブロック剛性を高めることが行われているが、ブロック剛性の最適化に関してその解決手段を示唆するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-190123号公報
【文献】特開2014-080112号公報
【文献】特開2012-180007号公報
【文献】特表2010-540314号公報
【文献】特開2011-255878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ブロック剛性の最適化を図り、乾燥路面での操縦安定性能の低下を抑えつつ、氷雪路面でのトラクション性能を向上させた空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ブロックを複数含むトレッド部を備える空気入りタイヤであって、
前記複数のブロックは、タイヤ幅方向最外側にショルダーブロックを含み、
前記ショルダーブロックには、前記ショルダーブロックを区画する溝よりも幅の小さい複数のサイプからなるサイプ群が形成され、
前記ショルダーブロックに形成された前記サイプ群は、3次元サイプである第1サイプと3次元サイプである第2サイプとを備え、
前記第2サイプは、前記第1サイプの開口幅よりも大きい開口幅を有し、タイヤ周方向における前記ショルダーブロックの中央線を中心とした前記ショルダーブロックのタイヤ周方向長さの50%の範囲となる中央領域に配置されている。
【0008】
第1サイプ及び第2サイプに3次元サイプを使用してブロック剛性を高めると、ブロック剛性が相対的に高くなって、踏面全体の剛性バランスを崩し、路面追従性が低下して乾燥路面での操縦安定性能が低下する傾向にある。しかし、第2サイプの開口幅が第1サイプの開口幅よりも大きく設定されるため、ショルダーブロックは、第2サイプを境界とする複数の小ブロックに分割され、これによりショルダーブロックのブロック剛性が低下する。よって、路面追従性が向上し乾燥路面での操縦安定性能が向上する。また、開口幅の大きい第2サイプは閉じにくいため、エッジ効果が大きくなり、氷雪路面でのトラクション性能が向上する。
【0009】
さらに、第2サイプはブロックの中央領域に配置されているから、ブロックの中でも特にブロック剛性の高いブロックの中央領域を狙って、ブロック剛性を低下させることができる。よって、ブロックの中央領域とブロックの周辺領域との間に生じる局所的なブロック剛性のばらつきを、小さくすることができる。以上により、乾燥路面での操縦安定性能の低下が抑えられ、氷雪路面でのトラクション性能が向上する。
【0010】
前記第2サイプの開口幅は、前記第2サイプの底部におけるサイプ幅よりも大きいものでもよい。これにより、第2サイプが閉じにくくなって、エッジ効果が大きくなり、氷雪路面でのトラクション性能が向上する。
【0011】
前記第2サイプは、一対の前記サイプ壁の一方から突出する突出部を有し、前記一対のサイプ壁の他方に形成されて前記突出部を受容する受容部を有し、前記突出部と前記受容部とが噛み合うことが好ましい。これにより、ブロック剛性の過度な低下を抑制し、タイヤに前後力や横力がかかった場合などにショルダーブロックを倒れにくくする。よって、氷雪路面でのトラクション性能を向上させることができる。
【0012】
前記複数のブロックのうち、前記ショルダーブロックを除くブロックにおいて設けられるサイプは、2次元サイプであることが好ましい。ショルダーブロックを除くブロックは、ショルダーブロックよりもタイヤ幅方向内側に位置するブロックである。これらのブロックに設けられるサイプを2次元サイプにすることで、ブロック剛性を十分に低下させてブロックの路面追従性を向上させる。これにより、乾燥路面での操縦安定性能が向上する。
【0013】
前記第2サイプにおいて、サイプ中央部が波形状でありサイプ両端部がストレート形状であることが好ましい。サイプ中央部が波形状であると、多方向に対しエッジ効果が得られ、氷雪路面での操縦安定性能が向上する。そして、サイプ両端部がストレート形状であると、耐偏摩耗性能が向上する。
【0014】
前記空気入りタイヤは氷雪路用タイヤであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る空気入りタイヤの一実施形態におけるトレッド部を示す展開図
図2図1のショルダーブロックの拡大図
図3図2(b)のA-A矢視断面図
図4】第2実施形態におけるショルダーブロックの断面図
図5】第2実施形態の変形例におけるショルダーブロックの断面図
図6】第3実施形態におけるショルダーブロックの断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る空気入りタイヤにおける一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、各図において、図面の寸法比と実際の寸法比とは、必ずしも一致しておらず、また、各図面の間での寸法比も、必ずしも一致していない。
【0017】
<第1実施形態>
図1は、本発明に係る空気入りタイヤの第1実施形態におけるトレッド部を示す展開図である。トレッド部100は、路面に接地するブロックを複数含む。ブロックは、第1溝と第2溝とによって区画されるか、第1溝と第2溝と接地端TEとによって区画される。第1溝に相当する傾斜溝1は、センター側からショルダー側に向かってタイヤ幅方向に対して傾斜し、かつ、緩やかな曲線で延びている。第2溝に相当する交差溝2は、複数の傾斜溝1に交差し、二つの傾斜溝1の間を接続する。傾斜溝1及び交差溝2は、それぞれタイヤ周方向に間隔を設けて繰り返し配置されている。
【0018】
本実施形態では、トレッド部100に形成されたトレッドパターンが、ブロックを基調とするブロックパターンである例を示す。但し、図1に示されたトレッド部100のブロックパターンは一例であり、第1溝及び第2溝の形状や幅、長さを変えることで様々なブロックパターンを採り得る。例えば、第1溝は、タイヤ幅方向に対して平行に延びてもよく、タイヤ幅方向に対して傾斜するが直線をなすように延びてもよい。また、第1溝は、全て同じ長さの溝であってもよく、異なる長さの溝であってもよい。第2溝も同様である。
【0019】
本実施形態では、複数のブロックは、タイヤ幅方向最外側にショルダーブロック8、9を含む。ショルダーブロック8、9は、それぞれ、複数の傾斜溝1と交差溝2と接地端TEとで区画される。そして、ショルダーブロック8、9は、タイヤ周方向に繰り返して配置されている。
【0020】
接地端TEは、正規リムにリム組みして正規内圧と正規荷重を負荷したタイヤを平坦路面に接地させたときのタイヤ幅方向の最外位置である。正規リムとは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAに規定される標準リム、TRAに規定される“Design Rim”、あるいはETRTOに規定される“Measuring Rim”である。正規内圧とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、例えば、JATMAに規定される最高空気圧、TRAの表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、あるいはETRTOに規定される“INFLATIONPRES SURE”である。正規荷重とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、例えば、JATMAに規定される最大負荷能力、TRAの上記表に記載の最大値、あるいはETRTOに規定される“LOAD CAPACITY”である。
【0021】
本実施形態では、回転方向が指定された方向性タイヤとして構成されている例を示し、その回転方向を矢印RDで表している。回転方向RDの前方側(図1の下側)はブロックの踏み込み側となり、回転方向RDの後方側(図1の上側)はブロックの蹴り出し側となる。回転方向の指定は、例えば回転方向を示す矢印などの表示を、空気入りタイヤのサイドウォール部の表面に付すことで行われる。
【0022】
図2(a)、(b)は、図1のショルダーブロック9の拡大図を示している。ショルダーブロック9には、ショルダーブロック9を区画する溝(即ち、傾斜溝1及び交差溝2)よりも幅の小さい複数のサイプからなるサイプ群が形成されている。ブロックを区画する溝は1.5mm以上の幅を有するのに対し、サイプ群を構成する各サイプは1.5mm未満の幅を有する。サイプの幅は、サイプの延在方向に直交する方向における、一対のサイプ壁の間隔として求められる。
【0023】
サイプ群を構成する各サイプの深さは、ブロックを区画する溝の深さより浅いと好ましく、同じ深さでもよい。サイプ群は、第1サイプ91と、第2サイプ92とを有している。図1図2(a)、(b)とにおいて、第2サイプ92はサイプ壁を表す2本の線によって表され、第2サイプ92を除くサイプは1本の線に単純化して表されている。
【0024】
図3は、図2(b)におけるA-A矢視断面図である。この断面は第2サイプ92の延在方向D92に対し直交する。第1サイプ91は3次元サイプである。3次元サイプとは、サイプの深さ方向に沿ってサイプの形状が変化するものを指す。第1サイプ91は、開口幅W11を有する。第2サイプ92は3次元サイプである。第2サイプ92の開口幅W21は、第1サイプ91の開口幅W11よりも大きい。
【0025】
第1サイプ91の開口幅W11は、例えば0.3mm以上0.8mm未満であるが、好ましくは0.4mm以上0.6mm未満である。第2サイプの開口幅W21は、例えば0.5mm以上1.5mm未満であるが、好ましくは0.7mm以上0.9mm未満である。
【0026】
図2(a)を参照して、第2サイプ92が中央領域Crに配置されている。中央領域Crの外部には第2サイプ92が配置されていない。中央領域Crは、ショルダーブロック9のタイヤ周方向長さをLとし、タイヤ周方向におけるショルダーブロック9の中央線をCとしたとき、中央線Cから±0.25L内の範囲を表す。つまり、第2サイプ92は、タイヤ周方向におけるショルダーブロック9の中央線Cを中心とした、ショルダーブロック9のタイヤ周方向長さLの50%の範囲となる中央領域Crに配置されている。中央線Cは、タイヤ幅方向に延びる仮想線である。
【0027】
第2サイプ92が中央領域Crに配置されることにより、ショルダーブロック9の中でも特にブロック剛性の高いブロックの中央領域Crを狙ってブロック剛性を低下させることができる。よって、ブロックの中央領域Crとブロックの周辺領域との間に生じる局所的なブロック剛性のばらつきを小さくすることができる。
【0028】
したがって、ショルダーブロック9全体のブロック剛性を適度に低下させて、小ブロック9a、9bを、それぞれ接地している路面に追従して変形させやすくする。これにより、ブロックの路面追従性を向上させる。
【0029】
図3を参照して、第2サイプ92の底部におけるサイプ幅W22は、第2サイプ92の開口幅W21よりも大きい。第2サイプ92の開口幅W21が大きいと、ショルダーブロック9が多少の変形を受けたとしても第2サイプ92は閉じにくくなり、エッジ効果が大きくなる。これにより、氷雪路面でのトラクション性能の他、旋回時の走行性能も向上する。第2サイプ92の底部におけるサイプ幅W22は、0.3mm以上0.8mm未満であるとよい。但し、これに限られず、サイプ幅W22が開口幅W21と同じ値であっても構わない。
【0030】
第1サイプ91の底部におけるサイプ幅W12は、第1サイプの開口幅W11と同じ値であってもよい。また、第1サイプ91の底部におけるサイプ幅W12は、第2サイプ92の底部におけるサイプ幅W22と、同じ値であってもよく、異なる値でもよい。第2サイプ92の底部におけるサイプ幅W22が第1サイプ91の底部におけるサイプ幅W12より大きい値であってもよい。第1サイプ91の底部におけるサイプ幅W12は、0.5mm以上1.5mm未満であるとよい。
【0031】
図3に示されるように、第2サイプ92は、対向配置される一対のサイプ壁92a、92bを有する。第2サイプ92は、サイプ壁92aから突出する突出部92sと、サイプ壁92bに形成されて突出部92sを受容する受容部92rとを有する。突出部92sと受容部92rとが噛み合うように、互いにタイヤ径方向に並んで配置される。このように配置されると、ブロックが変形するとき、突出部92sと受容部92rとが互いに接触し、ブロックが変形するときの抵抗力となる。これにより、ブロック剛性の過度な低下を抑制し、空気入りタイヤに横力がかかった場合などにショルダーブロック9を倒れにくくする。
【0032】
本実施形態は、突出部92sと受容部92rとを噛み合わせながら、突出部92sよりタイヤ径方向外側を開放し、第2サイプ92の開口幅W21を拡大している。第2サイプ92の開口幅W21が広いことにより、第2サイプ92が閉じにくくなって、エッジ効果が大きくなり、その結果、氷雪路面でのトラクション性能が向上する。また、第2サイプ92の開口幅W21が広いと、第2サイプ92を境界とする小ブロック9a、9bが互いに干渉しにくくなるため、ブロックの路面追従性が向上し、乾燥路面での操縦安定性能が向上する。
【0033】
突出部92sと受容部92rとの間隔が小さいほど、ブロックの小さな変形に対して噛み合い、抵抗力を受けるようになる。抵抗力が大きいほど、ブロック剛性が大きくなる。噛み合う突出部92sと受容部92rとの間隔は、突出部92sの高さ位置及び突出長さ、並びに受容部92rの高さ位置及び奥行きを調整して設定するとよい。
【0034】
図3に示された本実施形態において、第1サイプ91は、第2サイプ92と同様の3次元サイプを有するが、第1サイプ91の形状はこれに限定されない。第1サイプ91は3次元サイプであればよく、噛み合わせる突出部及び受容部が別の形状であってもよく、又は突出部及び受容部がなくてもよい。
【0035】
本実施形態では、突出部91s、92sは、踏み込み側から蹴り出し側に向かって突出している。これにより、タイヤに前後力、または横力がかかった時に突出部91s、92sが隣の壁面に接触し、突出部91s、92sと該壁面とが支え合うことでブロックの倒れ込みを抑制し、サイプを閉じにくくさせてエッジ効果を確保できる。また接地面を保つことができるため、操縦安定性能の低下を抑制する効果が得られる。
【0036】
本実施形態において、ショルダーブロック9のサイプ群は、2本の第1サイプ91と、該2本の第1サイプ91の間に設けられた1本の第2サイプ92とを有する。しかしながら、第2サイプ92が、適度なブロック剛性を得るために中央領域Crに複数本含まれていても構わない。また、第2サイプ92が複数本含まれているとき、第1サイプ91が第2サイプ92の間に挟まれるように配置されていても構わない。第1サイプ91の数も、適度なブロック剛性を得るために増減するとよい。
【0037】
図2(b)を参照して、第1サイプ91の延在方向D91及び第2サイプ92の延在方向D92は、いずれも、サイプの両端部におけるサイプ幅の中央を通る直線の延びる方向である。第1サイプ91の延在方向D91は、タイヤ幅方向WLに対して角度A91をなし、第2サイプ92の延在方向D92は、タイヤ幅方向WLに対して角度A92をなす。図2(b)において、延在方向D91と延在方向D92はタイヤ幅方向WLに対し右上がりの方向をとるが、延在方向D91と延在方向D92がタイヤ幅方向WLに対し右下がりの方向をとってもよい。角度A91と角度A92は、いずれも5~20度の範囲にあるとよく、好ましくは、10~15度の範囲にあるとよい。
【0038】
さらに、ショルダーブロック9における第1サイプ91及び第2サイプ92の延在方向D91、D92が右上がりの方向をとる場合、タイヤ赤道CLを挟んで反対側に位置するショルダーブロック9のサイプの延在方向が右下がりの方向をとってもよい。そのとき、ショルダーブロック8、9それぞれにおけるタイヤ幅方向に対する角度の絶対値は等しくなるように設定してもよい。角度A91と角度A92は同じ値でもよく、異なる値でもよい。ショルダーブロックにおけるサイプの角度を調整することにより、特に、氷雪路面での旋回走行性能を高められる。
【0039】
図3を参照して、第2サイプ92のトレッド部表面から突出部92sまでの深さd21は、第2サイプ92のサイプ深さd22に対して10%以上であるとよく、30%以下であるとよい。第1サイプ91のトレッド部表面から突出部91sまでの深さd11は、第1サイプ91のサイプ深さd12に対して10%以上であるとよく、30%以下であるとよい。サイプのトレッド部表面から突出部までの深さが大きいほど、突出部と突出部よりタイヤ径方向外側のサイプ幅広部分とが、タイヤの使用によるトレッド部の摩耗に伴って摩滅する時期を遅らせることができる。一方で、サイプのトレッド部表面から突出部までの深さが大きすぎると、ブロック剛性が過度に低下する。
【0040】
深さd11と深さd21とは、同じ値であってもよく、異なる値でもよい。深さd21が深さd11より大きくてもよい。また、サイプ深さd12とサイプ深さd22とは、同じ値であってもよく、異なる値でもよい。サイプ深さd22がサイプ深さd12よりも大きくてもよい。
【0041】
以上、ショルダーブロック9を主に説明したが、ショルダーブロック8、及びタイヤ周方向に間隔を空けて配置される他のショルダーブロックについても同様である。
【0042】
図1に戻る。本実施形態において、トレッド部100に、タイヤ赤道CLと重なる位置に設けられたセンターブロック4、5を含む。センターブロック4、5のそれぞれのブロックの重心が、互いにタイヤ赤道CLを挟んだ反対側に位置している。また、センターブロック4、5の形状は、互いに異なる形状をしている。センターブロック4、5は、それぞれ、タイヤ周方向に繰り返して配置されている。
【0043】
タイヤ赤道CLがセンターブロックと重ならずに溝とのみ重なる場合は、そのタイヤ赤道CLと重なる位置に配置された溝に隣接して設けられたブロックをセンターブロックとする。また、センターブロックがタイヤ幅方向に重ならないように配置されていてもよい。センターブロックの形状は、互いに異なる形状を有するに限らず、異なる三種類以上の形状を有していてもよい。また、一種類の形状を有するセンターブロックが、タイヤ赤道CLと重なる位置にタイヤ周方向に沿って間隔を空けて配置されてもよい。
【0044】
センターブロック4とショルダーブロック8との間にクォータブロック6が配置され、センターブロック5とショルダーブロック9との間にクォータブロック7が配置される。クォータブロック6、7は必須のブロックではなく、トレッド部100に含まれるブロックがセンターブロック4、5とショルダーブロック8、9とで構成されていてもよい。また、センターブロック4、5に代えてセンターリブでもよく、クォータブロック6、7に代えてクォータリブでもよい。
【0045】
本実施形態において、ショルダーブロック8、9を除くブロック、すなわち、センターブロック4、5とクォータブロック6、7に設けられるサイプは、全て2次元サイプにするとよい。2次元サイプとは、サイプの深さ方向に沿ってサイプの形状が変化しないものを指す。これにより、ブロック剛性を十分に低下させることができる。ただし、ブロック剛性が過度に低下したり、トレッド面全体の剛性バランスが崩れたりする場合は、センターブロック4、5及びクォータブロック6、7に3次元サイプを設けても構わない。
【0046】
センターブロック4、5とクォータブロック6、7に設けられるサイプの幅は、0.3mm以上であるとよく、1.0mm未満であるとよい。好ましくは、0.4mm以上であると良く、0.6mm未満であるとよい。センターブロック4、5と、クォータブロック6、7との間でサイプ幅を変えてもよい。センターブロック4、5に設けられるサイプの延在方向は、タイヤ幅方向に対して、±5度以内であるとよい。これにより、特に、制動時におけるエッジ効果を向上させる。クォータブロック6、7に設けられるサイプの延在方向は、タイヤ幅方向に対して、20度以上30度未満であるとよい。これにより、特に、旋回時におけるエッジ効果を向上させる。
【0047】
センターブロック4、5、クォータブロック6、7及びショルダーブロック8、9に共通して、サイプ群は、サイプの両端がそれぞれブロックの外縁に接続される両側オープンタイプ、サイプの片端がブロックの外縁に接続され、他方の片端がブロックの外縁に接続されない片側オープンタイプ、及び、サイプの両端がブロックの外縁に接続されない両側クローズドタイプのいずれでもよい。両側オープンタイプのサイプが増加するほどブロック剛性の低下効果が高くなる。
【0048】
本実施形態において、ショルダーブロック9の第1サイプ91及び第2サイプ92は、それぞれ、トレッド部100の平面視において、サイプ中央部が波形状でありサイプ両端部がストレート形状をなす。波形状を含むサイプは、多方向からの力に対して高いエッジ効果が得られる。よって、旋回時を含めた操縦安定性能が向上しやすい。
【0049】
さらに、波形状のサイプは、ストレート形状のサイプに比べてタイヤ周方向に生じる偏摩耗であるヒールアンドトウ摩耗が抑えられる。また、波形状のため角部を有しておらず、応力集中による偏摩耗が起きにくい。
【0050】
そして、サイプ中央部のみならずサイプ両端部まで波形状であると、サイプ両端部におけるサイプの延在方向とブロック外縁とのなす角部の鋭角度が増し、当該角部における剛性が局所的に低下して、タイヤ幅方向に生じる偏摩耗が大きくなる傾向にある。しかしながら、本実施形態は、サイプ中央部が波形状でありサイプ両端部がストレート形状をなすから、耐偏摩耗性能を向上させることができる。
【0051】
突出部91s、92sは、サイプの波形状部分にだけ設けてもよく、サイプの波形状とストレート形状の両方に設けてもよい。また、波形状部分における突出部91s、92sは、波の振幅の大きい部分にのみ、振幅が大きくなる方向に突出するように設けてもよい。これにより、偏摩耗の発生しやすい領域のブロック剛性を高めて、耐偏摩耗性能を向上させることができる。
【0052】
<第2実施形態>
第2実施形態は、以下に説明する構成の他は、第1実施形態と同様の構成であるので、共通点を省略して主に相違点について説明する。第1実施形態で説明した部材と同一の部材には、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。また、説明した複数の変形例については、特に制約なく組み合わせて採用することが可能である。第3実施形態においても、これと同様である。
【0053】
第2実施形態を、図4を参照して説明する。図4は、ショルダーブロック9のサイプの延在方向に直交する面での断面図を表す。第1サイプ93は、対向配置される一対のサイプ壁93a、93bを含む。本実施形態では、突出部93sは、受容部93rにタイヤ径方向に挟まれるように配置される。これにより、ブロックが変形するとき、突出部93sと受容部93rが支え合う部位が大きくなり、ブロック剛性がさらに向上する。この点において、第2実施形態は、氷雪路面でのトラクション性能の面で第1実施形態より優れる傾向にある。他方で、第1サイプ93の開口幅が、第1実施形態よりも小さくなる。この点において、第2実施形態は、氷雪路面でのトラクション性能の面で第1実施形態に比べて低下する傾向にある。第1サイプ93よりも開口幅の大きい第2サイプ94の効果に関しても、第1サイプ93の上記効果に準ずる。
【0054】
第2実施形態の変形例を、図5を参照して説明する。図5は、ショルダーブロック9のサイプの延在方向に直交する面での断面図を表す。第1サイプ95は、対向配置される一対のサイプ壁95a、95bを含む。本実施形態では、サイプ壁95aがサイプ延在方向に直交する断面において突出部95sが円弧状に形成されている。つまり、突出部95sの形状は半球状又は半円柱状であることを表している。受容部95rも突出部95sに対応した形状を有する。角部がなく曲面で構成されているため、ブロックが変形力を受けるとき、角部への応力集中が発生し難く、ブロック倒れが起こりにくい。第1サイプ95よりも開口幅の大きい第2サイプ96の突出部96s及び受容部96rの形状及びその効果も、第1サイプ95に準ずる。
【0055】
<第3実施形態>
第3実施形態を、図6を参照して説明する。図6は、ショルダーブロック9のサイプの延在方向に直交する面での断面図を表す。第1サイプ97は、対向配置される一対のサイプ壁97a、97bを含む。本実施形態では、第1、第2実施形態とは異なり、突出部及び該突出部を受容する受容部は形成されず、底部におけるサイプ幅よりも大きな開口幅が形成されるのみである。突出部がないため、突出部と受容部との間で支え合う力は得られず、第1、第2実施形態に比べてブロック剛性は劣るものの、サイプの開口幅、サイプの底部におけるサイプ幅、サイプ深さ、及びサイプの間隔等を調整して実用に耐え得るブロック剛性を維持できる。そして、突出部がないだけに、サイプの開口部分に大空間を得られる本実施形態は、除水効果が高く、氷雪路面でのトラクション性能の面で、第1、第2実施形態よりも優れている。
【0056】
上記実施形態は組合せて使用することができる。第1サイプと第2サイプとの間で異なる実施形態を併用してもよく、異なるブロックにおいて異なる実施形態を併用してもよい。また、上記実施形態は例示であって、上記に示す形状ではなくても、第1サイプ及び第2サイプが3次元サイプでさえあれば、様々な形状が適用できる。
【0057】
上記空気入りタイヤは、冬場の氷雪路と夏場の乾燥路との両方で使用する、いわゆるオールシーズン用タイヤでもよいが、主に冬場の氷雪路で使用する氷雪路用タイヤ(いわゆる冬用タイヤ)でもよい。氷雪路用タイヤは、トレッド部のゴム硬度が60度~75度の範囲にあり、オールシーズン用タイヤを含む通常のタイヤに比べて、トレッド部のゴム硬度が低い。ゴム硬度は、JIS K6253に準拠し、23℃雰囲気下でタイプAデュロメータを使用して測定された値(デュロメータ硬さ)である。
【0058】
本発明に係る空気入りタイヤは、トレッド部を上記の如く構成すること以外は、通常の空気入りタイヤと同等に構成でき、従来公知の材料、形状、構造、製法などはいずれも採用できる。上述のサイプ形状を有するトレッド部を持つ空気入りタイヤを製造するには、空気入りタイヤの加硫成型時にトレッド部の表面に挿入される複数のサイプブレードに対し、第1及び第2サイプ壁に対応した表面形状を設ける程度の改変を施せばよい。その他は、従来のタイヤ製造工程と同様にして製造することができる。図示は省略するが、本実施形態の空気入りタイヤは、一対のビード部と、そのビード部の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部とを含み、そのサイドウォール部の各々のタイヤ径方向外側端にトレッド部100が連なっている。
【0059】
本発明は、上記した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【実施例
【0060】
実施例1として、第1実施形態(図3)のサイプ形状を含むトレッド部を有する空気入りタイヤを評価した。ここで、第2サイプ92の開口幅W21を、0.8mmに設定している。
実施例2として、第1実施形態(図3)のサイプ形状を含むトレッド部を有する空気入りタイヤを評価した。ここで、第2サイプ92の開口幅W21を、実施例1よりも大きい1.5mmに設定している。
実施例3として、第2実施形態の変形例(図5)のサイプ形状を含むトレッド部を有する空気入りタイヤを評価した。ただし、第2サイプ96の開口幅を、実施例1と同じ0.8mmに設定している。
実施例4として、第4実施形態(図6)を含むトレッド部を有する空気入りタイヤを評価した。ただし、第2サイプ98の開口幅を、実施例1と同じ0.8mmに設定している。
比較例として、センターブロック、クォータブロック及びショルダーブロックの全てのブロックにおいて全て3次元サイプを使用し、かつ、ショルダーブロックにおけるサイプは全てサイプの開口幅が0.8mmに統一されたトレッド部を有する空気入りタイヤを評価した。
実施例・比較例において、ブロックパターン及びサイプ形状(サイプ中央部が波形状でサイプ両端部がストレート形状)は、共通している。
【0061】
<評価>
各実施例と比較例のトレッド部を有する空気入りタイヤをテスト車両に取り付けて、雪上駆動性能及びドライ操縦安定性能を評価した。雪上駆動性能は氷雪路面でのトラクション性能の重要因子のひとつである。評価条件と評価項目を下記に示す。
【0062】
<評価条件>
タイヤサイズ:225/50R17
リム:17X7.5J
タイヤ内圧:220kPa
テスト車両:排気量1984ccの乗用車
【0063】
<雪上駆動性能の評価>
タイヤをテスト車両に装着して雪上路での加速試験を行い、停止状態から20m走行するまでの時間を計測した。評価条件は上記のものを使用した。評価結果は、計測値の逆数を用い、比較例を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど雪上駆動性能が優れていることを意味する。
【0064】
<ドライ操縦安定性能の評価>
タイヤを車両に装着してアスファルト舗装された乾燥路面にて、加速・制動・旋回・レーンチェンジをする走行を実施した。評価条件は上記のものを使用した。専門のドライバーが相対的に評価し、比較例1を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど乾燥路面での操縦安定性能が優れていることを意味する。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に評価結果を示す。雪上駆動性能は、実施例1~4において比較例に対して大きく上回る性能を発揮している。ドライ操縦安定性能は、実施例1、2、4において、比較例を下回るが、ドライ操縦安定性能が最も低い実施例4でも97というスコアを得ており、実用に耐え得る。これより、実施例1~4は、乾燥路面での操縦安定性能の低下を抑えつつ、氷雪路面でのトラクション性能を向上させていることがわかった。
【符号の説明】
【0067】
1…傾斜溝
2…交差溝
4、5…センターブロック
6、7…クォータブロック
8、9…ショルダーブロック
9a、9b…小ブロック
91、93、95、97…第1サイプ
92、94、96、98…第2サイプ
91a、91b、92a、92b、93a、93b、95a、95b、97a、97b…サイプ壁
91r、92r、93r、94r、95r、96r…受容部
91s、92s、93s、94s、95s、96s…突出部
100…トレッド部
図1
図2
図3
図4
図5
図6