(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】マイクロRNA認識エレメントを含むCMVベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/869 20060101AFI20220901BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20220901BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20220901BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20220901BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220901BHJP
C12N 15/30 20060101ALI20220901BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20220901BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20220901BHJP
A61P 31/00 20060101ALN20220901BHJP
A61P 33/00 20060101ALN20220901BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20220901BHJP
A61P 37/04 20060101ALN20220901BHJP
【FI】
C12N15/869 Z
A61K31/713
A61K35/763
A61K39/00 Z
C12N15/12
C12N15/30
C12N15/31
C12N15/113 Z
A61P31/00
A61P33/00
A61P35/00
A61P37/04
(21)【出願番号】P 2018526190
(86)(22)【出願日】2016-11-20
(86)【国際出願番号】 US2016062973
(87)【国際公開番号】W WO2017087921
(87)【国際公開日】2017-05-26
【審査請求日】2019-11-12
(32)【優先日】2015-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511106053
【氏名又は名称】オレゴン・ヘルス・アンド・サイエンス・ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ネルソン ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ハンセン スコット
(72)【発明者】
【氏名】ハンコック メーガン エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ピッカー ルイス
(72)【発明者】
【氏名】フリュー クラウス
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0136768(US,A1)
【文献】国際公開第2014/089148(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/138209(WO,A1)
【文献】特表平06-501841(JP,A)
【文献】PERNG, Y.C., et al.,"The human cytomegalovirus gene UL79 is required for the accumulation of late viral transcripts.",JOURNAL OF VIROLOGY,2011年05月15日,Vol.85, No.10,pp.4841-4852,doi: 10.1128/jvi.02344-10
【文献】GREY, F., et al.,"A human cytomegalovirus-encoded microRNA regulates expression og multiple viral genes involved in replication.",PLOS PATHOGENS,2007年11月02日,Vol.3, No.11,e163(pp.1-10),doi: 10.1371/journal.ppat.0030163
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1つの異種抗原をコードする第一の核酸配列と;
(b)I-E2またはそのオーソログおよびUL79またはそのオーソログの各々に機能的に連結された2つ以上のマイクロRNA認識エレメント(MRE)を含む第二の核酸配列であって、該MREが、
miR-223、miR-27a、miR-652、miR-155、miR146a、miR-132、miR-21、またはmiR-125の1つまたは複数の存在下で発現をサイレンシングする、第二の核酸配列と
を含み、かつ
(c)(i)活性なUL128タンパク質もしくはそのオーソログをコードする第三の核酸配列と;活性なUL130タンパク質もしくはそのオーソログをコードする第四の核酸配列とを含むか、または
(ii)活性なUL128タンパク質もしくはそのオーソログを発現せず、かつ活性なUL130タンパク質もしくはそのオーソログを発現しない、
サイトメガロウイルス(CMV)ベクター。
【請求項2】
前記少なくとも1つの異種抗原が、病原体特異的抗原、腫瘍抗原、組織特異的抗原、または宿主自己抗原を含む、
請求項1に記載のCMVベクター。
【請求項3】
前記少なくとも1つの異種抗原が、
(a)T細胞受容体(TCR)の可変領域に由来する抗原もしくはB細胞受容体の可変領域に由来する抗原である;
(b)ヒト免疫不全ウイルス、サル免疫不全ウイルス、単純ヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、パピローマウイルス、マラリア原虫、および結核菌からなる群より選択される病原体に由来する抗原である;または
(c)急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ芽球性白血病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、悪性黒色腫、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、膵臓癌、結腸癌、腎細胞癌(RCC)、および胚細胞腫瘍からなる群より選択される癌に関連する抗原である
請求項2に記載のCMVベクター。
【請求項4】
活性なUL82(pp71)タンパク質または活性なUS11もしくはそのオーソログの1つまたは複数を発現しない、請求項1~
3のいずれか一項に記載のCMVベクター。
【請求項5】
ヒトCMV(HCMV)ベクターまたはアカゲザルCMV(RhCMV)ベクターである、請求項1~
4のいずれか一項に記載のCMVベクター。
【請求項6】
対象において前記少なくとも1つの異種抗原に対する免疫応答を生成するための薬学的組成物であって、請求項1~
5のいずれか一項に記載のCMVベクターを、該対象において該少なくとも1つの異種抗原に対するCD8+T細胞応答を誘発するのに有効な量で含む、前記薬学的組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1つ
の異種抗原に対するCD8+T細胞応答を誘発するのに有効な量で前記CMVベクターを含む、請求項
6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
CD8+T細胞の少なくとも10%が、クラスII MHCまたはそのオーソログによって拘束される、請求項
7に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
CD8+T細胞の少なくとも75%が、クラスII MHCまたはそのオーソログによって拘束される、請求項
7に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
(a)前記CMVベクターが、活性なUL128タンパク質もしくはそのオーソログをコードする第三の核酸配列と、活性なUL130タンパク質もしくはそのオーソログをコードする第四の核酸配列とを含み、かつCD8+T細胞の10%未満が、MHC-Eもしくはそのオーソログによって拘束される;
(b)前記CMVベクターが、活性なUL128タンパク質もしくはそのオーソログを発現せず、かつ活性なUL130タンパク質もしくはそのオーソログを発現せず、かつMHC-IIによって拘束されるCD8+T細胞が、「スーパートープ(supertope)」、すなわち複数の異なるMHC-IIアレルによって提示されるペプチドを認識する;または
(c)前記CMVベクターが、活性なUL128タンパク質もしくはそのオーソログを発現せず、かつ活性なUL130タンパク質もしくはそのオーソログを発現せず、かつCD8+T細胞の10%未満が、MHC-Iもしくはそのオーソログによって拘束される、
請求項
8または
9に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記対象が、CMVに以前に曝露されている、請求項
6~10のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記対象が、ヒトであるか、またはヒト以外の霊長類である、請求項
6~11のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
皮下投与用、静脈内投与用、筋肉内投与用、腹腔内投与用、または経口投与用に調製される、請求項
6~12のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年11月20日に出願された「マイクロRNA認識エレメントを含むCMVベクター(CMV VECTORS COMPRISING MICRORNA RECOGNITION ELEMENTS)」という表題の米国特許仮出願第62/258,393号、および2016年7月21日に出願された「マイクロRNA認識エレメントを含むCMVベクター(CMV VECTORS COMPRISING MICRORNA RECOGNITION ELEMENTS)」という表題の米国特許仮出願第62/365,259号の優先権の恩典に基づきかつ優先権の恩典を主張するものであり、それらの開示は、参照によって全体として本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
態様は、免疫化におけるCMVベクターの使用に、より具体的には、異種抗原での免疫化によって従来とは異なる免疫応答を誘発する改変型のCMVベクターの作製に関する。
【0003】
政府支援の承認
本発明は、国立衛生研究所(National institutes of Health)によって付与された認可番号P01 AI094417の条項の下、米国政府の支援によってなされた。米国政府は、本発明に関して一定の権利を保有する。
【背景技術】
【0004】
背景
サル免疫不全ウイルスタンパク質を発現するアカゲザル(rhesus)サイトメガロウイルスワクチンベクター(RhCMV/SIV)は、病原性SIVからの防御を提供する(Hansen SG et al., Nat Med 15, 293 (2009)(非特許文献1); Hansen SG et al., Nat 473, 523 (2011)(非特許文献2);その両方は、参照によって本明細書に組み入れられる)。この防御は、その極度の有効性およびほぼ瞬間的な作用発現の点で他のT細胞ワクチンとは根本的に異なり、ワクチン接種の約50%が、急性期のウイルス血症の大きな鈍化および縮小後に、ウイルス複製の完全な制御を呈する。RhCMVで防御されたマカク(macaque)は、ウイルス血症の周期的な低レベルの「ブリップ」を示したが、CD4+メモリーT細胞の枯渇は観察されず、SIV特異的抗体応答は発生せず、その後、時間と共に、ウイルス核酸は辛うじて定量化可能になったが、一方で、複製可能なウイルスは、防御された動物の組織から消失した。これらの事象は、自然に起こるSIVエリートコントローラーおよびDNAプライム/Ad5ブーストワクチン接種コントローラーにおいて生じなかった(Hansen SG et al., Nature 502, 100 (2013)(非特許文献3);参照によって本明細書に組み入れられる)。RhCMV/SIVをワクチン接種したマカクにおけるこの防御効果の媒介にRhCMV誘導性CD8+T細胞が中心的役割を果たすことを考慮すれば、これらのT細胞の機能的特性を定義することは、SIV複製のRhCMV/SIVベクター誘導性制御へのそれらの機構的寄与を理解する上で重要である。これらの特性を理解することは、次に、異種抗原を発現するサイトメガロウイルスワクチンベクターの新しい用途を導き得る。
【0005】
CMVは、骨髄系列の細胞において潜伏および再活性化を確立している可能性があり、マクロファージは、ウイルス伝播において中心的役割を果たしている。加えて、樹状細胞は、インビボにおける必須の抗原提示細胞である。このような細胞において複製できないように特異的に構築された異種抗原を発現するCMVベクターは、改変された非従来型の免疫プロファイルを誘発する新たなワクチン候補として使用され得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hansen SG et al., Nat Med 15, 293 (2009)
【文献】Hansen SG et al., Nat 473, 523 (2011)
【文献】Hansen SG et al., Nature 502, 100 (2013)
【発明の概要】
【0007】
概要
少なくとも1つの異種抗原をコードする第一の核酸配列と;骨髄系列の細胞によって発現されるマイクロRNAの存在下で発現をサイレンシングするマイクロRNA認識エレメント(MRE)を含む第二の核酸配列とを含む、サイトメガロウイルス(CMV)ベクターが本明細書に開示される。マイクロRNA認識エレメントは、CMVのインビボ増殖に必須であるかまたはそれを促進するCMV遺伝子に機能的に連結される。ベクターはまた、活性なUL128タンパク質(またはそのオーソログ)をコードする核酸配列、および活性なUL130タンパク質(またはそのオーソログ)をコードする核酸配列も含む。いくつかの態様において、ベクターは、活性なUL128タンパク質および活性なUL130タンパク質を欠いている。
【0008】
また、対象において少なくとも1つの異種抗原に対する免疫応答を生成する方法も本明細書に開示される。該方法は、対象に、本明細書に開示されるタイプのCMVベクターを、異種抗原に対するCD8+T細胞応答を誘発するのに有効な量で投与する工程を包含する。免疫応答は、CD8+T細胞の少なくとも10%がクラスII MHCによって拘束されること、および該細胞の10%未満がMHC-Eによって拘束されることによって特徴付けられ得る。
[本発明1001]
(a)少なくとも1つの異種抗原をコードする第一の核酸配列と;
(b)サイトメガロウイルス(CMV)の増殖に必須であるかまたはそれを促進するCMV遺伝子に機能的に連結された第一のマイクロRNA認識エレメント(MRE)を含む第二の核酸配列であって、該MREが、骨髄系列の細胞によって発現されるマイクロRNAの存在下で発現をサイレンシングする、第二の核酸配列と;
(c)活性なUL128タンパク質またはそのオーソログをコードする第三の核酸配列と;
(d)活性なUL130タンパク質またはそのオーソログをコードする第四の核酸配列と
を含む、CMVベクター。
[本発明1002]
第一のMREが、miR-142-3p、miR-223、miR-27a、miR-652、miR-155、miR146a、miR-132、miR-21、またはmiR-125の1つまたは複数の存在下でサイレンシングをもたらす、本発明1001のCMVベクター。
[本発明1003]
少なくとも1つの異種抗原が、病原体特異的抗原、腫瘍抗原、組織特異的抗原、または宿主自己抗原を含む、本発明1001または1002のCMVベクター。
[本発明1004]
宿主自己抗原が、T細胞受容体(TCR)の可変領域に由来する抗原またはB細胞受容体の可変領域に由来する抗原である、本発明1003のCMVベクター。
[本発明1005]
病原体特異的抗原が、ヒト免疫不全ウイルス、サル免疫不全ウイルス、単純ヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、パピローマウイルス、マラリア原虫(Plasmodium parasite)、および結核菌(Mycobacterium tuberculosis)からなる群より選択される病原体に由来する、本発明1003のCMVベクター。
[本発明1006]
腫瘍抗原が、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ芽球性白血病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、悪性黒色腫、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、膵臓癌、結腸癌、腎細胞癌(RCC)、および胚細胞腫瘍からなる群より選択される癌に関連する、本発明1003のCMVベクター。
[本発明1007]
活性なUL82(pp71)タンパク質、US11、およびそれらのオーソログを発現しない、本発明1001~1006のいずれかのCMVベクター。
[本発明1008]
活性なUL79タンパク質およびそのオーソログを発現しない、本発明1001~1007のいずれかのCMVベクター。
[本発明1009]
活性なUS11タンパク質およびそのオーソログを発現しない、本発明1001~1008のいずれかのCMVベクター。
[本発明1010]
活性なUL82(pp71)タンパク質および活性なUL79タンパク質、ならびにそれらのオーソログを発現しない、本発明1001~1006のいずれかのCMVベクター。
[本発明1011]
活性なUL82(pp71)タンパク質および活性なUS11タンパク質、ならびにそれらのオーソログを発現しない、本発明1001~1006のいずれかのCMVベクター。
[本発明1012]
活性なUL79タンパク質および活性なUS11タンパク質、ならびにそれらのオーソログを発現しない、本発明1001~1006のいずれかのCMVベクター。
[本発明1013]
活性なUL79タンパク質、活性なUL82(pp71)タンパク質、および活性なUS11タンパク質、ならびにそれらのオーソログを発現しない、本発明1001~1006のいずれかのCMVベクター。
[本発明1014]
ヒトCMV(HCMV)ベクターまたはアカゲザル(rhesus)CMV(RhCMV)ベクターである、本発明1001~1013のいずれかのCMVベクター。
[本発明1015]
対象において少なくとも1つの異種抗原に対する免疫応答を生成する方法であって、該対象に、本発明1001~1014のいずれかのCMVベクターを、該対象において少なくとも1つの異種抗原に対するCD8+T細胞応答を誘発するのに有効な量で投与する工程を含む、前記方法。
[本発明1016]
前記CMVベクターによって誘発されるCD8+T細胞の少なくとも10%が、クラスII MHCまたはそのオーソログによって拘束される、本発明1015の方法。
[本発明1017]
CD8+T細胞の少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも75%が、クラスII MHCまたはそのオーソログによって拘束される、本発明1016の方法。
[本発明1018]
CD8+T細胞の10%未満が、MHC-Eまたはそのオーソログによって拘束される、本発明1017の方法。
[本発明1019]
前記対象が、CMVに以前に曝露されている、本発明1015~1018のいずれかの方法。
[本発明1020]
前記対象が、ヒトであるか、またはヒト以外の霊長類である、本発明1015~1019のいずれかの方法。
[本発明1021]
CMVベクターを投与する工程が、CMVベクターの皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、または経口投与を含む、本発明1015~1020のいずれかの方法。
[本発明1022]
(a)少なくとも1つの異種抗原をコードする第一の核酸配列と;
(b)サイトメガロウイルス(CMV)の増殖に必須であるかまたはそれを促進するCMV遺伝子に機能的に連結された第一のマイクロRNA認識エレメント(MRE)を含む第二の核酸配列であって、該MREが、骨髄系列の細胞によって発現されるマイクロRNAの存在下で発現をサイレンシングする、第二の核酸配列と
を含む、CMVベクターであって、
活性なUL128タンパク質およびそのオーソログを発現せず;かつ活性なUL130タンパク質およびそのオーソログを発現しない、前記CMVベクター。
[本発明1023]
第一のMREが、miR-142-3p、miR-223、miR-27a、miR-652、miR-155、miR146a、miR-132、miR-21、またはmiR-125の1つまたは複数の存在下でサイレンシングをもたらす、本発明1022のCMVベクター。
[本発明1024]
少なくとも1つの異種抗原が、病原体特異的抗原、腫瘍抗原、組織特異的抗原、または宿主自己抗原を含む、本発明1022または1023のCMVベクター。
[本発明1025]
宿主自己抗原が、T細胞受容体(TCR)の可変領域に由来する抗原またはB細胞受容体の可変領域に由来する抗原である、本発明1024のCMVベクター。
[本発明1026]
病原体特異的抗原が、ヒト免疫不全ウイルス、サル免疫不全ウイルス、単純ヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、パピローマウイルス、マラリア原虫、および結核菌からなる群より選択される病原体に由来する、本発明1024のCMVベクター。
[本発明1027]
腫瘍抗原が、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ芽球性白血病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、悪性黒色腫、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、膵臓癌、結腸癌、腎細胞癌(RCC)、および胚細胞腫瘍からなる群より選択される癌に関連する、本発明1024のCMVベクター。
[本発明1028]
活性なUL82(pp71)タンパク質、US11、およびそれらのオーソログを発現しない、本発明1022~1027のいずれかのCMVベクター。
[本発明1029]
活性なUL79タンパク質およびそのオーソログを発現しない、本発明1022~1028のいずれかのCMVベクター。
[本発明1030]
活性なUS11タンパク質およびそのオーソログを発現しない、本発明1022~1029のいずれかのCMVベクター。
[本発明1031]
活性なUL79タンパク質および活性なUL82(pp71)タンパク質、ならびにそれらのオーソログを発現しない、本発明1022~1027のいずれかのCMVベクター。
[本発明1032]
活性なUL82(pp71)タンパク質および活性なUS11タンパク質、ならびにそれらのオーソログを発現しない、本発明1022~1027のいずれかのCMVベクター。
[本発明1033]
活性なUL79タンパク質および活性なUS11タンパク質、ならびにそれらのオーソログを発現しない、本発明1022~1027のいずれかのCMVベクター。
[本発明1034]
活性なUL79タンパク質、活性なUL82(pp71)タンパク質、および活性なUS11タンパク質、ならびにそれらのオーソログを発現しない、本発明1022~1027のいずれかのCMVベクター。
[本発明1035]
ヒトCMV(HCMV)ベクターまたはアカゲザルCMV(RhCMV)ベクターである、本発明1022~1034のいずれかのCMVベクター。
[本発明1036]
対象において少なくとも1つの異種抗原に対する免疫応答を生成する方法であって、該対象に、本発明1022~1035のいずれかのCMVベクターを、該対象において少なくとも1つの異種抗原に対するCD8+T細胞応答を誘発するのに有効な量で投与する工程を含む、前記方法。
[本発明1037]
前記CMVベクターによって誘発されるCD8+T細胞の少なくとも10%が、クラスII MHCまたはそのオーソログによって拘束される、本発明1036の方法。
[本発明1038]
CD8+T細胞の少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも75%が、クラスII MHCまたはそのオーソログによって拘束される、本発明1037の方法。
[本発明1039]
MHC-IIによって拘束されるCD8+T細胞が、「スーパートープ(supertope)」、すなわち複数の異なるMHC-IIアレルによって提示されるペプチドを認識する、本発明1038の方法。
[本発明1040]
CD8+T細胞の10%未満が、MHC-Iまたはそのオーソログによって拘束される、本発明1038の方法。
[本発明1041]
前記対象が、CMVに以前に曝露されている、本発明1036~1040のいずれかの方法。
[本発明1042]
前記対象が、ヒトであるか、またはヒト以外の霊長類である、本発明1036~1041のいずれかの方法。
[本発明1043]
CMVベクターを投与する工程が、CMVベクターの皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、または経口投与を含む、本発明1036~1042のいずれかの方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
態様は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明によって容易に理解されよう。態様は、限定を目的とするのではなく例示を目的として、添付の図面の図において説明される。
【0010】
【
図1】さまざまな態様に従って、M-CSF培地またはM-CSF条件培地を使用して分化されたアカゲザル(rhesus macaque)由来のCD14+PBMCにおけるmiR-142-3p発現を示す棒グラフである。
【
図2】さまざまな態様に従って、アカゲザルから単離された表示の細胞タイプ及び組織におけるmiR-142-3p発現を示す棒グラフである。
【
図3A】
図3A、3B、3C、および3Dは、さまざまな態様に従って、galK組換えを介して作製された組換えRhCMV 68-1 RTN Rh156/Rh108 miR-142 3p突然変異体ウイルスの分析をまとめて示す。
図3Aは、さまざまな態様に従って、挿入部位と隣接するプライマーを使用したPCRがgalK発現カセットの挿入およびmiR-142 3p標的部位との置換を実証している結果を示すゲルの画像である。
【
図3B】
図3A、3B、3C、および3Dは、さまざまな態様に従って、galK組換えを介して作製された組換えRhCMV 68-1 RTN Rh156/Rh108 miR-142 3p突然変異体ウイルスの分析をまとめて示す。
図3Bは、さまざまな態様に従って、インタクトなゲノムの維持を示している、BAC DNAのXmaI消化を示すゲルの画像である。
【
図3C】
図3A、3B、3C、および3Dは、さまざまな態様に従って、galK組換えを介して作製された組換えRhCMV 68-1 RTN Rh156/Rh108 miR-142 3p突然変異体ウイルスの分析をまとめて示す。
図3Cは、さまざまな態様に従って、BACゲノムDNAを単離してアカゲザル線維芽細胞へエレクトロポレーションしたことを示すゲルの画像である。ウイルスをプラーク精製し、そして、ウイルスDNAを三継代の各々で単離し、PCRによってmiR-142 3p標的部位挿入の維持について分析した。加えて、これらのPCR産物を配列決定したが、突然変異は検出されなかった。
【
図3D】
図3A、3B、3C、および3Dは、さまざまな態様に従って、galK組換えを介して作製された組換えRhCMV 68-1 RTN Rh156/Rh108 miR-142 3p突然変異体ウイルスの分析をまとめて示す。
図3Dは、さまざまな態様に従って、構築物からのgag発現およびHA発現を示すゲルの画像である。
【
図4】さまざまな態様に従って、68-1 RTN Rh156/Rh108 miR-142 3pウイルスを使用した多段階増殖曲線を各々示す2つのプロットのセットである。テロメル化されたアカゲザル線維芽細胞に、陰性対照miRNAまたはmiR-142 3p RNA模倣体をトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、細胞にWTウイルスまたは68-1 RTN Rh156/Rh108 miR-142 3pウイルスを0.01のMOIで感染させた。細胞および上清を表示の時間に採取し、アカゲザル線維芽細胞で力価測定した。
【
図5】さまざまな態様に従って、磁気細胞選別を使用してアカゲザルPBMCから単離されたCD14+細胞の棒グラフである。細胞をM-CSF条件培地の存在下で7日間培養して、マクロファージへと分化させた。細胞にWT 68-1 RTNウイルスまたは68-1 RTN Rh156/Rh108 miR-142 3pウイルスを10のMOIで感染させた。ウイルスDNAを表示の時点に採取し、qPCRによってRh87 DNAレベルについて分析した。
【
図6】さまざまな態様に従って、RhCMV-68-1-Rh156, 108 miR-142-SIVrtnを感染させた動物におけるSIV RTN抗原に対する末梢T細胞応答を示す2つのプロットのセットである。
【
図7】さまざまな態様に従って、68-1.2 RhCMV-Rh156, 108 miR142/SIVgagを感染させた動物におけるCD8+T細胞応答の3つのプロットのセットである。
【
図8】さまざまな態様に従って、表示のベクターを感染させた表示の遺伝子型の動物のエピトープMHC拘束マップである。
【
図9】68-1.2 RTN Rh156/Rh108 miR-142 3pウイルスを使用した増殖曲線を示す2つのプロットのセットである。さまざまな態様に従って、手順はそれ以外、
図4に記載のとおり実施した。
【
図10】さまざまな態様に従って、galK組換えを介したRhCMV Rh156/Rh108 miR-142 3p突然変異体ウイルスの作製の図式である。
【
図11A】
図11A、11B、および11Cは、さまざまな態様に従って、galK組換えを介して作製された組換えRhCMV 68-1.2 GAG Rh156/Rh108 miR-142 3p突然変異体ウイルスの分析をまとめて示す。
図11Aは、挿入部位と隣接するプライマーを使用したPCRがgalK発現カセットの挿入およびmiR-142 3p標的部位との置換を実証している結果を示すゲルの画像である。加えて、BACゲノムDNAを単離して、アカゲザル線維芽細胞へエレクトロポレーションした。ウイルスをプラーク精製し、ウイルスDNAを三継代の各々で単離し(P1、P2およびP3)、PCRによってmiR-142 3p標的部位挿入の維持について分析した。さまざまな態様に従って、これらのPCR産物を配列決定したが、突然変異は検出されなかった。
【
図11B】
図11A、11B、および11Cは、さまざまな態様に従って、galK組換えを介して作製された組換えRhCMV 68-1.2 GAG Rh156/Rh108 miR-142 3p突然変異体ウイルスの分析をまとめて示す。
図11Bは、さまざまな態様に従って、インタクトなゲノムの維持を示している、RhCMV 68-1.2 GAG Rh156/Rh108 miR-142 3p BAC DNAのXmaI消化を示すゲルの画像である。
【
図11C】
図11A、11B、および11Cは、さまざまな態様に従って、galK組換えを介して作製された組換えRhCMV 68-1.2 GAG Rh156/Rh108 miR-142 3p突然変異体ウイルスの分析をまとめて示す。
図11Cは、さまざまな態様に従って、アカゲザル線維芽細胞におけるRhCMV 68-1.2 GAG Rh156/Rh108 miR-142 3pの三継代にわたるGAG発現を示すゲルの画像である。
【
図12】さまざまな態様に従って、68-1 RhCMV-Rh156, 108 miR142/SIVgagを感染させた動物におけるT細胞応答の3つのプロットのセットである。
【
図13】さまざまな態様に従って、68-1 GAG Rh156/Rh108 miR-142 3pを感染させた1匹の動物または68-1 GAGを感染させた4匹の動物のエピトープMHC拘束マップである。
【
図14】さまざまな態様に従って、68-1.2 RhCMV-Rh156, 108 miR142/SIVgagを感染させた3匹の動物におけるCD8+T細胞応答の3つのプロットのセット、およびこれらの動物のエピトープMHC拘束マップである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
開示の態様の詳細な説明
以下の詳細な説明において、本明細書の一部をなす添付図面が参照され、実施され得る態様が例示として示される。その範囲から逸脱することなく、他の態様を利用してよいこと、構造的および論理的変更を行ってよいことが理解されるべきである。それゆえ、以下の詳細な説明は、限定的な意味で解釈されるべきではなく、態様の範囲は、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物によって定義される。
【0012】
態様を理解するのに役立ち得るように、様々な操作が複数の個別の操作として順次記載され得るが、記載の順序は、これらの操作が順序に依存することを暗示するものと解釈されるべきではない。
【0013】
本説明は、上/下、後/前、および上部/下部のような視点に基づく説明を使用し得る。このような説明は、単に考察を容易にするために使用され、開示の態様の適用を制限することを意図していない。
【0014】
用語「連結される」および「接続される」は、それらの派生語と共に使用され得る。これらの用語が互いに同義語であることを意図したものではないことが理解されるべきである。むしろ、特定の態様において、「接続される」は、2つ以上の要素が、互いに直接的な物理的または電気的接触にあることを示すために使用され得る。「連結される」は、2つ以上の要素が、直接的な物理的または電気的接触にあることを意味し得る。しかしながら、「連結される」はまた、2つ以上の要素が互いに直接的な接触にないが、それでも互いに協働または相互作用することも意味し得る。
【0015】
説明の目的のために、「A/B」という形態または「Aおよび/またはB」という形態の語句は、(A)、(B)、または(AおよびB)を意味する。説明の目的のために、「A、B、およびCの少なくとも1つ」という形態の語句は、(A)、(B)、(C)、(AおよびB)、(AおよびC)、(BおよびC)、または(A、BおよびC)を意味する。説明の目的のために、「(A)B」という形態の語句は、(B)または(AB)を意味し、すなわち、Aは、任意の要素である。
【0016】
本説明は、各々同じまたは異なる態様の1つまたは複数を指し得る、用語「態様(embodiment)」または「態様(embodiments)」を使用し得る。さらに、用語「~を含む(comprising)」、「~を含む(including)」、「~を有する」などは、態様に関して使用される場合、同義である。
【0017】
本明細書における態様は、少なくとも1つの異種タンパク質抗原をコードする核酸と、インビボ増殖に必須であるかまたはそれを促進するCMV遺伝子に機能的に連結された、骨髄系列の細胞によって発現されるマイクロRNAに特異的な少なくとも1つのマイクロRNA認識エレメントとを含む、組換えCMVベクターを非限定的に含む、新規の組換えCMVベクターを提供する。新規の組換えCMVベクターを使用する方法、例えば対象において異種抗原に対する免疫応答を生成する方法がさらに開示される。
【0018】
I. 用語
特に記述のない限り、技術用語は、従来の使用法に従って使用される。本明細書に引用される全ての刊行物、特許、特許出願、インターネットサイト、および受託番号/データベース配列(ポリヌクレオチド配列およびポリペプチド配列の両方を含む)は、各々個々の刊行物、特許、特許出願、インターネットサイト、または受託番号/データベース配列がそのように参照によって組み入れられると具体的かつ個別に示されたかのように同程度に、全ての目的のためにそれらの全体において参照によって本明細書に組み入れられる。本明細書に記載のものと類似または等価な方法および材料が本開示の実施または試験において使用され得るが、好適な方法および材料が以下に記載される。加えて、材料、方法、および例は、単なる例示であって、限定することを意図したものではない。本開示の様々な態様の総括を容易にするために、以下の具体的な用語の説明が提供される。
【0019】
抗原:本明細書において使用される場合、用語「抗原」または「免疫原」は、互換的に使用され、対象における免疫応答を誘導することができる物質、典型的にはタンパク質を指す。この用語はまた、対象に投与されると(直接的に、またはタンパク質をコードするヌクレオチド配列もしくはベクターを対象に投与することによってのいずれか)、そのタンパク質に対して指向される体液性および/または細胞性型の免疫応答を惹起することができるという意味で免疫学的に活性であるタンパク質も指す。
【0020】
投与:本明細書において使用される場合、用語「投与」は、対象に、外因性抗原を含むCMVベクターの有効量を含む作用物質、例えば組成物を任意の有効な経路によって提供または与えることを意味する。例示的な投与経路は、限定されないが、注射(皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、および静脈内)、経口、舌下、直腸、経皮、鼻腔内、膣内および吸入経路を含む。
【0021】
有効量:本明細書において使用される場合、用語「有効量」は、異種抗原またはトランスフェクトされたCD8+T細胞(MHC-E/異種抗原由来ペプチド複合体を認識する)含む作用物質、例えばCMVベクターの、所望の応答を生成するのに、例えば病態もしくは疾患の徴候もしくは症状を低減もしくは排除するのに、または抗原に対する免疫応答を誘導するのに十分な量を指す。いくつかの例では、「有効量」は、障害または疾患のいずれかの1つまたは複数の症状および/または根本原因を処置(予防を含む)するものである。有効量は、特定の疾患または病態の1つまたは複数の徴候または症状、例えば感染症、癌、または自己免疫疾患と関連する1つまたは複数の徴候または症状の発症を防止する量を含む、治療的に有効な量であり得る。
【0022】
マイクロRNA:本明細書において使用される場合、用語「マイクロRNA」は、遺伝子発現の制御に関与する生体分子の主要クラスを指す。例えば、ヒトの心臓、肝臓または脳では、miRNAは、組織特定化(tissue specification)または細胞系統決定において役割を果たしている。加えて、miRNAは、初期発生、細胞増殖および細胞死、ならびにアポトーシスおよび脂質代謝を含む、様々なプロセスに影響を及ぼす。多数のmiRNA遺伝子、多様な発現パターン、および潜在的なmiRNA標的の豊富さは、miRNAが遺伝的多様性の重要な供給源であり得ることを示唆している。
【0023】
成熟したmiRNAは、典型的には、mRNAの発現を調節する18~25ヌクレオチドの非コードRNA(miRNAに相補的な配列を含む)である。これらの小さなRNA分子は、mRNAの安定性および/または翻訳を調節することによって遺伝子発現を制御することが知られている。例えば、miRNAは、標的mRNAの3’UTRに結合して翻訳を抑制する。miRNAはまた、標的mRNAに結合して、RNAi経路を通じて遺伝子サイレンシングを媒介し得る。miRNAはまた、クロマチン凝縮を引き起こすことによって遺伝子発現を調節し得る。
【0024】
miRNAは、mRNA転写産物上のどこかでmiRNAと直接的に塩基対合して相互作用する任意の配列として定義されるmiRNA認識エレメント(MRE)に結合することによって、1つまたは複数の特異的mRNA分子の翻訳をサイレンシングする。多くの場合、MREは、mRNAの3’非翻訳領域(UTR)中に存在するが、コード配列中または5’UTR中にも存在し得る。MREは、miRNAと完全に相補的である必要はなく、通常miRNAと相補性のわずか数塩基を有し、多くの場合、これらの相補性の塩基内に1つまたは複数のミスマッチを含有する。MREは、MREが機能的に連結された遺伝子(例えば、インビボ増殖に必須であるかまたはそれを促進するCMV遺伝子)の翻訳がRISCのようなmiRNAサイレンシング機構によって抑制されるほど十分に、miRNAによって結合されることができる任意の配列であり得る。
【0025】
突然変異:本明細書において使用される場合、用語「突然変異」は、核酸またはポリペプチド配列の、通常配列、コンセンサス配列、または「野生型」配列との任意の相違を指す。突然変異体は、突然変異を含む任意のタンパク質または核酸配列である。加えて、突然変異を有する細胞または生物もまた、突然変異体と称され得る。
【0026】
コード配列突然変異のいくつかのタイプは、点突然変異(個々のヌクレオチドまたはアミノ酸の相違);サイレント突然変異(アミノ酸変化をもたらさないヌクレオチドの相違);欠失(遺伝子のコード配列全体の欠失以下の、1つまたは複数のヌクレオチドまたはアミノ酸が失われている相違);フレームシフト突然変異(3分割できない多数のヌクレオチドの欠失がアミノ酸配列の変更をもたらす相違)を含む。アミノ酸の相違をもたらす突然変異はまた、アミノ酸置換突然変異と呼ばれ得る。アミノ酸置換突然変異は、アミノ酸配列の特定の位置の、野生型に対して相対的なアミノ酸変化によって説明され得る。
【0027】
ヌクレオチド配列または核酸配列:本明細書において使用される場合、用語「ヌクレオチド配列」および「核酸配列」は、メッセンジャーRNA(mRNA)、DNA/RNAハイブリッド、または合成核酸を非限定的に含む、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)配列を指す。核酸は、一重鎖であっても、部分的または完全に二重鎖(二本鎖)であってもよい。二本鎖核酸は、ホモ二本鎖であってもヘテロ二本鎖であってもよい。
【0028】
機能的に連結される:用語「機能的に連結される」が本明細書において使用される場合、第一の核酸配列が第二の核酸配列に対して効果を有するように第一の核酸配列が位置するとき、第一の核酸配列は第二の核酸配列と機能的に連結されている。例として、MREへのmiRNAの結合がコード配列の発現をサイレンシングする場合、MREは、それがサイレンシングするコード配列に機能的に連結されている。機能的に連結されたDNA配列は、隣接していてもよく、これらは少し離れて機能してもよい。
【0029】
プロモーター:本明細書において使用される場合、用語「プロモーター」は、核酸の転写を指令する多数の核酸制御配列のいずれかを指し得る。典型的には、真核生物プロモーターは、転写の開始部位の近くに必要な核酸配列(例えば、ポリメラーゼII型プロモーターの場合、TATAエレメント、または1つまたは複数の転写因子によって認識される任意の他の特異的DNA配列)を含む。プロモーターによる発現は、エンハンサーまたはリプレッサーエレメントによってさらにモジュレートされ得る。数多くのプロモーターの例が利用可能であり、かつ、当業者に周知である。特定のポリペプチドをコードする核酸配列に機能的に連結されたプロモーターを含む核酸は、発現ベクターと称され得る。
【0030】
組換え体:本明細書において使用される場合、用語「組換え体」は、核酸またはポリペプチドに関して、天然に存在しない配列を有するもの、または2つ以上の他の分離された配列のセグメントの人為的な組み合わせによって製造された配列を有するもの、例えば、異種抗原を含み、かつ/またはインビボ増殖に必須であるかもしくはそれを促進するCMV遺伝子に機能的に連結されたmiRNA応答エレメントの付加によって複製欠損になった、CMVベクターを指す。この人為的な組み合わせは、多くの場合、化学合成によって、またはより一般的には、単離された核酸セグメントの人為的操作によって、例えば、遺伝子工学技術によって成し遂げられる。組換えポリペプチドはまた、ポリペプチドの天然源ではない宿主生物に移入された組換え核酸(例えば、異種抗原を含むCMVベクターを形成するポリペプチドをコードする核酸)を含む、組換え核酸を使用して製造されたポリペプチドを指し得る。
【0031】
複製欠損:本明細書において使用される場合、「複製欠損」CMVは、宿主細胞に入ると、ウイルス複製を起こすことができないか、またはそのゲノムを複製する能力、ひいてはビリオンを産生する能力が著しく制限されている、ウイルスである。他の例では、複製欠損ウイルスは、伝播欠損であってよく、例えば、これらは、そのゲノムを複製することができるが、ウイルス粒子が感染細胞から放出されないかまたは非感染性ウイルス粒子が放出されるかのいずれかの理由で別の細胞に感染することができない。他の例では、複製欠損ウイルスは、拡散欠損であり、例えば、感染性ウイルスは感染宿主から分泌されず、それゆえ、ウイルスは宿主から宿主へと拡散することができない。いくつかの態様において、複製欠損CMVは、ウイルス複製に必須の遺伝子(「必須遺伝子」)または最適な複製に必要な遺伝子(「促進遺伝子」)の1つまたは複数の発現の欠如をもたらす突然変異を含むCMVである。CMVの必須遺伝子および促進遺伝子は、当技術分野に記載されており(特に、参照によって本明細書に組み入れられるUS 2013/0136768)、かつ、本明細書に開示される。
【0032】
薬学的に許容される担体:本明細書において使用される場合、有用な「薬学的に許容される担体」は慣用のものである。Remington's Pharmaceutical Sciences, by E.W. Martin, Mack Publishing Co., Easton, PA, 19th Edition, 1995は、本明細書に開示される組成物の薬学的送達に好適な組成物および製剤を記載している。一般に、担体の性質は、採用される特定の投与様式に依存するだろう。例として、非経口製剤は、通常、ビヒクルとして水、生理食塩水、平衡塩類溶液、水性デキストロース、グリセロールなどのような薬学的かつ生理学的に許容される流体を含む注射可能な流体を含む。固体組成物(例えば、粉剤、丸剤、錠剤、またはカプセル剤の形態)について、従来の無毒の固体担体は、例えば、薬学的等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムを含み得る。生物学的に中性の担体に加えて、投与されるべき薬学的組成物は、少量の無毒の補助物質、例えば湿潤剤または乳化剤、保存料、およびpH緩衝剤など、例えば酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレートを含有し得る。
【0033】
ポリヌクレオチド:本明細書において使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、リボ核酸(RNA)またはデオキシリボ核酸(DNA)のポリマーを指す。ポリヌクレオチドは、4つの塩基:アデニン、シトシン、グアニン、およびチミン/ウラシル(ウラシルはRNAで使用される)で構成されている。核酸のコード配列は、核酸によってコードされるタンパク質の配列を示す。
【0034】
ポリペプチド:用語「タンパク質」、「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「アミノ酸配列」は、本明細書において互換的に使用され、任意の長さのアミノ酸残基のポリマーを指す。ポリマーは、直線状であっても分岐状であってもよく、修飾されたアミノ酸またはアミノ酸類似体を含んでよく、アミノ酸以外の化学部分が介入していてもよい。この用語はまた、自然に修飾されているか、または介入;例えばジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、または任意の他の操作もしくは修飾(例えば、標識化もしくは生物活性成分とのコンジュゲーション)によって修飾されている、アミノ酸ポリマーも包含する。
【0035】
配列同一性/類似性:本明細書において使用される場合、2つ以上の核酸配列間、または2つ以上のアミノ酸配列間の同一性/類似性は、その配列間の同一性または類似性に関して表される。配列同一性は、同一性百分率に関して測定され得る;百分率が高ければ高いほど、配列はより同一である。配列類似性は、同一性または類似性百分率に関して測定され得る(これは保存的アミノ酸置換を考慮する);百分率が高ければ高いほど、配列はより類似している。多くの配列同一性を有しかつ互いに同じまたは類似の機能も有するポリペプチドまたはそのタンパク質ドメイン(例えば、異なる種において同じ機能を果たすタンパク質、またはタンパク質の機能もしくはその大きさを変化させないタンパク質の突然変異体形態)は、「ホモログ」と呼ばれ得る。
【0036】
比較のための配列のアラインメントの方法は、当技術分野において周知である。様々なプログラムおよびアラインメントアルゴリズムが、以下に記載されている:Smith & Waterman, Adv. Appl. Math 2, 482 (1981); Needleman & Wunsch, J Mol Biol 48, 443 (1970); Pearson & Lipman, Proc Natl Acad Sci USA 85, 2444 (1988); Higgins & Sharp, Gene 73, 237-244 (1988); Higgins & Sharp, CABIOS 5, 151-153 (1989); Corpet et al, Nuc Acids Res 16, 10881-10890 (1988); Huang et al, Computer App Biosci 8, 155-165 (1992); および Pearson et al, Meth Mol Bio 24, 307-331 (1994)。加えて、Altschul et al, J Mol Biol 215, 403-410 (1990)は、配列アラインメント法および相同性計算の詳細な考察を提示している。
【0037】
NCBI Basic Local Alignment Search Tool (BLAST)(上記 Altschul et al, (1990))は、National Center for Biological Information (NCBI, National Library of Medicine, Building 38A, Room 8N805, Bethesda, MD 20894)を含めいくつかの供給元から入手可能であり、かつ、配列分析プログラムblastp, blastn, blastx, tblastnおよびtblastxと共に使用するためにインターネットで利用可能である。追加の情報は、NCBIのウェブサイトで見いだされ得る。
【0038】
BLASTNは、核酸配列を比較するために使用され、一方で、BLASTPは、アミノ酸配列を比較するために使用される。2つの比較された配列が相同性を共有する場合、指定された出力ファイルは、整列させた配列として相同の領域を提示する。2つの比較された配列が相同性を共有しない場合、指定された出力ファイルは、整列させた配列を提示しない。
【0039】
整列させたら、同一のヌクレオチドまたはアミノ酸残基が両方の配列に存在する位置の数を計数することによってマッチ数が決定される。配列同一性パーセントは、マッチ数を、同定された配列に示される配列の長さで割るか、または連結された長さ(例えば、同定された配列に示される配列由来の100の連続ヌクレオチドまたはアミノ酸残基)で割るかのいずれかの後に、得られた値に100を掛けることによって決定される。例えば、1166のマッチを有する核酸配列は、1154のヌクレオチドを有する試験配列と整列させたときに、試験配列と75.0パーセント同一である(1166÷1554*100=75.0)。配列同一性パーセント値は、最も近い小数第1位に四捨五入する。例えば、75.11、75.12、75.13、および75.14は、75.1に切り下げられ、75.15、75.16、75.17、75.18、および75.19は、75.2に切り上げられる。長さの値は常に整数である。別の例では、同定される配列由来の20の連続ヌクレオチドと整列する20ヌクレオチド領域を含有する標的配列は、以下のとおり、その同定された配列と75パーセントの配列同一性を共有する領域を含有する(すなわち、15÷20*100=75)。
【0040】
約30を超えるアミノ酸のアミノ酸配列の比較には、デフォルトパラメーター(ギャップ存在コストは11、1残基あたりのギャップコストは1)に設定されたデフォルトBLOSUM62マトリックスを使用してBlast 2配列関数が採用される。ホモログは、典型的には、NCBI Basic Blast 2.0, gapped blastpをnrデータベース、swissprotデータベース、および特許権のある配列データベースのようなデータベースと共に使用したアミノ酸配列との全長アラインメントにわたってカウントされた、少なくとも70%の配列同一性を有することによって特徴付けられる。blastnプログラムで検索されるクエリーは、DUSTによってフィルタリングされる(Hancock & Armstrong, Comput Appl Biosci 10, 67-70 (1994))。他のプログラムは、SEGを使用する。加えて、手動のアラインメントを実施してもよい。さらにより大きい類似性を有するタンパク質は、この方法によって評価されたときに、増加する同一性百分率、例えばタンパク質と少なくとも約75%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を示すであろう。
【0041】
短いペプチド(約30アミノ酸よりも小さい)を整列させるとき、アラインメントは、デフォルトパラメーター(オープンギャップペナルティ9、伸長ギャップペナルティ1)に設定されたPAM30マトリックスを採用して、Blast 2配列関数を使用して実施される。基準配列に対してさらに大きい類似性を有するタンパク質は、この方法によって評価されたときに、増加する同一性百分率、例えばタンパク質と少なくとも約60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を示すであろう。全配列より短い配列が配列同一性について比較されるとき、ホモログは典型的には10~20アミノ酸の短いウィンドウにわたって少なくとも75%の配列同一性を有し、かつ、基準配列に対するその同一性に応じて少なくとも85%、90%、95%、または98%の配列同一性を有し得る。このような短いウィンドウにわたる配列同一性を決定するための方法は、NCBIのウェブサイトに記載されている。
【0042】
2つの核酸分子が密接に関連していることの1つの指標は、その2つの分子が、上記のとおりストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズすることである。それにもかかわらず、高度の同一性を示さない核酸配列は、遺伝子コードの縮重が原因で、同一または類似の(保存された)アミノ酸配列をコードし得る。全てが実質的に同じタンパク質をコードする複数の核酸分子を生産するために、この縮重を使用して核酸配列の変化を起こしてよい。このような相同核酸配列は、例えば、タンパク質をコードする核酸と少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有し得る。
【0043】
対象:本明細書において使用される場合、用語「対象」は、生きている多細胞脊椎生物、ヒトおよびヒト以外の哺乳動物の両方を含むカテゴリーを指す。
【0044】
処置:本明細書において使用される場合、用語「処置」は、疾患または病的状態の徴候または症状を改善する介入を指す。本明細書において使用される場合、用語「処置」、「処置する」および「処置すること」はまた、疾患、病的状態または症状に関して、任意の観察可能な有益な処置効果も指す。有益な効果は、例えば、感受性の高い対象における疾患の臨床症状の発症の遅延、疾患の一部もしくは全ての臨床症状の重症度の低減、疾患の進行の遅延化、疾患の再発数の低減、対象の全体的な健康もしくは満足な状態の改善によって、または特定の疾患に特異的な当技術分野で周知の他のパラメータによって明らかになり得る。予防的処置は、病理を発症するリスクを減少させる目的で、疾患の徴候を示さないかまたは早期の徴候しか示さない対象に投与される処置である。治療的処置は、疾患の徴候および症状が発症した後に対象に投与される処置である。
【0045】
II. 組換えCMVベクターおよびそれを使用する方法
生物に繰り返し感染させることができるヒトまたは動物のCMVベクターが本明細書に開示される。CMVベクターは、異種タンパク質抗原をコードする核酸配列を含み、かつさらに、骨髄細胞によって発現されるmiRNAの存在下で発現をサイレンシングするmiRNA応答エレメント(MRE)として機能する核酸配列を含む。骨髄細胞によって発現されるこのようなmiRNAの例は、miR-142-3p、miR-223、miR-27a、miR-652、miR-155、miR-146a、miR-132、miR-21、および/またはmiR-125を含む(Gilicze AB et al, Biomed Res Int 2014, 870267 (2014);参照によって本明細書に組み入れられる)。MREは、CMVのインビボ増殖に必須であるかまたはそれを促進するCMV遺伝子に機能的に連結される。このような遺伝子の例は、I-E2、およびUL79、またはそれらのオーソログを含む。1つ、2つ、3つまたはそれ以上のCMV遺伝子は各々、ベクター内の1つ、2つ、3つまたはそれ以上のMREに機能的に連結され得る。ベクターはまた、活性なUL128遺伝子および活性なUL130遺伝子もコードする。あるいは、ベクターは、活性なUL128および活性なUL130遺伝子を欠いていてよい。
【0046】
MREは、骨髄細胞によって発現されるmiRNAの存在下で発現をサイレンシングする任意のmiRNA認識エレメントであり得る。このようなMREは、miRNAの正確な相補体であり得る。あるいは、所与のmiRNAに対して他の配列をMREとして使用してよい。例えば、MREは、配列から予測され得る。一例では、miRNAは、ウェブサイトmicroRNA.org(www.microrna.org)で検索され得る。次に、miRNAのmRNA標的のリストが列挙される。例えば、以下のページ:http://www.microrna.org/microrna/getTargets.do?matureName=hsa-miR-142-3p&organism=9606(最終アクセス日2015年10月06日)は、miR-142-3pの推定mRNA標的を列挙している。ページ上の列挙された標的毎に、「alignment details」にアクセスして、推定MREを入手してよい。
【0047】
当業者は、マクロファージのような骨髄細胞において発現されるmiRNAの存在下でサイレンシングを誘導すると予測される、検証MRE配列、推定MRE配列、または突然変異したMRE配列を文献から選択してよい。一例は、上に挙げたウェブサイトを包含する。当業者は、次いで、レポーター遺伝子(例えば、蛍光タンパク質、酵素、または他のレポーター遺伝子)が構成的活性化プロモーターまたは細胞特異的プロモーターのようなプロモーターによって駆動された発現を有する、発現構築物を得てよい。MRE配列は、次いで、発現構築物に導入され得る。発現構築物は、適切な細胞にトランスフェクトされ、その細胞に関心対象のmiRNAがトランスフェクトされ得る。レポーター遺伝子の発現の欠如は、miRNAの存在下でMREが遺伝子発現をサイレンシングすることを示す。
【0048】
異種抗原は、例えば、ヒト免疫不全ウイルス、サル免疫不全ウイルス、単純ヘルペスウイルス1型、単純ヘルペスウイルス2型、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、パピローマウイルス、マラリア原虫(Plasmodium parasite)、破傷風菌(Clostridium tetani)、および結核菌(Mycobacterium tuberculosis)に由来する病原体特異的抗原を含む、任意の抗原であり得る。なおさらなる例では、異種抗原は、例えば、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ芽球性白血病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、悪性黒色腫、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、膵臓癌、結腸癌、肛門または直腸癌、腎細胞癌(RCC)、および胚細胞腫瘍に関連する腫瘍抗原を含む、腫瘍抗原であり得る。なおさらなる例では、異種抗原は、例えば、T細胞受容体の可変領域に由来する抗原、B細胞受容体の可変領域に由来する抗原、精子抗原、または卵抗原を含む、組織特異的抗原または宿主自己抗原であり得る。
【0049】
いくつかの例では、ベクターは、UL82(pp71)、UL79、US11、および他のCMVタンパク質(それらのホモログまたはそれらのオーソログを含む)をコードする核酸配列(他の種に感染するCMVの相同遺伝子)中の突然変異の存在に起因して、活性なUL82(pp71)、UL79、US11、および他のCMVタンパク質を発現しない。いくつかの態様において、ベクターは、活性なUL82(pp71)タンパク質および活性なUL79タンパク質、ならびにそれらのオーソログを発現しない。いくつかの態様において、ベクターは、活性なUL82(pp71)タンパク質および活性なUS11タンパク質、ならびにそれらのオーソログを発現しない。いくつかの態様において、ベクターは、活性なUL79タンパク質および活性なUS11タンパク質、ならびにそれらのオーソログを発現しない。いくつかの態様において、ベクターは、活性なUL79タンパク質、活性なUL82(pp71)タンパク質、および活性なUS11タンパク質、ならびにそれらのオーソログを発現しない。突然変異は、活性タンパク質の発現の欠如をもたらす任意の突然変異であり得る。このような突然変異は、点突然変異、フレームシフト突然変異、該タンパク質をコードする配列の全てに満たない欠失(短縮突然変異)、もしくは該タンパク質をコードする核酸配列の全ての欠失、または任意の他の突然変異を含み得る。
【0050】
また、対象において異種抗原に対するCD8+T細胞応答を生成する方法も本明細書に開示される。該方法は、CMVベクターの有効量を対象に投与する工程を包含する。CMVベクターは、少なくとも1つの異種抗原をコードする核酸配列、および骨髄細胞によって発現されるmiRNAに対するmiRNA応答エレメント(MRE)として機能する核酸配列を有する。MREは、CMVのインビボ増殖に必須であるかまたはそれを促進するCMV遺伝子に機能的に連結される。
【0051】
いくつかの例では、CMVベクターはまた、活性なUL128タンパク質および活性なUL130タンパク質をコードする核酸配列も含有する。これらのベクターは、クラスII MHCによって提示されるエピトープに対して指向されるCD8+T細胞を少なくとも10%有することによって特徴付けられるCD8+T細胞応答を誘発するために使用され得る。いくつかの態様において、CD8+T細胞の少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも75%が、クラスII MHCによって拘束される。これは、予測できない結果である。理由は、過去の研究は、クラスII MHC拘束性CD8+T細胞が、UL128およびUL130を欠如しているCMVにおいて生成されたことを示していたからである(Hansen SG et al, Science 340, 1237874 (2013);参照によって本明細書に組み入れられる)。CD8+T細胞の10%未満は、MHC-Eによって拘束される。
【0052】
いくつかの例では、CMVベクターは、UL128およびUL130ならびに/または他のCMVタンパク質(それらのホモログまたはそれらのオーソログを含む)をコードする核酸配列(他の種に感染するCMVの相同遺伝子)中の突然変異の存在に起因して、活性なUL128およびUL130遺伝子を発現しない。突然変異は、活性タンパク質の発現の欠如をもたらす任意の突然変異であり得る。このような突然変異は、点突然変異、フレームシフト突然変異、該タンパク質をコードする配列の全てに満たない欠失(短縮突然変異)、もしくは該タンパク質をコードする核酸配列の全ての欠失、または任意の他の突然変異を含み得る。これらのベクターは、MHC-Iによって拘束されるCD8+T細胞を10%未満有することによって特徴付けられるCD8+T細胞応答を誘発するために使用され得、CD8+T細胞の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも75%が、クラスII MHCによって拘束される。これらのベクターはまた、MHC-IIスーパートープ(supertope)に対する、例えば、本質的に異なるMHC-II分子によってCD8+T細胞に提示されるペプチドに対するCD8+T細胞応答を誘発するために使用され得る。したがって、スーパートープは、同じMHC-IIアレルを共有しない個体によって認識される。
【0053】
さらなる例では、方法は、有効量の、第二の異種抗原をコードする核酸配列を含む第二のCMVベクターを対象に投与する工程を包含する。この第二のベクターは、任意のCMVベクターであり得る。第二の異種抗原は、第一のCMVベクター中の異種抗原と同一である異種抗原を含む、任意の異種抗原であり得る。第二のCMVベクターは、第一のCMVベクターの投与の前、投与と同時、または投与の後を含む、第一のCMVベクターの投与に対して相対的な任意の時点で投与され得る。これは、第一のベクターの何か月、何日、何時間、何分または何秒か前または後の第二のベクターの投与を含む。
【0054】
ヒトまたは動物のCMVベクターは、発現ベクターとして使用されるとき、ヒトのような選択された対象において本質的に非病原性である。いくつかの態様において、CMVベクターは、選択された対象における宿主内および宿主間拡散を制限することによって、それらを非病原性にするように改変されている。
【0055】
異種抗原は、癌抗原、病原体特異的抗原、モデル抗原(例えば、リゾチームKLH、またはオボアルブミン)、組織特異的抗原、宿主自己抗原、または任意の他の抗原を含む、CMVに由来しない任意のタンパク質またはその断片であり得る。
【0056】
病原体特異的抗原は、任意のヒトまたは動物の病原体に由来し得る。病原体は、ウイルス病原体、細菌病原体、または寄生体であってよく、そして、抗原は、ウイルス病原体、細菌病原体、または寄生体に由来するタンパク質であってよい。寄生体は、生物であっても、生物によって引き起こされる疾患であってもよい。例えば、寄生体は、原生動物生物、疾患を引き起こす原生動物生物、蠕虫生物または蠕虫、蠕虫生物によって引き起こされる疾患、外部寄生体、または外部寄生体によって引き起こされる疾患であり得る。
【0057】
抗原は、癌に由来するタンパク質であり得る。これらの癌は、限定されないが、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ芽球性白血病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、悪性黒色腫、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、膵臓癌、結腸癌、腎細胞癌(RCC)、および胚細胞腫瘍を含む。
【0058】
抗原は、宿主自己抗原であり得る。宿主自己抗原は、限定されないが、T細胞受容体の可変領域に由来する抗原またはB細胞受容体の可変領域に由来する抗原を含む。抗原は、組織特異的抗原であり得る。組織特異的抗原は、限定されないが、精子抗原または卵抗原を含む。
【0059】
本明細書に開示されるCMVベクターは、組換えCMVウイルスまたはベクターおよび薬学的に許容される担体または希釈剤を含有する、免疫原性組成物、免疫学的組成物、またはワクチン組成物として使用され得る。組換えCMVウイルスまたはベクター(またはその発現産物)を含有する免疫学的組成物は、免疫学的応答を局所または全身的に誘発する。応答は、防御的であってよいがそうである必要はない。組換えCMVウイルスまたはベクター(またはその発現産物)を含有する免疫原性組成物も同様に、防御的であってよいがそうである必要はない、局所または全身的な免疫学的応答を誘発する。ワクチン組成物は、局所または全身的な防御的応答を誘発する。したがって、用語「免疫学的組成物」および「免疫原性組成物」は、「ワクチン組成物」を含む(前者の2つの用語が防御的組成物であり得るため)。
【0060】
本明細書に開示されるCMVベクターは、対象における免疫学的応答を誘導する方法であって、対象に、組換えCMVウイルスまたはベクターおよび薬学的に許容される担体または希釈剤を含む免疫原性組成物、免疫学的組成物、またはワクチン組成物を投与する工程を含む方法において使用され得る。本明細書の目的のために、用語「対象」は、ヒト以外の霊長類およびヒトを含む全ての動物を含むが、一方、「動物」は、ヒトを除く全ての脊椎動物種を含み;「脊椎動物」は、動物(「動物」が本明細書において使用される場合)およびヒトを含む、全ての脊椎動物を含む。また当然ながら、「動物」のサブセットは、「哺乳動物」であり、本明細書の目的のためには、ヒトを除く全ての哺乳動物を含む。
【0061】
本明細書に開示されるCMVベクターは、組換えCMVウイルスまたはベクターおよび薬学的に許容される担体または希釈剤を含有する治療用組成物において使用され得る。本明細書に開示されるCMVベクターは、異種抗原をコードする配列を含むDNAを、CMVゲノムの必須領域または非必須領域に挿入することによって調製され得る。該方法は、CMVゲノムから1つまたは複数の領域を欠失させる工程をさらに含み得る。該方法は、インビボ組換えを含み得る。したがって、該方法は、細胞適合性の培地中、CMVゲノムの部分と相同なDNA配列と隣接している異種DNAを含むドナーDNAの存在下で、細胞にCMV DNAをトランスフェクトし、それによって異種DNAをCMVのゲノムに導入する工程、および、場合により次いでインビボ組換えによって改変されたCMVを回収する工程を含み得る。
【0062】
該方法はまた、CMV DNAを切断して、切断されたCMV DNAを得る工程、異種DNAを切断されたCMV DNAにライゲーションして、ハイブリッドCMV-異種DNAを得る工程、細胞にハイブリッドCMV-異種DNAをトランスフェクトする工程、および、場合により次いで異種DNAの存在によって改変されたCMVを回収する工程を含み得る。インビボ組換えが包含されるので、該方法は、したがって、CMVとは異質なポリペプチドをコードするCMVにおいて天然に存在しないドナーDNAを含むプラスミドも提供し、該ドナーDNAは、そうでなければCMVゲノムの必須領域または非必須領域と同一線上にあるCMV DNAのセグメント内にあり、それにより、CMVの必須領域または非必須領域由来のDNAがドナーDNAと隣接する。異種DNAは、そのDNAの安定した組み込みおよび必要に応じてその発現をもたらす任意の方向に組換えCMVを生成するように、CMVに挿入され得る。
【0063】
組換えCMVベクター中の異種抗原をコードするDNAはまた、プロモーターを含み得る。プロモーターは、内因性サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、例えばヒトCMV(HCMV)、アカゲザルCMV(RhCMV)、ネズミCMV(MCMV)、または他のCMVプロモーターを含め、ヘルペスウイルスのような任意の供給源に由来し得る。プロモーターはまた、EF1αプロモーターのような非ウイルスプロモーターであり得る。プロモーターは、ウイルスによって提供されるトランス活性化タンパク質でトランス活性化された領域、および短縮型の転写活性プロモーターが由来する全長プロモーターの最小プロモーター領域を含む、短縮型の転写活性プロモーターであり得る。プロモーターは、最小プロモーターに対応するDNA配列と上流の調節配列の会合から構成され得る。最小プロモーターは、CAP部位+TATAボックス(基礎レベルの転写;非調節レベルの転写のための最小配列)から構成される;「上流調節配列」は、上流エレメントおよびエンハンサーから構成される。さらに、用語「短縮型」は、全長プロモーターが完全に存在しない、すなわち全長プロモーターの一部が除去されていることを示す。そして、短縮型プロモーターは、ヘルペスウイルス、例えばMCMVまたはHCMV、例えば、HCMV-IEまたはMCMV-IEに由来し得る。塩基対に基づいて、全長プロモーターから最大40%、さらには最大90%のサイズの減少があり得る。
【0064】
プロモーターはまた、改変された非ウイルスプロモーターであり得る。HCMVプロモーターに関しては、米国特許第5,168,062号および第5,385,839号を参照されたい。発現のためのプラスミドDNAの細胞へのトランスフェクトに関しては、Felgner et al. (1994), J. Biol. Chem. 269, 2550-2561を参照されたい。そして、様々な感染症に対する簡便かつ効果的なワクチン接種の方法としてのプラスミドDNAの直接注射に関しては、Science, 259:1745-49, 1993を参照されたい。それゆえ、ベクターがベクターDNAの直接注入によって使用され得ることは、本開示の範囲内である。
【0065】
また、短縮型の転写活性プロモーターを含む組換えウイルスまたはプラスミドに挿入され得る発現カセットが開示される。発現カセットは、機能的な短縮型のポリアデニル化シグナルをさらに含み得る;例として、短縮型であるが機能的であるSV40ポリアデニル化シグナル。自然がより大きなシグナルを提供したことを考慮すれば、短縮型のポリアデニル化シグナルが機能性であることは実に驚くべきことである。短縮型のポリアデニル化シグナルは、CMVのような組換えウイルスの挿入サイズ制限の問題に対処する。発現カセットはまた、それが挿入されるウイルスまたは系に対して異種DNAを含み得る;また、そのDNAは、本明細書に記載の異種DNAであり得る。
【0066】
ワクチン組成物または免疫学的組成物において使用するための抗原に関しては、Stedman's Medical Dictionary (24th edition, 1982)、例えば、ワクチンの定義(ワクチン製剤において使用される抗原のリストについて)も参照されたい;このような関心対象の抗原またはそれらの抗原由来のエピトープが使用され得る。異種抗原に関しては、当業者は、異種抗原およびそのコードDNAを、ペプチドまたはポリペプチドのアミノ酸配列および対応するDNA配列の知識から、ならびに特定のアミノ酸の性質(例えば、サイズ、電荷など)およびコドン辞書から、過度の実験を行うことなしに選択してよい。
【0067】
抗原のTエピトープを決定する1つの方法は、エピトープマッピングを包含する。異種抗原の重複ペプチドは、オリゴペプチド合成によって生成される。個々のペプチドは、次いで、天然タンパク質によって誘発される抗体に結合する能力、またはT細胞もしくはB細胞活性化を誘導する能力について試験される。T細胞はMHC分子と複合体を形成した短い線状のペプチドを認識するので、このアプローチは、T細胞エピトープをマッピングする上で特に有用であった。
【0068】
異種抗原に対する免疫応答は、一般に、以下のとおり生成される:タンパク質がより短いペプチドに切断されて、別の細胞の表面上に位置する「主要組織適合抗原複合体(MHC)」と呼ばれる複合体に提示されるときだけ、T細胞はタンパク質を認識する。MHC複合体には2つのクラス(クラスIおよびクラスII)があり、そして、各クラスは多くの異なるアレルで構成されている。異なる種、および個々の対象は、異なるタイプのMHC複合体アレルを有する;これらは、異なるMHCタイプを有すると言われる。
【0069】
異種抗原をコードする配列を含むDNAがそれ自体、CMVベクターにおいて発現を駆動するためのプロモーターを含み得るか、または、該DNAが異種抗原のコードDNAに限定され得ることに留意されたい。この構築物は、内在性CMVプロモーターに対して相対的に、プロモーターに機能的に連結され、それによって発現されるような配向に位置され得る。さらに、異種抗原をコードするDNAの複数のコピー、または強力なもしくは初期プロモーターまたは初期および後期プロモーターの使用、またはそれらの任意の組合せを、発現を増幅または増加させるために行ってよい。したがって、異種抗原をコードするDNAは、CMV内在性プロモーターに対して好適に配置され得るか、またはそれらのプロモーターは、異種抗原をコードするDNAと共に別の位置に挿入されるべく移行され得る。1つより多い異種抗原をコードする核酸がCMVベクターにパッケージングされ得る。
【0070】
さらに、開示のCMVベクターを含有する薬学的組成物および他の組成物が開示される。このような薬学的組成物および他の組成物は、当技術分野において公知の任意の投与手順で使用されるべく製剤され得る。このような薬学的組成物は、非経口経路(皮内、筋肉内、皮下、静脈内など)を介するものであり得る。投与はまた、粘膜経路、例えば、経口、経鼻、生殖器などを介するものであり得る。
【0071】
開示の薬学的組成物は、薬学的分野の当業者に周知の標準技術に従って調製され得る。このような組成物は、特定の患者の血統または種、年齢、性別、体重、および状態、ならびに投与経路のような要因を考慮して、医学分野の当業者に周知の投与量および技術で投与され得る。組成物は、単独で投与されてもよいし、または他のCMVベクターとまたは他の免疫学的組成物、抗原性組成物、ワクチン組成物もしくは治療組成物と同時投与または逐次投与されてもよい。このような他の組成物は、精製された天然抗原もしくはエピトープ、または組換えCMVまたは別のベクター系による発現からの抗原もしくはエピトープを含み得;かつ、上述の要因を考慮して投与される。
【0072】
組成物の例は、開口部(例えば、経口、経鼻、肛門、生殖器、例えば、膣内など)投与用の液体調製物、例えば、懸濁剤、シロップ剤またはエリキシル剤;および、非経口、皮下、皮内、筋肉内または静脈内投与(例えば、注射投与)用の調製物、例えば、滅菌懸濁液または乳剤を含む。このような組成物において、組換え体は、滅菌水、生理食塩水、グルコースなどの好適な担体、希釈剤、または賦形剤との混合物であり得る。
【0073】
抗原性組成物、免疫学的組成物、またはワクチン組成物は、典型的には、アジュバントと、所望の応答を誘発する量のCMVベクターまたは発現産物とを含有し得る。ヒト用途では、ミョウバン(リン酸アルミニウムまたは水酸化アルミニウム)が典型的なアジュバントである。サポニンおよびその精製された成分であるQuil A、フロイント完全アジュバントならびに研究および獣医学用途で使用される他のアジュバントは、ヒトワクチンでの使用の可能性を制限する毒性を有する。化学的に定義された調製物、例えばムラミルジペプチド、モノホスホリルリピドA、リン脂質コンジュゲート、例えばGoodman-Snitkoff et al. J. Immunol. 147:410-415 (1991)に記載されるもの、Miller et al., J. Exp. Med. 176:1739-1744 (1992) に記載されるとおりのプロテオリポソーム内のタンパク質のカプセル封入、およびNovasome脂質小胞(Micro Vescular Systems, Inc., Nashua, N.H.)のような脂質小胞へのタンパク質のカプセル封入も使用され得る。
【0074】
組成物は、非経口(例えば、筋肉内、皮内または皮下)投与または開口部投与、例えば、舌下(例えば、経口)、胃内、粘膜(口腔内、肛門内、膣内などを含む)投与による免疫化のため単一の剤形にパッケージングされ得る。そしてこの場合も、有効な投与量および投与経路は、組成物の性質、発現産物の性質、組換えCMVが直接使用されるときの発現レベル、ならびに公知の要因、例えば宿主の血統または種、年齢、性別、体重、状態および性質、さらにはLD50および公知であり過度の実験を必要としない他のスクリーニング手順によって決定される。発現産物の投与量は、数~数百マイクログラム、例えば、5~500μgの範囲であり得る。CMVベクターは、これらの投与量レベルで発現を達成するための任意の好適な量で投与され得る。非限定的な例では、CMVベクターは、少なくとも102 pfuの量で投与され得る;したがって、CMVベクターは、少なくともこの量で;または約102 pfu~約107 pfuの範囲で投与され得る。他の好適な担体または希釈剤は、防腐剤を含むまたは含まない、水または緩衝生理食塩水であり得る。CMVベクターは、投与の時点で再懸濁するために凍結乾燥してもよいし、溶液中にあってもよい。「約」は、規定の値の1%、5%、10%、または20%以内を意味し得る。
【0075】
本開示のタンパク質およびそれらをコードする核酸が本明細書に例示および記載される正確な配列とは異なり得ることが理解されるべきである。したがって、配列が本開示の方法に従って機能する限り、本開示は、示される配列に対する欠失、付加、短縮、および置換を企図する。これに関して、置換は、一般に、本来保存的である、すなわちアミノ酸のファミリー内で起こる置換である。例えば、アミノ酸は、一般に、4つのファミリーに分けられる:(1)酸性-アスパラギン酸およびグルタミン酸;(2)塩基性-リジン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性-アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;および(4)非荷電極性-グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、およびチロシン。フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンは、芳香族アミノ酸に分類されることがある。イソロイシンもしくはバリンによるロイシンの単独置換、またはその逆;グルタミン酸によるアスパラギン酸の単独置換、またはその逆;セリンによるトレオニンの単独置換、またはその逆;または構造的に関連するアミノ酸によるアミノ酸の同様の保存的置換が生物活性に大きな影響を及ぼさないことは、合理的に予測可能である。記載のタンパク質と実質的に同じアミノ酸配列を有するが、タンパク質の免疫原性に実質的に影響を及ぼさない小さいアミノ酸置換を保有するタンパク質は、それゆえ、本開示の範囲内である。
【0076】
本開示のヌクレオチド配列は、コドン最適化され得、例えば、コドンは、ヒト細胞で使用するために最適化され得る。例えば、任意のウイルスまたは細菌の配列は、そのように変更され得る。HIVおよび他のレンチウイルスを含む多くのウイルスは、多数の珍しいコドンを使用し、そして、これらのコドンを所望の対象において一般に使用されるコドンに対応するように変更することによって、異種抗原の増強された発現が達成され得る(Andre et al., J. Virol. 72:1497-1503, 1998に記載のとおり)。
【0077】
CMVベクターの機能的および/または抗原性に等価なバリアントおよび誘導体をコードするヌクレオチド配列ならびにその中に含まれる糖タンパク質が企図される。これらの機能的に等価なバリアント、誘導体、および断片は、抗原活性を保持する能力を提示する。例として、コードされるアミノ酸配列を変化させないDNA配列の変化、ならびにアミノ酸残基の保存的置換、1つまたは少数のアミノ酸の欠失または付加、およびアミノ酸類似体によるアミノ酸残基の置換をもたらす変化は、コードされるポリペプチドの性質に有意に影響を及ぼさない変化である。保存的アミノ酸置換は、グリシン/アラニン;バリン/イソロイシン/ロイシン;アスパラギン/グルタミン;アスパラギン酸/グルタミン酸;セリン/トレオニン/メチオニン;リジン/アルギニン;およびフェニルアラニン/チロシン/トリプトファンである。一態様において、バリアントは、関心対象の抗原、エピトープ、免疫原、ペプチドまたはポリペプチドと少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の相同性または同一性を有する。
【0078】
配列同一性または相同性は、配列のギャップを最小限にしながら重複および同一性を最大限にするように整列させたときに、配列を比較することによって決定される。特に、配列同一性は、多数の数学的アルゴリズムのいずれかを使用して決定され得る。2つの配列の比較に使用される数学的アルゴリズムの非限定例は、Karlin & Altschul, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1990; 87: 2264-2268(Karlin & Altschul, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1993;90: 5873-5877と同様に改変された)のアルゴリズムである。
【0079】
配列の比較に使用される数学的アルゴリズムの別の例は、Myers & Miller, CABIOS 1988;4: 11-17のアルゴリズムである。このようなアルゴリズムは、GCG配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを利用するとき、PAM120重量残基表、12のギャップ長ペナルティ、および4のギャップペナルティが使用され得る。局所的な配列類似性およびアラインメントの領域を同定するためのなお別の有用なアルゴリズムは、Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1988; 85: 2444-2448に記載のとおりのFASTAアルゴリズムである。
【0080】
本開示に係る使用に有利なものは、WU-BLAST(Washington University BLAST)バージョン2.0ソフトウェアである。いくつかのUNIXプラットフォーム用のWU-BLASTバージョン2.0実行可能プログラムは、ftp://blast.wustl.edu/blast/executablesからダウンロードされ得る。このプログラムは、WU-BLASTバージョン1.4に基づき、これはパブリックドメインNCBI-BLASTバージョン1.4に基づく(Altschul & Gish, 1996, Local alignment statistics, Doolittle ed., Methods in Enzymology 266: 460-480; Altschul et al., Journal of Molecular Biology 1990; 215: 403-410; Gish & States, 1993; Nature Genetics 3: 266-272; Karlin & Altschul, 1993; Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-5877;その全ては、参照によって本明細書に組み入れられる)。
【0081】
本開示の様々な組換えヌクレオチド配列ならびに抗体および/または抗原は、標準的な組換えDNAおよびクローニング技術を使用して作製される。このような技術は、当業者に周知である。例えば、"Molecular Cloning: A Laboratory Manual", second edition (Sambrook et al. 1989)を参照されたい。
【0082】
本開示のヌクレオチド配列は、「ベクター」に挿入され得る。用語「ベクター」は、当業者に広く使用および理解されており、そして、本明細書において使用される場合、用語「ベクター」は、当業者に向けたその意味と合致するよう使用される。例えば、用語「ベクター」は、1つの環境から別の環境への核酸分子の移入を許容もしくは容易にするか、または核酸分子の操作を許容もしくは容易にするビヒクルを指すものとして当業者によって一般的に使用される。
【0083】
本開示のウイルスの発現を可能にする任意のベクターが、本開示に従って使用され得る。特定の態様において、開示されるウイルスは、コードされた異種抗原(例えば、病原体特異的抗原、HIV抗原、腫瘍抗原、および抗体)を産生するため、インビトロにおいて(例えば、無細胞発現系を使用して)および/またはインビトロで増殖させた培養細胞において使用され、それはその後、タンパク質性ワクチンの生産におけるような様々な用途に使用され得る。このような用途では、インビトロおよび/または培養細胞におけるウイルスの発現を可能にする任意のベクターが使用され得る。
【0084】
開示される異種抗原が発現されるために、異種抗原のタンパク質コード配列は、タンパク質の転写および翻訳を指令する調節または核酸制御配列に「機能的に連結される」べきである。本明細書において使用される場合、コード配列および核酸制御配列またはプロモーターは、コード配列の発現または転写および/もしくは翻訳を核酸制御配列の影響または制御下に置くようにこれらが共有結合されているときに、「機能的に連結されている」と言われる。「核酸制御配列」は、任意の核酸エレメント、例えば、限定されないが、プロモーター、エンハンサー、IRES、イントロン、miRNA認識エレメント(MRE)および機能的に連結されている核酸配列またはコード配列の発現を指令する本明細書に記載の他のエレメントであり得る。用語「プロモーター」は、本明細書において、RNAポリメラーゼIIの開始部位周辺に集まりかつ本開示のタンパク質コード配列に機能的に連結されたときにコードされたタンパク質の発現を導く、転写制御モジュールの一群を指すものとして使用される。本開示の導入遺伝子の発現は、いくつかの特定の外部刺激、例えば、非限定的に、テトラサイクリンのような抗生物質、エクジソンのようなホルモン、または重金属に曝露されたときにのみ転写を開始する、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターの制御下にあり得る。プロモーターはまた、特定の細胞タイプ、組織または臓器に特異的であり得る。多くの好適なプロモーターおよびエンハンサーが当技術分野で公知であり、任意のこのような好適なプロモーターまたはエンハンサーが本開示の導入遺伝子の発現に使用され得る。例えば、好適なプロモーターおよび/またはエンハンサーは、真核生物プロモーターデータベース(EPDB: Eukaryotic Promoter Database)から選択され得る。
【0085】
本開示は、異種タンパク質抗原を発現する組換えウイルスベクターに関する。いくつかの例では、抗原は、HIV抗原である。有利なことには、HIV抗原は、限定されないが、米国特許出願公開第2008/0199493 A1号および同第2013/0136768 A1号(そのいずれも、参照によって本明細書に組み入れられる)に考察されているHIV抗原を含む。HIV、その核酸または免疫原性断片は、HIVタンパク質抗原として利用され得る。例えば、米国特許出願公開第2008/0199493 A1号および同第2013/0136768 A1号に考察されているHIVヌクレオチドが使用され得る。HIV抗体によって認識される任意の抗原が、HIVタンパク質抗原として使用され得る。タンパク質抗原はまた、SIV抗原であり得る。例えば、米国特許出願公開第2008/0199493 A1号および同第2013/0136768 A1号に考察されているSIV抗原が使用され得る。
【0086】
本開示に従って使用されるベクターは、抗原が発現され得るような、好適な遺伝子調節領域、例えばプロモーターまたはエンハンサーを含有し得る。
【0087】
例えば、HIV-1抗原に対する免疫応答および/またはHIV-1に対する防御的免疫を生成するために、本開示の抗原を対象においてインビボ発現させることには、その対象での発現に好適でありかつインビボでの使用に安全である発現ベクターが選択されるべきである。いくつかの例では、例えば本開示のHIV-1免疫原性組成物およびワクチンの前臨床試験のために、実験動物において抗体および/または抗原を発現させることが望ましい場合がある。他の例では、例えば本開示の免疫原性組成物およびワクチンの臨床試験においておよび実際の臨床使用のために、ヒト対象において抗原を発現させてよい。
【0088】
宿主内および宿主間拡散を防止して、それによってウイルスが、CMV感染の結果として合併症に直面することもあり得る免疫不全対象または他の対象で拡散または感染できないようにし得る突然変異を、本明細書に記載のCMVベクターは含有し得る。本明細書に記載のCMVベクターはまた、免疫優性および非免疫優勢エピトープならびに従来とは異なるMHC拘束の提示をもたらす突然変異も含有し得る。しかしながら、本明細書に記載のCMVベクターにおける突然変異は、過去にCMVに感染した対象に再感染するベクターの能力に影響を及ぼさない。このようなCMV突然変異は、例えば、米国特許出願公開公報第2013-0136768号;同第2010-0142823号;同第2014-0141038号;およびPCT出願公開公報WO 2014/138209(その全ては、参照によって本明細書に組み入れられる)に記載されている。
【0089】
開示されるCMVベクターは、例えば、その目的が、高い割合のCD8+T細胞応答がMHCクラスII(またはそのホモログもしくはオーソログ)に拘束されることによって特徴付けられる免疫応答を含む、CD8+免疫応答を含む、免疫原性応答を生成する場合に、インビボ投与され得る。例えば、いくつかの例では、RhCMVを使用した免疫原性組成物およびワクチンの前臨床試験のために実験動物、例えばアカゲザルにおいて開示されるCMVベクターを使用することが望ましい場合がある。他の例では、開示されるCMVベクターを、例えばHCMVを使用した免疫原性組成物の臨床試験においておよび実際の臨床使用のために、ヒト対象において使用することが望ましいであろう。
【0090】
このようなインビボ適用のために、開示されるCMVベクターは、薬学的に許容される担体をさらに含む免疫原性組成物の成分として投与される。本開示の免疫原性組成物は、病原体特異的抗原を含む異種抗原に対する免疫応答を刺激するために有用であり、かつ、AIDSの防止、寛解または治療のためのHIV-1に対する予防用または治療用ワクチンの1つまたは複数の成分として使用され得る。本開示の核酸およびベクターは、抗原がその後に対象において発現されて免疫応答を誘発するような、遺伝子ワクチン、すなわち、本開示の抗原をコードする核酸を対象、例えばヒトに送達するためのワクチンを提供するために特に有用である。
【0091】
免疫化スケジュール(または計画)は、動物(ヒトを含む)に対しては周知であり、かつ、特定の対象および免疫原性組成物について容易に決定され得る。よって、免疫原は対象に1回または複数回投与され得る。好ましくは、免疫原性組成物の別々の投与の間には一定の時間間隔がある。この間隔は対象毎に変動するが、典型的には、それは10日から数週の範囲であり、多くの場合、2、4、6または8週間である。ヒトについて、間隔は、典型的には、2~6週間である。本開示の特に有利な態様において、間隔は、より長く、有利には約10週間、12週間、14週間、16週間、18週間、20週間、22週間、24週間、26週間、28週間、30週間、32週間、34週間、36週間、38週間、40週間、42週間、44週間、46週間、48週間、50週間、52週間、54週間、56週間、58週間、60週間、62週間、64週間、66週間、68週間または70週間である。免疫化計画は、典型的には、1~6回の免疫原性組成物の投与を有するが、わずか1回または2回または4回の投与を有してよい。免疫応答を誘導する方法はまた、アジュバントと免疫原の投与も含み得る。いくつかの例では、年に1回、年に2回または他の長い間隔(5~10年)のブースター免疫が、初期免疫化プロトコルを補完し得る。本方法はまた、様々なプライムブースト計画も含む。これらの方法では、1回または複数回のプライミング免疫の後に1回または複数回のブースト免疫が続く。実際の免疫原性組成物は、各免疫化に対して同じであっても異なっていてもよく、そして、免疫原性組成物のタイプ(例えば、タンパク質または発現ベクターを含有する)、経路、および免疫原の製剤化も変更され得る。例えば、発現ベクターがプライミングおよびブースト工程に使用される場合、それは同じタイプまたは異なるタイプ(例えば、DNAまたは細菌またはウイルスの発現ベクター)のいずれかであり得る。1つの有用なプライムブースト計画は、4週間離れた2回のプライミング免疫と、それに続く、最後のプライミング免疫の4週および8週間後の2回のブースト免疫とを提供する。また、プライミングおよびブースト計画を提供するために、本開示のDNA、細菌およびウイルス発現ベクターを使用した数種の置換および組み合わせが包含されることも当業者に明白であるはずである。CMVベクターは、異なる病原体に由来する異なる抗原を発現する間、繰り返し使用され得る。
【実施例】
【0092】
実施例1-マイクロRNA認識エレメント(MRE)を含むCMVベクター
RhCMV系ベクターの骨髄系列細胞における複製能を制限するために、骨髄特異的miRNA miR-142 3pを発現するようにCMVを操作した。必須のRhCMV遺伝子の3’UTRへのmiR-142 3p標的部位の挿入によって、miRNAを発現する細胞における標的ウイルスmRNAの分解に起因して、ウイルス複製の阻害がもたらされるだろうと仮定した。
【0093】
miR-142 3p miRNAは、3匹の動物の末梢血に由来するアカゲザルマクロファージにおいて高度に発現される(
図1)。全血を分画し、磁気細胞選別を使用してCD14ビーズでCD14陽性細胞を単離した。CD14陽性細胞を、M-CSFを含有するRPMIに、またはRPMIおよびM-CSF条件RPMIの1:1混合物に入れた。7日後、CD14陽性細胞は、組織培養プレートに付着し、より成熟したマクロファージに分化した。これらの細胞をTrizolで採取し、標準手順を使用してRNAを単離した。アカゲザル線維芽細胞由来のRNAも単離し、そして、miR-142 3pについてのqRT-PCRを全ての試料に対して実施した。これらのデータは、アカゲザル線維芽細胞と比較してアカゲザル骨髄系列細胞がはるかに高いレベルのmiR-142 3pを発現することを実証しており、必須のRhCMV転写産物を標的とすべくこのmiRNAを使用する論理的根拠を提供する。
【0094】
他の細胞タイプにおけるmiR-142 3pの発現をより良く理解するために、Trizolを使用して様々なホモジナイズした胎児組織および成体組織からRNAを単離した(
図2)。miRNA模倣体を標準対照として使用してmiR-142-3pについてのqRT-PCRを実施した。miR-142-3pの最高の発現(約10
7コピー/RNA 10ng)が、多数の骨髄細胞(胎児の脾臓、リンパ球および肝臓を含む)を通常含有する組織、ならびに成体の肺において検出された。したがって、miR-142-3p発現は、様々な組織において検出可能である。しかしながら、miRNAが常在または循環する骨髄系列細胞から生じたかまたはその組織において他の細胞タイプから発現されるかは不明であった。これらのデータは、骨髄系列細胞におけるワクチンベクターの複製を制限することが、多種多様な組織へのベクターの伝播を防止し得ることを実証している。
【0095】
上記データは、miR-142-3pがアカゲザル骨髄系列細胞において高度に発現されることを実証しているので、ワクチンベクター指向性を、宿主制限因子としてmiR-142-3pを使用して変更させた。Rh156(HCMV IE2と相同な必須の前初期遺伝子)およびRh108(HCMV UL79と相同な必須の初期遺伝子)の3’UTR内にmiR-142-3p標的部位を含有するRhCMV 68-1(UL128/UL130欠失)ウイルスおよび68-1.2(UL128/UL130インタクト)ウイルスを作製した。これらのベクターは、EF1αプロモーターの制御下のSIV、例えば、SIVgagまたはSIV retanefに由来する異種抗原を遺伝子Rh211に挿入することによって、この抗原を追加で発現した。
【0096】
miR-142-3pレベルが高い細胞において、miR-142-3pがRh156およびRh108の3’UTRに結合してmRNAを分解し、したがってウイルス複製を重度に阻害するので、このウイルスは、増殖が重度に制限されるだろう。galK媒介性BAC組換えを使用して、galK選択カセットをRh156の3’UTR内に挿入し、次いで、8つのランダムヌクレオチドによって分離される4コピーのmiR-142-3p結合部位を含有する人工カセットと交換した。次いで、第二シリーズの組換えを実施し、それによってgalKカセットをRh108の3’UTRに挿入し、これを上記のとおりの人口カセットと交換した(
図10、3A、11A)。挿入部位と隣接する領域に対して設計されたプライマーを用いたPCRおよびその後のPCR産物の配列決定を使用して、成功した組換えを確認した。精製されたBAC DNAのXmaI消化とそれに続くアガロースゲルでの電気泳動を使用して、BACゲノムの完全性を評価した(
図3B、11B)。その後、インタクトなBAC DNAを初代アカゲザル線維芽細胞にエレクトロポレーションし、個々のウイルスプラークを単離し、合計三継代繁殖させた。ウイルスDNAを各段階で上清から単離し、その部位と隣接するプライマーを使用したPCRおよびPCR産物の配列決定によって、miR-142-3pカセットの維持について評価した(
図3C、11A)。
【0097】
次いで、上記BAC組換えから産生された68-1および68-1.2 Rh156/Rh108ウイルスを、多段階増殖曲線を使用してmiR-142-3pの存在下での増殖について分析した(
図4、9)。アカゲザル線維芽細胞に、Lipofectamine 2000(登録商標)を使用して、陰性対照miRNAまたはmiR-142 3p模倣体のいずれかをトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、細胞に、野生型68-1または68-1 Rh156/Rh108 miR-142-3p突然変異体のいずれかを0.01のMOIで感染させた(
図4)。あるいは、トランスフェクションの2日後、細胞に、野生型68-1.2または68-1.2 Rh156/Rh108 miR-142-3p突然変異体のいずれかを0.01のMOIで感染させた(
図9)。細胞ペレットおよび上清を表示の時間に採取し、初代アカゲザル線維芽細胞で力価測定した。miR-142-3p模倣体の存在は、WTウイルスの増殖に全く影響を及ぼさなかった。重要なことに、68-1 Rh156/Rh108 miR-142-3pおよび68-1.2 Rh156/Rh108 miR-142-3p突然変異体ウイルスは、陰性対照miRNAの存在下ではいかなる増殖欠陥も示さなかったが、miR-142-3pの存在下では増殖を重度に阻害した。例えば、miR-142-3pの存在は、68-1 Rh156/Rh108 miR-142-3p突然変異体ウイルスのウイルス力価を最大4ログまで低下させたが、野生型68-1ウイルスのウイルス力価には影響がなかった(
図4)。それゆえ、miR-142-3p標的部位が2つの必須遺伝子の3’UTRへと操作されたウイルスは、miRNAの存在下でインビトロ増殖を重度に制限したが、このことは、miR-142-3pレベルが本来高いインビボの骨髄系列の細胞においてこのウイルスが複製できないことを指摘している。
【0098】
エクスビボで誘導されたアカゲザルマクロファージにおける68-1 Rh156/Rh108 miR-142-3pウイルスの複製能を試験した(
図5)。アカゲザル末梢血由来のCD14+細胞を、上記のとおり単離および分化させ、WTウイルスまたは68-1 Rh156/Rh108 miR-142 3pウイルスを10のMOIで感染させた。感染の8時間後ならびに5および10日後にRh87およびGAPDH(対照として)についてqPCRを使用してウイルスDNAレベルを評価した。ウイルスDNAレベルは、WTウイルスを感染させた細胞において時間と共に増加したが、突然変異体ウイルスを感染させた細胞ではウイルスDNAの増加はほとんど検出されなかった。これらのデータは、ウイルスゲノムに挿入されたmiR-142-3p標的部位がアカゲザルマクロファージにおいてウイルス複製を制限することを指摘しており、miR-142-3pがこの細胞タイプにおいて強い宿主制限因子として作用することのさらなる証拠である。
【0099】
miR-142-3p拘束性ウイルスの免疫原性をインビボで評価した。最初に、2匹の成体動物に、68-1 RhCMV Rh156/Rh108 miR-142 3p/SIVrtnウイルス(また、EF1αプロモーターの制御下にRTN導入遺伝子(SIV rev、tatおよびnefの融合体)を含有する)を感染させ、末梢血CD4+およびCD8+メモリーT細胞を単離して、重複RTNペプチドに対する応答について分析した(
図6)。両方の動物は、導入遺伝子に対するロバストな長期のCD4およびCD8 T細胞応答を誘発したが、このことは、miR-142-3p標的部位の導入によってワクチンベクターの免疫原性全体が損なわれないことを指摘している。
【0100】
次いで、68-1.2 RhCMV Rh156/Rh108 miR-142-3p/SIVgagウイルス(また、EF1αプロモーターの制御下にGAG導入遺伝子を含有する)を感染させた動物の末梢T細胞応答を評価した。
図7および
図14に見られるとおり、このワクチンベクターはまた、ワクチンベクター内にコードされたHIV gagタンパク質に対するロバストかつ長期のCD4+およびCD8+T細胞応答を誘発した。過去に、UL128およびUL130(例えば68-1)を欠いているワクチンベクターが、従来とは異なるMHC-EおよびMHC-II拘束性CD8T細胞応答(全ての感染動物において検出可能であるいわゆる「スーパートープ」応答を含む)を誘発することを実証している。インタクトなUL128およびUL130(例えば68-1.2)を含むベクターでは、従来のMHC-I拘束性CD8 T細胞のみが検出される。
図7および14は、MHC-EおよびMHC-II両方の拘束性「スーパートープ」が68-1.2 Rh156/Rh108 miR-142-3pウイルスを感染させた動物に存在しないことを実証している。
【0101】
しかしながら、予想外なことに、T細胞応答のさらなるエピトープマッピング(
図8および14)を通して、主に従来とは異なるMHC-II拘束性T細胞応答が68-1.2 Rh156/Rh108 miR-142-3p/SIVgagウイルスによって誘発され、比較的少ないMHC-Ia応答が検出されたことが判明した。68-1.2(UL128およびUL130インタクト)の骨髄細胞指向性を変更することによって、その応答が従来のMHC-Iaから従来とは異なるMHC-II拘束性T細胞応答へと切り替えられたが、一方で、MHC-E応答およびMHC-II「スーパートープ」応答の両方は欠如している。これらのデータは、骨髄系列細胞においてウイルス複製を防止することにより、従来とは異なるMHC-II拘束性CD8 T細胞を誘発するための代替法を実証している。加えて、マクロファージがインビボのウイルス伝播において重要な役割を果たしているので、miR-142 3p系ベクターを使用することはワクチンの安全性を改善し得る。
【0102】
また、68-1 RhCMV Rh156/Rh108 miR-142-3p/SIVgagウイルス(また、EF1αプロモーターの制御下にGAG導入遺伝子を含有する)を感染させた動物において末梢T細胞応答を評価した。
図12に見られるとおり、このワクチンベクターはまた、ワクチンベクター内にコードされたHIV gagタンパク質に対するロバストかつ長期のCD4+およびCD8+T細胞応答を誘発する。過去に、UL128およびUL130を欠いている68-1系ベクターが従来とは異なるMHC-EおよびMHC-II拘束性CD8T細胞応答(全ての感染動物において検出可能であるいわゆる「スーパートープ」応答を含む)を誘発することを実証している。しかしながら、
図12は、68-1 RhCMV Rh156/Rh108 miR-142-3pウイルスがMHC-IIに対するスーパートープ応答を誘発する能力を保持したが、このベクターはMHC-Eによって拘束されるスーパートープ応答を誘発できなかったことを実証している。さらに、T細胞応答のさらなるエピトープマッピング(
図13)を通して、68-1 RhCMV Rh156/Rh108 miR-142-3pベクターが、MHC-I拘束性またはMHC-E拘束性CD8+T細胞を伴うことなく、MHC-II拘束性CD8+T細胞応答だけを誘発したことが判明した。したがって、このベクターは、MHC-II拘束性CD8+T細胞のみを誘発する。RhCMVによって誘発されたCD4+T細胞は常にMHC-IIによって拘束されるので、これらのデータは、miR-142-3p標的部位をUL128およびUL130を欠いているベクターに導入することによって、MHC-II拘束性応答(多くの異なる個体の間で共有されるMHC-IIスーパートープ応答を含む)のみを誘発するワクチンを作製することが可能であることを実証している。
【0103】
特定の態様が本明細書において例示および記載されているが、その範囲から逸脱することなく、当業者であれば、同じ目的を達成するよう計算された多種多様な代替および/または等価な態様または実行が、示されかつ記載されている態様と置換されてよいことが認識されよう。当業者であれば、態様が非常に多種多様な方法で実行されてよいことが容易に認識されよう。本出願は、本明細書において考察されている態様のあらゆる適応および変形を網羅することを意図している。それゆえ、態様が特許請求の範囲およびその等価物によってのみ限定されることが明白に意図される。