(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】乳酸菌発酵調味料
(51)【国際特許分類】
A23L 27/10 20160101AFI20220901BHJP
【FI】
A23L27/10 G
(21)【出願番号】P 2018556736
(86)(22)【出願日】2017-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2017044851
(87)【国際公開番号】W WO2018110633
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2016243743
(32)【優先日】2016-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160978
【氏名又は名称】榎本 政彦
(72)【発明者】
【氏名】安松 良恵
(72)【発明者】
【氏名】阿孫 健一
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-243961(JP,A)
【文献】ハイパーミースト,酵母エキス調味料[online],アサヒフードアンドヘルスケア株式会社,2014年08月15日,https://web.archive.org/web/20140815170806/https://www.asahi-fh.com/products/wholesale/yeast-extract02.html,[retrieved on 3/1/2018]
【文献】Journal of Fermentation and Bioengineering,1998年,Vol.85,p.203-208
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現する乳酸菌を、5重量%以上のグルタミン酸を含有する酵母エキス、及びフルクトースを含有する培地で発酵させる工程を有する、マンニトールを含む乳酸菌発酵調味料の製造方法。
【請求項2】
マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現する乳酸菌を、5重量%以上のグルタミン酸を含有する酵母エキス、及びフルクトースを含有する培地で発酵させる工程を有する、マンニトールを5~70重量%含む乳酸菌発酵調味料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌発酵により得られる調味料であり、例えば、昆布エキス様の呈味を示す調味料となるため、昆布風味を付与または増強する調味料として利用することができる調味料を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
昆布は、和食において重要な素材であり、古くから鰹節などと合わせて、だしとして様々な料理に使用されている。また、加工食品においても昆布エキスは味のベースとして広く用いられている。一方で、原料となる昆布は、昨今の地球温暖化などの気象変化により、水揚げ量の変動が問題となっており、価格や品質に大きく影響している。
【0003】
昆布の呈味成分については先行研究があり、マンニトール、グルタミン酸ナトリウム(MSG)、カリウム、アスパラギン酸などである事が知られており、本知見は様々な食品へ応用されている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
中でも、マンニトールは穏やかな甘味を有しており、昆布の甘味を特徴づける成分の一つである。また、精製したマンニトールを食品に添加した場合も、厚みを付与する効果がある。
【0005】
工業的なマンニトールの製造方法としては、触媒を用いてフルクトースを還元して精製、結晶化する方法が知られているが、この方法では高温・高圧条件が必要となるため、危険な作業が伴う問題点がある(特許文献3)。
【0006】
また、微生物の持つ酵素によってフルクトースを還元しマンニトールを製造する方法も検討されている。すなわち、マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現する微生物を使用する方法である。この微生物は、ロイコノストック属乳酸菌が良く使用され、培養液中に産生したマンニトールを精製、結晶化する方法がある。しかし、培養液中に生成したマンニトールを精製せずに、培養液も含めた生産物を調味料化する発想はこれまでに無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-38703号公報
【文献】特開2006-75101号公報
【文献】特表2003-503374号公報
【文献】特表2006-503559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、昆布の味質を特徴づける成分の一つであるマンニトールを高含有した昆布様の呈味を持つ調味料を提供する事である。さらには、ユニークな味質の調味料として幅広い食品に使用する事ができる調味料を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題の解決につき鋭意研究の結果、グルコース、フルクトース、酵母エキス含む培地でマンニトール-2-デヒドロゲナーゼを有する乳酸菌を培養する事により、培養液中にマンニトールが高含有され、かつ、特有で良好な味質を有する調味料が得られる事を見出した。
【0010】
すなわち本発明は、
(1)乳酸菌を用いて製造される、マンニトールを含む乳酸発酵調味料調味料、
(2)前記調味料中のマンニトール含量が5~70重量%である、前記(1)に記載の調味料、
(3)マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現する乳酸菌を、5重量%以上のグルタミン酸を含有する酵母エキス、及びフルクトースを含有する培地で発酵させる工程を有する、(1)又は(2)の調味料の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、乳酸菌の発酵により、培地に使用したフルクトースが酵素的にマンニトールに変換されるとともに、培地に使用した酵母エキスの効果によってユニークな味質の調味料が取得できる。本発明は、昆布エキスに近い味質を有しているが、昆布エキスが持つ、磯臭、生臭さといった独特の風味は有さないため、これまでこの風味に適さない食品にも使用できる。また、昆布と併用することで、昆布エキスの風味を増強することもできる。さらに、本発明では、マンニトールを多く含むため、昆布風味だけでなく、従来よりマンニトールが利用されている用途にも発酵調味料として利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の調味料は、培地にフルクトースと酵母エキスを用い、マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを有する乳酸菌を培養し、その培養上清を濃縮する事により得る事ができる。また、粉末化が必要な場合は、適宜賦形剤を使用する事によって乾燥化が可能である。
【0013】
本発明の昆布エキス様調味料は、マンニトールを含む調味料である。本発明に含有するマンニトール含量は、調味料の用途により適宜調整して良い。通常は、マンニトールを5~70%重量%とする。さらに好ましいマンニトール含量は、20重量%~40重量である。特に好ましくは、25重量%~30重量%である。本発明のマンニトールは、後段のマンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現する乳酸菌により、培地に使用したフルクトースから得られるマンニトールである。そのため、本発明のマンニトール含量は、上記の含量になるよう乳酸菌発酵を行う。マンニトール含量は、デキストリン等の賦形剤で調整することもできる。
【0014】
本発明の調味料製造に用いられる乳酸菌としては、マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現し、食品製造に使用できる乳酸菌であれば、特に制限はない。例えば、ラクトバチルス属、ロイコノストック属など、マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現する乳酸菌を使用する事ができる。
【0015】
本発明の乳酸菌発酵に用いる培地には、酵母エキスを添加する。使用する酵母エキスは、グルタミン酸を5%以上含有するものを用いる。好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上のグルタミン酸を含有する酵母エキスを用いる。培地に添加する当該酵母エキスの含量は、乳酸菌発酵に通常用いる酵母エキスと同様の添加量でよく、任意に調整できる。このような酵母エキスは、トルラ酵母、ビール酵母、パン酵母などを原料に製造される。特にトルラ酵母は、酵母臭が少ないため、本発明では、好適である。また、市販のものを用いても良い。市販の酵母エキスとしては、興人ライフサイエンス社製の「アジトップ」、アサヒグループ食品社製「ハイパーミースト」、富士食品工業の「ハイマックスGL」などがある。特に、トルラ酵母から製造される「アジトップ」が、本発明では、適している。
なお、本発明でのグルタミン酸含量は、乾燥粉末状の酵母エキス中の遊離グルタミン酸をいい、常法に従いアミノ酸分析計L8800(HITACHI製)により測定した。
このような、酵母エキスを培地に用いることで、本発明の乳酸発酵調味料中に、グルタミン酸ナトリウムを含む調味料を得ることができる。本発明の乳酸発酵調味料中のグルタミン酸ナトリウム含量は、培地への酵母エキス添加量により異なるが、本願実施例のような添加量であれば、2重量%以上の含量とすることができる。
【0016】
前段の乳酸菌を発酵させて培地組成として前段の酵母エキス以外に、フルクトースを用いる。また、フルクトースとグルコースを併用することもできる。また、これらを含有する液糖類を用いても良い。
【0017】
本発明の調味料を発酵製造するには、さらに、塩化マグネシウムを添加する。にがりを添加しても良い。
その他、乳酸菌発酵に必要な、窒素源、炭素源、ビタミン類など、通常の乳酸菌発酵の際に、培地に添加される成分を添加してもよい。
【0018】
前述の培地組成物を乳酸菌発酵に一般的に用いる手法で混合する。例えば、100-150g/Lのフルクトース、10-50g/Lの酵母エキスを混合し加熱殺菌する。乳酸菌発酵に必要なミネラルを添加する場合には、0.05-5ml/Lのにがりをさらに混合しても良い。冷却後、乳酸菌を培養する。培地成分として、10-60g/Lのグルコースを併用する事もできる。
【0019】
本発明での培養条件は、乳酸菌発酵で一般的に採用される温度、pHで可能である。使用する菌種によりことなるが、一般的には、20℃~40℃であり、好ましくは、25~30℃で培養する。さらに、半嫌気的条件下が好ましい。培養時は有機酸産生に伴う培養液のpH低下が生じるため、培養時のpHを乳酸菌の生育に好ましいpHに保つよう、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどで調整する。例えば、水酸化ナトリウムを適宜添加し、例えば、pH5.0~6.0になるよう培地pHを調整する。
【0020】
本発明の乳酸菌発酵調味料は、培養上清を回収する事により得る事ができる。具体的には、培養終了後、必要に応じて培地に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いて適宜pH調整を行う。加熱処理を行った後に、遠心分離やフィルター濾過により、菌体を除去し、培養上清を回収することで、本発明品を得ることができる。回収した培養上清はそのままでも良いが、濃縮乾燥させる事も可能である。乾燥方法は、特に限定なく採用でき、スプレードライ法、ドラムドライ法、凍結乾燥法など、公知の乾燥方法を採用できる。
【0021】
本発明における特有の味質とは、マンニトールによる穏やかな甘味と酵母エキスによるうま味によってもたらされるものであり、使用用途に応じて、昆布エキスを連想させたり、厚味を付与したりと、様々な添加効果を発揮させる事ができる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を用いて、本発明を具体的に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。
グルコース60g/L、フルクトース150g/L、「アジトップ(興人ライフサイエンス社製)」50g/L、混合殺菌し培地を作製した。乳酸菌(ロイコノストック シュードメセンテロイデス(ATC12291))はMRS液体培地にて37℃1日の前培養を実施した。2L容量のジャーファーメンターに前記培地1Lと前培養した乳酸菌10mlを入れ、30℃で培養した。エアレーションは実施せず、撹拌回転数70rpmの半嫌気的条件とした。培養中は水酸化ナトリウムで培養液がpH5.3になるようにコントロールし、96時間培養した。培養終了後に水酸化ナトリウムでpH6.0に調整し、90℃10分の加熱実施を行った後に8,000rpm10分の遠心分離を実施し、菌体を分離して培養上清を回収した。回収した上清をエバポレーターにて濃縮し、Brix70%の調味料を取得し、実施例1のサンプルとした。当該サンプル中のマンニトール含量は50 重量%であった。マンニトールの分析にはHPLCを用い、測定条件は、検出器:RI、移動相:超純水、カラム:SUGAR SP0810、カラム温度:80℃、流速:0.7ml/minとした。得られたサンプルにデキストリンを添加し、マンニトール含量が25重量%となるよう調整し、なおデキストリン添加後のグルタミン酸ナトリウム含量は、2.7重量%であった。以下の試験を行った。
【0023】
実施例で得られた調味料1g(乾燥重量として)を100mlのお湯に溶解して官能評価を実施した結果、穏やかな甘味と若干のうまみが感じられ、好ましいものであった。
【0024】
実施例で得られた調味料0.2g(乾燥重量として、うちマンニトール25重量%)を100mlの白だしに添加して官能評価を実施した結果、だしに自然な厚みが付与され、好ましいものであった。一方で、0.1gのマンニトールのみを100mlの白だしに添加した時は、若干の甘味付与効果が得られたものの、実施例のような厚味付与効果にはやや劣っていた。
【0025】
実施例で得られた調味料0.2g(乾燥重量として)を100mlの昆布だしに添加したところ、昆布特有の甘味が増強し、昆布だしの濃度が高くなったように感じられた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上説明してきたように、本発明によると、マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを有する乳酸菌をフルクトース、酵母エキスを含む培地で培養する事により、マンニトールを高含有し、さらに、グルタミン酸を高含有する酵母エキスを培地成分とし乳酸菌発酵調味料を製造することで、昆布風味を増強することや、マンニトールだけでなく、グルタミン酸高含有酵母エキスを由来とするアミノ酸等により食品に添加した場合、自然な風味を付与できる調味料を提供することができる。