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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】端子、および端子付き電線
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/18 20060101AFI20220901BHJP
【FI】
H01R4/18 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019109704
(22)【出願日】2019-06-12
(65)【公開番号】P2020202128
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 照雄
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 治
(72)【発明者】
【氏名】田端 正明
(72)【発明者】
【氏名】松井 元
(72)【発明者】
【氏名】小林 浩
(72)【発明者】
【氏名】天川 武史
【審査官】松原 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-223656(JP,A)
【文献】特開平4-147580(JP,A)
【文献】特開2005-50736(JP,A)
【文献】特開2019-75328(JP,A)
【文献】特開2019-79674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/18
H01R 4/50
H01R 43/048
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線と接続される端子であって、
端子本体と、シェルと、を備え、
前記端子本体は前記電線を挟む挟持部を有し、
前記シェルは、前記挟持部を覆う筒部を有するとともに、前記筒部の内壁から突出して設けられ前記挟持部を前記電線に向かって押圧する加圧部を有し、
前記筒部は、底壁と、前記底壁の一方の側縁から立ち上がる第1側壁と、前記底壁の他方の側縁から立ち上がる第2側壁と、前記第1側壁から前記第2側壁に向けて延びるとともに前記底壁と対向する天井壁と前記第2側壁から前記第1側壁に向けて延びるともに前記天井壁の外方に重なる押え部と、を有する端子。
【請求項2】
前記押え部は前記第1側壁に沿いつつ前記底壁に向かって屈曲する屈曲部を有し、
前記第1側壁は前記屈曲部を受け入れる受け凹部を有し、
前記屈曲部は、前記受け凹部の孔縁と係合する屈曲係合部を有する、請求項1に記載の端子。
【請求項3】
前記屈曲係合部は、前記屈曲部の幅方向の両側に突出して形成されている、請求項2に記載の端子。
【請求項4】
前記天井壁は前記第2側壁に向かって突出する係合突片を有し、前記第2側壁は前記係合突片を受け入れる係合孔を有する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の端子。
【請求項5】
前記加圧部は、前記底壁および前記天井壁の少なくとも一方に設けられている、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の端子。
【請求項6】
前記シェルは、前記端子本体に対して、前記電線の延び方向に沿ってスライド可能に配されている請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の端子。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の端子と、
前記端子に接続された電線と、を備えた端子付き電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来より、電線の端末から露出する芯線に端子が接続された端子付き電線が知られている。このような端子として、例えば、電線の端末から露出する芯線に外側から圧着する圧着部を備えるものがある。
【0002】
上記の端子を電線に圧着するには、例えば以下のようにする。まず、金属板材をプレス加工することにより所定の形状の端子を成形する。続いて、上下方向に相対移動可能な一対の金型のうち下側に位置する下型の載置部に、端子を載置する。続いて、電線の端末から露出された芯線を、端子の圧着部に重ねて載置する。その後、一対の金型の一方又は双方を互いに接近する方向に移動させ、上型の圧着部と、下型の載置部との間で圧着部を挟み付けることにより、圧着部を電線の芯線に圧着する。以上により、電線の端末に端子が接続される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-50736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の圧着部に代えて、電線を挟んで接続するとした場合、電線を挟持する挟持部を有する端子本体と、挟持部の外側に配されたシェルとの2部品で端子を構成することがあり得る。この場合、シェルによって挟持部を電線に向かって押圧させることにより、端子と電線とを接続する。このため、シェルが電線からの反力によって開かないようにすることが求められる。
【0005】
本明細書に開示された技術は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、シェルが開くことが抑制された端子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、電線と接続される端子であって、端子本体と、シェルと、を備え、前記端子本体は前記電線を挟む挟持部を有し、前記シェルは、前記挟持部を覆う筒部を有するとともに、前記筒部の内壁から突出して設けられ前記挟持部を前記電線に向かって押圧する加圧部を有し、前記筒部は、底壁と、前記底壁の一方の側縁から立ち上がる第1側壁と、前記底壁の他方の側縁から立ち上がる第2側壁と、前記第1側壁から前記第2側壁に向けて延びるとともに前記底壁と対向する天井壁と前記第2側壁から前記第1側壁に向けて延びるともに前記天井壁の外方に重なる押え部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、シェルが開くことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示にかかる端子付き電線を示す分解断面図である。
図2図2は、端子付き電線を示す断面図である。
図3図3は、端子付き電線を示す斜視図である。
図4図4は、端子付き電線を示す左側面図である。
図5図5は、端子付き電線を示す右側面図である。
図6図6は、図4におけるVI-VI線断面図である。
図7図7は、スライド部を示す斜視図である。
図8図8は、スライド部を形成する金属板材を示す斜視図である。
図9図9は、金属板材が曲げ加工されたことにより、底壁と、左側壁と、右側壁とが形成された状態を示す斜視図である。
図10図10は、屈曲部が屈曲させられる前の工程を示す斜視図である。
図11図11は、仮想的な技術にかかる端子を示す断面図である。
図12図12は、仮想的な技術にかかるスライド部が開いた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様が列挙されて説明される。
【0010】
(1)本開示は、電線と接続される端子であって、端子本体と、シェルと、を備え、前記端子本体は前記電線を挟む挟持部を有し、前記シェルは、前記挟持部を覆う筒部を有するとともに、前記筒部の内壁から突出して設けられ前記挟持部を前記電線に向かって押圧する加圧部を有し、前記筒部は、底壁と、前記底壁の一方の側縁から立ち上がる第1側壁と、前記底壁の他方の側縁から立ち上がる第2側壁と、前記第1側壁から前記第2側壁に向けて延びるとともに前記底壁と対向する天井壁と前記第2側壁から前記第1側壁に向けて延びるともに前記天井壁の外方に重なる押え部と、を有する。
【0011】
加圧部が筒部の内壁に設けられているので、筒部には、加圧部を介して電線から大きな力が加えられる。このように、筒部の内部から外部へ向かう力が加えられるので、筒部が開くおそれがある。本開示においては押え部が天井壁の外方から天井壁を押さえることにより、天井壁に対して上方に開かせようとする力が電線から加えられた場合でも、天井壁が開きにくくなる。
【0012】
(2)前記押え部は前記第1側壁に沿いつつ前記底壁に向かって屈曲する屈曲部を有し、前記第1側壁は前記屈曲部を受け入れる受け凹部を有し、前記屈曲部は、前記受け凹部の孔縁と係合する屈曲係合部を有することが好ましい。
【0013】
屈曲係合部が受け凹部の孔縁と係合することにより、屈曲部が底壁から離れる方向に移動することが抑制される。これにより、屈曲部が設けられた押え部が底壁から離れる方向に移動することが抑制される。この結果、押え部の内方に位置する天井壁を、より開きにくくすることができる。
【0014】
(3)前記屈曲係合部は、前記屈曲部の幅方向の両側方に突出して形成されていることが好ましい。
【0015】
上記の構成により、受け凹部の孔縁によって、屈曲係合部を底壁から離れる方向に移動させようとする力を、幅方向について均等に受けることができる。この結果、押え部が幅方向に歪むことを抑制できる。これにより、端子と電線との電気的な接続信頼性が低下することを抑制できる。
【0016】
(4)前記天井壁は前記第2側壁に向かって突出する係合突片を有し、前記第2側壁は前記係合突片を受け入れる係合孔を有することが好ましい。
【0017】
係合突片が係合孔の孔縁と係合することにより、第2側壁が開き変形することを抑制することができる。
【0018】
(5)前記加圧部は、前記底壁および前記天井壁の少なくとも一方に設けられていることが好ましい。
【0019】
電線を加圧する加圧部が設けられた底壁または天井壁が開くことを確実に抑制できる。
【0020】
(6)前記シェルは、前記端子本体に対して、前記電線の延び方向に沿ってスライド可能に配されている。
【0021】
上記の構成によれば、シェルをスライドさせるという簡易な手法により、端子と電線とを接続できるので、端子と電線との接続作業の効率を向上させることができる。
【0022】
(7)本開示にかかる端子付き電線は、上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の端子と、前記端子に接続された電線と、を備える。
【0023】
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態が説明される。本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0024】
<実施形態1>
本開示の実施形態1が図1から図12を参照しつつ説明される。本実施形態にかかる端子付き電線10は、電線11と、電線11に接続される端子12とを備える。以下の説明では、矢線Zの示す向きを上とし、矢線Yの示す向きを前とし、矢線Xの示す向きを左として説明する。なお、複数の同一部材については、一部の部材にのみ符号を付し、他の部材の符号を省略する場合がある。
【0025】
[電線11]
図1に示されるように、電線11は、前後方向(延び方向の一例)に延びて配されている。電線11は、芯線13の外周を絶縁性の合成樹脂からなる絶縁被覆14で包囲されている。本実施形態にかかる芯線13は、1本の金属線からなる。なお、芯線13は複数の金属細線が撚り合わされてなる撚線であってもよい。芯線13を構成する金属は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等、必要に応じて任意の金属を適宜に選択できる。本実施形態にかかる芯線13は銅、または銅合金からなる。
【0026】
[端子12]
図1に示されるように、端子12は、金属製の端子本体15と、端子本体15に対して相対的にスライド移動可能なスライド部16(シェルの一例)と、を備える。
【0027】
[端子本体15]
端子本体15はプレス加工、切削加工、鋳造等、公知の手法により所定の形状に形成される。端子本体15を構成する金属は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼等、必要に応じて任意の金属を適宜に選択できる。本実施形態にかかる端子本体15は、銅、又は銅合金からなる。端子本体15の表面にはめっき層が形成されていてもよい。めっき層を構成する金属は、スズ、ニッケル、銀等必要に応じて任意の金属を適宜に選択できる。本実施形態にかかる端子本体15にはスズめっきが施されている。
【0028】
図1に示されるように、端子本体15は、図示しない相手方端子が挿入可能な接続筒部17と、接続筒部17の後方に位置して電線11と接続される電線接続部20を有する。電線接続部20は後方に延出された上側挟持部18Aおよび下側挟持部18Bと、を備える。
【0029】
図1に示すように、接続筒部17は前後方向に延びる角筒状をなしている。接続筒部17の前端は相手方端子が挿入可能に開口されている。接続筒部17の内部には、図示しない弾性接触片が配されている。接続筒部17内に挿入された相手方端子に、弾性接触片に弾性的に接触することにより、接続筒部17と相手方端子とが電気的に接続される。
【0030】
図1に示されるように、接続筒部17の後方には角筒状をなす電線接続部20が設けられている。電線接続部20の上壁の後端部には上側挟持部18A(挟持部の一例)が後方に延びて設けられており、電線接続部20の下壁の後端部には下側挟持部18B(挟持部の一例)が後方に延びて設けられている。上側挟持部18Aと下側挟持部18Bは前後に延びた細長い形状をなしている。上側挟持部18Aと下側挟持部18Bの前後方向の長さ寸法は略同じに形成されている。
【0031】
上側挟持部18Aの下面には、後端部よりも前方の位置に、下方に突出する上側保持突部23Aが設けられている。下側挟持部18Bの上面の後端部には、上方に突出する下側保持突部23Bが設けられている。下側保持突部23Bと、上側保持突部23Aとは、前後方向についてずれた位置に設けられている。
【0032】
上側挟持部18Aの下面、および下側挟持部18Bの上面が、芯線13の表面に形成された酸化被膜に食い込んで酸化被膜を剥がすことにより、芯線13の金属表面を露出させるようになっている。この金属表面と、上側挟持部18Aおよび下側挟持部18Bとが接触することにより、芯線13と端子本体15とが電気的に接続される。
【0033】
[スライド部16」
図1に示されるように、スライド部16は、前後方向に延びる角筒状をなす筒部60を有する。スライド部16の製造方法は特に限定されないが、本実施形態では、金属板材70をプレス加工することにより形成される。スライド部16を構成する金属は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼等、必要に応じて任意の金属を適宜に選択できる。本実施形態にかかるスライド部16は、特に限定されないが、ステンレス鋼からなる。スライド部16の表面にはめっき層が形成されていてもよい。めっき層を構成する金属は、スズ、ニッケル、銀等必要に応じて任意の金属を適宜に選択できる。
【0034】
図2に示されるように、筒部60の上面は、前後方向の中央付近よりも前方の部分が、後方の部分よりも上方に位置するように形成されている。これにより、筒部60の前半部分の上端部と、筒部60の後半部分の上端部との間には上下方向について段差が形成されている。この段差は、後述する治具45が接触する治具接触部46とされる。
【0035】
図2に示されるように、筒部60は、前後方向に細長く延びる底壁50を備える。図3および図4に示されるように、スライド部16は、底壁50の左側縁から上方に立ち上がる左側壁51(第1側壁の一例)を備える。図5に示されるように、筒部60は、底壁50の右側縁から上方に立ち上がる右側壁52(第2側壁の一例)を備える。図6に示されるように、筒部60は、左側壁51の上端縁から右方(右側壁52に向かう方向)に向けて屈曲するとともに底壁50と対向する天井壁53と、右側壁52の上端縁から左方(左側壁51に向かう方向)に向けて屈曲するとともに天井壁53の上方に重なる押え部54と、を有する。
【0036】
図1に示されるように、筒部60の後半部分には、天井壁53の下面61(内壁の一例)に、下方に突出する上側加圧部25A(加圧部の一例)が設けられている。筒部60の底壁50の上面62(内壁の一例)には、上方に突出する下側加圧部25B(加圧部の一例)が設けられている。上側加圧部25Aの前面および下側加圧部25Bの前面には傾斜面が形成されている。これにより、上側挟持部18Aの後端部および下側挟持部18Bの後端部が、それぞれ、上側加圧部25Aおよび下側加圧部25Bへとガイドされる。
【0037】
図4および図5に示されるように、筒部60の左側壁51および右側壁52には、前後方向の前端部寄りの位置に、仮係止受け部26が開口されている。また、筒部60の左側壁51および右側壁52には、仮係止受け部26よりも後方の位置に、本係止受け部27が開口されている。仮係止受け部26と、本係止受け部27は、端子本体15の側壁に設けられた係止突起28と弾性的に係止可能になっている。
【0038】
端子本体15の係止突起28と筒部60の仮係止受け部26とが係止した状態は、端子本体15に対してスライド部16が仮係止位置に保持された状態となっている(図1参照)。この状態においては、筒部60の上側加圧部25Aおよび下側加圧部25Bは、端子本体15の上側挟持部18Aおよび下側挟持部18Bの後端縁から後方に離間している。また、この状態においては、上側挟持部18Aと下側挟持部18Bとの間の間隔は、芯線13の直径よりも大きく設定されている。
【0039】
端子本体15の係止突起28と筒部60の本係止受け部27とが係止した状態は、端子本体15に対してスライド部16が本係止位置に係止された状態となっている(図2参照)。この状態においては、筒部60の天井壁53の下面61に形成された上側加圧部25Aは、上側挟持部18Aの上方から上側挟持部18Aに接触している。また、筒部60の底壁50の上面62に形成された下側加圧部25Bは、下側挟持部18Bの下方から下側挟持部18Bに接触している。
【0040】
上記のように、スライド部16は、端子本体15のうち上側挟持部18Aと下側挟持部18Bとが設けられた領域に外嵌された状態で、上記した仮係止位置と、本係止位置との間を、前後方向にスライド移動可能になっている。
【0041】
図2に示されるように、スライド部16が端子本体15に対して本係止位置で保持された状態では、上側加圧部25Aが上方から上側挟持部18Aを押圧することによって上側挟持部18Aが下方に変形するようになっている。また、下側加圧部25Bが下方から下側挟持部18Bを押圧することによって下側挟持部18Bが上方に変形するようになっている。これにより、上側挟持部18Aと下側挟持部18Bとの間の空間に、芯線13を前後方向(延び方向)に延びた状態で配し、且つ、スライド部16が端子本体15に対して本係止位置で保持した状態では、芯線13は、弾性変形した上側挟持部18Aと下側挟持部18Bによって上下方向から挟持されるようになっている。すなわち、上側挟持部18Aは上側加圧部25Aに下方に押圧されることにより芯線13に上方から接触し、下側挟持部18Bは下側加圧部25Bに上方に押圧されることにより芯線13に下方から接触するようになっている。
【0042】
図2に示されるように、スライド部16が端子本体15に対して本係止位置で保持された状態では、上側挟持部18Aの上側保持突部23Aが芯線13を上方から押圧し、下側挟持部18Bの下側保持突部23Bが芯線13を下方から押圧する。このように、芯線13は、上側保持突部23Aによって上方から押圧されるとともに、上側保持突部23Aと前後方向にずれた位置に配された下側保持突部23Bによって下方から押圧されることにより、上下方向(延び方向と交差する方向の一例)について屈曲した状態に保持される。また、上側保持突部23Aと、下側保持突部23Bとによっても、芯線13と端子12とが電気的に接続されるようになっている。
【0043】
図2に示されるように、スライド部16の上部には、前半部分と後半部分との境界に、治具接触部46が形成されている。治具接触部46に後方から治具45が接触して、この治具45によってスライド部16が前方に押されることにより、スライド部16が前方に移動可能になっている。なお、上記の治具45は、金型や、この金型を稼働させるための設備に比べて、比較的に小規模なものとなっている。このため、治具45に起因するコストの増大は抑制される。
【0044】
図1に示されるように、筒部60の後端部寄りの位置には、左右両側壁に、スライド部16の内方に突出する一対の誘い込み部47が設けられている。誘い込み部47は、後方から前方に向かうに従って幅狭に形成されている。誘い込み部47の内面に芯線13が摺接することにより、芯線13はスライド部16の内部へと案内される。
【0045】
[開き抑制構造]
スライド部16が開くことを抑制する構造について説明する。図6に示されるように、天井壁53の上方には押え部54が重ねられている。押え部54は、天井壁53の上方をほぼ覆うように重ねられている。これにより、天井壁53に、天井壁53を上方に開かせようとする力が加えられた場合でも、押え部54によって、天井壁53が上方に開くことが抑制されるようになっている。
【0046】
図5に示されるように、スライド部16の後半部分のうち前後方向について中央付近には、右側壁52の上端部に、係合孔55が貫通されている。図6に示されるように、係合孔55は、右側壁52の上端部から押え部54の右端部にかけて形成されている。係合孔55の内部には、天井壁53の右端部に形成された係合突片56が左方から嵌入している。係合突片56の右端部は、右側壁52の右方には突出しないようになっている。係合突片56は、係合孔55の孔縁の上方に重なるようになっている。これにより、右側壁52に、右側壁52が右方に開き変形する方向の力が加えられた場合でも、係合突片56が上方から右側壁52を押さえることにより、右側壁52が右方に開くことが抑制されるようになっている。
【0047】
図7に示されるように、スライド部16の後半部分のうち前後方向について中央付近には、左側壁51の上端部から下方に向けて、後述する屈曲部57を受け入れる受け凹部58が形成されている。左方から見て、受け凹部58は、下端部が前方および後方に広がった形状に形成されている。
【0048】
図4および図7に示されるように、受け凹部58内には、屈曲部57が収容されている。受け凹部58の内形状は、屈曲部57の外形状よりもやや大きく形成されている。屈曲部57は、押え部54の右端部から下方に向けて屈曲している。屈曲部57の下端部は、前後方向(屈曲部57の幅方向の一例)について膨出した形状に形成されている。屈曲部57の下端部から前方に突出した部分、および後方に突出した部分は、受け凹部58の孔縁部に下方から接触することにより、屈曲部57が上方に移動することが抑制されるようになっている。このように、屈曲部57の下端部から前方に突出した部分と、後方に突出した部分は、屈曲係合部59とされる。
【0049】
[端子付き電線10の製造工程]
続いて、本実施形態にかかる端子付き電線10の製造工程の例について説明する。端子付き電線10の製造工程は以下の記述に限定されない。
【0050】
図視しない金属板材を公知の方法でプレス加工することにより、端子本体15が形成される。
【0051】
金属板材70を図8に示される形状にプレス加工する。なお、図8から図9においては、金属板材70の厚さについて、強調して記載されている。
【0052】
図8に示されるように、底壁50の左側縁および右側縁を上方に曲げ加工することにより、左側壁51および右側壁52を形成する。次に、左側壁51の上端部を左方に直角曲げすることにより天井壁53を形成する。その後、図10に示されるように、右側壁52の上端部を右方に直角曲げすることにより天井壁53の上方に押え部54が重ねられる。その後、屈曲部57が下方に直角曲げされて、受け凹部58内に嵌め入れられる(図7参照)。なお、詳細には図示しないが、スライド部が形成される工程内で、底壁50には下側加圧部25Bが形成され、天井壁53には上側加圧部25Aが形成される。これにより、スライド部16が形成される。
【0053】
端子本体15に対して、後方からスライド部16が組み付けられる。端子本体15の係止突起28に後方からスライド部16の前端縁が当接し、スライド部16の側壁が拡開変形する。更にスライド部16が前方に押し込まれると、スライド部16の側壁が復帰変形し、端子本体15の係止突起28に、スライド部16の仮係止受け部26が係止する。これにより、端子本体15に対してスライド部16が仮係止位置に保持される。これにより端子12が得られる(図1参照)。
【0054】
公知の手法で絶縁被覆14が皮剥ぎ加工されることにより電線11の芯線13が露出される。芯線13の前端部が、スライド部16の後端部からスライド部16の内部へと導入される。芯線13はスライド部16の誘い込み部47と当接することにより、スライド部16へと案内される。更に電線11が前方に押し込まれると、芯線13の前端部は端子本体15の内部へと進入して上側挟持部18Aと下側挟持部18Bとの間の空間内に至る。
【0055】
端子本体15に対してスライド部16が仮係止位置に保持された状態では、上側挟持部18Aと下側挟持部18Bとの間隔は、芯線13の外径寸法よりも大きく設定されている。
【0056】
次に、図2に示すように、治具45を後方から治具接触部46に当接させて、スライド部16を前方にスライド移動させる。スライド部16は端子本体15に対して相対的に前方に移動させられる。このとき、端子本体15の係止突起28と、スライド部16の仮係止受け部26との係止が外れ、スライド部16の側壁が係止突起28に乗り上げて拡開変形する。
【0057】
スライド部16が前方に移動させられると、スライド部16の側壁が復帰変形して端子本体15の係止突起28と、スライド部16の本係止受け部27とが弾性的に係止する。これによりスライド部16が端子本体15に対して本係止位置に保持される。
【0058】
スライド部16が端子本体15に対して本係止位置に保持された状態で、スライド部16の上側加圧部25Aが、端子本体15の上側挟持部18Aに上方から当接して下方へと押圧する。また、スライド部16の下側加圧部25Bが、端子本体15の下側挟持部18Bに下方から当接して上方へと押圧する。これにより、芯線13が、上側挟持部18Aと下側挟持部18Bに上下から挟持される(図2参照)。
【0059】
図2に示されるように、上側挟持部18Aの下面と、下側挟持部18Bの上面とに芯線13が挟まれることにより、芯線13の表面に形成された酸化被膜が剥がされ、芯線13を構成する金属表面が露出する。この金属表面と、上側挟持部18Aおよび下側挟持部18Bが接触することにより、電線11と端子12とが電気的に接続される。
【0060】
芯線13が上側挟持部18Aと下側挟持部18Bに上下から挟持された状態においては、芯線13は、上側挟持部18Aの上側保持突部23Aと、下側挟持部18Bの下側保持突部23Bとに挟まれることにより、前後方向に延びた状態で、且つ、上下方向に屈曲した状態で保持される。これにより、芯線13を強固に保持することができるので、電線11に引っ張り力が作用した場合に、電線11と端子12との保持力を高めることができる。これにより、端子付き電線10が完成する。
【0061】
[課題の説明]
本実施形態の作用効果を説明するために、図11および図12に示されるように、押え部54、屈曲部57、屈曲係合部59、係合突片56、および係合孔55を有しない仮想的な技術にかかる端子112について説明する。なお、仮想的な技術にかかる端子112の符号については、実施形態1と対応する部材について、実施形態1に用いられた符号に100を加えた数字を用いる。
【0062】
図11に示されるように、仮想的な技術にかかる端子112において、芯線113が上側挟持部118Aと下側挟持部118Bとに挟まれている場合、芯線113からの反力によって、スライド部116の天井壁153に対しては上向きの力加えられ、底壁150に対しては下向きの力が加えられる。すると、スライド部116の左側壁151には、左側壁151の下端部を支点として、左側壁51を図11における反時計回り方向(矢線Aで示される方向)に回転させようとする力が働く。これにより、天井壁153については、上方に開かせようとする力と、左側壁151とともに反時計回り方向に回転させようとする力が加わる。
【0063】
一方、スライド部116の右側壁152には、右側壁152の下端部を支点として、右側壁152を図11における時計回り方向(矢線Bで示される方向)に回転させようとする力が働く。
【0064】
上記の結果、図12において二点鎖線で示されるように、スライド部116が開いてしまう。詳細には、左側壁151は左側壁151の下端部を支点として図12における反時計回り方向(矢線Aで示される方向)に回転し、右側壁152は右側壁152の下端部を支点として図12における時計回り方向(矢線Bで示される方向)に回転する。すると、芯線113が、上側挟持部118Aおよび下側挟持部と118Bの間からずれる。これにより、上側挟持部118Aと下側挟持部118Bとによって芯線を113十分な圧力で挟持することができなくなり、芯線113と端子112との電気的な接続信頼性が低下するという問題が懸念される。
【0065】
[本実施形態の作用効果]
続いて、本実施形態の作用効果について説明する。本実施形態にかかる端子12は、電線11と接続される端子12であって、端子本体15、スライド部16と、を備え、端子本体15は電線11を挟む上側挟持部18Aおよび下側挟持部18Bを有し、スライド部16は、上側挟持部18Aおよび下側挟持部18Bを覆う筒部を有するとともに、筒部60の天井壁53の下面61から突出して設けられた上側挟持部18Aおよび筒部60の底壁50の上面62から突出して設けられた下側挟持部18Bを電線11に向かってそれぞれ押圧する上側加圧部25Aおよび下側加圧部25Bを有し、筒部60は、底壁50と、底壁50の左側縁から立ち上がる左側壁51と、底壁50の右側縁から立ち上がる右側壁52と、左側壁51から右側壁52に向けて延びるとともに底壁50と対向する天井壁53と、右側壁52から左側壁51に向けて延びるともに天井壁53の外方に重なる押え部54と、を有する。
【0066】
また、本実施形態にかかる端子付き電線10は、端子12と、端子12に接続された電線11と、を備える。
【0067】
上側加圧部25Aおよび下側加圧部25Bが、それぞれ、筒部60の天井壁53の下面61および底壁50の上面62に設けられているので、筒部60には、上側加圧部25Aおよび下側加圧部25Bを介して電線11の芯線13から大きな力が加えられる。このように、筒部60の内部から外部へ向かう力が加えられるので、筒部60が開くおそれがある。本実施形態においては、押え部54が天井壁53の上方から天井壁53を押さえることにより、天井壁53に対して上方に開かせようとする力が電線11から加えられた場合でも、天井壁53が上方に開きにくくなる。
【0068】
また、本実施形態によれば、押え部54は左側壁51に沿いつつ底壁50に向かって屈曲する屈曲部57を有し、左側壁51は屈曲部57を受け入れる受け凹部58を有し、屈曲部57は、受け凹部58の孔縁と係合する屈曲係合部59を有する。
【0069】
屈曲係合部59が受け凹部58の孔縁と下方から係合することにより、屈曲部57が上方に移動することが抑制される。これにより、屈曲部57が設けられた押え部54が上方に移動することが抑制される。この結果、押え部54の下方に位置する天井壁53が上方に開くことを確実に抑制できる。
【0070】
本実施形態によれば、屈曲係合部59は、屈曲部57の下端部において、前方および後方の双方に突出して形成されている。これにより、受け凹部58の孔縁によって、屈曲係合部59を上方に移動させようとする力を、前後方向について均等に受けることができる。この結果、押え部54が前後方向に歪むことを抑制できる。これにより、端子12と電線11との電気的な接続信頼性が低下することを抑制できる。
【0071】
本実施形態によれば、天井壁53は右側壁52に向かって突出する係合突片56を有し、右側壁52は係合突片56を受け入れる係合孔55を有する。
【0072】
係合突片56が係合孔55の孔縁と係合することにより、右側壁52が開き変形することを抑制することができる。
【0073】
本実施形態によれば、上側加圧部25Aは天井壁53に設けられている。
【0074】
電線11を加圧する上側加圧部25Aが設けられた天井壁53が開くことを確実に抑制できる。
【0075】
本実施形態によれば、スライド部16は、端子本体15に対して、前後方向に沿ってスライド可能に配されている。
【0076】
本実施形態によれば、スライド部16をスライドさせるという簡易な手法により、端子12と電線11とを接続できるので、端子12と電線11との接続作業の効率を向上させることができる。
【0077】
<他の実施形態>
本開示は上記記述および図面によって説明された実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本明細書に開示された技術の技術的範囲に含まれる。
【0078】
(1)本実施形態では、左側壁51が第1側壁とされ、右側壁52が第2側壁とされたが、これに限られず、右側壁52が第1側壁とされて天井壁53を有し、左側壁51が第2側壁とされて押え部54を有する構成としてもよい。
【0079】
(2)本実施形態では、屈曲部57の下端部に設けられた屈曲係合部59は、前方および後方の双方に突出する構成としたが、これに限られず、屈曲部57に設けられた屈曲係合部59は前方にのみ突出する構成としてもよく、また、後方にのみ突出する構成としてもよい。
【0080】
(3)端子12は、1つ、または3つ以上の挟持部を有する構成としてもよい。
【0081】
(4)端子12は、雄タブを有する雄端子でもよい。
【0082】
(5)屈曲部57が第1側壁の外面に沿うように延びて、屈曲係合部59が第1側壁に向かって延びて第1側壁を貫通する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0083】
10: 端子付き電線
11: 電線
12,112: 端子
13,113: 芯線
14: 絶縁被覆
15: 端子本体
16,116: スライド部(シェルの一例)
17: 接続筒部
18A,118A: 上側挟持部
18B,118B: 下側挟持部
20: 電線接続部
23A: 上側保持突部
23B: 下側保持突部
25A: 上側加圧部
25B: 下側加圧部
26: 仮係止受け部
27: 本係止受け部
28: 係止突起
45: 治具
46: 治具接触部
47: 誘い込み部
50,150: 底壁
51,151: 左側壁(第1側壁の一例)
52,152: 右側壁(第2側壁の一例)
53,153: 天井壁
54: 押え部
55: 係合孔
56: 係合突片
57: 屈曲部
58: 受け凹部
59: 屈曲係合部
60: 筒部
61: 天井壁の下面(内壁の一例)
62: 底壁の上面(内壁の一例)
70: 金属板材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12