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特許7133549細胞凝集低減方法および細胞凝集が低減された治療用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】細胞凝集低減方法および細胞凝集が低減された治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20220901BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20220901BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220901BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220901BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20220901BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220901BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K9/10
A61K47/26
A61K47/12
A61K47/20
A61K47/02
A61P43/00 171
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019523518
(86)(22)【出願日】2018-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2018021333
(87)【国際公開番号】W WO2018225673
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-02-12
(31)【優先権主張番号】P 2017111852
(32)【優先日】2017-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311004773
【氏名又は名称】住友ファーマアニマルヘルス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】木原 孝洋
(72)【発明者】
【氏名】黒宮 明美
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/031606(WO,A1)
【文献】特開2009-242265(JP,A)
【文献】特開2016-034279(JP,A)
【文献】特開2012-115253(JP,A)
【文献】国際公開第2016/076428(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物細胞を含む治療用組成物の製造方法であって、哺乳動物細胞を約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液で分散させることを含み、前記哺乳動物細胞がイヌの脂肪組織由来間葉系幹細胞である、方法。
【請求項2】
細胞の分散が、哺乳動物細胞を含む細胞製剤と約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液とを混合することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
細胞製剤が約2.5×10個/mlで細胞を含む、請求項に記載の方法。
【請求項4】
細胞製剤が約5%のDMSOを含むリン酸緩衝生理食塩水中に哺乳動物細胞を含む、請求項またはに記載の方法。
【請求項5】
細胞製剤がブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液により2.5~100倍希釈される、請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
哺乳動物において疾患を治療する方法であって、
哺乳動物細胞を約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液で分散させ治療用組成物を得ること、および
得られた治療用組成物を哺乳動物に投与すること
を含み、前記哺乳動物がイヌであり、前記哺乳動物細胞がイヌの脂肪組織由来間葉系幹細胞である、方法。
【請求項7】
細胞の分散が、哺乳動物細胞を含む細胞製剤と約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液とを混合することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項8】
細胞製剤が約2.5×10個/mlで細胞を含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
細胞製剤が約5%のDMSOを含むリン酸緩衝生理食塩水中に細胞を含む、請求項またはに記載の方法。
【請求項10】
細胞製剤がブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液により2.5~100倍希釈される、請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液、または前記ブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液と細胞保存液との混合液中に哺乳動物細胞を含み、前記哺乳動物細胞がイヌの脂肪組織由来間葉系幹細胞である、治療用組成物。
【請求項12】
哺乳動物細胞を含む細胞製剤と約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液との混合物である、請求項11に記載の治療用組成物。
【請求項13】
細胞製剤が約2.5×10個/mlで細胞を含む、請求項12に記載の治療用組成物。
【請求項14】
細胞製剤が約5%のDMSOを含むリン酸緩衝生理食塩水中に哺乳動物細胞を含む、請求項12または13に記載の治療用組成物。
【請求項15】
細胞製剤がブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液により2.5~100倍希釈された混合物である、請求項1214のいずれかに記載の治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、日本国特許出願第2017-111852号について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本開示は、再生・細胞医療分野における細胞凝集低減方法および細胞凝集が低減された治療用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を生体に投与して疾患を治療する再生・細胞医療が盛んに開発されている。細胞製剤では、投与する細胞同士が接着して凝集塊を形成すると、血管内に投与する際に塞栓の原因となったり、定量的な投与の妨げとなったりする可能性がある。そのため、再生・細胞医療の分野では、細胞の凝集を低減する方法の開発が強く希望されている。
【0003】
細胞の凝集を低減する方法として、トレハロースを添加する方法が報告されている。しかしながら、トレハロースは比較的高価であり、再生・細胞医療製品の広い実用化のため、安全性が高く、かつより安価な方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-115253号公報
【文献】国際出願公開第2013/168403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、細胞製剤の投与時の細胞凝集を低減する方法、並びに細胞凝集が低減された治療用組成物およびその製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ある態様において、哺乳動物細胞を含む治療用組成物の製造方法であって、哺乳動物細胞を約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液で分散させることを含む方法を提供する。
本発明は、さらなる態様において、約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液中、または前記ブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液と細胞保存液との混合液中に哺乳動物細胞を含む治療用組成物を提供する。
本発明は、さらなる態様において、哺乳動物細胞を含む細胞製剤であって、前記細胞を約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液で分散して哺乳動物に投与する治療用組成物を得るよう用いられる細胞製剤を提供する。
本発明は、さらなる態様において、哺乳動物において疾患を治療する方法であって、
哺乳動物細胞を約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液で分散させ治療用組成物を得ること、および
得られた治療用組成物を哺乳動物に投与すること
を含む、方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
ブドウ糖や酢酸リンゲル液は生体への毒性が低く、安価に利用可能である。本発明により、安全かつ安価に細胞製剤の投与時の細胞凝集を低減し、また細胞凝集が低減された治療用組成物を製造することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、5%ブドウ糖水溶液で分散させたビーグル犬脂肪組織由来幹細胞の生存率を示す。
図2図2は、5%ブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液で分散させたビーグル犬脂肪組織由来幹細胞の生存率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
特に具体的な定めのない限り、本明細書で使用される用語は、有機化学、医学、獣医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本明細書で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本明細書において、一般的な理解に優先する。
【0010】
本明細書では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20~30」は、「20±10%~30±10%」を含むものとする。
【0011】
本明細書において、濃度に関する「%」は、特に記載しない限り「w/v%」を意味する。
【0012】
本発明の細胞製剤は、哺乳動物細胞を含む。哺乳動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、サル、ヒトなどが例示される。ある実施形態において、哺乳動物は非ヒト哺乳動物である。好ましい実施形態において、哺乳動物は、イヌ、ネコ、ブタまたはウマ、より好ましくはイヌまたはネコである。ある好ましい実施形態において、哺乳動物は、イヌ、特にビーグルまたはゴールデンレトリバーである。
【0013】
本明細書における細胞には、幹細胞、線維芽細胞、上皮細胞、白血球細胞等が含まれる。
【0014】
幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、iPS細胞、体性幹細胞が例示される。体性幹細胞としては、間葉系幹細胞、神経幹細胞、造血幹細胞などが挙げられる。幹細胞は、如何なる方法により製造された細胞であってもよい。ある実施形態において、幹細胞は間葉系幹細胞である。間葉系幹細胞は、脂肪組織、骨髄、臍帯血等から公知の方法により得ることができる。好ましい実施形態において、間葉系幹細胞は、脂肪組織由来、例えば皮下脂肪組織由来である。
【0015】
細胞製剤は、限定はされないが、通常、1製剤あたり、10~10個の細胞を含む。ある実施形態において、細胞製剤は、10個~10個または2.5×10個~5×10個の細胞を含む。細胞製剤は、凍結状態であっても、非凍結状態であってもよい。細胞製剤は、通常、哺乳動物細胞に加えて細胞保存液を含む。細胞保存液の成分としては、リン酸、DMSO、ナトリウム塩(例えば塩化ナトリウム)、カリウム塩(例えば塩化カリウム)、血清、グリセロールなどが例示される。ある実施形態において、細胞保存液は、約5%のDMSOを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(例えば、ダルベッコPBS(D-PBS))であり、細胞製剤は、前記溶液中に哺乳動物細胞を含む。D-PBSは、通常、塩化カリウム0.02%、りん酸二水素ナトリウム0.02%、塩化ナトリウム0.8%、りん酸水素二ナトリウム0.115%を含む。ある実施形態において、細胞製剤は、細胞保存液中に、10~10個/ml、10個~10個/ml、2.5×10個~5×10個/ml、または約2.5×10個/mlで細胞を含む。
【0016】
細胞製剤中の哺乳動物細胞をブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液で分散すると、哺乳動物に投与するための治療用組成物が得られる。細胞の分散は、当該技術分野の通常の方法で行えばよい。例えば、細胞に適量のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液を添加してピペッティング等により混合すればよく、得られた細胞懸濁液をさらにブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液で所望の細胞濃度まで希釈してもよい。細胞製剤の細胞保存液を取り除いた後、細胞とブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液とを混合してもよく、細胞および細胞保存液を含む細胞製剤とブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液とを直接混合してもよい。好ましい実施形態において、細胞の分散は、細胞製剤とブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液とを混合することにより行う。
【0017】
通常、哺乳動物の体重1kgあたり0.5×10個~1×10個の細胞が投与される。例えば、投与対象の体重が1kg~40kgの場合、1個体あたりの投与細胞数は0.5×10個~4×10個であり、2kg~20kgの場合、1×10個~2×10個である。治療用組成物の全量は、限定はされないが、例えば30ml~50mlであり、投与細胞数に応じて適宜変更されうる。
【0018】
細胞製剤とブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液とを混合して治療用組成物を得る場合、ブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液の液量は、投与細胞数および細胞製剤の細胞濃度に応じて適宜変更される。例えば、1~8mlの細胞製剤と29mL~22mlのブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液を混合して全量30mlとする、あるいは9~16mlの細胞製剤と41~34mlのブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液とを混合して全量50mlとする場合などが挙げられる。ある実施形態において、ブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液の液量は、細胞製剤が約2.5倍~100倍、約5倍~100倍、または約2.5倍~75倍希釈される量である。治療用組成物の細胞濃度は、限定はされないが、通常、10個/ml~10個/ml、好ましくは10個/ml~10個/ml、より好ましくは10個/ml~10個/mlである。
【0019】
ブドウ糖水溶液としては、約3%~約10%、好ましくは約5%~約10%、より好ましくは約5%のブドウ糖水溶液を用いる。ブドウ糖水溶液は、注射液として市販されているものであってもよく、例えば、大塚糖液5%(大塚製薬工場)、5%糖液キットH(ニプロ株式会社)、光糖液5%(光製薬株式会社)などが例示される。
【0020】
酢酸リンゲル液とは、生理食塩水にKとCa2+とを加えたリンゲル液に酢酸イオンを添加した輸液である。酢酸リンゲル液は、通常、塩化ナトリウム、塩化カリウム、酢酸ナトリウム水和物、および酢酸ナトリウム水和物を含む。酢酸リンゲル液は、好ましくは、塩化ナトリウム0.6%、塩化カリウム0.03%、塩化カルシウム水和物0.02%、酢酸ナトリウム水和物0.38%を含むものである。酢酸リンゲル液としては、注射液として市販されているものを使用することができ、例えば、ソルアセトF(ニプロ株式会社)、ソリューゲンF注(光製薬株式会社)などが例示される。
【0021】
ある実施形態において、治療用組成物は、約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液中に哺乳動物細胞を含む。別の実施形態において、治療用組成物は、約3%~約10%のブドウ糖または酢酸リンゲル液と細胞保存液との混合液中に哺乳動物細胞を含む。例えば、治療用組成物は、哺乳動物細胞を、約3%~約10%のブドウ糖または酢酸リンゲル液と約5%のDMSOを含むリン酸緩衝生理食塩水との混合液中、例えば、99%~60%の、約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液と、1%~40%の、約5%のDMSOを含むリン酸緩衝生理食塩水(例えば、D-PBS)との混合液;または、99%~80%の、約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液と、1%~20%の、約5%のDMSOを含むリン酸緩衝生理食塩水(例えば、D-PBS)との混合液中に含む。ある実施形態において、治療用組成物は、細胞およびブドウ糖または酢酸リンゲル液の成分に加えて、リン酸、DMSO、カリウム塩、およびナトリム塩を含み、これら以外の成分を含まない。
【0022】
治療用組成物は、公知の方法により生体に投与することができ、例えば、血管内(静脈内または動脈内)または髄腔内へ投与してもよく、標的組織へ直接移植してもよい。ある実施形態において、治療用組成物は、静脈内投与される。静脈内投与は、注射または点滴により行うことができる。治療用組成物を点滴により投与する場合、治療用組成物は、例えば輸液バッグまたは輸液ボトルに充填することができ、好ましくは、プラスチック製輸液ボトル、例えばPLABOTTLE(登録商標)(株式会社大塚製薬工場)に充填される。
【0023】
本発明の細胞製剤および治療用組成物は、例えば、椎間板ヘルニア、自己免疫疾患(例えば全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、関節リウマチ、再生不良性貧血、全身性強皮症、多発性硬化症、1型糖尿病、自己免疫性肝炎、クローン病(瘻孔性含む)、潰瘍性大腸炎など)、肝硬変、肝不全、慢性肝炎、高コレステロール血症、拡張型心筋症、虚血性心疾患、慢性腎不全、急性腎障害、気管支肺異形成症、突発性肺線維化症、肺気腫、肺動脈高血圧、急性呼吸窮迫症候群、慢性閉塞性肺疾患、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、中枢神経損傷、多系統萎縮症、脳梗塞、骨折癒合不全,両肢長不均等症、骨嚢胞、骨異形成症、骨形成不全、強直性脊椎炎、椎間板変性、脊椎変性,脊椎すべり症、脊椎損傷、変形性関節症、多発性関節炎、大腿骨骨頭壊死、重症虚血性肢、肛門周囲瘻孔、骨髄異形成症候群、筋ジストロフィー、アトピー皮膚炎、歯周病、ドライアイ、網膜色素変性症、角膜輪部機能不全症候群、2型糖尿病、移植片対宿主病などの治療に用いることができる。細胞製剤および治療用組成物は、限定はされないが、通常、その細胞と同じ種の哺乳動物の治療に用いられる。
【0024】
本発明の例示的実施形態を以下に記載する。
【0025】
1.哺乳動物細胞を含む治療用組成物の製造方法であって、哺乳動物細胞を約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液で分散させることを含む方法。
2.細胞が幹細胞である、前記1に記載の方法。
3.幹細胞が間葉系幹細胞である、前記2に記載の方法。
4.間葉系幹細胞が脂肪組織由来間葉系幹細胞である、前記3に記載の方法。
5.哺乳動物細胞がイヌまたはネコの細胞である、前記1~4のいずれかに記載の方法。
6.哺乳動物細胞がイヌの細胞である、前記5に記載の方法。
7.イヌがビーグルまたはゴールデンレトリバーである、前記6に記載の方法。
8.哺乳動物細胞が脂肪組織由来である、前記1~7のいずれかに記載の方法。
9.脂肪組織が皮下脂肪組織である、前記8に記載の方法。
10.ブドウ糖水溶液が約5%のブドウ糖水溶液である、前記1~9のいずれかに記載の方法。
11.治療用組成物の全量が30~50mlである、前記1~10のいずれかに記載の方法。
12.投与対象の哺乳動物の体重1kgあたり0.5×10個~1×10個の細胞を分散させる、前記1~11のいずれかに記載の方法。
13.0.5×10個~4×10個の細胞を分散させる、前記1~12のいずれかに記載の方法。
14.細胞の分散が、哺乳動物細胞を含む細胞製剤と約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液とを混合することを含む、前記1~13のいずれかに記載の方法。
15.細胞製剤が2.5×10個~5×10個/mlで細胞を含む、前記14に記載の方法。
16.細胞製剤が約2.5×10個/mlで細胞を含む、前記15に記載の方法。
17.細胞製剤が約5%のDMSOを含むリン酸緩衝生理食塩水中に哺乳動物細胞を含む、前記14~16のいずれかに記載の方法。
18.細胞製剤がブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液により2.5~100倍希釈される、前記14~17のいずれかに記載の方法。
19.治療用組成物が10個/ml~10個/mlで細胞を含む、前記1~18のいずれかに記載の方法。
20.治療用組成物が、99%~60%の、約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液と、1%~40%の、約5%のDMSOを含むリン酸緩衝生理食塩水との混合液中に哺乳動物細胞を含む、前記1~19のいずれかに記載の方法。
21.治療用組成物が哺乳動物において疾患を治療するためのものである、前記1~20のいずれかに記載の方法。
【0026】
1’.約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液中、または前記ブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液と細胞保存液との混合液中に哺乳動物細胞を含む、治療用組成物。
2’.細胞が幹細胞である、前記1’に記載の治療用組成物。
3’.幹細胞が間葉系幹細胞である、前記2’に記載の治療用組成物。
4’.間葉系幹細胞が脂肪組織由来間葉系幹細胞である、前記3’に記載の治療用組成物。
5’.哺乳動物細胞がイヌまたはネコの細胞である、前記1’~4’のいずれかに記載の治療用組成物。
6’.哺乳動物細胞がイヌの細胞である、前記5’に記載の治療用組成物。
7’.イヌがビーグルまたはゴールデンレトリバーである、前記6’に記載の治療用組成物。
8’.哺乳動物細胞が脂肪組織由来である、前記1’~7’のいずれかに記載の治療用組成物。
9’.脂肪組織が皮下脂肪組織である、前記8’に記載の方法。
10’.ブドウ糖水溶液が約5%のブドウ糖水溶液である、前記1’~9’のいずれかに記載の治療用組成物。
11’.治療用組成物の全量が30~50mlである、前記1’~10’のいずれかに記載の治療用組成物。
12’.治療用組成物が投与対象の哺乳動物の体重1kgあたり0.5×10個~1×10個の細胞を含む、前記1’~11’のいずれかに記載の治療用組成物。
13’.治療用組成物が0.5×10個~4×10個の細胞を含む、前記1’~12’のいずれかに記載の治療用組成物。
14’.治療用組成物が哺乳動物細胞を含む細胞製剤と約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液とを混合することにより得られる、前記1’~13’のいずれかに記載の治療用組成物。
15’.細胞製剤が2.5×10個~5×10個/mlで細胞を含む、前記14’に記載の治療用組成物。
16’.細胞製剤が約2.5×10個/mlで細胞を含む、前記15’に記載の治療用組成物。
17’.細胞製剤が約5%のDMSOを含むリン酸緩衝生理食塩水中に細胞を含む、前記14’~16’のいずれかに記載の治療用組成物。
18’細胞製剤がブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液により2.5~100倍希釈される、前記14’~17’のいずれかに記載の治療用組成物。
19’.治療用組成物が10個/ml~10個/mlで細胞を含む、前記1’~18’のいずれかに記載の治療用組成物。
20’.治療用組成物が、99%~60%の、約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液と、1%~40%の、約5%のDMSOを含むリン酸緩衝生理食塩水との混合液中に哺乳動物細胞を含む、前記1’~19’のいずれかに記載の治療用組成物。
21’.哺乳動物において疾患を治療するための、前記1’~20’のいずれかに記載の治療用組成物。
【0027】
1’’.哺乳動物細胞を含む細胞製剤であって、前記細胞を約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液で分散して哺乳動物に投与する治療用組成物を得るよう用いられる、細胞製剤。
2’’.細胞が幹細胞である、前記1’’に記載の細胞製剤。
3’’.幹細胞が間葉系幹細胞である、前記2’’に記載の細胞製剤。
4’’.間葉系幹細胞が脂肪組織由来間葉系幹細胞である、前記3’’に記載の細胞製剤。
5’’.哺乳動物細胞がイヌまたはネコの細胞である、前記1’’~4’’のいずれかに記載の細胞製剤。
6’’.哺乳動物細胞がイヌの細胞である、前記5’’に記載の細胞製剤。
7’’.イヌがビーグルまたはゴールデンレトリバーである、前記6’’に記載の細胞製剤。
8’’.哺乳動物細胞が脂肪組織由来である、前記1’’~7’’のいずれかに記載の細胞製剤。
9’’.脂肪組織が皮下脂肪組織である、前記8’’に記載の細胞製剤。
10’’.ブドウ糖水溶液が約5%のブドウ糖水溶液である、前記1’’~9’’のいずれかに記載の細胞製剤。
11’’.治療用組成物の全量が30~50mlである、前記1’’~10’’のいずれかに記載の細胞製剤。
12’’.哺乳動物の体重1kgあたり0.5×10個~1×10個の細胞が投与されるよう用いられる、前記1’’~11’’のいずれかに記載の細胞製剤。
13’’.細胞の分散が、哺乳動物細胞を含む細胞製剤と約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液とを混合することを含む、前記1’’~12’’のいずれかに記載の細胞製剤。
14’’.細胞製剤が2.5×10個~5×10個/mlで細胞を含む、前記1’’~13’’のいずれかに記載の細胞製剤。
15’’.細胞製剤が約2.5×10個/mlで細胞を含む、前記14’’に記載の細胞製剤。
16’’.細胞製剤が約5%のDMSOを含むリン酸緩衝生理食塩水中に細胞を含む、前記1’’~15’’のいずれかに記載の細胞製剤。
17’’細胞製剤がブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液により2.5~100倍希釈される、前記1’’~16’’のいずれかに記載の細胞製剤。
18’’.治療用組成物が10個/ml~10個/mlで細胞を含む、前記1’’~17’’のいずれかに記載の細胞製剤。
19’’.治療用組成物が、99%~60%の、約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液と、1%~40%の、約5%のDMSOを含むリン酸緩衝生理食塩水との混合液中に哺乳動物細胞を含む、前記1’’~18’’のいずれかに記載の細胞製剤。
20’’.哺乳動物において疾患を治療するための、前記1’’~19’’のいずれかに記載の細胞製剤。
【0028】
1’’’.哺乳動物において疾患を治療する方法であって、
哺乳動物細胞を約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液で分散させ治療用組成物を得ること、および
得られた治療用組成物を哺乳動物に投与すること
を含む、方法。
2’’’.細胞が幹細胞である、前記1’’’に記載の方法。
3’’’.幹細胞が間葉系幹細胞である、前記2’’’に記載の方法。
4’’’.間葉系幹細胞が脂肪組織由来間葉系幹細胞である、前記3’’’に記載の方法。
5’’’.哺乳動物細胞がイヌまたはネコの細胞である、前記1’’’~4’’’のいずれかに記載の方法。
6’’’.哺乳動物細胞がイヌの細胞である、前記5’’’に記載の方法。
7’’’.イヌがビーグルまたはゴールデンレトリバーである、前記6’’’に記載の方法。
8’’’.哺乳動物細胞が脂肪組織由来である、前記1’’’~7’’’のいずれかに記載の方法。
9’’’.脂肪組織が皮下脂肪組織である、前記8に記載の方法。
10’’’.ブドウ糖水溶液が約5%のブドウ糖水溶液である、前記1’’’~9’’’のいずれかに記載の方法。
11’’’.治療用組成物の全量が30~50mlである、前記1’’’~10’’’のいずれかに記載の方法。
12’’’.哺乳動物の体重1kgあたり0.5×10個~1×10個の細胞が投与される、前記1’’’~11’’’のいずれかに記載の方法。
13’’’.細胞の分散が、哺乳動物細胞を含む細胞製剤と約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液とを混合することを含む、前記1’’’~12’’’のいずれかに記載の方法。
14’’’.細胞製剤が2.5×10個~5×10個/mlで細胞を含む、前記13’’’に記載の方法。
15’’’.細胞製剤が約2.5×10個/mlで細胞を含む、前記14’’’に記載の方法。
16’’’.細胞製剤が約5%のDMSOを含むリン酸緩衝生理食塩水中に細胞を含む、前記13’’’~15’’’のいずれかに記載の方法。
17’’’ 細胞製剤がブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液により2.5~100倍希釈される、前記13’’’~16’’’のいずれかに記載の方法。
18’’’.治療用組成物が10個/ml~10個/mlで細胞を含む、前記1’’’~17’’’のいずれかに記載の方法。
19’’’.治療用組成物が、99%~60%の、約3%~約10%のブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液と、1%~40%の、約5%のDMSOを含むリン酸緩衝生理食塩水との混合液中に哺乳動物細胞を含む、前記1’’’~18’’’のいずれかに記載の方法。
【0029】
以下、実施例により本発明を説明するが、如何なる意味においても本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0030】
各種輸液およびDMEM培地で細胞を分散させた際の細胞凝集を評価した。
凍結細胞(ビーグル犬の脂肪組織由来幹細胞)(5×10細胞/ml、5%DMSO含有D-PBS中)を解凍し、表1に示すA)~G)の輸液またはDMEM培地と混合して細胞を懸濁して、表2の3種類の濃度の細胞溶液を作成した。この細胞懸濁液を、時々混和しつつ30~40分間放置後、凝集の有無を目視で確認した。この段階での目視での凝集結果を表3にまとめた。本実験を2回実施(表3の1回目、2回目)し、再現性を確認した。
【0031】
同様に、前記と同じ凍結細胞(5×10細胞/ml)を解凍し、この細胞液1mlを、20%ブドウ糖水溶液、20%ブドウ糖水溶液と注射用蒸留水を用いて調製した1%、3%、5%、7%、10%のブドウ糖水溶液、または生理食塩液4mlで希釈し、得られた細胞懸濁液(1×10細胞/ml)5mlを点滴バックに充填し、時々混和しつつ30~40分間放置し、細胞凝集を目視で確認した。また、細胞保存液を除去後、5×10細胞を5%ブドウ糖水溶液5mlで分散させた場合の細胞凝集も確認した。
【0032】
その結果、一般に獣医療で用いられるA)~F)の輸液、DMEM、各種濃度のぶどう糖水溶液、および生理食塩水のうち、3~20%ブドウ糖水溶液および酢酸リンゲル液(製品名:ソルアセトF輸液)では顕著に細胞の凝集が抑制された(表3、表4)。細胞保存液を除去し5%ブドウ糖水溶液で分散させた場合も、細胞の凝集は認められなかった。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
次いで、5%ブドウ糖水溶液(製品名:大塚糖液5%)で分散させた細胞の生存率を評価した。前記と同じ凍結細胞を解凍し、細胞保存液を除去後、2.5×10細胞を表5の1~6の溶液(各5ml)で懸濁し、3時間後の細胞生存率を評価した。その結果、溶液1、3、および5において、良好な細胞生存率が得られた(図1)。
【表5】
【0038】
同様に、5%ブドウ糖水溶液(製品名:大塚糖液5%)または酢酸リンゲル液(製品名:ソルアセトF輸液)で分散させた細胞の生存率を評価した。前記と同じ凍結細胞を解凍し、細胞保存液を除去後、5×10細胞を表6の1~9の溶液(各5ml)で懸濁し、3時間後の細胞生存率を評価した。その結果、溶液1~5、7、および9において、良好な細胞生存率が得られた(図2)。
【表6】
【0039】
これらの結果から、細胞製剤とブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液とを混合して細胞を分散する場合、細胞製剤の少なくとも100倍希釈までは細胞生存率が維持されることが確認された。また、細胞製剤中の細胞保存液を除去するより、細胞製剤とブドウ糖水溶液または酢酸リンゲル液とを直接混合する方が、細胞生存率が良好であることがわかった。
図1
図2