(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】クレーンのバラストを測定する装置及び方法、並びにそのクレーン
(51)【国際特許分類】
B66C 23/74 20060101AFI20220901BHJP
【FI】
B66C23/74 C
(21)【出願番号】P 2019543298
(86)(22)【出願日】2018-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2018053805
(87)【国際公開番号】W WO2018149926
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】102017001533.3
(32)【優先日】2017-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597120075
【氏名又は名称】リープヘル-ヴェルク エーインゲン ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Liebherr-Werk EhingenGmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クルツ ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ウィルム ハンス-ディーター
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-034290(JP,U)
【文献】特開平11-336130(JP,A)
【文献】実開昭55-053427(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 23/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンのバラストを測定する装置であって、
バラスト(2)を昇降させるよう設けられた少なくとも2本のバラストシリンダ(1,1’)と、
少なくとも1つの評価ユニット(3)とを備え、
前記各バラストシリンダ(1,1’)は、ピストン側
及びロッド側の領域に
それぞれ少なくとも1個の圧力変換器(10,10’,11,11’)を備えており、
前記評価ユニット(3)は、前記バラストシリンダ(1,1’)の後退時
及び伸長時に前記圧力変換器(10,10’,11,11’)によって検出された圧力から、前記バラストシリンダ(1,1’)に生じる摩擦力を除き、前記バラストシリンダ(1,1’)が移動させる質量を算出するよう設けられ
、
前記少なくとも2本のバラストシリンダ(1,1’)のピストン側の圧力変換器とロッド側の圧力変換器との圧力差の算出が後退時及び伸長時に検出された圧力に基づいて行われる
ことを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記圧力変換器(10,10’)が前記バラストシリンダ(1,1’)内に直接配置されている
ことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記バラストシリンダ(1,1’)のロッド側にきっかり1個の前記圧力変換器(10,10’)が配置されており、
前記バラストシリンダ(1,1’)のピストン側に1個の前記圧力変換器(11,11’)が配置されている
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
バラスト(2)を昇降させるよう設けられた少なくとも2本のバラストシリンダ(1,1’)と、
少なくとも1つの評価ユニット(3)とを備え、
前記各バラストシリンダ(1,1’)は、ピストン側及び/又はロッド側の領域に少なくとも1個の圧力変換器(10,10’,11,11’)を備えており、
前記評価ユニット(3)は、前記バラストシリンダ(1,1’)の後退時及び伸長時に前記圧力変換器(10,10’,11,11’)によって検出された圧力から、前記バラストシリンダ(1,1’)に生じる摩擦力を除き、前記バラストシリンダ(1,1’)が移動させる質量を算出するよう設けられているクレーンのバラストを測定する装置を用いてクレーンのバラストウェイトを算出する方法であって、
前記
少なくとも2本のバラストシリンダ(1,1’)内の圧力を検出する工程と、
前記検出された圧力に基づき、関連する表面
積を考慮して前記
少なくとも2本のバラストシリンダ(1,1’)が支持する質量を算出する工程と、を含
み、
前記少なくとも2本のバラストシリンダ(1,1’)のピストン側の圧力変換器とロッド側の圧力変換器との圧力差の算出が後退時及び伸長時に検出された圧力に基づいて行われる
ことを特徴とする、方法。
【請求項5】
前記算出された質量を
、手入力された質量と比較する妥当性チェックを行う工程を含む
ことを特徴とする、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記算出された質量を前記クレーンの荷重モーメント制限内で使用する工程を含む
ことを特徴とする、請求項4
又は5に記載の方法。
【請求項7】
流体媒体の温度を測定し、前記算出された質量に対する温度関連の影響を補償する工程を含む
ことを特徴とする、請求項4から
6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
バラスト安定化が行われた後に、前記クレーンのターンテーブルでバラストを支持する工程を含む
ことを特徴とする、請求項4から
7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか1つに記載の装置を備えた
ことを特徴とする、クレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンのバラストを測定する装置であって、バラストを昇降させるよう設けられた少なくとも2本のバラストシリンダと、少なくとも1つの評価ユニットとを備え、各バラストシリンダは、ピストン側及び/又はロッド側の領域に少なくとも1個の圧力変換器を備えており、評価ユニットは、バラストシリンダの後退時及び/又は伸長時に圧力変換器によって検出された圧力から、バラストシリンダに生じる摩擦力を除き、バラストシリンダが移動させる質量を算出するよう設けられている、装置に関する。本発明はさらに、上記装置を用いてクレーンのバラストウェイトを算出する方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
カウンターウェイト又はバラストウェイトは、クレーンが持ち運ぶ荷物に対して反作用として働くモーメントを付与する。それにより、カウンターウェイトはクレーンの安定性に実質的に寄与する。例えば、クレーンに自動荷重モーメント制限が設けられている場合、クレーンの安定性の算出時に、有効カウンターウェイトの大きさ、すなわち、カウンターウェイトの質量及び有効作用点間距離が使用される。質量及び重量という言葉は、そのそれぞれ必要な変量の使用又は変換のされ方が当業者にとって明らかであるため、本明細書中では両方ともに使用される。クレーンの運転手又はその他のクレーンオペレーターが荷重モーメント制限を実行するために必要なデータを手作業で入力することは知られている。このやり方の場合、必要なデータを手作業で入力する際に誤りが発生し、かつ/又は必要なデータが容易には検索できないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
以上を背景に、本発明の目的は、付随する誤入力を減らし、かつ/又はクレーン運転手又は別のオペレーターの手入力に対する照合又は妥当性チェックを可能にする装置又は方法を提供することである。本発明によれば、さらに、クレーン運転手又はオペレーターが行う入力を不要にする完全に自立的な操作方法又は完全に自立的な操作装置を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、クレーンのバラストを測定するよう構成された装置であって、バラストを昇降させるよう設けられた少なくとも2本のバラストシリンダを備えた、請求項1に記載の装置によって達成される。有利な構成は、下位請求項の主題である。したがって、少なくとも1つの評価ユニットをさらに備え、各バラストシリンダは、ピストン側及び/又はロッド側の領域に少なくとも1個の圧力変換器を備えており、評価ユニットは、バラストシリンダの後退時及び/又は伸長時に圧力変換器によって検出された圧力から、バラストシリンダ内に生じる摩擦力を除き、バラストシリンダが移動させる質量を算出するよう設けられている、装置が提供される。
【0005】
バラストシリンダなど、クレーン上の既存の構成部品が、バラストウェイトを測定する本発明にかかる装置の一部として使用できれば有利である。これにより、追加で必要な構成部品の範囲を削減することができる。評価ユニットを、クレーンに既に設けられている制御/調整ユニットの一部として形成することも考えられる。バラストシリンダ内で生じる摩擦力の除外は、例えば、評価ユニットにより使用可能で、質量算出時に考慮可能な記憶された摩擦値を用いて行うことができる。
【0006】
好ましい実施形態では、圧力変換器がバラストシリンダ内に直接配置されていることを提供することができる。圧力変換器の感圧領域をバラストシリンダ内に収容されている圧力媒体に直にさらすことができ、そのため、さもなければ、例えば、外部の圧力配管など、バラストシリンダと異なる構成部品として形成する必要がある追加の圧力配管などを介して、バラストシリンダに連結する必要がない。このような圧力変換器の配置によれば、測定精度を向上させることができる。シリンダの空間内で直接的な圧力測定が実施可能であり、シリンダ空間から導管を介して案内された、したがってシリンダから離れた領域で測定が行われる場合に比べて、より正確な測定値がもたらされるという点で、測定精度が向上する。また、バラストシリンダ内に圧力変換器を配置することにより、圧力変換器が、バラストシリンダ内に配置されない場合に保護されるよりもバラストシリンダの構造によってより一層保護されるので、損傷のリスクが低減される。
【0007】
できる限り直接的な圧力測定を提供するために、圧力変換器をバラストシリンダの壁の貫通部分内に配置することも考えられる。
【0008】
別の好ましい実施形態では、バラストシリンダのロッド側にきっかり1個の圧力変換器を配置し、バラストシリンダのピストン側に1個の圧力変換器を配置することが考えられる。それによりバラストシリンダの両側での圧力測定が可能になるため、バラストシリンダの両側間の圧力差の正確な値を求めることが可能になるとともに、その値から、バラストシリンダが及ぼす力のできる限り正確な値を算出することが可能になる。
【0009】
また、本発明は、請求項1から3のいずれか1つに記載の装置を用いてクレーンのバラストウェイトを算出する方法を対象とする。上記の方法は、以下の工程、すなわち、
バラストシリンダ内の圧力を検出する工程と、
検出された圧力に基づき、関連する面積を考慮してバラストシリンダが支持する質量を算出する工程と、を含む。
【0010】
支持質量を算出するために必要なバラストシリンダの寸法、すなわち、圧力媒体が作用する面積を評価ユニットに保存又は入力することができるので、後述するように、バラストシリンダが及ぼす力は、バラストシリンダの面積とそれに加わる圧力とを用いて算出可能である。支持質量の概念は、もちろん、バラストシリンダが移動させる質量にも関連する可能性がある。
【0011】
上記の方法によれば、各バラストシリンダのきっかり1つの空間内で圧力を検出することが可能であり、これらの圧力に基づいて、バラストシリンダにかかる荷重、ひいては有効バラストウェイトを測定又は算出することができる。上記空間は、バラストシリンダのロッド側作用空間であっても、ピストン側作用空間であってもよい。
【0012】
好ましい実施形態では、
バラストシリンダ内の圧力検出がバラストシリンダの後退時及び/又は伸長時に行われること、
特に、バラストシリンダ内の圧力差の算出が後退時及び/又は伸長時に検出された圧力に基づいて行われることを提供することができる。
【0013】
算出の精度を向上させるために、バラストシリンダの各空間内で圧力を検出すること、及び、圧力検出をバラストシリンダの後退時と伸長時の両方で行うことも考えられる。圧力差を算出することにより、算出の測定精度をさらに向上させることができる。
【0014】
好ましい実施形態では、上記の方法が、以下の工程、すなわち、
算出された質量を、特に、手入力された質量と比較する妥当性チェックを行う工程を含むことが考えられる。
【0015】
これにより、バラストウェイトの質量を、オペレーターが評価ユニット又は別の算出ユニット及び/又は制御/調整ユニットに入力すること、かつ/又は上記の方法に従ってチェックすることが可能になる。算出された質量と手入力された質量との間に差異が存在することが上記の方法に従って検出され、その差異が限界値を超えていると、例えば、評価ユニットによって警告を発してもよく、かつ/又はクレーンの操作を規制してもよい。さらに考えうることは、対応して設けられた検出装置が、取り付けられたバラスト本体の重量を検出し、それを評価ユニットに送るか、又は妥当性チェックを実行するために送る、バラストの重量又は質量の自動入力である。
【0016】
妥当性チェックには、バラスト識別の想定される振り分けも含めてよい。例えば、2トン、6トン、10トン、14トン又は18トンのウェイトを、想定されるバラストウェイトとして使用してもよい。制御又は評価ユニットが、本発明に従って、例えば2.4トンの値を測定すると、荷重モーメント制限用のバラスト、すなわち、実際のバラストウェイトを2トンに設定することができる。実際のバラストウェイトの割り当てのために許容される境界曖昧度は、状況によってさらに変わる可能性がある。例えば、周囲温度の影響が含まれる場合もある。
【0017】
別の好ましい実施形態では、上記の方法が、以下の工程、すなわち、
算出された質量をクレーンの荷重モーメント制限内で使用する工程を含むことが考えられる。
【0018】
算出された質量及びその他の変量を使用することは、上記の方法のさらなる工程を実行するために質量の算出値を使用することに関係する。荷重モーメント制限は、特定の荷重を超過するとクレーンの動作を抑止するように、かつ/又はクレーンの不安定状態を回避するために警告を発するように設けられていてもよい。この目的のために、荷重モーメント制限は、有効バラストウェイトからクレーンの許容しうる姿勢又は荷重を測定又は算出してクレーンが前方又は後方に傾いたり、後方に転倒したりするのを防止するために、有効バラストウェイトを知っておく必要がある。このことは、例えば、ブームが有効バラストに対してあまりに急勾配に設定されている場合に起こりうる。
【0019】
別の好ましい実施形態では、上記方法が、以下の工程、すなわち、
流体媒体の温度を測定し、算出された質量に対する温度関連の影響を補償する工程を含むことが考えられる。
【0020】
流体媒体、すなわち油圧媒体の温度は、例えば、バラストシリンダ内部及び/又はバラストシリンダに通じる配管内部及び/又はバラストシリンダから離れた位置で測定することができる。油圧媒体のそれぞれ異なる温度でのそれぞれ異なる粘性を考慮することができるので、温度検出により、装置の圧力状態に対する温度関連の影響を考慮することや、記憶された表などから対応する補償値又は補正値を求めて、それを算出された質量を補正するために使用したり、さらなる算出工程での誤差を補償するために使用したりすることが可能になる。
【0021】
同じことは、その代わりとして、又は、さらに追加して算出された質量に対する摩擦の影響を補償する場合にも当てはまる。
【0022】
別の好ましい実施形態では、上記の方法が、以下の工程、すなわち、
バラスト安定化が行われた後に、クレーンのターンテーブルでバラストを支持する工程を含むことが考えられる。
【0023】
支持は、後退及び/又は伸長の過程の間に実行されても、バラストシリンダの後退及び/又は伸長の完了後に実行されてもよい。この場合、バラスト安定化は、バラストウェイトを算出する本発明の方法と見なすことができる。
【0024】
また、本発明は、請求項1から3のいずれか1つに記載の装置を備えたクレーンを対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1a】本発明にかかる1つの装置の概略的表現を示す図である。
【
図1b】本発明にかかるもう1つの装置の概略的表現を示す図である。
【
図2】本発明にかかる方法の第1の圧力時間図を示す図である。
【
図3a】本発明にかかる方法の第2の圧力時間を示す図である。
【
図3b】本発明にかかる方法の第2の圧力時間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1aに、本発明にかかるクレーンのバラストを測定する装置の概略的表現を示す。図示しないバラスト2を吊り上げるための左側バラストシリンダ1及び右側バラストシリンダ1’が図示されている。バラストシリンダ1,1’は、バラストシリンダ1,1’のピストン側及び/又はロッド側の領域にそれぞれ配置された少なくとも1個の圧力変換器10,10’を備えている。バラストシリンダ1,1’のピストン側に、さらに圧力変換器11,11’が設けられていてもよい。1本のバラストシリンダ1,1’あたりに圧力変換器1個の構成であるのか、圧力変換器2個の構成であるのかによって、バラストシリンダ1,1’の2個の圧力変換器間の圧力差及び個々の圧力変換器で測定される絶対圧力のうちのどちらかを、本発明に従って測定又は使用することができる。
【0027】
圧力変換器10,11,10’,11’は、評価ユニット3に連結されていてもよい。評価ユニット3は、バラストシリンダ1,1’の後退時及び/又は伸長時に圧力変換器10,11,10’,11’のうちの少なくとも2個によって検出された圧力から、バラストシリンダ1,1’が移動させる質量を算出するよう設けられている。
【0028】
カウンターウェイトにより、クレーンの荷重又はクレーンが吊り上げる荷重に対して作用するモーメントが付与される。それにより、カウンターウェイトはクレーンの安定性に実質的に寄与する。クレーンの荷重モーメント制限は、クレーンの安定性の算出時に有効カウンターウェイトの大きさ(質量及び有効作用点間距離)を使用して、クレーンが許容しがたいクレーン姿勢で後方又は前方へ転倒するのを防止することができる。後方への転倒は、クレーンのブームが有効バラストに対してあまりにも急勾配に設定された場合に起こりうる。従来、クレーンのオペレーターは手作業でデータを入力していた。その場合に誤入力を回避するためには、クレーンオペレーターの入力に対する照合又は妥当性チェックを少なくとも行う装置が提供される。最善の場合、装置が完全に自立的に作動して、クレーンオペレーターによる入力を不要にすることができるようにすべきである。
【0029】
両バラストシリンダ1,1’において、リング部及びピストン部に、それぞれ1個の圧力変換器10,11,10’,11’が取り付けられていてもよい。特にリング空間及び/又はピストン空間内での(バラストシリンダ1,1’の後退時及び伸長時の)圧力測定によって、バラストシリンダ1,1’に掛かる質量を求めることができる。
【0030】
圧力変換器10,11,10’,11’は、シリンダ内に直接取り付けられてもよく、配管を介してシリンダに接続されている必要がある。それにより、測定精度が向上して、配管損失と温度誤差を大幅に回避することができる。
【0031】
また、温度測定と、その温度の値に基づき、摩擦係数を考慮した圧力値の補正を提供することができる。
【0032】
図1bは、バラストシリンダ1,1’の少なくとも1本のピストンロッドがバラストに固定されている本発明の実施形態を示す。記号で示すバラスト装置の重心を、ピストンロッドの長手軸から値aだけ離して配置させてもよい。2本のバラストシリンダ1,1’を使用すると、バラスト装置の重心を、バラストシリンダ1,1’の両長手軸によって形成される平面の外側に配置することができる。
【0033】
図1bに示す例示の実施形態では、バラストシリンダの後退に関して、以下の式
m
e×g=P
R×A
R-P
K×A
K+F
1×μ
1+F
2×μ
2
が当てはまる。
【0034】
伸長に関しては、以下の式
ma×g=PR×AR-PK×AK-F1×μ1-F2×μ2
が当てはまる。
【0035】
さらに、以下の式が当てはまる。
【0036】
m=(me+ma)/2、F1=F2、かつμ1~μ2、m×g×a=F1×b
但し、mはバラスト装置の重量であり、それ以外のパラメータは図からわかる。ここで、パラメータPは圧力値、パラメータAはバラストシリンダの対応する面積、パラメータFは力を表し、指数K及びRはピストン側又はリング側のパラメータに関する。
【0037】
図2は、本発明の例示の実施形態における圧力プロファイルを示し、1本のバラストシリンダ1,1’につき、ただ1個の圧力センサー10,10’又は圧力変換器10,10’が設けられている。そのため、リング側の圧力プロファイルを圧力変換器10,10’によって示す。不均整であるため、左と右で圧力の大きさが異なっている。線図は、5つの区分に分けられている。区分90は、「バラストが底部にある」領域を示す。この場合、バラストは下部構造上に載っている。区分102は「バラスト後退」領域を示す。この場合、バラストシリンダ1,1’が後退させられ、バラストを上方に移動させる。区分91は「停止」領域を示し、バラストの重量全体がバラストシリンダ1,1’に掛かっている。バラストはクレーンの上部構造にも下部構造にも接触していない。この領域では、例えば55秒時に、簡易な方法で圧力測定が行われる。第2の区分102は再び「バラスト後退」を示す。区分100は、「バラストが最上部にある」領域を示す。この場合、バラストシリンダ1,1’はバラストをクレーンの上部構造に対して押し付けている。
【0038】
以下、
図2に基づき、各リング空間に圧力変換器10,10’を1個のみ備える場合の算出例を示す。
1.測定された値(測定値)
右側リング表面に対する圧力:57.1バール
左側リング表面に対する圧力:51.1バール
2.力の算出
右側シリンダの力[N]:
(右側リング表面に対する圧力)×(リング表面積)×10
57.1バール×233.26cm
2×10=133193.3N
左側シリンダの力[N]:
(左側リング表面に対する圧力)×(リング表面積)×10
51.1バール×233.26cm
2×10=119197.5N
3.合力[kN]
(左側シリンダの力)+(右側シリンダの力)
(133193.3N+119197.5N)/1000=252.39kN
4.バラスト測定
測定質量[ton]:合力/9.81
252.39kN/9.81=25.72ton
5.実際のバラストとの差
実際のバラスト:26ton
測定されたバラスト:25.72ton
相違:280kg
この場合、リング空間内の圧力と、それがピストンに及ぼす力とを考慮することができる。もちろん、上記の例は、バラストシリンダのピストン空間内に圧力変換器11,11’が1個のみ存在する場合にも同様に適用可能である。バラストシリンダ1,1’のクレーンに対する位置合わせ次第では、バラストの質量から圧力を受けるバラストシリンダ1,1’の作用空間内に圧力変換器が配置されてもよい。
【0039】
精度をさらに向上させるために、バラストシリンダ1,1’の一連の動作を自動的に行わせてもよい。開始位置は、クレーンの上部構造に取り付けられるべきバラストが、下部構造上で取り付け位置において積載されている状態であり、バラストシリンダ1,1’とバラストとの間の連結手段は、バラスト安定化操作をバラストシリンダ1,1’を後退させるだけで終了させることができる程度に重なり合っている。バラストシリンダ1,1’は、クレーンオペレーターが、例えば、「バラスト吊り上げ」キーを押すと直ちに、これらの動作を実行する。クレーンオペレーターがそのキーを押し続ける限り、一連の動作をそのまま継続することができる。音響フィードバックが提供されてもよい。
【0040】
最初に、バラストシリンダ1,1’が、例えば、2分の1秒間伸長され、ピストン又はピストンロッドが、場合によっては初めて「動かなくなる」。続いて、バラストシリンダ1,1’が後退させられ、バラスト2が引き上げられる。バラスト2が下部構造から吊り上げられるまで、リング表面に対する圧力の上昇がある。バラスト2が下部構造から吊り上げられると、定圧が得られる。続いて、バラスト2が支持されてもよく、その過程でリング表面の圧力が上昇する。バラスト安定化操作が完了する直前に、バラスト測定のシーケンスが開始される。
【0041】
その過程で、バラスト2が一定時間再び伸長される。バラスト2は、自由な宙吊り状態になり、バラストシリンダ1,1’のみで保持される。バラストシリンダ1,1’の伸長時、例えば、
図3から導き出されるように、15000ミリ秒時に、リング表面及びピストン表面における圧力が測定される。測定された圧力から、バラストシリンダ伸長時の差分力が算出される。
【0042】
続いて、バラストシリンダ1,1’が再び後退させられ、バラスト2が吊り上げられる。この場合にも、後退時、例えば、ほぼ25000ミリ秒時に、リング空間及びピストン空間内で圧力測定が行われる。測定された圧力から、バラストシリンダ1,1’後退時の差分力が算出される。
【0043】
後退時及び伸長時の差分力から、取り付けられたバラスト2を表す質量が求められる。
【0044】
両バラストシリンダ1,1’において、リング表面及びピストン表面に、それぞれ1個の圧力変換器10,11,10’,11’が取り付けられていてもよい。リング表面及びピストン表面における(バラストシリンダ1,1’の後退時及び伸長時の)圧力測定によって、バラストシリンダ1,1’に掛かる質量を求めることができる。
【0045】
測定結果をさらに向上させるために、バラスト測定操作のための上下動シリンダの圧力測定のように、さらに要素を考慮に入れてもよい。また、上記の算出に温度補償をさらに含めてもよい。
【0046】
図3a及び
図3bは、バラストシリンダ1,1’の後退時及びその後の伸長時のバラストシリンダ1,1’内の圧力測定において、測定中の摩擦を差し引くことによって改良を実現できる方法を記載している。
【0047】
図3aに示す区分は
図2に示す区分に対応している。
図3aにおいて新しい点は区分101である。この場合、バラストシリンダ1,1’が伸長させられ、バラストを上部構造から遠ざける。2本の曲線110は、バラストシリンダ1,1’のリング側の圧力プロファイルを示す。これらバラストシリンダは圧力変換器10,10’によって摩擦を受ける。2本の曲線111は、バラストシリンダ1,1’のピストン側の圧力プロファイルを示す。これらバラストシリンダは圧力変換器11,11’によって摩擦を受ける。
【0048】
図3bに示す区分は
図3aに示す区分に対応している。
図3bは、制御ユニットに記憶された「測定バラスト」を示す。測定開始時には、「測定バラスト」の古い値112が存在している。本発明にかかる測定サイクルが開始すると、すなわち、区分100から区分101への移行時に、古い値が取り消される。約25000ミリ秒時に、制御ユニットが本発明にかかる方法を用いて「測定バラスト」の新しい値113を求め、その値を制御ユニットに記憶させている。制御ユニットは、もちろん評価ユニット3と同一であってもよい。
【0049】
バラストシリンダ1,1’の後退時にリング表面に生じる力は、例として次のように算出することができる。
【0050】
右側シリンダのリング表面に対する力[N]:(右側リング表面に対する圧力)×(リング表面積)×10
161.0バール×40.25cm2×10=64802.5N
左側シリンダのリング表面に対する力[N]:(左側リング表面に対する圧力)×(リング表面積)×10
161.7バール×40.25cm2×10=65084.25N
リング表面に対する合力[kN]:(左側シリンダの力)+(右側シリンダの力)
(64802.5N+65084N)/1000=129.89kN
バラストシリンダ1,1’の後退時にピストン表面で生じる力は、例として次のように算出することができる。
【0051】
左側/右側シリンダのピストン表面に対する力[N]:(左側/右側ピストン表面に対する圧力)×(リング表面積)×10
23.5バール×103.87cm2×10=24409.45N
ピストン表面に対する合力[kN]:(左側シリンダの力)+(右側シリンダの力)
(24409.45N+24409.45N)/1000=48.82kN
バラストシリンダ1,1’の後退時の差分力は、例として次のように算出することができる。
【0052】
合力[kN]:(リング表面に対する合力[kN])-(ピストン表面に対する合力[kN]):
129.89kN-48.82kN=81.07kN
バラストシリンダ1,1’の伸長時(15秒時)におけるリング表面に対する力は、例として次のように算出することができる。
【0053】
右側シリンダのリング表面に対する力[N]:(右側リング表面に対する圧力)×(リング表面積)×10
235.0バール×40.25cm2×10=94587.5N
左側シリンダのリング表面に対する力[N]:(左側リング表面に対する圧力)×(リング表面積)×10
235バール×40.25cm2×10=94587.5N
リング表面に対する合力[kN]:(左側シリンダの力)+(右側シリンダの力)
(94587.5N+94587.5N/1000=189.17kN
バラストシリンダ1,1’の伸長時(15秒時)におけるピストン表面に対する力は、例として次のように算出することができる。
【0054】
左側/右側シリンダのピストン表面に対する力[N]:(左側/右側ピストン表面に対する圧力)×(リング表面積)×10
59.5バール×103.87cm2×10=61802.65N
ピストン表面に対する合力[kN]:(左側シリンダの力)+(右側シリンダの力)
(61802.65N+61802.65N)/1000=123.61kN
バラストシリンダの伸長時(15秒時)の差分力は、例として次のように算出することができる。
【0055】
合力[kN]:(リング表面に対する合力[kN])-(ピストン表面に対する合力[kN]):
189.17kN-123.61kN=65.56kN
測定質量[ton]:((伸長時の差分力)+(後退時の差分力)/2)/9.81
((81.07kN+65.56kN)/2)/9.81=7.47ton
⇒実際のバラストとの差:
実際のバラスト:7.36ton
測定バラスト:7.47ton
相違:110kg
バラスト安定化の実際の手順は次の通りであってもよい。バラストが下部構造上に載り、「バラストが底部にある」信号が入手可能になる。最後に算出されたバラストウェイトがゼロに設定される。
【0056】
オペレーターが、操作用制御ユニット又は操作ユニット上の「バラスト吊り上げ」キーを作動させる(キー押圧が維持される)。最初に、バラストシリンダが所定時間伸長され、シリンダが始めて「動かなくなる」。続いて、バラストがバラストシリンダによって後退させられる(バラストが引き上げられる)。バラストが下部構造から吊り上げられるまで、リング表面に対する圧力の上昇がある。
【0057】
バラスト2が下部構造から吊り上げられると、定圧が得られる。続いて、バラストが支持され、リング表面及びピストン表面の圧力が上昇する。バラスト安定化操作が完了する直前に、バラスト測定のシーケンスが開始される。その過程で、バラストが一定時間再び伸長される(バラストが自由な宙吊り状態になる)。バラストシリンダ又は両バラストシリンダ1,1’の伸長時に、リング表面及びピストン表面における圧力が測定される。測定された圧力から、バラストシリンダ伸長時の差分力が算出される。その後、バラストが再び後退させられる。この場合にも、後退時の圧力測定が行われる。測定された圧力から、バラストシリンダ後退時の差分力が算出される。後退時及び伸長時の差分力から、取り付けられたバラストを表す質量が求められる。