(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】缶内面塗装方法
(51)【国際特許分類】
B05D 7/14 20060101AFI20220901BHJP
B05D 7/22 20060101ALI20220901BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20220901BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20220901BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
B05D7/14 F
B05D7/22 R
B05D1/36 B
B05D1/02 Z
B05D3/00 C
B05D3/00 D
(21)【出願番号】P 2019545141
(86)(22)【出願日】2018-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2018035499
(87)【国際公開番号】W WO2019065648
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2017189078
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516296692
【氏名又は名称】TMC JAPAN株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517311172
【氏名又は名称】株式会社G&P
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】楠橋 亮介
(72)【発明者】
【氏名】荻原 将
(72)【発明者】
【氏名】矢口 直之
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-313924(JP,A)
【文献】特開2006-159068(JP,A)
【文献】特開昭61-161182(JP,A)
【文献】特開平02-075363(JP,A)
【文献】特開2012-184370(JP,A)
【文献】特開平02-124983(JP,A)
【文献】特開2005-152891(JP,A)
【文献】特表2009-536572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B65D 1/12-1/16
25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶、ボトル缶の缶胴となる底付円筒体の内面を塗装する缶内面塗装方法であって、
前記底付円筒体を横置きにして前記底付円筒体の軸心回りに回転させながら、前記底付円筒体の開口部の内面領域に、第1塗料を吹き付ける開口部塗装工程と、
前記開口部塗装工程後に、前記底付円筒体の横置き状態および軸心回りの回転状態を維持しつつ、前記底付円筒体の胴部の内面領域に、第2塗料を吹き付ける胴部塗装工程と、
前記胴部塗装工程後、前記底付円筒体の胴部の内面領域に吹き付けられた前記第2塗料の揮発分が揮発する前に、前記底付円筒体の軸心回りの回転を停止して、前記底付円筒体を横置きから縦置きに変更し、前記第2塗料の揮発分を揮発させる揮発工程と、を有し、
前記第1塗料は、前記第2塗料よりも不揮発分が多く、前記第2塗料よりも垂れ難い合成樹脂の塗料である
ことを特徴する缶内面塗装方法。
【請求項2】
請求項1に記載の缶内面塗装方法であって、
前記第1塗料は、ノンボラ値24%~35%であり、
前記第2塗料は、ノンボラ値15%~23%である
ことを特徴とする缶内面塗装方法。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の缶内面塗装方法であって、
前記揮発工程に先立って、前記底付円筒体の底部の内面領域に、前記第2塗料を吹き付ける底部塗装工程をさらに有する
ことを特徴とする缶内面塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶、ボトル缶の缶胴となる底付円筒体の内面を塗装する缶内面塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、缶、ボトル缶において、飲料等の内容物が、缶、ボトル缶を構成する金属と接触して、内容物の味、香り等が変化するのを防止するとともに、缶、ボトル缶が腐食するのを防止するため、缶、ボトル缶の内面を合成樹脂の塗膜で被覆している。
【0003】
特許文献1には、ボトル缶の缶胴となる底付円筒体の内面に塗料を塗布して、底付円筒体の内面に合成樹脂の塗膜を形成する缶内面塗装方法が開示されている。この缶内面塗装方法は、ボトル缶の口金部を形成する底付円筒体の上部(開口部)の内面領域に、耐加工性に優れ、かつ耐食性に優れた第1塗料を塗布する第1塗料塗布工程と、底付円筒体の底部を含む下部のうち、少なくとも胴部の内面領域に、塗れ性または塗装性に優れ、かつ耐食性に優れた第2塗料を塗布する第2塗料塗布工程と、を有する。
【0004】
特許文献1に記載の缶内面塗装方法によれば、ボトル缶の口金部を形成する底付円筒体の上部の内面領域に、耐加工性に優れた第1塗料を塗布するので、口金部の形成加工時に、底付円筒体の上部が大きく変形して塗膜に過大な負荷が加わった場合でも、塗膜にひび割れ、剥離等が発生するのを防止することができる。また、底付円筒体の少なくとも胴部の内面領域に、塗れ性または塗装性に優れた第2塗料を塗布するので、底付円筒体の少なくとも胴部の内面領域に薄く均一な厚さで塗膜を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の缶内面塗装方法では、底付円筒体を横置きにして底付円筒体の軸心回りに回転させながら、底付円筒体の開口部から底付円筒体の内面に向けて塗料を吹き付けている。ここで、塗れ性または塗装性に優れた第2塗料を用いて、底付円筒体の下部のうち、少なくとも胴部の内面領域に薄く均一な厚さの塗膜を形成するためには、第2塗料を薄く均一に吹き付けた後に、第2塗料に含有される溶剤等の揮発分が揮発して安定するまで、底付円筒体をその軸心回りに回転させ続ける必要があり、そのための装置によって設備コストが増加するという問題があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コストをかけずに、底付円筒体の開口部への加工に対する耐性を強化しつつ、底付円筒体の内面全面に塗膜を形成することができる缶内面塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、缶、ボトル缶の缶胴となる底付円筒体を横置きにして底付円筒体の軸心回りに回転させながら、底付円筒体の開口部の内面領域に、第1塗料を吹き付ける開口部塗装工程と、開口部塗装工程後に、底付円筒体の横置き状態および軸心回りの回転状態を維持しつつ、底付円筒体の胴部の内面領域に、第2塗料を吹き付ける胴部塗装工程と、胴部塗装工程後、底付円筒体の胴部の内面領域に吹き付けられた第2塗料の揮発分が揮発する前に、底付円筒体の軸心回りの回転を停止して、底付円筒体を横置きから縦置きに変更し、第2塗料の揮発分を揮発させる揮発工程と、を有する。
【0009】
ここで、第1塗料には、不揮発分が多く(例えばノンボラ値24%~35%)、垂れ難い合成樹脂の塗料が用いられ、第2塗料には、第1塗料より不揮発分が少なく(例えばノンボラ値15%~23%)、垂れ易い合成樹脂の塗料が用いられる。なお、第1塗料および第2塗料には、同種の合成樹脂の塗料を用いることが好ましい。
【0010】
また、本発明において、揮発工程に先立って、底付円筒体の底部の内面領域に、第2塗料を吹き付ける底部塗装工程を追加してもよい。この底部塗装工程は、胴部塗装工程前および胴部塗装工程後のいずれで行ってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、胴部塗装工程後、底付円筒体の胴部の内面領域に吹き付けられた第2塗料の揮発分が揮発する前に、底付円筒体の軸心回りの回転を停止して、底付円筒体を横置きから縦置きに変更している。このため、第2塗料が第1塗料より不揮発分が少なく垂れ易いので、底付円筒体の胴部の内面領域から余分な第2塗料が垂れて底付円筒体の底部の内面領域に移動し、底付円筒体の胴部の内面領域に薄く均一な膜厚の塗膜を形成することができるとともに、吹き付けでは塗料を塗布し難い複雑な形状をしている底付円筒体の底部の内面領域にも、塗料を行き亘らせることができる。
【0012】
一方、底付円筒体の開口部の内面領域には、胴部塗装工程前に、第2塗料より不揮発分が多く垂れ難い第1塗料が塗布されるので、揮発工程により底付円筒体を横置きから縦置きに変更しても、第1塗料が垂れることは殆どないため、底付円筒体の開口部の内面領域に、胴部の内面領域に比べてより厚い塗膜を形成することができる。これにより、底付円筒体の開口部の耐加工性を強化することができる。
【0013】
したがって、本発明によれば、コストをかけずに、底付円筒体の開口部の耐加工性を強化しつつ、底付円筒体の内面全面に塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る缶内面塗装方法を説明するためのフロー図である。
【
図2】
図2は、
図1の開口部塗装工程S1を説明するための図である。
【
図3】
図3は、
図1の底部塗装工程S2を説明するための図である。
【
図4】
図4は、
図1の胴部塗装工程S3を説明するための図である。
【
図5】
図5は、
図1の揮発工程S4を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
本実施の形態に係る缶内面塗装方法は、缶、ボトル缶の缶胴となる底付円筒体の内面を塗装する方法であり、所定角度ずつ間欠回転する円盤状のタレットと、底付円筒体の内面に向けて塗料を吹き付ける複数のスプレー装置と、を備えた缶内面塗装装置によって実現される。ここで、タレットは、円周方向に等間隔で配され、底付円筒体をこの底付円筒体の軸心回りに回転させながら横置き(水平)に保持する複数のポケットを有している。タレットの間欠回転により、各ポケットに横向きに保持された底付円筒体は、自転しながらタレットの回転軸回りに所定角度ずつ間欠回転する。複数のスプレー装置は、それぞれ、タレットの間欠回転により、ポケットが所定時間停止するいずれかの位置に対応して設置されている。そして、スプレー装置は、自スプレー装置に対応する位置にポケットが所定時間停止したタイミングで、このポケットに保持された自転中の底付円筒体の内面の担当領域に塗料を吹き付ける。
【0017】
図1は、本実施の形態に係る缶内面塗装方法を説明するためのフロー図である。
【0018】
[開口部塗装工程S1]
図2に示すように、ポケット2によって軸心O回りに自転しながら横置き(軸心Oを水平H方向に向けた状態)に保持された底付円筒体1が、タレット(不図示)の間欠回転により開口部塗装用のスプレー装置3Aに対応する位置まで移動してこの位置に停止すると、開口部塗装用のスプレー装置3Aは、底付円筒体1の開口部10の内面領域に第1塗料を所定時間吹き付ける。そして、底付円筒体1の自転により、底付円筒体1の開口部10の内面領域の全周に亘って第1塗料を塗布する。
【0019】
第1塗料には、不揮発分が多く(例えばノンボラ値24%~35%)、垂れ難い、エポキシアクリル系樹脂、エポキシユリア系樹脂、エポキシフェノール系樹脂等の合成樹脂の塗料が用いられる。
【0020】
[底部塗装工程S2]
開口部塗装工程S1後、底付円筒体1は、ポケット2により横置き状態および軸心O回りの自転状態を維持しつつ、タレットの間欠回転により底部塗装用のスプレー装置3Bに対応する位置まで移動してこの位置に停止する。これを受けて、底部塗装用のスプレー装置3Bは、底付円筒体1の底部11の内面領域に第2塗料を所定時間吹き付ける。これにより、底付円筒体1の底部11の内面領域の全面に第2塗料を塗布する。第2塗料については、後述の胴部塗装工程S3で詳述する。
【0021】
[胴部塗装工程S3]
底部塗装工程S2後、底付円筒体1は、ポケット2により横置き状態および軸心O回りの自転状態を維持しつつ、タレットの間欠回転により胴部塗装用のスプレー装置3Cに対応する位置まで移動してこの位置に停止する。これを受けて、胴部塗装用のスプレー装置3Cは、底付円筒体1の開口部10および底部11の内面領域に一部オーバーラップさせつつ、自転中の底付円筒体1の胴部12の内面領域に第2塗料を所定時間吹き付ける。そして、底付円筒体1の自転により、底付円筒体1の胴部12の内面領域の全周に亘って第2塗料を塗布する。
【0022】
第2塗料には、第1塗料より不揮発分が少なく(例えばノンボラ値15%~23%)、垂れ易い、エポキシアクリル系樹脂、エポキシユリア系樹脂、エポキシフェノール系樹脂等の合成樹脂の塗料が用いられる。ここで、第2塗料は、第1塗料と親和性の高い塗料、例えば第1塗料と同種の合成樹脂の塗料であることが好ましい。第2塗料に、第1塗料と親和性の高い塗料を用いることにより、底付円筒体1の開口部10の内面領域に塗布された第1塗料と、底付円筒体1の胴部12の内面領域に塗布された第2塗料とのオーバーラップ部分において、第2塗料による塗膜が第1塗料による塗膜から剥離するのを防止することができる。
【0023】
[揮発工程S4]
底部塗装工程S2後、底付円筒体1の胴部12の内面領域に吹き付けられた第2塗料の揮発分が完全に揮発する前のウェットな状態において、底付円筒体1をポケット2から取り出して、底付円筒体1の軸心O回りの自転を停止するとともに、底付円筒体1を横置きから縦置き(軸心Oを垂直V方向に向けた状態)に変更する。例えば、第2塗料がノンボラ値20%のエポキシ系樹脂の塗料である場合、底部塗装工程S2終了から5秒以内に、底付円筒体1の軸心O回りの自転を停止して、底付円筒体1を横置きから縦置きに変更することが好ましい。それから、底付円筒体1を所定時間放置して第2塗料の揮発分を揮発させる。なお、揮発工程S4は、缶内面塗装装置内で実施するようにしてもよいし、あるいは、缶内面塗装装置の下流側に設置される搬送コンベアで実施するようにしてもよい。
【0024】
以上、本発明の一実施の形態について説明した。
【0025】
本実施の形態では、胴部塗装工程S3後、底付円筒体1の胴部12の内面領域に吹き付けられた第2塗料の揮発分が完全に揮発する前のウェットな状態において、底付円筒体1の軸心O回りの自転を停止して、底付円筒体1を横置きから縦置きに変更している。このため、第2塗料は第1塗料より不揮発分が少なく垂れ易いので、底付円筒体1の胴部12の内面領域から余分な第2塗料が垂れて底付円筒体1の底部11の内面領域に移動する。これにより、胴部塗装工程S3後に底付円筒体1を自転させ続けなくても、底付円筒体1の胴部12の内面領域に薄く均一な膜厚の塗膜5Bを形成することができるとともに、吹き付けでは塗料を塗布し難い複雑な形状をしている底付円筒体1の底部11の内面領域(例えば
図5のA部)にも塗料を行き亘らせることができる。
【0026】
一方、底付円筒体1の開口部10の内面領域には、胴部塗装工程S3前に、第2塗料より不揮発分が多く垂れ難い第1塗料が塗布されるので、揮発工程S4において底付円筒体1を横置きから縦置きに変更しても、第1塗料が垂れることは殆どない。このため、底付円筒体1の開口部10の内面領域に、胴部12の内面領域に比べてより厚い塗膜5Aを形成することができる(
図5参照)。これにより、底付円筒体1の開口部10の耐加工性を強化することができる。
【0027】
したがって、本実施の形態によれば、コストをかけずに、底付円筒体1の開口部10の耐加工性を強化しつつ、底付円筒体10の内面全面に塗膜を形成することができる。
【0028】
また、本実施の形態において、第2塗料は、第1塗料と親和性の高い塗料、例えば第1塗料と同種の合成樹脂の塗料を用いることにより、底付円筒体1の開口部10の内面領域に塗布された第1塗料と、底付円筒体1の胴部12の内面領域に塗布された第2塗料とのオーバーラップ部分において、第2塗料による塗膜が第1塗料による塗膜から剥離するのを防止することができる。これにより、底付円筒体1の開口部10を加工することにより作製された缶、ボトル缶の内容物がこの剥離部分に侵入して、缶、ボトル缶を構成する金属に接触するのを防止することができる。
【0029】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0030】
例えば、上記の実施の形態において、底部塗装工程S2は、開口部塗装工程S1後、胴部塗装工程S3前に行われているが、本発明はこれに限定されない。底部塗装工程S2は、揮発工程S4に先立って行われるものであればよい。したがって、揮発工程S4前であれば、胴部塗装工程S3後に行ってもよく、あるいは、開口部塗装工程S1前に行ってもよい。
【0031】
また、上記の実施の形態において、胴部塗装工程S3後、底付円筒体1の胴部12の内面領域に吹き付けられた第2塗料が完全に揮発する前のウェットな状態において、揮発工程S4を行うことを前提に、揮発工程S4に先立って、底付円筒体1の内面の塗装状態、外観等を検査する検査工程を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1:底付円筒体 2:ポケット 3A~3C:スプレー装置 5A、5B:塗膜 10:底付円筒体1の開口部 11:底付円筒体1の底部 12:底付円筒体1の胴部