(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルムおよびこれを含むフレキシブルディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20220901BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20220901BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20220901BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B27/36
B32B7/022
G09F9/00 302
(21)【出願番号】P 2020178203
(22)【出願日】2020-10-23
【審査請求日】2020-10-23
(31)【優先権主張番号】10-2019-0134720
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】508148079
【氏名又は名称】エスケイシー・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SKC CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】キム、グンウク
(72)【発明者】
【氏名】チェ、サンミン
(72)【発明者】
【氏名】ホ、ヨンミン
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-202904(JP,A)
【文献】国際公開第2006/132244(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B32B 27/36
B32B 7/022
G09F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
応力-ひずみ曲線(stress-strain curve)において、ひずみ率が2%~3%の区間における決定係数(R
2)が0.985以上で、結晶化度が55%以上であ
り、
面内位相差(Ro)が1200nm以下であり、
長さ方向及び幅方向の二軸に延伸され、
前記長さ方向の延伸比が3.3~3.5倍であり、
前記長さ方向の延伸比(d1)に対する幅方向の延伸比(d2)の比率(d2/d1)は1.0~1.2であり、
195℃以上の温度にて熱処理されたものである、ポリエステルフィルム。
【請求項2】
前記ひずみ率が2%~3%の区間における決定係数(R
2)が、面内の互いに垂直な第1方向および第2方向に対してそれぞれ0.985以上である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記ポリエステルフィルムは、
応力-ひずみ曲線において、ひずみ率が0%~2%の区間における決定係数(R
2)が0.990以上である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記ポリエステルフィルムは、
応力-ひずみ曲線において、ひずみ率が2%および4%における応力間の差が10MPa以上である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記ポリエステルフィルムは、
応力-ひずみ曲線において、ひずみ率が4%における応力が65MPa~85MPaである、請求項4に記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記ポリエステルフィルムは、
応力-ひずみ曲線において、応力が80MPaに対するひずみ率が3%~8%である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
フレキシブルディスプレイ装置用透明カバーと、
前記透明カバー上に配置されるポリエステルフィルムとを含み、
前記ポリエステルフィルムは、応力-ひずみ曲線においてひずみ率が2%~3%の区間における決定係数(R
2)が0.985以上で、結晶化度が55%以上であ
り、面内位相差(Ro)が1200nm以下であり、長さ方向及び幅方向の二軸に延伸され、前記長さ方向の延伸比が3.3~3.5倍であり、前記長さ方向の延伸比(d1)に対する幅方向の延伸比(d2)の比率(d2/d1)は1.0~1.2であり、195℃以上の温度にて熱処理されたものである、積層体。
【請求項8】
前記透明カバーは、透明ポリイミド系フィルムまたは超薄型ガラス(UTG)であり、
前記積層体は、剥離が生じるまでの繰り返しフォルディング回数が20万回以上である、
請求項7に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実現例は、柔軟性および外観特性が制御されたポリエステルフィルムおよびこれを含むフレキシブルディスプレイ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ技術は、IT機器の発達に伴う需要に支えられ更なる発展を遂げており、カーブド(curved)ディスプレイ、ベンデッド(bended)ディスプレイなどの技術は、すでに商用化されている。最近、大画面および携帯性が同時に求まられるモバイル機器分野において、外力に応じて柔軟に曲がるかフォルディング(folding)され得るフレキシブルディスプレイ(flexible display)装置が好まれている。特に、フォルダブル(foldable)ディスプレイ装置は、使用しないときは折りたたんで小さくして携帯性を高め、使用するときは広げて大画面を実現できることが大きなメリットである。
【0003】
これらのフレキシブルディスプレイ装置は、カバーウィンドウとして透明ポリイミドフィルムまたは超薄型ガラス(UTG)を主に使用するが、透明ポリイミドは外部のスクラッチに対する脆弱性があり、超薄型ガラスは飛散防止特性に脆弱性があると言う問題があって、その表面に保護フィルムが適用される。フォルダブルディスプレイ装置に適用されるフィルムは、フォルディングされた状態で持続的に引張応力がフィルムに加わるが、この状態でフィルムが変形すると、構成層間の剥離が発生し得る。
【0004】
これを防止するために、一定の応力を長時間持続した場合にも変形が容易に発生しない軟質素材の高分子フィルムを保護フィルムとして使用し得る(特許文献1を参照)。しかし、軟質素材の高分子は、くっつき易い特性のため工程上の制御が難しく、ゲル発生に起因して無欠点の透明フィルム製造が難しいためカバーウィンドウとの異質感が生じ、薄型フィルムの製造が容易ではなく外部押圧などの衝撃により変形され易い問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】韓国公開特許第2017-0109746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フレキシブルディスプレイ装置のカバーに適用される保護フィルムとして、最近ポリエチレンテレフタレート(PET)のようなポリエステル素材のフィルムが考慮されているが、フォルダブルディスプレイ用途に求められる柔軟性、つまり、弾性回復力の脆弱性問題を解決しなければならない。
【0007】
一方、このようなポリエステルフィルムの柔軟性を単に高めるように改質すると、フィルム製造または製品使用中に異物や外力によってフィルムに押圧(dent)跡が発生し易いので、外観欠陥を引き起こし得る。
【0008】
そこで、本発明者らが研究した結果、ポリエステルフィルムの応力に対するひずみ率および結晶化度を特定の範囲に調節することにより、柔軟性と外観特性とを同時に向上させ得ることを見出した。
【0009】
したがって、実現例の課題は、多数のフォルディングおよび外部押圧に対しても変形が抑制されたポリエステルフィルム、該フィルムと透明カバーとの積層体、およびこれを含むフレキシブルディスプレイ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実現例によると、応力-ひずみ曲線(stress-strain curve)においてひずみ率が2%~3%の区間における決定係数(R2)が0.985以上で、結晶化度が55%以上である、ポリエステルフィルムが提供される。
【0011】
他の実現例によると、フレキシブルディスプレイ装置用透明カバーと、前記透明カバー上に配置されるポリエステルフィルムとを含み、前記ポリエステルフィルムは、応力-ひずみ曲線においてひずみ率が2%~3%の区間における決定係数(R2)が0.985以上で、結晶化度が55%以上である、積層体が提供される。
【0012】
また他の実現例によると、フレキシブルディスプレイパネルと、前記フレキシブルディスプレイパネル上に配置されるポリエステルフィルムとを含み、前記ポリエステルフィルムは、応力-ひずみ曲線においてひずみ率が2%~3%の区間における決定係数(R2)が0.985以上で、結晶化度が55%以上である、フレキシブルディスプレイ装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
前記実現例によると、ポリエステルフィルムの応力に対するひずみ率の決定係数(R2)値および結晶化度を特定の範囲に調節することにより、一定の応力を長時間持続しても変形が発生しない柔軟性を有しながら、外部押圧の衝撃に強い特性を同時に達成し得る。
【0014】
したがって、前記ポリエステルフィルムは、フレキシブルディスプレイ装置のカバーに適用され、多数の繰り返しフォルディングに対しても元の特性を維持しつつ、製品使用中に様々な要因によって外観特性が低下することを防止し得る。
【0015】
また、前記ポリエステルフィルムは薄膜の製造が容易であり、ディスプレイ用カバーウィンドウとの異質感を感じない透明性を有し得る。
【0016】
したがって、前記ポリエステルフィルムは、フレキシブルディスプレイ装置、特にフォルダブルディスプレイ装置のカバーウィンドウに適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、ポリエステルフィルムの応力に対するひずみ率の曲線およびこれに適用された回帰直線を示したものである。
【
図2a】
図2aは、実施例1のポリエステルフィルムの応力に対するひずみ率の曲線を示したものである。
【
図2b】
図2bは、比較例1のポリエステルフィルムの応力に対するひずみ率の曲線を示したものである。
【
図3a】
図3aは、実施例1のポリエステルフィルムの応力-ひずみ曲線におけるひずみ率0%~2%区間を示したものである。
【
図3b】
図3bは、比較例1のポリエステルフィルムの応力-ひずみ曲線におけるひずみ率0%~2%区間を示したものである。
【
図4a】
図4aは、実施例1のポリエステルフィルムの応力-ひずみ曲線におけるひずみ率2%~3%区間を示したものである。
【
図4b】
図4bは、比較例1のポリエステルフィルムの応力-ひずみ曲線におけるひずみ率2%~3%区間を示したものである。
【
図5a】
図5aは、インフォルディング(in-folding)タイプのフレキシブルディスプレイ装置の断面図を示したものである。
【
図5b】
図5bは、アウトフォルディング(out-folding)タイプのフレキシブルディスプレイ装置の断面図を示したものである。
【
図6】
図6は、有機発光ディスプレイ装置の断面図の一例を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の実現例の説明において、1つの構成要素が他の構成要素の上または下に形成されるものと記載することは、1つの構成要素が他の構成要素の上または下に直接、または他の構成要素を介して間接的に形成されるものをすべて含む。
【0019】
図面における各構成要素の大きさは説明のために誇張され得、実際に適用される大きさと異なり得る。
【0020】
本明細書において、ある構成要素を「含む」ということは、特に反する記載がない限り、それ以外の他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0021】
また、本明細書に記載された構成要素の物性値、寸法などを表すすべての数値範囲は、特に記載がない限り、すべての場合に「約」という用語で修飾されるものと理解するべきである。
【0022】
本明細書において単数表現は、特に説明がなければ、文脈上解釈される単数または複数を含む意味で解釈される。
【0023】
[ポリエステルフィルム]
一実現例によるポリエステルフィルムは、応力-ひずみ曲線(stress-strain curve)においてひずみ率が2%~3%の区間における決定係数(R2)が0.985以上で、結晶化度が55%以上である。
【0024】
[応力に対するひずみ率の決定係数]
前記ポリエステルフィルムは、任意の方向に引っ張る際、特定のひずみ率区間において、応力に対するひずみ率(すなわち引張ひずみ率)の決定係数(R2)値が特定の範囲を有する。これにより、前記ポリエステルフィルムは、フレキシブルディスプレイ装置のカバーに適用され、多数の繰り返しフォルディングに対しても元の特性を維持することができる。
【0025】
本明細書において決定係数(coefficient of determination)とは、統計学的用語として公知のように、回帰式の適合度を測る尺度であり、回帰分析で従属変数Yのデータyiに対して、yiの全変動に対する変動の比率を示す。決定係数は通常R2で示し、その値が1に近いほど回帰式の適合度は高くなる。
【0026】
一例として、前記ポリエステルフィルムは、応力-ひずみ曲線においてひずみ率が2%~3%の区間における決定係数(R2)が、面内互いに垂直な第1方向および第2方向に対して、それぞれ0.985以上、0.986以上、0.987以上、0.988以上、または0.989以上であり得る。具体的に、前記ポリエステルフィルムは、ひずみ率が2%~3%の区間における決定係数(R2)が、前記第1方向および第2方向に対してそれぞれ0.985~0.995、0.986~0.995、0.987~0.995、または0.985~0.990であり得る。
【0027】
他の例として、前記ポリエステルフィルムは、応力-ひずみ曲線においてひずみ率が0%~2%の区間における決定係数(R2)が0.990以上であり得る。例えば、前記ポリエステルフィルムは、ひずみ率が0%~2%の区間における決定係数(R2)が、前記第1方向および第2方向に対してそれぞれ0.991以上、0.992以上、0.993以上、0.994以上、または0.995以上であり得る。具体的に、前記ポリエステルフィルムは、ひずみ率が0%~2%の区間における決定係数(R2)が、前記第1方向および第2方向に対してそれぞれ0.991~0.999、0.992~0.999、0.993~0.999、0.994~0.999、または0.995~0.999であり得る。
【0028】
また他の例として、前記ポリエステルフィルムは、応力-ひずみ曲線においてひずみ率2%における応力(S2)を基準としたひずみ率4%における応力(S4)の比率(S4/S2)が、1.1以上、1.2以上、1.25以上、または1.3以上であり得る。具体的に、前記ポリエステルフィルムは、応力-ひずみ曲線においてひずみ率2%における応力(S2)を基準としたひずみ率4%における応力(S4)の比率(S4/S2)が、1.1~1.7、1.2~1.5、1.25~1.5、または1.3~1.5であり得る。
【0029】
また他の例として、前記ポリエステルフィルムは、応力-ひずみ曲線においてひずみ率2%および4%における応力間の差が、5MPa以上、10MPa以上、または15MPa以上であり得る。具体的に、前記ポリエステルフィルムは、応力-ひずみ曲線においてひずみ率2%および4%における応力間の差が10MPa以上であり得る。より具体的に、前記ポリエステルフィルムは、応力-ひずみ曲線においてひずみ率2%および4%における応力間の差が10MPa~50MPa、または10MPa~30MPaであり得る。
【0030】
また他の例として、前記ポリエステルフィルムは、応力-ひずみ曲線においてひずみ率4%における応力が50MPa以上、60MPa以上、または65MPa以上であり得る。具体的に、前記ポリエステルフィルムは、応力-ひずみ曲線においてひずみ率4%における応力が65MPa~85MPaであり得る。より具体的に、前記ポリエステルフィルムは、応力-ひずみ曲線においてひずみ率4%における応力が、65MPa~75MPa、75MPa~85MPa、または70MPa~80MPaであり得る。
【0031】
また他の例として、前記ポリエステルフィルムは、応力-ひずみ曲線において応力80MPaに対するひずみ率が、15%以下、10%以下、または8%以下であり得る。具体的に、前記ポリエステルフィルムは、応力-ひずみ曲線において応力80MPaに対するひずみ率が3%~8%であり得る。より具体的に、前記ポリエステルフィルムは、応力-ひずみ曲線において応力80MPaに対するひずみ率が、3%~6%、4%~8%、または4%~7%であり得る。
【0032】
前記第1方向は、前記ポリエステルフィルムの面内任意の方向であり得、前記第2方向は、前記第1方向と面内垂直な方向で定められ得る。例えば、前記第1方向は、フィルムの長さ方向(すなわち機械方向)(MD)または幅方向(すなわち、テンター方向)(TD)であり得き、前記第2方向は、これに垂直な幅方向(TD)または長さ方向(MD)であり得る。具体的には、前記第1方向がフィルムの長さ方向(MD)であり、前記第2の方向がフィルムの幅方向(TD)であり得る。
【0033】
図1は、ポリエステルフィルムの応力に対するひずみ率の曲線およびこれに適用された回帰直線を示すものである。このような曲線において、ひずみ率0%~2%区間に対する回帰直線を設定すると、この区間に対する決定係数(R
2)値を得ることができる。また、前記曲線においてひずみ率2%~3%区間に対する回帰直線を設定すると、この区間に対する決定係数(R
2)値を得ることができる。
【0034】
図2a、3aおよび4aは、それぞれ実施例のポリエステルフィルムの応力に対するひずみ率の曲線、該曲線におけるひずみ率0%~2%区間および2%~3%区間を示したものである。また、
図2b、3bおよび4bは、それぞれ比較例のポリエステルフィルムの応力に対するひずみ率の曲線、該曲線におけるひずみ率0%~2%区間および2%~3%区間を示したものである。前記図から分かるように、実施例ポリエステルフィルムは、ひずみ率2%~3%区間で応力に対するひずみ率の決定係数(R
2)値が0.985以上であり、ひずみ率0%~2%区間で応力に対するひずみ率の決定係数(R
2)値が0.990以上であるのに対し、比較例のポリエステルフィルムは、前記引張特性の範囲から外れる。
【0035】
[フィルムの位相差]
前記ポリエステルフィルムは、面内位相差(Ro)が1200nm以下、1000nm以下、600nm以下、500nm以下、400nm以下、300nm以下、または200nm以下であり得る。前記好ましい範囲内のとき、虹ムラの発生を最小限に抑えることができる。
【0036】
一方、前記ポリエステルフィルムの面内位相差の下限値は0nmであり得、または光学特性と機械的物性とのバランスのために、前記面内位相差(Ro)の下限値を10nm以上、30nm以上、または50nm以上とし得る。
【0037】
また、前記ポリエステルフィルムは、厚さ方向位相差(Rth)が5000nm以上または6000nm以上であり得る。前記厚さ方向位相差は、厚さ40μm~50μmを基準とした測定値であり得る。前記好ましい範囲内のとき、ポリエステルフィルムの結晶化を最小化して機械的物性の面で好ましい。また、厚さ方向位相差(Rth)が大きいほど、面内位相差(Ro)に対する厚さ方向位相差(Rth)の比(Rth/Ro)が大きくなるため、虹ムラを効果的に抑制することができる。
【0038】
一方、前記ポリエステルフィルムから虹ムラをなくすための厚さ限界およびコストを考慮して、前記厚さ方向位相差(Rth)の上限値を16000nm以下、15000nm以下、または14000nm以下とし得る。
【0039】
なお、前記面内位相差(in-plane retardation、Ro)とは、フィルムの平面内の直交する2つ軸の屈折率の異方性(△nxy=|nx-ny|)とフィルム厚さ(d)との積(△nxy×d)と定義されるパラメータとして、光学的等方性または異方性を示す尺度である。
【0040】
また、厚さ方向位相差(thickness direction retardation、Rth)とは、フィルム厚さ方向の断面から見たときの2つの複屈折である△nxz(=|nx-nz|)および△nyz(=|ny-nz|)に、それぞれフィルム厚さ(d)を乗じて得られる位相差の平均と定義されるパラメータである。
【0041】
また、前記ポリエステルフィルムは、面内位相差(Ro)に対する厚さ方向位相差(Rth)の比(Rth/Ro)が10以上、15以上、または20以上であり得る。面内位相差(Ro)は小さいほど、厚さ方向位相差(Rth)は大きいほど、虹ムラが生じることを防止するのに有利なので、両数値の比(Rth/Ro)は大きく維持されることが好ましい。
【0042】
[フィルム組成]
前記ポリエステルフィルムはポリエステル樹脂を含む。
【0043】
前記ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸とジオールとが重縮合した単一重合体樹脂または共重合体樹脂であり得る。また、前記ポリエステル樹脂は、前記単一重合体樹脂または共重合体樹脂が混合されたブレンド樹脂であり得る。
【0044】
前記ジカルボン酸の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルスルホンカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、3,3-ジエチルコハク酸、グルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカンジカルボン酸などがある。
【0045】
また、前記ジオールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、デカメチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホンなどがある。
【0046】
好ましくは、前記ポリエステル樹脂は、結晶性に優れた芳香族ポリエステル樹脂であり得、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を主成分とし得る。
【0047】
一例として、前記ポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂、具体的にPET樹脂を約85重量%以上含み、より具体的に、90重量%以上、95重量%以上、または99重量%以上含み得る。他の例として、前記ポリエステルフィルムは、PET樹脂以外に、他のポリエステル樹脂をさらに含み得る。具体的に、前記ポリエステルフィルムは、約15重量%以下のポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂をさらに含み得る。より具体的に、前記ポリエステルフィルムは、約0.1重量%~10重量%、または約0.1重量%~5重量%のPEN樹脂をさらに含み得る。
【0048】
前記組成により、ポリエステルフィルムが加熱、延伸などを経る製造過程において結晶化度が上昇し、引張強度などの機械的物性が向上され得る。
【0049】
[フィルムの特性および用途]
前記ポリエステルフィルムは、10μm~500μmの厚さを有し得る。または、前記ポリエステルフィルムの厚さは、10μm~300μm、10μm~100μm、10μm~80μm、20μm~60μm、または40μm~60μmであり得る。
【0050】
前記ポリエステルフィルムは、二軸延伸されたものが柔軟性および弾性回復の面から好ましい。この際、前記二軸に対するそれぞれの延伸比間の比率は、1:0.5~1:1.5、1:0.7~1:1.3、または1:0.8~1:1.2であり得る。具体的に、前記ポリエステルフィルムは二軸延伸されたものであり、前記二軸に対するそれぞれの延伸比間の比率が1:0.8~1:1.2であり得る。前記延伸比の比率範囲内のとき、一定の応力を長時間持続しても変形が生じない柔軟性を有するのになお有利であり得る。
【0051】
前記ポリエステルフィルムは、面内の第1方向および前記第1方向に垂直な面内の第2方向に対して二軸延伸されたものであり得る。この際、前記第1方向延伸比は2.0~5.0であり、具体的に2.8~3.5、または3.3~3.5であり得る。また、前記第2方向の延伸比は2.0~5.0であり、具体的に2.9~4.5、または3.3~4.0であり得る。具体的に、前記ポリエステルフィルムは、3.3~3.5の長さ方向延伸比および3.3~4.0の幅方向延伸比で二軸延伸されたものであり得る。また、前記第1方向延伸比(d1)に対する前記第2方向延伸比(d2)の比(d2/d1)は1.2以下であり得、例えば、1.0~1.2、1.0~1.1、1.0~1.15、または1.05~1.1であり得る。
【0052】
また、前記ポリエステルフィルムの結晶化度は55%以上であり、さらには60%以上であり得る。具体的に、前記ポリエステルフィルムの結晶化度は55%~70%、55%~65%、または60%~70%であり得る。前記結晶化度の範囲内のとき、フィルム製造または製品使用中に異物や外力によるフィルムの押圧(dent)跡を抑制して優れた外観を維持し得る。
【0053】
また、前記ポリエステルフィルムは、熱処理を経たものが機械的物性面から好ましい。例えば、前記ポリエステルフィルムは、180℃以上の温度、具体的に195℃以上の温度、より具体的に195℃~230℃の温度で熱処理されたものであり得る。前記熱処理温度範囲内のとき、外部押圧に対しても変形が抑制される特性を実現するのになお有利であり得る。
【0054】
また、前記ポリエステルフィルムは、変形が生じるまでの繰り返しフォルディング回数が100回以上、1000回以上、1万回以上、5万回以上、10万回以上、15万回以上、または20万回以上であり得る。具体的に、前記ポリエステルフィルムに変形が生じるまでの繰り返しフォルディング回数が20万回以上であり得る。前記好ましい範囲内のとき、頻繁なフォルディングにも変形が生じないので、フレキシブルディスプレイ装置への適用が有利である。
【0055】
このような特性により、前記保護フィルムは、フレキシブルディスプレイ装置のカバー、特にフォルダブルディスプレイ装置のカバーに適用され得、インフォルディングタイプにおいて内側に小さくフォルディングされる点で生じる変形だけでなく、アウトフォルディングタイプにおいて外側に大きくフォルディングされる点で生じる変形によっても、元の特性が低下しなくなり得る。
【0056】
[ポリエステルフィルムの製造方法]
このようなポリエステルフィルムは、延伸比が調節された二軸延伸および特定温度における熱処理を含む工程により製造され得る。
【0057】
一実現例によるポリエステルフィルムの製造方法は、ポリエステル樹脂からシートを形成し、二軸延伸および熱処理して、応力-ひずみ曲線(stress-strain curve)においてひずみ率が2%~3%の区間における決定係数(R2)が0.985以上で、結晶化度が55%以上であるフィルムを得る段階を含む。
【0058】
この際、前記方法により、最終的に製造されるポリエステルフィルムが前記特性(引張特性および結晶化度)を満足するように組成および工程条件を調節する。
【0059】
具体的に、最終ポリエステルフィルムが前記特性を満足するためには、ポリエステル樹脂の押出およびキャスティング温度を調節し、延伸時の予熱温度、各方向別延伸比、延伸温度、延伸速度などを調節するか、延伸後に熱処理および弛緩を行いながら熱処理温度および弛緩率を調節し得る。
【0060】
以下、各段階別でさらに具体的に説明する。
まず、ポリエステル樹脂を押し出して未延伸シートを形成し得る。この際、前記ポリエステル樹脂の組成は、前記例示したとおりである。
【0061】
また、前記押出は、230℃~300℃、または250℃~280℃の温度条件にて行える。
【0062】
前記未延伸シートは、延伸する前に一定温度にて予熱され得る。
前記予熱温度の範囲は、前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)を基準に、Tg+5℃~Tg+50℃を満足する温度範囲で決定され得、一例として、70℃~100℃の温度範囲であり得る。前記範囲内のとき、前記シートが延伸されやすい柔軟性を確保するとともに、延伸中に破断する現象を効果的に防止し得る。
【0063】
前記延伸は二軸延伸で行われ、例えば、同時二軸延伸法または逐次二軸延伸法により、長さ方向(すなわち機械方向)(MD)および幅方向(すなわち、テンター方向)(TD)の二軸に延伸され得る。好ましくは、まず一方向に延伸した後、その方向の直角方向に延伸する逐次二軸延伸法が行われ得る。
【0064】
前記延伸の速度は6.5m/min~8.5m/minであり得るが、特に限定されない。
【0065】
前記長さ方向延伸比は2.0~5.0であり、具体的に2.8~3.5、または3.3~3.5であり得る。また、前記幅方向延伸比は2.0~5.0であり、具体的に2.9~4.5、または3.3~4.0であり得る。前記好ましい範囲内のとき、厚さを均一化するのになお有利であり得る。また、長さ方向(MD)と幅方向(TD)とのバランスを取るために、屈折率を測定しながら各方向の屈折率の差が最小になるように、各方向別延伸時にかかる負荷を調節することが好ましい。また、前記長さ方向延伸比(d1)に対する幅方向延伸比(d2)の比率(d2/d1)は1.2以下であり得、例えば、1.0~1.2、1.0~1.1、1.0~1.15、または1.05~1.1であり得る。前記延伸比(d1、d2)は延伸前の長さを1.0としたとき、延伸後の長さを示す比である。
【0066】
前記延伸を経て得られたフィルムは、その後熱処理の段階を経る。前記熱処理は、180℃以上の温度、具体的に195℃以上の温度、より具体的に195℃~230℃の温度で行われ得る。前記熱処理は、0.2分~1分間行われ、より具体的に0.4分~0.7分の間行われ得る。
【0067】
また、前記熱処理を開始した後、フィルムは長さ方向および/または幅方向に弛緩され得、この際の温度範囲は150℃~250℃であり得る。前記弛緩は1%~10%、2%~7%、または3%~5%の弛緩率で行われ得る。また、前記弛緩は、1秒~1分、2秒~30秒、または3秒~10秒間行われ得る。
【0068】
また、前記熱処理後にフィルムを冷却することができ、前記冷却は、前記熱処理温度に比べて50℃~150℃さらに低い温度条件で行われ得る。
【0069】
[積層体]
一実現例に係る積層体は、フレキシブルディスプレイ装置用透明カバーと、前記透明カバー上に配置される前記実現例によるポリエステルフィルムとを含む。
【0070】
前記積層体において、前記ポリエステルフィルムは、前術の一実現例によるポリエステルフィルムと実質的に同じ構成および特性を有する。
【0071】
前記透明カバーは、フレキシブルディスプレイ装置のカバーウィンドウであり得る。
【0072】
前記透明カバーは、高分子フィルムまたはガラス基材であり得る。具体的に前記透明カバーは、ポリイミド系フィルムまたは超薄型ガラス(UTG)であり得る。
【0073】
一例として、前記透明カバーは、ポリイミド系樹脂を含み得る。具体的に、前記透明カバーはポリイミド系フィルムであり得る。
【0074】
前記ポリイミド系フィルムは、ポリイミド系重合体を含み、前記ポリイミド系重合体は、ジアミン化合物、ジアンヒドリド化合物、および選択的にジカルボニル化合物を重合して形成される。
【0075】
前記ポリイミド系重合体は、イミド繰り返し単位を含む重合体である。また、前記ポリイミド系重合体は、選択的にアミド繰り返し単位を含み得る。前記ポリイミド系重合体は、ジアミン化合物とジアンヒドリド化合物を含む反応物が同時または順次反応して形成され得る。具体的に、前記ポリイミド系重合体は、ジアミン化合物とジアンヒドリド化合物が重合して形成される。または、前記ポリイミド系重合体は、ジアミン化合物、ジアンヒドリド化合物およびジカルボニル化合物を重合して形成され得る。この際、前記ポリイミド系重合体は、ジアミン化合物とジアンヒドリド化合物との重合に由来するイミド(imide)繰り返し単位と、前記ジアミン化合物とジカルボニル化合物との重合に由来するアミド(amide)繰り返し単位とを含む。
【0076】
前記ジアミン化合物は、例えば芳香族構造を含む芳香族ジアミン化合物であり得る。具体的に、前記ジアミン化合物は、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル(TFDB)を含み得るが、これに限定されるものではない。
【0077】
前記ジアンヒドリド化合物は、芳香族構造を含む芳香族酸二無水物または脂環族構造を含む脂環式酸二無水物であり得る。具体的に、前記ジアンヒドリド化合物は、2,2'-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)を含み得るが、これに限定されるものではない。
【0078】
前記ジカルボニル化合物は、芳香族構造を含む芳香族ジカルボニル化合物であり得る。前記ジカルボニル化合物は、テレフタロイルクロリド(TPC)、1,1'-ビフェニル-4,4'-ジカルボニルジクロリド(BPDC)、イソフタロイルクロリド(IPC)またはその組み合わせを含み得るが、これに限定されるものではない。
【0079】
前記ジアミン化合物と前記ジアンヒドリド化合物とが重合してポリアミド酸を生成し得る。次いで、前記ポリアミド酸は脱水反応によりポリイミドに転換され得、前記ポリイミドはイミド繰り返し単位を含む。
【0080】
例えば、前記ポリイミドは、下記化学式A-1で表される繰り返し単位を含み得るが、これに限定されるものではない。
【0081】
[化A-1]
前記化学式A-1のnは、例えば1~400の整数である。
【0082】
また、前記ジアミン化合物および前記ジカルボニル化合物が重合して、下記化学式Bで表される繰り返し単位を形成し得る。
【0083】
例えば、前記ジアミン化合物および前記ジカルボニル化合物が重合して、化学式B-1~B-3で表されるアミド繰り返し単位を形成し得る。
【0084】
[化B-1]
前記化学式B-1のxは、例えば1~400の整数である。
【0085】
[化B-2]
前記化学式B-2のyは、例えば1~400の整数である。
【0086】
[化B-3]
前記化学式B-3のyは、例えば1~400の整数である。
【0087】
前記透明カバーの厚さは20μm~500μm、30μm~300μm、または40μm~100μmであり得る。
【0088】
前記透明カバーは、HB以上の表面硬度および波長550nmで80%以上の光透過度を有し得る。また、前記透明カバーは、厚さ50μmを基準に黄色度が5以下であり、ヘイズが2%以下であり得る。
【0089】
前記積層体は、剥離が生じるまでの繰り返しフォルディング回数が100回以上、1000回以上、1万回以上、5万回以上、10万回以上、15万回以上、または20万回以上であり得る。前記範囲内のとき、頻繁なフォルディングにも剥離が生じないので、フレキシブルディスプレイ装置への適用が有利である。
【0090】
具体的に、前記透明カバーは、ポリイミド系フィルムまたは超薄型ガラス(UTG)であり得、前記積層体の剥離が生じるまでの繰り返しフォルディング回数が20万回以上であり得る。
【0091】
このような特性により、前記積層体は、フレキシブルディスプレイ装置のカバー、特にフォルダブルディスプレイ装置のカバーに適用され得、インフォルディングタイプにおいて内側に小さくフォルディングされる点で生じる変形だけでなく、アウトフォルディングタイプにおいて外側に大きくフォルディングされる点で生じる変形によっても特性が低下しなくなり得る。
【0092】
[ディスプレイ装置]
一実現例によるフレキシブルディスプレイ装置は、前記実現例によるポリエステルフィルムをカバーに含む。
【0093】
具体的に、前記フレキシブルディスプレイ装置は、フレキシブルディスプレイパネルと、前記フレキシブルディスプレイパネル上に配置される前記実現例によるポリエステルフィルムとを含む。
【0094】
または、前記フレキシブルディスプレイ装置は、フレキシブルディスプレイパネルと、前記フレキシブルディスプレイパネル上に配置される前記実現例による積層体(透明カバーとポリエステルフィルムとの積層体)とを含む。
【0095】
前記フレキシブルディスプレイ装置において、前記ポリエステルフィルムまたは前記積層体は、前述の一実現例によるポリエステルフィルムまたは前記積層体と実質的に同じ構成および特性を有する。
【0096】
前記フレキシブルディスプレイ装置は、フォルダブルディスプレイ(foldable display)装置であり得る。具体的に、前記フォルダブルディスプレイ装置は、フォルディング方向によってインフォルディング(in-folding)タイプまたはアウトフォルディング(out-folding)タイプであり得る。
【0097】
図5aおよび5bを参照して、前記フォルダブルディスプレイ装置は、フォルディング方向の内側に画面が位置するインフォルディングタイプ1と、フォルディング方向の外側に画面が位置するアウトフォルディングタイプ2であり得る。これらのフォルダブルディスプレイ装置のカバーウィンドウ200に適用される透明カバーとしては、例えば、透明ポリイミド系フィルム、超薄型ガラス(UTG)などが使用され得る。前記カバーウィンドウ200の表面には、衝撃緩和、飛散防止、スクラッチ防止などのために保護フィルム100が適用され、前記保護フィルム100として前記実現例によるポリエステルフィルムが利用され得る。
【0098】
フレキシブルディスプレイ装置に適用される材料において柔軟性並みに重要な特性は、頻繁な反りやフォルディングに対しても本来の特性の低下が発生しないことである。一般的な素材は、完全にフォルディングしてから広げると跡が残り、元の姿に戻ってくることがほとんど不可能なので、フレキシブルディスプレイ装置に適用される素材の開発には、このような制限を克服する特性を有する必要がある。
【0099】
具体的に、
図5aを参照して、インフォルディングタイプ1の場合、内側に小さくフォルディングされるポイントaに加わる応力による変形により、また、
図5bを参照して、アウトフォルディングタイプ2の場合、外側に大きくフォルディングされるポイントbに生じる応力による変形により、保護フィルム100などに白化やクラックが発生して特性が低下しやすい。
【0100】
このような白化およびクラックは、一般的に常温において保護フィルムのモジュラスが低い場合は解決され得るが、従来の一般的なポリエステルフィルムは概ね常温においてモジュラスが大きいため、フレキシブルディスプレイ装置に適用する際、白化およびクラックが生じやすい問題がある。
【0101】
しかし、前記実現例によるポリエステルフィルムは、引張および弛緩するサイクルによるひずみ率を調節することにより、フレキシブルディスプレイのカバーに求められる特性を実現することができ、その結果、前記実現例によるポリエステルフィルムおよびこれを含む前記積層体は、フレキシブルディスプレイ装置のカバーに適用され、多数の繰り返しフォルディングの際にも元の特性を維持し得る。
【0102】
前記フレキシブルディスプレイ装置において、前記フレキシブルディスプレイパネルは、具体的に、有機発光ディスプレイ(OLED)パネルであり得る。
図6は、有機発光ディスプレイパネル320を含む有機発光ディスプレイ装置10の一例を概略的に示す断面図である。
図6を参照すると、前記有機発光ディスプレイ装置10は、前面偏光板310と有機発光ディスプレイパネル320とを含む。前記前面偏光板10は、前記有機発光ディスプレイパネル320の前面上に配置され得る。より具体的に、前記前面偏光板は、前記有機発光ディスプレイパネルにおいて、映像が表示される面に接着され得る。前記有機発光ディスプレイパネルは、ピクセル単位の自己発光によって映像を表示する。前記有機発光ディスプレイパネルは、有機発光基板と駆動基板とを含む。前記有機発光基板は、ピクセルにそれぞれ対応する複数の有機発光ユニットを含む。前記有機発光ユニットは、それぞれ陰極、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、および陽極を含む。前記駆動基板は、前記有機発光基板に駆動的に結合される。すなわち、前記駆動基板は、前記有機発光基板に駆動電流のような駆動信号を印加し得るように結合され得る。より具体的に、前記駆動基板は、前記有機発光ユニットにそれぞれ電流を印加して、前記有機発光基板を駆動し得る。
【0103】
(実施例)
以下、実施例によりさらに具体的に説明するが、これらの範囲に限定されるものではない。
【0104】
(実施例1~3および比較例1~5:ポリエステルフィルムの製造)
ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を押出機において約250℃~280℃にて押出およびキャスティングして未延伸シートを製造した。前記未延伸シートを予熱し、長さ方向(MD)および幅方向(TD)に対してそれぞれ3倍~4倍に延伸するが、これらの2方向に対する延伸比間の比率を調節した。以降、延伸されたシートを熱固定し、3%~5%の弛緩率で3秒~10秒間弛緩し、冷却して、厚さ50μmのポリエステルフィルムを製造した。この際、前記延伸時の予熱温度、各方向別延伸比、延伸温度、熱固定温度、および弛緩率を下記の表1のように調節して、厚さ50μmのポリエステルフィルムを製造した。
【0105】
【0106】
(試験例1:応力-ひずみ率の決定係数(R2)測定)
前記で製造したポリエステルフィルムの長さ方向(MD)または幅方向(TD)に対する引張試験を行うために、下記のような大きさに裁断して試験片を得た後、万能試験機(UTM)を利用して以下の条件で引っ張りながら応力によるひずみ率を測定した。
【0107】
-試験片の長さ:50mm(引張方向に対する初期寸法)
-試験片の幅:15mm(引張方向に垂直な方向に対する初期寸法)
-試験片の厚さ:50μm
-測定温度:常温
-引張速度:50mm/min
-引張方向:長さ方向(MD)または幅方向(TD)
【0108】
前記条件で各々の試験片について応力-ひずみ曲線をそれぞれ得た後、これらの曲線からマイクロソフト社のExcelプログラムによりひずみ率0%~2%区間および2%~3%区間に回帰直線を適用して決定係数(R2)を得た。
その結果を下記表2にまとめた。
【0109】
【0110】
(試験例2:結晶化度測定)
結晶化度は、X線回折(XRD)分析により、非晶性と認められるピークの面積(A)および結晶性ピークの面積(B)を測定した後、ピーク全体の面積(A+B)に対する結晶性ピークの面積(B)の百分率(%)値で求めた。
【0111】
(試験例3:フォルディングテスト)
前記で製造したポリエステルフィルムと透明ポリイミドフィルムとを積層した後、ASTM D2176およびTAPPI T511に基づくMITフォルディングテスト(MIT folding test)を、MIT耐折疲労試験機(folding endurance tester、MIT-DA、東洋精機製作所)により実施した。
【0112】
透明ポリイミドフィルムを製造するために、まず、温度調節が可能な二重ジャケットの1L用ガラス反応器に、20℃の窒素雰囲気下において有機溶媒であるジメチルアセトアミド(DMAc)563.3gを満たした後、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル(TFMB)55モルと4,4'-オキシジアニリン(ODA)45モルとを投入し溶解した。その後、2,2'-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)15モルを徐々に投入して2時間撹拌した。そして、イソフタロイルクロリド(IPC)25モルを投入して2時間撹拌させ、テレフタロイルクロリド(TPC)60モルを投入し(イミド:アミドのモル比=15:85)、3時間撹拌して重合体溶液を調製した。得られた重合体溶液をガラス板に塗布した後、80℃の熱風で30分乾燥させた。その後、前記乾燥されたゲルシートは、第1方向に1.01倍延伸されピンフレームに固定され、前記第1方向に垂直な第2方向に1.03倍延伸され前記ピンフレームに固定された。その後、前記乾燥されたゲルシートは、前記ピンフレームに固定された状態で、80℃~300℃の温度範囲で2℃/minの速度で昇温される雰囲気にて硬化された。その後、冷却段階を経て厚さ50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0113】
以降、フォルディングテストのために、前記ポリイミドフィルムの上/下面に前記製造した実施例および比較例のポリエステルフィルムを光学透明接着剤(OCA)により貼り合わせ積層体を得て、前記積層体を1.5mmの曲率半径で20万回繰り返しフォルディングした後、層間剥離が発生するか否かを確認した。
【0114】
(試験例4:押圧(dent)跡の評価)
前記で製造したポリエステルフィルムを、ロール状でコアに巻き取り(winding)、1週間が経過した時点で巻き出し(unwinding)の際、フィルム表面に点状の押圧跡が存在するか否かを観察した。その結果を下記の表に示した。
【0115】
【0116】
前記表から分かるように、実施例1~3のフィルムは、各方向別20万回以上の繰り返しフォルディング時にも長さ方向および幅方向においていずれも剥離が発生せず、フィルムの表面に押圧跡も観察されなかったので、高い柔軟性と優れた外観特性とを同時に達成することを確認することができた。
【0117】
一方、比較例1~5のフィルムは、20万回以上の繰り返しフォルディング後に、長さ方向および幅方向の少なくともいずれかの方向において剥離が発生するか、フィルム表面に押圧跡が観察され、柔軟性と外観特性とのうち少なくとも一つが低調であった。
【符号の説明】
【0118】
1:インフォルディングタイプのフレキシブルディスプレイ装置
2:アウトフォルディングタイプのフレキシブルディスプレイ装置
10:有機発光ディスプレイ装置
100:保護フィルム
200:カバーウィンドウ
300:フレキシブルディスプレイパネル
310:前面偏光板
320:有機発光ディスプレイパネル
a、b:フォルディングされるポイント