(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】切換弁
(51)【国際特許分類】
F16K 11/048 20060101AFI20220901BHJP
F16K 31/122 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
F16K11/048 Z
F16K31/122
(21)【出願番号】P 2020202728
(22)【出願日】2020-12-07
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000152996
【氏名又は名称】株式会社日本ピスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】北澤 達也
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-343750(JP,A)
【文献】特開2014-214806(JP,A)
【文献】特開昭62-101984(JP,A)
【文献】特開2001-165108(JP,A)
【文献】特開2019-196777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 11/00-11/24
31/12-31/165
31/36-31/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状であって、内外を連通するように開口形成された供給ポート、第1排気ポート、第2排気ポート、パイロット供給ポート、および開放ポートを有するスリーブと、
前記スリーブ内において軸線方向に移動可能に配設された主弁と、を備え、
前記スリーブ内を通過するように、前記パイロット供給ポートと前記開放ポートとを連通する第1流路、前記供給ポートと前記開放ポートとを連通する第2流路、前記供給ポートと前記第1排気ポートとを連通する第3流路、および前記供給ポートと前記第2排気ポートとを連通する第4流路が設けられており、且つ、前記第1流路を開閉する第1開閉弁、前記第2流路を開閉する第2開閉弁、および前記第3流路を開閉する第3開閉弁が設けられており、
前記第1開閉弁、前記第2開閉弁、および前記第3開閉弁はいずれも、弁体および弁座の一方が前記スリーブに一体もしくは別体で設けられ、他方が前記主弁に一体もしくは別体で設けられており、
前記第1開閉弁および前記第2開閉弁において、前記弁体と前記弁座とは、前記主弁の移動方向と並行する方向に接離するように配設されており、
前記パイロット供給ポートに供給されるパイロット供給エアの圧力が所定圧力より大きい場合に、前記主弁が前記スリーブ内において第1端部側に移動した状態となって前記第1開閉弁および前記第2開閉弁を閉じとすると共に前記第3開閉弁を開きとし、且つ、前記パイロット供給ポートに供給されるパイロット供給エアの圧力が所定圧力より小さい場合に、前記主弁が前記スリーブ内において第2端部側に移動した状態となって前記第1開閉弁および前記第2開閉弁を開きとすると共に前記第3開閉弁を閉じとする構成を備えること
を特徴とする切換弁。
【請求項2】
前記第2流路の最小断面積が前記第1流路の最小断面積よりも小さくなるように構成されていること
を特徴とする請求項1記載の切換弁。
【請求項3】
前記主弁を前記スリーブ内において前記第2端部に移動させる方向に付勢する付勢部材をさらに備えること
を特徴とする請求項1または請求項2記載の切換弁。
【請求項4】
前記所定圧力は、前記供給ポートに供給される供給エアの圧力と前記付勢部材の付勢力を換算した圧力とを加算した圧力であること
を特徴とする請求項3記載の切換弁。
【請求項5】
前記弁座は、金属材料もしくは樹脂材料を用いて形成されていると共に前記弁体との接触面においてメッキ処理もしくはグリス塗布がなされていること
を特徴とする請求項1~4のいずれか一項記載の切換弁。
【請求項6】
外部空圧機器に組み込まれるエアシリンダの排気ポートに、前記供給ポートが接続されて使用される構成であること
を特徴とする請求項1~5のいずれか一項記載の切換弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空圧用の切換弁に関する。
【背景技術】
【0002】
機械装置や電子機器等の組立を行う自動設備ライン等において、エアシリンダを用いた装置が多用されている。しかし、エアシリンダにおけるピストンの移動速度を高速化すればサイクルタイムを小さくすることが可能となる反面、停止時の衝撃が大きくなってエアシリンダ寿命が短くなるという問題が生じる。
【0003】
従来は、エアシリンダのピストンの移動速度を高速化しても停止時の衝撃が大きくならないように、エアシリンダのピストンが接続される機構部分にショックアブソーバ(例えば、オイル式)を設けて、エアシリンダ(ピストン)停止時の衝撃を緩和する方法が一般的であった。
【0004】
あるいは、エアシリンダ自体に衝撃を緩和するクッション機構を設けることによって、停止時の衝撃緩和を図るクッション機構付エアシリンダに関する技術も開示されている(特許文献1:特開2003-254303号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-254303号公報
【文献】特開2014-055631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えばショックアブソーバを設けてエアシリンダのピストン停止時の衝撃を緩和する構成の場合には、ショックアブソーバを装置に組み込む必要があるため、機構が複雑化し、また、部品コスト・組み立てコストが上昇する等の課題が生じる。
【0007】
当該課題の解決を図るべく、本願発明者らは、ショックアブソーバを用いることなく、簡素な構成によって、外部空圧機器に組み込まれるエアシリンダ(ピストン)の一行程における移動速度を段階的に制御可能なクッション機能付スピードコントローラの開発を行った(特許文献2:特開2014-055631号公報参照)。
【0008】
ここで、クッション機能付スピードコントローラを用いて外部空圧機器のエアシリンダ(ピストン)の一行程における移動速度を段階的に制御する場合には、通過する気体流量の切換ポイントによって規定される速度の切換ポイントを安定させることが重要となる。例えば、速度の切換ポイントに遅れが生じると、エアシリンダ(ピストン)のストロークエンドまでクッションが機能せずに大きな衝撃が発生し得るためである。
【0009】
本願発明者らが鋭意研究を行ったところ、従来のクッション機能付スピードコントローラにおいては、一定時間、使用を停止した後、再開する際に、主弁もしくは主弁相当部材が固着してしまい、再開後の初回ストローク時に流量の切換ポイントすなわち速度切換ポイントに遅れが生じ得るという課題が明らかになった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、外部空圧機器に接続されて使用される構成であって、通過する気体の流量を段階的に制御することができ、一定時間、使用を停止した後、再開する際に、流量の切換ポイントに遅れが生じることを防止できる切換弁を提供することを目的とする。
【0011】
一実施形態として、以下に開示するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0012】
開示の切換弁は、筒状であって、内外を連通するように開口形成された供給ポート、第1排気ポート、第2排気ポート、パイロット供給ポート、および開放ポートを有するスリーブと、前記スリーブ内において軸線方向に移動可能に配設された主弁と、を備え、前記スリーブ内を通過するように、前記パイロット供給ポートと前記開放ポートとを連通する第1流路、前記供給ポートと前記開放ポートとを連通する第2流路、前記供給ポートと前記第1排気ポートとを連通する第3流路、および前記供給ポートと前記第2排気ポートとを連通する第4流路が設けられており、且つ、前記第1流路を開閉する第1開閉弁、前記第2流路を開閉する第2開閉弁、および前記第3流路を開閉する第3開閉弁が設けられており、前記第1開閉弁、前記第2開閉弁、および前記第3開閉弁はいずれも、弁体および弁座の一方が前記スリーブに一体もしくは別体で設けられ、他方が前記主弁に一体もしくは別体で設けられており、前記第1開閉弁および前記第2開閉弁において、前記弁体と前記弁座とは、前記主弁の移動方向と並行する方向に接離するように配設されており、前記パイロット供給ポートに供給されるパイロット供給エアの圧力が所定圧力より大きい場合に、前記主弁が前記スリーブ内において第1端部側に移動した状態となって前記第1開閉弁および前記第2開閉弁を閉じとすると共に前記第3開閉弁を開きとし、且つ、前記パイロット供給ポートに供給されるパイロット供給エアの圧力が所定圧力より小さい場合に、前記主弁が前記スリーブ内において第2端部側に移動した状態となって前記第1開閉弁および前記第2開閉弁を開きとすると共に前記第3開閉弁を閉じとする構成を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
開示の切換弁によれば、外部空圧機器に接続されて使用される際に、通過する気体の流量を段階的に制御することができる。さらに、一定時間、使用を停止した後、再開する際に、流量の切換ポイントに遅れが生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る切換弁の構成例を示す概略図、兼動作説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る切換弁の構成例を示す概略図、兼動作説明図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る切換弁の構成例を示す概略図、兼動作説明図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る切換弁を外部空圧機器に接続した場合の例を示す回路図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る切換弁が解決しようとする課題を説明するための説明図(従来の機構による実験データ)である。
【
図6】本発明の実施形態に係る切換弁が達成した効果を説明するための説明図(本発明の実施形態に係る切換弁による実験データ)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1~
図3は、本実施形態に係る切換弁1の構成例を示す正面断面図(概略図)であり、動作説明図も兼ねている。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0016】
本実施形態に係る切換弁1は、一例として、自動設備ライン等を構成する外部空圧機器に組み込まれる復動形エアシリンダ(以下、単に「エアシリンダ」という)Cの排気(ピストンの移動によって排出される所定圧の圧縮空気)を通流させる流路に配置されて(接続されて)、当該エアシリンダCの動作速度を段階的に(例えば、高速と低速との二段階に)制御する等の使用態様が想定される。
【0017】
図1~
図3に示すように、切換弁1は、径方向中心に空間部を有する筒状(一例として、略円筒状)のスリーブ10内において軸線方向(中心軸Sに沿う方向)に移動可能に配設された主弁50を備えて構成されている。なお、切換弁1の構成材料としては、後述のシール部材等のゴム、エラストマー等が用いられる部分を除き、使用条件に応じて樹脂材料(例えば、POM、PBT等)や、金属材料(例えば、ステンレス合金、アルミニウム合金、黄銅等)が適宜用いられる。
【0018】
本実施形態に係るスリーブ10は、径方向中心に空間部を有する筒状(一例として、略円筒状)のメインスリーブ12の内筒部に、径方向中心に空間部を有する筒状(一例として、略円筒状)の第1ガイドスリーブ14、および径方向中心に空間部を有する筒状(一例として、略円筒状)の第2ガイドスリーブ16が、それぞれ、シール部材18A、18B、18C(一例として、ゴム、エラストマー等からなるOリング)を介在させて、嵌設された構成となっている。したがって、スリーブ10内を軸線方向に移動する主弁50は、より具体的には、第1ガイドスリーブ14および第2ガイドスリーブ16内(すなわち、それぞれの空間部内)を軸線方向に移動する構成となっている。ただし、スリーブ10の構成は上記に限定されるものではなく、変形例として、スリーブ10全体を一体に形成する構成、第1ガイドスリーブ14および第2ガイドスリーブ16を一体に形成する構成等としてもよい(いずれも不図示)。
【0019】
当該スリーブ10には、筒状部の内外を連通するように(すなわち、嵌合されたメインスリーブ12、第1ガイドスリーブ14、および第2ガイドスリーブ16の全体において、内外を連通するように)開口形成された以下のポートが設けられている。具体的には、供給ポート20、第1排気ポート22、第2排気ポート24、パイロット供給ポート26、および開放ポート28が設けられている。
【0020】
また、これらの各ポートに対して、スリーブ10の内筒部と主弁50の外周部との間を通過するように構成された以下の流路が設けられている(図の煩雑化を避けるため
図2において表示する)。具体的には、パイロット供給ポート26と開放ポート28とを連通する第1流路31、供給ポート20と開放ポート28とを連通する第2流路32、供給ポート20と第1排気ポート22とを連通する第3流路33、および供給ポート20と第2排気ポート24とを連通する第4流路34が設けられている。
【0021】
さらに、第1流路31を開閉する第1開閉弁41、第2流路32を開閉する第2開閉弁42、および第3流路33を開閉する第3開閉弁43が設けられている(図の煩雑化を避けるため
図2、
図3において表示する)。
【0022】
上記の第1開閉弁41は、ゴム、エラストマー等を用いて別体に形成された弁体41aが主弁50に設けられており、弁座41bがスリーブ10(本実施形態においては、第1ガイドスリーブ14)に一体(別体としてもよい)に設けられている。なお、変形例として、弁体41aをスリーブ10に配設して、弁座41bを主弁50に配設する構成等も考えられる(不図示)。
【0023】
これと同様にして、第2開閉弁42は、ゴム、エラストマー等を用いて別体に形成された弁体42aが主弁50に設けられており、弁座42bがスリーブ10(本実施形態においては、第1ガイドスリーブ14)に一体(別体としてもよい)に設けられている。なお、変形例として、弁体42aをスリーブ10に配設して、弁座42bを主弁50に配設する構成等も考えられる(不図示)。また、第3開閉弁43は、ゴム、エラストマー等を用いて別体に形成された弁体43aが主弁50に設けられており、弁座43bがスリーブ10(本実施形態においては、第1ガイドスリーブ14)に一体(別体としてもよい)に設けられている。なお、変形例として、弁体43aをスリーブ10に配設して、弁座43bを主弁50に配設する構成等も考えられる(不図示)。
【0024】
なお、本実施形態においては、第1開閉弁41の弁体41aと第2開閉弁42の弁体42aとを、一体構造のパッキン部材40に設けて、当該パッキン部材40を、主弁50の外周部に嵌設する構成としている。これによれば、部品点数を削減して、コストダウンを図ることができる。ただし、この構成に限定されるものではなく、弁体41aと弁体42aとを別体に構成してもよい(不図示)。
【0025】
ここで、パイロット供給ポート26には、「パイロット供給エア」として、所定圧の気体(一例として、0.5MPa程度の圧縮空気)が供給(入力)される。一方、供給ポート20には、「供給エア」として、所定圧の気体(一例として、0.5MPa程度の圧縮空気)が供給(入力)される。それぞれの気体(圧縮空気)は、例えば、共通の供給源(一例として、圧縮ポンプ等)から供給される構成とすることができる(不図示)。ただし、これに限定されるものではなく、別々の供給源(一例として、圧縮ポンプ等)から供給される構成とすることもできる(不図示)。
【0026】
これらの構成を備える切換弁1は以下のように作動する。具体的に、パイロット供給ポート26に供給されるパイロット供給エアの圧力が所定圧力(以下、「第1設定圧力」と称する)より大きい場合に、主弁50がスリーブ10内において第1端部(図中の右端部)10a側に移動した状態(
図1に示す状態)となって、第1開閉弁41および第2開閉弁42を「閉じ」とすると共に第3開閉弁43を「開き」とする。一方、パイロット供給ポート26に供給されるパイロット供給エアの圧力が所定圧力(第1設定圧力)より小さい場合に、主弁50がスリーブ10内において第2端部(図中の左端部)10b側に移動した状態(
図3に示す状態)となって、第1開閉弁41および第2開閉弁42を「開き」とすると共に第3開閉弁43を「閉じ」とする。なお、
図2に示す状態は、
図1に示す状態から
図3に示す状態に移行する途中、もしくは、
図3に示す状態から
図1に示す状態に移行する途中の状態である。
【0027】
これによれば、一例として、供給ポート20に供給される供給エアを、第1排気ポート22および第2排気ポート24の両方から排気する回路と、第2排気ポート24のみから排気する回路とで、切換を行うことが可能となる。すなわち、排気流路の切換、具体的には、第3流路33および第4流路34と、第4流路34とで切換を行うことが可能となるため、流路の断面積(最狭部)の切換によって、通過する圧縮空気の流量の切換を行うことが可能となる。なお、第3流路33、第4流路34には、それぞれ、絞り弁62、絞り弁64が設けられており(
図4参照)、各流路を通過する圧縮空気の流量調整が可能な構成となっている。
【0028】
ここで、本実施形態に係る切換弁1の使用例(接続例)として、
図4の回路図に示すように、切換弁1の供給ポート20が、外部空圧機器に組み込まれるエアシリンダCの排気ポートに接続されて使用される。この場合、エアシリンダCの吸気ポートに所定圧(ここでは、前述の0.5MPa等)の圧縮空気が供給されてピストンが移動する際に、排気ポートから同等圧の圧縮空気が送出される。この圧縮空気が切換弁1の供給ポート20に供給(入力)される構成となる。
【0029】
したがって、この切換弁1により、供給ポート20に供給される供給エアを、第1排気ポート22および第2排気ポート24の両方から排気する回路と、第2排気ポート24のみから排気する回路とで、切換を行う作用を得ることが可能となる。すなわち、外部空圧機器(エアシリンダC)の排気を行う流路の断面積を段階的(ここでは、二段階)に切換を行うことが可能となる。これによって、エアシリンダCのピストンの動作速度(軸方向移動速度)が高速移動から低速移動に切換が行われ、クッション機能を生じさせることが可能となる。したがって、ピストンの停止直前の速度を低速化することができるため、停止時の衝撃を緩和することが可能となる。
【0030】
さらに、別の例として、例えば第4流路34を開閉する開閉弁(不図示)を設ける構成等とすることで、供給ポート20に供給される供給エアを、第1排気ポート22のみから排気する回路と、第2排気ポート24のみから排気する回路とで、切換を行うことが可能となる。このような構成によっても、上記と同様の作用効果、すなわち、通過する圧縮空気の流量の切換を行うことによって、クッション機能を生じさせることが可能となる。
【0031】
ところで、エアシリンダCのピストン動作時にクッション機能を生じさせるだけであれば、前述の通り、従来のクッション機能付スピードコントローラや、スプール式切換弁等によっても実現し得る。しかしながら、それらの従来品においては、一定時間、使用を停止した後、再開する際に、内部の主弁(もしくは、主弁相当部材)が固着してしまい、再開後の初回ストローク時に流量の切換ポイントすなわち速度切換ポイントに遅れが生じる課題が明らかになった。ここで、従来の機構を用いた実験結果を
図5に示す。使用停止の後、再開までの時間を二種類設定している。プロットA1は通常稼働時の標準データであり、プロットA2は10分間の使用停止の後、再開した場合のデータであり、プロットA3は3時間の使用停止の後、再開した場合のデータである。いずれも、縦軸はパイロット供給エアの圧力値であり、横軸はパイロット供給エアの圧力変化に応じて主弁50が応答(移動開始)する際の応答遅れ時間の値である。このグラフからも明らかなように、使用停止の時間が長くなるほど、主弁50が応答(移動開始点:
図5中のE点)するまでの遅れ時間が大きくなる、つまり、主弁50の固着度が大きくなることがわかる。
【0032】
このような課題の解決を図るために、本実施形態に係る切換弁1は、以下の構成を備えている。先ず、第1開閉弁41および第2開閉弁42において、弁体と弁座とが(具体的には、弁体41aと弁座41bとが、および、弁体42aと弁座42bとが)、主弁50の移動方向と並行する方向(すなわち、スリーブ10の内筒部の中心軸Sと並行する方向と同じ)に接離するように配設されている。本願発明者らの研究によって、課題となる主弁の固着は、各開閉弁に設けられた弁体と、対応する弁座との圧接による密着状態の発生に起因することが究明されている。これに対して、上記の構成によれば、弁体(ここでは、41a、42a)と、対応する弁座(ここでは、41b、42b)とが圧接して、密着状態が発生したとしても、密着状態の解消が容易になされて、固着の発生をなくす(もしくは抑制)することが可能となる。
【0033】
ここで、当該構成を備える本実施形態に係る切換弁1を用いた実験結果を
図6に示す。プロットB1は通常稼働時の標準データであり、プロットB2は3時間の使用停止の後、再開した場合のデータである。なお、縦軸および横軸の指標は
図5と同一である。このグラフから明らかなように、本実施形態に係る切換弁1によれば、使用停止の時間が長くなっても、主弁50の固着度がほぼ皆無(もしくは極めて小さい)ことがわかる。
【0034】
さらに、変形例として、弁座41b、42b、43bを、金属材料もしくは樹脂材料を用いて形成すると共に、それらの全てもしくは一部において、対応する弁体41a、42a、43aとの接触面において、面の摩擦係数を低下させるメッキ処理もしくはグリス塗布がなされた構成としてもよい。これによれば、弁体(ここでは、41a、42a)と、対応する弁座(ここでは、41b、42b)とが圧接して、密着状態が発生したとしても、密着状態の解消を容易にし、固着の発生をなくす(もしくは抑制)する効果をより一層高めることが可能となる。
【0035】
また、本実施形態に係る切換弁1においては、第2流路32(ここでは、第1ガイドスリーブ14の内筒部と主弁50の外周部との間の最狭部となる位置)の最小断面積が、第1流路31(ここでは、第1開閉弁41よりも下流であって開放ポート28の出口までの間の位置)の最小断面積よりも小さいという特徴的な構成を備えている。仮に、第2流路32の最小断面積が第1流路31の最小断面積よりも大きい、もしくは同等になってしまうと、主弁50の移動時に供給ポート20に供給される圧縮空気がパイロット供給ポート26側に流れ込み、パイロット供給エアの圧力によって生じる推力を設定以上に上昇させてしまうこととなる。その結果、主弁50が、所望のタイミングで安定的に切換がなされないという問題が発生する。
【0036】
この問題に対して、本実施形態においては、パイロット供給エアの排気を大気開放する開放ポート28を設けると共に(詳細は後述)、上記のように、第2流路32の最小断面積が第1流路31の最小断面積よりも小さい構成によって、当該問題の解決を可能としている。すなわち、これらの構成によれば、第1開閉弁41を開く方向に主弁50の切換(移動)を行う際に、パイロット供給エアを一気に大気開放させることができ、第2流路32を通じて供給ポート20側へ通流する作用をほぼ皆無に(もしくは極めて小さくする)ことができる。さらに、供給ポート20から第2流路32を通じて通流する供給エアを、パイロット供給ポート26側ではなく開放ポート28側へ通流させることができるため、パイロット供給エアの圧力によって生じる推力を設定以上に上昇させてしまう作用をほぼ皆無に(もしくは極めて小さくする)ことができる。したがって、主弁50の移動、すなわち切換を所望のタイミングで安定的に行うことが可能となる。なお、切換のタイミングは、スピードコントローラ66(
図4参照)によって設定することができる。
【0037】
上記の通り、本実施形態においては、開放ポート28は大気圧下で通流気体を開放する構成としている。ただし、この構成に限定されるものではなく、微小圧力下(例えば、0.2MPa以下程度)で通流気体を開放する構成としても、同様の作用効果を得ることができる。
【0038】
また、本実施形態に係る切換弁1においては、主弁50をスリーブ10内において第2端部10bに移動させる方向に付勢する付勢部材(例えば、コイルスプリング、もしくはその他のバネ部材)60をさらに備えている。これによれば、主弁50の移動動作を補助することができ、また、供給エアの印加が無い場合(もしくは少ない場合)に、主弁50の姿勢を安定させることができる。なお、付勢部材60(例えば、コイルスプリング)の付勢力は、スリーブ10や主弁50のサイズによって適宜設定されるものであるが、一例として、組み込み時において1N程度の付勢力が生じるように設定される。
【0039】
このようなスプリング60を備える構成の場合、前述の「第1設定圧力」は、供給ポート20に供給される供給エアの圧力と、付勢部材60(例えば、コイルスプリング)の付勢力を換算した圧力とを加算した圧力として設定される。
【0040】
ここで、前述の通り、供給ポート20に供給される供給エア(圧縮空気)と、パイロット供給ポート26に供給されるパイロット供給エア(圧縮空気)とは、共通の供給源から供給される構成となっている(なお、「供給エア」はエアシリンダCを介在させて供給される)。そのため、パイロット供給エアの圧力が、第1設定圧力よりも大きくなるように調整する構成が必要となる。
【0041】
この点に関し、本実施形態に係る主弁50においては、パイロット供給ポート26から供給されるパイロット供給エアの受圧面積(具体的には、弁体41a(弁座41bとの接触位置)の直径で規定される受圧面積)が、供給ポート20から供給される供給エアの受圧面積(具体的には、弁体42a(弁座42bとの接触位置)の直径で規定される受圧面積)よりも大きくなるように構成されている。この構成によれば、パイロット供給エアの圧力によって主弁50を第1端部10a方向へ移動させる推力を、供給エアの圧力と付勢部材60の付勢力とによって主弁50を第2端部10b方向へ移動させる推力よりも大きくなるように設定することができる。なお、一例として、供給ポート20がエアシリンダCの排気ポートに接続される使用態様においては、排出気体の流速が早い状態となり、供給エアの圧力が低い状態となるため、この効果が重畳的に作用して、パイロット供給エアの圧力による推力の方が高くなる状態を発生・維持する作用が高まる。
【0042】
以上説明した通り、開示の切換弁によれば、供給ポートに供給(入力)される所定圧の気体に対して、当該気体を排気する際の流量を段階的(ここでは、二段階)に制御することが可能となる。一例として、外部空圧機器に組み込まれるエアシリンダの排気ポートに接続する構成とすれば、当該エアシリンダのピストンが移動を開始してから暫くの間は高速移動させて動作時間の短縮化を図ると共に、ピストンが停止する直前の設定したタイミングで移動速度を高速から低速に切換を行うことが可能となる。したがって、ショックアブソーバを用いることなく、エアシリンダのピストン停止時の衝撃緩和を図ることが可能となる。
【0043】
さらに、この切換え弁は、一定時間、使用を停止した後、再開する際に、主弁がスリーブに対して固着することに起因する流量の切換ポイントに遅れが生じることの防止が可能となる。
【0044】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0045】
1 切換弁
10 スリーブ
20 供給ポート
22 第1排気ポート
24 第2排気ポート
26 パイロット供給ポート
28 開放ポート
31 第1流路
32 第2流路
33 第3流路
34 第4流路
41 第1開閉弁
42 第2開閉弁
43 第3開閉弁
50 主弁
60 付勢部材