(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】高いインビボ忍容性を有するアントラサイクリン系の抗体薬物複合体
(51)【国際特許分類】
A61K 47/68 20170101AFI20220901BHJP
A61K 31/5365 20060101ALI20220901BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220901BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20220901BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220901BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
A61K47/68
A61K31/5365
A61K39/395 L
A61K39/395 T
A61K47/65
A61P35/00
C07K16/28 ZNA
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020214394
(22)【出願日】2020-12-24
(62)【分割の表示】P 2020506746の分割
【原出願日】2018-08-07
【審査請求日】2021-01-15
(32)【優先日】2017-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515255205
【氏名又は名称】エヌビーイー セラピューティクス アクチェン ゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】グラヴンダー ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】ベールリ ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】ジェブロー レミ
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/102679(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/127664(WO,A1)
【文献】NIKOLAS STEFAN; ET AL,HIGHLY POTENT, ANTHRACYCLINE-BASED ANTIBODY-DRUG CONJUGATES GENERATED BY ENZYMATIC SITE-SPECIFIC CONJUGATION,MOLECULAR CANCER THERAPEUTICS,米国,AMERICAN ASSOCIATION FOR CANCER RESEARCH,2017年03月03日,VOL:16, NR:5,PAGE(S):879 - 892,http://dx.doi.org/10.1158/1535-7163.MCT-16-0688
【文献】CHRISTOPHER R BEHRENS; BIN LIU,METHODS FOR SITE-SPECIFIC DRUG CONJUGATION TO ANTIBODIES,MABS,米国,LANDES BIOSCIENCE,2014年01月20日,VOL:6, NR:1,PAGE(S):46 - 53,http://dx.doi.org/10.4161/mabs.26632
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
・ 少なくとも1つの軽鎖定常領域C末端を含む抗体、もしくは標的結合特性を保持する抗体断片または誘導体、および
・ アントラサイクリン系小分子
を含む、抗体薬物複合体(ADC)であって、
前記少なくとも一つのアントラサイクリン系小分子が、前記抗体、
抗体断片または誘導体の少なくとも一つの軽鎖定常領域C末端に排他的に連結され、
前記抗体、
抗体断片または誘導体が
・ HCDR1 SYYMS(配列番号22)
・ HCDR2 AIGISGNAYYASWAKS(配列番号23)
・ HCDR3 DHPTYGMDL(配列番号24)
・ LCDR1 EGNNIGSKAVH(配列番号25)
・ LCDR2 DDDERPS(配列番号26)、および
・ LCDR3 QVWDSSAYV(配列番号27)
を含み、
前記抗体、
抗体断片または誘導体がヒトROR1に結合し、かつ
前記少なくとも一つのアントラサイクリン系小分子が、ペプチド配列を含むリンカーを介して、前記抗体、
抗体断片または誘導体に結合する、
抗体薬物複合体(ADC)。
【請求項2】
前記抗体または
抗体断片または誘導体が配列番号28のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号29のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、請求項1に記載の抗体薬物複合体。
【請求項3】
前記抗体または
抗体断片または誘導体が配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号5のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、請求項1に記載の抗体薬物複合体。
【請求項4】
前記抗体または
抗体断片または誘導体が配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号5のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、請求項1に記載の抗体薬物複合体。
【請求項5】
アントラサイクリン系小分子が
で示される、請求項1から4の何れか一項に記載の抗体薬物複合体。
【請求項6】
前記リンカーのペプチド配列が、ソルターゼ酵素認識モチーフの特異的切断から生じるペプチドモチーフを含むか、またはそれからなる、請求項1から5の何れか一項に記載の抗体薬物複合体。
【請求項7】
前記ソルターゼ酵素認識モチーフがLPXTG、LPQTG、LPETG、LPXAG、LPXSG、LAXTG、LPXTA、NPQTG、NPQTN、LPLTG、LAFTG、およびLPNTAからなる群から選択され、好ましくは前記リンカーがLPETGまたはLPQTGの配列を含むかまたはそれからなる、請求項6に記載の抗体薬物複合体。
【請求項8】
前記リンカーのペプチド配列がG
nまたはGly
n(nが1~21であり、好ましくはnが1、2、3、4または5であり、最も好ましくはnが2である)と表示されるオリゴグリシン配列(「タグ」)を含むか、またはそれからなる、請求項1から5の何れか一項に記載の抗体薬物複合体。
【請求項9】
前記リンカーのペプチド配列がスペーサー配列を含み、好ましくはペプチドリンカーが、N末端からC末端に、4つのグリシン残基および1つのセリン残基からなるスペーサー配列G
4Sを含む、請求項1から
8の何れか一項に記載である抗体薬物複合体。
【請求項10】
ソルターゼ酵素認識モチーフの特異的切断から生じるペプチドモチーフを含むリンカーのペプチド配列がGGGGSLPQTGG(配列番号
30)である、請求項1から
9の何れか一項に記載である抗体薬物複合体。
【請求項11】
前記リンカーが少なくとも1つのさらなる切断可能または非切断可能リンカーをさらに含み、リンカーが好ましくは、ヒドラジンリンカー、チオ尿素リンカー、自己免疫リンカー、スクシンイミジルトランス-4-(マレイミジルメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)リンカー、ジスルフィドリンカー、セレノエーテルリンカー、アミドリンカー、チオエーテルリンカー、および/またはマレイミドリンカーからなる群から選択される、請求項1から
9の何れか一項に記載である抗体薬物複合体。
【請求項12】
(i)抗体、
抗体断片または誘導体と、(ii)アントラサイクリン系小分子との間の、1~2の間の任意の値の化学量論比を有する、請求項1から
11の何れか一項に記載の抗体薬物複合体。
【請求項13】
(i)抗体、
抗体断片または誘導体と、(ii)アントラサイクリン系小分子との間の、1.5~2の間の任意の値の化学量論比を有する、請求項1から12の何れか一項に記載の抗体薬物複合体。
【請求項14】
治療有効量の請求項1から
13の何れか一項に記載の抗体薬物複合体と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項15】
腫瘍性疾患に罹患しているか、および/または腫瘍性疾患と診断された対象の治療に使用するための、請求項
14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
腫瘍性疾患が乳がんである、請求項
15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
腫瘍性疾患がHER2陽性乳がんである、請求項
16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
腫瘍性疾患が卵巣がんである、請求項
15に記載の医薬組成物。
【請求項19】
腫瘍性疾患がHER2陽性卵巣がんである、請求項
18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
腫瘍性疾患がヒトROR1の上昇した発現と関連している、請求項
15に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強力な薬物を保持し、インビボで改善された特性、特にインビボで改善された忍容性を示す抗体薬物複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
結合タンパク質、特に腫瘍細胞に特異的な抗体に対する低分子量毒素(毒性「小分子」、MW <2,500ダルトン)の共有結合コンジュゲートは、癌細胞の破壊のためにそれらを特異的に標的化するための強力なツールである。このような抗体薬物複合体(ADC)は、癌の治療のために医学的および商業的に非常に興味深い。癌治療のための有効かつ安全なADCを開発するためには、いくつかの局面に対処する必要がある:第1に、抗体は正常または健康な組織細胞によってほとんどまたは理想的に発現されない所与の腫瘍特異的抗原(TSA)に特異的である必要がある。第2に、薬物と抗体/結合タンパク質との間の共有結合または結合は血流中の毒性ペイロードの望ましくない放出を防ぐために循環中で十分に安定である必要があり、同時に、癌細胞への結合および/または癌細胞への内在化の際に薬物を効果的に放出する必要がある。第3に、ADCは、実質的な量で内在化されなければならない。第4に、毒性ペイロードは、抗体から放出され、適切な細胞内区画に入ってその毒性を発揮しなければならない。第5に、たとえ潜在的に限られた量のTSAが癌細胞上で発現され、したがって限られた量のADCのみが内在化されるとしても、または癌細胞への結合の際に、または癌細胞への内在化の際に、毒性ペイロードの放出が十分に高い効率で行われない場合であっても、癌細胞の破壊を引き起こすために、毒性ペイロードは、十分に高い毒性または効力を有さなければならない。
【0003】
しかし、同様に、ADCはまた、(a)健康な細胞上でのTSAの発現に起因する非標的組織におけるオン標的結合、(b)意図されるTSA以外の抗原の結合に起因するオフ標的結合、および/または(c)血流中での早期の薬物ペイロード放出、溶解された標的細胞から放出されたペイロードまたは放出された代謝産物によって引き起こされ得る一般的な毒性によって一般的に媒介される、副作用の誘導を回避しなければならない。
【0004】
ADC開発に対するこれらの複数の制約は、このタイプの治療を、臨床評価を通してもたらすことを最も困難にする。さらに、このような生物学的製品を作製することおよび試験することは高コストであるので、当業者は、抗体、リンカーおよび毒素の全ての可能な変異体および組み合わせ、ならびに特定の結合部位(単数または複数)および抗体に対する毒素の比を系統的に試験する自由がない。
【0005】
実際に、文献は多数の可能な毒素ペイロードおよびリンカーについて(例えば、Jainら、2015を参照のこと)、さらに、多数の可能な結合部位および結合方法について報告する。
【0006】
"Location Matters: Site of Conjugation Modulates Stability and Pharmacokinetics of Antibody Drug Conjugates" (Strop et al., Chemistry & Biology, 20, 2013) において、著者らは、微生物トランスグルタミナーゼにより結合されたADCについて報告している。それらの抗体重鎖および軽鎖C末端に結合したMMAD毒素は、インビボおよびインビトロの両方で同様の効力を示した。10mg/kgおよび25mg/kgのADCの投与は、ラットにおいて等しく良好に忍容性を示した。
【0007】
本出願人は驚くべきことに、1つ以上の特定部位、すなわち、一方または両方の抗体(または抗体誘導体)軽鎖のC末端に排他的に結合したアントラサイクリン毒素を有するADCが治療的に効果的であるだけでなく、代替部位、すなわち、一方または両方の抗体重鎖のC末端上、または抗体重鎖および軽鎖のC末端の組合せ上に結合したアントラサイクリン毒素を有する同等のADCよりも著しくインビボで忍容性を示すことを見出した。そのような教示はWO2016/150564(その内容が参照により本明細書に組み込まれる)には見出されていない。WO2016/150564は同じクラスの毒素を記載するが、抗体重鎖および軽鎖のC末端の組み合わせへのそれらの付着のみを記載する。
【0008】
抗体C末端の毒素付着の手段に関する教示、すなわちWO2014/140317(その内容は参照により本明細書に組み込まれる)においても、軽鎖C末端へのアントラサイクリン毒素の優先的付着に言及していない。
【0009】
従って、本発明の目的はインビボで改善された特性を示し、特にインビボで高度に忍容性を示す抗体薬物複合体(ADC)を提供することである。特に、同数の同じ毒素を含むが、別のC末端に結合したその対応物よりも、インビボでより良好に忍容性を示す抗体薬物複合体を提供することが目的である。
このような抗体薬物複合体を含む医薬組成物を提供することが別の目的である。
また、このような抗体薬物複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
腫瘍性疾患に罹患しているか、発症する危険性があるか、および/または腫瘍性疾患と診断されている対象の治療に使用するための抗体薬物複合体を提供することが別の目的である。
【0011】
本発明の別の目的は、免疫疾病または障害に罹患しているか、発症する危険性があるか、および/または診断された対象の治療に使用するための抗体薬物複合体を提供することである。
【0012】
これらおよび他の目的は、独立した請求項に記載の方法および手段によって達成される。従属請求項は、具体的な実施形態に関連する。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、インビボ忍容性の改善された特性を含む、インビボにおける改善された特性を示す抗体薬物複合体を提供する。本発明及びその特徴の一般的な利点を以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明による、アントラサイクリン含有ADCの全体を示す。Abは、アントラサイクリン分子毒素を導くペプチド配列を含むリンカーに、その定常領域軽鎖C末端の一方または両方で連結された抗体または断片または誘導体を指す。
【
図2】
図2は、本発明によるアントラサイクリン分子含有ADCの好ましい実施形態を示す: - アントラサイクリン分子は、式(i)のPNU誘導体に相当する。 - L
1は任意のリンカーであり、切断可能リンカーであってもよい。 - mは1以上11以下であり、好ましくは、mは2である。 - nは1以上21以下であり、好ましくは、Nは1、2、3、4または5である。 - ソルターゼ認識配列はソルターゼ酵素認識モチーフ(例えば、LPXTG)の特異的切断の産物(例えば、LPXT)(図ではC-末端からN-末端配向に描写される)を表し、ここで、Xは任意のアミノ酸である。 - スペーサー配列は任意である(図ではC-末端からN-末端配向に描写される)。 - Abは、その定常領域軽鎖C末端の一方または両方でスペーサー配列(存在する場合)またはソルターゼ認識配列(スペーサー配列が存在しない場合)に連結される抗体である。
【
図3】
図3は、実施例で使用した(A)ペンタグリシン修飾PNU誘導体(G5-PNU)、(B)トリグリシン修飾PNU誘導体(G3-PNU)、および(C)ジグリシン修飾PNU誘導体(G2-PNU)を示す。
【
図4】
図4は、(A)SKBR3(HER2陽性ヒト乳癌)および(B)Karpas-299(HER2陰性ヒトT細胞リンパ腫)細胞株に対する、以下のADCによる、インビトロ細胞死滅アッセイの用量応答曲線を示す:Tras-HC-PNU(その重鎖C末端の両方に連結されたアントラサイクリン分子を含むHER2標的ADC)、およびTras-LC-PNU(その軽鎖C末端の両方に連結されたアントラサイクリン分子を含むHER2標的ADC)。重鎖上に排他的にまたは軽鎖上に排他的にアントラサイクリンサイクリンペイロードを含むADCは同等のインビトロ効力を示し、それは抗原媒介性である。
【
図5】
図5は、SKOV3(HER2陽性ヒト卵巣癌)細胞株に対する、以下のADCによる、インビトロ細胞死滅アッセイの用量応答曲線を示す:Tras-HC-PNU(その重鎖C末端の両方に連結されたアントラサイクリン分子を含むHER2標的ADC)、およびTras-LC-PNU(その軽鎖C末端の両方に連結されたアントラサイクリン分子を含むHER2標的ADC)、Ac10-HC-PNU(その重鎖C末端の両方に連結されたアントラサイクリン分子を含むCD30標的ADC)、およびAc10-LC-PNU(その軽鎖C末端の両方に連結されたアントラサイクリン分子を含むCD30標的ADC)。重鎖上に排他的にまたは軽鎖上に排他的にアントラサイクリンサイクリンペイロードを含むADCは同等のインビトロ効力を示し、抗原媒介性である。
【
図6】
図6は、(A)hu4-2-17-PNU(重鎖および軽鎖C末端の両方に連結したアントラサイクリンペイロードを有するROR1標的ADC)、(B)hu4-2-17-HC-PNU(重鎖C末端に連結したアントラサイクリンペイロードを有するROR1標的ADC)、または(C)hu4-2-17-LC-PNU(軽鎖C末端に連結したアントラサイクリンペイロードを有するROR1標的ADC)で処置した雌CD1マウスにおけるADC IgGおよびアントラサイクリン毒素の経時的血清濃度を示す。
【
図7】
図7は、遺伝子工学的に改変されたマウスEMT-6乳癌細胞におけるヒトROR1の発現のFACS分析を示す。インビボ試験のために選択されたEMT-6-ROR1クローン14を、蛍光標識された抗ROR1抗体クローン2A2を用いたROR1発現についてのFACS染色によって分析した。陰性対照は、蛍光標識されたアイソタイプ適合対照抗体による同じ細胞の染色を示す。
【
図8】
図8は、(A)ROR1過剰発現EMT6クローン14細胞および(B)CS1陽性L363(ヒト形質細胞白血病)細胞に対するインビトロ細胞死滅アッセイの用量応答曲線を示す:huERCS-409-LC-PNU(軽鎖C末端に結合したG3-PNUを含むCS1標的ADC)、huERCS-409-HC-PNU(重鎖C末端に結合したG3-PNUを含むCS1標的ADC)、huERCS-409-LC-PNU(軽鎖C末端に結合したG2-PNUを含むCS1標的ADC)、huERCS-409-HC-PNU(重鎖C末端に結合したG2-PNUを含むCS1標的ADC)、hu4-2-17-LC-PNU(軽鎖C末端に結合したG3-PNUを含むROR1標的ADC)、hu4-2-17-HC-PNU(重鎖C末端に結合したG3-PNUを含むROR1標的ADC)、hu4-2-17-LC-PNU(軽鎖C末端に結合したG2-PNUを含むROR1標的ADC)、およびhu4-2-17-HC-PNU(重鎖C末端に結合したG2-PNUを含むROR1標的ADC)。これらの結果はアントラサイクリンペイロードを重鎖上に排他的に、または軽鎖上に排他的に含むADCが、同等インビトロ効力を示し、抗原媒介性であることを示す。
【
図9】
図9は腫瘍細胞を同所移植し、下記で処置したBALB/C雌マウスのROR1過剰発現EMT-6(クローン14)腫瘍体積(カリパスによる;平均値の標準誤差に対応するエラーバーを有するグループ当たりの平均値)の進展を示す:ビヒクル対照、0.5mg/kgのアイソタイプ対照ADC(重鎖C末端の両方に結合したアントラサイクリン分子を含むCD30標的ADC);0.5mg/kgのhu4-2-17-PNU(重鎖および軽鎖のC末端の両方に連結したアントラサイクリンペイロードを含むROR1標的ADC);1.0mg/kgのhu4-2-17-HC-PNU(重鎖C末端にアントラサイクリンペイロードを含むROR1標的ADC);および1.0mg/kgのhu4-2-17-LC-PNU(軽鎖C末端にアントラサイクリンペイロードを含むROR1標的ADC)。等しい毒素負荷で、重鎖C末端のみまたは軽鎖C末端のみに毒素を有するROR1標的ADCは、重鎖C末端および軽鎖C末端の両方に毒素を有するROR1標的ADCと比較して、優れたインビボ効力を示す。重鎖C末端のみまたは軽鎖C末端のみに毒素が存在するROR1標的ADCは、本質的にインビボ効力が等しい。
【0015】
(定義)
別に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が関連する技術分野の通常の技術者により一般に理解されているものと同じ意味を有する。これに加えて、本発明の実施に際して読者を補助するために、以下の定義が提供される。
【0016】
用語「抗体」は、所与の抗原、エピトープまたはエピトープ類への強力な一価、二価または多価結合を示すポリペプチド鎖(単数または複数)を指す。特に明記しない限り、抗体は任意の適切な技術(例えば、ハイブリドーマ技術、リボソームディスプレイ、ファージディスプレイ、遺伝子シャッフリングライブラリー、半合成もしくは完全合成ライブラリー、またはそれらの組み合わせ)を使用して生成され得る。本発明の抗体はインタクトな抗体(例えば、本明細書中に例示されるIgG1抗体)である。本明細書中で特に明記しない限り、全ての抗体および抗原結合断片配列を含む全てのペプチド配列は、N→Cの順で記載される。
【0017】
インタクトな抗体は、典型的にはジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2つの重(H)鎖(約45~70kD)および2つの軽(L)鎖(約20~25kD)を含む。抗体鎖をコードする認識された免疫グロブリン遺伝子には、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン、およびミュー定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。軽鎖は、カッパまたはラムダのいずれかに分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロンに分類され、そしてこれらは免疫グロブリンクラス、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEをそれぞれ定義する。抗体のそれぞれの重鎖は、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域から構成される。IgGの場合では、鎖定常領域は3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3から構成される。各々の軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は、1つの領域、CLから構成される。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、Fc受容体を発現する免疫系の様々な細胞および古典的補体系の第1の成分(C1q)を含む宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介する。モノクローナル抗体(mAb)は、(それらのコードされるアミノ酸配列に関して)同一の抗体分子からなる。
【0018】
抗体のVHおよびVL領域は、より保存されたフレームワーク領域(FR)が挿入された、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる超可変性の領域にさらに区分することができる。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシル末端までFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順に配列した3つのCDRと4つのFRから構成される。CDRおよびFR領域の位置、ならびに番号付けシステム、例えばIMGTシステムおよびカバットシステムが定義されている。
【0019】
さらに、抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG、またはIgMを含むがこれらに限定されない任意のアイソタイプであり得る。従って、例えば、抗体は、IgA1またはIgA2のような任意のIgA、またはIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、または合成IgGのような任意のIgGであり得る。
【0020】
さらに、抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG、またはIgMとの二重可変ドメイン免疫グロブリン(DVD-Ig)フォーマットおよび一本鎖可変断片(scFv)融合体などの誘導体フォーマット(「抗体誘導体」)に含まれ得る。一本鎖可変領域断片(scFv)は一本鎖抗体であり、すなわち、それは、一般にスペーサーペプチドを介して連結された、ポリペプチド連結におけるVHドメインおよびVLドメインを含むポリペプチドである。scFv融合は、重鎖のN末端またはC末端、または軽鎖のN末端に対するものである。DVD-Igフォーマットは、それぞれのVL/VH対がN末端に別のVL/VH対を有するIg型抗体からなる。2つのVL/VH対は、同じまたは異なる抗原結合特異性を有する。また、抗体は、F(ab)、F(ab’)2または一本鎖FV(scFv)のような典型的な抗体フォーマットの断片中に存在することができる。疑義を避けるために、用語「抗体誘導体」および「抗体断片」の両方は標的結合能力を保持する実施形態を指す、すなわち、もはや標的に結合することができない実施形態を除外する。
【0021】
「キメラ抗体」という用語は、ある種からの抗原を標的とする抗原結合領域(VHおよびVL)と、別の種の免疫グロブリン配列に対応する定常領域とを含む抗体を指す。
「非ヒト抗体」は、ヒト免疫グロブリン配列に対応する定常領域を含まない抗体を指す。
【0022】
用語「ヒト化抗体」はヒトおよび非ヒト(例えば、ウサギ)免疫グロブリンに由来する配列を含むキメラ抗体を指し、その結果、いくつかまたは全て(例えば、Rader C.ら、1998におけるように軽鎖および重鎖の非ヒトCDR3配列のみを維持する)、または実質的に全てのCDR領域が非ヒト起源であり、一方、実質的に全てのFR領域は、ヒト免疫グロブリン配列のものに対応する。
【0023】
本明細書中に記載される抗体または断片または誘導体は、インタクトな抗体の酵素的または化学的修飾によって産生され得るか、または組換えDNA方法論を使用して新規に合成され得るか、またはファージディスプレイライブラリーを使用して同定され得る。これらの抗体または抗体誘導体を生成するための方法は、当該分野で公知である。
【0024】
本発明の抗体または断片または誘導体は任意の適切な技術(例えば、任意の適切な真核生物または非真核生物の発現系または無細胞系を使用する)によって産生され得る。特定の実施形態において、抗体または断片または誘導体は、哺乳動物発現系を使用して産生される。特定の実施形態において、抗体または断片または誘導体は、昆虫発現系を用いて産生される。
【0025】
「治療的に活性な化合物」とは、本発明において、治療的に有益な作用を提供する化合物をいい、特に、抗体薬物複合体を含む。治療的に活性な化合物はしばしば、組成物として処方され、例えば、生理学的に許容される緩衝液中に処方される。
【0026】
「忍容性」は、投与された組成物(治療的に活性な化合物を含むか、またはそれからなる)の有害作用がヒトまたは他の動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、サルなどによって、またはヒトまたは他の動物のグループによって忍容され得る程度をいう。一実施形態では、忍容性が死亡率の割合と比較して決定することができる。
【0027】
「有害作用または有害事象」は、治療的に活性な化合物の投与から生じる望ましくない作用または有害事象である。特に、有害作用には、治療的に活性な化合物での処置の日における体重減少、特に初期体重の10%、15%、または20%を超える体重減少が含まれる。特に、有害作用には、死亡(動物モデルにおいて、自然発生であろうと、安楽死基準を満たした後であろうと)が含まれる。特に、死亡に関連する有害作用は代替の治療的に活性な化合物および/または緩衝液対照と比較して、治療的に活性な化合物の単回または反復(定常または漸増)投与後の動物モデル(例えば、マウス、ラットなどのグループ)において評価される。特に、忍容性は動物モデルにおいて、最大耐容用量に関して、すなわち、治療的に活性な化合物で処置された動物のグループ内の死亡数に関して評価され、ここで、所与のグループは、投与範囲にわたって所与の投与の化合物で処置される。
【0028】
本明細書で使用される「治療」、「治療」、および「治療効果」という用語は、必ずしも100%または完全な治療を意味するものではない。むしろ、潜在的な利益または治療効果を有するものとして当業者によって認識される様々な程度の治療が存在する。この点で、本発明の方法は、任意の量の任意のレベルの治療を提供することができる。さらに、本発明の方法によって提供される治療は、治療される疾患の1つ以上の状態または症状の治療を含み得る。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を詳細に説明する前に、本発明は説明されたデバイスの特定の構成要素部分に限定されず、あるいはそのようなデバイスおよび方法は変化するので、説明された方法のプロセス工程に限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図していないことを理解されたい。明細書および添付の請求項において使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」は文脈が明確に別途指示しない限り、単数形および/または複数形の参照を含むことに留意されたい。さらに、数値によって区切られるパラメーター範囲が与えられる場合、その範囲は、これらの限界値を含むものとみなされることを理解されたい。
【0030】
さらに、本明細書に開示される実施形態は、互いに関連しない個々の実施形態として理解されることを意味しないことを理解されたい。一実施形態で議論される特徴は、本明細書に示される他の実施形態に関連しても開示されることを意味する。1つの場合において、特定の特徴が1つの実施形態で開示されず、別の実施形態で開示される場合、当業者は、前記特徴が前記他の実施形態で開示されることを意味しないことを必ずしも意味しないことを理解するのであろう。業者であれば、他の実施形態についても前記特徴を開示することが本出願の主旨であるが、単に明瞭にするため、及び本明細書を管理可能な量に維持するために、これが行われていないことを理解されよう。
【0031】
さらに、本明細書で参照される先行技術文献の内容は、参照により組み込まれる。これは、特に、標準的または通常方法を開示する先行技術文献を指す。その場合、参照による組み込みは、主に、十分な可能な開示を提供し、長時間の繰り返しを回避する目的を有する。
【0032】
抗体薬物複合体(ADC)
第1の態様によれば、本発明は
・ 少なくとも1つの軽鎖定常領域C末端を含む抗体、または標的結合特性を保持する抗体断片もしくは誘導体、および
・ アントラサイクリン系小分子(単数または複数)
を含む、抗体薬物複合体(ADC)に関し、アントラサイクリン分子は抗体、断片または誘導体の軽鎖定常領域C末端(単数または複数)に排他的に連結され、アントラサイクリン系小分子はペプチド配列を含むリンカーを介して、前記抗体、断片または誘導体に連結される。
「アントラサイクリン系小分子」は、本明細書では「アントラサイクリン分子」とも呼ばれる。
【0033】
本発明のADCと比較して、アントラサイクリン分子は、抗体または断片または誘導体軽鎖定常領域C末端の一方または両方以外の部位で抗体に共有結合しないことが意図される。
本発明によるADCの視覚的描写を
図1に示す。
【0034】
抗体に関する発明の態様
本発明の抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG、またはIgMを含むがこれらに限定されない任意のアイソタイプのものであり得る。従って、例えば、抗体は、IgA1またはIgA2のような任意のIgA、またはIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、または合成IgGのような任意のIgGであり得る。
【0035】
さらに、抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG、またはIgMとの二重可変ドメイン免疫グロブリン(DVD-Ig)フォーマットおよび一本鎖可変断片(scFv)融合体などの誘導体フォーマット(「抗体誘導体」)に含まれ得る。好ましい実施形態において、抗体誘導体は、DVD-Igフォーマットである。
抗体または断片または誘導体は、一価、二価または多価抗体である。
【0036】
抗体または断片または誘導体は、単一特異性であっても多重特異性であってもよい。「多重特異性」という用語は、所与の抗原の2つ以上の異なるエピトープに対して特異性を有するか、または少なくとも2つの異なる抗原に対して特異性を有する抗体または断片もしくは誘導体を意味する。
好ましい態様において、抗体はIgG抗体である。
【0037】
抗体または断片または誘導体は、任意の抗原を標的とする(または結合する)が腫瘍特異的であるか、または健康な組織よりも腫瘍組織上でより高い割合で発現される抗原を優先的に標的とする。
【0038】
本明細書で使用される場合、「より高い割合で発現される」は、少なくとも10%高い、好ましくは少なくとも20%高い、より好ましくは少なくとも30%高い、より好ましくは少なくとも40%高い、より好ましくは少なくとも50%高い、より好ましくは少なくとも60%高い、より好ましくは少なくとも70%高い、より好ましくは少なくとも80%高い、より好ましくは少なくとも90%高い、さらにより好ましくは少なくとも100%高いことを意味する。発現割合はRT-PCRまたは免疫組織染料のように、当業者によって知られている技術からの方法で決定することができる。
【0039】
特に、抗原はヒト抗原である。好ましい実施形態において、抗原はROR1、ROR2、CS1、mesothelinまたはHER2であり、より好ましくはROR1、CS1、またはHER2であり、さらにより好ましくはROR1またはHER2である。特に、抗原は、ヒトROR1(GenBankからの配列NP_005003に基づく)、ヒトROR2(GenBankからの配列NP_004551.2に基づく)、ヒトCS1(GenBankからの配列NM_021181.3に基づく)、ヒトmesothelin(GenBankからの配列NP_037536に基づく)、またはヒトHER2(GenBankからの配列NP_004439に基づく)であり得る。一実施形態では抗体または断片または誘導体がヒトおよび/またはマウスCS1に結合せず、この実施形態では好ましくは抗体または断片または誘導体がヒトCS1に結合しない。
【0040】
好ましい実施形態において、抗体または断片または誘導体は、実施例に示される抗体または抗体誘導体のCDRを含む。特に、抗体または断片または誘導体は、トラスツズマブのCDR(abYsisソフトウェアを用いたカバット番号付けに基づく)を含み得る:
【表A】
特に、抗体または断片または誘導体は、hu4-2-17のCDR(カバット番号付けに基づく)を含み得る:
【表B】
特に、抗体または断片または誘導体は、huERCS-409のCDRを含み得る(カバット番号付けに基づく):
【表C】
【0041】
好ましい実施形態において、抗体または断片または誘導体は、実施例に示される抗体の可変ドメインを含む。特に、抗体または断片または誘導体は、トラスツズマブの可変ドメイン(表2の配列番号1/2の可変ドメイン)を含み得る。特に、抗体または断片または誘導体は、hu4-2-17の可変ドメイン(表2の配列番号4/5の可変ドメイン)を含み得る。特に、抗体または断片または誘導体は、huERCS-409の可変ドメイン(表2の配列番号7/8の可変ドメイン)から構成されることができる。
【0042】
毒素に関する発明の態様
本発明のADCは1つまたは2つのアントラサイクリン系小分子(「アントラサイクリン分子」)を含み、ここで、各々のアントラサイクリン分子は、ペプチド配列を含むリンカーを介して、軽鎖定常領域C末端で前記抗体または抗体誘導体に連結される。
【0043】
アントラサイクリンは癌治療における化学療法薬としてのそれらの証明された臨床的バリデーションのために、ADCのペイロードとして使用するためのDNAインターカレート毒素の非常に興味深いクラスである(Minotti,2004)。アントラサイクリンは抗腫瘍活性の高い赤色ポリケチドであり、もともとストレプトマイセス(Streptomyces)種に由来する。様々な固形癌および血液癌のための化学療法薬として日常的に使用されるものを含む、多くの誘導体が、過去40年間に記載されている、例えば、ドキソルビシン(アドリアマイシンとも呼ばれる)、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、ゾルビシン、アクラルビシン、カミノマイシン、およびバルルビシン。PNU-159682と呼ばれる新規なアントラサイクリン誘導体がアントラサイクリンネモルビシンの代謝産物として記載されており(Quintieri,2005)、これは、1つの卵巣(A2780)および1つの乳癌(MCF7)細胞株(WO2012/073217)を用いて、ピコからフェムトモル領域におけるインビトロ細胞殺傷に対して極めて高効力を示すことが報告されている。
【0044】
一実施形態では、本発明のADCがペプチド配列を含むリンカーを介して、軽鎖定常領域C末端で前記抗体または断片または誘導体に連結される1つのアントラサイクリン分子を含む。一実施形態では、ADCがペプチド配列を含むリンカーを介して、2つの軽鎖定常領域C末端の各々で前記抗体または断片または誘導体に各々連結される2つのアントラサイクリン分子を含む。
一実施形態では、少なくとも1つのアントラサイクリン系小分子がドキソルビシンではない。
【0045】
一実施形態では、アントラサイクリン系小分子がPNU-159682から、またはその誘導体から、または以下の式(i)の構造を含むものから、以下の式(i)の構造を含むものの誘導体から選択される。好ましい実施形態では、その波線でリンカーに結合した毒素が本明細書に参照に組み込まれたWO2016/102679に説明されるように、式(i)のものであり、Quintieriら(2005)に記述されているように、PNU-159682である。
【化1】
【0046】
アントラサイクリン分子ではない毒素は、植物、真菌、または細菌分子であり得る。いくつかの実施形態では、アントラサイクリン分子ではない毒素が小分子細胞毒素、ペプチド毒素、または蛋白質毒素である。これらの毒素の多くの具体的な例が当技術分野で公知である。例えば、Dybaら、Curr.Pharm.Des.10:2311-34,2004;Kuyucakら、Future Med.Chem.6:1645-58,2014;Beraudら、Inflamm.Allergy Drug Targets.10:322-42,2011;およびMiddlebrookら、Microbiol.Rev.48:199-221,1984.を参照のこと。いくつかの実施形態において、アントラサイクリン分子ではない毒素はメイタンシノイド(例えば、メイタンシノールまたはDM1メイタンシノイド)、タキサン、カリケアミシン、セマドチン、モノメチルアウリスタチン(例えば、モノメチルアウリスタチンEまたはモノメチルアウリスタチンF)、またはピロロベンゾジアゼピン(PBD)であり得る。アントラサイクリン分子ではない毒素は、ビンクリスチンおよびプレドニゾンであってもよい。様々な実施形態において、アントラサイクリン分子ではない毒素は代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサートなどの抗葉酸剤、5-フルオロウラシル、シトシンアラビノシドのようなフルオロピリミジン、またはプリンもしくはアデノシンの類似体);マイトマイシン-C、ダクチノマイシン、またはピロロベンゾジアゼピンのような他の非アントラサイクリン挿入剤;カリケアミシン、チアンシマイシン、および他のエンジインのようなDNA反応剤;白金誘導体(例えば、シスプラチンまたはカルボプラチン);アルキル化剤(例えば、ナイトロジェンマスタード、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、シクロホスファミド、イホスファミドニトロソウレアまたはチオテパ);抗有糸分裂薬(ビンクリスチンなどのビンカアルカロイド、パクリタキセルまたはドセタキセルなどのタキソイド);トポイソメラーゼ阻害薬(例えば、エトポシド、テニポシド、アムサクリン、トポテカン);細胞周期阻害薬(例えば、フラボピリドール);または微小管薬(例えば、エポチロン、チューブリシン、プレチューブリシン、ディスコデルモリド類似体、またはエレウテロビン類似体)であり得る。アントラサイクリン分子ではない毒素は、プロテオソーム阻害剤、ボルテゾミブ、アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド、テニポシド、またはドキソルビシンなどのトポイソメラーゼ阻害剤、またはヨウ素(131I)、イットリウム(90Y)、ルテチウム(177Lu)、アクチニウム(225Ac)、プラセオジム、アスタチン(At)、レニウム(Re)、ビスマス(BiまたはBi)、およびロジウム(Rh)を含む放射性同位体であり得る。
【0047】
アントラサイクリン分子ではない毒素は、好ましくは以下からなる群から選択される:
・ メイタンシンを含むメイタンシノイド、
・ モノメチルアウリスタチン MMAE、モノメチルアウリスタチン MMAFなどのアウリスタチン、
・ カリケアミシン、
・ ツブリシン
・ デュオカルマイシン
・ 放射性同位体
・ 毒性ペイロードを含むリポソーム
・ タンパク質毒素
・ タキサン、および/または
・ ピロロベンゾジアゼピン類。
【0048】
さらに、ADCは特に撮像を可能にするために、標識または色素を含んでもよい。この標識または色素は蛍光標識(蛍光色素または蛍光タンパク質を含む)、発色団標識、ヨウ素を含有する放射性同位元素標識(例えば、125I)、ガリウム(67Ga)、インジウム(111I)、テクネチウム(99mTc)、リン(32P)、炭素(14C)、トリチウム(3H)、他の放射性同位元素(例えば、放射性イオン)、および/またはアビジンもしくはストレプトアビジンなどのタンパク質標識からなる群より選択される少なくとも1つであり得る。
【0049】
リンカーに関する発明の態様
本発明は、
・ 少なくとも1つの軽鎖定常領域C末端を含む抗体、または標的結合特性を保持する抗体断片もしくは誘導体、および
・ アントラサイクリン系小分子
を含み、アントラサイクリン分子(単数または複数)は抗体、断片または誘導体の軽鎖定常領域C末端(単数または複数)に排他的に連結され、アントラサイクリン系小分子はペプチド配列を含むリンカーを介して、前記抗体、断片または誘導体に連結される、抗体薬物複合体(ADC)に関する。
【0050】
好ましい実施形態において、前記リンカーの前記ペプチド配列はソルターゼ酵素認識モチーフの特異的切断から生じるペプチドモチーフを含み、またはそれからなり、前記ソルターゼ酵素認識モチーフは、好ましくはペンタペプチドを含む。
【0051】
好ましい実施形態では、前記ソルターゼ酵素認識モチーフが-LPXTG-、-LPXAG-、-LPXSG-、-LAXTG-、-LPXTG-、-LPXTA-、および-NPQTG-からなる群から選択され、ここで、Xは任意のアミノ酸であり、好ましくは、XはEまたはQである。
【0052】
本明細書の他の場所ならびにWO2014140317(その内容は参照により本明細書に組み込まれる)に開示されるように、ソルターゼ(ソルターゼトランスペプチダーゼとも呼ばれる)は特定のペプチドモチーフを含む特定の選別シグナルを認識し、切断することによって表面タンパク質を修飾する原核生物酵素のグループを形成する。このペプチドモチーフはまた、本明細書において、「ソルターゼ酵素認識モチーフ」、「ソルターゼ認識モチーフ」、「ソルターゼタグ」または「ソルターゼ認識タグ」と呼ばれる。通常、所与のソルターゼ酵素は、認識される1つ以上のソルターゼ酵素認識モチーフを有する。
【0053】
ソルターゼ酵素は天然に存在し得るか、または遺伝子工学的改変を受け得る(Doerrら、2014)。ソルターゼクラスおよびそれらの対応する認識配列は一般に、Spirigら(2011)において議論される。黄色ブドウ球菌由来のA 2A-9およびA 4S-9を含む遺伝子工学的に改変されたソルターゼは、Dorrら(2014)およびChenら(2011)に記載される。
【0054】
背景として、ソルターゼペプチド転移の一般的概念を例示するために、例えば、ソルターゼAは求核剤としてオリゴ-グリシン-ストレッチを使用してペプチド転移を触媒し、これにより、オリゴ-グリシンの末端アミノ基が、ソルターゼ認識配列タグの最後の2つC末端残基を結合するペプチド結合に対して求核攻撃を引き起こす。これにより、そのペプチド結合が破壊され、ソルターゼタグのC末端の最後から2番目の残基とオリゴ-グリシンペプチドのN末端グリシンとの間に新たなペプチド結合が形成される、即ち、ペプチド転移が生じる。
【0055】
以下の表はソルターゼ酵素認識モチーフの非限定的な例、および特異的切断後に得られるペプチドモチーフを示し、後者はADCリンカー内に含まれる(NからC末端配向):
【表1】
【0056】
ソルターゼ結合に先立ち、ソルターゼ酵素認識モチーフはそのC端末において、さらに、Hisタグ、MycタグまたはStrepタグのような他のタグを担持することができる(WO2014140317の
図4aを参照、本明細書はその内容を参照により組み込む)。しかし、ソルターゼ酵素認識モチーフの4番目と5番目のアミノ酸の間のペプチド結合はソルターゼ媒介結合(コンジュゲージョン)の際に切断されるので、これらの追加のタグは結合産物中に現れない。
【0057】
ソルターゼ酵素認識モチーフは、遺伝子融合によって抗体軽鎖のC末端(単数または複数)に融合され得、そしてそれと同時発現される。ソルターゼ酵素認識モチーフは免疫グロブリン軽鎖の一方または両方の最後の天然に存在するC末端アミノ酸に付加され得、これはヒト免疫グロブリンκ(kappa)軽鎖の場合、C末端システイン残基である。前記融合または付属物は直接的に、または本明細書の他の箇所に記載される追加のリンカー要素を介して間接的に行うことができる。
【0058】
前述したように、いくつかの事例(例えば、Ig kappa軽鎖のC末端において、Beerli et al.(2015)参照)では、結合たんぱく質のC末端とソルターゼ酵素認識モチーフとの間に追加的なアミノ酸(以下、「スペーサー配列」という)を加えることが有益である。これは、結合タンパク質に対するペイロードのソルターゼ酵素結合効率を改善することを示している。Ig kappa軽鎖の場合、Ig kappa軽鎖の最後のC末端システインアミノ酸とソルターゼ認識配列との間に5アミノ酸を付加すると、結合の動態が改善されることが観察された(Beerliら(2015)を参照のこと)。従って、別の好ましい実施形態は、任意に、≧1および≦11アミノ酸(「スペーサー配列」)が抗体の最後のC末端アミノ酸とソルターゼ認識配列との間に付加されることである。好ましい実施形態では、ペプチド配列GqS(qは、好ましくは1~10、より好ましくは4または5である)が最後の軽鎖C末端アミノ酸とソルターゼ酵素認識モチーフとの間に添加される。
【0059】
好ましい実施形態において、前記リンカーの前記ペプチド配列はGnまたはGlyn(ここで、nは1~21であり、好ましくは、nは1、2、3、4または5である)と示されるオリゴグリシン配列(「タグ」)を含むか、またはそれからなる。
【0060】
好ましい実施形態では、前記リンカーの前記ペプチド配列がソルターゼ酵素認識モチーフの特異的切断から生じるペプチドモチーフ、および好ましくは-LPXTGn-、-LPXAGn-、-LPXSGn-、-LAXTGn-、-LPXTGn-および-NPQTGn-(ここで、Xは任意のアミノ酸であり、好ましくは、XはEまたはQであり、nは1~21であり、好ましくは、nは1、2、3、4または5である)からなる群より選択されるオリゴグリシン配列を含むか、またはそれからなる。好ましい実施形態において、前記リンカーの前記ペプチド配列は-LPXTGn(ここで、Xが任意のアミノ酸であり、好ましくは、XがEまたはQであり、nが1~21であり、好ましくは、nが1、2、3、4または5である)を含むか、またはそれからなる。
【0061】
アントラサイクリン分子が式(i)のものである一実施形態では、リンカーがNH2-(CH2)m-NH2(式中、m≧1および≦11、好ましくはm=2)のアルキルジアミノ基をさらに含むことが好ましい。この実施形態では、NH2-(CH2)m-NH2の1つのアミノ基が式(i)の波線において直接的に連結されてアミド結合を形成することが好ましい。
【0062】
アントラサイクリン分子が式(i)のものであり、リンカーがNH2-(CH2)m-NH2(式中、m≧1および≦11、好ましくはm=2)の式のアルキルジアミノ基をさらに含む別の実施形態では、1つのアミノ基がリンカー要素L1を介して式(i)の波線に連結されてもよい。
【0063】
前記アルキルジアミノ基の第2のアミノ基は、オリゴペプチドリンカー、より好ましくはオリゴグリシン(Gly
n)に連結されることがさらに好ましい。好ましくは、オリゴグリシンが1~21グリシン残基の長さ(すなわち、nは1~21)、好ましくは1、2、3、4または5アミノ酸の長さを有する。
本発明のADCの一定の非限定的な実施形態の視覚的描写を
図2に示す。
【0064】
別の実施形態では、リンカーが好ましくはヒドラジンリンカー、チオ尿素リンカー、自己免疫リンカー、スクシンイミジルトランス-4-(マレイミジルメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)リンカー、ジスルフィドリンカー、セレノエーテルリンカー、アミドリンカー、チオエーテルリンカー、および/またはマレイミドリンカーからなる群より選択される、少なくとも1つのさらなる切断可能または非切断可能リンカーをさらに含み得る。
【0065】
当業者は、さらなるリンカーが適切であり得ることを理解している。このようなリンカーは、非切断性であり得るか、またはpH、酸化還元電位、または特定の細胞内/細胞外酵素の変化によって切断され得る。切断可能なオリゴペプチドリンカーには、プロテアーゼ又はマトリックスメタロプロテアーゼ切断可能リンカーが含まれる。リンカーは、上記の組み合わせを含み得ることを理解されたい。例えば、リンカーは、バリン-シトルリンPABリンカーであってもよい。
【0066】
薬物抗体比率(DAR)に関する態様
好ましい実施形態において、各軽鎖定常領域C末端に連結されたアントラサイクリン分子を有するように設計された本発明のADCは、≧1と≦2との間、好ましくは≧1.75と≦2との間、より好ましくは≧1.9と≦2との間の任意の値の抗体とペイロードとの間の化学量論比を有する。この比はまた、薬物対抗体比(「DAR」)と称され得る。DARを決定する方法は当業者に周知であり、逆相クロマトグラフィー、またはHPLC-MSを使用する方法を含む。ソルターゼ媒介ペプチド転移反応は、100%完全ではなく、記載されたDARを有するADCの調製をもたらすことが理解される。
ADCが追加の非アントラサイクリン毒素を含む実施形態では、DARは≧1~≦4の間の任意の値であり得る。
【0067】
別の好ましい実施形態において、1つの軽鎖定常領域C末端のみに連結されたアントラサイクリン分子を有するように設計された本発明のADCは、≧0.5と≦1との間、好ましくは≧0.75と≦1との間、より好ましくは≧0.9と≦1との間の任意の値の、抗体とペイロードとの間の化学量論比を有する。
【0068】
機能特性に関する発明の態様
一実施形態では本発明が
・ 少なくとも1つの軽鎖定常領域C末端を含む抗体、または標的結合特性を保持する抗体断片もしくは誘導体、および
・ アントラサイクリン系小分子
を含み、アントラサイクリン分子(単数または複数)は抗体、断片、または誘導体の軽鎖定常領域C末端(単数または複数)に排他的に連結され、アントラサイクリン系小分子はペプチド配列を含むリンカーを介して、前記抗体、断片、または誘導体に連結された抗体薬物複合体(ADC)に関連し、前記ADCは好ましくは同じ数および種類のアントラサイクリン分子を有するが、アントラサイクリン分子(単数または複数)が重鎖定常領域C末端または重鎖および軽鎖定常領域C末端の両方の混合物に連結された同等なADCと比較して、インビボで改善された忍容性を示す、抗体薬物複合体(ADC)に関連する。
【0069】
この実施形態と関連して、マウスモデルにおいて、忍容性は7~14日間にわたり、所定の投与量について、死亡率割合と比較して評価されることが好ましい。この実施形態と関連して、忍容性は、2.5~40mg/kgの投与量のADCを用いて評価されることが好ましい。
【0070】
同等なADCはインビトロで非常に類似した細胞殺傷活性を示したが、予想外に、抗体の軽鎖に排他的に連結されたアントラサイクリンを有するADCは、2つの試験された同等の用量レベルのインビボで死亡がなく、これに比較して重鎖に排他的にまたは重鎖および軽鎖の両方に連結された同等なADCでは、より低い用量で各1/5の死亡マウスをもたらし、より高い用量で5/5の死亡マウスをもたらした(表5を参照のこと)。同様に、別の実験において、アントラサイクリンが軽鎖に排他的に連結されたADCは、重鎖のみにまたは重鎖および軽鎖に連結された毒素を有するADCと比較して、かなり高い用量で許容された。明らかに、患者に安全に投与することができる量の尺度としてのより高い忍容性は、医薬品に有利である。
【0071】
一実施形態では、本発明は
・ 少なくとも1つの軽鎖定常領域C末端を含む抗体、または標的結合特性を保持する抗体断片もしくは誘導体、および
・ アントラサイクリン系小分子
を含み、アントラサイクリン分子(単数または複数)は抗体、断片、または誘導体の軽鎖定常領域C末端(単数または複数)に排他的に連結され、アントラサイクリン系小分はペプチド配列を含むリンカーを介して、前記抗体、断片または誘導体に連結され、前記ADCは同じ数および種類のアントラサイクリン分子を有するが、アントラサイクリン分子が重鎖定常領域C末端または重鎖定常領域C末端と軽鎖定常領域C末端の両方の混合物に連結された同等なADCと比較して、インビボでより大きな治療指数を示す、抗体薬物複合体(ADC)に関する。治療指数は、治療作用を引き起こす治療剤の量と、毒性を引き起こす量との対比である。意外にも、同じ投与量で重鎖C末端と比較して軽鎖C末端に結合した同じ量の毒素が、インビボでより高い効力を生じることを示した(
図9を参照のこと)。
【0072】
一実施形態では本発明は
・ 少なくとも1つの軽鎖定常領域C末端を含む抗体、または標的結合特性を保持する抗体断片もしくは誘導体、および
・ アントラサイクリン系小分子
を含み、アントラサイクリン分子(単数または複数)は抗体、断片、または誘導体の軽鎖定常領域C末端(単数または複数)に排他的に連結され、アントラサイクリン系小分子はペプチド配列を含むリンカーを介して、前記抗体、断片、または誘導体に連結され、同じ治療効果のために、前記ADCは好ましくは同じ数および種類のアントラサイクリン分子を有するが、アントラサイクリン分子が重鎖定常領域C末端または重鎖定常領域C末端と軽鎖定常領域C末端の両方の混合物に連結された同等なADCと比較して、低減された投薬頻度および/またはより低い投薬量をインビボで必要とする、抗体薬物複合体(ADC)に関する。
【0073】
一実施形態では本発明は
・ 少なくとも1つの軽鎖定常領域C末端を含む抗体、または標的結合特性を保持する抗体断片もしくは誘導体、および
・ アントラサイクリン系小分子
を含み、アントラサイクリン分子(単数または複数)は抗体、断片または誘導体の軽鎖定常領域C末端(単数または複数)に排他的に連結され、アントラサイクリン系小分子はペプチド配列を含むリンカーを介して、前記抗体、断片または誘導体に連結され、前記ADCは好ましくは同じ数および種類のアントラサイクリン分子を有するが、アントラサイクリン分子が重鎖定常領域C末端または重鎖および軽鎖定常領域C末端の両方の混合物に連結された同等なADCと比較して、減少した疎水性を示す、抗体薬物複合体(ADC)に関する。そのような疎水性の減少は、ADCの取扱いおよび製剤を改善することができる。
【0074】
医薬組成物
いくつかの関連する態様において、本明細書中に記載される抗体薬物複合体の治療的に有効な量および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を提供する。
【0075】
薬学的に許容される担体はヒトまたは獣医学対象への投与に適切な1つ以上の適合性固体または液体充填材、希釈剤、他の賦形剤、または封入物質(例えば、生理学的に許容される担体または薬理学的に許容される担体)であり得る。用語「担体」は、活性成分の使用、例えば、対象への活性成分の投与を容易にするために活性成分と併用される有機若しくは無機成分(天然若しくは合成)を意味する。薬学的に許容される担体は、所望の薬効を実質的に損なわないように、1種若しくは複数種の活性成分、例えば、ハイブリッド分子と混合することができ、また、組成物中に2種以上の薬学的に許容される担体が存在する場合には、互いに混合することができる。薬学的に許容される材料は典型的には悪心、めまい、発疹、または胃の不調のような有意な望ましくない生理学的効果を生じることなく、対象(例えば、患者)に投与することができる。例えば、治療目的でヒト患者に投与される場合、薬学的に許容される担体を含む組成物が免疫原性でないことが望ましい。
【0076】
本発明の医薬組成物は、さらに、例えば、塩の形態の酢酸、塩の形態のクエン酸、塩の形態のホウ酸、及び塩の形態のリン酸などの好適な緩衝剤を含有することができる。組成物は、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベン、およびチメロサールなどの適切な防腐剤を任意に含有することもできる。本発明の医薬組成物は単位剤形で提供され得、そして任意の適切な方法によって調製され得、その多くは薬学の分野において周知である。このような方法は、本発明の抗体または抗原結合断片を、1つ以上の補助成分を構成する担体と会合させる工程を包含する。一般に、組成物は活性剤を液体担体、微細に分割された固体担体、またはその両方と一様かつ密接に会合させ、次いで、必要であれば、生成物を成形することによって調製される。
【0077】
非経口投与に好適な組成物は、本発明の組成物の滅菌水性調製物を含むのが好都合であり、これは、好ましくはレシピエントの血液と等張性である。この水性調製物は、好適な分散又は湿潤剤及び懸濁剤を用いて、公知の方法に従い製剤化することができる。滅菌注射調製物はまた、非毒性の非経口的に許容される希釈剤若しくは溶媒中の滅菌注射液若しくは懸濁液、例えば、1,3-ブタンジオール中の溶液であってよい。使用することができる許容される車両および溶媒の中には、水、リンガー溶液、および生理食塩水がある。さらに、無菌の固定油を、溶媒または懸濁媒として慣例的に使用できる。この目的のために、合成モノ-またはジ-グリセリドのような任意の無刺激の不揮発性油を使用することができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸を注射剤の調製に使用することができる。経口、皮下、静脈内、筋肉内などの投与に好適な担体製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.、Easton,PAに見いだすことができる。
【0078】
本発明の医薬組成物の調製及びそれらの様々な投与経路は、当技術分野で公知の方法に従って実施することができる。本発明に関して有用な送達系は、本発明の組成物の送達が、治療しようとする部位の感作を引き起こす前に、並びにそれを引き起こすのに十分な時間で、実施されるように、定時放出、遅延放出、及び持続的放出を含む。本発明の組成物は、他の治療薬または療法と併用することができる。このようなシステムは本発明の組成物の反復投与を回避することができ、それによって、対象および医師に対する利便性を増大させることができ、本発明の特定の組成物に特に好適であり得る。
【0079】
多くのタイプの放出送達系が利用可能であり、当業者に公知である。適切な放出送達系としては、ポリ(ラクチド-グリコリド)、コポリオキサレート、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酪酸、およびポリ無水物などのポリマーベース系が挙げられる。薬物を含有する前記のポリマーのマイクロカプセルは例えば、米国特許第5,075,109号に記載されている。送達システムはまた、コレステロール、コレステロールエステル、および脂肪酸などのステロール、またはモノジグリセリドおよびトリグリセリドなどの中性脂肪を含む脂質である非ポリマー系;ハイドロゲル放出系;可塑性系;ペプチドベースの系;ワックスコーティング;従来の結合剤および賦形剤を使用する圧縮錠剤;部分的に融合された移植片などを含む。具体的な例としては(a)活性成分が米国特許第4,452,775号、第4,667,014号、第4,748,034号、および第5,239,660号に記載されているようなマトリクス内の形態で含有されるエロージョン系、および(b)活性成分が米国特許第3,832,253号および第3,854,480号に記載されているようなポリマーから制御された割合で浸透する拡散系が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、ポンプを用いたハードウエア送達系を使用することができ、そのいくつかは、移植のために改変されている。
【0080】
一般に、本発明のADCまたは医薬組成物は例えば、バイアル、パウチ、アンプル、および/または治療方法に適切な任意の容器中に適切に包装される。成分は濃縮物(凍結乾燥組成物を含む)として提供され得、これは使用前にさらに希釈され得るか、またはそれらは使用濃度で提供され得る。インビボでの使用のために、成分の所望の量および濃縮を有する滅菌容器中で、単一用量が提供され得る。
【0081】
ADCを製造する手段および方法によって得られるADC
第1の態様によれば、本発明は、
・ 少なくとも1つの軽鎖定常領域C末端を含む抗体、または標的結合特性を保持する抗体断片もしくは誘導体、および
・ アントラサイクリン系小分子
を含み、ここで、アントラサイクリン分子(単数または複数)は抗体、断片または誘導体の軽鎖定常領域C末端(単数または複数)に排他的に連結され、
・ アントラサイクリン系小分子はペプチド配列を含むリンカーを介して、前記抗体、断片または誘導体に連結される、
抗体薬物複合体(ADC)に関する。
【0082】
一実施形態では、本発明の抗体薬物複合体は、
a)軽鎖C末端にソルターゼ酵素認識モチーフを有する抗体または断片または誘導体、および
b)各々オリゴグリシンタグを有する1つ以上のアントラサイクリン系小分子の部位特異的ソルターゼ酵素媒介結合
によって得ることができる。
【0083】
本発明はまた、本発明のADCを産生する方法に関し、この方法は、以下の工程を含む:
a)軽鎖C末端(単数または複数)にソルターゼ酵素認識モチーフを有する抗体または抗体誘導体を提供する工程、
b)各々オリゴグリシンタグを有する1つ以上のアントラサイクリン系小分子を提供する工程、および
c)抗体または抗体誘導体および1つ以上のアントラサイクリン系小分子を、前記ソルターゼ酵素認識モチーフを認識するソルターゼ酵素を使用するソルターゼ媒介結合によって結合する工程。
好ましくは本明細書中で議論される全ての実施形態において、ソルターゼ酵素認識モチーフは軽鎖C末端(単数または複数)に排他的に提供される。
【0084】
本明細書中で議論される全ての実施形態(化膿連鎖球菌ソルターゼAが使用される場合)において、オリゴ-グリシンGlynは任意にオリゴ-アラニンAlanで置換され得ることを理解することは重要である。
【0085】
抗体または断片または誘導体、アントラサイクリン系小分子、リンカーおよびソルターゼ、ならびに本明細書中で言及される任意の他の制限に関する全ての以前に言及された制限は本発明のADCを記載する実施形態の好ましい実施形態を表し、部位特異的ソルターゼ酵素媒介結合およびADCを産生する方法によって得られる。
【0086】
医療用途および治療方法
本発明はさらに、腫瘍性疾患に罹患しているか、発症する危険性があるか、および/または腫瘍性疾患と診断された対象の治療における使用のための、本明細書中に記載されるようなADCに関する。
【0087】
本発明はまた、免疫疾患または障害に罹患しているか、発症する危険性があるか、および/または診断された対象の治療における使用のための、本明細書中に記載されるようなADCをいう。あるいは、腫瘍性疾患に罹患しているか、発症する危険性があるか、および/または腫瘍性疾患と診断されている患者を治療するための方法が提供され、この方法は治療的に効果的な量または用量での上記記載による抗体薬物複合体の投与を含む。
【0088】
本明細書で使用される「治療する」または「治療」という用語は、必ずしも100%または完全な治療を意味するものではない。むしろ、潜在的な利益または治療効果を有するものとして当業者によって認識される様々な程度の治療が存在する。この点で、本発明の方法は、任意の量の任意のレベルの治療を提供することができる。さらに、本発明の方法によって提供される治療は、治療される疾患の1つ以上の状態または症状の治療を含み得る。特に、治療は、静脈内注入として投与されてもよい。
一実施形態では、ADCは単剤療法として投与される。代替の実施形態では、ADCがさらなる治療薬と一緒にまたは並行して投与される。
特に、ADCは、約0.1~20mg/kgの用量で投与され得る。
「対象」という用語はヒトおよび非ヒト動物(特に非ヒト哺乳動物)を指し、好ましくはヒト動物を指す。
【実施例】
【0089】
本発明は図面および前記の説明において詳細に図示および説明されてきたが、そのような図示および説明は例示または例示的であり、限定的ではないと考えられるべきであり、本発明は開示された実施形態に限定されない。開示される実施形態に対する他の変形形態は、図面、開示、及び添付の特許請求の範囲の研究から、請求される発明を実施する際に当業者によって理解され、実施され得る。特許請求の範囲において、「含む(comprising)」という用語は、他の要素又はステップを排除するものではなく、不定冠詞「a(1つの)」又は「an(1つの)」は複数形を除外するものではない。特定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせを使用して利益を得ることができないことを示すものではない。特許請求の範囲のどの引用符号も、範囲を限定すると解釈するべきではない。
【0090】
本明細書中に開示される全てのアミノ酸配列はN末端からC末端まで示され(ここで、配向C末端からN末端として示される
図1を除く);本明細書中に開示される全ての核酸配列が5’→3’で示される。
【0091】
実施例1:抗体の発現および精製
発現ベクター:ヒトCS1に結合するために上記で決定されたFab配列を、ヒト発現のためにコドン最適化した;可変ドメインを、GenScript(Piscataway,USA)によってDNAとして合成し、適切な制限部位および適切な定常ドメインを含む発現ベクター内に含めた(HEK293T細胞における発現についてはWaldmeierら、2016年、およびCHO細胞における発現についてはBeerliら、2015年)。
【0092】
HEKの発現と精製:
発現ベクターを、Lipofectamine(登録商標)LTX試薬(Thermo Fisher Scientific, Reinach,Switzerland,15388100)を用いたLipofectamine(登録商標)LTX試薬(Thermo Fisher Scientific,Reinach,Switzerland,15388100)を用いてHEK293T細胞にトランスフェクトした;1日のインキュベーション(37℃、5%CO2、増殖培地:10%(v/v)ウシ胎仔血清(FCS)、100IU/mLのPen-Strep-Fungizoneおよび2mMのL-グルタミン(すべてBioconcept,Allschwil,Switzerland)を含むL-グルタミンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)高グルコース(4.5g/L))後、細胞を選択条件下で増殖させた。細胞を分割し、さらに増殖させた(37℃、5%CO2);コンフルエントに達したら、組織培養皿を20μg/mlのポリ-L-リシン(Sigma-Aldrich,P1524)で、37℃で2時間コーティングし、PBSで2回洗浄した。次に、細胞をトリプシン処理し、ポリ-L-リシンでコーティングしたプレート上に1:3に分けた。コンフルエントに達した後、細胞をPBSで洗浄し、続いて、1μg/mLのピューロマイシン(Sigma、P8833)、100IU/mLのPen-Strep-Fungizone(Bioconcept)、161μg/mLのN-アセチル-L-システイン(Sigma-Aldrich、A8199)および10μg/mLのL-グルタチオン還元物(Sigma-Aldrich、G6529)を補充した生成培地(DMEM/F-12、Gibco/Thermo Fisher Scientific、31330-03)に培地を置き換えた。上清を隔週で回収し、濾過する(0.22μm)ことにより細胞を除去して、精製まで4℃で保存した。
【0093】
精製のために、濾過した上清をPBS平衡化プロテインAカラムにロードし、PBSで洗浄した;溶出は、AKTA純粋(GEヘルスケア)上で0.1Mグリシン(pH 2.5)を用いて行った。画分を1M Tris-HCl緩衝液(pH 8.0)で直ちに中和し、SDS-PAGEによってタンパク質純度および品質について分析した。タンパク質含有画分をプールし、Amicon濾過ユニット(Millipore,Schaffhausen,Switzerland,UFC901008)を用いて緩衝液交換に供して1:100の希釈に到達させ、次いで低保持フィルター(0.20μm,Carl Roth,Karlsruhe,Germany,PA49.1)を用いて滅菌濾過した。
【0094】
CHO発現および精製:完全長重鎖および軽鎖のそれぞれをコードする発現ベクターを、哺乳動物発現ベクター中で構築した。抗体を、当技術分野で公知の方法によってCHO細胞中で一過性に発現させ、組換え抗体を、当技術分野で公知のように、CHO細胞上清からの標準的なタンパク質A精製によって精製した。要するに、CHO細胞上清を遠心分離によって回収し、滅菌濾過(0.2μm)した後、タンパク質Aカラムを用いたFPLCベースのアフィニティー精製を行った。結合した抗体を0.1Mグリシン(pH2.5~3.5)で溶出し、直ちに1M Tris-HCl緩衝液(pH7.5)で中和した。所望の最終製剤緩衝液への緩衝液交換を、当該分野で公知のように行った(例えば、透析またはTFF)。組換え抗体の純度および完全性を、SDS-PAGE、SECおよびMSによって分析した。
【0095】
【0096】
表3は、その後の実施例で使用される抗体バッチの発現および精製に使用されるプロトコルを、それらの最終濃度および緩衝液と共に列挙する。
【表3】
【0097】
黄色ブドウ球菌由来のソルターゼA。組換えアフィニティー精製ソルターゼA酵素を、WO2014140317A1に開示されているように大腸菌中で産生した。
【0098】
グリシン修飾毒素の作製。ペンタグリシン修飾EDA-アントラサイクリン誘導体(G5-PNU)、トリグリシン修飾EDA-アントラサイクリン誘導体(G3‐PNU)およびジグリシン修飾EDA-アントラサイクリン誘導体(G2-PNU)を、それぞれConcortis/Levenaにより製造した(それぞれ、
図3(A),(B),(C))。グリシン修飾毒素の同一性および純度を、質量分析およびHPLCによって確認した。Gly修飾毒素の各々はHPLCクロマトグラム中の単一ピークによって測定されるように、>95%の純度を示した。
【0099】
ソルターゼ媒介性抗体結合。標識mAb[10μM]を、結合緩衝液(50mM HEPES、pH7.5、1mM CaCl2、150mM NaCl、10体積%グリセロール)中のグリシン修飾毒素[200μM]および3~4μMソルターゼAと共に、25℃で少なくとも3.5時間インキュベートすることによって、上記の毒素を表4の抗体に結合させた。タンパク質Aカラム(rProtein A Gravitrapカラム、GE Healthcare)に通すことによって反応を停止させた。結合した複合体を、5カラム容量の溶出緩衝液(0.1Mグリシン、pH2.5、50nM NaCl)で溶出し、1カラム容量分画を、25% v/vまでの1M Tris-またはHEPES(pH8)ベースを含有するチューブに収集して、酸を中和した。タンパク質含有画分をプールし、表4の製剤緩衝液中に製剤化した。
【0100】
ADC解析学。DARは、0.05~0.1% TFA/H2Oと0.04~0.1% TFA/CH3CNとの間の25分間の線形勾配で、1mL/分/80℃で実行されるPolymer Labs PLRP 2.1mm×5cm、5μmカラム上で行われる逆相クロマトグラフィーによって評価した。まず、pH8.0のDTTとの37℃、15分間のインキュベーションによりサンプルを還元した。逆相クロマトグラフィーにより決定されたDARを以下の表4にまとめる。
【0101】
【0102】
実施例2:
全ての忍容性評価は、オーリゴン(Aurigon)で行った。表5のADC(PBS中に製剤化された)を、5匹のCD-1雌マウス(5~6週齢;Charles River,Sulzfeld,Germanyから)のグループに、示された用量で14日間にわたって2回(1日目および8日目に、ボーラスによる静脈内投与によって)投与した。マウスをケージ当たり5匹の動物のグループで飼育し、水およびペレットを自由に与えた。研究全体を通して1日2回モニターしたパラメーターは、死亡率およびケージサイドでの臨床観察を含んだ。
【0103】
【0104】
表5の結果は、重鎖C末端でアントラサイクリンペイロードを含むADC(Tras-HC-PNU)または重鎖および軽鎖C末端の両方でアントラサイクリンペイロードを含むADC(Tras-PNU)で処理したマウスと比較して、軽鎖C末端でアントラサイクリンペイロードを含むADC(Tras-LC-PNU)で処理したマウスの同等ADC投与における有意に低い死亡率を示した。
【0105】
実施例3:
表6のADC(PBS中に製剤化された)を、3匹のCD-1雌マウス(4~6週齢;Charles River,Sulzfeld,Germanyから)のグループに、1日目に示された用量で(ボーラスによる静脈内投与によって)投与し、14日間(2.5および5mg/kg用量について)または28日間(10、15および20mg/kg用量について)観察した。マウスをケージ当たり3匹の動物のグループで飼育し、水およびペレットを自由に与えた。研究全体を通して1日2回モニターしたパラメーターは、死亡率およびケージサイドでの臨床観察を含んだ。
【0106】
【0107】
表6の結果は軽鎖C末端にアントラサイクリンペイロードを含むADC(Tras-LC-PNU)で処理されたマウスとは対照的に、重鎖C末端にアントラサイクリンペイロードを含むADC(Tras-HC-PNU)または重鎖および軽鎖C末端の両方にアントラサイクリンペイロードを含むADC(Tras-PNU)で処理されたマウスでは有意に低い用量で死亡が生じることを示した。
【0108】
実施例4:
表7のHER2標的化ADCの細胞毒性を、HER2陽性ヒトSKBR3細胞株を用いて調べた。HER2陰性ヒト細胞株Karpas-299を対照として使用した。このために、ウェル当たり5000個のSKBR3および5000個のKarpas-299細胞を、それぞれ、10体積%を補充した75μLのDMEMまたはRPMI中の96ウェルプレート(水を含有する端のウェルを除く)上にプレートした。FCS、100IU/mL Pen-Strep-Fungizoneおよび2mM L-Glutamineを、1ウェルあたり6.66×10
4cellsの密度で、5%CO
2雰囲気の加湿インキュベーター中で、37℃で増殖させた。1日間インキュベーションした後、それぞれのADCを、増殖培地中の25μLの3.5倍連続希釈液(80μg/mLの開始ADC濃度、20μg/mL~0.89ng/mLの範囲の最終ADC濃度を与えた)をそれぞれのウェルに添加した。さらに4日後、プレートをインキュベーターから取り出し、室温に平衡化した。約30分後、50μLのCellTiter-GloOB2.0発光溶液(Promega,G9243)を各ウェルに添加した。プレートを750rpmで5分間振盪し、続いて振盪せずに10分間インキュベートした後、Spark 10Mプレートリーダー上で、ウェル当たり1秒の積分時間で発光を測定した。発光対ADC濃度(ng/mL)の曲線を、Graphpad Prism Softwareに適合させた。プリズムソフトウェアの組み込み「log(阻害剤)vs応答-可変勾配(4つのパラメータ)」IC
50決定機能を使用して決定されたIC
50値を表7に報告する。
【表7】
【0109】
図4は、表7のADCを用いたSKBR3およびKarpas-299細胞株についてのインビトロ細胞死滅アッセイの用量-応答曲線を示す。図および表によれば、アントラサイクリンペイロードを重鎖上に排他的に、または軽鎖上に排他的に含む同等なADCは、同等のインビトロ効力を示す。
【0110】
実施例5:
表8のHER2標的化ADCの細胞毒性を、HER2陽性ヒトSKOV3細胞株を用いて調べた。同等のCD30標的ADCをアイソタイプ対照として使用した。このために、実施例4のプロトコルに従ったが、ウェルあたり2,000 SKOV3細胞を、10体積%FCS、100IU/mL Pen-Strep-Fungizoneおよび2mM L-Glutamineを補充した75μLのDMEMの96ウェルプレート(水を含有する端のウェルを除く)上に、ウェルあたり2.66×104細胞の濃度でプレーティングした。
【0111】
【0112】
図5は、表8のADCを用いたSKOV3細胞株に対するインビトロ細胞死滅アッセイの用量-応答曲線を示す。図および表によれば、アントラサイクリンペイロードを重鎖上に排他的に、または軽鎖上に排他的に含む同等なADCは、同等のインビトロ効力および抗原媒介性を示す。
【0113】
実施例6:
表9のADC(PBS中に製剤化された)を、3匹または6匹のCD-1雌マウス(4~6週齢;Charles River,Sulzfeld,Germanyから)のグループに、1日目に示された用量で(ボーラスによる静脈内投与によって)投与し、7~10日間観察した。マウスをケージ当たり3匹の動物のグループで飼育し、水およびペレットを自由に与えた。研究全体を通して1日2回モニターしたパラメーターは、死亡率およびケージサイドでの臨床観察を含んだ。
【表9】
【0114】
表9の結果は軽鎖C末端にアントラサイクリンペイロードを含むADCで処置されたマウスとは対照的に、重鎖C末端にアントラサイクリンペイロードを含むADCで処置されたマウス、または重鎖C末端および軽鎖C末端の両方にアントラサイクリンペイロードを含むADCで処置されたマウスの死亡が有意に低い用量で生じていることを示す。
【0115】
実施例7:
表10のADC(PBS中に製剤化)を、15匹のスイスの雌異系交配CD1マウスのグループ(体重21~26g;フランス、Saint BerthevinのJanvierから;単純なランダム割り当てによりグループに割り当てた)に1mg/kg(ボーラスによる単回静脈内投与により)で投与した。マウスをケージ当たり3匹の動物のグループで飼育し、水およびペレットを自由に与えた。処置グループあたり3匹のマウスのグループを、ADC投与から1時間、24時間、3日、7日および14日目に深麻酔後の末端出血によって安楽死させた。所与のグループからの血清および時点を、ELISAによる分析のために収集した。
【0116】
血清サンプルの希釈系列(希釈係数3.5)を、2μg/mlのhuROR1抗原でコーティングしたELISAプレート上に捕捉した。結合したADCは自社開発のマウス抗PNU mAb(ヒトIgG-PNUコンジュゲートでマウスを免疫化し、BSA-PNUコンジュゲートでスクリーニングすることによって生成される)で検出されたが、結合した総IgGはHRP結合ロバ抗ヒトIgG(Jackson Immunoresearch,709-035-149)の1:2500希釈で検出された。ADCおよび総IgGの血清濃度を、既知濃度の同じADCのサンプルと比較することによって、サンプル滴定の最大値の半分から計算した。
図6は経時的な血清濃度の曲線を示す;これらは表10に報告されるように、PrismのAUC機能を使用して分析され、曲線下面積(AUC)を決定した。
【表10】
【0117】
表10の結果は、重鎖C末端および軽鎖C末端の両方にアントラサイクリンペイロードを含むADCで処置されたマウス、または重鎖C末端にアントラサイクリンペイロードを含むADCで処置されたマウスよりも、軽鎖C末端にアントラサイクリンペイロードを含むADCで処置されたマウスの有意に高い暴露(AUC)を示している。さらに、表10は、重鎖C末端にアントラサイクリンペイロードを含むADCがかなりの範囲までペイロードを失うことを示している。
【0118】
実施例8:
マウスEMT-6乳癌細胞を、10%(v/v)ウシ胎仔血清(FCS)、100IU/mLのPen-Strep-Fungizoneおよび2mM L-グルタミン(全て、Bioconcept,Allschwil,Switzerland)を含むL-グルタミンを含むDMEM完全(ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)高グルコース(4.5g/L))中、37℃および5% CO
2で培養した。細胞を移植によりROR1を過剰表現するように設計し、セルを遠心分離(6min,1200rpm,4℃)し、RPMI-1640メディア(5x10
6 cells/ml)で再懸濁した。400μLの細胞懸濁液を、13.3μgのトランスポータブルベクターpPB-PGK-Puro-ROR1(完全長ROR1(NP_005003.2)とピューロマイシン耐性遺伝子の同時発現を指令する)および6.6μgのトランスポザーゼ含有ベクターpCDNA3.1_hy_mPBを含有する400μLのRPMIに添加した。DNA/EMT-6細胞混合物をエレクトロポレーションキュベット(0.4cm-ギャップ、165-2088、BioRad、Cressier、スイス)に移し、300Vおよび950μFでキャパシタンスエクステンダーを有するBiorad Gene Pulser IIを使用してエレクトロポレーションした。次に、細胞を室温で5~10分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を1200rpmで6分間遠心分離し、1回洗浄し、続いてDMEMに完全に再懸濁した後、5%CO
2雰囲気の加湿インキュベーター中で、37℃でインキュベーションした。エレクトロポレーションの1日後、ヒトROR1を安定に発現する細胞プールを、3μg/mLのピューロマイシン(Sigma-Aldrich,P8833)を添加することによって選択した。ROR1を発現する単一細胞クローンは、抗生物質選択EMT-6-ROR1細胞に由来した。次いで、細胞を抗ROR1抗体2A2と共に30分間インキュベートし(4℃、最終濃度2μg/mL)、続いて遠心分離および洗浄した。次いで、細胞を前述のように再懸濁し、暗所(30分、4℃)で1:250希釈した抗ヒトIgG抗体(Fcγ特異的)PE(eBioscience,Vienna,Austria,12-4998-82)とインキュベートし、緩衝液中で1回洗浄し、FACSAriaII機器(BD Biocsiences,San Jose,USA)を用いたFACSによる抗原発現細胞の単一選別まで氷上に保持した。以下の実験で使用したクローン14上のROR1の発現を、FACSによって決定した(
図7)。
【0119】
実施例9:
表11のCS1標的化およびROR1標的化ADCの細胞毒性を、実施例8のROR1過剰発現EMT6クローン14細胞およびCS1陽性L363細胞株を用いて調べた。このために、実施例4のプロトコルに従ったが、1ウェルあたり1000個のEMT6クローン14および10000個のL363細胞を、10体積%FCS、100IU/mL Pen-Strep-Fungizoneおよび2mM L-Glutamineを補充した75μLのDMEM中にそれぞれウェルあたり1.3×10
4細胞および1.3×10
5の濃度でプレーティングした。
【表11】
【0120】
図8は、表11のADCを有するROR1過剰発現EMT6クローン14細胞およびL363細胞に対するインビトロ細胞死滅アッセイの用量応答曲線を示す。図および表のように、重鎖上に排他的に、または軽鎖上に排他的に、アントラサイクリンペイロードを含む同等なADCは同等インビトロ効力を示し、抗原媒介性である。
【0121】
実施例10:
以下の研究をProQinaseで行った。0日目に、100μlのPBS中の1x10
6 EMT-6-ROR1クローン14腫瘍細胞(実施例8から)を、5~6週齢の雌BALB/cマウスの乳房脂肪パッドに同所的に移植した。3日目に約30~80mm
3(カリパスによる)の平均腫瘍体積に達したら、マウスを、腫瘍の大きさに従ってそれぞれ6匹の動物のグループにブロックランダム化した。表12のADC(PBS中に製剤化)を、3日目に示された用量で投与した(ボーラスによる静脈内投与による)。マウスに水およびペレットを自由に与えた。カリパスによって週2回評価した腫瘍体積の進展(グループあたりの平均および平均の標準誤差に対応するエラーバー)を
図9に示す。
【0122】
【0123】
図9の結果は、重鎖C末端のみまたは軽鎖C末端のみにアントラサイクリン分子を含む本発明のADCがインビボで本質的に等しく有効であり、それらのトレースが本質的に完全に重なることを示している。
【0124】
本明細書に提示する実施例によれば、軽鎖C末端にアントラサイクリン分子を含む本発明のADCは重鎖C末端にアントラサイクリン分子を含むADCと比較して、腫瘍細胞および腫瘍に対する有効性に関して等しいが、軽鎖C末端にアントラサイクリン分子を含む本発明のADCは忍容性および安定性を含む、インビボでの顕著な有益な特性を示す。
【0125】
参考文献
Beerli et al., "Sortase Enzyme-Mediated Generation of Site-Specifically Conjugated Antibody Drug Conjugates with High In Vitro and In Vivo Potency"; PloS One 10, e131177, 2015.
Chen et al., "A general strategy for the evolution of bond-forming enzymes using yeast display"; PNAS, 108(28), 2011.
Dorr et al., "Reprogramming the specificity of sortase enzymes"; PNAS, 2014.
Dorywalska et al., "Site-Dependent Degradation of a Non-Cleavable Auristatin-Based Linker-Payload in Rodent Plasma and its Effect on ADC Efficacy"; PLOS ONE, 2015.
Drake et al., "Aldehyde Tag Coupled with HIPS Chemistry Enables the Production of ADCs Conjugated Site-specifically to Different Antibody Regions with Distinct In vivo Efficacy and PK Outcomes"; Bioconjugate Chemistry, 25, 2014.
Jain et al., "Current ADC Linker Chemistry"; Pharma Res, 32, 2015.
Quintieri et al., "Formation and Antitumor Activity of PNU-159682, A Major Metabolite of Nemorubicin in Human Liver Microsomes"; Clin Cancer Res, 11, 2005.
Spirig et al., "Sortase enzymes in Gram-positive bacteria"; Molecular Microbiology, 82(5), 2011.
Strop et al., "Location Matters: Site of Conjugation Modulates Stability and Pharmacokinetics of Antibody Drug Conjugates"; Chemistry & Biology, 20, 2013.
Waldmeier et al., "Transpo-mAb display: Transposition-mediated B cell display and functional screening of full-length IgG antibody libraries"; mAbs, 8(4), 2016.
Swindells, et al., "abYsis: Integrated Antibody Sequence and Structure-Management, Analysis, and Prediction"; J. Mol. Biol. 429, 356-364, 2017
【0126】
配列
下記の配列は、本出願の開示の一部を形成する。WIPO ST 25互換性のある電子化配列表もまた、この出願と共に提供される。疑義を避けるため、以下の表中の配列と電子化配列表中の配列との間に齟齬が存在する場合、この表中の配列は正しいものとみなされるものとする。
【0127】
アミノ酸配列(定常ドメインは下線付きで示し、Yabasis software, Swindells et al.,2017, indells et al.を使用してカバットシステムに基づいて確認されたCDRは太字でしめす)HC:重鎖、LC:軽鎖。
【表13】
【配列表】