(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】着脱が簡単なプッシュオン式スプリングナット
(51)【国際特許分類】
F16B 21/18 20060101AFI20220901BHJP
F16B 37/02 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
F16B21/18 A
F16B37/02 E
(21)【出願番号】P 2020528002
(86)(22)【出願日】2018-11-13
(86)【国際出願番号】 US2018060744
(87)【国際公開番号】W WO2019103879
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-08-31
(32)【優先日】2017-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518030139
【氏名又は名称】ペン エンジニアリング アンド マニュファクチュアリング コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】PENN ENGINEERING & MANUFACTURING CORP.
【住所又は居所原語表記】5190 Old Easton Road,Danboro,PA 18916 USA
(74)【代理人】
【識別番号】100079980
【氏名又は名称】飯田 伸行
(74)【代理人】
【識別番号】100167139
【氏名又は名称】飯田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】マロニー,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ブルンク,ジョナサン
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-014237(JP,A)
【文献】実開平06-041007(JP,U)
【文献】実開昭60-161712(JP,U)
【文献】米国特許第02568584(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 21/18
F16B 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性素材から構成され、円周を備えた平面状上部を有する一体的な本体、
前記上部の中心を通るほぼ矩形の開口であって、中心線がそれぞれファスナーの短軸および長軸になる複数対の長短の対向側部を有する開口、
前記上部から上向きかつ内向きに延在し、それぞれが前記長軸に沿って前記開口の短い側部の一つに固定される対向対の弾性アーム、および
前記上部の円周に位置する複数の外向きかつ下向きに延在する弾性フィンガーを有
し、
前記対向対の弾性アームは一対の対向する弾性タブにより形成され、
前記上部が2つのスルーホールを有し、各スルーホールが前記短軸に沿って前記の長い側部に隣接する前記開口の対向側部に位置し、かつこれらホールの内側が内向き方向の力を受け取り、これによって前記ファスナーを歪め、前記タブを離間する
ことを特徴とする一体式ファスナー。
【請求項2】
前記
タブそれぞれが、その遠位端部に弧状
の上端部を有する請求項
1に記載のファスナー。
【請求項3】
前記フィンガーそれぞれが、
外側に向かってテーパー化している請求項
2に記載のファスナー。
【請求項4】
前記ファスナー全体が、スプリング鋼またはステンレス鋼からなる一体式要素である請求項
3に記載のファスナー。
【請求項5】
前記ファスナーが全体を通して同じ肉厚を有する請求項
4に記載のファスナー。
【請求項6】
ヘッド、およびこのヘッドから延在する細長い軸部を有する第1締結部材、および
前記アームが前記軸部に係合し、かつ残留締め付け荷重が前記ヘッドに印加するように前記軸部周囲に位置する請求項1に記載のファスナーを有する集成体。
【請求項7】
前記上部が2つのスルーホールを有し、各スルーホールが前記短軸に沿って前記の長い側部に隣接する前記開口の対向側部に位置し、かつこれらホールが内向き方向の力を受け取り、これによって前記ファスナーを歪め、
前記タブを離間する請求項
6に記載の集成体。
【請求項8】
前記
タブそれぞれが、その遠位端部に弧状
の上端部を有する請求項
7に記載の集成体。
【請求項9】
前記フィンガーそれぞれが、
外側に向かってテーパー化している請求項
8に記載の集成体。
【請求項10】
前記ファスナー全体が、スプリング鋼またはステンレス鋼からなる一体式要素である請求項
9に記載の集成体。
【請求項11】
前記ファスナーが全体を通して同じ肉厚を有する請求項
10に記載の
集成体。
【請求項12】
前記ファスナーの直径がほぼ3mmである請求項
6に記載の集成体。
【請求項13】
前記フィンガーが円周上において等間隔で離間している請求項
1に記載のファスナー。
【請求項14】
アーム数が2つのみである請求項
1に記載のファスナー。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、“着脱ツールを備えたプッシュオン式スプリングナット”を発明の名称とし、2017年11月27日に出願された仮特許出願第62/589,874号に基づく非仮特許出願の優先権を主張する出願である。
【技術分野】
【0002】
本発明は、シャフト上に軸方向に挿入するだけでシャフトを受け取り、これをグリップ(把持)するファスナーに関する。より具体的には、本発明は残留締め付け荷重を印加できるきわめて小さな、すなわちミクロサイズのスプリングナットに関する。
【背景技術】
【0003】
現在のミクロファスナーや溶接技術は、すべての場合における締め付け要件に満足のいく解決策を与えるものではない。一般的に望まれている多くの締め付けシステムでは、主に3つの機能が求められている。即ち、締め付け荷重、装着の容易さ、および着脱性である。今のところ、これら3つ全ての必要性を満たすミクロファスナーはない。多くの用途では、2つの係合部品間に締め付け荷重を発生することが必要であり、この荷重を有効に利用する。さらに、集成化(組み立て)する場合、軸方向荷重をファスナーに印加することが最も簡単なので、簡単な装着動作を利用することが有効である。時間を短縮でき、装着コストも削減できるからである。トルクに頼り、かつファスナーを回転させる駆動システムに頼るネジ式ファスナーを使用する場合よりも軸方向荷重を印加するほうが簡単である。リベットやスポット溶接などのパネルを取り付ける方法によって永続的な接合を形成するが、各部品を交換し、あるいは修理することが容易ではない。
【0004】
即ち、ファスナー分野では、着脱が簡単で、集成化したものに残留締め付け荷重を印加できるファスナーが求められている。さらに、これら特性を備えたミクロサイズのファスナーも求められている。
【発明の概要】
【0005】
上記のファスナー分野における必要性を満たすために、本発明は円形ピン、四角形タブやその他の係合部品に軸方向プレス力を印加することによって装着できるファスナーを提供するものである。このファスナーはピンやその他の係合部品にプレスされ、これらをアームのジョー間にグリップした時に偏向する折り曲げタブに形成され、これらが抜け出ることがないようにしたスプリングアームを有する。ファスナーの周囲に設けられた下向きのフィンガーは、係合部品の他の部分に接触すると屈曲する。このため、ファスナーと係合部品との間に残留締め付け荷重が発生する。このファスナーは、スナップリングプライヤーやニードルノーズプライヤーと同様な工具を使用して簡単に取り外すことができる。ファスナーの対向側の2つの孔により各部が締め付けられ、楕円形に変形する。この作用によってアームがピンまたは係合部品から離脱し、ファスナーが抵抗を受けることなく滑り出る。
【0006】
より具体的に、本発明のファスナーは弾性材料から構成される一体的な本体を有し、当該本体は円周を備えた平面状上部を有する。上部中心を通るほぼ矩形の開口が複数対の対向長短側部を有し、これらの中心線がそれぞれファスナーの短軸および長軸になる。対向対の弾性アームが平面状上部から上向きかつ内向きに延在する。各アームについては、長軸にそって開口の短い側部の一つに固着する。複数の外向きかつ下向きに延在する弾性フィンガー波状部の円周に位置する。上部は2つのスルーホールを有し、各スルーホールは短軸にそってその長い側部に隣接する開口の対向側に位置する。これらのスルーホールが対向する内向き方向の力を受け取り、これによってファスナーが歪むため、アームが離間する。アームそれぞれはその遠位端部に弧状ジョーを有し、そしてフィンガーそれぞれはラジアル方向にテーパー化する。ファスナー全体については、全体を通して肉厚が同じスプリング鋼やステンレス鋼から構成した一体的な要素であるのが好ましい。
【0007】
上記の本発明ファスナーは各種の集成体に使用できるが、具体的には、ヘッドおよびこのヘッドから延在するピンなどの細長い軸部を備えた第2部材とともに利用するのが効果的である。ファスナーが軸部周囲に位置するため、アームが軸部に係合し、これによって残留締め付け荷重がヘッドに加わる。ファスナーのフィンガーについては、等間隔で離間するのが好ましい。分解を容易にし、かつピンからのファスナーの取り外しを容易にするために、上部は2つのスルーホールを有する。各スルーホールは短軸にそってその長い側部に隣接する上部を通る矩形の開口の対向側部に位置する。スルーホールの内側が対向する内向き方向の力を受け取り、これによってファスナーが歪むため、アームが離間し、ピンからファスナーを取り外すことができる。ファスナーとしては、スプリング鋼やステンレス鋼から構成した一体的な要素を使用できる。
【0008】
軸方向力を単独使用してファスナーを所定位置にプレスできるため、ナットおよびボルトのネジ込みジョイントを使用する場合と比較して集成化が簡単になる。他のネジ込み式でない集成化方法とは逆に、本発明ファスナーはパネル間に締め付け荷重を印加する作用効果をもつ。ファスナーを簡単に取り外せるため、本発明ファスナーは一般的な取り付け方法と比較して別な作用効果を呈する。
【0009】
即ち、本発明の目的は、第2のファスナー要素の軸部に係合し、装着後に残留締め付け荷重を発生するファスナー要素を提供することである。本発明の別な目的は、簡単な軸方向プレスによって集成化が容易なファスナー要素を提供することである。これは特に微小な集成体に必要である。さらに別な本発明の目的は、リベットや溶接などの公知のファスナー(締結)技術を改善したうえで、ファスナーの取り外しを実現することである。
【0010】
添付図面および好適な実施態様の説明から、当業者ならば、本発明の上記および他の目的や作用効果を理解できるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施態様を示す上からみた左正面等側投影図である。
【
図2】
図2は、この実施態様を示す正面断面図である。
【
図3】
図3は、この実施態様を示す上面平面図である。
【
図4】
図4は、ピンに装着した状態にある本発明のファスナーを示す正面断面図である。
【
図5A-5B】
図5Aおよび
図5Bは、本発明のファスナーを緩めてから取り外し工具によって付勢した状態にある使用前および使用後の上面平面図である。
【
図6-7】
図6および
図7は、
図5Aおよび
図5Bに示す装着シーケンスで使用する工具を示す上から見た右正面等測投影図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照して説明すると、図示のものは全体として円形のスプリングナットファスナー10である。このファスナーは相対的に平面状の上面14および矩形の中心開口12を有し、この開口12は複数対の対向する長短側部を有する。これら側部の中心線がそれぞれ
図3に明示するように、ファスナーの長軸および端軸になる。ファスナーの中心は、長短軸の交点になる。一対の一体的な対向弾性タブがスプリングアーム11を形成し、これらアーム11は開口12の2つの短側部それぞれから長軸にそって上向きに延在する。タブそれぞれは
図1および
図3に示すように、弧状の上端部を有していればよい。複数の弾性フィンガー13が、上面14の周囲から外向きかつ下向きに延在する。フィンガー13はテーパー状になっているが、尖端化されるのみならず、その具体的な用途に応じる方法で構成することも可能である。2つの垂直な孔15が上面14を通過し、短軸上で中心開口12の長側部に隣接する。これら孔が工具の尖端を受け取り、上面14に締め付け力が加わると、対向アーム11をファスナーの変形によってさらに離間させる。
【0013】
図2は、ファスナーが
図4に示すピンなどの係合部品から落下するか、あるいは押し出されることを防止する上向きのタブ11の構成を示す正面図の横断面を示す。アーム11については、装着時に曲がることなしに、係合部品によって強制的に開くように設計する。これによって、
図4に示すピンなどの係合部品にバネの取り付け力が作用する。この結果折曲がるアーム11の角度によって係合部品への保持が外れにくくなる。係合部品に対するアーム11の内向き楔作用による離脱力に対してより大きなグリップ力を発揮するからである。この作用によって、係合部品に対するアームの力および静的な摩擦が強くなる。
【0014】
次に
図3を参照して説明すると、本発明の別な主な特徴はファスナーの上面にある通し孔(スルーホール)15である。これらホール15が、工具を挿入して内向きの締め付け力を印加できる場所になる。A-A線およびB-B線はそれぞれファスナーの長軸および短軸を示す。締め付け力は、短軸B-Bにそって止められたピン17に向かって作用し、ファスナー全体の形状を歪める。
図5Aおよび
図5Bにより詳しく示すように、ファスナーはその円形の自由な状態から強制的に楕円形にさせられる。この歪み力によってアーム11をピン17の周囲から強制的に開き、ファスナーがピンとの係合を解き、上向きに取り出される。
【0015】
図4は、ヘッド部19および軸部16を有するピン17に装着したファスナーを示す図である。ここで、下向きの弾性フィンガー13が偏向するため、ピンのヘッド部19および軸部16との間に締め付け荷重が発生する。ファスナーを最初にヘッド部19にプレスした時にフィンガー13が圧縮する。これらフィンガー13については、降伏することなく屈曲し、ファスナー内に応力が発生し、ピンのヘッド部19に作用する下向きの力が発生するように構成する。アーム11がグリップジョー18を形成し、これがピンの軸部17に係合する。ジョー18間の自由なスペースについては、ピンの直径か、あるいは被係合部品の幅より小さくなるように選択するのが適切である。ジョー18は、ピンの軸部の直径にマッチする弧状プロファイルを有するため、接触面積が大きくなり、グリップが大きくなる。ピン軸部16を鋭角でグリップする上向きアーム11によってファスナーが反対方向に上向きに移動することがないため、締め付け荷重が維持される。
【0016】
図4に示す本発明のこの構成が、ファスナーのヘッド部とフィンガーとの間に要素を締め付けるために使用できるナットおよびボルトのように機能する。例えば、ファスナーとピンのヘッド部19との間にパネルを固定し、他のパネルや素材を付加し、これらを対向関係で締め付けることができる。図示のピン軸部16は平滑で何の特徴もないが、円形リッジなどの他の特徴を付加することによって軸部の静的摩擦特性を強化することができる。必要ならば、ピン軸部16を第1ファスナーを超えてさらに延ばすと、他の同様なファスナーまたは他の構造体に係合させることができる。当業者にとっては
図4や他の図面から自明なように、本発明を別な態様や利用形態で使用することも可能である。
【0017】
図5Aおよび
図5Bは、ファスナーを上記のように締め付けた状態の前後を示す図である。ここでは図示を明瞭化するために、取り外工具の尖端21のみを示す。ファスナーを締め付けると、孔が接近し、ファスナーを上記のように変形させ、アーム11を強制的に離間させる。ファスナーのこれら状態は、それぞれ
図6および
図7に示す工具23の適用シーケンスに対応する。ファスナーのこの変形によってタブが固定されたピン17から離間し、保持力を解放する。アーム11とピンとの接触がなくなった後は、ファスナーがピンから自由に滑り出し、このさい抵抗はない。
【0018】
図6および
図7に、工具のハンドル(図示省略)の可動尖端23に取り付けた2本の突出ピン21を利用する工具を示す。これらピンは、尖端が強制的に、
図7に矢印で示すように一体化されている間に、ピンがファスナー10のスルーホールに嵌入し、締め付け力をスルーホールの内側に伝達する。この結果、ファスナーが
図5Aおよび
図5Bを参照して上述したように固定された部品から解放する。この締め付け力は工具によってファスナーのグリップにも作用するため、工具がピンからファスナーを持ち上げる。スルーホールへの挿入を容易にするために、工具は尖った尖端を有しているため、受け取り孔に容易に整合する。
【0019】
本発明のファスナーの機能全体に寄与する主な特徴は、下記のように少なくとも3つある。
1.中心開口に挿入された円形ピンまたは矩形タブの方に屈曲し、かつこれをグリップする上向きアーム11。
2.ファスナーを装着した後に締め付け荷重を印加する下向きフィンガー13。
3.締め付け力を印加するファスナー内の垂直孔。この動作により、ピンに装着されたタブを簡単に取り外すことができる。
【0020】
上記プッシュオン式ナットの構成に好適な素材は、高い引っ張り強度および高い降伏強度/引っ張り強度を主特性としてもつ素材である。例えば、301フルハードステンレス鋼や1095スプリング鋼を挙げることができる。本発明のナットは、例えばナットの直径がほぼ3mmで、肉厚が0.13mmの微小な集成体に特に好適である。
【0021】
以上の説明から、当業者ならば本発明の目的を達成できることを理解できるはずである。また、特許請求の範囲およびその法的な等価な範囲によってのみ限定される本発明の精神および範囲から逸脱せずに、以上説明してきた実施態様にその他の多くの変更を加えることができることも理解できるはずである。
【符号の説明】
【0022】
10:スプリングナットファスナー
11:スプリングアーム
12:中心開口
13:弾性フィンガー
14:上面
15:孔、ホール
16:軸部
17:ピン
18:ジョー
19:ヘッド部
21:尖端、突出ピン
23:工具、可動尖端