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特許7133652接触抵抗に優れている高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法
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  • 特許-接触抵抗に優れている高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】接触抵抗に優れている高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25F 1/06 20060101AFI20220901BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220901BHJP
   C22C 38/28 20060101ALI20220901BHJP
   C23C 22/34 20060101ALI20220901BHJP
   C23C 22/78 20060101ALI20220901BHJP
   H01M 8/021 20160101ALI20220901BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20220901BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220901BHJP
【FI】
C25F1/06 B
C22C38/00 302Z
C22C38/28
C23C22/34
C23C22/78
H01M8/021
H01M8/0228
H01M8/10 101
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020571432
(86)(22)【出願日】2018-06-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 KR2018006958
(87)【国際公開番号】W WO2019245076
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジョン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム,クァン‐ミン
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ボ‐ソン
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-165700(JP,A)
【文献】特開2000-303151(JP,A)
【文献】特開2003-223904(JP,A)
【文献】特開2005-302713(JP,A)
【文献】特表2010-514930(JP,A)
【文献】国際公開第2016/105070(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/105142(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/198685(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C23C 22/34
C23C 22/78
C25F 1/00 - 3/30
H01M 8/021
H01M 8/0228
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0超過~0.1%、N:0超過~0.02%、Si:0超過~0.25%、Mn:0超過~0.2%、P:0超過~0.04%、S:0超過~0.02%、Cr:29.7~30.1%、Ti:0超過~0.5%、Nb:0超過~0.5%であり、残部Feおよびその他の不可避不純物からなるステンレス鋼冷延薄板に形成された第1不動態皮膜を除去する電解段階、および
前記ステンレス冷延薄板に第2不動態皮膜を形成する酸に浸漬する段階を含み、
前記電解段階は40~80℃の5~30%硫酸溶液でカソード印加電流密度(Ic)4~15A/dmで遂行され、
前記酸に浸漬する段階は40~60℃の10~15%硝酸溶液で遂行され、
前記酸はフッ酸を含まないことを特徴とし、
前記第2不動態皮膜の接触抵抗は18.2mΩcm以下であり、
0.6V300時間正電位耐久試験後、表面に発錆変色が発生しない
ことを特徴とする接触抵抗に優れている高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【請求項2】
重量%で、Cu:0超過~0.6%、V:0超過~0.6%およびMo:0.05~2.5%からなるグループから選択されるいずれか一つ以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の接触抵抗に優れている高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法に係り、より詳しくは接触抵抗に優れている高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質型燃料電池は水素イオン交換特性を有する高分子膜を電解質として使う燃料電池であって、他の形態の燃料電池に比べて80℃程度に作動温度が低く効率が高い。また、始動がはやくて出力密度が高く、電池本体の構造が簡単であるため、自動車用、家庭用などとして使用が可能である。
高分子電解質型燃料電池は、電解質とアノード(anode)およびカソード(cathode)電極からなる膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)の両側に気体拡散層と分離板が積層された単位電池構造で形成されており、このような単位電池複数個が直列で連結されて構成されたものを燃料電池スタックという。
【0003】
分離板は燃料電池の電極にそれぞれ燃料(水素あるいは改質ガス)と酸化剤(酸素と空気)を供給し、電気化学反応物である水を排出するための流路が形成されており、膜電極集合体と気体拡散層を機械的に支持する機能と隣接した単位電池との電気的連結機能を遂行する。
このような分離板の素材として従来には黒鉛素材を使っていたが、最近では製作費用、重さなどを考慮してステンレス鋼を多く適用している。適用されるステンレス鋼素材は燃料電池作動環境である強い酸性環境内に腐食性が優れていなければならず、軽量化、小型化、量産性の観点で耐食性および伝導性に優れるステンレス鋼を使わなければならない。
【0004】
しかし、既存のステンレス鋼は不動態皮膜で高い抵抗値を示すため燃料電池の性能において抵抗損失が発生する。このため追加で金(Au)や炭素、ナイトライド(nitride)等の伝導性物質をコーティングする工程が提案されてきた。しかし、このような方法は貴金属またはコーディング物質をコーティングするための追加工程によって製造費用および製造時間が増加するため、生産費が増加する問題点を有していた。
前記の問題点を解決するために、最近表面改質による接触抵抗を低くする試みがなされている。
【0005】
特許文献1では、表面改質工程を制御して低い界面接触抵抗と高い腐食電位を有する分離板用ステンレス鋼が提示されている。特許文献2では、Crを17~23%含有したステンレス鋼を[HF]≧[HNO]溶液に浸漬して耐食性と接触抵抗が向上したステンレス鋼を製造する方法が提示されている。
しかし、これらの方法は[HF]を必須として伴う浸漬工程を有するものであって、環境的な制約要素を伴うため製造が難解であり、環境に優しくない。また[HF]を過多に含むため、ステンレス鋼の不動態皮膜および過不動態領域での不動態皮膜安定性を阻害して燃料電池の耐久寿命を低下させる問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0081161号公報
【文献】韓国公開特許第10-2013-0099148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的とするところは、ステンレス鋼の表面に形成された非伝導性皮膜を除去し、新しい伝導性皮膜を形成して耐食性を改善するとともに、別途のコーディングなどの付加的な表面処理がなくても優秀な接触抵抗を確保できる高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施例に係る接触抵抗に優れている高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0超過~0.1%、N:0超過~0.02%、Si:0超過~0.25%、Mn:0超過~0.2%、P:0超過~0.04%、S:0超過~0.02%、Cr:22~34%、Ti:0超過~0.5%、Nb:0超過~0.5%であり、残部Feおよびその他の不可避不純物からなるステンレス鋼冷延薄板に形成された第1不動態皮膜を除去する電解段階、および前記ステンレス冷延薄板に第2不動態皮膜を形成する硝フッ酸混酸液に浸漬段階を含み、前記電解段階で印加される電流密度および前記硝フッ酸浸漬段階でのフッ酸および硝酸の濃度比は下記の式(1)を満足する。
Ic>-2.23([フッ酸]/[硝酸])+3.79----(1)
ここで、Icはカソード(cathode)印加電流密度(A/dm)であり、[フッ酸]/[硝酸]はフッ酸および硝酸の重量比を意味する。
【0009】
また、本発明の一実施例によると、Cr:23超過~34%を含むことができる。
また、Cu:0超過~0.6%、V:0超過~0.6%およびMo:0.05~2.5%からなるグループから選択されるいずれか一つ以上をさらに含むことができる。
電解段階は40~80℃の5~30%硝酸または硫酸溶液で遂行されることがよい。
【0010】
また、本発明の一実施例によると、前記電解段階でカソード印加電流密度(Ic)は2A/dm以上であることが好ましい。
前記硝フッ酸混酸液のうちフッ酸に対する硝酸の重量比([フッ酸]/[硝酸])は0.6以下であることが好ましい。
前記硝フッ酸混酸液は10%以下のフッ酸および20%以下の硝酸を含むことができる。
【0011】
また、本発明の一実施例によると、前記浸漬段階は40~60℃の硝フッ酸混酸液で遂行されることがよい。
前記第2不動態皮膜の接触抵抗が20mΩcm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、ステンレス鋼の表面に形成された非伝導性皮膜を除去し、新しい伝導性皮膜を形成して耐食性を改善するとともに、別途のコーディングなどの付加的な表面処理がなくても表面接触抵抗を確保することができるため、製造原価を節減させ、生産性を向上させる効果がある。
それだけでなく、製造工程中のフッ酸使用量を最小化する環境に優しい工程であり、フッ酸の最小化によりステンレス鋼の不動態皮膜および過不動態領域での不動態皮膜安定性が阻害されることを防止して燃料電池の耐久寿命を向上させる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施例に係る高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の電解工程でのカソード印加電流密度、フッ酸および硝酸の重量比による接触抵抗値を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施例に係る接触抵抗に優れている高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0超過~0.1%、N:0超過~0.02%、Si:0超過~0.25%、Mn:0超過~0.2%、P:0超過~0.04%、S:0超過~0.02%、Cr:22~34%、Ti:0超過~0.5%、Nb:0超過~0.5%であり、残部Feおよびその他の不可避不純物を含むステンレス鋼冷延薄板に形成された第1不動態皮膜を除去する電解段階、および前記ステンレス冷延薄板に第2不動態皮膜を形成する硝フッ酸混酸液に浸漬段階を含み、前記電解段階で印加される電流密度および前記硝フッ酸浸漬段階でのフッ酸および硝酸の濃度比は下記の式(1)を満足する。
Ic>-2.23([フッ酸]/[硝酸])+3.79----(1)
ここで、Icはカソード(cathode)印加電流密度(A/dm)であり、[フッ酸]/[硝酸]はフッ酸および硝酸の重量比を意味する。
【0015】
以下では、本発明の実施例を添付図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明はここで提示した実施例にのみ限定されず、他の形態で具体化されてもよい。図面は本発明を明確にするために説明に関わらない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素の大きさを多少誇張して表現することがある。
【0016】
本発明の一実施例に係る接触抵抗に優れている高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法によると、ステンレス鋼冷延薄板に形成された第1不動態皮膜を除去する電解段階および前記ステンレス冷延薄板に第2不動態皮膜を形成する硝フッ酸混酸液に浸漬段階を含む。
前記ステンレス冷延薄板は、重量%で、C:0超過~0.02%、N:0超過~0.02%、Si:0超過~0.25%、Mn:0超過~0.2%、P:0超過~0.04%、S:0超過~0.02%、Cr:22~34%、Ti:0超過~0.5%、Nb:0超過~0.5%であり、残部Feおよびその他の不可避不純物を含む。
以下、本発明に係る実施例での成分含量の数値限定の理由について説明することにする。以下では特に言及しない限り単位は重量%(wt%)である。
【0017】
C:0超過~0.1%、N:0超過~0.02%
炭素(C)と窒素(N)は鋼の中でクロム(Cr)炭窒化物を形成し、その結果クロム(Cr)が欠乏した層の耐食性が低下するため、両元素はその含量が低いほど好ましい。したがって、本発明ではC:0.1%以下(0除外)、N:0.02%以下(0除外)にその組成比を制限することが好ましい。
【0018】
Si:0超過~0.25%
ケイ素(Si)は脱酸に有効な元素であるが、靭性および成形性を抑制することはもちろん、焼きなまし工程中に生成するSiO酸化物が製品の伝導性および親水性を低下させるところ、本発明ではケイ素(Si)の組成比を0.25%以下に制限することが好ましい。
【0019】
Mn:0超過~0.2%
マンガン(Mn)は脱酸を増加させる元素であるが、介在物であるMnSは耐食性を減少させるため、本発明ではマンガン(Mn)の組成比を0.2%以下に制限することが好ましい。
【0020】
P:0超過~0.04%
リン(P)は耐食性だけでなく靭性を減少させるため、本発明ではリン(P)の組成比を0.04%以下に制限することが好ましい。
【0021】
S:0超過~0.02%
硫黄(S)はMnSを形成し、このようなMnSは腐食の起点になって耐食性を減少させるため、本発明ではこれを考慮して硫黄(S)の組成比を0.02%以下に制限することが好ましい。
【0022】
Cr:22~34%
クロム(Cr)は親水性に有効なCr水酸化物の形成に有効であり、燃料電池が作動する酸性雰囲気で鉄(Fe)が溶出することを防止することによって耐食性を増加させる元素であるが、過多に添加される場合には靭性を減少させるため、本発明ではこれを考慮してクロム(Cr)の組成比を20~34%に制限することが好ましい。より好ましくはCrは23超過~34%で含むことができる。
【0023】
Ti:0超過~0.5%、Nb:0超過~0.5%
チタン(Ti)とニオブ(Nb)は鋼中の炭素(C)および窒素(N)を炭窒化物に形成するのに有効な元素であるが、靭性を低下させるため、本発明ではこれを考慮してそれぞれの組成比を0.5%以下に制限することが好ましい。
【0024】
本発明の一実施例によると、前記ステンレス鋼はCu:0超過~0.6%、V:0超過~0.6%およびMo:0.05~2.5%からなるグループから選択されるいずれか一つ以上をさらに含むことができる。
【0025】
Cu:0超過~0.6%
ただし、銅(Cu)は固溶強化によって成形性が低下し得る元素であり、ニッケル(Ni)は微量添加時、かえって溶出および成形性が低下し得る元素であるため、銅(Cu)とニッケル(Ni)は本発明では不純物として管理する。
【0026】
V:0超過~0.6%
バナジウム(V)は燃料電池が作動する環境で鉄(Fe)の溶出を低くするのに効果的であり、過多に添加される場合には靭性を阻害するため、本発明ではこれを考慮してバナジウム(V)の組成比を0超過~0.6%に制限することが好ましい。
【0027】
Mo:0.05~2.5%
モリブデン(Mo)は前記ステンレス鋼の耐食性を増加させるための組成として追加的に添加され得、過量添加される場合は靭性および親水性が多少低下し得るため、本発明ではこれを考慮してモリブデン(Mo)の組成比を0.05~2.5%に制限することが好ましい。
【0028】
本発明の一実施例に係る接触抵抗に優れている高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法によると、前記ステンレス鋼冷延薄板に形成された第1不動態皮膜を除去する電気化学電解段階および前記ステンレス薄板に第2不動態皮膜を形成する硝フッ酸混酸液に浸漬段階を含む。
すなわち、前記第1不動態皮膜が形成された前記ステンレス鋼冷延薄板が前記電解段階を経ると、前記第1不動態皮膜が除去される。前記第1不動態皮膜が除去された後、前記ステンレス鋼冷延薄板の表面に隣接したFeを選択的に溶出させて表面にCrの比率を増加させ、これによって前記ステンレス鋼冷延薄板の表面にCrが濃化してクロム濃化層が形成される。
【0029】
例えば、前記電解段階は40~80℃の硝酸または硫酸溶液で遂行されることができる。
前記硝酸または硫酸溶液の温度が40℃未満である場合、不動態皮膜の除去効率が低下し、表面のCr比率の増加効果が低下し、上限温度は安全性を考慮して80℃に範囲を制限することが好ましい。
【0030】
例えば、前記電解段階は5~30%硝酸または硫酸溶液で遂行され得る。例えば、硝酸または硫酸溶液の濃度は50~300g/Lであることがよい。
前記硝酸または硫酸溶液の濃度が5%未満である場合、前記ステンレス鋼冷延薄板の表面の第1不動態皮膜の除去が不充分であり、冷延薄板の表面のFeの選択的溶出量が少ないため、表面Crの比率増加が不充分となる虞がある。また、前記硝酸または硫酸溶液の濃度が30%超過である場合も、前記第1不動態皮膜の除去効果は飽和し、前記第1不動態皮膜が除去された後に現れたステンレス鋼の母材が過度に侵食されて表面Crの比率増加効果を得ることが難しいため、30%以下に制御することが好ましい。
【0031】
前記電解段階は前記硝酸または硫酸溶液で電解処理され、例えば、前記電解段階はカソード電極の単独電解処理またはアノードおよびカソード電極の交差電解処理されることができる。
例えば、前記電解段階でカソード印加電流密度(Ic)は2A/dm以上であることが好ましい。
前記カソード印加電流密度(Ic)値が2A/dm未満の場合、電解工程で非伝導性の第1不動態皮膜を完全に除去することができず、このように残留した第1不動態皮膜はその後に遂行される硝フッ酸浸漬工程で必須の電気化学的反応を妨害して第2不動態皮膜の形成を妨害することになり、また、表面に局部的に残留する第1不動態皮膜は、その後に硝フッ酸浸漬工程でカソードとして作用して第1不動態皮膜が除去された母材部分との電位差を発生させて母材に局部的に過度な侵食を発生させる問題点がある。
【0032】
前記カソード印加電流密度(Ic)値が増加する場合、硝フッ酸浸漬を経たステンレス鋼の表面の接触抵抗も増加する傾向があるが、前記カソード印加電流密度(Ic)値が15A/dm超過である場合、接触抵抗が10mΩcm以下の値を有することによって、カソード印加電流密度(Ic)値が増加しても接触抵抗の減少効果は飽和してその効果の増大が小さく、ステンレス鋼の表面の第1不動態皮膜が完全に除去され、母材が現れている状態で電流密度が増加するほど母材の溶出可能性があって表面Crの比率の増加効果を得ることが難しいため、前記カソード印加電流密度(Ic)値は15A/dm以下に制限することが好ましい。
前記電解段階の後に、前記ステンレス薄板に第2不動態皮膜を形成する硝フッ酸混酸液に浸漬段階を経るが、前記第1不動態皮膜が除去され前記クロム濃化層が形成された前記ステンレス母材を硝フッ酸混酸液に浸漬する段階を経て第2不動態皮膜を形成する。
【0033】
混酸液浸漬初期には、前記ステンレス鋼の母材のFeの選択的溶出および表面残留不溶性Si酸化物の溶解が発生して表面Crの比率増加が表れる。浸漬後期に濃縮されたCrによる新しい皮膜である第2不動態皮膜が形成されながら、前記ステンレス鋼薄板の表面電位が増加することになる。
例えば、前記硝フッ酸混酸液に浸漬段階は40~60℃の硝フッ酸混酸液で遂行されることができる。
前記混酸液の温度が40℃未満であるか60℃超過である場合、新しい不動態皮膜の形成効果が低下して混酸液の温度範囲を前記のように限定することが好ましい。
例えば、前記硝フッ酸混酸液に浸漬段階は、10%以下のフッ酸および20%以下の硝酸を含む混酸液で遂行され得る。例えば、硝フッ酸混酸液は100g/L以下のフッ酸および200g/L以下の硝酸を含むことができる。
【0034】
前記混酸液のうち硝酸の濃度が高いと表面のCr比率増加効果が飽和し、かえってステンレス鋼の母材の侵食が激しくて接触抵抗の減少効果が低下することになるため、混酸液のうち硝酸は20%以下、すなわち硝酸の濃度は200g/Lに制限することが好ましい。ただし、硝酸の濃度が過度に低いと表面Crの比率増加や新しい不動態皮膜形成の効率が低くて接触抵抗減少効果が低下するため、混酸液のうち硝酸は5%以上、すなわち50g/L以上添加されることが好ましい。
前記硝フッ酸浸漬段階では、以前の電解段階で十分に除去されていない不溶性酸化物はフッ酸による直接溶解またはステンレス鋼の母材の溶出と共に脱落除去され得る。また、フッ酸は溶出した金属イオンとの反応を通じて金属イオンの除去を助けて硝酸の効果を増加させる。したがって、不溶性酸化物が存在しないか硝酸の効果を十分に発揮できる場合には、前記硝フッ酸浸漬段階でフッ酸の濃度は0にする。
【0035】
フッ酸の場合、製造工程後に残留する溶液の処理が困難であるため、これの最小化を通じて環境に優しい工程を達成することができ、また、フッ酸の濃度が過度に高いと前記ステンレス鋼の母材の侵食が激しく、再び形成された第2不動態皮膜を過度に侵食させて不動態皮膜安定性を阻害してかえって燃料電池作動環境で不動態皮膜の破壊を誘発し、母材中のFe元素の溶出を加速させて表面発錆を誘発する。したがって、混酸液のうちフッ酸は10%以下、すなわちフッ酸濃度の上限は100g/Lにすることが好ましい。
【0036】
図1は、本発明の一実施例に係る高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の電解工程でのカソード印加電流密度、フッ酸および硝酸の重量比による接触抵抗値を示したグラフである。
図1に示したとおり、本発明の一実施例に係る接触抵抗に優れている高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法によると、前記電解段階で印加される電流密度および前記硝フッ酸浸漬段階でのフッ酸および硝酸の濃度比は下記の式(1)を満足する。
Ic>-2.23([フッ酸]/[硝酸])+3.79----(1)
ここで、Icはカソード(cathode)印加電流密度(A/dm)であり、[フッ酸]/[硝酸]はフッ酸および硝酸の重量比を意味する。
【0037】
電流密度および硝フッ酸濃度比に関する前記式(1)を満足しない場合、電解工程で非伝導性の第1不動態皮膜を完全に除去することができず、このように残留した第1不動態皮膜はその後に遂行される硝フッ酸浸漬工程で必須の電気化学的反応を妨害して第2不動態皮膜の形成を妨害することになり、また、表面に局部的に残留する第1不動態皮膜はその後硝フッ酸浸漬工程でカソードとして作用して第1不動態皮膜が除去された母材部分との電位差を発生させて母材に局部的に過度な侵食を発生させる問題点がある。
例えば、前記硝フッ酸混酸液のうちフッ酸に対する硝酸の重量比([フッ酸]/[硝酸])は0.6以下であることがよい。
【0038】
第2不動態皮膜を形成する酸浸漬工程で[フッ酸]/[硝酸]重量比は0.6以下に制限されなければならないが、[フッ酸]/[硝酸]重量比が0.6を超過する場合にはフッ酸の濃度が相対的に大きすぎるため前記ステンレス鋼の母材の侵食が激しく、再び形成された第2不動態皮膜を過度に侵食させて不動態皮膜安定性を阻害してかえって燃料電池作動環境で不動態皮膜の破壊を誘発し、母材中のFe元素の溶出を加速させて表面発錆を誘発する。また、このような表面発錆はもちろん、燃料電池の膜電極集合体(membrane electrode assembly、MEA)を劣化させる主因となり得ることが分かった。
【0039】
その後、前記ステンレス鋼薄板を水洗し、これを300℃以下の温度で温風乾燥することができる。
したがって、本発明の一実施例に係る接触抵抗に優れている高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の前記第2不動態皮膜は、100N/cmの接触圧力で界面接触抵抗を20mΩcm以下を確保することによって、燃料電池分離板の商用化目標以下値を達成することができる。
すなわち、本発明の一実施例に係る高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼は、接触抵抗に優れている不動態皮膜を含むことができる
【0040】
以下、実施例を通じて本発明についてより詳細に説明することにする。
発明鋼
本発明の実施例に係る発明鋼1~6および比較鋼1および2はそれぞれ下記の表1の組成を含み、本発明に係るステンレス鋼材は50kgインゴットキャスティングを通じて生産した。インゴットを1、200℃で3時間加熱後に4mm厚さの熱間圧延を実施した。熱延材は最終冷間圧延厚さ2.5mmで冷間圧延を実施した後、960℃の100%水素雰囲気で5分間焼きなましを実施した。
最終焼きなまし材はそれぞれ横*縦各10cm*10cmの大きさで8枚ずつ切断後、機械加工によって電極有効面積5cm*5cmのガス流路が形成されるようにアノードおよびカソード流路加工を実施した。それぞれの試片は同一の表面粗さ(Ra<0.1μm)となるまでエマルションショットブラストを実施した。
【0041】
【表1】
【0042】
上記のとおり形成された10cm*10cmの大きさのガス流路加工材を下記表2の条件に沿って、それぞれの電気化学電解工程および硝フッ酸浸漬を通じて初期接触抵抗を測定した。
初期接触抵抗評価は、金がメッキされた銅プレートを準備し、ガス拡散層(Gas Diffusion Layer、SGL社10BA)を流路加工面積(5*5cm)部位および金がメッキされた銅プレート(10*10cm)と分離板の間に置き、それぞれ電流端子および電圧端子を金がメッキされた銅プレートと分離板に接触して測定するDC 4-probe法で両側の分離板との間のガス拡散層の総抵抗値を測定してその値の1/2値を求め、総面積をかけて分離板とガス拡散層の接触抵抗値として取り、総4回測定してその平均値を求めた。
【0043】
燃料電池の耐久試験はそれぞれの製造された分離板をGore社MEAを使って単位電池を構成し、0.6Vで300時間正電位耐久試験を進行した。耐久試験後の分離板の表面状態を観察した時、表面に発錆の変色がある時をO、未発錆である時をXで表記して区分した。
下記の表2に前述した電流密度および[フッ酸]/[硝酸]重量比による接触抵抗、燃料電池耐久試験後の表面発錆評価結果を示した。
接触抵抗が20mΩcm以下であり、燃料電池耐久試験後に表面発錆が発見されていないものを発明例とし、その他のものは比較例として示した。
【0044】
【表2】
【0045】
上記表1および表2に示したとおり、Cr含量が22%未満を含有した鋼である比較鋼1および2では比較例2、3、8、14、16、20から明らかなように、印加電流密度および[フッ酸]/[硝酸]重量比にかかわらず、燃料電池耐久試験後に表面発錆が発生することが分かった。
このような表面発錆は、燃料電池作動条件で表面の不動態皮膜が燃料電池の強酸作動環境(約pH=3)で耐えることができず、皮膜の破壊および再不動態化過程を繰り返しながら溶出したFe-酸化物の形成に起因することが分かった。したがって、本発明者は少なくともCr含量が22%以上を含有しないと、燃料電池作動環境で不動態皮膜安定性を有さないことが分かった。
【0046】
また、図1および表2に示したとおり、Cr含量が22%以上である鋼(発明鋼1~発明鋼6)では、20mΩcm以下の接触抵抗を確保するためには下記の式(1)を満足しなければならないことが分かった。
Ic>-2.23([フッ酸]/[硝酸])+3.79----(1)
ここで、Icはカソード(cathode)印加電流密度(A/dm)であり、[フッ酸]/[硝酸]はフッ酸および硝酸の重量比を意味する。
【0047】
本発明の一実施例において、第1不動態皮膜を除去する電気化学電解工程でIcは前記式(1)を満足しなければならない。Icが式(1)を満足しない場合、第1不動態皮膜を完全に除去することができず、第1不動態皮膜の残留は硝フッ酸浸漬工程で必須の電気化学的反応を妨害するため、燃料電池環境で接触抵抗および燃料電池耐久性に優れているステンレス鋼を確保するために必須の第2不動態皮膜形成を妨害する虞がある。また、第2不動態皮膜を形成する硝フッ酸浸漬工程で、表面に局部的に残留する第1不動態皮膜はカソードとして作用して第1不動態皮膜が除去された母材と電位差を発生させるため、母材に局部的に過度な侵食が発生する虞がある。したがって、電気化学電解工程でIcは前記式(1)を満足することが好ましい。
【0048】
また、本発明の一実施例において、第2不動態皮膜を形成する硝フッ酸浸漬工程で[フッ酸]/[硝酸]重量比が0.6以下に制限されなければならない。[フッ酸]/[硝酸]重量比が0.6を超過する場合にはフッ酸が母材の不動態皮膜層を過度に侵食させて不動態皮膜安定性を阻害するため、かえって燃料電池作動環境内で不動態皮膜の破壊を起こす。フッ酸が母材中のFe元素の溶出を加速させることによって発錆を誘発させことはもちろん、燃料電池の膜電極集合体(MEA)を劣化させる主因となる虞がある。したがって、浸漬中の[フッ酸]/[硝酸]重量比は0.6以下を維持することが好ましい。
すなわち、本発明の一実施例に係るステンレス鋼によると、高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の表面にコーディングなどの別途の表面処理を遂行せずとも表面接触抵抗を確保することができ、製造工程中にフッ酸を最小化して環境に優しい工程であり、フッ酸の最小化によりステンレス鋼の不動態皮膜および過不動態領域での不動態皮膜安定性が阻害されることを防止して、燃料電池の耐久寿命を向上させることができた。
【0049】
前述において、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、該当技術分野で通常の知識を有する者であれば、下記に記載する特許請求の範囲の概念と範囲を逸脱しない範囲内で多様な変更および変形が可能であることが理解できるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法は、低いフッ酸濃度でも優秀な接触抵抗を確保できるため、環境に優しく生産性の向上が可能である。
図1