(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/085 20210101AFI20220901BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20220901BHJP
C25B 11/056 20210101ALI20220901BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20220901BHJP
【FI】
C25B11/085
C25B9/00 A
C25B11/056
C25B11/065
(21)【出願番号】P 2021011260
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2021-01-27
(31)【優先権主張番号】202010093256.7
(32)【優先日】2020-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507190994
【氏名又は名称】上海交通大学
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI JIAO TONG UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】800 Dongchuan Rd.,Minhang District,Shanghai,200240,P.R.CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】李 新昊
(72)【発明者】
【氏名】張 仕楠
(72)【発明者】
【氏名】薛 中華
(72)【発明者】
【氏名】林 秀
(72)【発明者】
【氏名】林 雲霄
(72)【発明者】
【氏名】蘇 慧
(72)【発明者】
【氏名】陳 接勝
(72)【発明者】
【氏名】野田 克敏
(72)【発明者】
【氏名】後藤 哲
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-206773(JP,A)
【文献】特開2005-044664(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103114301(CN,A)
【文献】特開2004-253224(JP,A)
【文献】特開2011-239604(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065258(WO,A1)
【文献】特開昭63-045389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/00
C25B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極であって、炭素繊維布と、チオフェン、3位に炭素原子数1-6のアルキル基が置換されたチオフェンから選ばれた少なくとも1種である単体が当該炭素繊維布に現場重合されたポリチオフェン系化合物フィルムとからなるポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極。
【請求項2】
前記ポリチオフェン系化合物フィルムは、厚さが20-100nmである、請求項1に記載の水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極の製造方法であって、
チオフェン系単体と、電解質としての過塩素酸リチウムとを含有するアセトニトリル溶液を調製することと、
炭素繊維布を作用電極として前記アセトニトリル溶液に浸漬させ、0.5-7時間通電して、定電圧電気化学析出法によって、チオフェン系単体を炭素繊維布に現場重合させることで、炭素繊維布にポリチオフェン系化合物フィルムを形成することと、
ポリチオフェン系化合物フィルムが形成された炭素繊維布を取り出してから、純水に浸漬させて、不純物を除去し、自然乾燥させること
で、水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極が得られることと、
を含み、
前記チオフェン系単体は、チオフェン、3位に炭素原子数1-6のアルキル基が置換されたチオフェンから選ばれた少なくとも1種であり、
前記アセトニトリル溶液において、過塩素酸リチウムの濃度が0.1-0.2mol/Lであり、前記チオフェン系単体の濃度が0.005-0.01mol/Lであるポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極の製造方法。
【請求項4】
1mol/L-2mol/Lの硝酸で炭素繊維布に対して5-10分間超音波処理を行うことを含む、請求項3に記載のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極の製造方法。
【請求項5】
前記定電圧電気化学析出において、3時間通電する、請求項3又は4に記載のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極の製造方法。
【請求項6】
前記チオフェン系単体は、炭素繊維布の表面で直接に現場重合される、請求項3又は4に記載のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極の製造方法。
【請求項7】
水分解による酸素発生における、請求項1又は2に記載のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極の陽極としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ポリマーによる電気触媒水分解分野に属し、具体的には、水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
社会の進歩及び科学技術の発展に伴い、人々の生活レベルは大幅に向上された。それと同時に、社会発展によってもたらされたエネルギー問題もさらに目立つになった。現在、一次エネルギーは依然として大きな比重を占めている。それがもたらす環境問題や資源不足問題によって、グリーンで持続可能な新たなエネルギーの開発が着目されている。太陽エネルギー、風力エネルギーなどのクリーンエネルギーは、直接に電気エネルギーに変換できるが、それによる電気エネルギーの貯蔵及び変換に関して、更に研究する価値がある。水の電気分解によって、水を水素と酸素に分解して、電気エネルギーを化学物質に変換して貯蔵することは、上記問題を解決するための新しい道である。また、高性能の触媒は、水分解過程における活性化エネルギーを低減でき、エネルギー消耗を大幅に低減できる。
【0003】
水電解反応について、一般的に2つの半反応に分けて個別に検討する。カソードでは、2個の電子の転移に係る水素発生反応が起き、アノードでは、4個の電子の転移に係る酸素発生反応が起きるため、相対的には、酸素発生反応が難しく、過電位が高い。高効率で実用的な電極触媒によって酸素発生反応の動力学過程を加速させることは、電気化学分野において、近20年間の研究焦点であった。
【0004】
現在、研究が最も広く、性能が最も優れるのは、貴金属基触媒(例えば、酸化イリジウム)であるが、このような金属基触媒は、実際の使用時に環境問題やコスト問題がある。したがって、金属を含まない高性能触媒の開発が非常に必要である。
【0005】
近年、金属を含まないフレキシブルな重合体材料を機能性触媒として酸素析出反応を含む各種の電気触媒反応に応用されることが周知されている。ポリマーは、適合なエネルギー帯構造を有するため、水分子の解離を促進できるとともに酸素析出反応において高活性を提供できる。しかし、ポリマー電極は、その電気化学安定性が依然として実際の応用における主要な障害となる。
【0006】
このような研究に触発されて、本願発明者は、触媒活性を向上しつつ、電極の電気化学安定性を改善できる導電性ポリマーに着目した。このようなポリマー材料は、合成方法が簡単、安価で、工業製造条件も成熟であるとともに、比較的によい電気化学安定性が得られる。ポリマーによる電気触媒電極の開発は、化学工業、エネルギー等の分野に応用できるだけでなく、電気触媒材料の研究に対しても新しい視野を提供できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、従来技術の不足に鑑みて、電気化学安定性が高くて且つ合成方法が簡単である水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極及びその製造方法を提供する。
【0008】
本願発明に係る水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極は、炭素繊維布と、当該炭素繊維布に形成されたポリチオフェン系化合物フィルムとを含む。
前記ポリチオフェン系化合物フィルムは、チオフェン系単体が電気化学析出反応によって炭素繊維布に現場重合されてなることが好ましい。
【0009】
前記チオフェン系単体は、チオフェン、3位に炭素原子数1-6のアルキル基が置換されたチオフェンから選ばれた少なくとも一つであることが好ましい。
前記ポリチオフェン系化合物フィルムは、厚さが20-100nmであることが好ましい。
【0010】
これによって、水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極の触媒性能が優れる。
本願発明に係る水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極の製造方法は、チオフェン系単体と、電解質としての過塩素酸リチウムとを含有するアセトニトリル溶液を調製することと、炭素繊維布を作用電極として前記アセトニトリル溶液に浸漬させ、0.5-7時間通電して、定電圧電気化学析出法によって、チオフェン系単体を炭素繊維布に現場重合させることで、炭素繊維布にポリチオフェン系化合物フィルムを形成することと、ポリチオフェン系化合物フィルムが形成された炭素繊維布を取り出してから、純水に浸漬させて、不純物を除去し、自然乾燥させることで、ポリ水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極が得られることと、を含む。
【0011】
本願発明の製造方法によれば、均一のポリマーフィルムを形成でき、さらに、ポリマー電極に高い触媒活性を持たせることができる。
水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極の製造方法において、1mol/L-2mol/Lの硝酸で炭素繊維布に対して5-10分間超音波処理を行うことを含むことが好ましい。
【0012】
それによって、硝酸処理後に、炭素布にポリマーをより均一に成膜できる。
前記水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極の製造方法において、前記アセトニトリル溶液は、過塩素酸リチウムの濃度が0.1-0.2mol/Lであり、前記チオフェン系単体の濃度が0.005-0.01mol/Lであることが好ましい。
【0013】
これによって、触媒性能を確保できると同時に、ポリマーフィルムが炭素布から抜けることを防止できる。
前記水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極の製造方法において、前記定電圧電気化学析出は、3時間通電することが好ましい。
【0014】
これによって、優れる触媒性能が得られる。
前記水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極の製造方法において、前記チオフェン系単体は、炭素繊維布の表面で直接に現場重合されることが好ましい。
【0015】
本願発明は、水分解酸素発生における陽極としての上記電極の使用に関する。
前記ポリチオフェン系化合物は、触媒酸素析出反応の過程において制御可能な酸化反応が発生することで、触媒性能がよりよく且つより安定的なポリチオフェンを形成できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水分解酸素発生用のポリチオフェン/炭素繊維布電は、活性が高く、且つ安定性がよく、水分解による酸素発生において陽極として使用でき、形状自由度が高く、水分解システムの小型化に有利であり、且つコストが低い、大規模製造に適合できる。
【0017】
本発明の水分解酸素発生用のポリチオフェン/炭素繊維布電極の製造方法は、プロセスが簡単で、制御しやすく、コストが低く、規模化生産を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1における水分解酸素発生用のポリチオフェン/炭素繊維布電極のデジタル写真である。
【
図2】実施例1における水分解酸素発生用のポリチオフェン/炭素繊維布電極の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図3】実施例1における水分解酸素発生用のポリチオフェン/炭素繊維布電極の透過型電子顕微鏡写真である。
【
図4】実施例1と比較例1で得られた電極によるリニアスキャン電流-電圧グラフである。
【
図5】実施例1の電極に対する48時間の定電位安定性循環テストにおける電流の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願発明の水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極の製造方法は、以下のステップを提供する。
まず、チオフェン類単体と電解質としての過塩素酸リチウムとをアセトニトリルに溶解してアセトニトリル溶液を調製する。本願発明の実施例において、使用されるチオフェン系単体は、チオフェン、3位に炭素原子数1-6のアルキル基が置換されたチオフェンから選ばれた少なくとも一つである。アセトニトリル溶液は、過塩素酸リチウムの濃度が0.1-0.2mol/Lであり、チオフェン系単体の濃度が0.005-0.01mol/Lである。
【0020】
炭素繊維布を硝酸で超音波処理する。適当面積の炭素繊維布を前記アセトニトリル溶液に浸漬させ、炭素繊維布を作用電極として、定電圧電気化学析出法によって、チオフェン系単体を炭素繊維布に現場重合させることで、炭素繊維布にポリチオフェン系化合物フィルムを形成する。そして、電気析出完成後、作用電極を取り出して、純水に浸漬させ、不純物を除去し、自然乾燥させることで、ポリ水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極が得られる。
【0021】
必要のフィルム厚さに応じて定電圧電気化学析出の通電時間を制御できるが、フィルムの厚さは20-100nmであることが好ましく、通電時間は、0.5-7時間の範囲であることが好ましく、3時間であることがより好ましい。作用電極の純水への浸漬時間はフィルムの厚さに依存するが、例えば30分間浸漬する。超音波処理の時間は例えば5-10分間であり、硝酸濃度は例えば1mol/L-2mol/Lである。炭素繊維布は各種の規格の炭素繊維布であってもよい。前記炭素繊維布の面積は、任意の面積でよいが、必要に応じて小片に切断して使用する。本発明に使用するチオフェン類単体、過塩素酸リチウム、アセトニトリルは、すべて市販の通用製品を使用できる。
【0022】
実施例1:
0.5cm×0.5cm炭素繊維布を1mol/Lの硝酸で5分間超音波処理してから、アルコールと水で超音波洗浄して用意した。0.1mol/Lの過塩素酸リチウムと0.005mol/Lのチオフェン単体を含むアセトニトリル溶液に、上記硝酸処理後の炭素繊維布を作動電極とし、チタンネットと飽和甘汞電極をそれぞれ対極と参照電極として、三電極システムを構成した。そして、1.73Vの外部電圧で3時間の定電流析出を行うことで、チオフェン単体を炭素繊維布に現場重合させ、ポリチオフェンフィルムを形成した。電気析出プロセスの完了後に、作用電極を取り出して純水に30分間浸漬させ、不純物を除去し、自然乾燥させることで、ポリチオフェンフィルムの厚さが40nmである水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極が得られた。標準水素電極に対して1.7Vの電圧で測定して得られたポリチオフェン/炭素繊維布分解水酸素生成電極の電流密度は20mA/cm-2であった。
【0023】
実施例2:
0.5cm×0.5cm炭素繊維布を1mol/Lの硝酸で5分間超音波処理してから、アルコールと水で超音波洗浄して用意した。0.1mol/Lの過塩素酸リチウムと0.005mol/Lのチオフェン単体を含むアセトニトリル溶液に、上記硝酸処理後の炭素繊維布を作動電極とし、チタンネットと飽和甘汞電極をそれぞれ対極と参照電極として、三電極システムを構成した。そして、1.73Vの外部電圧で0.5時間の定電流析出を行うことで、チオフェン単体を炭素繊維布に現場重合させ、ポリチオフェンフィルムを形成した。電気析出プロセスの完了後に、作用電極を取り出して純水に30分間浸漬させ、不純物を除去し、自然乾燥させることで、ポリチオフェンフィルムの厚さが20nmである水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極が得られた。標準水素電極に対して1.7Vの電圧で測定して得られたポリチオフェン/炭素繊維布分解水酸素生成電極の電流密度は6.4mA/cm-2であった。
【0024】
実施例3:
0.5cm×0.5cm炭素繊維布を1mol/Lの硝酸で5分間超音波処理してから、アルコールと水で超音波洗浄して用意した。0.1mol/Lの過塩素酸リチウムと0.005mol/Lのチオフェン単体を含むアセトニトリル溶液に、上記硝酸処理後の炭素繊維布を作動電極とし、チタンネットと飽和甘汞電極をそれぞれ対極と参照電極として、三電極システムを構成した。そして、1.73Vの外部電圧で1時間の定電流析出を行うことで、チオフェン単体を炭素繊維布に現場重合させ、ポリチオフェンフィルムを形成した。電気析出プロセスの完了後に、作用電極を取り出して純水に30分間浸漬させ、不純物を除去し、自然乾燥させることで、水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極が得られた。標準水素電極に対して1.7Vの電圧で測定して得られたポリチオフェン/炭素繊維布分解水酸素生成電極の電流密度は12.9mA/cm-2であった。
【0025】
実施例4:
0.5cm×0.5cm炭素繊維布を1mol/Lの硝酸で5分間超音波処理してから、アルコールと水で超音波洗浄して用意した。0.1mol/Lの過塩素酸リチウムと0.005mol/Lのチオフェン単体を含むアセトニトリル溶液に、上記硝酸処理後の炭素繊維布を作動電極とし、チタンネットと飽和甘汞電極をそれぞれ対極と参照電極として、三電極システムを構成した。そして、1.73Vの外部電圧で5時間の定電流析出を行うことで、チオフェン単体を炭素繊維布に現場重合させ、ポリチオフェンフィルムを形成した。電気析出プロセスの完了後に、作用電極を取り出して純水に30分間浸漬させ、不純物を除去し、自然乾燥させることで、ポリチオフェンフィルムの厚さが100nmである水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極が得られた。標準水素電極に対して1.7Vの電圧で測定して得られたポリチオフェン/炭素繊維布分解水酸素生成電極の電流密度は5.1mA/cm-2であった。
【0026】
実施例5:
0.5cm×0.5cm炭素繊維布を1mol/Lの硝酸で5分間超音波処理してから、アルコールと水で超音波洗浄して用意した。0.1mol/Lの過塩素酸リチウムと0.005Mのチオフェン単体を含むアセトニトリル溶液に、上記硝酸処理後の炭素繊維布を作動電極とし、チタンネットと飽和甘汞電極をそれぞれ対極と参照電極として、三電極システムを構成した。そして、1.73Vの外部電圧で7時間の定電流析出を行うことで、チオフェン単体を炭素繊維布に現場重合させ、ポリチオフェンフィルムを形成した。電気析出プロセスの完了後に、作用電極を取り出して純水に30分間浸漬させ、不純物を除去し、自然乾燥させることで、水分解酸素発生用のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極が得られた。標準水素電極に対して1.7Vの電圧で測定して得られたポリチオフェン/炭素繊維布分解水酸素生成電極の電流密度は4.8mA/cm-2であった。
【0027】
比較例1:商業化の酸化イリジウム/炭素繊維布電極の製造
オンラインショップで購入した商業化の酸化イリジウムナノ粒子を研磨処理し、5mg取って小サンプル管に加え、さらに0.35mLの超純水、0.70mLのエチルアルコールおよび0.08mLの5%ナフィオン溶液を入れ、超音波でインクを形成した。当該インクを0.2mL取って1cmx1cmの炭素繊維布に滴下し、自然乾燥させることで、商業化の酸化イリジウム/炭素繊維布電極を得た。比較例1は、従来にてよく使用されている商業化の貴金属酸化物を使用して電極を製造したもので、実施例と性能比較を行った。
【0028】
以下では、製造例、特に実施例1で得られたポリチオフェン系化合物/炭素繊維布について観察して評価した。
図1は、実施例1における水分解酸素発生用のポリチオフェン/炭素繊維布電極のデジタル写真である。
図2は、実施例1で得られた水分解酸素発生用のポリチオフェン/炭素繊維布電極の走査型電子顕微鏡写真である。
図3は、実施例1で得られた水分解酸素発生用のポリチオフェン/炭素繊維布電極の透過型電子顕微鏡写真である。これらの写真から分かるように、電気化学析出法によって、非常に均一で高品質のポリマーフィルムが得られた。
【0029】
図4は、実施例1で得られたポリチオフェン/炭素繊維布電極と、比較例1で得られた酸化イリジウム/炭素繊維布電極とを酸素飽和0.1MのKOH溶液(pH=13.0)で測定したリニアスキャン電流-電圧グラフを示す。
【0030】
図5は、標準水素電極に対して1.7Vの印加電圧で48時間の定電位安定性試験を行った場合の電流の経時変化を示すグラフを示し、最終電流は、初期電流に比べて顕著な減衰が見られなかった。
【0031】
図4、
図5のデータから分かるように、本願発明のポリチオフェン系化合物/炭素繊維布電極は、酸素発生電極として使用される場合、非常に高い電流密度を獲得できるばかりでなく、10mA/cm
-2の過電位がただ430mVであった。なお、当該電極は、極めて優れる電気触媒安定性を有し、48時間の定電圧安定性試験後も高電流密度を維持できることが確認された。