(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】変異体incコード鎖を含む核酸分子
(51)【国際特許分類】
C12N 15/69 20060101AFI20220901BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20220901BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220901BHJP
C12P 19/34 20060101ALI20220901BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
C12N15/69 Z ZNA
C12N15/11 Z
C12N1/21
C12P19/34 A
C12P21/02 C
(21)【出願番号】P 2021506460
(86)(22)【出願日】2019-08-07
(86)【国際出願番号】 KR2019009917
(87)【国際公開番号】W WO2020032595
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-02-25
(32)【優先日】2018-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514199250
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジ スン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ドン ウン
(72)【発明者】
【氏名】キム、サン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソ ヨン
【審査官】中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-75793(JP,A)
【文献】国際公開第2007/148819(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/001414(WO,A1)
【文献】国際公開第02/16577(WO,A2)
【文献】Point mutations in the inc antisense RNA gene are associated with increased plasmid copy number, expression of blaCMY-2 and resistance to piperacillin/tazobactam in Escherichia coli,Journal of Antimicrobial Chemotherapy,2012年,Volume 67, Issue 2,pp. 339-345
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00- 15/90
C12P 1/00- 41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号15を含む変異体incコード鎖を含む核酸分子であって、
変異体incコード鎖は変異体incRNAをコードし、
変異体incRNAは
、プラスミドにレプリコンの一部として含まれているとき、前記プラスミド
のコピー数
を増加させることができるものであ
り、
変異体incコード鎖は、配列番号17と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を含む、核酸分子。
【請求項2】
変異体incRNAの発現は、配列番号19を含むinc配列によってコードされる野生型incRNAの発現と比較して、ベクターのコピー数を増加させる、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
変異体incコード鎖は、配列番号17を含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の核酸分子、プロモーター、及び複製開始点を含むレプリコンであって、
プロモーターは、変異体incコード鎖に作動可能に連結されており、
変異体incRNAはレプリコンのコピー数を
増加させる、レプリコン。
【請求項5】
請求項
4に記載のレプリコンを含むベクター。
【請求項6】
プラスミドを含む、請求項
5に記載のベクター。
【請求項7】
標的産物を作製するための標的遺伝子をさらに含む、請求項
5に記載のベクター。
【請求項8】
標的産物は、(i)標的RNA、(ii)標的タンパク質、(iii)標的生体材料、(iv)標的ポリマー、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(v)標的甘味料、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(vi)標的油、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(vii)標的脂肪、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(viii)標的多糖類、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(ix)標的アミノ酸、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(x)標的ヌクレオチド、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(xi)標的ワクチン、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、又は(xii)標的医薬品、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素のうちの1つ以上を含む、請求項
7に記載のベクター。
【請求項9】
請求項
4に記載のレプリコンを含む、組換え微生物。
【請求項10】
請求項
5~
8のいずれか一項に記載のベクターを含む、組換え微生物。
【請求項11】
組換え微生物は、形質転換、接合、又は形質導入のうちの1つ以上によって、ベクターを前駆体微生物に導入することにより調製される、請求項
10に記載の組換え微生物。
【請求項12】
組換え微生物は、エシェリキア(Escherichia)属の細菌又は大腸菌種の細菌のうちの1つ以上から調製されたものである、請求項
10に記載の組換え微生物。
【請求項13】
組換え微生物における請求項
5~
8のいずれか一項に記載のベクターのコピー数を
増加させる方法であって、
(1)ベクターを前駆体微生物に導入することにより組換え微生物を得るステップ、及び
(2)ベクターの複製に十分な条件下において培養培地中で前記組換え微生物を培養することによりベクターのコピー数を
増加させるステップ
を含む方法。
【請求項14】
組換え微生物において請求項
5~
8のいずれか一項に記載のベクターを使用することにより標的産物を作製する方法であって、ベクターは、標的産物を作製するための標的遺伝子をさらに含み、前記方法は、
(1)ベクターを前駆微生物に導入することにより組換え微生物を得るステップ、
(2)組換え微生物が標的遺伝子を発現する条件下において培養培地中で組換え微生物を培養することにより、標的産物を作製するステップ、及び
(3)組換え微生物及び/又は培養培地から標的産物を回収するステップ
を含む方法。
【請求項15】
標的産物は、(i)標的RNA、(ii)標的タンパク質、(iii)標的生体材料、(iv)標的ポリマー、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(v)標的甘味料、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(vi)標的油、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(vii)標的脂肪、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(viii)標的多糖類、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(ix)標的アミノ酸、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(x)標的ヌクレオチド、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(xi)標的ワクチン、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、又は(xii)標的医薬品、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素のうちの1つ以上を含む、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
組換え微生物は、変異体rpoC RNAポリメラーゼβ’サブユニットタンパク質コード配列(変異体rpoCコード配列)を含む別の核酸分子を含み、
変異体rpoCコード配列は、変異体RpoC RNAポリメラーゼβ’サブユニットタンパク質(変異体RpoC)をコードし、
変異体RpoCはR47C置換を含み、R47C置換の番号付けは、大腸菌の野生型RpoC RNAポリメラーゼβ’サブユニットタンパク質(野生型RpoC)に基づいて定義される、請求項
10に記載の組換え微生物。
【請求項17】
組換え微生物は、変異体rpoCコード配列を含む別の核酸分子を含み、
変異体rpoCコード配列は、変異体RpoCをコードし、
変異体RpoCはR47C置換を含み、R47C置換の番号付けは、大腸菌の野生型RpoCに基づいて定義される、請求項
13に記載の方法。
【請求項18】
組換え微生物は、変異体rpoCコード配列を含む別の核酸分子を含み、
変異体rpoCコード配列は、変異体RpoCをコードし、
変異体RpoCはR47C置換を含み、R47C置換の番号付けは、大腸菌の野生型RpoCに基づいて定義される、請求項
14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変異体incコード鎖を含む核酸分子に関する。ここで、変異体incコード鎖は、変異体incRNAをコードし、変異体incRNAは、プラスミドコピー数の調節因子である。
【背景技術】
【0002】
プラスミドはバイオテクノロジーにおいて重要な役割を果たし、微生物に対し標的遺伝子を導入、修飾、及び除去し、標的遺伝子によってコードされる対応するタンパク質を生成する手段を提供する。プラスミドは、細菌、古細菌、真核生物のドメインの多様な微生物に自然に存在する核酸分子であり、それらが発生する微生物の染色体から物理的に分離されており、染色体とは独立して複製される。プラスミドは通常、二本鎖環状DNA分子であるが、線状DNA分子及び/又はRNA分子もあり得る。プラスミドは、約1kbから2Mb超までの様々なサイズ範囲で生じる。例えば、最近の総説である非特許文献1によれば、GenBankデータベースに見られる4602個のプラスミドの間でサイズの幅広い変動が観察され、プラスミドのサイズは744bp~2.58Mbの範囲であり、平均サイズは80kbである。プラスミドはまた、細胞あたり様々なコピー数で発生する。例えば、プラスミドは一般に、細胞あたり1~20コピーなどの低コピー、細胞あたり20~100コピーなどの中コピー、細胞あたり500~700コピー以上などの高コピーとして特徴付けられる。プラスミドは、標的遺伝子を含むように改変することができる。
【0003】
バイオテクノロジーでのプラスミドの使用に関連する課題は、バイオテクノロジーへの応用では一般に微生物への標的遺伝子の安定した取り込みと、培養中の標的遺伝子及びそれに対応するタンパク質産物の収率の注意深い制御が必要であるが、一方を達成するための努力は他方の達成にとって反対に作用することがある。標的遺伝子を有するプラスミドを含む微生物の培養中、微生物の細胞が成長及び分裂するときにプラスミドを安定して分離させることが一般に有利であり、その結果、微生物の細胞の高い割合が培養全体を通して標的遺伝子を含むようになる。目的の産物のみの生産を確実にするために、標的遺伝子を構造的に安定に保ち、一定のヌクレオチド配列を維持することも一般に有利である。所望の結果、例えば、対応するタンパク質産物の十分な量及び活性型での産生を達成するのに十分に高いレベルで標的遺伝子を発現させることも一般に有利である。残念ながら、プラスミドを複製し、プラスミドから標的遺伝子を、特に高レベルで発現させるための技術は、細胞に代謝負荷を及ぼす。これにより、プラスミドが細胞から失われたり、変異によって発現レベルや標的遺伝子の同一性が変化したりする可能性がある。これはまた、対応するタンパク質産物の凝集及び不活性につながる可能性がある。したがって、生物工学的用途でのプラスミドの使用中の安定した取り込みと収率の制御のバランスをとることは、一般に、試行錯誤を伴う経験的プロセスである。
【0004】
プラスミドのコピー数は、安定した取り込みと収率の制御の両方に関して重要な考慮事項である。プラスミドのコピー数は、一般に、プラスミドの複製開始点、プラスミドのサイズ(プラスミドに含まれる標的遺伝子を含む)、及び培養条件の3つの要因によって決定される。複製開始点に関して、プラスミドは、それらの複製、特にそれらの複製開始点の特徴に基づいて、非互換性グループに分類することができる。具体的には、プラスミドは一般に、単一の複製開始点から複製するプラスミドの領域に相当するレプリコンを含む。プラスミドはまた、一般に、プラスミドの複製開始点を認識し、そこで複製を開始させるタンパク質をコードする遺伝子を含む。プラスミドのタンパク質と複製開始点の間の相互作用は、複製の特異性及びレプリコンのコピー数、つまりはプラスミドのコピー数を決定する。同一の複製開始点を有するプラスミドは、分離安定性に関して互いに非互換性であるプラスミドに基づいて、同じ非互換性グループに分類される。複製開始点が異なるプラスミドは、プラスミドが互いに互換性がある場合、異なる非互換性グループに分類され得る。プラスミドのサイズに関しては、サイズが大きくなると、一般に、プラスミドの複製及びプラスミドからの標的遺伝子の発現に関連する代謝負荷が増大し、したがって、プラスミドのコピー数が減少する。培養条件に関しても、これらは代謝負荷に影響を及ぼし、特定の条件によっては、コピー数の増減をもたらし得る。
【0005】
上記3つの要因のうち、複製開始点はコピー数のベースラインを確立するため、特定用途のためにプラスミドを選択する際には、大抵の場合、複製開始点が最重要考慮事項である。残念ながら、プラスミドの複製開始点を変更することによってプラスミドのコピー数のベースラインを予測可能に変更するための一般的なアプローチは存在しない。特定の複製開始点を変更してコピー数を変更できるかどうか、またどの程度変更できるかを判断することも、経験的なプロセスである。
【0006】
RepFICは例示的なレプリコンである。非特許文献2に説明されているように、RepFICはIncFIプラスミドのレプリコンである。RepFICはプラスミドP307に完全な形で存在する。RepFICは、プラスミドFにもトランケート型で存在する。RepFICは、incRNAと呼ばれるRNAをコードする。RepFICのincRNAは、その配列及び構造に基づいてRepFICレプリコンの非互換性を決定する。
【0007】
incRNAのRNA配列は、RepFICレプリコンのDNA配列から推測されている。RepFICのincRNAの推定配列は、RepFICレプリコンのソースによって異なる。推定配列は、incRNAについて予測される5’末端及び3’末端によっても異なる。
【0008】
例えば、プラスミドP307のRepFICのincRNAは、非特許文献2に開示されているように、RepFICレプリコンの一部のヌクレオチド575~665位の逆相補体に相当するDNAコード鎖によってコードされている。このコード鎖は、配列番号23内に提供される91ヌクレオチドの配列、具体的には配列番号23のヌクレオチド8~98位に相当する。また、非特許文献2によれば、プラスミドFのRepFICのincRNAは、プラスミドP307のRepFICのincRNAとは2つの塩基が置換されて異なるDNAコード鎖によってコードされている。このコード鎖は、配列番号21内に提供される91ヌクレオチドの配列、具体的には配列番号21のヌクレオチド8~98位に相当する。また、例えば、GenBankによると、大腸菌(Escherichia coli)株K-12のRepFICのincRNAは、GenBankアクセッションAP001918.1、3747~3839位の逆相補体に相当するDNAコード鎖によってコードされている。このコード鎖は、配列番号21内に提供される93ヌクレオチドの配列、具体的には配列番号21のヌクレオチド1~93位に相当する。また、GenBankによると、copAと呼ばれる、incRNAに相当する大腸菌株tolCの非コードRNA配列は、GenBankアクセッションCP018801.1、3,463,977~3,464,067位に相当するDNAコード鎖によってコードされている。このコード鎖は、配列番号21内に提供される91ヌクレオチドの配列、具体的には配列番号21のヌクレオチド8~98位に相当する。また、GenBankによれば、大腸菌株NCM3722 F-様プラスミドの配列は、明らかにincRNAに相当し、GenBankアクセッションCP011496.1、37765~37862位の逆相補体に相当するDNAコード鎖によってコードされている。このコード鎖は、配列番号19に提供される98ヌクレオチドの配列に相当する。
【0009】
RepFICのincRNAはステム-ループ構造を持っていると予測されている。非特許文献2によれば、この構造はincRNAの機能にとって重要であると考えられている。
【0010】
非特許文献2によれば、RepFICのincRNAは、別のレプリコンであるRepFIIAのincRNAとは9塩基対が異なる。この違いに基づいて、RepFICレプリコンとRepFIIAレプリコンは互換性がある。対照的に、前述のように、同じく非特許文献2によれば、プラスミドFのincRNA配列はプラスミドP307のincRNA配列とは2塩基が異なる。非特許文献2によれば、この違いは非互換性に明白な影響を与えない。つまり、プラスミドFのincRNA配列を発現するプラスミドは、プラスミドP307のincRNA配列を発現するプラスミドと互換性がない。
【0011】
非特許文献2は、RepFICレプリコンを含むプラスミドのコピー数については開示していない。非特許文献2は、バイオテクノロジーへの応用のためのそのようなプラスミドの使用についても開示していない。
【0012】
変異体RNAポリメラーゼの使用は、プラスミドのコピー数を変更するもう1つの潜在的なアプローチである。RNAポリメラーゼは転写に関与する。RNAポリメラーゼは、染色体及びプラスミドの複製にも関与する。RNAポリメラーゼ配列は多くの細菌で決定されており、RNAポリメラーゼ内の保存領域を同定するための基礎を提供する。例えば、非特許文献3は、21種の株からのRNAポリメラーゼβ’サブユニットのC末端ドメインのアラインメントを提供している。細菌のRNAポリメラーゼの構造も決定されている。例えば、非特許文献4は、RNAポリメラーゼの構造は、寸法が約150オングストローム×約100オングストローム×約100オングストロームであり、カニのはさみを連想させる形状であることが分かったと報告している。RNAポリメラーゼβ’サブユニットは、「クランプ」と呼ばれるペンチと、活性な中央の裂け目の一部を構成する。
【0013】
RNAポリメラーゼβ’サブユニットをコードする大腸菌のrpoC遺伝子の2つの変異は、ColE1型プラスミドのコピー数の減少を引き起こすことが報告されている。具体的には、非特許文献5は、単一のアミノ酸置換(G1161R)及び41位のアミノ酸欠失を特定した。どちらもrpoC遺伝子の3’末端領域の近くにある。これら2つの変異により、ColE1プラスミドのコピー数がそれぞれ10分の1以下及び20分の1以下に減少する(おそらく、それぞれ90%以上及び95%以上の減少に相当する)。非特許文献5は、DNAポリメラーゼIのプレプライマー及びプレプライマーのアンチセンスインヒビターをコードするRNAII及びRNAIのプロモーターからの発現の変化が、減少を引き起こす可能性があることを提示した。
【0014】
rpoCの変異は、プラスミドpBR322のコピー数の増加を引き起こすことも報告されている。具体的には、非特許文献6は、単一のアミノ酸置換(G1033D)を特定した。これも、rpoC遺伝子の3’末端領域付近にあり、39℃の半許容成長温度でのpBR322コピー数の増加を引き起こす。非特許文献6は、突然変異は染色体のコピー数の増加も引き起こすと述べている。
【0015】
残念ながら、RNAポリメラーゼβ’サブユニットを予測可能に改変して、プラスミドのコピー数を変化させるさらなる変異体を得るための一般的なアプローチは存在しない。特定の突然変異がプラスミドのコピー数を変える可能性があるかどうか、またどの程度変化するかを判断することも、経験的なプロセスである。また、RNAポリメラーゼβ’サブユニットを予測可能に改変して、染色体コピー数の対応する変化を引き起こさないような変異体を得るための一般的なアプローチは存在しない。
【0016】
上記のように、プラスミドのコピー数は、生物工学的用途でのプラスミドの使用中の安定した取り込みと収率の制御とのバランス調整に関して重要な考慮事項になる傾向があるが、プラスミドの複製開始点を改変することによってプラスミドのコピー数のベースラインを予測可能に変更するための一般的なアプローチは存在しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【文献】Shintani et al.,Frontiers in Microbiology 6:242(2015)
【文献】Saadi et al.,Journal of Bacteriology 169:1836-1846(1987)
【文献】Lee et.al.,Antimicrobial Agents and Chemotherapy 57:56-65(2013)
【文献】Mukhopadhyay et al.,Cell 135:295-307(2008)
【文献】Ederth et al.,Molecular Genetics and Genomics 267:587-592(2002)
【文献】Petersen et al.,Journal of Bacteriology 173:5200-5206(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、改変された複製開始点を含むプラスミドのコピー数のベースラインを変更するために改変される複製開始点の必要性が存在する。理想的には染色体のコピー数に対応する変化を引き起こさずに、プラスミドのコピー数を変化させるように改変されるRNAポリメラーゼβ’サブユニットのさらなる変異体の必要性も存在する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本開示の一態様によれば、配列番号15を含む変異体incコード鎖を含む核酸分子が開示されている。変異体incコード鎖は変異体incRNAをコードする。変異体incRNAはプラスミドコピー数の調節因子である。
【0020】
いくつかの例において、変異体incRNAの発現は、配列番号19を含むinc配列によってコードされる野生型incRNAの発現と比較して、ベクターのコピー数を増加させる。
【0021】
また、いくつかの例において、変異体incコード鎖は、配列番号17と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を含む。
また、いくつかの例では、変異体incコード鎖は、配列番号17を含む。
【0022】
本開示の別の態様によれば、上記核酸分子、プロモーター、及び複製開始点を含むレプリコンが開示されている。プロモーターは、変異体incコード鎖に作動可能に連結されている。変異体incRNAはレプリコンのコピー数を調節する。
【0023】
本開示の別の態様によれば、レプリコンを含むベクターが開示される。
本開示の別の態様によれば、レプリコンを含む組換え微生物が開示される。
本開示の別の態様によれば、上記ベクターを含む組換え微生物が開示される。
【0024】
本開示の別の態様によれば、組換え微生物におけるベクターのコピー数を調節する方法が開示される。この方法は、(1)ベクターを前駆体微生物に導入することにより組換え微生物を得るステップ、及び(2)ベクターの複製に十分な条件下において培養培地中で上記組換え微生物を培養することによりベクターのコピー数を調節するステップを含む。
【0025】
本開示の別の態様によれば、組換え微生物において上記ベクターを使用することにより標的産物を作製する方法が開示される。ベクターは、標的産物を作製するための標的遺伝子をさらに含む。この方法は、(1)ベクターを前駆微生物に導入することにより組換え微生物を得るステップ、(2)組換え微生物が標的遺伝子を発現する条件下において培養培地中で組換え微生物を培養することにより、標的産物を作製するステップ、及び(3)組換え微生物及び/又は培養培地から標的産物を回収するステップを含む。
【0026】
本開示の別の態様によれば、上記ベクター及び別の核酸分子を含む組換え微生物が開示される。他の核酸分子は、変異体rpoC RNAポリメラーゼβ’サブユニットタンパク質コード配列(「変異体rpoCコード配列」とも呼ばれる)を含む。変異体rpoCコード配列は、変異体RpoC RNAポリメラーゼβ’サブユニットタンパク質(「変異体RpoC」とも呼ばれる)をコードする。変異体RpoCはR47C置換を含み、R47C置換の番号付けは、大腸菌の野生型RpoC RNAポリメラーゼβ’サブユニットタンパク質(「野生型RpoC」とも呼ばれる;配列番号44)に基づいて定義されている。
【0027】
本開示の別の態様によれば、組換え微生物におけるベクターのコピー数を調節するための方法が開示される。この方法は、(1)ベクターを前駆体微生物に導入することにより組換え微生物を得るステップ、及び(2)ベクターの複製に十分な条件下において培養培地中で組換え微生物を培養することによりベクターのコピー数を調節するステップを含む。組換え微生物は、変異体rpoCコード配列を含む他の核酸分子を含む。変異体rpoCコード配列は、変異体RpoCをコードする。変異体RpoCはR47C置換を含み、R47C置換の番号付けは、大腸菌の野生型RpoCに基づいて定義されている。
【0028】
本開示の別の態様によれば、組換え微生物において上記ベクターを使用することにより標的産物を作製する方法が開示される。ベクターは、標的産物を作製するための標的遺伝子をさらに含む。この方法は、(1)ベクターを前駆微生物に導入することにより組換え微生物を得るステップ、(2)組換え微生物が標的遺伝子を発現する条件下において培養培地中で組換え微生物を培養することにより、標的産物を作製するステップ、及び(3)組換え微生物及び/又は培養培地から標的産物を回収するステップを含む。組換え微生物は、変異体rpoCコード配列を含む別の核酸分子を含む。変異体rpoCコード配列は、変異体RpoCをコードする。変異体RpoCはR47C置換を含み、R47C置換の番号付けは、大腸菌の野生型RpoCに基づいて定義されている。
【発明の効果】
【0029】
本明細書に開示される配列番号15を含む変異体incコード鎖を含む核酸分子は、その核酸分子を含むレプリコンを含むプラスミドなどのベクターのコピー数を調節するために、特にベクターのコピー数を増加させるために有用であり、したがって、ベクターを使用することにより、標的産物の商業生産を改善するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】以下のコード鎖のDNA配列の多重配列アラインメントを示す:(1)Saadiらによって開示されているように、RepFICレプリコンの一部のヌクレオチド575~665位の逆相補体に相当するDNAコード鎖によってコードされるプラスミドP307のRepFICのincRNA(配列番号23、ヌクレオチド8~98位);(2)Saadiらによって開示されているように、プラスミドP307のRepFICのincRNAのそれとは2つの塩基が置換されて異なるDNAコード鎖によってコードされるプラスミドFのRepFICのincRNA(配列番号21、ヌクレオチド8~98位);(3)copAと称される大腸菌株tolCの非コードRNA配列。これはincRNAに相当し、GenBankアクセッションCP018801.1、3,463,977~3,464,067位に相当するDNAコード鎖によってコードされる(配列番号21、ヌクレオチド8~98位);(4)GenBankアクセッションAP001918.1、3747~3839位の逆相補体に相当するDNAコード鎖によってコードされる大腸菌株K-12のRepFICのincRNA(配列番号21、ヌクレオチド1-93);及び(5)大腸菌株NCM3722 F-様プラスミドの配列。これは明らかにincRNAに相当し、GenBankアクセッションCP011496.1、37765~37862位の逆相補体に相当するDNAコード鎖によってコードされる(配列番号19)。
【
図2】
図1に示される配列に相当するコード鎖のアラインメントしたDNA配列の違いを示す。プラスミドP307のRepFICのincRNAのコード鎖の全長が提供され、提供された他の配列のコード鎖が違いを示し、野生型incRNAのコード鎖の中央ドメイン(配列番号23、ヌクレオチド43~65位も全長で示されている)。
【
図3】以下のコード鎖のDNA配列の配列アラインメントを示す:(1)大腸菌株NCM3722F-様プラスミドの配列。これは明らかにincRNAに相当し、GenBankアクセッションCP011496.1、37765~37862位の逆相補体に相当するDNAコード鎖によってコードされる(配列番号19);及び(2)中央ドメインにおけるCからTへの置換を含み、したがって配列番号15を含む変異体incコード鎖の配列(配列番号17)。
【
図4】
図3に示される配列に相当するコード鎖のアラインメントされたDNA配列の違いを示す。大腸菌株NCM3722 F-様プラスミドの配列のコード鎖の全長が提供され、提供された変異体incコード鎖が違いを示し、変異体incRNAのコード鎖の中央ドメイン(配列番号15)も全長で示されている。
【
図5A】大腸菌株NCM3722 F-様プラスミド(配列番号19)のものと同一の野生型RepFICを含む、pJSL40と呼ばれる組換えプラスミドを構築するプロセスを示す。
【
図5B】大腸菌株NCM3722 F-様プラスミド(配列番号19)のものと同一の野生型RepFICを含む、pJSL40と呼ばれる組換えプラスミドを構築するプロセスを示す。
【
図6A】中央ドメインにおけるCからTへの置換を含む変異体incコード鎖(配列番号17)の配列に相当する、RepFICの改変されたDNA配列を含み、したがって配列番号15を含む、pJSL41と呼ばれる組換えプラスミドを構築するプロセスを示す。
【
図6B】中央ドメインにおけるCからTへの置換を含む変異体incコード鎖(配列番号17)の配列に相当する、RepFICの改変されたDNA配列を含み、したがって配列番号15を含む、pJSL41と呼ばれる組換えプラスミドを構築するプロセスを示す。
【
図7】高度好熱菌(Thermus thermophilus)RpoC(Q8RQE8)(配列番号34)、アセトバクター属酢酸菌(Acetobacter pasteurianus)RpoC(BAH99075.1)(配列番号35)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)RpoC(Q5F5R6)(配列番号36)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)RpoC(Q5X865)(配列番号37)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)RpoC(Q9HWC9)(配列番号38)、コレラ菌(Vibrio cholerae)RpoC(Q9KV29)(配列番号39)、大腸菌(Escherichia coli)(P0A8T7)(配列番号26)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella enterica serovar Typhimurium)RpoC(P0A2R4)(配列番号40)、アクチノマイセス・オドントリティカス(Actinomyces odontolyticus)RpoC(EDN79927.1)(配列番号41)、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)RpoC(Q8CJT1)(配列番号42)、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)RpoC(Q6NJF6)(配列番号43)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)RpoC(A5U053)(配列番号44)、ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)RpoC(CBH49656.1)(配列番号45)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)RpoC(O84316)(配列番号46)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)RpoC(A7FZ76)(配列番号47)、枯草菌(Bacillus subtilis)RpoC(P37871)(配列番号48)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)RpoC(Q97NQ8)(配列番号49)、エンテロコッカス・ファエカリス(Enterococcus faecalis)RpoC(Q82Z41)(配列番号50)、及びラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)RpoC(Q03PV0)(配列番号51)のN末端ドメインのCLUSTAL O(1.2.4)による多重配列アラインメントを示す。
【
図8】
図7に示されるようなRpoCタンパク質の中央ドメインのCLUSTAL O(1.2.4)による多重配列アラインメントを示す(それぞれ配列番号34~39、26、及び40~51)。
【
図9A】
図7に示されるようなRpoCタンパク質のC末端ドメインのCLUSTALO(1.2.4)による多重配列アラインメントを示す(それぞれ配列番号34~39、26、及び40~51)。
【
図9B】
図7に示されるようなRpoCタンパク質のC末端ドメインのCLUSTALO(1.2.4)による多重配列アラインメントを示す(それぞれ配列番号34~39、26、及び40~51)。
【
図10】大腸菌のRpoCタンパク質(配列番号26)及び変異体RpoC(配列番号27)のN末端ドメインの配列アラインメントを示す。
【
図11】大腸菌のRpoCタンパク質(配列番号26)及び変異体RpoC(配列番号27)のアラインメントされたN末端ドメインの違いを示し、大腸菌のRpoCのN末端ドメインの配列は全長で示され、変異体RpoCの配列に違いが示されている。
【
図12A】染色体上のrpoC配列を置換するためのものである、pJSL47と呼ばれる組換えプラスミドを構築するプロセスを示す。
【
図12B】染色体上のrpoC配列を置換するためのものである、pJSL47と呼ばれる組換えプラスミドを構築するプロセスを示す。
【
図13A】野生型RepFICレプリコンを含む、pJSL48と呼ばれる組換えプラスミドを構築するプロセスを示す。
【
図13B】野生型RepFICレプリコンを含む、pJSL48と呼ばれる組換えプラスミドを構築するプロセスを示す。
【
図14A】改変されたRepFICレプリコンを含む、pJSL49と呼ばれる組換えプラスミドを構築するプロセスを示す。
【
図14B】改変されたRepFICレプリコンを含む、pJSL49と呼ばれる組換えプラスミドを構築するプロセスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
配列番号15を含む変異体incコード鎖を含む核酸分子が開示される。変異体incコード鎖は変異体incRNAをコードする。変異体incRNAはプラスミドコピー数の調節因子である。
【0032】
驚くべきことに、配列番号15を含む変異体incコード鎖を含む核酸分子であって、変異体incコード鎖が変異体incRNAをコードし、変異体incRNAがプラスミドコピー数の調節因子である核酸分子を使用して、この核酸分子を含むプラスミドのコピー数の実質的な増加を達成できることが分かった。
【0033】
理論に束縛されることを望まないが、incRNAのコード鎖は野生型配列間で保存されている中央ドメインを含むと考えられる。野生型中央ドメインは、配列番号19のヌクレオチド43~65位に相当する。
図1及び
図2に示すように、この配列は、以前に開示された5つのincRNAのコード鎖のそれぞれ、すなわち、Saadiらによって開示されたプラスミドP307のRepFIC、プラスミドFのRepFIC、大腸菌株tolCのcopA、大腸菌株K-12のRepFIC、及び大腸菌株NCM3722のF-様プラスミドの間で保存されている。
図1及び
図2に示すように、コード鎖は、それらの配列に関して、例えばヌクレオチド42位(C又はT)、66位(C又はA)、及び89位(T又はG)で変化することがあり、番号付けは配列番号19に従ってなされている。上記のように、Saadiらによれば、プラスミドFのincRNAのコード鎖の配列はプラスミドP307のincRNAのコード鎖とは2塩基が異なり、この違いは非互換性に明らかな影響を与えない。したがって、コード鎖は、そのような変化にもかかわらず、非互換性を維持することもできる。また、見て分かるように、SaadiらによるプラスミドFのincRNAのコード配列は、大腸菌株NCM3722のF-様プラスミドのコード配列とは1つの置換で異なる。これは、この置換にも明らかな影響がないことを示唆している。
図2に示すように、中央ドメインは、ヌクレオチド43位からヌクレオチド65位までの23ヌクレオチド配列に相当し、位置の番号付けは配列番号19に従ってなされている。中央ドメインは、変化する可能性のある2つのヌクレオチド位置、つまりヌクレオチド42位と66位の間に位置している。中央ドメインの配列が、以前に開示されたincRNAの5つのコード鎖のそれぞれの間で保存されており、コード鎖の他の場所での変異に明らかな影響がないように見えることを考えると、配列番号19のヌクレオチド43~65位に相当する中央ドメイン配列は野生型と見なされ得る。
【0034】
また、理論に拘束されることを望まないが、incRNAの中央ドメインは、RepFICレプリコンを含むプラスミドのコピー数を決定する上で重要な役割を果たすと考えられる。
図3及び
図4に示すように、変異体incコード鎖は、中央ドメインであって、配列番号15を含み、ヌクレオチド60位(番号付けは配列番号17に従ってなされている)のCからTへの1つの置換によって野生型中央ドメインとは異なる中央ドメインを含む。この置換を含み、大腸菌NCM3722のincRNAのコード鎖と他の点では同一である変異体incコード鎖は、プラスミドのコピー数が例えば約5~15倍増加し、正確な増加は明らかにプラスミドのサイズ及び系統などの要因に依存する。中央ドメインのCからTへの置換は、大腸菌NCM3722の変異体incコード鎖とincRNAのコード鎖との唯一の違いであるため、また、中央ドメインは、明らかな影響なく変化し得る2つのヌクレオチド位置の間に位置するため、またさらに、以前に開示された5つのincRNAのコード鎖の間で中央ドメイン内で他の置換が発生しないため、中央ドメインはプラスミドのコピー数を決定する上で重要であるように思われる。
【0035】
本明細書で使用される場合、核酸分子という用語は、DNA及び/又はRNAの分子を意味し、核酸分子の構造がDNA配列、RNA配列、又はその両方を含むか否かに応じて、例えば、二本鎖DNA分子、一本鎖DNA分子、二本鎖RNA分子、一本鎖RNA分子、又は、DNA/RNAハイブリッド分子を含む。
【0036】
本明細書で使用される場合、incRNAという用語は、incRNAの配列及び構造に基づいてIncFIプラスミドのRepFICレプリコンの非互換性を決定するRNA分子を意味する。IncFIプラスミドのRepFICレプリコンの非互換性は、例えば、例えばSaadiらによって議論されているように、微生物の中に入ってくるプラスミドの導入による微生物からの常在プラスミドの喪失を測定することによって測定することができる。
【0037】
本明細書で使用される場合、incコード鎖という用語は、incRNAの配列をコードするDNA分子鎖、又はDNA分子鎖の一部を意味する。
本明細書で使用される場合、変異体incRNAという用語は、野生型incRNAの配列に対する少なくとも1つのヌクレオチドの付加、欠失、及び/又は置換に基づいて野生型incRNAの配列とは異なるヌクレオチド配列を有するincRNAを意味する。
【0038】
本明細書で使用される場合、変異体incコード鎖という用語は、変異体incRNAの配列をコードするDNA分子を意味する。
本明細書で使用される場合、レプリコンという用語は、単一の複製開始点から複製するDNA分子の領域を意味する。
【0039】
本明細書で使用される場合、ベクターという用語は、自然に、又はプラスミド、ウイルスベクター、コスミド、又は人工染色体などの微生物への導入によって微生物中に存在し得る核酸分子を意味する。
【0040】
本明細書で使用される場合、プラスミドという用語は、微生物内で自然に又は微生物への導入によって存在し得、微生物の染色体から物理的に分離しており、染色体とは独立して複製する核酸分子を意味する。上記で論じたように、プラスミドは典型的には二本鎖環状DNA分子であるが、線状DNA分子及び/又はRNA分子でもあり得る。プラスミドは、約1kbから2Mbを超えるサイズの範囲で存在する。プラスミドはまた、低コピー数から高コピー数まで、細胞あたり様々なコピー数の範囲で存在する。プラスミドは、標的遺伝子を含むように改変することができる。
【0041】
本明細書で使用される場合、プラスミドコピー数という用語は、微生物の細胞におけるプラスミドのコピー数を意味する。微生物中の1つのプラスミドについてのプラスミドコピー数は、数あるアプローチの中でも特に、例えばリアルタイムPCRを使用して、プラスミド上に単一コピーで存在する遺伝子のコピー数を、その微生物の染色体上に単一コピーで存在する遺伝子に対して比較することによって測定できる。
【0042】
本明細書で使用される場合、プラスミドコピー数の調節因子という用語は、その因子が微生物に存在しない場合に対し、その因子が微生物に存在する場合に、微生物中のプラスミドのコピー数の変化、例えば、増加又は減少を引き起こす、RNA分子又はタンパク質などの因子を意味する。プラスミドコピー数を調節することにより、プラスミドを安定して発現させることが可能であり、それによりプラスミドを含む微生物の安定した増殖を可能にする。
【0043】
記載したように、配列番号15を含む変異体incコード鎖を含む核酸分子が開示されている。また、記載したように、配列番号15は、DNA配列に相当する。核酸分子は、例えば、二本鎖DNA分子、一本鎖DNA分子、又はそれらの組み合わせであり得る。
【0044】
変異体incコード鎖は変異体incRNAをコードする。変異体incRNAのRNA配列は、変異体incコード鎖のDNA配列から推測できる。上記のように、変異体incコード鎖は、1つの置換、すなわちヌクレオチド60位でのCからTによって野生型中央ドメインとは異なる中央ドメインを含み、位置の番号付けは配列番号17に従ってなされている。したがって、変異体incRNAの推定配列には、この位置に対応するCからUへの置換が含まれる。以前に開示されたincRNAの5つのコード鎖と同様に、変異体incRNAの推定配列も、変異体incコード鎖のソースに応じて変化し得る。推定配列は、incRNAについて予測される5’末端及び3’末端によっても変化し得る。したがって、例えば、変異体incコード鎖は、ヌクレオチド60位のCからTへの置換を含み得、それ以外は、大腸菌NCM3722のincRNAのコード鎖と同一であり得る。また、例えば、変異体incコード鎖は、
図2に示されるように、incRNAについて以前に開示された5つのコード鎖間で観察される1つ以上の、つまりはヌクレオチド42位(C又はT)、66位(C又はA)、及び89位(T又はG)の置換を含み得、位置の番号付けは配列番号17に従ってなされている。また、例えば、変異体incコード鎖は、変異体incコード鎖によってコードされる変異体incRNAの実際の5’末端及び実際の3’末端に応じて、その5’末端及びその3’末端で変化し得る。
【0045】
いくつかの例において、変異体incコード鎖は、配列番号17と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を含む。参考までに、配列番号17は、ヌクレオチド60位のCからTへの置換を含み、それ以外は大腸菌NCM3722のincRNAのコード鎖と同一である変異体incコード鎖に相当する。また、参考までに、変異体incコード鎖のヌクレオチド配列と配列番号17との間の配列同一性のパーセンテージは、ペアワイズ配列アラインメントを行うことにより決定することができる。これは、デフォルト設定(マトリックス:DNAfull;ギャップオープン:10;ギャップ拡張:0.5;出力フォーマット:ペア;エンドギャップペナルティ:false;エンドギャップオープン:10;エンドギャップ拡張:0.5)を使用したEMBOSSニードルペアワイズシーケンスアラインメント(NUCLEOTIDE)ツールを使用して実行できる(ウェブサイト:ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/nucleotide.html)。これは、同様の他のペアワイズ配列アラインメントツールを使用して行うこともできる。例えば、変異体incコード鎖は、配列番号17と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるヌクレオチド配列を含み得る。
【0046】
いくつかの例において、変異体incコード鎖は、配列番号17の少なくとも90ヌクレオチドに関して配列番号17と同一であるヌクレオチド配列を含む。例えば、変異体incコード鎖は、配列番号17の少なくとも91、92、93、94、95、96、97、又は98ヌクレオチドに関して配列番号17と同一であるヌクレオチド配列を含むことができる。
【0047】
いくつかの例では、変異体incコード鎖は、配列番号17を含む。いくつかの例では、変異体incコード鎖は、配列番号17からなる。
いくつかの例では、変異体incコード鎖は、以下のような1つ以上の置換を含む配列番号17の変異体を含む:ヌクレオチド42位のTからC、ヌクレオチド66位のAからC、又はヌクレオチド89位のGからT、ここで、位置の番号付けは配列番号17に従ってなされている。例えば、変異体incコード鎖は、以下のような1つの置換を含む配列番号17の変異体を含むことができる:ヌクレオチド42位のTからC、ヌクレオチド66位のAからC、又はヌクレオチド89位のGからT、ここで、位置の番号付けは配列番号17に従ってなされている。また、例えば、変異体incコード鎖は、これらの置換の任意の2つの組み合わせを含む配列番号17の変異体を含むことができる。また、例えば、変異体incコード鎖は、これらの3つの置換すべてを含む配列番号17の変異体を含むことができる。また、例えば、変異体incコード鎖は、以下のような1つの置換を含む配列番号17の変異体からなり得る:ヌクレオチド42位のTからC、ヌクレオチド66位のAからC、又はヌクレオチド89位のGからT、ここで、位置の番号付けは配列番号17に従ってなされている。また、例えば、変異体incコード鎖は、これらの置換の任意の2つの組み合わせを含む配列番号17の変異体からなり得る。また、例えば、変異体incコード鎖は、これらの3つの置換すべてを含む配列番号17の変異体からなり得る。
【0048】
いくつかの例において、変異体incコード鎖は、配列番号17のヌクレオチド1~7位のうちの1つ以上を欠く配列番号17の変異体を含む。例えば、変異体incコード鎖は、配列番号17のヌクレオチド1位、1位及び2位、1~3位、1~4位、1~5位、1~6位、又は1~7位のヌクレオチドを欠く配列番号17の変異体を含み得る。また、例えば、変異体incコード鎖は、配列番号17のヌクレオチド1位、1位及び2位、1~3位、1~4位、1~5位、1~6位、又は1~7位のヌクレオチドを欠く配列番号17の変異体からなり得る。
【0049】
いくつかの例では、変異体incコード鎖は、配列番号17のヌクレオチド94~98位のうちの1つ以上を欠く配列番号17の変異体を含む。例えば、変異体incコード鎖は、配列番号17のヌクレオチド94~98位、95~98位、96~98位、97~98位、又は98位を欠く配列番号17の変異体を含み得る。また、例えば、変異体incコード鎖は、配列番号17のヌクレオチド94~98位、95~98位、96~98位、97~98位、又は98位を欠く配列番号17の変異体からなり得る。
【0050】
いくつかの例において、変異体incコード鎖は、ヌクレオチド42位、66位、及び89位に加えて、又はそれら以外の、1つ以上の他の置換を含む配列番号17の変異体を含む。例えば、上記のように、RepFICのincRNAは、incRNAの機能に重要であると考えられているステム-ループ構造を持っていると予測されている。したがって、いくつかの例では、変異体incコード鎖は、ステム-ループ構造を破壊しない追加の置換、例えばステム-ループ構造を維持する置換のペアを含むことができる。
【0051】
変異体incRNAはプラスミドコピー数の調節因子である。より広義には、変異体incRNAはレプリコンコピー数とベクターコピー数の調節因子である。プラスミドに関して上で論じたように、レプリコンは、単一の複製開始点から複製するDNA分子の領域に相当する。DNA分子は、例えば、プラスミド、ウイルスベクター、コスミド、又は人工染色体などのベクターであり得る。上記のように、RepFICはIncFIプラスミドのレプリコンである。また、説明したように、RepFICのincRNAは、その配列及び構造に基づいてRepFICレプリコンの非互換性を決定する。また、説明したように、CからTへの置換を含み、それ以外は大腸菌NCM3722のincRNAのコード鎖と同一である変異体incコード鎖は、プラスミドコピー数の増加を示す。
【0052】
したがって、変異体incRNAは、変異体incRNAをコードするレプリコンの非互換性の決定に基づくプラスミドコピー数の調節因子となり得る。例えば、変異体incRNAは、プラスミド及び非互換性の別のプラスミドを含む株において、プラスミドの分離安定性に影響を与える可能性があり、したがってプラスミドのコピー数に影響を与える可能性がある。また、変異体incRNAは、CからTへの置換を含むことに基づくコピー数の調節因子となり得、それにより、CからTへの置換を含まないincRNAのコード鎖を含むレプリコンを含むプラスミドを含む株と比較して、プラスミドを含む株におけるプラスミドコピー数の増加を示すことができる。例えば、変異体incRNAは、例えば5~15倍のプラスミドコピー数の増加を示し得る。
【0053】
より一般化すると、変異体incRNAは、レプリコンコピー数及びベクターコピー数の調節因子となり得る。したがって、プラスミドコピー数の調節因子であることに加えて、例えば、プラスミドに相当するベクターの場合、変異体incRNAは、例えば、ウイルスベクター、コスミド、及び/又は人工染色体に相当するベクターのウイルスベクター、コスミド、及び/又は人工染色体のコピー数の調節因子にもなり得る。
【0054】
いくつかの例において、変異体incRNAの発現は、配列番号19を含むinc配列によってコードされる野生型incRNAの発現と比較して、ベクターのコピー数を増加させる。例えば、変異体incRNAの発現は、大腸菌NCM3722のincRNAのコード鎖によってコードされる野生型incRNAの発現と比較して、ベクターのコピー数を増加させる可能性がある。いくつかの例では、ベクターは、プラスミド、ウイルスベクター、コスミド、又は人工染色体のうちの1つ以上に相当する。いくつかの例において、変異体incRNAの発現は、配列番号19を含むinc配列によってコードされる野生型incRNAの発現と比較して、ベクターのコピー数を1~50倍、例えば2~40倍、3~30倍、4~20倍、1~10倍、5~15倍、10~20倍、15~25倍、20~30倍、25~35倍、30~40倍、35~45倍、又は40~50倍増加させる。
【0055】
核酸分子、プロモーター、及び複製開始点を含むレプリコンも開示されている。プロモーターは、変異体incコード鎖に作動可能に連結されている。変異体incRNAはレプリコンのコピー数を調節する。
【0056】
核酸分子は上記の通りとすることができる。したがって、いくつかの例では、変異体incRNAの発現は、上記のように、配列番号19を含むinc配列によってコードされる野生型incRNAの発現と比較して、ベクターのコピー数を増加させる。いくつかの例では、変異体incコード鎖は、上記のように、配列番号17と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を含む。いくつかの例では、変異体incコード鎖は、上記のように、配列番号17を含む。
【0057】
参考までに、プロモーターは、遺伝子の転写を開始するためにRNAポリメラーゼが結合する短い配列要素の組み合わせである。プロモーターが変異体incコード鎖に作動可能に連結されていることにより、プロモーターが変異体incコード鎖のプロモーターであることを意味する。複製開始点は、複製が開始される特定の配列である。
【0058】
いくつかの例では、レプリコンは変異体RepFICレプリコンを含み、核酸分子は変異体RepFICレプリコンの一部である。上記のように、RepFICはIncFIプラスミドのレプリコンであり、プラスミドP307に完全な形で存在し、プラスミドFにトランケート型で存在する。また、上記のように、RepFICのincRNAの推定配列は、ソース及び予測される末端によって異なる。変異体RepFICレプリコンは、上記のように、1つのCからTへの置換によって野生型中央ドメインとは異なる中央ドメインを含むことに基づく変異体である。したがって、変異体RepFICレプリコンは、完全な形で存在する別のRepFICレプリコン、又はトランケート型で存在するRepFICレプリコンに対する変異体であり得、変異体RepFICレプリコンは、1つのCからTへの置換によって野生型中央ドメインとは異なり、1つのCからTへの置換を含まないその他のRepFICレプリコンとも異なる中央ドメインを含む。また、変異体RepFICレプリコンは、上記の他の置換のいずれか、又は他の追加の置換を含む別のRepFICレプリコンに対する変異体であり得、変異体RepFICレプリコンは、1つのCからTへの置換によって野生型中央ドメインとは異なり、1つのCからTへの置換を含まないその他のRepFICレプリコンとも異なる中央ドメインを含む。
【0059】
レプリコンを含むベクターも開示されている。レプリコンは上記のものとすることができる。したがって、いくつかの例では、レプリコンは変異体repFICレプリコンを含み、核酸分子は、上記のように、変異体repFICレプリコンの一部である。
【0060】
いくつかの例では、変異体incRNAは、上記のように、配列番号19を含むinc配列によってコードされる野生型incRNAの発現と比較して、ベクターのコピー数を増加させる。
【0061】
いくつかの例では、ベクターはプラスミドを含む。上記のように、ベクターは、プラスミド、ウイルスベクター、コスミド、又は人工染色体のうちの1つ以上に相当し得る。したがって、いくつかの例では、ベクターはプラスミドに相当し得る。
【0062】
いくつかの例では、ベクターは、標的産物を作製するための標的遺伝子をさらに含む。ベクターは、例えば、数ある生物の中でもとりわけ、細菌、古細菌、真核生物のドメインの微生物、動物、及び/又は植物などの生物からの標的遺伝子を含む組換えプラスミドであり得る。特に細菌ドメインの微生物に関して、標的遺伝子はとりわけ、例えば、大腸菌などのエシェリキア(Escherichia)属の細菌、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)などのコリネバクテリウム属の細菌、又は枯草菌などのバチルス(Bacillus)属の細菌に由来し得る。遺伝子工学のための多くの技術が開発されており、細菌、古細菌、真核生物のドメインの微生物、動物や植物などの、様々な生物の遺伝子の組換え発現が可能になっている。このような技術は、当業者に明らかであるように、本開示に従って、組換え微生物において多様な生物からの標的遺伝子をクローニング及び発現するために適用することができる。
【0063】
いくつかの例では、標的産物は、(i)標的RNA、(ii)標的タンパク質、(iii)標的生体材料、(iv)標的ポリマー、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(v)標的甘味料、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(vi)標的油、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(vii)標的脂肪、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(viii)標的多糖類、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(ix)標的アミノ酸、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(x)標的ヌクレオチド、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(xi)標的ワクチン、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、又は(xii)標的医薬品、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素のうちの1つ以上を含む。したがって、いくつかの例では、標的遺伝子は標的RNAをコードし、標的産物は標的RNAに相当する。また、いくつかの例では、標的遺伝子は標的タンパク質をコードし、標的産物は標的タンパク質に相当する。また、いくつかの例では、標的遺伝子は、標的RNA及び/又は標的タンパク質をコードし、その標的RNA及び/又は標的タンパク質は、標的生体材料、標的ポリマー、それらの前駆体、及び/又はそれらの生産のための酵素、標的甘味料、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、標的油、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、標的脂肪、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、標的多糖類、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、標的アミノ酸、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、標的ヌクレオチド、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、標的ワクチン、その前駆体及び/又はその生産のための酵素、又は標的医薬品、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素の生産に関与する。例えば、標的ポリマー、標的甘味料、標的油、標的脂肪、標的多糖、標的アミノ酸、及び/又は標的ヌクレオチドに関して、標的遺伝子は、その標的ポリマー、標的甘味料、標的油、標的脂肪、標的多糖、標的アミノ酸、及び/又は標的ヌクレオチドを、直接または前駆体を介して生産する酵素に相当する標的タンパク質をコードすることができる。また、例えば、ワクチンに関して、標的遺伝子は、病原性微生物に対するワクチンの成分として使用することができる、病原性微生物のタンパク質サブユニット、受容体、又は他のタンパク質、又はそれらの断片などの、抗原又は抗原フラグメントに相当する標的タンパク質をコードすることができる。また、例えば、標的医薬品に関して、標的遺伝子は、医薬品の成分として使用することができる抗体、受容体、又はホルモンなどの標的タンパク質をコードすることができる。
【0064】
いくつかの例では、ベクターは、複数の標的遺伝子、例えば、特定の生物からの複数の標的遺伝子、及び/又は複数の生物のそれぞれからの1つ以上の標的遺伝子を含む。また、いくつかの例において、標的遺伝子は、複数の標的産物を作製するためのものである。
【0065】
いくつかの例では、ベクター、例えばプラスミドは、3~120kbのサイズを有する。組換えベクターは、3~120kbのサイズで存在することが多く、これらは標的遺伝子がクローニングされたベクターの典型的なサイズである。上記のように、CからTへの置換を含み、それ以外は大腸菌NCM3722のincRNAのコード鎖と同一である変異体incコード鎖は、例えば、約5~15倍のプラスミドコピー数の増加を示す。以下に論じられるように、そして
図5及び
図6に示されるように、プラスミドコピー数の増加が観察された対応するプラスミド、及び対応するRepFICレプリコンが得られた大腸菌NCM3722のF-様プラスミドは、3~120kbの範囲内のサイズで生じ、変異体incコード鎖と、この範囲内のサイズのプラスミド、つまりはベクターのコピー数の調節との関連性を示している。
【0066】
レプリコンを含む組換え微生物も開示されている。レプリコンは上記のものとすることができる。
ベクターを含む組換え微生物も開示されている。ベクターは上記のものとすることができる。したがって、いくつかの例において、変異体incRNAの発現は、配列番号19を含むinc配列によってコードされる野生型incRNAの発現と比較して、ベクターのコピー数を増加させる。また、いくつかの例では、ベクターはプラスミドを含む。また、いくつかの例では、ベクターは、標的産物を作製するための標的遺伝子をさらに含む。また、いくつかの例では、標的産物は、上記のような1つ以上の標的産物を含む。
【0067】
いくつかの例において、組換え微生物における変異体incRNAの発現は、対照微生物における配列番号19を含むinc配列によってコードされる野生型incRNAの発現と比較して、ベクターのコピー数を増加させる。対照微生物は、例えば、組換え微生物と同じ属、種、及び/又は株に由来することができ、類似又は同一のプラスミド及び/又は標的遺伝子を含むことができ、したがって、系統発生的に類似し、近縁であり、及び/又は組換え微生物の変異体incコード配列と対照微生物の対応するinc配列との間の違いに関するもの以外は遺伝的に同一であり得る。同様に、上記のように、増加は1~50倍、例えば2~40倍、3~30倍、4~20倍、1~10倍、5~15倍、10~20倍、15~25倍、20~30倍、25~35倍、30~40倍、35~45倍、又は40~50倍になり得る。
【0068】
いくつかの例において、組換え微生物の変異体incコード鎖は、上記のように、配列番号17と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を含む。例えば、変異体incコード鎖は、上記のように、配列番号17と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるヌクレオチド配列を含み得る。また、いくつかの例では、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17の少なくとも90ヌクレオチドに関して配列番号17と同一であるヌクレオチド配列を含む。例えば、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17の少なくとも91、92、93、94、95、96、97、又は98ヌクレオチドに関して配列番号17と同一であるヌクレオチド配列を含むことができる。
【0069】
いくつかの例において、組換え微生物の変異体incコード鎖は、上記のように、配列番号17を含む。また、いくつかの例では、変異体incコード鎖は、以下のような1つ以上の置換を含む配列番号17の変異体を含む:ヌクレオチド42位でのTからC、ヌクレオチド66位でのAからC、又はヌクレオチド89位でのGからT。説明したように、位置の番号付けは配列番号17に従ってなされている。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17のヌクレオチド1~7位のうちの1つ以上を欠く配列番号17の変異体を含む。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17のヌクレオチド94~98位のうちの1つ以上を欠く配列番号17の変異体を含む。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、ヌクレオチド42位、66位、及び89位に加えて、又はこれらのヌクレオチド位置以外に、1つ以上の他の置換を含む配列番号17の変異体を含む。
【0070】
いくつかの例において、組換え微生物は、形質転換、接合、又は形質導入のうちの1つ以上によって、ベクターを前駆体微生物に導入することにより調製することができる。前駆体微生物は、組換え微生物がベクターを含むことを除いて、組換え微生物が前駆体微生物と遺伝的に同一であるように、ベクターが直接導入される微生物であり得る。形質転換は、単離された形態のベクターを、例えば、化学的技術によって、例えば、塩化カルシウム形質転換、又は物理的手法、例えばエレクトロポレーションによって前駆体微生物の細胞内に移すことによって実施できる。接合は、線毛を合成するための遺伝子を含むベクターに基づいて行うことができ、ベクターを含むドナー微生物の細胞を、ベクターを受け取る前駆体微生物の細胞と接触させる。形質導入は、ウイルスの使用に基づいて実施して、前駆体微生物の細胞へのベクターの移入を達成することができる。それぞれ、分子生物学の標準的な技術によって実施することができる。
【0071】
いくつかの例において、組換え微生物は、エシェリキア属の細菌又は大腸菌種の細菌のうちの1つ以上から調製することができる。上記のように、RepFICはIncFIプラスミドのレプリコンである。これらのプラスミドは大腸菌で自然に発生する。RepFICレプリコンは大腸菌で機能する。したがって、変異体incコード鎖を含む核酸分子は、エシェリキア属の細菌、特に大腸菌種の細菌におけるプラスミドコピー数を調節することができる。また、いくつかの例において、組換え微生物は、別の細菌、すなわち、エシェリキア属又は大腸菌種以外の細菌から調製することができる。
【0072】
組換え微生物におけるベクターのコピー数を調節する方法も開示されている。組換え微生物におけるベクターのコピー数を調節するための変異体incコード鎖の使用も開示されている。
【0073】
ベクターは上記のものとすることができる。したがって、再びいくつかの例において、変異体incRNAの発現は、配列番号19を含むinc配列によってコードされる野生型incRNAの発現と比較して、ベクターのコピー数を増加させる。また、いくつかの例では、ベクターはプラスミドを含む。また、いくつかの例では、ベクターは、標的産物を作製するための標的遺伝子をさらに含む。また、いくつかの例では、標的産物は、上記のような1つ以上の標的産物を含む。
【0074】
組換え微生物もまた、上記のものとすることができる。したがって、再びいくつかの例において、組換え微生物の変異体incコード鎖は、上記のように、配列番号17と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を含む。この場合も、例えば、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるヌクレオチド配列を含み得る。また、いくつかの例では、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17の少なくとも90ヌクレオチドに関して配列番号17と同一であるヌクレオチド配列を含む。例えば、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17の少なくとも91、92、93、94、95、96、97、又は98ヌクレオチドに関して配列番号17と同一であるヌクレオチド配列を含むことができる。またさらに、いくつかの例において、組換え微生物の変異体incコード鎖は、上記のように、配列番号17を含む。また、いくつかの例では、変異体incコード鎖は、以下のような1つ以上の置換を含む配列番号17の変異体を含む:ヌクレオチド42位でのTからC、ヌクレオチド66位でのAからC、又はヌクレオチド89位でのGからT、ここで、説明したように、位置の番号付けは配列番号17に従ってなされている。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17のヌクレオチド1~7位のうちの1つ以上を欠く配列番号17の変異体を含む。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17のヌクレオチド94~98位のうちの1つ以上を欠く配列番号17の変異体を含む。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、ヌクレオチド42位、66位、及び89位に加えて、又はこれらのヌクレオチド位置以外に、1つ以上の他の置換を含む配列番号17の変異体を含む。
【0075】
この方法は、(1)ベクターを前駆体微生物に導入することにより組換え微生物を得るステップを含む。ベクターは、例えば、上記のように、形質転換、接合、又は形質導入のうちの1つ以上によって導入することができる。組換え微生物は、説明したように、例えば、エシェリキア属の細菌又は大腸菌種の細菌のうちの1つ以上から調製することができる。
【0076】
この方法はまた、(2)ベクターの複製に十分な条件下で培養培地中で組換え微生物を培養することにより、ベクターのコピー数を調節するステップを含む。培養は、微生物学の標準的な技術によって、例えば、培養管、フラスコ、及び/又はバイオリアクターにおいて実施することができ、その詳細は、当業者には明らかであろう。培養は、適切な培養培地、例えば、栄養豊富な培地又は最小培地で実施することができ、これらの詳細も当業者には明らかであろう。培養は、適切なインキュベーション温度、例えば約25~38℃、28~37℃、又は37℃で実施することができ、これらの詳細も当業者には明らかであろう。組換え微生物が増殖し、培養中に分裂するにつれて、ベクターが複製される。したがって、例えば、大腸菌から調製された組換え微生物に関して、組換え微生物は、バイオリアクター内でバッチ式又は連続的に、発酵技術によって培養することができる。培養は、最小培地、例えば、M9最小塩培地などの定義された量の塩、及び1つ以上の炭素源、とりわけ、グルコース、スクロース、又はリグノセルロース材料を含む培地で行うことができる。培養は約37℃で行うことができる。このような条件は、大腸菌の成長及び分裂を助け、したがってベクターの複製を助ける。大腸菌から調製された組換え微生物の培養に適した他の条件は、他の微生物と同様に知られており、当業者には明らかであろう。
【0077】
いくつかの例において、組換え微生物における変異体incRNAの発現は、上記のように、対照微生物における配列番号19を含むinc配列によってコードされる野生型incRNAの発現と比較して、ベクターのコピー数を増加させる。したがって、対照微生物は、例えば、組換え微生物と同じ属、種、及び/又は株に由来することができ、類似又は同一のプラスミド及び/又は標的遺伝子を含むことができる。
【0078】
組換え微生物においてベクターを使用することにより標的産物を作製するための方法も開示される。標的産物を作製するための組換え微生物におけるベクターの使用も開示されている。
【0079】
ベクターは上記のものとすることができる。したがって、再びいくつかの例において、変異体incRNAの発現は、配列番号19を含むinc配列によってコードされる野生型incRNAの発現と比較して、ベクターのコピー数を増加させる。また、いくつかの例では、ベクターはプラスミドを含む。
【0080】
組換え微生物もまた、上記のものとすることができる。したがって、再びいくつかの例において、組換え微生物の変異体incコード鎖は、上記のように、配列番号17と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を含む。この場合も、例えば、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるヌクレオチド配列を含み得る。また、いくつかの例では、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17の少なくとも90ヌクレオチドに関して配列番号17と同一であるヌクレオチド配列を含む。例えば、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17の少なくとも91、92、93、94、95、96、97、又は98ヌクレオチドに関して配列番号17と同一であるヌクレオチド配列を含むことができる。またさらに、いくつかの例において、組換え微生物の変異体incコード鎖は、上記のように、配列番号17を含む。また、いくつかの例では、変異体incコード鎖は、以下のような1つ以上の置換を含む配列番号17の変異体を含む:ヌクレオチド42位でのTからC、ヌクレオチド66位でのAからC、又はヌクレオチド89位でのGからT、ここで、説明したように、位置の番号付けは配列番号17に従ってなされている。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17のヌクレオチド1~7位のうちの1つ以上を欠く配列番号17の変異体を含む。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17のヌクレオチド94~98位のうちの1つ以上を欠く配列番号17の変異体を含む。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、ヌクレオチド42位、66位、及び89位に加えて、又はこれらのヌクレオチド位置以外に、1つ以上の他の置換を含む配列番号17の変異体を含む。
【0081】
標的産物も上記のものとすることができる。例えば、標的産物は、(i)標的RNA、(ii)標的タンパク質、(iii)標的生体材料、(iv)標的ポリマー、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(v)標的甘味料、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(vi)標的油、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(vii)標的脂肪、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(viii)標的多糖類、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(ix)標的アミノ酸、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(x)標的ヌクレオチド、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、(xi)標的ワクチン、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素、又は(xii)標的医薬品、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素のうちの1つ以上を含み得る。
【0082】
ベクターは、上記のように、標的産物を作製するための標的遺伝子をさらに含む。
この方法は、上記のように、(1)ベクターを前駆体微生物に導入することにより組換え微生物を得るステップを含む。ここでも、ベクターは、例えば、上記のように、形質転換、接合、又は形質導入のうちの1つ以上によって導入することができる。組換え微生物は、説明したように、例えば、エシェリキア属の細菌又は大腸菌種の細菌のうちの1つ以上から調製することができる。
【0083】
この方法はまた、(2)組換え微生物が標的遺伝子を発現する条件下で培養培地中で組換え微生物を培養することにより、上記のように標的産物を作製するステップを含む。
この方法はまた、(3)組換え微生物及び/又は培養培地から標的産物を回収するステップを含む。標的産物を回収するための適切なアプローチは、標的産物の詳細、とりわけ、標的タンパク質に相当する標的産物のタンパク質精製の標準技術、又は標的ポリマーに相当する標的産物のポリマー抽出及び沈殿の標準技術に基づいて開発することができ、これらの詳細は、例えば標的産物の種類(例えば、RNA、タンパク質、ポリマーなど)、標的産物の特定の詳細(例えば、化学構造、分子量、アフィニティータグなど)、及び必要な純度(例えば、低から高まで)に応じて、当業者に明らかであろう。例えば、標的RNAに相当する標的産物に関して、組換え微生物の培養後、当技術分野で知られている方法の中でも特に、Steadら、Nucleic Acids Research 40(20)、e156:1-9(2012)に記載されているように、RNAsnap(商標)法を使用することにより、又はTRIzol(商標)Max(商標)バクテリアRNA分離キット(ThermoFisher Scientific)、RNeasy(商標)Protectバクテリア分離キット(Qiagen)などの市販の方法により、又はRiboPure(商標)バクテリアRNA分離(ThermoFisher Scientific)により、標的RNAを組換え微生物から回収することができる。標的タンパク質に相当する標的産物について、標的タンパク質は、当技術分野で周知の手順に従って、抽出、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、及び/又は沈殿による濃縮により、組換え微生物から回収することができる。標的ポリマーに相当する標的産物について、標的ポリマーは、化学構造及び分子量に基づいて選択された洗浄用の組成物及び沈殿剤での抽出、洗浄、及び濃縮によって回収することができ、これも当技術分野で周知の手順に従う。標的甘味料、標的油、標的脂肪、標的多糖類、標的アミノ酸、又は標的ヌクレオチドに相当する標的産物について、標的産物が組換え微生物内に蓄積する場合も、同様のアプローチを使用することができる。一方、標的産物が細胞外に蓄積する場合、標的産物は、例えば培養培地からの沈殿により、やはり当技術分野で周知の手順に従って回収することができる。標的ワクチン又は標的医薬品に相当する標的産物の場合、例えば、標的タンパク質について上記で説明したように、数あるアプローチの中でも特に、例えば抗原又は抗原フラグメントに相当する標的ワクチンのイオン交換クロマトグラフィーに基づき、又はモノクローナル抗体に相当する医薬品のアフィニティークロマトグラフィーに基づき、やはり当技術分野で周知の手順に従って標的産物を回収することができる。
【0084】
いくつかの例において、組換え微生物における変異体incRNAの発現は、上記のように、対照微生物における配列番号19を含むinc配列によってコードされる野生型incRNAの発現と比較して、ベクターのコピー数を増加させる。この場合も、対照微生物は、例えば、組換え微生物と同じ属、種、及び/又は株に由来することができ、類似又は同一のプラスミド及び/又は標的遺伝子を含むことができる。
【0085】
標的産物をより詳細に検討すると、いくつかの例では、標的産物は、(i)標的ポリマー、その前駆体、及び/又はその産生のための酵素、又は(ii)標的生体高分子、その前駆体、及び/又はその生産のための酵素のうちの1つ以上を含む。生体高分子を含むポリマーの生物学的生産は、特に複雑な化学構造を有するモノマー及び/又は2種以上のモノマーを含むコポリマーに基づくポリマーの場合、組換え微生物における複数の標的遺伝子の協調的な導入及び発現が必要なために、困難な場合がある。上記の他の標的産物、特に標的甘味料、標的脂肪、標的多糖類、標的アミノ酸、標的ヌクレオチド、標的ワクチン、及び標的医薬品に関しても同様の考慮事項が適用される。
【0086】
この方法は、例えば、標的ポリマー、標的生体高分子、標的甘味料、標的脂肪、標的多糖、標的アミノ酸、又は標的ヌクレオチドの生産において、組換え微生物へのベクターの安定した取り込みと標的遺伝子の産物の収率の制御とのバランスをとるために、複数の標的遺伝子を含むベクターの適切なコピー数をより迅速に決定するのに有用であり得る。野生型中央ドメインを含むRepFICレプリコンを含み、少数から多数までの(例えば、比較的大きいサイズから小さいサイズまでのベクターサイズに基づく)ベクターコピー数の第1の範囲をカバーするベクターの第1のセットを調製することができる。ベクターの第2のセットであって、変異体中央ドメインを含み、したがって第2のより多い範囲のベクターコピー数をカバーすること以外は第1のセットと同一であるベクターの第2のセットを調製することができる。標的遺伝子のセットを各ベクターにクローニングすることができる。この方法は、各ベクターを使用して実施することができ、(1)ベクターを導入するステップ、(2)対応する組換え微生物を培養するステップ、及び(3)対応する標的産物を回収するステップを含む。コピー数は培養中にベクターごとに決定することができる。標的産物の収率又はその他の関連する特性は、回収中に決定することができる。このアプローチは、ベクターの第1のセットで達成できるコピー数の上限を大幅に増やすことができる。これは、標的遺伝子の過剰発現が十分に許容される場合に収率を最大化するのに有利である。このアプローチは、標的産物の収率に対するベクターコピー数の影響をテストすることに関して、サンプルサイズを効果的に2倍にすることもできる。このアプローチは、3~120kbのサイズのプラスミドを含む、及び/又は複数の標的遺伝子を含むプラスミドに相当するベクターに特に使用することができる。
【0087】
ベクターを含み、この場合、変異体rpoCRNA-ポリメラーゼβ’サブユニットタンパク質コード配列(「変異体rpoCコード配列」とも呼ばれる)も含む核酸分子を含む別の組換え微生物も開示されている。
【0088】
ベクターは上記のものとすることができる。したがって、やはりいくつかの例において、変異体incRNAの発現は、配列番号19を含むinc配列によってコードされる野生型incRNAの発現と比較して、ベクターのコピー数を増加させる。また、いくつかの例では、ベクターはプラスミドを含む。
【0089】
組換え微生物はまた、上記のものとすることができる。したがって、再びいくつかの例において、組換え微生物の変異体incコード鎖は、上記のように、配列番号17と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を含む。この場合も、例えば、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるヌクレオチド配列を含み得る。また、いくつかの例では、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17の少なくとも90ヌクレオチドに関して配列番号17と同一であるヌクレオチド配列を含む。例えば、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17の少なくとも91、92、93、94、95、96、97、又は98ヌクレオチドに関して配列番号17と同一であるヌクレオチド配列を含むことができる。また同じく、いくつかの例において、組換え微生物の変異体incコード鎖は、上記のように、配列番号17を含む。また、いくつかの例では、変異体incコード鎖は、以下のような1つ以上の置換を含む配列番号17の変異体を含む:ヌクレオチド42位でのTからC、ヌクレオチド66位でのAからC、又はヌクレオチド89位でのGからT、ここで、説明したように、位置の番号付けは配列番号17に従ってなされている。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17のヌクレオチド1~7位のうちの1つ以上を欠く配列番号17の変異体を含む。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17のヌクレオチド94~98位のうちの1つ以上を欠く配列番号17の変異体を含む。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、ヌクレオチド42位、66位、及び89位に加えて、又はこれらのヌクレオチド位置以外に、1つ以上の他の置換を含む配列番号17の変異体を含む。
【0090】
前述のように、この場合、組換え微生物は、ベクターとともに、変異体rpoCコード配列を含む別の核酸分子を含む。変異体rpoCコード配列は、変異体RpoC RNAポリメラーゼβ’サブユニットタンパク質(「変異体RpoC」とも呼ばれる)をコードする。変異体RpoCはR47C置換を含み、R47C置換の番号付けは、大腸菌の野生型RpoCRNAポリメラーゼβ’サブユニットタンパク質(野生型RpoC)に基づいて定義されている。
【0091】
驚くべきことに、変異体rpoCコード配列が変異体RpoCをコードし、変異体RpoCがR47C置換を含む、変異体rpoCコード配列を含む核酸分子を使用すると、そのヌクレオチド配列を含む組換え微生物において、対応する染色体コピー数の減少は引き起こさずに、プラスミドのコピー数の実質的な減少を引き起こすことができることが分かった。Ederthら及びPetersenらによって説明されているように、単一の置換を含む大腸菌RpoCの変異体は、rpoC遺伝子の3’末端領付近にのみ、つまりRpoCのC末端ドメイン配列にのみ変異を含んでいたのに対し、本明細書に開示されるR47C置換は、RpoCのN末端ドメイン配列内で生じることを考えると、これは特に驚くべきことである。Ederthら及びPetersenらによって説明されているような大腸菌RpoCの変異体における単一の置換は、保存された残基に囲まれていないRpoC配列内の位置で発生し、保存された配列内では発生しないのに対し、本明細書に開示されるR47C置換は、通常は多様な細菌のRpoC間で厳密に保存されている9アミノ酸残基のN末端ドメイン配列内で生じることからも、これは驚くべきことである。
【0092】
理論に拘束されることを望まないが、多様な細菌由来の野生型RpoCは、野生型RpoC間で厳密に保存されている、配列番号44の残基40~48に相当するN末端ドメイン配列を含むと考えられる。
図7に示すように、この配列は、多様な系統発生、代謝、及び環境を代表する19種類の多様な細菌、すなわち高度好熱菌(Thermus thermophilus)、アセトバクター属酢酸菌(Acetobacter pasteurianus)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella enterica serovar Typhimurium)、アクチノマイセス・オドントリティカス(Actinomyces odontolyticus)、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、枯草菌(Bacillus subtilis)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、エンテロコッカス・ファエカリス(Enterococcus faecalis)、及びラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)の間で厳密に保存されている。参考までに、これらの配列は、Leeらによって提供された21系統のRpoCのC末端ドメインのアラインメントから得られる完全長のRpoC配列に相当する。また、多様な細菌からの野生型RpoCには、配列番号47に相当する中央ドメイン配列も含まれると考えられ、これも野生型RpoC間で厳密に保存されている。
図8に示すように、この配列はまた、上記の19種類の多様な細菌の間で厳密に保存されている。多様な範囲の細菌由来の野生型RpoCには、同じく野生型RpoC間で厳密に保存されている配列番号48に相当するC末端ドメイン配列も含まれていると考えられる。
図9A~Bに示すように、この配列はまた、上記19種類の多様な細菌の間で厳密に保存されている。
【0093】
さらに、それぞれ厳密に保存されたN末端ドメイン配列、中央ドメイン配列、及びC末端ドメイン配列を含む、配列番号44の残基33~57に相当するより長いN末端ドメイン配列、配列番号50に相当するより長い中央ドメイン配列、及び配列番号51に相当するより長いC末端ドメイン配列は、上記19種類の多様な細菌のRpoC間で概ね保存されている多数の残基を含むと考えられる。
図7、
図8、及び
図9A~Bに示すように、大腸菌RpoCは、これらの長い配列を含む。また、他の細菌からのRpoCには、これらの長い配列と非常に類似した配列が含まれている。
【0094】
多様な細菌由来の野生型RpoCは、厳密に保存されたN末端、中央、及びC末端ドメイン配列を含むため、これらの配列は他の細菌の野生型RpoC間でも厳密に保存されていると考えられる。背景として、表1に示すように、他の18種類の多様な細菌のRpoCと比較した大腸菌のRpoCのペアワイズ配列アラインメントの結果は、大腸菌とは系統発生学的、代謝的、及び環境的に遠い極端な好熱性の高度好熱菌などの細菌のRpoCでも、比較的高い配列同一性及び類似性を示している。これは、RpoCが転写及び複製で果たす基本的な役割と一致している。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
*ペアワイズ配列アラインメントは、デフォルト設定(マトリックス:BLOSUM62;ギャップオープン:10;ギャップ拡張:0.5;出力フォーマット:ペア;エンドギャップペナルティ:false;エンドギャップオープン:10;エンドギャップ拡張:0.5)を使用したEMBOSSニードルペアワイズシーケンスアラインメント(PROTEIN)ツールを使用して行った(ウェブサイト:ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/)。
【0099】
また、多様な細菌由来の野生型RpoCは、より長いN末端、中央、及びC末端ドメイン配列と非常に類似した配列を含むため、他の細菌の野生型RpoCもこれらの配列に非常に類似した配列を含むと考えられる。さらに、厳密に又は概ね保存されている様々な配列に基づいて、対応するN末端、中央、及びC末端ドメイン配列は、RpoCが転写及び染色体とプラスミドの複製において果たす役割において、構造的及び/又は機能的に重要な貢献をすると考えられる。
【0100】
また、理論に拘束されることを望まないが、RpoCでは特にN末端ドメインがプラスミドのコピー数を決定する上で重要な役割を果たすと考えられる。
図10及び
図11に示すように、変異体rpoCコード配列は、配列番号46を含むN末端ドメインを含み、これは、野生型N末端ドメインの厳密に保存された配列とは1つの置換、すなわちアミノ酸47位のR(すなわちアルギニン)からC(すなわちシステイン)への置換(「R47C」とも呼ばれる)によって異なる。ここで、番号付けは大腸菌の野生型RpoCに基づいて定義されている。このR47C置換を含み、それ以外は大腸菌の野生型RpoCと同一である変異体RpoCは、例えば、約25%~75%のプラスミドコピー数の減少を示す。N末端ドメインのR47C置換は、大腸菌の変異体RpoCと野生型RpoCの唯一の違いであるため、ならびに、R47C置換は、上記19種類の多様な細菌の間で概ね保存されている多数の残基を含む長いN末端ドメイン配列内に位置しているため、さらには、上記19種類の多様な細菌の野生型RpoCの中で配列番号44の残基40~48に相当する厳密に保存されたN末端ドメイン配列内で他の置換が生じないため、N末端ドメインはプラスミドコピー数の決定において重要であるように思われる。
【0101】
本明細書で使用される場合、RNAポリメラーゼβ’サブユニットタンパク質という用語は、RNAポリメラーゼのRNAポリメラーゼβ’サブユニットを意味する。上記のように、RNAポリメラーゼは転写に関与する。RNAポリメラーゼは、染色体及びプラスミドの複製にも関与する。RNAポリメラーゼβ’サブユニットタンパク質は、既知のRNAポリメラーゼβ’サブユニットタンパク質との構造的及び/又は機能的類似性に基づいて、例えば、Leeらによって示されるような配列アラインメント、及び/又はMukhopadhyayらによって論じられているような構造的特徴に基づいて同定することができる。RNAポリメラーゼ活性は、例えば、Chamberlin et al.,The Journal of Biological Chemistry 254(20):100611-10069(1979)に記載されているように測定することができる。
【0102】
本明細書で使用される場合、rpoC RNA-ポリメラーゼβ’サブユニットタンパク質コード配列という用語は、RNA-ポリメラーゼβ’サブユニットタンパク質の配列をコードするDNA分子鎖又はDNA分子鎖の一部を意味する。
【0103】
本明細書で使用される場合、野生型RNAポリメラーゼβ’サブユニットタンパク質という用語は、自然条件下において同じ種の個体に共通して生じるRNAポリメラーゼβ’サブユニットタンパク質を意味する。
【0104】
本明細書で使用される場合、N末端ドメインという用語は、タンパク質のN末端又はその付近、例えばタンパク質のアミノ酸配列の最初の3分の1内に存在するタンパク質の一部を意味する。
【0105】
本明細書で使用される場合、中央ドメインという用語は、タンパク質の中央又はその付近、例えばタンパク質のアミノ酸配列の中央3分の1内に存在するタンパク質の一部を意味する。
【0106】
本明細書で使用される場合、C末端ドメインという用語は、タンパク質のC末端又はその付近、例えばタンパク質のアミノ酸配列の最後の3分の1内に存在するタンパク質の一部を意味する。
【0107】
前述のように、変異体rpoCコード配列を含む核酸分子が開示されている。核酸分子は、例えば、変異体rpoCコード配列が導入された染色体DNAなどの二本鎖DNA分子、又は変異体rpoCコード配列がクローニングされたプラスミドであり得る。
【0108】
また、前述のように、変異体rpoCコード配列は変異体RpoCをコードする。変異体RpoCは、R47C置換を含むことに基づく変異体であり、R47C置換の番号付けは、大腸菌の野生型RpoCに基づいて定義されている。変異体RpoCは1種のRpoCであるため、転写、染色体の複製、及びプラスミドの複製において役割を果たす。上記19種類の多様な細菌の野生型RpoCが、例えば保存されていないアミノ酸位置で互いに異なるのと同様に、変異体RpoCも変異体rpoCコード配列のソースに応じて変化し得る。したがって、例えば、変異体RpoCは、R47C置換を含み得、それ以外は大腸菌の野生型RpoCと少なくとも90%同一であり得る。また、例えば、変異体RpoCはR47C置換を含み、それ以外は他の18種類の多様な細菌、すなわち、高度好熱菌(Thermus thermophilus)、アセトバクター属酢酸菌(Acetobacter pasteurianus)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella enterica serovar Typhimurium)、アクチノマイセス・オドントリティカス(Actinomyces odontolyticus)、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、枯草菌(Bacillus subtilis)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、エンテロコッカス・ファエカリス(Enterococcus faecalis)、又はラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)のいずれかの野生型RpoCと少なくとも90%同一であってもよい。また、例えば、変異体RpoCは、R47C置換、及び、大腸菌又は他の18種類の多様な細菌の1つ以上の野生型RpoCの1つ以上の部分を含み得る。
【0109】
いくつかの例では、変異体RpoCは、(1)配列番号46を含むN末端ドメイン、(2)配列番号47を含む中央ドメイン、及び(3)配列番号48を含むC末端ドメインをさらに含み、R47C置換はN末端ドメイン内に存在する。これらの例では、変異体RpoCは、R47C置換を含む、配列番号46に相当するN末端ドメイン配列を含む。変異体RpoCはまた、配列番号47に相当する厳密に保存された中央ドメイン配列及び配列番号48に相当する厳密に保存されたC末端ドメイン配列を含み、RpoCが転写ならびに染色体及びプラスミドの複製において果たす役割と一致する。
【0110】
いくつかの例では、変異体RpoCは、(1)配列番号49を含むN末端ドメイン、(2)配列番号50を含む中央ドメイン、及び(3)配列番号51を含むC末端ドメインをさらに含み、R47C置換はN末端ドメイン内に存在する。これらの例では、変異体RpoCは、R47C置換を含む、配列番号49に相当するN末端ドメイン配列を含む。変異体RpoCはまた、配列番号50に相当する概ね保存されたより長い中央ドメイン配列及び配列番号51に相当する概ね保存されたより長いC末端ドメイン配列を含み、これも転写及び染色体とプラスミドの複製においてRpoCが果たす役割と一致する。
【0111】
いくつかの例において、変異体RpoCは、配列番号45と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。参考までに、配列番号45は、R47C置換を含み、それ以外は大腸菌の野生型RpoCと同一である変異体RpoCに相当する。また、参考のために、変異体RpoCのアミノ酸配列と配列番号45との間の配列同一性のパーセンテージは、ペアワイズ配列アラインメントを行うことによって決定することができる。これは、デフォルト設定(マトリックス:BLOSUM62;ギャップオープン:10;ギャップ拡張:0.5;出力フォーマット:ペア;エンドギャップペナルティ:false;エンドギャップオープン:10;エンドギャップ拡張:0.5)を使用したEMBOSSニードルペアワイズシーケンスアラインメント(PROTEIN)ツールを使用して行うことができる(ウェブサイト:ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/)。これは、同様の他のペアワイズ配列アラインメントツールを使用して行うこともできる。
【0112】
変異体RpoCのアミノ酸配列は、例えば、主に又は完全に、大腸菌の野生型RpoCと他の18種類の多様な細菌のRpoCとの間で保存されていないアミノ酸残基の置換に基づいて、配列番号45とは異なり得る。表1を参照すると、他の18種類の多様な細菌のRpoCと比較した大腸菌のRpoCのペアワイズ配列アラインメントの結果は、比較的高い配列同一性及び類似性を示しているが、この結果は、多様な細菌のうち17種類のRpoCが、大腸菌の野生型RpoCと比較して36.1%~82.4%の範囲の、つまり90%を大きく下回る配列同一性を有することも示している。類似のタンパク質間で保存されていないアミノ酸残基の置換は、保存されているアミノ酸残基の置換と比較して、一般に許容されやすく、例えば、構造及び/又は機能を破壊しない可能性が高い。表1の結果は、RpoCが保存されていない多くのアミノ酸残基を含むため、置換を受け入れやすい可能性があることを示している。
【0113】
変異体RpoCのアミノ酸配列はまた、例えばいくつか又は多くの保存的置換を含むことに基づいて、配列番号45とは異なり得る。これは、配列番号45と比較して、アミノ酸残基を別の構造的に類似したアミノ酸残基で置換することを意味する。保存的置換には、通常、次のグループ内の置換が含まれる:(1)グリシン及びアラニン、(2)バリン、イソロイシン、及びロイシン、(3)アスパラギン酸及びグルタミン酸、(4)アスパラギン及びグルタミン、(5)セリン及びスレオニン、(6)リジン及びアルギニン、ならびに(7)フェニルアラニン及びチロシン。一般に、保存的置換は、保存的でない置換と比較して許容されやすい。
【0114】
したがって、これらの例では、変異体RpoCはR47C置換を含む。変異体RpoCはまた、配列番号45と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。例えば、変異体RpoCは、配列番号45と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含むことができる。
【0115】
いくつかの例において、変異体RpoCは配列番号45を含む。
いくつかの例において、変異体RpoCの発現は、配列番号44を含む野生型RpoCの発現と比較して、プラスミドのコピー数を減少させる。参考までに、配列番号44は大腸菌の野生型RpoCに相当する。上記のように、変異体RpoCは1種のRpoCであるため、転写、染色体の複製、及びプラスミドの複製において役割を果たす。また、上記のように、R47C置換を含み、それ以外は大腸菌の野生型RpoCと同一である変異体RpoCは、プラスミドコピー数を、例えば、約25%~75%減少させる。
【0116】
重要なことに、上述したような、配列番号15を含む変異体incコード鎖を含むベクターも含む組換え微生物の状況において、変異体RpoCの存在は、ベクターのコピー数の減少を引き起こし得る。減少は、例えば、(i)野生型RpoCを発現している微生物にも存在する、1つのCからTへの置換によって野生型中央ドメインとは異なる中央ドメインを含む変異体RepFICレプリコンを含むベクターのコピー数と、(ii)同じく野生型RpoCを発現している微生物にも存在する、1つのCからTへの置換を含まないRepFICレプリコンを含む対応するベクターのコピー数との中間のコピー数になり得る。したがって、変異体RpoCの存在は、プラスミドコピー数を、例えば変異体incコード鎖で取得できるレベルと、野生型incコード鎖で取得できるレベルとの間で調節するために使用することができる。
【0117】
いくつかの例において、変異体RpoCの発現は、配列番号44を含む野生型RpoCの発現と比較して、プラスミドのコピー数を10%~80%、25%~75%、30%~70%、35%~65%、40%~60%、45%~55%、10%~40%、20%~50%、30%~60%、40%~70%、又は50%~80%減少させる。
【0118】
変異体rpoCコード配列を含む核酸分子を含む組換え微生物は、組換え微生物を取得するために、例えば、ベクターにクローニングされた完全な変異体rpoCコード配列を、前駆体微生物に、例えば形質転換、接合、又は形質導入により導入し、続いて、例えばベクターの選択により、完全な変異体rpoCコード配列を組換え微生物中に維持することによって得ることができる。これは、分子生物学の標準的な技術によって達成することができる。いくつかの例では、組換え微生物は、核酸配列を含むrpoCコード配列ベクター、例えばプラスミドを、形質転換、接合、又は形質導入のうちの1つ以上によって前駆体微生物に導入することにより調製することができる。
【0119】
変異体rpoCコード配列を含む核酸分子を含む組換え微生物はまた、例えば、変異体rpoCコード配列の一部を導入することによって、例えば、ベクターにクローニングし、その部分を使用して、内因性染色体の野生型rpoCコード配列の対応する部分を、例えばsacBベクターを使用した、例えば相同組換えによる遺伝子置換によって置換することにより得ることができる。これは、分子生物学の標準的な技術によっても達成できる。したがって、いくつかの例では、組換え微生物は染色体を含み、変異体rpoCコード配列は、変異体rpoCコード配列による内因性rpoCコード配列の置換に基づいて染色体に存在する。
【0120】
上記のように、R47C置換を含み、それ以外は大腸菌の野生型RpoCと同一である変異体RpoCは、例えば、プラスミドコピー数を約25%~75%減少させる。以下で説明するように、これは様々な大腸菌株で達成された。したがって、変異体rpoCコード鎖を含む核酸分子は、特にエシェリキア属の細菌、特に大腸菌種の細菌においてプラスミドコピー数を調節することができる。
【0121】
組換え微生物におけるベクターのコピー数を調節するための別の方法も開示されており、この場合、上記のような変異体rpoCコード配列を含む核酸分子を含む組換え微生物を用いている。
【0122】
ベクターは上記のものとすることができる。したがって、やはりいくつかの例において、変異体incRNAの発現は、配列番号19を含むinc配列によってコードされる野生型incRNAの発現と比較して、ベクターのコピー数を増加させる。また、いくつかの例では、ベクターはプラスミドを含む。
【0123】
組換え微生物はまた、上記のものとすることができる。したがって、やはりいくつかの例において、組換え微生物の変異体incコード鎖は、上記のように、配列番号17と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を含む。この場合も、例えば、変異体incコード鎖は、上記のように、配列番号17と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるヌクレオチド配列を含み得る。また、いくつかの例では、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17の少なくとも90ヌクレオチドに関して配列番号17と同一であるヌクレオチド配列を含む。例えば、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17の少なくとも91、92、93、94、95、96、97、又は98ヌクレオチドに関して配列番号17と同一であるヌクレオチド配列を含むことができる。また、やはりいくつかの例において、組換え微生物の変異体incコード鎖は、上記のように、配列番号17を含む。また、いくつかの例では、変異体incコード鎖は、以下のような1つ以上の置換を含む配列番号17の変異体を含む:ヌクレオチド42位でのTからC、ヌクレオチド66位でのAからC、又はヌクレオチド89位でのGからT、ここで、位置の番号付けは、説明したように、配列番号17に従ってなされている。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17のヌクレオチド1~7位のうちの1つ以上を欠く配列番号17の変異体を含む。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17のヌクレオチド94~98位のうちの1つ以上を欠く配列番号17の変異体を含む。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、ヌクレオチド42位、66位、及び89位に加えて、又はこれらのヌクレオチド位置以外に、1つ以上の他の置換を含む配列番号17の変異体を含む。
【0124】
この方法は、(1)ベクターを前駆体微生物に導入することによって組換え微生物を得るステップを含む。
この方法はまた、(2)ベクターの複製に十分な条件下で培養培地中で組換え微生物を培養することにより、ベクターのコピー数を調節するステップを含む。この場合も、培養は、微生物学の標準的な技術によって、例えば、培養管、フラスコ、及び/又はバイオリアクターにおいて、適切な培養培地、例えば、栄養豊富な培地又は最小培地で、適切なインキュベーション温度、例えば約25~38℃、28~37℃、又は37℃で実施することができ、その詳細は、当業者には明らかであろう。
【0125】
上記のように、組換え微生物はまた、上述したような変異体rpoCコード配列を含む核酸分子を含む。この場合も、変異体rpoCコード配列は変異体RpoCをコードする。変異体RpoCは、R47C置換を含み、R47C置換の番号付けは、大腸菌の野生型RpoCに基づいて定義されている。したがって、いくつかの例では、変異体RpoCは、(1)配列番号46を含むN末端ドメイン、(2)配列番号47を含む中央ドメイン、及び(3)配列番号48を含むC末端ドメインをさらに含み、R47C置換は、N末端ドメイン内に存在する。いくつかの例では、変異体RpoCは、(1)配列番号49を含むN末端ドメイン、(2)配列番号50を含む中央ドメイン、及び(3)配列番号51を含むC末端ドメインをさらに含み、R47C置換は、N末端ドメイン内に存在する。いくつかの例では、変異体RpoCは、配列番号45と少なくとも90%同一である、例えば、配列番号45と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの例において、変異体RpoCは、配列番号45を含む。いくつかの例において、変異体RpoCの発現は、配列番号44を含む野生型RpoCの発現と比較して、プラスミドのコピー数を例えば10%~80%、例えば25%~75%、30%~70%、35%~65%、40%~60%、45%~55%、10%~40%、20%~50%、30%~60%、40%~70%、又は50%~80%減少させる。
【0126】
組換え微生物においてベクターを使用することによって標的産物を作製する別の方法も開示され、この場合は、上記のような変異体rpoCコード配列を含む核酸分子を含む組換え微生物を用いる。
【0127】
ベクターは上記のものとすることができる。したがって、やはりいくつかの例において、変異体incRNAの発現は、配列番号19を含むinc配列によってコードされる野生型incRNAの発現と比較して、ベクターのコピー数を増加させる。また、いくつかの例では、ベクターはプラスミドを含む。
【0128】
組換え微生物はまた、上記のものとすることができる。したがって、再びいくつかの例において、組換え微生物の変異体incコード鎖は、上記のように、配列番号17と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を含む。この場合も、例えば、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるヌクレオチド配列を含み得る。また、いくつかの例では、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17の少なくとも90ヌクレオチドに関して配列番号17と同一であるヌクレオチド配列を含む。例えば、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17の少なくとも91、92、93、94、95、96、97、又は98ヌクレオチドに関して配列番号17と同一であるヌクレオチド配列を含むことができる。また、やはりいくつかの例において、組換え微生物の変異体incコード鎖は、上記のように、配列番号17を含む。また、いくつかの例では、変異体incコード鎖は、以下のような1つの置換を含む配列番号17の変異体を含むことができる:ヌクレオチド42位のTからC、ヌクレオチド66位のAからC、又はヌクレオチド89位のGからT、ここで、位置の番号付けは、説明したように、配列番号17に従ってなされている。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17のヌクレオチド1~7位のうちの1つ以上を欠く配列番号17の変異体を含む。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、配列番号17のヌクレオチド94~98位のうちの1つ以上を欠く配列番号17の変異体を含む。いくつかの例において、変異体incコード鎖は、説明したように、ヌクレオチド42位、66位、及び89位に加えて、又はこれらのヌクレオチド位置以外に、1つ以上の他の置換を含む配列番号17の変異体を含む。
【0129】
この方法によれば、ベクターは、上記のように、標的産物を作製するための標的遺伝子をさらに含む。
この方法は、(1)ベクターを前駆体微生物に導入することによって組換え微生物を得るステップを含む。この方法はまた、(2)組換え微生物が標的遺伝子を発現する条件下、培養培地中で組換え微生物を培養することにより、標的産物を作製するステップを含む。この方法はまた、(3)組換え微生物及び/又は培養培地から標的産物を回収するステップを含む。
【0130】
上記のように、組換え微生物はまた、上述したような変異体rpoCコード配列を含む核酸分子を含む。この場合も、変異体rpoCコード配列は変異体RpoCをコードする。変異体RpoCは、R47C置換を含み、R47C置換の番号付けは、大腸菌の野生型RpoCに基づいて定義されている。したがって、いくつかの例では、変異体RpoCは、(1)配列番号46を含むN末端ドメイン、(2)配列番号47を含む中央ドメイン、及び(3)配列番号48を含むC末端ドメインをさらに含み、R47C置換は、N末端ドメイン内に存在する。いくつかの例では、変異体RpoCは、(1)配列番号49を含むN末端ドメイン、(2)配列番号50を含む中央ドメイン、及び(3)配列番号51を含むC末端ドメインをさらに含み、R47C置換は、N末端ドメイン内に存在する。いくつかの例では、変異体RpoCは、配列番号45と少なくとも90%同一である、例えば、配列番号45と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの例において、変異体RpoCは、配列番号45を含む。いくつかの例において、変異体RpoCの発現は、配列番号44を含む野生型RpoCの発現と比較して、プラスミドのコピー数を例えば10%~80%、例えば25%~75%、30%~70%、35%~65%、40%~60%、45%~55%、10%~40%、20%~50%、30%~60%、40%~70%、又は50%~80%減少させる。
【0131】
この方法は、例えば、標的ポリマー、標的生体高分子、標的甘味料、標的脂肪、標的多糖、標的アミノ酸、標的ヌクレオチド、標的ワクチン、又は標的医薬品の生産において、組換え微生物へのベクターの安定した取り込みと標的遺伝子の産物の収率の制御とのバランスをとるために、複数の標的遺伝子を含むベクターの適切なコピー数を迅速に決定するのに有用であり得る。上記のように、野生型中央ドメインを含むRepFICレプリコンを含み、少数から多数までの(例えば、比較的大きいサイズから小さいサイズまでのベクターサイズに基づく)ベクターコピー数の第1の範囲をカバーするベクターの第1のセットを調製することができる。ベクターの第2のセットであって、変異体中央ドメインを含み、したがって第2のより多い範囲のベクターコピー数をカバーすること以外は第1のセットと同一であるベクターの第2のセットを調製することができる。標的遺伝子のセットを各ベクターにクローニングすることができる。ベクターの第1及び第2のセットを、野生型rpoCコード配列を含み、したがって野生型RpoCを発現する第1の細菌株、例えば大腸菌株に導入することで、ベクターの第1及び第2のセットを含み、野生型RpoCを発現する大腸菌株の第1のセットを得ることができる。また、ベクターの第1及び第2のセットを、R47C置換を含む変異体RpoCをコードする変異体rpoCコード配列を含む、対応する第2の組換え細菌株であって、その他は第1の株と同じである第2の組換え細菌株、例えば組換え大腸菌株に導入することで、ベクターの第1及び第2のセットを含み、変異体RpoCを発現する対応する大腸菌株の第2のセットを得ることができる。この方法は、各ベクターを使用して実施することができ、(1)ベクターを導入するステップ、(2)対応する組換え微生物を培養するステップ、及び(3)対応する標的産物を回収するステップを含む。コピー数は培養中にベクターごとに決定することができる。標的産物の収率又はその他の関連する特性は、回収中に決定することができる。上記のように、RepFICレプリコンの変異体中央ドメインの使用に関連してベクターの第1のセットで達成できるコピー数の上限を実質的に増やすことに加えて、このアプローチは、変異体RpoCの発現に基づいてベクターの第1のセットで達成できるコピー数の下限を実質的に減らすこともでき、これは、標的遺伝子の発現が有害である場合、例えば、細胞内で特定のレベルを超えて発現した場合に細胞に対して毒性のある標的RNA及び/又は標的タンパク質をコードする標的遺伝子の場合に株の細胞の生存率を維持するのに有利であり得る。このアプローチはまた、標的産物の収率に対するベクターコピー数の影響を試験することに関して、サンプルサイズを効果的に4倍にすることができる。この場合も、このアプローチは、3~120kbのサイズのプラスミドを含む、及び/又は複数の標的遺伝子を含むプラスミドに相当するベクターに特に使用することができる。
【0132】
実施例
実施例1.RepFICレプリコンの改変されたDNA配列を含むプラスミドの構築
(1)RepFICフラグメント及びカナマイシン耐性遺伝子フラグメントの調製。
【0133】
RepFICレプリコン(配列番号1)を含む5.2kbのDNAフラグメントを増幅するために、原栄養性K-12株であり、Coli Genetic Stock Center(CGSC)(株12355)から入手した大腸菌株NCM3722のゲノムDNA(gDNA)を、QIAGEN Genomic-tipシステムを使用して抽出し、上記gDNAをテンプレートとして用い、PfuUltra II Fusion HS DNAポリメラーゼ(Agilent社製)を使用してポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施した。PCRは、配列番号2及び配列番号3のプライマーを使用して、95℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で5分間の伸長を30サイクル行った。
【0134】
カナマイシン耐性遺伝子を含む1.4kbのDNAフラグメントを増幅するために、プラスミドpKD4をテンプレートとして用い、PfuUltra II Fusion HS DNAポリメラーゼを使用してPCRを行った。PCRは、配列番号4及び配列番号5のプライマーを使用して、94℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分30秒間の伸長を30サイクル行った。
【0135】
PCR反応が完了した後、1.3mLのDpnI及び5.7mlのThermo Fisher Scientificの10×バッファーTango(カタログ番号ER1701)を50μLのPCR混合物に加え、37℃で1時間インキュベートしてテンプレートDNAを除去した。混合物をQIAGEN精製キットで精製し、次に溶出して、5.2kbのDNAフラグメント(「RepFICフラグメント」とも呼ばれる)及び1.4kbのDNAフラグメント(「KanRフラグメント」とも呼ばれる)を得た。
【0136】
(2)改変された配列を含むRepFICフラグメントの調製。
改変された配列(配列番号17、逆相補鎖は配列番号6)を有するRepFICレプリコンを含む5.2kbのDNAフラグメントを増幅するために、大腸菌NCM3722のgDNAをテンプレートとして用い、PfuUltra II Fusion HS DNAポリメラーゼを使用してPCRを行った。PCRは、配列番号2及び配列番号7のプライマーを使用して、95℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、72℃で3分間の伸長を30サイクル行った。配列番号8及び配列番号3のプライマーを使用して、72℃で2分30秒間伸長するために別のPCRを行った。
【0137】
PCR反応が完了した後、1.3mLのDpnI及び5.7mlの10×バッファーTangoを50μLのPCR反応混合物に加え、37℃で1時間インキュベートしてテンプレートDNAを除去した。混合物をQIAGEN精製キットで精製し、次に溶出して、2.8kbのDNAフラグメント及び2.4kbのDNAフラグメントを得た。
【0138】
(3)RepFICレプリコンの野生型又は改変配列を含むプラスミドの構築。
実施例1-(1)に記載のRepFICフラグメント及びKanRフラグメントを、
図5A~Bに示すように、pJSL40と呼ばれるプラスミドの構築に使用した。pJSL40プラスミドは、NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(NEB製)を使用して構築された。
【0139】
実施例:1-(2)に記載の2.8kb及び2.4kbのDNAフラグメント及び実施例:1-(1)に記載のKanRフラグメントを、
図6A~Bに示すように、pJSL41と呼ばれる別のプラスミドの構築に使用した。3つのフラグメントのギブソンアセンブリは、NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mixを使用して実施された。
【0140】
(4)RepFICレプリコンの改変配列を含むF-様プラスミドの構築。
RepFICレプリコンの改変配列が1万塩基対から100キロベース(kb)以上のサイズの大きなプラスミドのコピー数に及ぼす影響を調べるために、大腸菌NCM3722のF-様プラスミドのRepFIC配列を既知のワンステップ不活化法(Warner et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.97(12):6640-6645、(2000))を使用することにより、上記の改変配列(配列番号6)で置換した。最初に、Cre-loxPリコンビナーゼシステムを使用してRepFICの改変配列を導入するための線状DNAフラグメントを、プラスミドpKD3をテンプレートとする、配列番号9及び配列番号10のプライマーを使用して次のように実施したPCRによって調製した。94℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で1分間の伸長を30サイクル行い、1.2kbのPCRフラグメントを取得する。PCR混合物を上記のようにDpnIで処理し、増幅されたDNAフラグメントをQIAGEN精製キットで精製した。
【0141】
線状DNAフラグメントを、エレクトロポレーションによって大腸菌NCM3722/pKD46に導入した。これは、pKD46プラスミドを大腸菌NCM3722(Warnerら)に導入することによって構築された。次に、単一コロニーを15μg/mLのクロラムフェニコールを含むルリア-ベルターニ(LB)プレート上で単離した。単離した株のRepFIC領域を配列決定し、F-様プラスミドの野生型配列を置換したRepFICの改変配列を含む株を選択した。プラスミドpJW168(BMG Biotechnol.2001;1:7.Epub 2001年9月26日)を選択した株に導入して、野生型RepFICがRepFICの改変配列に置換された組換えpJSL42を調製した。pJSL42プラスミドを含む大腸菌NCM3722分離株を、大腸菌株CC06-9612と命名した。
【0142】
実施例2:プラスミドコピー数の測定
プラスミドコピー数を測定するために、プラスミドpJSL40及びpJSL41を、Coli Genetic Stock Center(CGSC No.6300)から入手した大腸菌株MG1655に導入した。pJSL40及びpJSL41を保有する構築された株MG1655を、それぞれ大腸菌株CC06-9614及びCC06-9615と命名した。
【0143】
大腸菌株CC06-9614、CC06-9615、NCM3722、及びCC06-9612のプラスミドのコピー数を、リアルタイムPCR(「qPCR」とも呼ばれる)法を使用して測定した。この方法では、SYBR(R)GreenI色素を使用して、PCR中に形成された二本鎖DNAに結合させることによりPCR産物を検出する。このプロトコルでは、Fast SYBR(R)Green Cells-to-Ct(TM)キットを使用して、Applied Biosystems 7500 FastリアルタイムPCRシステムで「ワンポット」で細胞溶解及びPCR反応を実施する。
【0144】
細胞溶解物を調製するために、LBブロスでの各株の一晩培養物を低温(4℃)の1×PBSバッファーで希釈した後、溶解溶液、停止溶液(Fast SYBR(R)Green Cells-to-Ct(TM)キット、カタログ番号4402956)及びRNase A(Life Technologies、カタログ番号12091-021、20mg/ml)を添加した。
【0145】
qPCR反応混合物は、4μLの細胞溶解物を16μLのPCRカクテルに添加することによって調製した。その組成を表2に示す。
【0146】
【0147】
細胞サンプル中のプラスミドのコピー数を、プラスミド上のマーカーDNA配列、RepFICの相対的な存在量から、β-ガラクトシダーゼをコードする1コピーの染色体遺伝子lacZのコピー数と比較して推定した。RepFICに使用したプライマーは配列番号11及び配列番号12であり、lacZについては配列番号13及び配列番号14であった。各サンプルの内部対照として、16S rDNA(rrsH)のコピー数をlacZと比較して測定した。rrsHは染色体コピー数7で存在するため、rrsHのlacZに対する相対的な存在量は約7であると予測される。rrsHに使用したプライマーは、配列番号25及び配列番号26であった。
【0148】
リアルタイムPCR反応は、7500FastリアルタイムPCRのデフォルトプログラムを使用して、次のように行った:95℃で20秒間の酵素活性化を1サイクル、95℃で3秒間の変性を40サイクル、60℃で30秒間のアニーリング及び伸長、及び解離曲線。
【0149】
プラスミドのコピー数は、2DCtを計算することによって測定した。ここで、DCtは、lacZ遺伝子Ct値からRepFIC Ct値を差し引くことによって計算した(DCt=Ct_lacZ-Ct_repFIC)。
【0150】
【0151】
表3に示すように、大腸菌株CC06-9615のプラスミドコピー数は、対照株CC06-9614の約14倍多かった。また、大腸菌株CC06-9612のプラスミドコピー数は、NCM3722株のF-様プラスミドコピー数よりも約10倍多かった。したがって、RepFICの改変された配列は、プラスミドのサイズとは無関係に、例えば、小さいプラスミド及び大きいプラスミドの両方で、また、大腸菌バックグラウンド株とは無関係に、例えば、MG1655及びNCM3722の両方で、プラスミドコピー数の増加をもたらすことが確認された。
【0152】
実施例3:大腸菌LS5218にF-様プラスミドを含む改変RepFICレプリコンの構築及びプラスミドコピー数の測定
プラスミドコピー数に対するRepFICレプリコンの改変配列の効果を再検討し、また、大腸菌の異なる株での効果を試験するために、大腸菌LS5218(CGSC株#6966)のF-様プラスミド上のRepFIC配列を、実施例1-(4)に記載したものと同じ方法及び材料を使用することにより、上記の改変配列(配列番号6)に置換した。大腸菌LS5218のRepFIC配列は、大腸菌NCM3722の配列と同じである。野生型RepFICをRepFICの改変配列で置換した組換えプラスミドpJSL33を作成して、改変RepFICの効果を再検討した。pJSL33プラスミドを含む大腸菌株LS5218を大腸菌株CC06-9667と命名した。
【0153】
大腸菌株LS5218及びCC06-9667のプラスミドのコピー数を、実施例2で説明したように、リアルタイムPCRを使用して測定した。プラスミドコピー数の増加を明らかにするためにqPCRを実施した。RepFIAは、プラスミド上に存在するもう1つのレプリコンである。RepFIAに使用したプライマーは、配列番号27及び配列番号28であった。この場合も、各サンプルの内部対照として、16S rDNA(rrsH)のコピー数をlacZと比較して測定した。
【0154】
【0155】
表4に示すように、大腸菌株CC06-9667のプラスミドコピー数は、LS5218株のF-様プラスミドコピー数よりも約5.5倍多かった。したがって、RepFICの改変された配列が、どのバックグラウンド株が使用されたかに関係なく、プラスミドコピー数の増加をもたらすことが再確認された。
【0156】
実施例4:染色体上のrpoC配列を置換するためのプラスミドの構築
(1)rpoCフラグメント及びsacBベクターの調製。
改変された配列(配列番号33)を有する部分的変異体poC配列を含む2つの0.5kbのDNAフラグメントを増幅するために、Coli Genetic Stock Center(CGSC)(6966株)から入手した大腸菌株LS5218のゲノムDNA(gDNA)を、QIAGEN Genomic-tipシステムを使用して抽出し、上記gDNAをテンプレートとして用い、PfuUltra II Fusion HS DNAポリメラーゼ(Agilent社製)を使用してポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施した。ヌクレオチド配列から推定される、対応する改変RpoCタンパク質は、配列番号45である。改変RpoCタンパク質配列は、rpoCヌクレオチド配列がATGの代わりに代替の開始コドンGTGを含むことを考慮に入れている。GTGは一般にバリンをコードするが、代替の開始コドンとしてのGTGはメチオニンをコードする。配列番号35及び配列番号36のプライマーを使用して、以下のようにPCRを行った:95℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で30秒間の伸長を30サイクル。配列番号5及び配列番号6のプライマーを使用して、72℃で30秒間伸長するために別のPCRを行った。混合物をQIAGEN精製キットで精製し、続いて溶出して、2つの異なる0.5kbのDNAフラグメントを得た。
【0157】
sacB遺伝子及びR6K起点を含む遺伝子置換ベクター(
図12A~B)を調製するために、pSKH130を制限酵素EcoRVで消化した。PCR混合物及びEcoRV消化の反応混合物をQIAGEN精製キットで精製し、続いて溶出して、第1の0.5kbDNAフラグメント、第2の0.5kbDNAフラグメント、及び4.7kbベクターDNAフラグメント(「sacBベクターカット」とも呼ばれる)を得た。
【0158】
(2)rpoC配列を置換するためのプラスミドの構築。
実施例:4-(1)に記載の第1の0.5kbDNAフラグメント、第2の0.5kbDNAフラグメント、及びsacBベクターカットを、pJSL47の構築に使用した。pJSL47プラスミドは、NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(NEB製)及びColi Genetic Stock Center(CGSC)の7636株であるBW25113を使用して構築された。
【0159】
(3)組換え大腸菌CC06-9642の調製。
大腸菌LS5218の染色体上のrpoC(配列番号39)を変異体poC配列(配列番号33)で置換するために、pJSL47プラスミドをエレクトロポレーションにより大腸菌株LS5218に導入し、続いて50mg/Lのカナマイシンを含むルリア-ベルターニ(LB)寒天プレート上で増殖した単一コロニーを選択した。選択したコロニーの染色体へのpJSL47の挿入を、配列番号40及び配列番号41のプライマーを使用するPCRによって確認した。sacB遺伝子及びR6K起点を二次選択(「pop-out」)するために、選択した株を、NaClを含まないが、10%スクロースを含むLB寒天プレート上で増殖させた。形質転換体を、LS5218rpoC(配列番号39)が変異体poC配列(配列番号33)に置換されているかについて、PCR及び配列確認によって確かめた。正しい遺伝子型を有する得られた株を大腸菌CC06-9642と命名した。
【0160】
実施例5:プラスミドコピー数の測定
野生型株であるLS5218及び株CC06-9642の両方には、F-様プラスミド(67,502bp)が含まれている。CC06-9642を作出した後、F-様プラスミドの存在をPCR法で確認した。使用したプライマーは、例えば、配列番号11及び12のものであった。CC06-9642が作出されたとき、CC06-9637も作出された。これらの違いは、CC06-9642にはF-様プラスミドが含まれるのに対し、CC06-9637には含まれないことである。CC06-9637のRpoCも変異体rpoCである。
【0161】
これら2つの株のプラスミドコピー数を、リアルタイムPCR(「qPCR」とも呼ばれる)法を使用して測定した。この方法では、SYBR(R)GreenI色素を使用して、PCR中に形成された二本鎖DNAに結合させることによりPCR産物を検出した。このプロトコルでは、Fast SYBR(R)Green Cells-to-Ct(TM)キットを使用して、Applied Biosystems 7500 FastリアルタイムPCRシステムで「ワンポット」で細胞溶解及びPCR反応を実施した。
【0162】
細胞溶解物を調製するために、LBブロスでの各株の一晩培養物を低温(4℃)の1×PBSバッファーで希釈した後、溶解溶液、停止溶液(Fast SYBR(R)Green Cells-to-Ct(TM)キット、カタログ番号4402956)及びRNase A(Life Technologies、カタログ番号12091-021、20mg/ml)を添加した。qPCR反応混合物は、4μLの細胞溶解物を16μLのPCRカクテルに添加することによって調製した。その組成を表5に示す。
【0163】
【0164】
LS5218及びCC06-9642細胞サンプル中のF-様プラスミドのコピー数を、プラスミド上のマーカーDNA配列、具体的にはRepFIA及びRepFICの相対的な存在量から、β-ガラクトシダーゼをコードする1コピーの染色体lacZ遺伝子のコピー数と比較して推定した。RepFIAに使用したプライマーは配列番号27及び配列番号28であった。RepFICに使用したプライマーは配列番号11及び配列番号12であった。lacZに使用したプライマーは配列番号13及び配列番号14であった。
【0165】
リアルタイムPCR反応は、7500FastリアルタイムPCRのデフォルトプログラムを使用して、次のように行った:95℃で20秒間の酵素活性化を1サイクル、95℃で3秒間の変性を40サイクル、60℃で30秒間のアニーリング及び伸長、及び解離曲線。
【0166】
プラスミドのコピー数は、2DCtを計算することによって測定した。ここで、DCtは、lacZ遺伝子Ct値からRepFIC Ct値を差し引くことによって計算した(DCt=Ct_lacZ-Ct_repFIC)。
【0167】
【0168】
表6に示すように、CC06-9642のF-様プラスミドのコピー数は、対照LS5218のコピー数よりも小さかった。このように、変異体rpoC配列はF-様プラスミドのコピー数の減少をもたらすことが確認された。プラスミドのコピー数が多すぎると、微生物の細胞に代謝負荷がかかる可能性がある。以上の結果は、変異体rpoCがプラスミドコピー数を調節する機能を有することを示しており、したがって上記の結果から、株を安定して増殖させ、プラスミドを安定して発現させることができることがわかる。
【0169】
実施例6:RepFICレプリコンの改変されたDNA配列を含むプラスミドの構築
(1)RepFICフラグメント及びカナマイシン耐性遺伝子フラグメントの調製。
RepFICレプリコン(配列番号1)を含む5.2kbのDNAフラグメントを増幅するために、原栄養性K-12株であり、Coli Genetic Stock Center(CGSC)(株12355)から入手した大腸菌株LS5218のゲノムDNA(gDNA)を、QIAGEN Genomic-tipシステムを使用して抽出し、上記gDNAをテンプレートとして用い、PfuUltra II Fusion HS DNAポリメラーゼ(Agilent社製)を使用してポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施した。PCRは、配列番号2及び配列番号3のプライマーを使用して、95℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で5分間の伸長を30サイクル行った。
【0170】
カナマイシン耐性遺伝子を含む1.4kbのDNAフラグメントを増幅するために、プラスミドpKD4をテンプレートとして用い、PfuUltra II Fusion HS DNAポリメラーゼを使用してPCRを行った。PCRは、配列番号4及び配列番号5のプライマーを使用して、94℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で1分30秒間の伸長を30サイクル行った。
【0171】
PCR反応が完了し、混合した後、1.3mLのDpnI及び5.7mlの10×バッファーTangoを50μLのPCR混合物それぞれに加え、37℃で1時間インキュベートしてテンプレートDNAを除去した。混合物をQIAGEN精製キットで精製し、次に溶出して、5.2kbのDNAフラグメント(「RepFICフラグメント」とも呼ばれる)及び1.4kbのDNAフラグメント(「KanRフラグメント」とも呼ばれる)を得た。
【0172】
(2)改変された配列を含むRepFICフラグメントの調製。
改変された配列(配列番号6)を有するRepFICレプリコンを含む5.2kbのDNAフラグメントを増幅するために、大腸菌NCM3722のgDNAをテンプレートとして用い、PfuUltra II Fusion HS DNAポリメラーゼを使用してPCRを行った。PCRは、配列番号2及び配列番号7のプライマーを使用して、95℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で3分間の伸長を30サイクル行った。配列番号8及び配列番号3のプライマーを使用して、72℃で2分30秒間伸長するために別のPCRを行った。
【0173】
PCR反応が完了した後、1.3mLのDpnI及び5.7mlの10×バッファーTangoを50μLのPCR反応混合物に加え、37℃で1時間インキュベートしてテンプレートDNAを除去した。混合物をQIAGEN精製キットで精製し、次に溶出して、2.8kbのDNAフラグメント及び2.4kbのDNAフラグメントを得た。
【0174】
(3)RepFICレプリコンの野生型又は改変配列を含むプラスミドの構築。
実施例6-(1)に記載のRepFICフラグメント及びKanRフラグメントを、pJSL48と呼ばれるプラスミドの構築に使用した。pJSL48プラスミドは、
図13A~Bに示すように、NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(NEB製)を使用して構築された。
【0175】
実施例:6-(2)に記載の2.8kb及び2.4kbのDNAフラグメント及び実施例:6-(1)に記載のKanRフラグメントを、pJSL49と呼ばれる別のプラスミドの構築に使用した。3つのフラグメントのギブソンアセンブリは、
図14A~Bに示すように、NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mixを使用して実施された。
【0176】
実施例7:プラスミドコピー数の測定
プラスミドコピー数を測定するために、プラスミドpJSL48及びpJSL49を大腸菌LS5218に導入し、大腸菌株CC06-9665及びCC06-9666を得た。プラスミドpJSL48及びpJSL49をCC06-9642にも導入し、それぞれ大腸菌株CC06-9638及びCC06-9639を得た。
【0177】
大腸菌株CC06-9665、9666、9638、及び9639のプラスミドのコピー数を、実施例5に記載されているように、リアルタイムPCR法を使用して測定した。
細胞サンプル中のプラスミドのコピー数を、プラスミド上のマーカーDNA配列、RepFICレプリコンの相対的な存在量から、β-ガラクトシダーゼをコードする1コピーの染色体遺伝子lacZのコピー数と比較して推定した。RepFICに使用したプライマーは配列番号11及び配列番号12であった。lacZに使用したプライマーは配列番号13及び配列番号14であった。カナマイシン耐性遺伝子に使用したプライマーは配列番号42及び配列番号43であった。
【0178】
【0179】
表7に示すように、プラスミドpJSL49に導入された変異体RepFIC配列を含む株である株CC06-9666及び9639のプラスミドコピー数は、株CC06-9665及び9638のものよりも多かった。CC06-9665株のプラスミドコピー数はCC06-9638よりも多く、CC06-9666株のプラスミドコピー数はCC06-9639よりも多かった。したがって、置換されたrpoC配列は、野生型又は変異体のどちらのRepFICレプリコンが使用されたかに関係なく、プラスミドコピー数の減少をもたらすことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本明細書に開示される配列番号15を含む変異体incコード鎖を含む核酸分子は、その核酸分子を含むレプリコンを含むプラスミドなどのベクターのコピー数を調節するために、特にベクターのコピー数を増加させるために有用であり、したがって、ベクターを使用することにより、標的産物の商業的生産を改善するのに有用である。
【0181】
生物寄託に関する情報
変異体incコード鎖(配列番号6)を含む核酸分子を含むように形質転換された大腸菌株を上記のように調製し、大腸菌CC06-9612と命名したものを、2018年6月15日に、ブダペスト条約に基づく国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korean Culture Center of Microorganisms)に、アクセッション番号KCCM12275Pとして寄託した。この株は、ブダペスト条約の下で国際寄託機関によって寄託されている。
【0182】
R47C置換を含む変異体RpoCをコードする変異体rpoCコード鎖を含む核酸分子を含むように形質転換された大腸菌株を上記のように調製し、大腸菌CC06-9637と命名したものを、2018年6月15日に、ブダペスト条約に基づく国際寄託機関である韓国微生物保存センターに、アクセッション番号KCCM12276Pとして寄託した。この株は、ブダペスト条約の下で国際寄託機関によって寄託されている。
【0183】
【0184】
【配列表】