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特許7133750含ヨウ素縮合環化合物、及び含ヨウ素縮合環化合物を用いた有機電子材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】含ヨウ素縮合環化合物、及び含ヨウ素縮合環化合物を用いた有機電子材料
(51)【国際特許分類】
   C07D 495/04 20060101AFI20220902BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20220902BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20220902BHJP
【FI】
C07D495/04 101
C07D495/04 CSP
H01L29/28 100A
H01L29/28 250H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018137848
(22)【出願日】2018-07-23
(65)【公開番号】P2019043936
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2021-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2017165095
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本化学会第97春季年会(2017)(発表日:平成29年3月18日)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本化学会第97春季年会 予稿集(3C5-31)(発行日:平成29年3月3日)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度よりの、国立研究法人科学技術振興機構の研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム COI拠点「フロンティア有機システムイノベーション拠点」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】片桐 洋史
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄太
(72)【発明者】
【氏名】松永 周
(72)【発明者】
【氏名】熊木 大介
(72)【発明者】
【氏名】時任 静士
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-254636(JP,A)
【文献】特開2010-087405(JP,A)
【文献】特開2016-001659(JP,A)
【文献】ACS Applied Materials & Interfaces,9(11),2017年,9902-9909
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 495/04
H01L 51/05
H01L 51/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とする、含ヨウ素縮合環化合物;
【化1】
(一般式(1)中、nは1~3の整数である)。
【請求項2】
下記一般式(2)で表されることを特徴とする、含ヨウ素縮合環化合物;
【化2】
(一般式(2)中、nは1~3の整数であり、Yは一般式(s1)~(s5)又は(s7)に示される置換基である)。
【化3】
【請求項3】
請求項1又は2に記載の含ヨウ素縮合環化合物を用いた有機電子材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタ用の新規含ヨウ素縮合環化合物、及びこれを用いた有機電子材料に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体から導体までの様々な電気特性を有する有機電子材料は、フレキシブルディスプレイ・多機能スイッチ・多機能センサー・有機太陽電池・有機電極など、有機化合物を用いた、薄くて曲がる電子デバイス(all-organic electronics)の実現に直接つながることから分子エレクトロニクスの中枢を担っている。特に、導電性材料や有機半導体を用いた薄膜トランジスタに関する研究は大きな注目を集めている。
【0003】
有機化合物の持つ本来の魅力はインクジェット法などのウエットプロセスによる大面積デバイスの作製であり、高溶解性及び高性能を示す材料のさらなる開発が望まれている。高性能の実現には活性層の結晶性薄膜における高次の分子配列が求められ、これまでπ電子系の拡張による強い分子間相互作用を期待した直線的な縮合環数の増加等が試みられてきた。しかし、π電子系の拡張と溶解性とはトレードオフの関係にあり、ウエットプロセスにおいて大きな障害となっている。
【0004】
このような中、近年、高い溶解性の獲得に分子骨格の非対称化が着目され、分子の片末端にアルキル基を導入した可溶性有機半導体材料が報告されている(非特許文献1~4)。しかしながら、アルキル基による配向制御は難しく、未だ分子配向における相互作用には不明な点が多く、しばしば半導体特性において明確な優位性を与えない(非特許文献5及び6)。よって、分子の溶解性と配向性の両立に向けた明確なメカニズムの解明と該メカニズムに基づく新しい材料群の設計コンセプトが求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Tian, H.; Han, Y.; Bao, C.; Yan,D.; Geng, Y.; Wang, F. Chem. Commun. 2012, 48 (29), 3557.
【文献】Iino, H.; Kobori, T.; Hanna,J.-I. Jpn. J. Appl. Phys. 2012, 51 (11S), 11PD02.
【文献】Iino, H.; Usui, T.; Hanna, J.-I. NatureCommunications 2015, 6, 1.
【文献】Ogawa, Y.; Yamamoto, K.; Miura,C.; Tamura, S.; Saito, M.; Mamada, M.; Kumaki, D.; Tokito, S.; Katagiri, H. ACSAppl. Mater. Interfaces 2017, 9 (11), 9902.
【文献】Sawamoto, M.; Kang, M. J.;Miyazaki, E.; Sugino, H.; Osaka, I.; Takimiya, K. ACS Appl. Mater. Interfaces 2016,8 (6), 3810.
【文献】Tang, M. L.; Reichardt, A. D.;Okamoto, T.; Miyaki, N.; Bao, Z. Adv. Funct. Mater. 2008, 18 (10), 1579.
【文献】Pitayatanakul, O.; Iijima, K.;Ashizawa, M.; Kawamoto, T.; Matsumoto, H.; Mori, T. J. Mater. Chem. C 2015, 3, 8612.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、有機薄膜トランジスタ等に用いる有機電子材料として、高溶解性及び高性能を示す非対称型の拡張π共役系縮合環化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の含ヨウ素縮合環化合物は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
【化1】
一般式(1)中、nは1~3の整数である。
本発明の含ヨウ素縮合環化合物は、下記一般式(2)で表されることを特徴とする。
【化2】
一般式(2)中、nは1~3の整数であり、Yは一般式(s1)~(s7)に示される置換基である。
【化3】
本発明の有機電子材料は、上記含ヨウ素縮合環化合物を用いたものであることを特徴とする。
上記含ヨウ素縮合環化合物は、分子同士が同方向に整然と配列したヘリンボーン(herringbone)構造を有するため、薄膜状態での高い分子配向性を実現し、高い半導体性能を有する。さらに、上記含ヨウ素縮合環化合物は、有機溶媒への高溶解性を維持しているため、有機薄膜トランジスタ等に用いる有機半導体材料として好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の含ヨウ素縮合環化合物は、ヨウ素原子を含むアセン骨格が高い溶解性と高い分子配向性とを示すため、溶液プロセスでのデバイス作製が可能である。
よって、上記含ヨウ素縮合環化合物は、有機導電性材料又は有機薄膜トランジスタ用の有機半導体材料として、優れた性能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1はドロップキャスト法によって含ヨウ素縮合環化合物を製膜する様子を描いた図である。
図2図2はATT及びI-ATTをそれぞれ、クロロホルム溶液及び薄膜の状態にして測定したUV-vis吸収スペクトル(図2(a))、及びサイクリックボルタモグラム(図2(b))である。
図3図3は、ATT及びI-ATTの単結晶によるX線構造解析の結果、ATTに比べてI-ATTでは、ヨウ素原子が分子配向の向上に寄与していることを示す図である。
図4図4は、I-ATTからドロップキャスト法で素子を作製し、FET特性を評価した結果を表す図である。図4(a)は伝達特性を表し、図4(b)は出力特性を表す。
図5図5は、I-ATTをドロップキャスト法によって製膜し、薄膜の結晶構造をAFM(原子間力顕微鏡)及びXRD(X線回折)により評価した図である。左下図は、AFM高さプロファイルを示し、右下図は単結晶構造を示す。
図6図6(a)は、I-TNTTのId-Vg特性を表し、図6(b)は、XRD測定結果を表す。
図7図7(a)は、I-TATTのId-Vg特性を表し、図7(b)は、XRD測定結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明の含ヨウ素縮合環化合物は、下記一般式(1)で表される。
【化4】
また、上記含ヨウ素縮合環化合物は、下記一般式(2)で表される。
【化5】
ただし、一般式(1)及び(2)中、nは1~3の整数であり、Yは下記一般式(s1)~(s7)に示される置換基である)。
【化6】
【0011】
すなわち、上記含ヨウ素縮合環化合物は、縮合環数が4~6の縮合環骨格を有する。これらのうち、含ヨウ素縮合環化合物として具体的には、以下の化合物がより好ましい。
【化7】
さらに、高い溶解性及び高い分子配向性を有する観点で、I-ATT、I-TNTTが特に好ましい。
【0012】
上記含ヨウ素縮合環化合物は、例えば、以下に示す方法により合成することができる。一例として、I-ATTの合成方法を示す。
【化8】
【0013】
不活性ガス雰囲気下で、アントラセノチエノ[3,2-b]チオフェン(ATT)をTHF等の溶剤に溶解させ、n-ブチルリチウムを加えてリチオ化した後、ヨウ素を加えて攪拌する。クエンチ後、濃縮、精製することにより、収率77%でI-ATTの黄色固体を得る。
【0014】
ATTは末端チエノチオフェン部位の選択的なリチオ化が可能であり、スズ化した後にStilleカップリング反応を用いて、ヨウ素原子を有するチオフェン骨格を導入することも可能である。
なお、本発明の含ヨウ素縮合環化合物は、上記した方法に限られず、種々の方法で合成することができる。
【0015】
本発明の含ヨウ素縮合環化合物を構成するアセン骨格は、高い溶解性を有することがすでにわかっている。例えば、ATTは、熱クロロホルムに対して、1.9g/Lの溶解度を示し、ATTの末端チエノチオフェン部位のα位(硫黄原子に隣接する位置)が2-オクチルチオフェン-5-イル基で置換された化合物は、熱クロロホルム(55℃)に対して、3.8g/Lの溶解度を示す。
本発明の含ヨウ素縮合環化合物のように、ヨウ素原子を含むアセン骨格を持つ分子は、クロロホルム、トルエン及びテトラヒドロフラン等、種々の溶媒に対して高い溶解性を示す。
【0016】
また、上記含ヨウ素縮合環化合物は、高い分子配向性を示す。ヨウ素無置換のATTは交互にずれたスリップ・スタック型をとるが(非特許文献4)、ヨウ素を含むATT、すなわち、I-ATTは、分子が同方向に整然と配列したヘリンボーン(herringbone)構造を形成する。これにより、I-ATTは、薄膜状態での高い分子配向性を実現し、有機トランジスタ材料として優れた特性を示す。
【0017】
なお、インディゴ骨格にヨウ素原子を導入した対称型の含ヨウ素有機導電性材料が報告されているが(非特許文献7)、インディゴのみで高い分子配向性が得られることからヨウ素の導入による分子配列の向上は認められないこと、また、対称型構造を有することから、溶解性が乏しく、蒸着プロセスでのデバイス作製に限られている。
【0018】
上記含ヨウ素縮合環化合物は、溶液プロセスが可能な高い溶解性を示し、かつ、薄膜状態における分子配向性も高く、トランジスタ特性を示す。例えば、ドロップキャスト法により製膜したI-ATT薄膜を用いたトップコンタクト型電界効果トランジスタ(FET)では、移動度(μFET)が0.9cm2/Vsであり、高いp型特性を示す。薄膜X線回折(XRD)の結果から、I-ATTは基板に垂直にエッジオン(edge-on)配向し、ヘリンボーン構造を形成している。また、単結晶X線構造解析の結果、I-ATTのレイヤー間に明確なヨウ素-ヨウ素相互作用があることを確認することができる。I-ATT2分子間での大きなトランスファー積分(平均で12~64meV)が得られ、ヨウ素原子間で相互作用することも確認された。つまり、図3に示すとおり、ヨウ素-ヨウ素相互作用がI-ATTの高い秩序構造に寄与している。
【0019】
ここで、ドロップキャスト法とは、スピンコート法と同じく代表的なウエットプロセスである。ゆっくりと溶媒を蒸発させ時間をかけて製膜するため、スピンコート法に比べて結晶性に優れる膜を形成することができる。トップコンタクト型FETの場合は、ゲート絶縁膜上に製膜され、ボトムコンタクト型FETの場合はゲート絶縁膜上、及び、ソース電極及びドレイン電極が形成された基板上に製膜される。図1はこのようなデバイスにおいて、ドロップキャスト法で製膜する様子を表す図である。なお、絶縁膜材料の種類やその表面状態、有機半導体層を形成する基板の表面状態、並びにソース電極及びドレイン電極の材料は様々であってよい。
一方、ヨウ素無置換のATTを用いた場合、同じくドロップキャスト法で製膜したFETデバイスではトランジスタ特性を示さず、薄膜状態における分子配向性も低い。
【実施例
【0020】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0021】
[実施例1]I-ATTの合成
【化9】
窒素雰囲気下、200mL三口フラスコにATT 400mgを入れ、THF 100mLに溶解し、氷浴で0℃とした後、n-ブチルリチウムを2mL加えて30分間攪拌した。その後、ヨウ素を1.74g加え,室温で12時間攪拌した。飽和亜硫酸ナトリウム水溶液100mL加え、さらに30分間攪拌した。THF層を分液し、ロータリーエバポレーターで濃縮し、析出した固体を吸引濾過によって得た。これをカラムクロマトグラフィー(充填剤;中性シリカゲル、溶離液:ジクロロメタン)を行い、黄色固体(I-ATT)を440mg(収率77%)得た。
得られたI-ATTの1HNMR(日本電子(株)製(500MHz)JNM-ECX型)の結果を以下に示す。
1HNMR(CDCl3,500MHz)δ8.59(s,1H),8.49(s,1H),8.45(s,1H),8.40(s,1H),8.03-8.02(m,2H),7.47-7.46(m,3H).
【0022】
[実施例2]
実施例1で得られたI-ATTと、ヨウ素無置換のATTとのそれぞれをクロロホルムに溶解させた1.0×10-5M溶液、及びこれをフィルムキャストした薄膜の紫外・可視(UV-vis)吸収スペクトル((株)島津製作所製 UV-3150)を測定した。
また、I-ATT及びATTのそれぞれに、ジクロロメタン(6mL)、フェロセン(1.0mg)及びテトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート(170mg)を添加して、0.5mMの試料溶液を調製し、グローブボックス中、窒素下で、サイクリックボルタンメトリー(CV)(ALS 660Bモデル 電気化学アナライザー(ビーエーエス(株))を測定した。
UV-vis吸収スペクトルとCVの測定結果を図2に示す。
吸収スペクトル及び酸化電位より、ATTに比べてI-ATTの方が、分子間の強い相互作用を有する会合体を形成し、また、電気化学的に安定であることがわかる。よって、I-ATTでは、ヨウ素原子の導入により、配向性及び安定性は明らかに向上している。
【0023】
[実施例3]
I-ATT及びATTのそれぞれについて、単結晶X線構造解析((株)リガク製Saturn-724)を行った。
図3に示すように、I-ATTは単結晶中で分子間ヨウ素-ヨウ素相互作用を示した。ヨウ素無置換のATTはアンチパラレルな配向であるから、配向におけるヨウ素原子の寄与は明らかである。
【0024】
[実施例4]
I-ATT及びATTのそれぞれについて、FET特性を評価した。
I-ATTはドロップキャスト法による素子作製によって移動度0.9cm2/Vsのp型半導体特性を示した。I-ATTは-5.51eV、ATTは-5.30eVのイオン化ポテンシャルを示し、ヨウ素原子の導入による安定性の向上が示された。結果を図4に示す。
一方、ATTは溶液法においては半導体特性が発現していなかった。よって、非対称分子へのモノヨウ素化は溶液法を用いた素子作製において明らかな優位性を持つことがわかった。
【0025】
[実施例5]
I-ATT及びATTをそれぞれ、ドロップキャスト法によって製膜し、薄膜の結晶構造をAFM(原子間力顕微鏡)(Bruker社製Dimension Icon)及びXRD(X線回折)((株)リガク製SMART-Lab)により評価した。
結果を図5に示す。
I-ATTは薄膜構造において単結晶における分子配向を維持している。このことからモノヨウ素化の溶液法による結晶性薄膜の作製における優位性は明らかである。
AFM像及びXRDチャートの間にAFM像中のa-bの拡大図を示す。a-bの距離は300nmで、拡大図中の色の濃淡は凹凸を表し、濃いほど凹が深く、薄いほど凸が浅い。
【0026】
[実施例6]I-TNTTの合成
(i)Sn-NTTの合成
【化10】
窒素雰囲気下、200mL三口フラスコにNTT 500mgを入れ、THF130mLに溶解し、氷浴で0℃とした後、n-ブチルリチウムを3.9mL加えて30分撹拌した。その後、塩化トリメチルスズ1.24gを加え、室温で1時間撹拌した。水500mLに加え室温で30分間撹拌した。これを濾過により白色固体768mg(収率91%)を得た。
得られたSn-NTTの1HNMR(日本電子(株)製(500MHz)JNM-ECX型)の結果を以下に示す。
1HNMR(CDCl3,500MHz)δ(ppm)8.29(s,2H),7.99-7.97(m,1H),7.90-7.88(m,1H),7.49-7.47(m,2H),7.53(s,1H),0.461(s,9H),
HRMS(FD+)calcd for C17162Sn(M+)m/z=403.97152、found 403.97098.
【0027】
(ii)TNTTの合成
【化11】
窒素雰囲気下、300mL三口フラスコにSn-NTT 600mgを入れ、トルエン220mLに溶解させ、2-ブロモチオフェン647mg、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)153mgを加え130℃で還流し、4時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)により黄色固体TNTT408mg(収率85%)を得た。
得られたTNTTのHNMR(日本電子(株)製(500MHz)JNM-ECX型)の結果を以下に示す。
1HNMR(CDCl3,500MHz)δ(ppm)8.29(s,1H),8.24(s,1H),7.98-7.96(m,1H),7.89-7.88(m,1H),7.49-7.47(m,2H),7.40(s,1H),7.30-7.28(m,2H),7.08-7.06(m,1H),HRMS(FD+)calcd for C18103(M+) m/z=321.99446,found 321.99356.
【0028】
(iii)I-TNTTの合成
【化12】
窒素雰囲気下において200mL三口フラスコにTNTT 200mgを入れ、THF56mLに溶解し、氷浴で0℃とした後n-ブチルリチウムを1.13mL加えて30分撹拌した。その後、ヨウ素を458mg加え、室温で4時間撹拌した。5wt%亜硫酸ナトリウム100mL加え、室温で30分間撹拌した後、水500mLに入れ、1時間撹拌した。これを濾過により橙色固体を得た後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)により褐色固体を46.3mg(収率11%)を得た。
得られたI-TNTTのHNMR(日本電子(株)製(500MHz)JNM-ECX型)の結果を以下に示す。
1HNMR(CDCl3)δ(ppm)8.30(s,1H),8.25(s,1H),7.98-7.96(m,1H),7.90-7.88(m,1H),7.50-7.48(m,2H),7.34(s,1H),7.22-7.21(d,J=4.0Hz,2H),6.97-6.96(d, J=4.0Hz,1H),HRMS(FD+)calcd for C189IS3,(M+)m/z=447.89110,found 447.89107.
【0029】
[実施例7]I-TATTの合成
(i)TATTの合成
【化13】
窒素雰囲気下、300mL三口フラスコにSn-ATT 400mgを入れ、トルエン160mLに溶解させ、2-ブロモチオフェン430mg、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)102mgを加え、130℃で還流し、4時間撹拌した。その後、0℃において1時間撹拌し、ろ過によって橙色固体TATT262mg(収率79%)を得た。
得られたTATTの1HNMR(日本電子(株)製(500MHz)JNM-ECX型)の結果を以下に示す。
1HNMR(CDCl3,500MHz)δ(ppm)8.57(s,1H),8.47(s,1H),8.44(S,1H),8.40(s,1H),8.02-8.00(m,2H),7.45-7.43(m,2H),7.38(s,1H),7.32-7.29(m,2H),7.09-7.07(m,1H),HRMS(FD+)calcd for C22123(M+)m/z=372.01011,found 372.01025.
【0030】
(ii)I-TATTの合成
【化14】
窒素雰囲気下において200mL三口フラスコにTATT 260mgを入れ、THF100mLに溶解し、氷浴で0℃とした後n-ブチルリチウムを975μL加えて30分撹拌した。その後、ヨウ素を880mg加え,室温で4時間撹拌した。飽和亜硫酸ナトリウム136mL加え室温で30分間撹拌した後,水500mLに入れ、0℃で30分間撹拌した。これを濾過により暗褐色固体を得た後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)により褐色化合物(I-TATT)を57.1mg(17%)得た。
得られたI-TATTのHNMR(日本電子(株)製(500MHz)JNM-ECX型)の結果を以下に示す。
1HNMR(CDCl3,500MHz)δ(ppm)8.58(s,1H),8.48(s,1H),8.44(s,1H),8.40(s,1H),8.20-8.00(m,2H),7.46-7.45(m,2H),7.32(s,1H),7.23-7.22(d,J=3.5Hz,2H),6.99-6.98(d,J=4.0Hz,1H),HRMS(FD+)calcd for C2211IS3(M+)M/z=497.90675,found 497.90685.
【0031】
[実施例8]
I-TNTT及びI-TATTをそれぞれ、ドロップキャスト法によって製膜し、薄膜の結晶構造をXRD(X線回折)((株)リガク製SMART-Lab)により評価した。結果を図6b(I-TNTT)及び図7b(I-TATT)に示す。
I-TNTT及びI-TATTの薄膜構造は実施例1のI-ATTと同様に電荷輸送に有利な配向であった。さらに、最も低角のピークより面間隔を算出したところ化合物の長軸方向の2分子分に相当するピークが得られたことから、ヨウ素-ヨウ素相互作用による2分子分の繰返し周期を示した。
【0032】
[実施例9]
I-TNTT及びI-TATTはドロップキャスト法による素子作製によってそれぞれ3.4×10-5、0.056cm2/Vsのp型半導体特性を示した。結果を図6a(I-TNTT)及び図7a(I-TATT)に示す。
【0033】
[実施例10]
【化15】
窒素雰囲気下、200mL三口フラスコにNTT 660mgを入れ、THF 160mLに溶解し、氷浴で0℃とした後、n-ブチルリチウムを1.7mL加えて30分撹拌した。その後、ヨウ素3.2gを加え、室温で1時間撹拌した。水500mLに加え室温で30分間撹拌した。これを濾過により白色固体を得た後、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン)により精製し、最後に再結晶(1,2-ジクロロエタン)によって白色固体213mg(収率:23%)を得た。
得られたI-NTTの1HNMR(日本電子(株)製(500MHz)JEOL-ECX500)の結果を以下に示す。
HNMR(CDCl3,500MHz)δ(ppm)8.28(s,1H),8.22(s,1H),7.98-7.96(m,1H),7.89-7.87(m,1H),7.50-7.48(m,3H).
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の含ヨウ素縮合環化合物は、有機導電性材料又は有機薄膜トランジスタ用の有機半導体材料として好適に用いられる。
図1
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図5
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図7