(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 65/18 20060101AFI20220902BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20220902BHJP
F16D 121/24 20120101ALN20220902BHJP
F16D 125/40 20120101ALN20220902BHJP
F16D 127/02 20120101ALN20220902BHJP
F16D 127/12 20120101ALN20220902BHJP
【FI】
F16D65/18
B60T13/74 G
F16D121:24
F16D125:40
F16D127:02
F16D127:12
(21)【出願番号】P 2018125560
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中野 啓太
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/220384(WO,A2)
【文献】特開2016-161025(JP,A)
【文献】特開2016-32993(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150449(WO,A1)
【文献】特開2018-90098(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150682(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
B60T 13/00-13/74
F16D 121/24
F16D 125/40
F16D 127/02
F16D 127/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータによって第一方向に延びた中心軸回りに回転される第一伝達部と、前記第一伝達部と前記第一方向に離間可能に隣接し前記中心軸回りに回転可能な第二伝達部と、を有し、前記第一伝達部と前記第二伝達部とが前記中心軸の軸方向に互いに押圧した状態で前記第一伝達部と前記第二伝達部との間で摩擦により回転を伝達する回転伝達状態と前記第一伝達部と前記第二伝達部との間で回転を伝達しない遮断状態とを切り替える第一回転伝達切替機構と、
前記第二伝達部と連動して前記中心軸回りに回転する回転部と、当該回転部の第一回転方向への回転に応じて前記第一方向に直動することにより制動部材を制動状態とする作動部材を前記第一方向に押圧して制動状態を得る直動部と、を有し、前記回転部は前記第一方向へ移動する前記直動部から前記第一方向の反対方向に押圧され前記第二伝達部を前記第一方向の反対方向に押圧する、回転直動変換機構と、
前記第一伝達部から前記第二伝達部へ前記第一回転方向への回転を伝達可能であるとともに前記第一伝達部から前記第二伝達部へ前記第一回転方向とは反対の回転方向への回転を伝達不能に構成された第二回転伝達切替機構と、
を備えた、ブレーキ装置。
【請求項2】
前記第一回転伝達切替機構と前記第二回転伝達切替機構とは、前記中心軸の径方向にずれて配置された、請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記第一回転伝達切替機構は、前記第二回転伝達切替機構よりも径方向外側に位置された、請求項2に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
前記第一伝達部は第一当接面を有し、
前記第二伝達部は前記第一当接面と接する第二当接面を有し、
前記第一回転伝達切替機構は、前記第一当接面と前記第二当接面との摩擦により回転を伝達し、
前記第一当接面および前記第二当接面は、部分的な円錐面状の形状を有した、請求項1または2に記載のブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータによって駆動される回転部材の回転を直動部材の直動に変換し、当該直動部材によってピストンを介してパッドをディスクに押し付ける電動ブレーキが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の技術では、より応答性の高い電動ブレーキが得られれば、有益である。
【0005】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、電動ブレーキにおける応答性をより高めることを可能とするようなより改善された新規な構成を備えたブレーキ装置を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のブレーキ装置は、例えば、モータによって第一方向に延びた中心軸回りに回転される第一伝達部と、上記第一伝達部と上記第一方向に離間可能に隣接し上記中心軸回りに回転可能な第二伝達部と、を有し、上記第一伝達部と上記第二伝達部とが上記中心軸の軸方向に互いに押圧した状態で上記第一伝達部と上記第二伝達部との間で摩擦により回転を伝達する回転伝達状態と上記第一伝達部と上記第二伝達部との間で回転を伝達しない遮断状態とを切り替える第一回転伝達切替機構と、上記第二伝達部と連動して上記中心軸回りに回転する回転部と、当該回転部の第一回転方向への回転に応じて上記第一方向に直動することにより制動部材を制動状態とする作動部材を上記第一方向に押圧して制動状態を得る直動部と、を有し、上記回転部は上記第一方向へ移動する上記直動部から上記第一方向の反対方向に押圧され上記第二伝達部を上記第一方向の反対方向に押圧する、回転直動変換機構と、上記第一伝達部から上記第二伝達部へ上記第一回転方向への回転を伝達可能であるとともに上記第一伝達部から上記第二伝達部へ上記第一回転方向とは反対の回転方向への回転を伝達不能に構成された第二回転伝達切替機構と、を備える。
【0007】
上記ブレーキ装置では、制動解除時に第一伝達部および第二伝達部が第一回転方向とは反対の回転方向に回転している状態において、制動解除開始からそれほど時間が経過しないうちに生じる直動部による押圧の解除に伴って第一伝達部と第二伝達部との間で軸方向の押圧力が低下すると、第一回転伝達切替機構が遮断状態となり、これにより第二伝達部の回転が停止し、直動部の第一方向の反対方向への直動も停止する。このような構成によれば、例えば、制動解除時における直動部の第一方向の反対方向への移動量をより短くすることができるため、次回の制動時における直動部の第一方向への移動量をより短くすることができ、より応答性の高い電動ブレーキが得られる。
【0008】
上記ブレーキ装置では、例えば、上記第一回転伝達切替機構と上記第二回転伝達切替機構とは、上記中心軸の径方向にずれて配置される。このような構成によれば、例えば、第一回転伝達切替機構と第二回転伝達切替機構とをよりコンパクトに配置することができ、ブレーキ装置をより小型に構成することができる。
【0009】
上記ブレーキ装置では、例えば、上記第一回転伝達切替機構は、上記第二回転伝達切替機構よりも径方向外側に位置される。このような構成によれば、例えば、第一回転伝達切替機構におけるトルク伝達部位のモーメントアームをより長くすることができるため、第一回転伝達切替機構の伝達可能なトルクをより大きくすることができる。
【0010】
上記ブレーキ装置では、例えば、上記第一伝達部は第一当接面を有し、上記第二伝達部は上記第一当接面と接する第二当接面を有し、上記第一回転伝達切替機構は、上記第一当接面と上記第二当接面との摩擦により回転を伝達し、上記第一当接面および上記第二当接面は、部分的な円錐面状の形状を有する。このような構成によれば、例えば、第一伝達部と第二伝達部との軸ずれ(径方向のずれ)を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1実施形態のブレーキ装置の模式的かつ例示的な断面図であって、制動状態を示す図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態のブレーキ装置の模式的かつ例示的な断面図であって、非制動状態を示す図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態のブレーキ装置の模式的かつ例示的な断面図であって、
図1よりもライニングがすり減った場合における非制動状態を示す図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態の変形例のブレーキ装置の模式的かつ例示的な断面図であって、制動状態を示す図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態のブレーキ装置の模式的かつ例示的な断面図であって、制動状態を示す図である。
【
図6】
図6は、第3実施形態のブレーキ装置の模式的かつ例示的な断面図であって、制動状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0013】
以下の複数の実施形態には、同様の構成要素が含まれている。よって、以下では、同様の構成要素については共通の符号が付与され、重複する説明が省略される。複数の実施形態では、同様の構成要素に基づく同様の作用および効果が得られる。
【0014】
また、各図において、ピストン43がパッド45を押圧する方向である第一方向は、矢印Xの指示方向であり、X方向とも称される。第二方向は、矢印Xの指示方向とは反対の方向であり、X方向の反対方向と称される。また、以下では、回転部材51の回転の中心軸Axの軸方向は単に軸方向と称され、中心軸Axの径方向は単に径方向と称され、中心軸Axの周方向は単に周方向と称される。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態のブレーキ装置10の制動状態における断面図であり、
図2は、ブレーキ装置10の非制動状態(リトラクト状態)における断面図であり、
図3は、
図1,2よりもライニング45bがすり減ったブレーキ装置10の非制動状態における断面図である。
【0016】
図1,2に例示されるブレーキ装置10は、車両用ブレーキであって、ECU11(electronic control unit)と、モータ20と、回転伝達機構30と、回転直動変換機構50を内蔵するキャリパ40と、を備えている。ブレーキ装置10は、液圧ブレーキとして作動することができるとともに、電動ブレーキとしても作動することができる。キャリパ40は、液圧ブレーキの構成要素であり、ECU11、モータ20、回転伝達機構30、回転直動変換機構50、およびキャリパ40は、電動ブレーキの構成要素である。電動ブレーキは、所謂電動パーキングブレーキである。すなわち、ブレーキ装置10は、電動ブレーキ機能による制動状態が駐車時に維持されるよう、構成されている。ただし、電動ブレーキは、走行時や一時停止時に作動してもよい。ECU11は、制御装置の一例である。
【0017】
モータ20の作動は、ECU11によって制御される。モータ20のシャフト21の回転は、例えばギヤ31,32のような複数の回転要素を有した回転伝達機構30を介して、回転直動変換機構50の回転部材51に伝達される。回転伝達機構30は、減速機構とも称されうる。
【0018】
キャリパ40は、ボディ(不図示)、シリンダ42、およびピストン43を有している。シリンダ42は、ボディに設けられている。シリンダ42は、X方向に開放された有底円筒状の形状を有している。シリンダ42の内周面42aは、中心軸Axを中心とした円筒内面状の形状を有している。
【0019】
ピストン43は、シリンダ42に中心軸Axに沿って往復動可能に収容されている。シリンダ42には液室Rが設けられている。液室Rにおける液圧の上昇に伴い、ピストン43はパッド45の裏板45aをX方向に押し、ライニング45bをディスク(不図示)に押し付ける。これにより、ディスクと一体に回転する車両のホイール(不図示)が制動された、液圧ブレーキによる制動状態が得られる。具体的に、ピストン43は、円筒外面状の外周面43aと、液室Rとは反対側(X方向)の端面43bと、を有している。ピストン43の外周面43aとシリンダ42の内周面42aとの間には微小な隙間(クリアランス)が設定されており、外周面43aは、当該隙間に作動液が存在する潤滑状態で、内周面42aと摺動する。シール70は、外周面43aと内周面42aとの間に介在し、液室Rから隙間を介しての作動液の漏れを抑制する。パッド45は、制動部材の一例である。
【0020】
また、シール70は、液室Rにおける液圧の下降に伴ってピストン43にシリンダ42内に引き込む方向(X方向の反対方向)に弾性力を作用させ、
図2に示されるように、ピストン43の端面43bをパッド45から離間させる。この機能は、リトラクト機能と称される。液室Rの液圧の低下に伴い、ピストン43の裏板45aへの押圧が解除されると、ピストン43によるライニング45bのディスクへの押し付けが解除され、これにより液圧ブレーキによる制動解除状態が得られる。このように、キャリパ40は、液圧ブレーキとして作動することができる。パッド45は、制動部材の一例である。
【0021】
また、キャリパ40内、本実施形態ではシリンダ42内には、回転直動変換機構50が設けられている。回転直動変換機構50は、回転部材51と直動部材52とを有している。回転直動変換機構50では、回転部材51に設けられた雄ねじ51aと、直動部材52に設けられた雌ねじ52aとが噛み合うとともに、直動部材52の回転が制限されることにより、回転部材51の回転に応じた直動部材52の直動が得られる。
図1の例では、回転部材51がX方向に見て反時計回り方向に回転した場合に直動部材52がX方向に動き、回転部材51がX方向にみて時計回り方向に回転した場合に直動部材52がX方向の反対方向に動く。直動部材52のX方向への移動に対応した回転部材51の回転方向、すなわち
図1の例ではX方向に見た場合の反時計回り方向を、第一回転方向と称する。回転部材51(の第二部材512)が回転部の一例であり、直動部材52が直動部の一例である。
【0022】
直動部材52は、筒状部52bと突起52cとを有している。筒状部52bの形状は、中心軸Axを中心とする円筒状である。雌ねじ52aは、筒状部52bの筒内面に設けられており、突起52cは、筒状部52bから中心軸Axの径方向外方に突出している。
【0023】
回転直動変換機構50は、ピストン43に設けられた凹部43c内に収容されている。凹部43cは、X方向の反対方向に向けて開放されている。凹部43cは、液室Rの一部である。直動部材52は、凹部43c内で中心軸Axの軸方向に移動可能に設けられている。凹部43cには、中心軸Axの軸方向に延びた溝43dが設けられており、この溝43dには、直動部材52の突起52cが当該溝43dに沿って移動可能に収容されている。すなわち、溝43dの側面と直動部材52の突起52cとによって、直動部材52の回り止め機構が構成されている。また、本実施形態では、ピストン43とシール70やパッド45との摩擦により、ピストン43の中心軸Ax回りの回転が制限されている。上述したように、回転部材51の雄ねじ51aと直動部材52の雌ねじ52aとが噛み合うとともに、直動部材52の突起52cの回転がピストン43の溝43dによって制限されているため、回転部材51の回転に応じて直動部材52は中心軸Axの軸方向に直動することができる。
【0024】
回転部材51の第一方向の回転により、直動部材52がX方向に移動し、ピストン43が裏板45aをX方向に押圧すると、ピストン43はパッド45のライニング45bをディスク(不図示)をX方向に押し付ける。これにより、ディスクと一体に回転する車両のホイール(不図示)が制動された、電動ブレーキ機能による制動状態が得られる。他方、回転部材51の逆方向の回転により、直動部材52がX方向の反対方向に移動し、ピストン43の裏板45aへの押圧が解除されると、ピストン43によるライニング45bのディスクへの押し付けが解除され、これにより電動ブレーキ機能による制動の解除状態(非制動状態)が得られる。ピストン43が作動部材の一例である。
【0025】
ただし、本実施形態では、回転部材51は、第一部材511と第二部材512とを有している。第二部材512は、第一部材511に対してX方向に隣接している。雄ねじ51aは、第二部材512に設けられている。第一部材511と第二部材512との間には摩擦クラッチ61およびワンウエイクラッチ62が設けられている。第一部材511は、第一伝達部の一例であり、第二部材512は、第二伝達部の一例である。
【0026】
摩擦クラッチ61において、第一部材511の当接面511aと第二部材512の当接面512aとが軸方向に所要の押圧力で互いに押圧している状態では、第一部材511と第二部材512とが中心軸Ax回りに一体に回転することができる。この状態は、接続状態と称されうる。他方、当接面511aと当接面512aとが軸方向に互いに離間している状態のように、当接面511aと当接面512aとの互いの軸方向の押圧力が所要の押圧力よりも低い状態では、第一部材511と第二部材512との間で回転(トルク)は伝達されない。この状態は、遮断状態と称されうる。摩擦クラッチ61は、第一回転伝達切替機構の一例である。当接面511aは、第一当接面の一例であり、当接面512aは、第二当接面の一例である。
【0027】
ワンウエイクラッチ62は、第一部材511の第一回転方向への回転は第二部材512に伝達することができるものの、第一部材511の第一回転方向とは反対の第二回転方向への回転は第二部材512に伝達しないよう、構成されている。ワンウエイクラッチ62は、一方向回転伝達機構の一例である。なお、本実施形態では、第一部材511および第二部材512は、軸方向に僅かに相対移動可能に構成されているが、ワンウエイクラッチ62は、当該第一部材511および第二部材512の軸方向における相対移動の範囲において、それらの相対位置によらず、第一部材511の第一回転方向への回転を第二部材512に伝達し、第一部材511の第二回転方向への回転を第二部材512に伝達しないよう、構成されている。ワンウエイクラッチ62は、第二回転伝達切替機構の一例である。
【0028】
このように、本実施形態では、回転部材51を構成する第一部材511と第二部材512とが摩擦クラッチ61およびワンウエイクラッチ62を介して接続されているため、ブレーキ装置10は、以下のように作動する。
【0029】
電動ブレーキによる制動時において、モータ20は、第一部材511を第一回転方向に回転させる。ここで、ワンウエイクラッチ62は、第一部材511および第二部材512の軸方向の位置によらず、第一回転方向の回転を第二部材512に伝達する。よって、第二部材512は第一回転方向に回転し、当該第二部材512に設けられている雄ねじ51aが第一回転方向に回転する。雄ねじ51aと雌ねじ52aとの噛み合いにより、第二部材512は、雌ねじ52aからX方向の反対方向に反力を受ける。よって、第一部材511と第二部材512との間の軸方向の押圧力は増大し、やがて摩擦クラッチ61が回転(トルク)の伝達が可能な状態、すなわち接続状態となる。第二部材512は、第一部材511と一体に第一回転方向に回転を継続し、これに伴い、直動部材52は、X方向に直動する。X方向に移動する直動部材52は、ピストン43を介してパッド45をX方向に押圧してディスクに押し付ける。モータ20の駆動負荷の高まりに応じてモータ20の駆動電流が上昇するため、ECU11は、駆動電流が電動ブレーキによる制動状態に対応した閾値と同じかあるいは超えた場合に、モータ20の作動を停止する。これにより、
図1に示されるような、電動ブレーキによる制動状態が得られる。このとき、直動部材52は、制動位置Pbに位置される。
【0030】
電動ブレーキによる制動状態の解除時において、モータ20は、第一部材511を第二回転方向に回転させる。回転開始当初は、第一部材511と第二部材512との間の軸方向の押圧力は比較的大きく、摩擦クラッチ61が接続状態となっているため、第二部材512は第一部材511と連動して第二回転方向に回転することができる。なお、ワンウエイクラッチ62は、第一部材511の第二回転方向の回転を第二部材512には伝達しない。
【0031】
第二部材512が第二回転方向に回転すると、直動部材52はX方向の反対方向へ移動する。直動部材52のX方向の反対方向への移動に伴い、直動部材52のピストン43への押圧力が低下する。これに伴い、第一部材511と第二部材512との間の軸方向の押圧力が低下し、摩擦クラッチ61は接続状態から遮断状態となる。これにより、
図2に示されるような、リトラクト状態(非制動状態、制動解除状態)が得られる。このとき、直動部材52は、リトラクト位置Pr(待機位置)に位置される。本実施形態では、第一部材511と第二部材512との間の軸方向の押圧力、すなわちパッド45から受ける反力やシール70によるリトラクト力が、ほぼ無くなった時点で、直動部材52はリトラクト位置Prに位置されるため、制動位置Pbからリトラクト位置Prへのストロークδは、パッド45の熱膨張やシール70の弾性変形によるリトラクト量を含んだ大きさとなる。従来構造では、例えば、リトラクト量の変動に応じて直動部材52の戻りストロークを変動させるといったことは行わずに、部品のスペックのばらつきや、温度等の使用条件を考慮して想定されるリトラクト量の最大値以上の距離を戻すようモータ20の回転回数や回転時間が設定されていた。したがって、直動部材52は、制動位置Pbから本来必要なリトラクト量よりも長い距離を戻されることとなり、制動位置Pbからリトラクト位置Prへの移動のみならず、制動にかかる移動すなわちリトラクト位置Prから制動位置Pbへの移動に、余分に時間を要することとなっていた。この点、本実施形態によれば、直動部材52は、制動位置Pbからその時点でのリトラクト量に対応した距離だけX方向の反対方向に離間したリトラクト位置Prに戻されるため、制動位置Pbとリトラクト位置Prとの間のストロークδを従来よりも短くすることができる。また、
図2,3に示されるように、パッド45のライニング45bの摩耗量によらず、直動部材52は、制動位置Pbとリトラクト位置Prとの間を、リトラクト量に応じたストロークδで移動することができる。これにより、例えば、何らかの原因により液圧によるブレーキ機能が低下あるいは損なわれたような場合にあっても、電動ブレーキによってより迅速に制動状態を得ることができる。
【0032】
本実施形態では、摩擦クラッチ61は、中心軸Axよりもシリンダ42の内周面42aの近くに位置されている。具体的に、第一部材511は、中心軸Axに沿って延びるシャフト511bと、シャフト511bのX方向の端部から径方向外方に張り出すフランジ511cと、を有している。また、第二部材512は、中心軸Axに沿って延びるシャフト512bと、シャフト512bのX方向の反対方向の端部から径方向外方に張り出すフランジ512cと、を有している。摩擦クラッチ61の構成要素である当接面511aは、フランジ511cの径方向外方の端部に設けられ、摩擦クラッチ61の構成要素である当接面512aは、フランジ512cの径方向外方の端部に設けられている。当接面511a,512aは、中心軸Axよりも内周面42aの近くに位置されている。また、当接面511a,512aは、雄ねじ51aおよび雌ねじ52aよりも径方向外側に位置されている。このような構成によれば、摩擦クラッチ61のモーメントアームが大きくなる分、摩擦クラッチ61によって伝達可能なトルクをより大きく設定することができる。また、これにより、例えば、雄ねじ51aと雌ねじ52aとの間の摩擦トルクよりも摩擦クラッチ61による伝達トルクが小さくなり、摩擦クラッチ61において空回りが生じるような事態を、より確実に回避することができる。
【0033】
また、当接面511aは、中心軸Axを中心とする円錐外面であり、当接面512aは中心軸Axを中心とする円錐内面である。当接面511a,512aの直径は、X方向に向かうほど小さい。このような構成によれば、第一部材511と第二部材512との軸ずれ(径方向のずれ)を抑制することができる。
【0034】
また、本実施形態では、ワンウエイクラッチ62は、例えば、カム式クラッチやスプラグ式クラッチのような公知の構成を有し、第一部材511および第二部材512のうち一方と一体に回転する外輪と、他方と一体に回転する内輪と、外輪と内輪との間の接続状態が回転方向に応じて切り替わる接続部材と、を有している。本実施形態では、ワンウエイクラッチ62は、円筒状の形状を有し、
図1に示されるように、摩擦クラッチ61より径方向内側に位置されている。このように、摩擦クラッチ61とワンウエイクラッチ62とを径方向にずらして配置することにより、摩擦クラッチ61およびワンウエイクラッチ62をシリンダ42内でより効率良く配置することができ、シリンダ42ひいてはブレーキ装置10が大型化するのを抑制することができる。
【0035】
[第1実施形態の変形例]
図4は、本変形例のブレーキ装置10の制動状態における断面図である。本変形例では、ワンウエイクラッチ62は、摩擦クラッチ61より径方向外側に位置されている。本変形例によっても摩擦クラッチ61とワンウエイクラッチ62とを径方向にずらして配置することにより、摩擦クラッチ61およびワンウエイクラッチ62をシリンダ42内でより効率良く配置することができ、シリンダ42ひいてはブレーキ装置10が大型化するのを抑制することができる。
【0036】
以上、説明したように、本実施形態では、回転部材51は、第一部材511(第一伝達部)と、第二部材512(第二伝達部)とを有し、回転直動変換機構50は、回転部材51の第一部材511(回転部)の回転を直動部材52(直動部)の直動に変換し、摩擦クラッチ61は、第一部材511と第二部材512との間で回転を伝達する回転伝達状態と、第一部材511と第二部材512との間で回転を伝達しない遮断状態とを切り替え、回転直動変換機構50は、回転部材51の第二部材512(第二伝達部)の回転を直動部材52の直動に変換し、ワンウエイクラッチ62は、第一部材511から第二部材512へ制動時における回転方向(第一回転方向)への回転を伝達可能であるとともに第一部材511から第二部材512へ第一回転方向とは反対の第二回転方向への回転を伝達不能である。このようなブレーキ装置10では、制動解除時に第一部材511および第二部材512が第二回転方向に回転している状態において、制動解除開始からそれほど時間が経過しないうちに生じる直動部材52による押圧の解除に伴って第一部材511と第二部材512との間で軸方向の押圧力が低下すると、摩擦クラッチ61が遮断状態となり、これにより第二部材512の回転が停止し、直動部材52のX方向の反対方向への直動も停止する。このような構成によれば、例えば、制動解除時における直動部材52のX方向の反対方向への移動量をより短くすることができるため、次回の制動時における直動部材52のX方向への移動量をより短くすることができ、より応答性の高い電動ブレーキが得られる。
【0037】
また、本実施形態では、例えば、摩擦クラッチ61とワンウエイクラッチ62とは、径方向にずれて配置される。このような構成によれば、例えば、摩擦クラッチ61とワンウエイクラッチ62とをよりコンパクトに配置することができ、ブレーキ装置10をより小型に構成することができる。
【0038】
また、本実施形態では、例えば、摩擦クラッチ61は、ワンウエイクラッチ62よりも径方向外側に位置される。このような構成によれば、例えば、摩擦クラッチ61における当接面511a,512a(トルク伝達部位)のモーメントアームをより長くすることができるため、摩擦クラッチ61の伝達可能なトルクをより大きくすることができる。
【0039】
また、本実施形態では、例えば、第一部材511は当接面511a(第一当接面)を有し、第二部材512は当接面511aと接する当接面512a(第二当接面)を有し、摩擦クラッチ61は、当接面511aと当接面512aとの摩擦により回転を伝達し、当接面511aおよび当接面512aは、部分的な円錐面状の形状を有する。このような構成によれば、例えば、第一部材511と第二部材512との軸ずれ(径方向のずれ)を抑制することができる。
【0040】
[第2実施形態]
図5は、第2実施形態のブレーキ装置10Aの一部の断面図である。上記第1実施形態は、ディスクブレーキへの適用例であったが、本実施形態は、ドラムブレーキへの適用例である。ブレーキ装置10Aは、バッキングプレート(不図示)の車幅方向内側に固定される。本実施形態では、回転直動変換機構50Aの直動部材52Aが作動部材としてのケーブル80をX方向に移動させる(牽引する)ことにより、制動部材としてのシュー(不図示)が制動状態になる。また、直動部材52Aがケーブル80をX方向の反対方向へ移動させる(リリースする)ことにより、シューが非制動状態になる。
【0041】
回転部材51Aは、第一部材511Aと、第二部材512Aと、を有している。ただし、本実施形態では、上記第1実施形態と同様、第二部材512Aには雄ねじ51aが設けられるとともに、直動部材52Aの円筒部の筒内には雄ねじ51aと噛み合う雌ねじ52aが設けられている。直動部材52Aはケース12に中心軸Ax回りの回転を制限されるとともに、当該ケース12に軸方向に移動可能に支持されている。また、第一部材511Aと第二部材512Aとの間には、摩擦クラッチ61Aとワンウエイクラッチ62Aとが並列に介在している。摩擦クラッチ61Aおよびワンウエイクラッチ62Aの作動は、上記第1実施形態と同様である。なお、ケーブル80は、回転部材51Aおよび直動部材52Aの双方を軸方向に貫通している。
【0042】
第一部材511Aおよび第二部材512Aの第一回転方向への回転に伴い、直動部材52AはX方向に移動し、当該直動部材52AのX方向の端部52dはケーブル80に固定された固定部材81をX方向に押圧する。固定部材81とともにケーブル80がX方向に移動することにより、シューがドラム(不図示)に押し付けられ、制動状態となる。他方、第一部材511Aおよび第二部材512Aの第二回転方向への回転に伴い、直動部材52A、固定部材81、およびケーブル80はX方向の反対方向に移動し、シューによるドラムの押圧状態が解消され、非制動状態となる。ただし、本実施形態でも、摩擦クラッチ61Aにおいて、第一部材511Aの当接面511aと第二部材512Aの当接面512aとの間に所要の押圧力ひいては摩擦力が得られなくなった時点で、第二部材512Aの回転が停止し、直動部材52A、固定部材81、およびケーブル80のX方向の反対方向への移動が停止する。よって、本実施形態によっても、制動解除時における直動部材52AのX方向の反対方向への移動量をより短くすることができるため、次回の制動時における直動部材52AのX方向への移動量をより短くすることができ、より応答性の高い電動ブレーキが得られる。なお、当接面511a,512aは、軸方向と交差している(直交している)。
【0043】
[第3実施形態]
図6は、第3実施形態のブレーキ装置10Bの一部の断面図である。本実施形態も、第2実施形態と同様、ドラムブレーキへの適用例である。ブレーキ装置10Bは、バッキングプレート(不図示)の車幅方向内側に固定される。本実施形態では、回転直動変換機構50Bの直動部材52Bが作動部材としてのケーブル80をX方向に移動させる(牽引する)ことにより、制動部材としてのシュー(不図示)が制動状態になる。また、直動部材52Bがケーブル80をX方向の反対方向へ移動させる(リリースする)ことにより、シューが非制動状態になる。
【0044】
回転部材51Bは、第一部材511Bと、第二部材512Bと、を有している。本実施形態では、上記第1実施形態と異なり、第二部材512Bに雌ねじ512dが設けられ、直動部材52Bに雌ねじ512dと噛み合う雄ねじ52eが設けられている。直動部材52Bはケース12に中心軸Ax回りの回転を制限されるとともに、当該ケース12に軸方向に移動可能に支持されている。また、第一部材511Bと第二部材512Bとの間には、摩擦クラッチ61Bとワンウエイクラッチ62Bとが並列に介在している。摩擦クラッチ61Bおよびワンウエイクラッチ62Bの作動は、上記第1実施形態と同様である。
【0045】
第一部材511Bおよび第二部材512Bの第一回転方向への回転に伴い、直動部材52BはX方向に移動し、ケーブル80をX方向に移動させる。ケーブル80がX方向に移動することにより、シューがドラム(不図示)に押し付けられ、制動状態となる。他方、第一部材511Bおよび第二部材512Bの第二回転方向への回転に伴い、直動部材52Bおよびケーブル80はX方向の反対方向に移動し、シューによるドラムの押圧状態が解消され、非制動状態となる。ただし、本実施形態でも、摩擦クラッチ61Bにおいて、第一部材511Bの当接面511aと第二部材512Bの当接面512aとの間に所要の押圧力ひいては摩擦力が得られなくなった時点で、第二部材512Bの回転が停止し、直動部材52Bおよびケーブル80のX方向の反対方向への移動が停止する。よって、本実施形態によっても、リリース時における直動部材52BのX方向の反対方向への移動量をより短くすることができるため、次回の制動時における直動部材52BのX方向への移動量をより短くすることができ、より応答性の高い電動ブレーキが得られる。
【0046】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、形状、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。例えば、回転直動変換機構や、回り止め機構は、種々の構成として実現されうる。
【0047】
例えば、第二回転伝達切替機構は、第一伝達部と第二伝達部とを一回転方向のみに連動可能とするラッチや、ぜんまいのような係合部材を有するものであってもよい。また、回転部と第二伝達部とは連動すればよく、別部材であってもよい。
【符号の説明】
【0048】
10,10A,10B…ブレーキ装置、20…モータ、43…ピストン(作動部材)、45…パッド(制動部材)、50,50A,50B…回転直動変換機構、52,52A,52B…直動部材(直動部)、61,61A,61B…摩擦クラッチ(第一回転伝達切替機構)、62,62A,62B…ワンウエイクラッチ(第二回転伝達切替機構)、511,511A,511B…第一部材(第一伝達部)511a…当接面(第一当接面)、512a…当接面(第二当接面)、512,512A,512B…第二部材(第二伝達部、回転部)、Ax…中心軸、X…矢印(方向、第一方向)。