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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】有機珪素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/04 20060101AFI20220902BHJP
【FI】
C07F7/04 L
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018091571
(22)【出願日】2018-05-10
(65)【公開番号】P2019196335
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】深谷 訓久
(72)【発明者】
【氏名】崔 準哲
(72)【発明者】
【氏名】岡部 治美
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/170665(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/170666(WO,A1)
【文献】砂や灰などからケイ素科学の基幹原料を高効率に直接合成,産総研 研究結果 研究成果記事一覧,産総研,2016年
【文献】New Journal of Chemistry,2017年,Vol. 41, No. 6,pp. 2224-2226
【文献】田野崎隆雄ほか,日本の焼却灰の性状,Inorganic Materials,1998年,Vol.5,149-158
【文献】奥谷猛ほか,籾殻中のシリカの工業的利用,Netsu Sokutei,第23巻、第3号,1996年,117-127
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属のフッ化物及びフッ化アンモニウムからなる群から選択された少なくとも1種の触媒の存在下、二酸化珪素を含む燃焼灰とアルコール化合物とを反応させてアルコキシシランを得る工程を含み、
前記触媒がアルカリ金属のフッ化物である場合、前記触媒の使用量が、前記燃焼灰中の二酸化珪素に対して20~80mol%であることを特徴とする、有機珪素化合物の製造方法。
【請求項2】
前記触媒が、フッ化アンモニウムである、請求項1に記載の有機珪素化合物の製造方法。
【請求項3】
前記アルコール化合物が、炭素数1以上5以下のアルコール化合物である、請求項1又は請求項2に記載の有機珪素化合物の製造方法。
【請求項4】
前記アルコール化合物が、メタノール、エタノール及びプロパノールからなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の有機珪素化合物の製造方法。
【請求項5】
前記アルコキシシランが、テトラアルコキシシランである、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の有機珪素化合物の製造方法。
【請求項6】
さらに、脱水材の存在下、前記燃焼灰と前記アルコール化合物とを反応させる、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の有機珪素化合物の製造方法。
【請求項7】
前記燃焼灰の比表面積が、30m/g以上である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の有機珪素化合物の製造方法。
【請求項8】
前記燃焼灰が、石炭灰である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の有機珪素化合物の製造方法。
【請求項9】
前記石炭灰が、フライアッシュである、請求項8に記載の有機珪素化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機珪素化合物の製造方法に関し、例えば、燃焼灰に含まれる二酸化珪素を用いた有機珪素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルコールと二酸化珪素とを用いたテトラアルコキシシランの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このテトラアルコキシシランの製造方法では、二酸化炭素の存在下でメタノールと珪素とを反応させた後、反応混合物の気化成分をモレキュラーシーブと接触させる。これにより、反応によって副生した水がモレキュラーシーブによって除去されるので、テトラアルコキシシランを効率よく製造することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-88498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、石炭火力発電所などの燃焼炉では、石炭の燃焼に伴って二酸化珪素を含有し、廃棄処理にコストを要する石炭灰が発生する。そこで、石炭灰を減容化して廃棄処理を容易にする観点から、石炭灰中に含まれる二酸化珪素を用いたアルコキシシランの製造方法が検討されている。しかしながら、石炭灰は、燃焼炉中での熱履歴によって結晶質の含有量が高くなり、従来検討されている反応条件では、二酸化珪素からアルコキシシランへの反応率が必ずしも十分ではない。そこで、石炭灰中に含まれる二酸化珪素からアルコキシシランへの反応率を向上できる有機珪素化合物の製造方法が望まれている。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、燃焼灰中に含まれる二酸化珪素からアルコキシシランへの反応率を向上できる有機珪素化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る有機珪素化合物の製造方法は、アルカリ金属のフッ化物及びフッ化アンモニウムからなる群から選択された少なくとも1種の触媒の存在下、二酸化珪素を含む燃焼灰とアルコール化合物とを反応させてアルコキシシランを得る工程を含むことを特徴とする。
【0007】
この有機珪素化合物の製造方法によれば、アルカリ金属のフッ化物及びフッ化アンモニウムからなる群から選択された少なくとも1種の触媒の存在下で反応を行うので、触媒に含まれるフッ素成分と燃焼灰に含まれる二酸化珪素とが反応する。これにより、燃焼灰に含まれる二酸化珪素の表面が溶解して表面積が増大すると推定される。この結果、フッ素化合物により燃焼灰中の珪素化合物が反応しやすくなるので、燃焼灰中に含まれる二酸化珪素からアルコキシシランへの反応率の向上が可能となる。
【0008】
本発明に係る有機珪素化合物の製造方法においては、前記触媒が、フッ化カリウム、フッ化セシウム及びフッ化アンモニウムからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。この方法より、触媒と燃焼灰との反応率がより向上するので、燃焼灰中に含まれる二酸化珪素からアルコキシシランへの反応率をより一層向上することが可能となる。
【0009】
本発明に係る有機珪素化合物の製造方法においては、前記アルコール化合物が、炭素数1以上5以下のアルコール化合物であることが好ましい。この方法より、アルコール化合物と触媒との反応率がより向上するので、燃焼灰中に含まれる二酸化珪素からアルコキシシランへの反応率をより一層向上することが可能となる。
【0010】
本発明に係る有機珪素化合物の製造方法によれば、前記アルコール化合物が、メタノール、エタノール及びプロパノールからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。この方法により、アルコール化合物と触媒との反応率がより向上するので、燃焼灰中に含まれる二酸化珪素からアルコキシシランへの反応率をより一層向上することが可能となる。
【0011】
本発明に係る有機珪素化合物の製造方法においては、前記アルコキシシランが、テトラアルコキシシランであることが好ましい。この方法により、燃焼灰に含まれる二酸化珪素を有価物としてのテトラアルコキシシランとして有効に活用することが可能となる。
【0012】
本発明に係る有機珪素化合物の製造方法においては、さらに、脱水材の存在下、前記燃焼灰と前記アルコール化合物とを反応させることが好ましい。この方法により、アルコキシシランとアルコール化合物との反応によって生じた水分を脱水材によって吸着除去できるので、二酸化珪素からアルコキシシランへの反応率をより一層向上することが可能となる。
【0013】
本発明に係る有機珪素化合物の製造方法においては、前記燃焼灰の比表面積が、30m/g以上であることが好ましい。この方法により、燃焼灰の比表面積がアルコール化合物との反応に適した範囲となるので、燃焼灰中の二酸化珪素をアルコキシシランに効率よく変換することが可能となる。
【0014】
本発明に係る有機珪素化合物の製造方法においては、前記燃焼灰が、石炭灰であることが好ましい。この方法により、二酸化珪素とアルコール化合物との反応率がより一層向上するので、アルコキシシランの収率がより一層向上する。
【0015】
本発明に係る有機珪素化合物の製造方法においては、前記石炭灰が、フライアッシュであることが好ましい。この方法により、二酸化珪素とアルコール化合物との反応率がより一層向上するので、アルコキシシランの収率がより一層向上する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、燃焼灰中に含まれる二酸化珪素からアルコキシシランへの反応率を向上できる有機珪素化合物の製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る触媒の反応率の説明図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係る触媒の使用量と反応率との関係を示す図である。
図3図3は、本発明の実施の形態に係る石炭灰の粉砕処理後の二酸化珪素及びアルコール化合物の反応率と反応時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
石炭焚火力発電所などでは、二酸化珪素を含む結晶質のフライアッシュ及びクリンカアッシュなどの石炭灰が排出される。これらの石炭灰は、約65%の二酸化珪素を含むので、二酸化珪素を有効に活用することにより、石炭灰からの有価物の回収及び廃棄物となる石炭灰の減容化による廃棄コストの削減が期待できる。しかしながら、石炭灰は、燃焼炉中での熱履歴から結晶化率が高くなり、従来の反応条件では、必ずしも十分な二酸化珪素の反応率が得られない。例えば、他の二酸化珪素含有成分では、焼成後のもみ殻では反応率が40%以上80%以下であり、珪質頁岩では反応率が50%以上60%以下である。これに対して、石炭灰では反応率が低収率にとどまっている。
【0019】
まず、本発明者らは、粉末X線回折装置(XRD)などにより、石炭灰の結晶構造を有する定性成分の分析を行った。その結果、本発明者等は、石炭灰に含まれるフライアッシュ及びクリンカアッシュには、結晶質として石英(SiO)及びムライト(Al13Si)が含まれることを確認した。そして、本発明者らは、これらの石炭灰の結晶化質の含有量は、焼成後のもみ殻及び珪質頁岩よりも高く、石炭灰中の二酸化珪素の反応率の低下の要因となっていることを見出した。
【0020】
また、本発明者らは、結晶化度が向上した石炭灰の比表面積に着目した。そして、本発明者らは、結晶化度が向上した石炭灰では、比表面積が他のシリカ含有成分より著しく低下していることを確認した。そして、本発明者らは、石炭灰の比表面積の低下が石炭灰中の二酸化珪素の反応率の低下の要因となっていることを見出した。
【0021】
さらに、本発明者らは、上記知見に基づき、石炭灰に含まれる二酸化珪素の反応に用いる触媒の種類を検討することにより、石炭灰に含まれる二酸化珪素を効率よくアルコキシシランへ変換できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0022】
以下、本発明の一実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態によって何ら限定されるものではない。
【0023】
本実施の形態に係る有機珪素化合物の製造方法は、石炭焚ボイラなどから排出される燃焼灰に含まれる二酸化珪素とアルコール化合物とを反応させることにより、アルコキシシラン化合物を得るものである。
【0024】
有機珪素化合物の製造方法は、下記式(1)に示すように、アルカリ金属のフッ化物及びフッ化アンモニウムからなる群から選択された少なくとも1種の触媒の存在下、二酸化珪素を含む燃焼灰とアルコール化合物とを反応させてアルコキシシランを得る工程を含む。なお、下記式(1)においては、二酸化珪素に対して3分子のアルコール化合物を反応させる例について示しているが、二酸化珪素に反応させるアルコール化合物の分子数は、用いるアルコール化合物及び反応条件などによって適宜変更可能である。例えば、本実施の形態に係る有機珪素化合物の製造方法は、二酸化珪素と4分子のアルコール化合物とが反応してテトラアルコキシシランを得るものであってもよく、二酸化珪素と3分子のアルコール化合物とが反応してトリアルコキシシランを得るものであってもよく、二酸化珪素と2分子のアルコール化合物とが反応してジアルコキシシランを得るものであってもよく、二酸化珪素と1分子のアルコール化合物とが反応してモノアルコキシシランを得るものであってもよい。
【化1】
【0025】
燃焼灰としては、燃焼灰としては、二酸化珪素を含むものであれば特に制限はない。燃焼灰としては、例えば、フライアッシュなどの石炭灰が用いられる。また、燃焼灰としては、二酸化珪素の反応率を向上する観点から、比表面積が大きいものが好ましい。燃焼灰の比表面積は、二酸化珪素とアルコール化合物との反応率を向上する観点から、30m/g以上が好ましく、50m/g以上がより好ましく、70m/g以上が更に好ましく、また1000m/g以下が好ましく、500m/g以下がより好ましく、150m/g以下が更に好ましい。
【0026】
アルコール化合物は、二酸化珪素と反応する反応成分及び溶媒として用いられる。アルコール化合物としては、二酸化珪素と反応してアルコキシシランが得られるものであれば特に制限はない。アルコール化合物としては、炭素数1以上5以下のアルコール化合物であることが好ましい。これにより、アルコール化合物と触媒との反応率がより向上するので、燃焼灰中に含まれる二酸化珪素からアルコキシシランへの反応率をより一層向上することが可能となる。炭素数1以上5以下のアルコール化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール及びペンタノールなどが挙げられる。これらの中でも、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノールが好ましく、エタノールがより好ましい。
【0027】
アルコール化合物の使用量としては、燃焼灰中の二酸化珪素との反応率を向上する観点から、燃焼灰中の二酸化珪素100質量部に対して、100質量部以上100000質量部以下であることが好ましく、5000質量部以上50000質量部以下であることがより好ましく、1000質量部以上10000質量部以下であることが更に好ましい。
【0028】
触媒としては、アルカリ金属のフッ化物及びフッ化アンモニウムからなる群から選択された少なくとも1種が用いられる。これにより、触媒に含まれるフッ素が、燃焼炉中の熱履歴によって結晶性が高くなった燃焼灰中の二酸化珪素と反応して結晶質を溶解させると推定される。この結果、燃焼灰の結晶性を低下させることができるので、燃焼灰中に含まれる二酸化珪素とアルコール化合物との反応率をより向上させることができる。
【0029】
アルカリ金属のフッ化物としては、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム。これらの中でも、燃焼灰中に含まれる二酸化珪素とアルコール化合物との反応性を向上する観点から、フッ化カリウム、フッ化セシウムが好ましく、フッ化カリウムがより好ましい。
【0030】
触媒の使用量としては、燃焼灰中に含まれる二酸化珪素とアルコール化合物との反応率を向上する観点から、燃焼灰中の二酸化珪素に対して10mol%以上が好ましく、20mol%以上がより好ましく、30mol%以上が更に好ましく、50mol%以上がより更に好ましく、また100mol%以下が好ましく、80mol%以下がより好ましい。
【0031】
また、有機珪素化合物の製造方法では、上記触媒の他に添加物を用いて反応を行ってもよい。このような添加物としては、例えば、反応系内の水分を脱水する脱水材が挙げられる。これにより、上記式(1)の反応の進行によって系内に発生した水分を脱水することができるので、より一層二酸化珪素の反応率が向上する。脱水材としては、各種モレキュラーシーブが好ましく、モレキュラーシーブ3Aがより好ましい。脱水材の使用量としては、燃焼灰中に含まれる二酸化珪素とアルコール化合物との反応性を向上する観点から、燃焼灰中に含まれる二酸化珪素100質量部に対して、例えば、100質量部以上10000質量部以下が好ましい。
【0032】
反応温度としては、アルコキシシランが得られる温度であれば特に制限はない。反応温度としては、例えば、燃焼灰中の二酸化珪素の反応率を向上する観点から、150℃以上300℃以下が好ましく、210℃以上270℃以下がより好ましい。反応時間としては、燃焼灰中の二酸化珪素の反応率を向上する観点から、例えば、1時間以上50時間未満が好ましい。
【0033】
まず、本発明者らは、反応に用いる触媒と二酸化珪素及びアルコール化合物の反応率との関係について詳細に調べた。図1は、本実施の形態に係る触媒の反応率の説明図である。図1においては、アルコール化合物としてエタノールを用い、同一反応条件で触媒の種類を変化させた際のテトラエトキシシランの反応率の変化を示している。図1に示すように、触媒としては、フッ化セシウムを用いた際には中程度の収率であったが、フッ化カリウム及びフッ化アンモニウムを用いた際に大幅に収率が向上することが分かる。
【0034】
次に、本発明者らは、触媒の使用量と二酸化珪素及びアルコール化合物の反応率との関係について詳細に調べた。図2は、触媒の使用量と反応率との関係を示す図である。なお、図2においては、図1と同様にアルコール化合物としてエタノールを用い、触媒の使用量を変化させた際のテトラアルコキシシランの反応率の変化を示している。また、図2においては、比較のために、触媒としてフッ素を含有しない水酸化カリウムと炭酸カリウムを用いた例についても示している。
【0035】
図2に示すように、触媒を用いなかった場合には、反応率は6%程度であったものの触媒を用いることによりいずれも収率は向上した。触媒としてフッ化カリウムを用いた場合には、触媒量が20mol%以上になるとテトラアルコキシシランの収率が顕著に向上した(実線L1参照)。これに対して、触媒として炭酸カリウム及び水酸化カリウムを用いた場合には、触媒の使用量が20mol%を超えるとテトラアルコキシシランの収率は低下した(破線L2及び一点鎖線L3参照)。このように、本実施の形態では、フッ素を含有する触媒を用いることにより、フッ素を含有しない場合と比較して反応率の傾向が全く異なることが分かる。
【0036】
また、本実施の形態においては、反応に用いる燃焼灰を予め粉砕処理して反応に適した比表面積としてもよい。粉砕処理としては、ボールミルを用いた乾式粉砕処理、ボールミルと共に分散媒を用いた湿式粉砕処理のいずれを用いてもよい。溶媒としては、燃焼灰を粉砕処理できるものであれば特に制限はない。分散媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール及びブタノールなどアルコール系化合物、エーテル系化合物及びエステル系化合物などの各種有機溶媒が挙げられる。これらの中でも、分散媒としては、アルコール系化合物が好ましく、エタノールがより好ましい。また、分散媒としてアルコール系化合物を用いることにより、粉砕処理後に燃焼灰と分散媒とを反応に適した固液比に調整でき、触媒を追加してそのまま反応に用いることも可能となる。
【0037】
分散媒の使用量としては、燃焼灰を粉砕できる範囲であれば特に制限はない。溶媒の使用量としては、例えば、燃焼灰100質量部に対して、100質量部以上10000質量部以下が好ましく、200質量部以上5000質量部以下がより好ましく、300質量部以上3000質量部以下が更に好ましい。これにより、粉砕時に燃焼灰がスラリー状になるので、燃焼灰を効率良く粉砕処理することができる。
【0038】
図3は、石炭灰の粉砕処理後の二酸化珪素及びアルコール化合物の反応率と反応時間との関係を示す図である。なお、図3に示す例では、反応触媒として、二酸化珪素に対して75mol%のフッ化カリウムを用い、予め湿式粉砕処理したフライアッシュを用いた例(比表面積:103m/g実線L4参照)、未粉砕処理のフライアッシュを用いた例(比表面積:1.7m/g:破線L5参照)、未粉砕処理のクリンカアッシュを用いた例(比表面積:3m/g:一点鎖線L6参照)を示している。
【0039】
図3に示すように、未粉砕処理のクリンカアッシュでは、反応時間が経過しても反応率は5%程度だったのに対し、フライアッシュを用いた場合には、反応率が大幅に向上した。特に、湿式粉砕処理後のフライアッシュでは、未粉砕処理のフライアッシュより反応率の上昇が早く、24時間で36%の反応率に達した。この結果から、燃焼灰を粉砕処理することにより、反応率を著しく増大できることが分かる。
【0040】
以上説明したように、上記実施の形態によれば、アルカリ金属のフッ化物及びフッ化アンモニウムからなる群から選択された少なくとも1種の触媒の存在下で反応を行うので、触媒に含まれるフッ素成分と燃焼灰に含まれる二酸化珪素とが反応する。これにより、燃焼灰に含まれる二酸化珪素の表面が溶解して表面積が増大するので、燃焼灰中の珪素化合物とアルコール化合物とが反応しやすくなる。その結果、燃焼灰中に含まれる二酸化珪素からアルコキシシランへの反応率の向上が可能となる。
【実施例
【0041】
以下、本発明の効果を明確にするために行った実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
フライアッシュ20gとエタノール65gとを混合し、ジルコニアボール(球平均直径1mm)によるボールミル(型番:PM100、ヴァーダー・サイエンティフィック社製)を用いて、室温(10℃以上40℃以下)にて500rpmの条件で湿式粉砕を開始した。時間の湿式粉砕処理を実施し、比表面積80m/gのフライアッシュを得た。
【0043】
機械撹拌機を備えた200mL容積のSUS316製オートクレーブ(日東高圧社製)の上部に、内径4.6mmのSUS316製チューブを介してモレキュラーシーブ3A(メルク社製:2mmビーズ状)25gを入れた内容積30mlのSUS製ポータブルリアクター(耐圧硝子社製)を接続した。ポータブルリアクターの外側には恒温水を循環させて、ポータブルリアクター内部のモレキュラーシーブの温度を60℃に保持した。
【0044】
上記湿式粉砕で得られたフライアッシュ1.4g(二酸化珪素含有量として0.9g)と、触媒としてのフッ化カリウムをフライアッシュ中の二酸化珪素に対して75mol%とを上記200mLのオートクレーブに加え、25℃の温度下で、ボンベからアルゴンガスを、圧力計(型番:「PGC-50M-MG10」、スウェージロックFST社製)が示す圧力で、オートクレーブが0.75MPaになるように充填して10分間撹拌しながら保持して密封した。その後、オートクレーブ内を500rpmに撹拌しつつ240℃で3時間反応させた。テトラアルコキシシランの収率(二酸化珪素の反応率)は、22.5%であった。結果を下記表1に示す。
【0045】
(実施例2)
フッ化カリウムに替えて、フッ化アンモニウムを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてテトラアルコキシシランを得た。テトラアルコキシシランの収率(二酸化珪素の反応率)は21.0%であった。結果を下記表1に併記する。
【0046】
(実施例3)
フッ化カリウムに替えて、フッ化セシウムを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてテトラアルコキシシランを得た。テトラアルコキシシランの収率(二酸化珪素の反応率)は8.6%であった。結果を下記表1に併記する。
【0047】
(実施例4)
フッ化カリウムをフライアッシュ中の二酸化珪素に対して50mol%としたこと以外は実施例1と同様にしてテトラアルコキシシランを得た。テトラアルコキシシランの収率(二酸化珪素の反応率)は12.2%であった。結果を下記表1に併記する。
【0048】
(実施例5)
反応時間を24時間としたこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。テトラアルコキシシランの収率(二酸化珪素の反応率)は、36.2%であった。結果を下記表1に併記する。
【0049】
(実施例6)
反応時間を24時間としたこと、未粉砕処理のフライアッシュ(比表面積1.7m/g)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。テトラアルコキシシランの収率(二酸化珪素の反応率)は、25.5%であった。結果を下記表1に併記する。
【0050】
(比較例1)
フッ化カリウムに替えて、炭酸カリウムを用いたこと以外は実施例4と同様にしてテトラアルコキシシランを得た。テトラアルコキシシランの収率(二酸化珪素の反応率)は6.2%であった。結果を下記表1に併記する。
【0051】
(比較例2)
フッ化カリウムに替えて、水酸化カリウムを用いたこと以外は実施例4と同様にしてテトラアルコキシシランを得た。テトラアルコキシシランの収率(二酸化珪素の反応率)は3.1%であった。結果を下記表1に併記する。
【0052】
【表1】
【0053】
表1から分かるように、触媒としてアルカリ金属のフッ化物及びフッ化アンモニウムからなる群から選択された少なくとも1種を用いた場合には、高い反応率が得られることが分かる(実施例1~実施例7)。この結果は、触媒に含まれるフッ素成分と燃焼灰に含まれる二酸化珪素とが反応したために、燃焼灰に含まれる二酸化珪素の表面が溶解して表面積が増大し、燃焼灰中の珪素化合物とアルコール化合物とが反応しやすくなったためと考えられる。さらに、フライアッシュを予め湿式粉砕処理して比表面積を増大させることにより、より一層反応率が向上することが分かる(実施例7)。これに対して、触媒がアルカリ金属のフッ化物及びフッ化アンモニウムを含まない場合には、著しく反応率が低下することが分かる。この結果は、触媒中にフッ素成分が存在していなかったために、結晶化度が高いフライアッシュ中の二酸化珪素とフッ素成分とが反応せずに反応率が低下したためと推察される。
図1
図2
図3