(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】改変フィブロイン
(51)【国際特許分類】
C07K 14/435 20060101AFI20220902BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220902BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220902BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20220902BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220902BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220902BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220902BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220902BHJP
D01F 4/02 20060101ALI20220902BHJP
C08L 89/00 20060101ALI20220902BHJP
【FI】
C07K14/435
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
C12N5/10
D01F4/02
C08L89/00
(21)【出願番号】P 2018524172
(86)(22)【出願日】2017-06-23
(86)【国際出願番号】 JP2017023116
(87)【国際公開番号】W WO2017222034
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-05-01
(31)【優先権主張番号】P 2016124674
(32)【優先日】2016-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】308013436
【氏名又は名称】小島プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】森田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】小鷹 浩一
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/065650(WO,A1)
【文献】特表2005-502347(JP,A)
【文献】J. Mater. Sci.,2007年,Vol. 42,p. 8974-8985
【文献】Biopolymers,2011年,Vol. 97, No. 6,p. 418-431
【文献】Prep. Biochem. Biotechnol.,2016年,Vol. 46,p. 552-558
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C07K 14/00 - 14/825
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインであって、
最もC末端側に位置する(A)
nモチーフから前記ドメイン配列のC末端までの配列を前記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をxとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフから前記ドメイン配列のC末端までの配列を前記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をyとしたときに、x/yが6.2%以上である、改変フィブロイン。
[式1中、(A)
nモチーフは4~20アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)
nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)
nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
【請求項2】
配列番号2、配列番号4若しくは配列番号5で示されるアミノ酸配列、又は配列番号2、配列番号4若しくは配列番号5で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン。
【請求項3】
更に、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含む、請求項1
又は2に記載の改変フィブロイン。
【請求項4】
前記タグ配列が、配列番号6で示されるアミノ酸配列を含む、請求項
3に記載の改変フィブロイン。
【請求項5】
配列番号8、配列番号10若しくは配列番号11で示されるアミノ酸配列、又は配列番号8、配列番号10若しくは配列番号11で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の改変フィブロインをコードする核酸。
【請求項7】
請求項
6に記載の核酸の相補鎖と
中ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインをコードする核酸。
[式1中、(A)
nモチーフは4~20アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)
nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)
nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
【請求項8】
請求項
6又は7に記載の核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクター。
【請求項9】
プラスミドベクター又はウイルスベクターである、請求項
8に記載の発現ベクター。
【請求項10】
請求項
8又は
9に記載の発現ベクターで形質転換された宿主。
【請求項11】
原核生物である、請求項
10に記載の宿主。
【請求項12】
前記原核生物が、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属からなる群より選択される属に属する微生物である、請求項
11に記載の宿主。
【請求項13】
真核生物である、請求項
10に記載の宿主。
【請求項14】
前記真核生物が、酵母、糸状真菌又は昆虫細胞である、請求項
13に記載の宿主。
【請求項15】
前記酵母が、サッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、クリベロマイセス属、トリコスポロン属、シワニオミセス属、ピキア属、キャンディダ属、ヤロウィア属及びハンゼヌラ属からなる群より選択される属に属する酵母である、請求項
14に記載の宿主。
【請求項16】
前記サッカロマイセス属に属する酵母が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であり、前記シゾサッカロマイセス属に属する酵母が、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)であり、前記クリベロマイセス属に属する酵母が、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)であり、前記トリコスポロン属に属する酵母が、トリコスポロン・プルランス(Trichosporon pullulans)であり、前記シワニオミセス属に属する酵母が、シワニオマイセス・アルビウス(Schwanniomyces alluvius)であり、前記ピキア属に属する酵母が、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)であり、前記キャンディダ属に属する酵母がキャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)であり、前記ヤロウィア属に属する酵母が、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)であり、前記ハンゼヌラ属に属する酵母が、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)である、請求項
15に記載の宿主。
【請求項17】
前記糸状真菌が、アスペルギルス属、ペニシリウム属及びムコア属からなる群より選択される属に属する糸状真菌である、請求項
14に記載の宿主。
【請求項18】
前記アスペルギルス属に属する糸状真菌が、アスペルギルス・オリゼであり、前記ペニシリウム属に属する糸状真菌が、ペニシリウム・クリゾゲナムであり、前記ムコア属に属する糸状真菌が、ムコア・フラギリスである、請求項
17に記載の宿主。
【請求項19】
前記昆虫細胞が、鱗翅類の昆虫細胞である、請求項
14に記載の宿主。
【請求項20】
前記昆虫細胞が、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)由来の昆虫細胞、又はイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)由来の昆虫細胞である、請求項
19に記載の宿主。
【請求項21】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の改変フィブロインを含み、繊維、糸、フィラメント、フィルム、発泡体、球体、ナノフィブリル、ヒドロゲル
及び樹
脂からなる群から選択される、製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変フィブロインに関する。より具体的には、本発明は、局所的に疎水性指標の大きいアミノ酸配列を有する改変フィブロインに関する。本発明はまた、改変フィブロインをコードする核酸、当該核酸配列を含む発現ベクター、当該発現ベクターで形質転換された宿主、及び改変フィブロインから製造された製品にも関する。
【背景技術】
【0002】
フィブロインは、繊維状のタンパク質の一種であり、βプリーツシートの形成につながるグリシン残基、アラニン残基及びセリン残基を最大90%含有する(非特許文献1)。フィブロインとして、昆虫及びクモ類が産生する糸を構成するタンパク質(絹タンパク質、ホーネットシルクタンパク質、スパイダーシルクタンパク質)等が知られている。
【0003】
絹タンパク質は、優れた機械的特性、吸湿特性及び消臭特性を有し、衣服原料として広く用いられている素材である。また絹糸は免疫寛容な天然繊維であり、生体親和性が高いため手術用縫合糸等の用途にも用いられている。
【0004】
クモには最大7種類の絹糸腺が存在し、それぞれ性質の異なるフィブロイン(スパイダーシルクタンパク質)を産生する。スパイダーシルクタンパク質は、その源泉の器官にしたがって、高い靭性を有する大瓶状スパイダータンパク質(major ampullate spider protein、MaSp)、高度な伸長力を有する小瓶状スパイダータンパク質(minor ampullate spider protein、MiSp)、並びに鞭状(flagelliform(Flag))、管状(tubuliform)、集合(aggregate)、ブドウ状(aciniform)及びナシ状(pyriform)の各スパイダーシルクタンパク質と命名されている。特に、優れた強度と伸度を有することにより高い靭性を有する大瓶状スパイダータンパク質において構造的研究が集中して行われている(特許文献1及び特許文献2)。
【0005】
フィブロインに特異的な構造の一つとして、GPGXX、アラニン残基に富んだ伸長領域((A)n又は(GA)n)、GGX、及びスペーサーに分類されるアミノ酸モチーフが反復した構造が知られている(非特許文献2)。また、(GA)nモチーフを(A)nモチーフで置換することにより伸度は減少するが引張り強度が増すこと、GPGXXモチーフの数を増加させることにより伸度が増加すること、GPGXXモチーフのいくつかを(A)nモチーフで置換することにより引張り強度が増加することが報告されている(特許文献2)。また、GGX及びGPGXXモチーフは、糸に弾性を与える可撓性のらせん構造をとると考えられている(特許文献3)。
【0006】
組換えスパイダーシルクタンパク質、及び組換え絹タンパク質は、いくつかの異種タンパク質生産系で産生されている。例えば、トランスジェニック・ヤギ、トランスジェニック・カイコ、又は組換え植物若しくは哺乳類細胞が利用されている(非特許文献3)。しかしながら、これらの生産系では、生産速度が遅く、商業レベルに見合った大量生産には不向きである(特許文献4及び5)。大量生産が可能な生産系として酵母、カビ、グラム陰性細菌、グラム陽性細菌等の生物による組換えフィブロイン生産も多数報告されており一定の成果が得られているが、伸度及び引張り強度に優れた組換えフィブロインを工業的に大量生産できるには至っていない(特許文献5)。
【0007】
クモ糸タンパク質を種々の形状に成形した成形体が知られている。例えば、特許文献6には、クモ糸タンパク質を使用したフィルムが開示されている。また、特許文献7には、クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドパーティクルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-55269号公報
【文献】特表2005-502347号公報
【文献】特表2009-505668号公報
【文献】特表2014-502140号公報
【文献】国際公開第2015/042164号
【文献】特表2008-507260号公報
【文献】国際公開第2014/61043号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Asakuraら,Encyclopedia of Agricultural Science,Academic Press:New York,NY,1994年,Vol.4,pp.1-11
【文献】Microbial Cell Factories,2004年,3:14
【文献】Science,2002年,295巻,pp.472-476
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
フィブロインは、その優れた特性により、医療、航空、衣料等の様々な産業分野における新素材として注目されている。フィブロインはまた、従来は主に石油由来の材料で形成されてきたフィルム等の成形体にも適用可能であり、これらの代替材料(バイオプラスチック)としても注目されている。しかしながら、商業レベルに見合う生産量を達成するためには、フィブロインの生産性をより向上させることが必要である。
【0011】
本発明は、モールド成形体にしたときの曲げ強度が向上すると共に、生産性が向上した改変フィブロインの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、工業的に大量生産可能な方法を種々検討した結果、局所的に疎水性指標の大きいアミノ酸配列を有するフィブロインに改変することにより、生産性が向上すること、また当該フィブロインで作製したモールド成形体は曲げ強度が向上することを見い出した。本発明はこの新規な知見に基づく。
【0013】
すなわち、本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインであって、
上記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有する、改変フィブロイン。
[式1中、(A)nモチーフは4~20アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[2]
上記局所的に疎水性指標の大きい領域が、連続する2~4アミノ酸残基で構成されている、[1]に記載の改変フィブロイン。
[3]
上記疎水性指標の大きいアミノ酸残基が、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれる、[1]又は[2]に記載の改変フィブロイン。
[4]
式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインであって、
最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をxとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をyとしたときに、x/yが6.2%以上である、改変フィブロイン。
[式1中、(A)nモチーフは4~20アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[5]
天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当することに加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の改変フィブロイン。
[6]
上記天然由来のフィブロインが、昆虫又はクモ類由来のフィブロインである、[5]に記載の改変フィブロイン。
[7]
上記天然由来のフィブロインが、クモ類の大瓶状スパイダータンパク質(MaSp)又は小瓶状スパイダータンパク質(MiSp)である、[5]に記載の改変フィブロイン。
[8]
配列番号2、配列番号4若しくは配列番号5で示されるアミノ酸配列、又は配列番号2、配列番号4若しくは配列番号5で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン。
[9]
更に、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の改変フィブロイン。
[10]
上記タグ配列が、配列番号6で示されるアミノ酸配列を含む、[9]に記載の改変フィブロイン。
[11]
配列番号8、配列番号10若しくは配列番号11で示されるアミノ酸配列、又は配列番号8、配列番号10若しくは配列番号11で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン。
[12]
[1]~[11]のいずれかに記載の改変フィブロインをコードする核酸。
[13]
[12]に記載の核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインをコードする核酸。
[式1中、(A)nモチーフは4~20アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[14]
[13]に記載の核酸と90%以上の配列同一性を有し、かつ式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインをコードする核酸。
[式1中、(A)nモチーフは4~20アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[15]
[12]~[14]のいずれかに記載の核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクター。
[16]
プラスミドベクター又はウイルスベクターである、[15]に記載の発現ベクター。
[17]
[15]又は[16]に記載の発現ベクターで形質転換された宿主。
[18]
原核生物である、[17]に記載の宿主。
[19]
上記原核生物が、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属からなる群より選択される属に属する微生物である、[18]に記載の宿主。
[20]
真核生物である、[17]に記載の宿主。
[21]
上記真核生物が、酵母、糸状真菌又は昆虫細胞である、[20]に記載の宿主。
[22]
上記酵母が、サッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、クリベロマイセス属、トリコスポロン属、シワニオミセス属、ピキア属、キャンディダ属、ヤロウィア属及びハンゼヌラ属からなる群より選択される属に属する酵母である、[21]に記載の宿主。
[23]
上記サッカロマイセス属に属する酵母が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であり、上記シゾサッカロマイセス属に属する酵母が、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)であり、上記クリベロマイセス属に属する酵母が、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)であり、上記トリコスポロン属に属する酵母が、トリコスポロン・プルランス(Trichosporon pullulans)であり、上記シワニオミセス属に属する酵母が、シワニオマイセス・アルビウス(Schwanniomyces alluvius)であり、上記ピキア属に属する酵母が、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)であり、上記キャンディダ属に属する酵母がキャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)であり、上記ヤロウィア属に属する酵母が、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)であり、上記ハンゼヌラ属に属する酵母が、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)である、[22]に記載の宿主。
[24]
上記糸状真菌が、アスペルギルス属、ペニシリウム属及びムコア属からなる群より選択される属に属する糸状真菌である、[21]に記載の宿主。
[25]
上記アスペルギルス属に属する糸状真菌が、アスペルギルス・オリゼであり、上記ペニシリウム属に属する糸状真菌が、ペニシリウム・クリゾゲナムであり、上記ムコア属に属する糸状真菌が、ムコア・フラギリスである、[24]に記載の宿主。
[26]
上記昆虫細胞が、鱗翅類の昆虫細胞である、[21]に記載の宿主。
[27]
上記昆虫細胞が、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)由来の昆虫細胞、又はイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)由来の昆虫細胞である、[26]に記載の宿主。
[28]
[1]~[11]のいずれかに記載の改変フィブロインを含み、
繊維、糸、フィラメント、フィルム、発泡体、球体、ナノフィブリル、ヒドロゲル、樹脂及びその等価物からなる群から選択される、製品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、モールド成形体にしたときの曲げ強度が向上すると共に、生産性が向上した改変フィブロインの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】改変フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。
【
図2】天然由来のフィブロインのx/y(%)の値の分布を示す図である。
【
図3】モールド成形体の製造に用いる加圧成形機の一実施形態を示す模式断面図である。
【
図4】モールド成形体の製造方法の一実施形態を模式的に示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
〔改変フィブロイン〕
本発明に係る改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。改変フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
【0018】
本明細書において「改変フィブロイン」とは、そのドメイン配列が天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインを意味する。本明細書でいう「天然由来のフィブロイン」もまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。
【0019】
「改変フィブロイン」は、本発明で特定されるアミノ酸配列を有するものであれば、天然由来のフィブロインに依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
【0020】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)nモチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)nモチーフは4~20アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
【0021】
(A)nモチーフは、(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上であればよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されることが好ましい。アラニン残基のみで構成されるとは、(A)nモチーフが、(A)n(Aはアラニン残基を示し、nは4~20の整数、好ましくは4~16の整数を示す。)で表されるアミノ酸配列を有することを意味する。REPのアミノ酸配列中には、GGX及びGPGXX(但し、Xはグリシン残基以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。REPがこれらのモチーフを含むことにより、フィブロインの伸度を向上させることができる。
【0022】
一実施形態に係る改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0023】
本実施形態に係る改変フィブロインは、局所的に疎水性指標の大きい領域が、連続する2~4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。これにより、本発明による効果がより一層顕著に奏される。
【0024】
本実施形態に係る改変フィブロインは、上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。これにより、組換えタンパク質生産系での生産性を向上させることができ、且つ当該フィブロインで作製したモールド成形体において曲げ強度を著しく向上させることができるという本発明による効果をより安定して発揮できる。
【0025】
本実施形態に係る改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0026】
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0027】
天然由来のフィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質であり、具体的には、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
【0028】
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、スズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
【0029】
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、AAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
【0030】
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
【0031】
クモ類が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、fibroin-3(adf-3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin-4(adf-4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major angu11ate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major anpullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin-like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0032】
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
【0033】
他の実施形態に係る改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をxとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をyとしたときに、x/yが6.2%以上であるアミノ酸配列を有する。
【0034】
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105-132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表1に示すとおりである。
【0035】
【0036】
x/yの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1~4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がxである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がyである。
【0037】
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、xは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(x=2×4-1=7。「-1」は重複分の控除である。)。例えば、
図1に示したドメイン配列の場合、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が重複せずに7つ存在するため、xは7×4=28となる。また、例えば、
図1に示したドメイン配列の場合、yは4+50+4+40+4+10+4+20+4+30=170である(C末端側の最後に存在する(A)
nモチーフは含めない)。次に、xをyで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
図1の場合28/170=16.47%となる。
【0038】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるx/yについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表されるドメイン配列を含む天然由来のフィブロインについて、上述の算出方法により、x/yを算出した。その結果を
図2に示す。
図2の横軸はx/y(%)を示し、縦軸は頻度を示す。
図2から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるx/yは、いずれも6.2%未満である(最も高いもので、6.12%)。
【0039】
本実施形態に係る改変フィブロインにおいて、x/yは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。x/yの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
【0040】
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインのアミノ酸配列を、上記のx/yの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記のx/yの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
【0041】
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
【0042】
本発明に係る改変フィブロインのより具体的な例として、(i)配列番号2、配列番号4若しくは配列番号5で示されるアミノ酸配列、又は(ii)配列番号2、配列番号4若しくは配列番号5で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0043】
(i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号1で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインの(A)nモチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つになるよう欠失したものである。配列番号2で示されるアミノ酸配列は、配列番号1で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、かつ配列番号1で示されるアミノ酸配列の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号3で示されるアミノ酸配列は、配列番号1で示されるアミノ酸配列に対し、各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつ配列番号1で示されるアミノ酸配列の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号5で示されるアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
【0044】
(i)の改変フィブロインは、配列番号2、配列番号4又は配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0045】
(ii)の改変フィブロインは、配列番号2、配列番号4又は配列番号5で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0046】
(ii)の改変フィブロインは、配列番号2、配列番号4又は配列番号5で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をxとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をyとしたときに、x/yが6.2%以上であることが好ましい。
【0047】
上述の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0048】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号5で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0049】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0050】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
【0051】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
【0052】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(iii)配列番号8、配列番号10若しくは配列番号11で示されるアミノ酸配列、又は(iv)配列番号8、配列番号10若しくは配列番号11で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0053】
配列番号8、10及び11で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号2、4及び5で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含む)を付加したものである。
【0054】
(iii)の改変フィブロインは、配列番号8、配列番号10若しくは配列番号11で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0055】
(iv)の改変フィブロインは、配列番号8、配列番号10若しくは配列番号11で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0056】
(iv)の改変フィブロインは、配列番号8、配列番号10若しくは配列番号11で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をxとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をyとしたときに、x/yが6.2%以上であることが好ましい。
【0057】
上述の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0058】
[核酸]
本発明に係る核酸は、本発明に係る改変フィブロインをコードする。核酸の具体例として、配列番号2、配列番号4若しくは配列番号5で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又はこれらのアミノ酸配列のN末端及びC末端のいずれか一方若しくは両方に配列番号6で示されるアミノ酸配列(タグ配列)を結合させたタンパク質等をコードする核酸等が挙げられる。
【0059】
一実施形態に係る核酸は、本発明に係る改変フィブロインをコードする核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をxとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をyとしたときに、x/yが6.2%以上である、改変フィブロインをコードする核酸である。
【0060】
「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。「ストリンジェントな条件」は、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。低ストリンジェントな条件とは、少なくとも85%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、42℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。中ストリンジェントな条件とは、少なくとも90%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、50℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、少なくとも95%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、60℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0061】
[宿主及び発現ベクター]
本発明に係る発現ベクターは、本発明に係る核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する。調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
【0062】
本発明に係る宿主は、本発明に係る発現ベクターで形質転換されたものである。宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0063】
発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、本発明に係る核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0064】
細菌等の原核生物を宿主として用いる場合は、本発明に係る発現ベクターは、原核生物中で自立複製が可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、本発明に係る核酸及び転写終結配列を含むベクターであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0065】
原核生物としては、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する微生物を挙げることができる。
【0066】
エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ BL21(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ BL21(DE3)(ライフテクノロジーズ社)、エシェリヒア・コリ BLR(DE3)(メルクミリポア社)、エシェリヒア・コリ DH1、エシェリヒア・コリ GI698、エシェリヒア・コリ HB101、エシェリヒア・コリ JM109、エシェリヒア・コリ K5(ATCC 23506)、エシェリヒア・コリ KY3276、エシェリヒア・コリ MC1000、エシェリヒア・コリ MG1655(ATCC 47076)、エシェリヒア・コリ No.49、エシェリヒア・コリ Rosetta(DE3)(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ TB1、エシェリヒア・コリ Tuner(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ Tuner(DE3) (ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ W1485、エシェリヒア・コリ W3110(ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli) XL1-Blue、エシェリヒア・コリ XL2-Blue等を挙げることができる。
【0067】
ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ、ブレビバチルス・ボルステレンシス、ブレビバチルス・セントロポラスブレビバチルス・フォルモサス、ブレビバチルス・インボカツス、ブレビバチルス・ラチロスポラス、ブレビバチルス・リムノフィルス、ブレビバチルス・パラブレビス、ブレビバチルス・レウスゼリ、ブレビバチルス・サーモルバー、ブレビバチルス・ブレビス47(FERM BP-1223)、ブレビバチルス・ブレビス47K(FERM BP-2308)、ブレビバチルス・ブレビス47-5(FERM BP-1664)、ブレビバチルス・ブレビス47-5Q(JCM8975)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31(FERM BP-1087)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31-S(FERM BP-6623)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31-OK(FERM BP-4573)、ブレビバチルス・チョウシネンシスSP3株(Takara社製)等を挙げることができる。
【0068】
セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス(Serratia liquefacience)ATCC14460、セラチア・エントモフィラ(Serratia entomophila)、セラチア・フィカリア(Serratia ficaria)、セラチア・フォンティコーラ(Serratia fonticola)、セラチア・グリメシ(Serratia grimesii)、セラチア・プロテアマキュランス(Serratia proteamaculans)、セラチア・オドリフェラ(Serratia odorifera)、セラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)、セラチア・ルビダエ(Serratia rubidaea)等を挙げることができる。
【0069】
バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)等を挙げることができる。
【0070】
ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム ATCC15354等を挙げることができる。
【0071】
ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)ATCC14020、ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067)ATCC13826、ATCC14067、ブレビバクテリウム・インマリオフィラム(Brevibacterium immariophilum)ATCC14068、ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869)ATCC13665、ATCC13869、ブレビバクテリウム・ロゼウムATCC13825、ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)ATCC14066、ブレビバクテリウム・チオゲニタリスATCC19240、ブレビバクテリウム・アルバムATCC15111、ブレビバクテリウム・セリヌムATCC15112等を挙げることができる。
【0072】
コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)ATCC6871、ATCC6872、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC14067、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)ATCC13870、コリネバクテリウム・アセトグルタミカムATCC15806、コリネバクテリウム・アルカノリティカムATCC21511、コリネバクテリウム・カルナエATCC15991、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13020,ATCC13032,ATCC13060、コリネバクテリウム・リリウムATCC15990、コリネバクテリウム・メラセコーラATCC17965、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネスAJ12340(FERMBP-1539)、コリネバクテリウム・ハーキュリスATCC13868等を挙げることができる。
【0073】
シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・ブラシカセラム(Pseudomonas brassicacearum)、シュードモナス・フルバ(Pseudomonas fulva)、及びシュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)D-0110等を挙げることができる。
【0074】
上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110 (1972)〕、プロトプラスト法(特開昭63-248394号公報)、又はGene,17,107(1982)やMolecular & General Genetics,168,111(1979)に記載の方法等を挙げることができる。
【0075】
ブレビバチルス属に属する微生物の形質転換は、例えば、Takahashiらの方法(J.Bacteriol.,1983,156:1130-1134)や、Takagiらの方法(Agric.Biol.Chem.,1989,53:3099-3100)、又はOkamotoらの方法(Biosci.Biotechnol.Biochem.,1997,61:202-203)により実施することができる。
【0076】
本発明に係る核酸を導入するベクター(以下、単に「ベクター」という。)としては、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもベーリンガーマンハイム社より市販)、pKK233-2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX-1(Promega社製)、pQE-8(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58-110600号公報)、pKYP200〔Agric.Biol.Chem.,48,669(1984)〕、pLSA1〔Agric.Biol.Chem.,53,277(1989)〕、pGEL1〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,4306(1985)〕、pBluescript II SK(-)(Stratagene社製)、pTrs30〔Escherichiacoli JM109/pTrS30(FERM BP-5407)より調製〕、pTrs32〔Escherichia coli JM109/pTrS32(FERM BP-5408)より調製〕、pGHA2〔Escherichia coli IGHA2(FERM B-400)より調製、特開昭60-221091号公報〕、pGKA2〔Escherichia coli IGKA2(FERM BP-6798)より調製、特開昭60-221091号公報〕、pTerm2(US4686191、US4939094、US5160735)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pEG400〔J.Bacteriol.,172,2392(1990)〕、pGEX(Pharmacia社製)、pETシステム(Novagen社製)等を挙げることができる。
【0077】
宿主としてEscherichia coliを用いる場合は、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold等を好適なベクターとして挙げることができる。
【0078】
ブレビバチルス属に属する微生物に好適なベクターの具体例として、枯草菌ベクターとして公知であるpUB110、又はpHY500(特開平2-31682号公報)、pNY700(特開平4-278091号公報)、pHY4831(J.Bacteriol.,1987,1239-1245)、pNU200(鵜高重三、日本農芸化学会誌1987,61:669-676)、pNU100(Appl.Microbiol.Biotechnol.,1989,30:75-80)、pNU211(J.Biochem.,1992,112:488-491)、pNU211R2L5(特開平7-170984号公報)、pNH301(Appl.Environ.Microbiol.,1992,58:525-531)、pNH326、pNH400(J.Bacteriol.,1995,177:745-749)、pHT210(特開平6-133782号公報)、pHT110R2L5(Appl.Microbiol.Biotechnol.,1994,42:358-363)、又は大腸菌とブレビバチルス属に属する微生物とのシャトルベクターであるpNCO2(特開2002-238569号公報)等を挙げることができる。
【0079】
プロモーターとしては、宿主細胞中で機能するものであれば制限されない。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、T7プロモーター等の大腸菌又はファージ等に由来するプロモーターを挙げることができる。またPtrpを2つ直列させたプロモーター(Ptrp×2)、tacプロモーター、lacT7プロモーター、let Iプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。
【0080】
リボソーム結合配列であるシャイン-ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6~18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。本発明に係る発現ベクターにおいて、本発明に係る核酸の発現には転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
【0081】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母、糸状真菌(カビ等)及び昆虫細胞を挙げることができる。
【0082】
酵母としては、例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、シワニオミセス(Schwanniomyces)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属、ヤロウィア属及びハンゼヌラ属等に属する酵母を挙げることができる。より具体的には、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、トリコスポロン・プルランス(Trichosporon pullulans)、シワニオマイセス・アルビウス(Schwanniomyces alluvius)、シワニオマイセス・オシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ピキア・アングスタ(Pichia angusta)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア・ポリモルファ(Pichia polymorpha)、ピキア・スチピチス(Pichia stipitis)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)等を挙げることができる。
【0083】
酵母を宿主細胞として用いる場合の発現ベクターは通常、複製起点(宿主における増幅が必要である場合)及び大腸菌中でのベクターの増殖のための選抜マーカー、酵母における組換えタンパク質発現のためのプロモーター及びターミネーター、並びに酵母のための選抜マーカーを含むことが好ましい。
【0084】
発現ベクターが非組込みベクターの場合、さらに自己複製配列(ARS)を含むことが好ましい。これにより細胞内における発現ベクターの安定性を向上させることができる(Myers、A.M.、et al.(1986)Gene 45:299-310)。
【0085】
酵母を宿主として用いる場合のベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、YCp50(ATCC37419)、YIp、pHS19、pHS15、pA0804、pHIL3Ol、pHIL-S1、pPIC9K、pPICZα、pGAPZα、pPICZ B等を挙げることができる。
【0086】
プロモーターとしては、酵母中で発現できるものであれば制限されない。例えば、ヘキソースキナーゼ等の解糖系の遺伝子のプロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal 1プロモーター、gal 10プロモーター、ヒートショックポリペプチドプロモーター、MFα1 プロモーター、CUP 1プロモーター、pGAPプロモーター、pGCW14プロモーター、AOX1プロモーター、MOXプロモーター等を挙げることができる。
【0087】
酵母への発現ベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法(Methods Enzymol.,194,182(1990))、スフェロプラスト法(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,4889(1984))、酢酸リチウム法(J.Bacteriol.,153,163(1983))、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)記載の方法等を挙げることができる。
【0088】
糸状真菌としては、例えば、アクレモニウム(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ウスチラーゴ(Ustilago)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、ノイロスポラ(Neurospora)属、フザリウム(Fusarium)属、フミコーラ(Humicola)属、ペニシリウム(Penicillium)属、マイセリオフトラ(Myceliophtora)属、ボトリティス(Botryts)属、マグナポルサ(Magnaporthe)属、ムコア(Mucor)属、メタリチウム(Metarhizium)属、モナスカス(Monascus)属、リゾプス(Rhizopus)属、及びリゾムコア属に属する菌等を挙げることができる。
【0089】
糸状真菌の具体例として、アクレモニウム・アラバメンゼ(Acremonium alabamense)、アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)、アスペルギルス・アクレアツス(アキュレータス)(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・サケ(Aspergillus sake)、アスペルギルス・ゾジエ(ソーヤ)(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・テュビゲンシス(Aspergillus tubigensis)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・パラシチクス(Aspergillus parasiticus)、アスペルギルス・フィクム(フィキュウム)(Aspergillus ficuum)、アスペルギルス・フェニクス(Aspergillus phoeicus)、アスペルギルス・フォエチズス(フェチダス)(Aspergillus foetidus)、アスペルギルス・フラーブス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・ヤポニクス(ジャポニカス)(Aspergillus japonicus)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、トリコデルマ・ハージアヌム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reseei)、クリソスポリウム・ルクノエンス(Chrysosporium lucknowense)、サーモアスクス(Thermoascus)、スポロトリクム(Sporotrichum)、スポロトリクム・セルロフィルム(Sporotrichum cellulophilum)、タラロマイセス(Talaromyces)、チエラビア・テレストリス(Thielavia terrestris)、チラビア(Thielavia)、ノイロスポラ・クラザ(Neurospora crassa)、フザリウム・オキシスポーラス(Fusarium oxysporus)、フザリウム・グラミネルム(Fusarium graminearum)、フザリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)、フミコーラ・インソレンス(Humicola insolens)、ペニシリウム・クリゾゲナム(Penicillium chrysogenum)、ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)、ペニシリウム・カネセンス(Penicillium canescens)、ペニシリウム・エメルソニ(Penicillium emersonii)、ペニシリウム・フニクロスム(Penicillium funiculosum)、ペニシリウム・グリゼオロゼウム(Penicillium griseoroseum)、ペニシリウム・パープロゲナム(Penicillium purpurogenum)、ペニシリウム・ロケフォルチ(Penicillium roqueforti)、マイセリオフトラ・サーモフィルム(Myceliophtaora thermophilum)、ムコア・アンビグス(Mucor ambiguus)、ムコア・シイルシネロイデェス(Mucor circinelloides)、ムコア・フラギリス(Mucor fragilis)、ムコア・ヘマリス(Mucor hiemalis)、ムコア・イナエクイスポラス(Mucor inaequisporus)、ムコア・オブロンジエリプティカス(Mucor oblongiellipticus)、ムコア・ラセモサス(Mucor racemosus)、ムコア・レクルバス(Mucor recurvus)、ムコア・サトゥルニナス(Mocor saturninus)、ムコア・サブティリススミウス(Mocor subtilissmus)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、ファネロケーテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、リゾムコア・ミーヘイ(Rhizomucor miehei)、リゾムコア・プシルス(Rhizomucor pusillus)、リゾプス・アルヒザス(Rhizopus arrhizus)等を挙げることができる。
【0090】
宿主が糸状真菌である場合のプロモーターとしては、解糖系に関する遺伝子、構成的発現に関する遺伝子、加水分解に関する酵素遺伝子等いずれであってもよく、具体的にはamyB、glaA、agdA、glaB、TEF1、xynF1tannasegene、No.8AN、gpdA、pgkA、enoA、melO、sodM、catA、catB等を挙げることができる。
【0091】
糸状真菌への発現ベクターの導入は,従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、Cohenらの方法(塩化カルシウム法)[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,69:2110(1972)]、プロトプラスト法[Mol.Gen.Genet.,168:111(1979)]、コンピテント法[J.Mol.Biol.,56:209(1971)]、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0092】
昆虫細胞として、例えば、鱗翅類の昆虫細胞が挙げられ、より具体的には、Sf9、及びSf21等のスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)由来の昆虫細胞、並びに、High 5等のイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)由来の昆虫細胞等が挙げられる。
【0093】
昆虫細胞を宿主として用いる場合のベクターとしては、例えば、夜盗蛾科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等のバキュロウイルス(Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company,New York(1992))を挙げることができる。
【0094】
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、例えばカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company, New York(1992)、Bio/Technology,6,47(1988)等に記載された方法によって、ポリペプチドを発現することができる。すなわち、組換え遺伝子導入ベクター及びバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルス(発現ベクター)を得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、ポリペプチドを発現させることができる。該方法において用いられる遺伝子導入ベクターとしては、例えば、pVL1392、pVL1393、pBlueBacIII(ともにInvitorogen社製)等を挙げることができる。
【0095】
組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への組換え遺伝子導入ベクターとバキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法(特開平2-227075号公報)、リポフェクション法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,7413(1987))等を挙げることができる。
【0096】
本発明に係る組換えベクターは、形質転換体選択のための選択マーカー遺伝子をさらに含有していることが好ましい。例えば、大腸菌においては、選択マーカー遺伝子としては、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の各種薬剤に対する耐性遺伝子を用いることができる。栄養要求性に関与する遺伝子変異を相補できる劣性の選択マーカーも使用できる。酵母においては、選択マーカー遺伝子として、ジェネティシンに対する耐性遺伝子を用いることができ、栄養要求性に関与する遺伝子変異を相補する遺伝子、LEU2、URA3、TRP1、HIS3等の選択マーカーも使用できる。糸状真菌においては、選択マーカー遺伝子として、niaD(Biosci.Biotechnol.Biochem.,59,1795-1797(1995))、argB(Enzyme Microbiol Technol,6,386-389,(1984)),sC(Gene,84,329-334,(1989))、ptrA(BiosciBiotechnol Biochem,64,1416-1421,(2000))、pyrG(BiochemBiophys Res Commun,112,284-289,(1983)),amdS(Gene,26,205-221,(1983))、オーレオバシジン耐性遺伝子(Mol Gen Genet,261,290-296,(1999))、ベノミル耐性遺伝子(Proc Natl Acad Sci USA,83,4869-4873,(1986))及びハイグロマイシン耐性遺伝子(Gene,57,21-26,(1987))からなる群より選ばれるマーカー遺伝子、ロイシン要求性相補遺伝子等が挙げられる。また、宿主が栄養要求性変異株の場合には、選択マーカー遺伝子として当該栄養要求性を相補する野生型遺伝子を用いることもできる。
【0097】
本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主の選択は、本発明に係る核酸に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション及びコロニーハイブリダイゼーション等で行うことができる。当該プローブとしては、本発明に係る核酸の配列情報に基づき、PCR法によって増幅した部分DNA断片をラジオアイソトープ又はジゴキシゲニンで修飾したものを用いることができる。
【0098】
〔改変フィブロインの生産〕
本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主において、本発明に係る核酸を発現させることにより、本発明に係る改変フィブロインを生産することができる。発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。酵母、動物細胞、昆虫細胞により発現させた場合には、糖又は糖鎖が付加されたポリペプチドとして改変フィブロインを得ることができる。
【0099】
本発明に係る改変フィブロインは、例えば、本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に本発明に係る改変フィブロインを生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。本発明に係る宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0100】
本発明に係る宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、本発明に係る宿主の培養培地として、該宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、該宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0101】
炭素源としては、該宿主が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。
【0102】
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。
【0103】
無機塩としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0104】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0105】
また、培養中必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0106】
昆虫細胞の培養培地としては、一般に使用されているTNM-FH培地(Pharmingen社製)、Sf-900 II SFM培地(Life Technologies社製)、ExCell400、ExCell405(いずれもJRH Biosciences社製)、Grace’s Insect Medium(Nature,195,788(1962))等を用いることができる。
【0107】
昆虫細胞の培養は、例えば、培養培地のpH6~7、培養温度25~30℃等の条件下で、培養時間1~5日間とすることができる。また、培養中必要に応じて、ゲンタマイシン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。
【0108】
宿主が植物細胞の場合、形質転換された植物細胞をそのまま培養してもよく、また植物の器官に分化させて培養することができる。該植物細胞を培養する培地としては、一般に使用されているムラシゲ・アンド・スクーグ(MS)培地、ホワイト(White)培地、又はこれらの培地にオーキシン、サイトカイニン等、植物ホルモンを添加した培地等を用いることができる。
【0109】
動物細胞の培養は、例えば、培養培地のpH5~9、培養温度20~40℃等の条件下で、培養時間3~60日間とすることができる。また、培養中必要に応じて、カナマイシン、ハイグロマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0110】
本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主を用いて改変フィブロインを生産する方法としては、該改変フィブロインを宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、及び宿主細胞外膜上に生産させる方法がある。使用する宿主細胞、及び生産させる改変フィブロインの構造を変えることにより、これらの各方法を選択することができる。
【0111】
例えば、改変フィブロインが宿主細胞内又は宿主細胞外膜上に生産される場合、ポールソンらの方法(J.Biol.Chem.,264,17619(1989))、ロウらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990))、又は特開平5-336963号公報、国際公開第94/23021号等に記載の方法を準用することにより、改変フィブロインを宿主細胞外に積極的に分泌させるように変更させることができる。すなわち、遺伝子組換えの手法を用いて、改変フィブロインの活性部位を含むポリペプチドにシグナルペプチドを付加した形で発現させることにより、改変フィブロインを宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。
【0112】
本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主により生産された改変フィブロインは、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法で単離及び精製することができる。例えば、改変フィブロインが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液にけん濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0113】
上記クロマトグラフィーとしては、フェニル-トヨパール(東ソー)、DEAE-トヨパール(東ソー)、セファデックスG-150(ファルマシアバイオテク)を用いたカラムクロマトグラフィーが好ましく用いられる。
【0114】
また、改変フィブロインが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として改変フィブロインの不溶体を回収する。回収した改変フィブロインの不溶体は蛋白質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により改変フィブロインの精製標品を得ることができる。
【0115】
改変フィブロイン、又は改変フィブロインに糖鎖の付加された誘導体が細胞外に分泌された場合には、培養上清から改変フィブロイン又はその誘導体を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、該培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0116】
〔モールド成形体の製造方法〕
本実施形態に係るモールド成形体は、本実施形態に係る改変フィブロインを含む成形用組成物から加圧成形機を用いて製造することができる。
図3は、モールド成形体の製造に用いる加圧成形機の一実施形態を示す模式断面図である。
図3に示す加圧成形機10は、貫通孔が形成され加温可能な金型2と、金型2の貫通孔内で上下動が可能な上側ピン4及び下側ピン6とを備える。金型2に、上側ピン4又は下側ピン6を挿入して生じる空隙に、改変フィブロインを含む成形用組成物を導入して、金型2を加温しつつ、上側ピン4及び下側ピン6で組成物を圧縮することで、モールド成形体を得ることができる。
【0117】
図4は、モールド成形体の製造方法の一実施形態を模式的に示す工程図である。
図4(a)は組成物を導入する前の加圧成形機の模式断面図、
図4(b)は組成物の導入直後の加圧成形機の模式断面図、並びに
図4(c)は組成物を加熱及び加圧している状態、又は加熱及び加圧後の加圧成形機の模式断面図である。
図4(a)に示すように、金型2の貫通孔に下側ピン6のみを挿入した状態で貫通孔内に組成物を導入し、
図4(b)に示すように、金型2の貫通孔に上側ピン4を挿入して下降させ、金型2の加熱を開始して、加熱加圧前の組成物8aを貫通孔内で加熱加圧する。あらかじめ定めた加圧力に至るまで上側ピン4を下降させ、
図4(c)に示す状態で組成物が所定の温度に達するまで、加熱及び加圧を継続して、加熱加圧後の組成物8bを得る。その後、冷却器(例えばスポットクーラー)を用いて金型2の温度を下降させ、組成物8bが所定の温度になったところで、上側ピン4又は下側ピン6を金型2から抜き取り、内容物を取り出して、モールド成形体を得る。加圧に関しては、下側ピン6を固定した状態で上側ピン4を下降させて実施してもよいが、上側ピン4の下降と下側ピン6の上昇の両方を実施してもよい。
【0118】
加熱は、80~300℃で行うことが好ましく、100~180℃で行うことがより好ましく、100~130℃で行うことが更に好ましい。加圧は、5kN以上で行うことが好ましく、10kN以上で行うことがより好ましく、20kN以上で行うことが更に好ましい。また、所定の加熱加圧条件に達した後、その条件での処理を続ける時間(保温条件)は、0~100分が好ましく、1~50分がより好ましく、5~30分が更に好ましい。
【0119】
改変フィブロインを含む成形用組成物は、改変フィブロインのみを含むものであってもよく、また任意の添加剤を更に含むものであってもよい。添加剤を含ませることにより種々の異なる物性を有する成形用組成物を製造することができる。添加剤としては、例えば、軟化剤、結晶核剤、発泡剤、耐候剤、耐加水分解剤、還元剤、着色剤、改質剤、安定剤、滑剤、充填剤、難燃剤、強化剤、離型剤、帯電防止剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0120】
軟化剤としては例えば、グリセリン、ポリエチレングリコール等の高分子量アルコール、デンプン等の糖類、水、界面活性剤等が挙げられる。
【0121】
結晶核剤としては例えば、カオリン、タルク、モンモリロイド、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、他種類のポリアミド等が挙げられる。
【0122】
発泡剤としては例えば、炭酸水素ナトリウムに酸又はアルカリを加えたもの、アルミ粉末に酸を加えたもの、イソシアネートに水を加えたもの等が挙げられる。
【0123】
耐候剤としては例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン等が挙げられる。
【0124】
耐加水分解剤としては例えば、エポキシ試薬、カルボジイミド、イソシアネート、オキサゾリン等が挙げられる。
【0125】
[製品]
本発明に係る改変フィブロインから形成されたフィブロイン繊維は、繊維又は糸として、織物、編物、組み物、不織布等に応用できる。また、ロープ、手術用縫合糸、電気部品用の可撓性止め具、さらには移植用生理活性材料(例えば、人工靭帯及び大動脈バンド)等の高強度用途にも応用できる。
【0126】
また、本発明に係る改変フィブロインは、フィラメント、フィルム、発泡体、球体、ナノフィブリル、ヒドロゲル、樹脂及びその等価物にも応用でき、これらは、特開2009-505668号公報、特開2009-505668号公報、特許第5678283号公報、特許第4638735号公報等に記載の方法に準じて製造することができる。
【実施例】
【0127】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0128】
〔(1)改変フィブロインをコードする核酸の合成、及び発現ベクターの構築〕
天然由来のフィブロインであるNephila clavipes(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号1~5及び7~11で示されるアミノ酸配列を有するフィブロイン及び改変フィブロインを設計した。
【0129】
配列番号1で示されるアミノ酸配列は、上記天然由来のフィブロインの(A)nモチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つになるよう欠失したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである(比較例1)。
【0130】
配列番号2で示されるアミノ酸配列は、配列番号1で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、かつ配列番号1で示されるアミノ酸配列の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号2で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである(実施例1)。
【0131】
配列番号3で示されるアミノ酸配列は、配列番号1で示されるアミノ酸配列に対し、各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつ配列番号1で示されるアミノ酸配列の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号2で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである(比較例2)。
【0132】
配列番号4で示されるアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号10で示されるアミノ酸配列は、配列番号4で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである(実施例2)。
【0133】
配列番号5で示されるアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。配列番号11で示されるアミノ酸配列は、配列番号5で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである(実施例3)。
【0134】
設計した配列番号1~5で示されるアミノ酸配列それぞれのN末端にHisタグ配列及びヒンジ配列(配列番号6)を付加した配列番号7~11で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸をそれぞれ合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト、終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。これら5種類の核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0135】
〔(2)タンパク質の発現〕
配列番号7~11で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸を含むpET22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液をアンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表2)にOD
600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD
600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【表2】
【0136】
当該シード培養液を500mlの生産培地(表3)を添加したジャーファーメンターにOD
600が0.05となるように添加して形質転換大腸菌を植菌した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
【表3】
【0137】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1ml/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、目的のタンパク質を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とするタンパク質サイズのバンドの出現により、目的とするタンパク質の発現を確認した。
【0138】
〔(3)タンパク質の精製〕
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8Mグアニジン塩酸塩、10mMリン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収した。
【0139】
得られた凍結乾燥粉末における目的タンパク質の精製度は、粉末のポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果をTotallab(nonlinear dynamics ltd.)を用いて画像解析することにより確認した。その結果、いずれのタンパク質も精製度は約85%であった。凍結乾燥粉末の重量から計算した各目的タンパク質の生産量を、GEN495(配列番号7:比較例1)の値を100としたときの相対値として、表4及び表5に示した。
【0140】
〔(4)モールド成形体の製造〕
上記〔(3)タンパク質の精製〕で得られた凍結乾燥粉末(以下「サンプル」という。)をそれぞれ1.35g量り取り、このサンプルを
図3に示す加圧成形機10の金型2(円柱形状の金型であり、断面が35mm×15mmの長方形状の貫通孔を有している。)の貫通孔内に導入した。この際、厚みが均等になるようにサンプルを加えていった。全てのサンプルを導入した後、金型2の加熱を開始するとともに、ハンドプレス機(NPaシステム株式会社製、NT-100H-V09)を用いて、上側ピン4と下側ピン6を貫通孔内に挿入することでサンプルの加圧を行った。この際、サンプルの加圧条件が40kNとなるように制御した。サンプルの温度が200℃になったところで加熱を中止し、スポットクーラー(トラスコ中山株式会社製、TS-25EP-1)で冷却した。サンプルの温度が50℃になったところで取り出し、バリ取りを行い、35mm×15mm×2mmの直方体形状のモールド成形体を得た。
【0141】
〔(5)曲げ強度の測定〕
得られたモールド成形体を、恒温恒湿槽(espec社製、LHL-113)内、20℃、65%の条件下で1日静置した後、オートグラフ(島津製作所株式会社製、AG-Xplus)と籠治具を用い、三点曲げ試験を行った。ロードセルとして定格容量50kNのものを使用した。この際、三点曲げの支点間距離を27mmに固定し、測定速度を1mm/分とした。また、モールド成形体のサイズはマイクロノギスで測定した。曲げ強度測定試験の結果を、GEN495(配列番号7:比較例1)の値を100としたときの相対値として表4に示した。
【0142】
【0143】
【0144】
REP中に局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有する改変フィブロインは、生産性が著しく向上し(実施例1~3)、当該改変フィブロインから製造したモールド成形体は、曲げ強度が著しく向上した(実施例1)。
【符号の説明】
【0145】
2…金型、4…上側ピン、6…下側ピン、8a…加熱加圧前の組成物、8b…加熱加圧後の組成物、10…加圧成形機。
【配列表】