(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】泥土圧シールド工法で発生する泥土の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 11/00 20060101AFI20220902BHJP
E21D 9/06 20060101ALI20220902BHJP
【FI】
C02F11/00 101Z
C02F11/00 ZAB
E21D9/06 301M
(21)【出願番号】P 2020115228
(22)【出願日】2020-07-02
(62)【分割の表示】P 2018027746の分割
【原出願日】2018-02-20
【審査請求日】2020-08-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】390006758
【氏名又は名称】株式会社立花マテリアル
(73)【特許権者】
【識別番号】594199902
【氏名又は名称】醒井工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516128599
【氏名又は名称】株式会社エス・エヌ・エフ
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 志照
(72)【発明者】
【氏名】三浦 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】武田 厚
(72)【発明者】
【氏名】富田 正文
(72)【発明者】
【氏名】村上 悦之
(72)【発明者】
【氏名】作田 裕哉
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-064654(JP,A)
【文献】特開2008-229497(JP,A)
【文献】特開2004-043754(JP,A)
【文献】特開2010-240519(JP,A)
【文献】特開2010-184173(JP,A)
【文献】特開2004-89817(JP,A)
【文献】特開2006-759(JP,A)
【文献】特開2000-185288(JP,A)
【文献】特開2010-201309(JP,A)
【文献】特開2006-784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00 - 11/20
1/52 - 1/56
B01D 21/01
E02D 1/00 - 3/115
E21D 11/00 - 19/06
23/00 - 23/26
1/00 - 9/14
C09K 17/00 - 17/52
C08C 1/00 - 19/44
C08F 6/00 - 246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
泥土圧シールド工法で発生する気泡材を含む泥土に、噴発防止剤としての両性高分子凝集剤を混合し、泥土を凝集させることを特徴とする、泥土の処理方法であって、
前記気泡材がアニオン性界面活性剤を含み、
前記両性高分子凝集剤の添加量が、泥土1m
3当たり0.5kg以上であ
り、
前記両性高分子凝集剤が、カルボキシル基のアニオン性基およびアンモニウム基のカチオン性基を一つの高分子中に有する泥土の処理方法。
【請求項2】
前記両性高分子凝集剤を混合した後、固化材を添加し、前記泥土を固化させることを特徴とする、請求項
1記載の泥土の処理方法。
【請求項3】
前記固化材は、生石灰、石膏系固化材、または中性固化材の少なくとも一つを用いることを特徴とする請求項
2記載の泥土の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泥土圧シールド工法で発生する泥土の処理方法である。
【背景技術】
【0002】
泥土圧シールド工法は、掘削土砂を泥土化し、それに所定の圧力を与えることでシールド掘削機の切羽の安定を図りつつ掘削を行うものである。泥土化とは、具体的には、掘削土砂に加泥材や気泡材のような掘進用添加材を注入することにより掘削土砂の塑性流動性を保持することをいう。
【0003】
一方、掘削土砂は、シールド掘削機のチャンバーからスクリューコンベアを介して、連続ベルコンやズリ鋼車等で坑外へ搬出される。この際、掘削土砂の流動性が高すぎると、土水圧により、スクリューコンベアから掘削土砂が噴発することがある。これを防止するために、噴発防止剤が使用されている。
【0004】
上記噴発防止剤は、掘削土砂中の水分との反応による水分保持効果と、土粒子の凝集効果により掘削土砂の噴発を防止するものである。
【0005】
従来技術としては、特許文献1のように、泥土圧シールド工法において、アニオン性高分子物質を掘削土砂に添加混合し、ついでカチオン(陽イオン)高分子物質をも併用することによって、流動性の掘削土砂を非流動化させることを試みる技術もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記したようなアニオン性高分子凝集剤は、土粒子表面の荷電条件がプラスである場合には土粒子を凝集させる効果を発揮するが、マイナスである場合は土粒子と高分子とが反発し分散を生じるため、効果が低減する。
【0008】
また、特許文献1などのようにアニオン性高分子物質とカチオン高分子物質とを併用する場合は、設備や施工手間が増加する。具体的には、アニオン性高分子物質とカチオン高分子物質とを予め混合したうえで添加する場合には、両物質の原液を蓄えるタンク、さらには混合液を蓄える槽を増設する必要がある。一方で、アニオン性高分子物質とカチオン高分子物質とを別々に添加する場合も、両物質の原液を蓄えるタンクに加え、両物質を添加するための2系統の注入ラインを増設する必要がある。
【0009】
くわえて、両高分子物質を併用した際には、物質ごとのカチオンとアニオンとが互いに打ち消しあうため、本来期待される土粒子の凝集効果も低減してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前述の目的を達成するため、鋭意検討の結果、本発明に想到した。
【0011】
すなわち本発明は、泥土圧シールド工法で発生する泥土に、両性高分子凝集剤を混合し、泥土を凝集させることを特徴とする、泥土の処理方法である。
【0012】
前記両性高分子凝集剤は、具体的には、アニオン性基およびカチオン性基を一つの高分子中に有するものが挙げられる。
【0013】
さらに本発明は、前記凝集剤を混合した後、固化材を添加し、前記泥土を固化させることを特徴とする、上記泥土の処理方法である。
【0014】
前記固化材としては、特に限定されるものではないが、生石灰、石膏系固化材、または中性系固化材などが挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる、両性高分子凝集剤を用いた泥土処理方法は、従来のアニオン性高分子凝集剤のみを用いた場合や、アニオン性高分子凝集剤とカチオン性高分子凝集剤とを混合または別々に添加した場合よりも凝集効果を得やすいという顕著な効果を奏する。さらに、添加剤が一つであるため、設備や添加用の注入ラインを増加させる必要がないため施工性に大いに寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の泥土処理方法における凝集剤の注入方法の一例を示す図である。
【
図2】本発明の実施例に係る試験手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の形態について説明するが、本発明の範囲は、実施例を含めた当該記載に限定されるものではない。なお、本願において、「%」や比率を表す記載は、特にことわりのない限り、重量%、重量比率を意味する。
【0018】
<両性高分子凝集剤>
本発明における両性高分子凝集剤は、噴発防止剤として用いられるものである。両性高分子凝集剤とは、具体的には、アニオン性基およびカチオン性基を一つの高分子中に有する。
【0019】
このような両性高分子凝集剤を使用することによって、アニオン性高分子凝集剤およびカチオン性高分子凝集剤を別々に添加する必要がない。また、下記実施例で証明するように、別々に添加する場合よりも土粒子の凝集による流動性の低減効果を得やすい。
【0020】
前記アニオン性基としては、特に限定されるものではないが、カルボキシル基、スルホン酸基、又はリン酸基などが挙げられる。
【0021】
前記カチオン性基としても、特に限定されるものではないが、アミノ基、又はアンモニウム基などが挙げられる。
【0022】
前記両性高分子凝集剤の添加量は、土の組成や高分子の構造によっても変動するが、シールド掘削機1(
図1参照、以下省略)内のスクリューコンベア13内で掘削された土砂と均質に混合できること、余剰高分子による粘度の増加を抑制することなどの観点から、一般的な添加量としては、0.5~20kg/m
3が好ましく、2~5kg/m
3がより好ましい。(なお、「m
3」は、土砂の体積を指す。以下同様)
【0023】
本発明における両性高分子凝集剤の注入方法の一例を
図1を用いて説明する。
図1は、シールド掘削機1の先端部分の断面図である。シールド切削機1は、カッター11、掘進用添加材注入口12、スクリュ―コンベア13、両性高分子凝集剤注入口14、シールドジャッキ15、練混ぜ翼16、チャンバー17、土圧計18を含む。
【0024】
カッター11は、土砂を切削する。掘進用添加材注入口12は、切削した土砂に対して掘進用添加材を注入するための開口部分である。掘進用添加材は、土砂に塑性流動性を付与して泥土化するために用いられるものであり、たとえば、加泥材や気泡材が挙げられる。
【0025】
加泥材としては、粘土やベントナイトなどの無機物質や、ガムやデンプン、セルロース系、アクリル系、多糖類などの高分子化合物のような有機物質を用いることができる。
【0026】
気泡材としては、界面活性剤などの起泡材を用いて発泡させた気泡材が用いられる。気泡材は、発泡装置により添加する(図示しない)。
【0027】
スクリュ―コンベア13は、掘削した土砂を、シールド切削機外へ排出する排土装置である。両性高分子凝集剤注入口14は、スクリュ―コンベアからの土砂の噴発を防ぐために両性高分子凝集剤を注入する開口部分である。注入口14は、スクリューコンベア内での閉塞を回避するため、スクリューコンベアの中間部から後端部の間に3か所設けてある。通常、両性高分子凝集剤は中間部1か所から注入するが、砂礫層等透水性が高く地下水が高い地盤やチャンバー内の泥土の流動性が高い場合には、複数箇所から注入しても良い。シールドジャッキ15は、泥土圧を発生させ、切羽の安定をはかるための推力装置である。練混ぜ翼16は、土砂と掘進用添加材とをチャンバー17内で練混ぜるための翼である。土圧計18は、泥土圧を測定することによって掘削を管理する装置である。
【0028】
具体的には、カッター11によって掘削された土砂に対し、掘進用添加材注入口12から、掘進用添加材として加泥材や気泡材を注入する。土砂及び加泥材等を練混ぜ翼16で練り混ぜることにより、土砂は、塑性流動性を有する泥土となる。
【0029】
泥土がチャンバー17内及びスクリューコンベア13内に充填された状態で、シールドジャッキ15にてシールド切削機1を推進させる。この場合に、推力による泥土圧と切削する地下の土水圧及び地下水圧とが拮抗することによって、切羽が安定して切削できる。かかる泥土圧は、土圧計18をもって適宜測定管理することができる。
【0030】
<固化材>
固化材は、両性高分子凝集剤で凝集させた泥土に対して添加されるものである。固化材は、搬出される泥土を盛土などに再利用する場合などに、泥土に対して添加することで泥土を改質して強度を高めるために用いる。固化材は、たとえば、
図1に示したスクリュ―コンベア13から排出された泥土(両性高分子凝集剤で凝集させた土砂)に対し、公知の方法により添加する。更に、シールド掘削機1とは別に設けた連続式二軸パドルミキサーなどの攪拌機を用いて泥土と混合することで泥土に必要な強度を与えることができる。
【0031】
これら固化材については、特に種類は問わないが、たとえばセメント系固化材、石灰系固化材(生石灰)、石膏系固化材、およびマグネシウムあるいは酸化マグネシウムなどを用いた中性系固化材などが挙げられる。
【0032】
前記固化材の添加量についても、土の組成等によって変動するが、一般的な添加量としては、20~250kg/m3、好ましくは30~200kg/m3である。
【0033】
<その他の添加剤>
上述のような一般的な加泥材や気泡材を添加することができる。あるいは、掘削土砂の腐敗を防止するため、各種殺菌剤や防腐剤などを適宜用いることができる。
【実施例】
【0034】
次に、実施例により本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
1.両性高分子凝集剤による流動性の低減
(1)試料土としては、関東ローム(八王子で採取)を9.5mm以下に粒度調整したものを用いた。自然含水比は約117~124%である。
【0036】
(2)上記試料土を、体積比で8%または12%加水し、パン型ミキサーにて15秒の撹拌を2回行って混合した。加水量が8%か12%かのいずれかについては、表1中で明示する。(下記の注入率等についても同様とする)
【0037】
(3)掘進用添加材として、気泡材を使用した。具体的には、起泡材レオフォームOL-10(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を0.5重量%濃度に希釈し、発泡機にて発泡倍率10倍となるように調整した気泡材を用いた。なお、ここで「発泡倍率」とは、希釈した溶液の体積に対する発泡後の気泡材体積の体積比をさすものとする。
【0038】
(4)この気泡材を必要量(注入率20%または40%)計量したものを前記(2)で得られた土に添加し、15秒の撹拌を2回行って混合した。なお、ここで「注入率」とは、土砂体積に対する添加気泡材体積の割合をさすものとする。たとえば注入率40%の場合、土砂1m3(=1000L)に対して、気泡材添加量は400Lとなる。
【0039】
(5)両性高分子凝集剤を必要量計算し、前記(4)で得られた土に添加後、60秒の攪拌を1回行って混合した。なお、比較例では、両性高分子凝集剤の代わりにアニオン性(比較例1-1)、アニオン性&カチオン性(比較例1-2)の凝集剤を添加した。添加方法は上記実施例と同様である。
【0040】
両性高分子凝集剤として、DP/A-350E(株式会社SNF社製)を用いた。
【0041】
両性高分子凝集剤DP/A-350Eの構造を下記化1に示す。構造式の通り、アクリルアミドとジメチルアミノエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルアクリレートとアクリル酸との共重合物である。
(なお、m、n、p、およびqは、m+n+p+q=100%とした組成比を表す)
【0042】
【0043】
アニオン性高分子凝集剤としては、下記化2に示すものを用いた。構造式の通り、アクリルアミドとアクリル酸との共重合物である。
(なお、xおよびyは、x+y=100%とした組成比を表す)
【0044】
【0045】
カチオン性高分子凝集剤としては、下記化3に示すものを用いた。構造式の通り、アクリルアミドとジメチルアミノエチルアクリレートとの共重合物である。
(なお、xおよびyは、x+y=100%とした組成比を表す)
【0046】
【0047】
(6)前記(5)で得られた土をビニール袋に入れ、1時間後、土のコーン指数(JIS A 1228に準拠)を計測した。1時間後のコーン指数により噴発防止効果を評価する。
【0048】
2.両性高分子凝集剤と固化材との併用による改質
(1)上記1.の(1)~(5)までは共通である。前記(5)の操作後、ビニール袋をかぶせ30分間養生した。
【0049】
(2)養生後、必要量を計量した固化材を添加し、60秒の攪拌を1回行って混合した。
【0050】
(3)前記(2)で改質した土をビニール袋に入れ、1日後、土のコーン指数(JIS A 1228に準拠)を計測した。1日後のコーン指数により泥土の改質効果を評価する。
【0051】
【0052】
上記1.の結果を表1に、2.の結果を表2に、それぞれ示す。
【0053】
【0054】
【0055】
<1.について>
実施例1-1と、比較例1-1および1-2とは、高分子凝集剤の種類以外は同条件である。これらを比較すると、両性高分子凝集剤を使用した実施例1-1は、アニオン性高分子凝集剤のみを使用した比較例1-1や、アニオン性高分子凝集剤とカチオン性高分子凝集剤とを混合したものを使用した比較例1-2よりも、コーン指数が高かった。すなわち、両性高分子凝集剤を用いることで土粒子の凝集による流動性の低下が進み、噴発防止効果が高くなることがわかる。
【0056】
また、両性高分子凝集剤を使用した実施例1-2は、加水量が比較例1-1および1-2よりも多く、凝集しにくい点で条件が厳しいにもかかわらず、上記比較例よりもコーン指数が高く、凝集が進み、噴発防止効果が高くなることがわかる。
【0057】
<2.について>
実施例2-1と、比較例2-1および2-3とは、高分子凝集剤の種類以外は同条件である。これらを比較すると、上記1.の結果と同様、両性高分子凝集剤を使用した実施例2-1は、アニオン性高分子凝集剤のみを使用した比較例2-1や、アニオン性高分子凝集剤とカチオン性高分子凝集剤とを混合したものを使用した比較例2-3よりも、コーン指数が高く、固化による改質が進んでいることがわかる。
【0058】
実施例2-2と比較例2-4、実施例2-4と比較例2-5、および実施例2-5と比較例2-6は、それぞれ高分子凝集剤の種類以外は同条件であるが、いずれも両性高分子凝集剤を使用した実施例の方が比較例よりもはるかにコーン指数が高く、固化による改質が進んでいることがわかる。
【0059】
また、両性高分子凝集剤を使用した実施例2-2は、加水量が比較例2-2よりも多く、条件が厳しいにもかかわらず、比較例2-2よりもコーン指数が高く、固化による改質が進んでいることがわかる。
【0060】
同様に、両性高分子凝集剤を使用した実施例2-3は、加水量が比較例2-3よりも多く、条件が厳しいにもかかわらず、比較例2-3よりもコーン指数が高く、固化による改質が進んでいることがわかる。
【0061】
以上をまとめると、凝集剤として両性高分子凝集剤を用いることによって、従来のアニオン性高分子凝集剤のみを添加した場合、およびアニオン性高分子凝集剤とカチオン性高分子凝集剤とを混合したものを添加した場合よりも、高分子凝集剤添加直後の噴発防止効果も、固化材と併用した1日後の改質効果ともに高くなる結果となった。
【符号の説明】
【0062】
1・・・シールド掘削機
11・・・カッター
12・・・掘進用添加材注入口
13・・・スクリューコンベア
14・・・両性高分子凝集剤注入口
15・・・シールドジャッキ
16・・・練混ぜ翼
17・・・チャンバー
18・・・土圧計