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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】陶磁器製品
(51)【国際特許分類】
   A47J 27/00 20060101AFI20220902BHJP
   A47J 36/02 20060101ALI20220902BHJP
   A47J 36/04 20060101ALI20220902BHJP
【FI】
A47J27/00 106
A47J36/02 B
A47J36/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018081373
(22)【出願日】2018-04-20
(65)【公開番号】P2019187612
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】316004240
【氏名又は名称】株式会社ミヤオカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野崎 伊織
(72)【発明者】
【氏名】阿部 志津恵
【審査官】根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-247730(JP,A)
【文献】特開2016-010435(JP,A)
【文献】実開平05-080429(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00-27/13;
27/20-29/06;
33/00-36/42
C04B 33/00-38/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地と、前記素地の表面に直接、形成されるガラス質状の自己施釉層とを備え、
前記素地は、
SiOを34.0~45.0質量%、
Alを28.0~35.0質量%、
MgOを6.0~10.0質量%、
O(Rは、アルカリ金属)を1.0~2.3質量%、及び
SiCを10.5~26.5質量%含む熱伝導性を備えた陶磁器製品。
【請求項2】
本体部と、前記本体部の表面に直接、形成されるガラス質状の自己施釉層からなる非透水面と、前記本体部の露出した表面からなる透水面とを備え、
前記本体部のうち、少なくとも、前記自己施釉層からなる前記非透水面が形成される部分は、SiOを34.0~45.0質量%、Alを28.0~35.0質量%、MgOを6.0~10.0質量%、RO(Rは、アルカリ金属)を1.0~2.3質量%、及びSiCを10.5~26.5質量%含む素地からなる熱伝導性を備えた陶磁器製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陶磁器製品に関する。
【背景技術】
【0002】
調理等の用途において、熱伝導性を備えた陶磁器製品が利用されている(例えば、特許文献1参照)。この種の陶磁器製品には、熱伝導性を確保するために、炭化ケイ素(SiC)等からなる熱伝導性物質が添加されている。炭化ケイ素は、耐熱性、耐久性等に優れるため、この種の熱伝導性物質として広く用いられている。
【0003】
ところで、陶磁器製品の素地は多孔質であり、水を吸い易いため、素地のままでは調理等の用途で使用することができない。そのため、その素地を被覆する形で、通常、ガラス質からなる非透水性の釉薬層が形成されている。なお、釉薬層は、液状の釉薬が素地に付与され、その後、焼成されることにより形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-10435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この種の陶磁器製品の素地に、釉薬層を形成するために直接、釉薬が付与されると、素地中の炭化ケイ素が釉薬と反応して多量のガス(CO)が発生してしまう。このように素地からガスが発生すると、そのガスによる泡が陶磁器製品の表面(釉薬層)に形成されてしまい、見栄えの悪化や、熱伝導性の低下等を引き起こす虞があった。
【0006】
従来は、釉薬層が形成される前に、予め素地の表面に炭化ケイ素を含まない下地層(例えば、エンゴーベ層)を形成しておき、その下地層に重ねる形で、釉薬層が形成されていた。そのため、従来の陶磁器製品の製造工程は複雑であった。また、下地層の種類や厚み等によっては、下地層の断熱作用により、陶磁器製品の熱伝導率が低下する虞もあった。
【0007】
本発明の目的は、表面に自己施釉層を備える陶磁器製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 素地と、前記素地の表面に直接、形成されるガラス質状の自己施釉層とを備え、前記素地は、SiOを34.0~45.0質量%、Alを28.0~35.0質量%、MgOを6.0~10.0質量%、RO(Rは、アルカリ金属)を1.0~2.3質量%、及びSiCを10.5~26.5質量%含む陶磁器製品。
【0009】
<2> 本体部と、前記本体部の表面に直接、形成されるガラス質状の自己施釉層からなる非透水面と、前記本体部の露出した表面からなる透水面とを備え、前記本体部のうち、少なくとも、前記自己施釉層からなる前記非透水面が形成される部分は、SiOを34.0~45.0質量%、Alを28.0~35.0質量%、MgOを6.0~10.0質量%、RO(Rは、アルカリ金属)を1.0~2.3質量%、及びSiCを10.5~26.5質量%含む素地からなる陶磁器製品。
【0010】
<3> 炭化ケイ素と、タルク、粘土・カオリン、長石及びアルミナを含むコージェライト原料とを有する陶磁器製品用組成物であって、前記陶磁器製品用組成物の全質量に対する前記炭化ケイ素の含有割合が8~27質量%、前記タルクの含有割合が20~26質量%、前記粘土・カオリンの含有割合が21~31質量%、前記長石の含有割合が11~17質量%、及び前記アルミナの含有割合が16~23質量%である陶磁器製品用組成物。
【0011】
<4> 前記<2>に記載の陶磁器製品用組成物が焼成されてなる素地と、前記素地の表面に直接、形成され、前記陶磁器製品用組成物の一部が焼成されてなるガラス質状の自己施釉層とを備える陶磁器製品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、表面に自己施釉層を備える陶磁器製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1に係る陶磁器製品の断面構成を模式的に表した説明図
図2】実施形態2に係る陶磁器製品の断面構成を模式的に表した説明図
図3】実施形態3に係る陶磁器製品の断面構成を模式的に表した説明図
図4】実施例1のトレイにおける表面付近の断面のマイクロスコープ画像(倍率:20倍)を示す図
図5】実施例1のトレイにおける表面付近の断面のSEM画像(倍率:100倍)を示す図
図6】実施例1のトレイにおける自己施釉層の表面のSEM画像を示す図
図7】比較対象である一般的な陶磁器の素地表面のSEM画像(倍率:100倍)を示す図
図8】自己施釉層の分析用の試験片を示す写真
図9】自己施釉層の分析用の試験片の断面写真(倍率:60倍)
図10】試験片の内部の粉砕物のX線回折パターンを示す図
図11】試験片の皮膜の粉砕物のX線回折パターンを示す図
図12】透水性を有する参考例の試験片の粉砕物のX線回折パターンを示す図
図13】実施形態4に係る陶磁器製品の断面構成を模式的に表した説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施形態1>
(陶磁器製品)
本発明の実施形態1に係る陶磁器製品1を、図1を参照しつつ説明する。図1は、実施形態1に係る陶磁器製品1の断面構成を模式的に表した説明図である。本実施形態の陶磁器製品1は、熱伝導性を備えた調理器具(加熱プレート)であり、電子レンジやオーブンの中で使用される。陶磁器製品1は、所定の厚みを有する板状部材である。陶磁器製品1は、板状をなした素地2と、その素地2の表面に直接、形成される自己施釉層3とを備えている。自己施釉層3は、素地2全体を覆うように形成されている。
【0015】
素地2は、炭化ケイ素(SiC)と、コージェライトとを含む焼結体からなる。なお、本発明の目的を損なわない限り、炭化ケイ素と共に、他の熱伝導性物質(例えば、土状黒鉛等の非晶質炭素、鱗片状黒鉛等の結晶質炭素、窒化ホウ素等)が使用されてもよい。
【0016】
コージェライトは、MgO・Al・SiO系の焼結体であり、2MgO・2Al・5SiOの結晶を含んでいる。コージェライトは、タルク、粘土・カオリン、長石及びアルミナを含むコージェライト原料を焼成することで得られる。コージェライト原料は、タルク、粘土・カオリン、長石及びアルミナを、所定のミルで粉砕・混合して得られる粉末状の組成物からなる。
【0017】
素地2は、例えば、炭化ケイ素と、コージェライト原料とを含む、後述する陶磁器製品用組成物を焼成することで得られる。
【0018】
焼成後の素地2の組成(質量%)は、例えば、SiO:34.0~45.0質量%、Al:28.0~35.0質量%、MgO:6.0~10.0質量%、RO:1.0~2.3質量%、SiC:10.5~26.5質量%である。本明細書において、Rは、アルカリ金属(Li,Na,K等)を表す。焼成後の素地2に含まれる各成分の割合がこのような範囲であると、素地2の表面に直接、ガラス質状の自己施釉層3が形成される。なお、素地2に含まれる成分の割合がこのような範囲になるのであれば、後述する陶磁器製品用組成物以外の組成物を利用して、陶磁器製品1を製造してもよい。
【0019】
自己施釉層3は、素地2の表面を覆うガラス質状の皮膜からなり、素地2よりもシリカ(SiO)を多く含む。自己施釉層3は、他の層(例えば、下地層)を介在させずに、素地2の表面に直接、形成される。自己施釉層3は、素地2と同様、例えば、陶磁器製品用組成物(後述)を焼成することで得られる。陶磁器製品用組成物のうち、空気(酸素)に触れる表面部分が焼成されると、その部分に含まれる炭化ケイ素が酸化されて二酸化ケイ素(SiO)が生成し、そのような二酸化ケイ素が、従来の釉薬層のようなガラス質状の皮膜の形成に寄与しているものと推測される。このように陶磁器製品1の自己施釉層3は、従来の釉薬を使用することなく、陶磁器製品用組成物自体が焼成により変化して形成される自己施釉型(セルフグレージングタイプ)の皮膜である。
【0020】
自己施釉層3は、従来の釉薬層と同様、非透水性である。また、自己施釉層3は、他の層を介在させずに、素地2の表面に直接、形成されるため、熱伝導性に優れる。自己施釉層3の厚みは、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、50μm~150μmである。なお、自己施釉層3は、従来の釉薬層では形成できないような、厚みの薄いものにすることも可能である。後述するように、自己施釉層3中に含まれる炭化ケイ素の割合は、素地2よりも少ない。
【0021】
このような陶磁器製品1は、素地2からなる本体部20と、その本体部20の表面に直接、形成されるガラス質状の自己施釉層3からなる非透水面30とを備えている。
【0022】
(陶磁器製品用組成物)
陶磁器製品用組成物は、自己施釉層3を有する陶磁器製品1を製造するために利用される組成物(素地土)であり、炭化ケイ素(SiC)と、コージェライト原料とを含む。陶磁器製品用組成物において、陶磁器製品用組成物の全質量に対する炭化ケイ素の含有割合が8~27質量%(好ましくは10~25質量%)であり、タルクの含有割合が20~26質量%(好ましくは21~25質量%)であり、粘土・カオリンの含有割合が21~31質量%(好ましくは23~29質量%)であり、長石の含有割合が11~17質量%(好ましくは12~16質量%)であり、アルミナの含有割合が16~23質量%(好ましくは17~22質量%)である。陶磁器製品用組成物の各成分が、このような範囲であると、表面に自己施釉層3を有する陶磁器製品1を形成することができる。
【0023】
(陶磁器製品の製造方法)
ここで、本実施形態の陶磁器製品(素地2の表面に直接、自己施釉層3が形成された陶磁器製品1)は、例えば、上記陶磁器製品用組成物(素地土)を用いて、公知の成形方法(例えば、鋳込み成形法、ローラマシン成形法、押し出し成形法、プレス成形法等)により成形したのち、その成形体を1200℃~1280℃で焼成することで得られる。なお、上記陶磁器製品用組成物のスラリーを作製する際、水と共に、ケイ酸ナトリウムやポリカルボン酸系等の分散剤等が、適宜、添加・混合されてもよい。
【0024】
<実施形態2>
図2は、実施形態2に係る陶磁器製品1Aの断面構成を模式的に表した説明図である。本実施形態の陶磁器製品1Aは、実施形態1の陶磁器製品1の片面の自己施釉層3を、研磨装置(グラインダー、サンダー等)を利用して研磨して、素地2の表面4を露出させたものである。素地2は、多孔質状であり、ある程度の吸水性(透水性)を備えている。そのため、本実施形態の陶磁器製品1Aは、一方の面側に、非透水性の自己施釉層3が配され、他方の面側に、透水性の素地2の表面4(以下、透水面4)が配された構成となっている。実施形態1の陶磁器製品1が備える非透水性は、いわゆる焼締まりによって得られるものではないため、本実施形態のように、自己施釉層3を除去すれば、透水性(吸水性)の素地2が現れる。なお、本実施形態の場合、素地2が陶磁器製品1Aの本体部20Aを構成し、その表面に、自己施釉層3からなる非透水面30Aが形成されている。また、上記のように、自己施釉層3を除去して露出した素地2の表面4が、透水面40となる。
【0025】
このように、全表面に自己施釉層3が形成された陶磁器製品1から、一部の自己施釉層3を除去して、透水面4を形成したものを、陶磁器製品1Aとしてもよい。本実施形態の場合、例えば、調理方法に応じて、自己施釉層3が形成された面、又は透水面4を使い分けることができる。例えば、陶磁器製品1Aに吸水性が求められる場合、透水面4(図2の下側の面)を上側に向けた状態で、その上に調理対象物が載せられて、調理(加熱等)される。また、非透水性が必要な場合は、自己施釉層3が形成された面(図2の上側の面)を上側に向けた状態で、その上に調理対象物が載せられて調理(加熱等)される。
【0026】
<実施形態3>
図3は、実施形態3に係る陶磁器製品1Bの断面構成を模式的に表した説明図である。本実施形態の陶磁器製品1Bは、本体部20Bが2層構造となっている。本体部20Bの中心側にある芯材(素地)5は、上記陶磁器製品用組成物とは異なる他の組成物(以下、芯材用組成物)からなる。芯材用組成物は、上記陶磁器製品用組成物と同様、炭化ケイ素と、コージェライト原料とを含むものの、それらの各成分の配合割合が異なっている。芯材用組成物は、上記陶磁器製品用組成物とは異なり、焼成によって自己施釉層が形成されない組成物である。芯材用組成物の具体的な組成としては、例えば、後述する比較例1,2で使用されるものが挙げられる。芯材用組成物が焼成されて得られる芯材(素地)5は、自己施釉層は形成されないものの、形状安定性(寸法安定性)等に優れている。このような芯材(素地)5の表面に、上記陶磁器製品用組成物を含むスラリーが付与され、そのスラリーからなる層が焼成されると、上記実施形態1と同様の素地2B(外側芯層)と、その表面に直接、形成される自己施釉層3Bとが得られる。このように、自己施釉層を形成可能な陶磁器製品用組成物からなる層を、芯材(素地)5上に形成し、その層を焼成することで、陶磁器製品1Bの最表面に、非透水面30Bとなる自己施釉層3Bを形成してもよい。本実施形態の陶磁器製品1Bは、形状安定性に特に優れ、好ましい。
【0027】
なお、芯材用組成物において、芯材用組成物の全質量に対する炭化ケイ素等の熱伝導性物質の含有割合が5~25質量%であり、タルクの含有割合が23~29質量%であり、粘土・カオリンの含有割合が28~39質量%であり、長石の含有割合が8~10質量%であり、アルミナの含有割合が17~21質量%である。
【0028】
また、芯材(素地)5の組成(質量%)は、例えば、SiO:30~40質量%、Al:24~31質量%、MgO:5.0~8.0質量%、RO:0.9質量%以下、SiC:5~25質量%である。
【0029】
<陶磁器製品の用途等>
陶磁器製品は、調理器具、調理容器、食器、セラミック炭等の様々な調理用途や、それ以外の用途に用いることができる。
【実施例
【0030】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0031】
1.実施例1~5のトレイ、及び比較例1~5のトレイの作製
直径200mmの円盤状のトレイ(陶磁器製品)を以下の方法により作製した。
(1)陶磁器製品用組成物の作製
表1に示される各配合量(質量部)のタルク、粘土・カオリン、長石、アルミナ、及び炭化ケイ素を、ミルで粉砕・混合することで、各実施例及び各比較例で使用する陶磁器製品用組成物(素地土)を作製した。
【0032】
(2)成形体の作製
上記のようにして作製された各陶磁器用組成物に、それぞれ所定量の水及び分散剤を添加・混合して、各実施例及び各比較例のスラリー(含水率:約30質量%)を作製した。そして、それらのスラリーを、0.8MPaに加圧した状態で所定の石膏型内に流し込んで圧力鋳込み成形を行うことで、各実施例及び各比較例の円盤状の成形体を作製した。
【0033】
【表1】
【0034】
(3)成形体の焼成
上記各成形体を、1250℃の温度条件で3時間焼成することで、実施例1~5のトレイ、及び比較例1~5のトレイを得た。
【0035】
なお、焼成後のトレイの素地の組成(計算値、質量%)成を、表1に示した。表1中のRは、アルカリ金属(Li,Na,K等)を表す。
【0036】
2.確認試験
各実施例及び各比較例のトレイの表面状態を、目視で観察しつつ、各表面の吸水率(%)を測定した。結果は、表1に示した。なお、吸水率(%)の測定方法は、以下の通りである。
【0037】
<吸水率の測定方法>
先ず、トレイの乾燥質量(W)を測定し、そして、そのトレイを3時間煮沸した。その後、煮沸後のトレイの質量(W)を測定し、以下に示される計算式より、吸水率(質量%)を求めた。
吸水率(質量%)=(W-W)/W×100
【0038】
なお、表1において、自己施釉層の形成が認められ、かつ吸水率0.1%未満の場合を記号「〇」で表した。また、表1において、自己施釉層が形成されず、吸水率が0.1%以上の場合を記号「×(*1)」で表し、さらに、自己施釉層の形成は認められるものの、多数の泡が見られた場合を記号「×(*2)」で表した。
【0039】
表1に示されるように、実施例1~5のトレイの表面には、何れも透水性の低い皮膜からなる自己施釉層が形成された。これに対し、長石の配合量が少ない(つまり、素地中のROが少ない)比較例1,2のトレイでは、自己施釉層の形成が不十分であり、吸水が見られた。また、比較例3のように、長石の配合量が多過ぎる(つまり、素地中のROが多過ぎる)と、トレイの表面に多数の泡が見られた。これは、長石が熔けて素地の表面に液層が形成され、その液層をCO(SiCの酸化により生成)が抜けていく際に、液層に泡が形成されたためと推測される。また、比較例4のように、炭化ケイ素(SiC)の配合量が多過ぎる(つまり、素地中のSiCが多過ぎる)と、トレイの表面に多数の泡が見られた。これは、炭化ケイ素の酸化により生成した二酸化炭素の量が多過ぎるためであると推測される。また、比較例5のように、炭化ケイ素(SiC)の配合量が少なすぎる(つまり、素地中のSiCが少な過ぎる)と、自己施釉層が形成されなかった。なお、比較例5では、自己施釉層が形成されていないものの、吸水率が低い値となっている理由は、焼締まりによるためと推測される。
【0040】
3.実施例1のトレイにおける表面付近の断面のマイクロスコープ画像
マイクロスコープ(GOKOカメラ株式会社製、Electronic Macro Viewer EV-7)を利用して、実施例1のトレイの表面付近の断面を観察した。図4は、実施例1のトレイにおける表面付近の断面のマイクロスコープ画像(倍率:20倍)を示す図である。図4に示されるように、100μm以下の厚みであるものの、素地2の表面に皮膜状の自己施釉層31が形成されていることが確かめられた。自己施釉層31は、他の層を介することなく、素地21に対して直接、形成されていることが確かめられた。
【0041】
4.実施例1のトレイにおける素地の吸水率
実施例1のトレイの表面にある皮膜状の自己施釉層を、グラインダで除去し、素地を露出させた。そして、その素地について、吸水率を測定した。吸水率の測定は、上述したものと同様である。その結果、素地の吸水率は、9.20%であった。
【0042】
5.実施例1のトレイにおける表面付近のSEM画像
走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製、JSM-7001F)を利用して、実施例1のトレイにおける表面付近の断面を観察した。図5は、実施例1のトレイにおける表面付近の断面のSEM画像(倍率:100倍)を示す図である。図5に示されるように、内部(素地)には多数の気孔が見られるものの、表面付近では気孔が少ないことが確かめられた。図6は、実施例1のトレイにおける自己施釉層の表面のSEM画像(倍率:100倍)を示す図である。図6に示されるように、自己施釉層の表面には孔が少なく、かつ表面が平滑であることが確かめられた。なお、図7は、比較対象である一般的な陶磁器の素地表面のSEM画像(倍率:100倍)を示す図である。図7に示されるように、一般的な陶磁器の素地表面には、多数の孔が存在し、かつ表面が粗いことが確認される。
【0043】
6.自己施釉層の分析
上記のように、実施例1の自己施釉層は、厚みが100μm以下であり、それを単離することは技術的に困難である。そこで、以下に示される方法で、約2/3が自己施釉層31である試験片Sを作製し、その試験片Sから皮膜(主に、自己施釉層31)を除去して残った物(主に、素地21)の結晶組成と、除去した皮膜の結晶組成を比較することにした。
【0044】
<試験片Sの作製>
先ず、実施例1のスラリーに水を加えて、含水率約60%に調製した。そして、そのスラリーを所定の型に掛けることで薄膜を作製し、その薄膜を1250℃の温度条件で、3時間加熱することで、上記試験片S(厚み:約0.3mm)を得た。なお、試験片Sの組成は、上記実施例1の組成に対応する。
【0045】
図8は、自己施釉層31の分析用の試験片Sを示す写真であり、図9は、自己施釉層31の分析用の試験片Sの断面写真(倍率:60倍)である。図9に示されるように、試験片Sでは、内部にある層状の素地21を包むように自己施釉層31が形成されている。
【0046】
<試験片Sの内部、及び除去した皮膜の結晶組成の解析>
試験片Sから皮膜を除去して残った物(主に、素地21)の粉砕物について、粉末X線回折装置を利用して、X線回折パターンを測定した。結果は、図10に示した。また、試験片Sから除去した皮膜(主に、自己施釉層31)の粉砕物についても同様に、X線回折パターンを測定した。結果は、図11に示した。また、参考として、透水性を有する上記比較例1に対応する試験片の粉砕物についても同様に、X線回折パターンを測定した。結果は、図12に示した。
【0047】
<X線回折パターンの結果について>
図10及び図11に示されるように、試験片Sの内部のX線回折パターンと、試験片Sの皮膜のX線回折パターンとは、基本的に同じピークが観測された。ただし、図11に示されるように、試験片Sの皮膜(主に、自己施釉層31)については、全体的にピーク強度が弱く、13~30°にかけてブロード(図11中のX)のパターンが見られ、さらに、22°付近のピークが僅かに高角度側(右側)にシフトする現象が見られた。22°付近のピークは、図11の矢印Iで示されるコージェライトのピークよりも、矢印IIで示されるシリカ(SiO)のピークに近いと言える。
【0048】
以上より、試験片Sの皮膜(自己施釉層31)は、酸化の影響を受けるため、内部(素地21)よりもシリカが多く、コージェライトやSiCの割合が少ないと言える。このことから、純粋な自己施釉層31の場合、さらに、コージェライトやSiCの割合が少なくなると推測される。また、試験片Sの皮膜(自己施釉層31)では、ガラス状の物質が生成しており、その物質が、皮膜(自己施釉層31)の特性(平滑性、非透水性)に寄与していると推測される。
【0049】
また、図10及び図12を比較すると、試験片Sの内部のX線回折パターンは、透水性を有する試験片の粉砕物のX線回折パターンと略同一のピークが得られることが確かめられた。
【0050】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0051】
図13は、実施形態4に係る陶磁器製品1Cの断面構成を模式的に表した説明図である。本実施形態の陶磁器製品1Cの本体部20Cは、焼成によって自己施釉層3Cが形成される陶磁器製品用組成物からなる素地2Cで構成される。そして、そのような素地2Cの表面の一部に、焼成によって自己施釉層が形成されない組成物(例えば、実施形態3で例示した芯材用組成物)からなる素地5Cからなる層が形成されている。素地5Cからなる層は、透水面40Cとなる。このような陶磁器製品1Cは、焼成によって自己施釉層3Cが形成される陶磁器製品用組成物(素地土)からなる成形体の表面の一部(例えば、板状の成形体の片面)に、焼成によって自己施釉層が形成されない前記組成物を含むスラリーを付与し、それを焼成することで得られる。このような陶磁器製品1Cは、表面の一部が素地5Cからなる透水面40Cとなり、自己施釉層3Cが形成される残りの表面が非透水面30Cとなる。
【符号の説明】
【0052】
1,1A,1B,1C…陶磁器製品、2,2B…素地、3,3B,3C…自己施釉層、20,20A,20B,20C…本体部、30,30A,30B,30C…非透水面、40,40C…透水面、S…試験片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13