(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】土壌センサ及び土壌計測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/02 20060101AFI20220902BHJP
【FI】
G01N27/02 C
(21)【出願番号】P 2019551051
(86)(22)【出願日】2018-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2018038638
(87)【国際公開番号】W WO2019082763
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2017204337
(32)【優先日】2017-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】二川 雅登
(72)【発明者】
【氏名】川人 祥二
(72)【発明者】
【氏名】安富 啓太
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-23484(JP,A)
【文献】特表平8-501881(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0219037(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電流を出力する電流供給部と、
前記電流供給部に接続されると共に測定対象である土壌に配置されて、前記直流電流を前記測定対象に提供する電極部と、
前記電極部に接続されると共に、前記測定対象へ前記直流電流が提供されている間に、前記電極部に生じる被測定電圧の経時変化を利用して、前記測定対象が含む水分量及び総イオン濃度を得る処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記被測定電圧の経時変化を利用して、前記被測定電圧の絶対値が閾電圧の絶対値に達したか否かを判定することにより、前記電流供給部が前記直流電流の提供を開始したときから前記被測定電圧の絶対値が前記閾電圧の絶対値に達するまでの時間情報を周波数情報に変換する情報変換部と、
前記周波数情報、前記閾電圧及び前記直流電流を利用して、前記測定対象のインピーダンスを得るインピーダンス算出部と、
前記インピーダンスを利用して前記水分量を得る水分量算出部と、
前記インピーダンスを利用して前記総イオン濃度を得る総イオン濃度算出部と、を有する土壌センサ。
【請求項2】
前記情報変換部は、前記被測定電圧の絶対値が前記閾電圧の絶対値に達したことを示すパルス信号を出力し、
前記電流供給部は、前記パルス信号に応じて、前記直流電流の向きを切り替える、請求項1に記載の土壌センサ。
【請求項3】
前記直流電流は、正の電流値を有する第1直流電流と、負の電流値を有する第2直流電流と、を含み、
前記電流供給部は、
前記第1直流電流を出力する第1定電流源と、
前記第2直流電流を出力する第2定電流源と、
前記パルス信号に応じて、前記第1定電流源及び前記第2定電流源の一方を選択的に前記電極部に接続するスイッチと、を有する、請求項2に記載の土壌センサ。
【請求項4】
前記情報変換部は、
前記電極部に接続されて、正の前記閾電圧と前記被測定電圧とを比較する第1コンパレータと、
前記電極部に接続されて、負の前記閾電圧と前記被測定電圧とを比較する第2コンパレータと、を有する、請求項1~3の何れか一項に記載の土壌センサ。
【請求項5】
前記情報変換部は、前記第1コンパレータ及び前記第2コンパレータに接続された論理回路部を有する、請求項4に記載の土壌センサ。
【請求項6】
前記論理回路部は、フリップフロップ回路を有する、請求項5に記載の土壌センサ。
【請求項7】
前記処理部は、前記電極部と前記第1コンパレータとの間に配置され、前記被測定電圧を増幅させる増幅器をさらに有する、請求項4~6の何れか一項に記載の土壌センサ。
【請求項8】
前記情報変換部は、前記第1コンパレータの出力と前記インピーダンス算出部の間に設けられたバッファを有する、請求項4~7の何れか一項に記載の土壌センサ。
【請求項9】
直流電流を出力する電流供給部に接続された電極部を、測定対象である土壌に配置した後に、前記電極部を介して前記直流電流を前記測定対象に提供する工程と、
前記測定対象へ前記直流電流が提供されている間に、前記電極部に生じる被測定電圧の経時変化を利用して、前記測定対象が含む水分量及び総イオン濃度を得る工程と、を有し、
前記水分量及び総イオン濃度を得る工程は、
前記被測定電圧の経時変化を利用して、前記被測定電圧の絶対値が閾電圧の絶対値に達したか否かを判定することにより、前記電流供給部が前記直流電流の提供を開始したときから前記被測定電圧の絶対値が前記閾電圧の絶対値に達するまでの時間情報を周波数情報に変換する工程と、
前記周波数情報、前記閾電圧及び前記直流電流を利用して、前記測定対象のインピーダンスを得る工程と、
前記インピーダンスを利用して前記水分量を得る工程と、
前記インピーダンスを利用して前記総イオン濃度を得る工程と、を含む、土壌計測方法。
【請求項10】
前記測定対象に配置されて、前記測定対象の温度に応じた電圧を出力し、当該電圧を前記処理部に提供する温度計測部をさらに備え、
前記処理部は、
前記温度計測部から提供される電圧を受け入れて、受け入れた電圧を温度周波数情報に変換する温度情報変換部と、
前記温度情報変換部から出力される前記温度周波数情報を利用して、前記測定対象の温度を算出する温度算出部と、を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の土壌センサ。
【請求項11】
前記温度計測部は、ダイオードを有し、
前記電流供給部は、前記ダイオードに対して電流を供給する、請求項10に記載の土壌センサ。
【請求項12】
測定対象である土壌に配置されて、前記土壌に含まれる水分量及び総イオン濃度に対応する第1被測定電圧を出力する第1センサ部と、
前記測定対象である土壌に配置されて、前記土壌の温度に対応する第2被測定電圧を出力する第2センサ部と、
前記第1センサ部及び前記第2センサ部に選択的に接続されて、前記第1被測定電圧を第1周波数情報に変換すると共に、前記第2被測定電圧を第2周波数情報に変換する情報変換部と、
前記情報変換部に接続されて、前記第1周波数情報を利用して前記水分量及び前記総イオン濃度を得ると共に、前記第2周波数情報を利用して前記温度を得る計測値算出部と、を備える土壌センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌センサ及び土壌計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、土壌の中の水分量やイオン濃度(農業分野では養分濃度)の計測は、農業分野及び防災分野において注目されている。土壌の水分量、イオン濃度を計測する方法として、電気的インピーダンスを利用する方法(例えば、非特許文献1参照)、電磁波を照射しその反射を利用する方法、及び温度の伝搬速度を利用する方法などがあげられる。その中でも、電気的インピーダンスを利用する方法が主流となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】小笠原慎、二川雅登ほか、「低水分土壌計測を可能とするシールド電極型土壌インピーダンスセンサの開発」、第33回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム予稿集、日本、一般社団法人電気学会、2016年10月17日。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
土壌の水分量を計測する場合、土壌の状態は、非常に乾いた状態から多量に水分を含んだ状態まで変わる可能性がある。従って、計測装置には、広い計測レンジが要求される。その結果、当該分野においては、広い計測可能な範囲を有する土壌センサ及び土壌計測方法が望まれていた。
【0005】
本発明は、広い計測可能な範囲に基づいて、土壌の特性値を測定可能な土壌センサ及び土壌計測方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る土壌センサは、直流電流を出力する電流供給部と、電流供給部に接続されると共に測定対象である土壌に配置されて、直流電流を測定対象に提供する電極部と、電極部に接続されると共に、測定対象へ直流電流が提供されている間に、電極部に生じる被測定電圧の経時変化を利用して、測定対象が含む水分量及び総イオン濃度を得る処理部と、を備え、処理部は、被測定電圧の経時変化を利用して、被測定電圧の絶対値が閾電圧の絶対値に達したか否かを判定することにより、電流供給部が直流電流の提供を開始したときから被測定電圧の絶対値が閾電圧の絶対値に達するまでの時間情報を周波数情報に変換する情報変換部と、周波数情報、閾電圧及び直流電流を利用して、測定対象のインピーダンスを得るインピーダンス算出部と、インピーダンスを利用して水分量を得る水分量算出部と、インピーダンスを利用して総イオン濃度を得る総イオン濃度算出部と、を有する。
【0007】
土壌は、抵抗成分と容量成分とを含む電気回路としてモデル化できる。さらに、土壌における水分量と総イオン濃度とは、抵抗成分と容量成分とに基づいて得ることができる。これらの抵抗成分と容量成分とは、電極部に生じる被測定電圧の経時変化に基づいて得ることが可能である。すなわち、被測定電圧の経時変化において、被測定電圧が閾電圧に達するまでの時間を利用すれば、経時変化を規定する抵抗成分と容量成分とを求めることが可能である。そして、被測定電圧の経時変化を生じさせるために、土壌センサは、電流供給部から電極部へ直流電流を提供する。直流電流は、電極部を介して測定対象である土壌へ提供される。電極部では、土壌における抵抗成分及び容量成分の大きさに応じた電圧の経時変化が生じる。このように、土壌センサは、抵抗成分及び容量成分を求める際に、測定対象に直流電流を提供する。その結果、抵抗成分及び容量成分の変化の幅が大きい場合であっても、直流電流の大きさを調整することにより、良好な電圧の経時変化を得ることが可能である。従って、土壌センサは、広い計測可能な範囲に基づいて、土壌の特性値を測定することができる。
【0008】
一形態において、情報変換部は、被測定電圧の絶対値が閾電圧の絶対値に達したことを示すパルス信号を出力し、電流供給部は、パルス信号に応じて、直流電流の向きを切り替えてもよい。この構成によれば、電圧の経時変化に関する時間に基づく情報は、周波数に基づく情報に好適に変換される。時間に基づく情報が周波数に基づく情報に変換されることにより、ノイズに対する耐性を高めることができる。
【0009】
一形態において、直流電流は、正の電流値を有する第1直流電流と、負の電流値を有する第2直流電流と、を含み、電流供給部は、第1直流電流を出力する第1定電流源と、第2直流電流を出力する第2定電流源と、パルス信号に応じて、第1定電流源及び第2定電流源の一方を選択的に電極部に接続するスイッチと、を有してもよい。この構成によれば、測定対象に対して周期的に変化するパルス状の電流を提供することができる。パルス状の電流は、正弦波のように高周波域における制限がない。その結果、高い周波数を有する電流を測定対象に提供することが可能になる。従って、測定対象の前後に存在し得る付加的な容量成分の影響を低減することが可能となるので、より良好な電圧の変動を得ることができる。
【0010】
一形態において、情報変換部は、電極部に接続されて、正の閾電圧と被測定電圧とを比較する第1コンパレータと、電極部に接続されて、負の閾電圧と被測定電圧とを比較する第2コンパレータと、を有してもよい。この構成によれば、時間に基づく情報を簡易な構成で周波数に基づく情報に変換することができる。
【0011】
一形態において、情報変換部は、第1コンパレータ及び第2コンパレータに接続された論理回路部を有してもよい。この構成によれば、時間に基づく情報をより簡易な構成で周波数基づく情報に変換することができる。
【0012】
一形態において、論理回路部は、フリップフロップ回路を有してもよい。この構成によれば、時間に基づく情報をさらに簡易な構成で周波数に基づく情報に変換することができる。
【0013】
一形態において、情報変換部は、第1コンパレータの出力とインピーダンス算出部との間に設けられたバッファを有してもよい。この構成によれば、情報変換部からインピーダンス算出部に送られる情報へのノイズの影響を低減することができる。
【0014】
一形態において、処理部は、電極部と第1コンパレータとの間に配置され、被測定電圧を増幅させる増幅器をさらに有してもよい。この構成によれば、被測定電圧が小さい場合にコンパレータの閾電圧の読み取り誤差を無くすことができる。
【0015】
本発明の別の形態に係る土壌計測方法は、直流電流を出力する電流供給部に接続された電極部を、測定対象である土壌に配置した後に、電極部を介して直流電流を測定対象に提供する工程と、測定対象へ直流電流が提供されている間に、電極部に生じる被測定電圧の経時変化を利用して、測定対象が含む水分量及び総イオン濃度を得る工程と、を有し、水分量及び総イオン濃度を得る工程は、被測定電圧の経時変化を利用して、被測定電圧の絶対値が閾電圧の絶対値に達したか否かを判定することにより、電流供給部が直流電流の提供を開始したときから被測定電圧の絶対値が閾電圧の絶対値に達するまでの時間情報を周波数情報に変換する工程と、周波数情報、閾電圧及び直流電流を利用して、測定対象のインピーダンスを得る工程と、インピーダンスを利用して水分量を得る工程と、インピーダンスを利用して総イオン濃度を得る工程と、を含む。
【0016】
この方法においても、抵抗成分及び容量成分を求める際に、測定対象に直流電流を提供する。その結果、抵抗成分及び容量成分の変化の幅が大きい場合であっても、直流電流の大きさを調整することにより、良好な電圧の経時変化を得ることが可能である。従って、土壌計測方法は、広い計測可能な範囲に基づいて、土壌の特性値を測定することができる。
【0017】
一形態において、土壌センサは、測定対象に配置されて、測定対象の温度に応じた電圧を出力し、当該電圧を処理部に提供する温度計測部をさらに備え、処理部は、温度計測部から提供される電圧を受け入れて、受け入れた電圧を温度周波数情報に変換する温度情報変換部と、温度情報変換部から出力される温度周波数情報を利用して、測定対象の温度を算出する温度算出部と、を有してもよい。
【0018】
一形態において、土壌センサの温度計測部は、ダイオードを有し、電流供給部は、ダイオードに対して電流を供給してもよい。
【0019】
本発明のさらに別の形態である土壌センサは、測定対象である土壌に配置されて、土壌に含まれる水分量及び総イオン濃度に対応する第1被測定電圧を出力する第1センサ部と、測定対象である土壌に配置されて、土壌の温度に対応する第2被測定電圧を出力する第2センサ部と、第1センサ部及び第2センサ部に選択的に接続されて、第1被測定電圧を第1周波数情報に変換すると共に、第2被測定電圧を第2周波数情報に変換する情報変換部と、情報変換部に接続されて、第1周波数情報を利用して水分量及び総イオン濃度を得ると共に、第2周波数情報を利用して温度を得る計測値算出部と、を備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、広い計測範囲に基づいて、土壌の特性値を測定可能な土壌センサ及び土壌計測方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】
図2の(a)部は電流供給部から提供される直流電流の一例を示す図であり、
図2の(b)部は電極に発生する被測定電圧の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、第1閾電圧及び第2閾電圧の関係を示す図である。
【
図4】
図4は、インピーダンス算出部の動作原理を説明するための土壌の回路モデルを示す図である。
【
図5】
図5は、土壌センサの具体的な構成例を示す図である。
【
図6】
図6の(a)部は直流電流の経時変化と被測定電圧の経時変化とを例示するグラフであり、
図6の(b)部はパルス信号を例示するグラフであり、
図6の(c)部は制御信号を例示するグラフである。
【
図7】
図7は、土壌測定方法の主要な工程を示すフロー図である。
【
図8】
図8の(a)部は実験例1の結果を示すグラフであり、
図8の(b)部は実験例2の結果を示すグラフであり、
図8の(c)部は実験例3の結果を示すグラフであり、
図8の(d)部は実験例4の結果を示すグラフである。
【
図9】
図9の(a)部は実験例5の結果を示すグラフであり、
図9の(b)部は実験例6の結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、変形例に係る土壌センサの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
<土壌センサ>
図1に示されるように、土壌センサ1は、測定対象である土壌100に関するインピーダンスを得る。土壌100は、インピーダンスを構成する静電容量(以下「容量成分C」と呼ぶ)と電気抵抗(以下「抵抗成分R」と呼ぶ)を含む。土壌100は、容量成分C及び抵抗成分Rが互いに並列に接続された電気回路としてモデル化できる。例えば、土壌100の容量成分Cの大きさは、10pF以上500pF以下である。また、土壌100の抵抗成分Rの大きさは、100Ω以上1MΩ以下である。従って、土壌センサ1は、このような広範囲の容量成分Cと抵抗成分Rとを計測する。容量成分C及び抵抗成分Rは、土壌100の水分量W及び総イオン濃度Nと関連がある。従って、土壌センサ1は、容量成分C及び抵抗成分Rを得ることにより、水分量W及び総イオン濃度Nを得ることができる。水分量Wとは、単位体積当たりの土壌において、水の体積が占める割合をいう。総イオン濃度Nとは、水に含まれる種々のイオンの総和をいう。例えば、総イオン濃度としての窒素イオン、リン酸イオン及びカリウムイオンなどの主イオンの総和は、農業分野において用いられる。
【0024】
土壌センサ1は、電流供給部2と、電極3(電極部)と、処理部4と、を有する。電流供給部2は、直流電流を電極3に提供する。電極3は、土壌100に挿入される。電極3は、直流電流(
図2の(a)部参照)を土壌100に提供する。その結果、容量成分Cに電荷が提供される。従って、電極3が受ける被測定電圧VMは、時間の経過とともに増加する。そして、被測定電圧VMは、所定の値に収束する(
図2の(b)部参照)。被測定電圧VMの経時変化は、容量成分C及び抵抗成分Rにより決まる。そこで、処理部4は、被測定電圧VMの経時変化を利用して、容量成分Cと抵抗成分Rとを得る。さらに、処理部4は、容量成分Cと抵抗成分Rとを利用して、水分量W及び総イオン濃度Nを得る。
【0025】
要するに、土壌センサ1は、例えば水である液体又は当該液体を含む物質中(例えば水を含む土壌)に、定電流を印加した結果として生じる電圧を検出する電極を有する。そして、土壌センサ1は、当該電圧の時間変化を検出する。
【0026】
電流供給部2は、正の直流電流(第1直流電流)又は負の直流電流(第2直流電流)を電極3に提供する。電流供給部2は、入力2aと、出力2bと、電流設定部6と、第1定電流源7と、第2定電流源8と、スイッチ9と、を有する。
【0027】
出力2bは、電極3に接続されている。出力2bは、電極3に直流電流を提供する。入力2aは、処理部4に接続されている。入力2aは、処理部4から制御信号を受ける。電流設定部6は、第1定電流源7及び第2定電流源8を制御する。その結果、直流電流の大きさが決まる。
【0028】
第1定電流源7は、スイッチ9及び電流設定部6に接続されている。第1定電流源7は、電流設定部6の制御信号に基づいて、所定の電流値(例えば+1μA)を有する正の直流電流を発生する。第1定電流源7は、正の直流電流をスイッチ9に提供する。
【0029】
第2定電流源8は、スイッチ9及び電流設定部6に接続されている。第2定電流源8は、電流設定部6の制御信号に基づいて、所定の電流値を有する負の直流電流(例えば-1μA)を発生する。負の直流電流の絶対値は、第1定電流源7における正の直流電流の絶対値と同じであってもよい。また、負の直流電流の絶対値は、第1定電流源7における正の直流電流の絶対値と異なっていてもよい。第2定電流源8は、負の直流電流をスイッチ9に提供する。
【0030】
スイッチ9は、第1定電流源7、第2定電流源8及び出力2bに接続されている。スイッチ9は、第1定電流源7及び第2定電流源8の一方を選択的に出力2bに接続する。例えば、スイッチ9は、第1定電流源7を出力2bに接続するとき、第2定電流源8を出力2bに接続しない。この場合には、出力2bは、正の直流電流を受ける。逆に、スイッチ9は、第2定電流源8を出力2bに接続するとき、第1定電流源7を出力2bに接続しない。この場合には、出力2bは、負の直流電流を受ける。スイッチ9は、処理部4から提供される制御信号に基づいて、出力2bに第1定電流源7を接続する構成と、出力2bに第2定電流源8を接続する構成と、を相互に切り替える。
【0031】
電極3は、土壌100に挿し込まれるように配置される。電極3は、土壌100に直流電流を提供する。電極3は、電流供給部2の出力2b及び処理部4に接続される。
【0032】
処理部4は、電極3に生じる被測定電圧VMの経時変化を利用して、容量成分C、抵抗成分Rを得る。さらに、処理部4は、水分量W及び総イオン濃度Nを得る。処理部4は、入力4aと、出力4b、4cと、情報変換部11と、算出部12と、を有する。
【0033】
入力4aは、電極3に接続される。入力4aは、電極3に生じる電圧を被測定電圧VMとして受ける。出力4bは、電流供給部2の入力2aに接続される。出力4bは、制御信号を電流供給部2に提供する。出力4cは、容量成分C、抵抗成分R、水分量W及び総イオン濃度Nを出力する。
【0034】
情報変換部11は、入力11aと、出力11b、11cと、比較部13と、論理回路部14と、を有する。入力11aは、処理部4の入力4aに接続される。出力11bは、処理部4の出力4bに接続される。出力11cは、算出部12に接続される。
【0035】
比較部13は、被測定電圧VMと閾値とを互いに比較する。比較部13は、当該比較の結果を2値のデジタル値として出力する。例えば、比較部13は、被測定電圧VMが閾値より小さいとき、デジタル値(0)を出力する。また、比較部13は、被測定電圧VMが閾値より大きいとき、デジタル値(1)を出力する。さらに、比較部13は、被測定電圧VMが閾値と等しいとき、デジタル値(1)を出力する。
【0036】
比較部13は、入力13aと、出力13b、13cと、閾電圧提供部15と、第1コンパレータ16と、第2コンパレータ17と、を有する。
【0037】
比較部13の入力13aは、情報変換部11の入力11aに接続される。入力13aは、被測定電圧VMを受ける。出力13b、13cは、論理回路部14に接続される。出力13bは、第1コンパレータ16から受けた信号を論理回路部14に提供する。出力13cは、第2コンパレータ17から受けた信号を論理回路部14に提供する。
【0038】
閾電圧提供部15は、第1コンパレータ16及び第2コンパレータ17に接続される。閾電圧提供部15は、閾値である閾電圧を第1コンパレータ16及び第2コンパレータ17を提供する。閾値は、第1閾電圧VH1、VL1及び第2閾電圧VH2、VL2を含む(
図3参照)。第1閾電圧VH1及び第2閾電圧VH2は、正の電圧である。第2閾電圧VH2は、第1閾電圧VH1よりも大きい。第1閾電圧VL1及び第2閾電圧VL2は、負の電圧である。第2閾電圧VL2は、第1閾電圧VL1よりも小さい。第1閾電圧VH1の絶対値は、第1閾電圧VL1の絶対値と等しい。第2閾電圧VH2の絶対値は、第2閾電圧VL2の絶対値と等しい。なお、絶対値は異なっていてもよい。
【0039】
閾電圧提供部15は、第1コンパレータ16に対して第1閾電圧VH1又は第2閾電圧VH2の何れか一方を提供する。閾電圧提供部15は、第2コンパレータ17に対して第1閾電圧VL1又は第2閾電圧VL2の何れか一方を提供する。具体的には、閾電圧提供部15は、第1コンパレータ16に対して第1閾電圧VH1を提供するとき、第2コンパレータ17に対して第1閾電圧VL1を提供する。また、閾電圧提供部15は、第1コンパレータ16に対して第2閾電圧VH2を提供するとき、第2コンパレータ17に対して第2閾電圧VL2を提供する。
【0040】
第1コンパレータ16は、入力13aと、出力13bと、閾電圧提供部15と、に接続される。第1コンパレータ16は、第1閾電圧VH1が提供されたとき、被測定電圧VMと第1閾電圧VH1とを比較する。第1コンパレータ16は、第2閾電圧VH2が提供されたとき、被測定電圧VMと第2閾電圧VH2とを比較する。第1コンパレータ16は、以下のように動作する。換言すると、第1コンパレータ16は、被測定電圧VMの絶対値が第1閾電圧VH1又は第2閾電圧VH2の絶対値よりも大きいとき、正の最大電圧(1)を発生する。そして、第1コンパレータ16は、比較の結果(0または1)を出力13bに提供する。
被測定電圧VM<第1閾電圧VH1であるとき、負の最大電圧(0)。
被測定電圧VM<第2閾電圧VH2であるとき、負の最大電圧(0)。
被測定電圧VM>第1閾電圧VH1であるとき、正の最大電圧(1)。
被測定電圧VM>第2閾電圧VH2であるとき、正の最大電圧(1)。
【0041】
第2コンパレータ17は、入力13aと、出力13cと、閾電圧提供部15と、に接続される。第2コンパレータ17は、第1閾電圧VL1が提供されたとき、被測定電圧VMと第1閾電圧VL1とを比較する。第2コンパレータ17は、第2閾電圧VL2が提供されたとき、被測定電圧VMと第2閾電圧VL2とを比較する。第2コンパレータ17は、以下のように動作する。換言すると、第2コンパレータ17は、被測定電圧VMの絶対値が第1閾電圧VL1又は第2閾電圧VL2の絶対値よりも大きいとき、正の最大電圧(1)を発生する。そして、第2コンパレータ17は、比較の結果(0または1)を出力13cに提供する。
被測定電圧VM>第1閾電圧VL1であるとき、負の最大電圧(0)。
被測定電圧VM>第2閾電圧VL2であるとき、負の最大電圧(0)。
被測定電圧VM<第1閾電圧VL1であるとき、正の最大電圧(1)。
被測定電圧VM<第2閾電圧VL2であるとき、正の最大電圧(1)。
【0042】
論理回路部14は、比較部13の結果を受けて、パルス信号(
図6の(b)部参照)を出力する。論理回路部14は、いわゆるSRフリップフロップ回路14fを含む。つまり、処理部4は、計測した電圧の値に応じた方形波の周波数を発生させる。論理回路部14は、入力14a、14bと出力14c、14dとを有する。入力14aは、比較部13の出力13bに接続される。入力14aは、比較部13の出力13cに接続される。出力14cは、算出部12に接続される。出力14cは、パルス信号を算出部12に提供する。バッファ14eは、出力14cの前段に接続される。バッファ14eは、出力の値を反転させる。出力14dは、出力11bに接続される。
【0043】
論理回路部14は、以下のように動作する。
入力14a(0)、入力14b(0)であるとき、出力14c(保持)、出力14d(保持)
入力14a(0)、入力14b(1)であるとき、出力14c(1)、出力14d(1)
入力14a(1)、入力14b(0)であるとき、出力14c(0)、出力14d(0)
【0044】
例えば、被測定電圧VMが、設定した第1閾電圧VH1より大きいとき、論理回路部14は、出力14c、14dの値を反転する。例えば、論理回路部14の出力14cが(0)であり出力14dが(0)であるとき、条件を満たすと、出力14cは(0)から(1)に切り替わる。出力14dは(0)から(1)に切り替わる。
【0045】
出力14dは、出力11d及び出力4bを介して、電流供給部2のスイッチ9に接続される。従って、出力14dの値が反転すると、スイッチ9が切り替わる。つまり、電流供給部2の出力は、正の直流電流から負の直流電流に切り替わる。または、電流供給部2の出力は、負の直流電流から正の直流電流に切り替わる。
【0046】
算出部12は、論理回路部14から提供されるパルス信号を利用して、容量成分C、抵抗成分R、水分量W、総イオン濃度Nを得る。算出部12は、入力12aと、出力12bと、インピーダンス算出部18と、水分量算出部19と、総イオン濃度算出部21と、を有する。
【0047】
入力12aは、情報変換部11の出力11cに接続される。入力12aは、情報変換部11からパルス信号としての入力信号を受ける。出力13bは、インピーダンス算出部18、水分量算出部19、総イオン濃度算出部21にそれぞれ接続される。入力12aは、各種情報を出力する。
【0048】
インピーダンス算出部18は、パルス信号と、第1閾電圧VH1、VL1及び第2閾電圧VH2、VL2と、直流電流Iと、を用いてインピーダンスを算出する。パルス信号は、論理回路部14から得る。第1閾電圧VH1、VL1及び第2閾電圧VH2、VL2は、閾電圧提供部15から得る。直流電流Iは、電流設定部6から得る。
【0049】
インピーダンス算出部18の動作について詳細に説明する。
図4は、第2定電流源8と、土壌100とをモデル化した電気回路を示す。この電気回路において、各要素における電流は、下記式により示される。式(1)は、容量成分Cにおける電流(IC)である。式(2)は、抵抗成分Rにおける電流(IR)である。
【数1】
【数2】
【0050】
第2定電流源8における直流電流Iと、電流(IC)及び電流(IR)との関係は下記式により示される。
【数3】
【0051】
そして、上記式を変形すると、下記式を得る。
【数4】
【0052】
ここで、
図2の(b)部に示されるように、第1閾電圧VH1に到達するまでの時間が第1時間t1であったとする。さらに、第2閾電圧VH2に到達するまでの時間がt2であったとする。そうすると、下記式を得る。
【数5】
【0053】
上記式において容量成分C及び抵抗成分Rは、未知である。第1閾電圧VH1、第2閾電圧VH2、第1時間t1、第2時間t2、直流電流Iは、既知である。従って、上記式を連立方程式として扱い、容量成分Cと抵抗成分Rとを求める。その結果、下記式を得る。
【数6】
【数7】
【0054】
上記式(6)、(7)に、第1閾電圧VH1、第2閾電圧VH2、第1時間t1、第2時間t2、直流電流Iを代入することにより、容量成分Cと抵抗成分Rとを得る。つまり、インピーダンス算出部18は、式(6)、(7)と第1閾電圧VH1、第2閾電圧VH2、第1時間t1、第2時間t2、直流電流Iとを用いて、容量成分Cと抵抗成分Rとを得る。
【0055】
水分量算出部19は、インピーダンス算出部18に接続される。水分量算出部19は、インピーダンス算出部18から容量成分Cと抵抗成分Rとを受ける。水分量算出部19は、容量成分Cを利用して水分量Wを算出する。容量成分Cの中の比誘電率εSは、水の比誘電率、空気の比誘電率及び土の比誘電率により決まる。つまり、比誘電率εSは、、水の比誘電率、空気の比誘電率及び土の比誘電率が合成された見かけ上の値である。例えば、水の比誘電率は、80程度である。空気の比誘電率は、1程度である。土の比誘電率は、3以上7以下である。インピーダンス算出部18は、比誘電率εSにおける各比誘電率の比率を本方法により算出し、その比率から水の体積含水率を求める。例えば、土壌Mの容量成分Cは、ほとんど水の容量成分であると仮定できる。この仮定によれば、土壌Mの容量成分Cは、水分量Wと比誘電率εSの積とみなせる。従って、土壌Mの容量成分Cを比誘電率εSで除算することにより、水分量Wを得ることができる。
【0056】
総イオン濃度算出部21は、インピーダンス算出部18に接続される。総イオン濃度算出部21は、インピーダンス算出部18から容量成分Cと抵抗成分Rとを受ける。総イオン濃度算出部21は、容量成分C及び抵抗成分Rを利用して総イオン濃度を算出する。総イオン濃度算出部21は、容量成分Cに基づいて求めた水分量Wを用い、抵抗成分Rを水分量Wで除算することにより総イオン濃度Nを算出する。例えば、土壌Mの抵抗成分Rは、水分量Wと総イオン濃度Nの積であると仮定される。水分量算出部19により水分量Wが得られる。インピーダンス算出部18において抵抗成分Rが得られる。その結果、抵抗成分Rを水分量Wで除算することにより総イオン濃度Nが得られる。
【0057】
図5は、土壌センサ1の具体的な構成を示す。
図5に示されるように、土壌センサ1は、プローブ22と、ケーブル23と、コンピュータ24と、を有する。プローブ22は、土壌100に差し込まれる棒状の部品である。プローブ22の先端には、センサチップ26が設けられる。センサチップ26は、土壌100に埋め込まれる。センサチップ26は、電流供給部2、電極3及び情報変換部11を含む。例えば、センサチップ26は、ICチップであってもよい。プローブ22の後端には、ケーブル23の一方の端部が接続される。ケーブル23の他方の端部は、プローブ22から離れた位置に設置されたコンピュータ24に接続される。プローブ22から出力される信号は、ケーブル23を介してコンピュータ24に提供される。プローブ22とコンピュータ24とは、無線通信によって接続されてもよい。
【0058】
センサチップ26は、情報変換部11を含む。従って、センサチップ26から出力される信号は、パルス信号である。つまり、センサチップ26から出力される信号は、二値のデジタル信号である。従って、センサチップ26からコンピュータ24までの間に物理的な距離が存在する場合であっても、有線及び無線を問わずノイズに対する耐性を高めることができる。
【0059】
コンピュータ24は、上述したインピーダンス算出部18、水分量算出部19、総イオン濃度算出部21を含む。インピーダンス算出部18、水分量算出部19及び総イオン濃度算出部21は、コンピュータ24がプログラムを実行することにより実現される機能的構成要素であってよい。このような構成によれば、複雑かつ多様な電圧特性においても、アルゴリズムの調整により対応できるので、抵抗成分Rと容量成分Cを容易に算出できる。コンピュータ24は、インピーダンス算出部18、水分量算出部19、総イオン濃度算出部21のためのプログラムを実行可能であれば、特に制限はない。例えば、コンピュータ24は、パーソナルコンピュータ、ラップトップコンピュータ、スマートフォンなどの携帯情報端末であってもよい。
【0060】
以下、土壌センサ1の動作について説明する。
【0061】
スイッチ9は、第1定電流源7及び第2定電流源8の何れか一方を電極3に接続する。初期設定として第2定電流源8を電極3に接続する。なお、初期設定として第1定電流源7を電極3に接続してもよい。
【0062】
電流設定部6は、電流の大きさを設定する。例えば、第1閾電圧VH1及び第2閾電圧VH2を制御しやすい電圧(例えば0.5V)に設定する。この状態において、電流値を徐々に大きくしながら周波数信号を観察する。そして、所望の周波数信号が取得できる電流値を設定値として決定する。処理部4は、比較部13における閾電圧提供部15から第1閾電圧VH1を第1コンパレータ16に提供する。さらに、処理部4は、第1閾電圧VL1を第2コンパレータ17に提供する。例えば、第1閾電圧VH1、VL1を徐々に大きくしながら、線形変化から外れる変極点を探索する。変極点の探索結果に基づいて、第1閾電圧VH1、VL1を決定してよい。
【0063】
第1定電流源7及び第2定電流源8の動作を開始する。第1定電流源7は、正の直流電流を出力する。第2定電流源8は、負の直流電流を出力する。第2定電流源8は、電極3に接続されている。その結果、電極3は、負の直流電流を受ける。
【0064】
図6の(a)部は、被測定電圧VMから提供される直流電流の経時変化及び電流供給部2から提供される直流電流の経時変化を示すグラフである。
図6の(a)部において、グラフG6Aは被測定電圧VMを示す。グラフG6Bは電極3に提供される直流電流を示す。
図6の(b)部は情報変換部11の出力14cから出力されるパルス信号の例である。
図6の(c)部は情報変換部11の出力14dから出力される制御信号G6Rの例である。電極3に負の直流電流が提供されると(
図6のG6a部参照)、電極3と基準電位101との間の電圧(被測定電圧VM)が時間の経過とともに高まる(
図6のG6b部参照)。被測定電圧VMは、第1コンパレータ16及び第2コンパレータ17にそれぞれ提供される。
【0065】
第1コンパレータ16は、被測定電圧VMと第1閾電圧VH1とを比較する。被測定電圧VMは、当初は第1閾電圧VH1より小さい(VM<VH1)。従って、第1コンパレータ16は、最小電圧(例えば-1.5V)(デジタル値(0))を出力する。以下の説明において、デジタル値(0)とは、例えば電圧値が-1.5Vであるものとする。また、デジタル値(1)とは、例えば電圧値が+1.5Vであるものとする。
【0066】
第2コンパレータ17は、被測定電圧VMと第1閾電圧VL1とを比較する。被測定電圧VMは、時間の経過とともに高まる。被測定電圧VMは、第1閾電圧VL1より大きい(VM>VL1)。従って、第2コンパレータ17は、最小電圧(デジタル値(0))を出力する。
【0067】
論理回路部14の入力14aは、デジタル値(0)を受ける。論理回路部14の入力14bは、デジタル値(0)を受ける。従って、論理回路部14は、出力14c、14dにおける状態を維持する。例えば、論理回路部14は、初期値としてのデジタル値(出力14c(0)、出力14d(0))を維持する。
【0068】
時間経過とともに被測定電圧VMが高まる。そして、被測定電圧VMが第1閾電圧VH1を超えたとする(
図6のG6c部参照)。第2コンパレータ17では、被測定電圧VMと第1閾電圧VL1との大小関係は変わらない(VM>VL1)。その結果、第2コンパレータ17は、最小電圧(デジタル値(0))を出力する。
【0069】
第1コンパレータ16では、被測定電圧VMと第1閾電圧VH1との大小関係が逆転する(VM>VH1)。第1コンパレータ16は、最大電圧(例えば+1.5V)(デジタル値(1))を出力する。
【0070】
論理回路部14の入力14aは、デジタル値(1)を受ける。論理回路部14の入力14bは、デジタル値(0)を受ける。出力14c、14dに生成されるデジタル値が逆転する。論理回路部14は、出力14cにデジタル値(1)を生成する。論理回路部14は、出力14dにデジタル値(1)を生成する。
【0071】
出力14cに生成されるパルス信号の極性が逆転する(
図6の(b)部参照)。また、出力14dからスイッチ9に提供されるパルス信号の極性も逆転する(
図6の(c)部参照)。従って、スイッチ9は、第2定電流源8と電極3との接続を解除する。スイッチ9は、第1定電流源7を電極3に接続する。この接続の切り替えにより、電極3は、正の直流電流を受ける(
図6のG6d部参照)。なお、本開示でいう「電流供給部が直流電流の提供を開始したとき」とは、電極3に提供される直流電流の向きが逆転したときも含むものとする。
【0072】
電極3に正の直流電流が提供されると、電極3と基準電位101との間の電圧が時間の経過とともに低くなる(
図6のG6e部参照)。
【0073】
第1コンパレータ16は、被測定電圧VMと第1閾電圧VH1とを比較する。被測定電圧VMは、当初は第1閾電圧VH1より小さい(VM<VH1)。従って、第1コンパレータ16は、最小電圧(デジタル値(0))を出力する。
【0074】
第2コンパレータ17は、被測定電圧VMと第1閾電圧VL1とを比較する。被測定電圧VMは、時間の経過とともに低くなる。被測定電圧VMは、当初は第1閾電圧VL1より大きい(VM>VL1)。第2コンパレータ17は、最小電圧(デジタル値(0))を出力する。
【0075】
論理回路部14の入力14aは、デジタル値(0)を受ける。論理回路部14の入力14bは、デジタル値(0)を受ける。従って、論理回路部14は、出力14c、14dの状態を維持する。
【0076】
時間経過とともに被測定電圧VMが低くなる。そして、被測定電圧VMが第1閾電圧VL1を下回ったとする(
図6のG6f部参照)。第1コンパレータ16では、被測定電圧VMと第1閾電圧VH1の大小関係は変わらない(VM<VH1)。その結果、第1コンパレータ16は、最小電圧(デジタル値(0))を出力する。
【0077】
第2コンパレータ17では、被測定電圧VMと第1閾電圧VL1の大小関係が逆転する(VM<VL1)。その結果、第2コンパレータ17は、最大電圧(デジタル値(1))を出力する。
【0078】
論理回路部14の入力14aは、デジタル値(0)を受ける。論理回路部14の入力14bは、デジタル値(1)を受ける。出力14c、14dに生成されるデジタル値が逆転する。論理回路部14は、出力14cにデジタル値(0)を生成する。論理回路部14は、出力14dにデジタル値(0)を生成する。
【0079】
従って、出力14cに生成されるパルス信号の極性が逆転する。出力14dからスイッチ9に提供されるパルス信号の極性も逆転する。スイッチ9は、第1定電流源7と電極3との接続を解除する。スイッチ9は、第2定電流源8を電極3に接続する。この接続の切り替えにより、電極3は、正の直流電流を受ける(
図6のG6g部参照)。
【0080】
土壌センサ1は、以上の動作を所定時間繰り返す。
【0081】
繰り返しの結果、
図6の(b)部に示されるようなパルス信号G6Pを得る。パルス信号G6Pによれば、極性が維持される時間(極性が反転するまでの時間)は、被測定電圧VMが第1閾電圧VL1に達するまでに要した時間(第1時間t1H)に相当する。同様に、極性が維持される時間(極性が反転するまでの時間)は、被測定電圧VMが第1閾電圧VL1に達するまでに要した時間(第1時間t1L)に相当する。パルス信号G6Pの周期は、第1時間t1に対応する。
【0082】
処理部4は、閾電圧提供部15を制御して、第1閾電圧VH1、VL1を第2閾電圧VH2、VL2に変更する。例えば、第2閾電圧VH2、VL2は、抵抗成分Rと容量成分Cの両方が現れてくる点としてよい。容量成分Cのみの場合は、(第2閾電圧÷第1閾電圧)=(第1周波数÷第2周波数)である。一方、抵抗成分Rを含む電圧では(第2閾電圧÷第1閾電圧)<(第1周波数÷第2周波数)である。その結果、第1周波数÷第2周波数が十分大きな値になるように、第2閾電圧VH2、VL2を設定してよい。電流設定部6は、当初の設定を維持する。比較部13及び論理回路部14は、第1閾電圧VH1、VL1のときと同様の動作を行う。その結果、
図6に示されるようなパルス信号G6Qを得る。
【0083】
第2閾電圧VH2は第1閾電圧VH1よりも大きい。従って、被測定電圧VMが第2閾電圧VH2に達するまでに要する第2時間t2Hは、被測定電圧VMが第1閾電圧VH1に達するまでに要する第1時間t1Hよりも長くなる。同様に、被測定電圧VMが第2閾電圧VL2に達するまでに要する第2時間t2Lは、被測定電圧VMが第1閾電圧VL1に達するまでに要する第1時間t1Lよりも長くなる。
【0084】
インピーダンス算出部18は、上述したように、下記式により容量成分Cと抵抗成分Rとを得る。
【数8】
【数9】
【0085】
水分量算出部19は、上述したように、土壌Mの容量成分Cを比誘電率εSで除算することにより、水分量Wを得る。
【0086】
総イオン濃度算出部21は、上述したように、抵抗成分Rを水分量Wで除算することにより総イオン濃度Nを得る。
【0087】
上記の動作によって、土壌センサ1は、水分量Wと総イオン濃度Nとを得る。
【0088】
<土壌計測方法>
図7に示されるフロー図を参照しつつ、土壌計測方法について説明する。土壌計測方法は、上述した土壌センサ1を動作させることにより実行される。例えば、土壌センサ1における処理部4は、アルゴリズムを実行することにより実現される。このアルゴリズムは、計測した周波数、設定した電流及び電圧により抵抗成分Rと容量成分Cを算出するものである。
【0089】
直流電流を設定する工程(S1)を実施する。工程S1は、電流設定部6が行う。例えば、電流設定部6は、第1定電流源7から出力される直流電流を+1μAに設定する。さらに、電流設定部6は、第2定電流源8から出力される直流電流を-1μAに設定する。
【0090】
スイッチを設定する工程(S2)を実施する。工程S2は、電流供給部2が行う。例えば、電流供給部2は、第2定電流源8が電極3に接続されるように、スイッチ9を制御する。
【0091】
第1閾電圧の提供を開始する工程(S3)を実施する。工程S3は、閾電圧提供部15が行う。例えば、閾電圧提供部15は、第1閾電圧VH1として+0.5Vを第1コンパレータ16に提供する。さらに閾電圧提供部15は、第1閾電圧VL1として-0.5Vを第2コンパレータ17に提供する。
【0092】
上述した工程S1、S2、S3は、測定を開始する前の準備工程である。
【0093】
直流電流の提供を開始する工程(S4)を実施する。工程S4は、電流供給部2が行う。工程S4により、電極3への直流電流の提供が開始される。工程S4により、測定が開始される。
【0094】
第1パルス信号を得る工程(S5)を行う。工程S5は、被測定電圧VMを受ける工程(S5a)と、被測定電圧VMと第1閾電圧VH1とを互いに比較する工程(S5b)と、被測定電圧VMを受ける工程(S5c)と、被測定電圧VMと第1閾電圧VL1とを互いに比較する工程(S5d)と、を含む。
【0095】
工程S5aを行う。電極3への負の直流電流の提供が開始されると、処理部4は入力4aから被測定電圧VMを受ける(S5a)。
【0096】
工程S5bを行う。工程S5bは、比較部13及び論理回路部14が実施する。被測定電圧VMは、第1コンパレータ16に提供される。第1コンパレータ16によって、被測定電圧VMと第1閾電圧VH1とを互いに比較する(S5b)。具体的には、被測定電圧VMの絶対値が第1閾電圧VH1の絶対値より大きいか否かを判定する。
【0097】
判定の結果、被測定電圧VMが正の第1閾電圧VH1より大きくない場合(S5b:NO、VM<VH1)、論理回路部14は、出力の状態を維持する。そして、所定時間経過後に再び工程S5a、S5bを実施する。
【0098】
被測定電圧VMが正の第1閾電圧VH1より大きい場合(S5b:YES、VM>VH1)、論理回路部14は、出力14c、14dの値を反転する。出力14dの値が反転される結果に応じてスイッチ9が動作する。その結果、電極3は、正の直流電流を受け始める。
【0099】
工程S5cを行う。電極3が直流電流を受け始めると、処理部4は入力4aから被測定電圧VMを受ける(S5c)。
【0100】
工程S5dを行う。工程S5dは、比較部13及び論理回路部14が実施する。被測定電圧VMは、第2コンパレータ17に提供される。第2コンパレータ17は、被測定電圧VMと第1閾電圧VL1とを互いに比較する(S5d)。具体的には、被測定電圧VMの絶対値が第1閾電圧VL1の絶対値より大きいか否かを判定する。
【0101】
判定の結果、被測定電圧VMが負の第1閾電圧VH1より大きい場合(S5d:NO、VM>VL1)、論理回路部14は、出力の状態を維持する。そして、所定時間経過後に再び工程S5c、S5dを実施する。
【0102】
被測定電圧VMが負の第1閾電圧VL1より小さい場合(S5d:YES、VM<VL1)、論理回路部14は、出力14c、14dの値を反転する。出力14dの値が反転される結果に応じてスイッチ9が動作する。その結果、電極3は、負の直流電流を受け始める。
【0103】
第2パルス信号を得る工程(S6)を行う。工程S6は、第2閾電圧VH2の提供を開始する工程(S6a)と、被測定電圧VMを受ける工程(S6b)と、被測定電圧VMと第2閾電圧VH2とを互いに比較する工程(S6c)と、被測定電圧VMを受ける工程(S6d)と、被測定電圧VMと第2閾電圧VL2とを互いに比較する工程(S6e)と、を含む。
【0104】
第2閾電圧の提供を開始する工程(S6a)を実施する。工程S6aは、閾電圧提供部15が行う。例えば、閾電圧提供部15は、第2閾電圧VH2として+1Vを第1コンパレータ16に提供する。さらに、閾電圧提供部15は、第2閾電圧VL2として-1Vを第2コンパレータ17に提供する。
【0105】
工程S6bを行う。電極3が直流電流を受け始めると、処理部4は入力4aから被測定電圧VMを受ける(S6b)。
【0106】
工程S6cを行う。工程S6cは、比較部13及び論理回路部14が実施する。第1コンパレータ16は、被測定電圧VMを受ける。つまり、第1コンパレータ16は、被測定電圧VMと第2閾電圧VH2とを互いに比較する(S6c)。具体的には、第1コンパレータ16は、被測定電圧VMの絶対値が第2閾電圧VH2の絶対値より大きいか否かを判定する。
【0107】
被測定電圧VMが正の第2閾電圧VH2より大きくない場合(S6c:NO、VM<VH2)、論理回路部14は、出力14c、14dの状態を維持する。そして、所定時間経過後に再び工程S6b、S6cを実施する。
【0108】
被測定電圧VMが正の第2閾電圧VH2より大きい場合(S6c:YES、VM>VH1)、論理回路部14は、出力14c、14dの値を反転する。出力14dの値が反転される結果に応じてスイッチ9が動作する。その結果、電極3は、逆向きの直流電流を受け始める。
【0109】
工程S6dを行う。電極3への直流電流の提供が開始されると、処理部4は入力4aから被測定電圧VMを受ける(S6d)。
【0110】
工程S6fを行う。工程S6fは、比較部13及び論理回路部14が実施する。第2コンパレータ17は、被測定電圧VMを受ける。第2コンパレータ17は、被測定電圧VMと第2閾電圧VL2とを互いに比較する(S6f)。具体的には、第2コンパレータ17は、被測定電圧VMの絶対値が第2閾電圧VL2の絶対値より大きいか否かを判定する。
【0111】
被測定電圧VMが第2閾電圧VH2より大きい場合(S6f:NO、VM>VL1)、論理回路部14は、出力14c、14dの状態を維持する。そして、所定時間経過後に再び工程S6d、S6eを実施する。
【0112】
被測定電圧VMが第2閾電圧VL2より小さい場合(S6f:YES、VM<VL1)、論理回路部14は、出力14c、14dの値を反転する。出力14dの値が反転される結果に応じてスイッチ9が動作する。その結果、電極3は、逆向きの直流電流を受け始める。
【0113】
インピーダンスを得る工程(S7)を行う。工程S7は、インピーダンス算出部18が行う。工程S7は、第1時間t1を取得する工程(S7a)と、第2時間t2を取得する工程(S7b)と、容量成分Cを得る工程(S7c)と、抵抗成分Rを得る工程(S7d)と、を含む。
【0114】
工程S7aを行う。工程S7aでは、第1時間t1を得る。第1時間t1は、負の直流電流の提供が開始されたタイミング(
図6の(a)部におけるG6h部参照)から、正の直流電流へ切り替わったタイミング(
図6の(a)部におけるG6j部参照)までの経過時間である。なお、第1時間t1は、正の直流電流の提供が開始されたタイミング(G6j部)から、負の直流電流へ切り替わったタイミング(G6k部)までの経過時間としてもよい。
【0115】
工程S7bを行う。工程S7aと同様に、電流の極性が切り替わったタイミングに基づいて、第2時間t2を得る。
【0116】
工程S7cを行う。工程S7cは、インピーダンス算出部18が行う。
【0117】
工程S7dを行う。工程S7dも、インピーダンス算出部18が行う。
【0118】
水分量Wを得る工程(S8)を行う。工程S8は、水分量算出部19が行う。
【0119】
総イオン濃度Nを得る工程(S9)を行う。工程S9は、総イオン濃度算出部21が行う。
【0120】
以上の工程S1~S9により、土壌100の特性を示す容量成分C、抵抗成分R、水分量W、総イオン濃度Nが得られる。
【0121】
以下、土壌センサ1の作用効果について説明する。
【0122】
農業分野や防災分野において、土壌の中の水分量やイオン濃度(農業分野では養分濃度)を計測することは非常に重要である。土壌の水分量及びイオン濃度を得る方法として、電気的インピーダンスを利用する方法、電磁波を照射しその反射を利用する方法、温度の伝搬速度を利用する方法などがあげられる。インピーダンスを利用する方法は、温度を利用する方法と比較して計測精度が高い。また、インピーダンスを利用する方法は、電磁波の反射を利用する方法と比較して消費電力が少ない。
【0123】
一般的にインピーダンスを計測するとき、電圧もしくは電流の正弦波(単一の周波数)を測定対象に印加する。インピーダンスは、電圧又は電流の印加の結果として得られる電流もしくは電圧を利用して得ることができる。土壌及び水のインピーダンス(Z)はZ=1/(1/R+jωC)として示される。抵抗成分Rと容量成分Cは、正弦波の計測結果(インピーダンスの絶対値|Z|、位相Θ、周波数f)を利用して算出できる。
【0124】
この方法によれば、インピーダンス(Z)を精密に求めることができる。しかし、土壌の水分量及び総イオン濃度が変化する範囲は大きい。従って、水分量及び総イオン濃度に応じて、抵抗成分R及び容量成分Cも大きく変化する可能性がある。抵抗成分R及び容量成分Cも大きく変化する場合には、単一の周波数による計測ではすべての変化範囲において計測を行うことが困難になる。低水分量の土壌ではインピーダンスが高くなる。その結果、計測する信号が微弱になる。従って、低水分量の土壌では真の信号成分がノイズ成分に隠れてしまうこともあり得る。
【0125】
実施形態に係る土壌センサ1及び土壌計測方法によれば、以下のような作用効果を奏し得る。
【0126】
土壌100は、抵抗成分Rと容量成分Cとを含む電気回路としてモデル化できる。土壌100における水分量Wと総イオン濃度Nとは抵抗成分Rと容量成分Cとにより得ることができる。抵抗成分Rと容量成分Cとは、電極3に生じる電圧変化により得ることが可能である。第1閾電圧VH1、VL1に達するまでの第1時間t1と、第2閾電圧VH2、VL2に達するまでの第2時間t2とを利用すれば、電圧変化を規定する抵抗成分Rと容量成分Cとを求めることが可能である。電圧変化を生じさせるために、土壌センサ1は、電流供給部2から電極3へ直流電流を提供する。直流電流は、電極3を介して測定対象である土壌100へ提供される。直流電流を提供の結果、土壌100における抵抗成分R及び容量成分Cの大きさに応じて、当該電極3は電圧の変化を受ける。抵抗成分R及び容量成分Cを求める際に、測定対象に直流電流を提供する。その結果、抵抗成分R及び容量成分Cの変化が大きい場合であっても、直流電流の大きさを調整することにより、良好な電圧変化を得ることが可能である。従って、土壌センサ1は、広い計測範囲をもって、土壌100の特性値を測定することができる。
【0127】
土壌センサ1及び土壌計測方法では、土壌100に直流電流を印加し、印加の結果として得られる電圧の変化を得る。土壌センサ1及び土壌計測方法は、当該電圧変化を利用して、抵抗成分Rと容量成分Cを算出する。土壌センサ1及び土壌計測方法は、土壌100に印加する直流電流の条件を、抵抗成分R及び容量成分Cを検出しやすい条件へと能動的に変化させることができる。従って、広範囲の抵抗成分R及び容量成分Cの検出が可能となる。
【0128】
土壌センサ1は、広範囲の水分量変化及びイオン濃度変化を得ることができる。単一の周波数の正弦波の印可では、容量成分Cと抵抗成分Rが大きく変動する土壌や水の計測において、計測できない場合があり得る。そこで、土壌センサ1及び土壌計測方法は、容量成分C及び抵抗成分Rの検出が可能な条件へと能動的に切り替えることにより、計測が可能な範囲を拡大することができる。
【0129】
情報変換部11は、被測定電圧VMの絶対値が第1閾電圧又は第2閾電圧の絶対値に達したことを示すパルス信号(周波数情報)を出力する。電流供給部2は、パルス信号に応じて、直流電流の向きを切り替える。この構成によれば、電圧の経時変化に関する時間情報が周波数情報に変換される。電圧の経時変化に関する時間情報が周波数情報に変換されることにより、ノイズ耐性を高めることができる。
【0130】
換言すると、土壌センサ1及び土壌計測方法は、電圧変化をデジタル信号の方形波のパルス数(周波数)へと変換する。その結果、ノイズの多い土壌環境の現場計測において、安定した信号の伝達が行われる。その結果、土壌センサ1及び土壌計測方法により、広範囲の水分量、イオン濃度を検出することができるようになる。そのうえ、土壌センサ1及び土壌計測方法は、デジタル信号化により安定した信号の伝達を行うことができる。
【0131】
要するに、抵抗成分Rの桁は、100Ωから10MΩと幅広く変化することがある。ここで土壌センサ1及び土壌計測方法は、電圧を方形波のパルス数に変換する。つまり、電圧情報は、周波数の情報に変換される。その結果、抵抗成分Rの桁の変化は、周波数の桁の変化として対応できる。従って、1個の検出器によって、広範囲のデジタル信号への変換を行うことができる。換言すると、土壌センサ1及び土壌計測方法では、電圧を得る際に、複数の計測レンジを用意する必要がない。
【0132】
ところで、既存の土壌センサは、計測周波数の限界を有する。土中水分量及びイオン濃度の測定では、水のインピーダンスを計測する場合に、100kHz以上の高周波数の正弦波を水に印加することがある。しかし、既存の土壌センサでは100kHz以上の高周波数の正弦波を生成することが難しい。従って、計測そのものが困難である。
【0133】
一方、土壌センサ1の電流供給部2は、正の直流電流を出力する第1定電流源7と、負の直流電流を出力する第2定電流源8と、パルス信号に応じて、第1定電流源7及び第2定電流源8の一方を選択的に電極3に接続するスイッチ9と、を有する。この構成によれば、土壌100に対して周期的に変化するパルス状の電流を提供することができる。パルス状の電流は、正弦波のように高周波域における制限がない。その結果、高い周波数を有する電流を土壌100に提供することが可能になる。従って、土壌100の前後に存在し得る付加的な容量成分の影響(いわゆる電気二重層)を低減することが可能となる。その結果、土壌センサ1は、より良好な電圧変動を得ることができる。
【0134】
情報変換部11は、電極3に接続されて、正の第1閾電圧と被測定電圧VMとを比較する第1コンパレータ16と、電極3に接続されて、負の第1閾電圧と被測定電圧VMとを比較する第2コンパレータと、を有する。この構成によれば、第1時間t1及び第2時間t2を簡易な構成で周波数に変換することができる。
【0135】
情報変換部11は、第1コンパレータ16及び第2コンパレータ17に接続された論理回路部14を有する。この構成によれば、時間情報をより簡易な構成で周波数情報に変換することができる。
【0136】
論理回路部14は、フリップフロップ回路である。この構成によれば、時間情報をさらに簡易な構成で周波数情報に変換することができる。
【0137】
情報変換部11は、第1コンパレータ16の出力とインピーダンス算出部18との間に設けられたバッファ12eを有する。この構成によれば、情報変換部11からインピーダンス算出部18に送られる情報へのノイズの影響を低減し得る。
【0138】
本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。
【0139】
例えば、
図1に示されるように、土壌センサ1は、電極3に接続されるモニタ用端子41を備えてもよい。
【0140】
図1に示されるように、土壌センサ1は、電極3と処理部4との間において、基準電位101との間に接続された容量成分42を備えてもよい。
【0141】
処理部4は、アンプ(増幅器)を有してもよい。アンプは、第1コンパレータ16及び/又は第2コンパレータ17へ提供される被測定電圧VMを増幅する。アンプは、電極3と第1コンパレータ16との間、及び/又は電極3と第2コンパレータ17との間であれば、設けられる位置は限定されない。例えば、アンプは、処理部4の入力4aと情報変換部11の入力11aとの間に設けられてもよい。アンプによれば、被測定電圧VMが小さい場合にコンパレータの閾電圧との読み取り誤差を無くすことができる。
【0142】
例えば、土壌センサ1及び土壌計測方法は、農業に用いてもよい。農業において土壌水分量及びイオン濃度は重要な情報である。土壌水分量は、作物の生育に大きな影響を与える。イオン濃度は土壌中の養分濃度に影響を与える。従って、精密農業には、作物とその環境に関する情報の収集と、収集した情報の農業生産管理への利用が必要である。従って、土壌の情報を計測する必要がある。土壌センサ1及び土壌計測方法によれば、広い計測レンジにおいて精度良い土壌の情報を提供することができる。その結果、精密農業に対して好適に用いることができる。
【0143】
土壌センサ1及び土壌計測方法は、広い計測レンジを有するので、土砂災害の予知に用いてもよい。例えば、土壌センサ1及び土壌計測方法は、土砂災害が起こり得る度合いの評価に用いてもよい。例えば、土壌センサ1及び土壌計測方法によって、法面における土壌に含まれる水分量を得ることにより、土砂災害が起こり得る度合いを評価できる。この水分量を得るために土壌センサ1及び土壌計測方法を好適に用いることができる。
【0144】
例えば、
図10に示すように、土壌センサ1Aは、互いに異なる特性値を得る複数のセンサを備えてもよい。土壌センサ1Aは、水分量及び総イオン濃度を得るセンサ51(第1センサ部)と、温度を得るセンサ52(第2センサ部、温度計測部)と、を有する。センサ51は、上述した電流供給部2及び電極3などにより構成され、水分量及び総イオン濃度に応じた電圧(第1被測定電圧)を出力する。センサ52は、土壌100に埋め込まれて、土壌100の温度に応じた電圧(第2被測定電圧)を出力する。例えば、センサ52は、ダイオードを用いた温度センサ又はn-mosを用いた温度センサであってよい。そして、土壌センサ1Aは、センサ51、52に接続されたスイッチ回路53を有する。スイッチ回路53は、センサ51、52を選択的に処理部4Aに接続する。例えば、土壌センサ1Aによって水分量及び総イオン濃度を得る場合には、センサ51を処理部4Aに接続する。また、土壌センサ1Aによって温度を得る場合には、センサ52を処理部4Aに接続する。処理部4Aは、第1被測定電圧を第1周波数情報に変換する情報変換部11及び算出部12に加えて、追加された情報変換部54(温度情報変換部)及び算出部56(温度算出部)を有する。算出部12、56は、計測値算出部を構成する。情報変換部54は、スイッチ回路53から受けた電圧を第2周波数情報(温度周波数情報)に変換する。そして、情報変換部54は、第2周波数情報を算出部56に提供する。なお、処理部4Aは、一つの情報変換部11を備えており、この情報変換部11を共用するものとしてもよい。情報変換部54は、いわゆるVF変換回路であり、情報変換部11とおおむね同様の構成を有する。算出部56は、情報変換部54から提供された周波数情報を温度情報に変換する。算出部56は、周波数と温度の対応を規定する関数又はデータシートといった変換情報を記録している。算出部56は、これらの情報を用いて、周波数情報を温度情報に変換する。
【0145】
<実験例1>
実験例1では、回路シミュレーションを行った。このシミュレーションには、
図1に示される回路を模擬したモデルを用いた。土壌100の容量成分Cを500pFとした。抵抗成分Rを1MΩとした。直流電流の大きさを6μAとした。第1閾電圧VH1を+1Vとした。第1閾電圧VL1を-1Vとした。
図8の(a)部は、シミュレーションの結果を示す。
図8の(a)部において、グラフG8aは、情報変換部11の入力11aが受ける被測定電圧VMを示す。グラフG8bは、情報変換部11の出力11cが受けるパルス信号を示す。グラフG8aを参照すると、+1V及び-1V付近において、被測定電圧VMが折り返されていることがわかった。グラフG8bを参照すると、被測定電圧VMが折り返されるタイミングに同期して、パルス信号の信号レベルが変化していることがわかった。その結果、
図1に示された回路は、正しい動作を行うことができることがわかった。上記の条件によれば、パルス信号の周波数は、2.91kHzであった。
【0146】
<実験例2>
図1に示される回路を、ディスクリート部品を用いて作成した。そして、作成した回路の特性を確認した。
図8の(b)部は、回路の特性を示す。
図8の(b)部において、グラフG8cは、情報変換部11の入力11aが受ける被測定電圧VMを示す。グラフG8dは、情報変換部11の出力11cが提供するパルス信号を示す。グラフG8c、グラフG8dを参照すると、シミュレーション結果(
図8の(a)部)と同様の傾向を示すことがわかった。その結果、
図1に示された回路に基づいて作成した実際の回路は、正しい動作を行うことができることがわかった。また、実験例2によれば、パルス信号の周波数は、2.95kHzであった。
【0147】
<実験例3、4>
実験例2で用いた回路を水に浸した場合に、当該回路が適切に動作することを確認した。電極3に対応する部品として、ディスクリート部品に替えて水に浸した金属板を用いた。測定対象物である水は、超純水(実験例3)及び100mS/mである水(実験例4)とした。
図8の(c)部は、実験例3の結果を示す。グラフG8eは、情報変換部11の入力11aが受ける被測定電圧VMを示す。グラフG8fは、情報変換部11の出力11cが提供するパルス信号を示す。
図8の(d)部は、実験例4の結果を示す。グラフG8gは、情報変換部11の入力11aが受ける被測定電圧VMを示す。グラフG8hは、情報変換部11の出力11cが提供するパルス信号を示す。
図8の(c)部及び(d)部を参照すると、測定対象物が水であっても回路はパルス状の波形を生成できることがわかった。つまり、作成した回路は、測定対象物が水であっても正しい動作を行うことができることがわかった。
【0148】
<実験例5、6>
実験例2で用いた回路を利用して、土壌100を模擬する容量成分C及び抵抗成分Rと、パルス信号の周波数と、の関係を確認した。実験例5では、抵抗成分Rは、1MΩに設定した。容量成分Cは、100pF、200pF、300pF、400pF、500pFにそれぞれ設定した。実験例6では、抵抗成分Rを10kΩに設定した。容量成分Cは、100pF200pF、300pF、400pF、500pFにそれぞれ設定した。
図9の(a)部は実験例5の結果を示す。
図9の(b)部は実験例6の結果を示す。
図9の(a)部及び
図9の(b)部を確認すると、容量成分Cが小さくなるほど周波数が大きくなる傾向が確認できた。つまり、閾電圧に達するまでの時間が短くなることが確認できた。
図9の(a)部と
図9の(b)部とを比較すると、抵抗成分Rが小さいほど、周波数が小さくなることも確認できた。これらの結果より、設計した
図1に示される回路は、正しい動作を行うことができることがわかった。
【符号の説明】
【0149】
1…土壌センサ、2…電流供給部、2a…入力、2b…出力、3…電極(電極部)、4…処理部、4a…入力、4b,4c…出力、6…電流設定部、7…第1定電流源、8…第2定電流源、9…スイッチ、11…情報変換部、11a…入力、11b,11c,11d…出力、12…算出部、12a…入力、12b…出力、13…比較部、13a…入力、13b,13c…出力、14…論理回路部、14a,14b…入力、14c,14d…出力、14e…バッファ、15…閾電圧提供部、16…第1コンパレータ、17…第2コンパレータ、18…インピーダンス算出部、19…水分量算出部、21…総イオン濃度算出部、22…プローブ、23…ケーブル、24…コンピュータ、26…センサチップ、41…モニタ用端子、42…容量成分、100…土壌、101…基準電位、C…容量成分、R…抵抗成分、W…水分量、N…総イオン濃度、VM…被測定電圧、VH1,VL1…第1閾電圧、VH2,VL2…第2閾電圧、I…直流電流、t1,t1H,t1L…第1時間、t2,t2H,t2L…第2時間、G6P,G6Q…パルス信号。