(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】新規腫瘍ワクチンおよびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/275 20060101AFI20220902BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220902BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20220902BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220902BHJP
C12N 15/88 20060101ALN20220902BHJP
C12N 15/863 20060101ALN20220902BHJP
【FI】
A61K39/275
A61K48/00
A61K47/28
A61P35/00
C12N15/88 Z ZNA
C12N15/863 Z
(21)【出願番号】P 2019571477
(86)(22)【出願日】2018-06-21
(86)【国際出願番号】 CN2018092198
(87)【国際公開番号】W WO2019001339
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2020-02-21
(31)【優先権主張番号】201710509396.6
(32)【優先日】2017-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521288091
【氏名又は名称】成都威斯克生物医▲薬▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】魏霞蔚
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼霞
(72)【発明者】
【氏名】魏于全
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼志▲偉▼
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102343086(CN,A)
【文献】Mol Ther., 2002, Vol.6 No.4, p.519-527
【文献】Cancer, 2004, Vol.101, p.2557-2566
【文献】南方医科大学大学報, 2011, Vol.31 No.6, p.937-942
【文献】GenBank Acession No. KF703899 (14-MAR-2014), Expression vector pMVAX1(c), complete sequence,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/KF703899
【文献】PlosOne, 2014, Vol.9 No.3, Artile e90326 (p.1-12)
【文献】BioTechniques, 2005, Vol.39 No.5, p.665-670
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61P
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAとカチオン性生体材料とによって形成された複合体を含み、
前記カチオン性生体材料がカチオン性脂質材料であり;
前記カチオン性脂質材料が、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)であり;
前記DNAが環状DNAであり、
前記環状DNAがプラスミドであり;
前記プラスミドが、レプリコン、耐性遺伝子およびプラスミド骨格配列を含むが、外因性遺伝子を発現できない複製可能なプラスミドであり;
レプリコン、耐性遺伝子およびプラスミド骨格配列を含むが外因性遺伝子を発現できない前記複製可能なプラスミドがpMVA-1プラスミドであり、該pMVA-1プラスミドのヌクレオチド配列は、配列番号2として表されるか、またはそのヌクレオチド配列が配列番号2として表される配列と少なくとも90%相同である、腫瘍ワクチン。
【請求項2】
前記DNAが酸化DNAであることを特徴とする、請求項1に記載の腫瘍ワクチン。
【請求項3】
前記酸化DNAが、照射または酸化剤による処理によりインビトロで形成されることを特徴とする、請求項2に記載の腫瘍ワクチン。
【請求項4】
前記照射が、紫外線、ガンマ線またはX線の照射の少なくとも1つであり、前記酸化剤が、酸素、オゾン、F
2、Cl
2、Br
2、硝酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、HNO
3、KMnO
4、NaClO、CrO
3、H
2O
2、PbO
2、NaBiO
3、XeF
2、Ce
4+またはPdCl
2の少なくとも1つであることを特徴とする、請求項3に記載の腫瘍ワクチン。
【請求項5】
それにより形成される複合体中のDNAとカチオン性生体材料との質量比が1:1~1:100であることを特徴とする、請求項1から
4のいずれか一項に記載の腫瘍ワクチン。
【請求項6】
前記DNAと前記カチオン性生体材料との質量比が1:1~1:50であることを特徴とする、請求項
5に記載の腫瘍ワクチン。
【請求項7】
前記DNA/カチオン性生体材料複合体が1~2,000nmの粒径を有することを特徴とする、請求項1から
6のいずれか一項に記載の腫瘍ワクチン。
【請求項8】
前記DNA/カチオン性生体材料複合体が50~1000nmの粒径を有することを特徴とする、請求項
7に記載の腫瘍ワクチン。
【請求項9】
前記DNA/カチオン性生体材料複合体が1~150mVの電位を有することを特徴とする、請求項1から
8のいずれか一項に記載の腫瘍ワクチン。
【請求項10】
DNA/カチオン性生体材料複合体が5~100mVの電位を有することを特徴とする、請求項
9に記載の腫瘍ワクチン。
【請求項11】
請求項1から
10のいずれか一項に記載の腫瘍ワクチンと、薬学的に許容される賦形剤または補助成分とを含む医薬組成物。
【請求項12】
前記賦形剤または補助成分が、希釈剤、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、吸収促進剤、界面活性剤、保護剤、吸着担体または滑沢剤のうちの少なくとも1つであることを特徴とする、請求項
11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1から
10のいずれか一項に記載の腫瘍ワクチンを調製する方法であって、(1)請求項1から
10のいずれか一項に記載のDNAおよびカチオン性生体材料を調製するステップ、ならびに(2)ステップ(1)の前記DNAと前記カチオン性生体材料とを混合し、前記混合物を放置して前記腫瘍ワクチンを得るステップ、を含む方法。
【請求項14】
請求項
11または
12に記載の医薬組成物を調製する方法であって、(1)請求項1から
10のいずれか一項に記載のDNAおよびカチオン性生体材料を調製するステップ、(2)ステップ(1)のDNAとカチオン性生体材料とを混合し、前記DNAと前記カチオン性生体材料との混合の前および/またはその間および/または後に、薬学的に許容される賦形剤または補助成分を添加して医薬組成物を調製するステップ、を含む方法。
【請求項15】
前記賦形剤または補助成分が、希釈剤、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、吸収促進剤、界面活性剤、保護剤、吸着担体または滑沢剤のうちの少なくとも1つから選択されることを特徴とする、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から
10のいずれか一項に記載の腫瘍ワクチンまたは請求項
11もしくは
12に記載の医薬組成物と、腫瘍を治療するための少なくとも1つの他の薬物とを含む、腫瘍を治療するための医療キット。
【請求項17】
前記腫瘍を治療するための他の薬物が、化学療法薬または免疫応答調節剤の少なくとも1つから選択されることを特徴とする、請求項
16に記載の医療キット。
【請求項18】
前記免疫応答調節剤が、サイトカイン、クラスII HLAタンパク質結合アクセサリー分子、CD40アゴニスト、チェックポイント受容体アンタゴニスト、B7共刺激分子、FLt3アゴニストまたはCD40Lアゴニストの少なくとも1つであることを特徴とする、請求項
17に記載の医療キット。
【請求項19】
請求項1から
10のいずれか一項に記載の腫瘍ワクチンまたは請求項
11もしくは
12に記載の医薬組成物と、腫瘍抗原とを含む抗腫瘍薬。
【請求項20】
前記腫瘍抗原が、腫瘍関連抗原、アポトーシス腫瘍細胞または壊死腫瘍細胞の少なくとも1つから選択されることを特徴とする、請求項
19に記載の抗腫瘍薬。
【請求項21】
請求項1から
10のいずれか一項に記載の腫瘍ワクチンおよび請求項
11もしくは
12に記載の医薬組成物の、腫瘍を治療および/または予防するための薬物の製造における使用。
【請求項22】
前記腫瘍が、子宮頸がん、卵巣がん、乳がん、肺がん、鼻咽頭がん、胃がん、膵臓がん、食道がん、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、皮膚がん、肉腫またはリンパ腫から選択されることを特徴とする、請求項
21に記載の使用。
【請求項23】
請求項1から
10のいずれか一項に記載の腫瘍ワクチンまたは請求項
11もしくは
12に記載の医薬組成物と、腫瘍を治療するための少なくとも1つの他の薬物との、腫瘍を治療または予防するための薬物の調製における使用。
【請求項24】
前記腫瘍を治療するための他の薬物が、化学療法薬または免疫応答調節剤の少なくとも1つから選択されることを特徴とする、請求項
23に記載の使用。
【請求項25】
前記免疫応答調節剤が、サイトカイン、クラスII HLAタンパク質結合アクセサリー分子、CD40アゴニスト、チェックポイント受容体アンタゴニスト、B7共刺激分子、FLt3アゴニストまたはCD40Lアゴニストの少なくとも1つであることを特徴とする、請求項
24に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物医学の分野に属し、特に新規腫瘍ワクチン、その調製方法および腫瘍の治療および/または予防におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の分子生物学、免疫学、および細胞生物学などのフロンティアサイエンスに基づいて、現代のバイオテクノロジーおよびその製品は、腫瘍の予防および治療のための腫瘍生物療法、ヒト免疫細胞の再構築を促進して、免疫細胞の数を増加させることによる人体の免疫機能の直接回復および改善、がん細胞に対する人体の免疫の強化、ならびに腫瘍細胞の発生、成長、分化、浸潤、転移および再発などの一連の過程を妨げることによる腫瘍治療の目的の達成に使用される。腫瘍生物療法は、外科手術、放射線療法および化学療法に続く4番目の主要な腫瘍療法となり、主に腫瘍免疫療法(抗体療法、腫瘍ワクチン療法、養子細胞免疫療法およびサイトカイン療法を含む)、腫瘍遺伝子療法、抗血管新生療法および分子標的療法などを含む。
【0003】
腫瘍ワクチン療法は、常に腫瘍生物療法の最新の研究分野の1つである。その原理は、患者自身の免疫系を活性化し、腫瘍抗原に対する特異的な細胞性免疫および体液性免疫応答を生成して、腫瘍を制御または死滅させるように身体を誘導することにより、がん細胞の成長、転移および再発を阻害することである。腫瘍ワクチン療法には、腫瘍細胞ワクチン、腫瘍ポリペプチドワクチン、腫瘍に対する遺伝子工学ワクチン、腫瘍核酸ワクチンおよび抗イディオタイプ抗体ワクチンなどが含まれる。ヌクレオチドとしてのDNAは一般に、病原性がなく、免疫原性が低いため、体内に進入した後に免疫応答を生成するように身体を誘導しないので、現在当技術分野で言及されている「腫瘍DNAワクチン」は、一般的に腫瘍関連抗原または腫瘍特異的抗原、ならびに身体を刺激して特異的および非特異的な免疫応答を生成するように、身体に注入されて宿主細胞において対応する腫瘍抗原を発現する、プラスミドベクターに組み込まれた免疫刺激因子の発現遺伝子を指す。腫瘍DNAワクチンは安全かつ効果的であり、大量に調製および精製することが容易であり、宿主細胞ゲノムに組み込むことが困難であるため、腫瘍免疫療法で大きな注目を集めている。
【0004】
臨床研究により、上記の腫瘍DNAワクチンが腫瘍患者を活性化して臨床試験において経時的に抗原特異的抗腫瘍免疫応答を生成させ得ることが示されているが、この腫瘍DNAワクチンが、腫瘍患者を誘導して永続的かつ効率的な抗腫瘍免疫応答を生成することは現在のところ稀であり、腫瘍の予防または治療の永続的な効果を得ることは困難である。その結果、腫瘍DNAワクチンの免疫原性を改善し、腫瘍患者の身体を持続的かつ効率的な抗腫瘍免疫応答を生成するように誘導し、腫瘍の予防または治療のより満足のいく効果を得る方法は、早急に解決すべき技術的問題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
裸のDNAは細胞に直接進入しにくく、細胞内のヌクレアーゼによって分解されやすいため、DNAワクチンはトランスフェクション効率が低く、腫瘍の治療中の免疫原性が非常に弱く、身体の抗腫瘍免疫応答を活性化することは容易ではない。カチオン性生体材料は、薬物送達システムとして使用される。ウイルスベクターと比較して、カチオン性脂質には、簡単かつ迅速な合成および大量生産という利点がある。内部に含まれる正電荷により、カチオン性脂質は負に帯電したDNAと静電結合を介して容易に複合体を形成し、インビボでの分解からDNAを保護することができる。形成された複合体は、エンドサイトーシスまたは食作用を介して細胞に取り込まれる。しかし、研究により、遺伝子のトランスフェクション中にアポトーシスが発生し得ることが示されている。
【0006】
カチオン性生体材料は、腫瘍DNAワクチンのアジュバントとしても使用することができる。DNAとカチオン性生体材料とにより形成される複合体は、マクロファージおよび樹状細胞(DC)などの抗原提示細胞(APC)によって貪食され、したがってDNAワクチンの免疫原性を強化する。複合体の表面の正電荷は、注射部位でのDNAワクチンの滞留時間の延長、抗原提示の増加、およびインビボでの細胞性免疫の刺激時間の延長に役立ち得る。しかし、腫瘍治療用の腫瘍DNAワクチンを調製するための薬物送達システムとして使用される場合、カチオン性生体材料はしばしば組織細胞の急性細胞壊死を引き起こし、全身投与後に損傷関連分子パターン(DAMP)を開始し、したがって体内で一連の炎症反応を誘導し、肝毒性や肺毒性などの組織の毒性傷害を引き起こしやすい。このような要因は、現在の腫瘍DNAワクチン療法における薬物送達システムとしてのカチオン性生体材料の臨床応用を制限する。したがって、カチオン性生体材料の利点を効果的に活用して薬物送達システムを開発し、インビボでの薬物の生物学的利用能および標的化を改善し、その毒性副作用を低減する方法は、カチオン性ナノ薬物送達システムの開発で取り組むべき緊急の課題である。
【0007】
本発明者の以前の研究(Cell Research(2015)25:237-253.)によれば、カチオン性生体材料は腫瘍細胞膜上の Na+/K+-ATP酵素のOBS部位に結合することができ、それにより腫瘍細胞のNa+濃度が増加し、腫瘍細胞壊死を直接引き起こし、細胞内ミトコンドリアおよび他の関連抗原ならびに活性酸素種(ROS)を放出する。ミトコンドリアDNAは豊富なCpG構造を有し、ROSによる酸化の後、TLR9シグナル伝達経路、すなわちTLR9-MyD88経路を活性化することができ、したがって自然免疫応答を誘導し、炎症細胞の活性化および凝集をもたらし、好中球を刺激してより多くの炎症因子を放出して免疫応答を強化する。したがって、カチオン性ナノキャリアは、新しい細胞壊死の機序、すなわちNa+/K+-ATP酵素を介した損傷経路により腫瘍細胞の壊死を直接誘導することができ、これは以前に研究されたRIP1またはMLKLで制御される細胞壊死経路とは異なる。さらに、カチオン性ナノキャリアの局所注入は、腫瘍細胞からの抗原の放出を引き起こし、腫瘍に対する免疫細胞の免疫応答を活性化することもできる。
【0008】
さらに、リソソームによって開始されるアポトーシスの新しい理論として、Termanらによって提案されたリソソーム-ミトコンドリア軸理論は、酸化ストレス、電離放射線およびリソソーム標的薬の刺激下で、リソソーム膜(lysosoma membrane)透過性が増加し、リソソーム中の加水分解酵素が細胞質内に放出され、放出されたホスホリパーゼ加水分解酵素による直接的ミトコンドリア損傷が、または加水分解酵素により活性化されるアポトーシス促進タンパク質(例えば、Bid)による間接的ミトコンドリア損傷が生じ、最終的にミトコンドリアでのシトクロムcの放出およびCasepseの活性化につながり、したがってアポトーシスを誘発することを示唆している。さらに、複数の研究により、腫瘍細胞は正常細胞よりもリソソーム膜の安定性が傷つきやすいことが示されている。
【0009】
DNAワクチン、カチオン性生体材料、およびリソソームにより開始されるアポトーシスの機序が研究されているが、外因性遺伝子を発現する能力を持たない複製可能なDNA断片(pMVAプラスミドおよびpMVA-1プラスミド)が、カチオン性生体材料と一緒に、腫瘍ワクチンとして相乗的抗腫瘍効果を有する複合体を形成するという報告は存在しない。また、酸化DNA断片が、カチオン性生体材料と一緒に、腫瘍ワクチンとしてより強力な抗腫瘍効果を有する複合体を形成するという報告も存在しない。
【0010】
先行技術の弱点から出発して、本発明は、外因性遺伝子を発現しない複製可能なDNA断片とカチオン性生体材料とによって形成される、抗腫瘍相乗効果を有するDNA/カチオン性生体材料複合体を提供することを目的とする。この複合体は、腫瘍を直接死滅させるだけでなく、腫瘍に対する身体の自然免疫応答および適応免疫応答を活性化することができ、長期記憶免疫を生成することができる。したがって、この複合体は、腫瘍ワクチンとして単独で使用することも、または他の腫瘍治療法と併用して、異なる種類の腫瘍を治療することもできる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、以下の技術的解決策により達成される:
【0012】
本発明は、腫瘍ワクチンを提供する。腫瘍ワクチンの成分は、DNAとカチオン性生体材料とにより形成される複合体で構成される。
【0013】
さらに、腫瘍ワクチン中のDNAは50~10000bpの長さを有する。
【0014】
好ましくは、腫瘍ワクチン中のDNAは100~6000bpの長さを有する。
【0015】
ここで、腫瘍ワクチン中のDNAは線状DNAまたは環状DNAである。
【0016】
さらに、腫瘍ワクチン中の線状DNAは、ミトコンドリアDNAまたはミトコンドリアDNA断片である。
【0017】
ここで、腫瘍ワクチン中の環状DNAはプラスミドである。
【0018】
さらに、腫瘍ワクチン中のプラスミドは、pMVA、pMVA-1、pVAX1、pcDNA3.1、pBR322またはpUC18の少なくとも1つから選択される。
【0019】
ここで、腫瘍ワクチン中のプラスミドは、レプリコン、耐性遺伝子およびプラスミド骨格配列を含む複製可能なプラスミドであるが、外因性遺伝子を発現することはできない。
【0020】
ここで、レプリコン、耐性遺伝子およびプラスミド骨格配列を含むが外因性遺伝子を発現できない複製可能なプラスミドはpMVAプラスミドであり、そのヌクレオチド配列は配列番号1として表されるか、またはそのヌクレオチド配列は配列番号1として表される配列と少なくとも90%相同である。
【0021】
ここで、レプリコン、耐性遺伝子およびプラスミド骨格配列を含むが外因性遺伝子を発現できない複製可能なプラスミドはpMVA-1プラスミドであり、そのヌクレオチド配列は配列番号2として表されるか、またはそのヌクレオチド配列は配列番号2として表される配列と少なくとも90%相同である。
【0022】
pMVAプラスミドのヌクレオチド配列は、配列番号1として表される。pMVAプラスミドは、再構成後に形成される最も基本的な構造単位を有する複製可能なプラスミドであり、カナマイシン耐性遺伝子、pUC複製起点配列およびプラスミド骨格配列を含む(
図1として表される)。pMVAプラスミドは外因性遺伝子を発現できず、大腸菌中で遺伝子を複製およびスクリーニングすることができる。さらに重要なことに、プラスミドは腫瘍細胞で酸化されて酸化DNAを形成するのに有益である。したがって、このプラスミドはより強い抗腫瘍活性を有し、大規模生産に適している。
【0023】
pMVA-1プラスミドのヌクレオチド配列は、配列番号2として表される。pMVA-1プラスミドは、特定のヌクレオチド部位におけるpMVAプラスミドの塩基突然変異または欠失により得られる。pMVA-1プラスミドのベクターは、pMVAプラスミドの効力を有し、pMVA-1プラスミドの収量は、pMVAプラスミドの収量よりも多い。したがって、pMVA-1プラスミドは大規模生産に有利であり、生産コストを効果的に削減することができる。
【0024】
さらに、腫瘍ワクチン中のプラスミドには他のDNAがロードされている。
【0025】
ここで、腫瘍ワクチン中の他のDNAは50~3000bpの長さを有する。
【0026】
好ましくは、腫瘍ワクチン中の他のDNAは100~2500bpの長さを有する。
【0027】
ここで、腫瘍ワクチン中の他のDNAは、ミトコンドリアDNAまたはミトコンドリアDNA断片である。
【0028】
さらに、腫瘍ワクチン中のミトコンドリアDNA(mtDNA)は、配列番号3、配列番号4もしくは配列番号5として表されるヌクレオチド配列を有するDNA断片、またはそのヌクレオチド配列が配列番号3、配列番号4もしくは配列番号5として表される配列と少なくとも90%相同のDNA断片の少なくとも1つから選択される。mtDNAまたはmtDNA断片はCpGモチーフが豊富であり、TLR9経路またはSTING経路のアゴニストとして使用して、腫瘍に対する自然免疫応答を活性化することができる。
【0029】
さらに、腫瘍ワクチン中のプラスミドは、mtDNAと共に運ばれるpMVAプラスミドまたはmtDNAと共に運ばれるpMVA-1プラスミド、例えば、配列番号6として表されるpMVA-2プラスミド、配列番号7として表されるpMVA-3プラスミド、配列番号8として表されるpMVAプラスミド-4、配列番号9として表されるpMVA-5プラスミド、配列番号10として表されるpMVA-6プラスミドおよび配列番号11として表されるpMVA-7プラスミド、またはそのヌクレオチド配列が配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10もしくは配列番号11として表される配列と少なくとも90%相同であるプラスミドのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0030】
腫瘍ワクチン中のDNAはさらに、インビトロでの酸化により形成される酸化DNAからも選択することができる。好ましくは、酸化DNAは酸化プラスミドである。
【0031】
ここで、腫瘍ワクチンにおけるインビトロでの酸化としては、限定するものではないが、照射またはさまざまな酸化剤の使用が挙げられる。照射には紫外線、X線、ガンマ線などの放射線が含まれ、酸化剤には酸素、オゾン、F2、Cl2、Br2、硝酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、HNO3、KMnO4、NaClO、CrO3、H2O2、PbO2、NaBiO3、XeF2、Ce4+、PdCl2などが含まれる。
【0032】
ここで、腫瘍ワクチン中のカチオン性生体材料は、カチオン性脂質材料またはカチオン性ポリマーの少なくとも1つから選択される。
【0033】
さらに、腫瘍ワクチン中のカチオン性脂質材料は、カチオン性脂質またはカチオン性脂質とヘルパー脂質とにより形成される複合体である。
【0034】
ここで、腫瘍ワクチン中のカチオン性脂質は、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB)、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(TTAB)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)またはジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)の少なくとも1つから選択される。
【0035】
ここで、腫瘍ワクチン中のヘルパー脂質は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、コレステロール(Chol)またはジオレオイルホスホエタノールアミン(DOPE)の少なくとも1つから選択される。
【0036】
さらに、腫瘍ワクチンでは、形成される複合体中のカチオン性脂質とヘルパー脂質との質量比は1:0.1~1:10である。
【0037】
ここで、腫瘍ワクチン中のカチオン性ポリマーは、ポリエチレンイミン、多糖類、ポリアミド-アミンPAMAM、またはイミダゾール基を含むポリマーの少なくとも1つから選択される。
【0038】
ここで、腫瘍ワクチン中のポリエチレンイミンの分子量は2~30kDである。
【0039】
ここで、腫瘍ワクチン中のポリエチレンイミンはPEI2kD、PEI5kDまたはPEI25kDである。
【0040】
ここで、腫瘍ワクチン中の多糖類は、キトサン、カルボキシメチルキトサン、トリメチルキトサンまたはキトサン第四級アンモニウム塩の少なくとも1つから選択される。
【0041】
ここで、腫瘍ワクチン中の多糖類の分子量は30~50kDである。
【0042】
キトサンは、天然に豊富なアミノ多糖類およびキチンの誘導体であり、優れた生体適合性、生分解性および非毒性特性を備えている。
【0043】
カチオン性ポリマーは中性条件下でプロトン化されていない-NH2を含むため、このようなポリマーはリソソーム酸性条件下でスポンジプロトン効果を有し、リソソーム膜を破裂させ、腫瘍細胞の死滅を誘導し、がん細胞からの免疫原性分子の放出を促進して、それにより、腫瘍に対する身体の特異的免疫応答を強化する。
【0044】
要約すると、本発明によるカチオン性生体材料は、インビボでのDNAの送達に適しており、圧縮された安定なDNAを細胞にトランスフェクトおよび輸送するのに特に適している。負に帯電したDNAは静電相互作用によりカチオン性生体材料と結合し得るため、DNAリン酸基はカチオン性生体材料と融合し、それによって運ばれる負電荷のほとんどまたはすべてが中和された後、構造が再配列され、DNAが圧縮される。他方、カチオン性生体材料は、インビボでのDNAの輸送を改善することができ、皮下または腹腔内注射に特に適しており、血清の安定性、DNAの取り込み効率および放出を改善する。より重要なことには、本発明によるカチオン性生体材料は、腫瘍細胞の壊死、したがって、そのような細胞から細胞内ミトコンドリア、腫瘍関連抗原およびROSの放出を直接誘導することができる。さらに、腫瘍壊死は腫瘍細胞の免疫原性を強化し、それにより腫瘍に対する身体の特異的免疫応答を活性化することができる。さらに、カチオン性生体材料は、一次自然免疫応答または再強化された自然免疫応答による適応免疫応答の誘導および維持も支援し、カチオン性生体材料の保存安定性も向上する。
【0045】
腫瘍ワクチンでは、形成される複合体中のDNAとカチオン性生体材料との質量比は1:1~1:100である。
【0046】
好ましくは、形成される複合体中のDNAとカチオン性生体材料との質量比は1:1~1:50である。
【0047】
DNA/カチオン性生体材料複合体は、1~2,000nmの粒径を有する。
【0048】
好ましくは、DNA/カチオン性生体材料複合体は、50~1000nmの粒径を有する。
【0049】
腫瘍ワクチンでは、DNA/カチオン性生体材料複合体は1~150mVの電位を有する。
【0050】
好ましくは、腫瘍ワクチンでは、DNA/カチオン性生体材料複合体は5~100mVの電位を有する。
【0051】
ここで、DNA/カチオン性生体材料複合体は、腫瘍に対する身体の免疫応答を誘導する相乗効果を有し、その性能は以下のとおりである:カチオン性生体材料は、一方ではプラスミドDNAの細胞トランスフェクション率を促進し、他方では、免疫アジュバント効果を有する。カチオン性生体材料は、がん細胞を直接死滅させることができ、腫瘍細胞膜上のNa+/K+-ATPaseのOBS部位に結合することにより腫瘍細胞中のNa+濃度を増加させ、腫瘍細胞壊死ならびにミトコンドリアおよび他の関連抗原および活性酸素種(ROS)の細胞からの放出をもたらし得る。腫瘍細胞中のmtDNAは、ROSの酸化後にSTINGまたはTLR9シグナル伝達経路を活性化する非メチル化CpGモチーフが豊富であり、それにより自然免疫応答を誘導し、炎症細胞を活性化および凝集させ、好中球から炎症因子、例えばIL-6、IL-12、IFN-γおよびTNF-αなどのより多くの放出を刺激する。第3の態様では、カチオン性生体材料は腫瘍細胞の壊死を誘導し、したがってそのような細胞から腫瘍抗原が放出される。放出された腫瘍抗原はDC細胞でプロセシングされ、その表面に提示され、したがってCD8+T細胞およびCD4+T細胞の特異的殺腫瘍活性をさらに活性化および凝集させる。
【0052】
DNA/カチオン性生体材料複合体は、エンドサイトーシスによって腫瘍細胞に進入後、腫瘍細胞においてROSの有意な増加を引き起こし得る。DNA/カチオン性生体材料複合体がROSによって酸化された後、mtDNAまたはプラスミドを含むその中のDNAは酸化DNAを形成し得る。酸化DNAがリソソームによって貪食され、リソソームの酸性勾配の著しい変化、つまり、リソソーム膜の透過性の変化を引き起こすことにより、リソソーム破裂および大量のリソソームタンパク質分解酵素(カテプシンなど)の放出をもたらす。加水分解酵素が細胞質に放出され、腫瘍細胞のミトコンドリアのミトコンドリア膜電位の低下を引き起こし、ミトコンドリアの損傷をもたらし、さらにカスパーゼを活性化して、それにより腫瘍細胞のアポトーシスおよび腫瘍細胞の壊死を含む腫瘍細胞死を誘導する
【0053】
したがって、DNA/カチオン性生体材料複合体は、腫瘍細胞死の協調誘導において重要な役割を果たすが、カチオン性生体材料またはDNAを単独で使用してもそのような有意な効果は有さない。
【0054】
DNA/カチオン性生体材料複合体はDC細胞の成熟も相乗的に促進し、酸化DNAはDC細胞の細胞質のcGASに結合してcGMP(環状GMP-AMP、環状グアノシン一リン酸-アデノシン一リン酸)を形成する。cGMPは、STING(インターフェロン遺伝子の刺激因子)タンパク質を効果的に活性化し、DC細胞をIFN-βおよび他の炎症因子(IL-1βおよびIL-6など)を放出するように誘導し、それにより腫瘍に対するSTINGシグナル伝達経路(cGAS-2’3’cGAMP-STING-TBK-IRF3)の自然免疫応答を誘発する。DC細胞の成熟を相乗的に促進しながら、DNA/カチオン性生体材料複合体は腫瘍微小環境を変化させ、CD8+T細胞の特異的腫瘍死滅活性を誘導する。
【0055】
さらに、DNAは、酸化プラスミドなど、インビトロでの酸化により形成される酸化DNAから選択されてもよい。酸化DNAは、腫瘍ワクチンとしてカチオン性生体材料と複合体を形成し、この腫瘍ワクチンはDNA/カチオン性生体材料複合体よりも強力な相乗的抗腫瘍効果を有する。
【0056】
インビトロでの酸化は、放射線照射または酸化剤での処理によって実施され得る。放射線照射は、紫外線、ガンマ線およびX線を含む、DNAを酸化し得る光線で実施することができる。DNAを処理するための酸化剤には、インビトロでDNAを酸化するために使用される酸素、オゾン、F2、Cl2、Br2、硝酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、HNO3、KMnO4、NaClO、CrO3、H2O2、PbO2、NaBiO3、XeF2、Ce4+およびPdCl2などの多くのタイプがある。
【0057】
本発明はまた、腫瘍ワクチンおよび薬学的に許容される賦形剤または補助成分を含む薬学的組成物を提供する。
【0058】
ここで、医薬組成物中の賦形剤または補助成分は、希釈剤、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、吸収促進剤、界面活性剤、保護剤、吸着担体または滑沢剤のうちの少なくとも1つである。
【0059】
本発明はまた、腫瘍ワクチンを調製する方法であって、(1)DNAおよびカチオン性生体材料を調製するステップ、ならびに(2)ステップ(1)のDNAとカチオン性生体材料とを混合し、前記混合物を放置してDNA/カチオン性生体材料複合体を得るステップ、を含む方法を提供する。
【0060】
腫瘍ワクチン中のDNAの調製は、プラスミドベクターを構築する方法、または他のDNAをロードしたプラスミドを構築する方法を含む。
【0061】
ここで、腫瘍ワクチン中のプラスミドベクターを構築する方法は、pMVAまたはpMVA-1のプラスミドベクターを構築する方法を含む。
【0062】
pMVAのプラスミドベクターを構築する方法は、以下のステップを含む:
全遺伝子合成によって、pUC複製起点、カナマイシン遺伝子および2つのプラスミド骨格配列を含む1978bp配列を合成するステップ、ならびに次いで連結および環化して、ヌクレオチド配列が配列番号1として表されるpMVAのプラスミドベクターを得るステップ。
【0063】
pMVA-1のプラスミドベクターを構築する方法は、以下のステップを含む:
pMVAのプラスミドベクターを構築する方法に基づいて、pMVAのベクターの複数のヌクレオチド部位で部位特異的突然変異誘発または欠失を実施して、pMVA-1のプラスミドベクターのヌクレオチド配列が配列番号2として表される、突然変異によって最適化されたpMVA-1プラスミドを得るステップ。
【0064】
ここで、腫瘍ワクチン中に他のDNAプラスミドを構築する方法は、mtDNA断片をpMVAプラスミドベクターにロードしてpMVA-2、pMVA-3およびpMVA-4を調製するステップを含む。
【0065】
ここで、pMVA-2プラスミドを構築する方法は以下のステップを含む:
pMVAの環化の前に、配列番号3として表されるヌクレオチド配列と併せて線形配列について全遺伝子合成を実行するステップ、ならびに次いで連結および環化して、ヌクレオチド配列が配列番号6として表され、部位33~152のヌクレオチド配列が配列番号3として表されるpMVA-2プラスミドを得るステップ。
【0066】
pMVA-3プラスミドを構築する方法は以下のステップを含む:
pMVAの環化の前に、配列番号4として表されるヌクレオチド配列と併せて線形配列について全遺伝子合成を実行するステップ、ならびに次いで連結および環化して、ヌクレオチド配列が配列番号7として表され、部位33~632のヌクレオチド配列が配列番号4として表されるpMVA-3プラスミドを得るステップ。
【0067】
pMVA-4プラスミドを構築する方法は以下のステップを含む:
pMVAの環化の前に、配列番号5として表されるヌクレオチド配列と併せて線形配列について全遺伝子合成を実行するステップ、ならびに次いで連結および環化して、ヌクレオチド配列が配列番号8として表され、部位33~2032のヌクレオチド配列が配列番号5として表されるpMVA-4プラスミドを得るステップ。
【0068】
ここで、腫瘍ワクチン中で他のDNAと共に運ばれるプラスミドを構築する方法は、mtDNAをpMVA-1プラスミドベクターにロードしてプラスミドpMVA-5、pMVA-6およびpMVA-7を調製するステップを含む。
【0069】
ここで、pMVA-5プラスミドを構築する方法は以下のステップを含む:
pMVA-1の環化の前に、配列番号3として表されるmtDNA断片のヌクレオチド配列1と併せて線形配列について全遺伝子合成を実行するステップ、ならびに次いで連結および環化して、ヌクレオチド配列が配列番号9として表され、部位33~152のヌクレオチド配列が挿入された配列番号3として表されるヌクレオチド配列であるpMVA-5プラスミドを得るステップ。
【0070】
pMVA-6プラスミドを構築する方法は以下のステップを含む:
pMVA-1の環化の前に、配列番号4として表されるmtDNA断片のヌクレオチド配列2と併せて線形配列について全遺伝子合成を実行するステップ、ならびに次いで連結および環化して、ヌクレオチド配列が配列番号10として表され、部位33~632のヌクレオチド配列が挿入された配列番号4として表されるヌクレオチド配列であるpMVA-6プラスミドを得るステップ。
【0071】
pMVA-7プラスミドを構築する方法は以下のステップを含む:
pMVA-1の環化の前に、配列番号5として表されるmtDNA断片のヌクレオチド配列3と併せて線形配列について全遺伝子合成を実行するステップ、ならびに次いで連結および環化して、ヌクレオチド配列が配列番号11として表され、部位33~2032のヌクレオチド配列が挿入された配列番号5として表されるヌクレオチド配列であるpMVA-7プラスミドを得るステップ。
【0072】
腫瘍ワクチン中のカチオン性生体材料の調製は、カチオン性脂質を調製する方法、またはカチオン性脂質とヘルパー脂質とを複合体として調製する方法を含み、
(1)発熱物質非含有カチオン性脂質または発熱物質非含有補助脂質を混合し、無水エタノールを加え、加熱および撹拌して溶解するステップ、
(2)ステップ(1)の混合溶液を溶液の体積の1/3まで回転蒸発させ、一定の体積まで水を加えるステップ、
(34)ステップ(2)で得られた溶液を高圧ホモジナイザーおよび押出機に通し、カチオン性脂質またはカチオン性脂質とヘルパー脂質とにより形成される複合体を得るステップ。
【0073】
ステップ(1)では、カチオン性脂質とヘルパー脂質との質量比は1:0.1~1:10であり、カチオン性脂質は好ましくはDOTAPであり、補助脂質は好ましくはコレステロールであり、および加熱温度は50℃である。
【0074】
ステップ(2)の回転蒸発温度は30~60℃、好ましくは40℃であり、真空圧力は0.08~0.1MPa、好ましくは0.09MPaである。
【0075】
ステップ(4)では、高圧ホモジナイザーの圧力は700~800バールで、回数は3~10回、押出機の温度は50℃、押出フィルムは100nmで回数は1~2回であり、得られたカチオン性脂質またはカチオン性脂質と補助脂質とによって形成される複合体の粒径は80~150nmであり、PDIは0.3未満である。
【0076】
腫瘍ワクチン中のカチオン性生体材料の調製は、PEIの調製方法:PEI(25kD)の水への溶解を含む。
【0077】
腫瘍ワクチンまたは医薬組成物中のカチオン性生体材料の調製は、キトサンの調製方法:水または希酸への中分子量キトサン(30~50kD)の溶解を含む。
【0078】
本発明はまた、DNA/カチオン性生体材料複合体を調製する方法を提供し、さらに、腫瘍を治療するためのワクチンとしてDNA/カチオン性生体材料複合体を調製する方法であって、
調製したカチオン性生体材料とDNAとを滅菌条件下で混合し、前記混合物を0.5~1時間放置してDNA/カチオン性生体材料複合体を形成するステップを含み、
調製されたDNA/カチオン性生体材料複合体が500nm未満の平均粒径および100mV未満の電位を有することにより、腫瘍細胞への前記複合体のトランスフェクションを促進する方法を提供する。さらに、DNA/カチオン性生体材料複合体は、腫瘍細胞を酸化ストレス反応に相乗的に誘導し、リソソーム経路によって抗腫瘍効果を直接発揮し、身体の免疫応答の抗腫瘍活性を相乗的に強化することができる。
【0079】
本発明はまた、医薬組成物を調製する方法であって、(1)DNAおよびカチオン性生体材料を調製するステップ、(2)ステップ(1)のDNAとカチオン性生体材料とを混合し、前記DNAとカチオン性生体材料との混合の前および/またはその間および/または後に、薬学的に許容される賦形剤または補助成分を添加して医薬組成物を調製するステップ、を含む方法を提供する。
【0080】
ここで、賦形剤または補助成分は、希釈剤、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、吸収促進剤、界面活性剤、保護剤、吸着担体または滑沢剤の少なくとも1つである。
【0081】
本発明はまた、腫瘍ワクチンまたは医薬組成物と、腫瘍を治療するための少なくとも1つの他の薬物とを含む医療キットを提供する。
【0082】
ここで、医療キット内の腫瘍を治療するための他の薬物は、化学療法薬または免疫応答調節剤の少なくとも1つから選択される。
【0083】
ここで、医療キット内の免疫応答調節剤は、サイトカイン、クラスII HLAタンパク質結合アクセサリー分子、CD40アゴニスト、チェックポイント受容体アンタゴニスト、B7共刺激分子、FLt3アゴニストまたはCD40Lアゴニストの少なくとも1つである。
【0084】
本発明はまた、腫瘍ワクチンまたは医薬組成物と腫瘍抗原とを含む抗腫瘍薬を提供する。
【0085】
ここで、腫瘍抗原は、腫瘍関連抗原、アポトーシス腫瘍細胞または壊死腫瘍細胞の少なくとも1つから選択される。
【0086】
一方、本発明はまた、腫瘍の治療および/または予防のための薬物の調製における腫瘍ワクチンまたは医薬組成物の使用を提供する。
【0087】
ここで、腫瘍は、子宮頸がん、卵巣がん、乳がん、肺がん、鼻咽頭がん、胃がん、膵臓がん、食道がん、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、皮膚がん、肉腫またはリンパ腫から選択される。
【0088】
一方、本発明はまた、腫瘍を治療または予防するための薬物の調製における、腫瘍ワクチンまたは医薬組成物と、腫瘍を治療するための少なくとも1つの他の薬物との薬物併用を提供する。
【0089】
ここで、使用される腫瘍を治療するための他の薬物は、化学療法薬または免疫応答調節剤の少なくとも1つから選択される。
【0090】
ここで、免疫応答調節剤は、サイトカイン、クラスII HLAタンパク質結合アクセサリー分子、CD40アゴニスト、チェックポイント受容体アンタゴニスト、B7共刺激分子、FLt3アゴニストまたはCD40Lアゴニストの少なくとも1つである
【0091】
さらに、本発明は、腫瘍を治療する方法も提供する。この方法は、腫瘍ワクチン、医薬組成物、キットまたは抗腫瘍薬の少なくとも1つの治療有効量を、腫瘍を有する哺乳動物に投与するステップを含む。
【0092】
ここで、この方法における哺乳動物は、マウス、イヌ、サルまたは人間である。
【0093】
ここで、この方法における腫瘍は、子宮頸がん、卵巣がん、乳がん、肺がん、鼻咽頭がん、胃がん、膵臓がん、食道がん、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、皮膚がん、肉腫またはリンパ腫から選択される。
【0094】
ここで、この方法では腫瘍ワクチン、医薬組成物、治療キットまたは抗腫瘍薬の投与には注射が使用される。
【0095】
ここで、この方法における注射は、皮下単一点注射、皮下多点注射、静脈内注射、腫瘍周囲注射、腫瘍内注射、胸腔内注射、腹腔内注射、くも膜下腔内注射、リンパ管または外リンパ注射または筋肉内注射の少なくとも1つである。注射は、具体的状況に応じて単独で使用することも、または必要に応じて併用することもできる。
【0096】
ここで、腫瘍を有する哺乳動物を治療するための腫瘍ワクチンまたは医薬組成物の使用は、担腫瘍動物において自然免疫応答および適応免疫応答を含む抗腫瘍免疫応答を活性化し、それにより腫瘍成長を阻害する目的を達成することを含む。さらに、腫瘍ワクチンまたは医薬組成物で治療される担腫瘍動物の記憶免疫細胞は、腫瘍細胞の成長、転移、再発を効果的に抑制し、そのような細胞が腫瘍細胞に再び攻撃されると、動物の身体の免疫寛容を破り、それにより、長期の抗腫瘍免疫療法効果を達成することができる。腫瘍ワクチンまたは医薬組成物で腫瘍を治療する方法では、投与されるDNAの有効用量は1~50μg/kgであり、DNAとカチオン性生体材料との質量比は1:1~1:100、好ましくは1:1~1:50である。
【0097】
ここで、本方法において腫瘍を治療するための少なくとも1つの他の薬物は、腫瘍を治療する過程で投与される。
【0098】
ここで、本方法で腫瘍を治療するための他の薬剤は腫瘍抗原である。
【0099】
ここで、本方法における腫瘍抗原は、腫瘍関連抗原、アポトーシス腫瘍細胞、または壊死腫瘍細胞のうちの少なくとも1つから選択される。
【0100】
腫瘍細胞としては、子宮頸がん細胞、卵巣がん細胞、乳がん細胞、結腸がん細胞、肉腫細胞、鼻咽頭がん腫細胞、肺がん細胞、胃がん細胞、膵臓がん細胞、食道がん細胞、肝がん細胞、前立腺細胞、腎臓がん細胞、膀胱がん細胞または皮膚がん細胞が挙げられる。
【0101】
ここで、放射線療法もまた腫瘍の治療に使用することができる。
【0102】
本発明の有益な効果は以下のとおりである:
【0103】
1.本発明は、外因性遺伝子を発現できないが、大腸菌中で遺伝子を複製およびスクリーニングすることができるプラスミド、例えば、mtDNA断片とともに運ばれるpMVAプラスミドおよびプラスミド(pMVA-2、pMVA-3およびpMVA-4)のベクター、ならびにmtDNA断片とともに運ばれるpMVA-1プラスミドおよびプラスミド(pMVA-5、pMVA-6およびpMVA-7)のベクターを再構成した。さらに重要なことには、これらのプラスミドは、腫瘍細胞中で酸化され、より強力な抗腫瘍活性を有し、大規模生産により都合のよい酸化DNAの形成に有利である。
【0104】
2.DNA(pMVAなど)/カチオン性生体材料複合体を主要な有効成分として用いることで、腫瘍ワクチンはリソソーム破裂によって抗腫瘍相乗効果を直接発揮することができる。
本発明は、DNA(pMVAなど)/カチオン性生体材料複合体が腫瘍細胞によって細胞質にエンドサイトーシスされた後、腫瘍細胞が大量のROSを生成し、ROSにより複合体が酸化されることによって形成された酸化DNAがリソソーム膜(lysosoma membrane)透過性(リソソーム膜(Lysosoma membrane)透過性、LMP)を促進し、カテプシンがリソソーム腔からサイトゾルに放出され、リソソーム不安定性を引き起こす一連のカスケード反応を誘発することを創造的に発見した、加えて、LMPはさらに腫瘍細胞のミトコンドリア外膜透過性(MOMP)への罹患を引き起し、シトクロムcが腫瘍細胞の細胞質に放出され、それによって古典的なカスパーゼアポトーシス経路を活性化して、最終的に腫瘍細胞を死に至らしめた。
【0105】
3.DNA(pMVAなど)/カチオン性生体材料複合体を主な有効成分として用いることで、腫瘍ワクチンは抗腫瘍免疫応答を活性化する相乗効果も有する。
本発明はまた、インビトロ細胞活性アッセイおよびインビボ薬力学的実験により、カチオン性生体材料とDNA(pMVAなど)とを混合することにより形成されるDNA(pMVAなど)/カチオン性生体材料複合体が、カチオン性生体材料およびプラスミドDNAの個別使用と比較して抗腫瘍免疫応答に対して相乗効果を有することも創造的に見出した:
a.インビトロ実験では、DNA(pMVAなど)/カチオン性生体材料複合体の腫瘍細胞へのトランスフェクションにより腫瘍細胞中のROSが有意に増加し、ROSがDNA/カチオン性生体材料複合体を酸化することにより形成される酸化DNAがSTING経路を活性化し、DC細胞の成熟を刺激し、IFN-βおよびIL-1βが分泌され、それにより腫瘍に対する自然免疫応答が開始されることが示された。
b.インビボ実験では、DNA(pMVAなど)/カチオン性生体材料複合体の注入後、腫瘍細胞が壊死し、DNAが酸化され、腫瘍細胞においてリソソーム溶解が発生し、腫瘍部位で自然免疫細胞(好中球)増加し、免疫抑制因子および血管新生因子の発現が減少したことが示された。同時に、腫瘍組織の周囲のDC細胞が腫瘍抗原および酸化プラスミドDNAを貪食し、多数のCD4+リンパ球およびCD8+リンパ球が浸潤していることが検出され、複合体が身体の適応免疫応答を活性化したことが示された。
c.DNA(pMVAなど)/カチオン性生体材料複合体を主要な有効成分として使用して、腫瘍を有するモデルマウスを治療するための腫瘍ワクチンを調製すると、前記複合体は、腫瘍消失マウスが腫瘍細胞による二度目の攻撃を受けた際に長期の抗腫瘍免疫を有していた。
したがって、本発明によるDNA/カチオン性生体材料複合体は、腫瘍細胞壊死を直接誘導する相乗効果を有し、腫瘍細胞からの自己抗原および酸化DNAの放出、STING経路の開始、および炎症細胞によって引き起こされる自然免疫応答の活性化を相乗的に引き起こす。さらに、この複合体はDC細胞の成熟を促進し、身体が腫瘍に対する適応免疫応答を生じるように誘導する。
【0106】
4.DNA(pMVAなど)/カチオン性生体材料複合体を主要な有効成分とする腫瘍ワクチンは、成分が単純で品質管理が容易であるという利点を有する:
技術的解決策に関与する腫瘍ワクチンは、カチオン性生体物質とDNAとで構成される。腫瘍ワクチンは成分が単純であり、容易な品質管理に供され、大規模生産に適しているため、生産コストが大幅に削減される。
【0107】
5.DNA(pMVAなど)/カチオン性生体材料複合体を主要な有効成分とする腫瘍ワクチンは、腫瘍細胞抗原のアジュバントとして使用でき、したがって腫瘍細胞抗原の免疫応答をさらに強化し、さまざまな種類の腫瘍治療に適用することができる。
【0108】
6.実験により、DNA(pMVAなど)/カチオン性生体材料複合体を主要な有効成分として含む腫瘍ワクチンは、さまざまな腫瘍の治療および併用治療に適用でき、幅広い応用の可能性があることが示されている。
技術的解決策によるワクチンは、子宮頸がん、卵巣がん、乳がん、肺がん、鼻咽頭がん、結腸がん、リンパ腫および肉腫を含むさまざまな腫瘍の治療に使用でき、放射線療法および/または化学療法と組み合わせることも、または腫瘍の治療のための免疫抑制剤と組み合わせることもできる。ワクチンには幅広い適応症、柔軟な治療法、幅広い応用の可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【
図1】プラスミドベクター構築マップである: A:pMVAプラスミド構築マップ、カナマイシン耐性遺伝子(No.205~999bp)、pUC複製起点配列(No.1309~1972bp)およびプラスミド骨格配列(No.1~204bp、No.1000~1308bpおよびNo.1973~1978bp)を含み、合計1978bp(配列番号1に示す)。 B:pMVA-1プラスミド構築マップ、カナマイシン耐性遺伝子(No.205~999bp)、pUC複製起点配列(No.1308~1971bp)およびプラスミド骨格配列(No.1~204 bp、No.1000~1307bpおよびNo.1972~1977bp)を含み、合計1977bp(配列番号2に示す)。
【
図2】アガロースゲル電気泳動により検証された、NcoE I酵素およびEco72 I酵素によるpMVAプラスミドの酵素消化の結果であり、閉ループプラスミド(すなわち、pMVA-1プラスミド)の分子量は、NcoE I酵素およびEco72 I酵素による酵素消化後のプラスミド断片の分子量、約2000bpと一致している。
【
図3】質量比の異なるDNA/DOTAP複合体のアガロースゲル電気泳動による検出図である。
【
図4】インビトロでA549細胞活性を阻害する質量比の異なるpMVA-1/DOTAP複合体の検出図であり、図中、●は、DOTAP:pMVA-1の質量比が1:1のpMVA-1/DOTAP複合体を表し、■は、DOTAP:pMVA-1の質量比が6:1のpMVA-1/DOTAP複合体を表し、▲は、DOTAP:pMVA-1の質量比が10:1のpMVA-1/DOTAP複合体を表し、▼は、DOTAP:pMVA-1の質量比が15:1のpMVA-1/DOTAP複合体を表し、◆は、DOTAP:pMVA-1の質量比が20:1のpMVA-1/DOTAP複合体を表す。
【
図5】インビトロでA549細胞活性を阻害する質量比の異なるpMVA1/PEI25D複合体の検出図であり、図中、●はPEI25KD:pMVA-1の質量比が1:1のpMVA-1/PEI25KD複合体を表し、▼は、DOTAP:pMVA-1の質量比が10:1のpMVA-1/PEI25KD複合体を表し、◆は、DOTAP:pMVA-1の質量比が20:1のpMVA-1/PEI25KD複合体を表す。
【
図6】インビトロでA549細胞活性を阻害する質量比の異なるpMVA-1/キトサン複合体の検出図であり、図中、●はキトサン:pMVA-1の質量比が1:1のpMVA-1/キトサン複合体を表し、▼は、キトサン:pMVA-1の質量比が10:1のpMVA-1/キトサン複合体を表し、◆は、キトサン:pMVA-1の質量比が20:1のpMVA-1/キトサン複合体を表す。
【
図7】PI-AnnexinVアッセイにより検出されたpMVA-1/DOTAP複合体により共誘導された腫瘍アポトーシスの蛍光顕微鏡写真である。A:pMVA-1/DOTAP複合体によって共誘導されたA549アポトーシスの蛍光顕微鏡写真、B:pMVA-1/DOTAP複合体によって共誘導されたCT26アポトーシスの蛍光顕微鏡写真。それぞれPMVA-1/DOTAP複合体で24時間処理した後、A549細胞とCT26細胞との両方で有意なPI陽性およびアネキシンV陽性の結果が示されたが、対照群では有意なPI陽性およびアネキシンV陽性細胞は見い出されなかった。
【
図8】フローサイトメトリーによって決定された、さまざまなサンプルで処理した腫瘍細胞のアポトーシス細胞の数である。A:フローサイトメトリーによって決定された各群のアポトーシスA549細胞の統計チャート。B:フローサイトメトリーによって決定された各群のアポトーシスCT26細胞の統計チャート。すべての結果は、平均相対発現±SDとして表され、
*p<0.05であり、ブランク対照群(対照)、pMVAプラスミド対照群(PMVA)、DOTAPカチオン性リポソーム群(DOTAP)およびpMVA-1/DOTAP複合体処理群(PMVA-DOTAP)を含む。
【
図9】フローサイトメトリーによって決定されたA549細胞中のROSレベルの統計チャートである。図中、Contブランク対照群:培地のみをA549細胞に添加;PMVA対照群:pMVA-1プラスミドをA549細胞に添加;DOTAP対照群:DOTAPをA549細胞に添加;PMVA-DOTAP処理群:pMVA-1/DOTAP複合体をA549細胞に添加;NAC陰性対照群:pMVA-1/DOTAP複合体が機能する前に5mM NACにより前処理;H
2O2陽性対照群:200μMのH
2O
2をA549細胞に添加。すべての結果は、平均相対発現±SDとして表され、
*P<0.05である。
【
図10】酸化pMVA-1プラスミドとDOTAPカチオン性脂質とによって形成されたox-pMVA-1/DOTAP複合体のA549アポトーシスに対する効果を表す図である。すべての結果は、平均相対発現±SDとして表され、
*P<0.05である。
【
図11】pMVA-1/DOTAP複合体により共誘導される腫瘍アポトーシスが、腫瘍細胞の酸化ストレスに関連していることを示す図である。フローサイトメトリーを実行して、pMVA-1/DOTP複合体を加える前にNACで前処理したA549細胞の死亡率を決定する。すべての結果は、平均相対発現±SDとして表され、
*P<0.05である。
【
図12】pMVA-1/DOTAP複合体がA549細胞と0.5時間および3時間反応した後の、pMVA-1/DOTAP複合体のA549細胞への進入およびリソソーム酸性度勾配喪失の共誘導の蛍光顕微鏡写真である。
【
図13】それぞれ1時間、3時間、6時間および9時間、異なるサンプルに曝露したA549細胞のリソソームにおける、Lysotracker redの蛍光強度の変化のフローサイトメトリーによる定量的測定である。各群のLysotracker redの蛍光強度が低下したA549細胞のパーセンテージを、統計的に分析した。図中、ブランク対照群:培地のみをA549細胞に添加;PMVA対照群:pMVA-1プラスミドをA549細胞に添加;DOTAP対照群:DOTAPをA549細胞に添加;PMVA-DOTAP処理群:pMVA-1/DOTAP複合体をA549細胞に添加。すべての結果は、平均相対発現±SDとして表され、
*P<0.05である。
【
図14】pMVA-1/DOTAP複合体によって共誘導された、A549細胞のリソソーム膜(lysosoma membrane)透過性増加の蛍光写真である。A:FITC-デキストラン細胞内局在法により決定された、A549細胞のリソソーム膜(lysosoma membrane)透過性の増加;B.カテプシンB細胞内局在化法により決定された、A549細胞のリソソームの加水分解酵素の細胞質への放出。図中、ブランク対照群:培地のみをA549細胞に添加;PMVA対照群:pMVA-1プラスミドをA549細胞に添加;DOTAP対照群:DOTAPをA549細胞に添加;PMVA-DOTAP処理群:pMVA-1/DOTAP複合体をA549細胞に添加。
【
図15】TMRM蛍光マーカー法による腫瘍細胞のミトコンドリア膜電位の変化の測定を示す図である。A:フローサイトメトリーにより決定されたミトコンドリア膜電位脱分極を伴うA549細胞のパーセンテージ;B:フローサイトメトリーにより決定されたミトコンドリア膜電位脱分極を伴うCT26細胞のパーセンテージ。図中、ブランク対照群:培地のみをA549細胞に添加;PMVA対照群:pMVA-1プラスミドをA549細胞に添加;DOTAP対照群:DOTAPをA549細胞に添加;PMVA-DOTAP処理群:pMVA-1/DOTAP複合体をA549細胞に添加。すべての結果は、平均相対発現±SDとして表され、
*P<0.05である。
【
図16】、pMVA-1/DOTAP複合体によって誘導されるA549細胞におけるカスパーゼプロテアーゼの活性化を示す図である。すべての結果は、平均相対発現±SDとして表され、
*P<0.05である。
【
図17】DC細胞の抗原取り込みに対する、pMVA-1/DOTAP複合体および腫瘍細胞の刺激の阻害効果を示す図である。FITC-デキストランが、DC細胞により取り込まれるモデル抗原であった。DC細胞の食作用能力を、CD11c陽性DC細胞のFITC平均蛍光強度を決定することにより判断して、それによりDCが成熟するように誘導されたかどうかを分析した。
*P<0.05である。図中、対照群(対照):培地のみをBMDC細胞に添加;PMVA群:pMVA-1プラスミドのみをBMDC細胞に添加;DOTAP群:DOTAPカチオン性脂質のみをBMDC細胞に添加;PMVA-DOTAP群:pMVA-1/DOTAP複合体のみをBMDC細胞に添加;腫瘍群:CT26細胞をBMDC細胞に添加;腫瘍+PMVA群:pMVA-1プラスミドベクターで処理したCT26細胞をBMDC細胞に添加;腫瘍+DOTAP群:DOTAPカチオン性脂質で処理したCT26細胞をBMDC細胞に添加;腫瘍+PMVA-DOTAP群:pMVA-1/DOTAP複合体で処理したCT26細胞をBMDC細胞に添加。
【
図18】フローサイトメトリーにより決定された、CT26細胞による刺激後のサイトカイン分泌BMDC細胞のパーセンテージの統計分析を示す図である。A:IFN-βを分泌するBMDCのパーセンテージ;B:IL-1βを分泌するBMDCのパーセンテージ。すべての結果は、平均パーセンテージ±SDとして表され、
*P<0.05である。図中、対照群:培地のみをBMDC細胞に添加、腫瘍群:CT26細胞をBMDC細胞に添加、腫瘍+PMVA群:pMVA-1プラスミドベクターで処理したCT26細胞をBMDC細胞に添加、腫瘍+DOTAP群:DOTAPカチオン性脂質で処理したCT26細胞をBMDC細胞に添加、腫瘍+PMVA-DOTAP群:pMVA-1/DOTAP複合体で処理したCT26細胞をBMDC細胞に添加。
【
図19】pMVA-1/DOTAP複合体が、子宮頸がんの腹膜転移を伴うヌードマウスモデルにおいて腫瘍成長を有意に阻害したことを示す図である。A:pMVA-1/DOTAP複合体群のヌードマウスの体重は、他の治療群の体重よりも有意に低かった;B:pMVA-1/DOTAP複合体群のヌードマウスの腹水量は、他の群の腹水量よりも有意に少なかった;C:pMVA-1/DOTAP複合体群のヌードマウスの結節数は、他の群の結節数よりも有意に少なかった;D:pMVA-1/DOTAP複合体群のヌードマウスの腫瘍重量は、他の群の腫瘍重量よりも有意に低かった。
**p<0.01。
【
図20】フローサイトメトリーにより決定された、子宮頸がんの腹膜転移を伴うヌードマウスモデルの腹水におけるアポトーシス細胞のパーセンテージの統計分析チャートである。
【
図21】DNA/DOTAP複合体が、卵巣がんの腹膜転移を伴うモデルマウスにおいて腫瘍成長を阻害したことを示す図である。A:DNA/DOTAP複合体群のマウスの腹水量は、他の群の腹水量よりも有意に少なかった;B:DNA/DOTAP複合体群のマウスの腫瘍重量は他の群の腫瘍重量よりも有意に低かった;C:DNA/DOTAP複合体群のマウスの腹水中のがん細胞の数は、他の群のそれよりも有意に少なかった。
**p<0.01。
【
図22】プラスミドDNA/DOTAP複合体が、CT26の腹膜転移を伴うモデルマウスにおいて腫瘍成長を阻害したことを示す図である。A:治療群においてプラスミドDNA/DOTAP複合体により自然に死亡したマウスの数は、他の対照群よりも有意に少なかった(P<0.01またはP<0.05);B:pMVA-3/DOTAP治療群のマウスの腫瘍重量は、他の群の腫瘍重量よりも有意に低かった;C:pMVA-3/DOTAP治療群のマウスの腹水量は、他の群の腹水量よりも有意に少なかった;D:pMVA-3/DOTAP治療群のマウスの腹水中のがん細胞の数は、他の群のそれよりも有意に少なかった;E:pMVA-3/DOTAP治療群のマウスの腫瘍小結節の数は、他の群のそれよりも有意に低かった。
**P<0.01、
*P<0.05。
【
図23】pMVA-1/DOTAP複合体が、マウスにおいて肉腫の成長を有意に阻害したことを示す図である。pMVA-1/DOTAP治療群のマウスの無腫瘍率は90%であり、NS群の1%、DOTAP群の20%、およびpMVA-1群の20%よりも有意に高かった。
**P<0.01。
【
図24】pMVA-1/DOTAP複合体が、ヒト鼻咽頭がん腫細胞を伴う皮下モデルマウスにおいて腫瘍成長を有意に阻害したことを示す図である。
**P<0.01。
【
図25】pVMA-1/DOTAP複合体が、CT26の腹膜転移を伴うモデルマウスにおいて腫瘍成長を阻害したことを示す図である。A:pMVA-1/DOTAP群と正常群の間にマウスの体重に有意差はなかった。B:pMVA-1/DOTAP群のマウスの腹水量は、陰性対照群、pMVA-1群およびDOTAP群よりも有意に少なかった。C:pMVA-1/DOTAP群のマウスの生存期間は、陰性対照群、pMVA-1群およびDOTAP群の生存期間よりも有意に長かった。D:pMVA-1/DOTAP群のマウスの腫瘍重量は、陰性対照群、pMVA-1群およびDOTAP群よりも有意に低かった。
*p<0.05。
【
図26】pMVA-1/DOTAP複合体が、CT26の腹膜転移を伴うモデルマウスを治療した後、マウスに全身性抗腫瘍記憶免疫応答を誘導できることを示す図である。同じタイプおよび異なるタイプの腫瘍細胞を含む腫瘍細胞をさらに刺激すると、記憶T細胞および記憶T細胞によって分泌される大量の免疫サイトカインを介して腫瘍細胞の成長を阻害し、腫瘍の免疫寛容を破ることができる。A:マウスに初めてCT26細胞を腹腔内接種し、pMVA-1/DOTAP複合体で治療したマウスがCT26細胞により再び攻撃された後(DOTAP+皮下にCT26を2回接種した群)、CT26細胞を腹腔内接種しなかったマウスまたはpMVA-1/DOTAP複合体で治療しなかったが、CT26細胞によって攻撃された(皮下接種されたCT26対照群)と比較して腫瘍量は有意に減少した。B:マウスに初めてCT26細胞を腹腔内接種し、pMVA-1/DOTAP複合体で治療したマウスが4T1細胞により攻撃された後(DOTAP+皮下に4T1を2回接種した群)、CT26細胞を腹腔内接種しなかったマウスまたはpMVA-1/DOTAP複合体で治療しなかったが、4T1細胞によって攻撃された(皮下接種された4T1対照群)と比較して腫瘍量は有意に減少した。
【
図27】シスプラチンと組み合わせたpMVA-1/DOTAP複合体が、U14を皮下接種したマウスモデルにおいて腫瘍細胞の成長を有意に阻害したことを示す図である。
*P<0.05。図中、NS群:10%スクロースのみを注射、DOTAP群:DOTAPのみを注射、pMVA1群:pMVA-1プラスミドのみを注射、シスプラチン:シスプラチンのみを注射、LP群:pMVA-1/DOTAP複合体を注射、LP+シスプラチン群:シスプラチンと組み合わせてpMVA-1/DOTAP複合体を注射。
【
図28】放射線療法と組み合わせたpMVA-1/DOTAP複合体が、皮下U14を伴うマウスモデルにおいて腫瘍細胞の成長を有意に阻害したことを示す図である。
*P<0.05。
【
図29】pVAX1/DOTAP複合体をアジュバントとして使用し、アポトーシスまたは壊死CT26細胞と混合して腫瘍細胞ワクチンを調製すると、このワクチンが担腫瘍マウスの生存期間を有意に延長し、良好な抗腫瘍効果を有したことを示す図である。図中、NS:生理食塩水群;NECRO:壊死CT26細胞と混合したpVAX1/DOTAP複合体により調製された壊死腫瘍細胞ワクチン群;APOP:アポトーシスCT26細胞と混合したpVAX1/DOTAP複合体により調製されたアポトーシス細胞ワクチン群。
【発明を実施するための形態】
【0110】
技術用語の解釈
1.ミトコンドリアDNA(mtDNA):単一細胞中に約数千のコピーを有する閉ループ二本鎖DNA分子。mtDNAには、13の呼吸鎖ポリペプチド、22のtRNAおよび2のrRNAをコードする37の遺伝子と、遺伝子複製および転写調節配列を含む非コード領域「Dループ」とが含まれる。
【0111】
2.リソソーム膜(lysosoma membrane)透過性(LMP):
リソソーム膜(lysosoma membrane)透過性がどのように発生するかはまだ議論の余地があるが、LMPインデューサーにはROS、脂質、ナノ粒子が含まれる。
【0112】
(1)ROS:
高レベルの酸化ストレス下では、リソソームはカタラーゼまたはグルタチオンペルオキシダーゼの非存在により過酸化水素を分解できず、大量の過酸化水素がリソソーム膜に分散され、リソソームに豊富な二価鉄イオンを誘導して過酸化水素をヒドロキシルラジカルに触媒し、したがってLMPを誘発する。
【0113】
(2)脂質:
一部の脂質および脂質代謝産物はリソソームであるため、LMPを誘発することができる。
【0114】
(3)ナノ粒子:ナノ粒子は、リソソームにおいて凝集し、リソソーム膜を破壊し、LMP経路を介してアポトーシスを誘導する。
【0115】
3.細胞死
正常な組織では、「正常な」細胞死が頻繁に起こり、これは、組織の機能および形態を維持するために必要である。細胞死の方法には通常、壊死、アポトーシスおよびプログラム細胞死(PCD)が含まれまる。
【0116】
アポトーシスは、PCDの最も一般的で周知の形態であり、一般に、細胞内システインプロテアーゼである活性化カスパーゼによって行われる。したがって、アポトーシスは開始機序の観点からカスパーゼ依存性とカスパーゼ非依存性に分類することができる。アポトーシス細胞の典型的な形態変化には、クロマチン凝縮、核断片化、DNAラダーリング、小疱形成および細胞質断片化(アポトーシス小体)が含まれる。細胞膜はアポトーシスの際に破壊されない。分解された細胞成分はカプセル化されてアポトーシス小体を形成し、最終的に異食作用を介して隣接細胞の食細胞またはリソソームによって除去される。したがって、アポトーシスの際に死細胞の周囲に炎症反応はない。
【0117】
壊死は、細胞が化学的要因(例えば、強酸、強アルカリおよび毒性物質)、物理的要因(例えば、熱および放射線)および生物学的要因(例えば、病原体)の影響を受け、細胞死を引き起こす現象である。壊死細胞の形態変化は、主に2つの病理学的過程:酵素消化およびタンパク質変性によって引き起こされる。壊死の初期段階では、ミトコンドリアと細胞質の小胞体が膨張して崩壊し、構造的な脂肪滴が遊離して空胞化し、タンパク質粒子が増加し、核が収縮または破壊する。細胞内タンパク質の変性、凝固または断片化、および好塩基性核タンパク質の分解により、細胞質は強く好酸球性になる。その後、壊死細胞が溶解し、細胞構造が完全に消失する。最後に、細胞膜と細胞小器官が破裂し、DNAが分解し、細胞の内容物が流出し、周囲の組織の炎症反応を引き起こす。壊死細胞の残留断片は、マクロファージによって貪食されるか、またはDC細胞の活性化および成熟を誘導する。
【0118】
4.STINGシグナル伝達経路
ERIS/MYPS/MITAとしても知られるSTING(IFN遺伝子の刺激因子)は、TMEM173遺伝子によってコードされる多機能アダプタータンパク質である。STINGシグナル伝達経路(cGAS-2’3’cGAMP-STING-TBK1-IRF3)は免疫系の重要な経路であり、異常な供給源からの細胞質二本鎖DNAを認識し、自然免疫を発達させる。STINGシグナル伝達経路は、身体の自発的な抗腫瘍免疫応答および放射線療法により誘導される抗腫瘍免疫応答において重要な役割を果たす。腫瘍由来の二本鎖DNAは腫瘍微小環境においてDCによって取り込まれ、cGASを活性化してATPおよびGTPをさらに触媒し、STINGと結合してSTINGタンパク質の立体構造を変化させる2’3’cGAMPを合成し、活性化されたSTINGは、TBK1、IKK、T3K1およびIKKを動員してSTINGと相互作用し、その後リン酸化される。リン酸化TBK1はIRF3を動員し、リン酸化IKKはNF-κβを動員し、その後、IRF3およびNF-κβはリン酸化後に重要な転写因子として核に入り、下流遺伝子の発現を調節して、I型インターフェロンおよびThlサイトカイン(例えば、INF-γ)の分泌を促進する。一方、STINGシグナル伝達経路の活性化は、APC(例えば、CD8α+/CD103+DC)の成熟および活性化を促進し、APCの腫瘍関連抗原提示を促進して、CD8+T細胞特異的抗腫瘍免疫応答を開始する。
【0119】
5.自然免疫:非特異的免疫とも呼ばれ、系統発生および進化の過程で徐々に形成される自然免疫防御機能を指し、病原体の侵入に対する身体の防御の第一線を形成する。自然免疫は、広範囲にわたる免疫化で安定して遺伝され得るが、特異的ではない。自然免疫系は、抗原と最初に接触すると免疫効果を発現するが、免疫記憶は有さない。
【0120】
例えば、自然免疫系は、微生物およびその産物の刺激により活性化される。マクロファージ、DC細胞、好中球などの免疫細胞のToll様受容体(TLR)は、微生物固有の病原体関連分子パターン(PAMP)を認識し、興奮性自然免疫応答を活性化し、炎症性サイトカイン(IL-12など)を分泌して、炎症反応を媒介する。
【0121】
自然免疫細胞によって発現されるパターン認識受容体(PRR)は、異なるPAMAを認識することによって活性化され、異なるサイトカインを発現するため、ナイーブT細胞を異なるT細胞に分化するように誘導して、適応免疫応答のタイプを決定する。したがって、自然免疫応答は、適応免疫応答のタイプと強度を調節するか、またはそれに影響を与えることができ、適応免疫応答の維持とその効果の発揮もまた自然免疫によって支援および関与されなければならない。
【0122】
6.CpGモチーフ:免疫刺激配列(ISS)とも呼ばれ、非メチル化シトシン-リン酸-グアニン(CpG)をコアとして含む配列のタイプを指す。TLR9の天然リガンドとして、CpGモチーフはさまざまな免疫細胞を活性化できる強力な非特異的免疫刺激DNA配列である。CpGモチーフを含むDNAは、自然免疫細胞によってエンドサイトーシスされ、細胞内TLR9によって認識され、MyD88、TRAF6ならびに下流のNF-kBおよびMAPK経路を活性化し、さまざまな転写因子をもたらし、TNF-α、IL-6、IL-12およびIFN-γなどのTh1型サイトカインの発現を誘導し、したがって、ナイーブT細胞のTh1細胞への分化を促進する。Th1細胞から分泌されるIFN-γはさらにNK細胞およびマクロファージの活性化を誘導し、Bリンパ球の分裂、増殖、および抗体産生を促進し、したがって宿主の細胞性免疫と液性免疫を総合的に強化する。
【0123】
真核細胞のmtDNAは細菌の環状ゲノムに由来し、PRRでPAMPとして作用し得る非メチル化CpGモチーフを大量に含む。酸化ストレスなどのミトコンドリア機能障害の場合、大量の活性酸素種(ROS)が生成される。mtDNAは、TLR9シグナル伝達経路を活性化する刺激としてミトコンドリアから細胞質に放出され、好中球P38 MAPK経路を炎症性サイトカイン(IL-12など)およびケモカインを産生するように誘導し、したがって適応免疫応答を誘発し、ナイーブT細胞がTh1細胞に分化するように誘導して、大量のIFN-γを放出する。
【0124】
7.適応免疫応答:特異的免疫応答とも呼ばれ、抗原に刺激されて一連の生物学的効果が誘発された後、インビボで特異的TおよびB細胞が、活性化、増殖およびエフェクター細胞に分化する過程を指す。適応免疫応答は、特異性、記憶および寛容によって特徴付けられる。
【0125】
適応免疫応答の最初の段階は抗原認識である。抗原提示細胞による取り込み、プロセシングおよび処理後、抗原は抗原提示細胞上のMHC分子とMHC複合体を形成し、ナイーブT細胞またはナイーブB細胞表面受容体(TCRまたはBCR)によって特異的に認識される。抗原提示細胞には、DC細胞、マクロファージおよび好中球が含まれる。
【0126】
第二段階は、ナイーブT細胞またはナイーブB細胞の増殖および分化段階である。T/B細胞は抗原を特異的に認識し、活性化の最初のシグナルを生成する。T/B細胞は、抗原提示細胞の表面上のさまざまな接着分子と相互作用して、T細胞またはB細胞の活性化のための第2のシグナル(すなわち、共刺激シグナル)を提供する。第3のシグナルとして、活性化された抗原提示細胞およびT細胞によって生成された複数のリンフォカインは、オートクリンおよびパラクリン作用を通じてリンパ球の増殖および分化に関与し、最終的にエフェクターT細胞または形質細胞を形成する。エフェクターT細胞の最も重要な機能は、CD8+細胞傷害性T細胞(CTL)を介して感染細胞を死滅させ、Th1細胞を介してマクロファージを活性化して、一緒に細胞性免疫を構成することである。さらに、B細胞はTh2細胞によって活性化されてさまざまな種類の抗体を産生し、それにより液性免疫応答を活性化する。
【0127】
第3段階は、免疫エフェクター細胞とエフェクター分子(サイトカインと抗体)とが連携して非自己抗原を除去し、身体を正常な生理学的状態に保つエフェクター段階である。
【0128】
8.記憶免疫応答:免疫記憶は適応免疫の重要な特徴であり、すなわち、身体は初回の感作をもたらす抗原に再度曝露されると、応答速度と強度が増した二次反応を示す。免疫記憶の鍵は、記憶リンパ球の形成および維持である。保護免疫記憶応答の誘導には、記憶Bリンパ球によって媒介される液性免疫応答および記憶Tリンパ球によって媒介される細胞性免疫応答が含まれる。
【0129】
抗原刺激により、一次応答で産生される抗原特異的CD8+T細胞の数が決定される。抗原特異的CD8+T細胞の約5%が記憶CD8+T細胞に形質転換される。記憶T細胞(Tm)は、抗原に再度刺激された後、エフェクター記憶T細胞(TEM)に急速に成熟し、初期段階で大量のIFN-γ、IL-4およびIL-5を産生する。
【0130】
抗原によって初めて刺激されたナイーブT細胞と比較して、記憶T細胞は以下の利点を有する:(1)記憶T細胞は、同じ抗原に再びさらされると、より強い増殖能力、サイトカイン分泌能力、およびCTL活性を提示することができる。(2)同じ抗原による記憶T細胞の再活性化には、一次応答よりも低い閾値が必要である。(3)記憶CD8+T細胞の維持には、抗原の継続的な刺激は必要なく、自己再生能力を有すると一般に考えられている。(4)再活性化された記憶T細胞は、IFN-γ、IL-4およびIL-5などの多数のサイトカインを放出し、T細胞による腫瘍の死滅を促進する。(5)記憶T細胞は、二次リンパ器官にホーミングすることなく、迅速かつ強力な免疫応答を伴うエフェクター細胞を産生することができる。
【0131】
9.DNA/カチオン性脂質材料:
本発明のカチオン性脂質は、その表面に正電荷を有し、負に帯電したDNAとの静電相互作用によりDNA/カチオン性脂質材料を容易に形成する。一般的に、形成されたDNA/カチオン性脂質材料の表面の正電荷は、静電相互作用によって負に帯電した細胞表面に吸着され、細胞膜との融合またはエンドサイトーシスによりDNAが細胞内に移行して、封入体を形成するか、またはリソソームに進入する。カチオン性脂質の作用下で、細胞膜上のアニオン性脂質は、膜の不安定化により元のバランスを失い、複合体内に拡散し、カチオン性脂質のカチオンと中性イオン対を形成するため、元々リポソームと結合していたDNAが解離して細胞質に進入することができる。
【0132】
10.プラスミド
当該技術分野のプラスミドは、一般に、細胞内の非細胞染色体または核領域に付着することにより自律的に複製できる元の環状DNA分子を指す。
【0133】
本発明は、外因性遺伝子を発現できない複製可能な環状DNA分子のタイプを再構築し、これは新しいプラスミドタイプに属することに留意すべきである。本発明により構築されたプラスミドは、カチオン性生体材料と複合体を形成した後、腫瘍細胞に進入することができる。その結果、腫瘍細胞のROSが明らかに増加し、プラスミド/カチオン性生体材料複合体のプラスミドがROSによって酸化されて酸化DNAが形成され、腫瘍細胞のリソソームが破裂して、これにより一方では腫瘍細胞の壊死を直接媒介することができ、他方では抗腫瘍免疫応答を活性化することができる。さらに、本発明により構築されたプラスミド/カチオン性生体材料複合体中のプラスミドは、インビトロで様々な報告された手段によって事前にDNAを酸化して、体内に進入させて抗腫瘍効果を強化することもできる。
【0134】
11.DNAの酸化と酸化的損傷
DNAはしばしば、光線、強い酸化剤、強酸および強塩基、ならびに内因性ROSなどを含む物理化学的要因などの、さまざまな要因によってインビボおよびインビトロで刺激され、フリーラジカルの攻撃下でDNAの酸化が生じる。酸化は、DNAの二本鎖切断(DSB)、DNA一本鎖切断、塩基または塩基対の除去または置換など、DNAに酸化的損傷をしばしば引き起こす。
【0135】
発明の詳細な説明
本発明の技術的スキームを、好ましい実施形態と併せて以下でさらに例示する。本発明の医薬製剤を調製するためのいくつかの一般的な分子生物学的操作および一般的な手順は、本発明の明細書を当技術分野における関連機器および試薬の使用に関する既存の教科書、マニュアル、および説明書組み合わせて読むことに基づいて当業者によって完了できることに留意すべきである。
【実施例】
【0136】
本発明を、実施例および図面と組み合わせて以下にさらに詳細に説明するが、本発明の実施形態はこれらに限定されない。
【0137】
実施例1;pMVAおよびpMVA-1プラスミドの構築および発現
(1)pMVAプラスミドの構築および発現
pUC複製起点配列およびカナマイシン遺伝子ならびに2つのプラスミド骨格配列を含む1978bpヌクレオチド配列を、全遺伝子合成により合成し、これを配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するpMVAプラスミドに連結および環化した。pMVAプラスミドの構造を
図1Aに示した。
【0138】
アガロースゲル電気泳動を酵素消化検証のために実施し、実験結果を
図2に示した。
【0139】
構築されたpMVAプラスミドを、大腸菌DH5aにおいて発現させた。
【0140】
(2)pMVA-1プラスミドの構築および発現
構築されたpMVAプラスミドを塩基部位特異的突然変異誘発または欠失に供し、合計1977bpを有するpMVA-1プラスミドを得た。突然変異部位は、配列番号1に示されるヌクレオチド配列の塩基2、3、4、41および1950を含み、欠失部位は、配列番号1に示されるヌクレオチド配列の塩基1075であった。pMVA-1プラスミドベクターのヌクレオチド配列を、配列番号2に示した。pMVA-1プラスミドの構造を
図1Bに示した。
【0141】
構築されたpMVA-1プラスミドを大腸菌DH5aにおいて発現させ、収量はpMVAプラスミドの収量よりも有意に高かった。
【0142】
実施例2;ミトコンドリアDNA(mtDNA)標的配列のスクリーニング
配列番号3、4および5に示されるmtDNAを含む50~3000bpのmtDNAを選択した。mtDNAまたはmtDNA断片はCpGモチーフに富んでおり、したがってTLR9経路またはSTING経路のアゴニストとして使用することができる。腫瘍細胞が酸化ストレス下にある場合、選択されたmtDNA標的配列は、体の抗腫瘍自然免疫応答を効果的に活性化することができる。
【0143】
実施例3;プラスミドの構築および発現
(1)pMVA-2プラスミドの構築および増幅
実施例2でスクリーニングした配列番号3に示されるmtDNAヌクレオチド配列1と実施例1のpMVAの環化前の線形配列とを遺伝子合成し、次いで合計で2098bpを有するpMVA-2プラスミドに連結および環化した。pMVA-2プラスミドのヌクレオチド配列を配列番号6に示し、部位33~152のヌクレオチド配列を配列番号3に示した。
【0144】
構築されたpMVA-2プラスミドを、大腸菌DH5aにおいて増幅させた。
【0145】
(2)pMVA-3プラスミドの構築および増幅
実施例2でスクリーニングした配列番号4に示されるmtDNAヌクレオチド配列2と実施例1のpMVAの環化前の線形配列とを遺伝子合成し、次いで合計で2578bpを有するpMVA-3プラスミドに連結および環化した。pMVA-3プラスミドのヌクレオチド配列を配列番号7に示し、部位33~632のヌクレオチド配列を配列番号4に示した。
【0146】
構築されたpMVA-3プラスミドを、大腸菌DH5aにおいて増幅させた。
【0147】
(3)pMVA-4プラスミドの構築および増幅
実施例2でスクリーニングした配列番号5に示されるmtDNAヌクレオチド配列3と実施例1のpMVAの環化前の線形配列とを遺伝子合成し、次いで合計で3978bpを有するpMVA-4プラスミドに連結および環化した。pMVA-4プラスミドのヌクレオチド配列を配列番号8に示し、部位33~2032のヌクレオチド配列を配列番号5に示した。
【0148】
構築されたpMVA-4プラスミドを、大腸菌DH5aにおいて増幅させた。
【0149】
(4)pMVA-5プラスミドの構築および増幅
実施例2でスクリーニングした配列番号3に示されるmtDNA断片のヌクレオチド配列1と実施例1のpMVA-1の環化前の線形配列とを遺伝子合成し、次いでpMVA-5プラスミドに連結および環化した。pMVA-5プラスミドのヌクレオチド配列を配列番号9に示し、部位33~152のヌクレオチド配列は、配列番号3に示される挿入ヌクレオチド配列であった。
【0150】
構築されたpMVA-5プラスミドを、大腸菌DH5aにおいて増幅させた。
【0151】
(5)pMVA-6プラスミドの構築および増幅
実施例2でスクリーニングした配列番号4に示されるmtDNA断片のヌクレオチド配列2とpMVA-1の環化前の線形配列とを遺伝子合成し、次いでpMVA-6プラスミドに連結および環化した。pMVA-6プラスミドのヌクレオチド配列を配列番号10に示し、部位33~632のヌクレオチド配列は、配列番号4に示される挿入ヌクレオチド配列であった。
【0152】
構築されたpMVA-6プラスミドを、大腸菌DH5aにおいて増幅させた。
【0153】
(6)pMVA-7プラスミドの構築および増幅
実施例2でスクリーニングした配列番号5に示されるmtDNA断片のヌクレオチド配列3と実施例1のpMVA-1の環化前の線形配列とを遺伝子合成し、次いでpMVA-7プラスミドに連結および環化した。pMVA-7プラスミドのヌクレオチド配列を配列番号11に示し、部位33~2032のヌクレオチド配列は、配列番号5に示される挿入ヌクレオチド配列であった。
【0154】
構築されたpMVA-7プラスミドを、大腸菌DH5aにおいて増幅させた。
【0155】
実施例4;カチオン性生体材料の調製
1.カチオン性脂質材料(DOTAP/CHOL複合体またはDOTAP)の調製方法
(1)表1に示すように、秤量した非加熱DOTAPと非加熱コレステロール(CHOL)とを混合し、次いで1~1.5Lの無水エタノール溶液を加えて、撹拌しながら50℃に加熱して脂質を完全に溶解した混合溶液を得た。
【0156】
(2)ステップ(1)の混合溶液を40℃、0.08MPaにおいて、溶液の容量の1/3まで回転蒸発させ、次いで水で一定容量に希釈した。
【0157】
(3)ステップ(2)で得られた溶液を、高圧ホモジナイザーで700~800barの圧力で3~10回均質化し、50℃の押出機(100nmフィルム)から1~2回押し出して、粒径100~150nmおよびPDI<0.3のカチオン性脂質材料(DOTAP/CHOL複合体またはDOTAP)を得た。
【0158】
表1 異なる質量比で配合されたDOTAPおよびCHOL
【表1】
【0159】
2.PEIポリマーの調製方法
PEI25kDを、蒸留水で6mg/mL、4mg/mLおよび0.4mg/mLの溶液に調製した。
【0160】
3.キトサンの調製方法
中分子量キトサンを希酸に溶解して、6mg/mL、4mg/mLおよび0.4mg/mLの溶液を調製した。
【0161】
実施例5;DNA/カチオン性生体材料複合体の調製
スクリーニングしたmtDNAまたはその断片および構築したプラスミドベクターまたはプラスミドと、実施例4で調製したカチオン性生体材料とを、表2~4に示されたさまざまな濃度で、それぞれ等量で無菌混合して混合溶液を得、次いでこの溶液を0.5時間放置してDNA/カチオン性生体材料複合体を形成させた。
【0162】
表2 異なる質量比のDNA/カチオン性脂質材料
【表2】
【0163】
表3 異なる質量比のDNA/PEI25kD複合体
【表3】
【0164】
表4 異なる質量比のDNA/キトサン複合体
【表4】
【0165】
実施例6;DNA/カチオン性生体材料複合体の特徴付け
1.DNA/カチオン性生体材料複合体の粒子サイズおよび電位の決定:
(1)DNA/カチオン性生体材料複合体サンプルの調製:
滅菌蒸留水を、実施例5で調製した異なる質量比のDNA/カチオン性生体材料複合体に加え、高速振動下で複合体を溶解し、室温で放置して混合溶液を得た。
【0166】
(2)DNA/カチオン性生体材料複合体の粒子サイズおよび電位の決定
ステップ(1)で調製したDNA/カチオン性生体材料複合体サンプルをMalverl Zetasizer Nano ZSのサンプル皿に添加し、次いでこのサンプル皿を試験セルに入れ、平衡時間1分に設定して各サンプルについて並行して3群のデータを試験して、複合体サンプルの平均粒子サイズおよびゼータ電位を得た。試験結果を表5~7に示した。
【0167】
表5 異なる質量比のDNA/カチオン性脂質材料の粒子サイズおよび電位
【表5】
【0168】
表6 異なる質量比のDNA/PEI25kD複合体の粒子サイズおよび電位
【表6】
【0169】
表7 異なる質量比のDNA/キトサン複合体の粒子サイズおよび電位
【表7】
【0170】
実施例7;アガロースゲル電気泳動による、異なる質量比のDNA/カチオン性脂質材料複合体の決定
(1)1%アガロースゲルの調製:アガロースを秤量して三角フラスコに入れ、1×TAEを加え、アガロースを電子レンジで加熱し、アガロースが完全に溶けるまで煮沸してから、DNA色素Golden Viewを加え、三角フラスコをよく振って、1.0%アガロースゲル溶液を調製した。
【0171】
(2)ゲルスラブの調製:ゲルスラブを調製後、ステップ(1)で調製したアガロースゲルを65℃に冷却し、ガラス板の内側の溝に注いで均一なゲル層を形成し、これを、ゲルが完全に凝固するまで室温において静置し、ゲルおよび内側の溝を電気泳動タンクに入れた。次に、ゲルスラブの1~2mm上まで1×TAE電気泳動バッファーを加えた。
【0172】
(3)サンプルのローディング:DOTAP:DNAの質量比が1:1、6:1、10:1、15:1および20:1のDNA/DOTAP複合サンプルをそれぞれローディングバッファーと混合し、ステップ(2)で調製したゲル孔に加えた。
【0173】
(4)電気泳動:サンプルをロードした後、電気泳動のためにゲルスラブに直ちに通電させた。ブロモフェノールブルーがゲルスラブの下端から約1cmの位置に移動したら、電気泳動を停止させた。
【0174】
(5)ゲルイメージングシステムを、写真撮影および保存に使用した。
図3に示すように、アガロースゲル電気泳動による異なる質量比のDNA/カチオン性脂質材料複合体の判定により、DNA/DOTAP複合体のDOTAP:DNA質量比がそれぞれ1:1、6:1、10:1、15:1および20:1の場合、アガロースゲル電気泳動の作用下でDNAが効果的に保持され得ることが示された。
【0175】
実施例8;pMVA-1/DOTAP複合体で処理したA549細胞の活性のCCK8法による決定
(1)細胞プレート培養
対数増殖期のA549細胞を、10%FBS-1640で5×104細胞/mlに希釈して細胞懸濁液に調製し、希釈液を得た後、この希釈液を96ウェル細胞培養プレートに100μl/ウェルの割合で接種し、5%CO2で37.0℃において24時間インキュベートした。細胞付着後、細胞を無血清1640培地で24時間飢餓状態にした。
【0176】
(2)被験サンプルの調製
異なる質量比(DOTAP:pMVA-1質量比がそれぞれ1:1、6:1、10:1、15:1および20:1)で混合することにより調製したpMVA-1/DOTAP複合体を1640培地で200μg/mlに希釈し、合計9希釈勾配で3倍に希釈して、異なるDOTAP濃度の試験サンプルを調製した。
【0177】
(3)サンプルローディング
96ウェルプレートの1640培地を吸い上げた後、ステップ(2)の試験サンプルおよび対照サンプルを、各勾配について平行して3つの勾配、合計で9勾配で添加した。最後の行は、細胞ブランク対照およびブランク対照として使用した。サンプルを5%CO2で37.0℃において48時間インキュベートした。
【0178】
(4)CCK-8による細胞活性の決定
CCK-8および1640培地を1:1の比率で混合し、ステップ(3)の96ウェルプレートに20μl/ウェルの比率で添加し、5%CO2で37.0℃において2時間インキュベートして、マイクロプレートリーダーによりOD450nmの吸光度を読み取った。
【0179】
(5)データ分析
ステップ(4)で決定した吸光度と試験されるサンプルの濃度勾配を、水平「S」曲線である4パラメータ曲線に適合させ、適合曲線に従って阻害濃度(IC50)を計算した。
【0180】
図4に示すように、異なる質量比のpMVA-1/DOTAP複合体はインビトロでA549腫瘍細胞の活性を阻害し、DOTAP:pMVA-1の質量比がそれぞれ1:1、6:1、10:1、15:1および20:1のpMVA-1/DOTAP複合体が、A549細胞の成長活性を効果的に阻害できたことを示した。
【0181】
実施例9;A549細胞によるpMVA-1/PEI25kD複合体の生物活性の決定
(1)細胞プレート培養
方法は、実施例8と同じであった。
【0182】
(2)被験サンプルの調製
異なる質量比(PEI25kD:pMVA-1の質量比およびキトサン:pMVA-1の質量比がそれぞれ1:1、10:1および20:1)で混合することにより調製した複合体を1640培地で200μg/mlに希釈し、合計9希釈勾配で3倍に希釈して、異なるPEI25kD濃度の試験サンプルを調製した。
【0183】
(3)サンプルローディング
方法は、実施例8と同じであった。
【0184】
(4)CCK-8による細胞活性の決定
方法は、実施例8と同じであった。
【0185】
(5)データ分析
方法は、実施例8と同じであった。
【0186】
図5に示すように、異なる質量比のpMVA-1/PEI25kD複合体はインビトロでA549腫瘍細胞の活性を阻害し、DOTAP:pMVA-1の質量比がそれぞれ1:1、10:1および20:1のpMVA-1/PEI25kD複合体が、A549細胞の成長活性を効果的に阻害できたことを示した。
【0187】
DNA/PEI複合体を腫瘍ワクチンに調製し、担腫瘍マウスの治療に適用したところ、担腫瘍マウスの抗腫瘍免疫応答を効果的に誘導し、腫瘍細胞の成長を阻害した。
【0188】
実施例10;A549細胞によるpMVA-1/キトサン複合体の生物活性の決定
(1)細胞プレート培養
方法は、実施例8と同じであった。
【0189】
(2)被験サンプルの調製
実施例9と同じ方法で、異なるキトサン濃度の試験サンプルをそれぞれ調製した。
【0190】
(3)サンプルローディング
方法は、実施例8と同じであった。
【0191】
(4)CCK-8による細胞活性の決定
方法は、実施例8と同じであった。
【0192】
(5)データ分析
方法は、実施例8と同じであった。
【0193】
図6に示すように、異なる質量比のpMVA-1/キトサン複合体はインビトロでA549腫瘍細胞の活性を阻害し、DOTAP:pMVA-1の質量比がそれぞれ1:1、10:1、および20:1のpMVA-1/キトサン複合体が、A549細胞の成長活性を効果的に阻害できたことを示した。
【0194】
DNA/キトサン複合体を腫瘍ワクチンに調製し、担腫瘍マウスの治療に適用したところ、担腫瘍マウスの抗腫瘍免疫応答を効果的に誘導し、腫瘍細胞の成長を阻害した。
【0195】
実施例11;腫瘍細胞死を相乗的に誘導するpMVA-1/DOTAP複合体の実験
1.PI-アネキシンVによるA549細胞死試験
(1)A549細胞のプレートへの接種:
対数増殖期のA549細胞を単一細胞懸濁液に調製し、約1×105細胞/ウェルずつ6ウェルプレートに接種した。次に、2mlの培地を各ウェルに添加し、5%CO2インキュベーターで37℃において24~36時間培養した。
【0196】
(2)スパイクサンプルの調製:
a.5mg/mlのpMVA-1プラスミドベクター溶液を100μlの1640無血清培地に加えて、pMVA-1プラスミドベクター対照群を調製した;
b.1mg/mlのDOTAPカチオン性脂質を100μlの1640無血清培地に溶解して、DOTAPカチオン性脂質対照群を調製した;
c実施例5で調製した質量比1:6のpMVA-1/DOTAP複合体を100μlの1640無血清培地に溶解して、pMVA-1/DOTAP複合体実験群を調製した。
【0197】
(3)スパイクサンプルによるA549細胞の処理:
ステップ(1)の6ウェルプレートから、各ウェルの培地が900μlに達するまで、培地の一部をピペットで取った。実験群のpMVA-1/DOTAP複合体(pMVA-DOTAP)(ステップ(2)で調製)、ならびに対照群のpMVA-1プラスミドベクター(PMVA)およびDOTAPカチオン性脂質(DOTAP)を、ステップ(1)で培養したA549細胞にそれぞれ加え、総容量を1mlにした。同時に、培地のみを含むブランク対照群を作製し、5%CO2インキュベーターで37℃において24時間インキュベートした。
【0198】
(4)PI-アネキシンV染色マーカー
ステップ(3)の異なるサンプルで処理したA549細胞をPBSで2回洗浄し、アポトーシスキット(アネキシンV-PIアッセイキット、BD Biosciences製)の結合バッファー500μLを各ウェルに添加し、10μlのPIおよび10μlのアネキシンVを染色のために加え、次いで暗所で15分間室温においてインキュベートした。
【0199】
(5)蛍光顕微鏡下での観察:
ステップ(4)のPIとアネキシンVとで染色した細胞をPBSで1回洗浄し、蛍光顕微鏡で観察した。その後、画像を保存した。
【0200】
(6)PI-アネキシンVによるA549細胞死の試験結果:
図7Aに示すように、A549細胞をpMVA-1/DOTAP複合体で24時間処理した後、多数のPI陽性およびアネキシンV陽性細胞が存在したが、pMVA-1プラスミドベクター群およびDOTAPカチオン性脂質群(両方とも対照群であった)は、明らかなPI取り込みおよびアネキシンV標識陽性細胞を示さなかった。実験結果は、pMVA-1/DOTAP複合体がA549細胞死を相乗的に誘導できることを示している。
【0201】
2.PI-アネキシンVによるCT26細胞死試験
(1)実験方法:1と同じ。
【0202】
(2)PI-アネキシンVによるCT26細胞死の試験結果:
図7Bに示すように、CT26細胞をpMVA-1/DOTAP複合体で24時間処理した後、多数のPI陽性およびアネキシンV陽性細胞が存在したが、pMVA-1プラスミドベクター群およびDOTAPカチオン性脂質群(両方とも対照群であった)は、明らかなPI取り込みおよび明らかなアネキシンV標識陽性細胞を示さなかった。実験結果は、pMVA-1/DOTAP複合体がCT26細胞死を相乗的に誘導できることを示している。
【0203】
3 フローサイトメトリーによるA549細胞死試験
(1)A549細胞のプレートへの接種:
方法は1(1)と同じであった。
【0204】
(2)スパイクサンプルの調製:
方法は1(2)と同じであり、DOTAPカチオン性脂質の濃度はそれぞれ4μg/ml、8μg/ml、16μg/mlおよび32μg/mlであり、pMVA-1/DOTAP複合体の濃度はDOTAPカチオン性脂質の濃度によって表した。
【0205】
(3)スパイクサンプルによるA549細胞の処理:
方法は1(3)と同じであった。
【0206】
(4)フローサイトメトリーによるA549細胞死の定量試験
a.ステップ(3)の異なるサンプルで処理したA549細胞を冷PBSで2回洗浄し、1×結合バッファーで再懸濁して、1×106細胞/mlの密度の細胞懸濁液を調製した;
b.ステップaで調製したA549細胞懸濁液100μlをフロー試験管にピペットにより入れた;
c.5μlのFITCアネキシンVと5μlのPIとをステップbのフロー試験管に加え、穏やかに混合し、室温で暗所において15分間インキュベートした;
d.400μlの1×結合バッファーをステップcのフロー試験管に加え、フローサイトメトリーにより試験した。
【0207】
(5)フローサイトメトリーによるA549細胞死の定量試験結果:
培地のみが添加されたブランク対照群と比較して、A549細胞由来のアネキシンV単一陽性細胞、PI単一陽性細胞およびPI/アネキシンV二重陽性細胞は、pMVA-1プラスミドベクター群(PMVA)およびDOTAPカチオン性脂質群(DOTAP)(両方とも対照群であった)では有意に増加しなかった。しかし、PIの取り込みとアネキシンVは、実験群、すなわちpMVA-1/DOTA複合体群(pMVA/DOTA)で有意に増加し、ブランク対照群および対照群と比較して、pMVA-1/DOTAP複合体の濃度の増加と共に細胞死のパーセンテージが増加し、有意な用量依存関係を示していた。
図8Aに示すように、pMVA-1/DOTAP複合体の濃度が4μg/ml、8μg/ml、16μg/mlおよび32μg/mlの場合、全死細胞(壊死細胞およびアポトーシス細胞を含む)のパーセンテージはそれぞれ1.68%、21.63%、57.22%および65.37%であった。
【0208】
4 フローサイトメトリーによるCT26細胞死試験
(1)実験方法:3と同じであり、DOTAPカチオン性脂質の濃度はそれぞれ2μg/ml、4μg/ml、8μg/mlおよび16μg/mlであり、pMVA-1/DOTAP複合体の濃度はDOTAPカチオン性脂質の濃度によって表した。
【0209】
(2)フローサイトメトリーによるCT26細胞死の試験結果:
図8Bに示すように、CT26細胞の実験結果はA549細胞の実験結果と同様であることが観察された、すなわち、pMVA-1/DOTAP複合体は腫瘍細胞の死を相乗的に誘導することができた。
【0210】
実験結果は、pMVA-1プラスミドもDOTAPカチオン性脂質も、腫瘍細胞に別々に作用する場合、腫瘍細胞のアポトーシスまたは壊死を引き起こさないが、pMVA-1プラスミドとDOTAPカチオン性脂質とによって形成されるpMVA-1/DOTAP複合体が腫瘍細胞に作用する場合、腫瘍細胞死を誘導することができ、アポトーシスまたは壊死の過程は、血清の非存在下でDOTAPカチオン性脂質単独によって引き起こされる腫瘍細胞の急速な死とは異なり、緩慢な死の過程であることを示している。
【0211】
実施例12;H2DCF-DA蛍光分子プローブ法により検出された、pMVA-1/DOTAP複合体により相乗的に誘導された腫瘍細胞中のROSレベルの増加
(1)サンプルローディング:A549細胞を培地(ブランク対照群)、pMVA-1プラスミド(対照群PMVA)、DOTAPカチオン性脂質(対照群DOTAP)およびpMVA-1/DOTAP複合体(実験群PMVA-DOTAP)でそれぞれ3時間処理した。次いで、pMVA-1/DOTAP複合体の作用の前に、5mM NACによる前処理のために陰性対照群(NAC)を作製し、A549細胞に200μMのH2O2を添加して陽性対照群(H2O2)を作製した。
【0212】
(2)ステップ(1)の異なる群のA549細胞を収集し、滅菌PBSで洗浄し、遠心分離し、滅菌PBSに再懸濁した;
【0213】
(3)10M CM-H2DCFDA蛍光プローブ(Sigma製)をステップ(2)で調製した再懸濁細胞に加え、37℃において0.5時間インキュベートし、PBSで洗浄して再懸濁した;
【0214】
(4)ステップ(3)で再懸濁した細胞をフローサイトメトリー(Novocyte)で試験し、試験結果をNovoexpressソフトウェアによって分析した。
【0215】
(5)実験結果:
図9に示すように、ブランク対照群、PMVA対照群、DOTAP群と比較して、pMVA-1/DOTAP複合体で処理したA549細胞の細胞内ROSレベルは有意に増加した(
*P<0.05)が、A549細胞をpMVA-1/DOTAP複合体で処理する前に5mM NACで前処理すると、陰性対照群は細胞内ROSレベルの有意な低下を示し、陽性対照群は、200μM H
2O
2で処理した細胞中のROSレベルの有意な増加を示した(
*P<0.05)。
【0216】
したがって、pMVA-1/DOTAP複合体は、A549細胞中のROSレベルの有意な増加を相乗的に誘導することができる。
【0217】
実施例13;腫瘍細胞のROS増加を相乗的に誘導するpMVA-1/DOTAP複合体のメカニズム研究
【0218】
実施例12は、pMVA-1/DOTAP複合体がA549細胞中のROSレベルの増加を相乗的に誘導できることを証明している。腫瘍細胞死に対するpMVA-1/DOTAP複合体のプラスミド酸化の効果を調べるために、pMVA-1プラスミドを1000mJ/cm2UV照射により酸化させ、次いでDOTAPカチオン性脂質と複合体を形成させてA549細胞に作用させた。
図10に示すように、A549細胞をox-PMVA-1/DOTAP複合体で24時間処理した場合、A549細胞死の数はpMVA-1/DOTAP複合体群と比較して有意に増加した。
【0219】
実験結果は、腫瘍細胞に対するpMVA-1/DOTAP複合体の破壊が、腫瘍細胞におけるpMVA-1プラスミドの酸化ストレスに関連していることを示している。
【0220】
実施例14
pMVA-1/DOTAP複合体による腫瘍細胞死の相乗的誘導は、腫瘍細胞の酸化ストレスに関連している。
【0221】
実施例12は、抗酸化剤としてのN-アセチル-L-システイン(NAC)が、pMVA-1/DOTAP複合体により誘導される腫瘍細胞中のROSレベルの増加を効果的に阻害できることを証明している。pMVA-1/DOTAP複合体による腫瘍細胞死の相乗的誘導が腫瘍細胞の酸化ストレスに関連するかどうかをさらに検証するために、フローサイトメトリーを使用して、実施例12においてpMVA-1/DOTP複合体を加える前にNACで前処理したA549細胞の死亡率を試験した。
図11に示すように、A549細胞は、pMVA-1/DOTP複合体で処理する前にNACで前処理されているため、死亡率を有意に低下させることができ、これにより、pMVA-1/DOTAP複合体による腫瘍細胞死の相乗的誘導が腫瘍細胞における酸化ストレスの発生に関連していることがさらに証明される。
【0222】
実施例15
pMVA-1/DOTAP複合体は腫瘍細胞のリソソーム破裂を相乗的に誘発する
【0223】
1 YOYO1蛍光プローブ法によるA549細胞へのpMVA-1/DOTAP複合体の進入試験
(1)YOYO1色素(Life Technologies製)によるpMVA-1プラスミドの蛍光標識:
a.YOYO1作動液の調製:YOYO1ストック溶液を1640無血清培地を用いて体積比1:200で希釈した;
b.pMVA-1プラスミドをステップ(1)で調製したYOYO1作動液に体積比1:40で加え、37℃において1時間インキュベートした。
【0224】
(2)YOYO1蛍光標識pMVA-1/DOTAP複合体によるA549細胞の処理:
a.ステップ1で調製したYOYO1蛍光標識pMVA-1プラスミドをDOTAPカチオン性脂質と混合して複合体を形成した;
b.ステップaで調製したYOYO1蛍光標識pMVA-1/DOTAP複合体をA549細胞に加え、2つの対照群、すなわちYOYO1蛍光標識pMVA-1プラスミド群(PMVA)とDOTAPカチオン性脂質群(DOTAP)、ならびに細胞培養液のみを含むブランク対照群を作製した。
【0225】
2 Lysotracker Red蛍光プローブ法に基づき、A549細胞においてpMVA-1/DOTAP複合体によって相乗的に誘導されたリソソーム酸性度勾配の喪失試験
(1)Lysotracher Red作動液の調製:Lysotracher Redストック溶液を細胞培養液に体積比1:20000で加え、37℃においてインキュベートした。
【0226】
(2)Lysotracker Red(Beyotime製)によるA549細胞のリソソームの蛍光標識:
a.ステップ1のA549細胞培養液を除去し、ステップ(1)で調製したLysotracker Red染色作動液を細胞に加え、37℃において1時間インキュベートした;
b.ステップaのLysotracker Red染色作動液を除去し、新鮮な細胞培養液を加えて、蛍光顕微鏡下で0.5時間および3時間の蛍光細胞画像をそれぞれ観察および収集した;
c.ステップbのA549細胞を収集し、フローサイトメトリーにより蛍光細胞の数を定量的に試験した。
【0227】
3 FITC-デキストラン細胞局在化法に基づく、pMVA-1/DOTAP複合体により相乗的に誘導されたA549細胞のリソソーム膜透過性増加の試験
(1)A549細胞のプレートへの接種:対数増殖期のA549細胞を細胞懸濁液に調製し、約1×105細胞/ウェルずつ6ウェルプレートに接種した。次に、2mlの培地を各ウェルに加え、5%CO2インキュベーターで37℃において一晩培養した。
【0228】
(2)最終濃度1mg/mlのFITC-Dextran(Sigma製)をステップ(1)の細胞培地に添加し、37℃において4時間暗所でインキュベートした。
【0229】
(3)ステップ(2)の細胞を滅菌PBSで2回洗浄し、1640培地を加え、A549細胞を培地(ブランク対照群)、pMVA-1プラスミド(対照群PMVA)、DOTAPカチオン性脂質(対照群DOTAP)およびpMVA-1/DOTAP複合体(実験群PMVA-DOTAP)でそれぞれ処理して、37℃において3時間暗所でインキュベートした。
【0230】
(4)ステップ(3)の細胞をPBSで2回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで10分間安定化し、PBSで2回洗浄し、密封した。蛍光細胞を共焦点顕微鏡で観察し、画像を保存した。
【0231】
4 カテプシンB細胞内局在化法に基づく、pMVA-1/DOTAP複合体により相乗的に誘導されたA549細胞のリソソーム膜透過性増加の試験
(1)A549細胞のプレートへの接種:丸型滅菌細胞スライドを6ウェルプレートの底に置き、A549細胞を1×105細胞/ウェルずつ6ウェルプレートに接種し、2 mlの培地を各ウェルに加えて、一晩インキュベートした。
【0232】
(2)培地(ブランク対照群)、pMVA-1プラスミド(対照群PMVA)、DOTAPカチオン性脂質(対照群DOTAP)およびpMVA-1/DOTAP複合体(実験群PMVA-DOTAP)をステップ(1)で培養したA549細胞に加え、37℃において3時間インキュベートした。
【0233】
(3)ステップ(2)で異なる群で処理したA549細胞をPBSで2回洗浄し、氷メタノールで3分間安定化させ、PBSで2回洗浄し、5%FBSの0.3%Tritonを含むPBSTで20分間密封した。
【0234】
(4)ステップ(3)の細胞をPBSで1回洗浄し、ヒトカテプシンB抗体(Abcam製)を比率1:300で希釈した。室温で1時間インキュベートし、PBSで各回5分間3回洗浄し、1:1000の蛍光二次抗体を加え、暗所で1時間室温においてインキュベートした。
【0235】
(5)ステップ(4)の細胞をPBSで3回洗浄し、フィルムを超純水で洗浄して過剰な水を除去し、抗蛍光消光剤で密封し、6時間保存処理した。共焦点顕微鏡で蛍光細胞を観察し、画像を保存した。
【0236】
5 pMVA-1/DOTAP複合体によって相乗的に誘導された腫瘍細胞のリソソーム破裂の実験結果。
(1)pMVA-1/DOTAP複合体はA549細胞に進入し、細胞内のリソソーム酸性度勾配の喪失を相乗的に誘導する
A549細胞を、YOYO1蛍光プローブ標識pMVA-1プラスミドとDOTAPカチオン性脂質とによって形成された複合体で処理し、これは、pMVA-1/DOTAP複合体のトレーサーとして使用できる。次に、A549細胞のリソソームをLysotracker Redで標識し、蛍光顕微鏡下で0.5時間および3時間の蛍光細胞画像をそれぞれ収集した。
図12に示すように、ブランク対照群のA549細胞はLysotracker Red の蛍光強度が高かった。しかし、pMVA-1/DOTAP複合体で0.5時間処理した後、A549細胞は細胞膜および細胞質端でYOYO1標識pMVA-1プラスミドを示し始め、リソソームのLysotracker Redの蛍光強度はわずかに減少した。これらの細胞をpMVA-1/DOTAP複合体で3時間処理すると、大量のYOYO1標識pMVA-1プラスミドが細胞質に進入し、リソソームのLysotracker Redの蛍光強度が有意に低下し、pMVA-1/DOTAPが複合体はA549細胞に進入し、リソソームの酸性度勾配の変化を誘導したことを示した。
【0237】
(2)フローサイトメトリーに基づく、異なる群のA549細胞のリソソームにおけるLysotracker Redの蛍光強度の定量試験
図13に示すように、Lysotracker Redの蛍光強度は、ブランク対照群、pMVA-1プラスミド群およびDOTAPカチオン性脂質群の細胞をそれぞれ1時間、3時間、6時間および9時間処理した後、有意に変化しなかった。pMVA-1/DOTAP複合体群では、18.49%のA549細胞のLysotracker Red蛍光強度が処理後1時間で低下し、76.18%のA549細胞の蛍光強度は処理後3時間で低下した。
【0238】
実験結果は、pMVA-1/DOTAP複合体が腫瘍細胞に進入し、腫瘍細胞のリソソーム酸性度勾配の不均衡を相乗的に誘導し、さらに、細胞が複合体で経時的に処理されると、リソソーム酸性度勾配の喪失程度が徐々に増加し、リソソームが徐々に溶解することを示している。腫瘍細胞のリソソーム酸性度勾配の喪失は、複合体が効果を発した1時間後に発生し、細胞が複合体で3時間処理されたときに最大に達する。
【0239】
(3)FITC-デキストラン細胞局在化法により試験した、A549細胞のリソソーム膜透過性変化の実験結果
FITC-デキストランは、エンドサイトーシスを介してリソソームに進入可能な20kDデキストランである。A549細胞を1mg/mlのFITC-デキストランに3時間曝露し、異なる群のサンプルで処理し、蛍光細胞を共焦点顕微鏡下で観察した。
図14Aに示すように、A549細胞の細胞質のFITC-デキストランを、ブランク対照群(対照)、pMVA-1プラスミド群(PMVA)およびDOTAPカチオン性脂質群(DOTAP)で点状に分布しており、FITC-デキストランはpMVA-1/DOTAP複合体群(PMVA-DOTAP)で分散して分布しており、リソソーム膜透過性(LMP)の増加を示していた。
【0240】
(4)カテプシンB細胞内局在法に基づく、A549細胞のリソソーム膜透過性の変化によりリソソームから放出されるカテプシンBの実験結果
リソソームの膜透過性が変化した場合、リソソーム中の加水分解酵素は細胞質に移行する。したがって、リソソーム膜透過性の増加をさらに証明するために、リソソーム中のカテプシンBを免疫蛍光染色して、追跡した。
図14Bに示すように、A549細胞の細胞質中のカテプシンBは、ブランク対照群と対照群のpMVA-1プラスミド群(PMVA)およびDOTAPカチオン性脂質群(DOTAP)で点状に分布しており、細胞質中のカテプシンBおよび核は、pMVA-1/DOTAP複合体群(PMVA-DOTAP)では分散して分布しており、pMVA-1/DOTAP複合体がA549細胞のリソソーム膜透過性の増加を相乗的に誘導して、リソソームの加水分解酵素を細胞質に放出できることを示している。
【0241】
実験結果は、腫瘍細胞の進入後、pMVA-1/DOTAP複合体が細胞のリソソーム膜透過性の増加を相乗的に誘導し、リソソームの破裂を促進し、リソソームの加水分解酵素を細胞質に放出できることを示している。
【0242】
実施例16
pMVA-1/DOTAP複合体は、腫瘍細胞のミトコンドリア膜電位の低下を相乗的に誘発する
(1)腫瘍細胞のプレートへの接種:対数増殖期のA549細胞およびCT26細胞をそれぞれ細胞懸濁液に調製し、1×105細胞/ウェルずつ6ウェルプレートに接種し、2mlの培地を各ウェルに加え、5%CO2インキュベーターで37℃において一晩培養した。
【0243】
(2)腫瘍細胞に作用させるための異なるサンプルの添加:pMVA-1プラスミド、DOTAPカチオン性脂質およびpMVA-1/DOTAP複合体をそれぞれステップ(1)で培養した腫瘍細胞に添加し、37℃において15時間、18時間、21時間および24時間インキュベートした。
【0244】
(3)TMRM染色作動液(Life Technologies製)の調製:TMRM母液を比率1:100000でPBSにより希釈し、TMRM染色作動液を得た。
【0245】
(4)ステップ(2)の細胞培養液を廃棄し、予熱したステップ(3)で調製したTMRM染色作業液をホールプレートの壁に沿って添加し、37℃において暗所で20分間インキュベートした。
【0246】
(5)ステップ(4)の腫瘍細胞を収集し、異なるサンプルにより異なる時間で処理し、ミトコンドリア膜電位変化のある腫瘍細胞をフローサイトメトリーで分析した。
電位差測定蛍光プローブとしてテトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)が細胞に進入し、細胞ラクトナーゼによって切断されてテトラメチルローダミンを生成して、ミトコンドリアに進入後に強い蛍光を示した。ミトコンドリア膜チャネルの孔が開いていると、テトラメチルローダミンがミトコンドリアから細胞質に放出され、その蛍光強度も有意に低下した。したがって、ミトコンドリア膜チャネル孔の開いた状態は、腫瘍細胞のミトコンドリアの蛍光強度の変化を試することにより検証することができる。
【0247】
図15Aに示すように、pMVA-1/DOTAP複合体で処理したA549細胞の31.73%、41.80%、51.76%および55.03%は、それぞれ15時間、18時間、21時間、24時間でミトコンドリア膜電位の低下を示し、一方、ブランク対照群ならびに対照群(pMVA-1プラスミド群およびDOTAPカチオン性脂質群)のA549細胞のミトコンドリア膜電位は有意に変化しなかった。
図15Bに示すように、pMVA-1/DOTAP複合体で処理したCT26細胞の15.95%、35.85%、50.18%および52.18%は、それぞれ15時間、18時間、21時間および24時間でミトコンドリア膜電位の低下を示し、一方、ブランク対照群ならびに対照群のCT26細胞のミトコンドリア膜電位は有意に変化しなかった。
【0248】
実験結果は、pMVA-1/DOTAP複合体が腫瘍細胞のリソソーム破裂を相乗的に誘導した後、腫瘍細胞のミトコンドリア膜電位の脱分極を引き起こし、それによりミトコンドリア膜チャネル孔を開き、ミトコンドリア透過性を有意に変化させ、ミトコンドリア内容物を細胞質内に放出するできることを示している。
【0249】
実施例17
pMVA-1/DOTAP複合体は腫瘍細胞においてカスパーゼプロテアーゼ活性化を誘導する
(1)A549細胞のプレートへの接種:対数増殖期のA549細胞を細胞懸濁液に調製し、1×105細胞/ウェルずつ6ウェルプレートに接種し、2mlの培地を各ウェルに加え、5%CO2インキュベーターで37℃において一晩培養した。
【0250】
(2)サンプルローディング:pMVA-1/DOTAP複合体をステップ(1)で12時間および24時間培養したA549細胞に添加し、ブランク対照群を作製した。
【0251】
(3)試験サンプルの調製:ステップ(2)で得られた細胞培養液をピペット操作し、ステップ(2)で得られたA549細胞を収集し、ピペットで細胞培養液を懸濁する。600gおよび4℃における5分間の遠心分離により細胞を収集し、上清を抜き取りし、細胞をPBSで1回洗浄し、上清を再度抜き取り、溶解物を加え、再懸濁して沈殿させ、氷浴で15分間溶解する。次に、上清を氷浴で予冷した遠心管に移す。
【0252】
(4)ステップ(3)に記載のサンプルを少量採取し、ブラッドフォード法によりタンパク質濃度を測定する。
【0253】
(5)上記ステップ(3)で調製した試験サンプル中のカスパーゼ3、カスパーゼ8およびカスパーゼ9の酵素活性の検出:
a.適切な量の基質を取り出し、後の使用のために氷浴に置く。
b.表8に示すように、反応系を作製する。
c.ステップaの基質をステップbの反応系に加え、均一に混合し、37℃において60~120分間インキュベートして、明らかな発色のA405を測定した。
d.サンプル中のカスパーゼ3、カスパーゼ8およびカスパーゼ9によって触媒されるpNAの吸光度は、サンプルのA405からブランク対照のA405を差し引くことにより得た。サンプルでの触媒作用により生成されたpNAの量は、標準曲線と比較することによって計算した。
e.試験サンプルのタンパク質濃度をステップ(3)のブラッドフォード法に従って試験し、サンプルの単位重量あたりのタンパク質に含まれるカスパーゼの酵素活性単位を計算した。
【表8】
【0254】
システインを必要とするアスパラギン酸プロテアーゼ(カスパーゼ)は、細胞アポトーシスの過程で重要な役割を果たすプロテアーゼファミリーである。
図16に示すように、ブランク対照群と比較して、カスパーゼ3、カスパーゼ8およびカスパーゼ9はすべて有意に増加し、細胞をpMVA-1/DOTAP複合体で12時間および24時間処理した後、時間依存的であった。
【0255】
実施例18;pMVA-1/DOTAP複合体は抗腫瘍自然免疫応答を相乗的に誘導する
(1)マウス骨髄前駆細胞からの骨髄由来樹状細胞(BMDC)の分離および培養
a.骨髄細胞をマウスの大腿骨と脛骨から採取し、ふるいにかけ、遠心管に収集し、280gで室温において5分間遠心分離し、上清を廃棄した。
【0256】
b.ステップaに記載の細胞に10mlの赤血球溶解物を加え、室温で3分間静置し、280gで室温において5分間遠心分離し、上清を廃棄した。
【0257】
c.ステップbに記載の骨髄細胞をPRMI-1640培地で2回洗浄し、280gで室温において10分間遠心分離し、生細胞数を測定し、RPMI-1640完全培地により細胞濃度を1×106細胞/mlに調整した。
【0258】
d.ステップcで、最終濃度10ng/mlの組換えマウスGM-CSを添加し、4ml/ウェルの細胞懸濁液を6ウェルプレートに接種し、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。細胞コロニーがプレートの底で成長したら、培地をピペットで取り、培地で1回洗浄し、10ng/mlのGM-CSFを含む1640完全培地を各ウェルに加えた。
【0259】
e.ステップdで分離した細胞、すなわちBMDCを収集し、280gで室温において5分間遠心分離し、上清を廃棄し、細胞を10ng/mlのGM-CSFを含む1640完全培養液に懸濁し、細胞を使用のために1×106細胞/mlずつ6ウェルプレートに接種した。
【0260】
(2)フローサイトメトリーに基づく、BMDCによるFITC-デキストラン取り込み試験
a.ステップ1で培養したBMDCを収集し、培地、pMVA-1プラスミド、DOTAPカチオン性脂質およびpMVA-1/DOTAP複合体でそれぞれ24時間処理した。CT26細胞刺激DC群(CT26細胞、pMVA-1プラスミドで処理したCT26細胞、DOTAPカチオン性脂質で処理したCT26細胞、pMVA-1/DOTAP複合体で処理したCT26細胞を含む)を作製し、24時間インキュベートした。
【0261】
b.ステップaに記載の細胞を1×106細胞/ml/ウェルずつ24ウェルプレートに入れ、最終濃度1mg/mlのFITC-デキストランを加え、37℃において1時間インキュベートした。
【0262】
c.ステップbに記載の細胞をPBSで1回洗浄し、細胞を染色するために抗CD11b-PEおよび抗CD11c-Percp5.5を加えた。細胞をPBSで洗浄し、再懸濁し、試験のために暗所で4℃において維持した。
【0263】
d.フローサイトメトリーに基づく、BMDCの蛍光強度の試験および分析。
【0264】
(3)フローサイトメトリーに基づく、BMDCによって分泌されるサイトカインの試験
a.ステップ1で6日目まで培養したBMDCを収集した。培地、CT26細胞、3時間pMVA-1プラスミドで処理したCT26細胞、3時間DOTAP脂質で処理したCT26細胞および3時間pMVA-1/DOTAP複合体で処理したCT26細胞を添加し、24時間インキュベートした。
【0265】
b.ステップaに記載の細胞を収集し、PBSで1回洗浄した。抗CD11b-PEおよび抗CD11c-Percp5.5抗体をフローチューブに添加し、4℃において30分間暗所でインキュベートした。
【0266】
c.ステップbのBMDCをPBSで2回洗浄し、間接標識細胞間サイトカイン抗体を染色し、各チューブに1μlの抗体を加え、4℃において一晩インキュベートした。
【0267】
d.ステップcで染色およびインキュベートしたBMDCをPBSで2回洗浄し、間接標識蛍光二次抗体および直接標識抗体を染色し、室温において30分間暗所でインキュベートし、PBSで2回洗浄し、BMDCのIFN-βおよびIL-1βの分泌を試験して、フローサイトメトリーで分析した。
【0268】
DCの成熟は、抗原の取り込み能力の低下と正の相関がある。したがって、DCが成熟するように誘導されるかどうかは、その抗原取り込み能力を試験することによって判断できる。DCの抗原取り込み能力は、DC食作用のモデル抗原としてFITC-デキストランを採用し、CD11c陽性DCのFITC平均蛍光強度を試験することにより判断する。
図17に示すように、pMVA-1プラスミドまたはDOTAPカチオン性脂質のみで処理されたDCは、ブランク対照群と同様のFITC平均蛍光強度値を有する。pMVA-1/DOTAP複合体で処理されたDC、CT26細胞で刺激されたDC、ならびにpMVA-1プラスミド、DOTAPカチオン性脂質およびpMVA-1/DOTAP複合体でそれぞれ処理されたCT26細胞で刺激されたDCについては、FITC平均蛍光強度が有意に低下した。実験結果は、pMVA-1/DOTAP複合体および腫瘍細胞の刺激がDCの抗原取り込みを阻害し、DCの成熟を促進できることを示している。
【0269】
図18は、pMVA-1/DOTAP複合体で処理したCT26細胞がインビトロで培養されたBMDCを刺激してサイトカインを分泌させ得るかどうかに関する実験結果を提供している。ブランク対照群、pMVA-1プラスミド群およびDOTAPカチオン性脂質群の比較に基づいて、pMVA-1/DOTAP複合体で処理されたCT26細胞によりBMDCが刺激された後、IFN-βおよびIL-1βの分泌が有意に増加した。実験結果は、pMVA-1/DOTAP複合体で処理された腫瘍細胞がSTING経路を効果的に活性化し、DCを誘導して腫瘍細胞を死滅させるサイトカインを分泌させ得ることを示している。
【0270】
実験データは、pMVA-1/DOTAP複合体がDCの成熟を直接誘導できるだけでなく、pMVA-1/DOTAP複合体で処理された腫瘍細胞が抗腫瘍サイトカインを分泌するDCの機能をよりよく活性化して自然免疫応答を実行できることを示している。
【0271】
実施例19;DNA/カチオン性生体材料複合体で処理した、異なるマウス腫瘍モデルに関する実験
1 pMVA-1/DOTAP複合体は、子宮頸がんの腹部転移を伴うヌードマウスの腫瘍成長を阻害できる
6~8週齢のBalb/c雌ヌードマウスを飼育した。対数増殖期まで培養したヒト子宮頸がんHela細胞を細胞懸濁液に調製し、子宮頸がんの腹部転移を伴うヌードマウスを腹腔内注射によりモデル化した。各ヌードマウスに注射した細胞数は1×107個であり、注射系は各ヌードマウスについて200μlであった。
【0272】
モデル化に成功したヌードマウスを、表9に記載のような4つの群、すなわち生理食塩水群(NS)、DOTAP群(空のベクター群)、pMVA-1群(空の薬物群)、およびpMVA-1/DOTAP群(治療群)にランダムに分割した。Hela細胞の接種後3日目に、各実験群を表9に従って3日ごとに個々に腹腔内投与し、各実験群の体重を記録した。4回、つまり12日の腹腔内投与後、対照群(pMVA-1)のヌードマウスが1匹死亡し、治療群を除く他の3群すべてのヌードマウスには明らかな腹水が存在し、すべてのヌードマウスが死亡した。ヌードマウスの腹水を採取して、その体積を測定し、がん細胞の数を数えた。腹水中のアポトーシス細胞をフローサイトメトリーで試験し、腹水細胞をギムザ染色により観察した。腫瘍を摘出し、その重量を測定した。腫瘍、組織および臓器をパラホルムアルデヒドで固定し、免疫組織化学試験を行った。
【0273】
表9 pMVA-1/DOTAP複合体で処理した、子宮頸がんの腹部転移を伴うヌードマウスの群分けおよび投与量
【表9】
【0274】
図19は以下の実験結果を提供している:pMVA-1/DOTAP治療群のヌードマウスの体重(
図19A)、腹水量(
図19B)、腫瘍小結節の数(
図19C)および腫瘍重量(
図19D)が、他の対照群よりも有意に低い(P<0.01)。
図20に示すように、治療群の腹水に中のアポトーシス細胞のパーセンテージは、他の対照群のそれよりも有意に高かった(p<0.05)。さらに、腫瘍組織切片のHE染色の結果は、治療群の腫瘍組織に大量の炎症細胞浸潤があり、他の対照群には炎症細胞浸潤が全くまたはほとんどなかったことを示した。腹水中の細胞のギムザ染色により、pMVA-1/DOTAP複合体が、対照群と比較して、ヌードマウスの腹腔内の腫瘍細胞および赤血球の生成を有意に阻害したことが明らかとなった。ヌードマウスの心臓、肝臓、脾臓、肺および腎臓のHE染色により、ヌードマウスの各群に治療関連の組織病変がないことが示された。したがって、pMVA-1/DOTAP複合体がより高い生物学的安全性を有し得ると考えられる。
【0275】
したがって、対照群と比較して、pMVA-1/DOTAP複合体は、自然免疫応答を介して子宮頸がん細胞のアポトーシスを直接誘導し、子宮頸がん細胞の成長を有意に阻害することができる。
【0276】
2 プラスミドDNA/DOTAP複合体は、卵巣がんの腹部転移を伴うヌードマウスの腫瘍成長を阻害できる。
6~8週齢のBalb/cヌードマウスを飼育した。対数増殖期まで培養したヒト卵巣がん細胞株SKOV3を細胞懸濁液に調製し、腹部腫瘍のあるマウスを腹腔内注射によりモデル化した。各マウスに注射した細胞数は1×107個であり、注射系は各マウスについて200μlであった。
【0277】
モデル化に成功したヌードマウスを、表10に記載のような8つの群にランダムに分割した。腹腔内投与は、腫瘍接種の2日後に以下のように開始した:プラスミドDNA群の対照群の各マウスには10μgのプラスミド;DOTAP群の対照群の各マウスには100μgのDOTAP;治療群の各マウスには10μgのDNAおよび100μgのDOTAP (プラスミドDNA/DOTAP複合体群)、すなわちプラスミドDNAとDOTAPとの質量比は1:10であった。その後、マウスに3日ごとに投与した。すべてのマウスを、腫瘍の接種後35日目に殺し、投与は合計で10回であった。
【0278】
表10 プラスミドDNA/DOTAP複合体で治療した子宮頸がんの腹部転移を伴うヌードマウスの群分けおよび投与量
【表10】
【0279】
10回の腹腔内投与後、陰性対照群のマウス1匹のみが自然に死亡し、他の実験群ではすべてのマウスを殺した。マウスの腹水を採取して、その体積を測定し、そこにあるがん細胞の量を数えた。
【0280】
図21は以下の実験結果を提供している:3つの治療群でプラスミドDNA/DOTAPを投与したヌードマウスの腹水量(
図21A)、腫瘍重量(
図21B)および腹水のがん細胞の数(
図21C)が他の対照群よりも有意に低い(p<0.01)。
【0281】
したがって、対照群と比較して、治療群のプラスミドDNA/DOTAP複合体は、自然免疫応答を介して卵巣がん細胞のアポトーシスを直接誘導し、卵巣がん細胞の成長を有意に阻害することができる。
【0282】
3 プラスミドDNA/DOTAP複合体は、CT26腹部転移を伴うマウスの腫瘍成長を阻害できる
6~8週齢のBalb/cマウスを飼育した。対数増殖期まで培養したマウス結腸がん細胞株CT26を細胞懸濁液に調製し、腹部腫瘍のあるマウスを腹腔内注射によりモデル化した。各マウスに注射した細胞数は1×106個であり、注射系は各マウスについて100μlであった。
【0283】
モデル化に成功したマウスを、表11に記載のように群に分割した。それらに、腫瘍接種後5日目に以下のように腹腔内投与した:プラスミドDNA群の対照群の各マウスには10μgのDNA;DOTAP対照群の各マウスには100μgのDOTAP;プラスミドDNA/DOTAP複合体群の治療群の各マウスには10μgのDNAおよび100μgのDOTAP、すなわちプラスミドDNAとDOTAPとの質量比は1:10であった。その後、3日ごとに合計5回投与した。
【0284】
表11 プラスミドDNA/DOTAP複合体で治療したCT26結腸がんの腹部転移を伴うモデルマウスの群分けおよび投与量
【表11】
【0285】
マウスに5回腹腔内投与し、各群の2匹のマウスを3回目の投与後2日目、すなわち腫瘍接種後13日目に殺した。4回目の投与後1日目、すなわち腫瘍接種後15日目に、各群の3匹のマウスを殺した。5回目の投与後4日目、すなわち腫瘍の接種後21日目に、各群の5匹のマウスを殺した。マウスの腹水を採取して、その体積を測定し、腹水のがん細胞の数を数えた。腹水中のアポトーシス細胞をフローサイトメトリーで試験した。腫瘍を摘出し、重量測定した。腫瘍、組織および臓器をパラホルムアルデヒドで固定し、免疫組織化学試験を行った。残りのマウスは自然死させ、無腫瘍統計を実施した。
【0286】
図22は、以下の実験結果を提供している:3つのプラスミドDNA/DOTAP治療群のマウスの自然死の数は、他の対照群のそれよりも有意に低かった(p<0.01またはp<0.05)(
図22A);pMVA-3/DOTAP治療群のマウスの腫瘍重量(
図22B)、腹水量(
図22C)、腹水のがん細胞数(
図22D)および腫瘍小結節数(
図22E)が他の対照群のそれよりも有意に低かった(p<0.01またはp<0.05)。
【0287】
したがって、対照群と比較して、治療群のプラスミドDNA/DOTAP複合体は結腸直腸がんCT26細胞の増殖を阻害する。
【0288】
4 pMVA-1/DOTAP複合体は、マウスの肉腫の成長を阻害できる。
6~8週齢のKMマウスを飼育した。対数増殖期まで培養したマウス肉腫細胞株S180を細胞懸濁液に調製し、マウス皮下腫瘍を各マウスの右腋窩への皮下注射によりモデル化した。各マウスに注射した細胞数は1×107個であり、注射系は各マウスについて200μlであった。
【0289】
S180肉腫細胞の接種後5日目に、腫瘍を触診できた場合、40匹の担腫瘍マウスを表12に従ってランダムに4つの群に分割した:すなわち、陰性対照群(NS)、DOTAP対照群、pMVA-1対照群および治療群pMVA-1/DOTAP群。次に、表12に従ってマウスに皮下投与した:pMVA-1対照群の各マウスには2.5μgのプラスミドpMVA-1;DOTAP対照群の各マウスには25μgのDOTAP;pMVA-1/DOTAP複合体群の治療群の各マウスに対しては2.5μgのDNAおよび25μgのDOTAP、すなわち、プラスミドDNAとDOTAPとの質量比は1:10であった。その後、3日ごとに合計5回投与した。マウスを殺し、腫瘍接種の21日後にマウスの無腫瘍率を数えた。
【0290】
表12 pMVA-1/DOTAP複合体で処理した、S180肉腫細胞を伴うマウスの皮下モデルの群分けおよび投与量
【表12】
【0291】
図23に示すように、実験結果は、pMVA-1/DOTAP治療群のマウスの無腫瘍率が90%であることを示しており、これは他の対照群のそれよりも有意に高く、NS群の無腫瘍率は1%であり、DOTAP群およびpMVA-1群のそれは20%である。
【0292】
pMVA-1/DOTAP複合体が、マウスの肉腫の成長を有意に阻害できることがわかる。
【0293】
5 pMVA-1/DOTAP複合体は、マウスの上咽頭がんの成長を阻害できる。
6~8週齢のBalb/cヌードマウスを飼育した。対数増殖期まで培養したヒト鼻咽頭がん腫細胞株CNE-2を細胞懸濁液に調製し、マウス皮下腫瘍を各マウスの右腋窩への皮下注射によりモデル化した。各マウスに注射した細胞数は1×107個であり、注射系は各マウスについて200μlであった。
【0294】
モデル化に成功したヌードマウスを、表13に記載のように4つの群にランダムに分割した。腫瘍接種後5日目に以下のように皮下投与した:pMVA-1群の対照群の各マウスには4μgのプラスミド;DOTAP対照群の各マウスには40μgのDOTAP;pMVA-1/DOTAP複合体群の治療群の各マウスには4μgプラスミドDNAおよび40μgのDOTAP、すなわちプラスミドDNAとDOTAPとの質量比は1:10であった。その後、マウスに3日ごとに投与し、腫瘍接種後21日目にすべてのマウスを殺し、各群のマウスの腫瘍体積を5回投与後に測定した。
【0295】
表13 pMVA-1/DOTAP複合体で治療した、CNE-2細胞を伴う皮下モデルマウスの群分けおよび投与量
【表13】
【0296】
図24に示すように、実験結果は、pMVA-1/DOTAP治療群のマウスの腫瘍体積が他の対照群の腫瘍体積よりも有意に低いことを示しており、pMVA-1/DOTAP複合体が、ヒト鼻咽頭がん腫細胞の皮下モデルマウスの腫瘍成長を有意に阻害できることを示している。
【0297】
6 DNA/DOTAP複合体によって活性化された、CT26腹部転移を伴うマウスの長期免疫応答
実験(1):プラスミドDNA/DOTAP複合体で処理された、CT26の腹部転移を伴うモデルマウス
6~8週齢のBalb/cマウスを飼育した。対数増殖期まで培養したマウス結腸直腸がん細胞株CT26を細胞懸濁液に調製し、腹腔内注射によりマウス腹部腫瘍をモデル化した。各マウスに注射した細胞数は2×105個であり、注射系は各マウスについて100μlであった。
【0298】
表14に記載のように、モデル化に成功したマウスを以下のように群に分割した:正常群には腫瘍細胞の接種も薬物の投与も行わなかった;未治療群には、薬物の代わりにCT26細胞を腹腔内接種した;NS群には腫瘍細胞を腹腔内接種し、生理食塩水を投与した。腫瘍の接種後、3日目にマウスに以下のように腹腔内投与した:プラスミドDNA/DOTAP複合体群の治療群の各マウスには15μgのプラスミドDNAおよび75μgのDOTAP、すなわち、プラスミドDNAとDOTAPとの質量比は1:5であった。その後、3日ごとに合計9回投与した。
【0299】
表14 プラスミドDNA/DOTAP複合体で処理した、CT26結腸直腸がんの腹部転移を伴うモデルマウスの群分けおよび投与量
【表14】
【0300】
マウスに合計で9回投与し、自然に死亡させた。各実験群のマウスの自然死日を記録し、各実験群のマウスの体重および生存時間を計数した。腹水量を計数し、腫瘍を摘出し、重量を測定した。
【0301】
図25に示すように、実験結果は、pMVA-1/DOTAP治療群のマウスの体重が正常群のマウスの体重と有意な差がないことを示しており、pMVA-1/DOTAP複合体にはマウスに対する明らかな毒性がないことを示しており(
図25a);さらに、pMVA-1/DOTAP群のマウスの平均腹水量は0.3mlであり、これは陰性対照群のマウスの平均腹水量1.91ml、pMVA-1群のマウスの平均腹水量の2.22ml、およびDOTAP群のマウスの平均腹水量の3.11mlよりも有意に低かった。(
図25B)。陰性対照群、pMVA-1群およびDOTAP群はすべて腫瘍細胞接種後54、57および39日目に死亡し、pMVA-1/DOTAP群のマウスの一部は腫瘍細胞接種後78日目に生存していた。pMVA-1/DOTAP群のマウスの生存期間は、他の実験群の生存期間よりも有意に長かった(
図25C)。マウスが死亡した後、腹部腫瘍を採取して重量を測定した。マウスの平均腫瘍重量は、pMVA-1/DOTAP群で2.92g、陰性対照群で7.91g、pMVA-1群で7.35g、ならびにDOTAP群で8.23gであった。pMVA-1/DOTAP群のマウスの腫瘍重量は、陰性対照群、pMVA-1群およびDOTAP群と比較して有意に低下していた(
図25D)。
【0302】
したがって、pMVA-1/DOTAP複合体はインビボで腫瘍細胞の成長を有意に阻害できることがわかる。
【0303】
実験(2):プラスミドDNA/DOTAP複合体で治療後の、CT26の腹部転移を伴うモデルマウスの、腫瘍細胞再刺激に対する長期免疫応答
上記の実験(1)の場合、pMVA-1/DOTAPの治療群の27匹のマウスの腹部腫瘍は、9回の投与後に完全に排除されており、この27匹のマウスを表15に記載のように再度群分けした。さらに、正常群の同じ一群の14匹のマウスを選択し、表15に従って群分けした。上記の実験(1)では、9回目の投与後2日目に、表15の群分け条件に従って、1×106個の結腸直腸がん細胞CT26および1×106個のマウス乳がん細胞4T1をそれぞれマウスに皮下接種した。各群のマウスの皮下腫瘍体積を3日ごとに測定した。腫瘍体積は、以下の式に従って計算した:V=a×b2×0.52、式中、aは腫瘍の長径であり、bは腫瘍の短径である。
【0304】
表15 長期免疫応答実験群および腫瘍細胞の皮下接種
【表15】
【0305】
上記の実験(1)および(2)によれば、CT26の腹部転移を有するモデルマウスの抗CT26結腸直腸がん効果は、pMVA-1/DOTAP複合体で処理後、90%超であった。CT26皮下腫瘍および4T1皮下腫瘍の成長を観察するために、治療群のマウスに結腸がんCT26細胞および乳がん4T1細胞をそれぞれ皮下接種した。正常マウスの同じ一群(正常群)を2つの群に分割し、対照群と同じ腫瘍をそれぞれ接種した。実験結果を
図26に示す。
【0306】
(1)マウスをプラスミドDNA/DOTAP複合体で処理した後、マウスのCT26皮下腫瘍の成長は有意に阻害され、CT26皮下腫瘍実験群のマウスはほとんど無腫瘍となり(
図26A)、治療群のマウスの生存期間は、対照群のマウスと比較して有意に長かった。
【0307】
(2)プラスミドDNA/DOTAP複合体で治療したマウスの4T1皮下腫瘍は、対照群の4T1皮下腫瘍よりも緩慢に成長した(
図26B)。
【0308】
さらに、腫瘍組織の分析により、CT26皮下腫瘍および4T1皮下腫瘍組織に、主にCD4+およびCD8+Tリンパ球である大量のリンパ球の浸潤が存在することが示され、これは対照群よりも少なく、pMVA-1/DOTAP複合体が、身体の抗腫瘍適応免疫応答を有意に改善できることを示している。この実験はさらに、pMVA-1/DOTAP複合体で治療したマウスの脾臓NK細胞活性およびCTL腫瘍死滅活性が、対照群のそれよりも高かったことを示していた。
【0309】
上記の実験結果は、CT26の腹部転移を伴うモデルマウスの場合、pMVA-1/DOTAP複合体が治療マウスの全身性抗腫瘍記憶免疫応答をもたらし得ることを示している。同じタイプおよび異なるタイプの腫瘍細胞を含む腫瘍細胞によって再刺激された後、pMVA-1/DOTAP複合体は記憶T細胞および記憶T細胞によって分泌される大量の免疫サイトカインを介して腫瘍細胞の成長を阻害し、腫瘍の免疫寛容を破ることができる。
【0310】
実施例20;マウスU14皮下モデルを治療するための、pMVA-1/DOTAP複合体と化学療法との併用
6~8週齢のC57雌マウスを飼育した。対数増殖期まで培養したマウス子宮頸がん細胞株U14を細胞懸濁液に調製し、細胞密度は2×107/mlであった。実験動物の右背中に、100μl/マウスの注射系を皮下注射した。腫瘍が触診可能になったら(腫瘍体積が約4mm×4mm×3mm、すなわち接種後5日目)、マウスをランダムに6つの群に分割し、表16の群分けおよび処理スキームに従って3日ごとに合計8回投与した。腫瘍体積を3日ごとに測定した。8回の投与後、マウスを殺し、皮下腫瘍を試験のために解剖した。
【0311】
表16 PMVA-1/DOTAP複合体と化学療法との併用で治療したマウスU14皮下モデルの群分けおよび治療スキーム
【表16】
【0312】
ここで、投与量は100μl/マウスであり、DDPは週1回腹腔内投与する。DDPはシスプラチンであり、LPはpMVA-1/DOTAP複合体である。
【0313】
図27に示すように、実験結果は、シスプラチン群、pMVA-1/DOTAP複合体群、pMVA-1/DOTAP複合体とシスプラチンとの併用治療群で、腫瘍の成長が緩慢であることを示している。特に、併用治療群は最も緩慢な腫瘍成長を示し、上記の3つの群の腫瘍体積はNS群、DOTAP群およびpMVA-1群よりも有意に低い。さらに、pMVA-1/DOTAP複合体とシスプラチンとの併用治療群は、シスプラチン群およびpMVA-1/DOTAP複合体群の単独よりも腫瘍体積が有意に小さい。
【0314】
腫瘍組織の分析により、pMVA-1/DOTAP複合体群、およびpMVA-1/DOTAP複合体とシスプラチンとの併用治療群で多数のリンパ球浸潤が観察されることが示されており、このような浸潤は化学療法群、DOTAP群、pMVA-1群およびNS群ではあまり一般的ではなく、pMVA-1/DOTAP複合体とシスプラチンとの併用治療が、pMVA-1/DOTAP複合体の抗腫瘍適応免疫応答をさらに強化できることを示している。
【0315】
したがって、pMVA-1/DOTAP複合体は、身体の抗腫瘍免疫応答を有意に改善し、化学療法の抗腫瘍効果を強化することができる。それら両方の併用により腫瘍の成長が有意に阻害され、併用治療の抗腫瘍効果はシスプラチン単独の抗腫瘍効果よりも優れている。
【0316】
実施例21;ヌードマウスのHela皮下モデルを治療するための、pMVA-1/DOTAP複合体と放射線療法との併用
6~8週齢のヌードマウスを飼育した。対数増殖期まで培養したヒト子宮頸がん細胞株Helaを細胞懸濁液に調製し、細胞密度は1×107/mlであった。実験動物の右背中に、100μl/マウスの注射系を皮下注射した。腫瘍を触診可能になったら(腫瘍体積が約5mm×5mm×5mm、すなわち接種後7日目)、マウスをランダムに4つの群に分割した。具体的な投与計画については、表17を参照されたい。接種の7日目に、マウスに以下のように投与した:併用治療群およびpMVA-1/DOTAP群には、それぞれ100μlのプラスミドpMVA-1/DOTAP複合体(10μgのプラスミドpMVA-1と100μgのDOTAPにより形成される複合体)を腫瘍内注射し、NS群には100μlの生理食塩水を注射した。両方とも、週に2回、合計5回、複数の点に腫瘍内注射した。放射線療法群と併用治療群とは、初回用量の24時間後(すなわち接種後8日目)に、放射線療法ごとに2Gy、線量率(frequency)200cGy/分、深さ皮膚表面(skin source)から2mmで2日ごとに合計3回の放射線療法を受けた。5回の腫瘍内投与後、腫瘍体積を測定し、マウスを殺し、腫瘍組織を試験のために採取した。
【0317】
表17 放射線療法とpMVA-1/DOTAP複合体との併用で治療した、ヌードマウスのHela皮下モデルの群分けおよび治療計画
【表17】
【0318】
図28に示すように、実験結果は、放射線療法群、pMVA-1/DOTAP複合体群、およびpMVA-1/DOTAP複合体と放射線療法との併用治療群の腫瘍体積がNS群のそれよりも有意に低いことを示している。さらに、pMVA-1/DOTAP複合体と放射線療法との併用治療群の腫瘍体積は、放射線療法群単独の腫瘍体積よりも有意に低い。
【0319】
さらに、腫瘍組織の分析により、pMVA-1/DOTAP複合体群、pMVA-1/DOTAP複合体と放射線療法との併用治療群で多数のリンパ球浸潤が観察されることが示されており、このような浸潤は放射線療法群およびNS群ではあまり一般的ではなく、pMVA-1/DOTAP複合体と放射線療法との併用治療が、pMVA-1/DOTAP複合体の抗腫瘍適応免疫応答をさらに強化できることを示している。
【0320】
したがって、pMVA-1/DOTAP複合体は、身体の抗腫瘍免疫応答を有意に改善し、放射線療法の抗腫瘍効果を強化することができる。それら両方の併用により腫瘍の成長が有意に阻害され、併用治療の抗腫瘍効果は放射線療法単独の抗腫瘍効果よりも優れている。
【0321】
pMVA-1/DOTAP複合体と免疫応答調節因子との併用による腫瘍治療のインビボ実験では、本発明者らは実施例20および21と同様の実験結果を見出した:pMVA-1/DOTAP複合体は、腫瘍に対する身体の免疫応答を有意に改善し、免疫調節剤(例えば、サイトカイン、クラスII HLAタンパク質結合ヘルパー分子、CD40アゴニスト、チェックポイント受容体アンタゴニスト(例えば、CTLA-4、PD-1、Stat3)、B7共刺激分子、FLt3アゴニスト、CD40Lアゴニストなど)の抗腫瘍効果を強化することができる。それら両方の併用により腫瘍成長が有意に阻害され、併用治療の抗腫瘍効果は免疫応答調節剤単独による治療の抗腫瘍効果よりも優れている。
【0322】
実施例22;DNA/カチオン性生体材料複合体をアジュバントとして組込むことにより調製した腫瘍細胞ワクチンの抗腫瘍効果
(1)CT26結腸がん細胞インサイツワクチンの調製:
a.pVAX1/DOTAP複合体の調製:実施例3を参照
【0323】
b.アポトーシスおよび壊死CT26結腸がん細胞の調製:
対数増殖期まで培養したCT26結腸がん細胞を1×106細胞/ウェルずつ6ウェルプレートに接種し、細胞が壁に付着するまで37℃および5%CO2において培養した。次に、200ng/mlを含むアクチノマイシンD培地を添加し、12時間培養してアポトーシスを誘導した。アポトーシス細胞懸濁液を収集した後、5μlのアネキシンV-FITCと10μlのヨウ化プロピジウム(PI、Sigma製)を加え、混合し、室温において15分間暗所でインキュベートし、フローサイトメーターによりアポトーシスについて試験して、後の使用のために濃縮および希釈した。
【0324】
さらに、対数増殖期のCT26細胞を、加熱法、すなわち56℃の水浴で1時間により、壊死腫瘍細胞に調製した。細胞の壊死形態を顕微鏡下で観察した。細胞死率は、トリパンブルー色素排除によって試験した。壊死腫瘍細胞の懸濁液を収集し、等量の0.4%トリパンブルーと混合し、5~15分間放置した。
【0325】
c.CT26結腸がん細胞ワクチンの調製:
pVAX1/DOTAP複合体をワクチンとして使用し、壊死またはアポトーシスのCT26結腸がん細胞と混合して、CT26細胞ワクチンを調製した。
【0326】
(2)マウス結腸がんCT26腹部モデルにおけるCT26結腸がん細胞ワクチンの抗腫瘍効果の評価
【0327】
マウスに、1×106CT26細胞/マウスずつ腹腔内注射した。注射後3日目からマウスに腹腔内投与し、これらを生理食塩水群(NS)、pVAX1/DOTAP壊死細胞ワクチン群(NECRO)およびpVAX1/DOTAPアポトーシス細胞ワクチン群(APOP)に分割した。マウスに週一回腹腔内投与した。マウスの生存期間を記録した。
【0328】
図29に示すように、ワクチン群(NECROおよびAPOPを含む)のマウスの生存期間は、生理食塩水群(NS)のマウスと比較して有意に延長された。特に、30日のNS群の生存率は0であったが、80日のNECRO群およびAPOP群の生存率はそれぞれ40%と80%であった。pVAX1/DOTAP複合体は、壊死またはアポトーシス腫瘍細胞の免疫原性を有意に改善でき、それらを混合して調製した腫瘍細胞ワクチンは優れた抗腫瘍効果を有する。
【0329】
上記の実験結果は、DNA/カチオン性生体材料複合体が腫瘍細胞ワクチンのアジュバントとして使用でき、壊死/アポトーシス細胞ワクチンの免疫応答を有意に改善して、身体の抗腫瘍を活性化し、腫瘍成長の効果的阻害および生存期間の延長という目的を達成する。
【0330】
上記の実施例は、外因性遺伝子を発現しない複製可能なDNAとカチオン性生体材料とによって形成される本発明のDNA/カチオン性生体材料複合体、またはインビトロでのこれらのDNAの酸化により形成される酸化DNAとカチオン性生体材料とにより形成される酸化DNA/カチオン性生体材料複合体が、腫瘍ワクチンまたは腫瘍細胞ワクチンのアジュバントとして腫瘍を直接死滅させるために相乗的な役割を果たすことができ、さらに身体の自然免疫応答および適応反応の抗腫瘍効果を相乗的に活性化し、抗腫瘍長期記憶免疫を生成して腫瘍免疫寛容を破るように身体を誘導できることを示している。したがって、本発明のDNA/カチオン性生体材料複合体は、単独で、または異なるタイプの腫瘍を治療するための他の腫瘍治療方法と併用して、腫瘍ワクチンとして使用することができる。
【0331】
上記の実施形態は、本発明の好ましい実施形態であるが、本発明の実施形態が上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の精神および原理から逸脱することなく行われる他の変更、修正、置換、組み合わせ、および単純化は、本発明と同等の代替方法であり、本発明の保護範囲に含まれるものとする。
【配列表】