IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユケン工業株式会社の特許一覧

特許7133889化成処理液および化成皮膜をその表面に備える部材の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】化成処理液および化成皮膜をその表面に備える部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/53 20060101AFI20220902BHJP
【FI】
C23C22/53
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022542204
(86)(22)【出願日】2021-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2021045086
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2021059862
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000115072
【氏名又は名称】ユケン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 司
(72)【発明者】
【氏名】大口 優幸
(72)【発明者】
【氏名】平松 良規
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-159627(JP,A)
【文献】特開2016-132785(JP,A)
【文献】特許第6085831(JP,B1)
【文献】国際公開第2012/137677(WO,A1)
【文献】特開2005-281852(JP,A)
【文献】特開2002-194559(JP,A)
【文献】特開2002-226981(JP,A)
【文献】特許第6868313(JP,B1)
【文献】国際公開第2019/219403(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/024831(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00-22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性3価クロム含有物質と、水溶性チタン含有物質と、水溶性乳酸含有物質と、を必須成分として含有し、
水溶性グリコール酸含有物質、および乳酸以外かつグリコール酸以外の有機酸である非有効有機酸に基づく水溶性有機酸含有物質である水溶性非有効有機酸含有物質を任意含有成分の少なくとも一部とする、コバルトフリーの化成処理液であって、
(I)前記水溶性グリコール酸含有物質を含有せず、前記水溶性非有効有機酸含有物質を含有しないときは、
前記水溶性チタン含有物質のチタン換算モル濃度CTi、前記水溶性3価クロム含有物質のクロム換算モル濃度CCr、および前記水溶性乳酸含有物質の乳酸換算モル濃度CLcは、下記式(1)から下記式(3)を満たし、
CTi/CCr≧0.5 (1)
CLc/(CTi+CCr)≧0.40 (2)
CLc/CTi≦2.6 (3)
(II)前記水溶性グリコール酸含有物質を含有し、前記水溶性非有効有機酸含有物質を含有しないときは、上記式(1)および上記式(3)ならびに下記式(2A)を満たし、
(CLc-α×CGy)/(CTi+CCr)≧0.40 (2A)
ここで、CGyは水溶性グリコール酸含有物質のグリコール酸換算モル濃度であり、αは補正係数であって0.4であり、
(III)前記水溶性グリコール酸含有物質を含有せず、前記水溶性非有効有機酸含有物質を含有するときは、上記式(1)から上記式(3)および下記式(4)を満たし、
0<CCa/CLc≦0.175 (4)
ここで、CCaは、前記水溶性非有効有機酸含有物質の有機酸換算モル濃度であり、
(IV)前記水溶性グリコール酸含有物質を含有し、前記水溶性非有効有機酸含有物質を含有するときは、上記式(1)、上記式(2A)、上記式(3)および上記式(4)を満たすこと
を特徴とする化成処理液。
【請求項2】
水溶性アルミニウム含有物質、水溶性ニッケル含有物質、および水溶性マグネシウム含有物質、ならびに水分散性シリカからなる群から選ばれる一種以上をさらに含有する、請求項1に記載の化成処理液。
【請求項3】
前記非有効有機酸はシュウ酸、リンゴ酸およびクエン酸からなる群から選ばれる1種以上を含む、請求項1または請求項2に記載の化成処理液。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載される化成処理液を、金属系表面を有する基材に接触させて、当該基材の前記金属系表面上に化成皮膜を形成する接触工程と、
前記接触工程を経た前記基材を洗浄して、前記化成皮膜をその表面に備える部材を得る洗浄工程とを備えること
を特徴とする、化成皮膜をその表面に備える部材の製造方法。
【請求項5】
前記金属系表面が、亜鉛系めっき皮膜の面を含む、請求項4に記載の部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルトフリーであって、すなわち、水溶性コバルト含有物質を実質的に含有せず、耐食性に優れるとともに環境保全への配慮もなされた化成皮膜を形成することが可能な化成処理のための組成物(化成処理液)、およびその化成処理液により形成された化成皮膜をその表面に備える部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、RoHS(Restriction of the Use of Certain Hazardous Substances in Electrical and Electronic Equipment、電気・電子機器有害物質使用規制)指令や、ELV(End of Life Vehicles 使用済み自動車)指令など環境に配慮した指令により、有害物質(鉛、水銀、カドミウム、6価クロムなど)の使用を規制することが求められてきている。
【0003】
この流れを受け、亜鉛めっき部材などの、少なくとも一部が金属系材料からなる表面(以下、「金属系表面」という。)を有する部材の防食用の化成皮膜として有効なクロメート皮膜は、6価クロムを含むクロム酸塩を用いる化成処理のための組成物(以下、化成処理のための組成物を「化成処理液」という。)ではなく、3価クロムを含む化成処理液によって形成するようになってきている。従来の6価クロムを含む化成処理液により得られる化成皮膜は、皮膜中に可溶性の6価クロムが含まれる。このため、そのような皮膜は上記の指令による規制の対象となる。
【0004】
3価クロムを含有する化成処理液では、耐食性を向上させるために、水溶性コバルト含有物質を含有させる場合があった(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-196174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水溶性コバルト含有物質に係る金属であるコバルトは、いわゆるレアメタルの一種であり、低コストで安定的に入手することが困難となる可能性がある。また、コバルトを含有する化合物の中で入手安定性の高いもののいくつか(塩化コバルト、炭酸コバルト、硝酸コバルトおよび硫酸コバルト)は、SVHC(Substance of Very High Concern、高懸念物質)に属し、多くの企業でこれらの物質の使用を制限しようとする動きがみられる。このため、3価クロムを含有する化成処理液において、水溶性コバルト含有物質を実質的に含有しないものが求められる可能性がある。
【0007】
また、化成処理液から形成される化成皮膜についても、その皮膜中に含有される金属系成分が使用中に過度に溶出することは、その金属系成分が環境に対して悪影響を及ぼす可能性が否定されない限り、好ましいこととはいえない。したがって、ある化成皮膜が耐食性に優れるとしても、その優れた耐食性が化成皮膜からの金属系成分の過大な溶出によってもたらされている場合には、環境への影響を考慮すると、その金属系成分を与える水溶性金属含有物質を化成処理液に含有させることが適切でないこともある。
【0008】
本発明は、かかる現状に鑑み、水溶性コバルト含有物質を実質的に含有しない、すなわち、化成皮膜の形成における有効成分として機能する程度には含有しないコバルトフリーであって、耐食性に優れるとともに環境保全への配慮もなされた化成皮膜を形成することが可能な3価クロムを含有する化成処理液を提供することを目的とする。また、かかる化成処理液により形成された化成皮膜をその表面に備える部材の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者らが検討した結果、次の知見を得た。すなわち、3価クロムを含有する化成処理液において、水溶性3価クロム含有物質、水溶性チタン含有物質、および水溶性乳酸含有物質について、これらの物質が所定の関係を満たすように含有させることにより、安定性に優れた化成処理液が得られ、この化成処理液から優れた耐食性を有する化成皮膜を形成することができる。
【0010】
上記の知見に基づき完成された本発明は次のとおりである。
〔1〕 水溶性3価クロム含有物質と、水溶性チタン含有物質と、水溶性乳酸含有物質と、を必須成分として含有し、水溶性グリコール酸含有物質、および乳酸以外かつグリコール酸以外の有機酸である非有効有機酸に基づく水溶性有機酸含有物質である水溶性非有効有機酸含有物質を任意含有成分の少なくとも一部とする、コバルトフリーの化成処理液であって、
(I)前記水溶性グリコール酸含有物質を含有せず、前記水溶性非有効有機酸含有物質を含有しないときは、前記水溶性チタン含有物質のチタン換算モル濃度CTi、前記水溶性3価クロム含有物質のクロム換算モル濃度CCr、および前記水溶性乳酸含有物質の乳酸換算モル濃度CLcは、下記式(1)から下記式(3)を満たし、
CTi/CCr≧0.5 (1)
CLc/(CTi+CCr)≧0.40 (2)
CLc/CTi≦2.6 (3)
(II)前記水溶性グリコール酸含有物質を含有し、前記水溶性非有効有機酸含有物質を含有しないときは、上記式(1)および上記式(3)ならびに下記式(2A)を満たし、
(CLc-α×CGy)/(CTi+CCr)≧0.40 (2A)
ここで、CGyは水溶性グリコール酸含有物質のグリコール酸換算モル濃度であり、αは補正係数であって0.4であり、
(III)前記水溶性グリコール酸含有物質を含有せず、前記水溶性非有効有機酸含有物質を含有するときは、上記式(1)から上記式(3)および下記式(4)を満たし、
0<CCa/CLc≦0.175 (4)
ここで、CCaは、前記水溶性非有効有機酸含有物質の有機酸換算モル濃度であり、
(IV)前記水溶性グリコール酸含有物質を含有し、前記水溶性非有効有機酸含有物質を含有するときは、上記式(1)、上記式(2A)、上記式(3)および上記式(4)を満たすことを特徴とする化成処理液。
〔2〕水溶性アルミニウム含有物質、水溶性ニッケル含有物質、および水溶性マグネシウム含有物質、ならびに水分散性シリカからなる群から選ばれる一種以上をさらに含有する、上記〔1〕に記載の化成処理液。
〔3〕前記非有効有機酸はシュウ酸、リンゴ酸およびクエン酸からなる群から選ばれる1種以上を含む、上記〔1〕または上記〔2〕に記載の化成処理液。
〔4〕上記〔1〕から上記〔3〕のいずれかに記載される化成処理液を、金属系表面を有する基材に接触させて、当該基材の前記金属系表面上に化成皮膜を形成する接触工程と、前記接触工程を経た前記基材を洗浄して、前記化成皮膜をその表面に備える部材を得る洗浄工程とを備えることを特徴とする、化成皮膜をその表面に備える部材の製造方法。
〔5〕前記金属系表面が、亜鉛系めっき皮膜の面を含む、上記〔4〕に記載の部材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来耐食性に優れる化成皮膜を形成するために多用されてきた水溶性コバルト含有物質を用いることなく、すなわち、コバルトフリーで、耐食性に優れ、環境保全への配慮もなされた化成皮膜を形成することが可能な化成処理液が提供される。また、かかる化成処理液により形成された化成皮膜をその表面に備える部材の製造方法も提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。
1.反応型化成処理用酸性組成物
本発明に係る一実施形態に係る反応型化成処理用酸性組成物(本明細書において「化成処理液」ともいう。)の組成について説明する。本発明に係る一実施形態に係る化成処理液は、水溶性3価クロム含有物質と、水溶性チタン含有物質と、水溶性乳酸含有物質と、を必須成分として含有し、水溶性非有効有機酸含有物質を任意含有成分の少なくとも一部とする、コバルトフリーの化成処理液である。当該化成処理に含まれる成分について以下に詳しく説明する。
【0013】
(1)水溶性3価クロム含有物質
本発明に係る一実施形態に係る化成処理液は少なくとも1種の水溶性3価クロム含有物質を含有する。水溶性3価クロム含有物質は、3価クロム(Cr3+)およびこれを含有する水溶性物質からなる群から選ばれる物質である。
【0014】
水溶性3価クロム含有物質を化成処理液に含有させるために配合される物質、つまり水溶性3価クロム含有物質の原料物質として、水中で水溶性3価クロム含有物質を生成することが可能な水溶性化合物(以下「水溶性3価クロム化合物」という。)を用いることが好ましい。
【0015】
水溶性3価クロム化合物を例示すれば、塩化クロム、硫酸クロム、硝酸クロム、リン酸クロム、酢酸クロム等の3価クロム塩の他、クロム酸や重クロム酸塩等の6価クロム化合物を還元剤により3価に還元した化合物が挙げられる。水溶性3価クロム化合物は一種の化合物のみで構成されていてもよいし、複数種類で構成されていてもよい。なお、本実施形態に係る化成処理液に対して6価クロム化合物が原材料として積極的に添加されていないため、本実施形態に係る化成処理液は6価クロムを実質的に含有していない。
【0016】
本実施形態に係る化成処理液における水溶性3価クロム含有物質の含有量は、化成皮膜の形成のしやすさを向上させる観点からクロム換算で0.01mol/L以上とすることが好ましく、0.02mol/L以上とすることがより好ましく、0.04mol/L以上とすることが特に好ましい。その含有量の上限は特に限定されないが、過度に多く含有させることは経済性の観点や廃液処理の観点から問題を生ずるおそれがあるため、クロム換算で0.15mol/L程度を上限とすることが好ましく、0.12mol/L程度を上限とすることがより好ましく、0.1mol/L程度を上限とすることが特に好ましい。
【0017】
(2)水溶性チタン含有物質
本実施形態に係る化成処理液は少なくとも1種の水溶性チタン含有物質を含有する。水溶性チタン含有物質は、チタンイオン(Ti3+、Ti4+)およびこれを含有する水溶性物質からなる群から選ばれる。
【0018】
水溶性チタン含有物質を化成処理液に含有させるために配合される物質、つまり水溶性チタン含有物質の原料物質として、水中で水溶性チタン含有物質を生成することが可能な水溶性化合物(以下「水溶性チタン化合物」という。)を用いることが好ましい。
【0019】
水溶性チタン化合物を例示すれば、Tiの炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フッ化物、フルオロ酸(塩)、有機酸塩、有機錯化合物等を用いることができる。具体的には、酸化チタン(IV)(チタニア)、硝酸チタン、硫酸チタン(III)、硫酸チタン(IV)、塩化チタン(IV)、硫酸チタニルTiOSO4、フッ化チタン(III)、フッ化チタン(IV)、ヘキサフルオロチタン酸H2TiF6、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム[(NH42TiF6]、チタンラウレート、ジイソプロポキシチタニウムビスアセトン(C5722Ti[OCH(CH322、チタニウムアセチルアセトネートTi(OC(=CH2)CH2COCH33等が挙げられる。これらは無水物であってもよいし水和物であってもよい。なお、本実施形態に係る化成処理液は、環境負荷の少ない化成処理液とすることが好ましいため、水溶性チタン化合物はフッ素を含有しないことが好ましい。
【0020】
本実施形態に係る化成処理液における水溶性チタン含有物質の含有量は、化成皮膜の形成のしやすさを向上させる観点からチタン換算で0.0001mol/L以上とすることが好ましく、0.0005mol/L以上とすることがより好ましく、0.001mol/L以上とすることが特に好ましい。その含有量の上限は特に限定されないが、過度に多く含有させることは、化成処理液の安定性を低下させる可能性を高めたり、経済性の観点や廃液処理の観点から問題を生ずる可能性を高めたりするため、チタン換算で1mol/L程度を上限とすることが好ましく、0.5mol/L程度を上限とすることがより好ましく、0.1mol/L程度を上限とすることが特に好ましい。
【0021】
本実施形態に係る化成処理液は、処理液の安定性を高めつつ、化成処理液から形成された化成皮膜が高い耐食性を有する観点から、下記式(1)を満たす。
CTi/CCr≧0.5 (1)
ここで、CTiは水溶性チタン含有物質のチタン換算モル濃度(単位:mol/L)であり、CCrは水溶性3価クロム含有物質のクロム換算モル濃度(単位:mol/L)である。水溶性チタン含有物質のチタン換算モル濃度CTiが水溶性3価クロム含有物質のクロム換算モル濃度CCrの0.5倍以上であることにより、耐食性に優れた化成皮膜が得られる。耐食性に優れた化成皮膜を得る観点から、CTi/CCrは、0.7倍以上であることが好ましい場合があり、1以上であることがより好ましい場合があり、1.2以上であることが特に好ましい場合がある。化成皮膜の耐食性の観点からは、CTi/CCrの上限は設定されないが、化成処理液の安定性や、一般的にクロムよりも高価なチタンを多量に使用することによる経済性の観点から、CTi/CCrは、2.0以下であることが好ましい場合がある。
【0022】
(3)水溶性乳酸含有物質
本実施形態に係る化成処理液は水溶性乳酸含有物質を含有する。本明細書において「水溶性乳酸含有物質」とは、乳酸ならびにそのイオン、塩、誘導体および配位化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上からなり、水系の組成物である化成処理液中に溶解した状態にある化合物を意味する。
【0023】
水溶性乳酸含有物質を化成処理液に含有させるために配合される物質として、水中で乳酸を生成することが可能な水溶性化合物(以下「乳酸源」という。)を用いることが好ましい。乳酸源の具体例として、乳酸エステル等の乳酸誘導体、乳酸、乳酸塩(金属塩)などが挙げられる。溶解度の高さや、生成した水溶性乳酸含有物質と化成処理液に含有される他の成分との相互作用のしやすさなどを向上させる観点から、乳酸源は乳酸塩であってもよい。そのような乳酸塩として、乳酸ナトリウム、乳酸カリウムなどが例示される。
【0024】
本実施形態に係る化成処理液における水溶性乳酸含有物質の含有量は、化成皮膜の形成のしやすさを向上させる観点や化成処理液の安定性の観点から乳酸換算で0.001mol/L以上とすることが好ましく、0.004mol/L以上とすることがより好ましく、0.008mol/L以上とすることが特に好ましい。その含有量の上限は特に限定されないが、過度に多く含有させることは、化成皮膜の耐食性の観点や経済性の観点や廃液処理の観点から問題を生ずる可能性を高めたりするため、水溶性乳酸含有物質の含有量は、0.4mol/L程度を上限とすることが好ましく、0.2mol/L程度を上限とすることがより好ましく、0.1mol/L程度を上限とすることが特に好ましい。
【0025】
本実施形態に係る化成処理液は、水溶性グリコール酸含有物質を含有せず、水溶性非有効有機酸含有物質を含有しないとき、下記式(2)を満たす。水溶性グリコール酸含有物質および水溶性非有効有機酸含有物質については、定義を含め後述する。
CLc/(CTi+CCr)≧0.40 (2)
【0026】
ここで、CLcは水溶性乳酸含有物質の乳酸換算モル濃度である。化成処理液中が上記式(2)を満たす、すなわち、水溶性乳酸含有物質の乳酸換算モル濃度CLcが、水溶性3価クロム含有物質のクロム換算モル濃度CCrと水溶性チタン含有物質のチタン換算モル濃度CTiとの総和に対して0.40倍以上であることにより、化成処理液の安定性を確保することができる。本実施形態に係る化成処理液において、乳酸は、チタンイオンおよび3価クロムの双方に対して相互作用し、これらのイオンの化成処理液中の安定性に関与していると考えられる。
【0027】
CLc/(CTi+CCr)の上限は、化成皮膜の耐食性を特に高める観点から、3以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましい。
【0028】
本実施形態に係る化成処理液は、水溶性非有効有機酸含有物質を含有しないとき、下記式(3)を満たす。
CLc/CTi≦2.6 (3)
【0029】
水溶性乳酸含有物質の乳酸換算モル濃度の水溶性チタン含有物質のチタン換算モル濃度に対する比率(「乳酸/チタン比」ともいう。)が2.6倍以下であることにより、耐食性に優れる化成皮膜を得ることができる。なお、化成処理液を調製する際に、水溶性乳酸含有物質および水溶性チタン含有物質を金属塩(テトラキス乳酸チタン(IV))として用いると、乳酸/チタン比は4となり、2.6以下とすることができない。したがって、乳酸/チタン比を2.6以下とする場合には、乳酸を含まないチタン源(塩化チタンなど)を用いて化成処理液を調製することが、効率的である場合がある。
【0030】
(4)他の水溶性有機酸含有物質
なお、本実施形態に係る化成処理液は、上記の乳酸以外の有機酸に基づく水溶性有機酸含有物質を含有してもよい。そのような有機酸として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等のモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸;トリカルバリル酸、アコニット酸等のトリカルボン酸;グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸、アスコルビン酸等のヒドロキシカルボン酸;およびグリシン、アラニン等のアミノカルボン酸が例示される。
【0031】
(4-1)水溶性グリコール酸含有物質
水溶性有機酸含有物質に係る有機酸がグリコール酸である場合には、その構造が乳酸に近いため、クロムイオンおよびチタンイオンに対して相互作用する乳酸と競争関係になる。すなわち、グリコール酸が乳酸のマスキング剤として作用する。それゆえ、水溶性有機酸含有物質に係る有機酸がグリコール酸である場合、すなわち、本実施形態に係る化成処理液が、水溶性グリコール酸含有物質を含有する場合には、上記式(2)は、下記式(2A)のように修正される。
(CLc-α×CGy)/(CTi+CCr)≧0.40 (2A)
ここで、CGyは水溶性グリコール酸含有物質のグリコール酸換算モル濃度であり、αは補正係数であり、実験的に0.4と求められる。
【0032】
(4-2)水溶性非有効有機酸含有物質
本実施形態に係る化成処理液が、乳酸以外かつグリコール酸以外の有機酸である非有効有機酸に基づく水溶性有機酸含有物質である水溶性非有効有機酸含有物質を含有する場合には、かかる水溶性非有効有機酸含有物質の有機酸換算モル濃度CCaは、下記式(4)を満たし、下記式(4A)を満たすことが好ましい場合があり、下記式(4B)を満たすことがより好ましい場合がある。
0<CCa/CLc≦0.175 (4)
0<CCa/CLc≦0.15 (4A)
0<CCa/CLc≦0.1 (4B)
【0033】
非有効有機酸の具体例として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸;リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸等のヒドロキシポリカルボン酸などが挙げられる。
【0034】
以上の、必須成分としての水溶性3価クロム含有物質、水溶性チタン含有物質および水溶性乳酸含有物質と、任意成分としての水溶性グリコール酸含有物質および水溶性非有効有機酸含有物質との関係は次のようにまとめることができる。
(I)水溶性グリコール酸含有物質を含有せず、水溶性非有効有機酸含有物質を含有しないときは上記式(1)から上記式(3)を満たす。
(II)水溶性グリコール酸含有物質を含有し、水溶性非有効有機酸含有物質を含有しないときは、上記式(1)および上記式(3)ならびに上記式(2A)を満たす。
(III)水溶性グリコール酸含有物質を含有せず、水溶性非有効有機酸含有物質を含有するときは、上記式(1)から上記式(3)および上記式(4)(好ましくは上記式(4A)、より好ましくは上記式(4B))を満たす。
(IV)水溶性グリコール酸含有物質を含有し、水溶性非有効有機酸含有物質を含有するときは、上記式(1)、上記式(2A)、上記式(3)および上記式(4)(好ましくは上記式(4A)、より好ましくは上記式(4B))を満たす。
【0035】
(5)その他の成分
本実施形態に係る化成処理液は、上記の物質に加え、上記の金属元素(CrおよびTi)以外の金属元素に係る水溶性金属含有物質、無機酸およびその陰イオン、無機コロイド、シランカップリング剤、ならびに有機リン化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含んでもよい。また、ピロガロール、ベンゼンジオール等のポリフェノール;腐食抑制剤;ジオール、トリオール、アミン等の界面活性剤;可塑性分散;染料、顔料、金属色素生成剤等の色素生成剤などの着色材料;乾燥剤および分散剤からなる群から選ばれる1種または2種以上の成分をさらに含有していてもよい。
【0036】
本実施形態に係る化成処理液は、環境に与える影響を低減する観点からフッ素を含有する水溶性物質を実質的に含有しない。また、本実施形態に係る化成処理液による化成処理は反応型であるから、造膜性の有機成分を実質的に含有しない。
【0037】
上記の金属(CrおよびTi)以外の金属に係る水溶性金属含有物質に含有される金属元素として、Zn、Ni、Na、K、Ag、Fe、Ca、Mg、Sc、Mn、Cu、Sn、Mo、AlおよびWが例示され、水和イオンの形で存在していてもよいし、タングステン酸イオンのように酸素酸イオンの形で存在していてもよいし、配位化合物の形で存在していてもよい。これらの水溶性金属含有物質を含有させることにより、追加的な効果が得られる場合もある。例えば、水溶性アルミニウム含有物質を含有させると、得られる化成皮膜の外観が向上したり、耐食性や金属の溶解量といった皮膜特性の基材依存性(一具体例として、亜鉛系めっきを形成する浴の種類が異なる場合の皮膜特性の変化しやすさが挙げられる。)が低下したりする。
【0038】
上記の水溶性金属含有物質の含有量は特に限定されない。各水溶性金属含有物質に含有される金属元素の役割に応じて、適宜設定される。例えば、水溶性アルミニウム含有物質の場合には、アルミニウム換算で0.0001mol/L以上とすることが好ましく、0.0005mol/L以上とすることがより好ましく、0.001mol/L以上とすることが特に好ましい。その含有量の上限は特に限定されないが、過度に多く含有させることは、化成処理液の安定性を低下させる可能性を高めたり、経済性の観点や廃液処理の観点から問題を生ずる可能性を高めたりするため、アルミニウム換算で1mol/L程度を上限とすることが好ましく、0.5mol/L程度を上限とすることがより好ましく、0.1mol/L程度を上限とすることが特に好ましい。また、水溶性ニッケル含有物質の場合には、ニッケル換算で0.0001mol/L以上とすることが好ましく、0.0005mol/L以上とすることがより好ましく、0.001mol/L以上とすることが特に好ましい。水溶性ニッケル含有物質の含有量の上限は特に限定されないが、過度に多く含有させることは、化成処理液の安定性を低下させる可能性を高めたり、経済性の観点や廃液処理の観点から問題を生ずる可能性を高めたりするため、ニッケル換算で1mol/L程度を上限とすることが好ましく、0.5mol/L程度を上限とすることがより好ましく、0.1mol/L程度を上限とすることが特に好ましい。
【0039】
なお、本実施形態に係る化成処理液は、環境への影響が懸念される水溶性コバルト含有物質を実質的に含有しない。また、化成処理液が水分散性シリカを含有する場合には、酸性のシリカ粒子を用いることが好ましい。この点について適切に対応している場合には、水分散性シリカを0.001mol/L以上0.1mol/L以下の範囲で化成処理液に含有させることができる。化成処理液が酸性のシリカ粒子を含む水分散性シリカを含有することにより、得られた化成皮膜の耐食性を高めることができる場合がある。
【0040】
無機酸としては、塩化水素酸、臭化水素酸などのフッ素以外のハロゲン化水素酸、塩素酸、過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸(オルトリン酸)、ポリリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、ウルトラリン酸、次亜リン酸、および過リン酸が例示され、特にフッ素以外のハロゲン化水素酸、硫酸、硝酸およびリン酸(オルトリン酸)からなる群から選ばれる1種または2種以上が陰イオンとして含有されることが好ましい。
【0041】
これらの無機酸および/または無機酸イオンの化成処理液中濃度は特に限定されない。一般的には、水溶性金属含有物質の金属換算の合計モル濃度に対する無機酸および無機酸イオンの合計モル濃度の比率として、0.1以上10以下であり、好ましくは、0.5以上3以下である。
【0042】
無機コロイドとして、アルミナゾル、チタンゾル、ジルコニアゾルが例示され、シランカップリング剤として、ビニルトリエトキシシランおよびγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが例示される。
【0043】
(5)溶媒、pH
本実施形態に係る化成処理液の溶媒は水を主成分とする。環境保護や処理安全性の観点から、溶媒は水からなることが好ましい。
【0044】
また、本実施形態に係る化成処理液は化成処理を進行させる観点から酸性とされ、したがってpHは7未満とされる。酸性範囲内でのpHの好ましい値は特に限定されない。pHが過度に低い場合には化成皮膜の形成が不均一となる可能性が高まること、pHが過度に高い場合には化成処理液の安定性が低下する可能性が高まることを考慮して適宜設定すればよい。化成皮膜の品質および化成処理液の安定性を高める観点から、pHは、1以上5以下とすることが好ましく、1.5以上4.5以下とすることがより好ましく、2以上4以下とすることが特に好ましい。
【0045】
2.化成処理液を調製するための濃厚組成物
上記の化成処理液の主要成分が5から20倍程度に濃縮された組成を有する液状組成物(以下、「化成処理用濃厚液」という。)を用意すれば、各成分の含有量を個別に調製する手間が省ける上に、保管が容易であるから、好ましい。この化成処理用濃厚液を調製する場合には、上記の各成分の溶解度も考慮してその含有量に上限が設定される。
【0046】
3.化成処理が行われる基材
本実施形態に係る化成処理が行われる基材の材質は、本実施形態に係る化成処理液を用いて化成皮膜を形成できる金属系表面を有する限り、特に制限されない。好ましい素材は金属系材料であり、特に、亜鉛系のめっきが施された鋼板が特に好ましい。めっき方法は電気めっきでも溶融めっきでもよく、溶融めっきの場合には合金化処理がめっき後に施されてもよい。
【0047】
なお、上記の亜鉛系めっきの組成は純亜鉛でもよいし亜鉛合金でもよい。亜鉛合金めっきの場合には、合金金属として鉄、ニッケルおよびアルミニウムが例示される。めっき方法は電気めっきでも溶融めっきでもよい。電気めっきの場合には、シアン浴、塩化浴、硫酸浴およびジンケート浴のいずれであってもよく、めっき皮膜形成後にベーキング処理が行われていてもよい。また、溶融めっきの場合には合金化処理がめっき後に施されてもよい。
【0048】
4.化成皮膜をその表面に備える部材の製造方法
本実施形態に係る化成処理液を用いた、化成皮膜をその表面に備える部材の製造方法について説明する。
【0049】
本実施形態に係る製造方法は、本実施形態に係る化成処理液を、金属系表面を有する基材に接触させて、この基材の金属系表面上に化成皮膜を形成する接触工程と、接触工程を経た基材を洗浄して、化成皮膜をその表面に備える部材を得る洗浄工程とを備える。
【0050】
接触工程において、本実施形態に係る化成処理液を金属系表面を有する基材に接触させる方法は特に限定されない。最も簡便な方法は浸漬であるが、スプレーでもよいし、ロールなどを用いた塗布でもよい。接触条件(接触温度、接触時間)は特に限定されず、化成処理液の組成、基材表面を構成する材料の組成、生産性などを考慮して適宜設定すればよい。化成処理液の温度が室温から40℃程度である場合には、10秒間から5分間程度接触させることが多い。なお、本実施形態に係る化成処理液は、反応型の化成処理液であるから、時間を過度に長くしても、化成皮膜の厚さが時間に応じて厚くなることは通常ない。
【0051】
接触工程に供される基材は、公知の方法で洗浄(例えば脱脂およびすすぎ)され、さらに酸水溶液(例えば数ml/L程度の硝酸水溶液)に接触(室温程度、10秒間程度)することにより活性化処理が施されていてもよい。
【0052】
接触工程を経た基材は、例えば水などを用いて洗浄される。この点は、いわゆる塗布型の化成処理液と異なる点であり、本実施形態に係る化成処理液が反応型の化成処理液であるために行われる工程である。かかる工程により、接触工程を経た基材の表面に残留する化成処理液は洗い流され、基材およびその表面に形成された化成皮膜を備える部材が得られる。洗浄後の部材に対しては、化成皮膜および基材に付着する水分を除去する目的で、通常、乾燥工程が施される。乾燥条件(乾燥温度、乾燥時間)は特に限定されない。基材の耐熱性、生産性などを考慮して適宜設定される。100℃程度以下の温度に維持されたオーブン内に10分程度静置することにより乾燥される場合もあれば、遠心分離機を用いて乾燥される場合もあり、通常の環境に静置することによって乾燥させる場合もある。なお、化成皮膜の種類によっては、乾燥の際に組成の変化、例えば水酸化物の一部または全部の酸化物への変化が生じる場合もある。
【0053】
なお、本実施形態に係る製造方法は、上記の部材を本実施形態に係る化成処理液により処理して化成皮膜を形成した後に、耐食性や耐疵付き性を高めるための仕上げ剤による処理を行って仕上げ皮膜を形成する仕上げ処理工程を備えてもよい。仕上げ処理と乾燥工程との関係は任意であり、洗浄工程後仕上げ処理工程を行ってから乾燥工程を行ってもよいし、洗浄工程後乾燥工程を行ってから仕上げ処理工程を行ってもよい。
【0054】
5.化成処理液の使用方法
本実施形態に係る化成処理液の使用方法について説明する。
本実施形態に係る使用方法は、本実施形態に係る化成処理液である酸性組成物を、金属系表面を有する基材に接触させて、この基材の金属系表面上に化成皮膜を形成することを含む。
【0055】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例
【0056】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0057】
1.試験部材の作製
(実施例1)
表1から表9に示される化成処理液を調製した。各化成処理液の溶媒は純水であった。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
【表7】
【0065】
【表8】

【0066】
【表9】
【0067】
表9における「マグネシウム」は水酸化マグネシウムとして添加した。表9における「コロイダルシリカ」はユケン工業株式会社製の酸性のシリカ粒子を含む水分散性シリカ「メタスYFA-30HR」(平均粒径D50:10nm)であった。
【0068】
10μm程度の亜鉛めっきが施された鉄製平板状試験片(50mm×100mm、厚さ0.8mm)を、23℃の純水中に10秒間基材を揺動させながら浸漬させることにより、すすぎを行った。すすぎを経た亜鉛めっき処理後の基材を、23℃の希硝酸水溶液(3ml/L)に10秒間基材を揺動させながら浸漬させることにより、活性化処理を行った。希硝酸水溶液から取り出した基材を、23℃の純水中に10秒間基材を揺動させながら浸漬させることにより、すすぎを行った。
【0069】
すすぎを経た活性化処理後後の基材を、40℃に維持された上記の表1から表9に示されるいずれかの化成処理液に40秒間基材を揺動させながら浸漬させることにより、化成処理を行った。化成処理液から取り出した基材を、23℃の純水中に10秒間基材を揺動させながら浸漬させることにより、すすぎを行った。すすぎを経た化成処理後後の基材を、80℃に維持されたオーブン内に10分間静置することにより、乾燥させた。こうして、化成皮膜がその表面に形成された試験部材を得た。
【0070】
2.試験部材の評価
(1)耐食性の評価
得られた試験部材1-1から1-25に対してJIS Z2371:2000(ISO 9227:1990)に準拠して中性塩水噴霧試験を行い、所定の期間(24時間~72時間)試験した後の試験部材の主面における白錆の発生面積を目視で測定し、その測定結果から試験部材の主面の面積に対する比率(白錆面積率、:%)を算出し、白錆面積率が5%未満である場合には、中性塩水噴霧試験を継続し、白錆面積率が5%以上であった場合には試験を終了して、総試験時間を5%白錆発生時間(単位:時間)とした。
【0071】
(2)化成処理液の性状評価
調製直後の化成処理液を72時間静置した後観察して、濁りや沈殿が発生しているか否かを評価した。発生していない場合には良好(表中「○」)、発生していた場合には不良(表中「×」)と評価した。
【0072】
3.結果
測定結果および評価結果を表1から表9に示した。また、化成処理液にグリコール酸が含有される場合(表4から表6)には、式(2)の左辺の計算値に加えて、式(2A)の左辺の計算値を表に示した。
【0073】
表1から表9に示されるように、グリコール酸を含有しない場合には、式(1)、式(2)および式(3)を満たすことにより、グリコール酸を含有する場合には、式(1)、式(2A)および式(3)を満たすことにより、化成処理液の性状が良好であり、得られた化成皮膜の5%白錆発生時間が350時間以上となる結果が得られた。また、サンプルNo.1-2等に示されるように、化成処理液にアルミニウム成分やニッケル成分を含有させてもよいことが確認された。
【0074】
一方、表2のサンプルNo.1-13に示されるように、チタン成分を含有しない場合には耐食性に優れる化成皮膜が得られなかった。また、表4から表6に示されるように、グリコール酸成分が乳酸成分との対比で相対的に多く含有されて式(2A)を充足できない場合には、化成処理液の性状が安定しない、化成皮膜の耐食性が低下する、の少なくとも一方が生じることが確認された。表7に示されるように、乳酸成分の含有量がチタン成分の含有量との対比で相対的に多くなって式(3)を充足しなくなると、化成皮膜の耐食性が低下することが確認された。
【0075】
(実施例2)
表10から表12に示される化成処理液を、純水を溶媒として調製した。得られた化成処理液について、実施例1と同様の評価を行い、その結果を表10および表11に示した。
【0076】
【表10】
【0077】
【表11】
【0078】
【表12】
【0079】
表10から表12に示されるように、水溶性非有効有機酸含有物質を含有するときは上記式(4)を満たす場合には、化成処理液に沈殿が生じず、液安定性を確保することができた。上記式(4A)を満たす場合には、液安定性の低下をより安定的に抑制することができ、上記式(4B)を満たす場合には、液安定性の低下を特に安定的に抑制することができた。
【要約】
本発明に係る化成処理液は、コバルトフリーであって、耐食性に優れる化成皮膜を形成することが可能であって、水溶性3価クロム含有物質と、水溶性チタン含有物質と、水溶性乳酸含有物質と、を必須成分として含有し、水溶性グリコール酸含有物質、および乳酸以外かつグリコール酸以外の有機酸である非有効有機酸に基づく水溶性有機酸含有物質である水溶性非有効有機酸含有物質を任意含有成分の少なくとも一部とする。水溶性グリコール酸含有物質を含有せず、水溶性非有効有機酸含有物質を含有しないときは、水溶性チタン含有物質のチタン換算モル濃度CTi、水溶性3価クロム含有物質のクロム換算モル濃度CCr、および水溶性乳酸含有物質の乳酸換算モル濃度CLcは、下記式(1)から下記式(3)を満たす。
CTi/CCr≧0.5 (1)
CLc/(CTi+CCr)≧0.40 (2)
CLc/CTi≦2.6 (3)