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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】SiCエピタキシャルウェハ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20220902BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20220902BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20220902BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20220902BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20220902BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L21/20
C30B29/36 A
C30B25/20
C23C16/42
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017126744
(22)【出願日】2017-06-28
(65)【公開番号】P2019009400
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-03-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】亀井 宏二
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-231457(JP,A)
【文献】特開2016-032002(JP,A)
【文献】特開2011-219297(JP,A)
【文献】特開2017-108026(JP,A)
【文献】特開2018-108916(JP,A)
【文献】N. ZHANG et al.,NUCLEATION MECHANISM OF DISLOCATION HALF-LOOP ARRAYS IN 4H-SILICON CARBIDE,APPLIED PHYSICS LETTERS,2009年,94,p.122108-1 - 122108-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
H01L 21/20
C30B 29/36
C30B 25/20
C23C 16/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
c面に対してオフ角を有する面を主面とし、周縁部にベベル部を有する4H-SiC単結晶基板と、
前記4H-SiC単結晶基板上に形成された、20μm以上の膜厚のSiCエピタキシャル層と、を備え、
前記SiCエピタキシャル層は、前記主面上と前記ベベル部上とに形成され、
前記SiCエピタキシャル層の外周端から延在する界面転位密度が10本/cm以下であるSiCエピタキシャルウェハ。
【請求項2】
<11-20>方向の中心線を中心にして25°~155°、及び、205°~335°の中心角の範囲の界面転位密度が10本/cm以下である請求項1に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiCエピタキシャルウェハ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きく、熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。炭化珪素はこれらの特性を有することから、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。このため、近年、上記のような半導体デバイスにSiCエピタキシャルウェハが用いられるようになっている。
【0003】
SiCデバイスの実用化の促進には、高品質の結晶成長技術、高品質のエピタキシャル成長技術の確立が不可欠である。
【0004】
SiCデバイスは、昇華再結晶法等で成長させたSiCのバルク単結晶から加工して得られたSiC単結晶基板(単に、SiC基板ということもある)上に、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)等によってデバイスの活性領域となるSiCエピタキシャル層(膜)を成長させたSiCエピタキシャルウェハを用いて作製されるのが一般的である。
【0005】
SiCエピタキシャルウェハはより具体的には、(0001)面から<11-20>方向にオフ角を有する面を成長面とするSiC単結晶基板上にステップフロー成長(原子ステップからの横方向成長)させて4HのSiCエピタキシャル層を成長させるのが一般的である。
【0006】
SiC単結晶基板には、貫通螺旋転位(Threading Screw Dislocation:TSD)や貫通刃状転位(Threading Edge Dislocation:TED)、あるいは基底面転位(Basal Plane Dislocation:BPD)と呼ばれる結晶欠陥が一般に内在しており、これらの結晶欠陥によってデバイス特性が劣化する場合がある。これらの転位は基本的にはSiC単結晶基板からSiCエピタキシャル膜に伝播する。
【0007】
一方、SiCエピタキシャル膜内には、界面転位と呼ばれる転位が発生することが知られている。この界面転位は、基底面転位のうちの一種であり、SiC基板とSiCエピタキシャル膜との界面付近においてSiC基板のオフカット方向と直行する方向(オフカット方向が<11-20>である場合には、<1-100>方向)に伸張したものである。界面転位は、前記界面付近のストレスを緩和するために伸張がなされたものとされている。
【0008】
更に、SiCエピタキシャル膜には、SiC単結晶基板から伝播した貫通刃状転位だけではなく、貫通刃状転位列(図8中の「TEDペア」)が形成されることがある。具体的には、エピタキシャル成長時に新たに発生した2個の貫通刃状転位がペアになり、オフカット方向が<11-20>である場合には、この2個の転位のペアが<1-100>方向に列状に並んで連続し、貫通刃状転位列を形成することがある。貫通刃状転位列が発生する結果、エピタキシャル膜の方がSiC単結晶基板よりも転位密度が高くなり、エピタキシャル成長において結晶性を悪くしてしまうことがある。この貫通刃状転位のペアは、その底部において基底面転位によってハーフループ(半ループ)状につながっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-34776号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】X. Zhang et al., Journal of Applied Physics 102, 093520 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非特許文献1において、X線トポグラフィーやフォトルミネッセンス(PL)等による観察に基づいて明らかにされた貫通刃状転位列の発生と上記界面転位との関係、及び、X線トポグラフィー像及びPL像の特徴について、図8を用いて説明する。
図8は、SiC単結晶基板上にSiCエピタキシャル膜が形成されたSiCエピタキシャルウェハを模式的に示した斜視図である。
【0012】
X線トポグラフィー像においては、L字状の転位が観察される。このL字状の転位は、図8中のAB部(界面転位)とBC部(基底面転位)が観察されたものである。BC部は(0001)基底面に載ったままSiCエピタキシャル膜を横断してSiCエピタキシャル膜の表面におけるC点で終端している。このL字状の転位は、エピタキシャル成長中にBC部が右側方向に移動していき、これに伴い、AB部(界面転位)が右側へ延びていく。こうしてAB部(界面転位)が右側へ延びていく際に、Cの部分で貫通刃状転位列(図8中の「TEDペア」)が順次形成され、貫通刃状転位列のアレイができる(貫通刃状転位列がステップフロー方向に直交する方向に並んだ構造を以下、ペアアレイという)。このように、貫通刃状転位列の発生と界面転位とは密接に関係している。
X線トポグラフィー像において、貫通刃状転位列の像は右側へ行くほど表面から浅い位置に存在するため、コントラストが弱くなる。
X線トポグラフィー像では、AB部(界面転位)、BC部(基底面転位)及び貫通刃状転位列は全て観察されることが多い。
【0013】
一方、フォトルミネッセンス(PL)像においては、貫通刃状転位列のアレイはドットのアレイとして観察され、BC部(基底面転位)は線状に観察される。一方、AB部(界面転位)の観察は難しい。
そのため、PL像において、ドットのアレイとBC部(基底面転位)に対応する線状模様を観察することにより、界面転位の存在を知ることができる。
なお、貫通刃状転位列のアレイはステップフロー方向に直交して延在し、1本の貫通刃状転位列のアレイとその発生に起因する1本の界面転位とは互いに平行に延在するので、1本のドットのアレイを見つけることにより、ステップフロー方向に直交して延在する1本の界面転位の存在を確認できる。また、BC部(基底面転位)はステップフロー方向に平行に延在し、1本のBC部(基底面転位)とその発生に起因する1本の界面転位とは互いに直行して延在するので、1本のBC部(基底面転位)に対応する線状模様を見つけることにより、ステップフロー方向に直交して延在する1本の界面転位の存在を確認できる。
【0014】
以上の従来知られている界面転位は、SiC基板の基底面転位(BPD)がある箇所に発生するものである。
【0015】
これに対して、本発明者は、SiC基板上にSiCエピタキシャル膜が成長する際に、SiC基板の外周端から延在する、新規の界面転位(以下、「外端界面転位」という)を発見した。本発明者は、この外端界面転位について鋭意研究を重ねることによって、SiCエピタキシャル膜が厚くなることによって発生することを見出した。従来の界面転位は、SiC基板のBPDがある箇所が起点であったのが、本発明者が見出した界面転位(外端界面転位)はSiC基板の外周端が起点である点が異なる。この界面転位も、従来の界面転位と同様に、デバイスの信頼性を低下させるものであるから、低減されるべきものである。
これまで、外端界面転位が見つからなかったのは、SiCエピタキシャル膜の厚さが、外端界面転位が発生するほど厚い膜を用いることが少なかったことによるものと考えられる。
【0016】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、20μm以上の膜厚のSiCエピタキシャル膜を有し、外端界面転位の密度が低いSiCエピタキシャルウェハ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0018】
(1)本発明の一態様に係るSiCエピタキシャルウェハは、c面に対してオフ角を有する面を主面とし、周縁部にベベル部を有する4H-SiC単結晶基板と、前記4H-SiC単結晶基板上に形成された、20μm以上の膜厚のSiCエピタキシャル層と、を備え、前記SiCエピタキシャル層の外周端から延在する界面転位密度が10本/cm以下である。
【0019】
(2)本発明の一態様に係るSiCエピタキシャルウェハは、c面に対してオフ角を有する面を主面とし、周縁部にベベル部を有する4H-SiC単結晶基板と、前記4H-SiC単結晶基板上に形成された、20μm以上の膜厚のSiCエピタキシャル層と、を備え、前記ベベル部が、前記主面から連続する斜面部と外周端部とからなり、前記斜面部の幅が150μm以上である。
【0020】
(3)上記(1)又は(2)のいずれかに記載のウSiCエピタキシャルウェハにおいて、<11-20>方向の中心線を中心にして25°~155°、及び、205°~335°の中心角の範囲の界面転位密度が10本/cm以下であってもよい。
【0021】
(4)本発明の一態様に係るSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、周縁部にベベル部を有する4H-SiC単結晶基板であって、前記ベベル部が、前記主面から連続する斜面部と外周端部とからなり、前記斜面部の幅が150μm以上である4H-SiC単結晶基板を用いる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のSiCエピタキシャルウェハによれば、20μm以上の膜厚のSiCエピタキシャル膜を有し、外端界面転位の密度が低いSiCエピタキシャルウェハを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】SiC単結晶基板の周縁部近傍の断面模式図である。
図2】SiCエピタキシャルウェハの周縁部近傍の断面模式図である。
図3】SiCエピタキシャルウェハについて得られたPL像及び観察箇所を示す模式であって、(a)オリフラの位置におけるPL像であり、(b)は、オリフラの反対側の位置におけるPL像であり、(c)は、SiCエピタキシャルウェハにおけるオリフラの位置とステップフロー方向の関係等を示す模式図である。
図4】SiC基板とその上に成長するSiCエピタキシャル膜の成長の2段階を示す断面模式図であり、(a)は斜面部の幅が大きい場合であり、(b)は斜面部の幅が小さい場合である。
図5】エピタキシャル膜の膜厚と外端界面転位の発生の有無との関係を調べた結果を示す図である。
図6図5に示した、傾斜部が170μmでかつSiCエピタキシャル膜の膜厚が28μmの場合の像であり、(a)は共焦点顕微鏡像、(b)はPL像である。
図7】(a)は図5に示した、傾斜部が150μmでかつSiCエピタキシャル膜の膜厚が33μmの場合のPL像であり、(b)は傾斜部が0μmでかつSiCエピタキシャル膜の膜厚が33μmの場合のPL像である。
図8】貫通刃状転位列の発生と界面転位との関係を説明するための、SiC単結晶基板上にSiCエピタキシャル膜が形成されたSiCエピタキシャルウェハを模式的に示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を適用した実施形態であるSiCエピタキシャルウェハ及びその製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0025】
(SiCエピタキシャルウェハ)
本発明の一実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハは、c面に対してオフ角を有する面を主面とし、周縁部にベベル部を有する4H-SiC単結晶基板と、前記4H-SiC単結晶基板上に形成された、20μm以上の膜厚のSiCエピタキシャル層と、を備え、前記SiCエピタキシャル層の外周端から延在する界面転位の密度が10本/cm以下である。
「外周端から延在する界面転位」は、「外端界面転位」ということがある。
c面とは{0001}面を示す。c面の内(0001)面を(0001)Si面と記載している。
【0026】
外周端から延在する界面転位の密度は例えば、フォトルミネッセンス(PL)像から計測することができる。PL像としては例えば、フォトルミネッセンス装置(レーザーテック株式会社製、SICA88)を用いて近赤外線(Near-infrared、NIR)の受光波長で得られたPL像を用いることができる。
【0027】
本発明のSiCエピタキシャルウェハには、SiCエピタキシャル層が20μm以上の膜厚であって、外端界面転位の界面転位の密度をゼロ本/cmのものが含まれる。
また、本発明のSiCエピタキシャルウェハには、SiCエピタキシャル層が22μm以上の膜厚であって、外端界面転位の界面転位の密度をゼロ本/cmのものが含まれる。
また、本発明のSiCエピタキシャルウェハには、SiCエピタキシャル層が24μm以上の膜厚であって、外端界面転位の界面転位の密度をゼロ本/cmのものが含まれる。
また、本発明のSiCエピタキシャルウェハには、SiCエピタキシャル層が27μm以上の膜厚であって、外端界面転位の界面転位の密度をゼロ本/cmのものが含まれる。
また、本発明のSiCエピタキシャルウェハには、SiCエピタキシャル層が29μm以上の膜厚であって、外端界面転位の界面転位の密度をゼロ本/cmのものが含まれる。
【0028】
図1は、SiC単結晶基板の周縁部近傍の断面模式図である。
図1を用いて、本明細書でいう「ベベル部」の形状について説明する。なお、本明細書において「ベベル部」とは、基板の周縁部において、基板の欠けやパーティクルの発生などを防止するために角取りされた部分であり、基板の厚みよりも薄い部分をいう。
【0029】
SiC単結晶基板1は、主面(平坦部)1aと、その周縁に斜面部1Aaと外周端部1Abとからなるベベル部1Aとを有する。
「斜面部」は、SiC単結晶基板の平坦部1aから連続する部分であって、平坦部に対して、60°以下の所定の角度(主面を含む平面に対する角度)で外周に向かって傾斜している傾斜面を有する部分である。ただし、傾斜面は、一つの角度の傾斜面だけでなる場合に限らず、複数の角度の傾斜面を有していたり、曲率(「外周端部」の曲率よりも小さい)を有する曲面の傾斜面であってもよい。曲率を有する傾斜面の場合、傾斜面の角度とは接平面の角度を意味する。「斜面部」が有する傾斜面の角度(主面を含む平面に対する角度)として、50°以下、40°以下、30°以下、20°以下のSiC単結晶基板を用いてもよい。後述する図5に示したデータでは、30°以下のSiC単結晶基板を用いた場合であった。
また、「外周端部」は、SiC単結晶基板のうち、径方向で最も外側に配置する部分であり、所定の曲率を有する曲面を含む部分である。ただし、曲面は、一つの曲率の曲面だけでなる場合に限らず、複数の曲率の曲面を有していたり、「外周端部」を構成する部分のうち、「斜面部」に連続しない部分は平面(例えば、垂直面)であってもよい。なお、後述する、推定される外端界面転位の発生のメカニズムに基づくと、「外周端部」がなく、「斜面部」から外側は垂直に切り立った構造であると、ランダムな成長の元になる核が形成される箇所がなくてよいとも思われるが、このような構造の場合には、角張った部分の欠けが発生しやすいことから、欠け防止の観点で角取りがされ、「外周端部」を有するのが通常である。
【0030】
図2は、SiCエピタキシャルウェハの周縁部近傍の断面模式図である。
SiCエピタキシャルウェハ10において、SiCエピタキシャル層2の外周端2aとは、SiC単結晶基板1の主面(平坦部)1a上に形成されたSiCエピタキシャル層2のうち、径方向で最も外側を指すものとする。
【0031】
図3(a)及び(b)に、SiCエピタキシャルウェハについて得られたPL像を示す。 図3(c)は、SiCエピタキシャルウェハにおけるオリフラの位置とステップフロー方向の関係等を示す模式図である。
図3(a)は、オリフラの位置におけるPL像であり、図3(b)は、オリフラの反対側の位置におけるPL像である。
図3(a)及び(b)のいずれにおいては、ドットのアレイとBC部(基底面転位)に対応する線状模様とが観察できる。図3(a)においては、ドットのアレイ及びBC部(基底面転位)に対応する線状模様がそれぞれ1本観察することができるので、1本の外端界面転位の存在を知ることができる。また、図3(b)においては、ドットのアレイ及びBC部(基底面転位)に対応する線状模様がそれぞれ2本ずつ観察することができるので、2本の外端界面転位の存在を知ることができる。
【0032】
PL観察に基づくと、オリフラ付近に外端界面転位が最も多く、次いでオリフラの反対側に外端界面転位が多い。これに対して、オリフラとオリフラの反対側との間では、ステップフロー方向と平行に近くなるため、外端界面転位の発生はほとんどない。外端界面転位は、ウェハの中心についての中心角でいうと、25°~155°と205°~335°に発生することが多い。
【0033】
本発明の他の実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハは、c面に対してオフ角を有する面を主面とし、周縁部にベベル部を有する4H-SiC単結晶基板と、前記4H-SiC単結晶基板上に形成された、20μm以上の膜厚のSiCエピタキシャル層と、を備え、前記ベベル部が、前記主面から連続する斜面部と外周端部とからなり、前記斜面部の幅が150μm以上である。
ここで、「斜面部の幅」とは、主面に直交する方向から、斜面部を平面視したときの径方向の長さをいう。
【0034】
図4を用いて、推定される外端界面転位の発生のメカニズムについて説明する。
図4(a)及び(b)はそれぞれ、SiC基板とその上に成長するSiCエピタキシャル膜の成長の2段階を示す断面模式図であり(上の図が成長初期、下の図が成長完了時)、(a)は斜面部の幅が大きい場合であり、(b)は斜面部の幅が小さい場合である。
エピタキシャル成長の初期において、外周端部1Abにランダムな成長の元になる核が形成されると考えられる。この理由は以下の通りである。
平坦部1aではステップフロー成長によりエピタキシャル膜が形成され、また、斜面部1Aaにおいても、c面が支配的であればステップフロー成長が維持される。実際にオフ角を付けたSiC基板を用いるのが一般的であるから、ステップフロー成長が維持され、ランダムな成長の元になる核が形成される確率は低いものと考えられる。それに対して、外周端部1Abではc面以外の面(r面やm面)が支配的になる。従って、外周端部1Abではステップフロー成長は起きにくく、ランダムな成長になってしまうと考えることができる。
【0035】
図4(a)を参照して、推定した外端界面転位の発生のメカニズムに基づくと、これまで外端界面転位が発見されなかった理由について以下のように考えることができる。
エピタキシャル成長を行い、エピタキシャル膜の膜厚が厚くなって所望の膜厚になるまでに、外周端部に形成されたランダム成長の元になる核から多形エピ膜が伸びても、界面転位が平坦部に達しなかった場合には、本発明者が見出した外端界面転位は発生していない。従来、所望のエピタキシャル膜の膜厚が薄かったために、このような状況であったものと考えられる。
これに対して、高品質の厚膜のエピタキシャル膜が求められるトレンドの中で、本発明者は、厚膜のエピタキシャル膜において外端界面転位を見出したのである。
【0036】
一方、図4(b)は、斜面部の幅が小さい(外周端部から平坦部までの距離が短い)基板では、エピタキシャル膜の膜厚が薄い場合でも外端界面転位が発生するものと考えられる。
【0037】
図5に、所定の斜面部の幅のときに、エピタキシャル膜の膜厚と外端界面転位の発生の有無との関係を調べた結果を示す。
データを取得したサンプルは、以下のように得た。(0001)Si面に対して<11-20>方向に4°のオフ角を有する4もしくは6インチの4H-SiC単結晶基板を用い、公知の研磨工程および基板表面の清浄化(エッチング)工程を行った後、原料ガスとしてシラン及びプロパンを用い、キャリアガスとして水素を供給しながら、SiCエピタキシャル成長工程(成長温度は1600℃、C/Si比は1.22)を行い、所定の膜厚のSiCエピタキシャル層をSiC単結晶基板上に形成して、SiCエピタキシャルウェハを得た。
【0038】
図5において、「斜面部0μm」は、SiC単結晶基板の角取りを行ったのみであって、角取りを行った部分の角度が60°を超える斜面であるために、斜面部の上記定義上、当該部分は斜面部に含まれない(従って、このSiC単結晶基板ではベベル部は外周端部のみからなる)ことによるものである。
「斜面部0μm」のSiC単結晶基板を用いた場合、SiCエピタキシャル膜の膜厚が6μm、9μm、及び、18μmのときには外端界面転位がなかったが、24μm、33μmのときは外端界面転位が発生していた。24μm、33μmのそれぞれにおいて、外端界面転位の転位密度は50本/cm以上であった。
【0039】
「斜面部60μm」のSiC単結晶基板を用いた場合(斜面部の傾斜角は25°であった)、SiCエピタキシャル膜の膜厚が12μm、16μmのときには外端界面転位がなかったが、33μmときは外端界面転位が発生していた。33μmにおいて、外端界面転位の転位密度は24本/cmであった。
【0040】
「斜面部150μm」のSiC単結晶基板を用いた場合(斜面部の傾斜角は23°であった)、SiCエピタキシャル膜の膜厚が6μm、11μm、15μm、18μmのときには外端界面転位がなかったが、33μmとき、38μmのときは外端界面転位が発生していた。33μmとき、38μmのそれぞれにおいて、外端界面転位の転位密度はそれぞれ、20本/cm、41本/cmであった。
【0041】
「斜面部170μm」のSiC単結晶基板を用いた場合(斜面部の傾斜角は23°であった)、SiCエピタキシャル膜の膜厚が28μmのときには外端界面転位がなかった。このサンプルについて、図6(a)に、共焦点微分干渉光学系を用いた表面検査装置である共焦点顕微鏡(レーザーテック株式会社製、SICA88)によって得られた顕微鏡像を、また、図6(b)にそのPL像を示す。
【0042】
「斜面部200μm」のSiC単結晶基板を用いた場合(斜面部の傾斜角は11°であった)、SiCエピタキシャル膜の膜厚が13μm、27.5μmのときには外端界面転位がなかったが、32μmのときは外端界面転位が発生していた。32μmにおいて、外端界面転位の転位密度は18本/cmであった。
【0043】
図5において、横軸(X軸)をSiCエピタキシャル膜の膜厚にとり、縦軸(Y軸)を傾斜部の幅にとったとき、外端界面転位の発生の有無の推定境界線を直線式として表すと

Y=20X―400 ・・・(1)
と表記することができる。
式(1)に基づくと、不等式Y>20X―400、を満たすように、傾斜部の幅を加工し、かつ、SiCエピタキシャル膜の膜厚を選択することにより、外端界面転位なし、あるいは、外端界面転位密度が低いSiCエピタキシャルウェハを得ることができる。
傾斜部の幅の加工は公知の方法を用いて行うことができる。例えば、コンタリング加工などを用いることができる(特許文献1参照)。
【0044】
図5及び式(1)に基づくと、斜面部の幅を50μmのSiC単結晶基板を用いた場合、SiCエピタキシャル膜が22μmの厚さまで、外端界面転位密度無しのSiCエピタキシャルウェハが得られうる。また、斜面部の幅を100μmのSiC単結晶基板を用いた場合、SiCエピタキシャル膜が24μmの厚さまで、外端界面転位密度無しのSiCエピタキシャルウェハが得られうる。また、斜面部の幅を150μmのSiC単結晶基板を用いた場合、SiCエピタキシャル膜が27μmの厚さまで、外端界面転位密度無しのSiCエピタキシャルウェハが得られうる。また、斜面部の幅を200μmのSiC単結晶基板を用いた場合、SiCエピタキシャル膜が29μmの厚さまで、外端界面転位密度無しのSiCエピタキシャルウェハが得られうる。
【0045】
図7(a)及び(b)はそれぞれ、図5に示した、傾斜部が150μmでかつSiCエピタキシャル膜の膜厚が33μmの場合のPL像、傾斜部が0μmでかつSiCエピタキシャル膜の膜厚が33μmの場合のPL像である。
図7(a)のPL像中には、図8において模式的に示したL字状の転位の数から7本の界面転位の存在を確認できる。
図7(b)のPL像中には、図8において模式的に示したL字状の転位の数から50本以上の界面転位の存在を確認できる。
【0046】
本発明のSiCエピタキシャルウェハに用いる4H-SiC単結晶基板は、オフ角が例えば、0.4°以上、8°以下のものである。典型的には、4°のものが挙げられる。
【0047】
「SiCエピタキシャルウェハの製造方法」
本発明の一実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、周縁部にベベル部を有する4H-SiC単結晶基板であって、前記ベベル部が、前記主面から連続する斜面部と外周端部とからなり、前記斜面部の幅が150μm以上である4H-SiC単結晶基板を用いる。
【0048】
本実施形態にかかるSiCエピタキシャルウェハの製造方法では、所定の4H-SiC単結晶基板を用いて、上記のSiCウェハ(SiC基板)のセット工程以外については公知の工程を用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 SiC単結晶基板
1a 主面
1A ベベル部
2 SiCエピタキシャル層
2a 外周端
10 SiCエピタキシャルウェハ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8