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  • 特許-布帛 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】布帛
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20220902BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20220902BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220902BHJP
   D06M 15/277 20060101ALI20220902BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20220902BHJP
   D06M 13/285 20060101ALI20220902BHJP
   D06M 13/325 20060101ALI20220902BHJP
【FI】
B32B27/12
B32B27/18 B
B32B27/18 F
B32B27/30 A
D06M15/277
D06M15/263
D06M13/285
D06M13/325
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018024746
(22)【出願日】2018-02-15
(65)【公開番号】P2019137010
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510045438
【氏名又は名称】TBカワシマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 里恵
(72)【発明者】
【氏名】根本 千香
(72)【発明者】
【氏名】大原 弘平
(72)【発明者】
【氏名】大石 貴之
(72)【発明者】
【氏名】福井 竜也
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-196831(JP,A)
【文献】特開2008-056901(JP,A)
【文献】特許第6023933(JP,B1)
【文献】特開2010-255132(JP,A)
【文献】特開2006-083505(JP,A)
【文献】特開平03-234870(JP,A)
【文献】特開2014-054754(JP,A)
【文献】特開2016-000874(JP,A)
【文献】特開2009-235628(JP,A)
【文献】特開2018-030270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D06M 13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛であって、その面に
フッ素系撥水撥油剤を含む第一コーティング層、及び、消臭剤を含む第二コーティング層を有していること、
前記第一コーティング層に含まれるフッ素系撥水撥油剤の量が、布帛の単位面積当たり1.3~5.0g/m2であること、
前記第一コーティング層が、布帛と第二コーティング層の間に存在していること、
前記第一コーティング層に含まれるバインダー樹脂が、-30℃~-45℃のガラス転移点(Tg)を有するアクリル系樹脂であること
を特徴とする布帛。
【請求項2】
前記第二コーティング層がさらに難燃剤を含む、請求項1に記載の布帛。
【請求項3】
前記布帛が、フッ素系撥水撥油剤が含浸された布帛である、請求項1または2に記載の布帛。
【請求項4】
前記第一コーティング層がさらに難燃剤を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性布帛に関する。より具体的には、本発明は、消臭性能を有し且つキワつきが生じにくい布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
布帛に要求される機能の一つとして、消臭性能がある。特に、車両、船舶、航空機等の内装に用いられる布帛(例えば、自動車等の乗り物の座席、ドアライニングなどのトリム部材に用いられる布帛)は、閉じられた空間で使用されるため布帛についた臭いが空間内にこもりやすく、且つ、洗濯やクリーニングが難しいため、一度ついた臭いが除去しにくいという問題がある。
【0003】
このため、消臭剤を含むコーティング用組成物で、布帛をコーティングすることにより、布帛に消臭性能を付与することが行われている。例えば、特許文献1には、消臭性と難燃性を備えた布帛が開示されている(特許文献1)。
しかしながら、消臭剤を含むコーティング用組成物で布帛のコーティングを行うと、布帛に消臭性能を付与することはできるが、布帛にお湯や水などをこぼしたときに、変色が生じやすくなり、布帛が乾いても元の色に戻らない(すなわち、キワつきが生じやすくなる)という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-56901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上述した問題を解決することであり、優れた消臭性能を有するとともに、キワつきが生じにくい布帛を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために検討を繰り返した結果、布帛の片面に、フッ素系撥水撥油剤を所定の量で含むコーティング層(第一コーティング層)を形成し、さらにその上に、消臭剤を含むコーティング層(第二コーティング層)を形成することにより、上記課題を解決することに成功し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明の布帛は、その片面(特に裏面)に
フッ素系撥水撥油剤を含む第一コーティング層、及び、消臭剤を含む第二コーティング層を有していること、
前記第一コーティング層に含まれるフッ素系撥水撥油剤の量が、布帛の単位面積当たり1.3~5.0g/m2であること、
前記第一コーティング層が、布帛と第二コーティング層の間に存在すること
を特徴とする。
【0008】
上述したように、ポリエステル系布帛の片面を消臭剤を含む組成物でコーティングすると、布帛に消臭性を付与することはできるが、キワつきが生じやすくなる。たとえ消臭剤を含むコーティング用組成物に撥水撥油剤を添加してコーティング層を形成したとしても、キワつきは十分に改善されない。
これに対し、本発明では、布帛の片面(特に、布帛の裏面)に、撥水撥油コーティング層と消臭コーティング層を、布帛側から、撥水撥油コーティング層(第一コーティング層)、消臭コーティング層(第二コーティング層)の順に設け、且つ、前記第一コーティング層に含まれるフッ素系撥水撥油剤の量を所定の量とすることによって、優れた消臭性(減臭性)を有するとともに、キワつきが生じにくい布帛を製造することに成功した。
【0009】
また、前記第二コーティング層はさらに難燃剤を含むことが好ましい。第二コーティング層に難燃剤を添加することにより、布帛の難燃性を高めることができる。
【0010】
また、前記布帛は、フッ素系撥水撥油剤が含浸された布帛であることが好ましい。布帛にフッ素系撥水撥油剤を含浸させることにより、油分や水分に対する高い防汚性を布帛に付与することができる。
【0011】
また、第一コーティング層がさらに難燃剤を含むこと、及び前記第一コーティング層に含まれるバインダー樹脂がアクリル系樹脂であることが好ましい。
第一コーティング層のバインダー樹脂(ベース樹脂)としてアクリル系樹脂を使用することにより、布帛の風合いが良くなり、且つ、第一コーティング層に難燃剤を添加することによって難燃性をより高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い消臭性を有し、且つキワつきが生じにくい布帛を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明にかかる布帛を示す図であって、(a)は布帛1の裏面側に第一コーティング層2と第二コーティング層3を有する布帛を示し、(b)はさらに発泡材シート4が固着された布帛を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る布帛は、その片面(特に裏面)に、フッ素系撥水撥油コーティング層と、消臭コーティング層とを有しており、フッ素系撥水撥油コーティング層が、布帛と、消臭コーティング層の間に配置されていることを特徴とする。
【0015】
本発明において「消臭性」の程度は、実施例の項に示すように、アンモニア、硫化水素、及びアセトアルデヒドに対する4時間後の消臭率(減臭率)がそれぞれ、80%以上であることが好ましい(85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい)。特に、アンモニア、及び硫化水素に対する4時間後の消臭率がそれぞれ、90%以上(特に95%以上)で、アセトアルデヒドに対する4時間後の消臭率が85%以上(特に90%以上)である布帛が好ましい。
【0016】
また、本発明においてキワつきの程度は、実施例の項に示すように、80℃の蒸留水4mLを滴下し、24時間後に、表面のキワつきが4級以上であること、且つ、裏面に濡れがなく、裏面のキワつきが4級以上であることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る布帛は、難燃性を有することが好ましい。具体的には、米国連邦自動車安全基準(FMVSS)に定められている「内装材料の燃焼性」に準じて試験を行い、布帛に炎を15秒間あてても着火しないか、着火してもA標線(燃焼速度測定開始線)までに消火すること「N」、又は、布帛に炎をあてると着火するが、炎がA標線を越えた後、燃焼速度が101mm/min以下であることが好ましい。特に、前記評価で「N」となる布帛が好ましい。
【0018】
また、本発明に係る布帛は、防汚性を有することが好ましい。より具体的には、実施例の項に記載のサラダ油防汚試験において、83℃・24時間後に、布帛の表面と裏面、及びソフトワイプに油ジミがないことが好ましい。
【0019】
また、本発明にかかる布帛は、風合いが良い(布が柔らかい)ことが好ましい。具体的には、実施例の項に示す剛軟性試験において、縦方向剛軟性が80mm以下、特に70mm以下であることが好ましい。
【0020】
本発明に使用される基布としては、難燃性の高いポリエステル系布帛が好ましい。
本発明において、ポリエステル系布帛とは、ポリエステル繊維を含む布帛を意味し、ポリエステル繊維単独からなる織物、編物、不織布だけでなく、ポリエステル繊維と他の繊維(木綿、羊毛等の天然繊維やポリアミド、レーヨン、アクリル等の化学繊維)を組み合わせて使用した交織品、交編品等のいずれであってもよい。布帛の構成繊維に占めるポリエステル繊維の割合は、60重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上が特に好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。特に好ましい布帛は、ポリエステル繊維からなる厚み0.2~3.0mm(目付100~700g/m2)、特に厚み0.4~2.6mm(目付200~500g/m2)の布帛である。
【0021】
本発明で使用される基布は、フッ素系撥水撥油剤が含浸されている布帛であることが好ましい。フッ素系撥水撥油剤とは、炭化水素基中の水素原子の全てあるいは一部をフッ素原子で置き換えたフルオロアルキル基を含有する化合物である。本発明では、特に、パーフルオロアルキル基を有する単量体を含む重合体を使用することが好ましい。また、環境保全や安全性の観点から、前記パーフルオロアルキル基は、炭素数6のものであることが好ましい。本発明で使用できるフッ素系撥水撥油剤として、例えば、旭硝子株式会社からアサヒガード-Eの名称で販売されているフッ素系撥水撥油剤や、日華化学株式会社からNKガードSの名称で販売されているフッ素系撥水撥油剤が挙げられる。
布帛の浸漬処理に使用されるフッ素系撥水撥油剤は1種類でもよく、複数(例えば2~3種類)であってもよい。
【0022】
本発明において、フッ素系撥水撥油剤が含浸された布帛とは、布帛の表面だけでなく内部の繊維にもフッ素系撥水撥油剤が付着している布帛を意味する。
ポリエステル系布帛にフッ素系撥水撥油剤を含浸させる方法として、一般に、パディング処理又はディップ・ニップ処理と呼ばれる浸漬処理を使用することができる。例えば、フッ素系撥水撥油剤(固形分)を1.0~5.0重量%、より好ましくは1.5~3.5重量%含有する水性処理液を調製し、前記ポリエステル系布帛を当該処理液に浸漬し(例えば、2~5分)、ローラー(マングル)等で絞ることにより、処理液を布帛全体に含ませることができ、その後乾燥させることにより、フッ素系撥水撥油剤が含浸された布帛を得ることができる。適切な乾燥条件は、例えば110~170℃、特に120~160℃で1~5分程度である。
この防汚加工により布帛に含浸されるフッ素系撥水撥油剤の量は、処理液中のフッ素系撥水撥油剤の濃度と絞り率から計算できる。乾燥処理後の布帛に含まれる、フッ素系撥水撥油剤の含浸量は、布帛の単位面積当たり、2.0g/m2~8.0g/m2が適切であり、3.0g/m2~7.0g/m2がより好ましく、4.0g/m2~6.5g/m2が特に好ましい。
【0023】
本発明では、前記防汚加工が任意で施された基布の一方の面(特に裏面)に、フッ素系撥水撥油剤を含むコーティング層(第一コーティング層)が形成されている。第一コーティング層のフッ素系撥水撥油剤としては、浸漬処理時に使用するフッ素系撥水撥油剤として先に述べたものを使用することができ、浸漬処理で使用するフッ素系撥水撥油剤と同じものを使用しても、異なるものを使用してもよく、1種のみを使用しても、複数の種類を併用してもよい。
【0024】
第一コーティング層に含まれるフッ素系撥水撥油剤の含有量は、布帛の単位面積当たり、1.3g/m2~5.0g/m2であることが好ましい。フッ素系撥水撥油剤の量が少なすぎると、キワつきが生じやすくなり、フッ素系撥水撥油剤の量が多すぎると、難燃性が低下する傾向がある。より好ましいフッ素系撥水撥油剤の含有量は、布帛の単位面積当たり、1.5g/m2~4.5g/m2である。
【0025】
また、前記第一コーティング層は、1種又は2種以上の難燃剤を含んでもよい。前記第一コーティング層で使用できる難燃剤は、20℃の水への溶解度が4%(4g/水100g)以下であるリン系難燃剤であることが好ましい。リン系難燃剤として、例えば、ホスホン酸エステル類、リン酸アミド類、リン酸エステルアミド類、芳香族リン酸エステル類、含ハロゲンリン酸エステル類等からなる群より選択される難燃剤が挙げられる。特に有機リン系難燃剤が好ましい。好ましい難燃剤の一例として、ホスホン酸エステル系難燃剤及び/又はリン酸メラミンが挙げられる。
【0026】
本発明では、布帛の一方の面(特に裏面)に形成された前記第一コーティング層の上に、少なくとも1種の消臭剤を含む第二コーティング層が形成されている。この第二コーティング層のために使用する消臭剤としては、不活性な無機多孔質粒子(担体)に消臭成分を担持させたものを使用することが好ましい。このように、無機多孔性粒子に消臭成分を担持させることにより、消臭成分が相互に直接接触したり、難燃剤の存在によって阻害されることを防止することができる。例えば、アミン系化合物、金属化合物又はシクロデキストリンをそれぞれ別々の担体に担持させて使用するのがよい。担体としては、シリカ、シリカ・アルミナ複合体又は層状複水酸化物などが有用である。
【0027】
アミン系化合物としては、分子内に第一級アミン基を有する化合物、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、酢酸などの吸着に特に有効なヒドラジン系化合物を使用することが好ましい。該ヒドラジン系化合物としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、スペリン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジドなどがある。
【0028】
また、金属化合物としては、硫化水素およびメルカプタン類の臭気に対する消臭効果を発揮する亜鉛又は銅を含む金属化合物、例えば亜鉛または銅の酸化物、水酸化物、塩化物、硫酸塩、酢酸塩、クエン酸塩などを例示することができ、ケイ酸亜鉛、酸化亜鉛などが特に有用である。
【0029】
第二コーティング層に含まれる消臭剤の含有量は、布帛の単位面積当たり、5g/m2~20g/m2が好ましく、7g/m2~15g/m2がより好ましく、8g/m2~13g/m2が特に好ましい。
【0030】
また、第二コーティング層に含まれる難燃剤は、ハロゲンを実質的に含有しないものが好ましい。特に、消臭剤との併用で機能性を害されないように、シリコーンで表面処理したものや水に難溶解性のものを使用するのが好ましく、特にシリコーン被覆ポリリン酸アンモニウム又はジアルキルホスフィン酸金属塩が有用である。なお、ジアルキルホスフィン酸金属塩において、アルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、第三ブチル、n-ペンチル及び/又はフェニルが挙げられ、金属としては、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、チタン、亜鉛、錫又はジルコニウムが挙げられる。これらのうちで、特に好ましいのは、ジエチルホスフィン酸アルミニウムである。
また、難燃剤がハロゲンを実質的に含有しないとは、不純物程度で、本発明の効果を阻
害しない程度のハロゲンは含有されてもよいことを意味する。
【0031】
また、第二コーティング層に含まれる難燃剤の含有量は、布帛の単位面積当たり、15g/m2~45g/m2が好ましく、20g/m2~40g/m2がより好ましく、25g/m2~37g/m2が特に好ましい。
【0032】
なお、第二コーティング層に撥水撥油剤を添加すると、布帛に発泡材シートを固着した際(図1b参照)の、布帛と発泡材シートの剥離強度が低下するため、第二コーティング層は撥水撥油剤を実質的に含まないほうがよい(第二コーティング層に含まれる撥水撥油剤の含有量が、布帛の単位面積当たり、0.1g/m2未満であることが好ましく、0g/m2であることがより好ましい)。
【0033】
本発明に係る第一及び第二コーティング層を形成するための組成物は、フッ素系撥水撥油剤や消臭剤を布帛に付着(固定)するためのバインダーを含む。好ましいバインダーとして、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂が挙げられる。難燃性を重視する場合は、ポリエステル系樹脂を使用することが好ましく、コストや風合いを重視する場合は、アクリル系樹脂を使用することが好ましい。
【0034】
前記ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂としては、通常の布帛用コーティング組成物のバインダーとして用いられる市販のポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂を使用することができる。
特に、各バインダーはソフトなタイプが良く、アクリル系樹脂では、Tg=-30℃~-45℃のものが良く、ウレタン系樹脂では、最低造膜温度(MFT)が0℃~5℃のものが良い。
【0035】
また、第一及び第二コーティング用組成物は、増粘剤を含んでいてもよい。増粘剤としては、セルロース系増粘剤、アクリル酸系増粘剤、ウレタン会合型増粘剤等を使用することができる。コーティング層に含まれる前記増粘剤の含有量は、布帛の単位面積当たり、通常0.3~5.0g/m2程度である。
【0036】
前記第一及び第二コーティング用組成物の粘度は、20,000~70,000mPa・s程度が適切であり、特に30,000~55,000mPa・s程度が好ましい。なお、本明細書において、コーティング用組成物の粘度とは、B型粘度計(BH型)を用いて、測定温度20℃、ローターNo.6、回転数10rpmで、回転を始めてから30秒後に測定される粘度を意味する。
【0037】
前記第一及び第二コーティング用組成物の布帛への塗布は、ナイフコーター、コンマコーター、バーコーター、ダイコーター、キスロールコーター、グラビアコーター等を用いて行うことができる。また、第一及び第二コーティング用組成物を布帛に塗布した後の乾燥条件は、例えば110~170℃、特に120~160℃で2~5分間程度とすることができる。
【0038】
また、本発明にかかる布帛は、布帛のコーティング面側(第二コーティング層上)に発泡材シートが固着されてもよい(図1b参照)。発泡材シートの例として、厚み2.0~10mmのポリウレタンフォーム(スラブウレタン等)が挙げられる。このような布帛と発泡材シートからなるラミネート複合体は,自動車等の乗り物の座席(通常、ウレタン系クッション材からなる成形品)の表皮材として使用するのに好適である。
【0039】
発泡材シートを布帛の片面に固着させる方法としては、例えば、発泡材シートの片面の表層をガスバーナーを用いて溶かし、前記第一及び第二コーティング層が形成された布帛の片面(第二コーティング層上)に融着させるフレームラミネート加工が挙げられる。
【0040】
以下、比較例及び実施例により、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
分散染料で黒色に染色したポリエステル布帛(ポリエステル100%:目付け280g/m2)をコーティング加工することによって、表1に示す布帛を製造した。
【0042】
ポリエステル布帛にコーティング層を形成するための、コーティング用組成物は、粘度が34,000mPa・s~36,000mPa・sの範囲となるよう調整した。ナイフコーターにより、布帛の裏面にコーティング層を形成した。
【0043】
第一コーティング層及び第二コーティング層で使用した撥水剤は、日華化学株式会社からNKガードS-0545の名称で販売されているフッ素系撥水撥油剤である。
【0044】
第一コーティング層で使用したアクリル系樹脂は、ジャパンコーティングレジン株式会社からモビニール7400の名称で販売されているアクリル系樹脂である。第二コーティング層で使用したアクリル系樹脂は、DIC株式会社からボンコートAB901の名称で販売されているアクリル系樹脂である。
【0045】
第二コーティング層で使用した難燃剤は、ジエチルホスフィン酸アルミニウムであり、消臭剤は、ラサ工業株式会社から販売されているKD-211G(多孔質シリカに酸化亜鉛を担持させたもの)、及び東亜合成株式会社から販売されているケスモンNS-240(多孔質シリカにアミン系化合物を担持させたもの)である。
【0046】
表1の加工布帛について、以下に示す方法で、キワつき、消臭性能、防汚性能、難燃性能、剛軟性を試験した。
【0047】
<キワつき>
加工布帛の表面に80℃の蒸留水4mlを滴下し、24時間自然乾燥した後、表面及び裏面のキワつき(色変化)の有無を確認し、以下の基準で級判定した。布帛表面については4級以上、布帛裏面については4級以上で、濡れがない場合を合格(〇)とする。
判定 内容
・5級 全く色の変化が無い
・4級 ほとんど色の変化がわからない
・3級 やや色に変化がみられる
・2級 容易に色の変化がみられる
・1級 色の変化が著しい
【0048】
<消臭性>
3種類の臭い成分ごとに試験を行い、それぞれに対する加工布帛の消臭率(減臭率)を算出する。具体的には、内容量3Lのテドラーバックの中へ消臭試験片(5cm×5cmの加工布帛)を入れ、測定する臭い成分を1種類含む気体(アンモニアの場合は100ppm、硫化水素の場合は50ppm、アセトアルデヒドの場合は50ppmに初期濃度を調節)を2L、前記テドラーバックに注入し、密閉する。常温で4時間放置後、臭い成分の残存濃度を測定し、消臭率を計算する。
【0049】
<サラダ油防汚試験>
試験片として、各試料(加工布帛)から約10×10cm角サイズを1枚準備する。トレーにソフトワイプ(エリエール プロワイプ)を敷き、コーティング面(裏面)を下にして、ソフトワイプ上に試験片を載せ、試験片上にスポイトでサラダ油を直径約5mm又は0.05mlで5か所に滴下する。
常温試験の場合は、常温で24時間、高温試験の場合は、ギアオーブン83℃の中にトレーを入れ、24時間静置する。24時間後、試験片表面においてサラダ油滴下個所が湿潤していないか(油ジミが生じていないか)、また、裏面とソフトワイプにサラダ油の油ジミがないか観察する。試験片の表面と裏面、及び下に敷いていたソフトワイプに油ジミがないものを合格とする。
【0050】
<難燃性能>
米国連邦自動車安全基準(FMVSS:Federal Motor-Vehicle Safety Standard)に定められている「内装材料の燃焼性」に準じて試験を行い、難燃性能を判定した。
試験片(加工布帛)に炎を15秒間あてても着火しないか、着火するがA標線までに消化する場合を「N」と示し、着火して炎がA標線を越えた場合は、燃焼時間と燃焼距離を記録し、速度を計算する(試験数はn=3とし、最も悪い結果を表に示す)。
【0051】
<剛軟性>
剛軟性は、いわゆるカンチレバー法で測定した。
具体的には、幅25mm、長さ200mmの試験片を、加工布帛からたて方向(長軸方向)にそれぞれ3枚ずつ採取し、一端が45度の斜面をもつ表面の滑らかな水平台の上に、台に沿って置き、試験片の一端を水平台の斜面側の一端に正確に合わせ、試験片の他端の位置(A)をスケールで読む。
次に、試験片とほぼ同じ大きさのおさえ板で、試験片を軽くおさえながら、斜面の方向に約10mm/sの速度ですべらせ、試験片の一端が、斜面と接したときの他端の位置(B)をスケールで読み取る。
剛軟性は、試験片の移動距離(A-B)で表される(剛軟性の数値が小さいほど布帛は柔らかく、数値が高いほど布帛は硬い)。表には3回の測定値の平均値(mm)を示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、消臭加工のみを行った布帛(No.2)は、消臭加工を行わない布帛(No.1)と比べて、キワつきの評価結果が悪かった。
消臭コーティング層に防汚剤(フッ素系撥水撥油剤)を添加した場合(No.3)も、キワつきの改善効果は確認されなかった。
また、布帛と消臭コーティング層の間に、アクリル系樹脂によるコーティング層を設けた場合(No.4)は、表面のキワつきは改善されたが、裏面のキワつきを防ぐことはできなかった。さらに充填剤を含むコーティング層を布帛と消臭コーティング層の間に設けた場合(No.5及びNo.6)も、表面のキワつきのみが改善されるか、又は表面のキワつきさえ改善されなかった。
また、消臭コーティング層に、防汚剤(フッ素系撥水撥油剤)を添加し、さらに布帛と消臭コーティング層の間に、アクリル系樹脂コーティング層を設けた場合も(No.7)、表面のキワつきが改善されるだけで、裏面のキワつきは改善されなかった。
これに対して、布帛と消臭コーティング層の間に、フッ素系撥水撥油剤を含むコーティング層を設けた場合、フッ素系撥水撥油剤の量が少ないと(No.8)、表面のキワつきしか改善されなかったが、フッ素系撥水撥油剤の量を増やすと(No.9~No.11)、表面と裏面のキワつきがともに改善された。
なお、布帛と消臭コーティング層の間に、フッ素系撥水撥油剤を含むコーティング層(第一コーティング層)を設け、さらに消臭コーティング層(第二コーティング層)にもフッ素系撥水撥油剤を添加した場合(No.12及びNo.13)もやはり、第一層コーティング層に含まれるフッ素系撥水撥油剤の量が少ないと、裏面のキワつきは改善されず、キワつき改善効果が、第一コーティング層に含まれるフッ素系撥水撥油剤の量に依存することが確認できた。また、消臭コーティング層に撥水撥油剤を添加すると、布帛の裏面(コーティング層が形成された面)に、スラブウレタンシートを熱融着してラミネート複合体を形成した際、布帛とウレタンフォームの剥離強度の低下が確認された。
これらの実験から、布帛と消臭コーティング層(第二コーティング層)の間に、十分な量のフッ素系撥水撥油剤を含むコーティング層(第一コーティング層)を設けることにより、キワつきを改善できることが分かった。また、No.2の布帛と、No.9~No.11の布帛の消臭性能は全く同じであることから、第一コーティング層を設けても、消臭性能には悪影響がないことが確認できた(第一コーティング層を設けても、消臭性能は実質的に変化しないことが明らかになったため、消臭性能試験は一部の布帛についてのみ実施した)。
【0054】
上記フッ素系撥水撥油剤を含む第一コーティング層を設けると、キワつきは改善できたが、防汚性能が不十分であったため、布帛に第一コーティング層及び第二コーティング層を設ける前に、dip-nip法により、布帛にフッ素系撥水撥油剤を含浸させてから、表1と同じ試験を行った。
dip-nipによる防汚加工には、旭硝子株式会社からアサヒガードEシリーズの名称で販売されているフッ素系撥水撥油剤及び日華化学株式会社からNKガードSの名称で販売されているフッ素系撥水撥油剤の混合物を使用し、フッ素系撥水撥油剤を2.63重量%(固形分換算)含む水分散液に、分散染料で黒色に染色したポリエステル布帛(ポリエステル100%:目付け280g/m2)を浸漬し(150℃・2分30秒)、次いで、マングルで3.0kgf/cm2の圧力で絞った(pic-up率60%)。この含浸処理により布帛に付着したフッ素系撥水撥油剤の量は、4.43g/m2であった。
結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示すように、布帛にフッ素系撥水撥油剤を含浸させることにより、全ての場合において、常温試験における防汚性能が改善された。また、第一コーティング層に含まれるフッ素系撥水撥油剤の、布帛の単位面積当たりの量が1.3g/m2以上の場合は、83℃における防汚性能も合格水準に達した。
しかし、dip-nip防汚処理を行っても、キワつきについては、dip-nip防汚処理を行わない場合と同じ傾向が観察され、フッ素系撥水撥油剤を含む第一コーティング層を設けなければ、キワつきが改善されないことが確認された。
具体的には表1の結果と同様、消臭加工のみを行った布帛(No.15)は、消臭加工を行わない布帛(No.14)と比べて、キワつきの評価結果が悪かった。
また、消臭コーティング層に防汚剤(フッ素系撥水撥油剤)を添加しても(No.16)、キワつきは改善されなかった。
また、布帛と消臭コーティング層の間に、アクリル系樹脂によるコーティング層を設けた場合(No.17)は、表面のキワつきは改善されたが、裏面のキワつきを防ぐことはできなかった。さらに充填剤を含むコーティング層を布帛と消臭コーティング層の間に設けた場合も、表面のキワつきは改善されるが、裏面のキワつきは改善されなかった(No.18及びNo.19)。
また、消臭コーティング層に、防汚剤(フッ素系撥水撥油剤)を添加し、さらに布帛と消臭コーティング層の間に、アクリル系樹脂コーティング層を設けた場合も(No.20)、表面のキワつきが改善されるだけで、裏面のキワつきは改善されなかった。
これに対して、布帛と消臭コーティング層の間に、フッ素系撥水撥油剤を含むコーティング層を設けた場合、フッ素系撥水撥油剤の量が少ないと(No.21)、表面のキワつきしか改善されなかったが、フッ素系撥水撥油剤の量を増やすと(No.22~No.24)、表面と裏面のキワつきがともに改善された。
なお、布帛と消臭コーティング層の間に、フッ素系撥水撥油剤を含むコーティング層(第一コーティング層)を設け、さらに消臭コーティング層(第二コーティング層)にもフッ素系撥水撥油剤を添加した場合(No.25及びNo.26)もやはり、第一層コーティング層に含まれるフッ素系撥水撥油剤の量が少ないと、裏面のキワつきは改善されず、キワつき改善効果が、第一コーティング層に含まれるフッ素系撥水撥油剤の量に依存することが確認された。また、消臭コーティング層に撥水撥油剤を添加すると、布帛の裏面(コーティング層が形成された面)に、スラブウレタンシートを熱融着してラミネート複合体を形成した際、布帛とウレタンフォームの剥離強度の低下が確認された。
これらの実験から、布帛にdip-nip防汚処理を施した場合、常温での防汚性能を改善することはできるが、布帛のキワつきを改善することはできず、布帛と消臭コーティング層(第二コーティング層)の間に、十分な量のフッ素系撥水撥油剤を含むコーティング層(第一コーティング層)を設けることによって、キワつき、及び83℃での防汚性能を改善できることが分かった。
【0057】
上述の通り、布帛と消臭コーティング層(第二コーティング層)の間に、フッ素系撥水撥油剤を含むコーティング層(第一コーティング層)を設けることによって、キワつきを改善できることが分かったが、第一コーティング層を設けることにより、難燃性が低下する傾向が観察された。このため、キワつき改善効果を維持しつつ、難燃効果を向上させるために、第一コーティング用組成物のベース樹脂を、アクリル系樹脂から、より難燃性の高いポリエステル系樹脂に変更して製造した加工布帛、及び、第一コーティング用組成物に難燃剤を添加して製造した加工布帛について、同じ試験を行った。
【0058】
表3のNo.27~No.30の第一コーティング層で使用したポリエステル系樹脂は、互応化学工業株式会社からプラスコートZ-880の名称で販売されているポリエステル系樹脂である。表3のNo.31及びNo.32の第一コーティング層で使用した難燃剤は、リン酸メラミン(新中村化学工業株式会社製)と伸葉株式会社からSY-TC1の名称で販売されているホスホン酸エステル系難燃剤(20℃の水への溶解度4.0%以下)の混合物(有効成分の重量比1:1)である。
結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3に示すように、第一コーティング層のベース樹脂をポリエステル系樹脂に変更すると、難燃性能が「N」または101mm/min以下となった(No.27~No.30)。ただし、ポリエステル系樹脂を使用すると、剛軟性の数値が高くなり、布帛が硬くなった。これに対して、第一コーティング層のベース樹脂をアクリル系樹脂とし、難燃剤を含有させた場合、高い難燃性能を有し、且つ剛軟性の数値が低く、柔らかくて手触りの良い布帛を得ることができた。
また、いずれの場合も、キワつき低減効果を維持することができた。
これらの結果から、布帛に、消臭性能と低キワつき性に加えて、難燃性能を求める場合は、第一コーティング層のベース樹脂としてポリエステル系樹脂を使用するか、第一コーティング層に難燃剤を添加することが有効であること、さらに布帛に風合い(柔らかさ)を求める場合は、第一コーティング層のベース樹脂としてアクリル系樹脂を使用し、且つ第一コーティング層に難燃剤を添加することが好ましいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、高い消臭性能を有し、且つキワつきが生じにくい布帛を提供することができる。このため、本発明の布帛は、臭いがこもりやすく、飲み物等をこぼしても洗濯やクリーニングを行いにくい、自動車等の乗り物の内装用布帛として使用するのに好適である。
【符号の説明】
【0062】
1 布帛
2 第一コーティング層(フッ素系撥水撥油剤を含むコーティング層)
3 第二コーティング層(消臭剤を含むコーティング層)
4 発泡材シート
図1