(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】超音波洗浄装置、洗浄方法および振動子
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20220902BHJP
B08B 3/12 20060101ALI20220902BHJP
【FI】
H01L21/304 642E
B08B3/12 B
(21)【出願番号】P 2018036776
(22)【出願日】2018-03-01
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】592230092
【氏名又は名称】株式会社国際電気セミコンダクターサービス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】児平 真
(72)【発明者】
【氏名】大川 真樹
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-010090(JP,U)
【文献】特開2017-029963(JP,A)
【文献】特開2008-238004(JP,A)
【文献】特開2006-007104(JP,A)
【文献】特開2004-255258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B08B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の櫛形電極を有する圧電素子を用いた弾性表面波により、超音波振動を発生する振動子と、
洗浄液内に洗浄対象物が設置され
ている洗浄槽
と、
前記洗浄液中に発生する音響流、あるいは、前記洗浄液と前記洗浄液中に伝わる前記超音波振動を前記振動子に発生させる
超音波発振器と、を備え、
前記洗浄対象物の位置は、それぞれの前記櫛形電極の前記振動子の位置から放射される放射角度と各櫛形電極の中心部の間隔により求められる超音波の焦点の位置になるよう配置される超音波洗浄装置。
【請求項2】
請求項1の超音波洗浄装置において、
前記各櫛形電極から発生する弾性表面波により生じる音響流、あるいは前記洗浄液中に伝わる前記超音波振動を
前記焦点の位置で合成させる
超音波洗浄装置。
【請求項3】
請求項1の超音波洗浄装置において、
前記振動子が前記洗浄対象物の裏面側に設置し、
前記洗浄対象物の裏面側から超音波を照射して、前記振動子から放射される超音波を前記洗浄対象物に透過させることにより、前記洗浄対象物を振動させる
超音波洗浄装置。
【請求項4】
請求項1の超音波洗浄装置において、
前記超音波発振器は、発信周波数として2MHz以上の高周波電力を前記振動子に供給するように構成されている超音波洗浄装置。
【請求項5】
請求項4の超音波洗浄装置において、
前記発信周波数は、2MHz以上数GHz以下である超音波洗浄装置。
【請求項6】
請求項1の超音波洗浄装置において、
前記圧電素子は、ニオブ酸リチウム素子である超音波洗浄装置。
【請求項7】
請求項1の超音波洗浄装置において、
前記放射角度は、22°~44°である超音波洗浄装置。
【請求項8】
請求項7の超音波洗浄装置において、
前記放射角度は、前記圧電素子の材質に応じて決定される超音波洗浄装置。
【請求項9】
請求項1の超音波洗浄装置において、
前記櫛形電極による生じる弾性表面波の伝搬速度は、前記櫛形電極間のピッチと周波数に依存される超音波洗浄装置。
【請求項10】
請求項1の超音波洗浄装置において、
前記櫛形電極は、回転対称となるようにそれぞれ配置されている超音波洗浄装置。
【請求項11】
請求項1の超音波洗浄装置において、
前記櫛形電極は、回転方向で等間隔となるようにそれぞれ配置されている超音波洗浄装置。
【請求項12】
請求項11の超音波洗浄装置において、
前記櫛形電極は、45度、60度、90度、120度、180度のうちいずれか一つの角度で等間隔となるようにそれぞれ配置されている超音波洗浄装置。
【請求項13】
請求項1の超音波洗浄装置において使用される振動子であって、
前記櫛形電極を有する
前記圧電素子を構成する基板と、
前記基板の裏面に設けられた給電点と、
前記櫛形電極と前記給電点とを接続する様に、前記基板に設けられた貫通電極と、
前記櫛形電極を覆う様に設けられた保護膜と、を具備
する振動子。
【請求項14】
櫛形電極を有する圧電素子を用いた弾性表面波により、超音波振動を発生する振動子と、
洗浄対象物が設置され、洗浄液で満たされた洗浄槽と、
前記洗浄液中に発生する音響流、あるいは、前記洗浄液と前記洗浄液中に伝わる前記超音波振動を前記振動子に発生させる超音波発信器を備えた超音波洗浄装置を用いた洗浄方法であって、
前記洗浄対象物の位置は、それぞれの前記櫛形電極の前記振動子の位置から放射される放射角度と各櫛形電極の中心部の間隔により求められる超音波の焦点の位置になるよう配置される洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、洗浄対象物である半導体ウエハ等の微細加工品に対して、超音波振動を照射する事により洗浄処理を行う超音波洗浄装置及び洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
洗浄装置として、超音波振動面を被洗浄物表面に近づけて処理する超音波洗浄装置(特開2011-115717号参照)や、洗浄対象物へのダメージを軽減する超音波洗浄装置(特開2013-86059号参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-115717号公報
【文献】特開2013-86059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
洗浄対象物の更なる微細化と構造複雑化が進み、上記超音波洗浄装置では微細異物が除去しきれない、という課題がある。
【0005】
本発明の目的は、洗浄対象物の更なる微細化、構造複雑化に対応することが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、櫛形電極を有する圧電素子を用いた弾性表面波により、超音波振動を発生する振動子と、前記振動子を駆動するための超音波発振器と、洗浄対象物が設置され、洗浄液で満たされた洗浄槽と、を備え、超音波発振器から高周波電力を供給することにより、洗浄液中に発生する音響流、あるいは、洗浄液と洗浄液中に伝わる超音波振動を振動子に発生させる技術が提供される。
【発明の効果】
【0007】
上記超音波洗浄装置によれば、洗浄液中に発生する音響流、あるいは洗浄液と洗浄液中に伝わる超音波振動の相乗効果により、洗浄対象物上の微細異物を除去することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態である超音波洗浄装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図1の櫛形電極4の構成を概念的に示す図である。
【
図3】
図1の櫛形電極4の他の構成を概念的に示す図である。
【
図4】本発明の実施形態である複数の櫛形電極を具備する振動子の一例を示す概略図である。
【
図5】本発明の実施形態である複数の櫛形電極を具備する振動子の他の一例を示す概略図である。
【
図6】本発明の実施形態である複数の櫛形電極より洗浄液の中に放射される弾性表面波の一例を示す概略図である。
【
図7】除去したい微細異物の大きさに対して、その付着力と、超音波での除去力を理論計算モデルにて算出した結果を示したグラフである。
【
図8】単位面積当たりの超音波強度と、その周波数によるキャビテーション発生しきい値を理論計算モデルにて算出した結果を示すグラフである。
【
図9】(A)本発明の実施形態の応用例である洗浄対象物の裏面から超音波を照射させる洗浄装置における洗浄方法の一例を示す概略図である。(B)本発明の実施形態の応用例である洗浄対象物の裏面から超音波を照射させる洗浄装置における洗浄方法の一例を示す詳細図である。
【
図10】本発明の実施形態の応用例であり、洗浄対象物に、振動子を直接接触させて振動を伝達させる洗浄装置における洗浄方法の一例を示す概略図である。
【
図11】本発明の実施形態の応用例であり、洗浄対象物に、振動子を直接接触させて振動を伝達させる洗浄装置における洗浄方法の一例を示す詳細図である。
【
図12】本発明の実施形態の応用例であり、洗浄対象物に、超音波もしくは超音波振動を伝搬させる物質を直接接触させて振動を伝達させる洗浄装置における洗浄方法の一例を示す詳細図である。
【
図13】本発明の実施形態の応用例であり、圧電素子の発熱を抑制させる冷却器を取り付けた振動子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を用いて説明する。ただし、以下の説明において、同一構成要素には同一符号を付し繰り返しの説明を省略することがある。なお、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0010】
(実施形態)
まず、超音波洗浄装置及び洗浄方法に関する要求および課題を説明する。
【0011】
半導体ウエハ等の微細加工品への超音波照射によるダメージを軽減するためには、超音波により洗浄液中に生じるキャビテーションが発生しにくい高周波化が求められる。ここで、キャビテーションとは、超音波で洗浄液を膨張・圧縮させることにより発生するものであり、その力は超音波の周波数と強度に依存する。
【0012】
超音波洗浄装置用の振動子に用いられる一般的な圧電素子は、チタン酸ジルコン酸鉛(以下、PZT)から構成されたPZT素子である。PZT素子は、高周波数(1~2MHz付近)から更に高周波化するためには、PZT素子の特性によりPZT素子の厚みを更に薄くする必要がある。この場合、PZT素子の機械的強度が低下するので、実用での印加電力や振動に耐えられなくなり、PZT素子が壊れてしまう虞がある。
【0013】
また、PZT素子は高周波化に伴いインピーダンスが低くなるというインピーダンス特性を有する。PZT素子に高電力を印加する場合、洗浄液等の周辺環境の変動によって生じるインピーダンスの変化の影響度が大きくなり、電流変動も大きくなるので、超音波洗浄装置の破損要因にもなってしまう。このため、PZT素子への印加電力を低くする必要があり、得られる洗浄効果が低くなってしまう虞がある。
【0014】
以下、実施態様について図面を用いて説明する。
【0015】
図1に示される超音波洗浄装置100は、次の様な構成とされる。すなわち、1は例えば半導体ウエハ等の微細加工された洗浄対象物であり、2が洗浄対象物1の表面に構成される微細異物が付着している微細加工物である。3、4が本実施形態における振動子101であり、3は圧電素子、4は櫛形電極である。5は振動子101へ高周波電力を供給する超音波発振器であり、高周波同軸ケーブル102で接続される。6は洗浄のための洗浄槽であり、洗浄槽6は洗浄液7で満たされている。振動子101を超音波発振器5で駆動することにより、8で示すように音響流あるいは超音波振動が櫛形電極4の部分から洗浄液7の中に発生し、洗浄対象物1に付着した微細異物を除去する。
【0016】
図2は、
図1の櫛形電極4の構成を概念的に示す図である。この例は、1つの圧電素子3の上面に、1つの櫛形電極4を形成した振動子101を示している。櫛形電極4は、圧電素子3の上面に形成された、互いに噛み合う櫛形の一方の電極E1と他方の電極E2とを有する。電極E1は高周波同軸ケーブル102の+(HOT)極に接続され、電極E2は高周波同軸ケーブル102の-(GND)極に接続され、超音波発振器5から発生された高周波電力が電極E1および電極E2に供給される。
【0017】
図3は、
図1の櫛形電極4の他の構成を概念的に示す図である。この例は、1つの圧電素子3の上面に、2つの櫛形電極4_1、4_2を形成した振動子101を示している。櫛形電極4_1、4_2のおのおのは、
図2と同様に、互いに噛み合う櫛形の一方の電極E1と他方の電極E2とを有する。
図2と同様に、電極E1は高周波同軸ケーブル102の+(HOT)極に接続され、電極E2は高周波同軸ケーブル102の-(GND)極に接続される。
図3に示される振動子101は、
図2に示される振動子101と比較して、その供給可能電力を大きく出来るので、より十分な洗浄効果を得ることが可能である。したがって、洗浄対象物1の表面に付着する微細異物の種類に応じて、最適な振動子101を選択するのが好ましい。
図3では、2つの櫛形電極4_1、4_2を1つの圧電素子3に設けた例を示したが、これに限定されない。櫛形電極の数は、3つでも良いし、4つでも良い。
【0018】
図4は、4つの櫛形電極を設置する場合の構成例を示す図である。
【0019】
圧電素子3の表面には、4つの櫛形電極4a、4b、4c、4dが、櫛形電極4a~4dの4極間の中心点から等距離に、90°の間隔で設置される。櫛形電極4a~4dから洗浄液7の中に放射される音響流あるいは超音波振動8a、8b、8c、8dには方向性があり、それらが
図4に示される焦点10の部分で合成される。なお、超音波振動は、弾性表面波という事もできる。
【0020】
図5は、
図4に示される振動子101の変形例である。
図5において、4つの櫛形電極4a、4b、4c、4dのおのおのは対応する圧電素子3a、3b、3c、3dの上面に形成されて、4つの独立した振動子101a、101b、101c、101dが構成される。4つの振動子101a、101b、101c、101dは、
図4で説明された4つの櫛形電極4a、4b、4c、4dの設置と同様な思想により、給電用配線基板PCBの表面に設置される。給電用配線基板PCBには、超音波発振器5からの高周波電力が供給される端子として、第1の電極対P1、P2と第2の電極対P3、P4を有する。第1の電極対P1、P2は、配線L1,L2を介して、櫛形電極4dの電極E1,E2および櫛形電極4bの電極E1,E2にそれぞれ接続される。第2の電極対P3、P4は、配線L3,L4を介して、櫛形電極4aの電極E1,E2に接続され、また、配線L5,L6を介して、櫛形電極4cの電極E1,E2に接続される。このようにして、振動子101a、101b、101c、101dのおのおのに、超音波発振器5からの高周波電力が供給される。なお、振動子101a、101b、101c、101dと給電用配線基板PCBの配線L1-L6との接続部、および、給電用配線基板PCBの表面および裏面は、防水加工が施される。
【0021】
したがって、振動子101b、101dは、第1の電極対P1、P2から同一の高周波電力が供給され、振動子101a、101cは、第2の電極対P3、P4から同一の高周波電力が供給される。第1の電極対P1、P2と第2の電極対P3、P4とに同一の高周波電力を供給すれば、振動子101a、101b、101c、101dは、同一の音響流あるいは超音波振動を発生する。一方、第1の電極対P1、P2のみに高周波電力を供給すれば、振動子101b、101dから音響流あるいは超音波振動が発生する。また、第2の電極対P3、P4のみに高周波電力を供給すれば、振動子101a、101cから音響流あるいは超音波振動が発生する。また、第1の電極対P1、P2に供給する高周波電力と、第2の電極対P3、P4に供給する高周波電力とを、同一では無く、異ならせることも可能である。つまり、
図5の実施形態によれば、発生させる音響流あるいは超音波振動を細かく制御することが可能である。
【0022】
図6において、
図6(A)は、
図4または
図5の櫛形電極4a~4dを正面から描いた図である。
図6(B)は、上下に対向して設置された2つの櫛形電極4a、4cから放射された音響流あるいは弾性表面波(8a、8c)の進行方向(注目する疎密波の波面の垂線)を真横方向から描いた図である。
図6(C)は、左右に対向して設置された2つの櫛形電極4b、4dから放射された音響流あるいは弾性表面波(8b、8d)の進行方向を真上方向から描いた図である。
【0023】
図6(A)を参照して、
図4または
図5で説明された様に、櫛形電極4a、4b、4c、4dは、櫛形電極4a~4dの4極間の中心点C0から、
図6(B)、および
図6(C)において、12で示されるように等距離に、90°の間隔で設置される。圧電素子3の表面において、上下に対向して設置された2つの櫛形電極4a、4cから放射された音響流あるいは弾性表面波(8a、8c)、および、左右に対向して設置された2つの櫛形電極4b、4dから放射された音響流あるいは弾性表面波(8b、8d)のそれぞれが、焦点10で合成されることを示している。
【0024】
図6には、圧電素子3(3a,3b,3c,3d)として、ニオブ酸リチウム(LiNbO3:Lithium Niobate)を用いた一例が示される。
図6において、圧電素子3(3a,3b,3c,3d)から洗浄液7である純水の中に放射される音響流あるいは弾性表面波(8a-8d)の角度11は、圧電素子3の垂直方向又は水平方向に対して、片側およそ22°であり、放射中心部となる櫛形電極(4a、4b、4c、4d)の中心部(Ca、Cb、Cc、Cd)を起点として、両方向におよそ44°の放射となることを示す。
【0025】
また、対向する2つの櫛形電極((4aと4c)、または、(4bと4d))間の中心点C0から、各櫛形電極(4a、4b、4c、4d)の中心点(C4a、C4b、C4c、C4d)までの距離12を4mmとした場合、それぞれの櫛形電極(4a、4b、4c、4d)から洗浄液7の中に放射される音響流あるいは超音波振動(8a-8d)が合成される焦点10までの距離13は、対向する2つの櫛形電極間((4aと4c)、または、(4bと4d))の中心点((C4aとC4c)、または、(C4bとC4d))から正面垂直方向又は正面水平方向に、およそ9.9mmとなることを示す。
【0026】
図7は、除去したい微細異物の大きさに対して、その付着力と、超音波での除去力を理論計算モデルにて算出した結果を示したグラフである。
図7において、縦軸は付着力(Adhesion force[N])と除去力(Removeal force[N])とを示しており、横軸は微細異物の大きさ(Particle Size[nm])を示している。ここで、Nはニュートンであり、nmはナノメータである。
図7の理論計算モデルにおいては、付着力は分子間力のみ考慮し、また、除去力は、例として、周波数5MHzを、櫛形電極4a~4dのおのおのの電極面積1cm2に、電力50Wを印加した場合として算出している。
【0027】
図7では、周波数が5MHz、印加する単位面積当たりの超音波強度が50W/cm2の場合において、理論上では、20nmサイズ以上の微細異物が除去可能になることを示す。本理論計算モデルでは、周波数が低いほど、また、印加する単位面積当たりの超音波強度が大きいほど、より小さいサイズの微細異物が除去できることになる。しかし、前述のキャビテーション発生による洗浄対象物へのダメージが懸念されるため、除去したい微細異物の大きさに対し、キャビテーションの非発生領域となる周波数と印加電力での使用が望ましい。
【0028】
図8は、単位面積当たりの超音波強度と、その周波数によるキャビテーション発生しきい値を理論計算モデルにて算出した結果を示すグラフである。
図8において、縦軸は超音波強度(Ultrasonic intensity(W/cm2))を示し、縦軸は周波数(Frequency(Hz))を示している。キャビテーション(cavitation)発生のしきい値(Threshold)は、
図8では、一例として、空気飽和水の場合を示す。
図8に示すように、高い印加電力(すなわち、高い洗浄力)を必要とする場合において、キャビテーションを発生させないためには、より高い周波数を使用する必要があり、
図7の例である周波数5MHzでは、およそ1000W/cm2近くもの十分に高い印加電力でもキャビテーションが発生しないことが言える。
【0029】
なお、
図7及び
図8のグラフで用いた理論計算モデルは一例である。実際の使用時には、使用する圧電素子で発生する弾性表面波によって生じる振動を洗浄液中へ放射する際の変換効率、洗浄液の性質、超音波の周波数により洗浄液中を伝搬する際に生じる超音波強度の減衰等も考慮する必要がある。これらを考慮すると、洗浄対象物に実際に到達する音響流あるいは超音波振動は、
図7および
図8で示す超音波強度よりも小さくなるので、これを考慮した高い印加電力が必要である。
【0030】
図9(A)は、超音波洗浄装置100aの概念的な構成図であり、
図9(B)は、
図9(A)の洗浄対象物1と振動子101とを拡大して示した図である。
【0031】
図9(A)、
図9(B)に示される洗浄方法では、超音波洗浄装置100aの洗浄槽6に満たされた洗浄液7の液中において、超音波8を透過する性質を持つ洗浄対象物1の裏面1r側に、振動子101を設置する。振動子101は、櫛形電極4を具備した圧電素子3に、耐液性のある保護膜14を塗布し、防水ケース15へ収納した構造である。保護膜14は、圧電素子3の表面に形成された櫛形電極4と、櫛形電極4の形成されていない圧電素子3の表面とを覆う様に形成される。なお、保護膜14の表面は、櫛形電極4の有無によって、凹凸状になるが、
図9(B)では、図面の簡素化のため、平坦な形状として描かれている。
【0032】
櫛形電極4の電極面または圧電素子3の基板Subの主面Ms側を防水ケース15の開口部15oに密着させるため、圧電素子3の基板Subの主面Msに対向する裏面Rsの側に、櫛形電極4への給電点16を設ける。圧電素子3の基板Subには、給電点16に接続された貫通電極16aを設け、給電点16に高周波同軸ケーブル102を接続して、貫通電極16aから櫛形電極4へ給電する構造としている。振動子101を超音波発振器5で駆動することにより、櫛形電極4の部分から音響流あるいは超音波振動(8)が洗浄液7の中に発生し、超音波の透過特性により、洗浄対象物1を超音波が透過する。
【0033】
すなわち、洗浄対象物1を超音波8が透過の際に、洗浄対象物1が超音波振動を起こし、その振動によって、洗浄対象物1の表面に構成される微細加工物への直接的な応力により与え得るダメージなく、微細加工物へ付着した微細異物2を除去することが出来る。
【0034】
ただし、本応用例についても、前述の考慮に必要なパラメータに加え、洗浄対象物1の密度や厚さ、および超音波の入射角度等に依存される超音波透過率による減衰にも考慮が必要となる。
【0035】
図10に示す洗浄装置100bは、洗浄対象物1が載置可能なステージSTGを有する。ステージSTGには、振動子101が埋め込まれており、洗浄対象物1の裏面(1r)が振動子101の主面(Ms)に直接接触させることが可能な構成とされている。他の構成は、
図1および
図9(A)と同じであるので、説明は省略する。
【0036】
図11は、
図10の洗浄対象物1と振動子101とを拡大して示した図である。
図11に示される洗浄方法では、振動子101を、洗浄対象物1の裏面1r側(もしくは裏面1rに対向する主面1m側)の一端1eに直接接触させる為、振動子101がステージSTGに設けられた凹部に埋め込まれる様に設置する方式である。
【0037】
振動子101は、櫛形電極4を具備した圧電素子3に、耐液性のある保護膜14を塗布すると共に、例えば、圧電素子3の側面側および裏面側を防水ケース15へ収納する等の防水処置が施されて、ステージSTGに設けられた凹部に埋め込まれる。
【0038】
振動子101の一端101eは、洗浄対象物1の裏面1r側(もしくは主面1m側)の一端1eに直接接触させるように設置される。洗浄対象物1への干渉を避けるため、圧電素子3の基板Subの裏面Rs側に、櫛形電極4への給電点16が設けられる。圧電素子3の基板Subには、給電点16に接続された貫通電極16aが設けられ、防水ケース15内において、給電点16には高周波同軸ケーブル102が接続される。この構成により、貫通電極16aから櫛形電極4への給電が行われる。
【0039】
振動子101は高周波同軸ケーブル102に接続した超音波発振器5で駆動され、櫛形電極4から発生した弾性表面波17により圧電素子3が振動し、圧電素子3の振動が被洗浄物1に直接作用して、洗浄対象物1においても超音波振動18が生じる。超音波振動18によって、洗浄対象物1の表面に構成される微細加工物へ付着した微細異物2を除去することが出来る。
【0040】
図12に示す洗浄方法では、振動子101を、超音波もしくは超音波振動を伝搬する事が可能な伝搬物質19を介して、洗浄対象物1の裏面1r側(もしくは主面1m側)の一端に接触させるように、設置する方式である。
【0041】
洗浄装置100cにおいて、振動子101は、櫛形電極4を具備した圧電素子3と伝搬物質19の一端19e側とを、接着剤などの接着層20によって接着して、固定する。伝搬物質19の他端19o側は洗浄対象物1の裏面1r側(もしくは主面1m側)の一端に直接接触させる。振動子101は、
図11と同様に、防水ケース15へ収納する等の防水処置が施されて、ステージSTGに設けられた凹部に埋め込まれる。
【0042】
伝搬物質19は、超音波の伝搬性が高く、使用劣化による発塵や素材成分の溶出の恐れがない材質で構成されるものが望ましく、例えば、石英ガラスを採用することが出来る。
【0043】
伝搬物質19への干渉を避けるため、圧電素子3の基板の裏面側101aに、櫛形電極4への給電点16が設けられる。圧電素子3の基板には、給電点16に接続された貫通電極16aが設けられ、防水ケース15内において、給電点16には高周波同軸ケーブル102が接続される。この構成により、貫通電極16aから櫛形電極4への給電が行われる。
【0044】
振動子101を超音波発振器5で駆動することにより、櫛形電極4により発生した弾性表面波17により圧電素子3が振動し、超音波の透過特性により伝搬物質19を超音波もしくは超音波振動(8)が透過して、洗浄対象物1においても超音波振動18が生じる。超音波振動18によって、洗浄対象物1の表面に構成される微細加工物へ付着した微細異物2を除去することが出来る。なお、
図12に示される洗浄方法において、伝搬物質19を洗浄対象物1に直接接触させずに、伝搬物質19を洗浄対象物1の近傍に設置することも可能である。伝搬物質19を洗浄対象物1の近傍に設置する洗浄方法は、
図9に示した洗浄方法の応用例と見做すこともでき、洗浄方法としては有効である。
【0045】
図13に示される、振動子101としての櫛形電極4を具備した圧電素子3は、超音波発振器5で駆動することにより発熱する。櫛形電極4を具備した圧電素子3に生じる発熱を放熱させるため、振動子101に冷却器21を、放熱グリス22等によって密着させた構成である。冷却器21は、圧電素子3の熱による破損を防ぐのに必要な放熱を可能とするもので、例えば必要な大きさに加工された金属製の放熱板や、ペルチェ素子を用いたサーモモジュール等を利用することが可能である。これにより、高周波電力の印加や振動によって生じる発熱に起因される、振動子101の劣化や破損を抑制する事が出来る。なお、振動子101は、弾性表面波素子と見做すことが出来る。
図13に示される振動子101は、例えば、
図2、
図3、
図5、
図9、
図11、
図12等の振動子として利用することが可能である。
【0046】
いずれの方法においても、従来よりも高い周波数帯による、より微細な洗浄効果を得るためには、高い周波数と高い電力で駆動することが出来る振動子を備えた洗浄装置が必要であり、本実施形態により、その応用を実現することが可能となる。つまり、本実施形態では、洗浄対象物の更なる微細化と構造複雑化に対応したキャビテーションの発生しない高周波数での繊細な洗浄を可能とする。
【0047】
一般に、同じ超音波強度であれば、周波数が高くなるほど超音波の変位(振幅)が小さくなるため、弱いキャビテーションとなり、一方で、キャビテーションが弱いと洗浄力も弱まる。そのため、洗浄対象物へのダメージが懸念されずに強力な洗浄が要求される洗浄用途では低い周波数が用いられ、洗浄対象物へのダメージを抑制したい繊細な洗浄が要求される洗浄用途では高い周波数が用いられている。すなわち、洗浄用途に適応した周波数を選択する必要がある。キャビテーションの発生領域は、使用する液体の性質と、振動子に用いられる圧電素子の単位面積当たりの超音波強度(W/cm2)と、周波数(Hz)に依存し、高い周波数ほどキャビテーションの非発生領域は大きな超音波強度まで広がる。
【0048】
現在実用化されているPZT素子による洗浄液を用いた洗浄装置としては、上限として2MHz程度の周波数が用いられている。例えば、空気飽和水の場合、2MHzでのキャビテーションの非発生領域は、理論計算値から安全マージンを考慮すると、実用的なPZT素子の単位面積当たりの超音波強度として、およそ10W/cm2以下となる範囲での使用に限られる。
【0049】
しかしながら、本実施形態では、弾性表面波が発生する櫛形電極4の設計として、2MHz以上から数GHz程度まで可能となり、更に高い印加電力でもキャビテーションの発生しない領域での使用が可能である(
図8参照)。
【0050】
また、1つの櫛形電極4では洗浄効果が不十分となる場合においては、複数の櫛形電極4a-4dを有する圧電素子3(3a,3b,3c,3d)を用いることで、櫛形電極4a-4dのそれぞれから発生する弾性表面波により生じる音響流、あるいは洗浄液中に伝わる超音波振動を、液中における弾性表面波の放射特性から求められる焦点10にて合成させることにより、合成焦点における洗浄効果を向上させることが可能である(
図4、
図6参照)。
【0051】
液中における弾性表面波の放射特性は、圧電素子3上に設置された櫛形電極(4、4a-4d)からある角度をもって放射されることが知られており、その放射角度は、圧電素子3上に発生する弾性表面波のレイリー波速度と、液体の伝搬速度に依存する。
【0052】
例えば、LiNbO3素子を用いた圧電素子3で純水中に放射される角度は、圧電素子3の垂直方向に対して片側およそ22°、放射中心部から左右両方に放射でおよそ44°、となる。その角度と、複数設置された各櫛形電極4a-4dの中心部の間隔により、放射された超音波の焦点10(圧電素子3a,3b,3c,3dからの位置関係)を求めることが出来る(
図6参照)。
【0053】
また、圧電素子3において、LiNbO3と材質の特性が異なる素子を用いることにより、弾性表面波のレイリー波速度も異なるため、用途に適応した別の角度で利用することも可能である。
【0054】
なお、櫛形電極4(4a-4d)を有する圧電素子3(3a,3b,3c,3d)より生じる弾性表面波については、既に高周波電力のフィルタ用途としてその原理や設計理論は確立されたものであり、本発明に使用する周波数や必要な素子サイズに適用した電極設計を容易に行うことが可能である。
【0055】
例えば、櫛形電極(4_1,4_2、4a-4d)による生じる弾性表面波の伝搬速度は、櫛形電極(4_1,4_2、4a-4d)間のピッチと周波数に依存することが知られている。
【0056】
また、洗浄方法の応用例として、洗浄対象物1の裏面側からの超音波照射によって、洗浄対象物1の表面側上の微細異物2を除去しつつ、微細加工物への直接的な応力により与え得るダメージを回避することが可能である。
【0057】
また、高周波数で駆動できる櫛形電極(4、4a-4d)を有する圧電素子3(3a,3b,3c,3d)を用いることで、適用する周波数の応用範囲が、従来のPZT素子よりも広範囲で設定することが可能となり、且つ印加電力の制御による音響流あるいは洗浄液中に伝わる超音波振動の応答性能を活用し、洗浄用途に限らず、液中の超音波効果による様々な用途への応用が可能である。
【0058】
本実施形態によれば、以下の1つまたは複数の効果が得られる。
【0059】
1)振動子101は、洗浄対象物へのダメージの要因となるキャビテーションが発生しない高周波数帯での駆動が可能な櫛形電極(4、4a-4d)を有する圧電素子3を用いる。
【0060】
2)振動子101によって生じる弾性表面波による洗浄液中の音響流、あるいは洗浄液と洗浄液中に伝わる超音波振動の相乗効果によって洗浄効果を得ることが出来る。
【0061】
3)圧電素子3の材料としては、弾性表面波の発生や洗浄液への超音波放射に効率の良いものを使用し、例えば、弾性表面波を利用した高周波電力のフィルタ用途として一般的なニオブ酸リチウム(LiNbO3)素子などを用いる。
【0062】
4)振動子101において、1つの櫛形電極(4)ではその供給可能電力により十分な洗浄効果を得られない場合、複数の櫛形電極(4_1、4_2、または、4a-4d)を一定の間隔で設置し、供給電力をそれぞれの櫛形電極(4a-4d)へ同時印加し、液中における弾性表面波の放射特性により圧電素子3a-3dから複数放射される超音波を特定の焦点10で合成させる。これにより、1つの櫛形電極を使用した場合と比較して、その焦点10での洗浄効果を向上させることが出来る。
【0063】
5)洗浄対象物1の表面に構成される微細加工物へのダメージに対し、超音波が透過する洗浄対象物1については、洗浄液中の洗浄対象物1の裏面の直近から超音波を照射させ、超音波が透過する際に生じる洗浄対象物1自体の振動および洗浄液中に生じる水流により、洗浄対象物1上の微細異物2を除去する。これにより、洗浄対象物1の表面に構成される微細加工物へ超音波が直接当たることにより発生し得るダメージを回避することが出来る。
【0064】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではなく、種々変更可能であることはいうまでもない。
【0065】
本発明の他の応用例として、本発明における振動子101を使用することにより、適用する周波数の応用範囲が、PZT素子よりも高い周波数帯まで広範囲で設計することが可能であり、且つ、振動子101を駆動させる超音波発振器5側からの高周波電力発振制御(連続発振、断続発振、電力変動等)による音響流あるいは洗浄液中に伝わる超音波振動への応答性能を活用し、洗浄用途に限らず、液中に生じる超音波効果に期待される様々な用途への応用も可能である。
【0066】
たとえば、高周波数であるほど波長は短くなるため、微細隙間へ超音波が入り込むことが可能となり、入り組んだ隙間に付着している微細異物の除去といった、低周波数では実現できなかった微細隙間に対しての超音波作用が期待できる。
【0067】
また、本発明は、液中に関わらず、高周波数の超音波に期待される作用で、気中での超音波伝搬の特性を利用した用途への応用も可能である。
【0068】
また、上述の実施形態では、半導体ウエハ等の微細加工品に対して洗浄処理を行う超音波洗浄装置及び洗浄方法に関して説明されたが、本発明は半導体製造装置及び半導体装置の製造方法に限定されるものではなく、例えば、液晶表示(LCD)装置のようなガラス基板に対して洗浄処理を行う超音波洗浄装置及び洗浄方法にも適用可能である。
【0069】
また、本発明は、洗浄用途ばかりでなく、撹拌用途、液流動用途、ポンプ用途、霧化用途、噴水用途、物体搬送用途、粒子分離用途、粒子凝集用途、加熱用途等にも、適用可能である。
【0070】
(本発明の好ましい態様)
以下に、本発明の好ましい態様について付記する。
【0071】
(付記1)
請求項1の超音波洗浄装置において、前記超音波発振器は、発信周波数として2MHzを超えた高周波電力を前記振動子に供給するように構成されている超音波洗浄装置。
【0072】
(付記2)
上記(付記1)の超音波洗浄装置において、前記発信周波数は2MHz~数GHzである超音波洗浄装置。
【0073】
(付記3)
請求項1の超音波洗浄装置において、前記圧電素子は、ニオブ酸リチウム素子である超音波洗浄装置。
【0074】
(付記4)
上記(付記3)の超音波洗浄装置において、前記圧電素子上に設置された櫛形電極から放射される放射角度は、22°~44°である超音波洗浄装置。
【0075】
(付記5)
上記(付記3)の超音波洗浄装置において、前記放射角度は、前記圧電素子の材質に応じて決定される超音波洗浄装置。
【0076】
(付記6)
上記(付記3)の超音波洗浄装置において、前記圧電素子と前記洗浄対象物の位置は、前記放射角度と、複数設置された各櫛形電極中心部の間隔により、放射される超音波の焦点の位置にするよう構成される超音波洗浄装置。
【0077】
(付記7)
請求項1の超音波洗浄装置において、前記櫛形電極による生じる弾性表面波の伝搬速度は、櫛形電極間のピッチと周波数に依存される超音波洗浄装置。
【符号の説明】
【0078】
1:洗浄対象物
3:圧電素子
4、4a、4b、4c、4d:櫛形電極
5:超音波発振器
6:洗浄槽
7:洗浄液
100:超音波洗浄装置
101:振動子