(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】けい酸カルシウム板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/18 20060101AFI20220902BHJP
C04B 16/02 20060101ALI20220902BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20220902BHJP
【FI】
C04B28/18
C04B16/02 Z
C04B38/00 301D
(21)【出願番号】P 2018037668
(22)【出願日】2018-03-02
【審査請求日】2020-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松岡 元隆
(72)【発明者】
【氏名】山下 和樹
(72)【発明者】
【氏名】永沼 悠里
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第99/042418(WO,A1)
【文献】特表2001-518867(JP,A)
【文献】特開平08-325074(JP,A)
【文献】特開2007-131488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
C04B 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a1)石灰質原料と(a2)けい酸質原料
を加熱反応させて得られた反応体20~70重量%(固形分値)と、
(B)(b1)石灰質原料と(b2)けい酸質原料を含む硬化成分25~75重量%と、(C)繊維状物質2~15重量%と、の計100重量%を含
み、
前記(a1)石灰質原料と(a2)けい酸質原料のCaO/SiO
2
のモル比が0.4~1.1である、
スラリー
を板状に成形し、硬化養生することを特徴とするけい酸カルシウム板の製造方法。
【請求項2】
前記(A)の配合量が30~70重量%(固形分値)であることを特徴とする請求項1記載のけい酸カルシウム板の製造方法。
【請求項3】
前記(b1)の石灰質原料が、消石灰又は/及び生石灰であることを特徴とする請求項1又は2記載のけい酸カルシウム板の製造方法。
【請求項4】
前記(A)の加熱反応させるときの反応温度が80~100℃であることを特徴とする請求項1~3いずれか記載のけい酸カルシウム板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はけい酸カルシウム板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石灰質原料、けい酸質原料、パルプ等に水を加えて混合してスラリーとし、抄造機にて抄造して薄膜にし、薄膜を所定の厚みに積層する方法(以下、抄造法という。)や、型枠にスラリーを流し込み、脱水しながらプレスする方法(以下、モールド・プレス法という。)により板状に成形した後、オートクレーブで加温加圧し、養生して硬化させることでけい酸カルシウム板を得る技術があった。
【0003】
しかしながら、内装下地材及び化粧パネル用の基材として使用されているけい酸カルシウム板はかさ比重が0.8~1.0であり、一般的なサイズは3尺×6~9尺(1.7~2.4m2)と大きく、1枚あたりの重量が重いため、施工時の負荷が高くなっている。
【0004】
このような問題に鑑みけい酸カルシウム板を軽量化する方法として、パーライト、シラスバルーンのように、予め加熱発泡させた粉体をスラリー中に配合することで軽量化する方法が、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの発泡体は比重が軽いため、抄造法による製造では、スラリー中で発泡体の浮遊による分離が発生する等、製造中の問題があった。また、これらの発泡体のスラリー中への添加量にも限界があり、大幅な軽量化は困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる状況に鑑み検討されたもので、(a1)石灰質原料と(a2)けい酸質原料を高温常圧の条件にて加熱反応させることで得られるかさ比重の低い(A)反応体を製造し、得られた(A)反応体20~70重量%(固形分値)と、(B)(b1)石灰質原料と(b2)けい酸質原料を含む硬化成分25~75重量%と、(C)繊維状物質を2~15重量%と、の計100重量%を含むスラリーを抄造法で成形することで従来品より軽量のけい酸カルシウム板を得ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のけい酸カルシウム板はかさ比重が0.48~0.60と従来品より4割程度軽量化したにも拘らず、一般に使用される大板のサイズ(3尺×6~9尺)でも充分な取り扱いが可能である。
【0009】
パーライト、シラス等の発泡体を用いて本願のけい酸カルシウム板と同等のかさ比重を得るためには、パーライト等の発泡体を重量比で40%以上の添加が必要であり、抄造法では前述の理由により安定的に製造することが困難であったが、本願の製造方法によりこの問題を解決できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に関わる(A)反応体に用いる(a1)石灰質原料としては、例えば消石灰、生石灰、ポルトランドセメント等が挙げられる。また、(a2)けい酸質原料としては、珪藻土、マイクロシリカ、シリカヒューム等を使用することができる。反応は(a1)石灰質原料と(a2)けい酸質原料とを、CaO/SiO2モル比(以下、C/Sという。)が0.4~3.0となるように配合し、この配合物に対し、重量比で5~20倍、好ましくは7~16倍の水を加え、混合分散し、80~100℃の温度で、1~6時間にわたり反応を行う。(C/Sが上記の範囲を超えると、十分な反応体が生成されない。)
【0011】
(A)反応体は全成分中30~65重量%(固形分値)とする。下限に満たないと、十分な軽量効果が得られない。また、上限を超えると成形体を構成する硬化成分が不足し、十分な強度が得られない。反応は常圧或いは加圧下で行うことができ、加圧下で行うことによって反応を促進できることや、反応体の結晶性を向上といったメリットがある。
【0012】
(B)硬化成分として(b1)石灰質原料と(b2)けい酸質原料を併用する。(b1)石灰質原料、(b2)けい酸質原料は前述と同様の原料の他、珪石微粉末、フライアッシュなどを用いることができる。(B)(b1)石灰質原料と(b2)けい酸質原料を含む硬化成分は25~60重量%とする。下限に満たないと、成形体を構成する硬化成分が不足し、十分な強度が得られない。また、上限を超えると十分な軽量効果が得られない。(b1)石灰質原料と(b2)けい酸質原料との併用割合はC/Sで0.4~2.0するのが好ましい。この範囲内であれば成形体の硬化が充分で強度が優れる。
【0013】
粉体捕捉成分として(C)繊維状物質としては、例えばパルプ、ポリプロピレン、レーヨン等の有機繊維、炭素繊維、ガラス繊維等の無機繊維を使用することができる。繊維原料の配合割合は、2~15重量%の範囲が好ましい。下限に満たないと、抄造において、粉体原料の捕捉性が欠如し排水中への流出が多くなり安定的な製造ができなくなり、また成形体の強度も不十分になる。上限を超えると、他の原料および水と混合してスラリーを得るときに、繊維原料の分散性が低下する。
【0014】
前記(A)、(B)、(C)に加えて、(D)その他の成分として、30重量%以内の範囲で、ワラストナイト、マイカ、石膏、バーミキュライト、炭酸カルシウム、タルク、セピオライトなどの無機鉱物、けい酸カルシウム板の粉砕物からなる群から選択される少なくとも1種を含んでも良い。ワラストナイト、マイカを添加することで成形体の耐熱性が向上し、加熱による膨張、収縮を抑制することができる。上限を超えると、反応体の添加割合が低下することで軽量効果が不足することや、硬化成分の添加割合が低下することで成形体の強度が不足するため、好ましくない。
【0015】
成形方法としては、押出成形法、モールド・プレス法、抄造法などの方法が採用可能であるが、抄造法を採用することで安定して製造できる。
抄造方式では、(A)反応体を30~65重量%、硬化成分を25~60重量%、(C)繊維状物2~15重量%を含むスラリーを抄造・積層し、オートクレーブ加圧養生し、硬化させる。オートクレーブ養生は、例えば0.5~1.6MPa、150~200℃で、3~10時間行えばよい。
【0016】
上記の方法で得られたけい酸カルシウム板は、水銀圧入法による構造分析で、0.1μm以下の細孔容積の割合が、全細孔容積の内約70%以上であったことから、緻密かつ多孔質の構造であることが判明し、これにより、軽量化とハンドリング性の向上、及び靭性の向上ができたと考えられる。また、0.1μm以下の細孔容積が大きいことにより、環境によって水蒸気を吸放出する調湿機能を有している。尚、水銀圧入法とは、粉体の細孔に水銀を浸入させるために圧力を加え、圧力と圧入された水銀量から比表面積や細孔分布を求める方法をいう。
以下、実施例、比較例を挙げて詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
反応体(A1)
(a1)石灰質原料として消石灰(CaO含有量75重量%)を50重量%、(a2)けい酸質原料として珪藻土(SiO2含量量80重量%)を50重量%(C/S=1.1)となるように配合して、この配合物に対し、重量比で5倍の水を加え、混合分散し、常圧下、90℃の温度で、2時間にわたり加熱反応させ反応体(A1)(固形分含有量20重量%)を得た。
【0018】
スラリー
前記反応体(A1)65重量%(固形分値)と、(B)(b1)石灰質原料として消石灰を13重量%と(b2)けい酸質原料としてけい砂を13重量%を含む硬化成分と、(C)繊維状物質としてパルプを9重量%を配合し、9倍量の水を加えて混合分散してスラリーを得た。
【0019】
けい酸カルシウム板の製造
前記のスラリーを抄造法により厚みが6mmとなるように抄造した後、オートクレーブ中180℃の飽和蒸気圧で、10時間にわたり養生し、硬化後にオートクレーブより取り出しけい酸カルシウム板を得た。
【実施例2】
【0020】
実施例1において、前記反応体(A1)50重量%(固形分値)と、(B)(b1)石灰質原料として消石灰を21重量%と(b2)けい酸質原料としてけい砂を22重量%を含む硬化成分と、(C)繊維状物質としてパルプを7重量%を配合し、9倍量の水を加えて混合分散したスラリーを用いた以外は実施例1と同様に実施した。
【実施例3】
【0021】
反応体(A2)
実施例1において、(a1)石灰質原料として消石灰(CaO含有量75重量%)を36重量%、(a2)けい酸質原料として珪藻土(SiO2含量量80重量%)を64重量%(C/S=0.6)となるように配合した以外は実施例1と同様に実施し、反応体(A2)を得た。
けい酸カルシウム板の製造
前記反応体(A2)50重量%(固形分値)と、(B)(b1)石灰質原料として消石灰を18重量%と(b2)けい酸質原料としてけい砂を25重量%を含む硬化成分と、(C)繊維状物質としてパルプを7重量%を配合し、9倍量の水を加えて混合分散したスラリーを用いた以外は実施例1と同様に実施した。
【実施例4】
【0022】
実施例1において、前記反応体(A2)45重量%(固形分値)と、(B)(b1)石灰質原料として消石灰を20重量%と(b2)けい酸質原料としてけい砂を28重量%を含む硬化成分と、(C)繊維状物質としてパルプを7重量%を配合し、9倍量の水を加えて混合分散したスラリーを用いた以外は実施例1と同様に実施した。
【実施例5】
【0023】
実施例1において、前記反応体(A1)35重量%(固形分値)と、(B)(b1)石灰質原料として消石灰を23重量%と(b2)けい酸質原料としてけい砂を35重量%を含む硬化成分と、(C)繊維状物質としてパルプを7重量%を配合し、9倍量の水を加えて混合分散したスラリーを用いた以外は実施例1と同様に実施した。
【実施例6】
【0024】
実施例1において、前記反応体(A2)35重量%(固形分値)と、(B)(b1)石灰質原料として消石灰を23重量%と(b2)けい酸質原料としてけい砂を35重量%を含む硬化成分と、(C)繊維状物質としてパルプを7重量%を配合し、9倍量の水を加えて混合分散したスラリーを用いた以外は実施例1と同様に実施した。
【0025】
比較例1
消石灰22重量%、けい砂11重量%、珪藻土11重量%、パルプ6重量%、粘土鉱物17重量%、ワラストナイト、石膏等の充填材33重量%を配合し、9倍量の水を加えて混合分散したスラリーを用いた以外は実施例1と同様に実施した。
【0026】
比較例2
消石灰24重量%、けい砂14重量%、珪藻土8重量%、パルプ6重量%、粘土鉱物17重量%、ワラストナイト、石膏等の充填材48重量%を配合し、9倍量の水を加えて混合分散したスラリーを用いた以外は実施例1と同様に実施した
【0027】
【0028】
評価方法を以下に示す。
(1)抄造性:抄造法で成形可能な配合を○、成形不可の場合を×とした。
(2)成型体かさ比重:JIS A 5430:2013「繊維強化セメント板」に基づいて測定した。
(3)細孔構造:水銀圧入法より分析した。測定装置はMicromeritics製AutoPoreIV9520を用いて細孔径分布を算出させ、0.1μm以下の細孔比率を計算して求めた。
(4)調湿性:JIS A 1470-1:2014「建築材料の吸放湿性試験方法-第1部」:湿度応答法に基づいて測定し、吸湿量29g/m2以上を○、吸湿量29g/m2未満を×とした。
(5)ハンドリング性:軽量で取り扱いに支障のないレベルを◎、やや重いが取り扱いに支障のないレベルを○とした。