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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】施工管理方法及び浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/00 20060101AFI20220902BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20220902BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20220902BHJP
   G01N 23/223 20060101ALI20220902BHJP
【FI】
B09C1/00 ZBP
C02F11/00 C
C02F1/28 B
G01N23/223
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018080659
(22)【出願日】2018-04-19
(65)【公開番号】P2019188279
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 久裕
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 哲哉
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-068013(JP,A)
【文献】特開2006-349514(JP,A)
【文献】特開2004-294329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/00
C02F 11/00
C02F 1/28
B09B 1/00-5/00
G01N 23/00,31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め決められた施工条件に従って、重金属を含有する浄化対象に磁性体を添加し、前記重金属を吸着した前記磁性体を所定の選別法により回収することで、前記浄化対象から前記重金属を除去する浄化処理を、管理するための施工管理方法であって、
前記浄化対象から採取したサンプルから溶出される前記重金属を迅速分析法によりオンサイトの試験室内で分析する現地分析工程と、
前記現地分析工程での分析結果に基づいて、前記浄化対象の浄化効果を確認し、前記施工条件の調整を行う運転管理工程と、
を有し、
前記現地分析工程は、
前記サンプルとの固液比が1:1~1:20となるように水を加えて前記サンプルをスラリー化してスラリーを得る第一工程と、
前記スラリーに前記磁性体を添加して撹拌する第二工程と、
前記磁性体が添加された前記スラリーに磁石体を直接に接触させて前記磁性体を回収する第三工程と、
前記磁性体の回収後の前記スラリーを脱水する第四工程と、
脱水後の前記サンプル中の前記重金属を迅速分析法によって分析する第五工程と、を有し、
前記第五工程では、前記サンプルを所定の希釈状態となるように水で希釈し、所定時間の振とう後に、前記迅速分析法により前記サンプル中の前記重金属の溶出量を測定することを特徴とする施工管理方法。
【請求項2】
前記施工条件が、前記浄化対象への前記磁性体の添加量、前記磁性体の繰り返しの使用回数、及び前記磁性体による前記浄化対象の処理時間の少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の施工管理方法。
【請求項3】
前記サンプルが、前記重金属を含有する前記浄化対象としての土壌、汚泥、汚水及び泥水のいずれかから採取した浄化前サンプル、及び前記浄化対象を所定の浄化法で浄化した浄化後サンプルのいずれかであり、前記現地分析工程では、前記浄化前サンプルに対しては、オンサイトの前記試験室内で前記磁性体を添加して浄化し、前記磁性体を回収した後に迅速分析法によって分析し、前記浄化後サンプルに対しては、直接に迅速分析法によって分析することを特徴とする請求項1又は2に記載の施工管理方法。
【請求項4】
前記現地分析工程では、蛍光X線分析により前記サンプル中の前記重金属の溶出量を測定することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の施工管理方法。
【請求項5】
予め決められた施工条件に従って、重金属を含有する浄化対象に磁性体を添加し、前記重金属を吸着した前記磁性体を所定の選別法により回収することで、前記浄化対象から前記重金属を除去する浄化処理であって、
請求項1~のいずれか一項に記載の施工管理方法により、前記施工条件を調整する工程を有することを特徴とする浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属を含有する土壌等の浄化処理を管理するための施工管理方法及びこの施工管理方法を用いた浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、重金属に汚染された土壌の浄化を、重金属の吸着能を有する鉄粉等の磁性体を用いて行う技術が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
特許文献1には、土壌に対して1~10質量%の鉄粉と水と重金属の移動を促す薬剤を添加して撹拌し、土壌中の重金属を鉄粉に吸着させ、重金属を担持した鉄粉を磁選機によって土壌から分離する浄化方法が開示されている。特許文献2には、シールド工法で発生した掘削土に、鉄粉等の吸着剤を添加し、重金属を掘削土から分離する浄化方法及びシステムが開示されている。特許文献3には、1回の利用で鉄粉を廃棄する場合に比べてコストの低減を図る目的で、磁力選別にて土壌から回収した鉄粉を、再度重金属を含む土壌に返送して、鉄粉を再使用する浄化方法及びシステムが開示されている。
【0004】
また、浄化の効果確認には、環境省が定める公定分析法が用いられている。この公定分析法では、浄化対象の土壌のサンプルを2~3日風乾し、10倍希釈して6時間振とうした後、ICP/MS分析法により重金属の量を測定しているため、分析処理の結果が得られるまでに数日間を要している。
【0005】
ここで、土壌等の浄化に使用する鉄粉の添加量や処理時間等、浄化の施工計画は、土壌等の事前分析によって決定している。しかし、実際に現地で浄化作業を行う際の土壌等の汚染濃度や土質条件が、事前分析に用いたサンプルの汚染濃度や土質条件とは異なる場合がある。そのため、浄化の効率化やコストを考えると、鉄粉の使用量等を土壌等の状態に応じて適切に調整できることが望ましい。また、鉄粉を繰り返し使用すると、吸着能力がなくなる「破過」という現象が起こる。この破過が起こる時期(タイミング)も、土壌等の状態に応じて変化する場合があるため、破過の時期についても現地で管理できることが望ましい。このように、鉄粉の使用量、処理時間、破過のタイミングなどの施工管理の調整を、現地で簡易に行うことができる技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-51835号公報
【文献】特開2017-196620号公報
【文献】特開2011-56482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたもので、重金属を含有する土壌等の浄化処理を効率的に行うための施工管理を、現地で容易に行うことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の施工管理方法は予め決められた施工条件に従って、重金属を含有する浄化対象に磁性体を添加し、前記重金属を吸着した前記磁性体を所定の選別法により回収することで、前記浄化対象から前記重金属を除去する浄化処理を、管理するための施工管理方法であって、前記浄化対象から採取したサンプルから溶出される前記重金属を迅速分析法によりオンサイトの試験室内で分析する現地分析工程と、前記現地分析工程での分析結果に基づいて、前記浄化対象の浄化効果を確認し、前記施工条件の調整を行う運転管理工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
ここで、前記施工条件が、前記浄化対象への前記磁性体の添加量、前記磁性体の繰り返しの使用回数、及び前記磁性体による前記浄化対象の処理時間の少なくともいずれか1つを含むものとすることができる。また、前記サンプルが、前記重金属を含有する前記浄化対象としての土壌、汚泥、汚水及び泥水のいずれかから採取した浄化前サンプル、及び前記浄化対象を所定の浄化法で浄化した浄化後サンプルのいずれかであり、前記現地分析工程では、前記浄化前サンプルに対しては、オンサイトの前記試験室内で前記磁性体を添加して浄化し、前記磁性体を回収した後に迅速分析法によって分析し、前記浄化後サンプルに対しては、直接に迅速分析法によって分析するものとすることができる。
【0010】
さらに、前記現地分析工程では、前記サンプルを所定の希釈状態となるように水で希釈し、所定時間の振とう後に、蛍光X線分析により前記サンプル中の前記重金属の溶出量を測定するものとすることができる。また、前記現地分析工程は、前記サンプルとの固液比が1:1~1:20となるように水を加えて前記サンプルをスラリー化してスラリーを得る第一工程と、前記スラリーに前記磁性体を添加して撹拌する第二工程と、前記磁性体が添加された前記スラリーに磁石体を直接に接触させて前記磁性体を回収する第三工程と、前記磁性体の回収後の前記スラリーを脱水する第四工程と、脱水後の前記サンプル中の前記重金属を迅速分析法によって分析する第五工程と、を有するものとすることができる。
【0011】
また、本発明の浄化方法は、予め決められた施工条件に従って、重金属を含有する浄化対象に磁性体を添加し、前記重金属を吸着した前記磁性体を所定の選別法により回収することで、前記浄化対象から前記重金属を除去する浄化処理であって、上述のような施工管理方法により、前記施工条件を調整する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このように構成された本発明によれば、現地で採取した浄化対象のサンプルから溶出される重金属を、現地の室内試験での迅速分析によって迅速かつ精度よく分析することができる。この分析結果に基づいて、浄化効果の確認を簡易に行うことができるとともに、浄化処理の施工条件を土壌等の状態に応じて適切に調整することができる。したがって、重金属を含有する土壌等の浄化処理を効率的に行うための施工管理を、現地で容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本願の実施形態に係る施工管理方法を用いた浄化方法の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図2図1の公定分析工程と事前室内試験工程の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図3図1の本施工工程の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図4図3の現地室内分析工程における鉄粉混合、鉄粉回収、脱水の各工程の流れを示す概略図である。
図5】迅速分析の効果確認の試験結果を示すグラフである。
図6】鉄粉の繰り返し使用の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る浄化処理の施工管理方法を用いた浄化方法について、図面を参照しながら説明する。本実施形態の浄化方法は、重金属を含有する浄化対象に磁性体を添加し、その後に磁性体を回収することで、浄化対象から重金属を除去して浄化する方法である。また、この浄化方法で用いられる施工管理方法は、浄化対象から採取した所定のサンプル中の重金属をオンサイトで迅速分析によって分析し、浄化対象の浄化が適切に行われたか否か等を簡易に確認するとともに、分析結果に応じて浄化処理の施工条件を調整することで、浄化処理が効率的かつコスト性よく行えるように管理する方法である。
【0015】
本明細書でいう「重金属を含有する浄化対象」とは、「重金属を含有する浄化対象」は勿論、「重金属を溶出する浄化対象」、さらには「重金属を含有し、かつ溶出する浄化対象」も含む意味で用いている。本明細書では、特に断りのない場合は「含有」は、「含有」若しくは「溶出」、又は「含有及び溶出」を意味するものとする。
【0016】
重金属を含有する浄化対象としては、例えば、重金属を含有する土壌、汚泥、水、泥水などが挙げられ、これらの浄化に本実施形態の施工管理方法と浄化方法を好適に適用することができる。なお、本実施形態では、浄化対象として重金属を含有し、溶出する土壌を浄化する際の施工管理方法と浄化方法について主に説明する。
【0017】
重金属としては、砒素、水銀、鉛、カドミウム、六価クロム、セレン、アンチモン、銅、亜鉛などが挙げられる。磁性体としては、鉄粉や、鉄を含む粒子等が好適に挙げられるが、これらに限定されるものではなく、重金属の吸着能を有し、土壌から回収可能であればよい。これらの磁性体の中でも、鉄粉が最も好適に挙げられ、上記のような重金属を含有する土壌等から、重金属を効率的に除去することができる。
【0018】
また、施工管理方法で用いる「浄化対象から採取したサンプル」は、いわゆる「浄化対象由来のサンプル」であり、浄化前の浄化対象から採取したサンプル、浄化後の浄化対象から採取したサンプルも含む意味である。より具体的には、浄化対象の土壌等そのものから採取したサンプルや、浄化対象の土壌等から採取したサンプルに対して、オンサイトで磁性体を添加して浄化し、磁性体を回収した後のサンプルが挙げられる。また、浄化装置を用いて適宜の浄化方法により浄化した後の土壌等から採取したサンプルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本実施形態の浄化方法を実行するための浄化システムは、事前室内試験を行うために分析センターや工場等の事前試験室内に設けられた事前試験装置と、施工管理のための現地試験を行う現地(オンサイト)の現地試験室内に設けられた現地試験装置、及び実際に浄化処理を行う浄化装置(浄化プラント)と、を備えて構成される。
【0020】
事前室内試験のための事前試験装置と、現地試験のための現地試験装置とは、同等のものを用いることができる。例えば、土壌を解砕するためのハンマーや簡易な解砕機等の解砕手段、スラリー化や攪拌のための卓上ボールミル装置、磁性体を回収するための磁石棒等の簡易な回収具、吸引ろ過器等の簡易な脱水装置、蛍光X線分析機、各種容器や器具などが挙げられる。
【0021】
浄化装置は、従来公知の何れのものを用いてもよく、特に限定されないが、例えば、解砕機、分級装置、pH調整槽、鉄粉混合槽、鉄粉回収装置、脱水機、水や土壌の供給手段、配管などを備えて構成される(図3参照)。
【0022】
以下、上記浄化システムで実行される本実施形態の施工管理方法及び浄化方法について、図1図3のフローチャート及び図4の概略図を参照しながら説明する。
【0023】
図1のフローチャートに示すように、本実施形態に係る浄化方法は、土質試験工程(ステップS1)と、公定分析工程(ステップS2)と、浄化処理適用の可否の判定公定(ステップS3)と、事前室内試験工程(ステップS4)と、設計・計画工程(ステップS5)と、本施工工程(ステップS6)と、を有している。
【0024】
ステップS1の土質試験工程では、浄化対象から採取したサンプルに対して、粒度試験、pH測定等の土質試験を行って、粒度組成、pH等の土質条件を取得する。この土質試験工程と並行して、ステップS2の公定分析工程を行って、サンプルに対する公定分析を行う。公定分析は、計量証明事業登録されている分析機関で、公定分析法(平成3年環境庁告示第46号)に基づいて行われる。
【0025】
図2紙面左側のフローチャートに従って分析機関で行われる公定分析の流れの概略を説明する。浄化対象の土壌からサンプルを採取し(ステップS11)、このサンプルに対して2~3日間の風乾を行う(ステップS12)。次に、風乾を行ったサンプルに水を加えて10倍希釈し、振とう装置を用いて6時間振とうする(ステップS13)。振とうが終わったら、分析装置(例えば、ICP/MS、イオンクロマトグラフィー、原子吸光等)によって、サンプル中に含有される重金属を分析し、その含有量や溶出量(濃度)を測定する(ステップS14)。公定分析法では、分析開始から数日後に分析結果が得られる。
【0026】
次に、ステップS1で取得した土質条件や、ステップS2で分析機関から報告される分析結果に基づいて、浄化処理が適用可能な土壌か否か判断する(ステップS3)。例えば、土壌汚染対策法で定められている重金属の基準値に基づいて、浄化の必要がある土壌か否か、磁性体による浄化が可能であるか否かなどを判断する。
【0027】
浄化処理の適用が可能と判断した場合は(YES)、次のステップS4の事前室内試験工程に進む。これに対して、浄化処理の適用外と判断した場合は(NO)、浄化は不可として、その後のステップS4~S6の工程をスキップし、終了する。
【0028】
ステップS4の事前室内試験工程の処理の流れを、図2紙面右側のフローチャートに従って説明する。まず、事前試験室内にて、土壌のサンプルの室内試験と迅速分析を行う(ステップS21)。この室内試験と迅速分析の各工程は、現地試験室内と同等の事前試験装置と迅速分析法を用いて、後述の現地分析工程の現地室内試験工程(ステップS40)と迅速分析工程(ステップS50)と同様の手順で行う。そのため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0029】
次に、迅速分析後のサンプルに対して粒度試験等の土質試験を行って、粒度組成、pH等の土質条件を取得する(ステップS22)。これと並行して、迅速分析後のサンプルに対して分析機関での公定分析を行い(ステップS23)、この公定分析の結果に基づいて、迅速分析の検証を行う。また、迅速分析の結果、公定分析の結果及び土質条件に基づいて、鉄粉洗浄の条件(添加量、処理時間など)、浄化処理を管理するための公定分析法と迅速分析法の相関、及び鉄粉の破過時期など、浄化処理の設計・計画のための基礎データを取得する(ステップS24)。
【0030】
次のステップS5の設計・計画工程では、ステップS1の土質試験工程で取得した土質条件、ステップS2の公定分析工程での公定分析結果、ステップS4で取得した基準データに基づいて、実際の環境(実プラント)での土壌の浄化処理手順の設計と計画を行う。具体的には、土壌中の重金属の種類、含有量や溶出量及び事前室内試験の結果に基づいて、好適な鉄粉の添加量や処理時間などを決定する。鉄粉の添加量は、特に限定されないが、添加量が少なすぎると重金属の吸着が十分に行えなくなり、添加量が多すぎると無駄が生じてコスト高となるため好ましくない。例えば、土壌に対して1~20重量%とすることが好ましく、1~10%とすることがより好ましい。添加量をこの範囲内で設定することで、重金属の吸着能に優れ、しかも無駄のない使用が可能となり、コストを低減することができる。
【0031】
また、このステップS5では、公定分析法と迅速分析法の相関に基づいて、現地で行う迅速分析の検証を行うとともに、迅速分析でのサンプルの好適な処理条件(例えば、希釈率、分析結果の含水率補正の方法、振とう時間、振とう方法等)や、公定分析と、迅速分析による現地分析工程のそれぞれの実行タイミングなどを決定する。
【0032】
公定分析法では、固体に対し10倍(重量)の水量で溶出することが決められているため、これに対応させて、本実施形態の現地分析工程での土壌の希釈率を10倍とした。また、含水率補正の方法としては、事前含水率補正と試験後含水率補正とが挙げられる。事前含水率補正を用いた際の分析手順としては、例えば、サンプルが土壌等の固体の場合、振とう前にサンプルの含水量を電子レンジ法で迅速に測定し、測定結果に基づいてサンプルに水を加えて、希釈率が10倍になるように調整する。その後、サンプルを振とうし、蛍光X線分析により迅速分析する。
【0033】
また、試験後含水率補正を用いた際の分析手順としては、例えば、振とう前に、湿潤状態でサンプルに10倍量の水を加えた後、振とうして迅速分析する。この作業と並行して、電子レンジ法にてサンプルの含水量を測定し、迅速分析での分析結果を含水量で補正する。なお、サンプルが泥水状の場合は、そのまま迅速分析するか、又は泥水の比重を測定して、10倍量になるよう水を加えて調整した後、迅速分析する。また、サンプルが水の場合は、希釈等せずにそのまま迅速分析する。
【0034】
サンプルの振とう時間は、サンプルと水との混合状態が平衡状態となればよく、10分以内が好ましく、5分以内がより好ましく、5分程度が最も好ましい。振とう方法としては、超音波振とうや一般的な振とう器を用いた振とう(以下、「通常振とう」という)などが挙げられるが、より簡易であることから通常振とうが好適に挙げられる。このような振とう時間及び振とう方法によって土壌と水とを混合することで、簡易かつ迅速に平衡状態とすることができる。また、鉄粉の破過時期に基づいて、鉄粉の繰り返し使用の際の使用回数を決定する。
【0035】
上記のようにステップS5で決定した設計・計画に基づいて、現地(オンサイト)での土壌の浄化処理の本施工工程を実行する(ステップS6)。この本施工工程中の浄化の効果確認は、公定分析と迅速分析にて行う。日々の効果確認や、施工条件の調整等による施工管理は、迅速分析結果に基づいて行う。以下、ステップS6の本施工工程の詳細について、図3のフローチャート及び図4の概略図を参照しながら説明する。
【0036】
図3に示すように、本施工工程は、現地(オンサイト)で行われ、浄化装置を用いて土壌の浄化を行う浄化処理工程(ステップS30)と、現地で土壌中の重金属を分析する現地分析工程(ステップS40及びS50)と、現地分析工程での分析結果に基づいて浄化処理工程を管理する運転管理工程(ステップS60)と、を有している。以下では、浄化処理前の、重金属によって汚染された土壌を「汚染土壌」ということがあり、浄化処理後の土壌を「浄化土壌」又は「浄化土」ということがあり、浄化後に土壌から分離された水分を「浄化水」又は「ろ水」ということがある。
【0037】
ステップS30の浄化工程は、設計・計画工程で設定された施工条件(施工条件が調整された場合は調整後の施工条件)に従って、浄化装置によって汚染土壌の浄化を実際に行う工程である。図3に示すように、掘削し運搬した後の汚染土壌から異物を除去した後、汚染土壌と水を土壌解砕機に投入して、解砕を行う(ステップS31)。次に、解砕物に対して分級装置によって分級を行う(ステップS32)。この分級では、例えば、粒径2mm以下と、2mm超のものに分級する。粒径2mm超の土壌に関しては、現地室内試験で分析した上で浄化済みとして処理することができる。
【0038】
次に、粒径2mm以下の土壌(細粒分)をpH調整槽に移送し、汚染土壌のpHに応じて酸性溶液又はアルカリ性溶液を適宜注入し、汚染土壌のpHを、例えば6~8の中性域に調整する(ステップS33)。pH調整後の汚染土壌を鉄粉混合槽に移送し、鉄粉を添加して混合することで、汚染土壌中の重金属を鉄粉に付着させる(ステップS34)。このとき、設計・計画工程にて予め設定された添加量(施工管理によって添加量が調整された場合は、調整後の添加量)に基づいて鉄粉が添加される。次に、鉄粉が混入した土壌を、鉄粉回収装置に移送し、土壌中から鉄粉を回収する(ステップS35)。鉄粉の回収の方法は、特に限定されることはなく、例えば、磁選機等を用いて磁力によって選別する磁力選別、重力選別機等を用いた重力選別、篩等を用いた篩選別のいずれかの選別法、又はこれらを複数組み合わせた選別法などが挙げられる。この中でも、磁力選別を用いた回収方法が好適であり、効率的な回収が可能である。
【0039】
回収された鉄粉は、繰り返しの使用回数以内であれば、鉄粉投入前に戻され、再び鉄粉混合槽に投入されて、繰り返し使用される(図3の点線矢印参照)。使用回数を超えたときは破過が起こったとして廃棄される。この使用回数も、前述したステップS5の設計・計画工程で、繰り返し使用試験により得た鉄粉の破過時期に基づいて設定された使用回数、又は施工管理により土壌の状態等に応じて適切に調整された使用回数である。
【0040】
鉄粉が回収された後の土壌は、フィルタープレス等の脱水機に移送されて脱水され、浄化土壌と、ろ水とに分離される。この浄化土壌と、ろ水に対して、定期的に(例えば、土壌の処理量100m3ごとに1回)公定分析され、浄化の効果確認が行われる。
【0041】
また、本実施形態では、浄化後であって脱水前の泥水と、浄化土壌から、それぞれサンプルを採取し、後述の迅速分析工程(ステップS50)で迅速分析する。迅速分析工程では、簡易な装置や手順と迅速分析法によって、より手軽に重金属の溶出量を分析することができるため、公定分析での厳密な効果確認とは別に、日々の浄化の効果を簡易に確認することができる。
【0042】
次に、現地分析工程(ステップS40、S50)について説明する。この現地分析工程は、施工管理のために、現地での実際の土壌の汚染濃度や土質条件を確認したり、日々の浄化の効果確認を行ったりするための工程であり、現地室内試験工程(ステップS40)と、迅速分析工程(ステップS50)と、を有している。
【0043】
ステップS40の現地室内試験工程では、分析試験を行う前の準備処理を行う。まず、現地の汚染土壌から所定量のサンプルを採取する(ステップS41)。
【0044】
次に、現地に設けた試験室(例えば、作業用の建物の室内やトラック車両内)において、採取したサンプルのスラリー化と分級を行う(ステップS42)。より具体的には、サンプルが泥岩等の塊状のものである場合は、サンプルを袋等に収容して、ハンマー等の解砕具で細かく砕く。次いで、解砕されたサンプルに水を加えて、卓上ボールミル装置等の簡易な装置を用いてスラリー化する。このとき、サンプルとの固液比が、1:1~1:20となるように、水の添加量を調整しながらスラリー化する。そして、スラリー化したサンプルを、篩等の簡易な分級器具によって粒径2mm以下と、2mm超に分級する。
【0045】
次に、粒径2mm以下のサンプルに対して、鉄粉混合工程(ステップS43)、鉄粉回収工程(ステップS44)、脱水工程(ステップS45)を行う。これらの工程の手順を、図4を参照しながら説明する。適宜の容器内にスラリー化した粒径2mm以下のサンプルを投入し(ステップS431)、容器内のサンプルに鉄粉を添加する(ステップS432)。この添加量は、設計・計画工程にて予め設定された添加量であるが、施工管理によって調整された添加量であってもよい。
【0046】
次に、鉄粉とサンプルを投入して密閉した容器を、卓上ボールミル装置等で振とうさせて、鉄粉とサンプルとを十分に混合し、鉄粉に重金属を吸着させる(ステップS433)。混合が完了したら、容器内に磁石棒を挿入して攪拌することで、磁石棒に鉄粉を付着させる(ステップS441)。容器から磁石棒を取り出して、周囲に付着した鉄粉(重金属を吸着した鉄粉)を、ヘラ等を用いてこすり落として鉄粉を回収する(ステップS442)。回収した鉄粉は、破過時期を確認するための繰り返し使用試験などに用いることができる。破過が起こった後の鉄粉は廃棄される。
【0047】
次に、容器内の浄化のサンプルを、必要に応じて篩等による分級した後に、吸引ろ過器等によって脱水し(ステップS451)、浄化土壌と、ろ水とに分離する(ステップS452)。浄化土壌とろ水は、次の迅速分析工程(ステップS50)によって分析されるが、以下では浄化土壌の分析手順について説明する。
【0048】
ステップS50の迅速分析工程では、上記ステップS40の現地室内試験工程で浄化し脱水して得られた浄化土から、サンプルを採取する(ステップS51)。採取したサンプルを、試験管等に入れて水で10倍に希釈し、5分間通常振とうする(ステップS52)。振とうが完了したら、蛍光X線分析機を用いて、重金属の迅速分析・測定を行う(ステップS53)。
【0049】
本実施形態では、振とう前に、浄化土壌のサンプルに対して、湿潤状態で10倍量の水を加えて希釈した後、5分間振とうして分析し、この作業と並行して、電子レンジ法にてサンプルの含水量を測定し、分析結果を含水量で補正している(試験後含水率補正)。そのため、厳密な脱水や水分調整が不要で、簡易に作業することができる。また、公定分析では振とう時間が6時間と定められているが、本実施形態では、通常振とうで5分間振とうしている。本実施形態では、風乾したサンプルではなく、泥土・泥水の状態のサンプルを用いていることから、このような振とう条件であってもサンプルと水とを十分に混合して平衡状態とすることができ、振とう作業をより効率的に行うことができる。
【0050】
また、蛍光X線分析機を用いることで、ICP/MS等を用いた公定分析と比較して、より簡易な設備での分析・測定が可能となる。また、風乾の手間がなく、振とう時間も6時間から5分に短縮できるので、公定分析と比較して、より迅速で、しかも精度よく重金属の分析・測定が可能となる。
【0051】
なお、ここでは試験後含水率補正を適用した分析手順を説明しているが、これに限定されるものではない。事前室内試験で相関を確認し、確認結果によっては事前含水率補正を適用することもできる。また、泥水状の場合は、比重に基づいて10倍量になるように希釈し、5分間振とうして分析する。水(ろ水)の場合は希釈等せずにそのまま分析する。
【0052】
上記のような現地分析工程で取得した重金属の測定結果に基づいて、次のステップS60の運転管理工程で、施工条件の調整を行う。具体的には、例えば、土壌中の重金属の溶出量濃度が基準値を超えている場合は、鉄粉の添加量を増加したり、処理時間を長くしたりする等、浄化条件を適宜調整する。逆に、土壌の汚染度が低い場合は、鉄粉の添加量を少なくしたり、処理時間を短くしたりする。また、鉄粉の繰り返し使用の試験を行った場合は、分析結果に基づいて破過が起こったか否かを確認し、そのときの使用回数に基づいて、本施工での使用回数を調整する。この他にも、分析結果に基づいて、本施工での水の添加量の調整、pHの調整のための酸・アルカリ性溶液等の投入量など、現地での各種施工条件を調整することができる。
【0053】
また、前述したように、ステップS30の実際の浄化工程で浄化して得られた浄化土壌や泥水から採取したサンプルに対して、ステップS50の迅速分析工程を行うこともできる。この場合、浄化の効果確認を、簡易に行うことができる。そして、効果の状態に応じて、再度浄化処理を行うよう運転スケジュールを調整したり、翌日の浄化処理で用いる鉄粉の添加量を調整したりするなど、施工条件を調整することができる。
【0054】
以下、本実施形態に係る施工管理方法及び浄化方法の効果を説明する。本実施形態に係る施工管理方法は、予め決められた施工条件に従って、重金属を含有する浄化対象に磁性体を添加し、重金属を吸着した磁性体を所定の選別法により回収することで、浄化対象から重金属を除去する浄化処理を、管理するための施工管理方法である。この施工管理方法は、浄化対象から採取したサンプルから溶出される重金属を迅速分析法によりオンサイトの試験室内で分析する現地分析工程と、現地分析工程での分析結果に基づいて、浄化対象の浄化効果を確認し、施工条件の調整を行う運転管理工程と、を有している。
【0055】
このように、浄化対象のサンプルに対して、オンサイトの試験室(現地試験室)内で迅速分析法によって重金属を分析するため、公定分析法を用いたときに比べて、より短い時間でより簡易に分析することができる。そのため、日々の浄化の効果確認を、手軽に行うことができる。また、サンプルのバラつき等によって浄化対象の含有量濃度や溶出量濃度や質が流動的に変化する浄化対象の状態を、容易に把握して、その状態や浄化効果に応じて、浄化処理の施工条件を調整することができ、浄化処理を効率的に行うことができる。したがって、重金属を含有、溶出する土壌等の浄化処理を効率的に行うための施工管理を、現地で容易に行うことができる。
【0056】
また、本実施形態では、施工条件が、浄化対象への磁性体の添加量、磁性体の繰り返しの使用回数、及び磁性体による浄化対象の処理時間の少なくともいずれか1つを含んでいる。浄化対象の状態や浄化効果に応じて浄化対象への磁性体の添加量を調整することで、磁性体の無駄な使用を抑制できる。また、磁性体の繰り返しの使用回数を調整することで、磁性体が破過を起こす前まで、効率的に使用することができる。その結果、磁性体の使用コストを削減することが可能となる。また、磁性体による浄化対象の処理時間を調整することで、重金属の含有量や溶出量、磁性体の使用量等に応じた処理時間とすることで、浄化の効率化を図ることができる。
【0057】
また、本実施形態では、サンプルが、重金属を含有する浄化対象としての土壌、汚泥、汚水及び泥水のいずれかから採取した浄化前サンプルの場合は、現地分析工程では、オンサイトの試験室内で磁性体を添加して浄化し、磁性体を回収した後に迅速分析法によって分析する。これにより、現地の実際の浄化対象中の重金属の濃度や浄化対象の状態に応じて、適切に施工条件を調整することができる。また、サンプルが、浄化対象を所定の浄化法で浄化した後に採取した浄化後サンプルの場合は、直接に迅速分析法によって分析することができ、日々の浄化の効果確認を、簡易に行うことができるとともに、効果確認の結果に応じて施工条件を好適に調整することができる。
【0058】
また、本実施形態では、現地分析工程では、サンプルを所定の希釈状態となるように水で希釈し、所定時間の振とう後に、蛍光X線分析によりサンプル中の重金属の溶出量を測定している。このとき、サンプルが土壌等の固体であれば10倍希釈とすることが好ましい。一方、サンプルが泥水等の固体と水分との混合物の場合は、希釈しないか、または比重が10倍量となるように水で希釈することが好ましく、サンプルが水の場合は、希釈は不要である。また、振とう時間を10分以下にすることが好ましく、5分程度とすることがより好ましい。これにより、浄化対象中の重金属を、より迅速かつより簡易に、しかも精度よく分析することができる。なお、現地分析工程における迅速分析法が、蛍光X線分析機を用いた蛍光X線分析法に限定されるものではなく、現地に手軽に携帯できる装置で精度よく分析できればよい。例えば、吸光光度法、ストリッピング・ボルタンメトリー法等、重金属の種類や条件等に応じて適宜の手法を用いることができる。
【0059】
また、現地分析工程は、以下のような工程を有するものであってもよい。この工程により、サンプル中の重金属を、より迅速かつより簡易に、しかも精度よく分析することができる。なお、このような工程からなる現地分析工程は、浄化対象が重金属を含有する土壌である場合に好適である。
【0060】
第一工程:サンプルとの固液比が1:1~1:20となるように水を加えてサンプルをスラリー化してスラリーを得る工程。
第二工程:スラリーに磁性体を添加して撹拌する工程。
第三工程:磁性体が添加されたスラリーに磁石体を直接に接触させて磁性体を回収する工程。
第四工程:磁性体の回収後のスラリーを脱水する工程。
第五工程:脱水後のサンプル中の重金属を迅速分析法によって分析する工程。
【0061】
また、本実施形態の浄化方法は、予め決められた施工条件に従って、重金属を含有する浄化対象に磁性体を添加し、重金属を吸着した磁性体を所定の選別法により回収することで、浄化対象から重金属を除去する浄化処理である。具体的には、上述のような本実施形態の施工管理方法により、施工条件を調整する工程を有している。また、浄化対象に含有される重金属を、公定分析法により分析する工程、分析結果に基づいて、施工条件を設定する工程、施工条件に基づいて浄化を行う工程等を有している。
【0062】
これにより、現地の実際の重金属の含有状態や溶出状態、浄化対象の状態に応じて、本実施形態の施工管理方法によって適切に調整された施工条件に従って、より効率的に浄化処理することが可能となる。
【0063】
本実施形態に係る施工管理方法で行われる迅速分析の効果確認試験と、鉄粉の繰り返し使用での浄化試験を行った。以下、それぞれの試験方法と試験結果を説明する。
【0064】
[迅速分析の効果確認試験]
<試験方法>
重金属として砒素を含有し、溶出する土壌(泥岩)の掘削時に得られた泥状の浄化対象土壌に対して、下記表1に示すCASE-1~CASE-7の条件で、サンプルを採取し、加水して振とうし、砒素の溶出量(mg/L)を測定した。CASE-1~CASE-7について、それぞれ3検体の試験を行った。
【0065】
CASE-1では、公定分析の振とう条件(風乾+6時間振とう)とICP-MS装置により分析試験を行った(比較例1)。CASE-2~CASE-7では、本実施形態に係る施工管理方法の上記ステップS51~S53に基づいて、振とう方法、振とう時間及び含水率補正方法を変えて、蛍光X線分析により分析試験を行った。
【0066】
下記表1中の「試験後含水率補正」によるCASE-2、4、6の試験例が、実施例1、2、3であり、振とう前にサンプルに対して10倍量の水を加えて希釈し、振とう後に砒素の溶出量を蛍光X線分析により測定し、これと並行してサンプルの含水量を電子レンジ法にて測定し、溶出量の測定結果に対して含水率補正を行った。下記表1中の「事前含水率補正」によるCASE-3、5、7の試験例が、参考例1、2、3であり、振とう前にサンプルの含水量を電子レンジ法で迅速に測定し、含水量が10倍量になるようにサンプルに水を加えて調整し、その後、振とうして砒素の溶出量を蛍光X線分析により測定した。
【0067】
【表1】
【0068】
<試験結果>
試験結果を、図5のグラフに示す。図5は、CASE-1の公定分析による砒素溶出量の測定値と、CASE-2~CASE-7の迅速分析による測定値の相関を示したものである。この図5のグラフに破線で示す「基準値:0.01mg/L」は、土壌汚染対策法で定められた砒素の濃度の上限値(土壌溶出量基準)である。
【0069】
図5のグラフによれば、迅速分析によるCASE-2、4、6(試験後含水率補正の実施例1、2、3)では、公定分析(比較例1)に近い結果が得られた。この中でも、風乾せず、泥状のまま10倍の水を加えて5分間の振とう後、蛍光X線分析により砒素の溶出量を測定し、並行してサンプルの含水量を測定し、測定結果を含水率補正したCASE-6(実施例3)では、公定分析とほぼ同じ結果が得られた。処理土壌は泥状であるため、長時間の振とう時間を必要とせず、5分間の通常振とう後の測定値にて公定分析の結果とほぼ同じ値となったと考えられる。
【0070】
以上より、本実施形態の施工管理方法における迅速分析が、公定分析に近い測定精度が得られ、しかもごく短時間での分析が可能であることがわかった。したがって、この迅速分析での結果に基づいて、施工条件を調整することで、浄化処理を、簡易かつ効率的に行うことが可能な施工管理方法及び浄化方法を提供できることがわかった。
【0071】
[鉄粉の繰り返し使用での浄化試験]
<試験方法>
砒素を含有し、溶出する泥状土壌に対して、所定pHの水溶液と鉄粉を所定量添加し、撹拌後に磁力選別にて鉄粉を回収して泥状土壌を浄化(洗浄)した。その後、遠心分離にて洗浄土と洗浄水とを分離し、それぞれの砒素溶出量(濃度)を測定した。その後、同じ鉄粉を10回繰返し使用して浄化処理を行い、その都度浄化効果の確認を行った。
【0072】
<試験結果>
図6に、鉄粉の繰返し使用の浄化試験結果を示す。図6のグラフ中、破線で示す初期値は、浄化前の泥状土壌中の砒素の濃度(溶出量)(mg/L)を示す。初期値は、0.015mg/Lであった。
【0073】
この図6のグラフに示すように、繰り返し使用回数10回目までは、洗浄土の砒素濃度は、すべて土壌溶出量基準(0.01mg/L)以下であり、大きな変化は見られなかった。しかし、8回目頃から砒素濃度の上昇が見られた。また、洗浄水の砒素濃度は、繰り返し回数の後半(6回目以降)で上昇が見られた。この結果から、鉄粉の吸着能の低下が確認できる。よって、この試験では、使用回数を5回とすることで、鉄粉の吸着能の低下と、鉄粉の使用コストの上昇の双方を抑制しつつ、効率的な浄化処理を行えることがわかる。
【0074】
以上のような鉄粉の繰り返し試験を、事前室内試験工程(ステップS4)で実行することで、繰り返し使用回数の基準データを取得することができる。また、本施工工程(ステップS6)の現地分析工程(ステップS40及びS50)で実行することで、現地の浄化対象の重金属の含有量濃度や溶出量濃度、土質条件等の変化に応じて、繰り返し使用回数を調整することができる。
【0075】
以上、本願の施工管理方法及び浄化方法を、実施形態に基づいて説明してきたが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0076】
例えば、上記実施形態では、砒素を含有し、溶出する土壌の浄化とその施工管理に、施工管理方法及び浄化方法を適用した例を示しているが、これに限定されるものではない。鉄粉等の磁性体に吸着される重金属であれば、砒素以外の重金属の浄化とその施工管理にも適用することができる。
【0077】
下記表2に、水銀を含有し、溶出する土壌を鉄粉によって浄化したときの、浄化前後の水銀の溶出量を測定した試験結果を示す。ここでは、2つの試料について試験を行った。下記表2中、「原土水銀溶出量」は、試料1、2の浄化前の汚染土壌(原土)の水銀の溶出量を示す。「試験」は浄化処理の方法を示し、「水洗分級処理」は水のみで洗浄して、篩で分級した比較試験である。「水洗分級+鉄粉5%」は、土壌に水と5重量%の鉄粉を添加して浄化し、篩で分級したものである。また、脱水して、洗浄土と洗浄水(排水)とに分け、それぞれの水銀の溶出量(濃度)を測定した。土壌と排水の水銀の基準値(土壌溶出量基準)も、下記表2に示した。
【0078】
【表2】
【0079】
上記表2の結果から、試料1では、原土中の水銀の量が少なかったため、水洗分級処理した比較試験1でも、鉄粉を用いた試験1でも、浄化後土壌及び排水の水銀溶出量(濃度)は基準値未満であった。これに対して、試料2は、原土中の水銀の量が多く、水洗分級処理した比較試験2では、浄化土壌中の水銀溶出量は基準値を超えていた。鉄粉を用いた試験2では、浄化土壌及び排水の水銀溶出量(濃度)は基準値未満であった。
【0080】
また、下記表3に、鉛を含有し、溶出する土壌を鉄粉によって浄化したときの、浄化前後の鉛の溶出量を測定した試験結果を示す。鉛を含有し、溶出する1つの試料について試験を行ったこと以外、比較試験3、試験3とも、上記水銀を含有し、溶出する土壌を用いた試験と同様にして行った。
【0081】
【表3】
【0082】
上記表3の結果から、水洗分級処理した比較試験3では、浄化土壌の鉛溶出量(濃度)が基準値を超えていた。これに対して、鉄粉を用いた試験3では、浄化土壌及び排水の鉛溶出量(濃度)は基準値未満であった。
【0083】
表2、表3の結果から、鉄粉を用いた浄化処理は、水銀、鉛の浄化に好適であることがわかった。したがって、鉄粉等の磁性体を用いた本願の施工管理方法及び浄化方法は、水銀、鉛を含有し、溶出する土壌等の浄化にも適用できることがわかった。また、これら以外の磁性体で吸着可能な重金属を含有、溶出する土壌等の浄化にも適用できることがわかった。
【0084】
また、本願の施工管理方法及び浄化方法は、汚染土壌処理施設、シールドトンネルの施工現場、山岳トンネル工事現場、杭工事現場等における汚染土壌等の処理に好適に用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6