(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】工作機械の振動抑制装置及び振動抑制方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/12 20060101AFI20220902BHJP
G05B 19/416 20060101ALI20220902BHJP
【FI】
B23Q15/12 A
G05B19/416 E
(21)【出願番号】P 2018168084
(22)【出願日】2018-09-07
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】上野 浩
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-105277(JP,A)
【文献】特開2005-144580(JP,A)
【文献】特開2012-088968(JP,A)
【文献】特開2012-091283(JP,A)
【文献】国際公開第2010/103672(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0161107(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/08-17/00
G05B 19/404-19/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具又はワークを装着して回転する回転軸と、
前記回転軸の回転速度の変動振幅と変動周期とを設定する変動値設定手段と、
前記変動値設定手段で設定された前記変動振幅と前記変動周期とに基づいて前記回転軸の回転速度を変動制御する回転軸制御手段と、を備えた工作機械の振動抑制装置であって、
前記変動値設定手段は、前記変動周期を、前記回転速度の加速区間に対応する時間設定値と前記回転速度の減速区間に対応する時間設定値との少なくとも2つの異なる時間設定値の組み合わせとすると共に、前記時間設定値のうち最も小さい値を短周期設定値として前記減速区間に対して設定し、
前記短周期設定値以外の少なくとも1つの前記時間設定値を、前記変動制御の平均回転速度、前記工具の刃数、前記短周期設定値に基づいて算出することを特徴とする工作機械の振動抑制装置。
【請求項2】
前記工具が複数の切刃を有するものであり、
前記回転軸の任意の位相における一刃前と現在の切刃との速度差を切刃間速度差としたとき、加工びびりを抑制するために必要な前記切刃間速度差の目標値を目標速度差として設定可能な目標速度差設定手段を備え、
前記変動値設定手段は、前記短周期設定値以外の少なくとも1つの前記時間設定値について、前記目標速度差を実現するために必要な条件を、前記目標速度差、前記平均回転速度、前記工具の刃数、前記短周期設定値、前記変動振幅の設定値に基いて算出することを特徴とする請求項1に記載の工作機械の振動抑制装置。
【請求項3】
前記工具が複数の切刃を有するものであり、
前記変動周期を、前記短周期設定値と、前記短周期設定値より大きい前記時間設定値であって前記加速区間に対応して設定される長周期設定値との組み合わせとして、
前記回転軸の任意の位相における一刃前と現在の切刃との速度差を切刃間速度差としたとき、加工びびりを抑制するために必要な前記切刃間速度差の目標値を目標速度差として設定可能な目標速度差設定手段を備え、
前記変動値設定手段は、前記変動振幅について、前記目標速度差を実現するために必要な条件を、前記目標速度差、前記平均回転速度、前記工具の刃数、前記短周期設定値、前記長周期設定値に基づいて算出することを特徴とする請求項1に記載の工作機械の振動抑制装置。
【請求項4】
工具又はワークを装着して回転する回転軸と、
前記回転軸の回転速度の変動振幅と変動周期とを設定する変動値設定手段と、
前記変動値設定手段で設定された前記変動振幅と前記変動周期とに基づいて前記回転軸の回転速度を変動制御する回転軸制御手段と、を備えた工作機械において、前記ワークの加工時の振動を抑制する方法であって、
前記変動値設定手段により、前記変動周期を、前記回転速度の加速区間に対応する時間設定値と前記回転速度の減速区間に対応する時間設定値との少なくとも2つの異なる時間設定値の組み合わせとすると共に、前記時間設定値のうち最も小さい値を短周期設定値として前記減速区間に対して設定し、
前記短周期設定値以外の少なくとも1つの前記時間設定値を、前記変動制御の平均回転速度、前記工具の刃数、前記短周期設定値に基づいて算出して、
前記回転軸制御手段により、算出された前記時間設定値と前記短周期設定値との組み合わせにより設定された前記変動周期と前記変動振幅とに基づいて前記回転速度を変動制御することを特徴とする工作機械の振動抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具またはワークを装着して回転する回転軸を備え、回転軸の回転速度を変動させて切削加工を行うことができる工作機械において、加工時に発生する振動を抑制するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工具またはワークを装着して回転する回転軸を備えた工作機械により切削加工を行った場合に、工具またはワークの剛性が低いといわゆる「びびり振動」が発生することがある。びびり振動が発生すると、工具が欠損したり、ワークの表面精度を悪化させるなどの問題が生じる。このびびり振動は一つ前の切刃によって加工面に生じた起伏と、現在の切刃による振動との間に位相遅れが生じることにより、ワークの切り取り厚さが変動し振動が拡大していくものである。
このびびり振動を抑制する技術として、特許文献1の対策が提案されている。特許文献1に記載の技術は、回転軸の回転速度を所定の変動振幅と変動周期とで変動させて、切り取り厚さの変動による力の入力を不規則にしてびびり振動を抑制しようとするものである。また、変動振幅及び変動周期を容易に設定可能とする技術として、特許文献2などが提案されている。さらに、主軸速度を変動させる波形パターンの解析を試みたものとして、非特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭49-105277号公報
【文献】特開2012-88968号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】「主軸速度変動切削方式による安定限界の向上」精密機械43巻10号、第80頁~第86頁、1977年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1で述べられているように、主軸速度の変動パターンはびびりの抑制効果に大きな影響を及ぼす。特許文献1では正弦波、特許文献2では三角波による変動制御を行っており、非特許文献1では、単純な変動パターンの中では三角波による主軸速度変動が最適であると結論付けている。
図1に、三角波での変動制御による主軸速度の推移を示す。
一方、前述したように、主軸速度の変動によるびびりの抑制効果は、一刃前の加工面と現在の切刃の加工面との起伏の周期が離れる程大きくなると考えられる。びびりによって加工面に転写される起伏の周期と主軸の回転速度との関係を
図2に示す。
図2のように、主軸速度が低速の領域では加工面に転写される周期と主軸速度とは概ね単純な相関を示すことから、一刃前における主軸速度と現在の切刃における主軸速度との速度差が大きくなれば、加工面の起伏の周期差も大きくなるため、ひいてはびびりの抑制効果も大きくなることになる。
例として、
図1のような変動制御を行った場合の主軸速度差の遷移を
図3に示す。
このような関係に基づき、特許文献1及び2では変動振幅を大きく、変動周期を小さくすればびびりの抑制効果も大きくなるとしている。
【0006】
ここで、従来の三角波形状による変動制御において変動周期がびびりの抑制効果に及ぼす影響を示す例として、主軸位相を横軸、主軸の回転回数を縦軸として一刃前と現在の切刃との速度差をシミュレーションしたものを
図4に示す。縦軸は主軸の回転回数を示し、主軸位相0°から360°が1回転目、360°から720°が2回転目というように順に積み重ねて表示したものである。
平均主軸速度及び変動振幅は共通であり、変動周期のみを変えて比較を行っている。図ではびびりが励起されやすい領域(速度差が一定値以下となる領域)をグレーで示している。
図4(a)から、変動周期が長い場合には主軸一回転中にびびりが生じる領域が連続して存在しており、連続切削においてびびりが励起しやすい条件となっていることがわかる。
一方、
図4(b)から、変動周期が短い場合にはびびりが生じる領域が断続的になっているが、細かい間隔でびびりが生じる領域と安定な領域とを繰り返すため、系の減衰性が低い場合にはびびりが収束する前に次の励起領域に入ってしまうことになり、十分な抑制効果が得られないことになる。また変動周期を短く設定するとモータが急加減速を繰り返すことになり、発熱や消費電力の増加、加工目の悪化などが問題となる。
【0007】
このことから、主軸速度の変動パターンが三角波の場合、単純に周期を短くすれば良いわけではないことがわかる。非特許文献1に記載の方法では、最適な変動パターンが三角波以外に存在する可能性を示唆してはいるが、その波形、及び実現方法について特定されてはいない。また変動パターンが複雑な波形の場合、実現するためには高度な制御方法が必要になり、コストの増加などの問題が生じる。
【0008】
そこで、本発明は、上記の課題を鑑み、容易な制御構成にてびびりの抑制効果を最大化することができる工作機械の振動抑制装置及び振動抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、工具又はワークを装着して回転する回転軸と、
前記回転軸の回転速度の変動振幅と変動周期とを設定する変動値設定手段と、
前記変動値設定手段で設定された前記変動振幅と前記変動周期とに基づいて前記回転軸の回転速度を変動制御する回転軸制御手段と、を備えた工作機械の振動抑制装置であって、
前記変動値設定手段は、前記変動周期を、前記回転速度の加速区間に対応する時間設定値と前記回転速度の減速区間に対応する時間設定値との少なくとも2つの異なる時間設定値の組み合わせとすると共に、前記時間設定値のうち最も小さい値を短周期設定値として前記減速区間に対して設定し、
前記短周期設定値以外の少なくとも1つの前記時間設定値を、前記変動制御の平均回転速度、前記工具の刃数、前記短周期設定値に基づいて算出することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、前記工具が複数の切刃を有するものであり、前記回転軸の任意の位相における一刃前と現在の切刃との速度差を切刃間速度差としたとき、加工びびりを抑制するために必要な前記切刃間速度差の目標値を目標速度差として設定可能な目標速度差設定手段を備え、
前記変動値設定手段は、前記短周期設定値以外の少なくとも1つの前記時間設定値について、前記目標速度差を実現するために必要な条件を、前記目標速度差、前記平均回転速度、前記工具の刃数、前記短周期設定値、前記変動振幅の設定値に基いて算出することを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1の構成において、前記工具が複数の切刃を有するものであり、前記変動周期を、前記短周期設定値と、前記短周期設定値より大きい前記時間設定値であって前記加速区間に対応して設定される長周期設定値との組み合わせとして、
前記回転軸の任意の位相における一刃前と現在の切刃との速度差を切刃間速度差としたとき、加工びびりを抑制するために必要な前記切刃間速度差の目標値を目標速度差として設定可能な目標速度差設定手段を備え、
前記変動値設定手段は、前記変動振幅について、前記目標速度差を実現するために必要な条件を、前記目標速度差、前記平均回転速度、前記工具の刃数、前記短周期設定値、前記長周期設定値に基づいて算出することを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、工具又はワークを装着して回転する回転軸と、
前記回転軸の回転速度の変動振幅と変動周期とを設定する変動値設定手段と、
前記変動値設定手段で設定された前記変動振幅と前記変動周期とに基づいて前記回転軸の回転速度を変動制御する回転軸制御手段と、を備えた工作機械において、前記ワークの加工時の振動を抑制する方法であって、
前記変動値設定手段により、前記変動周期を、前記回転速度の加速区間に対応する時間設定値と前記回転速度の減速区間に対応する時間設定値との少なくとも2つの異なる時間設定値の組み合わせとすると共に、前記時間設定値のうち最も小さい値を短周期設定値として前記減速区間に対して設定し、
前記短周期設定値以外の少なくとも1つの前記時間設定値を、前記変動制御の平均回転速度、前記工具の刃数、前記短周期設定値に基づいて算出して、
前記回転軸制御手段により、算出された前記時間設定値と前記短周期設定値との組み合わせにより設定された前記変動周期と前記変動振幅とに基づいて前記回転速度を変動制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1及び4に記載の発明によれば、従来用いられていた三角波による回転速度変動制御に比べ、回転軸の制御装置を複雑にすることなく、回転軸の発熱や消費電力を抑え、なおかつびびりに対する抑制効果を向上させることができる。
特に、最も小さい時間設定値を短周期設定値として減速区間に設定するので、回転軸の発熱及び消費電力の低減効果をさらに高めることができる。
さらに、短周期設定値以外の時間設定値を、変動制御の平均回転速度、工具の刃数、短周期設定値に基づいて算出するので、びびりが発生しやすい領域を最小限とする変動周期を容易に算出することができる。
請求項2,3に記載の発明によれば、びびりを抑制するために必要な一刃前と現在の切刃の速度差が与えられたとき、その速度差を実現するために必要な変動周期又は変動振幅の条件を容易に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】従来の三角波に基づく回転速度変動制御での回転速度推移を示すグラフである。
【
図2】主軸回転速度と、切刃によってワークに転写される起伏周期との相関図である。
【
図3】変動制御時の一刃前と現在の切刃との速度差の例を示すグラフである。
【
図4】各主軸位相におけるびびりの起き易さを表した説明図である。
【
図6】本発明に基づく回転速度変動制御での回転速度遷移を示すグラフである。
【
図7】本発明と従来手法における一刃前と現在の切刃の速度差の比較を示すグラフである。
【
図8】本発明におけるびびりの起き易さを表した説明図である。
【
図10】変動周期設定値と速度差との相関図である。
【
図11】本発明におけるびびりの起き易さを表した説明図である。
【
図12】変動周期設定値の推奨範囲表示方法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態となる工作機械について、図面に基づき詳細に説明する。
図5において、1は、加工用の工具を装着可能な回転軸としての主軸2を備えたマシニングセンタであって、主軸2の回転速度を制御するための主軸制御部3と接続されると共に、変動制御指令生成部4、パラメータ保持部5、パラメータ演算部6、表示手段7、入力手段8からなる振動抑制装置を備えている。
この振動抑制装置では、加工中にびびりが生じた場合など主軸変動制御を行う場合、パラメータ演算部6で演算されてパラメータ保持部5に保持されたパラメータに基づいて、変動制御指令生成部4にて変動制御波形を生成し、生成された変動制御波形に従って、回転軸制御手段としての主軸制御部3が主軸2の回転速度を変動させる振動抑制方法を実行する。
【0013】
このうちパラメータ演算部6は、入力手段8によってパラメータ保持部5に予め入力された後述する工具刃数や任意の定数等に基づいて、主軸2を変動制御する際の変動周期の時間設定値(短周期設定値と長周期設定値)を変動周期推奨値として算出することができる。
また、パラメータ演算部6は、長周期設定値について、入力手段8によって入力された主軸2の切刃間速度差の目標値(目標速度差)を実現するための必要な条件を、変動周期推奨範囲として算出することができる。
さらに、パラメータ演算部6は、設定された短周期設定値と長周期設定値とに基づいて、主軸2を変動制御する際の変動振幅について、目標速度差を実現するための必要な条件を変動振幅推奨範囲として算出することができる。
【0014】
表示手段7は、パラメータ演算部6で算出された変動周期や変動振幅を規定する複数のパラメータを表示することができる。
パラメータ保持部5は、パラメータ演算部6から送出された、或いは表示手段7の表示に伴って操作者が入力手段8を介して入力された複数のパラメータを保持することができる。
よって、ここでは、パラメータ保持部5、パラメータ演算部6、入力手段8が変動値設定手段を構成し、入力手段8は目標速度差設定手段としても機能することになる。
【0015】
本実施例では、それぞれ加速区間、減速区間の時間幅に対応する2つのパラメータで変動周期を構成して回転速度の変動制御を実行する場合について説明する。本制御方法では、加減速いずれか一方の区間の時間幅が短いほどびびりの抑制効果が高くなるが、他方で時間幅を短くするとモータ負荷が高くなってしまう。しかし、ワークの切削抵抗やモータの電力回生などが減速方向に作用するため、減速時の時間幅を短く設定することでモータ負荷や消費電力を増加させることなく抑制効果を高めることができる。従って、減速区間の周期設定値をモータ仕様から許容できる最低値に設定することで、びびりの抑制効果と負荷低減効果とを最大化することができる。
【0016】
本実施例による回転速度変動制御での回転速度推移を
図6に、一刃前と現在の切刃との速度差を
図7に、各主軸位相及び回転回数に対するびびり易い領域の分布を
図8に示す。
図7から、速度差の上限は従来手法とあまり変わらないものの、速度差が大きい(=びびりが起きない)区間が大幅に増加していることがわかる。
図8と
図4との比較からも、びびり易い領域が激減していることが確認できる。
また、特定の主軸位相に着目したとき、一度びびり易い領域に入った後、本手法では主軸が25回以上回転しないと次のびびり領域に入らない(
図8)のに対し、従来手法では2回転程度で次のびびり領域に入ってしまう(
図4)。従って、主軸2の特定位相でのみ切削を行う断続切削で生じるびびりに対しても、本手法が有効であることがわかる。
【0017】
以降では、パラメータ演算部6で演算されて変動制御で使用するパラメータの決定方法を説明する。
まず、回転軸位相に対する一刃前と現在の切刃の速度、及び両者の速度差についてプロットしたものを
図9に示す。図中のA~D点は下記の定義による。
A : 一刃前の切刃速度が変動上限速度となる点
B : 一刃前の切刃速度が変動下限速度となる点
C : 現在の切刃速度が変動上限速度となる点
D : 現在の切刃速度が変動下限速度となる点
図9では、AB区間及びCD区間では速度差の絶対値が小さい領域となり、BC区間及びDA区間では速度差の絶対値が大きい領域となる。AB区間及びCD区間の時間幅が短周期設定値に相当するため、短周期設定値はできる限り小さい値とすることが望ましい。他方、BC区間及びDA区間の時間幅が長周期設定値に相当し、この値が大きい方がびびりが生じにくい区間が大きくなることになる。
BC区間及びDA区間の中で速度差絶対値が最低となるのはA点またはC点であり、どちらが最低となるかは長周期設定値に依存する。長周期設定値に対するA点及びC点における速度差の関係を
図10に示す。図中の極大値及び極小値は次式1で表すことができ、kが奇数の場合のT
1が極大値に対応する長周期設定値(変動周期推奨値)となる。
【0018】
【0019】
但し、上記設定値では
図11のようにびびりが発生しやすい領域が主軸の特定位相に集中するため、式1の結果から±T
2だけずらすことで
図8のような分布とすることができる。従って、次式2に従って長周期設定値T
1を求めることで、特定の位相でびびりが成長することを防ぐことも可能となる。
【0020】
【0021】
他方で、速度差が一定値以上となるような長周期設定値T1を求めることもできる。変動制御振幅A、及び目標とする速度差ΔSが与えられたとき、前記BC区間及びDA区間中の最低速度差が前記ΔSを上回るための条件(変動周期推奨範囲)は、次式3で与えられる。
【0022】
【0023】
式3の範囲を図示すると
図12のようになり、このようなグラフを表示手段7に表示することで、操作者は適切なパラメータを容易に決定することが可能になる。目標とする速度差ΔSは入力手段8にて操作者が任意に設定しても良いし、生じているびびりを解析して得られた安定限界線図などを基にパラメータ演算部6が自動的に決定しても良い。
【0024】
また、逆に長周期設定値T1が与えられたとき、次式4に従い、目標とする速度差ΔSを満足するために必要な変動制御振幅A(変動振幅推奨範囲)を求めることもできる。
【0025】
【0026】
従って、表示手段7に式4の相関を表示することで、任意の長周期設定値に対する変動制御振幅の必要条件を視覚化することができ、操作者が容易にパラメータを決定できる。
上述したような方法に基づいてパラメータ演算部6にてパラメータの推奨値を決定し、パラメータ保持部5に送出、あるいは表示手段7に表示した上で操作者が入力手段8を用いてパラメータ保持部5に入力することで、変動制御指令生成部4にて最適な変動制御波形を生成することができる。
【0027】
このように、上記形態の振動抑制装置及び振動抑制方法によれば、パラメータ演算部6は、主軸2の変動周期を、回転速度の加速区間に対応する時間設定値(長周期設定値)と回転速度の減速区間に対応する時間設定値(短周期設定値)との2つを互いに異なる時間で組み合わせて設定するので、不要に変動周期を小さくすることなく、また変動振幅を大きくすることなく高いびびり抑制効果を得ることが可能となる。また、従来の三角波による変動制御方法に比べて消費電力やモータ発熱を低減することもできる。
【0028】
特にここでは、パラメータ演算部6は、時間設定値のうち最も小さい値を短周期設定値として回転速度の減速区間に対して設定するので、主軸2の発熱及び消費電力の低減効果をさらに高めることができる。
また、パラメータ演算部6は、時間設定値のうち長周期設定値T1を、工具刃数Z、主軸平均速度So、短周期設定値T2に基づいて算出するので、びびりが発生しやすい領域を最小限とする変動周期を容易に算出することができる。
さらに、パラメータ演算部6は、びびりを抑制するために必要な一刃前と現在の切刃の速度差が与えられたとき、その速度差を実現するために必要な変動周期又は変動振幅を容易に求めることができる。
そして、表示手段7を設けたことで、算出した値を画面上に表示することで容易に実加工に反映させることが可能になる。
【0029】
なお、長周期設定値と短周期設定値との具体的な値は上記形態に限らず、適宜変更可能である。また、上記形態では、時間設定値として長周期設定値と短周期設定値との2つのみ設定しているが、3つ以上の時間設定値を組み合わせて変動周期を設定しても差し支えない。
さらに、工具でなくワークを装着して回転させる回転軸を備えた工作機械にも本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
1・・マシニングセンタ、2・・主軸、3・・主軸制御部、4・・変動制御指令生成部、5・・パラメータ保持部、6・・パラメータ演算部、7・・表示手段、8・・入力手段。