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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】測定評価装置及びそれによる評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20220902BHJP
【FI】
G01N33/15 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018184323
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020051997
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 粉体工業会 2018年度 春期研究発表会 2018年5月16日 第33回日本薬剤学会 2018年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113355
【氏名又は名称】ホソカワミクロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086737
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】高橋 達也
(72)【発明者】
【氏名】笹邉 修司
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-087710(JP,A)
【文献】特表2009-545561(JP,A)
【文献】国際公開第2017/188311(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/217491(WO,A1)
【文献】笹辺修司、高橋達也,今月の新技術1 錠剤浸透試験法の紹介,産業機械,2018年06月20日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留した容器の上方に、試料を保持して質量測定装置に吊り下げ支持された試料保持具が配置され、前記試料保持具は、前記試料が載置される試料載置部を備え、該試料載置部は、周壁部を有すると共に、前記試料載置部の底面には、前記液体が流入する複数の液体流入孔が形成されており、前記容器と前記試料保持具が相対昇降されて、前記試料載置部の前記底面に前記容器の液面が接触され、前記試料への液体の浸透に伴う質量変化を、前記質量測定装置によって経時的に測定する測定評価装置による評価方法であって、
前記質量変化を測定して求められる浸透速度係数に基づいて、前記試料の硬度を評価する、
ことを特徴とする測定評価装置による評価方法。
【請求項2】
体を貯留した容器の上方に、試料を保持して質量測定装置に吊り下げ支持された試料保持具が配置され、前記試料保持具は、前記試料が載置される試料載置部を備え、該試料載置部は、周壁部を有すると共に、前記試料載置部の底面には、前記液体が流入する複数の液体流入孔が形成されており、前記容器と前記試料保持具が相対昇降されて、前記試料載置部の前記底面に前記容器の液面が接触され、前記試料への液体の浸透に伴う質量変化を、前記質量測定装置によって経時的に測定する測定評価装置による評価方法であって、
前記質量変化を測定して求められる、前記試料への浸透によって該試料に吸収される前記液体の最大量である最大吸収量に基づいて、前記試料の硬度を評価する、
ことを特徴とする測定評価装置による評価方法。
【請求項3】
液体を貯留した容器の上方に、試料を保持して質量測定装置に吊り下げ支持された試料保持具が配置され、前記試料保持具は、前記試料が載置される試料載置部を備え、該試料載置部は、周壁部を有すると共に、前記試料載置部の底面には、前記液体が流入する複数の液体流入孔が形成されており、前記容器と前記試料保持具が相対昇降されて、前記試料載置部の前記底面に前記容器の液面が接触され、前記試料への液体の浸透に伴う質量変化を、前記質量測定装置によって経時的に測定する測定評価装置による評価方法であって、
前記質量変化を測定して求められる浸透速度係数及び前記試料への浸透によって該試料に吸収される前記液体の最大量である最大吸収量に基づいて、次式に従って算出される準最大吸収量到達時間を評価する、
準最大吸収量到達時間=(最大吸収量) /(浸透速度係数)
ことを特徴とする測定評価装置による評価方法。
【請求項4】
前記試料が錠剤であり、
前記準最大吸収量到達時間、及び、前記錠剤の硬度に基づいて、前記錠剤の崩壊時間を評価する、
請求項3に記載の測定評価装置による評価方法。
【請求項5】
液体を貯留した容器の上方に、試料を保持して質量測定装置に吊り下げ支持された試料保持具が配置され、前記試料保持具は、前記試料が載置される試料載置部を備え、該試料載置部は、周壁部を有すると共に、前記試料載置部の底面には、前記液体が流入する複数の液体流入孔が形成されており、前記容器と前記試料保持具が相対昇降されて、前記試料載置部の前記底面に前記容器の液面が接触され、前記試料への液体の浸透に伴う質量変化を、前記質量測定装置によって経時的に測定する測定評価装置であって、
前記試料保持具の前記試料載置部に載置された前記試料を撮像する撮像手段を備え、前記撮像手段は、前記液体の浸透によって膨潤する前記試料を撮像する、
ことを特徴とする測定評価装置。
【請求項6】
前記請求項5に記載の測定評価装置による評価方法であって、
前記撮像手段による撮像画像に基づいて求められる前記試料の膨潤率を評価する、
ことを特徴とする測定評価装置による評価方法。
【請求項7】
前記請求項5に記載の測定評価装置による評価方法であって、
前記撮像手段による撮像画像に基づいて求められる前記試料の膨潤速度を評価する、
ことを特徴とする測定評価装置による評価方法。
【請求項8】
前記請求項に記載の測定評価装置による評価方法であって、
前記撮像手段による撮像画像に基づいて求められる前記試料の最大膨潤量を評価する、
ことを特徴とする測定評価装置による評価方法。
【請求項9】
前記請求項に記載の測定評価装置による評価方法であって、
前記撮像手段による撮像画像に基づいて求められる前記試料の膨潤速度及び最大膨潤量に基づいて、次式に従って算出される準最大膨潤量到達時間を評価する、
準最大膨潤量到達時間=(最大膨潤量)/(膨潤速度)
ことを特徴とする測定評価装置による評価方法。
【請求項10】
前記試料が錠剤であり、
前記準最大膨潤量到達時間と前記試料の硬度とに基づいて、前記錠剤の崩壊時間を評価する、
請求項9に記載の測定評価装置による評価方法。
【請求項11】
前記試料が錠剤である、
請求項1、2、3、5、6、7、8、または、9のいずれか一項に記載の測定評価装置による評価方法。
【請求項12】
前記錠剤が、口腔内崩壊錠である、
請求項4、10、または、11のいずれか一項に記載の測定評価装置による評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤等の試料への液体の浸透による質量変化を測定して、試料の濡れ性(親和性)を評価する測定評価装置、及び、それによる評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
錠剤、特に口腔内崩壊錠、いわゆるOD(Oral Disintegration)錠では、崩壊性の評価は、錠剤の開発・設計や品質管理等において重要である。
【0003】
かかる崩壊性を測定する装置として、例えば、特許文献1には、溶液を収容する容器と、錠剤に荷重を加える加重手段と、錠剤に荷重を加えることと錠剤を溶液中に浸すことの両方を満たした時から錠剤が崩壊するまでの時間を測定するための測定手段とを備えた崩壊性測定装置が開示されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、崩壊試験容器内に充填された崩壊試験液の液面にわずかに接触する位置に試料錠を配置させる試料錠の受け具と、同受け具上に配置した試料錠を上方より押さえる押さえ具とを備えた試料崩壊装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-141718号公報
【文献】特開2004-233332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示されている崩壊性測定装置は、加重手段によって錠剤に荷重を加えながら錠剤の崩壊性を測定するものであり、上記特許文献2に開示されている試料崩壊装置は、受け具上に配置した試料錠を、押さえ具によって上方から押さえて錠剤を崩壊させるものである。
【0007】
このように、いずれも錠剤に荷重などの作用が加わっている状態で、錠剤に吸液させて崩壊させるものであり、より錠剤の服用時に近い、錠剤のみの力で吸液させた状態で測定して、各種の評価を行えるようにすることが望まれる。
【0008】
本発明は、このような実情に着目してなされたものであって、錠剤等の試料のみの力で吸液させた状態で質量変化を測定して、試料の吸液性等の各種の評価を行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では次のように構成している。
【0017】
)本発明の測定評価装置による評価方法は、液体を貯留した容器の上方に、試料を保持して質量測定装置に吊り下げ支持された試料保持具が配置され、前記試料保持具は、前記試料が載置される試料載置部を備え、該試料載置部は、周壁部を有すると共に、前記試料載置部の底面には、前記液体が流入する複数の液体流入孔が形成されており、前記容器と前記試料保持具が相対昇降されて、前記試料載置部の前記底面に前記容器の液面が接触され、前記試料への液体の浸透に伴う質量変化を、前記質量測定装置によって経時的に測定する測定評価装置による評価方法であって、
前記質量変化を測定して求められる浸透速度係数に基づいて、前記試料の硬度を評価する。
【0018】
本発明によると、試料を保持した試料保持具と液面とを相対接近させ、試料載置部の底面を液体に適当量だけ浸漬させると、液体流入孔を通って試料載置部内に流入した液体が試料の下端全面に接触することになり、この状態を維持することで、液体が次第に試料に浸透してゆく。
この際、試料載置部は周壁部を有するので、試料載置部が液体に浸漬された時に液体が周壁部を越えて流入して、試料の外周面に接触してしまうことがなく、試料下端部のみからの液体の浸透を再現性よく行わせることができる。
本発明によると、試料に荷重などの作用が加わっていない、試料のみの力で吸液させた状態で求めた浸透速度係数と、試料の硬度との間には、後述のように相関関係が認められるので、求めた浸透速度係数に基づいて、試料の硬度を評価することができる。これによって、例えば、所要の吸液性を示す浸透速度係数を得るための試料の硬度として適当であるか否かを判定するといったことが可能となる。
【0019】
)本発明の測定評価装置による評価方法は、液体を貯留した容器の上方に、試料を保持して質量測定装置に吊り下げ支持された試料保持具が配置され、前記試料保持具は、前記試料が載置される試料載置部を備え、該試料載置部は、周壁部を有すると共に、前記試料載置部の底面には、前記液体が流入する複数の液体流入孔が形成されており、前記容器と前記試料保持具が相対昇降されて、前記試料載置部の前記底面に前記容器の液面が接触され、前記試料への液体の浸透に伴う質量変化を、前記質量測定装置によって経時的に測定する測定評価装置による評価方法であって、
前記質量変化を測定して求められる、前記試料への浸透によって該試料に吸収される前記液体の最大量である最大吸収量に基づいて、前記試料の硬度を評価する。
【0020】
本発明によると、試料に荷重などの作用が加わっていない、試料のみの力で吸液させた状態で求めた最大吸収量と、試料の硬度との間には、後述のように相関関係が認められるので、最大吸収量に基づいて、試料の硬度を評価することができる。これによって、例えば、試料としての錠剤が崩壊するまでに水や人工唾液等の液体を吸収する最大吸収量を抑制して、崩壊し易くするための錠剤の硬度として適当であるか否かを判定するといったことが可能となる。
【0021】
)本発明の測定評価装置による評価方法は、液体を貯留した容器の上方に、試料を保持して質量測定装置に吊り下げ支持された試料保持具が配置され、前記試料保持具は、前記試料が載置される試料載置部を備え、該試料載置部は、周壁部を有すると共に、前記試料載置部の底面には、前記液体が流入する複数の液体流入孔が形成されており、前記容器と前記試料保持具が相対昇降されて、前記試料載置部の前記底面に前記容器の液面が接触され、前記試料への液体の浸透に伴う質量変化を、前記質量測定装置によって経時的に測定する測定評価装置による評価方法であって、
前記質量変化を測定して求められる浸透速度係数及び前記試料への浸透によって該試料に吸収される前記液体の最大量である最大吸収量に基づいて、次式に従って算出される準最大吸収量到達時間を評価する。
【0022】
準最大吸収量到達時間=(最大吸収量)2/(浸透速度係数)
本発明によると、試料に荷重などの作用が加わっていない、試料のみの力で吸液させた状態で求めた最大吸収量と浸透速度係数とによって、上記式に従って算出される、準最大吸収量到達時間を評価することができる。この準最大吸収量到達時間は、試料に吸収される吸液量が最大となる最大吸収量に到達するのに要する時間に準じる時間、すなわち、最大吸収量に到達するのに要する時間に近い時間である。したがって、この準最大吸収量到達時間によって、試料の吸液量が最大吸収量に到達するまでに要する時間を大まかに把握することができる。
【0023】
)上記()の実施態様では、前記試料が錠剤であり、前記準最大吸収量到達時間、及び、前記錠剤の硬度に基づいて、前記錠剤の崩壊時間を評価してもよい。
【0024】
この実施態様によると、試料としての錠剤の準最大吸収量到達時間と錠剤の硬度との関係は、後述のように、錠剤の崩壊時間と錠剤の硬度との関係に近似しているので、準最大吸収量到達時間と錠剤の硬度との関係から崩壊時間が、どの程度になるかを評価することができる。
【0025】
)本発明の測定評価装置は、液体を貯留した容器の上方に、試料を保持して質量測定装置に吊り下げ支持された試料保持具が配置され、前記試料保持具は、前記試料が載置される試料載置部を備え、該試料載置部は、周壁部を有すると共に、前記試料載置部の底面には、前記液体が流入する複数の液体流入孔が形成されており、前記容器と前記試料保持具が相対昇降されて、前記試料載置部の前記底面に前記容器の液面が接触され、前記試料への液体の浸透に伴う質量変化を、前記質量測定装置によって経時的に測定する測定評価装置であって、
前記試料保持具の前記試料載置部に載置された前記試料を撮像する撮像手段を備え、前記撮像手段は、前記液体の浸透によって膨潤する前記試料を撮像する。
【0026】
本発明によると、試料を保持した試料保持具と液面とを相対接近させ、試料載置部の底面を液体に適当量だけ浸漬させると、液体流入孔を通って試料載置部内に流入した液体が試料の下端全面に接触することになり、この状態を維持することで、液体が次第に試料に浸透してゆく。
【0027】
この際、試料載置部は周壁部を有するので、試料載置部が液体に浸漬された時に液体が周壁部を越えて流入して、試料の外周面に接触してしまうことがなく、試料下端部のみからの液体の浸透を再現性よく行わせることができる。
【0028】
このように、試料に荷重などの作用が加わっていない、試料のみの力で吸液させた状態で、試料が吸液して膨潤する過程を、撮像手段による撮像画像として観察することができる。
【0029】
)本発明の測定評価装置による評価方法は、上記()の測定評価装置による評価方法であって、
前記撮像手段による撮像画像に基づいて求められる前記試料の膨潤率を評価する。
【0030】
本発明によると、試料に荷重などの作用が加わっていない、試料のみの力で吸液させた状態で、試料が膨潤する過程を膨潤率として評価することができる。
【0031】
)本発明の測定評価装置による評価方法は、上記()の測定評価装置による評価方法であって、
前記撮像手段による撮像画像に基づいて求められる前記試料の膨潤速度を評価する。
【0032】
本発明によると、試料に荷重などの作用が加わっていない、試料のみの力で吸液させた状態で、試料が膨潤する過程を膨潤速度として評価することができる。
【0033】
)本発明の測定評価装置による評価方法は、上記()の測定評価装置による評価方法であって、
前記撮像手段による撮像画像に基づいて求められる前記試料の最大膨潤量を評価する。
【0034】
本発明によると、試料に荷重などの作用が加わっていない、試料のみの力で吸液させた状態で、試料が膨潤する過程を最大膨潤量として評価することができる。
【0035】
)本発明の測定評価装置による評価方法は、上記()の測定評価装置による評価方法であって、
前記撮像手段による撮像画像に基づいて求められる前記試料の膨潤速度及び最大膨潤量に基づいて、次式に従って算出される準最大膨潤量到達時間を評価する。
【0036】
準最大膨潤量到達時間=(最大膨潤量)/(膨潤速度)
本発明によると、試料に荷重などの作用が加わっていない、試料のみの力で吸液させた状態で、試料が膨潤する過程を、膨潤速度と最大膨潤量とによって、上記式に従って算出される、準最大膨潤量到達時間として評価することができる。この準最大膨潤量到達時間は、試料の膨潤量が最大となる最大膨潤量に到達するのに要する時間に準じる時間、すなわち、最大膨潤量に到達するのに要する時間に近い時間である。したがって、この準最大膨潤量到達時間によって、試料の膨潤量が最大膨潤量に到達するまでに要する時間を大まかに把握することができる。
【0037】
10)上記()の実施態様では、前記試料が錠剤であり、前記準最大膨潤量到達時間と前記試料の硬度とに基づいて、前記錠剤の崩壊時間を評価してもよい。
【0038】
この実施態様によると、試料としての錠剤の準最大膨潤量到達時間と錠剤の硬度との関係は、後述のように、錠剤の崩壊時間と錠剤の硬度との関係に近似しているので、準最大膨潤量到達時間と錠剤の硬度との関係から崩壊時間が、どの程度になるかを評価することができる。
【0039】
(11)上記(1)、()、()、(5)、()、()、()または()の実施態様では、前記試料を錠剤としてもよい。
【0040】
この実施態様によると、錠剤に対する水や人工唾液等の液体の吸液性等を、より服用時に近い状態で評価することができる。
【0041】
12)上記()、(10)または(11)の実施態様では、前記錠剤を、口腔内崩壊錠としてもよい。
【0042】
この実施態様によると、口腔内崩壊錠への水や人工唾液等の液体の吸液性等を、より服用時に近い状態で評価することができる。
【0043】
なお、本発明では、上記(1)~(10)は、適宜組合せてもよい。例えば、(1)と、()、()、()~()の少なくともいずれか一つを組合せてもよく、()と、()、()~()の少なくともいずれか一つを組合せてもよく、()と、()~()の少なくともいずれか一つを組合せてもよく、()と、()~()の少なくともいずれか一つを組合せてもよく、()と、()または()とを組合せてもよく、()と、()とを組合せてもよい。
【0044】
このよう組合せることによって、試料についての多角的な評価を行うことができ、例えば、試料としての錠剤の開発・設計や品質管理等において、有用な情報を得ることができる。
【発明の効果】
【0045】
このように、本発明によれば、試料に荷重などの作用が加わっていない、試料のみの力で吸液させた状態で、浸透速度係数等を求めて、各種の評価を行うことができる。
【0046】
これによって、例えば、試料としての錠剤と、水や人工唾液等の液体との親和性(濡れ性)を、より服用時に近い状態で評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】測定評価装置の本体の外観斜視図である。
図2】測定評価装置の本体の側面図である。
図3】試料保持具の一部を切欠いた正面図である。
図4】試料保持具の斜視図である。
図5】試料としての二層OD錠を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
図6】二層OD錠の吸水量の測定結果を示す図である。
図7】吸水による二層OD錠の変化を撮像した撮像画像を示す図である。
図8】二層OD錠の1層目及び2層目を、それぞれ着水面側としたときの吸水量の測定結果を示す図である。
図9】二層OD錠の1層目及び2層目を、それぞれ着水面側としたときの浸透速度係数の時間変化を示す図である。
図10】打錠圧の異なる二層OD錠の浸透速度係数の時間変化を示す図である。
図11】二層OD錠の打錠圧と錠剤硬度との関係を示す図である。
図12】二層OD錠の浸透速度係数と錠剤硬度との関係を示す図である。
図13】二層OD錠の最大吸収量と錠剤硬度との関係を示す図である。
図14】二層OD錠の崩壊時間と錠剤硬度との関係、及び、準最大吸収量到達時間と錠剤硬度との関係を示す図である。
図15】本発明の他の実施形態の測定評価装置の概略構成図である。
図16】二層OD錠の膨潤率と錠剤硬度との関係を示す図である。
図17】二層OD錠の吸水による膨潤の状態を撮像した撮像画像を示す図である。
図18】二層OD錠の膨潤速度と錠剤硬度との関係を示す図である。
図19】二層OD錠の崩壊時間と錠剤硬度との関係、及び、準最大膨潤量到達時間と錠剤硬度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0049】
先ず、本発明の実施形態に係る評価方法に用いる測定評価装置について説明する。
【0050】
図1および図2に、測定評価装置の本体Aが示されている。この測定評価装置の本体Aは、卓上に載置して使用されるように構成されており、高さ調節可能な脚1aを備えたベース1、その奥部に立設した駆動部2、駆動部2の上に設置された計測部3、ベース1と駆動部2と計測部3とで囲まれた処理空間4に配備された昇降台5、処理空間4を前方および左右から覆う開閉操作自在な透明カバー6、等が備えられている。
【0051】
この測定評価装置の本体Aは、図示しないパーソナルコンピュータ等の制御装置に接続され、この制御装置によって、後述する昇降台5の駆動制御、計測部3から計測データの処理、処理結果のグラフ表示等が行なわれる。すなわち、この実施形態の測定評価装置は、本体Aと制御装置とを備えている。
【0052】
前記計測部3には、電子天秤を利用した質量測定装置7が装備されており、質量計測用のフック8が計測部3の下面から処理空間4に垂下され、このフック8に、測定対象である試料wを収容した試料用セルとしての試料保持具9が吊り下げ支持される。
【0053】
前記昇降台5は、試料に浸透させる液体f、例えば水が収容された容器12を支持して昇降させるものであり、容器12を載置できるように側面形状がL形に形成されている。昇降台5は、駆動部2に内装された上下スライド案内手段10によって平行昇降可能に支持されるとともに、駆動部2に内装された駆動装置としてのステッピングモータ11によってねじ送り昇降されるように構成されている。
【0054】
試料保持具9は、外径が、例えば数mm~10数mm程度に成形された単一の試料w、例えば錠剤等に好適であって、図3および図4に示すように、平面視円形の試料載置部13と、この試料載置部13の外周部2箇所に連結された吊り部14とを備えている。
【0055】
試料載置部13は、例えば、厚さ0.2mm程度のステンレス鋼板からなり、打抜き加工した素材をプレス成型して、円形の底部の外周全長に亘って周壁部13aを備えて浅く形成されている。周壁部13aの対角部位には、前記吊り部14を連結する連結片13bが上方に向けて延出されている。
【0056】
周壁部13aの高さは、載置収容する試料wの厚さよりも十分低いものであり、試料wを指先やピンセットなどでつまんで試料載置部13に載置することが容易となっている。
【0057】
試料載置部13の外径は、測定対象である試料wの外径より少し大きく設定されている。試料載置部13の中央に試料wを載置収容した状態において、試料wの外周と周壁部13aとの間に若干の間隙が形成されるようになっている。
【0058】
また、試料載置部13の底面には、試料wに接触させる液体fが、試料載置部13内に流入する多数の液体流入孔としての小孔15が所定のピッチパターンで打抜き形成されている。この小孔15は、試料wの大きさに対して十分小径(例えば、0.3~0.7mm程度)であり、試料wの大きさや後述の錠剤の崩壊特性、等に応じて任意に選択設定される。
【0059】
また、この実施形態では、試料載置部13の底面中央部には、下方に突出する平面形状が円形の隆起部13cがプレス成形されている。隆起部13cの径は、いくつかの小孔15を含む大きさに設定されており、試料保持具9に対して、容器12が上昇されて液体fの液面が試料載置部13に接触する際、先ず、液面が隆起部13cに接触し、隆起部13cの小孔15を介して液体fが試料載置部13の中央部に流入するようになっている。
【0060】
前記吊り部14は、例えば、厚さ0.3mm程度のステンレス鋼板からなり、その上端部には、金属板材からなる前記フック8に引っ掛け連結される縦長の係止孔16が形成されるとともに、その下部には、試料載置部13を連結支持する一対の支持アーム14aが内向き湾曲状に連設されている。
【0061】
両支持アーム14aの下端部には、互いに内向きに対向された両支持アーム14aの内向き端部が、試料載置部13の周壁部13aから延出された連結片13bの上端に、外側から半田付けされて一体に接合されている。
【0062】
板状の吊り部14に試料載置部13を接合した状態において、両支持アーム14aの間には、図3図4に示すように、試料載置部13の上方を大きく空ける部分円形の空間18が形成されている。このように試料載置部13の上方は、大きく開放露出しているので、試料載置部13への試料wの出し入れが、この大きい空間18から容易に行えるようになっている。
【0063】
また、吊り部14は、試料載置部13が容器12の液面に接触された際に、試料保持具9全体が浮力によってフック8から浮き上ってしまうことを防止する重錘としての機能を発揮するように、その質量が設定されている。
【0064】
これによって、単一の試料wを載置する試料載置部13が、小型で軽量のものであっても、試料保持具9全体が、液体fに浸漬した際の浮力によって浮き上がることを防止して、質量測定装置7への質量の伝達を的確に行うことができる。
【0065】
次に、上記測定評価装置を用いて試料wの浸透速度を測定する手順について説明する。
【0066】
先ず、準備段階として、上記のように試料保持具9における試料載置部13の中央部位に試料wを載置収容して、試料保持具9の吊り部14を質量測定装置7のフック8に吊り下げ支持するとともに、浸透溶媒である液体fを所定レベルに貯留した透明の容器12を、吊り下げた試料保持具9の略直下に位置するよう下降待機位置にある昇降台5に載置する。
【0067】
なお、測定においては、容器12の周囲に図示しないジャケットを設け、ジャケット内に熱媒を通流させることで、容器12内の液体の温度を、一定温度に制御する。
【0068】
測定開始指令(上昇指令)が出されると、ステッピングモータ11が正転起動されて昇降台5が上昇作動を開始する。この場合、容器12の液面が試料保持具9の下端近傍の予め設定した高さに到達するまでは予め設定された高速度で上昇駆動され、容器12は速やかに試料保持具9に接近上昇される。なお、昇降台5が設定高さに到達するまでの上昇は、ステッピングモータ11の駆動パルス数として設定することができる。
【0069】
容器12の液面が所定高さに到達した後は、上昇駆動速度が中速となるようにステッピングモータ11がパルス制御され、液面が波立つことのないように容器12が静かに上昇される。
【0070】
容器12の液面が試料保持具9の下端である隆起部13cに到達すると、上昇移動速度が低速となるようにステッピングモータ11がパルス制御され、液面が試料保持具9の下端から所定の高さだけ一層静かに容器12が上昇されて停止する。
【0071】
なお、容器12の液面が試料保持9の下端の隆起部13cに到達すると、質量測定装置7での測定値が変化することになり、この質量測定値が変化したことを検知することによって、容器12の液面が試料保持具9の下端に到達したことを認識することができる。
【0072】
液面が試料保持具9の下端部に接近すると、最初に試料載置部13の隆起部13cが液体に浸漬され、先ず、液体fは隆起部13cの小孔15を通して試料載置部13の中央に流入する。その後、試料載置部13の下端全体が液体fに浸漬されることで、全ての小孔15を通って試料載置部13の内部に液体fが流入し、試料wの下端全面に液体fが接触する。この状態を設定時間に亘って維持することで、液体fが次第に試料wの底面から試料wに浸透して、その質量が増加し、この質量変化を質量計測装置7で経時的に測定し、その測定データを所定の演算式に基づいて演算処理することで、試料wに対する液体の浸透速度等を求めることができる。
【0073】
測定処理が完了した後、容器下降指令が出されると、初期上昇速度と同じ高速、あるいは、これよりも更に速い速度で下降待機位置まで下降される。
ここで、液体の浸透速度の算出について、簡単に説明する。
【0074】
試料と液体との親和性は、一般に下記のWashburnの式で示される。
【0075】
WL 2/t=(SερL)2・(rγLcosθ/2ηL
WL:液体の浸透質量、 t:時間、 S:粉体層断面積、 ε:空間率
ρL:液体密度、 r:粉体層内の粒子が形成する毛細管半径
γL:液体表面張力、 ηL:液体粘度、 θ:液体と固体表面が成す接触角
液体と試料とを接触させて一定時間保持すると、毛細管現象により、試料は液体を吸い上げ質量が増加する。この際の測定時間と質量変化を計測し、横軸:時間、縦軸:質量のグラフとして表示させる。解析時には、グラフを、横軸:時間、縦軸:質量の2乗のグラフへと変換し、接線の傾きを算出する。この接線の傾きは、上記Washburnの式の左辺に等しい、浸透速度係数(WL 2/t)と呼ばれ、この値が大きいほど浸透速度が大きく、試料と液体との親和性がよいとされる。また、算出した浸透速度係数(WL 2/t)を用いて、上記Washburnの式から液体と固体表面が成す接触角θを求めることもできる。
【0076】
このように本実施形態の測定評価装置は、試料wのみの力で吸液させるので、試料、例えば、錠剤に荷重などの作用が加わっている状態で吸液させる上記特許文献1、2に比べて、錠剤の服用時に近い状態での液体の浸透/吸液性の評価を行うことが可能である。
【0077】
この測定評価装置を用いて、口腔内崩壊錠であるOD錠について、液体としての水の吸水速度(浸透速度係数)、吸水可能な最大量である最大吸収量等の評価を行うために試験を行った。この試験では、容器12の周囲のジャケットを通流する熱媒によって、容器12内の水温を、体温に対応する37℃に制御した。
【0078】
先ず、この試験に使用したOD錠について説明する。OD錠として、1層及び2層が下記表1に示される処方の二層OD錠を使用した。
【0079】
【表1】
図5は、この二層OD錠20を示す図であり、図5では、裏面層である1層目21と表面層である2層目22との形状は、同一であって、青色着色剤を含有する2層目22の外観は、青色である。この二層OD錠20は、平面視が円形の丸型であって、中央部がやや膨らんでいる。
【0080】
二層OD錠の製造は、ロータリー式2積層打錠機(HT-GS32MS-E/2L、(株)畑鉄工所製)を用いて行った。
【0081】
打錠杵は、円形(直径Φ:10mm、R13)であり、回転円盤回転数は、15rpm一定、打錠末の供給は、攪拌フィードシューであり、杵数は、32本である。
【0082】
工程パラメータ(打錠条件)は、1層目吸込み深さが5~7mm、1層目杵先間隔が2~5mm、2層目吸込み深さが4.5~5.5mm、2層目杵先間隔が2~2.5mm、予圧(kN)、打錠圧(本圧)(kN)である。
【0083】
二層OD錠の設計は、実験計画法の中心複合法にて実施し、No.1~No.27の27個の二層OD錠を製造した。
【0084】
製造された二層OD錠の製品物性として、錠剤硬度(N)、錠剤重量(mg)、重量CV(%)、摩損度(%)、崩壊時間(sec)を測定した。
【0085】
具体的には、錠剤の重量、厚み、直径、硬度は、全自動錠剤物性測定システム(MultiCheck6ERWEKA、ドイツErweka製)を用いて、測定錠剤数を10錠として測定した。
【0086】
摩損度は、摩損度試験機(TFT-1200、富山産業製)を用いて、日本薬局方に準じて測定した。
【0087】
崩壊時間は、日本薬局方の崩壊試験法によって測定した。
【0088】
また、上記の測定評価装置及び後述の測定評価装置を用いて、吸水浸透曲線、浸透速度係数(g2/s)、最大吸収量(g)、膨潤量等を測定した。
【0089】
先ず、上記の二層OD錠20の吸水過程を把握するために、二層OD錠20の吸水量を測定した。その測定結果を、図6に示す。この図6では、横軸が時間(sec)、縦軸が吸水量(g)であり、1層目21及び2層目22の各打錠圧と二層OD錠20の硬度を併せて示している。
【0090】
また、図7は、二層OD錠20の吸水過程を、後述のカメラで撮像した画像を図示したものであって、二層OD錠20の吸水及び膨潤過程の観察結果を示している。
【0091】
この図6及び図7では、上記の実験計画法によるNo.1~No.27の27個の二層OD錠の内のNo.27の二層OD錠について行った結果を示している。このNo.27の二層OD錠の1層目21の打錠圧は0.07kN、2層目22の打錠圧は10.25kNであり、硬度は51.5Nであった。
【0092】
また、この測定では、1層目21を着水面側、すなわち、下方とし、1層目21から水を浸透させたものである。
【0093】
この図6に示されるように、吸水過程は、二層OD錠20に、液体である水が接触して、水の表面張力の作用によって見かけ上、吸水量が急激に増える期間である領域1と、その後、二層OD錠20に、水が浸透して吸水されるのに応じて、吸水量が増加する期間である領域2と、測定時間の経過に伴って吸水量が定常状態となって飽和する期間である領域3とに区分することができる。
【0094】
浸透速度係数は、主に領域2において求められる。また、領域3において、二層OD錠20が吸水する量の最大量が、最大吸収量となる。
【0095】
ここで、最大吸収量は、次式に従って算出される。
【0096】
最大吸収量=[(測定後の二層OD錠の質量)+(試料保持具の質量)]
-[(測定前の二層OD錠の質量)+(試料保持具の質量)]
・・・・・・(1)
なお、図7の領域2における遷移域とは、水の浸透が、二層OD錠20の着水面側の層である1層目21から着水面側でない2層目22へ遷移する時点付近である。
【0097】
二層OD錠20の吸水過程を観察した結果、次のような知見を得た。先ず、領域1では、水が試料保持具9の下部に接触し、試料保持具9の底面一面に水が広がっている。次に領域2では、吸水により二層OD錠20の下部から吸水されると共に、二層OD錠20が膨潤した。更に領域3では、二層OD錠20の形状に大きな変化が現れないことが分った。
【0098】
図8に、上記図6とは逆に、二層OD錠20の2層目22を着水面側にして測定した場合の吸水量の時間変化を示す。この図8では、上記図6の1層目21を着水面側にして測定した場合の時間変化を併せて示している。この図8では、二層OD錠20の1層目21を着水面側として測定した場合の時間変化を、ラインL1、2層目22を着水面側として測定した場合の時間変化を、ラインL2でそれぞれ示している。
【0099】
ラインL1及びラインL2のいずれも略同じ変化を示していることが分る。
【0100】
このように二層OD錠20のみの力で吸水させるので、二層OD錠20の服用時に近い状態で、二層OD錠20の吸水性、すなわち、二層OD錠20と水との親和性(濡れ性)を評価することができる。
【0101】
また、上記(1)式に従って、二層OD錠20に、水が浸透して吸収される最大の吸収量を算出するので、二層OD錠20が、吸水、膨潤して崩壊するまでに必要な唾液量を把握することができ、唾液の少ない人でも崩壊するOD錠の製剤設計に有用である。
【0102】
図9は、測定された吸水量から算出される浸透速度係数を示す図である。
【0103】
浸透速度係数は、上記のように、横軸を時間、縦軸を質量(吸水量)の2乗としたグラフにおける接線の傾きとして求めることができる。この浸透速度係数の値が大きいほど浸透速度が大きく、水との親和性が高く、速く浸透する。
【0104】
図9において、ラインL3は、二層OD錠20の1層目21を着水面側にして測定した場合の変化を示し、ラインL4は、2層目22を着水面側にして測定した場合の変化を示している。この図9では、上記の領域1~3を示すと共に、ラインL4の場合に、水の浸透が、二層OD錠20の2層目22から1層目21へ遷移する時点付近t1、及び、ラインL3の場合に、水の浸透が、1層目21から2層目22へ遷移する時点付近t2をそれぞれ示している。
【0105】
この図9に示されるように、2層目22を着水面側として測定したラインL4は、着水の初期段階で、吸水速度が一気に上がっている。その後、水の浸透が2層目22から1層目21へ遷移する時点付近t1を経て、水の浸透が1層目21へ移ってからは、吸水速度が下がっている。
【0106】
逆に、1層目21を着水面側として測定したラインL3は、着水の初期段階はなだらかだが、水の浸透が1層目21から2層目22へ遷移する時点付近t2を経て、水の浸透が2層目22へ移ってからは、吸水速度が急激に上昇している。
【0107】
したがって、二層OD錠20を、1層目21及び2層目22をそれぞれ着水面側として測定して求めた浸透速度係数の時間変化に基づいて、1層目21及び2層目22の吸水速度を評価することができ、この二層OD錠20では、
2層目22が、1層目21に比べて、吸水速度が速く、水との親和性がよいことが分かる。
【0108】
このようにして、二層OD錠20における表裏面の各層22,21の吸水性を評価することができる。
【0109】
図10は、異なる打錠圧/錠剤硬度の二層OD錠20の浸透速度係数の時間変化を示す図である。この図10では、上記実験計画法によるNo.1~No.27の27個の二層OD錠20の内、ラインL5で示される上記No.27の二層OD錠20、ラインL6で示されるNo.22の二層OD錠20、及び、ラインL7で示されるNo.4の二層OD錠20についての測定結果を示している。
【0110】
ラインL5で示される二層OD錠20の本圧である二層目の打錠圧は10.25kN、錠剤硬度が51.5Nであり、ラインL6で示される二層OD錠20の二層目の打錠圧は13.20kN、錠剤硬度が76.3Nであり、ラインL7で示される二層OD錠の二層目の打錠圧は16.61kN、錠剤硬度が108.6Nである。
【0111】
この図10では、各二層OD錠20の1層目21を着水面側として測定を行った。
【0112】
この図10において、着水からの経過時間が5秒以内における浸透速度係数のピークは、非常に幅の狭いピークであって、二層OD錠20の成分に起因するものではなく、試料保持具9が着水した瞬間に作用する水の表面張力、及び、二層OD錠20への初期浸透によるものである。
【0113】
したがって、着水からの経過時間が5秒を超えた後の浸透速度係数に着目する。
【0114】
着水からの経過時間が5秒を超えて、浸透速度係数がピーク(最大点)を示す時間は、打錠圧/硬度が最も低いラインL5が最も早く、打錠圧/硬度が最も高いラインL7が最も遅く、ラインL6がその中間であった、
このように浸透速度係数のピークを示す時間は、高い打錠圧/硬度ほど遅くなる傾向であり、浸透速度係数のピークが現れる時間から二層OD錠20の打錠圧/硬度を評価することができる。
【0115】
二層OD錠20の打錠圧/錠剤硬度が高いほど、浸透速度係数のピークが遅くなって浸透時間が長くなるので、二層OD錠20の打錠圧/錠剤硬度が高いと、二層OD錠20の崩壊時間が長くなることが示唆される。
【0116】
なお、図示していないが、二層OD錠20の2層目22を着水面側として測定した結果も上記と同様の傾向を示した。
【0117】
図11は、二層OD錠20の錠剤硬度と打錠圧(本圧)との関係を示す図である。上記の実験計画法によるNo.1~No.27の27個の二層OD錠についての測定結果を示している。
【0118】
この図11に示されるように、二層OD錠20の錠剤硬度と打錠圧(本圧)の間には、良好な相関が得られている。
【0119】
そこで、二層OD錠20の錠剤硬度に着目して、上記の測定結果を更に考察した。
【0120】
図12は、錠剤硬度と浸透速度係数との関係を示す図である。縦軸の浸透速度係数は、着水して吸水が開始される時点からの経過時間が3秒~20秒の範囲における浸透速度係数の平均値である。
【0121】
このように3秒~20秒の範囲にしたのは、吸水の開始からの経過時間が3秒未満の吸水の最初期では、上記のように、錠剤の成分に起因しない、試料保持具9が着水した瞬間に作用する水の表面張力、及び、二層OD錠20への初期浸透によるものであって、再現性に劣るからである。また、吸水の開始からの経過時間が20秒を超える吸水の後期では、浸透速度の減衰が見られる錠剤もあるからである。
【0122】
なお、浸透速度係数を求めるための時間範囲は、上記3秒~20秒に限るものではなく、評価する項目等に応じて、適宜変更してもよいのは勿論である。
【0123】
また、この図12では、錠剤硬度に対応する本圧Tp=5kN、11kN、22kNを併せて示している。
【0124】
図12において、白抜きの四角は、二層OD錠20の1層目21を着水面側として測定した結果を示し、黒丸は、2層目22を着水面側として測定した結果を示している。
【0125】
この図12に示されるように、浸透速度係数と錠剤硬度との間には、相関が認められ、浸透速度係数は、錠剤硬度が高くなっても、逆に低くなっても、小さくなる。
【0126】
浸透速度係数が小さくなると、浸透速度が遅くなって二層OD錠20の崩壊時間が長くなるので、好ましくない。
【0127】
したがって、図12に示される錠剤硬度と浸透速度係数との関係から、例えば、二層OD錠20の崩壊時間が短く、好ましい浸透速度係数を得るために、錠剤硬度が好ましいものであるか否かを評価するといったことが可能となる。
【0128】
図13は、二層OD錠20の錠剤硬度と、上記(1)式で算出される最大吸収量との関係を示す図である。縦軸の最大吸収量は、二層OD錠20の1層目21を着水面側として測定した最大吸収量と、2層目22を着水面側として測定した最大吸収量との平均値である。
【0129】
この図13に示されるように、最大吸収量と錠剤硬度との間には、相関が認められ、最大吸収量は、錠剤硬度の増加に伴って大きくなるので、最大吸収量に基づいて、錠剤硬度がどの程度であるかを評価することができる。
【0130】
二層OD錠20の錠剤硬度/打錠圧が増加すると、二層OD錠が含み得る最大の吸水量である最大吸収量が大きくなるので、二層OD錠20が崩壊するのに必要な水量が増えることになり、好ましくない。
【0131】
したがって、最大吸収量の小さい二層OD錠20の設計には、高い錠剤硬度/打錠圧は適さないことが分かる。
【0132】
図14は、二層OD錠20の錠剤硬度と崩壊時間との関係、及び、錠剤硬度と準最大吸収量到達時間との関係を示す図である。図14において、横軸は錠剤硬度(N)であり、左縦軸は崩壊時間(s)であり、右縦軸は準最大吸収量到達時間(s)である。
【0133】
崩壊時間は、日本薬局方の崩壊試験法によって測定された崩壊時間である。
【0134】
ここで、準最大吸収量到達時間は、本発明で新たに規定するものであり、最大吸収量及び浸透速度係数に基づいて、次式に従って算出される。
【0135】
準最大吸収量到達時間=(最大吸収量)2/(浸透速度係数)
・・・・・・(2)
最大吸収量及び浸透速度係数は、二層OD錠20の1層目21を着水面側として測定したものであり、浸透速度係数は、上記図12と同様に、吸水開始からの経過時間が3秒~20秒の範囲における浸透速度係数の平均値である。
【0136】
準最大吸収量到達時間は、二層OD錠20に吸収される吸水量が最大となる最大吸収量に到達するのに要する時間に準じる時間、すなわち、最大吸収量に到達するのに要する時間に近い時間である。したがって、この準最大吸収量到達時間によって、二層OD錠20の吸水量が最大吸収量に到達するまでに要する時間を大まかに把握することができる。
【0137】
この図14に示されるように、錠剤硬度と準最大吸収量到達時間の関係は、錠剤硬度と崩壊時間の関係と略同じ傾向を示している。
【0138】
また、左縦軸で示される二層OD錠の崩壊時間は、右縦軸で示される準最大吸収量到達時間に比べて短い。
【0139】
錠剤硬度と準最大吸収量到達時間の関係は、錠剤硬度と崩壊時間の関係と近似しているので、錠剤硬度と準最大吸収量到達時間の関係から、崩壊時間を評価することができる。
【0140】
例えば、或る錠剤硬度の二層OD錠において、得られた準最大吸収量到達時間から、その二層OD錠の崩壊時間を大まかに把握するといったことが可能となる。
【0141】
このようにOD錠に荷重などの作用が加わっていない、OD錠のみの力で吸水させた状態で求められる準最大吸収量到達時間からOD錠の崩壊時間を評価できるので、OD錠剤の開発・設計や品質管理等において有用である。
【0142】
以上のように本実施形態によれば、二層OD錠のみの力で吸水させるので、二層OD錠の服用時に近い状態での吸水性等を評価することができる。
【0143】
また、二層OD錠20のそれぞれの層21,22の浸透速度係数に基づいて、各層21,22における吸水性を評価することができる。
【0144】
更に、二層OD錠20の最大吸収量を算出することによって、二層OD錠20が、吸水、膨潤して崩壊するまでに必要な唾液量を把握することができるので、OD錠の製剤設計に有用である。
【0145】
また、浸透速度係数及び最大吸収量と、錠剤硬度との関係に基づいて、錠剤設計に有用な錠剤硬度/打錠圧についての情報を得ることができる。
【0146】
本実施形態では、図9に示されるように、浸透速度係数に基づいて、二層OD錠20の各層21,22の吸水性を評価し、図10に示されるように、浸透速度係数のピークが現れる時間に基づいて、二層OD錠20の硬度/打錠圧を評価し、図12に示されるように、浸透速度係数に基づいて、二層OD錠20の硬度を評価し、図13に示されるように、最大吸収量に基づいて、錠剤硬度を評価し、図14に示されるように、準最大吸収量到達時間と錠剤硬度とに基づいて、崩壊時間を評価するので、これらを組合せて多角的な評価を行うことが可能であるが、本発明は、必ずしもこれら全てを評価する必要はなく、少なくとも一つを評価できるものであればよい。
【0147】
次に、本発明の他の実施形態の測定評価装置による評価方法について説明する。
【0148】
この実施形態の測定評価装置は、図15の概略構成図に示すように、上記の測定評価装置の本体Aに加えて、試料を撮像する撮像手段としてのカメラ25を備えている。
【0149】
このカメラ25は、測定評価装置の本体Aの試料保持具9の横に設置され、吸水して膨潤する試料である二層OD錠20の状態を撮像するものであって、図示しないパーソナルコンピュータ等の上記制御装置に接続され、その撮像画像が制御装置の液晶ディスプレイ等の表示部に表示される。
【0150】
この実施形態では、この測定評価装置を用いて二層OD錠20の膨潤量を測定し、錠剤硬度と膨潤率の関係、及び、錠剤硬度と膨潤速度との関係を求めた。
【0151】
図16は、二層OD錠20の錠剤硬度と膨潤率との関係を示す図である。
【0152】
ここで、膨潤率は、次式に従って算出した。
【0153】
膨潤率=(膨潤量+錠剤の厚み)/(錠剤の厚み) ・・・・・・(3)
上記(3)式において、膨潤量は、次式に従って算出した。
【0154】
膨潤量=π×(錠剤の径/2)2×膨潤厚さ ・・・・・・(4)
上記(3)式における錠剤の厚みは、測定前の二層OD錠20の厚みであり、上記(4)式における錠剤の径は、測定前の二層OD錠20の径であり、上記の全自動錠剤物性測定システム(MultiCheck6ERWEKA、ドイツErweka製)を用いて測定した。
【0155】
上記(4)式における膨潤厚さは、カメラ25による撮像画像を図示した図17(a)に示される、二層OD錠20が着水した瞬間の膨潤する前の二層OD錠20の上部頂点を通る基準直線L8と、例えば、同図(b)、(c)に示す膨潤後(膨潤中)における二層OD錠20の上部頂点を通る仮想直線L9、L10との間の各距離D1、D2である。なお、図17(a),(b),(c)における各領域1,2,3は、上記図6の各領域1,2,3と同じである。
【0156】
膨潤については、2層OD錠20の1層目21を着水面側として測定した。
【0157】
図17に示されるような二層OD錠20が吸水して膨潤する過程を、膨潤率として評価することができる。
【0158】
図16の膨潤率は、吸水開始からの経過時間が3秒~20秒の範囲における平均値である。
【0159】
この図16に示すように、錠剤硬度が高くなる程、膨潤率が大きくなることが分かる。
【0160】
したがって、膨潤率から錠剤硬度を評価することができる。
【0161】
図18は、2層OD錠20の錠剤硬度と膨潤速度との関係を示す図である。
【0162】
膨潤速度は、単位時間当りの膨潤量の変化量である。この膨潤速度は、吸水開始からの経過時間が3秒~20秒の範囲における平均値である。
【0163】
この図18に示されるように、膨潤速度と錠剤硬度との間には、相関が認められ、膨潤速度は、錠剤硬度が高くなっても、逆に低くなっても、小さくなる。
【0164】
図19は、二層OD錠20の錠剤硬度と崩壊時間との関係、及び、錠剤硬度と準最大膨潤量到達時間との関係を示す図である。図19において、横軸は錠剤硬度(N)であり、左縦軸は崩壊時間(s)であり、右縦軸は準最大膨潤量到達時間(s)である。
【0165】
崩壊時間は、日本薬局方の崩壊試験法によって測定された崩壊時間である。
【0166】
ここで、準最大膨潤量到達時間は、本発明で新たに規定するものであり、二層OD錠の最大の膨潤量である最大膨潤量と膨潤速度とに基づいて、次式に従って算出される。
【0167】
準最大膨潤量到達時間=(最大膨潤量)/(膨潤速度)・・・・・・(5)
ここで、膨潤速度は、上記のように、吸水開始からの経過時間が3秒~20秒の範囲における平均値である。
【0168】
準最大膨潤量到達時間は、二層OD錠20の膨潤量が最大となる最大膨潤量に到達するのに要する時間に準じる時間、すなわち、最大膨潤量に到達するのに要する時間に近い時間である。したがって、この準最大膨潤量到達時間によって、二層OD錠20の膨潤量が最大膨潤量に到達するまでに要する時間を大まかに把握することができる。
【0169】
この図19に示されるように、錠剤硬度と準最大膨潤量到達時間の関係は、錠剤硬度と崩壊時間の関係と略同じ傾向を示している。
【0170】
また、左縦軸で示される崩壊時間は、右縦軸で示される準最大膨潤度到達時間よりも短い。
【0171】
錠剤硬度と準最大膨潤量到達時間の関係は、錠剤硬度と崩壊時間の関係に近似しているので、錠剤硬度と準最大膨潤量到達時間の関係から、崩壊時間を評価することができる。
【0172】
例えば、或る錠剤硬度の二層OD錠において、得られた準最大膨潤量到達時間から、その二層OD錠の崩壊時間を大まかに把握するといったことが可能となる。
【0173】
このようにOD錠に荷重などの作用が加わっていない、OD錠のみの力で吸水、膨潤させた状態で求められる準最大膨潤量到達時間からOD錠の崩壊時間を評価できるので、OD錠剤の開発・設計や品質管理等において有用である。
【0174】
この実施形態では、二層OD錠の膨潤について説明したが、上記実施形態と同様に、吸水性等の評価を行えるのは勿論である。
【0175】
本実施形態によれば、二層OD錠のみの力で吸水させるので、二層OD錠の服用時に近い状態での膨潤過程を、膨潤率、膨潤速度、準最大膨潤量到達時間として評価することができると共に、錠剤硬度と準最大膨潤量到達時間の関係から、二層OD錠の崩壊時間を評価することができる。
【0176】
以上のように、上記各実施形態によれば、二層OD錠20に対して荷重などの作用が加わっていない、服用時に近い状態で、二層OD錠20の吸水浸透過程及び膨潤過程における、浸透速度係数、最大吸収量、準最大吸収量到達時間、膨潤率、膨潤速度、準最大膨潤量到達時間、及び、それらと二層OD錠20の硬度/打錠圧との関係等を多角的に評価することがきるので、二層OD錠を開発・設計するための基礎として有用な情報を得ることができる。
【0177】
[その他の実施形態]
本発明は、以下のような形態で実施することもできる。
【0178】
(1)上記実施形態では、液体fを貯留した容器12を上昇させて、所定高さに吊り下げ保持した試料wに接触させる形態としているが、容器12を固定して、試料wを吊り下げ支持したフック8を下降させる形態で実施することも可能である。
【0179】
(2)上記実施形態では、試料wとして二層OD錠に適用して説明したが、試料wは、二層OD錠に限らず、三層以上のOD錠であってもよく、OD錠以外の他の錠剤であってもよく、錠剤以外、例えば、セラミックチップ等であってもよい。
【0180】
また、液体は、水に限らず、人工唾液、着色水等の各種の液体に適用できるのは勿論である。
【符号の説明】
【0181】
1 ベース
1a 脚
2 駆動部
3 計測部
4 処理空間
5 昇降台
6 透明カバー
7 質量測定装置
8 フック
9 試料保持具
10 上下スライド案内手段
11 ステッピングモータ
12 容器
13 試料載置部
13a 周壁部
13b 連結片
13c 隆起部
14 吊り部
14a 支持アーム
15 小孔(液体流入孔)
16 係止孔
18 空間
f 液体
w 試料
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