(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】劣化検知システム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20220902BHJP
【FI】
G05B23/02 T
(21)【出願番号】P 2018186643
(22)【出願日】2018-10-01
【審査請求日】2021-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599041606
【氏名又は名称】三菱電機プラントエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101133
【氏名又は名称】濱田 初音
(74)【代理人】
【識別番号】100199749
【氏名又は名称】中島 成
(74)【代理人】
【識別番号】100188880
【氏名又は名称】坂元 辰哉
(74)【代理人】
【識別番号】100197767
【氏名又は名称】辻岡 将昭
(74)【代理人】
【識別番号】100201743
【氏名又は名称】井上 和真
(72)【発明者】
【氏名】若林 優一
(72)【発明者】
【氏名】脇本 浩司
(72)【発明者】
【氏名】大塚 泉
(72)【発明者】
【氏名】石飛 親人
(72)【発明者】
【氏名】原口 武久
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-343063(JP,A)
【文献】特開2013-109711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象機器とは異なる他機器の正常状態での稼動データである正常データに基づいて構築されたモデルであって当該他機器の正常状態でのモデルである正常モデル及び前記対象機器の正常状態での稼動データである正常データに基づいて、当該対象機器の正常状態でのモデルである正常モデルを構築する正常モデル再構築部と、
前記他機器の正常データ及び劣化状態での稼動データである劣化データに基づいて構築されたモデルであって当該他機器の稼動データから当該他機器の劣化を判定するためのモデルである劣化判定モデル、並びに前記正常モデル再構築部により構築された正常モデルに基づいて、当該対象機器の稼動データから当該対象機器の劣化を判定するためのモデルである劣化判定モデルを構築する劣化判定モデル再構築部と、
前記対象機器の稼動データ及び前記劣化判定モデル再構築部により構築された劣化判定モデルに基づいて、当該対象機器の劣化を判定する劣化判定部と
を備え、
前記劣化判定モデルは、前記正常データに前記正常モデルを適用することで得られる当該正常データの異常度を表す劣化度と、前記劣化データに前記正常モデルを適用することで得られる当該劣化データの異常度を表す劣化度とを識別するためのモデルであり、
前記劣化判定モデル再構築部は、前記他機器の正常状態での稼働データに前記他機器の正常モデルを適用して得られる劣化度の分布と前記対象機器の正常状態での稼働データに前記対象機器の正常モデルを適用して得られる劣化度の分布とを比較し、両者の分布の差異に応じて、前記他機器の劣化判定モデルにおける識別器の識別面を更新することにより、前記対象機器の劣化判定モデルを構築する
ことを特徴とする劣化検知システム。
【請求項2】
前記他機器の正常状態での稼動データである正常データに基づいて、当該他機器の正常状態でのモデルである正常モデルを構築する正常モデル構築部と、
前記他機器の正常データ及び劣化状態での稼動データである劣化データに基づいて、当該他機器の稼動データから当該他機器の劣化を判定するためのモデルである劣化判定モデルを構築する劣化判定モデル構築部とを備え、
前記正常モデル再構築部は、前記正常モデル構築部により構築された正常モデル及び前記対象機器の正常状態での稼動データである正常データに基づいて、当該対象機器の正常状態でのモデルである正常モデルを構築し、
前記劣化判定モデル再構築部は、前記劣化判定モデル構築部により構築された劣化判定モデル及び前記正常モデル再構築部により構築された正常モデルに基づいて、前記対象機器の稼動データから当該対象機器の劣化を判定するためのモデルである劣化判定モデルを構築する
ことを特徴とする請求項1記載の劣化検知システム。
【請求項3】
前記正常モデル構築部により構築される正常モデルは、正常データが取得るパターン、又は、1つ以上の正常データから抽出した特徴量間の相関関係を用いて構築される
ことを特徴とする請求項2記載の劣化検知システム。
【請求項4】
前記劣化判定モデル構築部は、前記他機器の正常データ及び劣化状態での稼動データである劣化データに加えて前記正常モデル構築部により構築された正常モデルに基づいて、当該他機器の稼動データから当該他機器の劣化を判定するためのモデルである劣化判定モデルを構築する
ことを特徴とする請求項2記載の劣化検知システム。
【請求項5】
前記劣化判定モデル構築部は、
前記他機器の
正常状態での稼働データである正常データ及び
劣化状態での稼働データである劣化データに前記正常モデル構築部により構築された正常モデルをそれぞれ適用し
、劣化度を算出する劣化度算出部と、
前記劣化度算出部により
正常データから算出され
た劣化度と劣化データ
から算出された劣化度とを識別可能な識別器を構築し、当該識別器を劣化判定モデルとする識別器構築部とを有する
ことを特徴とする請求項2記載の劣化検知システム。
【請求項6】
前記正常モデル再構築部は、
前記他機器の正常モデルを前記対象機器の正常モデルとして保持するモデル保持部と、
前記対象機器の正常データを用いて前記モデル保持部により保持されている正常モデルのパラメータを更新するパラメータ更新部と、
前記パラメータ更新部により更新されたパラメータが収束したかを判定する収束判定部とを有し、
前記パラメータ更新部は、前記収束判定部によりパラメータが収束したと判定されるまでパラメータの更新を行う
ことを特徴とする請求項1記載の劣化検知システム。
【請求項7】
前記劣化判定モデル再構築部は、前記他機器の劣化判定モデル及び前記正常モデル再構築部により構築された正常モデルに加えて前記対象機器の正常データに基づいて、当該対象機器の稼動データから当該対象機器の劣化を判定するためのモデルである劣化判定モデルを構築する
ことを特徴とする請求項1記載の劣化検知システム。
【請求項8】
前記劣化判定モデル再構築部は、
前記他機器の劣化判定モデルを前記対象機器の劣化判定モデルとして保持するモデル保持部と、
前記対象機器の正常データに前記正常モデル再構築部により構築された正常モデルを適用し、当該正常データの劣化度を算出する劣化度算出部と、
前記劣化度算出部により算出された劣化度に対して前記モデル保持部により保持されている劣化判定モデルを適用し、劣化判定を行う第2劣化判定部と、
前記第2劣化判定部による判定結果に基づいて、前記モデル保持部により保持されている劣化判定モデルを更新するモデル更新部とを有し、
前記劣化度算出部は、前記正常モデル再構築部における構築が完了するまで劣化度の算出を行う
ことを特徴とする請求項1記載の劣化検知システム。
【請求項9】
前記対象機器の正常データ及び前記劣化判定モデル再構築部により構築された劣化判定モデルに基づいて、劣化判定の精度が許容範囲外である場合に警報を行うモデル評価部と、
前記モデル評価部による警報後、当該警報の正否判断を示す入力を受付ける入力受付部と、
前記入力受付部により受付けられた入力に基づいて、前記劣化判定モデル再構築部により構築された劣化判定モデルを修正するモデル修正部とを備え、
前記劣化判定部は、前記対象機器の稼動データ及び前記モデル修正部による修正後の劣化判定モデルに基づいて、当該対象機器の劣化を判定する
ことを特徴とする請求項1記載の劣化検知システム。
【請求項10】
前記対象機器は、プラットホームドアである
ことを特徴とする請求項1又は請求項9記載の劣化検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、機器の経年劣化の検知を行う劣化検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道関連機器、発電プラント装置又は工場ライン設備等の様々な機器において、機器の予防保全を図るニーズがあり、機器の劣化を検知する技術(劣化検知技術)が研究されている。
【0003】
一般に、機器の劣化検知を高精度に行うためには、対象となる機器(以下、対象機器と称す)毎に、正常状態及び劣化状態の両方での稼動データの収集が必要となる。しかしながら、実機では、劣化の進行の遅い機器が多く、また、異常発生開始時期を正確に特定できないことも多いため、十分な量の劣化状態での稼動データを収集することが難しい。
【0004】
そこで、機器の仕様に基づいて機種等によって機器をグルーピングしておき、同一のグループ内の全機器の稼動データを用いて、グループ毎に診断モデルを構築する方法がある(例えば特許文献1参照)。そして、対象機器の劣化検知の際には、まず、仕様から対象機器が属するグループを特定し、そのグループの診断モデルを用いて劣化検知を行う。これにより、機器個別の稼動データの量が少ない場合でも劣化検知が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、従来技術では、対象機器と同じグループに属する全機器のデータを用いて診断モデルを構築している。よって、この従来技術では、対象機器を正確に表す診断モデルを得るためには、グループ内の各機器の稼動データと対象機器の稼動データが同じような稼動データである必要がある。仮に、対象機器と同じグループ内の各機器の稼動データ中に対象機器の稼動データと異なる挙動をするデータが含まれる場合、構築された診断モデルは、対象機器の振舞いを正しく表現しないものとなり、正確な劣化検知ができない。
【0007】
また、一般に、同機種であっても、個体差、設置条件の差又は環境条件の差等の大きい機器では、同機種の稼動データを用いて構築された診断モデルを個別の機器に適用しても、正確な劣化検知ができない。
【0008】
更に、個体差、設置条件又は環境条件等を考慮して、条件を細かく分割し、条件毎に診断モデルを構築しようとすると、各診断モデルを構築するために膨大な量と種類の稼動データが必要となる。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、対象機器の劣化状態での稼動データを用いることなく、対象機器の劣化検知を可能とする劣化検知システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る劣化検知システムは、対象機器とは異なる他機器の正常状態での稼動データである正常データに基づいて構築されたモデルであって当該他機器の正常状態でのモデルである正常モデル及び対象機器の正常状態での稼動データである正常データに基づいて、当該対象機器の正常状態でのモデルである正常モデルを構築する正常モデル再構築部と、他機器の正常データ及び劣化状態での稼動データである劣化データに基づいて構築されたモデルであって当該他機器の稼動データから当該他機器の劣化を判定するためのモデルである劣化判定モデル、並びに正常モデル再構築部により構築された正常モデルに基づいて、当該対象機器の稼動データから当該対象機器の劣化を判定するためのモデルである劣化判定モデルを構築する劣化判定モデル再構築部と、対象機器の稼動データ及び劣化判定モデル再構築部により構築された劣化判定モデルに基づいて、当該対象機器の劣化を判定する劣化判定部とを備え、劣化判定モデルは、正常データに正常モデルを適用することで得られる当該正常データの異常度を表す劣化度と、劣化データに正常モデルを適用することで得られる当該劣化データの異常度を表す劣化度とを識別するためのモデルであり、劣化判定モデル再構築部は、他機器の正常状態での稼働データに他機器の正常モデルを適用して得られる劣化度の分布と対象機器の正常状態での稼働データに対象機器の正常モデルを適用して得られる劣化度の分布とを比較し、両者の分布の差異に応じて、他機器の劣化判定モデルにおける識別器の識別面を更新することにより、対象機器の劣化判定モデルを構築することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、上記のように構成したので、対象機器の劣化状態での稼動データを用いることなく、対象機器の劣化検知が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】この発明の実施の形態1に係る劣化検知システムの構成例を示す図である。
【
図2】この発明の実施の形態1における劣化判定モデル構築部の構成例を示す図である。
【
図3】この発明の実施の形態1における正常モデル再構築部の構成例を示す図である。
【
図4】この発明の実施の形態1における劣化判定モデル再構築部の構成例を示す図である。
【
図5】この発明の実施の形態1に係る劣化検知システムの動作例を示すフローチャートである。
【
図6】この発明の実施の形態1における正常モデル構築部の動作例を示すフローチャートである。
【
図7】この発明の実施の形態1における劣化判定モデル構築部の動作例を示すフローチャートである。
【
図8】この発明の実施の形態1における正常モデル再構築部の動作例を示すフローチャートである。
【
図9】この発明の実施の形態1における劣化判定モデル再構築部の動作例を示すフローチャートである。
【
図10】この発明の実施の形態1における劣化判定部の動作例を示すフローチャートである。
【
図11】この発明の実施の形態2に係る劣化検知システムの構成例を示す図である。
【
図12】この発明の実施の形態2におけるモデル評価部の構成例を示す図である。
【
図13】この発明の実施の形態2に係る劣化検知システムによる劣化判定モデルの評価及び修正の動作例を示すフローチャートである。
【
図14】この発明の実施の形態2におけるモデル評価部の動作例を示すフローチャートである。
【
図15】この発明の実施の形態2におけるモデル修正部の動作例を示すフローチャートである。
【
図16】この発明の実施の形態1,2に係る劣化検知システムのハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る劣化検知システム1の構成例を示す図である。
劣化検知システム1は、対象となる機器(以下、対象機器と称す)の劣化検知を行う。なお、対象機器としては、例えば、プラットホームドア等の鉄道関連機器、ブレーキ等の列車搭載機器、発電プラント装置又は工場ライン設備等が挙げられる。この劣化検知システム1は、
図1に示すように、劣化特徴抽出部101、正常モデル構築部102、正常モデル記憶部103、劣化判定モデル構築部104、劣化判定モデル記憶部105、正常モデル再構築部106、劣化判定モデル再構築部107、劣化判定モデル記憶部108、劣化判定部109及び検知結果出力部110を備えている。
【0014】
劣化特徴抽出部101は、入力された稼動データから特徴量を抽出する。ここで、劣化特徴抽出部101に入力される稼動データは、対象機器とは異なる他の機器(以下、他機器と称す)から収集される正常状態での稼動データ(正常データ)及び劣化状態での稼動データ(劣化データ)、対象機器から収集される正常状態での稼動データ(正常データ)、及び、対象機器から収集される稼動データ(検知対象データ)のうちの何れかである。なお、対象機器の正常データ及び検知対象データは、逐次収集される。また、劣化特徴抽出部101が抽出する特徴量は、劣化を反映する可能性のある特徴量である。
この劣化特徴抽出部101は、まず、他機器から収集された正常データ及び劣化データから特徴量を抽出する。次に、劣化特徴抽出部101は、対象機器の稼動開始直後に対象機器から逐次収集された正常データから特徴量を抽出する。次に、劣化特徴抽出部101は、対象機器から逐次収集された検知対象データから特徴量を抽出する。
【0015】
なお、劣化を反映する可能性のある特徴量の抽出方法は、設計、物理知識又は事前の分析等によって決定される。以後、劣化特徴抽出部101により正常データから抽出された特徴量を、正常特徴量データと呼ぶ。また、劣化特徴抽出部101により劣化データから抽出された特徴量を、劣化特徴量データと呼ぶ。また、劣化特徴抽出部101により検知対象データから抽出された特徴量を、検知対象特徴量データと呼ぶ。また、他機器としては、試験装置、又は、別の環境で事前にデータ収集を行った機器等が考えられる。
【0016】
なお
図1では、劣化検知システム1が劣化特徴抽出部101を有する場合を示している。しかしながら、これに限らず、劣化検知システム1は劣化特徴抽出部101を有していなくてもよい。
【0017】
正常モデル構築部102は、劣化特徴抽出部101により抽出された他機器の正常特徴量データに基づいて、当該他機器の正常状態でのモデル(正常モデル)を構築する。なお、正常モデルとしては、正常特徴量データが取得る挙動、正常特徴量データが取得るパターン、当該挙動の範囲又は当該パターンの範囲、並びに、等式、グラフ又はネットワークで表される1つ以上の正常特徴量データから抽出した特徴量間の相関関係等を用いることができる。なお、特徴量間の相関関係を表すグラフ構造を用いて正常モデルを構築する場合、グラフ構造は特徴ベクトルの共分散行列又はその逆数である精度行列等で表すことができる。
【0018】
正常モデル記憶部103は、正常モデル構築部102により構築された他機器の正常モデルを示すデータを記憶する。
【0019】
劣化判定モデル構築部104は、劣化特徴抽出部101により抽出された他機器の正常特徴量データ及び劣化特徴量データに基づいて、当該他機器の稼動データから当該他機器の劣化を判定するためのモデル(劣化判定モデル)を構築する。なおこの際、劣化判定モデル構築部104は、上記他機器の正常特徴量データ及び劣化特徴量データに加えて正常モデル記憶部103から読出した当該他機器の正常モデルに基づいて、当該他機器の劣化判定モデルを構築してもよい。この劣化判定モデル構築部104の詳細については後述する。
【0020】
劣化判定モデル記憶部105は、劣化判定モデル構築部104により構築された他機器の劣化判定モデルを示すデータを記憶する。
【0021】
なお、劣化検知システム1は、対象機器のモデル構築及び劣化判定を行う前に、他機器の正常モデル及び他機器の劣化判定モデルを構築する。
【0022】
正常モデル再構築部106は、正常モデル記憶部103から読出した他機器の正常モデル及び劣化特徴抽出部101により抽出された対象機器の正常特徴量データに基づいて、当該対象機器の正常状態でのモデル(正常モデル)を構築する。この正常モデル再構築部106の詳細については後述する。
【0023】
劣化判定モデル再構築部107は、劣化判定モデル記憶部105から読出した他機器の劣化判定モデル及び正常モデル再構築部106により構築された対象機器の正常モデルに基づいて、当該対象機器の稼動データから劣化を判定するためのモデル(劣化判定モデル)を構築する。なおこの際、劣化判定モデル再構築部107は、上記他機器の劣化判定モデル及び対象機器の正常モデルに加えて劣化特徴抽出部101により抽出された対象機器の正常特徴量データに基づいて、当該対象機器の劣化判定モデルを構築してもよい。この劣化判定モデル再構築部107の詳細については後述する。
【0024】
劣化判定モデル記憶部108は、劣化判定モデル再構築部107により構築された対象機器の劣化判定モデルを示すデータを記憶する。
【0025】
劣化判定部109は、劣化特徴抽出部101により抽出された検知対象特徴量データ及び劣化判定モデル記憶部108から読出した対象機器の劣化判定モデルに基づいて、当該対象機器の劣化を判定する。この際、劣化判定部109は、検知対象特徴量データに対して対象機器の劣化判定モデルを適用することで、対象機器が正常又は劣化の何れであるかを判定する。
【0026】
検知結果出力部110は、劣化判定部109による判定結果を示すデータを外部に出力する。
【0027】
次に、劣化判定モデル構築部104の構成例について、
図2を参照しながら説明する。
劣化判定モデル構築部104は、
図2に示すように、劣化度算出部1041及び識別器構築部1042を有する。
【0028】
劣化度算出部1041は、他機器の正常特徴量データ及び劣化特徴量データに他機器の正常モデルをそれぞれ適用し、当該正常特徴量データの劣化度及び当該劣化特徴量データの劣化度を算出する。
【0029】
識別器構築部1042は、劣化度算出部1041により算出された正常特徴量データの劣化度と劣化特徴量データの劣化度とを識別可能な識別器を構築し、当該識別器を劣化判定モデルとする。
【0030】
次に、正常モデル再構築部106の構成例について、
図3を参照しながら説明する。
正常モデル再構築部106は、
図3に示すように、モデル保持部1061、パラメータ更新部1062及び収束判定部1063を有する。
【0031】
モデル保持部1061は、他機器の正常モデルを対象機器の正常モデルとして保持する。
【0032】
パラメータ更新部1062は、対象機器の正常特徴量データを用いてモデル保持部1061により保持されている当該対象機器の正常モデルのパラメータを更新する。パラメータ更新部1062は、収束判定部1063によりパラメータが収束したと判定されるまで、対象機器の正常データが逐次収集される度に、対象機器の正常モデルのパラメータを更新する。
【0033】
他機器と対象機器との間には、機器の個体差、設置条件又は環境条件の違いがあるため、他機器のデータと対象機器のデータは一般に異なる傾向を持つ。そのため、他機器のデータを用いて構築したモデルを、そのまま対象機器に適用しても、対象機器で発生した劣化を正しく検知することは難しい。
そこで、劣化検知システム1は、他機器で構築したモデルのパラメータを、対象機器の正常データを用いて更新する。これにより、劣化検知システム1は、対象機器に適したモデルを再構築することができる。
また、全対象機器で学習に十分な量のデータを事前に収集するのは難しいことが多い。そこで、劣化検知システム1は、対象機器から逐次収集するデータを用いて、他機器で事前に構築したモデルのパラメータを更新し、対象機器のモデルをオンラインで取得する。これにより、劣化検知システム1は、事前に対象機器のデータが十分にない場合でも、精度の高いモデルを再構築することができる。
【0034】
収束判定部1063は、パラメータ更新部1062により更新されたパラメータが収束したかを判定する。収束判定部1063は、対象機器の正常データが逐次収集される度に、パラメータ更新部1062で更新された正常モデルのパラメータが収束したかを判定する。収束判定部1063は、パラメータが収束したと判定するまでこの動作を繰り返す。
【0035】
なお、例えば一定回数のパラメータ更新を実施したら更新を終了するという方法もあるが、この方法だとパラメータが収束する前に、つまりモデルの再構築前に、更新が終了する可能性がある。そのため、収束判定部1063はパラメータの収束判定を行い、劣化検知システム1は正確なモデル構築を可能とする。
【0036】
また、パラメータ更新部1062及び収束判定部1063は、対象機器から正常稼働時のデータが収集され始めたら、パラメータの更新及びパラメータの収束判定を開始する。
また、パラメータ更新部1062は、パラメータが収束したと判定されるまで、又は対象機器が一定時間稼働し、収集されるデータが正常データでない可能性が高くなってきた場合に、パラメータの更新を終了する。ここで、収集データが正常でない可能性が高いかどうかは、機器の設計知識又は物理知識等から決定される。
【0037】
次に、劣化判定モデル再構築部107の構成例について、
図4を参照しながら説明する。
劣化判定モデル再構築部107は、
図4に示すように、モデル保持部1071、劣化度算出部1072、劣化判定部(第2劣化判定部)1073及びモデル更新部1074を有する。
【0038】
モデル保持部1071は、他機器の劣化判定モデルを対象機器の劣化判定モデルとして保持する。
【0039】
劣化度算出部1072は、対象機器の正常特徴量データに当該対象機器の正常モデルを適用し、当該正常特徴量データの劣化度を算出する。劣化度算出部1072は、正常モデル再構築部106における構築が完了するまで劣化度の算出を行う。劣化度算出部1072は、対象機器の正常データが逐次収集される度に、パラメータ更新部1062で更新された正常モデルのパラメータを用いて、正常特徴量データの劣化度を算出する。
【0040】
劣化判定部1073は、劣化度算出部1072により算出された劣化度に対してモデル保持部1071により保持されている対象機器の劣化判定モデルを適用し、劣化判定を行う。
【0041】
モデル更新部1074は、劣化判定部1073による判定結果に基づいて、モデル保持部1071により保持されている対象機器の劣化判定モデルを更新する。
【0042】
次に、実施の形態1に係る劣化検知システム1の動作例について、
図5を参照しながら説明する。
ここで、従来技術では、対象機器の機種情報しか用いていないため、機器に特有の個体差等の要因により正確な劣化検知ができない。一方、実機で対象機器の劣化データを収集することは難しいが、対象機器の正常データを逐次収集することは可能な場合がある。そこで、実施の形態1に係る劣化検知システム1では、対象機器の正常データを用いて他機器の正常モデル及び劣化判定モデルを修正することで、対象機器をより正確に表現できる正常モデル及び劣化判定モデルを構築する。これにより、実施の形態1に係る劣化検知システム1では、劣化検知の精度が向上する。
【0043】
実施の形態1に係る劣化検知システム1の動作例では、
図5に示すように、まず、劣化特徴抽出部101は、入力された稼動データから特徴量を抽出する(ステップST501)。
【0044】
次いで、正常モデル構築部102は、劣化特徴抽出部101により抽出された他機器の正常特徴量データに基づいて、当該他機器の正常モデルを構築する(ステップST502)。この正常モデル構築部102により構築された他機器の正常モデルを示すデータは、正常モデル記憶部103に記憶される。正常モデル構築部102の詳細な動作例は後述する。
【0045】
次いで、劣化判定モデル構築部104は、劣化特徴抽出部101により抽出された他機器の正常特徴量データ及び劣化特徴量データ並びに正常モデル記憶部103から読出した当該他機器の正常モデルに基づいて、当該他機器の劣化判定モデルを構築する(ステップST503)。この劣化判定モデル構築部104により構築された他機器の劣化判定モデルを示すデータは、劣化判定モデル記憶部105に記憶される。劣化判定モデル構築部104の詳細な動作例は後述する。
【0046】
次いで、正常モデル再構築部106は、正常モデル記憶部103から読出した他機器の正常モデル及び劣化特徴抽出部101により抽出された対象機器の正常特徴量データに基づいて、当該対象機器の正常モデルを構築する(ステップST504)。正常モデル再構築部106の詳細な動作例は後述する。
【0047】
次いで、劣化判定モデル再構築部107は、劣化判定モデル記憶部105から読出した他機器の劣化判定モデル、正常モデル再構築部106により構築された対象機器の正常モデル、及び、劣化特徴抽出部101により抽出された対象機器の正常特徴量データに基づいて、当該対象機器の劣化判定モデルを構築する(ステップST505)。この劣化判定モデル再構築部107により構築された対象機器の劣化判定モデルを示すデータは、劣化判定モデル記憶部108に記憶される。劣化判定モデル再構築部107の詳細な動作例は後述する。
【0048】
次いで、劣化判定部109は、劣化特徴抽出部101により抽出された検知対象特徴量データ及び劣化判定モデル記憶部108から読出した対象機器の劣化判定モデルに基づいて、当該対象機器の劣化を判定する(ステップST506)。
【0049】
次いで、検知結果出力部110は、劣化判定部109による判定結果を示すデータを外部に出力する(ステップST507)。
【0050】
次に、正常モデル構築部102の動作例について、
図6を参照しながら説明する。
正常モデル構築部102の動作例では、
図6に示すように、まず、正常モデル構築部102は、劣化特徴抽出部101により抽出された他機器の正常特徴量データを取得する(ステップST601)。
【0051】
次いで、正常モデル構築部102は、他機器の正常特徴量データに基づいて、当該他機器の正常モデルを構築する(ステップST602)。
【0052】
次いで、正常モデル構築部102は、他機器の正常モデルを示すデータを出力する(ステップST603)。
【0053】
次に、劣化判定モデル構築部104の動作例について、
図7を参照しながら説明する。
劣化判定モデル構築部104の動作例では、
図7に示すように、まず、劣化判定モデル構築部104は、劣化特徴抽出部101により抽出された他機器の正常特徴量データ及び劣化特徴量データを取得する(ステップST701)。
【0054】
また、劣化判定モデル構築部104は、正常モデル記憶部103に記憶されている他機器の正常モデルを読込む(ステップST702)。
【0055】
次いで、劣化度算出部1041は、他機器の正常特徴量データ及び劣化特徴量データに他機器の正常モデルをそれぞれ適用し、当該正常特徴量データの劣化度及び当該劣化特徴量データの劣化度を算出する(ステップST703)。
【0056】
なお、劣化度の算出方法としては、例えば正常モデルが特徴量間の相関関係を表すグラフ構造である場合、下式(1)を用いた算出方法が考えられる。なお、式(1)において、x(k)∈R
rは全特徴量データ中におけるk番目のr次元の特徴ベクトルを表し、a(k)はx(k)に対する異常度(劣化度)を表し、P(x)はxの確率分布を表す。kはデータが取得された時刻を表し、データが取得される度にkの値は逐次更新される。
【0057】
ここで、P(x(k))=N(x(k)|μ,Σ)の正規分布に従うと仮定すると、劣化度は、下式(2)のマハラノビス距離となる。ここで、μはxの平均、Σはxの共分散行列を表す。
【0058】
なお上記の劣化度の算出方法は一例であり、他の方法でもよく、劣化度が多次元ベクトルでもよい。
【0059】
次いで、識別器構築部1042は、劣化度算出部1041により算出された正常特徴量データの劣化度と劣化特徴量データの劣化度とを識別可能な識別器を構築し、当該識別器を劣化判定モデルとする(ステップST704)。
なお、識別器の構築方法としては、例えば劣化度が式(2)で算出される場合、劣化度に対してROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を適用し、正常特徴量データの劣化度と劣化特徴量データの劣化度とを最も良く識別する閾値を算出することで、識別器とすることができる。
【0060】
次いで、劣化判定モデル構築部104は、他機器の劣化判定モデルを示すデータを出力する(ステップST705)。
【0061】
次に、正常モデル再構築部106の動作例について、
図8を参照しながら説明する。
正常モデル再構築部106の動作例では、
図8に示すように、まず、正常モデル再構築部106は、正常モデル記憶部103に記憶されている他機器の正常モデルを読込む(ステップST801)。そして、モデル保持部1061は、この他機器の正常モデルを対象機器の正常モデルとして保持する。
【0062】
また、正常モデル再構築部106は、対象機器の正常特徴量データを学習データとして取得する(ステップST802)。
【0063】
次いで、パラメータ更新部1062は、学習データを用いてモデル保持部1061に保持されている対象機器の正常モデルのパラメータを更新する(ステップST803)。
【0064】
例えば、モデル保持部1061に保持されている正常モデルが特徴量間の相関関係を表すグラフ構造であり、パラメータの更新で得られる標本平均、標本共分散行列及びグラフ構造をそれぞれμ(ハット)、Σ(ハット)、Λ(ハット)とする。
ここで、現時刻の標本平均であるμ(ハット)(k)は、下式(3)のように算出される。式(3)において、μ
iはμのi成分を表す。
【0065】
また、現時刻の標本共分散行列であるΣ(ハット)(k)は、下式(4)のように算出される。式(4)において、σ
ij
2はΣ(ハット)の(i,j)成分を表す。
【0066】
また、現時刻のグラフ構造であるΛ(ハット)(k)は、現時刻の標本平均であるμ(ハット)(k)、現時刻の標本共分散行列であるΣ(ハット)(k)、及び、前回のグラフ構造であるΛ(ハット)(k-1)から算出される。なお、μ(ハット),Σ(ハット),Λ(ハット)の初期値には、他機器の正常モデルであるPの値を用いる。
また、Λ(ハット)(k)は、グラフ構造として共分散行列を用いた場合にはΛ(ハット)(k)=Σ(ハット)(k)となり、グラフ構造として精度行列を用いた場合にはΛ(ハット)(k)=Σ(ハット)-1(k)となる。
【0067】
そして、グラフ構造として疎構造グラフを用いた場合、L1最適化(下式(5))において、Σ(ハット)=Σ(ハット)(k)とし、Λの初期値をΛ(ハット)(k-1)として最適化問題を解くことで、Λ(ハット)(k)を得ることができる。式(5)において、ρは正則化パラメータを表す。
【0068】
次いで、正常モデル再構築部106は、対象機器の正常モデルを示すデータを出力する(ステップST804)。
【0069】
次いで、収束判定部1063は、パラメータ更新部1062により更新されたパラメータが収束したかを判定する(ステップST805)。
このステップST805において、収束判定部1063がパラメータは収束していないと判定した場合には、シーケンスはステップST802に戻り上記の動作を繰り返す。一方、ステップST805において、収束判定部1063がパラメータは収束したと判定した場合には、シーケンスは終了する。
【0070】
正常モデル再構築部106による正常モデルの更新は、正常モデルのパラメータが収束し、値がほぼ変動しなくなった場合に、終了する。正常モデルのパラメータの収束判定方法としては、例えば正常モデルがr×rの正方行列であるΛ(ハット)(k)で表される場合、Λ(ハット)(k)が下式(6)を満たすとき、収束したと判定できる。式(6)において、εは十分小さな定数値とし、tr(・)は行列の対角成分の和(トレース)を表す。
【0071】
また、正常モデル再構築部106では、収束判定部1063によりパラメータが収束したと判定される前に、対象機器の正常データが得られなくなる場合がある。この場合、正常モデル再構築部106は、パラメータが収束していなくても、正常データが得られなくなる直前に算出された対象機器の正常モデルを示すデータを出力する。
【0072】
次に、劣化判定モデル再構築部107の動作例について、
図9を参照しながら説明する。
劣化判定モデル再構築部107の動作例では、
図9に示すように、まず、劣化判定モデル再構築部107は、劣化判定モデル記憶部105に記憶されている他機器の劣化判定モデルを読込む(ステップST901)。そして、モデル保持部1071は、この他機器の劣化判定モデルを対象機器の劣化判定モデルとして保持する。
【0073】
また、劣化判定モデル再構築部107は、対象機器の正常特徴量データを学習データとして取得する(ステップST902)。
【0074】
また、劣化判定モデル再構築部107は、正常モデル再構築部106により構築された対象機器の正常モデルを読込む(ステップST903)。
【0075】
次いで、劣化度算出部1072は、学習データに対象機器の正常モデルを適用し、当該学習データの劣化度を算出する(ステップST904)。
この際、劣化判定モデル再構築部107は、現時刻に入力された対象機器の正常特徴量データであるx(k)に、x(k)を用いて更新された対象機器の正常モデルを適用し、x(k)の劣化度であるa(k)を算出する。
【0076】
次いで、劣化判定部1073は、劣化度算出部1072により算出された劣化度に対してモデル保持部1071により保持されている劣化判定モデルを適用し、劣化判定を行う(ステップST905)。
【0077】
次いで、モデル更新部1074は、劣化判定部1073による判定結果に基づいて、モデル保持部1071により保持されている劣化判定モデルを更新する(ステップST906)。
この際、劣化判定モデル再構築部107は、他機器の正常特徴量データの劣化度の確率分布であるP’(a)と、対象機器の正常特徴量データの劣化度の確率分布であるP(a)とを比較し、両者の確率分布の差異に応じて識別器の識別面を更新することで劣化判定モデルを更新する。
【0078】
なお、識別面の更新方法としては、例えば確率分布であるP’(a)とP(a)との間で、カルバックライブラー情報量等を用いて確率分布の差異を定量化し、差異が大きいほど識別面も大きく遷移させる、といった方法が考えられる。
【0079】
また、識別面を遷移させる方向については、例えば、他機器で事前に劣化判定の誤検知率であるXを算出し、逐次収集される学習データに対して現在の劣化判定モデルで劣化判定を行って劣化判定の誤検知率であるYを算出する。そして、X<Yの場合にはYが小さくなる方向に遷移させ、X>Yの場合にはYが大きくなる方向に遷移させる、といった方法が考えられる。
【0080】
次いで、劣化判定モデル再構築部107は、対象機器の正常モデルのパラメータが収束したかを判定する(ステップST907)。
このステップST907において、劣化判定モデル再構築部107は、対象機器の正常モデルのパラメータは収束していないと判定した場合には、シーケンスはステップST902に戻り上記の動作を繰り返す。
【0081】
一方、ステップST907において、劣化判定モデル再構築部107は、対象機器の正常モデルのパラメータは収束したと判定した場合、対象機器の劣化判定モデルを示すデータを出力する(ステップST908)。
【0082】
次に、劣化判定部109の動作例について、
図10を参照しながら説明する。
劣化判定部109の動作例では、
図10に示すように、まず、劣化判定部109は、劣化特徴抽出部101により抽出された対象機器の検知対象特徴量データを取得する(ステップST1001)。
【0083】
次いで、劣化判定部109は、劣化判定モデル記憶部108に記憶されている対象機器の劣化判定モデルを読込む(ステップST1002)。
【0084】
次いで、劣化判定部109は、検知対象特徴量データに対して対象機器の劣化判定モデルを適用することで、対象機器の劣化有無を判定する(ステップST1003)。
【0085】
次いで、劣化判定部109は、判定結果を示すデータを出力する(ステップST1004)。
【0086】
以上のように、この実施の形態1によれば、劣化検知システム1は、他機器の正常データに基づいて、当該他機器の正常モデルを構築する正常モデル構築部102と、他機器の正常データ及び劣化データに基づいて、当該他機器の劣化判定モデルを構築する劣化判定モデル構築部104と、正常モデル構築部102により構築された正常モデル及び対象機器の正常データに基づいて、当該対象機器の正常モデルを構築する正常モデル再構築部106と、劣化判定モデル構築部104により構築された劣化判定モデル及び正常モデル再構築部106により構築された正常モデルに基づいて、当該対象機器の劣化判定モデルを構築する劣化判定モデル再構築部107と、対象機器の稼動データ及び劣化判定モデル再構築部107により構築された劣化判定モデルに基づいて、当該対象機器の劣化を判定する劣化判定部109とを備えた。これにより、実施の形態1に係る劣化検知システム1は、対象機器の劣化データを用いることなく、対象機器の劣化検知が可能となる。
【0087】
実施の形態2.
実施の形態1に係る劣化検知システム1では、対象機器の設置及び稼働直後には対象機器に劣化はなく、対象機器から収集される稼動データは正常であることを想定している。しかしながら、対象機器の設置及び稼働直後であっても、初期不良等の要因で機器から収集される稼動データが正常でない場合がある。
そこで、劣化検知システム1において、逐次更新する対象機器の劣化判定モデルから劣化判定の精度を算出し、その精度が許容範囲外の場合に警報を出力し、点検員又は保守員による点検結果に基づいて劣化判定モデルを修正する機能を追加してもよい。以下、上記機能を有する劣化検知システム1について示す。
【0088】
図11はこの発明の実施の形態2に係る劣化検知システム1の構成例を示す図である。この
図11に示す実施の形態2に係る劣化検知システム1では、
図1に示す実施の形態1に係る劣化検知システム1に対し、モデル評価部111、入力受付部112、モデル修正部113及び正常モデル記憶部114を追加している。その他の構成は同様であり、同一の符号を付して異なる部分についてのみ説明を行う。
【0089】
モデル評価部111は、劣化特徴抽出部101により抽出された対象機器の正常特徴量データ及び劣化判定モデル再構築部107により構築された劣化判定モデルに基づいて、劣化判定の精度が許容範囲外である場合に警報を行う。このモデル評価部111の構成例については後述する。
【0090】
入力受付部112は、モデル評価部111による警報後、当該警報の正否判断を示す入力を受付ける。
【0091】
モデル修正部113は、入力受付部112により受付けられた入力に基づいて、劣化判定モデル再構築部107により構築された劣化判定モデルを修正する。この際、例えば、モデル修正部113は、正常モデル記憶部114から読出した正常モデルに基づいて、劣化判定モデル再構築部107により構築された劣化判定モデルを修正してもよい。
なお、劣化判定モデル記憶部108は、モデル修正部113による修正後の劣化判定モデルを示すデータを記憶する。
【0092】
正常モデル記憶部114は、正常モデル再構築部106により構築された対象機器の正常モデルを示すデータを記憶する。なお、正常モデル記憶部114は、劣化検知システム1に必須の構成ではなく、用いなくてもよい。
【0093】
次に、モデル評価部111の構成例について、
図12を参照しながら説明する。
モデル評価部111は、
図12に示すように、劣化判定部1111、精度算出部1112、比較部1113及び警報出力部1114を有している。
【0094】
劣化判定部1111は、対象機器の正常特徴量データに対象機器の劣化判定モデルを適用し、劣化判定を行う。
【0095】
精度算出部1112は、劣化判定部1111による劣化判定結果に基づいて、劣化判定の精度を算出する。
【0096】
比較部1113は、精度算出部1112により算出された劣化判定の精度が許容範囲内であるかを判定する。なお、許容範囲は、例えば、事前に他機器の劣化判定モデルを他機器の正常特徴量データに適用した際の劣化判定の精度の値に基づいて設定される。
【0097】
警報出力部1114は、比較部1113により劣化判定の精度が許容範囲外であると判定された場合に、外部に警報を出力する。
【0098】
次に、実施の形態2に係る劣化検知システム1による劣化判定モデルの評価及び修正の動作例について、
図13を参照しながら説明する。
実施の形態2に係る劣化検知システム1による劣化判定モデルの評価及び修正の動作例では、
図13に示すように、まず、モデル評価部111が、劣化特徴抽出部101により抽出された対象機器の正常特徴量データ及び劣化判定モデル再構築部107により構築された劣化判定モデルに基づいて、劣化判定の精度が許容範囲外である場合に警報を行う(ステップST1301)。モデル評価部111の詳細な動作例は後述する。
【0099】
次いで、入力受付部112は、モデル評価部111による警報後、当該警報の正否判断を示す入力を受付ける(ステップST1302)。すなわち、モデル評価部111により警報が出力された後、点検員又は保守員は、対象機器を点検して当該警報が誤報であるか否かを示す入力を行う。
【0100】
次いで、モデル修正部113は、入力受付部112により受付けられた入力に基づいて、劣化判定モデル再構築部107により構築された劣化判定モデルを修正する(ステップST1303)。モデル修正部113の詳細な動作例は後述する。
【0101】
次に、モデル評価部111の動作例について、
図14を参照しながら説明する。
モデル評価部111の動作例では、
図14に示すように、まず、モデル評価部111は、対象機器の正常特徴量データを取得する(ステップST1401)。
また、モデル評価部111は、劣化判定モデル再構築部107により構築された対象機器の劣化判定モデルを読込む(ステップST1402)。
【0102】
次いで、劣化判定部1111は、対象機器の正常特徴量データに対象機器の劣化判定モデルを適用し、劣化判定を行う(ステップST1403)。
【0103】
次いで、精度算出部1112は、劣化判定部1111による劣化判定結果に基づいて、劣化判定の精度を算出する(ステップST1404)。
【0104】
次いで、比較部1113は、精度算出部1112により算出された劣化判定の精度が許容範囲内であるかを判定する(ステップST1405)。
このステップST1405において、比較部1113が劣化判定の精度は許容範囲内であると判定した場合には、シーケンスはステップST1401に戻り上記の動作を繰り返す。
【0105】
すなわち、初期不良等によって、正常ラベルがつけられた対象機器のデータが、実際には異常データである場合がある。この場合、劣化検知システム1は、劣化判定の精度が許容範囲内かどうかを判定し、許容範囲外の場合にラベルを修正することで、正確なモデルを構築することができる。
【0106】
また、比較部1113は、対象機器から正常ラベルがつけられたデータが入力されている間、劣化判定の精度が許容範囲内かどうかの判定を、逐次実施し続ける。そして、比較部1113は、正常ラベルがつけられたデータの入力がなくなったタイミングで、処理を終了する。
【0107】
一方、ステップST1405において、比較部1113が劣化判定の精度は許容範囲外であると判定した場合には、警報出力部1114は外部に警報を出力する(ステップST1406)。
【0108】
次に、モデル修正部113の動作例について、
図15を参照しながら説明する。
モデル修正部113の動作例では、
図15に示すように、まず、モデル修正部113は、入力受付部112により受付けられた入力を取得する(ステップST1501)。
【0109】
次いで、モデル修正部113は、入力が警報の誤りを示しているかを判定する(ステップST1502)。
【0110】
このステップST1502において、モデル修正部113は、入力が警報の誤りを示していると判定した場合に、当該警報の誤りが発生しないように劣化判定モデルを修正する(ステップST1503)。この際、モデル修正部113は、例えば、正常特徴量データが正しく正常と判定されるように、劣化判定モデルの識別面を調整してもよい。その後、シーケンスはステップST1505へ進む。
【0111】
一方、ステップST1502において、モデル修正部113は、入力が警報の誤りを示していないと判定した場合には、警報発生期間の対象機器の正常特徴量データ(学習データ)を劣化特徴量データに訂正し、劣化判定モデルを修正する(ステップST1504)。この際、モデル修正部113は、例えば、正常モデル記憶部114から警報発生期間の直前での正常モデルを取得し、その正常モデルを現在の正常モデルとして利用することで、劣化判定モデルを修正してもよい。
【0112】
次いで、モデル修正部113は、修正後の劣化判定モデルを示すデータを出力する(ステップST1505)。
【0113】
以上のように、この実施の形態2によれば、劣化検知システム1は、対象機器の正常データ及び劣化判定モデル再構築部107により構築された劣化判定モデルに基づいて、劣化判定の精度が許容範囲外である場合に警報を行うモデル評価部111と、モデル評価部111による警報後、当該警報の正否判断を示す入力を受付ける入力受付部112と、入力受付部112により受付けられた入力に基づいて、劣化判定モデル再構築部107により構築された劣化判定モデルを修正するモデル修正部113とを備え、劣化判定部109は、対象機器の稼動データ及びモデル修正部113による修正後の劣化判定モデルに基づいて、当該対象機器の劣化を判定する。これにより、実施の形態2に係る劣化検知システム1は、対象機器の正常データが正常ではなかった場合でも、対象機器の劣化検知が可能となる。
【0114】
最後に、
図16を参照して、実施の形態1,2に係る劣化検知システム1のハードウェア構成例を説明する。以下では、実施の形態1に係る劣化検知システム1のハードウェア構成例について示すが、実施の形態2に係る劣化検知システム1のハードウェア構成例についても同様である。
図16に示すように、劣化特徴抽出部101、正常モデル構築部102、劣化判定モデル構築部104、正常モデル再構築部106、劣化判定モデル再構築部107及び劣化判定部109が行う処理は、メモリ201に記憶されたプログラムをCPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、又はDSP(Digital Signal Processor)ともいう)202が読出すことで実行される。
【0115】
劣化特徴抽出部101、正常モデル構築部102、劣化判定モデル構築部104、正常モデル再構築部106、劣化判定モデル再構築部107及び劣化判定部109の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア及びファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ201に格納される。CPU202は、メモリ201に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。すなわち、劣化検知システム1は、CPU202により実行されるときに、例えば
図5~10に示した各ステップが結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ201を備える。また、これらのプログラムは、劣化特徴抽出部101、正常モデル構築部102、劣化判定モデル構築部104、正常モデル再構築部106、劣化判定モデル再構築部107及び劣化判定部109の手順及び方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。
【0116】
また、正常モデル記憶部103に記憶される正常モデルのパラメータ、劣化判定モデル記憶部105に記憶される劣化判定モデルのパラメータ、劣化判定モデル記憶部108に記憶される劣化判定モデルのパラメータは、それぞれDB入出力I/F203を通してDB204に格納される。
【0117】
また、検知結果出力部110から出力される判定結果を示すデータは、DB204に記憶されてもよいし、また、ディスプレイI/F205を通してディスプレイ206に表示されてもよい。
【0118】
また、入力装置207は、他機器から収集される正常データ及び劣化データ、対象機器から収集される正常データ及び検知対象データの入力に使用される。入力装置207に入力された各種の稼動データは、入力I/F208を通してDB204又はメモリ201に記憶される。
【0119】
なお、メモリ201及びDB204としては、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(Electrically EPROM)等の不揮発性又は揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、又はDVD(Digital Versatile Disc)等が該当する。
【0120】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0121】
1 劣化検知システム、101 劣化特徴抽出部、102 正常モデル構築部、103 正常モデル記憶部、104 劣化判定モデル構築部、105 劣化判定モデル記憶部、106 正常モデル再構築部、107 劣化判定モデル再構築部、108 劣化判定モデル記憶部、109 劣化判定部、110 検知結果出力部、111 モデル評価部、112 入力受付部、113 モデル修正部、114 正常モデル記憶部、201 メモリ、
202 CPU、203 DB入出力I/F、204 DB、205 ディスプレイI/F、206 ディスプレイ、207 入力装置、208 入力I/F、1041 劣化度算出部、1042 識別器構築部、1061 モデル保持部、1062 パラメータ更新部、1063 収束判定部、1071 モデル保持部、1072 劣化度算出部、1073 劣化判定部、1074 モデル更新部、1111 劣化判定部(第2劣化判定部)、1112 精度算出部、1113 比較部、1114 警報出力部。