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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】浸漬ノズル
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/10 20060101AFI20220902BHJP
   B22D 41/50 20060101ALI20220902BHJP
【FI】
B22D11/10 330E
B22D11/10 330H
B22D41/50 520
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019007948
(22)【出願日】2019-01-21
(65)【公開番号】P2020116591
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福永 新一
(72)【発明者】
【氏名】香月 和久
(72)【発明者】
【氏名】矢野 順也
(72)【発明者】
【氏名】古川 大樹
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-183544(JP,A)
【文献】国際公開第2017/081934(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/10
B22D 41/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内孔の幅Wnが内孔の厚さTnより大きい扁平状であって,短辺側側壁の下部に一対の吐出孔を備える浸漬ノズルにおいて,
扁平部分の幅方向の壁面上に,前記幅方向の壁面の縦方向中心軸に対して軸対称の位置に,前記幅方向かつ下方向に傾斜して厚さ方向に突出した部分(以下「側方突出部」という。)が対をなして配置されており,
前記側方突出部は前記幅方向の両壁面上に対向して配置されており,
当該側方突出部が配置された位置の内孔の厚さを1とする前記側方突出部の前記厚さ方向の合計突出長さTsは,前記対をなす2つの側方突出部それぞれ0.18以上0.90以下で同一である,浸漬ノズル。
【請求項2】
前記対をなす2つの側方突出部間の前記幅方向壁面上には,前記厚さ方向の突出長さが前記側方突出部の前記厚さ方向の突出長さよりも小さく,かつ当該側方突出部が配置された位置の内孔の厚さを1とする前記厚さ方向の合計突出長さTpが0.40以下(ゼロを含まない)である突出部(以下「中央突出部」という。)が設置されている,請求項1に記載の浸漬ノズル。
【請求項3】
前記中央突出部の上端面は,前記幅方向に水平形状又は中央を頂点とする曲面若しくは屈曲点を含む上方に突出した形状である,請求項2に記載の浸漬ノズル。
【請求項4】
前記側方突出部及び前記中央突出部の上端面は,内孔中心方向に水平形状又は平面若しくは曲面で下方に傾斜する形状である,請求項2又は請求項3に記載の浸漬ノズル。
【請求項5】
前記側方突出部及び前記中央突出部のいずれか一方又は両方の個々の突出長さは,それぞれ同一又は当該幅方向の壁面の中心方向に向かって直線若しくは曲線又は段状で短尺化する形状である,請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の浸漬ノズル。
【請求項6】
前記側方突出部及び前記中央突出部を備えた前記側方突出部のいずれか一方又は両方は,上下方向に複数箇所に設置されている,請求項2から請求項5のいずれか一項に記載の浸漬ノズル。
【請求項7】
内孔の底部中央付近に上方向の突出部を有する,請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の浸漬ノズル。
【請求項8】
前記浸漬ノズルは,当該浸漬ノズル上端付近の内孔横方向断面形状が円である領域の,最小断面積位置を基準にして,溶鋼流量が0.04(t/(min.・cm))以上の連続鋳造用である,請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の浸漬ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,タンディッシュから鋳型内に溶鋼を注湯する連続鋳造用の浸漬ノズルに関し、特に,薄スラブ,中厚スラブ等用として用いられるような,浸漬ノズルの吐出孔付近の横方向(鉛直方向に垂直な方向)断面が,扁平状の浸漬ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼を連続的に冷却凝固させて所定形状の鋳片を形成する連続鋳造工程では,タンディッシュの底部に設置された連続鋳造用浸漬ノズル(以下では,単に「浸漬ノズル」ともいう。)を介して鋳型内に溶鋼が注湯される。
【0003】
一般に,浸漬ノズルは,上端部が溶鋼の導入口とされ,この溶鋼導入口から下方に延びる溶鋼流路(内孔)が内部に形成された,底部を有する管体からなり,管体の下部側面には,溶鋼流路(内孔)と連通する一対の吐出孔が対向して形成されている。浸漬ノズルは,その下部を鋳型内の溶鋼中に浸漬させた状態で使用される。これにより,注湯された溶鋼の飛散を防止すると共に,溶鋼と大気との接触を遮断して酸化を防止している。また,浸漬ノズルを使用することにより鋳型内の溶鋼が整流化され,湯面を浮遊するスラグや非金属介在物などの不純物が溶鋼中へ巻き込まれないようにしている。
【0004】
近年,連続鋳造時に薄スラブ,中厚スラブ等の,厚さが薄い鋳片を製造することが増えている。このような連続鋳造用の薄い鋳型に対応するための浸漬ノズルは扁平状にする必要がある。例えば特許文献1には短辺側側壁に吐出孔を設置した扁平状浸漬ノズルが,特許文献2にはさらに下端面にも吐出孔を設けた扁平状浸漬ノズルが示されている。これらの扁平状の浸漬ノズルでは一般的に,溶鋼導入口から鋳型への吐出孔の間でその内孔の幅を拡大させることになる。
【0005】
しかし,このような内孔の幅が拡大する形状かつ扁平形状の場合,浸漬ノズル内の溶鋼流が乱れやすくなり,その鋳型への吐出流も乱れる。この溶鋼流の乱れは鋳型内の湯面(溶鋼表面)の変動増大や,パウダーの鋳片への巻き込み,温度不均一化等,鋳片品質不良や操業の危険性増大等を惹き起こす原因ともなる。したがって浸漬ノズル内及び吐出する溶鋼流を安定化させることが必要となる。
【0006】
これら溶鋼流を安定化させるために,例えば特許文献3には,内孔の下方の平面上の点(中心)から吐出孔の下縁に向かう少なくとも2個の曲げファセットを形成した浸漬ノズルが開示されている。さらにこの特許文献3には,溶鋼流を2本のストリームに分流する分流器を備える浸漬ノズルが開示されている。この特許文献3に示された扁平状の浸漬ノズルでは,特許文献1や特許文献2のような内部空間に流動方向・形態を変える手段を備えない浸漬ノズルに比較すると,浸漬ノズル内の溶鋼流の安定性は高くなる。
【0007】
しかし,このような左右方向の溶鋼流を分流するような手段の場合,依然,左右の吐出孔間での溶鋼吐出流の変動が大きくなって,それによる鋳型内湯面の変動が大きくなることがある。
【0008】
前述の背景下,本発明者らは特許文献4に示す扁平状の浸漬ノズルを発明し,鋳型内湯面等を安定化させることに寄与した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平11-5145号公報
【文献】特開平11-47897号公報
【文献】特表2001-501132号公報
【文献】国際公開第2017/81934号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし,特許文献4の扁平状の浸漬ノズルでも,操業条件,特に浸漬ノズル上端付近の内孔横方向断面形状が円である領域の,最小断面積位置を基準にして,溶鋼流量が概ね0.04(t/(min.・cm))以上等の条件で行う連続鋳造においては,鋳型内湯面の安定化等の効果が依然不十分な場合があることを本発明者らは知見した。
【0011】
そこで本発明が解決しようとする課題は,扁平状の浸漬ノズルにおいて,鋳型内湯面等を安定化させる,すなわちその変動を小さくする浸漬ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
特許文献4の扁平状の浸漬ノズルでは,主として内孔中央に突出部を設置し,それを基本として吐出流・形態等の微調整調整のために,その側方にも前記中央と同じ又は突出厚さの小さい突出部を設置する。
これに対し本発明では側方に対称の突出部を設置し,その側方突出部の間は突出部の無い空間又は前記側方突出部を基本として,前記側方突出部より突出長さの小さい突出部を設置する。
【0013】
特許文献4の扁平状の浸漬ノズルの構造では,内孔での溶鋼流を,中央直下方向よりも側方(ノズル扁平部分の幅方向を指す。以下同じ。)への流量を大きくするように導く。この場合,吐出孔からの溶鋼流速が大きくなる傾向となり,単位時間当たり,単位面積当たりの溶鋼流量が大きい条件等の場合では鋳型内湯面の変動が大きくなることがある。
これに対し,本発明の浸漬ノズルの構造では,内孔での溶鋼流を,中央直下方向への流量を大きくするように調整して側方への流量を相対的に減じるように導く。言い換えると,本発明では中央直下方向への流量/側方への流量の割合を,特許文献4の浸漬ノズルの構造の場合よりも相対的に大きくする,ということである。
なお,上述は基本的に中央直下方向への流量/側方への流量の関係においてその割合を調整するのであって,必ずしも中央直下方向への流量>側方への流量の関係にするものではない。
【0014】
上述の流動形態を得るための本発明は,次の1から8の扁平状の浸漬ノズルである。
1.
内孔の幅Wnが内孔の厚さTnより大きい扁平状であって,短辺側側壁の下部に一対の吐出孔を備える浸漬ノズルにおいて,
扁平部分の幅方向の壁面上に,前記幅方向の壁面の縦方向中心軸に対して軸対称の位置に,前記幅方向かつ下方向に傾斜して厚さ方向に突出した部分(以下「側方突出部」という。)が対をなして配置されており,
前記側方突出部は前記幅方向の両壁面上に対向して配置されており,
当該側方突出部が配置された位置の内孔の厚さを1とする前記側方突出部の前記厚さ方向の合計突出長さTsは,前記対をなす2つの側方突出部それぞれ0.18以上0.90以下で同一である,浸漬ノズル。
2.
前記対をなす2つの側方突出部間の前記幅方向壁面上には,前記厚さ方向の突出長さが前記側方突出部の前記厚さ方向の突出長さよりも小さく,かつ当該側方突出部が配置された位置の内孔の厚さを1とする前記厚さ方向の合計突出長さTpが0.40以下(ゼロを含まない)である突出部(以下「中央突出部」という。)が設置されている,前記1に記載の浸漬ノズル。
3.
前記中央突出部の上端面は,前記幅方向に水平形状又は中央を頂点とする曲面若しくは屈曲点を含む上方に突出した形状である,前記2に記載の浸漬ノズル。
4.
前記側方突出部及び前記中央突出部の上端面は,内孔中心方向に水平形状又は平面若しくは曲面で下方に傾斜する形状である,前記2又は前記3に記載の浸漬ノズル。
5.
前記側方突出部及び前記中央突出部のいずれか一方又は両方の個々の突出長さは,それぞれ同一又は当該幅方向の壁面の中心方向に向かって直線若しくは曲線又は段状で短尺化する形状である,前記2から前記4のいずれか一項に記載の浸漬ノズル。
6.
前記側方突出部及び前記中央突出部を備えた前記側方突出部のいずれか一方又は両方は,上下方向に複数箇所に設置されている,前記2から前記5のいずれか一項に記載の浸漬ノズル。
7.
内孔の底部中央付近に上方向の突出部を有する,前記1から前記6のいずれか一項に記載の浸漬ノズル。
8.
前記浸漬ノズルは,当該浸漬ノズル上端付近の内孔横方向断面形状が円である領域の,最小断面積位置を基準にして,溶鋼流量が0.04(t/(min.・cm))以上の連続鋳造用である,前記1から前記7のいずれか一項に記載の浸漬ノズル。
【0015】
なお,本発明において前記の内孔の幅Wn,厚さTnとは,浸漬ノズルの短辺側側壁部に設けた一対の吐出孔の上端位置における内孔の幅(長辺方向の長さ),厚さ(短辺方向の長さ)のことをいう。
【発明の効果】
【0016】
本発明の扁平状の浸漬ノズルにより,溶鋼流の方向を中央部から側方部に亘って固定的又は完全に分離することなく,その溶鋼流を漸次増減させた連続的な状態で制御することができ,浸漬ノズル内での溶鋼流の適度なバランスを確保することができる。これにより,操業条件,特に浸漬ノズル上端付近の横方向断面形状が円である領域の,最小断面積位置を基準にして,溶鋼流量が概ね0.04(t/(min.・cm))以上等の条件で行う,側方の吐出孔側に高速度又は多量の溶鋼流を発生させる傾向にある連続鋳造においても,吐出孔から流出する溶鋼の流速又は流量を適度に抑制し,鋳型内湯面等を安定化させる,すなわちその変動を小さくすることができる。
ひいては,鋳型内湯面変動を抑制することから,鋳型内パウダー等の巻き込みを減じ,溶鋼内介在物の浮上を促進すること等により鋳片品質を向上させることができる。また,鋳型側壁への過度な溶鋼流を抑制することから,ブレークアウト等の事故発生の危険性をも減ずることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】側方突出部を設置した本発明の浸漬ノズルの例(本発明の第1の形態)を示すイメージ図で,(a)は短辺側中心を通る断面図,(b)は長辺側中心を通る断面図(視A-A)ある。
図2図1の側方突出部に加え上方に側方突出部を一対設置した本発明の浸漬ノズルの例(本発明の第2の形態)を示すイメージ図で,(a)は短辺側中心を通る断面図,(b)は長辺側中心を通る断面図(視A-A)である。
図3図1の側方突出部間に中央突出部を設置した本発明の浸漬ノズルの例(本発明の第3の形態)を示すイメージ図で,(a)は短辺側中心を通る断面図,(b)は長辺側中心を通る断面図(視A-A)ある。
図4図3の側方突出部及びその間の中央突出部に加え,上方に側方突出部を一対設置した本発明の浸漬ノズルの例(本発明の第4の形態)を示すイメージ図で,(a)は短辺側中心を通る断面図,(b)は長辺側中心を通る断面図(視A-A)ある。
図5図3又は図4の,側方突出部間に中央突出部を設置した部分付近の拡大図であり,中央突出部の中央部が上方向に直線で山形を成しており,さらに底部突出部の中央部が上方向に直線で山形を成している例の,短辺側中心を通る断面図である。
図6図5の浸漬ノズルの内孔上面視の図で,側方突出部及び中央突出部の関係を示すイメージ図である。
図7図5の中央突出部の上端部が曲面である例で,浸漬ノズルの短辺側中心を通る断面を示すイメージ図である。
図8図5の中央突出部の上端部が平面である例で,浸漬ノズルの短辺側中心を通る断面を示すイメージ図である。
図9】側方突出部又は中央突出部の上面が内孔中心方向に傾斜する形状の例で,浸漬ノズルの長辺側中心を通る断面を示すイメージ図である。
図10図5の側方突出部,中央突出部の各上面の突出長さが一定(内孔側端部が幅方向壁面に平行)である例で,上面視のイメージ図である。
図11図5の中央突出部の上面の突出長さが,中央方向に直線で減縮している例で,上面視のイメージ図である。
図12図5の中央突出部の上面の突出長さが,中央方向に曲線で減縮している例で,上面視のイメージ図である。
図13図5の側方突出部,中央突出部の各上面の突出長さが直線で,かつ,一体化して連続的に減縮している例で,上面視のイメージ図である。
図14図5の浸漬ノズルの底部突出部の上面が平面である例で,短辺側中心を通る断面を示すイメージ図である。
図15図5の浸漬ノズルの底部突出部の上面が曲面である例で,短辺側中心を通る断面を示すイメージ図である。
図16図5の浸漬ノズルの底部突出部の上面が,中央に凸状部を備え,かつ,底方向に拡径する例で,短辺側中心を通る断面を示すイメージ図である。
図17図5の浸漬ノズルの底部突出部にも溶鋼排出用の孔を備える例で,短辺側中心を通る断面を示すイメージ図である。
図18】鋳型及び鋳型内の湯面(溶鋼面)の変動を示すイメージ図で,(a)は鋳型湯面付近(内面)の上面視のイメージ図,(b)は鋳型湯面付近(内面)の短辺側中心を通る断面視(縦方向半分)のイメージ図である。
図19】表1の実施例3の鋳型内の湯面(溶鋼面)の変動(最大値,左右平均)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
前述の特許文献3のような分流手段を設置することでも或る程度,幅方向端部側への溶鋼流を形成することはできる。しかしそのような固定的又は完全な分流を行った場合は,内孔での一部分すなわち単一の狭い範囲ごとに分離した溶鋼流を生じ,内孔の場所ごとに流動方向及び流速が異なる部分を生じ易い。特に溶鋼流量制御等による流量や方向の変動があった場合には溶鋼流はどちらかに偏って,浸漬ノズル内から鋳型内への吐出流及び湯面等に著しい乱れを生じることがある。
【0019】
そこで本発明では,例えば図1の第1の形態に示すように,まず浸漬ノズル10の扁平部分の幅方向(長辺側)の壁面の側方部に,当該幅方向壁面の中心軸に対して軸対称の一対の側方突出部1(図1(a)等参照。以下,単に「軸対称の側方突出部」ともいう。)を設置する。
この一対の側方突出部1の上面は,当該側方突出部1の中央側から扁平部分の幅方向かつ下方向,すなわち吐出孔4の方向に傾斜させる。このような傾斜により,内孔3内ないしは吐出孔4からの溶鋼の流速や流動形態を,渦流等の発生を抑制しつつ穏やかに変化させ,最適化することができる。
【0020】
前記一対の軸対称の側方突出部は,内孔を挟んだ他方の幅方向壁面にも,扁平部分の厚さ方向に対して面対称の関係で対向して設置する(図1(b)等参照。以下,面対称の関係にある側方突出部を単に「面対称の側方突出部」ともいう。本発明では例えば図6に示すように,面対称の側方突出部1が配置された位置の内孔の厚さTnを1とする側方突出部1の前記厚さ方向の合計長さTsは,0.18以上0.90以下とする。すなわち,面対称の側方突出部の間には溶鋼が通過する空間が存在する。
このような間隔の空間を存在させることにより,内孔での溶鋼流の固定的・完全な分流をせず,溶鋼流が通過する部分の流動方向・流速を緩やかに制御する。これにより,溶鋼流が吐出孔側に明確な境界をもって流動することを緩和することができる。
【0021】
また,側方突出部の設置場所,長さ,方向等を調整することにより,溶鋼流を中心付近又は側方側に集中させることを避けつつ,幅方向端部側すなわち吐出孔側及び中央側に分散しつつ溶鋼流に適度なバランスを与えることができる。しかも単に分散するだけではなく,側方突出部を設置した領域でも空間が連通しているので,溶鋼流は完全に分断した状態ではなくなだらかな境界を形成しつつ,緩やかに混合されて均一化しながら分散する流れとなる。
【0022】
なお,前述のとおり側方突出部の設置場所,長さ,方向等は適宜調整することができる。例えば図2に示す第2の形態では,図1の側方突出部(図2では1aの符号を付しており,以下「下部側方突出部」ともいう。)に加え,上方に側方突出部(図2では1bの符号を付しており,以下「上部側方突出部」ともいう。)を一対設置している。
【0023】
さらに本発明では,軸対称の側方突出部間には,図3及び図4に示す第3及び第4の形態のように前記軸対称の側方突出部よりも突出長さが小さい突出部(中央突出部)を設置することができる。なお,図3に示す第3の形態では,図1の軸対称の側方突出部1,1間に中央突出部1pを設置し,図4に示す第4の形態では,図2の軸対称の下部側方突出部1a,1a間に中央突出部1pを設置している。
【0024】
この構造は,特許文献4において前記軸対称の側方突出部よりも突出長さが大きい突出部を設置することで,前記軸対称の側方突出部間への溶鋼流よりも側方への溶鋼流を大きくすることと逆の効果,すなわち,前記軸対称の側方突出部間(中央部)への溶鋼流/側方への溶鋼流の割合を大きくする効果をもたらす。溶鋼流量が大きい(概ね0.04(t/(min.・cm)以上))連続鋳造では,前記軸対称の側方突出部間(中央部)への溶鋼流/側方への溶鋼流の割合を小さくすることが有効であることが多い。
【0025】
このような中央部への溶鋼流と側方への溶鋼流のバランスは,溶鋼流速(単位時間当たり,単位断面積当たりの溶鋼流量)の大きさ,引き抜き速度,鋳型サイズ・形状,浸漬深さや吐出孔面積等のノズルの構造等により,最適化することができる。具体的には,側方突出部の幅方向ないし下方向の角度,幅方向長さ,突出長さ等,それら軸対称の側方突出部の間の中央突出部が無い構造とするか,その中央突出部の突出高さを調整する,上端面形状を調整する,等の方法を採ることができる。
具体的に中央突出部の突出長さについては,図6に例示しているように,その突出長さTp/2は側方突出部1の突出長さTs/2よりも小さく,かつ当該側方突出部1が配置された位置の内孔の厚さTnを1とする合計突出長さTpが0.40以下となるようにする。言い換えれば、Tp<Ts,かつTp/Tn≦0.40とする。
【0026】
また,中央突出部の上端面は,図8に示すように幅方向に水平形状,又は図5及び図7に示すように中央を頂点とする曲面若しくは屈曲点を含む上方に突出した形状とすることができる。このような形状により,溶鋼の流速や流動形態をさらに変化させ,最適化することもできる。
【0027】
さらに側方突出部又は中央突出部の上端面は,図9に示すように浸漬ノズル扁平部分の幅方向(長辺側)壁面との境界部を頂点にして浸漬ノズル扁平部分の厚さ方向の中心方向すなわち内孔中心方向(空間側)かつ下方に傾斜させることもできる。このような傾斜により,溶鋼の流速や流動形態をさらに変化させ,最適化することもできる。
【0028】
さらに側方突出部又は中央突出部の上端面の突出長さは,図10に示すように同一とすることができるほか,図11図13に示すように浸漬ノズル扁平部分の幅方向(長辺側)壁面の中心方向に向かって短尺化するように傾斜させることもできる。このような傾斜により,溶鋼の流速や流動形態をさらに変化させ,最適化することもできる。
【0029】
扁平状の浸漬ノズルでは短辺側側壁部の吐出孔が縦方向に長く開放する形態になるので,その吐出孔では上方側に吐出流速が小さくなる部分が生じることがあり,特に上端部付近では浸漬ノズル内に引き込む逆流現象もしばしば観られる。そこで,本発明では例えば図2及び図4に示すように,前述の軸対称及び面対称の下部側方突出部1aに加え,その上方に1又は複数の軸対称及び面対称の側方突出部1b(上方側方突出部)を設置することができる。この上方側方突出部1bは,前述の下方側方突出部1aと同様な最適化構造とすることができる。
【0030】
この上方側方突出部1bは,特に吐出孔上方での流速の低下,ないしは上端部付近での逆流等の溶鋼流の乱れを抑制して吐出孔の縦方向の位置ごとの流速分布を均一化する機能を補完すると共に,上限方向での流量バランスを調整する機能をも有する。
この上部側方突出部1b,1b間にも,前述の下方側方突出部1a,1a間と同様に中央突出部を設置することもできる。
【0031】
なお,浸漬ノズル内部の底部5は,図14のように中央付近に吐出孔を形成しないで,単なる鋳型との隔壁としての壁面としてもよく,又は図1図5図7図8図15図16等のように中央部を上方に突出させて底部突出部を含む構造としてもよい。さらに図17のように底部5には吐出孔6を設けてもよい。このような底部の突出構造は,中央部への溶鋼流を吐出孔方向に変換する際の流動方向・形態,流速等を変化させるのに役立つ。
【0032】
次に本発明を実施例と共に説明する。
【0033】
[実施例A]
実施例Aは図2に示す本発明の第2の形態,すなわち突出部として軸対称かつ面対称の側方突出部2段1a,1bを設置し,下部側方突出部1a,1a間には中央突出部を設置しない形態,及び図4に示す本発明の第4の形態,すなわち突出部として軸対称かつ面対称の側方突出部2段1a,1bを設置し,下方側方突出部1a,1a間に中央突出部1pを設置した形態の浸漬ノズルにつき,下方側方突出部1a及び中央突出部1pの浸漬ノズル内孔空間方向への突出長さ(面対称一対の突出部の合計の長さ)Ts,Tpの,浸漬ノズル内孔の厚さ(短辺方向の長さ)Tnに対する比Ts/Tn,Tp/Tnと,鋳型内湯面変動程度(鋳型内偏流指数及び鋳型内湯面変動高さ)の関係を示す,水モデル実験結果である。
【0034】
浸漬ノズルの仕様は次の通りである。
・全長 : 1165mm
・溶鋼導入口 : φ86mm
・吐出孔上端位置の内孔幅(Wn) : 255mm
・吐出孔上端位置の内孔厚さ(Tn) : 34mm
・吐出孔上端位置のノズル下端面からの高さ : 146.5mm
・中央突出部の高さ(ノズル下端面からの高さ) : 155mm
・浸漬ノズルの壁厚さ : 約25mm
・浸漬ノズルの底部の厚さ(中央部頂点) : 高さ100mm
・上方側方突出部(1b) : 浸漬ノズル幅方向の長さ(左右各々)は25mm,
Ts/Tn比=0.74,
吐出孔方向への傾斜角度は45度,
上端面の浸漬ノズル幅方向及び厚み方向は水平,
側方突出部間は100mm,
中央突出部は無し
・下方側方突出部(1a) : 浸漬ノズル幅方向の長さ(左右各々)は40mm,
Ts/Tn比=0.1~1.0(空間無し),
吐出孔方向への傾斜角度は45度,
上端面の浸漬ノズル幅方向及び厚み方向は水平,
側方突出部間は60mm,
中央突出部Tp/Tn比=0(無し)~0.7
【0035】
鋳型,流体の条件は次の通りである。
・鋳型の幅 : 1650mm
・鋳型の厚さ : 65mm(中央上端部185mm)
・浸漬深さ(吐出孔上端から水面まで): 83mm
・流体の供給速度 : 0.065t/(min・cm
※溶鋼に換算した値
【0036】
ここで鋳型内偏流指数を偏流が無い場合を1.0とする指数で0.8≦鋳型内偏流指数≦1.2,鋳型内湯面変動高さ(mm)を≦15mmを本発明の課題解決効果が得られたとみなし,評価の基準とした。
なお,鋳型内偏流指数とは水モデル実験にて鋳型内の浸漬ノズル吐出孔側左右各々の設定湯面(設定水位上端面から30mmの水中位置)の流速を測定し,前記左右の流速を比で表したときのその絶対値,すなわち,左流速/右流速(又は右流速/左流速)の値であり,鋳型内湯面変動高さとは,図18中のSwの最大値である。
【0037】
結果を表1に示す。
【表1】
【0038】
鋳型内偏流指数及び鋳型内湯面変動高さは,側方突出部については,Tnに対するTs比率(Ts/Tn)が0.18以上0.90以下で基準を満足できることができることがわかる。
また,中央突出部を設置した場合については,その突出長さが側方突出部の突出長さより小さく(Tp<Ts),かつTnに対するTp比率(Tp/Tn)が0.4以下の場合に基準を満足することができることがわかる。
【0039】
[実施例B]
実施例Bは,図4に示す本発明の第4の形態において,下方側方突出部1a及び中央突出部1pの上端面を、図9に示すような内孔中心方向に平面で下方に傾斜する形状とした場合の鋳型内湯面変動程度を示す,水モデル実験結果である。
【0040】
ここでは,下方側方突出部のTs/Tn比=0.74,中央突出部のTp/Tn比=0.18とし,下段側方突出部及び中央突出部の内孔方向への傾斜角度(図9のθ)は0度(水平)の場合と45度の場合を比較した。他の条件は実施例Aと同じである。
【0041】
結果を図19に示す。図19の縦軸は,傾斜角度θが0度,45度いずれの場合も吐出孔左右方向の最大湯面変動値Sw(mm)を平均した値である。
【0042】
図19に示すように,傾斜角度θが0度,45度いずれの場合も基準の15mmより顕著に小さい値であるが,さらに45度の場合は2.0(mm)と,0度の場合の3.75(mm)の約1/2程度に低減されていることがわかる。
【符号の説明】
【0043】
10: 浸漬ノズル
1 : 側方突出部
1a: 下部側方突出部
1b: 上部側方突出部
1p: 中央突出部
2 : 溶鋼導入口
3 : 内孔(溶鋼流路)
4 : 吐出孔(短辺側の壁側)
5 : 底部
6 : 吐出孔(底部)
7 : 湯面
20: 鋳型
Wn: 浸漬ノズルの内孔の幅(長辺方向の長さ)
Wp: 側方突出部の両端部間の幅
Wc: 中央突出部の幅
Tn: 浸漬ノズルの内孔の厚さ(短辺方向の長さ)
Ts: 側方突出部の空間方向への突出長さ(一対の合計の長さ)
Tp: 中央突出部の空間方向への突出長さ(一対の合計の長さ)
ML: 鋳型幅(長辺)
Ms: 鋳型厚さ(短辺,側部)
Mc: 鋳型厚さ(短辺,中央部)
Sw: 鋳型内の湯面変動幅(上端,下端間の寸法)
図1
図2
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図19