(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】フッ素含有複合粒子
(51)【国際特許分類】
C09C 3/12 20060101AFI20220902BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20220902BHJP
C09C 1/36 20060101ALI20220902BHJP
C09C 1/40 20060101ALI20220902BHJP
C09C 1/02 20060101ALI20220902BHJP
C01G 23/047 20060101ALI20220902BHJP
C01G 49/06 20060101ALI20220902BHJP
C01G 25/02 20060101ALI20220902BHJP
C01B 33/18 20060101ALI20220902BHJP
C01B 13/14 20060101ALI20220902BHJP
C09C 1/22 20060101ALI20220902BHJP
【FI】
C09C3/12
C09K3/18 104
C09C1/36
C09C1/40
C09C1/02
C01G23/047
C01G49/06
C01G25/02
C01B33/18 C
C01B13/14 A
C09C1/22
(21)【出願番号】P 2019012565
(22)【出願日】2019-01-28
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】宮本 賢一
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2011-0024941(KR,A)
【文献】特開2001-152050(JP,A)
【文献】特開2017-013353(JP,A)
【文献】国際公開第2014/057712(WO,A1)
【文献】特開2011-039332(JP,A)
【文献】特開2000-119634(JP,A)
【文献】特開2018-185478(JP,A)
【文献】特開2003-064348(JP,A)
【文献】特開平06-016940(JP,A)
【文献】米国特許第08741432(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/00-3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物系微粒子の表面が1)フッ素含有化合物及び2)当該フッ素含有化合物が金属酸化物系微粒子表面の水酸基と結合してなるフッ素含有基の少なくとも1種で被覆されている複合粒子であって、
(1)前記フッ素含有化合物が、パーフルオロポリエーテルからなる主鎖の少なくとも一方の末端側に[-Si(OR)
3](但し、3つのRは、互いに同一又は異なって、水素又は炭素数1~10のアルキル基を示す。)で示される官能基を含む化合物であり、
(2)前記金属酸化物系微粒子の単位表面積当たりのフッ素被覆量が0.1mg/m
2~1.0g/m
2である、
ことを特徴とするフッ素含有複合粒子。
【請求項2】
前記金属酸化物系粒子が、鉄(Fe)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、ジルコニウム(Zr)及びマグネシウム(Mg)の少なくとも1種を含有する酸化物を含むことを特徴とする請求項1に記載のフッ素含有複合粒子。
【請求項3】
平均一次粒子径が3~500nmである、請求項1又は2に記載のフッ素含有複合粒子。
【請求項4】
前記フッ素含有化合物の一方の端部側の官能基が前記金属酸化物粒子と結合しており、他端の官能基は、別の前記フッ素含有化合物の分子と結合している、請求項1~3のいずれかに記載のフッ素含有複合粒子。
【請求項5】
前記フッ素含有基が-O-Si(OR)
2-(CH
2)
k-NHC(=O)-CF
2-O-(CF
2O)
p-(CF
2CF
2O)
q-CF
2-C(=O)NH-(CH
2)
k-Si(OR)
3(但し、Rは互いに同一又は異なって炭素数1~4のアルキル基を示し、p及びqは合計が7以上となる0以上の整数を示し、kは1~5の整数を示す。)で示されるフッ素含有基を含む、請求項1~4のいずれかに記載のフッ素含有複合粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフッ素含有複合粒子に関し、特に付着防止性(撥水性・撥油性)を有する複合粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において、防汚性、固液界面の摩擦抵抗の軽減等の観点から、撥水性又は撥油性を発現する材料が注目されている。例えば、特許文献1には、ポリフルオロアルキルメタアクリレ-ト樹脂を含む樹脂層を表面に備える金属酸化物複合粒子を備える塗膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術のような従来技術では水又はほとんどの油に対して高い撥水性及び撥油性が得られるものの、例えばオレイン酸等の脂肪酸に対しては満足できる撥油性(疎油性)を得ることができない。また、例えばヘキサデカンのように表面エネルギーが低い油に対しても高い撥油性(疎油性)を得ることができない。従って、これらの点において、さらなる改良の余地がある。
【0005】
よって、本発明の主な目的は、従来技術よりも高い撥水性及び撥油性を発揮できる微粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の粒子構造を採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記のフッ素含有複合粒子に係る。
1.金属酸化物系微粒子の表面が1)フッ素含有化合物及び2)当該フッ素含有化合物が金属酸化物系微粒子表面の水酸基と結合してなるフッ素含有基の少なくとも1種で被覆されている複合粒子であって、
(1)前記フッ素含有化合物が、パーフルオロポリエーテルからなる主鎖の少なくとも一方の末端側に[-Si(OR)3](但し、3つのRは、互いに同一又は異なって、水素又は炭素数1~10のアルキル基を示す。)で示される官能基を含む化合物であり、
(2)前記金属酸化物系微粒子の単位表面積当たりのフッ素被覆量が0.1mg/m2~1.0g/m2である、
ことを特徴とするフッ素含有複合粒子。
2. 前記フッ素含有化合物の数平均分子量が500~2500である、前記項1記載のフッ素含有複合粒子。
3. 平均一次粒子径が3~500μmである、前記項1又は2のいずれか記載のフッ素含有複合粒子。
4. 前記フッ素含有化合物の一方の端部側の官能基と前記金属酸化物系微粒子とが結合している側とは他端の官能基は、別のパーフルオロポリエーテルを主鎖とするポリマーの[-Si(OR)3](但し、3つのRは、互いに同一又は異なって、水素又は炭素数1~10のアルキル基を示す。)で示される官能基と結合している、前記項1~3いずれか記載のフッ素含有複合粒子。
5. 前記フッ素含有基が-O-Si(OR)2-(CH2)k-NHC(=O)-CF2-O-(CF2O)p-(CF2CF2O)q-CF2-C(=O)NH-(CH2)k-Si(OR)3(但し、Rは互いに同一又は異なって炭素数1~4のアルキル基を示し、p及びqは合計が7以上となる0以上の整数を示し、kは1~5の整数を示す。)で示されるフッ素含有基を含む、前記項1~4のいずれかに記載のフッ素含有複合粒子。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来技術よりも高い撥水性及び撥油性を発揮できる微粒子を提供することができる。特に、本発明のフッ素含有複合粒子は、脂肪酸に対しても高い撥油性を発揮することができる。従って、例えば炭素数15以上の常温で液体の高級脂肪酸(特にパルミチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,リノール酸,リノレン酸等)に対しても高い撥油性(防汚性)を得ることができる。加えて、例えば炭素数15以上の常温で液状の炭化水素化合物(特にヘキサデカン等)に対しても比較的高い撥油性を得ることができる。
【0009】
このため、本発明のフッ素含有複合粒子は、付着防止効果(撥水性・撥油性)が要求される製品、部材、部品等に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1(a)は、本発明のフッ素含有複合粒子からなる塗膜を基材に積層してなる積層体の模式図である。
図1(b)は、本発明のフッ素含有複合粒子の構造の模式図を示す。
【
図2】
図2は、試験例において滑落角を測定するために用いた装置の概略図である。
図2(a)は、ガラス製板をジャッキアップする前の状態を示す。
図2(b)は、ガラス製板をジャッキアップした状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.フッ素含有複合粒子
本発明のフッ素含有複合粒子(本発明粒子)は、金属酸化物系微粒子の表面が1)フッ素含有化合物及び2)当該フッ素含有化合物が金属酸化物系微粒子表面の水酸基と結合してなるフッ素含有基の少なくとも1種で被覆されている複合粒子であって、
(1)前記フッ素含有化合物が、パーフルオロポリエーテルからなる主鎖の少なくとも一方の末端側に[-Si(OR)3](但し、3つのRは、互いに同一又は異なって、水素又は炭素数1~10のアルキル基を示す。)で示される官能基(以下「官能基A」ともいう。)を含む化合物であり、
(2)前記金属酸化物系微粒子の単位表面積当たりのフッ素被覆量が0.1mg/m2~1.0g/m2である、
ことを特徴とする。
【0012】
本発明粒子の模式図を
図1(b)に示す。本発明粒子26は、金属酸化物系微粒子27をコア粒子として、その表面の一部又は全部がフッ素含有化合物(又はフッ素含有基)28で被覆された構造を有している。すなわち、フッ素含有化合物(又はフッ素含有基)28を含む被覆層がコア粒子表面に形成されている。フッ素含有化合物としては、パーフルオロポリエーテルを主鎖とするポリマー(特に直鎖状ポリマー)を好適に使用することができる。本発明では、フッ素含有化合物28が反応することなく(すなわち、官能基Aを保持したまま)、金属酸化物系微粒子表面上に存在していても良いが、特に官能基Aが金属酸化物系微粒子の表面にある酸化皮膜の水酸基又他の官能基(特にNH
2基等の親水基)と化学的な結合(例えば水素結合、シロキサン結合等の化学結合)を形成した結果として、フッ素含有基(フッ素含有有機基)として存在していることが好ましい。フッ素含有基という形態で金属酸化物系微粒子と化学的に結合することによって、フッ素含有化合物がフッ素含有基としてよりいっそう強固に金属酸化物系微粒子表面に固定することが可能となる。
【0013】
金属酸化物系微粒子
金属酸化物系微粒子は、金属酸化物単独からなる粒子のほか、金属酸化物と他の成分とを含む粒子であっても良い。金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば遷移金属(Fe、Ni、Co、Ti、Zr等)の酸化物、遷移金属以外の金属(Al、Ga等)の酸化物、アルカリ土類金属(Ca、Mg等)の酸化物のほか、いわゆる半金属(ケイ素等)の酸化物を好適に用いることができる。酸化物としては、1種の金属元素を含む酸化物のほか、2種以上の金属元素を含む複合酸化物(混合酸化物)も包含される。本発明では、金属酸化物系微粒子は、金属酸化物を50質量%以上含む微粒子が好ましく、特に金属酸化物を99質量%以上含む微粒子であることが好ましい。なお、金属酸化物系微粒子は、ケイ素は、含んでいても良いし、含まれていなくても良い。従って、例えばケイ素を含まない金属酸化物系微粒子も用いることができる。
【0014】
金属酸化物系微粒子が他の成分を含む場合、当該他の成分としては、例えば水和水、水酸化物等の不可避不純物のほか、例えばナトリウム(Na)カリウム(K)等のアルカリ金属元素、炭酸、リン酸、硫酸、ホウ酸等の多塩基酸の不溶性塩等が挙げられる。
【0015】
金属酸化物系微粒子は、金属酸化物系微粒子(例えば疎水性微粒子)を表面処理することにより親水化したものであっても良い。従って、その表面処理によって付与される化合物(又は官能基)及び/又はその被膜が当該粒子中に含まれていても良い。従って、本発明では、金属酸化物系微粒子として、疎水性金属酸化物系微粒子、親水性金属酸化物系微粒子又はその混合物を用いることができる。
【0016】
本発明では、金属酸化物系微粒子として、その表面に水酸基を有する親水性金属酸化物系微粒子を好適に用いることができる。金属酸化物系微粒子の表面にOH基を備えることにより、官能基Aが金属酸化物系微粒子表面のOH基と脱水縮合反応により化学結合(例えば[-Si-O-M](但し、Mは金属酸化物系微粒子に含まれる金属種))を形成し、金属酸化物系微粒子表面にフッ素含有化合物を強固に固定させることができる。
【0017】
また、疎水性金属酸化物系微粒子等を用いる場合であっても、疎水性金属酸化物系微粒子に予め親水性処理を施して金属酸化物系微粒子表面に水酸基等を付与することによって、親水性金属酸化物系微粒子を用いる場合と同様、フッ素含有化合物を金属酸化物系微粒子表面に固定することが可能となる。
【0018】
金属酸化物系微粒子の平均一次粒径は、限定的ではないが、通常3~500nmであり、特に10~300nmであることが望ましい。かかる粒子径の範囲内に設定することによって、より優れた撥水性及び撥油性を得ることができる。
【0019】
なお、本発明において、粒子の平均一次粒径の測定は、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡を用いて実施することができる。より具体的には、平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡で撮影し、その写真上で200個以上の粒子の直径を測定し、その算術平均値を算出することによって求めることができる。
【0020】
金属酸化物系微粒子の比表面積は、特に限定されないが、通常は400m2/g以下であることが好ましく、特に10~380m2/gであることが好ましい。比表面積が400m2/gを超えると、後述するフッ素含有化合物及び/又はフッ素含有基を均一に被覆することが困難になり、歩留まりが低下するおそれがある。なお、比表面積は、Macsorb(マウンテック製)を用いてBET1点法により求めることができる。吸着ガスは、窒素30体積%・ヘリウム70体積%のガスを用い、試料の前処理として100℃で10分間、吸着ガスの流通を行った後、試料が入ったセルを液体窒素で冷却し、吸着完了後室温まで昇温し、脱離した窒素量から試料の表面積を求め、試料の質量で除して比表面積を求めることができる。
【0021】
金属酸化物系微粒子の形状は、粒子状(粉末状)であれば特に限定されず、例えば球状、棒状、針状、板状、不定形状、鱗片状、紡錘状等の任意の形状を採用することができる。特に、金属酸化物系微粒子は、水又は油との接触面積を最小化するために真球に近い球状(略球状)であることが好ましい。
【0022】
これらの金属酸化物系微粒子そのものは、公知又は市販のものを使用することができる。また、公知の製造方法によって合成することも可能である。従って、例えば高温燃焼噴霧により作製される金属酸化物系微粒子、ゾルゲル法により作製される金属酸化物系微粒子等も好適に用いることができる。市販品としては、例えば製品名「TECNAPOW-FE2O3」(「TECNAPOW」は登録商標。以下同じ)、「TECNAPOW-CEO2」、「TECNAPOW-AL2O3」、「TECNAPOW-TIO2」、「TECNAPOW-ZNO」、「TECNAPOW-ZRO2」(以上、TECNAN社製)のほか、「AEROXIDE AluC」「AEROXIDE P25」(日本アエロジル(株))等が挙げられる。微粒子としてシリカ微粒子も挙げられるが、上記の金属酸化物は、シリカ微粒子と比較して、例えば次のような特性を有するという点で有利である。「TECNAPOW-FE2O3」は磁性を有する。「TECNAPOW-AL2O3」、「TECNAPOW-TIO2」「AEROXIDE AluC」「AEROXIDE P25」は耐アルカリ性等を有しており、耐薬品性に優れる。「TECNAPOW-ZRO2」は高い硬度を発揮できる。
【0023】
フッ素含有化合物
金属酸化物系微粒子の表面に存在するフッ素含有化合物は、パーフルオロポリエーテルからなる主鎖の少なくとも一方の末端側に[-Si(OR)3](但し、Rは、互いに同一又は異なって、水素又は炭素数1~10のアルキル基を示す。)で示される官能基を含む化合物である。このような化合物自体は、公知又は市販のものを使用することができる。また、公知の製造方法により調製されたものを使用することもできる。
【0024】
本発明では、上記のようにパーフルオロポリエーテルを主鎖とするポリマーを用いることができる。このようなパーフルオロポリエーテルを主鎖とするポリマーを用いることで、環境汚染が懸念されるC8フルオロテロマー(C8テロマー)様の構造を含むことなく、C8相当以上の鎖長を確保できるため、高い撥水性及び撥油性を得ることができる。
【0025】
本発明で用いられるフッ素含有化合物として、より具体的には下記一般式(1):
X-CF2-O-(CnF2nO)m-CF2-X ・・・(1)
で示される化合物を好適に用いることができる。
【0026】
上記一般式におけるXは、アルコキシシラン官能基[-Si(OR)3]を含む末端部分であり、官能基Aを有するパーフルオロポリエーテルをパーフルオロポリエーテルシランと呼称することもできる。
【0027】
また、上記一般式におけるn及びmは、それぞれが独立した自然数であり、その値は特に限定されない。特に、nは、1以上7以下であることが好ましい。mは、7以上100以下であることが好ましい。このような範囲内に設定することにより、金属酸化物系微粒子の表面に上記フッ素含有化合物が被覆された微粒子が、高い撥水性及び撥油性を発現することができる。
【0028】
フッ素含有化合物における官能基Aは、上記のように、[-Si(OR)3](但し、3つのRは、互いに同一又は異なって、水素又は炭素数1~10のアルキル基を示す。)で表される官能基である。
【0029】
特に、Rがアルキル基である場合は、炭素数1~10のアルキル基(特に直鎖状アルキル基)であることが好ましく、特に炭素数1~4のアルキル基であることがより好ましい。このようなアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
【0030】
また、官能基Aの3つのRの全てが異なっていても良いし、一部又は全部が同一であっても良い。官能基中の3つのOR基の少なくとも1つが金属酸化物系微粒子の水酸基と結合していると、フッ素含有基となって金属酸化物系微粒子と強固に結びつくことができる。さらに好ましくは、上記官能基の2つ又は3つ全てのOR基が金属酸化物系微粒子に結合していると、さらに強く固定化できる。
【0031】
特に、上記一般式におけるXは、官能基Aを含んでいれば良い。従って、すべてのXが官能基Aであっても良いし、本発明の効果を妨げない範囲内でXの一部が他の官能基であっても良い。
【0032】
さらに、官能基Aは、パーフルオロポリエーテルからなる主鎖[-CF2-O-(CF2O)p-(CF2CF2O)q-CF2-]に直接結合していても良いし、リンカー部を介して結合していても良い。リンカー部は、特に上述のパーフルオロポリエーテルの一般式におけるCF2と官能基Aとを連結するものである。このようなリンカー部としては、特に限定されず、例えばオキシアルキレン基[-O-R1-O-](R1はアルキレン基を示す。)、エーテル結合[-O-]、エステル結合[-C(=O)O-]、アミド結合[-CONH-]、ウレタン結合[-COHN-O-]等が挙げられる。
【0033】
本発明では、特に合成が容易であること等の理由から、リンカー部はアミド結合(-CONH-)を含むことが好ましい。さらには、リンカー部として-C(=O)NH-(CH2)k-を含むことがより好ましい。上述のパーフルオロポリエーテルの一般式におけるXとしては、例えば-C(=O)NH-(CH2)k-Si(OR)3であることが好ましい。
【0034】
従って、好適なパーフルオロポリエーテルを主鎖とするポリマーとしては、下記一般式(2):
(RO)3Si-(CH2)k-NHC(=O)-CF2-O-(CF2O)p-(CF2CF2O)q-CF2-C(=O)NH-(CH2)k-Si(OR)3・・・(2)
で示されるフッ素含有化合物が挙げられる。ここで、k、p及びqはそれぞれ独立した自然数である。kの値は1~6であることが好ましく、特に2~3であることがより好ましい。kの値が6を超えると、フッ素含有化合物を金属酸化物系微粒子表面へ被覆しにくくなる。また、p及びqは合計が7以上となる0以上の整数を示す。従って、例えばp+qが10~20であるものも採用できる。pとqの和は、一般式X-CF2-O-(CnF2nO)m-CF2-Xにおけるmに相当する。また、(CF2O)及び(CF2CF2O)は、前記一般式においてそれぞれn=1及びn=2としたものである。
【0035】
従って、上記の一般式(2)は、金属酸化物系微粒子表面と化学結合を形成している場合は、フッ素含有基として、例えば-O-Si(OR)2-(CH2)k-NHC(=O)-CF2-O-(CF2O)p-(CF2CF2O)q-CF2-C(=O)NH-(CH2)k-Si(OR)3(但し、Rは互いに同一又は異なって炭素数1~4のアルキル基を示し、p及びqは合計が7以上となる0以上の整数を示し、kは1~5の整数を示す。)で示されるフッ素含有基を含むかたちとなり得る。
【0036】
フッ素含有化合物であるパーフルオロポリエーテルを主鎖とするポリマーの分子量は特に限定されない。例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー法で測定した数平均分子量が500~5000が好ましく、特に1000~3000がより好ましく、その中でも1200~2500が最も好ましい。前記数平均分子量が5000を超えると、当該ポリマーを水溶性有機溶剤に溶解させることが困難になるおそれがある。当該ポリマーが水溶性の有機溶剤に溶解できないと、例えば官能基AのRがアルキル基の場合にはOR基をOH基に置換する加水分解反応が進みづらくなる。OR基をOH基に置換できないと、後述するように官能基Aと金属酸化物系微粒子表面のOH基との化学結合の形成が進まず、金属酸化物系微粒子表面に当該ポリマーを強固に結合させて被覆しにくくなる。また、いずれのOR基もOH基に置換できないと、複数の当該ポリマーを官能基Aどうしで脱水縮合反応が起こりにくくなる結果、ポリマーが長鎖化しにくくなるために撥水性及び撥油性が低下するおそれがある。
【0037】
被覆層(フッ素含有化合物)の付与量(被覆量)は、通常は金属酸化物系微粒子の単位表面積当たりのフッ素含有量で0.1mg/m2以上1.0g/m2以下とし、好ましくは1.0mg/m2以上2.0mg/m2以下とする。0.1mg/m2未満では、撥水性及び撥油性が不十分となることがある。また、1.0g/m2を超えると、処理コストが高くなる。
【0038】
上記フッ素含有量は、本発明粒子の単位質量当たりのフッ素含有量F(g/g)を金属酸化物系微粒子のBET比表面積S(m2/g)で割った値F/S(g/m2)である。ここで、上記フッ素含有量Fは、石英管燃焼分解-イオンクロマトグラフィー法により測定した値である。より具体的には、試料を900~1000℃に加熱した石英燃焼管内で燃焼させ、生成するガスを水蒸気蒸留で回収し、その回収液をイオンクロマトグラフにてフッ素イオンとして検出し、定量することにより、総フッ素含有量を求め、これを試料の質量で割ることにより算出することができる。
【0039】
2.フッ素含有複合粒子の製造方法
フッ素含有複合粒子の製造方法は特に限定されない。例えば、金属酸化物系微粒子に対して前記フッ素含有化合物を用い、公知のコーティング方法、造粒方法等に従ってフッ素含有化合物を含む被覆層を金属酸化物系微粒子表面に形成すれば良い。特に、金属酸化物系微粒子又はその分散液とフッ素含有化合物(又はその溶液)とを混合する工程(被覆工程)を含む製造方法によって本発明粒子を好適に調製することができる。
【0040】
金属酸化物系微粒子は、そのまま混合しても良いが、より高い分散性が得られるという点で分散液の形態で混合することが好ましい。すなわち、金属酸化物系微粒子が溶媒に分散した分散液を好適に用いることができる。
【0041】
この場合の溶媒としては、金属酸化物系微粒子が溶解ないしは変質しない限り、いずれの溶媒も使用することができる。例えば、水のほか、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン系溶剤、イソプロピルアルコール、変性エタノール等のアルコール系溶剤等の有機溶剤を使用することができる。特に、水、水溶性有機溶剤又はそれらの混合溶媒のいずれかを好適に用いることができる。特に、本発明では、1)水、2)水溶性有機溶剤又は3)水と水溶性有機溶剤との混合溶媒を好適に用いることができる。水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のように水と混和する溶剤を好適に用いることができる。
【0042】
分散液中における金属酸化物系微粒子の含有量は、分散液中における金属酸化物系微粒子の分散性等の見地より通常は1~50重量%程度の範囲内で設定すれば良いが、これに制限されない。
【0043】
また、分散液には、必要に応じて、pH調整剤を配合することもできる。pH調整剤としては、酢酸、塩酸等の酸、水酸化ナトリウム、アンモニア等の塩基を用いることができる。これらは加水分解反応の触媒としても機能し得る。
【0044】
フッ素含有化合物は、溶液の形態で用いることができる。この溶液は、フッ素含有化合物を溶媒に溶解させることにより調製することができる。また、フッ素含有化合物は、前記の分散液の溶媒に溶解させることで溶液とすることもできる。
【0045】
フッ素含有化合物としては、前記1.で示した化合物を好適に用いることができる。この場合、原料として用いるフッ素含有化合物として、官能基Aの3つのRのうちの少なくとも1つが水素(H)であるフッ素含有化合物を用いることがより好ましい。パーフルオロポリエーテルを主鎖とするポリマーの少なくとも一方の末端側の官能基にOH基が含まれることで、金属酸化物系微粒子表面のOH基と脱水縮合反応により化学結合を形成し、金属酸化物系微粒子表面に当該ポリマーを強固に結合させて被覆することが容易となる。さらに、当該ポリマーの末端部にOH基を有することで、水溶性の有機溶剤を用いずとも金属酸化物系微粒子表面の酸化物のOH基と脱水縮合反応により化学結合(すなわち、フッ素含有基)を形成することができる。
【0046】
また、原料として用いるフッ素含有化合物の官能基AのRの全てがアルキル基の場合であっても、被覆工程で水を存在させることによりOR基が加水分解反応でOH基に変換され、金属酸化物系微粒子表面のOH基と脱水縮合反応により化学結合を形成することができる。その結果、フッ素含有化合物をフッ素含有基として金属酸化物系微粒子表面に強く固定することができる。
【0047】
上記ポリマーは、片方の末端側に官能基Aを有しても良いが、両末端側に官能基Aを有していることがより好ましい。上記ポリマーの両末端側に官能基Aが結合することにより、一部のポリマーにおいては両末端が金属酸化物系微粒子に結合してより強固な状態となる。また一部のポリマーにおいては、一方の末端が金属酸化物系微粒子と結合し、他端が他のポリマーの末端と結合して長鎖化する。そのため、金属酸化物系微粒子表面に占めるパーフルオロポリエーテルの面積が増加する結果、より高い撥水性及び撥油性を発現することが可能となる。
【0048】
フッ素含有化合物を溶液として用いる際の溶媒としては、1)水、2)水溶性有機溶剤又は3)水と水溶性有機溶剤との混合溶媒を好適に用いることができる。水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のように水と混和する溶剤であれば特に制限されない。このように水系で反応させることにより、上記のようにより確実にシロキサン結合を形成させることが可能となる。この溶媒は、金属酸化物系微粒子の分散液の溶媒が1)水、2)水溶性有機溶剤又は3)水と水溶性有機溶剤との混合溶媒である場合は、それをフッ素含有化合物の溶解のためにも好適に利用できるので、フッ素含有化合物単体又はその溶液の形態のいずれでも当該分散液に混合することもできる。
【0049】
フッ素含有化合物を溶媒に溶解させる場合、フッ素含有化合物の含有量(濃度)は、一般的には0.1~80重量%程度の範囲内とすることができるが、これに限定されない。従って、例えば0.1~50重量%程度としたり、あるいは0.5~10重量%程度の範囲内に設定することもできる。
【0050】
金属酸化物系微粒子又はその分散液とフッ素含有化合物の溶液とを混合する場合、金属酸化物系微粒子と前記溶液との比率は、所望のフッ素含有化合物の被覆量に応じて適宜設定すれば良く、特に前記で示した被覆量となるように調整することが好ましい。
【0051】
また、本発明では、特に両者を混合した後、その混合液を攪拌する工程をさらに含むことが好ましい。混合液を攪拌することにより、官能基Aの一部又は全部が金属酸化物系微粒子表面の酸化皮膜の水酸基又はその金属酸化物系微粒子表面の官能基と十分に反応して化学結合を確実に形成させることが可能となる。
【0052】
攪拌条件は、溶液中の多くを占める溶媒の沸点以下であれば、特に限定的ではない。例えば、攪拌温度は、通常30~80℃程度とし、好ましくは40~70℃とすれば良い。また、攪拌時間は、通常は1~96時間程度とし、好ましくは6~84時間とすれば良い。攪拌は、市販の攪拌装置等を用いて攪拌することができる。
【0053】
攪拌が完了した後は、スラリーの形態で本発明粒子を得ることができる。このため、本発明粒子を所定の用途に用いる場合は、そのままスラリーの形態で使用することができる。また、前記スラリーに対して必要に応じて固液分離、洗浄等の処理を施した後、実質的に乾燥した粉末の形態で使用することもできる。前記粉末をさらに溶媒に分散させて得られた分散液の形態で使用することもできる。その他にも、前記スラリーを固液分離して得られたケーキを別の溶媒に分散させることによって得られた分散液の形態で使用することも可能である。
【0054】
3.フッ素含有複合粒子の使用
本発明粒子は、各種の物品に適用することにより、所望の撥水性及び/又は撥油性を付与することができる。本発明粒子は、粒子の形態であるため、様々な形態をとることができる。例えば、乾燥粉末、分散液(塗工液等)、成形体(塗膜等)等の形態をとり得る。
【0055】
特に、本発明では、本発明粒子を含む塗膜を物品表面に形成することにより、その表面に撥水性及び/又は撥油性を効果的に付与することができる。塗膜の形成方法は、特に限定されず、例えば本発明粒子及び溶媒を含む分散液(例えば前記のようなスラリー等)を物品表面に塗布し、乾燥する工程を含む方法を採用することができる。分散液における本発明粒子の濃度は、例えば1~80重量%程度の範囲内で設定できるが、これに限定されない。溶媒は、前記で示した溶媒と同様にものを使用できる。塗布方法も、特に限定されず、例えばローラー、スプレー、刷毛、ドクターブレード、バーコート等の公知の塗布方法を採用すれば良い。また、塗布後に乾燥する場合の温度も、特に限定されず、塗膜が形成される物品の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0056】
塗膜を形成する対象(すなわち、撥水性及び撥油性を付与する対象)となる物品は、特に限定されない。その材質としては、例えば金属、プラスチックス、セラミックス、ゴム、繊維質材料(紙、不織布、織物等)、これらの複合材料等のいずれでも良い。また、対象となる物品は、最終製品のほか、半製品、部品又はこれらの原材料のいずれであっても良い。
【0057】
物品の代表例としては、包装材料のほか、日用品(メガネ、雨具、鞄等)、建材(屋根、壁紙、床材、天井材、タイル、窓ガラス等)、食器、調理器具(鍋、ガスコンロの受け皿、油除けパネル、電磁調理器のトッププレート等)、台所用品、スポーツ用品、衣料品(帽子、靴、手袋、コート等)、構造物(建築物の壁、橋、塔等)、輸送機器(車、バイク、電車、船等のボディ外面)、化粧品、医薬品、玩具、鑑識用冶具等(あるいはこれらの製造のため)に幅広く適用することができる。
【0058】
本発明では、特に包装材料が好適である。包装材料においても、製品(完成品)及びその原材料との双方を包含する。例えば、容器の蓋をはじめ、成形容器、包み紙、トレー、チューブ、袋体(パウチ等)等を挙げることができる。また、包装材料を製造するための原材料としては、例えば基材及びヒートシール層を含む積層体(特に成形前の積層体)等を挙げることができる。すなわち、少なくとも本発明粒子による撥水・撥油性塗膜、ヒートシール層及び基材層を順に含む包装材料をその原材料として例示することができる。
【0059】
本発明粒子を含む塗膜を有する積層体の断面の模式図を
図1(a)に示す。
図1(a)に示すように、積層体1は基材10の表面に本発明粒子26が塗膜の形態で積層されている。さらに、本発明粒子26の断面の模式図を
図1(b)に示す。
図1(b)に示すように、フッ素含有化合物が被覆された金属酸化物系微粒子26は金属酸化物系微粒子27の表面をフッ素含有化合物28が被覆している。なお、
図1では構造をわかりやすく模式的に図示したものであり、各構成の大きさ、個数等は必ずしも実際の積層体を再現するものではない。
【実施例】
【0060】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0061】
実施例1
BET値が100m2/gのアルミナ微粒子2.4g(日本アエロジル社、AEROXIDE AluC、平均一次粒子径=13nm)をエタノール系溶剤(ゴードー社製GSアルコEP-7)67.4gに分散させた。次いで、これに酢酸0.32g及び純水8.0gを加え、ガラス棒で3分間攪拌し、分散液を調製した。
続いて、下記式(3)に示すパーフルオロポリエーテルシラン(p+qの平均は14であり、数平均分子量は2000、kは3、Rはエチル基を示す。)(製品名「フルオロリンクS10」ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン社製)0.96gを前記の分散液と混合し、ガラス棒で3分間攪拌した。
(RO)3Si-(CH2)k-NHC(=O)-CF2-O-(CF2O)p-(CF2CF2O)q-CF2-C(=O)NH-(CH2)k-Si(OR)3 ・・・(3)
このようにして得られた混合スラリーを60℃の条件下で1日間攪拌し、フッ素含有複合粒子(フッ素含有量F=1.1mg/m2)を含むコート液を得た。
次に、得られたコート液を用いて塗膜を形成した。得られたコート液の濃度が3.5~4.0wt%になるようにエタノール系溶剤(ゴードー社製GSアルコEP-7)でコート液を希釈した後、バーコーター#28を用いて市販のスライドガラス(松浪硝子工業製(MICRO SLIDE GLASS S9213))の表面に塗工した。その後、105℃のオーブン中で30分間加熱乾燥させてエタノールを主成分とする溶液を蒸発させた。このようにして、スライドガラス表面がフッ素含有複合粒子で被覆されたサンプルを作製した。
【0062】
実施例2
BET値が50m2/gのチタニア微粒子2.4g(日本アエロジル社、AEROXIDE P25、平均一次粒子径=21nm)を、エタノール系溶剤(ゴードー社製GSアルコEP-7)67.4gに分散させた。次いで、これに酢酸0.32g及び純水8.0gを加え、ガラス棒で3分間攪拌し、分散液を調製した。
続いて、下記式(3)に示すパーフルオロポリエーテルシラン(p+qの平均は14であり、数平均分子量は2000、kは3、Rはエチル基を示す。)(製品名「フルオロリンクS10」ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン社製)0.48gを前記の分散液と混合し、ガラス棒で3分間攪拌した。
(RO)3Si-(CH2)k-NHC(=O)-CF2-O-(CF2O)p-(CF2CF2O)q-CF2-C(=O)NH-(CH2)k-Si(OR)3 ・・・(3)
このようにして得られた混合スラリーを60℃の条件下で1日間攪拌し、フッ素含有複合粒子(フッ素含有量F=1.1mg/m2)を含むコート液を得た。得られたコート液を用いて、実施例1と同様にスライドガラス表面がフッ素含有複合粒子で被覆されたサンプルを作製した。
【0063】
実施例3
BET値が48m2/gの酸化鉄(III)(Fe2O3)微粒子2.4g(TECNAN社、TECNAPOW-FE2O3、平均一次粒子径=10~20nm)を、エタノール系溶剤(ゴードー社製GSアルコEP-7)67.4gに分散させた。次いで、これに酢酸0.32g及び純水8.0gを加え、ガラス棒で3分間攪拌し、分散液を調製した。
続いて、下記式(3)に示すパーフルオロポリエーテルシラン(p+qの平均は14であり、数平均分子量は2000、kは3、Rはエチル基を示す。)(製品名「フルオロリンクS10」ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン社製)0.46gを前記の分散液と混合し、ガラス棒で3分間攪拌した。
(RO)3Si-(CH2)k-NHC(=O)-CF2-O-(CF2O)p-(CF2CF2O)q-CF2-C(=O)NH-(CH2)k-Si(OR)3 ・・・(3)
このようにして得られた混合スラリーを60℃の条件下で1日間攪拌し、フッ素含複合粒子(フッ素含有量F=1.1mg/m2)を含むコート液を得た。得られたコート液を用いて、実施例1と同様にスライドガラス表面がフッ素含有複合粒子で被覆されたサンプルを作製した。
【0064】
実施例4
BET値が61m2/gの酸化ジルコニウム(ZrO2)微粒子2.4g (TECNAN社、TECNAPOW-ZRO2、平均一次粒子径=10-15nm)を、エタノール系溶剤(ゴードー社製GSアルコEP-7)67.4gに分散させた。次いで、これに酢酸2.1g及び純水8.0gを加え、ガラス棒で3分間攪拌し、分散液を調製した。
続いて、下記式(3)に示すパーフルオロポリエーテルシラン(p+qの平均は14であり、数平均分子量は2000、kは3、Rはエチル基を示す。)(製品名「フルオロリンクS10」ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン社製)0.58gを前記の分散液と混合し、ガラス棒で3分間攪拌した。
(RO)3Si-(CH2)k-NHC(=O)-CF2-O-(CF2O)p-(CF2CF2O)q-CF2-C(=O)NH-(CH2)k-Si(OR)3 ・・・(3)
このようにして得られた混合スラリーを60℃の条件下で1日間攪拌し、フッ素含有複合粒子(フッ素含有量F=1.1mg/m2)を含むコート液を得た。得られたコート液を用いて、実施例1と同様にスライドガラス表面がフッ素含有複合粒子で被覆されたサンプルを作製した。
【0065】
実施例5
BET値が200m2/gの親水性シリカ微粒子2.4g (日本アエロジル社、AEROSIL200、平均一次粒子径=12nm)を、エタノール系溶剤(ゴードー社製GSアルコEP-7)67.4gに分散させた。次いで、これに酢酸0.32g及び純水8.0gを加え、ガラス棒で3分間攪拌し、分散液を調製した。
続いて、下記式(3)に示すパーフルオロポリエーテルシラン(p+qの平均は14であり、数平均分子量は2000、kは3、Rはエチル基を示す。)(製品名「フルオロリンクS10」ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン社製)1.9gを前記の分散液と混合し、ガラス棒で3分間攪拌した。
(RO)3Si-(CH2)k-NHC(=O)-CF2-O-(CF2O)p-(CF2CF2O)q-CF2-C(=O)NH-(CH2)k-Si(OR)3 ・・・(3)
このようにして得られた混合スラリーを60℃の条件下で1日間攪拌し、フッ素含有複合粒子(フッ素含有量F=1.1mg/m2)を含むコート液を得た。得られたコート液を用いて、実施例1と同様にスライドガラス表面がフッ素含有複合粒子で被覆されたサンプルを作製した。
【0066】
比較例1
シリカ微粒子(製品名「AEROSIL200」日本アエロジル(株)製、BET比表面積:200m2/g、平均一次粒子径12nm)5gを反応槽に入れ、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら市販の表面処理剤500gをスプレーし、次いで200℃で30分間攪拌した後、冷却した。これによりフッ素含有複合粒子(フッ素含有量F=0.4mg/m2)を得た。
なお、前記の表面処理剤として、ポリフルオロオクチルメタクリレート、2-N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート及び2,2’-エチレンジオキシジエチルジメタクリレートのコポリマーの水分散液(固形分濃度:20重量%)を用いた。
この表面改質シリカ系微粒子をエタノール100mlに分散させてコート液を調製した。得られたコート液を用いて実施例1と同様にしてスライドガラス表面がフッ素含有複合粒子で被覆されたサンプルを作製した。
【0067】
比較例2
CF3(CF2)3(CH2)2OH(製品名「FA-4」ユニマテック(株)製)0.25gを30mlのメタノール中に加えて溶解させ、その溶液中にシリカゾル(製品名「メタノールシリカゾル;30重量%ナノシリカ含有」日産化学(株)製)1.67g及びテトラエトキシシラン(製品名「Dynasylan A」エボニックジャパン(株)製)0.25mlを加え、マグネチックスターラで攪拌しながら、25重量%アンモニア水0.25mlを加え、5時間反応を行った。 反応終了後、エバポレータを用いて減圧下でメタノール及びアンモニア水を除去し、得られた粉末を約20mlのメタノール中で一夜再分散させた。その翌日に遠沈管を用いて遠心分離し、上澄みを捨て、新たなメタノールを加え、リンス作業を行った。このリンス作業を3回行った後、遠沈管の口をアルミニウムホイルで覆い、70℃のオーブン中に一夜入れた。その翌日50℃の真空乾燥機に一夜入れて乾燥し、白色粉末を得た。含フッ素ナノシリカコンポジット粒子5.0gにエタノール系溶剤(ゴードー社製GSアルコEP-7)95.0gに分散させてコート液を調製した。得られたコート液を用いて実施例1と同様にしてサンプルを作製した。
【0068】
試験例1
各実施例及び比較例で得られたサンプルについて25℃における滑落角を測定した。その結果を表1に示す。
滑落角の測定法としては
図2に示す装置を用いた。
図2(a)に示すように、電動ラボジャッキ30(オートラボジャッキ ALJ200-H、アズワン社製)と、土台20を設置し、電動ラボジャッキ30と土台20に跨るように、30cm×70cm×3mmのガラス製の板36を載せ、さらに板36にはデジタル角度計38(デジタル角度計ミニ DPM-1、東栄工業社製)を載せた。このとき、デジタル角度計38の電源を入れ、板36が水平(傾き0°)となるように電動ラボジャッキ30の昇降高さを調整した。なお、板36が水平方向に動かないように市販のテープで板36の土台20と接する側の辺32と土台20とを固定した。一方で、板36の電動ラボジャッキ30によって支えられている側は固定しないこととした。
これにより、
図2(b)に示すように、電動ラボジャッキ30をジャッキアップした場合に、板36は電動ラボジャッキ30の上端部34と常に接しながら擦動して板36が傾斜する。土台20と固定した板36の一方の辺32と、電動ラボジャッキ30の上端部34との距離Yを50cmとした。
次いで、板36に実施例及び比較例で得られた積層体1をコート液が塗布され微粒子が積層した面を上にして設置した。積層体1の四隅に市販のテープを貼り、板36に固定した。
測定したい角度にジャッキアップして固定し、マイクロピペット(pipetman P20、GILSON社製)にマイクロピペットチップ40(アイビスピペットチップ、アイビス社製)を装着し、試料42を10μl量り取り、積層体1上に静かに滴下し、試料42の液滴が滑落又は転落するかを観察した。ここに、試料42としては、純水、オレイン酸(NAA-34、日油社製、含有量:脂肪酸として98質量%以上)及び食用のオリーブオイル(AJINOMOTO オリーブオイル)をそれぞれ用いた。固定した角度で転がらなければ、ジャッキアップして固定し、再度滴下して滑落又は転落するかを観察した。
各実施例及び比較例において、それぞれ試料毎に5回測定し、平均の滑落角を求めた。なお、板36を45度まで傾斜させても試料の一部又は全部が積層体1に付着したまま転がらなかったものは、45度でジャッキアップを止めた。
【0069】
【0070】
表1からも明らかなように、水の滑落角については実施例1~5及び比較例1ともに非常に小さい滑落角を示したが、オレイン酸とオリーブオイルの滑落角に至っては実施例1~5の方が比較例1よりも小さな滑落角を示した。また、ヘキサデカンでの滑落性においても、比較例1よりも、実施例1~5の方が高い撥油性を示した。このように、本発明のフッ素含有複合粒子は、オリーブオイル等のような特定の油成分のほか、オレイン酸等のような高級脂肪酸に対しても、加えてヘキサデカンのような飽和炭化水素に対しても、高い撥油性を発揮できることがわかる。