(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】音波伝搬シミュレーションシステム、および、音波伝搬シミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20220902BHJP
G10K 15/00 20060101ALI20220902BHJP
【FI】
G06F30/20
G10K15/00 Z
(21)【出願番号】P 2019014692
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】504238806
【氏名又は名称】国立大学法人北見工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】新甫 友昂
(72)【発明者】
【氏名】津久井 智也
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 真吾
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-208273(JP,A)
【文献】特開平05-189404(JP,A)
【文献】特開平11-327568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/398
G10K 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力装置と、
レイ軌跡の計算装置と、
レイ軌跡記録装置と、
レイ強度および到達時間の計算装置と、
レイ強度および到達時間の修正装置と、
インパルス応答の計算装置と、
インパルス応答記録装置と、を備え、
計算条件として、音場の境界の位置と、前記境界における境界条件と、音源位置、受信位置、および、前記境界の少なくとも一部に備える指定領域と、前記指定領域における部分境界条件を含む計算条件が設定された状態にて、
前記レイ軌跡の計算装置は、鏡像法または音線法により前記音源位置より前記受信位置に到達する複数のレイ軌跡を求める機能を備え、
前記レイ軌跡記録装置は、前記レイ軌跡の計算装置で求めた複数の前記レイ軌跡を記録する機能を備え、
前記レイ強度および到達時間の計算装置は、前記境界条件を用いて、前記音源位置で発するインパルス信号が、前記レイ軌跡記録装置に記録された個別の前記レイ軌跡を経て前記受信位置に到達するときの到達時間と振幅の計算結果を求める機能を備え、
前記レイ強度および到達時間の修正装置は、前記レイ軌跡記録装置に記録された複数の前記レイ軌跡のうち、反射位置が前記指定領域内にある前記レイ軌跡について、前記到達時間と前記振幅の前記計算結果を、前記部分境界条件を用いて修正した修正結果を求める機能を備え、
前記インパルス応答の計算装置は、前記レイ強度および到達時間の計算装置より受け取る前記計算結果を基に、且つ前記レイ強度および到達時間の修正装置より受け取る前記修正結果がある場合は該修正結果を優先して用いて、前記受信位置におけるインパルス応答を求める機能を備えたこと、
を特徴とする音波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項2】
電子計算機により、
計算条件として、音場の境界の位置と、前記境界における境界条件と、音源位置、受信位置、および、前記境界の少なくとも一部に備える指定領域と、前記指定領域における部分境界条件を含む計算条件が設定されるステップと、
鏡像法または音線法により前記音源位置より前記受信位置に到達する複数のレイ軌跡を求める処理を行うステップと、
求めた複数の前記レイ軌跡をレイ軌跡記録装置に記録するステップと、
前記境界条件を用いて、前記音源位置で発するインパルス信号が、前記レイ軌跡記録装置に記録された個別の前記レイ軌跡を経て前記受信位置に到達するときの到達時間と振幅の計算結果を求める処理を行うステップと、
前記レイ軌跡記録装置に記録された複数の前記レイ軌跡のうち、反射位置が前記指定領域内にある前記レイ軌跡について、前記到達時間と前記振幅の前記計算結果を、前記部分境界条件を用いて修正した修正結果を求める処理を行うステップと、
前記計算結果を基に、且つ前記修正結果がある場合は該修正結果を優先して用いて、前記受信位置におけるインパルス応答を求める処理を行うステップと、を実施すること
を特徴とする音波伝搬シミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音場における音波の伝搬の特性のシミュレーションを行う音波伝搬シミュレーションシステム、および、音波伝搬シミュレーション方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
或る音場(音響空間)にて、音源から発せられる音波が、受信位置でどのように受信されるかという音波の伝搬の特性を知るための音波伝搬シミュレーションの手法の一つとしては、インパルス応答を取得する手法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
この手法は、電子計算機を用いて、音場を囲む境界の位置、音源位置、受音点の位置である受信位置などの情報を基に、幾何音響理論に基づく音線法や、鏡像法(虚像法)により、音源から発せられた音波が直接波や反射波として受信位置に到達するときの音波の経路(以下、レイ軌跡という)を予測する。次に、電子計算機では、音源位置で発するインパルス信号が、それぞれのレイ軌跡を経由して受信位置に到達するときの応答を求め、更に、各レイに関する応答をまとめることで、インパルス応答を取得している。
【0004】
取得されたインパルス応答は、音源より送信される送信信号の畳み込み計算に用いることができ、その計算結果として、受信位置で受信される受信信号についてのデータを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鏡像法や音線法を用いてインパルス応答を取得する音波伝搬シミュレーションの手法は、従来は、音場を囲む各境界について、一つの境界には一つの境界条件が設定されていた。
【0007】
なお、実際の音場として、たとえば、音場が部屋の場合は、音場を囲む境界の一つとなる壁に、部分的な開口が設けられていたり、壁の一部に音波の反射率が異なる部材が取り付けられていたりする場合がある。
【0008】
また、実際の音場が、たとえば、水中で音響通信を行うような環境の場合は、音場を囲む境界の一つとなる海底に、岩盤と砂泥のような音波の反射率が異なる底質の部分が存在していることがある。
【0009】
しかし、このような音場を囲む境界における部分的な音波の反射率の変化は、従来の音波伝搬シミュレーションの手法では、取得されるインパルス応答の結果に反映されないというのが実状である。
【0010】
よって、従来の音波伝搬シミュレーションの手法は、音場を囲む各境界に、部分的に音波の反射率などの境界条件が変化する個所が存在する形式の音場については、音波伝搬シミュレーションの結果として得られるインパルス応答の精度が低い可能性がある。
【0011】
そこで、本発明は、音場を囲む境界に部分的に境界条件が異なる個所が存在している形式の音場について、音波伝搬シミュレーションの結果として取得するインパルス応答の精度の向上化を図ることができる音波伝搬シミュレーションシステム、および、音波伝搬シミュレーション方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記課題を解決するために、入力装置と、レイ軌跡の計算装置と、レイ軌跡記録装置と、レイ強度および到達時間の計算装置と、レイ強度および到達時間の修正装置と、インパルス応答の計算装置と、インパルス応答記録装置と、を備え、計算条件として、音場の境界の位置と、前記境界における境界条件と、音源位置、受信位置、および、前記境界の少なくとも一部に備える指定領域と、前記指定領域における部分境界条件を含む計算条件が設定された状態にて、前記レイ軌跡の計算装置は、鏡像法または音線法により前記音源位置より前記受信位置に到達する複数のレイ軌跡を求める機能を備え、前記レイ軌跡記録装置は、前記レイ軌跡の計算装置で求めた複数の前記レイ軌跡を記録する機能を備え、前記レイ強度および到達時間の計算装置は、前記境界条件を用いて、前記音源位置で発するインパルス信号が、前記レイ軌跡記録装置に記録された個別の前記レイ軌跡を経て前記受信位置に到達するときの到達時間と振幅の計算結果を求める機能を備え、前記レイ強度および到達時間の修正装置は、前記レイ軌跡記録装置に記録された複数の前記レイ軌跡のうち、反射位置が前記指定領域内にある前記レイ軌跡について、前記到達時間と前記振幅の前記計算結果を、前記部分境界条件を用いて修正した修正結果を求める機能を備え、前記インパルス応答の計算装置は、前記レイ強度および到達時間の計算装置より受け取る前記計算結果を基に、且つ前記レイ強度および到達時間の修正装置より受け取る前記修正結果がある場合は該修正結果を優先して用いて、前記受信位置におけるインパルス応答を求める機能を備えた構成を有する音波伝搬シミュレーションシステムとする。
【0013】
また、電子計算機により、計算条件として、音場の境界の位置と、前記境界における境界条件と、音源位置、受信位置、および、前記境界の少なくとも一部に備える指定領域と、前記指定領域における部分境界条件を含む計算条件が設定されるステップと、鏡像法または音線法により前記音源位置より前記受信位置に到達する複数のレイ軌跡を求める処理を行うステップと、求めた複数の前記レイ軌跡をレイ軌跡記録装置に記録するステップと、前記境界条件を用いて、前記音源位置で発するインパルス信号が、前記レイ軌跡記録装置に記録された個別の前記レイ軌跡を経て前記受信位置に到達するときの到達時間と振幅の計算結果を求める処理を行うステップと、前記レイ軌跡記録装置に記録された複数の前記レイ軌跡のうち、反射位置が前記指定領域内にある前記レイ軌跡について、前記到達時間と前記振幅の前記計算結果を、前記部分境界条件を用いて修正した修正結果を求める処理を行うステップと、前記計算結果を基に、且つ前記修正結果がある場合は該修正結果を優先して用いて、前記受信位置におけるインパルス応答を求める処理を行うステップと、を実施する音波伝搬シミュレーション方法とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の音波伝搬シミュレーションシステム、および、音波伝搬シミュレーション方法によれば、音場を囲む境界に部分的に境界条件が異なる個所が存在している形式の音場について、音波伝搬シミュレーションの結果として取得するインパルス応答の精度の向上化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】音波伝搬シミュレーションシステムの第1実施形態を示す概略図である。
【
図3】鏡像音源位置計算装置で求める鏡像音源位置の概要を示す図である。
【
図4】
図1の音波伝搬シミュレーションシステムを用いて実施する音波伝搬シミュレーション方法を示すフロー図である。
【
図5】音波伝搬シミュレーションシステムの第2実施形態を示す図である。
【
図6】
図5の音波伝搬シミュレーションシステムを用いて実施する音波伝搬シミュレーション方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の音波伝搬シミュレーションシステムについて、図面を参照して説明する。
【0017】
[第1実施形態]
図1は、音波伝搬シミュレーションシステムの第1実施形態を示す概要図である。
図2は、入力装置で設定される音場の一例を示す概略図である。
図3は、鏡像音源位置計算装置で求める鏡像音源位置の概略を示す図である。
図4は、本実施形態の音波伝搬シミュレーションシステムを用いて実施する音波伝搬シミュレーション方法の手順を示すフロー図である。
【0018】
第1実施形態は、本開示の音波伝搬シミュレーションシステムを、レイ軌跡の情報の取得方法として鏡像法を採用する形式とする場合の例を示すものである。
【0019】
本実施形態の音波伝搬シミュレーションシステムは、
図1に符号1で示すもので、入力装置2と、鏡像音源位置の計算装置3と、レイ軌跡の計算装置4と、レイ軌跡記録装置5と、レイ強度および到達時間の計算装置6と、第1の判定装置7と、レイ強度および到達時間の修正装置8と、第2の判定装置9と、インパルス応答の計算装置10と、インパルス応答記録装置11と、を備えた構成とされている。
【0020】
なお、以下の説明では、本実施形態の音波伝搬シミュレーションシステム1は、単に、本実施形態のシミュレーションシステム1という。
【0021】
入力装置2は、図示しないオペレータが、インパルス応答のシミュレートに用いる計算条件を設定する装置である。入力装置2で設定される計算条件は、
図2に示すように、計算対象とする音場12を囲む各境界13a,13b,13c,13d,13e,13fの位置と、各境界13a,13b,13c,13d,13e,13fにおける境界条件と、音源位置14と、受信位置15と、音場12に存在している音の媒質の音速とを含む。
【0022】
本実施形態では、音場12の形状は、たとえば、
図2に示した如き直方体とされている。したがって、音場12の各境界13a,13b,13c,13d,13e,13fは、直方体を囲む四方の側面と、上面と下面になる。この各境界13a,13b,13c,13d,13e,13fの位置が設定されることで、音場12の形状と共に、音場12のサイズが定められる。
【0023】
なお、音場12の形状は、後述する鏡像音源位置14iを求める計算をより簡単にする、という点から考えると、直方体とすることが好ましい。しかし、一般に鏡像法が適用可能とされている形状であれば、音場12の形状は、直方体以外の形状であってもよいことは勿論である。
【0024】
各境界13a,13b,13c,13d,13e,13fの境界条件は、音波の反射率と、各境界13a,13b,13c,13d,13e,13fで反射する音波に生じる位相変化量と、を含む。
【0025】
音場12として部屋やホールを想定している場合は、各境界13a,13b,13c,13d,13e,13fには、四方の壁と天井と床の境界条件をそれぞれ設定すればよい。
【0026】
これに対し、たとえば、音場12で行われる音波の伝搬が、開けた海洋で行われる音響通信の音響信号の伝搬を想定している場合は、音場12の上側の境界13eには、海面の境界条件を設定し、音場12の下側の境界13fには、海底の境界条件を設定すればよい。また、音場12の四方の側面に対応する各境界13a,13b,13c,13dは、境界条件における反射率をゼロに設定すればよい。更に、港湾などで、音源位置14の側方に岸壁や防波堤などの音波を反射する物体が存在する場合は、音場12の四方の側面に対応する各境界13a,13b,13c,13dには、その音波を反射する物体の反射率を備えた境界条件を設定すればよい。
【0027】
また、入力装置2では、別の計算条件として、鏡像法で鏡像音源位置14iを求めるための音波の反射回数も設定される。すなわち、音源位置14から受信位置15に到達するまでに音波に生じる損失は、音源で発する音の強度を基に、音源位置14から受信位置15までの距離に応じた減衰、および、反射面による透過損失などを考慮した概算により推定することができる。したがって、この推定の結果を基に、音波の反射回数の設定値は、音源位置14から受信位置15に到達すると推定される音波の強度が設定された閾値以上となる範囲で、適宜設定される。
【0028】
ところで、本開示の音波伝搬シミュレーションシステムは、音場を囲む境界の少なくとも一部に、境界条件が異なる部分が存在する場合を適用対象とするものである。
【0029】
そこで、本実施形態では、一例として、音場12は、
図2に示すように、各境界13a,13b,13c,13d,13e,13fのうち、音場12の一つの側面に対応する境界13aに、指定領域16aが存在し、音場12の別の側面に対応する境界13cに、2つの指定領域16b,16cが存在する構成を備えるものとしてある。
【0030】
この場合、入力装置2では、更に別の計算条件として、境界13aにおける指定領域16aの位置と、指定領域16aにおける境界条件、および、境界13cにおける2つの指定領域16b,16cの位置と、指定領域16bにおける境界条件と、指定領域16cにおける境界条件が、それぞれ設定される。なお、指定領域16aにおける境界条件は、或る境界条件を備えた境界13aに対して部分的に変更された境界条件であり、指定領域16b,16cにおける境界条件は、それぞれ或る境界条件を備えた境界13cに対して部分的に変更された境界条件である。よって、各指定領域16a,16b,16cにおける境界条件は、以下、部分境界条件という。
【0031】
なお、図示しないが、音場12は、各境界13a,13b,13c,13d,13e,13fのうち、指定領域を備えるものが、1つのみでもよいし、3つ以上でもよいし、全部であってもよいことは勿論である。更に、指定領域は、位置を設定することができれば、形状、サイズは、図示した以外の任意の形状、サイズとしてよく、また、境界13a,13b,13c,13d,13e,13fごとの指定領域の数は、単数でもよいし、任意の複数であってもよいことは勿論である。
【0032】
入力装置2は、設定された各計算条件の情報を、次のように、それぞれ対応する装置へ送る。音場12を囲む各境界13a,13b,13c,13d,13e,13fの位置の情報は、計算装置3および計算装置4へ送られる。各境界13a,13b,13c,13d,13e,13fにおける境界条件の情報は、計算装置6へ送られる。音源位置14の情報は、計算装置3および計算装置4へ送られる。受信位置15の情報は、計算装置4へ送られる。音の媒質の音速の情報は、計算装置6へ送られる。音波の反射回数の情報は、計算装置3へ送られる。各指定領域16a,16b,16cの位置の情報は、第1の判定装置7へ送られる。各指定領域16a,16b,16cにおける各部分境界条件の情報は、修正装置8へ送られる。
【0033】
計算装置3は、入力装置2から受け取る音場12を囲む各境界13a,13b,13c,13d,13e,13fの位置の情報、音源位置14の情報、および、音波の反射回数の情報を基に、
図3に示すように、鏡像法で用いる鏡像音源位置14iを、幾何学的な計算により求める機能を備えている。
【0034】
なお、鏡像音源位置14iは、音場12を中心として、水平方向および上下方向に3次元的な配列で存在する。また、鏡像音源位置14iの数は、音波の反射回数の設定値に応じて定まる。
図3では、図示する便宜上、音場12を中心として水平方向に沿って配置される鏡像音源位置14iであって、反射回数が2回までの鏡像音源位置14iを示している。
【0035】
更に、計算装置3は、求めた鏡像音源位置14iの情報Aを、計算装置4へ送る機能を備えている。
【0036】
計算装置4は、入力装置2から受け取る音源位置14の情報と、受信位置15の情報とを基に、
図3に示すように、音源位置14から受信位置15に到達する直接波のレイ軌跡17を、音源位置14と受信位置15とを結ぶ直線として求める機能を備えている。
【0037】
また、計算装置4は、受信位置15の情報と、計算装置3から受け取る各鏡像音源位置14iの情報Aとを基に、各鏡像音源位置14iと受信位置15とを結ぶ直線を求め、この直線から、音源位置14から受信位置15に到達する反射波のレイ軌跡を求める機能を備えている。
【0038】
更に、計算装置4は、各鏡像音源位置14iと受信位置15とを結ぶ直線が、各境界13a,13b,13c,13dと各境界13e,13f(
図2参照)、および、それらの鏡像と交差する点を求めることで、反射波のレイ軌跡が経由する境界13a,13b,13c,13d,13e,13fと、その境界13a,13b,13c,13d,13e,13fにおける反射位置を、計算により求める機能を備えている。
【0039】
図3では、鏡像音源位置14iが12個所にあるため、反射波のレイ軌跡は、本来、12本示すことは可能であるが、図示する便宜上、代表として、3本の反射波のレイ軌跡18,19,20のみを示してある。レイ軌跡18は、音源位置14から、境界13aにおける反射位置21で1回反射して受信位置15に到達する反射波についてのレイ軌跡である。レイ軌跡19は、音源位置14から、境界13bにおける反射位置22で1回反射して受信位置15に到達する反射波についてのレイ軌跡である。レイ軌跡20は、音源位置14から、境界13cにおける反射位置23と、境界13dにおける反射位置24の順に2回反射して受信位置15に到達する反射波についてのレイ軌跡である。
【0040】
計算装置4は、求めた直接波のレイ軌跡17の情報と、各反射波のレイ軌跡18,19,20、および、反射位置21,22,23,24の情報とを含むレイ軌跡データBを、レイ軌跡記録装置5へ送る機能を備えている。
【0041】
レイ軌跡記録装置5は、計算装置4からレイ軌跡データBを受け取ると、レイ軌跡データBに含まれる各情報を記録する機能を備えている。
【0042】
計算装置6は、入力装置2から、各境界13a,13b,13c,13d,13e,13fにおける境界条件の情報、および、音の媒質の音速の情報を受け取る機能と、レイ軌跡データBが記録されたレイ軌跡記録装置5から、直接波のレイ軌跡17、各反射波のレイ軌跡18,19,20、および各反射波の反射位置21,22,23,24の情報を読み出す機能と、を備えている。
【0043】
更に、計算装置6は、前記のように取得した各情報を基に、音源位置14で発するインパルス信号が、それぞれのレイ軌跡17,18,19,20を経て受信位置15に到達するときの到達時間と、レイ強度である振幅とを、レイ軌跡17,18,19,20ごとに個別に求める機能を備えている。
【0044】
計算装置6は、レイ軌跡17,18,19,20ごとに求めた到達時間と振幅の計算結果Cを、修正装置8および計算装置10へ送る機能を備えている。
【0045】
第1の判定装置7は、入力装置2から、入力装置2で設定された各指定領域16a,16b,16cの位置の情報を受け取る機能と、反射位置判定機能と、を備えている。
【0046】
第1の判定装置7は、反射位置判定機能では、レイ軌跡の選択の処理と、選択されたレイ軌跡を対象とする反射位置特定処理と、反射位置の判定処理とを順に行う。
【0047】
第1の判定装置7によるレイ軌跡の選択の処理は、レイ軌跡記録装置5に記録された複数のレイ軌跡17,18,19,20のうちから、反射位置判定機能による処理が未処理状態の一つのレイ軌跡を、順次選択する処理である。この処理により、本実施形態では、レイ軌跡記録装置5に記録されている各レイ軌跡17,18,19,20のうちのいずれかが、一つずつ順に選択される。
【0048】
反射位置判定機能による処理の開始に伴い、レイ軌跡の選択の処理で一つずつ選択されたレイ軌跡17,18,19,20は、以下、選択中のレイ軌跡17,18,19,20という。
【0049】
第1の判定装置7による反射位置特定処理は、第1の判定装置7が、先ず、レイ軌跡記録装置5から、選択中のレイ軌跡17,18,19,20に関する情報を読み込み、次いで、読み込んだ情報を基に、選択中のレイ軌跡17,18,19,20の反射位置21,22,23,24が、音場12の、どの境界13a,13b,13c,13d,13e,13fの、どの位置にあるかを特定する処理である。したがって、この反射位置特定処理の際に第1の判定装置7がレイ軌跡記録装置5から読み込む情報は、少なくとも選択中のレイ軌跡17,18,19,20の反射位置21,22,23,24の情報を含んでいればよい。
【0050】
この反射位置特定処理によれば、たとえば、直接波のレイ軌跡17が選択中の場合は、反射位置がないことが確認される。また、レイ軌跡18が選択中の場合は、レイ軌跡18の境界13aにおける反射位置21が特定される。また、レイ軌跡19が選択中の場合は、レイ軌跡19の境界13bにおける反射位置22が特定される。更に、レイ軌跡20が選択中の場合は、レイ軌跡20の境界13cと境界13dにおける反射位置23と反射位置24が特定される。
【0051】
続いて行われる第1の判定装置7による反射位置の判定処理は、選択中で、且つ反射位置21,22,23,24が特定されたレイ軌跡18,19,20について、その反射位置21,22,23,24が、指定領域16a,16b,16c内にあるか否かを判定する処理である。
【0052】
この反射位置の判定処理によれば、レイ軌跡18が選択中の場合は、反射位置21が、境界13aにおける指定領域16a内にあると判定される。また、レイ軌跡20が選択中の場合は、反射位置23が、境界13cにおける指定領域16b内にあると判定される。
【0053】
このように、レイ軌跡18,20の反射位置21,23が指定領域16a,16b内にあると判定される場合は、第1の判定装置7は、その判定結果Dを、選択中のレイ軌跡18,20の情報と共に、修正装置8へ送る。
【0054】
これに対し、第1の判定装置7による反射位置の判定処理では、レイ軌跡19が選択中の場合は、境界13bにおける反射位置22は、いずれの指定領域16a,16b,16c内にはないと判断される。
【0055】
このように、レイ軌跡19の反射位置22が指定領域内にはないと判定される場合は、第1の判定装置7は、その判定結果Eを、選択中のレイ軌跡19の情報と共に、第2の判定装置9へ送る。
【0056】
また、第1の判定装置7は、直接波のレイ軌跡17が選択中の場合は、反射位置特定処理により、反射位置がないことが確認されるので、この場合も、レイ軌跡17の反射位置は指定領域内にはないという判定結果Eを、選択中のレイ軌跡17の情報と共に、第2の判定装置9へ送る機能を備えている。
【0057】
修正装置8は、入力装置2から、入力装置2で設定された各指定領域16a,16b,16cにおける部分境界条件の情報を受け取る機能と、計算装置6から計算結果Cを受け取る機能と、第1の判定装置7から、判定結果Dおよび選択中のレイ軌跡18,20の情報を受け取る機能と、を備えている。
【0058】
更に、修正装置8は、第1の判定装置7から判定結果Dを受け取ると、その判定結果Dが得られた時点で選択中のレイ軌跡18,20を対象として、計算装置6から受け取った到達時間と振幅の計算結果Cに対し、再計算による修正を行う機能を備えている。
【0059】
この修正装置8の再計算の機能は、以下の処理で実施される。
【0060】
修正装置8は、たとえば、第1の判定装置7から、反射位置21が指定領域16a内にあるという判定結果Dと、レイ軌跡18が選択中という情報を取得する。この場合、修正装置8は、レイ軌跡18について計算装置6から受け取った到達時間と振幅の計算結果Cを基に、反射位置21における反射率と位相変化量の条件を、境界13aの境界条件から、指定領域16aに設定された部分境界条件に変更して、再計算を行う。これにより、修正装置8では、レイ軌跡18について、指定領域16aの部分境界条件を反映した到達時間と、振幅の修正結果を得ることができる。
【0061】
また、修正装置8は、たとえば、第1の判定装置7から、反射位置23が指定領域16b内にあるという判定結果Dと、レイ軌跡20が選択中という情報を取得する。この場合、修正装置8は、レイ軌跡20について計算装置6から受け取った到達時間と振幅の計算結果Cを基に、レイ軌跡20の2つの反射位置23と反射位置24のうち、反射位置23における反射率と位相変化量の条件のみを、境界13cの境界条件から、指定領域16bに設定された部分境界条件に変更して、再計算を行う。これにより、修正装置8では、レイ軌跡20について、反射位置23は指定領域16bの部分境界条件を反映し、反射位置24は境界13dの境界条件を反映した到達時間と、振幅の修正結果を得ることができる。
【0062】
修正装置8は、前記した再計算の機能により、選択中のレイ軌跡18,20ごとに到達時間、振幅の修正結果Fを得ると、その修正結果Fを、選択中のレイ軌跡18,20の情報と共に、第2の判定装置9へ送る機能を備えている。
【0063】
第2の判定装置9は、第1の判定装置7から、判定結果Eを、選択中のレイ軌跡17,19の情報と共に受け取る機能と、修正装置8から、修正結果Fを、選択中のレイ軌跡18,20の情報と共に受け取る機能と、を備えている。
【0064】
更に、第2の判定装置9は、第1の判定装置7および修正装置8から、それぞれの処理が行われたときに選択中のレイ軌跡17,18,19,20の情報を受け取ると、その時点までに、レイ軌跡記録装置5に記録されている各レイ軌跡17,18,19,20のすべてが選択済みか否かを判定する判定処理を行う機能を備えている。
【0065】
第2の判定装置9は、判定処理の結果、レイ軌跡記録装置5に記録されている各レイ軌跡17,18,19,20に、未選択のものがあると判定した場合は、第1の判定装置7に対して、レイ軌跡記録装置5に記録されている各レイ軌跡17,18,19,20のうちの未選択の1つを、新たな処理対象に選択する更新指令Gを与える機能を備えている。
【0066】
これにより、レイ軌跡記録装置5に記録されている各レイ軌跡17,18,19,20に、第1の判定装置7の処理対象として未選択のものが残っている間は、処理対象となるレイ軌跡17,18,19,20が順次更新されながら、第1の判定装置7と、修正装置8と、第2の判定装置9による処理が、繰り返し実施される。
【0067】
一方、第2の判定装置9は、判定処理の結果、レイ軌跡記録装置5に記録されている各レイ軌跡17,18,19,20のすべてが、第1の判定装置7の処理対象として選択済みであると判定した場合は、計算装置10に、その判定結果Hを送る機能を備えている。
【0068】
計算装置10は、計算装置6から計算結果Cを受け取る機能と、第2の判定装置9から、判定結果Hを受け取る機能と、修正装置8によるレイ軌跡18,20についての到達時間と、振幅の修正結果Fを、第2の判定装置9を介して受け取る機能と、を備えている。
【0069】
更に、計算装置10は、第2の判定装置9から判定結果Hを受け取った場合は、計算装置6より受け取ったレイ軌跡17,18,19,20ごとに求めた到達時間と、振幅の計算結果Cと、修正装置8によるレイ軌跡18,20についての到達時間と、振幅の修正結果Fとを基にして、且つ、或るレイ軌跡18,20についての計算結果Cと修正結果Fが共にある場合は修正結果Fを優先して用いて、受信位置15におけるインパルス応答Iを求める機能を備えている。
【0070】
計算装置10は、インパルス応答Iが求まると、そのインパルス応答Iのデータを、インパルス応答記録装置11へ送る機能を、更に備えている。
【0071】
インパルス応答記録装置11は、計算装置10よりインパルス応答Iのデータを受け取ると、そのインパルス応答Iを、たとえば、入力装置2で設定された計算条件ごとに個別に識別可能な状態で保存する機能を備えている。
【0072】
なお、入力装置2、計算装置3、計算装置4、レイ軌跡記録装置5、計算装置6、第1の判定装置7、修正装置8、第2の判定装置9、計算装置10、インパルス応答記録装置11は、全部が一つの電子計算機に機能として実装されていてもよいし、あるいは、任意の数ずつ、任意の組み合わせで、複数の電子計算機に分散して実装されていてもよい。
【0073】
また、修正装置8は、修正結果Fを、第2の判定装置9を介さずに計算装置10へ直接送る機能を備えていてもよい。
【0074】
以上の構成としてある本実施形態のシミュレーションシステム1は、
図4に示す如き処理手順で、音波伝搬シミュレーション方法の実施に使用する。
【0075】
音波伝搬シミュレーション方法を開始する場合は、図示しないオペレータが、入力装置2を用いて、インパルス応答のシミュレートに用いる各種の計算条件を設定する(ステップSA1)。
【0076】
更に、オペレータは、入力装置2を用いて、指定領域16a,16b,16cの位置と、それぞれ対応する部分境界条件を設定する(ステップSA2)。
【0077】
このように、入力装置2を用いた設定が行われると、本実施形態のシミュレーションシステム1では、先ず、計算装置3が、ステップSA1で設定された計算条件を基に、鏡像音源位置14iを求める処理を行う(ステップSA3)。
【0078】
次に、計算装置4が、ステップSA1で設定された計算条件と、ステップSA3で求められた鏡像音源位置14iの情報とを用いて、音源位置14から受信位置15に到達する直接波および反射波の各レイ軌跡17,18,19,20を求める処理を行う(ステップSA4)。
【0079】
次いで、レイ軌跡記録装置5が、ステップSA4で求められた各レイ軌跡17,18,19,20、および、反射位置21,22,23,24の情報を記録する処理を行う(ステップSA5)。
【0080】
このように、レイ軌跡記録装置5に各レイ軌跡17,18,19,20の情報が記録されると、本実施形態のシミュレーションシステム1は、計算装置6にて、レイ軌跡記録装置5に記録されたレイ軌跡17,18,19,20ごとに、音源位置14で発するインパルス信号が、それぞれのレイ軌跡17,18,19,20を経て受信位置15に到達するときの到達時間と、振幅を計算して求める(ステップSA6)。
【0081】
次に、本実施形態のシミュレーションシステム1は、第1の判定装置7により、レイ軌跡の選択の処理として、レイ軌跡記録装置5に記録された複数のレイ軌跡17,18,19,20のうち、未処理状態の一つのレイ軌跡17,18,19,20を選択する処理を行う(ステップSA7)。
【0082】
このように、ステップSA7で一つのレイ軌跡17,18,19,20が選択されると、第1の判定装置7は、レイ軌跡記録装置5から、選択中のレイ軌跡17,18,19,20の情報を読み込んで、この選択中のレイ軌跡17,18,19,20の反射位置21,22,23,24を特定する反射位置特定処理を行う(ステップSA8)。
【0083】
次いで、第1の判定装置7は、選択中の各レイ軌跡18,19,20について、ステップSA8で特定された反射位置21,22,23,24が、指定領域16a,16b,16c内か、否かを判定する判定処理を行う(ステップSA9)。
【0084】
ステップSA9の判定処理により、反射位置21,23が、指定領域16a,16b内であると判定されると、本実施形態のシミュレーションシステム1は、ステップSA10に進む。
【0085】
ステップSA10では、修正装置8が、選択中のレイ軌跡18,20について、計算装置6から受け取った到達時間と振幅の計算結果Cを基に、反射位置21,23における反射率と位相変化量の条件を用いて再計算を行い、選択中のレイ軌跡18,20について、指定領域16a,16bの部分境界条件を反映した到達時間と、振幅の修正結果Fを求める処理を行う。
【0086】
本実施形態のシミュレーションシステム1は、ステップSA10の後はステップSA11へ進む。
【0087】
また、本実施形態のシミュレーションシステム1は、前記したステップSA9の判定処理により、反射位置が、指定領域16a,16b,16c内にないと判定される場合もステップSA11に進む。
【0088】
ステップSA11では、第2の判定装置9が、レイ軌跡記録装置5に記録されている各レイ軌跡17,18,19,20のすべてが選択済みであるか否かを判定する判定処理を行う。
【0089】
ステップSA11の判定処理により、レイ軌跡記録装置5に記録されている各レイ軌跡17,18,19,20のすべてが選択済みではないと判定される場合は、本実施形態のシミュレーションシステム1は、ステップSA12にて、選択中のレイ軌跡17,18,19,20を、未選択の新たなレイ軌跡17,18,19,20に更新してから、ステップSA8へ戻る処理を行う。
【0090】
これにより、本実施形態のシミュレーションシステム1は、レイ軌跡記録装置5に記録された全てのレイ軌跡17,18,19,20が選択済みとなるまで、ステップSA8からステップSA11までと、ステップSA12を含む処理ループが繰り返し実施される。
【0091】
その後、ステップSA11の判定処理により、レイ軌跡記録装置5に記録されている各レイ軌跡17,18,19,20のすべてが選択済みと判定されるようになると、本実施形態のシミュレーションシステム1は、ステップSA13に進む。
【0092】
ステップSA13では、計算装置10が、レイ軌跡17,18,19,20ごとに求められた到達時間と振幅の計算結果Cを基に、更に修正装置8による到達時間と振幅の修正結果Fがある場合は修正結果Fを優先して用いて、受信位置15におけるインパルス応答Iを求める処理を行う。
【0093】
その後、本実施形態のシミュレーションシステム1は、求めたインパルス応答Iのデータを、インパルス応答記録装置11に保存する処理を行う(ステップSA14)。
【0094】
このように、本実施形態のシミュレーションシステム1によれば、前記したステップSA1からステップSA14を備える音波伝搬シミュレーション方法を実施することができる。
【0095】
これにより、本実施形態のシミュレーションシステム1は、音場12を囲む境界13a,13b,13c,13d,13e,13fに、部分的に異なる境界条件を備えた指定領域16a,16b,16cが存在している形式の音場12について、指定領域16a,16bに反射位置21,23がある反射波のレイ軌跡18,20を経る応答としては、その指定領域16a,16bにおける部分境界条件を反映した応答を求めることができる。
【0096】
よって、本実施形態のシミュレーションシステム1と、これを用いて行う音波伝搬シミュレーション方法によれば、音場12を囲む境界13a,13b,13c,13d,13e,13fに、部分的に境界条件が異なる指定領域16a,16b,16cが存在する形式の音場12について、音波伝搬シミュレーションの結果として取得するインパルス応答Iの精度の向上化を図ることができる。
【0097】
また、本実施形態のシミュレーションシステム1は、インパルス応答記録装置11に、求めたインパルス応答Iのデータを保存している。そのため、インパルス応答記録装置11から読み出すインパルス応答Iは、音源位置14から発信される発信信号の畳み込み計算に用いて、受信位置15における受信信号のシミュレーションに用いることができる。
【0098】
更に、本実施形態のシミュレーションシステム1は、指定領域16a,16bに反射位置があるレイ軌跡18,20を経る応答については、指定領域16a,16bに設定する部分境界条件を変更することで、変更後の部分境界条件を反映した応答を、容易に求めることができる。
【0099】
そのため、本実施形態のシミュレーションシステム1は、指定領域16a,16bに存在する物が、音波の反射率や、反射する音波に生じる位相変化量が異なる別の物に変化する場合や、指定領域16a,16bに孔や開口部が設けられるなどして、指定領域16a,16b自体の部分境界条件に変化が生じる場合に、変化後の部分境界条件を反映したインパルス応答Iを容易に求めることができる。
【0100】
[第2実施形態]
前記第1実施形態では、音源位置から受信位置に到達するレイ軌跡の取得を、鏡像法で実施する場合の構成について示した。これに対し、本開示の音波伝搬シミュレーションシステムは、音源位置から受信位置に到達するレイ軌跡の取得を、音線法により実施するようにしてもよい。この場合の装置構成は、以下の第2実施形態のようにすればよい。
【0101】
図5は、音波伝搬シミュレーションシステムの第2実施形態を示す概要図である。
図6は、本実施形態の音波伝搬シミュレーションシステムを用いて実施する音波伝搬シミュレーション方法の手順を示すフロー図である。
【0102】
なお、
図5および
図6において、第1実施形態と同一のものには同一符号を付して、その説明を省略する。
【0103】
本実施形態の音波伝搬シミュレーションシステムは、
図5に符号1aで示すもので、第1実施形態の音波伝搬シミュレーションシステム1と同様の構成において、鏡像音源位置の計算装置3と、鏡像音源位置の情報を基にレイ軌跡を求めるレイ軌跡の計算装置4に代えて、音線射出方向の計算装置25と、計算装置25より取得する音線射出方向の情報を基にレイ軌跡を求めるレイ軌跡の計算装置26と、を備える構成としたものである。
【0104】
なお、本実施形態では、音場12は、一例として、
図2に示した音場12と同様とする。音線法を実施するために、入力装置2では、音源位置14から射出される音線の数、角度、間隔など、従来の音線法を実施する際に必要とされる条件と同様の音線法計算条件が設定される。更に、入力装置2では、受信位置15が、ある大きさの領域として設定される。
【0105】
計算装置25は、入力装置2から受け取る音場12を囲む各境界13a,13b,13c,13d,13e,13fの位置の情報、音源位置14の情報、音線法計算条件を基に、音源位置14より音線を射出する方向を計算する機能を備えている。
【0106】
更に、計算装置25は、求めた音線射出方向の情報Jを、計算装置26へ送る機能を備えている。
【0107】
計算装置26は、入力装置2から受け取る音源位置14の情報と、音場12を囲む各境界13a,13b,13c,13d,13e,13fの位置の情報と、受信位置15の情報とを基に、音源位置14から射出された後、受信位置15に直接到達する
図2に示したと同様の直接波のレイ軌跡17を求める機能を備えている。更に、計算装置26は、音源位置14から射出された後、境界13a,13b,13c,13d,13e,13fで、入力装置2で設定された反射回数で反射して受信位置15に到達する反射波のレイ軌跡を特定して求める機能を備えている。
【0108】
これにより、計算装置26は、第1実施形態における計算装置4と同様に、たとえば、
図2に示したレイ軌跡18,19,20で代表される反射波のレイ軌跡と、反射位置21,22,23,24と、を求めることができる。
【0109】
計算装置26は、求めた直接波のレイ軌跡17の情報と、各反射波のレイ軌跡18,19,20、および、反射位置21,22,23,24の情報とを含むレイ軌跡データBを、レイ軌跡記録装置5へ送る機能を備えており、この点は、第1実施形態における計算装置4と同様である。
【0110】
以上の構成としてある本実施形態のシミュレーションシステム1aを使用する場合は、
図6に示すように、
図4に示した音波伝搬シミュレーション方法と同様の手順において、ステップSA3と、ステップSA4に代えて、計算装置25による、音源位置14より音線を射出する方向を計算する処理(ステップSA15)と、計算装置26による、音源位置14から受信位置15に到達する直接波および反射波の各レイ軌跡17,18,19,20を求める処理を行う(ステップSA16)。
【0111】
これにより、本実施形態のシミュレーションシステム1aは、第1実施形態のシミュレーションシステム1と同様に使用して、同様の効果を得ることができる。
【0112】
なお、本開示の音波伝搬シミュレーションシステム、および、音波伝搬シミュレーション方法は、前記各実施形態にのみ限定されるものではない。
【0113】
音源位置から受信位置に到達するレイ軌跡の取得は、鏡像法または音線法として、従来実施されているか、または、従来提案されているいかなる手法を採用してもよい。
【0114】
本開示の音波伝搬シミュレーションシステムは、空中や水中における音波や超音波の伝搬により、信号や情報の伝送、伝達を行う技術分野であれば、いかなる技術分野に適用してもよい。
【0115】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【0116】
なお、各実施形態のシミュレーションシステム1,1aを応用する例としては、たとえば、追加機能として、
図4、
図6に示した音波伝搬シミュレーション方法を実施する際、ステップSA2における指定領域と部分境界条件の設定の処理を省略可能とする機能を備えてもよい。この場合は、ステップSA1に続いてステップSA3の処理が開始されるので、ステップSA13で求まるインパルス応答Iは、音場12を囲む各境界13a,13b,13c,13d,13e,13fの境界条件のみを反映したものとなる。よって、前記追加機能を備える場合は、一つの装置構成で、本開示の音波伝搬シミュレーション方法と、従来の音波伝搬シミュレーションの手法とを、切り替えて実施することが可能になる。また、前記追加機能を備える場合は、たとえば、ステップSA6とステップSA7との間に、設定された指定領域があるか否かを判定する判定処理のステップを追加して、この判定処理で指定領域がないと判定される場合は、直ちにステップSA13のインパルス応答計算に進む処理を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0117】
2 入力装置、4 計算装置、5 レイ軌跡記録装置、6 計算装置、8 修正装置、10 計算装置、11 インパルス応答記録装置、12 音場、13a,13b,13c,13d,13e,13f 境界、14 音源位置、15 受信位置、16a,16b,16c 指定領域、17 レイ軌跡、18 レイ軌跡、19 レイ軌跡、20 レイ軌跡、21 反射位置、22 反射位置、23 反射位置、24 反射位置、25 計算装置、C 計算結果、F 修正結果、I インパルス応答