IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEミネラル株式会社の特許一覧

特許7134136使用済み鋳物砂の再生処理方法および再生処理用焙焼炉
<>
  • 特許-使用済み鋳物砂の再生処理方法および再生処理用焙焼炉 図1
  • 特許-使用済み鋳物砂の再生処理方法および再生処理用焙焼炉 図2
  • 特許-使用済み鋳物砂の再生処理方法および再生処理用焙焼炉 図3
  • 特許-使用済み鋳物砂の再生処理方法および再生処理用焙焼炉 図4
  • 特許-使用済み鋳物砂の再生処理方法および再生処理用焙焼炉 図5
  • 特許-使用済み鋳物砂の再生処理方法および再生処理用焙焼炉 図6
  • 特許-使用済み鋳物砂の再生処理方法および再生処理用焙焼炉 図7
  • 特許-使用済み鋳物砂の再生処理方法および再生処理用焙焼炉 図8
  • 特許-使用済み鋳物砂の再生処理方法および再生処理用焙焼炉 図9
  • 特許-使用済み鋳物砂の再生処理方法および再生処理用焙焼炉 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】使用済み鋳物砂の再生処理方法および再生処理用焙焼炉
(51)【国際特許分類】
   B22C 5/00 20060101AFI20220902BHJP
   B22C 1/00 20060101ALI20220902BHJP
   B22C 1/18 20060101ALI20220902BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20220902BHJP
【FI】
B22C5/00 A
B22C5/00 C
B22C1/00 B
B22C1/18 B
B09B5/00 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019097570
(22)【出願日】2019-05-24
(65)【公開番号】P2020192535
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】早津 岳宏
(72)【発明者】
【氏名】落合 正典
【審査官】向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-208081(JP,A)
【文献】特開2016-150368(JP,A)
【文献】特開2019-107676(JP,A)
【文献】特表2010-519042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 5/00
B22C 1/00
B09B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水ガラスが付着した使用済み鋳物砂を再生処理する方法であって、
焙焼炉(a)内で使用済み鋳物砂の流動層(x)を形成し、焙焼炉(a)内に放射されるバーナー火炎(f)を熱源として、流動層(x)を形成する使用済み鋳物砂を焙焼する焙焼工程を有し、
該焙焼工程では、バーナー火炎(f)を流動層(x)のうちの上部領域にのみ接触させ、バーナー火炎(f)が接触しない流動層(x)の下部領域のうちの、少なくとも一部の領域の温度を300~650℃とすることを特徴とする使用済み鋳物砂の再生処理方法。
【請求項2】
焙焼工程の前に、使用済み鋳物砂を乾式磨鉱する磨鉱工程を有することを特徴とする請求項1に記載の使用済み鋳物砂の再生処理方法。
【請求項3】
磨鉱工程の前に、塊状物を含む使用済み鋳物砂を粉砕処理する粉砕工程を有することを特徴とする請求項2に記載の使用済み鋳物砂の再生処理方法。
【請求項4】
焙焼工程では、焙焼炉(a)内において、焙焼炉(a)の側部に設置されたバーナーの先端から斜め下方に向けてバーナー火炎(f)が放射されることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の使用済み鋳物砂の再生処理方法。
【請求項5】
使用済み鋳物砂が、鋳物砂に水ガラスを含む粘結剤を添加して型に入れ、熱処理により固化させて得られた鋳型から生じたものであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の使用済み鋳物砂の再生処理方法。
【請求項6】
水ガラスが付着した使用済み鋳物砂を再生処理するための焙焼を行う焙焼炉であって、
使用済み鋳物砂が投入され、底部から吹き出される流動化ガスにより使用済み鋳物砂の流動層(x)が形成される焙焼室(1)と、
該焙焼室(1)内に熱源となるバーナー火炎(f)を放射するバーナーであって、焙焼室(1)内に形成される流動層(x)のうちの上部領域にのみバーナー火炎(f)が接触するように設けられるバーナー(2)と、
該バーナー(2)の燃焼条件と前記流動化ガスの供給条件を制御することで、バーナー火炎(f)が接触しない流動層(x)の下部領域のうちの、少なくとも一部の領域の温度を300~650℃に制御する制御手段(6)を備えることを特徴とする使用済み鋳物砂の再生処理用焙焼炉。
【請求項7】
バーナー(2)が炉体の側部に設置され、焙焼室(1)内において、バーナー(2)の先端から斜め下方に向けてバーナー火炎(f)が放射されるようにしたことを特徴とする請求項6に記載の使用済み鋳物砂の再生処理用焙焼炉。
【請求項8】
使用済み鋳物砂の連続焙焼を行う焙焼炉であり、焙焼室(1)内に使用済み鋳物砂を定量供給するための鋳物砂投入口(3)と、焙焼室(1)内で流動層(x)を形成する使用済み鋳物砂の一部を焙焼済みの鋳物砂として定量排出するための鋳物砂排出口(4)を備えることを特徴とする請求項6または7に記載の使用済み鋳物砂の再生処理用焙焼炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水ガラスが付着した使用済み鋳物砂の再生処理方法と、これに使用される再生処理用焙焼炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳物砂に添加する粘結剤として水ガラスが用いられる場合があり、このような鋳物砂を鋳型に使用した後には、水ガラスが付着した使用済み鋳物砂が生じる。
従来、水ガラスが付着した使用済み鋳物砂を再生するために、使用済み鋳物砂を焙焼して水ガラスを無害化する技術が知られている。この技術に関して、例えば、特許文献1、2には、以下のような方法が示されている。
【0003】
特許文献1には、水ガラスが付着した使用済み鋳物砂を縦長の流動焙焼炉内で600~900℃の熱風により流動させながら焙焼する方法が示されている。この方法では、砂粒表面の固化水ガラスが容易に剥離するように高温で焙焼し、水ガラスは炉内で剥離除去されるとしている。
また、特許文献2には、水ガラスが付着した使用済み鋳物砂を少なくとも200℃で熱処理する方法が示されており、熱処理は好ましくは300~1000℃で行われること(段落0045)、熱処理は流動床で行ってもよいこと(段落0051)、熱処理により水ガラスが低反応性のガラス質になること(段落0031)、などが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭60-39451号公報
【文献】特許第5401325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水ガラスが付着した使用済み鋳物砂を焙焼した場合、脱水縮合とガラス化により水ガラスが無害化される。これは、焙焼により水ガラスが脱水縮合し、さらにはガラス化することにより、可溶性ナトリウムが不溶化し、水ガラスが不活性化されるためである。水ガラスを焙焼した場合、600℃未満(特に550℃以下)では脱水縮合のみが生じるが、600℃以上になるとガラス化しはじめる。可溶性ナトリウムの不溶化による水ガラスの不活性化(無害化)は、水ガラスの脱水縮合でも進行はするが、より高温で焙焼してガラス化したほうが、ナトリウムイオンがガラス質に封じ込められるため、より強く不溶化する。
しかし、高温で焙焼して水ガラスがガラス化すると、砂粒子どうしが固着しやすくなり、焙焼炉内で砂が塊状に固まる(固結する)などのトラブルが発生する危険がある。一方、焙焼温度を低く抑えると、脱水縮合しか生じないため可溶性ナトリウムの不溶化の進行が遅くなり、効率的な処理を行うことができない(或いは水ガラスを十分に無害化することができない)などの問題を生じる。
【0006】
特許文献1に記載の方法では、炉内で鋳物砂が粘着団状化しないように流動化させるとしているが、600~900℃という高温で焙焼するため、特に流動層の下部領域などで砂粒子どうしの固着が生じ、焙焼炉内で砂が塊状に固まるなどのトラブルが発生する危険がある。また、特許文献2に記載の方法では、高温側で焙焼した場合には特許文献1の方法と同様の問題を生じる危険があり、一方、低温側で焙焼した場合には脱水縮合しか生じないため、効率的な処理を行うことができないという問題がある。
すなわち、従来法のように焙焼炉において使用済み鋳物砂を単純に焙焼するだけでは、(i)焙焼温度を高くすると水ガラスのガラス化により砂粒子どうしが固着し、焙焼炉内で砂が塊状に固まる危険がある、(ii)焙焼温度を低くすると水ガラスの脱水縮合しか生じないため、効率的な処理を行うことができない、のいずれかの問題が避けがたい。
【0007】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、水ガラスが付着した使用済み鋳物砂を再生処理するために流動層式の焙焼炉で焙焼する際に、砂粒子どうしの固着により焙焼炉内で砂が塊状に固まるようなトラブルを生じさせることなく、使用済み鋳物砂を適切且つ効率的に処理し、水ガラスを無害化することができる再生処理方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そのような使用済み鋳物砂の再生処理方法の実施に好適な焙焼炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、流動層式の焙焼炉において使用済み鋳物砂を焙焼する方法として、(i)焙焼炉内に放射されるバーナー火炎を熱源として流動層を形成する鋳物砂を焙焼するとともに、流動層のうちの上部領域にのみバーナー火炎を接触させ、このバーナー火炎で鋳物砂を高温焙焼することにより水ガラスをガラス化させる、(ii)一方において、バーナー火炎が接触しない流動層の下部領域のうちの少なくとも一部の領域(通常、最下部領域)の温度を300~650℃に制御することで鋳物砂の固結を防止する、という形態で焙焼を行うことにより、砂粒子どうしの固着により焙焼炉内で鋳物砂が塊状に固まるようなトラブルを生じさせることなく、使用済み鋳物砂を適切且つ効率的に処理し、鋳物砂に付着した水ガラスを脱水縮合とガラス化により無害化できることが判った。また、焙焼前の使用済み鋳物砂を乾式磨鉱することにより、焙焼による効果(水ガラスの脱水縮合とガラス化)を損なうことなく、鋳物砂の強度を高めることができることも判った。
【0009】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]水ガラスが付着した使用済み鋳物砂を再生処理する方法であって、
焙焼炉(a)内で使用済み鋳物砂の流動層(x)を形成し、焙焼炉(a)内に放射されるバーナー火炎(f)を熱源として、流動層(x)を形成する使用済み鋳物砂を焙焼する焙焼工程を有し、
該焙焼工程では、バーナー火炎(f)を流動層(x)のうちの上部領域にのみ接触させ、バーナー火炎(f)が接触しない流動層(x)の下部領域のうちの、少なくとも一部の領域の温度を300~650℃とすることを特徴とする使用済み鋳物砂の再生処理方法。
[2]上記[1]の再生処理方法において、焙焼工程の前に、使用済み鋳物砂を乾式磨鉱する磨鉱工程を有することを特徴とする使用済み鋳物砂の再生処理方法。
【0010】
[3]上記[2]の再生処理方法において、磨鉱工程の前に、塊状物を含む使用済み鋳物砂を粉砕処理する粉砕工程を有することを特徴とする使用済み鋳物砂の再生処理方法。
[4]上記[1]~[3]のいずれかの再生処理方法において、焙焼工程では、焙焼炉(a)内において、焙焼炉(a)の側部に設置されたバーナーの先端から斜め下方に向けてバーナー火炎(f)が放射されることを特徴とする使用済み鋳物砂の再生処理方法。
[5]上記[1]~[4]のいずれかの再生処理方法において、使用済み鋳物砂が、鋳物砂に水ガラスを含む粘結剤を添加して型に入れ、熱処理により固化させて得られた鋳型から生じたものであることを特徴とする使用済み鋳物砂の再生処理方法。
【0011】
[6]水ガラスが付着した使用済み鋳物砂を再生処理するための焙焼を行う焙焼炉であって、
使用済み鋳物砂が投入され、底部から吹き出される流動化ガスにより使用済み鋳物砂の流動層(x)が形成される焙焼室(1)と、
該焙焼室(1)内に熱源となるバーナー火炎(f)を放射するバーナー(2)を備え、
該バーナー(2)は、焙焼室(1)内に形成される流動層(x)のうちの上部領域にのみバーナー火炎(f)が接触するように設けられることを特徴とする使用済み鋳物砂の再生処理用焙焼炉。
[7]上記[6]の再生処理用焙焼炉において、バーナー(2)が炉体の側部に設置され、焙焼室(1)内において、バーナー(2)の先端から斜め下方に向けてバーナー火炎(f)が放射されるようにしたことを特徴とする使用済み鋳物砂の再生処理用焙焼炉。
[8]上記[6]または[7]の再生処理用焙焼炉において、使用済み鋳物砂の連続焙焼を行う焙焼炉であり、焙焼室(1)内に使用済み鋳物砂を定量供給するための鋳物砂投入口(3)と、焙焼室(1)内で流動層(x)を形成する使用済み鋳物砂の一部を焙焼済みの鋳物砂として定量排出するための鋳物砂排出口(4)を備えることを特徴とする使用済み鋳物砂の再生処理用焙焼炉。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水ガラスが付着した使用済み鋳物砂を再生処理するために流動層式の焙焼炉で焙焼する際に、砂粒子どうしの固着により焙焼炉内で砂が塊状に固まるようなトラブルを生じさせることなく、使用済み鋳物砂を適切且つ効率的に処理し、水ガラスを脱水縮合とガラス化により無害化することができる。
また、本発明において、焙焼前の使用済み鋳物砂を乾式磨鉱することにより、焙焼による効果(水ガラスの脱水縮合とガラス化)を損なうことなく、鋳物砂の強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明で使用される焙焼炉と、この焙焼炉で行われる本発明の焙焼工程の一実施形態を模式的に示す説明図
図2】使用済み鋳物砂と水ガラスのTG-DTA(熱重量示差熱分析)の結果を示すグラフ
図3】磨鉱時間を変えて乾式磨鉱した使用済み鋳物砂の相対強度(市販の鋳物砂との相対強度)を示すグラフ
図4図3に示した使用済み鋳物砂の粒形係数を示すグラフ
図5図3に示した使用済み鋳物砂の強度と粒形係数の相関を示すグラフ
図6】使用済み鋳物砂に対して磨鉱処理を行った後、本発明条件で焙焼を行って得られた再生処理済鋳物砂と、未再生処理の使用済み鋳物砂のpHを示すグラフ
図7図6に示した再生処理済鋳物砂と未再生処理の使用済み鋳物砂の粒形係数を示すグラフ
図8図6に示した再生処理済鋳物砂と未再生処理の使用済み鋳物砂の相対強度(市販の鋳物砂との相対強度)を示すグラフ
図9図6に示した再生処理済鋳物砂と未再生処理の使用済み鋳物砂の粒度分布を示すグラフ
図10】本発明の再生処理方法の一実施形態の処理フローを示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、水ガラスが付着した使用済み鋳物砂を再生処理する方法であって、使用済み鋳物砂を流動層式の焙焼炉を用いて特定の方法で焙焼する焙焼工程を有する。
図1は、本発明で使用される焙焼炉aと、この焙焼炉aで行われる本発明の焙焼工程の一実施形態を示している。
この焙焼炉aは、使用済み鋳物砂(以下、単に「鋳物砂」、「砂」という場合がある。)が投入され、底部から吹き出される流動化ガスにより使用済み鋳物砂の流動層xが形成される焙焼室1と、この焙焼室1内に熱源となるバーナー火炎fを放射するバーナー2を備えている。
【0015】
焙焼室1の底部に隣接して風箱8が設けられ、この風箱8と焙焼室1は複数のガスノズル9を介して連通している。ガス供給口10から風箱8に供給された流動化ガス(空気など)は、複数のガスノズル9を通じて焙焼室1の底部から吹き出され、使用済み鋳物砂の流動層xが形成される。
バーナー2は、焙焼室1内に形成される流動層xのうちの上部領域にのみバーナー火炎fが接触するように設けられる。本実施形態のバーナー2は、炉体の側部に設置され、焙焼室1内において、バーナー2の先端から斜め下方に向けてバーナー火炎fが放射されるようになっている。このようにバーナー2の先端から斜め下方に向けてバーナー火炎fが放射されるようにする場合、通常、バーナー火炎fの放射方向は、水平方向に対する下向きの傾斜角が25~35°程度であることが好ましい。
【0016】
本実施形態の焙焼炉aは、使用済み鋳物砂の連続処理(連続焙焼)を行う焙焼炉であり、焙焼室1の上部には、焙焼室1内に使用済み鋳物砂を定量供給するための鋳物砂投入口3が設けられるとともに、焙焼室1の下部には、焙焼室1内で流動層xを形成する鋳物砂の一部を焙焼済みの鋳物砂として定量排出するための鋳物砂排出口4が設けられている。また、焙焼室1の上部にはバーナー2の燃焼排ガスを流動化ガスとともに排気するための排気口7が設けられている。
また、この焙焼炉aは、バーナー火炎fが接触しない流動層xの下部領域のうちの一部領域(最下部領域)の温度を制御するために、当該領域の温度を測定する温度計5と、この温度計5による測定温度に基づき、バーナー2の燃焼条件(燃料ガスおよび/または支燃ガスの供給量など)や流動化ガスの供給条件(供給量など)を制御する制御手段6(制御装置)を備えている。
【0017】
なお、後述するように、本発明における使用済み鋳物砂の焙焼では、バーナー火炎fが流動層xの上部領域の一部に接触すればよいので、例えば、バーナー火炎fの上方や側方に流動層xの上部領域の一部(バーナー火炎fが接触しない領域部分)が存在するように、バーナー2を設置してもよい。
また、バーナー2の先端からのバーナー火炎fの放射方向も特別な制限はないので、例えば、バーナー2の先端から水平方向または斜め上方に向けてバーナー火炎fが放射されるようにしてもよい。
また、バーナー2を炉体の周方向または/および上下方向で間隔をおいて2つ以上設け、それぞれからバーナー火炎fが放射されるようにしてもよい。
【0018】
以上のような焙焼炉aを用いた使用済み鋳物砂の焙焼工程では、焙焼室1内に投入された鋳物砂に対して、風箱8とガスノズル9を通じて流動化ガス(空気など)が吹き込まれ、鋳物砂の流動層xが形成される。
バーナー2からはバーナー火炎fが焙焼炉a内に放射され、このバーナー火炎fを熱源として流動層xを形成する鋳物砂を焙焼するが、バーナー火炎fは流動層xのうちの上部領域にのみ接触させ、下部領域には接触させない。一方、バーナー火炎fを接触させない流動層xの下部領域のうちの、少なくとも一部の領域(通常、最下部領域)の温度を300~650℃、好ましくは300~600℃に維持する。
【0019】
使用済み鋳物砂を焙焼する際の焙焼温度と砂粒子どうしの固着(固結)状況の関係を調べるため、使用済み鋳物砂を加熱炉(電気炉)で種々の温度に2時間加熱し、砂粒子どうしの固着(固結)の有無を調べた。その結果を表1に示すが、600℃付近から砂粒子どうしの固着がはじまり、600℃では比較的軽度であるが、700℃になると固着の程度が強まり、砂粒子どうしの固着物が揺すっても崩れず、指で軽くつまんで潰れる程度の固さの「おこし状」となった。さらに温度が高くなると、固着の程度がより強まり、1000℃になると固い塊状に固結した。
【0020】
【表1】
【0021】
また、図2は、使用済み鋳物砂と水ガラスについてTG-DTA(熱重量示差熱分析)を行った結果を示している。使用済み鋳物砂のDTAの結果では、960℃付近に明確な結晶化ピークがみられ、上記のように1000℃で固く塊状に固結することと符合している。一方、水ガラス単体の分析では、200℃を超えるとTGが急激に減少し、DTAでは250℃付近で吸熱ピークがみられることから、200℃超の温度で脱水縮合が開始し、重量減少が緩やかになる500~600℃付近で脱水縮合が完了したと考えられる。その後、730℃を中心として650~750℃にかけてガラス転移ピークがみられることから、水ガラスは650℃付近からガラス化が始まると考えられる。
【0022】
以上の結果によると、鋳物砂に付着した水ガラスを焙焼によりガラス化して無害化するには650℃以上での焙焼が必要であって、特に900℃以上で焙焼することが好ましく、一方において、焙焼による砂どうしの固着(固結)を防ぐには、焙焼温度を650℃以下、好ましくは600℃以下に抑える必要がある、ということになる。そこで、本発明では、バーナー火炎fを流動層xのうちの上部領域にのみ接触させ、この上部領域において水ガラスをガラス化(不活性化)して無害化する高温焙焼を行う一方で、流動層xの下部領域のうちの、少なくとも一部の領域(通常、最下部領域)の温度を300~650℃、好ましくは300~600℃に抑え、トラブル(焙焼炉内で砂粒子が塊状に固まるようなトラブル)につながるような砂粒子どうしの固着を防止するようにしたものである。
【0023】
バーナー火炎fの温度は、通常、1200~1800℃程度であり、バーナー火炎fが接触する流動層xの上部領域の鋳物砂は流動化によって常に入れ替わっているので、流動層xを構成する鋳物砂は上部領域において順次バーナー火炎fと接触して高温焙焼され、付着した水ガラスがガラス化する。鋳物砂がバーナー火炎fと接触するのはごく短時間であると考えられるが、バーナー火炎fは高温であるため水ガラスは瞬時にガラス化し、水ガラスの可溶性ナトリウムが強固に不溶化され、無害化される。
【0024】
一方、流動層x内では砂が流動しているので、流動層xの下部領域のうちの、少なくとも一部の領域(通常、最下部領域)の温度を650℃以下(好ましくは600℃以下)に抑えることにより、焙焼炉内で砂が塊状に固まるなどのトラブルに発展するような砂粒子どうしが固着を防止することができる。また、当該領域の温度を300℃以上とするのは、流動層xの下部領域でも脱水縮合による水ガラスの無害化が生じるようにするためである。
ここで、流動層xの下部領域のうちの少なくとも一部の領域とは、通常、最下部領域であり、この最下部領域の温度を300~650℃(好ましくは300~600℃)に温度管理することが好ましい。この流動層xの最下部領域は任意に決めることができるが、流動化していない静止状態での砂層(固定層)の上面sよりも下側とするのが好ましい。
なお、流動層xのなかで、上記300~650℃(若しくは300~600℃)に温度管理される領域以外の領域の温度は650℃超(若しくは600℃超)であってもよい。
【0025】
流動層xの下部領域のうちの少なくとも一部の領域(通常、最下部領域)の温度を300~650℃とするために、当該領域の温度を温度計5で測定し、この測定温度に基づき、バーナー2の燃焼条件や流動化ガスの供給条件を制御することが好ましい。図1の実施形態において、11はバーナー2への燃料供給系、12は同じく支燃ガス供給系、13は風箱8への流動化ガス供給系であり、14a~14cはそれらの供給系(供給管)に設けられた流量調整弁である。この場合、例えば、制御手段6(制御装置)によって流量調整弁14a~14cを制御することにより、バーナー2への燃料供給量、同じく支燃ガス供給量、風箱8への流動化ガス供給量のうちの少なくとも1つを調整し、バーナー2の燃焼条件や流動化ガスの供給条件を制御することで上記領域の温度を300~650℃に制御することができる。また、熱効率の観点から流動化ガスの温度を調整してもよいが、流動化ガスとして常温のガス(空気など)を用いた場合には、流動化ガスが冷却作用をするため、上記領域の温度を300~650℃に制御しやすくなる。
【0026】
本実施形態では、焙焼炉a(焙焼室1)内において、焙焼炉aの側部に設置されたバーナー2の先端から斜め下方に向けてバーナー火炎fが放射され、このバーナー火炎fが流動層xの上部領域にのみ接触する。この場合、バーナー火炎fの放射方向は、水平方向に対する下向きの傾斜角が25~35°程度であることが好ましい。このように斜め下方に向けてバーナー火炎fが放射されることにより、バーナー火炎fが接触する流動層x(上部領域)の範囲を広くとることができる。
焙焼炉aによる使用済み鋳物砂の焙焼はバッチ処理で行ってもよいが、本実施形態では、連続処理(連続焙焼)で行われる。このため、焙焼室1内に鋳物砂投入口3から使用済み鋳物砂が供給(一般には定量供給)されつつ、流動層xを形成する鋳物砂の一部が焙焼済み鋳物砂として鋳物砂排出口4から排出(一般には定量排出)される。このような連続処理では、鋳物砂を焙焼室1内に一定時間滞留させる必要があるが、鋳物砂の焙焼室1内での滞留時間は、鋳物砂投入口3からの使用済み鋳物砂の投入速度または/および鋳物砂排出口4からの排出速度を調整することで制御することができる。
また、焙焼室1内で生じたバーナー2の燃焼排ガスは、流動化ガスとともに排気口7より炉外に排気される。
【0027】
本発明における使用済み鋳物砂の焙焼では、バーナー火炎fが流動層xの上部領域の一部に接触すればよく、したがって、例えばバーナー火炎fの上方や側方に流動層xの上部領域の一部(バーナー火炎fが接触しない領域部分)が存在してもよい。
また、バーナー2の先端からのバーナー火炎fの放射方向も特別な制限はなく、バーナー火炎fの放射方向は水平方向、或いは斜め上方としてもよい。
また、炉体の周方向または/および上下方向で間隔をおいて設けられた2つ以上のバーナー2からバーナー火炎fを放射し、これら複数のバーナー火炎fを流動層xの上部領域に接触させるようにしてもよい。
【0028】
本発明による使用済み鋳物砂の再生処理では、焙焼前の使用済み鋳物砂に乾式磨鉱を行うことで、焙焼による効果(水ガラスの脱水縮合とガラス化)を損なうことなく、鋳物砂の強度を高めることができる。このため焙焼工程の前に、使用済み鋳物砂を乾式磨鉱する磨鉱工程を有することが好ましい。
この磨鉱工程は、砂粒子どうしの摩擦によって、砂粒子の表面に付着した粘結剤(鋳型として使用する際に添加され、砂粒子の表面に付着した水ガラスなどの粘結剤)などによる付着物の角を機械的に削り落とし、砂粒子の形状を球状に近づけるために行うものであり、通常、使用済み鋳物砂を機械的撹拌(研磨)手段により乾式で強撹拌(研磨)することにより行う。磨鉱手段としては、例えば、ロータリーリクレーマー(日本鋳造(株)製)、ハイブリッドサンドマスター(日本鋳造(株)製)、アイリッヒミキサー(日本アイリッヒ(株)製)などを用いることができる。
磨鉱工程を有する場合には、焙焼工程の前に磨鉱工程を実施する必要がある。これは焙焼工程後に磨鉱工程を実施した場合、せっかく焙焼工程で水ガラスをガラス化した固化層(不活性な層)が削り取られ、活性な層が露出してしまうからである。
【0029】
磨鉱による強度の向上効果を確認するため、使用済み鋳物砂(焙焼前の鋳物砂)に磨鉱時間を変えてアイリッヒミキサーで乾式磨鉱を実施し、磨鉱完了後の鋳物砂の強度を調べた。また、比較のため、磨鉱していない未処理の使用済み鋳物砂の強度も測定した。この強度測定では、砂の物性を的確に把握するため、粘結材に水ガラスのみを用いてテストピースを作製した。すなわち、水ガラスとして富士化学(株)3号珪酸ソーダを用い、砂1kgに対して2倍希釈した水ガラス13gを添加後、ミキサー((株)品川工業所製)にて2分間混錬を行った。この混練砂を割型円筒に詰め50φ×50mmになるようにランマー(HARRY W. DIETERT COMPANY製)で3回突き固めた後、電気炉にて200℃で30分加熱し、その後30分冷却してテストピースを得た。以上のように作製したテストピースについて、一軸圧縮試験機((株)マルイ製)にて強度測定を行った。
測定された強度を、真球に近い形状を有する市販の鋳型用アルミナ系骨材(合成ムライト)「エスパール」(商品名、山川産業(株)製)の強度と比較し、「エスパール」の強度を“1”としたときの相対強度(エスパール相対強度)を求めた。その結果を図3に示す。なお、図3において「廃砂」とは未処理の使用済み鋳物砂のことである(後述する図4図10、表2、表3においても同様。)
【0030】
図3によれば、使用済の鋳物砂を乾式磨鉱することにより強度が大幅に上昇している。また、磨鉱時間が長いほど強度が上昇しており、エスパール相対強度は磨鉱時間1hで0.8まで上昇し、磨鉱時間2hでは0.9近くまで上昇している。この強度発現の要因を調べるためにブレーン比表面積による粒形係数を調べたところ、表2及び図4に示すような結果が得られ、強度が高いものほど粒形が球状に近づいていく傾向がみられた。図5に示す強度と粒形係数の相関グラフより、砂の粒形は強度を高めるための重要な要素であることが分かった。
【0031】
【表2】
【0032】
使用済み鋳物砂に対する再生処理として、アイリッヒミキサーで磨鉱時間1hの乾式磨鉱を行った後、図1に示すような基本構造を有する試験焙焼炉(バッチ処理炉)において、流動層の最下部領域(温度計による測温領域)の温度が580℃になるようにして焙焼時間1hの焙焼を行った。焙焼を完了して冷却した後、焙焼炉内の焙焼砂の状態を確認したところ、すべて砂状で固着物はみられなかった。
この再生処理を施した鋳物砂と再生処理前の鋳物砂について、可溶性Na量の指標であるpH、図4と同様の粒形係数、図3と同様のエスパール相対強度を調べた。その結果を図6図8に示す。なお、鋳物砂のpHは、砂20gにイオン交換水を50ml加えて、スターラーにて20分撹拌してから10分静置した後、pH計により測定した。
また、再生処理を施した鋳物砂と再生処理前の鋳物砂について、粒度分布とAFS(粒度指数)を調べた結果を表3及び図9に示す。
これらによれば、再生処理を施した鋳物砂は可溶性Naを評価するpHが十分に低いレベルまで低下しており、鋳物砂に付着した水ガラスは脱水縮合とガラス化により適切に無害化されていることが判る。また、粒形係数と強度も十分に満足する結果となり、粒度分布も廃砂と変わることなく再生処理されていることが判る。
【0033】
【表3】
【0034】
また、通常、使用済み鋳物砂は塊状物を含む状態で搬入されてくるので、本発明の再生処理方法は、磨鉱工程の前に、塊状物を含む使用済み鋳物砂を粉砕処理する粉砕工程を有することが好ましい。この粉砕工程では、適宜な粉砕機で使用済み鋳物砂を粉砕処理すればよい。粉砕機としては、例えば、ジョークラッシャー、ハンマークラッシャー、コーンクラッシャーなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
図10は、本発明の再生処理方法の一実施形態の処理フローを示しており、搬入されてきた塊状物を含む使用済み鋳物砂(廃砂)は、まず、粉砕設備bで粉砕処理される(粉砕工程)。この例では、粉砕設備bは、一次粉砕を行うジョークラッシャーb1と、二次粉砕を行うハンマークラッシャーb2で構成されている。粉砕設備bで粉砕処理された使用済み鋳物砂は篩装置cにかけられ、その篩下(例えば篩目600μmの篩下)が磨鉱工程に送られ、篩上は粉砕工程に戻されて再度粉砕処理される。磨鉱工程に送られた使用済み鋳物砂は、アイリッヒミキサーなどの磨鉱機dで乾式磨鉱された後、焙焼炉aに送られて焙焼される。この焙焼炉aにおいて、上述したように鋳物砂に付着した水ガラスが無害化され、再生処理された鋳物砂(焙焼砂)が得られる。
【0035】
鋳物砂で鋳型を構成する際に、鋳物砂に水ガラスを含む粘結剤を添加して型に入れた後に固化させる方法として、熱処理で固化させる方法、炭酸ガスで固化させる方法などがあるが、本発明法は、特に、熱処理により固化させた鋳型から生じた使用済み鋳物砂の再生処理に適している。
【符号の説明】
【0036】
a 焙焼炉
b 粉砕設備
b1 ジョークラッシャー
b2 ハンマークラッシャー
c 篩装置
d 磨鉱機
1 焙焼室
2 バーナー
3 鋳物砂投入口
4 鋳物砂排出口
5 温度計
6 制御手段
7 排気口
8 風箱
9 ガスノズル
10 ガス供給口
11 燃料供給系
12 支燃ガス供給系
13 流動化ガス供給系
14a,14b,14c 流量調整弁
x 流動層
f バーナー火炎
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10