(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】模様付き複合金属板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/15 20060101AFI20220902BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20220902BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20220902BHJP
B22F 7/06 20060101ALI20220902BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20220902BHJP
B22F 10/20 20210101ALI20220902BHJP
【FI】
B22F3/15 G
B22F3/105
B22F3/16
B22F7/06 A
B33Y80/00
B22F10/20
(21)【出願番号】P 2019522729
(86)(22)【出願日】2017-10-09
(86)【国際出願番号】 SE2017050980
(87)【国際公開番号】W WO2018080374
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-05-13
(32)【優先日】2016-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】501359722
【氏名又は名称】ダマスチール アクチボラグ
【氏名又は名称原語表記】DAMASTEEL AKTIEBOLAG
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ジャルベリウス、 ペル
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-171225(JP,A)
【文献】国際公開第2015/150479(WO,A1)
【文献】特開平06-010011(JP,A)
【文献】特開平06-192704(JP,A)
【文献】特開2012-192163(JP,A)
【文献】国際公開第2011/037236(WO,A1)
【文献】特開平10-001703(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0058824(US,A1)
【文献】国際公開第2005/110660(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102009010149(DE,A1)
【文献】米国特許第05185044(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0119599(US,A1)
【文献】特開2006-102762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00、10/00-12/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、模様付きの複合金属板の製造方法:
a)少なくとも2種の相異なる金属および/または金属合金の粉末を用意する工程、
b)容器を充填する工程であって、
b1)相異なる個々の層状に前記粉末を容器に充填する工程、ただし前記個々の粉末層は、少なくとも2つの平行でない層および/またはストレートでない層を含み
、
c)前記容器を密封および排気する工程、
d)平行でない及び/又はストレートでない金属及び/又は金属合金の層を含む圧密体を形成するために、前記容器に熱間静水圧プレスを施す工程、
e)任意選択で、50~200mmの厚さを有する中間体を形成するために、前記圧密体に熱間変形を施す工程、
f)板を形成するために、前記圧密体または中間体を2つの直交方向に熱間圧延する工程、
任意選択で
g)冷間圧延板を形成するために、熱間圧延板を冷間圧延する工程、
h)前記板を2つ以上の部分にスリッティングする工程、および
i)模様を出現させまたは強めるために前記板をエッチングする工程のうちの一以上の工程。
【請求項2】
前記模様が、波形模様である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記板の厚さ(t)、幅(w)および長さ(l)が、要件t=1~15mm、w≧50mm、およびl≧wのうちの少なくとも1つを満たす、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属及び/又は金属合金の粉末は、Ag、Al、Au、Be、Bi、Cu、Ce、Cr、Fe、Mo、Nb、Ni、Pb、Pd、Pt、Sn、Ta、Ti、V、W、およびZnのうちの1種以上を含む、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記粉末のそれぞれが、少なくとも11%のCrを含むステンレス鋼粉末である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
複数のストリップを形成するために、前記板を2つ以上の部分にスリッティングし、
任意選択で、以下の工程:
前記ストリップをブランクに切断する工程、
前記ブランクを使用して少なくとも1つのナイフを形成する工程、
前記ナイフをエッチングする工程
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模様付きの複合金属板(pattered composite metal plate)の製造方法に関する。特に、本発明は、装飾金属物体の製造に使用することができる複合板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
装飾的な金属の製造技術は、明瞭な層状模様を有する混合金属積層体を製造するために、何百年もの間知られている。鍛接は、ナイフや剣のブレード用の、硬くてフレキシブルなダマスカス鋼を製造するために、シリアで使用された。日本では木目金と呼ばれる同様の手法が、同じ目的のために使用された。このような方法で得られた物体は、波形模様(damascened pattern)を持っていると言われる。
【0003】
今日、波形模様付きの金属物体は、多数の材料の組み合わせのために、多様な方法で製造される。WO2015076771、WO2010118820およびUS4399611には、所望の装飾的な模様を得るための異なる積層技術が開示される。
【0004】
US20100227193及びUS3171195は、1種の金属が粉末の形態で提供されていてもよい、押出法を開示している。
【0005】
W09519861は、次の工程を含む波形模様を有するステンレス複合金属製品の製造を開示している:1)平行な細長い層状に配置された少なくとも2種のステンレス鋼粉末を含むカプセルを提供すること、2)ブランクを形成するためにカプセルを熱間静水圧プレスすること、3)ブランクを鍛造および熱間圧延して中間的な寸法にすること、4)機械加工により細長い構造を歪めること、その後、5)ブランクを熱間加工して最終寸法にすること。具体的には、W09519861の実施例3には、熱間圧延により直径18mmの棒を得、その後、最終製品における波形模様を得るために、その棒を自身の軸の周りに40回/mひねることが開示される。
【0006】
上記のすべての技術は、比較的小さなサイズを有する波形模様付きの物体をもたらす。その使用はしたがって、ナイフ、武器、ゴルフクラブヘッド、指輪やその他の装身具などの小さなサイズの物体に制限される。
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
本発明の一般的な目的は、粉末から模様付き複合金属板を製造するための改良された方法を提供することである。
【0008】
他の目的は、特には波形タイプの、装飾模様を有する大サイズの物体を作製するために使用することができる、大型の板を作製するための方法を提供することである。
【0009】
これらの目的は、独立請求項に定義されるような本発明の手段によって達成される。
【0010】
本発明のさらなる有利な実施形態は従属請求項に特定されている。
【0011】
本発明は、通常の熱間変形(normal hot deformation)の間に模様が形成されるように粉末容器(container)が充填されるため、ひねり等の機械加工によって細長い構造を歪ませる工程を実行する必要がないように粉末容器を充填することによって、W09519861で知られる方法で得られる複合材料の大きさが制限されるという欠点を克服する。
【0012】
図面の簡単な説明
以下に、本発明を、好ましい実施形態および添付図面を参照して、更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の方法によって製造された板の模様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
本発明の模様付きの複合金属板の製造方法は以下の工程を含む:
a)少なくとも2種の相異なる金属および/または金属合金の粉末を用意する工程、
b)容器を充填する工程であって
b1)相異なる個々の層状に(in different individual layers)前記粉末(powders)を容器に充填する工程、ただし前記個々の粉末層(individual power layers)は、少なくとも2つの平行でない層および/またはストレートでない層を含み、または
b2)前記粉末のうちの1種から三次元の非ソリッドな(non-solid)物体を作製し、ただし前記物体は少なくとも2つの平行でない層の部分(parts of layers)および/またはストレートでない部分もしくは層(parts or layers)を含み、前記物体を前記容器に挿入し、前記物体の中のおよび周りの空隙に他の種の粉末を充填する工程、
c)前記容器を密封および排気する工程、
d)平行でない及び/又はストレートでない金属及び/又は金属合金の層を含む圧密体(consolidated body)を形成するために、前記容器に熱間静水圧プレスを施す工程、
e)任意選択で、50~200mmの厚さを有する中間体を形成するために、前記圧密体に熱間変形を施す工程、
f)板を形成するために、前記圧密体または中間体を2つの直交方向(two perpendicular directions)に熱間圧延する工程、
任意選択で
g)冷間圧延板を形成するために、熱間圧延板を冷間圧延する工程、
h)前記板を2つ以上の部分にスリッティングする(slitting)工程、および
i)模様を出現させまたは強める(enhance)ために前記板をエッチングする工程。
【0015】
この方法は、少なくとも2種の相異なる金属および/または金属合金の粉末の使用を含む。従って、粉末を慎重に製造すると、高い清浄度(cleanliness)を有し、存在する硬質相のサイズが小さい板を製造することができる。酸化物粒子の少なくとも95体積%の円相当径(ECD)は、10μm以下であってよく、炭化物及び/又は炭窒化物の粒子の少なくとも95体積%のECDは、5μm以下であってよい。ここでECD=2√A/πであり、Aは検討している断面(section)における粒子の面積(surface)である。
【0016】
本発明の方法は、熱間静水圧プレス(HIP)で圧密化することができる任意の金属又は金属合金に適用することができる。特に、金属及び/又は金属合金の粉末は、以下の金属の1種以上を含むことができる:Ag、Al、Au、Be、Bi、Cu、Ce、Cr、Fe、Mo、Nb、Ni、Pb、Pd、Pt、Sn、Ta、Ti、V、W、およびZn。多くの用途において、ステンレス鋼粉末は最良の選択である。ステンレス鋼粉末は、少なくとも11%のCr、好ましくは少なくとも13%のCrを含む。
【0017】
容器を充填する方法は、本発明の主要な特徴である。通常の熱間変形の間に模様が形成されるように、容器が充填されるからである。したがって、細長い構造体を小さくしまた歪める従来の工程を実行する必要がない。
【0018】
容器を充填する方法の一つは、2種の相異なる金属および/または金属合金粉末を使用し、別個の個々の層状に粉末を容器に充填することであり、ただし前記個々の粉末(power)層は少なくとも2つの平行でない層及び/又はストレートでない層を含む。これは、鉛直方向に移動可能な粉末充填ツールを静止した容器内に配置し、粉末充填ツールの相異なる個々の充填セクション(それぞれの粉末供給源に接続されている)を互いに独立に移動させることによって行うことができる。あるいは、個々の充填セクションのうちの1以上への粉末の供給を一定時間停止させるようにしてもよい。これらの方策は、隣接するセクションからの個々の粉末(power)層が水平方向にも流れ、平行でない層及び/又はストレートでない層を形成することを可能にする。このようにして、所望の模様の下地が容器内に既に形成される。
【0019】
所望の模様のための下地を形成する別の方法は、前記粉末のうちの1種から三次元の非ソリッドな物体を作り、それによって、容器に前記物体を挿入し、他の種の粉末で容器を完全に(completely)充填することである。前記物体は、3Dプリンティング又は付加製造として知られている技術により製造することができる。この場合も、前記物体は、少なくとも2つの平行でない部分もしくは層(parts or layers)および/または直線でない部分もしくは層(parts or layers)を含んでいなければならない。前記物体の形状に幾何学的形状に関する唯一の制限は、それが他の種の粉末による容器の完全な充填を許容するであろうということである。
【0020】
2つの直交方向における熱間圧延は、相当な(substantial)幅を有することができる製品をもたらす。その幅は、HIPされた容器のサイズ及び圧延パラメータによって影響を受ける可能性がある。しかし、実用的な理由で、熱間圧延板のサイズは、0.6m×1.5m~1.0m×3mの範囲にあってもよい。熱間圧延板の厚さ(t)を1~15mmとすることができる。その上限値を12、10、8又は6mmとすることができ、下限値を2、3又は4mmとすることができる。板の幅(w)は少なくとも50mmである、最小幅は100mm、150mm、170mm、190mm、210mm、250mm、300mm、400mm、500mm、600mm又は700mmとすることができる。板の長さ(l)は板の幅(w)よりも大きい。当該長さは、HIP処理に使用される容器のサイズに依存し、例えば、1m、1.5m、2m、2.5m、3m、3.5m又はそれ以上に調整することができる。
【0021】
冷間圧延板を製造するために、熱間圧延板を冷間圧延してもよく、冷間圧延版は0.1~3mmの範囲、好ましくは0.2~2mmの範囲、より好ましくは0.5~1.5mmの範囲の厚さを有することができる。板をスリッティングすることにより冷間圧延板の幅を調整することができる。また、所望の幅及び長さを得るために、熱間圧延板をスリッティング及び/又は切削加工してもよい。
【0022】
本発明は、特許請求の範囲に定義されている。
【0023】
例
2種のオーステナイト系ステンレス鋼粉末316L及び304Lから、模様付きの複合金属板を製造した。前記粉末は2つの供給ユニットに充填された。ここで、各ユニットは、鉛直方向に移動可能な粉末充填ツールの相異なる個々の部分(different individual parts)に接続されていた。充填ツールは、粉末充填の間に静止したままにされる250mmの直径を有する容器内に配置した。
【0024】
粉末充填の間に、容器内に所望の模様のための下地が形成されるように、粉末充填ツールの相異なる個々の充填セクションを互いに独立して上方に移動させた。前記下地が形成された理由は、個々の粉末層が充填中に水平方向にも流れ、それによって、供給された粉末の平行でないおよびストレートでない層が形成されたからである。その後、容器を密封し、真空排気し、標準的なHIP手順、1150℃、1000bar、1hに従って処理した。
【0025】
圧密体を厚さ100mm、幅300mm、長さ1mのブロックに鍛造した。その後それを、厚さ41mm、長さ960mm、幅260mmのスラブを製造する工程を含む従来の熱間圧延に供した。厚さ約2.74mm、長さ3m、幅900mmの板を製造するために、前記スラブを、2つの直交方向において従来の熱間圧延に供した。
【0026】
前記板から試料を切り出し、さらに模様を増強するために研磨およびエッチングを行った。その結果を
図1に示す。