(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】シールリング
(51)【国際特許分類】
F16J 15/48 20060101AFI20220902BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20220902BHJP
F16J 15/3268 20160101ALI20220902BHJP
【FI】
F16J15/48
F16J15/18 C
F16J15/3268
(21)【出願番号】P 2020161771
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】大鋸 哲平
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-107547(JP,A)
【文献】特開2008-133930(JP,A)
【文献】実開昭53-109503(JP,U)
【文献】実開平04-063864(JP,U)
【文献】特開2016-070466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00-15/32
F16J 15/324-15/3296
F16J 15/46-15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと軸との間の隙間を封止する円環状のシールリングであって、
円環状のシールリング本体と、
前記シールリング本体に形成された、前記軸の環状溝の側面に摺動接触する第1シール面と、
前記シールリング本体に形成された、前記ハウジングの内周面に接触する第2シール面と、
前記シールリング本体の内周面に径方向内側に突出するように複数形成された、前記軸を前記ハウジングに組み付ける際に、前記シールリングの中心が前記軸の中心から大きくずれないようにするためのタブと、
を少なくとも備え、
前記タブの前記第1シール面側の少なくとも一部には、前記シールリング本体の径方向から見て傾斜した傾斜部が形成されていることを特徴とするシールリング。
【請求項2】
前記タブの前記傾斜部が形成される面は、前記第2シール面の軸方向の中心を通り、前記シールリング本体の軸方向中心線に直交する幅中心線よりも前記第1シール面側にあることを特徴とする請求項1記載のシールリング。
【請求項3】
前記タブの前記第1シール面側の少なくとも一部に形成された前記傾斜部は、
前記シールリング本体の前記幅中心線から、離れる方向に突出した凸部を形成することを特徴とする請求項2記載のシールリング。
【請求項4】
前記タブに形成された前記凸部は、
前記幅中心線から離れるように傾斜して形成された、平面もしくは曲面からなる第1のテーパ面と、前記第1のテーパ面の頂部から前記幅中心線に近づくように傾斜して形成された、平面もしくは曲面からなる第2のテーパ面と、を有し、
前記シールリング本体の径方向から見て山型のテーパ面を備えることを特徴とする請求項3記載のシールリング。
【請求項5】
前記タブの前記第1シール面側の少なくとも一部に形成された前記傾斜部は、
前記シールリング本体の前記幅中心線に近づく方向に陥没した凹部を形成することを特徴とする請求項2記載のシールリング。
【請求項6】
前記タブに形成された前記凹部は、
前記幅中心線に近づくように傾斜して形成された、平面もしくは曲面からなる第1のテーパ面と、
前記第1のテーパ面の底部から前記幅中心線から離れるように傾斜して形成された、平面もしくは曲面からなる第2のテーパ面と、
を有し、
前記シールリング本体の径方向から見て谷型のテーパ面を備えることを特徴とする請求項5記載のシールリング。
【請求項7】
前記第1シール面よりも前記環状溝の溝底面側に形成され、かつ前記環状溝のオイルシール側の側面との間に隙間が形成されるように設けられた非シール面と、前記非シール面において、
前記第1シール面側に突出して、前記シールリング本体の周方向に
延設された凸部と、を備え、
前記非シール面の凸部が、
前記タブに形成された第1のテーパ面から連続的に形成され、前記幅中心線から離れるように傾斜して形成された第3のテーパ面と、
前記タブに形成された第2のテーパ面から連続的に形成され、前記第3のテーパ面の頂部から前記幅中心線に近づくように傾斜して形成された第4のテーパ面と、
を有することを特徴とする請求項4記載のシールリング。
【請求項8】
前記第1シール面よりも前記環状溝の溝底面側に形成され、かつ前記環状溝のオイルシール側の側面との間に隙間が形成されるように設けられた非シール面と、
前記非シール面に
陥没して、前記シールリング本体の周方向に
延設された凹部と、を備え、
前記非シール面の凹部が、
前記タブに形成された第1のテーパ面から連続的に形成され、前記幅中心線に近づくように傾斜して形成された第3のテーパ面と、
前記タブに形成された第2のテーパ面から連続的に形成され、前記第3のテーパ面の底部から前記幅中心線から離れるように傾斜して形成された第4のテーパ面と、
を有することを特徴とする
請求項6記載のシールリング。
【請求項9】
前記タブに形成された第1、第2のテーパ面は、前記非シール面に形成された第3、第4のテーパ面よりも、シールリング本体の周方向に長く形成されていることを特徴とする請求項7または請求項8記載のシールリング。
【請求項10】
前記タブに形成された前記凸部の頂部、及び前記非シール面の凸部の頂部は、線状、平面、曲面の何れかであって、前記第1シール面よりも前記幅中心線側にあることを特徴とする
請求項7に記載のシールリング。
【請求項11】
前記タブに形成された前記凸部の頂部、及び前記非シール面の凸部の頂部は、連続的に連なり、シールリング本体の径方向且つ軸中心に向かうにしたがって、前記幅中心線に近づくように傾斜することを特徴とする請求項10記載のシールリング。
【請求項12】
前記タブに形成された前記凹部の底部、及び前記非シール面の凹部の底部は、線状、平面、曲面の何れかであることを特徴とす
る請求項8記載のシールリング。
【請求項13】
前記タブに形成された前記凹部の底部、及び前記非シール面の凹部の底部は、連続的に連なって形成されていることを特徴とする請求項12記載のシールリング。
【請求項14】
前記タブが前記シールリング本体の径方向内側面である内周面に少なくとも2個以上形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載のシールリング。
【請求項15】
前記シールリング本体が装着された前記軸を、前記ハウジング内部に組み付ける際に、
前記タブは、前記環状溝の溝底面に当接することによって、前記シールリング本体の中心が前記軸の中心から大きくずれないようにするセンタリング機能を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載のシールリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールリングに関し、例えば、自動車の自動変速機(AT)に用いられる軸とハウジングとの隙間に介在する潤滑油を封止するためのシールリングに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用の自動変速機(AT)には、複数のシールリングが用いられている。
図19、
図20に示すような円環状のシールリング100は、変速機の油圧回路内で相対運動する軸300とハウジング200との間に組み付けられ、摺動しながら潤滑油を封止する役割を果たす。
このシールリング100は、
図20、
図21に示すように、軸300の外周面300aに形成された環状溝301に装着され、ハウジング200とその内部に組み付けられる軸300との間の環状隙間400を封止する。
【0003】
シールリング100には、
図19に示すように、シールリング100の内周面100a側の複数箇所に、径方向内側に突出するタブ101が設けられることがある。
このタブ101は、軸300をハウジング200の内部に組み付ける際に、その先端が環状溝301の溝底面に当接することによって、シールリング100の中心が軸中心から大きくずれないようにするためのものである。
【0004】
前述のようにシールリング100は、軸300の外周面300aに設けられた環状溝301に装着され、
図21に示すようにオイル供給側(環状隙間400側)から受ける潤滑油の圧力Pにより、その外周面100bがハウジング200の内周面201に接触する。
更に、シールリング100のオイルシール側(環状隙間401側)の側面100cが、軸300の回転により環状溝301の側面301aに摺動接触する。これによって、オイルシール側への潤滑油の漏れが防止される。
【0005】
そのため、シールリング100は、その断面形状を例えばT字状とすることにより、非シール面100dと環状溝301の側壁面301aとの間に回り込んだ潤滑油の圧力により、シールリング100のシール面100cが環状溝301の側壁面301aから離れる方向の力が作用することで、前記シール面100cと側壁面301aとの間に生じる摺動摩擦力が低減され、環状溝301の側面301aとの摺動によって生じる摩擦トルクが低減される。
【0006】
ところで、近年にあっては自動変速機等の高性能化に伴い、シールリングの使用条件が厳しくなっており、より高圧、高回転下での使用に耐えられるよう更なる摩擦トルクの低減が求められている。
【0007】
このような課題を解決するシールリングとして、特許文献1には
図22に示すようなシールリングが開示されている。
このシールリング100は、環状溝301の非密封対象側(
図21の環状隙間401側)の側面301aに摺動接触するシール面100cと、このシール面100cよりも環状溝301の溝底側に設けられ、かつ環状溝301の非密封対象側の側面301aとの間に隙間が形成されるように設けられた非シール面100dを備え、この非シール面100dに、連続的に凹部110が形成されている。
【0008】
前記凹部110は、ハウジング200と軸300との相対回転により隙間に生じる潤滑油の流れによって、シールリング100が環状溝301の非密封対象側(環状隙間401側)の側面301aから離れる方向に作用する動圧を発生させる動圧発生面である。
即ち、前記凹部110を非シール面100dの周方向に連続的に複数設けることによって、凹部110から非シール面100dの上面に向かって潤滑油の流路が徐々に狭められるため、狭い流路に流れ込む潤滑油によって、非シール面100dと環状溝301の非密封対象側(環状隙間401側)の側面301aとの間に、所謂くさび効果により動圧が発生する。
その結果、シールリング100が、非密封対象側(環状隙間401側)から密封対象側(環状隙間400側)の方向に押され、シール面100cの面圧が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1に開示されたシールリングの構造にあっては、径方向の幅が狭い非シール面に凹部を形成しているため、高圧、高回転下での使用の場合に要求される動圧を十分に発生させられない虞があった。
このような課題に対し本発明者らは、鋭意研究開発を行い、シールリングの内周面に形成された複数のタブを動圧発生面として機能させることにより、より効果的に動圧を発生させ、摩擦トルクを低減できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の目的は、ハウジングとその内部に組み付けられる軸との間の環状隙間を封止するシールリングにおいて、シールリング本体のシール面が環状溝のオイルシール側の側面から離れる方向に作用する動圧を効果的に発生させ、高圧、高回転下でも十分に摩擦トルクを低減できるシールリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明に係るシールリングは、ハウジングと軸との間の隙間を封止する円環状のシールリングであって、円環状のシールリング本体と、前記シールリング本体に形成された、前記軸の環状溝の側面に摺動接触する第1シール面と、前記シールリング本体に形成された、前記ハウジングの内周面に接触する第2シール面と、前記シールリング本体の内周面に径方向内側に突出するように複数形成された、前記軸を前記ハウジングに組み付ける際に、前記シールリングの中心が前記軸の中心から大きくずれないようにするためのタブと、を少なくとも備え、前記タブの前記第1シール面側の少なくとも一部には、前記シールリング本体の周方向に向かって傾斜部が形成されていることを特徴とする。
【0013】
このように本発明にあっては、軸をハウジングに組み付ける際に、シールリングの中心が軸の中心から大きくずれないようにするためのタブ(センタリングタブ)を利用し、前記タブの前記第1シール面側の少なくとも一部に、前記シールリング本体の周方向に向かって傾斜部が形成される。そして、前記傾斜部が動圧発生面となり、動圧を発生させる。
したがって、例えば、従来のような非シール面上のみに動圧発生面を形成した場合よりも、効果的により大きな動圧を発生させることができる。即ち、本発明によれば、摺動面に生じる摺動摩擦力を低減し、摺動面に適度な油膜を介在させることができ、効果的に摩擦トルクを低減することができる。
【0014】
ここで、前記タブの前記第1シール面側の少なくとも一部に形成された前記傾斜部は、前記シールリング本体の前記第2シール面の軸方向の中心を通り、前記シールリング本体の軸方向中心線に直交する幅中心線から、離れる方向に突出した凸部を形成することが好ましい。
【0015】
また、前記タブに形成された前記凸部は、前記幅中心線から離れるように傾斜して形成された、平面もしくは曲面からなる第1のテーパ面と、前記第1のテーパ面の頂部から前記幅中心線に近づくように傾斜して形成された、平面もしくは曲面からなる第2のテーパ面と、を有する、前記シールリング本体の周方向に向かって山型のテーパ面を備えるのが好ましい。
前記第1のテーパ面と前記第2のテーパ面(シールリング本体の周方向に山型のテーパ面)によって、シールリング本体の周方向にくさび状の流路を形成でき、テーパ面を動圧発生面とすることができる。
【0016】
また、前記タブの前記第1シール面側の少なくとも一部に形成された前記傾斜部は、
前記シールリング本体の前記第2シール面の軸方向の中心を通り、前記シールリング本体の軸方向中心線に直交する幅中心線に近づく方向に陥没した凹部を形成することが好ましい。
この場合、前記傾斜部が凸部を形成する場合と同様に、前記凹部を動圧発生面とすることができる。
【0017】
前記タブに形成された前記凹部は、前記幅中心線に近づくように傾斜して形成された、平面もしくは曲面からなる第1のテーパ面と、前記第1のテーパ面の底部から前記幅中心線から離れるように傾斜して形成された、平面もしくは曲面からなる第2のテーパ面と、を有する、前記シールリング本体の周方向に向かって谷型のテーパ面を備えているのが好ましい。
前記第1のテーパ面と前記第2のテーパ面(シールリング本体の周方向に谷型のテーパ面)によって、シールリング本体の周方向にくさび状の流路を形成でき、テーパ面を動圧発生面とすることができる。
【0018】
また、前記第1シール面よりも前記環状溝の溝底面側に形成され、かつ前記環状溝のオイルシール側の側面との間に隙間が形成されるように設けられた非シール面と、前記非シール面において、前記第1シール面側に突出して、前記シールリング本体の周方向に延設された凸部と、を備え、前記非シール面の凸部が、前記タブに形成された第1のテーパ面から連続的に形成され、前記幅中心線から離れるように傾斜して形成された第3のテーパ面と、前記タブに形成された第2のテーパ面から連続的に形成され、前記第3のテーパ面の頂部から前記幅中心線に近づくように傾斜して形成された第4のテーパ面と、を有することが好ましい。
このように、非シール面の凸部を、前記タブに形成された凸部の第1、第2のテーパ面から連続的に形成された、シールリング本体の周方向に山型の第3、第4のテーパ面とすることで、動圧発生面をより大きく確保することができ、これにより大きな動圧を発生させることができる。
【0019】
また、前記第1シール面よりも前記環状溝の溝底面側に形成され、かつ前記環状溝のオイルシール側の側面との間に隙間が形成されるように設けられた非シール面と、前記非シール面に陥没して、前記シールリング本体の周方向に延設された凹部と、を備え、前記非シール面の凹部が、前記タブに形成された第1のテーパ面から連続的に形成され、前記幅中心線に近づくように傾斜して形成された第3のテーパ面と、前記タブに形成された第2のテーパ面から連続的に形成され、前記第3のテーパ面の底部から前記幅中心線から離れるように傾斜して形成された第4のテーパ面と、を有するのが好ましい。
このように、非シール面の凹部を、前記タブに形成された第1、第2のテーパ面から連続的に形成された、シールリング本体の周方向に谷型の第3、第4のテーパ面とすることで、動圧発生面をより大きく確保することができ、これにより大きな動圧を発生させることができる。
【0020】
また、前記タブに形成された第1、第2のテーパ面は、前記非シール面に形成された第3、第4のテーパ面よりも、シールリング本体の周方向に長く形成されているのが好ましい。
前記タブに形成された第1、第2のテーパ面を、前記非シール面に形成された第3、第4のテーパ面よりも、シールリング本体の周方向に長く形成することにより、動圧発生面をより大きく確保することができ、これにより大きな動圧を発生させることができる。
【0021】
前記タブに形成された前記凸部の頂部、及び前記非シール面に形成された凸部の頂部は、線状、平面、曲面の何れかであって、前記第1シール面よりも前記幅中心線側にあることが望ましい。
前記凸部の頂部が、前記第1シール面よりも前記幅中心線側にない場合(第1シール面よりも突出した場合)には、前記第1シール面が軸の環状溝の側面に摺動接触することが困難になり、シール性が低下する。
【0022】
前記タブに形成された前記凸部の頂部、及び前記非シール面の凸部の頂部は、連続的に連なり、シールリング本体の径方向且つ軸中心に向かって、前記幅中心線に近づくように傾斜することが望ましい。
このように、前記タブに形成された前記凸部の頂部、及び前記非シール面の凸部の頂部は、連続的に連なり、シールリング本体の径方向且つ軸中心に向かって、前記幅中心線に近づくように傾斜するため、環状溝の溝底との干渉を避け、より環状溝の溝底側にタブを伸ばす事ができる。
【0023】
また、前記タブに形成された前記凹部の底部、及び前記非シール面の凹部の底部は、線状、平面、曲面の何れかであることが望ましい。
また、前記タブに形成された前記凹部の底部、及び前記非シール面の凹部の底部は、連続的に連なることが望ましい。
【0024】
前記タブは、前記シールリング本体の内周面に少なくとも2個以上形成されていることが望ましい。
前記タブの個数は1個であっても良いが、シールリング本体の中心が前記軸の中心から大きくずれないようにするセンタリング機能の面、及びより大きな動圧を発生させる面から、少なくとも2個以上形成されていることが望ましい。
通常、前記タブが前記シールリング本体の内周面に2個以上であり、6個以上であってよく、8個以上であってよく、12個以上であってよく、また通常32個以下であり、28個以下であってよく、24個以下であってよく、20個以下であってよい。
【0025】
前記シールリング本体が装着された前記軸を、前記ハウジング内部に組み付ける際に、前記タブは、前記環状溝の溝底面に当接することによって、前記シールリング本体の中心が前記軸の中心から大きくずれないようにするセンタリング機能を備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ハウジングとその内部に組み付けられる軸との間の環状隙間を封止するシールリングにおいて、シールリング本体のシール面が環状溝のオイルシール側の側面から離れる方向に作用する動圧を効果的に発生させ、高圧、高回転下でも十分に摩擦トルクを低減することのできるシールリングを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明の第一の実施の形態に係るシールリングの平面図である。
【
図3】
図3は、
図1、
図2のシールリングの内周面に複数形成されたタブ(センタリングタブ)の1つを拡大して示す平面図である。
【
図6】
図6は、
図1に示すシールリングを軸に装着した状態の断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の第二の実施の形態に係るシールリングの内周面に複数形成されたタブ(センタリングタブ)の1つを拡大して示す平面図である。
【
図10】
図10は、本発明の第三の実施の形態に係るシールリングの内周面に複数形成されたタブ(センタリングタブ)の1つを拡大して示す平面図である。
【
図13】
図13は、本発明の第四の実施の形態に係るシールリングの内周面に複数形成されたタブ(センタリングタブ)の1つを拡大して示す平面図である。
【
図16】
図16は、本発明の第五の実施の形態に係るシールリングの内周面に複数形成されたタブ(センタリングタブ)の1つを拡大して示す平面図である。
【
図20】
図20は、従来のシールリングを装着した軸をハウジングに組み付けた状態の断面図である。
【
図22】
図22は、従来のシールリングの他の形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第一の実施の形態)
以下、本発明にかかるシールリングに係る実施の形態につき、図面に基づいて説明する。本実施の形態に係るシールリングは、例えば、自動車の自動変速機の油圧回路内で相対運動する軸とハウジングの間に組み付けられ、摺動しながら潤滑油を封止する役割を果たすものである。
図1は、本発明の第一の実施の形態に係るシールリングの平面図であり、
図2は
図1のシールリングの斜視図である。また、
図3は、
図1、
図2のシールリング本体の内周面に複数形成されたタブの1つを拡大して示す平面図であり、
図4は
図3のタブの斜視図である。更に、
図5は、
図3のI-I断面図であり、
図6は、本発明のシールリングを軸の環状溝に装着した状態の断面図である。
【0029】
図示するシールリング1は、ハウジングと軸との間の隙間を封止する、PEEK、PPS等の樹脂材料により形成された円環状のシールリング本体1Aと、シールリング本体1Aの内周面側に複数形成されたタブ10とを備えている。そして、シールリング本体1Aの断面は略T字状に形成されている。
具体的には、
図6に示すようにシールリング本体1Aのオイルシール側(シール面側)には、第1シール面2を備える。この第1シール面2は、軸20の環状溝21の側壁面(環状溝のオイルシール側の側面)21aと摺動接触し、側壁面21aをシールする。
また、
図3乃至
図5に示すように、シールリング本体1Aは非シール面3を備える。この非シール面3は、前記第1シール面2よりも環状溝21の溝底面21b側(シールリング本体1Aの中心部側)に設けられ、かつ側壁面21aとの間に隙間22が形成されるように設けられる。前記第1シール面2と非シール面3とは段差4によって高低差が設けられている。
【0030】
また、シールリング本体1Aの外周面は第2シール面5である。この第2シール面5は、ハウジング30の内周面31に接触し、シールする。
また、シールリング本体1Aのオイル供給側の面(段差面)には、
図6に示すように、それぞれ非シール面6A、6Bが形成される。そして、前記非シール面6B及び内周面7は環状溝21に接触しないように、シールリング1は軸20に組み付けられる。
【0031】
また、
図1、
図2に示すようにシールリング本体1Aの内周面7には、所定間隔を空けて複数のタブ10が設けられている。
このタブ10は、機能の一つとして、軸20をハウジング30の内部に組み付ける際に、シールリング本体1Aの中心Cが軸20の中心から大きくずれないようにするという機能を備えている。
即ち、シールリング1を軸20の環状溝21に装着した際、シールリング本体1Aと軸20に芯ずれが発生した場合には、タブ10の先端部10aが環状溝21の溝底面21bに当接し、それによって、シールリング本体1Aの中心Cが軸20の中心から大きくずれないようにする機能を備えている。
【0032】
各タブ10は、
図3、
図4に示すように内周面7よりも径方向内側に突出し、シールリング1を軸20の環状溝21に装着した際、シールリング本体1Aと軸20に芯ずれが発生した場合には、タブ10の先端部10aが環状溝21の溝底面21bに当接する。
また、内周面7から径方向内側に突出したタブ10の上面には、凸部10Aが形成されている。
【0033】
具体的には、この凸部10Aは、タブ10から第1シール面2側に突出して形成された第1のテーパ面10bと、前記第1のテーパ面10bの上端部(頂部)からタブ方向に傾斜して形成された第2のテーパ面10cが形成された、いわゆるシールリング本体1Aの周方向に形成された山型のテーパ面を備えている。
即ち、前記凸部10Aは、前記幅中心線Y(
図6参照)から離れるように傾斜して形成された第1のテーパ面10bと、前記第1のテーパ面10bの頂部から前記幅中心線Yに近づくように傾斜して形成された第2のテーパ面10cとを有している。
【0034】
このテーパ面10b、10cが動圧発生面として機能する。潤滑油の流れる方向によって、テーパ面10bが動圧発生面として機能し、あるいはまたテーパ面10cが動圧発生面として機能する。
図3、
図4に示すように、潤滑油が矢印方向に流れる場合には、テーパ面10bが動圧発生面として機能する。
【0035】
また、
図3、
図4に示すようにタブ10が位置する非シール面3上には、シールリング本体1Aの周方向に延設された凸部10Bが形成されている。
具体的には、この凸部10Bには、山型のテーパ面10d、10eが形成されている。即ち、前記凸部10Bは、前記幅中心線Y(
図6参照)から離れるように傾斜して形成された第3のテーパ面10dと、前記第3のテーパ面10dの頂部から前記幅中心線Yに近づくように傾斜して形成された第4のテーパ面10eとを有している。
【0036】
前記テーパ面10d、10eは動圧発生面として機能する。前記テーパ面10b、10cと同様に、潤滑油の流れる方向によって、テーパ面10dが動圧発生面として機能し、あるいはまたテーパ面10eが動圧発生面として機能する。
図3、
図4に示すように、潤滑油が矢印方向に流れる場合には、テーパ面10dが動圧発生面として機能する。
【0037】
このテーパ面10bとテーパ面10dは連続的に形成され(同一平面として形成され)、またテーパ面10cとテーパ面10eは連続的に形成されている(同一平面として形成されている)。即ち、前記凸部10Aと前記凸部10Bが連続的に形成されている。
このように、前記テーパ面10b、10cから連続的にそれぞれテーパ面10d、10eが形成されるため、非シール面3上のみにテーパ面を形成する場合よりも、径方向に大きい面積のテーパ面を形成することができ、動圧を効果的に大きく発生させることができる。
【0038】
前記テーパ面10bとテーパ面10dは連続的に形成されていれば良く、テーパ面のテーパ角度(傾斜角度)が異なっていても良い。同様にテーパ面10cとテーパ面10eは連続的に形成されていれば良く、テーパ角度が異なっていても良い。
特に、テーパ面10bとテーパ面10dは連続的に形成され、テーパ角度が同一の同一面として形成されるのが好ましい。同様に、テーパ面10cとテーパ面10eは連続的に形成され、テーパ角度が同一の同一面として形成されるのが好ましい。
【0039】
図3、
図4に示すように、前記凸部10A、10Bの頂部(頂点)10A1、10B1は線状に形成され、また
図5、
図6に示すように、前記頂部10A1、10B1は、シールリング本体1Aの径方向且つ軸中心に向かうにしたがって、前記幅中心線Yに近づくように、傾斜して形成されている。
このように構成されているため、環状溝21の溝底面21bとの干渉を避け、より環状溝21の溝底面21b側にタブ10を伸ばす事ができる。
【0040】
前記頂部10A1、10B1は、
図6に示すように、前記第1シール面2よりも前記幅中心線Y側にある。前記凸部の頂部(頂点)10A1、10B1が、前記第1シール面2よりも前記幅中心線Y側にない場合(第1シール面よりも突出した場合)には、前記第1シール面2が軸の環状溝21の側面21aに摺動接触することが困難になり、シール性が低下する。
尚、凸部10A、10Bの頂部10A1、10B1が線状に形成されている場合を示したが、前記頂部は平面、曲面の何れであっても良い。例えば、台形状の凸部であっても良く、円弧状の凸部であっても良い。
【0041】
また、
図1、
図2に示すようにシールリング1の周方向の一カ所には合口部1aが形成されており、軸20への装着の際には、この合口部1aを分離する方向にシールリング1を拡径することにより軸20の環状溝21に容易に装着することができる。
【0042】
このように構成されたシールリング1を
図6に示すように軸20の環状溝21に装着した状態で、オイル供給側(環状隙間40側)から矢印P方向に潤滑油の圧力Pが作用すると、シールリング1はオイルシール側(環状隙間41側)に押される。
そして、シールリング1のオイルシール側の第1シール面2が環状溝21の側壁面21aに摺動接触し、第2シール面5がハウジング30の内周面31に接触する。これによって、潤滑油のオイルシール側への漏れが防止される。
【0043】
また、軸20が回転しても、シールリング1自体は基本的に回転せず、シールリング1の第2シール面5とハウジング30の内周面31とは、互いに接触して摺動が抑制される。
一方、オイルシール側の第1シール面2と軸20の環状溝21の側壁面21aとは摺動する。第1シール面2と側壁面21aとの間には、潤滑油がある程度漏れ出すことにより油膜が形成されており、第1シール面2と側壁面21aとは、前記油膜を介して摺動する。
【0044】
また、シールリング1がオイル供給側から潤滑油により加圧された状態で、軸20が回転すると、非シール面3と環状溝21の側壁面21aとの間に介在する潤滑油は、軸20の回転によって生じる相対運動によって、非シール面3と側壁面21aとの間を
図3、
図4の矢印の向き(軸回転方向)に沿って流れる。
【0045】
ここで
図3、
図4に示すように本発明のシールリング1にあっては、非シール面3に第3のテーパ面10d、第4のテーパ面10eが形成されるだけでなく、シールリング1の内周面に複数形成されたタブ10にも径方向内側に延出する第1のテーパ面10b、第2のテーパ面10c(シールリング本体1Aの周方向に山型)が形成されている。
そして、非シール面3のテーパ面10dとタブ10のテーパ面10bによって、非シール面3と環状溝21の側壁面21aとの間に動圧を発生させる潤滑油の流れが形成される。この動圧効果により、シールリング1の第1シール面2が環状溝21の側壁面21aから離れる方向の力が作用することで、前記第1シール面2と側壁面21aとの間に生じる摺動摩擦力が効果的に低減され、また、摺動面に適度な油膜を介在させることができ、摩擦トルクを低減することができる。
【0046】
即ち、非シール面3と環状溝21の側壁面21aとの間には、山型のテーパ面の頂部において最も狭くなるくさび状の流路が形成され、またタブ10の径方向内側に延びるテーパ面の頂部にもくさび状の流路が形成される。そして、このくさび状の流路を潤滑油が流れることによって、動圧が発生する。
【0047】
これらテーパ面は動圧発生面であり、非シール面3上のみにテーパ面を形成するよりも、タブ10にもテーパ面を形成することにより、動圧発生面を大きく形成することができ、より効果的に動圧効果を得ることができる。
その結果、シールリング1は、環状溝21の側壁面21aから離れる方向に力を受けることができ、摺動面に生じる摺動摩擦力が低減され、また、摺動面に適度な油膜を介在させることができ、摩擦トルクを低減することができる。
【0048】
以上のように本発明に係る第一の実施の形態によれば、シールリング1の中心が軸20の軸心から大きくずれないようにするためのタブ10を利用し、該タブ10上にシールリング本体1Aの周方向に山型にテーパ面を形成した。それにより、非シール面3上のみにテーパ面を形成するよりも効果的に動圧を発生させることができる。
その結果、摺動面に生じる摺動摩擦力を低減し、摺動面に適度な油膜を介在させることができ、効果的に摩擦トルクを低減することができる。
【0049】
尚、上記実施形態では、タブ10にテーパ面を形成することにより、動圧発生面を大きく形成することができることを説明したが、必ずしも、タブ10の第1シール面側の面の全面にテーパ面を形成する必要はなく、前記タブの前記第1シール面側の少なくとも一部に、前記シールリング本体の径方向から見て傾斜した傾斜部が形成されていれば良い。また、上記実施形態では、
図1において、タブ10がシールリング1に16個設けられた場合を示したが、本発明にあっては、特に、タブ10が16個に限定されるものではない。タブ10の個数が多くなるほど、動圧をより効果的に発生させることができるが、タブ10を過剰に配置すると個々のタブ上で発生する動圧が低下するため好ましくない。タブの個数は通常2個以上であり、6個以上であってよく、8個以上であってよく、12個以上であってよく、また通常32個以下であり、28個以下であってよく、24個以下であってよく、20個以下であってよい。
【0050】
(第二の実施の形態)
第一の実施の形態では、タブ10に凸部10Aが形成され、タブ10が位置する非シール面3上に凸部10Bが形成されている場合について説明したが、本発明は凸部に限定されるものではなく、凹部であっても良い。
この凹部の場合を、第二の実施の形態として、
図7乃至
図9に基づいて説明する。尚、第二の実施形態において、第一の実施形態の共通部分については同じ符号で示し、その詳細な説明は省略する。
【0051】
具体的には、
図7乃至
図9に示すように、前記シールリング本体1Aの第2シール面5の軸方向の中心を通り、前記シールリング本体1Aの軸方向中心線X(
図6参照)に直交する幅中心線Yに近づく方向に陥没した凹部11A、11Bを動圧発生面とすることができる。
【0052】
前記凹部11Aは、タブ10に設けられる。この凹部11Aは、前記幅中心線Yに近づくように傾斜して形成された、平面もしくは曲面からなる第1のテーパ面11bと、前記第1のテーパ面11bの底部から前記幅中心線Yから離れるように傾斜して形成された、平面もしくは曲面からなる第2のテーパ面11cとを有する。
即ち、前記凹部11Aは、シールリング本体1Aの周方向に向かって谷型のテーパ面を備えている。そして、前記第1のテーパ面11bと前記第2のテーパ面11c(シールリング本体の周方向に谷型のテーパ面)によって、シールリング1の周方向にくさび状の流路が形成され、前記テーパ面を動圧発生面とすることができる。
【0053】
また、非シール面3において、前記シールリング本体1Aの周方向に形成された凹部11Bを備えている。
前記非シール面の凹部11Bは、前記タブに形成された第1のテーパ面11bから連続的に形成され、前記幅中心線に近づくように傾斜して形成された第3のテーパ面11dと、前記タブ10に形成された第2のテーパ面11cから連続的に形成され、前記第3のテーパ面11dの底部から前記幅中心線から離れるように傾斜して形成された第4のテーパ面11eとを有している。
尚、前記凹部11Bは、タブ10の凹部11Aに対応した位置だけではなく、シールリング本体1Aの周方向の全周にわたって設けても良い。
【0054】
また、前記タブ10に形成された前記凹部11Aの底部11A1、及び前記非シール面3の凹部11Bの底部11B1が線状に形成される場合について説明したが、第一の実施形態の頂部と同様に、平面、曲面の何れであっても良い。例えば、台形状の凹部であっても良く、円弧状の凹部であっても良い。
そしてまた、第一の実施形態の頂部と同様に、前記タブ10に形成された前記凹部11Aの底部11A1、及び前記非シール面3の凹部11Bの底部11B1は、連続的に連なって形成されている。
【0055】
このように、非シール面の凹部11Bを、前記第1、第2のテーパ面11b、11cから連続的に形成されたテーパ面11d、11eとすることで、動圧発生面をより大きく確保することができ、これにより大きな動圧を発生させることができる。
尚、潤滑油が
図7、
図8の矢印方向に流れる場合には、テーパ面11c、テーパ面11eが動圧発生面となる。また潤滑油が
図7、
図8の矢印方向と逆方向に流れる場合には、テーパ面11b、テーパ面11dが動圧発生面となる。
【0056】
(第三の実施の形態)
続いて、本発明に係る第三の実施の形態について、
図10乃至
図12を用いて説明する。尚、この第三の実施の形態においては、前述の第一の実施の形態とは、タブ10の形状のみが異なるため、共通部分については同じ符号で示し、その詳細な説明は省略する。
【0057】
各タブ10は、第一の実施の形態の場合と同様に、
図10、
図11に示すように内周面7よりも径方向内側に突出し、その先端部10aが環状溝21の溝底面21bに当接する。
また、タブ10の上面には凸部10Aが形成されている。この凸部10Aは、シールリング本体1Aの周方向に山型にテーパ面10b、10cを有している。
そしてまた、
図11、
図12に示すように非シール面3上に、凸部10Bが形成されている。この凸部10Bは、シールリング本体1Aの周方向に、非シール面3に対して山型にテーパ面10d、10eを有している。
前記テーパ面10d、10eは、前記テーパ面10b、10cから連続的にそれぞれ形成されている。
【0058】
更に、前記テーパ面10b、10cからそれぞれ周方向外側に連続的にテーパ面10f、10gが延設されている。このテーパ面10f、10gは、非シール面3上に形成されたテーパ面10d、10eよりも周方向に延出している。
これにより、非シール面3上のみにテーパ面(凸部)を形成する場合よりもシールリング本体1Aの径方向及び周方向に、より大きい面積のテーパ面を形成することができる。即ち、より大きなテーパ面(動圧発生面)を形成することで、動圧を効果的に大きく発生させることができる。
【0059】
非シール面3上に形成されたテーパ面10d、10eよりも周方向に延出したテーパ面10f、10gの傾斜角θ1は、前記テーパ面10d、10eの傾斜角θ2よりも大きな角度に設定されている。
【0060】
(第四の実施の形態)
続いて、本発明に係る第四の実施の形態について、
図13及び
図15を用いて説明する。この第四の実施の形態において、シールリング1は、第一乃至第三の実施の形態と同様に円環状に形成されるが、その断面は略矩形状に形成されている(即ち、第一乃至第三の実施の形態の非シール面3が形成されない)。
【0061】
図示するようにシールリング1の内周面に複数のタブ10が設けられている。各タブ10は、内周面7よりも径方向内側に突出し、他の実施形態と同様に、その先端部10aが環状溝21の溝底面21bに当接する。
また、
図15に示すように、内周面7から径方向内側に突出したタブ10の上面には、凸部10Cが形成されている。この凸部10Cには、シールリング本体1Aの周方向に山型のテーパ面10b、10cが形成されている。
更に、前記テーパ面10b、10cからそれぞれ周方向外側に連続的にテーパ面10f、10gが形成されている。
これにより、非シール面3を形成しなくても、動圧発生面をより大きく確保することができ、これにより効果的に動圧を発生させることができる。
【0062】
(第五の実施の形態)
続いて、本発明に係る第五の実施の形態について、
図16及び
図18を用いて説明する。第三の実施の形態において、凸部10Aは、シールリング本体1Aの周方向に山型にテーパ面10b、10cを有し、凸部10Bは、シールリング本体1Aの周方向に、非シール面3に対して山型にテーパ面10d、10eを有している場合について説明した。
【0063】
この実施形態における凸部10A、凸部10Bには、シールリング本体1Aの周方向にテーパ面10b、テーパ面10dが形成され、テーパ面10c、テーパ面10eが形成されていない。即ち、テーパ面10c、テーパ面10eに相当する面は垂直面10h、10iとして形成されている。
【0064】
具体的には、各タブ10は、第三の実施の形態の場合と同様に、
図16乃至
図18に示すように内周面7よりも径方向内側に突出し、他の実施形態と同様に、その先端部10aが環状溝21の溝底面21bに当接する。
また、タブ10の上面には凸部10Aが形成されている。この凸部10Aは、シールリング本体1Aの周方向にテーパ面10bを有している。そして、前記したように、このテーパ面10bに続く、面は垂直面10hとして形成されている。
【0065】
そしてまた、
図16、
図17に示すように非シール面3上に、凸部10Bが形成されている。この凸部10Bは、シールリング本体1Aの周方向に、非シール面3に対して山型にテーパ面10dを有している。そして、前記したように、このテーパ面10dに続く、面は垂直面10iとして形成されている。
また、前記テーパ面10dは、前記テーパ面10bから連続的に形成されている。
【0066】
更に、前記テーパ面10bからそれぞれ周方向外側に連続的にテーパ面10f1、10f2が延設されている。このテーパ面10f1、10f2は、非シール面3上に形成されたテーパ面10dよりも周方向に延出している。
これにより、非シール面3上のみにテーパ面(凸部)を形成する場合よりもシールリング本体1Aの径方向及び周方向に、より大きい面積のテーパ面を形成することができる。即ち、より大きなテーパ面(動圧発生面)を形成することで、動圧を効果的に大きく発生させることができる。
尚、テーパ面10b、テーパ面10dがシールリング本体1Aの周方向の一方向に形成されているため、このテーパ面10b、テーパ面10dを動圧発生面とする場合には、潤滑油が流れる方向は、
図16、
図17の矢印で示す一方向に特定される。
【0067】
尚、上記第一乃至第四の実施形態の説明において、タブ10がシールリング本体1Aのオイルシール側(シール面側)に形成されている場合について説明した。
しかしながら、本発明は、前記タブ10がシールリング本体1Aのオイルシール側(シール面側)に形成されている場合のみならず、非シール面6B側にも形成されていても良い。即ち、シールリング本体1Aの両側に、傾斜部が形成されたタブ10がそれぞれ設けられていても良い。
【0068】
このように、シール面側と非シール面側の両側に、タブが形成されたシールリングの場合、シールリングのいずれの面側も、オイルシール側(シール面)として用いることができる。即ち、シールリングの組み付け時に、取り付けの方向性がなく、容易に軸に組み付けることができる。
尚、このシール面側と非シール面側の両側にタブが形成されたシールリングにおいて、シール面側のタブは、既に上記第一乃至第四の実施形態で説明したように、傾斜部によって動圧を発生する。しかしながら、非シール面側のタブは、軸の環状溝側面(オイル供給側の溝側面)との距離が大きくなるため、斜面部によって発生する動圧は非常に小さい。
【符号の説明】
【0069】
1 シールリング
1A シールリング本体
1a 分離部
2 第1シール面
3 非シール面
4 段差
5 第2シール面
6A 非シール面
6B 非シール面
7 内周面
10 タブ
10A 凸部(タブに形成された凸部)
10B 凸部(非シール面に形成された凸部)
10b 第1のテーパ面
10c 第2のテーパ面
10d 第3のテーパ面
10e 第4のテーパ面
11A 凹部(タブの形成された凹部)
11B 凹部(非シール面に形成された凹部)
11b 第1のテーパ面
11c 第2のテーパ面
11d 第3のテーパ面
11e 第4のテーパ面
20 軸
21 環状溝
21a 側壁面(オイルシール側)
22 隙間
30 ハウジング
31 ハウジング内周面
40 オイル供給側環状隙間
41 オイルシール側環状隙間