(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】乳酸菌由来P8タンパク質の発現コンストラクトを含む大腸疾患の治療または予防用組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/86 20060101AFI20220902BHJP
C12N 15/67 20060101ALI20220902BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220902BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20220902BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220902BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20220902BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220902BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220902BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220902BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220902BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20220902BHJP
【FI】
C12N15/86 Z
C12N15/67 Z
A61K48/00
A61K38/16
A61K31/7088
A61P1/00
A61P35/00
A61P1/04
A61P9/10
A61P31/04
C12N15/31 ZNA
(21)【出願番号】P 2020567088
(86)(22)【出願日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 KR2020010432
(87)【国際公開番号】W WO2021049764
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】10-2019-0112682
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517002731
【氏名又は名称】セル バイオテック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】ミョンジュン・チョン
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/139229(WO,A1)
【文献】特開2019-141088(JP,A)
【文献】特開2006-254919(JP,A)
【文献】特表2019-519221(JP,A)
【文献】特表2019-521089(JP,A)
【文献】国際公開第2019/139227(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
C12P
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)プロモーター;および(b)前記プロモーターに作動的に連結されたP8タンパク質コーディングヌクレオチド配列を含
み、
前記P8タンパク質コーディングヌクレオチド配列は、配列番号3のヌクレオチド配列であり、
前記プロモーターは、真核細胞発現用プロモーターである、大腸疾患の治療または予防用P8タンパク質の発現コンストラクト。
【請求項2】
前記発現コンストラクトは、プラスミドベクターまたはウイルスベクターベースの発現コンストラクトであることを特徴とする、請求項1に記載のP8タンパク質の発現コンストラクト。
【請求項3】
(a)プロモーターに作動的に連結されたP8タンパク質コーディングヌクレオチド配列を含むP8タンパク質の発現コンストラクトの治療学的有効量;および(b)薬学的に許容される担体を含み、
前記P8タンパク質コーディングヌクレオチド配列は、配列番号3のヌクレオチド配列であり、
前記プロモーターは、真核細胞発現用プロモーターである、大腸疾患の治療または予防用薬学的組成物。
【請求項4】
前記発現コンストラクトは、プラスミドベクターまたはウイルスベクターベースの発現コンストラクトであることを特徴とする、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記大腸疾患は、大膓癌、大腸ポリープ、大腸炎、虚血性腸疾患、赤痢、腸内血管異形成、憩室症、過敏性大腸症侯群、およびクローン病からなるグループより選択されたいずれか1つ以上である、請求項4に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌由来P8タンパク質の発現コンストラクトおよびこれを含む大腸疾患の治療または予防用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2018年、米国で約145,600人の成人が大膓癌の診断を受けており、約51,020人が大膓癌で死亡した。米国で大膓癌5年生存率は約65%である。大膓癌は身体の他の部分に侵入したり広がりかねない。大膓癌の治療には手術、放射線療法、化学療法および標的療法の組合せが含まれる。大膓癌に対する化学療法は、進行を抑制または予防する天然、合成または生物学的物質を含む。しかし、多くの化学療法剤は正常細胞に毒性がある。
【0003】
深刻な副作用のない新たなバイオ治療剤を見出すために、プロバイオティクス(probiotics)に関する多くの研究が進められている。人間の腸内微生物とプロバイオティクスは一般的に安全と見なされるため、プロバイオティクスから分離されたタンパク質は抗-大膓癌効果を有し、かつ、全身毒性は減少させることができる。実際に、大膓癌を抑制するプロバイオティクス由来タンパク質は副作用がほとんどない(非特許文献1及び2)。一般的に食品等級のバクテリアは安全に摂取できる。歴史的に当該微生物は有害な病理的異常現象の発展とは関連がなかった。実際に、それらの健康に対する肯定的な影響はヒトと動物性食品の生産の脈絡できちんと文書化されている。したがって、プロバイオティクス由来タンパク質が相対的に安全と結論を出すことができる。
【0004】
大膓癌に対する新規の治療タンパク質を確認するために、実験室でプロバイオティクスが選別された(非特許文献3)。このような選別過程でラクトバチルスラムノサス(Latobacillus Rhamnosus、LR)KCTC 12202BPから分離された8kDaタンパク質(以下、「P8タンパク質」)を発見し、このタンパク質が大膓癌細胞の成長を抑制することが確認された。DLD-1細胞を用いてP8タンパク質が腫瘍の成長を抑制し、抗-増殖および抗-移動活性(anti-migration activity)を有することを発見した。しかし、このような抗癌活性は、P8タンパク質が細胞内部に効率良く浸透しないため、非常に弱かった。したがって、細胞内へのP8タンパク質の伝達を改善するための新たな治療法が要求される。
【0005】
本明細書で言及された特許文献および参考文献は、それぞれの文献が参照によって個別的で明確に特定されたものと同じ程度に本明細書に参照として組み込まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Widakowich,C.et al., A.Review:Side effects of approved molecular targeted therapies in solid cancers.Oncologist2007,12,1443-1455
【文献】Steidler,L.;Vandenbroucke,K.Genetically modified Lactococcus lactis:Novel tools for drug delivery.Int.J.Dairy Technol.2006,59,140-146.
【文献】An,B.C.;Ryu,Y.;Yoon,Y.-S.;Choi,O.;Park,H.J.;Kim,T.Y.;Chung,M.J.Colorectal cancer therapy using a Pediococcus pentosaceus SL4 drug delivery system secreting lactic acid bacteria-derived protein p8.Moll.Cells under review
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、P8タンパク質の抗癌活性を増大させる新たな薬物伝達システムを開発するために鋭意研究してきた。その結果、P8タンパク質を哺乳動物細胞で安定して発現させる遺伝子発現コンストラクトを開発し、この開発されたP8タンパク質の発現コンストラクトを大膓癌細胞で発現に成功すれば、P8タンパク質の大膓癌細胞に対する抗癌効果を向上させることができることを、実験的に確認して、本発明を完成した。
【0008】
そのため、本発明の目的は、(a)プロモーター;および(b)前記プロモーターに作動的に連結されたP8タンパク質コーディングヌクレオチド配列を含む、P8タンパク質の発現コンストラクトを提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、(a)プロモーターに作動的に連結されたP8タンパク質コーディングヌクレオチド配列を含むP8タンパク質の発現コンストラクトの治療学的有効量;および(b)薬学的に許容される担体を含む、大腸疾患の治療または予防用薬学的組成物を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的および技術的特徴は、以下の発明の詳細な説明、請求の範囲および図面によってより具体的に提示される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、本発明は、(a)プロモーター;および(b)前記プロモーターに作動的に連結されたP8タンパク質コーディングヌクレオチド配列を含む、P8タンパク質の発現コンストラクト(expression-construct)を提供する。
【0012】
本発明は、「P8タンパク質」を哺乳動物細胞内で、好ましくは、哺乳動物の癌細胞内で内因的に発現させてその抗癌活性を向上させるための発現システムに関する。
【0013】
本発明において、「P8タンパク質」は、本発明者によってラクトバチルスラムノサス(Latobacillus Rhamnosus、LR)KCTC 12202BPから分離された8kDaの大きさのタンパク質であり、優れた抗癌活性があることが確認された。
【0014】
本発明において、P8タンパク質コーディングヌクレオチド配列は、真核細胞における発現のためにコドン最適化(codon optimization)された配列である。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、本発明において、P8タンパク質コーディングヌクレオチド配列は、配列番号3のヌクレオチド配列である。
【0016】
本発明で使われる用語「発現コンストラクト(expression-construct)」は、発現目的のヌクレオチド配列および該配列の発現を誘導する発現配列、例えば、プロモーター(promoter)を含む発現のための最小限の要素(element)を意味する。このような発現コンストラクトは、好ましくは、転写調節配列-発現目的のヌクレオチド配列-ポリアデニル化配列を含むことができる。
【0017】
本発明で使われる用語「プロモーター(promoter)」は、タンパク質または核酸分子エンコーディングヌクレオチド配列または機能的RNAの発現を調節できるDNA配列を意味する。より好ましくは、本発明の「プロモーター(promoter)」は、真核細胞において発現目的の遺伝子(ポリヌクレオチド配列)の転写(transcription)を誘導できる転写調節配列を意味する。真核細胞において作動可能なプロモーター配列は、例えば、サイトメガロウイルスの即時初期型プロモーター、SV40のプロモーター(SV40後期型プロモーターおよびSV40初期型プロモーター)、HSV(herpes simplex virus)のtkプロモーター、アデノウイルス2主要後期型プロモーター(Adeno 2 major late promoter PAdml)、アデノウイルス2初期型プロモーター(PAdE2)、AAV(human parvo virusassociated virus)のp19プロモーター、エプスタインバールウイルス(EBV)プロモーター、ラウスサルコーマウイルス(RSV)プロモーター、ワクチニアウイルス7.5Kプロモーター、マウスのメタロチオネイン(metallothionein)プロモーター(MTプロモーター)、MMTV LTRプロモーター、HIVのLTRプロモーター、β-アクチンプロモーター、EF1アルファプロモーター、ヒトIL-2遺伝子のプロモーター、ヒトIFN遺伝子のプロモーター、ヒトIL-4遺伝子のプロモーター、ヒトリンポトキシン遺伝子のプロモーターおよびヒトGM-CSF遺伝子のプロモーター、そしてヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチン、またはヒトメタロチオネイン由来のプロモーターがあるが、これに限定されるものではない。
【0018】
本発明で使われる用語「作動的に連結された(operatively linked)」は、核酸発現調節配列(例えば、プロモーター配列)と他のヌクレオチド配列との間の機能的な結合を意味し、これによって、前記調節配列は、他のヌクレオチド配列の転写(trascription)および/または解読(translation)を調節する。
【0019】
本発明の発現コンストラクトには、転写終結配列として、ポリアデニル化配列が含まれ、例えば、ウシ成長ホルモンターミネータ(Gimmi,E.R.,et al.,Nucleic Acids Res.17:6983-6998(1989))、SV40由来ポリアデニル化配列(Schek,N,et al.,Mol.Cell Biol.12:5386-5393(1992))、HIV-1 polyA(Klasens,B.I.F.,et al.,Nucleic Acids Res.26:1870-1876(1998))、β-グロビンpolyA(Gil,A..et al,Cell49:399-406(1987))、HSV TK polyA(Cole,C.N.and T.P.Stacy,Mol.Cell.Biol.5:2104-2113(1985))またはポリオーマウイルスpolyA(Batt,D.B and G.G.Carmichael,Mol.Cell.Biol.15:4783-4790(1995))を含むが、これに限定されるものではない。
【0020】
また、本発明の発現コンストラクトには、選択標識として、当業界で通常用いられる抗生剤耐性遺伝子を含むことができ、例えば、アンピシリン、ゲンタマイシン、カルベニシリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、カナマイシン、ジェネティシン(G418)、ネオマイシン、またはテトラサイクリンに対する耐性遺伝子を含むことができる。
【0021】
本発明の発現コンストラクトは多様な形態で作製可能であり、例えば、プラスミド(plasmid)ベクターまたはウイルスベクター(viral vector)システムで作製されてもよい。
【0022】
本発明の他の態様によれば、本発明は、(a)プロモーターに作動的に連結されたP8タンパク質コーディングヌクレオチド配列を含むP8タンパク質の発現コンストラクトの治療学的有効量;および(b)薬学的に許容される担体を含む、大腸疾患の治療または予防用薬学的組成物を提供する。
【0023】
本発明の薬学的組成物において、「P8タンパク質の発現コンストラクト」に関する内容は、本発明の他の態様である、「(a)プロモーター;および(b)前記プロモーターに作動的に連結されたP8タンパク質コーディングヌクレオチド配列を含む、P8タンパク質の発現コンストラクト」に関して説明された内容と同一であるので、重複して説明しない。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、前記P8タンパク質コーディングヌクレオチド配列は、配列番号3のヌクレオチド配列である。
【0025】
本発明の他の実施形態によれば、前記プロモーターは、真核細胞発現用プロモーターである。
【0026】
本発明の他の実施形態によれば、前記発現コンストラクトは、プラスミドベクターまたはウイルスベクターベースの発現コンストラクトである。
【0027】
本発明の薬学的組成物において、用語「治療学的有効量」は、大腸疾患に対する治療または予防効果を達成するのに十分な量を意味する。
【0028】
本発明で使われる「薬学的に許容される担体」は、製剤時に通常用いられるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、およびミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。本発明の組成物は、前記成分のほか、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などを追加的に含んでもよい。
【0029】
本発明の薬学的組成物は、非経口投与が好ましく、例えば、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、皮下投与、または局所投与を利用して投与することができる。
【0030】
本発明の薬学的組成物の好適な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、疾病の症状の程度、食物、投与時間、投与経路、排泄速度、および反応感応性のような要因によって異なり、通常熟練した医師は目的の治療に効果的な投与量を容易に決定および処方することができる。
【0031】
本発明の薬学的組成物は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる方法によって、薬剤学的に許容される担体および/または賦形剤を用いて製剤化されることで、単位用量形態で製造されるか、または多用量容器内に入れて製造されてもよい。この時、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液または乳化液形態であるか、エキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤形態であってもよいし、分散剤または安定化剤を追加的に含んでもよい。
【0032】
本発明の一具体例において、「大腸疾患」とは、大腸に発生する疾病を総称する意味であって、好ましくは、大膓癌、大腸ポリープ、大腸炎、虚血性腸疾患、赤痢、腸内血管異形成、憩室症、過敏性大腸症侯群、クローン病などを含むが、これに限定されず、最も好ましくは、大膓癌である。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、乳酸菌由来P8タンパク質の発現コンストラクトおよびこれを含む大腸疾患の治療または予防用組成物に関する。本発明のP8タンパク質の発現コンストラクトは、P8タンパク質を癌細胞内で内因的に発現させることで、細胞周期停止活性により抗癌効果を大きく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1A】コドン-最適化されたP8タンパク質コーディング遺伝子をpCI-neo発現プラスミド(EcoRI、NotI)にクローニングした模式図である。
【
図1B】P8タンパク質の内因性発現をウェスタンブロッティングで確認した結果である[レーン1:r-p8(100ng)、レーン2:DLD-1細胞抽出物(30μg)、レーン3:EV細胞株抽出物(30μg)、レーン4:P8細胞株抽出物(30μg)]。GAPDHは内部対照群として用いた。
【
図1C】内因性P8タンパク質の発現をImageXpressマイクロ共焦点顕微鏡(60X)によって細胞内で観察した結果である。細胞を染色してp8(緑色)、細胞膜マーカーEpCAM(赤色)または核(DAPI:青色)を検出した。
【
図1D】核においてP8タンパク質の内因性発現を確認した結果である。上パネルは核抽出物のウェスタンブロッティングの結果であり、下パネルは核抽出物のELISA分析の結果である。Lamin B1を内部対照群として用いた。
【
図1E】分離された核分画における細胞質の汚染がないことをウェスタンブロッティングにより確認した結果である[レーン1:DLD-1細胞溶解物(30μg)、レーン2:細胞質分画(30μg)、レーン3:核分画(30μg)]。GAPDHは細胞質プローブとして用いられた。
【
図2A】内因性発現によって内因性P8タンパク質発現の抗癌活性を向上させるか否かを調べるために、MTT分析により抗増殖効果を調べた結果である。
【
図2B】P8タンパク質の内因性発現後におけるコロニー形成の測定結果である。クリスタルバイオレットで染色して決定した。
【
図2C】P8タンパク質の内因性発現による抗-移動活性(anti-migration activity)を測定した結果である。抗-移動活性は傷治癒分析により決定した。傷回復をイメージJを用いて分析した。
【
図2D】P8タンパク質の内因性発現の抗癌効能をImageXpressマイクロ共焦点顕微鏡下で調べた結果である。生細胞/死細胞のマーカーとしてSyto9(緑色)/EthD-1(赤色)を、または総細胞マーカーとしてHoechst(青色)を用いて細胞を染色した。
【
図2E】外因性P8タンパク質の処理によるアポトーシス特性を測定した結果である。P8タンパク質(40μM)を、72時間、DLD-1細胞(3×10
3細胞/ウェル)とともにインキュベーションした後、2つの細胞[対照群およびr-p8(40μM)処理]をLive/Dead細胞で染色した。マーカーSyto9(緑色)/EthD-1(赤色)、または全体セルマーカーHoechst(青色)を用いた。
【
図3A】DLD-1細胞においてG2停止に関連する分子に対する内因性P8タンパク質発現の効果を示すウェスタンブロッティングの結果である(EV、空ベクター)。
【
図3B】細胞周期に対する内因性P8タンパク質発現の効果を決定するために、細胞を回収し、フローサイトメトリー分析法で行った結果である。内因性P8タンパク質はG2-期においてDLD-1細胞の停止を誘導した。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本明細書で説明された具体的な実施例は本発明の好ましい実施形態または例示を代表する意味であり、これによって本発明の範囲が限定されない。本発明の変形と他の用途が本明細書の特許請求の範囲に記載の発明の範囲を逸脱しないことは当業者にとって自明である。
【実施例】
【0036】
実験方法
1.バクテリア菌株およびその培養
P8タンパク質はヒトの糞便から分離したラクトバチルスラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)(LR)KCTC 12202BP菌株から得た。LRはプロバイオティック(probiotic)であり、セルバイオテック(Cell Biotech Co.,Ltd(金浦、韓国)で保持されている培養から得た。P8タンパク質の内因性発現のための伝達運搬体としてpCI-neo発現ベクターを使用した。細胞はDe Man,Rogosa and Sharpe agar(MRS)broth(Difco,Detroit,MI,USA)を用いて37℃で18~24時間培養した。E.coli(Escherichia coli)菌株DH5αおよびC41(DE3)(Novagen,Madison,WI,USA)はLuria-Bertani(LB)broth(Difco)を用いて37℃で18~24時間培養した。
【0037】
【表1】
前記表1の配列において、下線部位は制限酵素切断位置である。
【0038】
2.コドン最適化His-タグP8タンパク質の作製、E.coliにおける発現および精製
E.coli細胞においてP8タンパク質を発現させるために、ヘキサ-ヒスチジン(6X His)タグおよびTobacco Etch Virus(TEV)プロテアーゼ切断部位(305bp)を含む、コドン最適化されたP8タンパク質遺伝子を合成した(Cosmogenetech,Inc.(Seoul,Korea))(表1)。P8タンパク質は発現ベクターpET-28aを用いて発現させた。P8のコンストラクトを、M9培地にO.D.値0.6に至るまで培養したE.coli菌株C41(DE3)に形質転換させた。(SeMet:selenomethionine-substituted)-P8タンパク質の過発現は0.5mM IPTGを添加して4時間行った。
細胞を収集した後、20mM HEPES(pH7.5)/150mM NaClで再懸濁させた。超音波処理後に、遠心分離して細胞上澄液を得た。P8タンパク質はNi2+-NTAアガロース(Qiagen,Valencia,CA)に結合させ、20mM HEPES(pH7.5)/150mM NaCl/20mMイミダゾールで洗浄して精製した。6X Hisタグは1mM DTTの存在下でTEVプロテアーゼによって除去した。SeMet P8タンパク質の均一性はサイズ排除クロマトグラフィー(HiLoad 26/60 Superdex 200pg(GE Healthcare)equilibrated with 20mM HEPES(pH7.5)/150mM NaCl)を用いてチェックした。
【0039】
3.DLD-1細胞内におけるコドン-最適化P8タンパク質の発現
哺乳動物細胞内において発現のためのP8タンパク質遺伝子コドンを合成した(Cosmogenetech,Inc.)。P8 DNA断片(236bp)をEcoRI/NotIで切断した後、pCI-neoベクターのEcoRI/NotIサイト内にクローニングした(Promega,Madison,WI)(表1)。作製したコンストラクトをその増幅のためにE.coli DH5αに形質転換させた。使用したすべての制限酵素はNew England BioLabs(Ipswich,MA)から購入した。大膓癌細胞(DLD-1)をプラスミドDNA(pCI-neoおよびpCI-neo-p8)で形質転換させた。形質転換前に、DLD-1細胞はウェルあたり7×105細胞の密度で6-ウェルプレートにプレーティングした。一晩培養した後、細胞をLipofectamine 3000(Invitrogen)を用いて製造会社の指示書に従って形質転換させた。形質転換された細胞は抗生剤G-418(Sigma,St.Louis,MO,USA)を含むRPMI1640培地で選別した。
【0040】
4.細胞培養
ヒトCRC(colorectal cancer;大膓癌)細胞株DLD-1はKorean Cell Line Bank(KCLB;Seoul,Korea)から購入して、10%ウシ胎児血清(Gibco)および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)を含むRPMI-1640培地(Gibco,Grand Island,NY)で、5%CO2/37℃で保持した。
【0041】
5.細胞増殖分析
DLD-1細胞株(pCI-neo(EV)およびpCI-neo-P8(P8))を96-ウェルプレート(1×103細胞/ウェル)に接種し、37℃でインキュベーションした。72時間後に、細胞生存能をMTT分析(Cell Counting Kit-8;Dojindo Laboratories,Tokyo,Japan)により測定した。吸光度はmultifunctional microplate reader(SpectraMax M5;Molecular Devices,Sunnyvale,CA,USA)を用いて測定した。
【0042】
6.傷治癒分析(Wound healing assay)
DLD-1細胞株(EVおよびP8)を6-ウェルプレート(ウェルあたり5×106細胞)に接種した。接種24時間後に、ピペットチップを用いてプレートの中央を引っ掻いた。次いで、細胞をホスフェート緩衝食塩水(PBS)で3回洗浄し、3日間、37℃で培養した。傷治癒は顕微鏡(Nikon,Tokyo,Japan)で毎日観察した。
【0043】
7.ELISA分析
最適化されたELISA手順は次のように行った:96-ウェルポリスチレンプレート(SPL Life Sciences、韓国・京畿道・抱川市)を100μLの希釈した抗-P8 IgG(1:5500)(ポリクロナール-ウサギ;Young In Frontier Co.,Ltd、韓国、ソウル)を用いて、ELISAコーティング緩衝液(Bethyl Laboratories,Montgomery,TX,USA)内で4℃で一晩コーティングした。次いで、ウェルを300μL洗浄緩衝液[0.05%Tween-20を有する1X Tris-Buffered-Saline緩衝液(TBS)(TBS-T)]で2回洗浄した後、300μLブロッキング緩衝液(1X PBSおよび5%ウシ胎児血清(FBS;Gibco))で常温で1時間ブロッキングした。タンパク質サンプル(核抽出物:100μL)を添加する前に、300μLの洗浄緩衝液でウェルを3回洗浄した後、室温で150分間培養した。サンプルを結合した後、ウェルを300μLの洗浄緩衝液(TBS-T)で4回洗浄した後、室温で90分間、1X PBS/5%FBS中に100μL抗-P8 IgG-ビオチン(Young In Frontier Co.,Ltd)を添加した。次に、ウェルを300μLの洗浄緩衝液(TBS-T)で4回洗浄した後、常温で30分間、1X PBS/2.5%FBS内の100μLストレプトアビジン-HRP(166pg/ml)(Young In Frontier Co.,Ltd)を添加した。次に、ウェルを300μLの洗浄緩衝液(TBS-T)で4回洗浄した後、100μLのテトラメチルベンジジン(TMB)1溶液(Bethyl Laboratories;Montgomery,TX,USA)を室温の暗(dark)条件で20分間添加した後に発色させた。50μLの停止緩衝剤(Bethyl Laboratories)を添加して反応を停止させた。多機能マイクロプレートリーダー(SpectraMax M5;Molecular Devices)を用いて吸光度を測定した。P8タンパク質に対する標準曲線を構築するために、マウス血清(2倍希釈:1000ng/mL~15.625ng/mL)を3回分析した。それぞれのサンプルを2つの異なる希釈で分析し、2回行った。内因性P8タンパク質についての結果はナノグラム/ミリリットル(ng/mL)で報告された。
【0044】
8.ウェスタンブロッティング分析
DLD-1細胞をプロテアーゼ抑制剤カクテル(Roche)を含有するRIPA溶解緩衝液に溶解させた。次に、タンパク質(計40μg)をソジウムドデシルスルフェート-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって分離し、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜(Amersham Bioscience,Piscataway,NJ,USA)に移した。ブロッティングされた膜を5%脱脂乳/T-TBSで遮断した後、適切な一次抗体(Cell Signaling Technology,Danvers,MA,USA)とともに4℃で一晩インキュベーションした;すべての抗体は1:1000で希釈した。膜をT-TBSで3回(各15分間)洗浄した後、5%脱脂乳/T-TBSで遮断した。次いで、膜をHRP-連結された二次抗体(Cell Signaling Technology)とともに4℃で1時間培養した。内部対照群としてグリセルアルデヒド3-ホスフェート脱水素酵素(GAPDH)を使用した。タンパク質バンドはEnhanced Chemiluminescence Kit(Millipore,Billerica,MA,USA)を用いて検出した後、Chemi-docTM Touch Imaging System(Bio-Rad Laboratories,CA,USA)を用いて放射能写真撮影を行った。
【0045】
9.ImageXpressマイクロ共焦点顕微鏡を用いた免疫細胞化学
大膓癌細胞(DLD-1)を6-ウェルプレートに配置されたカバースリップに接種した。24時間後、P8タンパク質(0~40μM)を追加的に72時間各ウェルに添加した。細胞を室温で3%パラホルムアルデヒド(PFA)中に15分間固定させた後、PBSで3回洗浄した。0.2%Triton X-100/PBSで2分間培養して細胞を透過させた後、洗浄した。背景信号を減少させるために、細胞をPBS中に4%ウシ胎児血清アルブミン(BSA)で30分間ブロッキング(blocking)した。次いで、細胞をウサギポリクロナール抗-P8抗体(Young In Frontier Co.,Ltd)とともに4℃で一晩インキュベーションするか、またはマウスモノクロナール抗-EpCAM抗体(Cell Signaling Technology)とともに4℃で2時間インキュベーションした。タンパク質の局在化(localization)はFITC-接合されたヤギ抗-ウサギIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories,Inc.,PA,USA,West Grove)およびAlexa Fluor568-接合されたロバ抗-マウスIgG(Invitrogen)を用いて視覚化した。核染色は、細胞を5μg/mL Hoechst33,258(Sigma)とともに室温で1時間インキュベーションし、PBSで3回洗浄した後、装着した。イメージはImageXpressマイクロ共焦点顕微鏡(Molecular Devices)を用いて得た。
【0046】
10.フローサイトメトリー分析(Flow cytometry assay)
細胞周期段階の分布に対する内因性P8タンパク質の効果を調べるために、細胞をフローサイトメトリー分析により分析した。DLD-1細胞株(EVおよびP8)をプレーティングし、48時間培養した。DLD-1細胞をトリプシン処理によって培養皿から除去し、遠心分離して収集した後、PBSで洗浄した。各サンプルから5×105個の細胞を氷-冷却させた70%エタノールに固定させ、30分間以上氷上でインキュベーションした。次いで、細胞をPBSで洗浄し、400μL PBSに再懸濁させ、50μL RNAse(1mg/mL)および50μLヨウ化プロピジウム(0.4mg/ml)を添加した。インキュベーション後(常温で1時間)、染色された核をフローサイトメーター(FACSCalibur,BD Biosciences,Glostrup,Denmark)で分析した。細胞周期の分布を分析した。
【0047】
実験結果
1.内因性(endogenous)P8タンパク質の発現
P8タンパク質の抗癌活性をより増大させるために、コドン-最適化させた配列とpCI-neoベクターを用いて哺乳動物細胞においてP8タンパク質を内因的に(endogenously)発現させた(
図1A)。ウェスタンブロッティング方法で内因性P8タンパク質の発現を測定し(
図1B)、ImageXpress Micro共焦点顕微鏡を用いて内因性P8タンパク質の細胞内の位置を視覚化した(
図1C)。内因的に発現したP8タンパク質は細胞質および核ともにおいて観察された(
図1C)。核抽出物のウェスタンブロッティング分析およびELISA分析(below panel)により、内因的に発現したP8タンパク質が細胞質から核に移動したことを確認した(
図1Dおよび
図1E)。
【0048】
2.内因性P8タンパク質の発現による抗癌活性の著しい増加
内因性P8タンパク質の発現がインビトロ(in vitro)で抗癌特性を増加させるかを評価するために、癌細胞の増殖を抑制するかについて測定した。実験結果、内因性P8タンパク質の発現によって腫瘍細胞の増殖を~40%減少させたが(
図2A)、この結果は、40μMの外因性P8タンパク質の処理による効果よりも2倍大きい効果であった。また、内因性P8タンパク質の発現は、対照群と対比して、DLD-1細胞のコロニー形成(colony formation)を抑制し(
図2B)、移動活性(migration activity)を抑制した(
図2C)。このような実験結果により、P8タンパク質の抗癌活性は細胞内に移動するタンパク質の量に依存することが分かった。
P8タンパク質が多様な信号伝達経路に及ぼす影響を測定するために、敏感な表現型の増殖に関連する信号伝達経路を検査した。まず、P8タンパク質がDLD-1細胞においてアポトーシス(apoptosis)または細胞周期停止(cell cycle arrest)を誘導するか否かを検査した。40μMの外因性P8タンパク質で処理した後の死滅細胞の数は対照群のものと類似する程度であった(
図2E)。しかし、死滅細胞の数は外因性P8タンパク質の処理濃度が増加した後に変化した。次いで、内因性P8タンパク質の発現の影響を検査した(
図2D)。処理群および対照群における死滅細胞の数は類似していたが、これは、内因性P8タンパク質がアポトーシス(apoptosis)を誘導しないことを意味する。
【0049】
3.DLD-1細胞における抗癌信号伝達経路上に及ぼすP8タンパク質の影響
次いで、発明者らは、細胞周期関連タンパク質の発現を検出するためのウェスタンブロッティングを利用して、内因性P8タンパク質の発現が細胞周期に及ぼす影響を調べた(
図3A)。内因性P8タンパク質の発現がDLD-1細胞内においてCyclin B1およびそのパートナータンパク質であるCdk1の発現を強く減少させることを発見した。また、Cyclin B1/Cdk1を抑制するp21の発現が著しく増加することを発見した。p21のポジティブアップストリーム調節子であるp53の発現も誘導されることが観察された。このような実験結果は、内因性P8タンパク質がp53-p21信号伝達経路上にブレーキをかけて、G2においてDLD-1細胞を停止させる結果をもたらすということを暗示する。細胞周期上に内因性P8タンパク質の発現が及ぼす影響を評価するために、フローサイトメーターを用いて変化を測定した。内因性P8タンパク質の発現はG2において著しい成長停止を誘導した(
図3B)。
【0050】
以上、本発明の特定の部分を詳しく記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は単に好ましい実施形態に過ぎず、これによって本発明の範囲が制限されないことは自明である。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付した請求項とその等価物によって定義される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、乳酸菌由来P8タンパク質の発現コンストラクトおよびこれを含む大腸疾患の治療または予防用組成物に関する。
【配列表】