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特許7134359卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性の診断用または予測用のバイオマーカー、及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性の診断用または予測用のバイオマーカー、及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6883 20180101AFI20220902BHJP
【FI】
C12Q1/6883 Z ZNA
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021533131
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 KR2019011161
(87)【国際公開番号】W WO2020046045
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】10-2018-0104044
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519137394
【氏名又は名称】チャ ユニバーシティ インダストリー-アカデミック コオペレーション ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リ,キュン ア
(72)【発明者】
【氏名】クン,ミ キョン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ス ヨン
【審査官】池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-525350(JP,A)
【文献】国際公開第2017/171048(WO,A1)
【文献】Molecular and Cellular Neuroscience,2018年04月,vol.88,p.130-137
【文献】Oncology Reports,2017年,vol.37,p.2743-2750
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロRNA-446(miRNA-4463)、またはmiRNA-4463の模倣体の発現レベルを測定する製剤を含む卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性の診断用または予測用の組成物であって、
前記模倣体は、
a)miRNA-4463の成熟した配列を含むポリヌクレオチドと、
b)miRNA-4463のpre-miRNA(前駆体)配列を含むポリヌクレオチドと、
c)miRNA-4463のpri-miRNA(初期転写体)配列を含むポリヌクレオチドとのうちいずれか一つである、前記組成物
【請求項2】
前記miRNA-4463は、配列番号1を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記miRNA-4463は、CYP19A1またはESR1(ER-α)のmRNAを標的にする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記miRNA-4463は、顆粒細胞において、エストロゲンの合成を抑制する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性を診断または予測することにより、卵巣機能不全または早期閉経を診断または予測するためのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
miRNA-4463、またはmiRNA-4463の模倣体を含む、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性の診断用または予測用のキットであって、
前記模倣体は、
a)miRNA-4463の成熟した配列を含むポリヌクレオチドと、
b)miRNA-4463のpre-miRNA(前駆体)配列を含むポリヌクレオチドと、
c)miRNA-4463のpri-miRNA(初期転写体)配列を含むポリヌクレオチドとのうちいずれか一つである、前記キット
【請求項7】
個体から分離された生物学的試料において、miRNA-4463、またはmiRNA-4463の模倣体の発現レベルを測定する段階と、
前記発現レベルを、対照群で測定されたmiRNA-4463、またはmiRNA-4463の模倣体の発現レベルと比較する段階と、を含む、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性の診断または予測に必要な情報を提供する方法であって、
前記模倣体は、
a)miRNA-4463の成熟した配列を含むポリヌクレオチドと、
b)miRNA-4463のpre-miRNA(前駆体)配列を含むポリヌクレオチドと、
c)miRNA-4463のpri-miRNA(初期転写体)配列を含むポリヌクレオチドとのうちいずれか一つである、前記方法
【請求項8】
前記試料は、血液、卵胞液、顆粒細胞または卵球細胞である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性を診断または予測することにより、卵巣機能不全または早期閉経を診断または予測するためのものである、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性の診断用または予測用のバイオマーカー、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、補助生殖技術の飛躍的な発展にもかかわらず、体外受精施術及び胚芽移植術の施行後、妊娠成功率が30~40%ほどに過ぎない実情である。そのような低い妊娠成功率の理由は、過排卵誘導に反応が微弱な卵巣機能が低下された患者(卵巣低反応群)における、体外受精後の妊娠成功率が低いためである。すなわち、全体妊娠率を上昇させる努力に最大の障害要因として作用するのが、卵巣機能不全と認識される。
【0003】
2011年4月、欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)は、次の3項目のうち2項目に該当する場合として、診断基準を提示した:母体年齢40歳以上、またはpoor responseの他の危険要素がある場合、以前のpoor response(3個以下の卵子数)、非正常的な卵巣予備能検査(ovarian reserve test)(AFC<5~7)またはAMH<0.5~1.1ng/mL)。卵巣低反応群において、人為的に過排卵を誘導しても、作られる卵子の個数が1~3個に過ぎない。結局、卵巣低反応群が、対照群と同一量の卵子を集めるためには、さらに長間過、排卵誘導注射を受けなければならないために、女性が耐えなければならない注射ストレスや経済的負担が大きくなり、それは、難妊治療を放棄させてしまう原因である。
【0004】
従って、性腺刺激ホルモンを利用した過排卵に不良な反応を示す「卵巣低反応群」の成功に至る妊娠のための適切な治療は、最近、不妊患者の治療において、最大課題中の一つとして残されている。これまで、「卵巣低反応」患者において、卵巣刺激に対する効果を上昇させるための多様な方法が提案されていた。例えば、過排卵誘導時に使用される外因性性腺刺激ホルモン容量の増加、クロミフェンクエン酸塩(clomiphene citrate)とhMGとの併用療法、性腺刺激ホルモンと遊離ホルモン促進剤との長期併合療法または超短期療法、性腺刺激ホルモン遊離ホルモン拮抗剤の使用、成長ホルモンの投与などがあるが、それらのうちいずれの方法も、正常反応群で観察される臨床結果には、顕著に及ぶことができない状態である。また、GnRHアゴニストまたはGnRHアンタゴニストを活用した方法が利用されており、その他性腺刺激ホルモンの容量を増加させたり、DHEA、レトロゾール(letrozole)、L-アルギニンのような多様な薬剤を追加したりする方法などが報告されている。また、PTEN阻害剤を使用した卵巣組織内原始卵胞の活性化、組織の生体移植及び卵胞発達誘導、成熟卵子の採集、及び体外受精と胚芽移植とを介する妊娠の成功した事例が発表されているが、非常に複雑な過程に比べ、低い成功率に留まっており、まだ一般的に適用し難い方法である。
【0005】
一方、卵巣低反応というのは、試験管ベビー施術のために過排卵注射を受けた後、卵子採取を行ったにもかかわらず、卵子が3個以下に出たり、さまざまな診断結果、そのような状況が予測されたりする場合を言う。そのような卵巣低反応群の場合、ほとんど卵巣の機能自体が顕著に低くなった場合が多く、大体のところ、妊娠率も低い。一般的に、卵巣低反応は、ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)刺激の間、超音波スキャン上で観察される成長卵胞数を考慮して診断する。しかし、診断に対する具体的なマニュアル(測定時点、成長卵胞の直径基準)の不在により、卵子回収量(3~6個未満)をおいて、卵巣低反応と診断した。このとき、ゴナドトロピンに対する卵巣の低反応は、一時的に起こりうる現象であり、追って、ホルモン投与量を調節したり、甚だしくは、同一量を投与したりしても再発しないものでもある。発表された研究によれば、卵巣低反応を見せた女性のうち約1/3が次のサイクルで正常に過排卵が起きると知られている。そのように、周期別に、成長卵胞数の多様な起伏が示される現象も、卵巣低反応を診断する過程に必ず考慮されなければならない要素である。
【0006】
そのように、互いに違う基準をもって、「卵巣機能低下」を定義したために、卵巣機能不全を有する卵巣低反応群、または早期閉経の予防、診断または予測のためのバイオマーカーを発掘する努力が必要な実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性を診断または予測することができるバイオマーカーに係り、マイクロRNA-4464(miRNA-4463)またはその模倣体の発現レベルを測定する製剤を含む組成物、キット、前記miRNA-4463またはその模倣体の用途、それを利用した卵巣のFSHに対する反応性を診断する方法、または卵巣のFSHに対する反応性を診断または予測するための情報を提供する方法を提供する。
【0008】
他の様相は、卵巣機能不全または早期閉経を診断または予測することができるバイオマーカーに係り、miRNA-4463またはその模倣体の発現レベルを測定する製剤を含む組成物、キット、前記miRNA-4463またはその模倣体の用途、それを利用した卵巣機能不全または早期閉経を診断する方法、または卵巣機能不全または早期閉経を診断または予測するための情報を提供する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一様相は、マイクロRNA-4464(miRNA-4463)、miRNA-4463、miRNA-130-3p、miR-185-5p、miRNA-329-3p、及びそれらの模倣体からなる群から選択された1以上の発現レベルを測定する製剤を含む卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH:follicle-stimulating hormone)に対する反応性の診断用または予測用の組成物を提供する。
【0010】
他の様相は、個体から分離された試料において、miRNA-4463、miRNA-130-3p、miR-185-5p、miRNA-329-3p、及びそれらの模倣体からなる群から選択された1以上の発現レベルを測定する段階を含む個体の卵巣機能不全(ovarian dysfunction)個体のFSHに対する反応性、卵巣機能不全、または早期閉経を診断または予測する方法を提供する。
【0011】
前記方法は、個体から分離された試料において、miRNA-4463、miRNA-130-3p、miR-185-5p、miRNA-329-3p、及びそれらの模倣体からなる群から選択された1以上の発現レベルを測定する段階と、前記測定された発現レベルを正常対照群で測定された同一遺伝子の発現レベルと比較する段階と、前記発現レベルが対照群の発現レベルと比較し、低いか、あるいは高い場合、個体の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性が不良であると決定する段階を含む個体の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性、卵巣機能不全、または早期閉経を診断または予測する方法を提供する。
【0012】
さらに他の様相は、miRNA-4463、miRNA-130-3p、miR-185-5p、miRNA-329-3p、及びそれらの模倣体からなる群から選択された1以上の発現レベルを測定する製剤の卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性を診断または予測するためのmiRNAの用途を提供する。
【0013】
本明細書において、用語「マイクロアールエヌエイ(マイクロRNA、microRNA、miRNA、mir)」は、特定塩基配列(または、配列番号)で示されるmiRNAだけではなく、前記miRNAの前駆体(pre-miRNA)、初期転写体(pri-miRNA)、及びそれらと生物学的機能が同等なmiRNA、例えば、同族体(すなわち、ホモログまたはオーソログ)、遺伝子多型のような変異体、及び誘導体を含む。そのような前駆体、初期転写体、同族体、変異体または誘導体は、具体的には、miRBase release 20(http://WWW.mirbase.org/)によって同定することができる。
【0014】
また、本明細書においてmiRNAは、mir遺伝子の遺伝子産物でもあり、そのような遺伝子産物は、成熟したmiRNA(例えば、前記のようなmRNAの翻訳抑制に関与する15~25塩基または19~25塩基の非コーディングRNA)、またはmiRNA前駆体またはmiRNA転写体(例えば、pre-miRNAまたはpri-miRNA)を含む。
【0015】
一具体例において、前記それらの模倣体は、a)miRNAの成熟した配列を含むポリヌクレオチド、b)miRNAのpre-miRNA(前駆体)配列を含むポリヌクレオチド、及びc)miRNAのpri-miRNA(初期転写体)配列を含むポリヌクレオチドのうちいずれか一つでもある。
【0016】
一具体例において、miRNA-4463の模倣体は、a)miRNA-4463の成熟した配列を含むポリヌクレオチド、b)miRNA-4463のpre-miRNA(前駆体)配列を含むポリヌクレオチド、及びc)miRNA-4463のpri-miRNA(初期転写体)配列を含むポリヌクレオチドのうちいずれか一つでもある。
【0017】
一具体例において、前記miRNA-4463またはmiRNA-4463の模倣体は、配列番号1を含むポリペプチドでもある。前記配列は、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性を診断するのにおいて、一定程度変形が可能である。本技術分野の当業者であるならば、そのような人為的な変形により、80%以上、望ましくは、90%以上、さらに望ましくは、95%以上、もっとも望ましくは、98%の相同性が維持される塩基配列が、本発明で目的とする卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性予測マーカー(marker)として、正常個体と卵巣非反応性個体との発現量差を有意に比較することができる限り、前記塩基配列と均等であるということを容易に理解するであろう。
【0018】
本明細書において、卵巣の「卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性」は、卵巣が、卵胞刺激ホルモン(FSH)に対して反応するか否かということ、またはその程度を称することができる。一様相において、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性は、顆粒細胞の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性測定を介して測定することができる。本明細書において、「顆粒細胞(granulosa cells)」は、卵胞内の顆粒細胞を称することができる。卵子の成功に至る成熟のためには、卵子と均衡を合わせた卵球細胞及び顆粒細胞の正常な分裂と成長とが非常に重要である。しかし、女性の卵子をすぐ研究に使用することはできないために、卵子周辺にあり、卵子成熟に重要な役割を行う卵胞内顆粒細胞を対象として研究しなければならない。しかし、該顆粒細胞は、卵胞外に出る場合、すぐ黄体化が起こる特性を有するので、顆粒細胞自体の特性研究に困難な細胞と公知されている。
【0019】
前記卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性は、卵巣が卵胞刺激ホルモン(FSH)に反応し、エストロゲンを形成するか否かということ、または生成程度を称することができ、例えば、顆粒細胞が卵胞刺激ホルモン(FSH)に反応し、エストロゲンを形成するか否かということ、またはその程度を測定することによって評価することができる。該顆粒細胞は、卵胞刺激ホルモン(FSH)に反応し、エストロゲンを形成し、卵胞の発達を調節する役割を遂行すると知られている。卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性異常により、エストロゲン形成に異常が生じ、卵巣機能不全や早期閉経が発生しうる。結果として、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性を事前に診断または予測するならば、卵巣機能低下によって発生する疾病、例えば、卵巣機能不全や早期閉経を診断または予測することができる。
【0020】
一具体例において、miRNA-4463またはその模倣体の発現レベルが高い状態は、卵巣が卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性がないか、あるいは低い状態を意味しうる。
【0021】
一具体例において、miRNA-4463またはその模倣体の発現レベルが低い状態は、卵巣が卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性があるか、あるいは高い状態を意味しうる。
【0022】
本明細書において、「診断」は、病理状態の存在または特徴を確認することを意味する。本発明において、前記診断は、個体において、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性を確認することとも解釈される。
【0023】
本明細書において、用語「マーカー」またはバイオマーカーとは、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性を予測することができる物質であり、顆粒細胞において、卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性が異なって示される代謝体、ポリペプチド、蛋白質または核酸、遺伝子、脂質、糖脂質、糖蛋白質または糖のような有機生体分子を含む。本発明におけるマーカーは、miRNA-4463またはその模倣体でもある。
【0024】
本明細書において、「核酸のレベルを測定する製剤」は、試料に含まれた標的遺伝子の発現いかんを確認するために、前記標的遺伝子から転写されたmRNAのレベルを測定する方法に使用される製剤を意味する。前記「製剤」は、試料に含まれたmiRNA-4463、その模倣体またはその断片の発現いかんを確認する方法に使用される製剤を意味するが、望ましくは、RT-PCR、競争的RT-PCR(competitive RT-PCR)、リアルタイムRT-PCR(real-time RT-PCR)、RNase保護分析法(RPA:RNase protection assay)、ノーザンブロッティング(northern blotting)、遺伝子チップ分析法のような方法に使用される標的遺伝子に特異的に結合することができるプライマーまたはプローブにもなるが、特別にそれらに制限されるものではない。本明細書において、用語「プライマー」とは、短い自由3末端水酸化基(free 3’ hydroxyl group)を有する核酸配列であり、相補的なテンプレート(template)と、塩基対(base pair)を形成することができ、テンプレート鎖コピーのための開始地点として機能を行う短い核酸配列を意味する。該プライマーは、適切な緩衝溶液及び温度において、重合反応(すなわち、DNAポリメラーゼまたは逆転写酵素)のための試薬、及び異なる4種ヌクレオシド三リン酸の存在下で、DNA合成が開始されうる。本明細書において、用語「プローブ」とは、遺伝子またはmRNAと特異的結合をなすことができる、短くは、数塩基、あるいは長くは、数百塩基に該当するRNAまたはDNAのような核酸断片を意味するが、オリゴヌクレオチド(oligonucleotide)プローブ、一本鎖DNA(single stranded DNA)プローブ、二本鎖DNA(double stranded DNA)プローブ、RNAプローブのような形態にも作製され、さらに容易に検出するためにっもラベリングされる。前記プライマーまたはプローブは、ホスホロアミダイト固体支持体方法、またはその他広く公知された方法を使用し、化学的に合成することができる。そのような核酸配列は、また、当該分野に公知された多くの手段を利用して変形させることができる。そのような変形の非制限的な例としては、メチル化、キャップ化、天然ヌクレオチド1以上の同族体への置換、及びヌクレオチド間の変形、例えば、荷電されていない連結対(例:メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミデート、カルバメートなど)、または荷電された連結対(例:ホスホロチオエート、ポスポロジチオエート)への変形がある。
【0025】
前記miRNA-4463は、CYP19A1(cytochrome P450 family 19 subfamily A member 1)またはESR1(ER-α)のmRNAを標的にするものでもある。CYP19A1は、顆粒細胞内において、最終的に17β-エストロゲンを合成するエストロゲン合成酵素(aromatase)である。17β-エストロゲンは、実質的に、生物学的機能を行うエストロゲンのうち一つであるステロイドホルモンであり、細胞内受容体あるいは核数溶体であるESR1(ER-α)及びESR2(ER-β)を介し、遺伝子発現を調節する。
【0026】
前記miRNA-4463は、顆粒細胞において、エストロゲン合成を抑制するものでもある。具体的には、該顆粒細胞において、CYP19A1またはESR1(ER-α)のmRNAを標的にすることにより、エストロゲン合成を抑制することができる。
【0027】
前記組成物において、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性を診断または予測することにより、卵巣機能低下によって発生する疾病、例えば、卵巣機能不全または早期閉経を診断または予測することができる。前記「卵巣機能不全」は、卵巣機能が正常に作用しない場合に発生するものであり、排卵性周期不定症、黄体機能不全症、無排卵性周期不定症などにも分類される。該卵巣機能不全は、卵巣低反応と相互交換的に使用することができ、試験管ベビー施術のために、過排卵注射を受けた後、卵子採取をしたにもかかわらず、卵子が3個以下に出たり、そのような状況が予測されたりする状態を意味しうる。前記「早期閉経」は、普通レベルより早く閉経がもたらされる現象を称する。女性が加齢により、卵巣の機能が中断され、エストロゲンの生成が減り、月経が止まるが、それを閉経と言う。正常には、閉経は約45歳から56歳の間に起こるが、早期閉経は、40歳以前に閉経がもたらされることを臨床的基準で定めており、患者において、卵胞刺激ホルモン分泌が増大し、エストロゲン分泌が減るという特徴を示す。
【0028】
前記組成物は、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性予測に必要な試料をさらに含んでもよい。
【0029】
さらに他の様相は、マイクロRNA-4464(miRNA-4463)、またはmiRNA-4463の模倣体(mimic)の発現レベルを測定する製剤を含む卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性の診断用または予測用のキットを提供する。
【0030】
一具体例において、前記キットは、RT-PCRキットでもあるが、それに制限されるのではない。前記RT-RCPキットは、前記遺伝子に対する特異的なそれぞれのプライマー対以外にも、テストチューブ、または他の適切なコンテナ、反応緩衝液(pH及びマグネシウム濃度は、多様である)、デオキシヌクレオチド(dNTPs)、Taq-ポリメラーゼ及び逆転写酵素のような酵素、DNase、RNAse抑制剤、DEPC-水(DEPC-water)、滅菌水などを含んでもよい。また、定量対照群として使用される遺伝子に特異的なプライマー対を含んでもよい。前記キットは、前記miRNA-4463、または前記miRNA-4463の模倣体レベルを測定するための製剤、装置、及びアルゴリズムが内蔵されたコンピュータを含み、前記アルゴリズムを介し、前記マーカーのレベル測定結果を、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性と関連付けるものであるキットに係わる。
【0031】
前記キットには、公知のアルゴリズムが使用され、以下に制限するものではないが、線形または非線形の回帰アルゴリズム;線形または非線形のclassificationアルゴリズム;ANOVA;神経網アルゴリズム;遺伝的アルゴリズム;サポートベクターマシーンアルゴリズム;階層分析アルゴリズムまたはクラスタリングアルゴリズム;決定ツリーを利用した階層アルゴリズム、またはKernel principal components分析アルゴリズム;Markov Blanketアルゴリズム;recursive feature elimination algorithmまたはエントロピー基本recursive feature elimination algorithm;committee networkで整列された複数のアルゴリズム;及び前方floating searchアルゴリズムまたは後方floating searchアルゴリズムで構成される群からも選択される。
【0032】
さらに他の様相は、個体から分離された生物学的試料において、miRNA-4463、またはmiRNA-4463の模倣体の発現レベルを測定する段階と、前記発現レベルを、対照群で測定されたmiRNA-4463、またはmiRNA-4463の模倣体の発現レベルと比較する段階と、を含む卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性の診断または予測に必要な情報を提供する方法を提供する。
【0033】
前記個体は、ヒトを含んだ哺乳動物でもある。
【0034】
本明細書において、「生物学的試料」は、生物から得られた試料を言う。前記生物学的試料は、血液、血漿、血小板、血清、腹水液、骨髄液、リンパ、唾液、涙液、粘膜液、羊水、卵胞液、顆粒細胞、卵球細胞、またはそれらの組み合わせでもある。前記生物学的試料が血液または血漿である場合、採取が容易な血液、血漿を検体として使用するために、個体の臓器組織を摘出せず、個体に負担を与えずにも、簡便に分析することができる。また、前記生物学的試料が、卵胞液、顆粒細胞または卵球細胞である場合、それら試料は、試験管ベビー施術過程において、卵子と共に採取されるので、施術に必要な卵子を収集した後、残った試料を使用することができ、試料収集が比較的容易である。従って、ホルモンに対する卵巣の反応性を予測することができるマーカーとして、手軽に採取することができる血液、卵胞液、顆粒細胞、卵球細胞の中のmiRNAを使用することにより、予測の容易性側面において有益性を有することができる。
【0035】
前記方法において、前記卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性を診断または予測することにより、卵巣機能不全または早期閉経を診断または予測するためのものでもある。
【0036】
前記方法は、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性の診断または予測に係わる情報を提供するために、マーカー分析結果に追加し、個体の前記マーカー以外の臨床情報を追加して使用することができる。そのような臨床情報とは、卵巣予備力検査結果などを含んでもよい。
【0037】
さらに他の様相は、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性低下を予防または治療することができると予想される候補物質を投与し、miR-4463またはその模倣体の発現レベルを測定する段階を含む卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性低下の予防用または治療用の製剤をスクリーニングする方法を提供する。
【0038】
前記方法は、(a)対照群である卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性低下が発生した個体から分離された生物学的試料から、miRNA-4463またはその模倣体の発現レベルを測定する段階と、(b)前記個体において、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性低下を治療することができると予想される候補物質を投与する段階と、(c)実験群である前記候補物質が投与された個体から分離された生物学的試料から、miRNA-4463または模倣体の発現レベルを測定する段階と、(d)対照群において測定されたmiRNA-4463またはその断片のレベルを、実験群において測定されたものと比較し、対照群で測定されたところよりも、実験群で測定されたところが低いレベルを示す場合、前記候補物質を、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性低下を防止する予防用製剤、または卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性低下を治療する治療用製剤として使用することができると判定する段階を含む。
【発明の効果】
【0039】
一様相による卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性の診断用または予測用の組成物、キット、及びそれを利用した方法によれば、血液、卵胞液、顆粒細胞、卵球細胞の中に存在するmiRNAを使用し、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性程度を簡便に診断することができるので、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性異常による症状や疾病に対する予測や診断が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】卵胞刺激ホルモン受容体(FSHR)発現が抑制されたKGN細胞株(siFSHR)、及び前記細胞株に卵胞刺激ホルモン(FSH)を処理した細胞株(siFSHR+FSH)において、FSHR mRNA発現レベルをRT-PCRで確認したグラフである。
図2】FSHR発現が抑制されたKGN細胞株(siFSHR)、及び前記細胞株に卵胞刺激ホルモン(FSH)を処理した細胞株(siFSHR+FSH)において、FSHR蛋白質発現レベルをウェストングブロッティングで確認したグラフである。
図3】FSHR発現が抑制されたKGN細胞株(siFSHR)、及び前記細胞株に卵胞刺激ホルモン(FSH)を処理した細胞株(siFSHR+FSH)の培養液に分泌されたエストロゲンの量をELISAで確認したグラフである。E2:エストロゲン。
図4】何も処理していない対照群KGN細胞株(MOCK)、miR-4463模倣体(mimic)を処理したKGN細胞株(miR-4463 mimic)、miR-4463抑制剤を処理したKGN細胞株(miR-4463 inhibitor)において、CYP19A1蛋白質、ER-α蛋白質、ER-β蛋白質の発現レベルをウェスタンブロッティングで確認した図である。
図5】何も処理していない対照群KGN細胞株(MOCK)、miR-4463模倣体(mimic)を処理したKGN細胞株(miR-4463 mimic)、miR-4463抑制剤を処理したKGN細胞株(miR-4463 inhibitor)の培養液に分泌されたエストロゲンの量をELISAで確認したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、実施例を介し、さらに詳細に説明する。しかし、それら実施例は、1以上の具体例について、例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲は、それら実施例に限定されるものではない。
【0042】
実施例1.顆粒細胞株に対する卵胞刺激ホルモン(FSH)処理の効果確認
1.1.使用された細胞株
2001年、日本のNishi博士チームは、卵巣顆粒細胞癌(ovarian granulosa carcinoma)から、顆粒細胞に似ている女性生殖ホルモンの分泌様相を示すヒト卵巣顆粒細胞類似腫瘍細胞株(human ovarian granulosa-like tumor cell line)であるKGN細胞を構築した。その後、女性顆粒細胞の特性、及び内分泌障害物質に対する反応スクリーニングのような多量の細胞が必要な研究には、KGN細胞を使用してきている。本発明においては、入手し難い女性の顆粒細胞をもって、さまざまな特性を研究するのに先立ち、本研究を介し、顆粒細胞培養システムを構築し、女性の生殖能上昇のために必要なさまざまな生殖細胞の活用に必要な基礎DATAを蓄積するための一連の研究を進めた。本発明者は、卵胞刺激ホルモン受容体(FSHR:follicle-stimulating hormone receptor)が高く発現するヒト顆粒細胞株であるKGN細胞を、日本のRIKEN社から提供されて使用した。
【0043】
1.2.ヒト顆粒細胞株における、卵胞刺激ホルモン(FSH)処理によるFSHR発現の変化確認
KGN細胞株において、FSHR発現が低減した状態で、卵胞刺激ホルモン(FSH)を処理し、卵胞刺激ホルモン(FSH)がFSHRの発現にいかなる変化を誘導するかということを確認するために、次のように実験した。まず、KGN細胞株において、FSHRの発現を低減させるために、FSHR siRNAを処理した。前記処理された細胞株に、卵胞刺激ホルモン(FSH)を処理した後、FSHR mRNA発現変化をRT-PCRで確認し、FSHR蛋白質発現変化は、ウェスタンブロッティングで確認した。
【0044】
図1は、FSHR発現が抑制されたKGN細胞株(siFSHR)、及び前記細胞株に卵胞刺激ホルモン(FSH)を処理した細胞株(siFSHR+FSH)において、FSHR mRNA発現レベルをRT-PCRで確認したグラフである。
【0045】
図2は、FSHR発現が抑制されたKGN細胞株(siFSHR)、及び前記細胞株に卵胞刺激ホルモン(FSH)を処理した細胞株(siFSHR+FSH)において、FSHR蛋白質発現レベルをウェスタンブロッティングで確認したグラフである。
【0046】
図1及び図2に示されているように、FSHR発現が抑制されたKGN細胞株において、FSHR mRNAの相対的な発現レベル、及びFSHR蛋白質の相対的な発現レベルが低く、卵胞刺激ホルモン(FSH)処理後には、有意的に上昇した。
【0047】
従って、卵胞刺激ホルモン(FSH)は、ヒト顆粒細胞において、低下したFSHRのレベルを回復させる効果がある。
【0048】
1.3.ヒト顆粒細胞株における、卵胞刺激ホルモン(FSH)処理によるエストロゲン発現の変化確認
KGN細胞株において、FSHR発現が低減した状態で、卵胞刺激ホルモン(FSH)を処理し、卵胞刺激ホルモン(FSH)がエストロゲンの合成にいかなる変化を誘導するかということを確認するために、次のように実験した。まず、KGN細胞株において、FSHRの発現を低減させるために、FSHR siRNAを処理した。前記処理された細胞株に、卵胞刺激ホルモン(FSH)を処理した後、培養液に分泌されたエストロゲンの量をELISAで確認した。
【0049】
図3は、FSHR発現が抑制されたKGN細胞株(siFSHR)、及び前記細胞株に卵胞刺激ホルモン(FSH)を処理した細胞株(siFSHR+FSH)の培養液に分泌されたエストロゲンの量をELISAで確認したグラフである。グラフに明示されたE2は、エストロゲンを称する。
【0050】
図3に示されているように、FSHR発現が抑制されたKGN細胞株から培養液に分泌されたエストロゲンレベルが低く、卵胞刺激ホルモン(FSH)を追加して処理した場合にも、エストロゲンの分泌が回復しなかった。
【0051】
従って、FSHRが発現しない場合、顆粒細胞の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性が低下し、エストロゲンが生産されないということを確認した。
【0052】
実施例2.卵巣機能不全の診断のためのバイオマーカー導出
卵巣機能不全の診断のためのバイオマーカーを導き出すために、卵胞刺激ホルモン(FSH)反応性により、差があるように発現するmiRNAを、miRNAマイクロアレイを介して確認した。細胞の全体RNAを抽出し、CIP(calf intestinal alkaline phosphatase)で、5’末端のリン酸基を除去した後、Cy3蛍光染料を標識した。標識されたRNAとマイクロアレイスライドとを56℃で16時間十分に反応させた後で洗浄した。該スライドは、Agilent G2565CA Microarray Scanner Systemを使用してスキャンした後、蛍光強度を定量化し、グループ間miRNA発現差を分析する。定量化された値は、GeneSpring GX13.1を使用して正規化(normalization)した後で分析した。
【0053】
具体的には、対照群であるKGN細胞株と、FSHR発現が抑制されたKGN細胞株とに、それぞれ卵胞刺激ホルモン(FSH)を処理したとき、2倍以上増減するmiRNAのリストを、マイクロアレイを介して確認した。その結果、総4個のmiRNA(miR-130a-3p、miR-329-3p、miR-4463、miR-185-5p)を確保した。
【0054】
それらmiRNAの標的遺伝子を、8個のデータベース(miRWalk、PITA、miRanda、RNA22、miRDB、RNAhybrid、Pictar2、Targetscan)を使用して確認した。その結果、miR-130a-3p、miR-329-3p、miR-4463、miR-185-5pが共通して調節する総725個の標的遺伝子リストを確保した。
【0055】
確保れた725個の標的遺伝子が含まれた信号伝達経路を分析するために、DAVID functional annotation bioinformaticsを使用し、標的遺伝子が多数含まれた上位10個の信号伝達経路を、下記表1に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示されているように、上位10個の信号伝達経路のうち、卵胞刺激ホルモン(FSH)信号伝逹と係わるPI3K-Akt信号伝達経路、Ras信号伝達経路、PKA/cAMP信号伝達経路が含まれているということを確認した。
【0058】
従って、卵胞刺激ホルモン(FSH)反応性によって差があるように発現するmiRNA(miR-130a-3p、miR-329-3p、miR-4463、miR-185-5p)が、実際に卵胞刺激ホルモン(FSH)の信号伝達体系と関連があるという結論を得た。
【0059】
次に、卵胞刺激ホルモン(FSH)の標的遺伝子と、卵巣刺激と係わる遺伝子とのリストを、多数の論文、例えば、Dr. Joanne Richard (2010) またはSigma Altmae (2011)から確認し、遺伝子リストを下記表2に示した。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示されているように、それら遺伝子において、miR-130a-3p、miR-329-3p、miR-4463、miR-185-5pの標的遺伝子が多数含まれていることを確認した。特に、最終的に顆粒細胞において、エストロゲンを合成するアロマターゼ(aromatase)であるCYP19A1と、エストロゲン受容体であるESR1(ER-α)とをmiR-4463の標的遺伝子として導き出した。
【0062】
総合すれば、FSHRの抑制により、卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性が低下された顆粒細胞株と、前記卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性が低下された顆粒細胞株とに卵胞刺激ホルモン(FSH)を処理し、卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性が回復した顆粒細胞株において、miR-130a-3p、miR-329-3p、miR-4463及びmiR-185-5pの発現が2倍以上差があることを確認したので、卵胞刺激ホルモン(FSH)反応性と係わるmiRNAが、miR-130a-3p、miR-329-3p、miR-4463及びmiR-185-5pであることが分かる。さらには、miR-130a-3p、miR-329-3p、miR-4463及びmiR-185-5pの標的遺伝子を確認した結果、多数の卵胞刺激ホルモン(FSH)標的遺伝子と、卵巣刺激と係わる遺伝子とが含まれていることを確認することにより、前記4個のmiRNAが、卵巣機能に重要な役割を行うと予想することができる。特に、顆粒細胞において、エストロゲンの合成と生物学的機能をと調節するCYP19A1とESR1(ER-α)とがmiR-4463の標的遺伝子であるということを確認した。
【0063】
実施例3.バイオマーカーの検証
MiR-4463の処理により、顆粒細胞において、CYP19A1とESR1(ER-α)との発現が低減したか否かということを、次のように確認した。miR-4463の処理により、顆粒細胞において、エストロゲンの分泌が変化するか否かということを確認するため、何も処理していないKGN細胞株(MOCK)、miR-4463模倣体(mimic)を処理したKGN細胞株(miR-4463 mimic)、miR-4463抑制剤を処理したKGN細胞株(miR-4463 inhibitor)において、CYP19A1蛋白質、ER-α蛋白質、ER-β蛋白質の発現レベルをウェスタンブロッティングで確認した。
【0064】
図4は、何も処理していない対照群KGN細胞株(MOCK)、miR-4463模倣体を処理したKGN細胞株(miR-4463 mimic)、miR-4463抑制剤を処理したKGN細胞株(miR-4463 inhibitor)において、CYP19A1蛋白質、ER-α蛋白質、ER-β蛋白質の発現レベルをウェスタンブロッティングで確認した図である。
【0065】
図4から分かるように、miR-4463模倣体により、CYP19A1、ER-αの発現レベルが有意的に低下し、miR-4463抑制剤を処理した場合、対照群より発現が増大する様相を示した。
【0066】
また、miR-4463の処理により、顆粒細胞において、エストロゲンの分泌が変化するか否かということを次のように確認した。何も処理していないKGN細胞株(MOCK)、miR-4463模倣体を処理したKGN細胞株(miR-4463 mimic)、miR-4463抑制剤を処理したKGN細胞株(miR-4463 inhibitor)を培養し、培養液に分泌されたエストロゲンの量をELISAを介して確認した。
【0067】
図5は何、も処理していない対照群KGN細胞株(MOCK)、miR-4463模倣体を処理したKGN細胞株(miR-4463 mimic)、miR-4463抑制剤を処理したKGN細胞株(miR-4463 inhibitor)の培養液に分泌されたエストロゲンの量をELISAで確認した図である。グラフに明示されたE2は、エストロゲンを称する。
【0068】
図5に示されているように、miR-4463模倣体により、エストロゲンの分泌が有意的に減少し、miR-4463抑制剤を処理した場合、対照群より増加する様相を示した。
【0069】
すなわち、miR-4463はC、YP19A1とESR1(ER-α)との発現を調節することにより、顆粒細胞のエストロゲンの分泌に関与する。従って、顆粒細胞において、miR-4463の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性を確認することにより、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性を診断、予測することができる。
本発明は、例えば以下の実施形態を包含する:
[実施形態1]マイクロRNA-4463(miRNA-4463)、またはmiRNA-4463の模倣体の発現レベルを測定する製剤を含む卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性の診断用または予測用の組成物。
[実施形態2]前記それらの模倣体は、
a)miRNA-4463の成熟した配列を含むポリヌクレオチドと、
b)miRNA-4463のpre-miRNA(前駆体)配列を含むポリヌクレオチドと、
c)miRNA-4463のpri-miRNA(初期転写体)配列を含むポリヌクレオチドとのうちいずれか一つである、実施形態1に記載の組成物。
[実施形態3]前記miRNA-4463は、配列番号1を有する、実施形態1に記載の組成物。
[実施形態4]前記miRNA-4463は、CYP19A1またはESR1(ER-α)のmRNAを標的にする、実施形態1に記載の組成物。
[実施形態5]前記miRNA-4463は、顆粒細胞において、エストロゲンの合成を抑制する、実施形態1に記載の組成物。
[実施形態6]卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性を診断または予測することにより、卵巣機能不全または早期閉経を診断または予測するためのものである、実施形態1に記載の組成物。
[実施形態7]miRNA-4463、またはmiRNA-4463の模倣体を含む、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性の診断用または予測用のキット。
[実施形態8]個体から分離された生物学的試料において、miRNA-4463、またはmiRNA-4463の模倣体の発現レベルを測定する段階と、
前記発現レベルを、対照群で測定されたmiRNA-4463、またはmiRNA-4463の模倣体の発現レベルと比較する段階と、を含む、卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性の診断または予測に必要な情報を提供する方法。
[実施形態9]前記試料は、血液、卵胞液、顆粒細胞または卵球細胞である、実施形態8に記載の方法。
[実施形態10]前記卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性を診断または予測することにより、卵巣機能不全または早期閉経を診断または予測するためのものである、実施形態8に記載の方法。
[実施形態11]個体から分離された試料において、miRNA-4463、miRNA-130-3p、miR-185-5p、miRNA-329-3p、及びそれらの模倣体からなる群から選択された1以上の発現レベルを測定する段階を含む、個体の卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性を診断または予測する方法。
[実施形態12]個体から分離された試料において、miRNA-4463、miRNA-130-3p、miR-185-5p、miRNA-329-3p、及びそれらの模倣体からなる群から選択された1以上の発現レベルを測定する段階を含む、個体の卵巣機能不全または早期閉経を診断または予測する方法。
[実施形態13]miRNA-4463、miRNA-130-3p、miR-185-5p、miRNA-329-3p、及びそれらの模倣体からなる群から選択された1以上の発現レベルを測定する製剤の卵巣の卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する反応性を診断または予測するためのmiRNAの用途。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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