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特許7134371運動機能評価システム、運動機能評価方法及び運動機能評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】運動機能評価システム、運動機能評価方法及び運動機能評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20220902BHJP
   A61B 5/107 20060101ALI20220902BHJP
【FI】
A61B5/11 230
A61B5/107 300
A61B5/11 ZDM
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022012651
(22)【出願日】2022-01-31
【審査請求日】2022-01-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000181826
【氏名又は名称】社会福祉法人兵庫県社会福祉事業団
(74)【代理人】
【識別番号】100181630
【弁理士】
【氏名又は名称】原 晶子
(72)【発明者】
【氏名】陳 隆明
(72)【発明者】
【氏名】大森 清博
(72)【発明者】
【氏名】中村 豪
(72)【発明者】
【氏名】福井 克也
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特許第6448015(JP,B2)
【文献】特開2020-92977(JP,A)
【文献】特開2020-44295(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0015103(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/103
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが着座する着座装置と、
前記着座装置の座部に取り付けられる第1測距装置と、
情報処理装置と、を備え、
前記情報処理装置は、
予め設定されているユーザの大腿部の長さ、前記座部の基準位置から前記第1測距装置までの距離、及び、前記第1測距装置の前記座部に対する設置角度、並びに、ユーザが着座動作又は起立動作を行っている間に前記第1測距装置で経時的に測定される前記第1測距装置からユーザの大腿部までの距離データに基づいて、ユーザの骨盤部の座標を算出する骨盤座標算出部と、
前記骨盤座標算出部で算出した前記骨盤部の座標に基づいて、ユーザの少なくとも下半身の運動機能を評価する運動機能評価部と、を有する運動機能評価システム。
【請求項2】
前記情報処理装置は、前記骨盤座標算出部で算出した前記骨盤部の座標に基づいて、ユーザの関節の力学量を算出する力学量算出部をさらに備え、
前記運動機能評価部は、前記力学量算出部で算出した前記力学量に基づいて、ユーザの運動機能を評価する請求項1に記載の運動機能評価システム。
【請求項3】
前記着座装置の背もたれ部に取り付けられる第2測距装置をさらに備え、
前記力学量算出部は、前記骨盤部の座標に加えて、予め設定されている前記座部の奥行きの長さ、前記座部から前記第2測距装置までの鉛直方向距離、及び、前記第2測距装置の前記背もたれ部に対する設置角度、並びに、ユーザが着座動作若しくは起立動作を行っている間又は着座状態の間に前記第2測距装置で経時的に測定される前記第2測距装置からユーザの体幹部までの距離データに基づいて、ユーザの関節の力学量を算出し、
前記運動機能評価部は、前記力学量算出部で算出した前記力学量に基づいて、ユーザの下半身及び上半身の運動機能を評価する請求項2に記載の運動機能評価システム。
【請求項4】
前記情報処理装置は、予め設定されているユーザの身体情報から人体リンクモデルを生成するリンクモデル生成部を備え、
ユーザの前記大腿部の長さは、前記人体リンクモデルに基づいて算出される請求項1~3のいずれか一項に記載の運動機能評価システム。
【請求項5】
ユーザが着座する着座装置の座部に取り付けられた第1測距装置を用いて、ユーザが着座動作又は起立動作を行っている間に、前記第1測距装置からユーザの大腿部までの距離データを経時的に取得するステップと、
予め設定されているユーザの大腿部の長さ、前記座部の基準位置から前記第1測距装置までの距離、及び、前記第1測距装置の前記座部に対する設置角度、並びに、ユーザが着座動作又は起立動作を行っている間に前記第1測距装置で経時的に測定される前記第1測距装置からユーザの大腿部までの距離データに基づいて、ユーザの骨盤部の座標を算出するステップと、
前記骨盤部の座標に基づいて、ユーザの少なくとも下半身の運動機能を評価するステップと、を備える運動機能評価方法。
【請求項6】
前記着座装置の背もたれ部に取り付けられた第2測距装置を用いて、ユーザが着座動作若しくは起立動作を行っている間又は着座状態の間に、前記第2測距装置からユーザの体幹部までの距離データを経時的に取得するステップと、
前記骨盤部の座標、予め設定されている前記座部の奥行の長さ、前記座部から前記第2測距装置までの鉛直方向距離、及び、前記第2測距装置の前記背もたれ部に対する設置角度、並びに、ユーザが着座動作若しくは起立動作を行っている間又は着座状態の間に前記第2測距装置で経時的に測定される前記第2測距装置からユーザの体幹部までの距離データに基づいて、ユーザの関節の力学量を算出するステップと、をさらに備え、
前記ユーザの運動機能を評価するステップは、前記力学量を算出するステップで算出された力学量に基づいて、ユーザの下半身及び上半身の運動機能を評価する請求項5に記載の運動機能評価方法。
【請求項7】
コンピュータに、
ユーザが着座する着座装置の座部に取り付けられた第1測距装置を用いて、ユーザが着座動作又は起立動作を行っている間に、前記第1測距装置からユーザの大腿部までの距離データを経時的に取得するステップと、
予め設定されているユーザの大腿部の長さ、前記座部の基準位置から前記第1測距装置までの距離、及び、前記第1測距装置の前記座部に対する設置角度、並びに、ユーザが着座動作又は起立動作を行っている間に前記第1測距装置で経時的に測定される前記第1測距装置からユーザの大腿部までの距離データに基づいて、ユーザの骨盤部の座標を算出するステップと、
前記骨盤部の座標に基づいて、ユーザの少なくとも下半身の運動機能を評価するステップと、を含む処理を実行させる運動機能評価プログラム。
【請求項8】
前記コンピュータに、
前記着座装置の背もたれ部に取り付けられた第2測距装置を用いて、ユーザが着座動作若しくは起立動作を行っている間又は着座状態の間に、前記第2測距装置からユーザの体幹部までの距離データを経時的に取得するステップと、
前記骨盤部の座標、予め設定されている前記座部の奥行の長さ、前記座部から前記第2測距装置までの鉛直方向距離、及び、前記第2測距装置の前記背もたれ部に対する設置角度、並びに、ユーザが着座動作若しくは起立動作を行っている間又は着座状態の間に前記第2測距装置で経時的に測定される前記第2測距装置からユーザの体幹部までの距離データに基づいて、ユーザの関節の力学量を算出するステップと、を含む処理をさらに実行させ、
前記ユーザの運動機能を評価するステップは、前記力学量を算出するステップで算出された力学量に基づいて、ユーザの下半身及び上半身の運動機能を評価する請求項7に記載の運動機能評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、介護が必要になるリスクを評価するための運動機能評価システム、運動機能評価方法及び運動機能評価プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
超高齢社会において、健康寿命の延伸及び介護費抑制の観点から、介護予防及びフレイル対策などのために「将来介護が必要になるリスク」を評価することが強く望まれている。例えば、代表的なフレイル評価法の一つであるJ-CHS基準においては、聞き取り票への回答に加えて、握力及び歩行速度を計測する必要がある。そのため、体力測定の用具及び場所を用意する必要があり、気軽に握力及び歩行速度を計測することができず、J-CHS基準に基づいたフレイル評価を行うことができない。
【0003】
一方、日常生活の中で現れる動作に着目し、在宅などのユーザの生活空間内で、ユーザの負担を軽減しながら継続的に運動機能を評価することも行われている。例えば、ロコモティブシンドロームの判定である。ロコモティブシンドロームは、主に立ち上がり動作及び歩行動作に基づいて判定される。立ち上がり動作及び歩行動作の全て又は一部の能力が低下すると将来介護が必要になるリスクが高くなることが知られている。そのため、これまで、立ち上がり動作及び歩行動作に着目して運動機能を評価する方法が提案されてきた。
【0004】
この中で、立ち上がり動作に着目して運動機能を評価する方法として、以下の方法が知られている。例えば、特許文献1では、ユーザに計測装置を装着して加速度などの測定情報を取得し、測定情報に基づいてユーザの運動機能の評価を行っている。また、特許文献2では、ユーザが座る座面に設けられた荷重センサを用い、ユーザの立ち上がる動作によって座面に加わる荷重を測定し、荷重の変化量を演算して、運動機能としてユーザの体幹筋機能、下肢筋機能、及びバランス機能を判定している。また、特許文献3では、ユーザの頭部上方に距離センサを配置してユーザの頭部の移動軌跡を抽出するとともに、ユーザの足下に脚圧センサを配置してユーザの足圧重心の移動軌跡を抽出して、立ち上がり時間の判定結果と、頭部及び足圧重心の移動距離に関する判定結果の組み合わせでユーザの身体能力を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6448015号公報
【文献】特開2020-92977号公報
【文献】特開2020-44295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のようにユーザに計測装置を装着する方式では、日常的に計測装置を装着することがユーザの負担となり、継続的に運動機能を測定することが難しいという問題があった。
【0007】
また、ユーザが座る座面との関係で運動機能を評価する場合、ユーザが起立の状態から着座するまでの「着座動作」の状態と、着座して座っている状態の「着座状態」と、着座状態から起立する「起立動作」の状態の3つの状態が考えられる。しかしながら、特許文献2の荷重センサを用いる方式では、荷重センサは、座面にユーザが接触したときの「着座状態」の時のみ作動し、着座動作及び起立動作においてユーザが座面から離れていると荷重センサは生体情報を取得できない。このため、ユーザが座面から離れているときのユーザの運動機能を継続的に測定することが出来ず、ユーザの運動機能を正しく評価できないという問題があった。
【0008】
これに対し、特許文献3のユーザの頭部の位置を検知し、ユーザの頭部の移動軌跡に基づいてユーザの運動機能を評価する構成では、日常的に計測装置を装着することなく、また、座面にユーザが接触している「着座状態」以外の「着座動作」や「起立動作」のときでも継続的にユーザの頭部の位置を測定できる。測定したユーザの頭部の位置からユーザの頭部の移動軌跡を抽出して運動機能を評価することで、継続的にユーザの運動機能を測定して評価することができる。しかしながら、例えば、起立するときで言えば、「早く起立する人」、「ゆっくり起立する人」、「大きく屈曲して起立する人」、「足の力だけで起立する人」等、健全な運動機能を有するユーザでも様々な動作を行う。そのため、ユーザの頭部の移動軌跡に基づくだけでは、ユーザの運動機能が低下しているか否かを評価することは無理があり、正しく評価できないという問題があった。なぜなら、ユーザの運動機能を正しく評価するには、ユーザの下半身と上半身の運動機能について正しく評価する必要があるからである。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ユーザに計測装置を装着せずに、ユーザの体幹の力学量を算出して正確に運動機能を評価する運動機能評価システム、運動機能評価方法及び運動機能評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の運動機能評価システムは、着座装置と、着座装置の座部に取り付けられる第1測距装置と、情報処理装置とを備える。情報処理装置は、予め設定されているユーザの大腿部の長さ、座部の基準位置から第1測距装置までの距離、及び、第1測距装置の座部に対する設置角度、並びに、第1測距装置で経時的に測定される第1測距装置からユーザの大腿部までの距離データに基づいて、ユーザの骨盤部の座標を算出する骨盤座標算出部と、骨盤座標算出部で算出した骨盤部の座標に基づいて、ユーザの少なくとも運動機能を評価する運動機能評価部とを有する。
【0011】
好ましい実施形態の運動機能評価システムでは、情報処理装置は、骨盤座標算出部で算出した骨盤部の座標に基づいて、ユーザの関節の力学量を算出する力学量算出部をさらに備える。運動機能評価部は、力学量算出部で算出した力学量に基づいて、ユーザの運動機能を評価する。
【0012】
さらに好ましい実施形態の運動機能評価システムは、着座装置の背もたれ部に取り付けられる第2測距装置をさらに備える。力学量算出部は、骨盤部の座標に加えて、予め設定されている座部の奥行きの長さ、座部から第2測距装置までの鉛直方向距離、及び、第2測距装置の背もたれ部に対する設置角度、並びに、第2測距装置で経時的に測定される第2測距装置からユーザの体幹部までの距離データに基づいて、ユーザの関節の力学量を算出し、運動機能評価部は、力学量算出部で算出した力学量に基づいて、ユーザの下半身及び上半身の運動機能を評価する。
【0013】
また、好ましい実施形態の運動機能評価システムでは、情報処理装置は、予め設定されているユーザの身体情報から人体リンクモデルを生成するリンクモデル生成部を備える。ユーザの大腿部の長さは、人体リンクモデルに基づいて算出される。
【0014】
また、本発明の運動機能評価方法は、ユーザが着座する着座装置の座部に取り付けられた第1測距装置を用いて、第1測距装置からユーザの大腿部までの距離データを経時的に取得するステップと、予め設定されているユーザの大腿部の長さ、座部の基準位置から第1測距装置までの距離、及び、第1測距装置の座部に対する設置角度、並びに、第1測距装置で経時的に測定される第1測距装置からユーザの大腿部までの距離データに基づいて、ユーザの骨盤部の座標を算出するステップと、骨盤部の座標に基づいて、ユーザの少なくとも下半身の運動機能を評価するステップとを備える。
【0015】
好ましい実施形態の運動機能評価方法は、着座装置の背もたれ部に取り付けられた第2測距装置を用いて、第2測距装置からユーザの体幹部までの距離データを経時的に取得するステップと、骨盤部の座標、予め設定されている座部の奥行きの長さ、座部から第2測距装置までの鉛直方向距離、及び、第2測距装置の背もたれ部に対する設置角度、並びに、第2測距装置で経時的に測定される第2測距装置からユーザの体幹部までの距離データに基づいて、ユーザの関節の力学量を算出するステップとをさらに備える。ユーザの運動機能を評価するステップは、力学量を算出するステップで算出された力学量に基づいて、ユーザの下半身及び上半身の運動機能を評価する。
【0016】
また、本発明の運動機能評価プログラムは、コンピュータに、ユーザが着座する着座装置の座部に取り付けられた第1測距装置を用いて、第1測距装置からユーザの大腿部までの距離データを経時的に取得するステップと、予め設定されているユーザの大腿部の長さ、座部の基準位置から第1測距装置までの距離、及び、第1測距装置の座部に対する設置角度、並びに、第1測距装置で経時的に測定される第1測距装置からユーザの大腿部までの距離データに基づいて、ユーザの骨盤部の座標を算出するステップと、骨盤部の座標に基づいて、ユーザの少なくとも下半身の運動機能を評価するステップとを含む処理を実行させる。
【0017】
好ましい実施形態の運動機能評価プログラムは、コンピュータに、着座装置の背もたれ部に取り付けられた第2測距装置を用いて、第2測距装置からユーザの体幹部までの距離データを経時的に取得するステップと、骨盤部の座標、予め設定されている座部の奥行きの長さ、座部から第2測距装置までの鉛直方向距離、及び、第2測距装置の背もたれ部に対する設置角度、並びに、第2測距装置で経時的に測定される第2測距装置からユーザの体幹部までの距離データに基づいて、ユーザの関節の力学量を算出するステップとを含む処理をさらに実行させる。ユーザの運動機能を評価するステップは、力学量を算出するステップで算出された力学量に基づいて、ユーザの下半身及び上半身の運動機能を評価する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ユーザに計測装置を装着せずに、「着座動作」、「着座状態」、「起立動作」のいずれの状態においてもユーザの状態を測定でき、ユーザの下半身及び/又は上半身の運動機能を正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態1に係る運動機能評価システムの側面図である。
図2】本発明の実施形態1に係る運動機能評価システムの構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態1に係る運動機能評価システムで生成された人体リンクモデルを示す側面図である。
図4】本発明の実施形態1に係る運動機能評価方法を示すフローチャートである。
図5】本発明の実施形態2に係る運動機能評価システムの側面図である。
図6】本発明の実施形態2に係る運動機能評価システムの構成を示すブロック図である。
図7】実施例1の実験結果を示す図で、大腿部と座部とのなす角度を比較した図である。
図8】実施例1の実験結果を示す図で、骨盤部のx座標を比較した図である。
図9】実施例1の実験結果を示す図で、骨盤部のy座標を比較した図である。
図10】実施例1の実験結果を示す図で、骨盤部の位置を比較した図である。
図11】実施例1の実験結果を示す図で、体幹部の角度を比較した図である。
図12】実施例1の実験結果を示す図で、着座状態での体幹部の角度を比較した図である。
図13】実施例4で表示する評価結果の一例を示す図である。
図14】実施例4で表示する評価結果の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。本発明の運動機能評価システムは、日常生活に現れる動作に着目してユーザの運動機能を評価するシステムである。ここでは、一例として、椅子などの着座装置からの立ち上がり動作によって運動機能を評価する運動機能評価システムについて説明する。
【0021】
[実施形態1]
まず、図1図3を参照して、本発明の実施形態1に係る運動機能評価システム1aについて説明する。図1は、実施形態1に係る運動機能評価システム1aの側面図である。図2は、実施形態1に係る運動機能評価システム1aの構成を示すブロック図である。図3は、実施形態1に係る運動機能評価システム1aで生成された人体リンクモデル50を示す側面図である。以下では、図1の状態に基づき上下方向(鉛直方向)を規定する。また、ユーザが着座装置10に着座する際に立つ側を前側として前後方向を規定する。上下方向と前後方向に直交する方向を左右方向とする。
【0022】
図1及び図2に示すように、運動機能評価システム1aは、着座装置10と、第1測距装置21と、情報処理装置30と、表示装置40とを備える。
【0023】
着座装置10は、少なくとも座部11を備える。着座装置10は、背もたれ部12を備えてもよい。着座装置10は、例えば、椅子、ソファ、腰掛便器、車椅子、ベッドの端などのユーザが着座又は起立を行う装置である。ユーザの運動機能を評価するための専用の着座装置10を準備してもよいし、ユーザの生活空間の中でユーザが着座又は起立を行う装置を着座装置10としてもよい。
【0024】
第1測距装置21は、第1測距装置21からユーザUの大腿部54(図3参照)までの距離を測定する装置である。第1測距装置21は、ユーザUが着座又は起立する際に、ユーザUの大腿部54までの距離を測れるように、着座装置10の座面11に取り付けられる。第1測距装置21は、例えば、レーザ距離センサ、超音波距離センサ、電波式距離センサである。なお、第1測距装置21は、1点に対する距離の測定を行う測距装置だけでなく、面で捉える測距装置を使用しても構わない。
【0025】
情報処理装置30は、リンクモデル生成部31と、骨盤座標算出部32と、力学量算出部33と、運動機能評価部34と、記憶部35と、制御部36とを備える。情報処理装置30は、例えば、コンピュータである。
【0026】
記憶部35は、種々の情報、データ、プログラムなどを記憶する。記憶部35は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)によって構成される。記憶部35には、ユーザUの身体情報、着座装置10及び第1測距装置21の環境情報、及び、ユーザUの運動機能を評価する運動機能評価プログラムが保存されている。また、記憶部35には、運動機能評価プログラムによって評価されたユーザUの運動機能の評価結果が保存される。運動機能の評価結果は、過去の評価結果も履歴として保存される。ユーザUの身体情報及び運動機能評価結果は、ユーザUごとに保存される。
【0027】
身体情報は、例えば、ユーザUの身長、体重、性別、年齢、大腿部54の長さ、体幹部52の長さ、下腿部56の長さなどである。ユーザUの大腿部54の長さ、体幹部52の長さ、下腿部56の長さは、直接測定された値を記憶させてもよいし、年齢及び/又は性別ごとに作成された人体寸法データベースから推定された値を記憶させてもよい。
【0028】
環境情報は、着座装置10の座部11の寸法及び高さ、第1測距装置21の設置位置及び設置角度、ユーザUの踵部57と着座装置10との距離などである。具体的には、第1測距装置21の設置位置は、着座装置10の座部11の基準位置111から第1測距装置21までの距離である。本実施形態では、基準位置111は、着座装置10の座部11の前端とする。なお、基準位置111は、任意に設定することができる。また、第1測距装置21の設置角度は、着座装置10の座部11と、第1測距装置21のレーザ、超音波又は電波の照射方向とがなす角度である。
【0029】
リンクモデル生成部31は、記憶部35に記憶されている身体情報から、図3に示す人体リンクモデル50を生成する。人体リンクモデル50は、頭部51、骨盤部53、膝部55及び踵部57をリンクジョイントとし、体幹部52、大腿部54及び下腿部56をリンクとして、身体情報に基づいて各部の位置及び長さを算出し、算出された各部の位置及び長さに基づいて作成される。リンクモデル生成部31で算出された体幹部52、大腿部54及び下腿部56の長さは、各部のリンク長として記憶部35に保存される。
【0030】
骨盤座標算出部32は、予め設定されているユーザUの大腿部54の長さ、座部11の基準位置111から第1測距装置21までの距離、及び、第1測距装置21の座部11に対する設置角度、並びに、第1測距装置21で経時的に測定される第1測距装置21からユーザUの大腿部54までの距離データに基づいて、ユーザUの骨盤部53の座標を算出する。骨盤部53の座標は、第1測距装置21でユーザUの大腿部54までの距離を測定する時間軸に沿って経時的に算出される。
【0031】
力学量算出部33は、骨盤座標算出部32で算出した骨盤部53の座標に基づいて、ユーザUの関節の力学量を算出する。ここで、ユーザUの関節とは、例えば、首関節、腰関節、股関節、膝関節、足関節、肩関節、肘関節、手関節である。また、力学量は、例えば、ユーザUの関節の角度、角速度、角加速度である。力学量は、第1測距装置21でユーザUの大腿部54までの距離を測定する時間軸に沿って経時的に算出される。
【0032】
運動機能評価部34は、骨盤座標算出部32で算出した骨盤部53の座標、又は、力学量算出部33で算出した力学量に基づいて、ユーザUの運動機能を評価する。また、運動機能評価部34は、記憶部35に保存されている過去のユーザUの運動機能評価結果の履歴と比較して、運動機能の変化量を算出する。
【0033】
制御部36は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサによって構成される。制御部36は、プログラムを実行することによって、リンクモデル生成部31、骨盤座標算出部32、力学量算出部33、運動機能評価部34及び記憶部35の動作を制御する。
【0034】
表示装置40は、情報処理装置30でユーザUの運動機能を評価した結果をユーザUに表示する装置である。具体的には、表示装置40は、運動機能評価部34で評価された運動機能の評価結果、及び/又は、運動機能評価部34で算出された運動機能の変化量を表示する。表示装置40は、画像又は映像のような視覚情報及び音声又はメロディのような聴覚情報の少なくとも一方で運動機能の評価結果を表示する。表示装置40は、例えば、テレビモニタ、ディスプレイ、スピーカーなどである。
【0035】
次に、図4も参照して、運動機能評価システム1aに基づいて運動機能を評価する運動機能評価方法について説明する。図4は、実施形態1に係る運動機能評価方法を示すフローチャートである。運動機能評価方法の各処理は、情報処理装置30に格納されている運動機能評価プログラムによって実行される。ここでは、ユーザUが着座装置10に着座するときの動作に基づいて、ユーザUの運動機能を評価する場合について説明する。
【0036】
まず、運動機能を評価するユーザUの身体情報、並びに、着座装置10及び第1測距装置21の環境情報を入力する(S10)。身体情報及び環境情報の入力は、情報処理装置30に接続されるキーボード、マウスなどの入力装置(図示せず)によって行われる。入力された身体情報及び環境情報は、記憶部35に保存される。
【0037】
リンクモデル生成部31が、入力された身体情報に基づいて人体リンクモデル50を生成する(S12)。人体リンクモデル50の生成の際に算出された、ユーザUの体幹部52のリンク長、大腿部54のリンク長、下腿部56のリンク長は、記憶部35に保存される。
【0038】
ユーザUが着座装置10に着座動作を開始する。制御部36は、ユーザUの着座動作が開始されたか否かを判定し、計測開始判定を行う(S14)。計測開始判定は、例えば、第1測距装置21とユーザUの大腿部54との距離が所定以下となった状態、押しボタン又は人体感知センサなどの計測開始検知センサ(図示せず)がONとなった状態などを判定して行われる。
【0039】
計測が開始されると、第1測距装置21は、第1測距装置21とユーザUの大腿部54との距離を測定し、時刻tごとの距離データd1tを経時的に取得する(S16)。取得した距離データd1tは、記憶部35に保存される。
【0040】
骨盤座標算出部32は、ユーザUの大腿部54の長さLf、座部11の基準位置111から第1測距装置21までの距離LS1、第1測距装置21の設置角度ΦS1、及び、経時的に保存される第1測距装置21からユーザUの大腿部54までの距離データd1tを記憶部35から取得する。大腿部54の長さLfは、記憶部35に保存されているリンク長である。なお、大腿部54の長さLfは、身体情報のデータでもよい。そして、骨盤座標算出部32は、座部11の基準位置111から第1測距装置21までの距離LS1と、ユーザUの大腿部54の長さLfと、第1測距装置21で経時的に測定した第1測距装置21からユーザUの大腿部54までの距離データd1tとに基づいて、ユーザUの骨盤部53の座標を算出する(S18)。
【0041】
具体的には、以下の方法で時刻tにおける骨盤部53の座標(xt,yt)を算出する。骨盤部53の座標は、座部11の基準位置111の左右方向中央を原点とし、原点からの座標として算出する。
【数1】
ここで、θ1tは、時刻tにおける大腿部54と座部11とのなす角度である。
【0042】
力学量算出部33は、骨盤部53の座標に基づいて、ユーザUの関節の力学量を算出する(S20)。ここでは、大腿部54と座部11とのなす角度θ1tに基づいて、ユーザUの膝関節の角速度ω1t及び角加速度α1tを算出する。
【数2】
なお、微分式の算出においては、前方差分又は後方差分などの近似解法で算出してもよい。
【0043】
ユーザUが着座装置10に着座すると、制御部36は計測終了判定を行う(S22)。計測終了判定は、例えば、第1測距装置21とユーザUの大腿部54との距離が所定以下となった状態、押しボタン又は人体感知センサなどの計測終了検知センサ(図示せず)がONとなった状態などを判定して行われる。
【0044】
計測が終了すると、運動機能評価部34は、骨盤座標算出部32で算出した骨盤座標、又は、力学量算出部33で算出した力学量に基づいて、ユーザの運動機能を評価する(S24)。
【0045】
具体的には、以下の方法で運動機能評価値P1を算出し運動機能評価値P1に基づいてユーザUの運動機能を評価する。運動機能評価値P1は、ユーザUの下半身の運動機能を評価する値である。サンプリング周期をΔtとし、時刻tの1サンプル前の時刻をt-Δt、2サンプル前の時刻をt-2Δtとする。運動機能評価値P1は、以下に示す骨盤部53の座標(xt,yt)の加速度の最大値で算出する。
【数3】
また、運動機能評価値P1は、以下に示す大腿部54と座部11とのなす角度θ1tの角加速度α1tの最大値で算出することもできる。
【数4】
【0046】
運動機能評価部34は、上記で算出した運動機能評価値P1を所定値と比較してユーザUの下半身の運動機能を評価する。例えば、運動機能評価値P1が所定値よりも大きいとユーザUの下半身の運動機能が低下していると評価する。運動機能の評価結果は、記憶部35に保存される。
【0047】
ユーザUの運動機能の評価が終了すると、運動機能の評価結果が表示装置40に表示される(S26)。評価結果は、運動機能評価値P1で示されてもよいし、運動機能評価値P1を所定値と比較して運動機能の良好か要改善かを示してもよい。また、今回の評価結果を前回の評価結果と比較して、運動機能の向上又は低下を示してもよい。ユーザUは表示装置40に表示される運動機能の評価結果を確認する。
【0048】
[実施形態2]
次に、図5及び図6を参照して、本発明の実施形態2に係る運動機能評価システム1bについて説明する。図5は、実施形態2に係る運動機能評価システム1bの側面図である。図6は、実施形態2に係る運動機能評価システム1bの構成を示すブロック図である。以下、実施形態2について、実施形態1と異なる事項について説明する。
【0049】
図5及び図6に示すように、運動機能評価システム1bは、着座装置10と、第1測距装置21と、第2測距装置22と、情報処理装置30と、表示装置40とを備える。着座装置10は、座部11及び背もたれ部12を備える。
【0050】
第2測距装置22は、第2測距装置22からユーザUの体幹部52(図3参照)までの距離を測定する装置である。第2測距装置22は、ユーザUが着座する際や起立する際、あるいは着座状態でいる時に、ユーザUの体幹部52までの距離を測れるように、着座装置10の背もたれ部12に取り付けられる。第2測距装置22は、例えば、レーザ距離センサ、超音波距離センサ、電波式距離センサである。なお、第2測距装置22は、1点に対する距離の測定を行う測距装置だけでなく、面で捉える測距装置を使用しても構わない。
【0051】
記憶部35は、種々の情報、データ、プログラムなどを記憶する。記憶部35には、ユーザUの身体情報、着座装置10の環境情報、第1測距装置21の環境情報、第2測距装置22の環境情報、及び、ユーザUの運動機能を評価する運動機能評価プログラムが保存されている。環境情報は、着座装置10の座部11の寸法、高さ及び奥行きの長さ、第1測距装置21の設置位置及び設置角度、第2測距装置22の設置位置及び設置角度、ユーザUの踵部57と着座装置10との距離などである。具体的には、第2測距装置22の設置位置は、着座装置10の座部11から第2測距装置22までの鉛直方向距離である。また、第2測距装置22の設置角度は、着座装置10の背もたれ部12と、第2測距装置22のレーザ、超音波又は電波の照射方向とがなす角度である。
【0052】
力学量算出部33は、骨盤座標算出部32で算出した骨盤部53の座標に加えて、予め設定されている座部11の奥行きの長さ、座部11から第2測距装置22までの鉛直方向距離、及び、第2測距装置22の背もたれ部12に対する設置角度、並びに、第2測距装置22で経時的に測定される第2測距装置22からユーザUの体幹部52までの距離データに基づいて、ユーザUの関節の力学量を算出する。力学量は、第1測距装置21及び第2測距装置22でユーザUの大腿部54及び体幹部52までの距離を測定する時間軸に沿って経時的に算出される。
【0053】
運動機能評価部34は、力学量算出部33で算出した力学量に基づいて、ユーザUの運動機能を評価する。また、運動機能評価部34は、記憶部35に保存されている過去のユーザUの運動機能評価結果の履歴と比較して、運動機能の変化量を算出する。
【0054】
次に、運動機能評価システム1bに基づいて運動機能を評価する運動機能評価方法について説明する。運動機能評価方法のフローチャートは、実施形態1と同じであるため、図4を参照して運動機能評価方法について説明する。ここでは、ユーザUが着座装置10から起立するときの動作に基づいて、ユーザUの運動機能を評価する場合について説明する。なお、運動機能評価システム1bでは、実施形態1と同様の方法で、ユーザUが着座装置10に着座するときの動作に基づくユーザUの運動機能評価を行うこともできる。
【0055】
まず、運動機能を評価するユーザUの身体情報、並びに、着座装置10、第1測距装置21及び第2測距装置22の環境情報を入力する(S10)。身体情報及び環境情報の入力は、情報処理装置30に接続されるキーボード、マウスなどの入力装置(図示せず)によって行われる。入力された身体情報及び環境情報は、記憶部35に保存される。
【0056】
リンクモデル生成部31が、入力された身体情報に基づいて人体リンクモデル50を生成する(S12)。人体リンクモデル50の生成の際に算出された、ユーザUの体幹部52のリンク長、大腿部54のリンク長、下腿部56のリンク長は、記憶部35に保存される。
【0057】
ユーザUが着座装置10から起立動作を開始する。制御部36は、ユーザUの起立動作が開始されたか否かを判定し、計測開始判定を行う(S14)。計測開始判定は、例えば、第2測距装置22とユーザUの体幹部52との距離が所定以上となった状態、押しボタン又は人体感知センサなどの計測開始検知センサ(図示せず)がONとなった状態などを判定して行われる。
【0058】
計測が開始されると、第1測距装置21は、第1測距装置21とユーザUの大腿部54との距離を測定し、時刻tごとの距離データd1tを経時的に取得する(S16)。同時に、第2測距装置22は、第2測距装置22とユーザUの体幹部52との距離を測定し、時刻tごとの距離データd2tを経時的に取得する(S16)。取得した距離データd1t,d2tは、記憶部35に保存される。
【0059】
骨盤座標算出部32は、ユーザUの大腿部54の長さLf、座部11の基準位置111から第1測距装置21までの距離LS1、第1測距装置21の設置角度ΦS1、及び、経時的に保存される第1測距装置21からユーザUの大腿部54までの距離データd1tを記憶部35から取得する。大腿部54の長さLfは、記憶部35に保存されているリンク長である。なお、大腿部54の長さLfは、身体情報のデータでもよい。そして、骨盤座標算出部32は、実施形態1と同様にして、座部11の基準位置111から第1測距装置21までの距離LS1と、ユーザUの大腿部54の長さLfと、第1測距装置21で経時的に測定した第1測距装置21からユーザUの大腿部54までの距離データd1tとに基づいて、ユーザUの骨盤部53の座標を算出する(S18)。
【0060】
力学量算出部33は、骨盤部53の座標に加えて、記憶部35に予め設定されており記憶部35から取得した座部11の奥行きの長さLC、座部11から第2測距装置22までの鉛直方向距離LS2、及び、第2測距装置22の背もたれ部12に対する設置角度ΦS2、並びに、第2測距装置22で経時的に測定される第2測距装置22からユーザUの体幹部52までの距離データd2tに基づいて、ユーザUの関節の力学量を算出する(S20)。
【0061】
具体的には、以下の方法で時刻tにおける力学量を算出する。ここでは、まず、骨盤部53の座標に基づいて、骨盤部53から鉛直方向に延びる軸に対する体幹部52の角度θ2tを算出する。
【数5】
ここで、d3tは、時刻tにおける、体幹部52と第2測距装置22の照射軸との交点と、骨盤部53との水平方向距離であり、d4tは、時刻tにおける、体幹部52と第2測距装置22の照射軸との交点と、骨盤部53との鉛直方向距離である。
【0062】
そして、体幹部52の角度θ2tに基づいて、ユーザUの腰関節の角速度ω2t及び角加速度α2tを算出する。
【数6】
なお、微分式の算出においては、前方差分又は後方差分などの近似解法で算出してもよい。
【0063】
ユーザUが着座装置10から起立すると、制御部36は計測終了判定を行う(S22)。計測終了判定は、例えば、第2測距装置22とユーザUの体幹部52との距離が所定以上となった状態、押しボタン又は人体感知センサなどの計測終了検知センサ(図示せず)がONとなった状態などを判定して行われる。
【0064】
計測が終了すると、運動機能評価部34は、力学量算出部33で算出した力学量に基づいて、ユーザの運動機能を評価する(S24)。
【0065】
具体的には、以下の方法で運動機能評価値P2を算出し運動機能評価値P2に基づいてユーザUの運動機能を評価する。運動機能評価値P2は、ユーザUの上半身の運動機能を評価する値である。運動機能評価値P2は、以下に示す体幹部52の角加速度α2tの最大値で算出する。
【数7】
このとき、起立時の重力方向を考慮して、以下の補正を行うと、より精度よく運動機能評価値P2が求められる。
【数8】
【0066】
運動機能評価部34は、上記で算出した運動機能評価値P2を所定値と比較してユーザUの上半身の運動機能を評価する。例えば、運動機能評価値P2が所定値よりも小さいとユーザUの上半身の運動機能が低下していると評価する。運動機能の評価結果は、記憶部35に保存される。
【0067】
ユーザUの運動機能の評価が終了すると、運動機能の評価結果が表示装置40に表示される(S26)。評価結果は、運動機能評価値P2で示されてもよいし、運動機能評価値P2を所定値と比較して運動機能の良好か要改善かを示してもよい。また、今回の評価結果を前回の評価結果と比較して、運動機能の向上又は低下を示してもよい。ユーザUは表示装置40に表示される運動機能の評価結果を確認する。
【実施例
【0068】
次に、実施形態1又は実施形態2に係る運動機能評価システム1a,1bについて、実施例を挙げて具体的に説明する。以下では、ユーザUを被験者と呼ぶ。
【0069】
<実施例1>
本実施例1では、実施形態2の運動機能評価システム1bの力学量の算出の精度を検証する。精度の検証は、既存の骨格検出システム(Kinect)で同時に測定を行うことで実施する。
【0070】
被験者は、高齢女性で障害のない者である。被験者の身体情報、並びに、着座装置10、第1測距装置21及び第2測距装置22の環境情報は以下の通りである。
身体情報
大腿部54の長さLf:391mm
環境情報
座部11の基準位置111から第1測距装置21までの距離LS1:150mm
第1測距装置21の設置角度ΦS1:63.5°
座部の奥行きの長さLC:425mm
座部11から第2測距装置22までの距離LS2:450mm
第2測距装置22の設置角度ΦS2:90°
大腿部54の長さは、被験者の身長、体重、年齢及び性別から、産業技術総合研究所 AIST 人体寸法・形状データベースに基づいて算出した値である。
【0071】
第1に、第1測距装置21のみを使用し、被験者に着座動作を行ってもらい、被験者の骨盤部53の座標を算出する。まず、第1測距装置21で測定した第1測距装置21から被験者の大腿部54までの距離データd1tに基づいて、上記した式を用いて算出した大腿部54と座部11とのなす角度θ1tと、Kinectから得られた大腿部54と座部11とのなす角度とを比較する。比較結果を図7に示す。
【0072】
次に、算出された角度θ1tを基に骨盤部53の座標(xt,yt)を算出し、同様にKinectから得られた座標と比較する。比較結果を図8図10に示す。図8は、時刻tに対するx座標の移動を比較した図で、図9は、時刻tに対するy座標の移動を比較した図である。また、図10は、着座動作における骨盤部53の位置を比較した図である。
【0073】
図7図10を参照すると、大腿部54と座部11とのなす角度θ1t及び骨盤部53の座標(xt,yt)ともに、Kinectで測定した値と概ね一致していることが確認できた。したがって、上記した式を用いて、大腿部54と座部11とのなす角度θ1t及び骨盤部53の座標(xt,yt)ともに、身体機能を評価できる程度に精度よく算出できることが分かる。
【0074】
第2に、第1測距装置21及び第2測距装置22を使用し、被験者に起立動作を行ってもらい、被験者の力学量を算出する。力学量として、被験者の腰関節の角度、すなわち、骨盤部53から鉛直方向に延びる軸に対する体幹部52の角度θ2tを算出する。
【0075】
被験者に起立動作を行ってもらい、まず、第1測距装置21で測定した第1測距装置21から被験者の大腿部54までの距離データd1tに基づいて、上記した式を用いて大腿部54と座部11とのなす角度θ1tを算出する。算出された角度θ1tを基に、骨盤部53の座標(xt,yt)を算出する。そして、算出された骨盤部53の座標(xt,yt)、及び、第2測距装置22で測定した第2測距装置22から被験者の体幹部52までの距離データd2tに基づいて、上記した式を用いて算出した体幹部52の角度θ2tと、Kinectから得られた体幹部52の角度とを比較する。比較した結果を図11に示す。
【0076】
図11を参照すると、体幹部52の角度θ2tは、Kinectで測定した値と概ね一致していることが確認できた。したがって、上記した式を用いて体幹部53の角度θ2tを、身体機能を評価できる程度に精度よく算出できることが分かる。
【0077】
また、実施形態2の運動機能評価システム1bを用いて着座状態での運動機能、例えば、着座状態での円背の程度を評価することができる。円背とは脊柱が前に倒れた状態を指し、歩行能力やバランス能力といった運動機能の低下につながるため、特にリハビリ分野等において円背の予防・改善が重要となる。着座状態での体幹部52の角度θ2tは、起立動作と同様の算出方法を用いて算出できる。着座状態での被験者の角度θ2tの算出結果と、Kinectから得られた体幹部の角度を比較する。比較した結果を図12に示す。
【0078】
図12を参照すると、着座状態での体幹部52の角度θ2tは、Kinectで測定した値と概ね一致していることが確認できた。したがって、例えば、算出された角度θ2t、又は角度θ2tを用いて算出された運動機能評価値P2がある閾値以上となる場合、円背傾向であると判定することができる。
【0079】
<実施例2>
本実施例2では、実施形態1の運動機能評価システム1aを用い、3名の被験者を対象とした運動機能の評価を行う。ここでは、各被験者に着座動作を行ってもらい、骨盤部53の座標(xt,yt)の加速度に基づき、被験者の下半身の運動機能を評価する。
【0080】
被験者1及び被験者2は、高齢女性で障害のない者である。被験者3は、若年成人男性で障害のない者である。各被験者の身体情報は以下の通りである。
被験者1の身体情報
大腿部54の長さLf:391mm
被験者2の身体情報
大腿部54の長さLf:391mm
被験者3の身体情報
大腿部54の長さLf:411mm
大腿部54の長さは、被験者の身長、体重、年齢及び性別から、産業技術総合研究所 AIST 人体寸法・形状データベースに基づいて算出した値である。
【0081】
第1測距装置21の環境情報は以下の通りである。
環境情報
座部11の基準位置111から第1測距装置21までの距離LS1:150mm
第1測距装置21の設置角度ΦS1:63.5°
第1測距装置21のサンプリング周期Δt:0.033sec
【0082】
まず、実施例1と同様にして、各被験者の骨盤部53の座標(xt,yt)を算出する。算出した骨盤部53の座標(xt,yt)、及び、骨盤部53の座標(xt,yt)の加速度の最大値に基づき、上記した式を用いて運動機能評価値P1を算出する。算出した結果を表1に示す。表1では、各被験者が5回ずつ着座動作を行った結果を示す。
【0083】
【表1】
【0084】
一般に、下半身の運動機能が低下すると「ドスンと座る」傾向が見られる。このとき、算出された加速度の最大値は大きくなる。よって、算出された加速度の最大値が大きいほど運動機能が低くなると判断できる。これに基づき、運動機能評価値P1を以下の判定式を用いて点数化する。運動機能が高いと100点とし、運動機能が低いと0点とする。
P1が27,000未満 :100点
P1が27,000以上55,000未満:(55,000-P1)/280)点
P1が55,000以上 :0点
上記判定式を用いて各被験者の運動機能を点数化して評価する。評価結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
表2より、被験者1の評価が低くなっていることが分かる。これにより、運動機能評価システム1aを用いて、被験者1の運動機能が低下していることを評価できることが確認できた。
【0087】
<実施例3>
本実施例3では、実施形態2の運動機能評価システム1bを用い、3名の被験者を対象とした運動機能の評価を行う。ここでは、各被験者に起立動作を行ってもらい、体幹部52の角度θ2tの角加速度に基づき、被験者の上半身の運動機能を評価する。なお、実施形態2の運動機能評価システム1bでは、実施例2と同様にして被験者の下半身の運動機能を評価することもできる。
【0088】
各被験者及び各被験者の身体情報は、実施例2と同様である。着座装置10、第1測距装置21及び第2測距装置の環境情報は、以下の通りである。
環境情報
座部11の基準位置111から第1測距装置21までの距離LS1:150mm
第1測距装置21の設置角度ΦS1:63.5°
座部の奥行きの長さLC:425mm
座部11から第2測距装置22までの距離LS2:450mm
第2測距装置22の設置角度ΦS2:90°
第1測距装置21及び第2測距装置22のサンプリング周期Δt:0.033sec
【0089】
まず、実施例1と同様にして、各被験者の骨盤部53の座標(xt,yt)を算出する。算出した骨盤部53の座標(xt,yt)に基づき、体幹部52の角度θ2tを算出する。次に、上記した式を用いて体幹部52の角加速度α2tを算出し、上記した式を用いて運動機能評価値P2を算出する。算出した結果を表3に示す。表3では、各被験者が5回ずつ起立動作を行った結果を示す。平均は、小数点以下を四捨五入して示す。
【0090】
【表3】
【0091】
一般に、上半身の運動機能が低下すると「なるべく体幹を使わずに起立する」傾向が見られる。このとき、算出された加速度の最大値は小さくなる。よって、算出された加速度の最大値が小さいほど運動機能が低くなると判断できる。これに基づき、運動機能評価値P2を以下の判定式を用いて点数化する。運動機能が高いと100点とし、運動機能が低いと0点とする。
P2が5,000以上 :100点
P2が1,000以上5,000未満:(P2―1,000)/40点
P2が1,000未満 :0点
上記判定式を用いて各被験者の運動機能を点数化して評価する。評価結果を表4に示す。評価結果の点数は、小数点以下を四捨五入して示す。
【0092】
【表4】
【0093】
表4より、高齢である被験者1及び被験者2の評価が低くなっていることが分かる。これにより、運動機能評価システム1bを用いて、被験者1及び被験者2の運動機能が低下していることを評価できることが確認できた。実施例2及び実施例3の評価結果を参照すると、被験者2について、下半身の運動機能の評価は83点であったのに対して、上半身の運動機能の評価は67点で、上半身の運動機能の評価が低く、上半身のみ運動機能が低下していると推定できる。
【0094】
<実施例4>
本実施例4では、実施例2及び実施例3で評価した結果を表示する例を示す。ここでは、実施例2及び実施例3を実施した結果、すなわち、「一度着座装置10に着座し、その後、着座装置10から起立する動作」を行った結果の運動機能の評価結果を表示する。
【0095】
第一の表示例としては、点数化した評価結果の平均点をそのまま表示する。表示例を図13に示す。
【0096】
第二の表示例として、運動機能の評価結果を、「良好」、「要改善」などの分かりやすい言葉又は画像で表示した例を示す。このとき、例えば80点を閾値として、以下の通り「良好」及び「要改善」を判断する。
80点以上:良好・笑顔の画像
80点未満:要改善・疲れた表情の画像
表示例を図14に示す。
【0097】
このように表示することで、被験者(ユーザU)には自身の現在の運動機能の状態が理解しやすくなる。これらの表示例からも分かるように、本発明では、少なくとも下半身の評価結果から、被験者は、自身の現在の運動機能の水準を具体的な数値として理解することができる。また、上半身の評価結果を下半身の評価結果に加えることによって、被験者は、下半身の評価結果のみの場合よりも、より正確に自身の現在の運動機能の水準を理解することができる。例えば、被験者1においては、下半身の評価結果では少し頑張れば良好になるが、上半身の評価結果により、下半身以上に上半身を改善することがより重要であることが分かる。これにより、被験者1は、上半身を改善するという今後の対応をより効率的に理解することができる。また、被験者2においては、下半身の評価結果は良好であるが、具体的な数値から判断すれば、最低限、現在の状態を維持する必要があることを理解することができる。さらに、上半身の評価結果により、上半身が要改善であることが分かり、下半身の維持以上に上半身の改善に向けて対応することが重要であることが分かる。また、被験者3においては、下半身、上半身とも良好であるので安心ではあるが、具体的な数値からみて下半身の具体的な数値を100にする目標が得られる。
【0098】
以上のように、本発明の運動機能評価システム1a,1bでは、着座装置10に取り付けられた第1測距装置21及び/又は第2測距装置22を用いてユーザUの力学量を算出している。これにより、計測装置をユーザUに取り付ける必要がなくなる。
【0099】
また、本発明の運動機能評価システム1a,1bでは、ユーザUの身体情報、第1測距装置21及び/又は第2測距装置22の環境情報、並びに、第1測距装置21及び/又は第2測距装置22で測定した第1測距装置21からユーザUの大腿部54までの距離データ及び/又は第2測距装置22からユーザUの体幹部52までの距離データを利用して、正確にユーザUの関節の力学量を算出することができる。このように、ユーザUの関節の力学量を正確に算出できるため、ユーザUごとに違った立ち方又は座り方をする場合でも、ユーザUの立ち方又は座り方に関係なくユーザUの関節の力学量に基づいてユーザUの運動機能も正確に評価することができる。このように正確に運動機能を評価することで、ユーザUの介護が必要になるリスクを正確に判断することができる。
【0100】
また、日常生活の中でユーザUが着座及び起立する着座装置10を利用して運動機能評価システム1a,1bを構築することで、ユーザUは常に自身の運動機能を把握することができる。また、ユーザUは、自身の運動機能の評価結果を顧みて運動機能の向上を試みることができ、運動機能が低下することによって要介護状態となるリスクを低減することができる。特に、本発明の運動機能評価システム1a,1bでは、過去の運動機能の評価結果も記憶部35に記憶している。これにより、ユーザUは、運動機能の評価結果を過去の評価結果と比較して確認することができ、運動機能の継続的な変化を確認することができるため、運動機能の維持または改善に効果的に利用することができる。
【0101】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0102】
例えば、上記実施形態では、骨盤座標の算出及び力学量の算出は、ユーザUが着座動作又は起立動作を行っている間に行っているが、必ずしもこの構成でなくてもよい。例えば、ユーザUが着座動作又は起立動作を終了し、計測終了後に骨盤座標の算出及び力学量の算出を行ってもよい。
【0103】
また、上記実施形態では、情報処理装置30は、リンクモデル生成部31を備えているが、リンクモデル生成部31は必ずしも備えなくてもよい。この場合は、人体リンクモデル50を生成するステップS12を行わず、記憶部35に保存されている身体情報に基づいてユーザUの運動機能を評価する。
【符号の説明】
【0104】
1a,1b 運動機能評価システム
10 着座装置
11 座部
12 背もたれ部
21 第1測距装置
22 第2測距装置
30 情報処理装置
31 リンクモデル生成部
32 骨盤座標算出部
33 力学量算出部
34 運動機能評価部
50 人体リンクモデル
52 体幹部
53 骨盤部
54 大腿部
U ユーザ

【要約】
【課題】 ユーザに計測装置を装着せずに、ユーザの体幹の力学量を算出して正確に運動機能を評価する運動機能評価システムを提供する。
【解決手段】 本発明の運動機能評価システム1aは、着座装置10と、着座装置10の座部11に取り付けられる第1測距装置21と、情報処理装置30とを備える。情報処理装置30は、予め設定されているユーザUの大腿部54の長さ、座部11の基準位置111から第1測距装置21までの距離、及び、第1測距装置21の座部11に対する設置角度、並びに、第1測距装置21で経時的に測定されるユーザUの大腿部54までの距離データに基づいて、ユーザUの骨盤部53の座標を算出する骨盤座標算出部32と、骨盤座標算出32で算出した骨盤部53の座標に基づいて、ユーザUの少なくとも下半身の運動機能を評価する運動機能評価部34と、を有する。
【選択図】 図2

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