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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】高圧放電ランプ
(51)【国際特許分類】
   H01J 61/073 20060101AFI20220905BHJP
【FI】
H01J61/073 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018097692
(22)【出願日】2018-05-22
(65)【公開番号】P2019204625
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106862
【弁理士】
【氏名又は名称】五十畑 勉男
(72)【発明者】
【氏名】團 雅史
(72)【発明者】
【氏名】有本 智良
(72)【発明者】
【氏名】山根 巧
(72)【発明者】
【氏名】有本 太郎
(72)【発明者】
【氏名】二川 真司
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-339713(JP,A)
【文献】特開平11-154487(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002542(WO,A1)
【文献】特開2010-153292(JP,A)
【文献】特開2017-111995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンまたはタングステン合金からなる陰極と、当該陰極の芯線挿入孔に挿入された芯線とからなる陰極体を備えた高圧放電ランプにおいて、
前記陰極の放電空間に対して露出した表面(先端部を除く)、および、前記芯線挿入孔の内面に、炭化層を形成し、
前記炭化層は、炭化タングステン(WC)からなるとともに、
前記炭化層に含まれる炭素(C)量は、0.44~0.53g/ccである、
ことを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
前記炭化層の厚さが、20~40μmであることを特徴とする請求項1に記載の高圧放電ランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステンまたはタングステン合金からなる陰極を有する高圧放電ランプに関するものであり、特に、映写機の投影用光源や、半導体や液晶の製造分野などの露光用光源あるいは分析用の光源に適用される高圧放電ランプに係る。
【背景技術】
【0002】
高圧放電ランプは、発光管内に対向配置された一対の電極の先端距離が短く点光源に近いことから、光学系と組み合わせることにより集光効率の高い光源として、デジタルシネマプロジェクターや露光装置、分析用の光源などに使用されている。
【0003】
このような高圧放電ランプの一例として、デジタルプロジェクターに使用されるキセノンランプが特開2012-150951号公報(特許文献1)に開示されている。
図3に該従来の高圧放電ランプが示されており、高圧放電ランプの石英ガラス製の発光管10は、中央に位置する略球状に形成された発光部11と、その両端の封止管12、12を備える。発光部11内の放電空間Sには、タングステン等の高融点材料からなる陰極21と陽極31とが互いに向き合うように対向配置されるとともに、その放電空間Sには発光物質としてキセノンが封入されている。
陰極21および陽極31には、それぞれ陰極芯線22および陽極芯線32が挿入されており、この陰極芯線22および陽極芯線32が封止管12、12の封止部13、13で封止されている。
【0004】
図4に示すように、前記陰極21には、そのテーパー部21aに炭化タングステン(WC)層40が設けられていて、以下に詳述するように、点灯時に陰極21の先端のアークと接する部分に炭素(C)を供給している。
なお、この図4の例では、テーパー部21aの先端部21bは、炭化タングステン(WC)層40が形成されていないものが示されている。
【0005】
図5には、高圧放電ランプの発光部内における一連の反応が模式的に示されている。
石英ガラスからなる発光部11の内表面層に含まれるOH基は、ランプ点灯中に例えば水(HO)として放電空間S内に放出される。この放出されたHOが、発光部11の陰極21の表面に具備された炭化タングステン層40の炭素または炭素化合物と主に陰極表面において反応し、一酸化炭素ガス(CO)を生成する。
このCOが、発光部11の放電空間S内に気相状態で拡散することにより、その一部がアークAの中に入る。このCOは、アークAの中では高温のために分解されて、C+イオンを生成する。生成されたC+イオンはアークA中の電界によって陰極先端へ運ばれ、そこで陰極21のタングステンWと反応して、WCやWCなどのタングステンの炭化物を生成する。
陰極先端表面にタングステンの炭化物が生成されると、特にランプ始動時の高温によって、その炭化物が陰極先端面で溶融するため、当該陰極先端面が滑らかに維持されるとともに、陰極先端面における凹凸の形成が防止されて、放電が安定することになる。
【0006】
ところで、このような高圧放電ランプ、特にデジタルプロジェクター用のキセノンショートアークランプにおいては、その陰極は高い動作圧力、陰極先端における高電流密度という、非常に厳しい環境下で使用されることがある。
このような環境下で点灯を続けると、やがて陰極先端が変形して凹凸が形成され、放電起点が移動(アークジャンプ)して、フリッカーが発生し始める。これは、点灯の経過に伴い、炭化タングステン(WC)層40の炭素Cが減少してしまい、図5に示される一連の反応が起こりにくくなるためである。
すなわち、炭化タングステン(WC)層40の炭素Cが減少することにより、発光部11の放電空間Sにおける一酸化炭素COも減少し、アーク中のC+イオンの量が減少する結果、陰極21の先端で、WCやWCなどのタングステンの炭化物が生成されなくなる。そのため、陰極先端面に凹凸ができて、フリッカーの発生に至るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-150951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点に鑑みて、タングステンまたはタングステン合金からなる陰極と、当該陰極の芯線挿入孔に挿入された芯線とからなる陰極体を備えた高圧放電ランプにおいて、ランプ点灯後、陰極の先端面に凹凸ができるのを長時間にわたって防止し、フリッカー現象の発生を長時間抑制した使用寿命の長い高圧放電ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明に係る高圧放電ランプは、前記陰極の放電空間に対して露出した表面(先端部を除く)、および、前記芯線挿入孔の内面に、炭化層を形成したことを特徴とする。
また、前記炭化層は、炭化タングステン(WC)からなることを特徴とする。
また、前記炭化層の厚さが、20~40μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明の高圧放電ランプによれば、陰極の放電空間に対して露出した表面に炭化層を形成することで、陰極先端部表面のみならず後端部表面からも炭素を拡散して、陰極表面におけるCOの生成を維持できる。
更には、前記芯線挿入孔の内面にも炭化層を形成したことで、点灯経過中に陰極の内部から表面に向かって炭素を拡散させることができ、これにより、陰極表面におけるCOの生成を持続させることができる。COの生成が持続することにより、発光部における一酸化炭素COも維持され、アーク中のC+イオンの量も維持される。そして、陰極2の先端でWCやWCなどのタングステンの炭化物が生成されるため、結果として、陰極先端の凹凸の発生を防止することができ、フリッカー寿命が長期化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の高圧放電ランプに用いる電極体の第1実施例の断面図。
図2】本発明の陰極における炭素の挙動の説明図。
図3】従来の高圧放電ランプの断面図。
図4】従来の陰極の断面図。
図5】従来の陰極の先端部分の炭素の挙動の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の高圧放電ランプに用いる電極体の実施例の断面図であり、陰極体1は、タングステンまたはタングステン合金からなる陰極2と、その後端に穿設された芯線挿入孔3に挿入された芯線4とからなる。そして、陰極2の放電空間に露出した表面には、その先端部2aを除いて炭化層5が形成されている。
タングステンは、タングステンの精錬過程で包含される程度の不純物を含んでいてもよい。また、タングステン合金は、タングステンWと、酸化トリウムThOまたはセリウムCe若しくはランタンLaなどの希土類の酸化物との合金である。これらとタングステンの金属間化合物を含んでいてもよい。
陰極体1は、タングステンとタングステン合金とを接合して形成してもよい。
なお、炭化層5は陰極2の放電空間に露出した表面に形成するとしたが、本発明の効果を生じる限りにおいて、その一部に、炭化層を設けない部分や炭化層が薄い部分があってもよい。
【0013】
この炭化層5として、炭化タングステンを利用する場合、炭化層に含まれる炭素C量は0.44~0.53g/ccが好ましい。
炭素C量が多いと、陰極表面におけるCOの生成が過剰となることで、陰極先端面ばかりか陽極先端面にも炭素Cが輸送されて、WCやWCなどのタングステンの炭化物が生成されてしまう。ランプ点灯中は、陰極先端面に比べて陽極先端面は高温になるため、陽極先端面の炭化物が蒸発して、放電容器内面の黒化が促進されてしまうという不具合が生じる
また逆に、炭素C量が少ないと、陰極表面におけるCOの生成が不足するため、早期に陰極先端が荒れて、アーク起点が移動し易くなり、フリッカーが発生する。
【0014】
また、炭化層5の厚さは、20~40μmが好ましい。
炭化層が厚すぎると、陰極表面におけるCOの生成が過剰となることで、陰極先端面ばかりか陽極先端面にも炭素Cが輸送されて、WCやWCなどのタングステンの炭化物が生成され、それらの炭化物が蒸発して、放電容器内面の黒化が促進されてしまう。
炭化層が薄すぎると、陰極表面におけるCOの生成が不足するため、早期に陰極先端が荒れて、フリッカーが発生する。
【0015】
なお、この炭化層5は、陰極2の先端部2aには形成しない。陰極2の母材であるトリタンの融点は3420℃であり、炭化層5を形成する物質はこれよりも融点が低い(例えば、炭化タングステンでは融点が約2800℃)。このため、陰極2の先端部2aまで炭化層5を形成すると、点灯時の先端部分2aの炭化層5の溶融が過大になり、早期にフリッカー現象が発生するからである。
したがって、炭化層5は、これが溶融する温度となる位置、即ち先端部2aには形成しない。具体的には、2~6kW程度のキセノンランプでは、先端から3~5mmまでの範囲には、炭化層2を形成しない。
【0016】
また、本発明では、陰極2の芯線挿入孔3の内面にも炭化層5が形成されている。
図2に示すように、点灯時間の経過に伴い陰極2の表面に形成された炭化層5中の炭素Cは消費されて減少していくが、芯線挿入孔3内面の炭化層5から炭素Cが、徐々に陰極2内部に拡散していく。
この芯線挿入孔3から電極内部に拡散した炭素Cは徐々に陰極表面に到達して、陰極表面におけるCOの生成に寄与するものである。
なお、この芯線挿入孔3の内面温度は、陰極表面の温度よりも低いので、当該芯線挿入孔3の炭化層5からの炭素の拡散は、陰極表面の炭化層5からの拡散に対して時間差をもって作用することから、陰極表面の炭化層5から炭素が消費され減少してしまう頃のタイミングで炭素が供給されるので、陰極表面の炭化層5における炭素の枯渇を抑制することができる。
また、本発明の効果を生じる限りにおいて、芯線挿入孔3の内面の一部に、前記炭化層を設けない部分や前記炭化層が薄い部分があってもよい。
【0017】
このような炭化層5の形成方法としては、例えば、気相炭化法を利用することができる。気相炭化法とは、ベンゼンと水素の混合ガスを高周波加熱装置で加熱した陰極と反応させる方法である。
ベンゼンと水素の混合した処理ガスを、流速2L/min程度の流量で、反応チャンバーに流す。この反応チャンバー内で陰極を高周波加熱により、約1900℃に昇温させ、5分間保持する。混合ガスを水素ガスに置換し、約1700℃まで温度を下げ、この温度を5分維持する。この処理を複数回繰り返し、30μm程度の炭化層を形成した陰極本体を得る。
これにより、陰極2の外表面および芯線挿入孔3の内面の全面に炭化層5が形成される。その後、陰極2の先端部2aを切削加工して炭化層を除去する。
【0018】
この発明の高圧放電ランプによれば、陰極の放電空間に対して露出した表面(先端部を除く)に炭化層を形成することで、陰極表面におけるCOの生成を維持できる。更には、前記芯線挿入孔の内面に、炭化層を形成したことで、点灯経過中に陰極の内部から表面へ向かって炭素を拡散させることができ、これにより、陰極表面におけるCOの生成を長期間、持続させることができる。
【符号の説明】
【0019】
1 :陰極体
2 :陰極
2a:(陰極)先端部
3 :芯線挿入孔
4 :芯線
5 :炭化層



図1
図2
図3
図4
図5