IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両の制御装置 図1
  • 特許-車両の制御装置 図2
  • 特許-車両の制御装置 図3
  • 特許-車両の制御装置 図4
  • 特許-車両の制御装置 図5
  • 特許-車両の制御装置 図6
  • 特許-車両の制御装置 図7
  • 特許-車両の制御装置 図8
  • 特許-車両の制御装置 図9
  • 特許-車両の制御装置 図10
  • 特許-車両の制御装置 図11
  • 特許-車両の制御装置 図12
  • 特許-車両の制御装置 図13
  • 特許-車両の制御装置 図14
  • 特許-車両の制御装置 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/04 20060101AFI20220905BHJP
   B60W 10/20 20060101ALI20220905BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20220905BHJP
   F02D 13/06 20060101ALI20220905BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20220905BHJP
【FI】
B60W10/00 134
B60W10/06
B60W10/20
F02D13/06 F
B60W30/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018121689
(22)【出願日】2018-06-27
(65)【公開番号】P2020001513
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】秋谷 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小川 大策
(72)【発明者】
【氏名】山根 裕一郎
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-19335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
F02D 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制御装置であって、
前記車両の後輪を駆動するエンジンと、
前記車両を操舵するための操舵装置と、
前記操舵装置の操舵角に関連する操舵角関連値を検出する操舵角関連値センサと、
前記車両の運転状態を検出する運転状態センサと、
前記エンジンを制御する制御器と、を有し、
前記制御器は、
前記運転状態センサによって検出された運転状態に基づき、前記エンジンの基本トルクを設定し、
前記操舵角関連値センサによって検出された操舵角関連値が第1閾値以上になったときに、前記後輪を駆動する前記エンジンのトルクを増加させることにより、前記後輪を車両前方へ推進させる力を発生させ、その結果、この力が前記後輪からサスペンションを介して前記車両の車体に伝達されるときに、車体後部を上向きに持ち上げる力を瞬間的に作用させることによって前記車体を前傾させるべく、前記エンジンの増加トルクを設定し、
前記増加トルクを前記基本トルクに加算することで求められた目標トルクが発生するように前記エンジンを制御し、
単位時間当たりの前記エンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、前記第1閾値を小さくするよう構成されている、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記エンジンは、複数気筒を備え、この複数気筒のうちで一部の気筒の燃焼を休止する減筒運転が可能であり、
前記制御器は、前記複数気筒のうちで燃焼を休止する気筒数が多いときには、そうでないときよりも、前記第1閾値を小さくするよう構成されている、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサを更に有し、
前記制御器は、前記エンジン回転数センサによって検出されたエンジン回転数が低いときには、そうでないときよりも、前記第1閾値を小さくするよう構成されている、請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御器は、単位時間当たりの前記エンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、トルクの増加方向の変化速度が大きくなるように、前記増加トルクを大きくするよう構成されている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御器は、
前記操舵角関連値が前記第1閾値以上になった後に第2閾値未満になったときに、前記増加トルクを減少させ、
単位時間当たりの前記エンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、前記第2閾値を大きくするよう構成されている、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御器は、
前記操舵角関連値が前記第1閾値以上になった後に第2閾値未満になったときに、前記増加トルクを減少させ、
単位時間当たりの前記エンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、トルクの減少方向の変化速度が大きくなるように、前記増加トルクを減少させるよう構成されている、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記制御器は、
前記増加トルクの適用が終了した後に前記操舵角関連値が第3閾値以上になったときに、前記エンジンのトルクを低減させることにより、前記後輪を車両後方へ引っ張る力を発生させ、その結果、この力が前記後輪から前記サスペンションを介して前記車体に伝達されるときに、車体後部を下向きに沈み込ませる力を瞬間的に作用させることによって前記車体を後傾させるべく、前記エンジンの低減トルクを設定し、
前記低減トルクを前記基本トルクから減算することで求められた目標トルクが発生するように前記エンジンを制御し、
単位時間当たりの前記エンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、前記第3閾値を小さくするよう構成されている、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記制御器は、
前記増加トルクの適用が終了した後に前記操舵角関連値が第3閾値以上になったときに、前記エンジンのトルクを低減させることにより、前記後輪を車両後方へ引っ張る力を発生させ、その結果、この力が前記後輪から前記サスペンションを介して前記車体に伝達されるときに、車体後部を下向きに沈み込ませる力を瞬間的に作用させることによって前記車体を後傾させるべく、前記エンジンの低減トルクを設定し、
前記低減トルクを前記基本トルクから減算することで求められた目標トルクが発生するように前記エンジンを制御し、
単位時間当たりの前記エンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、トルクの減少方向の変化速度が大きくなるように、前記低減トルクを大きくするよう構成されている、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項9】
前記制御器は、
前記操舵角関連値が前記第3閾値以上になった後に第4閾値未満になったときに、前記低減トルクを減少させ、
単位時間当たりの前記エンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、前記第4閾値を大きくするよう構成されている、
請求項7又は8に記載の車両の制御装置。
【請求項10】
前記制御器は、
前記操舵角関連値が前記第3閾値以上になった後に第4閾値未満になったときに、前記低減トルクを減少させ、
単位時間当たりの前記エンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、トルクの増加方向の変化速度が大きくなるように、前記低減トルクを減少させるよう構成されている、
請求項7乃至9のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項11】
車両の後輪を駆動するエンジンと前記車両を操舵するための操舵装置とを有する車両の制御装置であって、
前記操舵装置の操舵角に関連する操舵角関連値が閾値以上になったときに、前記後輪を駆動する前記エンジンのトルクを増加させることにより、前記後輪を車両前方へ推進させる力を発生させ、その結果、この力が前記後輪からサスペンションを介して前記車両の車体に伝達されるときに、車体後部を上向きに持ち上げる力を瞬間的に作用させることにより、前記車体を前傾させるべく、前記エンジンのトルクを増加させる車両姿勢制御手段と、
単位時間当たりの前記エンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、前記閾値を小さくする閾値設定手段と、
を有することを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に係わり、特に、車両の操舵に基づき、後輪を駆動するエンジンのトルクを制御する車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スリップ等により車両の挙動が不安定になった場合に安全方向に車両の挙動を制御するもの(横滑り防止装置等)が知られている。具体的には、車両のコーナリング時等に、車両にアンダーステアやオーバーステアの挙動が生じたことを検出し、それらを抑制するように車輪に適切な減速度を付与するようにした技術が知られている。
【0003】
他方で、車両の挙動が不安定になるような走行状態における安全性向上のための制御とは別に、ステアリングの切り込み操作時にトルクを低減させて車両減速度を生じさせることで、コーナリング時におけるドライバの操作が自然で安定したものとなるように車両挙動を制御する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。以下では、このようなドライバによるステアリング操作に応じてトルクを変化させて車両の姿勢を制御することを適宜「車両姿勢制御」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5999360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本件発明者が、特許文献1等に記載されているような、ドライバによるステアリング操舵に伴って車両に減速度を与える制御(車両姿勢制御)の、後輪駆動車への適用を試みたところ、特許文献1記載の発明において得られている操縦安定性の向上や、車両挙動の応答性、リニア感の向上という効果を得ることはできなかった。
【0006】
即ち、本件発明者は、車両姿勢制御として、特許文献1等に記載されているように、ステアリング操作に伴って車両に減速度を与える制御を適用した。しかしながら、このような従来から知られている車両姿勢制御を後輪駆動車に適用した場合には、前輪駆動車において得られていたような車両の応答性やリニア感の向上といった効果を得ることはできなかった。この新たに見出された課題を解決するために本件発明者が鋭意研究を進めた結果、後輪駆動車においては、驚くべきことに、ドライバによる操舵に応じて車両の駆動トルクを増加させることにより、車両応答性やリニア感が向上することが明らかとなった。
【0007】
一般に、車両に減速度を付与すると、車両の重心に作用する慣性力により、車両にはフロント側が沈むピッチング運動が発生するため、操舵輪である前輪荷重が増加して、ステアリング操作に対する応答性が向上するものと考えられていた。しかしながら、後輪駆動車においては、後輪の駆動トルクを減じて車両に減速度を付与した際、上記の慣性力の他に、後輪からサスペンションを介して車体を後傾させる(リア側を沈ませる)力が瞬間的に発生する。この瞬間的な力は、前輪荷重を低下させるように作用するため、後輪駆動車においては、ドライバによる操舵に応じて車両に減速度を付与しても、期待通りに車両応答性やリニア感を向上させることができなかったものと考えられる。
【0008】
これとは反対に、後輪駆動車においては、後輪の駆動トルクを増加させることにより、後輪からサスペンションを介して車体を前傾させる(フロント側を沈ませる)力が瞬間的に作用して前輪荷重が増加するため、車両応答性やリニア感が向上するものと考えられる。即ち、後輪駆動車において、後輪の駆動トルクを増加させて加速度を付与すると、車体を後傾させる慣性力と、車体を前傾させる瞬間的な力が発生するが、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感に対しては瞬間的な車体を前傾させる力が支配的に寄与しているものと考えられる。
【0009】
本件発明者は、車両に搭載された操舵装置の操舵角の増加に基づいて、車両の運転状態に応じた基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定することにより、上記の瞬間的な力により前輪荷重が増加し、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感を向上できることを見出した。
【0010】
ところで、従来から、複数の気筒を有する多気筒エンジンにおいて、燃費を向上させるために、車両の運転状態に応じて、全ての気筒内で混合気の燃焼が実施される全筒運転と、複数の気筒のうち一部の気筒内で混合気の燃焼が停止される減筒運転との間で運転モードを切り替える技術(気筒休止エンジン)が知られている。このような気筒休止エンジンの減筒運転時においては、燃焼順序が連続しない気筒において燃焼が禁止され、残りの気筒において順次燃焼が行われる。そのため、減筒運転時の燃焼間隔は全筒運転時の燃焼間隔よりも長くなる。
【0011】
したがって、気筒休止エンジンにおいて、上述の後輪の駆動トルク増加による車両姿勢制御を行うと、全筒運転時と減筒運転時とでは、車両姿勢制御の実行要求が発生してから、気筒の燃焼タイミングが最初に到来し車両姿勢制御が実際に開始されるまでの時間に差が生じることとなる。よって、車両姿勢制御の実行要求に対するトルクの応答性が悪化することで、車両姿勢制御による車両の挙動が異なるものとなったり、ドライバに違和感を与えたりする場合がある。
【0012】
なお、上記の例では、気筒休止エンジンにおける減筒運転時に、車両姿勢制御の実行要求に対するトルクの応答性が悪化するものを示したが、このような問題は、気筒休止エンジンにおける減筒運転時に限らず、単位時間当たりの燃焼回数が比較的小さいエンジンの運転条件(例えばエンジンの低回転数領域)においても生じ得る。
【0013】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、エンジンにより後輪が駆動される車両に対して車両姿勢制御を行う車両の制御装置において、車両姿勢制御時におけるトルクの応答性悪化を適切に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明は、車両の制御装置であって、車両の後輪を駆動するエンジンと、車両を操舵するための操舵装置と、操舵装置の操舵角に関連する操舵角関連値を検出する操舵角関連値センサと、車両の運転状態を検出する運転状態センサと、エンジンを制御する制御器と、を有し、制御器は、運転状態センサによって検出された運転状態に基づき、エンジンの基本トルクを設定し、操舵角関連値センサによって検出された操舵角関連値が第1閾値以上になったときに、後輪を駆動するエンジンのトルクを増加させることにより、後輪を車両前方へ推進させる力を発生させ、その結果、この力が後輪からサスペンションを介して車両の車体に伝達されるときに、車体後部を上向きに持ち上げる力を瞬間的に作用させることによって車体を前傾させるべく、エンジンの増加トルクを設定し、増加トルクを基本トルクに加算することで求められた目標トルクが発生するようにエンジンを制御し、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、第1閾値を小さくするよう構成されている、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によれば、エンジンにより後輪が駆動される車両に関して、制御器は、操舵角関連値が第1閾値以上になったときに増加トルクを付加する車両姿勢制御を行い、この第1閾値を単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときに小さくする。これにより、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときに、車両姿勢制御の開始要求が発せられるタイミングが早くなり、車両姿勢制御の開始が遅れることを適切に抑制することができる。よって、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときに、車両姿勢制御の開始時におけるトルク増加の応答性悪化を適切に抑制することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、エンジンは、複数気筒を備え、この複数気筒のうちで一部の気筒の燃焼を休止する減筒運転が可能であり、制御器は、複数気筒のうちで燃焼を休止する気筒数が多いときには、そうでないときよりも、第1閾値を小さくするよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、減筒運転において休止する気筒数(休止気筒数)に基づき、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数を判断して、この休止気筒数に応じて上記の第1閾値を適切に設定することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサを更に有し、制御器は、エンジン回転数センサによって検出されたエンジン回転数が低いときには、そうでないときよりも、第1閾値を小さくするよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、現在のエンジン回転数に基づき、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数を判断して、上記の第1閾値を適切に設定することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、制御器は、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、トルクの増加方向の変化速度が大きくなるように、増加トルクを大きくするよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときに、車両姿勢制御の開始時にトルクを速やかに増加させることができ、車両姿勢制御の開始時におけるトルク増加の応答性悪化をより効果的に抑制することができる。
【0018】
本発明において、好ましくは、制御器は、操舵角関連値が第1閾値以上になった後に第2閾値未満になったときに、増加トルクを減少させ、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、第2閾値を大きくするよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、操舵角関連値が第2閾値未満になったときに車両姿勢制御を終了させるようにし、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときに第2閾値を大きくする。これにより、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときに、車両姿勢制御の終了要求が発せられるタイミングが早くなり、車両姿勢制御の終了が遅れることを適切に抑制することができる。よって、車両姿勢制御の終了時におけるトルク復帰(トルク減少)の応答性悪化を適切に抑制することができる。
【0019】
本発明において、好ましくは、制御器は、操舵角関連値が第1閾値以上になった後に第2閾値未満になったときに、増加トルクを減少させ、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、トルクの減少方向の変化速度が大きくなるように、増加トルクを減少させるよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、操舵角関連値が第2閾値未満になったときに、増加トルクを減少させて車両姿勢制御を終了させるようにし、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときにトルクの減少方向の変化速度を大きくするので、車両姿勢制御の終了時にトルクを速やかに減少させることができる。したがって、車両姿勢制御の終了時におけるトルク復帰(トルク減少)の応答性悪化を適切に抑制することができる。
【0020】
本発明において、好ましくは、制御器は、増加トルクの適用が終了した後に操舵角関連値が第3閾値以上になったときに、エンジンのトルクを低減させることにより、後輪を車両後方へ引っ張る力を発生させ、その結果、この力が後輪からサスペンションを介して車体に伝達されるときに、車体後部を下向きに沈み込ませる力を瞬間的に作用させることによって車体を後傾させるべく、エンジンの低減トルクを設定し、低減トルクを基本トルクから減算することで求められた目標トルクが発生するようにエンジンを制御し、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、第3閾値を小さくするよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、上記の車両姿勢制御後に操舵角関連値が第3閾値以上になったときに低減トルクを付加する別の車両姿勢制御を行い、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときに第3閾値を小さくする。これにより、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときに、車両姿勢制御の開始要求が発せられるタイミングが早くなり、車両姿勢制御の開始が遅れることを適切に抑制することができる。よって、車両姿勢制御の開始時におけるトルク減少の応答性悪化を適切に抑制することができる。
【0021】
本発明において、好ましくは、制御器は、増加トルクの適用が終了した後に操舵角関連値が第3閾値以上になったときに、エンジンのトルクを低減させることにより、後輪を車両後方へ引っ張る力を発生させ、その結果、この力が後輪からサスペンションを介して車体に伝達されるときに、車体後部を下向きに沈み込ませる力を瞬間的に作用させることによって車体を後傾させるべく、エンジンの低減トルクを設定し、低減トルクを基本トルクから減算することで求められた目標トルクが発生するようにエンジンを制御し、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、トルクの減少方向の変化速度が大きくなるように、低減トルクを大きくするよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、上記の車両姿勢制御後に操舵角関連値が第3閾値以上になったときに低減トルクを付加する別の車両姿勢制御を行い、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときにトルクの減少方向の変化速度を大きくするので、車両姿勢制御の開始時にトルクを速やかに減少させることができる。したがって、車両姿勢制御の開始時におけるトルク減少の応答性悪化をより効果的に抑制することができる。
【0022】
本発明において、好ましくは、制御器は、操舵角関連値が第3閾値以上になった後に第4閾値未満になったときに、低減トルクを減少させ、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、第4閾値を大きくするよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、上記の車両姿勢制御中に操舵角関連値が第4閾値未満になったときに車両姿勢制御を終了させるようにし、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときに第4閾値を大きくする。これにより、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときに、車両姿勢制御の終了要求が発せられるタイミングが早くなり、車両姿勢制御の終了が遅れることを適切に抑制することができる。よって、車両姿勢制御の終了時におけるトルク復帰(トルク増加)の応答性悪化を適切に抑制することができる。
【0023】
本発明において、好ましくは、制御器は、操舵角関連値が第3閾値以上になった後に第4閾値未満になったときに、低減トルクを減少させ、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、トルクの増加方向の変化速度が大きくなるように、低減トルクを減少させるよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、上記の車両姿勢制御中に操舵角関連値が第4閾値未満になったときに、低減トルクを減少させて第2車両姿勢制御を終了させるようにし、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときにトルクの増加方向の変化速度を大きくするので、車両姿勢制御の終了時にトルクを速やかに増加させることができる。したがって、車両姿勢制御の終了時におけるトルク復帰(トルク増加)の応答性悪化を適切に抑制することができる。
【0024】
他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の後輪を駆動するエンジンと車両を操舵するための操舵装置とを有する車両の制御装置であって、操舵装置の操舵角に関連する操舵角関連値が閾値以上になったときに、後輪を駆動するエンジンのトルクを増加させることにより、後輪を車両前方へ推進させる力を発生させ、その結果、この力が後輪からサスペンションを介して車両の車体に伝達されるときに、車体後部を上向きに持ち上げる力を瞬間的に作用させることにより、車体を前傾させるべく、エンジンのトルクを増加させる車両姿勢制御手段と、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときには、そうでないときよりも、閾値を小さくする閾値設定手段と、を有することを特徴とする。
このように構成された本発明によれば、車両の制御装置は、エンジンにより後輪が駆動される車両に関して、操舵角関連値が閾値以上になったときにトルクを増加させる車両姿勢制御を行い、この閾値を単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときに小さくする。これにより、単位時間当たりのエンジンの燃焼回数が少ないときに、車両姿勢制御の開始要求が発せられるタイミングが早くなり、車両姿勢制御の開始が遅れることを適切に抑制することができる。よって、車両姿勢制御の開始時におけるトルク増加の応答性悪化を適切に抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、エンジンにより後輪が駆動される車両に対して車両姿勢制御を行う車両の制御装置において、車両姿勢制御時におけるトルクの応答性悪化を適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態による車両の制御装置が適用された車両の全体構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態による車両の制御装置が適用されたエンジンシステムの概略構成図である。
図3】本発明の実施形態によるエンジンの概略平面図である。
図4】本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
図5】本発明の実施形態において運転モードを切り替えるエンジンの運転領域を概念的に示したマップである。
図6】本発明の実施形態による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
図7】本発明の実施形態による増加トルク設定処理のフローチャートである。
図8】本発明の実施形態による第1車両姿勢制御の開始閾値及び終了閾値を定めたマップである。
図9】本発明の実施形態による付加加速度と操舵速度との関係を示したマップである。
図10】本発明の実施形態による付加加速度を補正するためのマップである。
図11】本発明の実施形態による低減トルク設定処理のフローチャートである。
図12】本発明の実施形態による第2車両姿勢制御の開始閾値及び終了閾値を定めたマップである。
図13】本発明の実施形態による付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
図14】本発明の実施形態による付加減速度を補正するためのマップである。
図15】本発明の実施形態による車両が旋回を行う場合の、車両姿勢制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両の制御装置について説明する。
【0028】
<車両の構成>
まず、図1を参照して、本発明の実施形態による車両の制御装置が適用された車両について説明する。図1は、本発明の実施形態による車両の制御装置が適用された車両の全体構成を示すブロック図である。
【0029】
図1において、符号200は、本実施形態による車両の制御装置を搭載した車両を示す。車両200の車体前部には操舵輪である左右の前輪202aが設けられ、車体後部には駆動輪である左右の後輪202bが設けられている。これら車両200の前輪202a、後輪202bは、車体に対してサスペンション203により夫々支持されている。また、車両200の車体前部には、後輪202bを駆動する原動機であるエンジン10が搭載されている。本実施形態においては、エンジン10は、ガソリンエンジンであるが、原動機としてディーゼルエンジンなどの内燃エンジンを使用することもできる。また、本実施形態において、車両200は、車体前部に搭載されたエンジン10により、変速機204a、プロペラシャフト204b、ディファレンシャルギア204cを介して後輪202bが駆動される所謂FR車であるが、車体後部に搭載されたエンジン10により後輪202bを駆動する所謂RR車等、エンジン10により後輪が駆動される任意の車両に本発明を適用することができる。
【0030】
また、車両200には、ステアリングホイール206(以下では単に「ステアリング」とも表記する。)などを含む操舵装置207が搭載されており、車両200の前輪202aは、このステアリングホイール206の回転操作に基づいて操舵(転舵)されるようになっている。さらに、車両200は、操舵装置207の操舵角を検出する操舵角センサ40、アクセルペダルの踏込量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ30、及び、車速を検出する車速センサ39を有する。操舵角センサ40は、典型的にはステアリングホイール206の回転角度を検出するが、当該回転角度に加えて又は当該回転角度の代わりに、前輪202aの転舵角(タイヤ角)を検出してもよい。これらの各センサは、それぞれの検出信号を、制御器であるPCM(Power-train Control Module)50に出力する。
【0031】
次に、図2乃至図4を参照して、本発明の実施形態による車両の制御装置が適用されたエンジンシステムについて説明する。図2は、本発明の実施形態による車両の制御装置が適用されたエンジンシステムの概略構成図である。図3は、本発明の実施形態によるエンジンの概略平面図である。図4は、本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【0032】
図2に示すように、エンジンシステム100は、主に、外部から導入された吸気(空気)が通過する吸気通路1と、この吸気通路1から供給された吸気と、後述する燃料噴射弁13から供給された燃料との混合気を燃焼させて車両の動力を発生するエンジン10(具体的にはガソリンエンジン)と、このエンジン10内の燃焼により発生した排気ガスを排出する排気通路25と、を有する。
【0033】
吸気通路1には、上流側から順に、外部から導入された吸気を浄化するエアクリーナ3と、通過する吸気の量(吸入空気量)を調整するスロットルバルブ5と、エンジン10に供給する吸気を一時的に蓄えるサージタンク7と、が設けられている。他方で、排気通路25には、例えばNOx触媒や三元触媒や酸化触媒などの、排気ガスの浄化機能を有する排気浄化触媒26a、26bが設けられている。
【0034】
本実施形態のエンジン10は、図3に示すように、直線状に並ぶ4つの気筒2(2A~2D)を備えた直列4気筒型のエンジンである。このエンジン10は、主に、吸気通路1から供給された吸気を燃焼室11内に導入する吸気バルブ12と、燃焼室11に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁13と、燃焼室11内に供給された吸気と燃料との混合気に点火する点火プラグ14と、燃焼室11内での混合気の燃焼により往復運動するピストン15と、ピストン15の往復運動により回転されるクランクシャフト16と、燃焼室11内での混合気の燃焼により発生した排気ガスを排気通路25へ排出する排気バルブ17と、を有する。気筒2A~2Dに設けられた各ピストン15は、クランク角において180°(180°CA)の位相差をもって往復動する。これに対応して、各気筒2A~2Dにおける点火時期は、180°CAずつ位相をずらしたタイミングに設定される。
【0035】
特に、本実施形態のエンジン10は、4つの気筒2A~2Dのうちの2つを休止させ、残りの2つの気筒を稼動させる運転、つまり減筒運転が可能な気筒休止エンジンである。具体的には、図3の左側から順に、気筒2Aを第1気筒、気筒2Bを第2気筒、気筒2Cを第3気筒、気筒2Dを第4気筒とすると、4つの気筒2A~2Dの全てを稼働させる全筒運転時には、第1気筒2A→第3気筒2C→第4気筒2D→第2気筒2Bの順に点火が行われる。また、減筒運転時には、点火順序が連続しない2つの気筒(本実施形態では第1気筒2Aおよび第4気筒2D)において点火プラグ14の点火動作が禁止され、残りの2つの気筒(即ち第3気筒2C及び第2気筒2B)において交互に点火が行われる。
【0036】
また、エンジン10は、吸気バルブ12及び排気バルブ17のそれぞれの動作タイミング(バルブの位相に相当する)を、可変バルブタイミング機構(Variable Valve Timing Mechanism)としての可変吸気バルブ機構18及び可変排気バルブ機構19によって可変に構成されている。可変吸気バルブ機構18及び可変排気バルブ機構19としては、公知の種々の形式を適用可能であるが、例えば電磁式又は油圧式に構成された機構を用いて、吸気バルブ12及び排気バルブ17の動作タイミングを変化させることができる。
【0037】
また、エンジン10は、減筒運転時に第1気筒2Aおよび第4気筒2Dの吸気バルブ12及び排気バルブ17の開閉動作を停止させるバルブ停止機構20を有している。このバルブ停止機構20は、例えば、カムとバルブとの間に介在し、カムの駆動力がバルブに伝達されるのを有効又は無効にするいわゆるロストモーション機構を含んで構成されている。あるいは、バルブ停止機構20は、バルブを開閉動作させるカム山を有する第1カムと、バルブの開閉動作を停止させる第2カムとの、カムプロフィールの異なる2種類のカム、及び、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的にバルブに伝達するいわゆるカムシフティング機構を含んで構成されてもよい。
【0038】
更に、エンジンシステム100には、当該エンジンシステム100に関する各種の状態を検出するセンサ30~40が設けられている(図2及び図4参照)。アクセル開度センサ30、車速センサ39及び操舵角センサ40は、上述した通りである。エアフローセンサ31は、吸気通路1を通過する吸気の流量に相当する吸入空気量を検出する。スロットル開度センサ32は、スロットルバルブ5の開度であるスロットル開度を検出する。圧力センサ33は、エンジン10に供給される吸気の圧力に相当するインマニ圧(インテークマニホールドの圧力)を検出する。クランク角センサ34は、クランクシャフト16におけるクランク角(エンジン回転数に相当する)を検出する。このクランク角センサ34は、エンジン回転数センサに相当する。水温センサ35は、エンジン10を冷却する冷却水の温度である水温を検出する。温度センサ36は、エンジン10の気筒2内の温度である筒内温度を検出する。カム角センサ37、38は、それぞれ、吸気バルブ12及び排気バルブ17の閉弁時期を含む動作タイミングを検出する。これらの各種センサ30~40は、それぞれ、検出したパラメータに対応する検出信号S30~S40をPCM50に出力する。
【0039】
PCM50は、上述した各種センサ30~40から入力された検出信号S30~S40に基づいて、エンジンシステム100内の構成要素に対する制御を行う。具体的には、図4に示すように、PCM50は、スロットルバルブ5に制御信号S105を供給して、スロットルバルブ5の開閉時期やスロットル開度を制御し、燃料噴射弁13に制御信号S113を供給して、燃料噴射量や燃料噴射タイミングを制御し、点火プラグ14に制御信号S114を供給して、点火時期を制御し、可変吸気バルブ機構18及び可変排気バルブ機構19のそれぞれに制御信号S118、S119を供給して、吸気バルブ12及び排気バルブ17の動作タイミングを制御し、バルブ停止機構20に制御信号S120を供給して、第1気筒2Aおよび第4気筒2Dの吸気バルブ12及び排気バルブ17の開閉動作の停止/作動を制御する。
【0040】
これらのPCM50の各構成要素は、1つ以上のプロセッサ、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
【0041】
なお、1つの例では、本発明における車両の制御装置は、主に、エンジン10、操舵装置207、操舵角センサ40、アクセル開度センサ30、車速センサ39、及びPCM50により構成される。他の例では、本発明における車両の制御装置は、PCM50により構成され、この例では、PCM50は、本発明における車両姿勢制御手段及び閾値設定手段として機能する。
更に、アクセル開度センサ30及び車速センサ39は、車両200の運転状態を検出する運転状態センサに相当する。また、操舵角センサ40は、操舵装置207の操舵角に関連する操舵角関連値を検出する操舵角関連値センサに相当する。以下では、操舵角関連値として操舵速度を用いる実施形態を例示する。この操舵速度は、操舵角センサ40によって検出された操舵角からPCM50によって求められるものである。この場合、操舵角関連値センサは、操舵角センサ40及びPCM50により構成される。
【0042】
<運転モード>
【0043】
次に、図5を参照して、本発明の実施形態において減筒運転及び全筒運転のそれぞれを行う運転領域について説明する。図5は、本発明の実施形態において運転モードを切り替えるエンジン10の運転領域を概念的に示したマップである。図5は、横軸にエンジン回転数を示し、縦軸にエンジン負荷を示している。この図5に示すように、相対的にエンジン回転数が低く且つエンジン負荷が低い範囲に、減筒運転を行う減筒運転領域Aが設定されており、この減筒運転領域Aを除く範囲に、全筒運転を行う全筒運転領域Bが設定されている。PCM50は、このようなマップを参照して、エンジン回転数及びエンジン負荷が減筒運転領域A及び全筒運転領域Bのいずれに含まれるかを判定して、その判定結果に応じて減筒運転及び全筒運転のいずれかを実行するように、第1気筒2Aおよび第4気筒2Dの吸気バルブ12及び排気バルブ17の開閉動作の停止/作動を制御する。
【0044】
<車両姿勢制御>
次に、本実施形態において、PCM50が車両200の姿勢を制御(車両姿勢制御)するために実施する制御内容について説明する。まず、図6により、本実施形態においてPCM50が行う車両姿勢制御処理の全体的な流れを説明する。図6は、本発明の実施形態による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
【0045】
図6の車両姿勢制御処理は、車両200のイグニッションがオンにされ、PCM50に電源が投入された場合に起動され、所定周期(例えば50ms)で繰り返し実行される。
車両姿勢制御処理が開始されると、図6に示すように、ステップS1において、PCM50は、車両200の運転状態に関する各種センサ情報を取得する。具体的には、PCM50は、操舵角センサ40が検出した操舵角、アクセル開度センサ30が検出したアクセル開度、車速センサ39が検出した車速、クランク角センサ34が検出したクランク角に対応するエンジン回転数、車両200の変速機204aに現在設定されているギヤ段等を含む、上述した各種センサが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。
【0046】
次に、ステップS2において、PCM50は、ステップS1において取得された車両200の運転状態に基づき、目標加速度を設定する。具体的には、PCM50は、種々の車速及び種々のギヤ段について規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速及びギヤ段に対応する加速度特性マップを選択し、選択した加速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する目標加速度を設定する。
【0047】
次に、ステップS3において、PCM50は、ステップS2において設定した目標加速度を実現するためにエンジン10が発生すべき基本トルクを決定する。この場合、PCM50は、現在の車速、ギヤ段、路面勾配、路面μなどに基づき、エンジン10が出力可能なトルクの範囲内で、基本トルクを決定する。
【0048】
また、ステップS2及びS3の処理と並行して、ステップS4において、PCM50は、ステアリング操作に基づき車両200に加速度を付加するためのトルク(増加トルク)を設定する増加トルク設定処理を実行する。このステップS4においては、PCM50は、操舵装置207の操舵角の増加に応じて、つまりステアリングの切り込み操作に応じて、基本トルクを増大させるための増加トルクを設定する。本実施形態では、PCM50は、ステアリングが切り込み操作されたときに、トルクを一時的に増加させて車両200に加速度を付加することにより、車両姿勢を制御するようにする。以下では、このようなステアリングの切り込み時において増加トルクを用いて実施される車両姿勢制御を適宜「第1車両姿勢制御」と呼ぶ。なお、ステップS4の増加トルク設定処理については、図7などを参照して後述する。
【0049】
次に、ステップS5において、PCM50は、ステアリング操作に基づき車両200に減速度を付加するためのトルク(低減トルク)を設定する低減トルク設定処理を実行する。このステップS5においては、PCM50は、操舵装置207の操舵角の減少に応じて、つまりステアリングの切り戻しに応じて、基本トルクを減少させるための低減トルクを設定する。本実施形態では、PCM50は、ステアリングが切り戻し操作されたときに、トルクを一時的に低減させて車両200に減速度を付加することにより、車両姿勢を制御するようにする。以下では、このようなステアリングの切り戻し時において低減トルクを用いて実施される車両姿勢制御を適宜「第2車両姿勢制御」と呼ぶ。典型的には、この第2車両姿勢制御は、上述した第1車両姿勢制御の後に実施される傾向にある。なお、ステップS5の低減トルク設定処理については、図11などを参照して後述する。
【0050】
ステップS2及びS3の処理並びにステップS4の増加トルク設定処理及びS5の低減トルク設定処理を実行した後、ステップS6において、PCM50は、ステップS3において設定した基本トルクと、ステップS4において設定した増加トルク及びステップS5において設定した低減トルクとに基づき、最終目標トルクを設定する。具体的には、PCM50は、基本トルクに対して増加トルクを加算すると共に低減トルクを減算することにより、最終目標トルクを算出する。基本的には、増加トルクと低減トルクの一方のみが設定され、増加トルクと低減トルクの両方が設定されることはないので、PCM50は、基本トルクに増加トルクを加算することで最終目標トルクを算出するか(この場合には第1車両姿勢制御が実行される)、或いは基本トルクから低減トルクを減算することで最終目標トルクを算出する(この場合には第2車両姿勢制御が実行される)。
【0051】
次に、ステップS7において、PCM50は、ステップS6において設定した最終目標トルクを実現するためのアクチュエータ制御量を設定する。具体的には、PCM50は、ステップS6において設定した最終目標トルクに基づき、最終目標トルクを実現するために必要となる各種状態量を決定し、それらの状態量に基づき、エンジン10の各構成要素を駆動する各アクチュエータの制御量を設定する。この場合、PCM50は、状態量に応じた制限値や制限範囲を設定し、状態値が制限値や制限範囲による制限を遵守するような各アクチュエータの制御量を設定する。続いて、ステップS8において、PCM50は、ステップS7において設定した制御量に基づき各アクチュエータへ制御指令を出力する。
【0052】
具体的には、PCM50は、ステップS6において基本トルクに増加トルクを加算することで最終目標トルクを設定した場合には、点火プラグ14の点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも進角させる。また、点火時期の進角に代えて、あるいはそれと共に、PCM50は、スロットルバルブ5のスロットル開度を大きくしたり、下死点後に設定されている吸気バルブ12の閉時期を進角させたりすることによって、吸入空気量を増加させる。この場合、PCM50は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、燃料噴射弁13による燃料噴射量を増加させる。
【0053】
他方で、PCM50は、ステップS6において基本トルクから低減トルクを減算することで最終目標トルクを設定した場合には、点火プラグ14の点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも遅角させる(リタードする)。また、点火時期の遅角に代えて、あるいはそれと共に、PCM50は、スロットルバルブ5のスロットル開度を小さくしたり、下死点後に設定されている吸気バルブ12の閉時期を遅角させたりすることによって、吸入空気量を減少させる。この場合、PCM50は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、燃料噴射弁13による燃料噴射量を減少させる。
【0054】
なお、エンジン10がディーゼルエンジンである場合、PCM50は、ステップS6において基本トルクに増加トルクを加算することで最終目標トルクを設定したときには、燃料噴射弁13による燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも増加させる。他方で、PCM50は、ステップS6において基本トルクから低減トルクを減算することで最終目標トルクを設定したときには、燃料噴射弁13による燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも減少させる。
【0055】
このようなステップS8の後、PCM50は、車両姿勢制御処理を終了する。
【0056】
<増加トルク設定処理>
次に、図7乃至図10を参照して、本発明の実施形態における増加トルク設定処理(図6のステップS4参照)について説明する。この増加トルク設定処理は、ステアリングの切り込み時において第1車両姿勢制御において用いられる増加トルクを設定するために実施される。
【0057】
図7は、本発明の実施形態による増加トルク設定処理のフローチャートである。図8は、本発明の実施形態による第1車両姿勢制御の開始閾値及び終了閾値を定めたマップである。図9は、本発明の実施形態による付加加速度と操舵速度との関係を示したマップである。図10は、本発明の実施形態による付加加速度を補正するためのマップである。
【0058】
図7に示すように、増加トルク設定処理が開始されると、PCM50は、エンジン回転数及び運転モード(減筒運転又は全筒運転)に基づき、ステップS101において、第1車両姿勢制御の開始条件を規定する開始閾値(第1閾値に相当する)を設定し、次いで、ステップS102において、第1車両姿勢制御の終了条件を規定する終了閾値(第2閾値に相当する)を設定する。これらの開始閾値及び終了閾値は、それぞれ、第1車両姿勢制御を開始及び終了させるに当たって、操舵速度(増加トルク設定処理では絶対値を用いるものとする。以下同様とする。)を判定するための閾値である。ここで、図8を参照して、開始閾値及び終了閾値について具体的に説明する。
【0059】
図8(a)は、エンジン回転数(横軸)と第1閾値としての開始閾値(縦軸)との関係を定めたマップを示しており、図8(b)は、エンジン回転数(横軸)と第2閾値としての終了閾値(縦軸)との関係を定めたマップを示している。また、図8(a)及び(b)において、実線は、全筒運転において適用するマップを示しており、破線は、減筒運転において適用するマップを示している。
【0060】
図8(a)に示すように、本実施形態では、エンジン回転数が低くなるほど、開始閾値を小さい値に設定している。加えて、減筒運転では、全筒運転よりも、開始閾値を小さい値に設定している。第1車両姿勢制御の開始条件は、操舵速度が開始閾値以上である場合に成立するようになっているが、このように開始閾値を小さくすると、操舵速度が開始閾値以上になり易くなるため、第1車両姿勢制御の開始条件が緩和されることとなる。本実施形態では、エンジン回転数が低い場合及び減筒運転である場合に、即ち単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない場合に、第1車両姿勢制御の開始時におけるトルク増加の応答性悪化を抑制すべく、開始閾値を小さい値に設定して、第1車両姿勢制御の開始条件を緩和している。
【0061】
また、図8(b)に示すように、本実施形態では、エンジン回転数が低くなるほど、終了閾値を大きな値に設定している。加えて、減筒運転では、全筒運転よりも、終了閾値を大きな値に設定している。第1車両姿勢制御の終了条件は、操舵速度が終了閾値未満である場合に成立するようになっているが、このように終了閾値を大きくすると、操舵速度が終了閾値未満になり易くなるため、第1車両姿勢制御の終了条件が緩和されることとなる。本実施形態では、エンジン回転数が低い場合及び減筒運転である場合に、即ち単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない場合に、第1車両姿勢制御の終了時におけるトルク復帰(具体的にはトルク減少)の応答性悪化を抑制すべく、終了閾値を大きな値に設定して、第1車両姿勢制御の終了条件を緩和している。
【0062】
なお、図8(a)及び(b)において、エンジン回転数N1には、アイドル回転数よりも少なくとも高い回転数が適用される。また、基本的には、エンジン回転数N1未満の領域では、第1車両姿勢制御が実行されないようになっている(第1車両姿勢制御を実行する意味があまりないからである)。更に、エンジン回転数N3は、この回転数以上では、エンジン回転数に応じて開始閾値及び終了閾値を変化させても、それほど効果が表れないような回転数が適用される。1つの例では、エンジン回転数N1は、700~1200rpm程度であり、エンジン回転数N3は、2800~3200rpm程度であり、これらN1、N3の間に位置するエンジン回転数N2は、1800~2200rpm程度である。ここで述べたエンジン回転数N1~N3は、後述する図10図12及び図14にも同様に適用される。
また、図8(a)及び(b)では、開始閾値及び終了閾値をエンジン回転数に応じて連続的に変化させているが、他の例では、開始閾値及び終了閾値をエンジン回転数により段階的(ステップ状)に変化させてもよい。1つの例では、エンジン回転数が所定回転数未満であるか或いは所定回転数以上であるかに応じて、開始閾値及び終了閾値を段階的に変化させてもよい。
【0063】
図7に戻ると、ステップS103において、PCM50は、現在、第1車両姿勢制御が実行されていないか否かを判定する。その結果、第1車両姿勢制御が実行されていないと判定された場合(ステップS103:Yes)、ステップS104に進み、PCM50は、操舵速度がステップS101において設定した開始閾値以上であるか否かを判定する。なお、PCM50は、ステップS1において取得した操舵角に基づき操舵速度を算出する。このようなステップS104において、操舵速度が開始閾値以上であると判定された場合(ステップS104:Yes)、つまり第1車両姿勢制御の開始条件が成立した場合、ステップS105に進む。これに対して、操舵速度が開始閾値未満であると判定された場合(ステップS104:No)、つまり第1車両姿勢制御の開始条件が成立していない場合、処理は終了する。
【0064】
次いで、ステップS105において、PCM50は、操舵速度が増加しているか否かを判定する。その結果、操舵速度が増加していると判定された場合(ステップS105:Yes)、ステップS106に進み、PCM50は、操舵速度に基づき付加加速度を設定する。この付加加速度は、ドライバの意図に沿って車両姿勢を制御するために、ステアリング操作に応じて車両200に付加すべき加速度である。
【0065】
具体的には、PCM50は、図9のマップに示す付加加速度と操舵速度との関係に基づき、現在の操舵速度に対応する付加加速度を設定する。図9において、横軸は操舵速度を示し、縦軸は付加加速度を示す。図9に示すように、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する付加加速度は、所定の上限値Amaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど付加加速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Amaxは、ステアリング操作に応じて車両200に加速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の加速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。なお、操舵速度が所定の閾値以上になると、付加加速度は上限値Amaxに維持される。
【0066】
次いで、ステップS107において、PCM50は、ステップS106で設定された付加加速度を、エンジン回転数及び運転モード(減筒運転又は全筒運転)に基づき補正するための付加加速度補正値を設定する。そして、ステップS108において、PCM50は、ステップS107で設定した付加加速度補正値によってステップS106で設定した付加加速度を補正する。具体的には、PCM50は、付加加速度補正値を付加加速度に対して乗算することで、当該付加加速度を補正する。この場合、付加加速度補正値が大きくなるほど、付加加速度が大きく補正されることとなる。付加加速度を大きく補正することは、車両に付加加速度を速やかに発生させるようにすることを意味する。次いで、ステップS109において、PCM50は、ステップS108で補正した付加加速度に基づき増加トルクを設定する。具体的には、PCM50は、ステップS1において取得された現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき、基本トルクの増加により付加加速度を実現するために必要となる増加トルクを設定する。この後、PCM50は、増加トルク設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0067】
ここで、図10(a)を参照して、本発明の実施形態において付加加速度補正値を設定する方法について説明する。図10(a)は、横軸にエンジン回転数を示し、縦軸に付加加速度補正値を示している。図10(a)において、実線は、全筒運転において適用するマップを示しており、破線は、減筒運転において適用するマップを示している。図10(a)に示すように、本実施形態では、エンジン回転数が低くなるほど、付加加速度補正値を大きな値に設定している。加えて、減筒運転では、全筒運転よりも、付加加速度補正値を大きな値に設定している。本実施形態では、エンジン回転数が低い場合及び減筒運転である場合に、即ち単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない場合に、付加加速度補正値を大きくして付加加速度の変化速度を大きくすることで、エンジントルクの増加方向の変化速度を大きくすることにより、第1車両姿勢制御の開始時におけるトルク増加の応答性悪化を抑制するようにしている。
【0068】
図7に戻ると、上記のステップS105において、操舵速度が増加していないと判定された場合(ステップS105:No)、典型的には操舵速度が変化していない場合、ステップS110に進む。ステップS110において、PCM50は、前回の処理において設定した付加加速度を今回の処理における付加加速度として設定する。そして、ステップS109において、PCM50は、ステップS110で設定した付加加速度に基づき増加トルクを設定する。この後、PCM50は、増加トルク設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0069】
他方で、上記のステップS103において、第1車両姿勢制御が実行されていると判定された場合(ステップS103:No)、ステップS111に進む。ステップS111において、PCM50は、操舵速度がステップS102において設定した終了閾値未満であるか否かを判定する。その結果、操舵速度が終了閾値以上であると判定された場合(ステップS111:No)、つまり第1車両姿勢制御の終了条件が成立していない場合、ステップS105に進む。この場合には、PCM50は、第1車両姿勢制御を継続すべく、上記したステップS105以降の処理を行う。
【0070】
これに対して、操舵速度が終了閾値未満であると判定された場合(ステップS111:Yes)、つまり第1車両姿勢制御の終了条件が成立した場合、ステップS112に進む。ステップS112において、PCM50は、前回の処理において設定した付加加速度を今回の処理において減少させる量(付加加速度減少量)を取得する。1つの例では、PCM50は、付加加速度と同様にして、図9に示したようなマップを用いて、操舵速度に応じた減少率に基づき、付加加速度減少量を算出する。他の例では、PCM50は、予めメモリ等に記憶されている一定の減少率に基づき、付加加速度減少量を算出する。
【0071】
次いで、ステップS113において、PCM50は、ステップS112で設定された付加加速度減少量を、エンジン回転数及び運転モード(減筒運転又は全筒運転)に基づき補正するための付加加速度減少量補正値を設定する。そして、ステップS114において、PCM50は、ステップS113で設定した付加加速度減少量補正値によって、ステップS112で設定した付加加速度減少量を補正する。具体的には、PCM50は、付加加速度減少量補正値を付加加速度減少量に対して乗算することで、当該付加加速度減少量を補正する。この場合、付加加速度減少量補正値が大きくなるほど、付加加速度減少量が大きく補正されることとなる。付加加速度減少量を大きく補正することは、車両に発生している加速度を速やかに減少させるようにすること、換言すると車両に加速度を付与する前の状態に速やかに復帰させるようにすることを意味する。次いで、ステップS115において、PCM50は、前回の処理において設定した付加加速度からステップS114で補正した付加加速度減少量を減算することにより、今回の処理における付加加速度を設定する。そして、ステップS109において、PCM50は、ステップS115で設定した付加加速度に基づき増加トルクを設定する。この後、PCM50は増加トルク設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0072】
ここで、図10(b)を参照して、本発明の実施形態において付加加速度減少量補正値を設定する方法について説明する。図10(b)は、横軸にエンジン回転数を示し、縦軸に付加加速度減少量補正値を示している。図10(b)において、実線は、全筒運転において適用するマップを示しており、破線は、減筒運転において適用するマップを示している。図10(b)に示すように、本実施形態では、エンジン回転数が低くなるほど、付加加速度減少量補正値を大きな値に設定している。加えて、減筒運転では、全筒運転よりも、付加加速度減少量補正値を大きな値に設定している。本実施形態では、エンジン回転数が低い場合及び減筒運転である場合に、即ち単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない場合に、付加加速度減少量補正値を大きくして付加加速度減少量の変化速度を大きくすることで、エンジントルクの復帰方向(減少方向)の変化速度を大きくすることにより、第1車両姿勢制御の終了時におけるトルク復帰の応答性悪化を抑制するようにしている。
【0073】
なお、図10(a)及び(b)では、付加加速度補正値及び付加加速度減少量補正値をエンジン回転数に応じて連続的に変化させているが、他の例では、付加加速度補正値及び付加加速度減少量補正値をエンジン回転数により段階的(ステップ状)に変化させてもよい。1つの例では、エンジン回転数が所定回転数未満であるか或いは所定回転数以上であるかに応じて、付加加速度補正値及び付加加速度減少量補正値を段階的に変化させてもよい。
【0074】
また、上記した実施形態では、エンジン10の燃焼状態(エンジン回転数及び運転モード)に基づき、第1車両姿勢制御において適用する閾値を変更すると共に、第1車両姿勢制御において適用する付加加速度を補正していたが、他の例では、閾値の変更及び付加加速度の補正のいずれか一方のみを実行してもよい。例えば、エンジン10の燃焼状態に応じて閾値の変更のみを行ってもよい。
【0075】
<低減トルク設定処理>
次に、図11乃至図14を参照して、本発明の実施形態における低減トルク設定処理(図6のステップS5参照)について説明する。この低減トルク設定処理は、ステアリングの切り戻し時において第2車両姿勢制御において用いられる低減トルクを設定するために実施される。
【0076】
図11は、本発明の実施形態による低減トルク設定処理のフローチャートである。図12は、本発明の実施形態による第2車両姿勢制御の開始閾値及び終了閾値を定めたマップである。図13は、本発明の実施形態による付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。図14は、本発明の実施形態による付加減速度を補正するためのマップである。
【0077】
図11に示すように、低減トルク設定処理が開始されると、PCM50は、エンジン回転数及び運転モード(減筒運転又は全筒運転)に基づき、ステップS201において、第2車両姿勢制御の開始条件を規定する開始閾値(第3閾値に相当する)を設定し、次いで、ステップS202において、第2車両姿勢制御の終了条件を規定する終了閾値(第4閾値に相当する)を設定する。これらの開始閾値及び終了閾値は、それぞれ、第2車両姿勢制御を開始及び終了させるに当たって、操舵速度(低減トルク設定処理では絶対値を用いるものとする。以下同様とする。)を判定するための閾値である。ここで、図12を参照して、開始閾値及び終了閾値について具体的に説明する。
【0078】
図12(a)は、エンジン回転数(横軸)と第3閾値としての開始閾値(縦軸)との関係を定めたマップを示しており、図12(b)は、エンジン回転数(横軸)と第4閾値としての終了閾値(縦軸)との関係を定めたマップを示している。また、図12(a)及び(b)において、実線は、全筒運転において適用するマップを示しており、破線は、減筒運転において適用するマップを示している。
【0079】
図12(a)に示すように、本実施形態では、エンジン回転数が低くなるほど、開始閾値を小さい値に設定している。加えて、減筒運転では、全筒運転よりも、開始閾値を小さい値に設定している。第2車両姿勢制御の開始条件は、操舵速度が開始閾値以上である場合に成立するようになっているが、このように開始閾値を小さくすると、操舵速度が開始閾値以上になり易くなるため、第2車両姿勢制御の開始条件が緩和されることとなる。本実施形態では、エンジン回転数が低い場合及び減筒運転である場合に、即ち単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない場合に、第2車両姿勢制御の開始時におけるトルク減少の応答性悪化を抑制すべく、開始閾値を小さい値に設定して、第2車両姿勢制御の開始条件を緩和している。
【0080】
また、図12(b)に示すように、本実施形態では、エンジン回転数が低くなるほど、終了閾値を大きな値に設定している。加えて、減筒運転では、全筒運転よりも、終了閾値を大きな値に設定している。第2車両姿勢制御の終了条件は、操舵速度が終了閾値未満である場合に成立するようになっているが、このように終了閾値を大きくすると、操舵速度が終了閾値未満になり易くなるため、第2車両姿勢制御の終了条件が緩和されることとなる。本実施形態では、エンジン回転数が低い場合及び減筒運転である場合に、即ち単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない場合に、第2車両姿勢制御の終了時におけるトルク復帰(具体的にはトルク増加)の応答性悪化を抑制すべく、終了閾値を大きな値に設定して、第2車両姿勢制御の終了条件を緩和している。
【0081】
なお、図12(a)及び(b)では、開始閾値及び終了閾値をエンジン回転数に応じて連続的に変化させているが、他の例では、開始閾値及び終了閾値をエンジン回転数により段階的(ステップ状)に変化させてもよい。1つの例では、エンジン回転数が所定回転数未満であるか或いは所定回転数以上であるかに応じて、開始閾値及び終了閾値を段階的に変化させてもよい。
【0082】
図11に戻ると、ステップS203において、PCM50は、現在、第2車両姿勢制御が実行されていないか否かを判定する。その結果、第2車両姿勢制御が実行されていないと判定された場合(ステップS203:Yes)、ステップS204に進み、PCM50は、操舵速度がステップS201において設定した開始閾値以上であるか否かを判定する。その結果、操舵速度が開始閾値以上であると判定された場合(ステップS204:Yes)、つまり第2車両姿勢制御の開始条件が成立した場合、ステップS205に進む。これに対して、操舵速度が開始閾値未満であると判定された場合(ステップS204:No)、つまり第2車両姿勢制御の開始条件が成立していない場合、処理は終了する。
【0083】
次いで、ステップS205において、PCM50は、操舵速度が減少しているか否かを判定する。その結果、操舵速度が減少していると判定された場合(ステップS205:Yes)、ステップS206に進み、PCM50は、操舵速度に基づき付加減速度を設定する。この付加減速度は、ドライバの意図に沿って車両姿勢を制御するために、ステアリング操作に応じて車両200に付加すべき減速度である。
【0084】
具体的には、PCM50は、図13のマップに示す付加減速度と操舵速度との関係に基づき、現在の操舵速度に対応する付加減速度を設定する。図13において、横軸は操舵速度を示し、縦軸は付加減速度を示す。図13に示すように、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する付加減速度は、所定の上限値Dmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Dmaxは、ステアリング操作に応じて車両200に減速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の減速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。なお、操舵速度が所定の閾値以上になると、付加減速度は上限値Dmaxに維持される。
【0085】
次いで、ステップS207において、PCM50は、ステップS206で設定された付加減速度を、エンジン回転数及び運転モード(減筒運転又は全筒運転)に基づき補正するための付加減速度補正値を設定する。そして、ステップS208において、PCM50は、ステップS207で設定した付加減速度補正値によってステップS206で設定した付加減速度を補正する。具体的には、PCM50は、付加減速度補正値を付加減速度に対して乗算することで、当該付加減速度を補正する。この場合、付加減速度補正値が大きくなるほど、付加減速度が大きく補正されることとなる。付加減速度を大きく補正することは、車両に付加減速度を速やかに発生させるようにすることを意味する。次いで、ステップS209において、PCM50は、ステップS208で補正した付加減速度に基づき低減トルクを設定する。具体的には、PCM50は、ステップS1において取得された現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき、基本トルクの抑制により付加減速度を実現するために必要となる低減トルクを設定する。この後、PCM50は、低減トルク設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0086】
ここで、図14(a)を参照して、本発明の実施形態において付加減速度補正値を設定する方法について説明する。図14(a)は、横軸にエンジン回転数を示し、縦軸に付加減速度補正値を示している。図14(a)において、実線は、全筒運転において適用するマップを示しており、破線は、減筒運転において適用するマップを示している。図14(a)に示すように、本実施形態では、エンジン回転数が低くなるほど、付加減速度補正値を大きな値に設定している。加えて、減筒運転では、全筒運転よりも、付加減速度補正値を大きな値に設定している。本実施形態では、エンジン回転数が低い場合及び減筒運転である場合に、即ち単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない場合に、付加減速度補正値を大きくして付加減速度の変化速度を大きくすることで、エンジントルクの減少方向の変化速度を大きくすることにより、第2車両姿勢制御の開始時におけるトルク減少の応答性悪化を抑制するようにしている。
【0087】
図11に戻ると、上記のステップS205において、操舵速度が減少していないと判定された場合(ステップS205:No)、典型的には操舵速度が変化していない場合、ステップS210に進む。ステップS210において、PCM50は、前回の処理において設定した付加減速度を今回の処理における付加減速度として設定する。そして、ステップS209において、PCM50は、ステップS210で設定した付加減速度に基づき低減トルクを設定する。この後、PCM50は、低減トルク設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0088】
他方で、上記のステップS203において、第2車両姿勢制御が実行されていると判定された場合(ステップS203:No)、ステップS211に進む。ステップS211において、PCM50は、操舵速度がステップS202において設定した終了閾値未満であるか否かを判定する。その結果、操舵速度が終了閾値以上であると判定された場合(ステップS211:No)、つまり第2車両姿勢制御の終了条件が成立していない場合、ステップS205に進む。この場合には、PCM50は、第2車両姿勢制御を継続すべく、上記したステップS205以降の処理を行う。
【0089】
これに対して、操舵速度が終了閾値未満であると判定された場合(ステップS211:Yes)、つまり第2車両姿勢制御の終了条件が成立した場合、ステップS212に進む。ステップS212において、PCM50は、前回の処理において設定した付加減速度を今回の処理において減少させる量(付加減速度減少量)を取得する。1つの例では、PCM50は、付加減速度と同様にして、図13に示したようなマップを用いて、操舵速度に応じた減少率に基づき、付加減速度減少量を算出する。他の例では、PCM50は、予めメモリ等に記憶されている一定の減少率に基づき、付加減速度減少量を算出する。
【0090】
次いで、ステップS213において、PCM50は、ステップS212で設定された付加減速度減少量を、エンジン回転数及び運転モード(減筒運転又は全筒運転)に基づき補正するための付加減速度減少量補正値を設定する。そして、ステップS214において、PCM50は、ステップS213で設定した付加減速度減少量補正値によって、ステップS212で設定した付加減速度減少量を補正する。具体的には、PCM50は、付加減速度減少量補正値を付加減速度減少量に対して乗算することで、当該付加減速度減少量を補正する。この場合、付加減速度減少量補正値が大きくなるほど、付加減速度減少量が大きく補正されることとなる。付加減速度減少量を大きく補正することは、車両に発生している減速度を速やかに減少させるようにすること、換言すると車両に減速度を付与する前の状態に速やかに復帰させるようにすることを意味する。次いで、ステップS215において、PCM50は、前回の処理において設定した付加減速度からステップS214で補正した付加減速度減少量を減算することにより、今回の処理における付加減速度を設定する。そして、ステップS209において、PCM50は、ステップS215で設定した付加減速度に基づき低減トルクを設定する。この後、PCM50は、低減トルク設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0091】
ここで、図14(b)を参照して、本発明の実施形態において付加減速度減少量補正値を設定する方法について説明する。図14(b)は、横軸にエンジン回転数を示し、縦軸に付加減速度減少量補正値を示している。図14(b)において、実線は、全筒運転において適用するマップを示しており、破線は、減筒運転において適用するマップを示している。図14(b)に示すように、本実施形態では、エンジン回転数が低くなるほど、付加減速度減少量補正値を大きな値に設定している。加えて、減筒運転では、全筒運転よりも、付加減速度減少量補正値を大きな値に設定している。本実施形態では、エンジン回転数が低い場合及び減筒運転である場合に、即ち単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない場合に、付加減速度減少量補正値を大きくして付加減速度減少量の変化速度を大きくすることで、エンジントルクの復帰方向(増加方向)の変化速度を大きくすることにより、第2車両姿勢制御の終了時におけるトルク復帰の応答性悪化を抑制するようにしている。
【0092】
なお、図14(a)及び(b)では、付加減速度補正値及び付加減速度減少量補正値をエンジン回転数に応じて連続的に変化させているが、他の例では、付加減速度補正値及び付加減速度減少量補正値をエンジン回転数により段階的(ステップ状)に変化させてもよい。1つの例では、エンジン回転数が所定回転数未満であるか或いは所定回転数以上であるかに応じて、付加減速度補正値及び付加減速度減少量補正値を段階的に変化させてもよい。
【0093】
また、上記した実施形態では、エンジン10の燃焼状態(エンジン回転数及び運転モード)に基づき、第2車両姿勢制御において適用する閾値を変更すると共に、第2車両姿勢制御において適用する付加減速度を補正していたが、他の例では、閾値の変更及び付加減速度の補正のいずれか一方のみを実行してもよい。例えば、エンジン10の燃焼状態に応じて閾値の変更のみを行ってもよい。
【0094】
<作用及び効果>
次に、図15を参照して、本発明の実施形態による車両の制御装置による作用について説明する。図15は、本発明の実施形態による車両200が旋回を行う場合の、車両姿勢制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【0095】
図15のタイムチャートは、上から順に、操舵装置207の操舵角[deg]、操舵装置207の操舵速度[deg/s]、車両200に適用すべき付加加速度及び付加減速度[m/s2]、エンジン10の最終目標トルク[Nm]、点火プラグ14の点火時期の指令値[deg/CA]、エンジン10の実トルク[Nm]を示している。実トルクは、最終目標トルクを適用したときにエンジン10から実際に発生されたトルクであり(換言すると車両200に実際に付与された駆動トルク)、当然ながら、実トルクは最終目標トルクの指令に対して時間的に遅れる傾向にある。なお、図15で示す例では、基本トルクが一定であるものとする。
【0096】
また、図15には、本実施形態による制御を行った場合の結果及び比較例による制御を行った場合の結果を示している。本実施形態では、上述したように、操舵速度を判定するための閾値が運転モード(全筒運転/減筒運転)に応じて変更されるが(図7のステップS101、S102、図8図11のステップS201、S202、図12参照)、比較例では、操舵速度を判定するための閾値が運転モードに応じて変更されない、つまり運転モードによらずに一定の閾値が用いられる。
【0097】
具体的には、本実施形態では、全筒運転時においては、第1車両姿勢制御を行う場合には開始閾値Th1a及び終了閾値Th2aが用いられ、また、第2車両姿勢制御を行う場合には開始閾値Th3a及び終了閾値Th4aが用いられる。そして、本実施形態では、減筒運転時において第1車両姿勢制御を行う場合には、全筒運転時で用いられる開始閾値Th1a及び終了閾値Th2aを変更した開始閾値Th1b及び終了閾値Th2bが用いられる。減筒運転時で用いられる開始閾値Th1bは、絶対値において、全筒運転時で用いられる開始閾値Th1aよりも小さく、また、減筒運転時で用いられる終了閾値Th2bは、絶対値において、全筒運転時で用いられる終了閾値Th2aよりも大きい。加えて、本実施形態では、減筒運転時において第2車両姿勢制御を行う場合には、全筒運転時で用いられる開始閾値Th3a及び終了閾値Th4aを変更した開始閾値Th3b及び終了閾値Th4bが用いられる。減筒運転時で用いられる開始閾値Th3bは、絶対値において、全筒運転時で用いられる開始閾値Th3aよりも小さく、また、減筒運転時で用いられる終了閾値Th4bは、絶対値において、全筒運転時で用いられる終了閾値Th4aよりも大きい。一方で、比較例では、運転モードによらずに、第1車両姿勢制御を行う場合には開始閾値Th1a及び終了閾値Th2aが用いられると共に、第2車両姿勢制御を行う場合には開始閾値Th3a及び終了閾値Th4aが用いられる。つまり、比較例では、減筒運転時においても、全筒運転時の閾値Th1a~Th4aがそのまま用いられる。なお、図15では、本実施形態において、エンジン10の燃焼状態(特に運転モード)に基づき、第1及び第2車両姿勢制御で適用する閾値の変更のみを行い、第1及び第2車両姿勢制御で適用する付加加速度及び付加減速度の補正を行わなかった場合の結果を例示している。
【0098】
図15において、付加加速度及び付加減速度、最終目標トルク、点火時期、及び実トルクのグラフにおいて、太実線、破線及び細実線にて3つの結果を例示している。太実線は、減筒運転時において第1及び第2車両姿勢制御を行ったときの本実施形態による結果を示している。特に、減筒運転時において第1及び第2車両姿勢制御を行ったときに、全筒運転時で用いられる閾値Th1a~Th4aを上述したように変更した閾値Th1b~Th4bを適用した場合の結果を示している(以下ではこの結果を「第1の例」と呼ぶ)。破線は、全筒運転時において第1及び第2車両姿勢制御を行ったときの結果を示している(以下ではこの結果を「第2の例」と呼ぶ)。この場合には、全筒運転時であるため、変更されていない閾値Th1a~Th4aがそのまま用いられる。細実線は、減筒運転時において第1及び第2車両姿勢制御を行ったときの比較的による結果を示している。特に、減筒運転時において第1及び第2車両姿勢制御を行ったときに、全筒運転時で用いられる閾値Th1a~Th4aを変更しなかった場合の結果を示している(以下ではこの結果を「第3の例」と呼ぶ)。
【0099】
図15に示すように、まず、ステアリングの切り込み操作が行われたときに、操舵角及び操舵速度(絶対値)が増加する。本実施形態に係る第1の例(太実線)では、時刻t1において、操舵速度が第1車両姿勢制御の開始閾値Th1b以上となり(図7のステップS104:Yes)、第1車両姿勢制御が開始される。具体的には、時刻t1以降において、付加加速度が設定されて、この付加加速度に応じた増加トルクが設定され(図7のステップS106~S109)、そして、この増加トルクに応じた最終目標トルクが設定されて、この最終目標トルクが実現されるようにエンジン10のアクチュエータが制御される(図6のステップS6~S8)。この場合、増加トルクにより基本トルクを増加したトルクが発生するように、点火プラグ14の点火時期が、基本トルクを発生させるための点火時期よりも進角される。他方で、第2及び第3の例(破線及び細実線)では、時刻t1の後の時刻t2において、操舵速度が開始閾値Th1a以上となり、第1車両姿勢制御が開始される。具体的には、時刻t2以降において、付加加速度が設定されて、この付加加速度に応じた増加トルクが設定され、そして、この増加トルクに応じた最終目標トルクが設定されて、この最終目標トルクが実現されるようにエンジン10のアクチュエータが制御される。
【0100】
このときの実トルクを見てみると、第3の例(細実線)では、第2の例(破線)と比較して、第1車両姿勢制御において実トルクの増加の開始が遅れることがわかる。つまり、減筒運転時において開始閾値Th1aを変更せずに第1車両姿勢制御を行った場合には、全筒運転時において第1車両姿勢制御を行った場合と比較して、第1車両姿勢制御の開始時におけるトルク増加の応答性悪化が生じていると言える。これは、「発明が解決しようとする課題」で述べたように、エンジン10における単位時間当たりの燃焼回数の違いに起因するものである。これに対して、第1の例(太実線)では、第1車両姿勢制御において実トルクの増加開始タイミングが第2の例(破線)とほぼ同じであることがわかる。つまり、減筒運転時において開始閾値Th1aを変更した開始閾値Th1bを用いることで、第1車両姿勢制御の開始時におけるトルク増加の応答性悪化が改善されたのである。
【0101】
次いで、第1車両姿勢制御中において操舵速度が減少すると、本実施形態に係る第1の例(太実線)では、時刻t3において、操舵速度が第1車両姿勢制御の終了閾値Th2b未満となり(図7のステップS111:Yes)、第1車両姿勢制御が終了し始める。具体的には、時刻t3以降において、付加加速度を減少させるための付加加速度減少量が設定されて、この付加加速度減少量を適用した増加トルクが設定され(図7のステップS112~S115)、そして、この増加トルクに応じた最終目標トルクが設定されて、この最終目標トルクが実現されるようにエンジン10のアクチュエータが制御される(図6のステップS6~S8)。この場合、増加トルクを0に向けて減少させるべく(つまり最終目標トルクを基本トルクに向けて減少させるべく)、点火プラグ14の点火時期が、基本トルクを発生させるための点火時期に向けて遅角される。他方で、第2及び第3の例(破線及び細実線)では、時刻t3の後の時刻t4において、操舵速度が終了閾値Th2a未満となり、第1車両姿勢制御が終了し始める。具体的には、時刻t4以降において、付加加速度を減少させるための付加加速度減少量が設定されて、この付加加速度減少量を適用した増加トルクが設定され、そして、この増加トルクに応じた最終目標トルクが設定されて、この最終目標トルクが実現されるようにエンジン10のアクチュエータが制御される。
【0102】
このときの実トルクを見てみると、第3の例(細実線)では、第2の例(破線)と比較して、第1車両姿勢制御において実トルクの減少の開始が遅れていることがわかる。つまり、減筒運転時において終了閾値Th2aを変更せずに第1車両姿勢制御を行った場合には、全筒運転時において第1車両姿勢制御を行った場合と比較して、第1車両姿勢制御の終了時におけるトルク復帰の応答性悪化が生じていると言える。これは、上述したように、エンジン10における単位時間当たりの燃焼回数の違いに起因するものである。これに対して、第1の例(太実線)では、第1車両姿勢制御において実トルクの減少開始タイミングが第2の例(破線)とほぼ同じであることがわかる。つまり、減筒運転時において終了閾値Th2aを変更した終了閾値Th2bを用いることで、第1車両姿勢制御の終了時におけるトルク復帰(トルク減少)の応答性悪化が改善されたのである。
【0103】
なお、第1車両姿勢制御において増加トルクにより基本トルクを増加したトルクが発生すると、増加されたトルクは駆動輪である後輪202bに伝達され、後輪202bを車両前方へ推進させる力となる。この力が前輪202aからサスペンション203を介して車両200の車体に伝達されるときに、車体後部を上向きに持ち上げる力が瞬間的に作用し、車体を前傾させる方向のモーメントが働くことにより、車体前部を下向きに沈み込ませる力が作用し、車体前部が沈み込んで前輪荷重が増大する。これにより、ステアリングの切り込み操作に対する車両200の応答性又はリニア感を向上させることができる。即ち、後輪駆動車において、後輪202bの駆動トルクを増加させて加速度を付与すると、車体を後傾させる慣性力と、車体を前傾させる瞬間的な力が発生するが、ステアリングの切り込み操作に対する車両応答性やリニア感に対しては増加トルクによる瞬間的な車体を前傾させる力が支配的に寄与しているものと考えられる。
【0104】
次いで、ステアリングの保舵後に切り戻し操作が行われたときに、操舵角が減少し、操舵速度(絶対値)が増加する。本実施形態に係る第1の例(太実線)では、時刻t5において、操舵速度が第2車両姿勢制御の開始閾値Th3b以上となり(図11のステップS204:Yes)、第2車両姿勢制御が開始される。具体的には、時刻t5以降において、付加減速度が設定されて、この付加減速度に応じた低減トルクが設定され(図11のステップS206~S209)、そして、この低減トルクに応じた最終目標トルクが設定されて、この最終目標トルクが実現されるようにエンジン10のアクチュエータが制御される(図6のステップS6~S8)。この場合、低減トルクにより基本トルクを抑制したトルクが発生するように、点火プラグ14の点火時期が、基本トルクを発生させるための点火時期よりも遅角される。他方で、第2及び第3の例(破線及び細実線)では、時刻t5の後の時刻t6において、操舵速度が開始閾値Th3a以上となり、第2車両姿勢制御が開始される。具体的には、時刻t6以降において、付加減速度が設定されて、この付加減速度に応じた低減トルクが設定され、そして、この低減トルクに応じた最終目標トルクが設定されて、この最終目標トルクが実現されるようにエンジン10のアクチュエータが制御される。
【0105】
このときの実トルクを見てみると、第3の例(細実線)では、第2の例(破線)と比較して、第2車両姿勢制御において実トルクの減少の開始が遅れることがわかる。つまり、減筒運転時において開始閾値Th3aを変更せずに第2車両姿勢制御を行った場合には、全筒運転時において第2車両姿勢制御を行った場合と比較して、第2車両姿勢制御の開始時におけるトルク減少の応答性悪化が生じていると言える。これは、上述したように、エンジン10における単位時間当たりの燃焼回数の違いに起因するものである。これに対して、第1の例(太実線)では、第2車両姿勢制御において実トルクの減少開始タイミングが第2の例(破線)とほぼ同じであることがわかる。つまり、減筒運転時において開始閾値Th3aを変更した開始閾値Th3bを用いることで、第2車両姿勢制御の開始時におけるトルク減少の応答性悪化が改善されたのである。
【0106】
次いで、第2車両姿勢制御中において操舵速度が減少すると、本実施形態に係る第1の例(太実線)では、時刻t7において、操舵速度が第2車両姿勢制御の終了閾値Th4b未満となり(図11のステップS211:Yes)、第2車両姿勢制御が終了し始める。具体的には、時刻t7以降において、付加減速度を減少させるための付加減速度減少量が設定されて、この付加減速度減少量を適用した低減トルクが設定され(図11のステップS212~S215)、そして、この低減トルクに応じた最終目標トルクが設定されて、この最終目標トルクが実現されるようにエンジン10のアクチュエータが制御される(図6のステップS6~S8)。この場合、低減トルク自体を0に向けて減少させるべく(つまり最終目標トルクを基本トルクに向けて増加させるべく)、点火プラグ14の点火時期が、基本トルクを発生させるための点火時期に向けて進角される。他方で、第2及び第3の例(破線及び細実線)では、時刻t7の後の時刻t8において、操舵速度が終了閾値Th4a未満となり、第2車両姿勢制御が終了し始める。具体的には、時刻t8以降において、付加減速度を減少させるための付加減速度減少量が設定されて、この付加減速度減少量を適用した低減トルクが設定され、そして、この低減トルクに応じた最終目標トルクが設定されて、この最終目標トルクが実現されるようにエンジン10のアクチュエータが制御される。
【0107】
このときの実トルクを見てみると、第3の例(細実線)では、第2の例(破線)と比較して、第2車両姿勢制御において実トルクの増加の開始が遅れていることがわかる。つまり、減筒運転時において終了閾値Th4aを変更せずに第2車両姿勢制御を行った場合には、全筒運転時において第2車両姿勢制御を行った場合と比較して、第2車両姿勢制御の終了時におけるトルク復帰の応答性悪化が生じていると言える。これは、上述したように、エンジン10における単位時間当たりの燃焼回数の違いに起因するものである。これに対して、第1の例(太実線)では、第2車両姿勢制御において実トルクの増加開始タイミングが第2の例(破線)とほぼ同じであることがわかる。つまり、減筒運転時において終了閾値Th4aを変更した終了閾値Th4bを用いることで、第2車両姿勢制御の終了時におけるトルク復帰(トルク増加)の応答性悪化が改善されたのである。
【0108】
なお、第2車両姿勢制御において低減トルクにより基本トルクを低減したトルクが発生すると、低減されたトルクは駆動輪である後輪202bに伝達され、後輪202bを車両後方へ引っ張る力となる。この力が後輪202bからサスペンション203を介して車両200の車体に伝達されるときに、車体後部を下向きに沈み込ませる力が瞬間的に作用し、車体を後傾させる方向のモーメントが働くことにより、車体前部を上向きに持ち上げる力が作用し、車体前部が浮き上がって前輪荷重が減少する。これにより、ステアリングの切り戻し操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。即ち、後輪駆動車において、後輪202bの駆動トルクを減少させて減速度を付与すると、車体を前傾させる慣性力と、車体を後傾させる瞬間的な力が発生するが、ステアリングの切り戻し操作に対する車両応答性やリニア感に対しては低減トルクによる瞬間的な車体を後傾させる力が支配的に寄与しているものと考えられる。
【0109】
次に、本発明の実施形態による車両の制御装置による効果について説明する。
【0110】
本実施形態によれば、PCM50は、操舵速度が所定の閾値(第1閾値)以上になったときに増加トルクを付加する第1車両姿勢制御を行い、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ないときに第1閾値を小さくする。これにより、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ないときに、第1車両姿勢制御の開始要求が発せられるタイミングが早くなり、第1車両姿勢制御の開始が遅れることを適切に抑制することができる。よって、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない運転状態において、第1車両姿勢制御の開始時におけるトルク増加の応答性悪化を適切に抑制することができる。
【0111】
また、本実施形態によれば、PCM50は、減筒運転において休止する気筒数(休止気筒数)に基づき、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数を判断して、この休止気筒数に応じて第1車両姿勢制御の第1閾値を適切に設定することができる。
【0112】
また、本実施形態によれば、PCM50は、現在のエンジン回転数に基づき、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数を判断して、第1車両姿勢制御の第1閾値を適切に設定することができる。
【0113】
また、本実施形態によれば、PCM50は、第1車両姿勢制御の開始時において、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ないときにトルクの増加方向の変化速度を大きくするので、第1車両姿勢制御の開始時にトルクを速やかに増加させることができる。したがって、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない運転状態において、第1車両姿勢制御の開始時におけるトルク増加の応答性悪化をより効果的に抑制することができる。
【0114】
また、本実施形態によれば、PCM50は、第1車両姿勢制御中に操舵速度が所定の閾値(第2閾値)未満になったときに第1車両姿勢制御を終了させるようにし、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ないときに第2閾値を大きくする。これにより、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない場合に、第1車両姿勢制御の終了要求が発せられるタイミングが早くなり、第1車両姿勢制御の終了が遅れることを適切に抑制することができる。よって、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない運転状態において、第1車両姿勢制御の終了時におけるトルク復帰(トルク減少)の応答性悪化を適切に抑制することができる。
【0115】
また、本実施形態によれば、PCM50は、第1車両姿勢制御中に操舵速度が所定の閾値(第2閾値)未満になったときに、増加トルクを減少させて第1車両姿勢制御を終了させるようにし、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ないときにトルクの減少方向の変化速度を大きくするので、第1車両姿勢制御の終了時にトルクを速やかに減少させることができる。したがって、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない運転状態において、第1車両姿勢制御の終了時におけるトルク復帰(トルク減少)の応答性悪化を適切に抑制することができる。
【0116】
また、本実施形態によれば、PCM50は、第1車両姿勢制御後に操舵速度が所定の閾値(第3閾値)以上になったときに低減トルクを付加する第2車両姿勢制御を行い、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ないときに第3閾値を小さくする。これにより、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない場合に、第2車両姿勢制御の開始要求が発せられるタイミングが早くなり、第2車両姿勢制御の開始が遅れることを適切に抑制することができる。よって、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない運転状態において、第2車両姿勢制御の開始時におけるトルク減少の応答性悪化を適切に抑制することができる。
【0117】
また、本実施形態によれば、PCM50は、第1車両姿勢制御後に操舵速度が所定の閾値(第3閾値)以上になったときに低減トルクを付加する第2車両姿勢制御を行い、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ないときにトルクの減少方向の変化速度を大きくするので、第2車両姿勢制御の開始時にトルクを速やかに減少させることができる。したがって、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない運転状態において、第2車両姿勢制御の開始時におけるトルク減少の応答性悪化をより効果的に抑制することができる。
【0118】
また、本実施形態によれば、PCM50は、第2車両姿勢制御中に操舵速度が所定の閾値(第4閾値)未満になったときに第2車両姿勢制御を終了させるようにし、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ないときに第4閾値を大きくする。これにより、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない場合に、第2車両姿勢制御の終了要求が発せられるタイミングが早くなり、第2車両姿勢制御の終了が遅れることを適切に抑制することができる。よって、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない運転状態において、第2車両姿勢制御の終了時におけるトルク復帰(トルク増加)の応答性悪化を適切に抑制することができる。
【0119】
また、本実施形態によれば、PCM50は、第2車両姿勢制御中に操舵速度が所定の閾値(第4閾値)未満になったときに、低減トルクを減少させて第2車両姿勢制御を終了させるようにし、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ないときにトルクの増加方向の変化速度を大きくするので、第2車両姿勢制御の終了時にトルクを速やかに増加させることができる。したがって、単位時間当たりのエンジン10の燃焼回数が少ない運転状態において、第2車両姿勢制御の終了時におけるトルク復帰(トルク増加)の応答性悪化を適切に抑制することができる。
【0120】
<変形例>
上記した実施形態では、本発明を、減筒運転及び全筒運転の2つの運転モードのみを有するエンジン10(4気筒エンジン)に適用していた。このエンジン10では、減筒運転の運転モードは、気筒2A~2Dのうちの2つを休止させ、残りの2つを稼動させるモードのみから成る。他の例では、本発明は、減筒運転として2以上の運転モードを有するエンジンにも適用可能である。例えば、6気筒エンジンにおいては、6つ全ての気筒を稼働させる全筒運転のモードに加えて、2つの気筒を休止させて残りの4つの気筒を稼働させるモードと、3つの気筒を休止させて残りの3つの気筒を稼働させるモードとから成る2つの減筒運転のモードを、運転モードとして実現可能である。
このような2以上の運転モードを減筒運転として有するエンジンに本発明を適用する場合には、休止する気筒数に応じて、第1及び第2車両姿勢制御において適用する閾値を変更すると共に、第1及び第2車両姿勢制御において適用する付加加速度及び付加減速度を補正すればよい。
【0121】
上記した実施形態では、操舵角及び操舵速度に基づき車両姿勢制御を実行していたが、他の例では、操舵角及び操舵速度の代わりに、ヨーレートや横加速度やヨー加速度や横ジャークに基づき車両姿勢制御を実行してもよい。これらの操舵角、操舵速度、ヨーレート、横加速度、ヨー加速度及び横ジャークは、本発明における操舵角関連値に相当する。
【符号の説明】
【0122】
2(2A~2D) 気筒
5 スロットルバルブ
10 エンジン
13 燃料噴射弁
14 点火プラグ
18 可変吸気バルブ機構
20 バルブ停止機構
30 アクセル開度センサ
39 車速センサ
49 操舵角センサ
50 PCM
100 エンジンシステム
200 車両
202a 前輪(操舵輪)
202b 後輪(駆動輪)
207 操舵装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15