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特許7134409ビードコア保持装置およびタイヤ成形装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】ビードコア保持装置およびタイヤ成形装置
(51)【国際特許分類】
   B29D 30/32 20060101AFI20220905BHJP
【FI】
B29D30/32
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018247544
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020104470
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】中村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】井手 豪
(72)【発明者】
【氏名】横山 千年
(72)【発明者】
【氏名】平見 明
(72)【発明者】
【氏名】山下 辰郎
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-341211(JP,A)
【文献】特開2011-161678(JP,A)
【文献】特開2016-37019(JP,A)
【文献】特開2001-30371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/00-30/72
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生タイヤの成形に際して用いられるビード保持装置であって、
ビードを構成するビードコアの側面を受ける円盤状の基体部と、前記基体部の内周縁部から突出して設けられて前記ビードコアを底面から保持するビードコア保持部とを備えた一対のビードセットリングから構成されており、
各々の前記ビードコア保持部の周方向には、径方向に切欠かれた凹部が少なくとも1つ設けられており、
前記一対のビードコア保持部における前記凹部が、周方向の位置において、相互に、所定のズレ角度を形成するように配置されていることを特徴とするビード保持装置。
【請求項2】
前記一対のビードコア保持部の各々における前記凹部が、周方向に等分割した位置に6~8個設けられていることを特徴とする請求項1に記載のビード保持装置。
【請求項3】
前記凹部の各々の周方向の長さが、前記ビードセットリングにおける角度10~15°の円弧に対応する長さであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のビード保持装置。
【請求項4】
前記一対のビードコア保持部における前記凹部の周方向の位置の相互のズレ角度が、前記凹部の分割角度の1/2±5°であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のビード保持装置。
【請求項5】
前記一対のビードコア保持部における前記凹部の深さが、1.5~2.3mmであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のビード保持装置。
【請求項6】
前記凹部の深さが、1.8~2.0mmであることを特徴とする請求項5に記載のビード保持装置。
【請求項7】
前記ビードコア保持部の内径が、保持対象の複数種類のビードコアの内、最大内径のビードコアの内径よりも0~0.6mm小さく形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のビード保持装置。
【請求項8】
保持対象の複数種類のビードコアが、最大内径と最小内径の差が3mm以下のビードコアであることを特徴とする請求項7に記載のビード保持装置。
【請求項9】
保持対象の複数種類のビードコアが、内径300~450mmのビードコアであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のビード保持装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のビード保持装置を備えていることを特徴とするタイヤ成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの製造工程において用いられるビード保持装置および前記ビード保持装置を備えたタイヤ成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジアル構造のタイヤなどを製造するに際しては、一般に、カーカスを含むタイヤ部材を巻回して円筒状に成形する第1フォーマと、円筒状に成形されたタイヤ部材を移動させた後トロイド状にシェーピングして、別途成形されたベルトやトレッドゴム等と貼着して生タイヤを成形する第2フォーマとを備えたいわゆる2ステージ成形機が広く使用されている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
図5(a)~(c)は、タイヤ部材にビードをセットして生タイヤを製造する様子を説明する図であり、(a)は第1フォーマを模式的に示す図、(b)は第1フォーマを用いてビード62をタイヤ部材64の横にセット(横打ち)する様子を示す図、(c)は生タイヤが形成された時の状態を示す図である。
【0004】
図5(a)に示すように、第1フォーマは、タイヤ部材64を巻回して円筒状に成形するための中央ドラム50、所定のビード62をビードコア保持部54に保持してタイヤ部材64の両側に横からセット(横打ち)するリング状のビードセットリング52(図5(b))、膨張するターンアップブラダー70によりタイヤ部材64の両側端部をビード62の外側に巻き上げるための巻き上げ手段80を備えている。
【0005】
そして、図5(b)に示すように、ビードセットリング52のビードコア保持部54にセットされたビード62は、タイヤ部材64の両側端部まで搬送されて、セット(横打ち)され、その後、ターンアップブラダー70(図5(a))によりタイヤ部材64の両側端部がビード62の外側に巻き上げられて、図5(c)に示すように生タイヤTが成形される。
【0006】
図6は、ビードのビードセットリングへのセットを説明する図であり、左側にビードセットリング52を、右側にビード62が示されている。図6に示すように、ビードセットリング52は基体部55とビードコア保持部54とからなり、ビードコア56の側面56aを受ける円盤状の基体部55の内周縁部55aに、ビードコア56の内周面56bに嵌まり合うビードコア保持部54の嵌合面54aを有するビードコア保持部54が軸方向に突設して設けられている。ビードコア56は、このビードコア保持部54に嵌合され保持された状態で搬送されて、図5に示すようにセットされる。
【0007】
上記したビード62の横打ちに際して、ビードセットリング52に保持されたビード62のセンタリングができていないと、図5(c)に示すコードパスP(生タイヤT周上におけるビードコア間の距離)がばらついて、加硫済みのタイヤにおいて、RFV(Radial Force Variation)やRRO(Radial Run Out)にバラツキを生じて、ユニフォミティの低下を招いてしまう。
【0008】
そこで、従来より、内径の異なるビードの種類毎にビードセットリングを使い分けてセットすることにより、このようなRFVやRROのバラツキの発生を抑制している。
【0009】
しかし、ビードの種類毎にビードセットリングを交換することは煩雑であり、設備稼働率を低下させる。そこで、複数種類のビードに対して同じ径のビードセットリングを共用して、交換頻度を低減させることが考えられるが、ビードセットリングを共用化した場合には、ビードセットリングの径とビード径との差によって、ビードセットリングとビードとの間を適切なクリアランスでマッチさせることができなくなり(アンマッチ)、生タイヤ成形時、ビード落ちやセット不良が発生して、コードパスの大きなバラツキを招く。そして、この結果、RFVやRROに大きなバラツキが生じる。
【0010】
図7は、上記したビード落ちやセット不良の発生を具体的に説明する図である。ビードセットリングの径がビードコア径よりも大きい場合には、図7(a)に示すように、ビードコアをビードコア保持部54に嵌合させることができず(図では上部で嵌合できず、ビードコア保持部54に当たっている)、ビード落ちが発生する。一方、ビードセットリングの径がビード径よりも小さい場合には、図7(b)に示すように、ビード62とビードコア保持部54との間に隙間Sが生じて、ビードのセットに偏りを生じさせ、コードパスのバラツキを招く。
【0011】
そこで、ビードセットリングの6~12箇所に、マグネットやボールプランジャーを配置して、ビードセットリングの共用化に伴うビード落ちやセット不良の発生を防止することが提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2001-30371号公報
【文献】特開2011-161678号公報
【文献】特開2013-180562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、ビードセットリングの共用化に際して、ビード落ちやセット不良の発生は未だ十分に防止できているとは言えず、さらなる改良が求められている。
【0014】
そこで、本発明は、複数種類のビードに対して単一のビード保持装置を用いながらも、ビード落ちやセット不良の発生を十分に防止して、コードパスのバラツキを低減し、RFVやRROのタイヤユニフォミティの悪化を招くことがないビード保持装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の発明は、
生タイヤの成形に際して用いられるビード保持装置であって、
ビードを構成するビードコアの側面を受ける円盤状の基体部と、前記基体部の内周縁部から突出して設けられて前記ビードコアを底面から保持するビードコア保持部とを備えた一対のビードセットリングから構成されており、
各々の前記ビードコア保持部の周方向には、径方向に切欠かれた凹部が少なくとも1つ設けられており、
前記一対のビードコア保持部における前記凹部が、周方向の位置において、相互に、所定のズレ角度を形成するように配置されていることを特徴とするビード保持装置である。
【0016】
請求項2に記載の発明は、
前記一対のビードコア保持部の各々における前記凹部が、周方向に等分割した位置に6~8個設けられていることを特徴とする請求項1に記載のビード保持装置である。
【0017】
請求項3に記載の発明は、
前記凹部の各々の周方向の長さが、前記ビードセットリングにおける角度10~15°の円弧に対応する長さであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のビード保持装置である。
【0018】
請求項4に記載の発明は、
前記一対のビードコア保持部における前記凹部の周方向の位置の相互のズレ角度が、前記凹部の分割角度の1/2±5°であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のビード保持装置である。
【0019】
請求項5に記載の発明は、
前記一対のビードコア保持部における前記凹部の深さが、1.5~2.3mmであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のビード保持装置である。
【0020】
請求項6に記載の発明は、
前記凹部の深さが、1.8~2.0mmであることを特徴とする請求項5に記載のビード保持装置である。
【0021】
請求項7に記載の発明は、
前記ビードコア保持部の内径が、保持対象の複数種類のビードコアの内、最大内径のビードコアの内径よりも0~0.6mm小さく形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のビード保持装置である。
【0022】
請求項8に記載の発明は、
保持対象の複数種類のビードコアが、最大内径と最小内径の差が3mm以下のビードコアであることを特徴とする請求項7に記載のビード保持装置である。
【0023】
請求項9に記載の発明は、
保持対象の複数種類のビードコアが、内径300~450mmのビードコアであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のビード保持装置である。
【0024】
請求項10に記載の発明は、
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のビード保持装置を備えていることを特徴とするタイヤ成形装置である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、複数種類のビードに対して単一のビード保持装置を用いながらも、ビード落ちやセット不良の発生を十分に防止して、コードパスのバラツキを低減し、RFVやRROのタイヤユニフォミティの悪化を招くことがないビード保持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施の形態に係るビード保持装置におけるビードセットリングを説明する平面図である。
図2図1に示すビードセットリングの一部拡大断面図である。
図3】従来および本発明のビードコア保持部の概略を示す断面図である。
図4図4は、本発明のビードコア保持部を用いて製造したタイヤの高速RFV(上)と高速TFV(下)の測定結果を示すグラフである。
図5】タイヤ部材にビードをセットして生タイヤを製造する様子を説明する図である。
図6】ビードのビードセットリングへのセットを説明する図である。
図7】ビード落ちやセット不良の発生を具体的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態について説明する。
【0028】
1.ビードコア保持装置
最初に、本実施の形態に係るビード保持装置について説明する。図1は、本実施の形態に係るビード保持装置におけるビードセットリングを説明する平面図である。なお、本実施の形態に係るビード保持装置は、ここに示した一対のビードセットリングで構成されているが、各ビードセットリングのビードコア保持部は後述する切欠き部の位置(位相)がずれているだけで基本的に同様の構造であるため、図1では一対のビードセットリングの内の片方だけを示している。
【0029】
図1に示すように、本実施の形態に係るビード保持装置において、ビードセットリング1は、円盤状の基体部2aおよび基体部2aの内周縁部から突出して設けられたビードコア保持部2bを備えている。基体部2aでビードコア4(図2)の側面を受け、ビードコア保持部2bでビードコア4(図2)を底面から保持することにより、ビードを保持することができる。この点については、従来のビード保持装置(図5参照)と同じである。
【0030】
しかし、本実施の形態に係るビード保持装置においては、図1に示すように、ビードセットリング1のビードコア保持部2bの周方向に、径方向に切欠かれた凹部(以下、「切欠き部」ともいう)3が設けられている点において、従来のビード保持装置と異なっている。
【0031】
2.ビードコア保持部
次に、本実施の形態における特徴部である径方向に切欠かれた凹部(切欠き部)が設けられたビードコア保持部について説明する。なお、図1においては、ビードセットリング1のビードコア保持部2bに、周方向に角度B1で6等分に分割された位置に切欠き部3が設けられている。
【0032】
図2は、図1に示すビードセットリングの一部拡大断面図であり、(a)は図1における矢視A-A断面図、(b)は矢視B-B断面図である。図2(a)、(b)より分かるように、ビードコア保持部2bに切欠き部3がない箇所とある箇所とを形成させることにより、ビードコア保持部2bの外周径と切欠き部3との間に切欠き部3の深さに応じたクリアランスを確保することができる。そして、このクリアランスに対応させることにより、異なるビード径のビードのセットにおいても、各ビードを確実にセットでき、ビード落ちやセット不良の発生を十分に防止することができる。
【0033】
なお、本実施の形態において、切欠き部3は少なくとも1つ設けられていればよいが、6~8個、周方向に等分割した位置に設けられていることが好ましい。そして、各切欠き部3の周方向の長さB2は、ビードセットリングにおける角度10~15°の円弧に対応する長さであることが好ましく、12~13°であるとより好ましい。また、各切欠き部3の深さは、1.5~2.3mmであることが好ましく、1.8~2.0mmであるとより好ましい。これらにより、保持されたビードの変形を殆ど招くことなくセットすることができるため、コードパスのバラツキをより低減させることができる。
【0034】
そして、本実施の形態においては、一対のビードセットリングの各ビードコア保持部は、切欠き部の位置(位相)が、周方向において相互に所定のズレ角度、好ましくは、凹部の分割角度の1/2±5°となるように配置されている。これにより、実車走行時におけるユニフォミティの悪化を防止することができる。
【0035】
また、本実施の形態においては、内径の異なる複数種類のビードコアを保持することができるように、ビードコア保持部の内径が、保持対象の複数種類のビードコアの内、内径が最大のビードコアの内径よりも0~0.6mm、最も好ましくは0.4mm、小さく形成されていることが好ましい。これにより、前記した切欠き部の深さとも相俟って、内径300~450mm(12~17吋)のビードコアから、最大内径と最小内径の差が3mm以下である複数種類のビードコアを保持することができる。
【実施例
【0036】
[1]実験1(ビードコア保持部の構成による評価)
本実験においては、ビードセットリングにおけるビードコア保持部の構成の違いによる評価を行った。
【0037】
1.試験体の作製
具体的には、表1に示す実験例1-1~1-6の異なるタイプのビードセットリングを用いてタイヤを作製し、タイヤ間のコードパスのばらつき、および、セット不良の発生回数について評価した。
【0038】
(1)実験例1-1(従来タイプ)
実験例1-1としては、従来のビード径の違いにより交換するタイプのビードセットリングを用いて、1-0構造(ビード径:407.8mm)あるいは2-0構造(ビード径:409.5mm)でビード径が異なる2種類のタイヤ(タイヤサイズはいずれも215/60R16 95H SP230)を、18回/日の交換頻度でビードセットリングを交換しながら、合計100本作製した。なお、このとき、ビードとビードコア保持部のクリアランスは0.4mmとした。
【0039】
(2)実験例1-2(鍔なしタイプ)
実験例1-2としては、上記した従来のビードセットリングからビードコア保持部を取り去って鍔なしとしたタイプのビードセットリングを用いて、ビードセットリングを交換することなく、実験例1-1と同様にしてタイヤを作製した。なお、ここでは鍔なしであるため、ビードとビードコア保持部との間にクリアランスはない。
【0040】
(3)実験例1-3(径共用タイプ)
実験例1-3としては、図3(a)に示すように、異なる2つのビード径で共用できるように従来のビードセットリングに加工を施したビードセットリングを用いて、ビードセットリングを交換することなく、実験例1-1と同様にしてタイヤを作製した。なお、このとき、ビードとビードコア保持部のクリアランスは1.0mmとした。
【0041】
(4)実験例1-4(マグネットタイプ)
実験例1-4としては、図3(b)に示すビードコア保持部にマグネット9を、6個、等角度(60°)で配置したビードセットリングを用いて、ビードセットリングを交換することなく、実験例1-1と同様にしてタイヤを作製した。なお、このとき、ビードとビードコア保持部のクリアランスは1.0mmとした。
【0042】
(5)実験例1-5(プランジャータイプ)
実験例1-5としては、図3(c)に示すように、ビードコア保持部にボールプランジャー10を、6個、等角度(60°)で配置したビードセットリングを用いて、ビードセットリングを交換することなく、実験例1-1と同様にしてタイヤを作製した。なお、このとき、ビードとビードコア保持部のクリアランスは1.0mmとした。
【0043】
(6)実験例1-6(切欠き部タイプ)
実験例1-6としては、図3(d)に示すように、ビードコア保持部に、深さ-1.8mmでビードセットリングの角度15°に対応する長さの切欠き部3を、6個、等角度(60°)で配置したビードセットリングを用いて、ビードセットリングを交換することなく、実験例1-1と同様にしてタイヤを作製した。なお、このとき、ビードとビードコア保持部(切欠き部)のクリアランスは、-1.9mmとした。なお、ここで、深さ、クリアランスを「-」で表記しているのは、切欠き部が、それ以外の面を基準として凹部として形成されているためである。
【0044】
2.評価
評価は、各実験例において得られたコードパスの範囲R、1日当たりのセット不良発生回数について行うと共に、耐久性(使用回数)を推定した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1より、実験例1-2~1-5では、コードパスの範囲Rが従来(実験例1-1)よりも大きくなって、バラツキが生じていることが分かる。そして、実験例1-2~1-4では、セット不良が発生していることが分かる。また、実験例1-4、1-5では、耐久性が従来(実験例1-1)よりも低下していることが分かる。
【0047】
これに対して、実験例1-6では、ビードセットリングの交換を行わなかったにも拘わらず、コードパスのバラツキおよび耐久性を従来(実験例1-1)と同様に維持できることが分かる。これにより、ビードセットリングに切欠き部を設けることにより、複数種類のビードを保持しても、コードパスのばらつきやセット不良の発生を抑制できることが確認できた。
【0048】
[2]実験2(ビードコア保持部における切欠き部の配置数による評価)
実験1において、ビードセットリングに切欠き部を設ける効果が確認できたため、次に、ビードコア保持部における切欠き部の配置数の違いによる評価を行った。
【0049】
具体的には、切欠き部の配置数を、表2に示すように、1~10と変化させて、実験例1-1と同様にしてタイヤを作製した。なお、全ての実験例において、切欠き部の深さは-1.8mm、長さはビードセットリングにおける角度15°の円弧に対応する長さとし、ビードとのクリアランスは-1.9mmとした。なお、実験例2-6は実験例1-6と同じである。
【0050】
評価は、セット不良の発生本数とコードパスの範囲R(バラツキ)について評価すると共に、作製されたタイヤについてRH1(RFVの測定値をフーリエ解析してタイヤ一回転に検出される一次成分)を求め、併せて評価した。結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2より、太線で囲んだ部分、即ち、切欠き数が6~8個の場合(実験例2-6~2-8)には、セット不良の発生がなく、コードパスのバラつきも1.0mmに抑えられていることが分かる。また、RH1が30Nを下回っており、切欠き数を6~8とすることにより、良好なユニフォミティとなることが確認できた。
【0053】
[3]実験3(切欠き深さによる評価)
実験2において、切欠き数としては6~8が好ましいことが確認できたため、次に、切欠き部の深さについて評価した。
【0054】
具体的には、切欠き数を6または8にし、表3に示すように、切欠き深さを-1.6~-2.2mmと変化させて、実験例1-1と同様にしてタイヤを作製した。なお、全ての実験例において、切欠き長さはビードセットリングにおける角度15°の円弧に対応する長さとし、ビードとのクリアランスは-1.7mmとした。
【0055】
評価は、実験2と同様に、セット不良の発生本数とコードパスの範囲R(バラツキ)について評価すると共に、作製されたタイヤについてRH1を求め、併せて評価した。結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表3より、切欠き数が6の場合には、切欠き深さが1.8~2.0mmであれば(実験例3-2~3-3)、セット不良の発生がなく、コードパスのバラつきも1.0mmに抑えられており、RH1が30Nを下回っていることが分かる。そして、切欠き数が8の場合には、切欠き深さが1.8~2.2mmであれば(実験例3-6~3-8)、セット不良の発生がなく、コードパスのバラつきも1.0mmに抑えられており、RH1が30Nを下回っていることが分かる。これにより、好ましい切欠き深さが1.8~2.0mmであることが確認できた。
【0058】
[4]実験4(ビードとのクリアランスによる評価)
次に、ビードとのクリアランスについて評価した。
【0059】
具体的には、切欠き数を6、切欠き深さを1.8mm、切欠き長さをビードセットリングにおける角度15°の円弧に対応する長さとして、表4に示すように、ビードとのクリアランスを-3.4~+0.8mmと変化させて、同様にタイヤを作製した。
【0060】
評価は、同様に、セット不良の発生とコードパスのバラツキについて評価すると共に、作製されたタイヤについてRH1を求め、併せて評価した。結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4より、太線で囲んだ部分、即ち、ビードとのクリアランスが0.4~-3.0mmの場合(実験例4-2~4-5)には、セット不良が0~2回/日、コードパスRが1.0~1.5、RH1も22.6~27.9と良好であることが分かる。
【0063】
[5]実験5(切欠き部の位相角による評価)
次に、一対のビードコア保持部における各切欠き部の周方向の位置の相互のズレ角度(位相のズレ)について評価した。
【0064】
具体的には、まず、切欠き深さが1.8mm、切欠き長さがビードセットリングにおける角度15°の円弧に対応する長さの切欠き部が6個設けられた一対のビードセットリングを用いて、ズレ角度が0°、30°でタイヤ(サイズ:215/60R16 95H)10本を作製した。
【0065】
次いで、各タイヤを試験機(高速ユニフォミティ試験機)にリム幅16×6.5Jで実装して、荷重5.75kNの条件下、速度120km/hで走行試験を行い、高速RFVおよび高速TFVを12次まで測定した。結果を図4に示す。
【0066】
図4より、切欠き部の配置角度60°の1/2である30°の位相(ズレ角度)を設けた場合、高速RFVおよび高速TFVのいずれも、殆どの次数において、数値が低下しており、ズレ角度を設けることにより、良好なユニフォミティが得られることが分かる。
【0067】
そして、本発明者は、25~35°の位相、即ち、30±5°の位相であれば、同様に、良好なユニフォミティが得られることを確認している。
【0068】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0069】
1、52 ビードセットリング
2a、55 基体部
2b、54 ビードコア保持部
3 切欠き部
4、56 ビードコア
9 マグネット
10 ボールプランジャー
50 中央ドラム
54a (ビードコア保持部の)嵌合面
55a (基体部の)内周縁部
56a (ビードコアの)側面
56b (ビードコアの)内周面
62 ビード
64 タイヤ部材
70 ターンアップブラダー
80 巻き上げ手段
B1 (切欠き部の配置)角度
B2 切欠き部の周方向の長さ
P コードパス
S ビードとビードコアとの間の隙間
T 生タイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7