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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】光偏向デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/295 20060101AFI20220905BHJP
   G02F 1/015 20060101ALI20220905BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
G02F1/295
G02F1/015 505
G01S7/481 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019511306
(86)(22)【出願日】2018-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2018014586
(87)【国際公開番号】W WO2018186471
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2021-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2017076112
(32)【優先日】2017-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(ACCEL)、「スローライト構造体を利用した非機械式ハイレゾ光レーダーの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願である。
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】馬場 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】竹内 梧朗
(72)【発明者】
【氏名】竹内 萌江
(72)【発明者】
【氏名】寺田 陽祐
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0084213(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0013962(US,A1)
【文献】国際公開第2010/035568(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/171125(WO,A1)
【文献】特開2014-017481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/01-1/025,1/29,1/295
G02B 6/12
H01S 5/06
IEEE Xplore
Scitation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高屈折率部材の面内に低屈折率部位が周期的に配列される格子配列を備えるフォトニック結晶導波路において、
前記格子配列は、
真性領域、及び前記真性領域を両側で挟む不純物領域及び高濃度拡散層領域を備え、
前記不純物領域において、
負側の電極が接続される側の不純物領域は、正側の電極が接続される側の不純物領域よりも前記真性領域の中心に近接した非対称配置である、加熱機構を構成する、光偏向デバイス。
【請求項2】
高屈折率部材の面内に低屈折率部位が周期的に配列される格子配列を備えるフォトニック結晶導波路において、
前記格子配列は、
真性領域、及び前記真性領域を両側で挟む不純物領域及び高濃度拡散層領域を備え、
前記高濃度拡散層領域は、前記不純物領域と接合する側と反対側に電極を備える加熱機構を構成する、光偏向デバイス
【請求項3】
高屈折率部材の面内に低屈折率部位が周期的に配列される格子配列を備えるフォトニック結晶導波路において、
前記格子配列は、
真性領域、及び前記真性領域を両側で挟む不純物領域及び高濃度拡散層領域を備え、
前記不純物領域において、
負側の電極が接続される側の不純物領域は、正側の電極が接続される側の不純物領域よりも前記真性領域の中心に近接した非対称配置であり、
前記高濃度拡散層領域は、前記不純物領域と接合する側と反対側に電極を備える加熱機構を構成する、光偏向デバイス
【請求項4】
前記不純物領域はp型不純物領域であり、
前記高濃度拡散層領域はp型高濃度拡散層領域であり、
前記加熱機構は、p-i-p構造を構成する、請求項1から3の何れか一つに記載の光偏向デバイス。
【請求項5】
前記不純物領域はn型不純物領域であり、
前記高濃度拡散層領域はn型高濃度拡散層領域であり、
前記加熱機構は、n-i-n構造を構成する、請求項1から3の何れか一つに記載の光偏向デバイス。
【請求項6】
前記加熱機構において、
前記真性領域は櫛状の不純物領域を備える、請求項1からの何れか一つに記載の光偏向デバイス。
【請求項7】
前記櫛状の不純物領域は、前記真性領域に設けられた前記低屈折率部位の配列に沿って設けられる、請求項に記載の光偏向デバイス。
【請求項8】
前記加熱機構は、光を伝搬するための、前記真性領域のうち前記不純物領域を設けない領域である導波路コアの長さ方向に向かって分割された複数個の加熱ユニットを備え、当該加熱ユニットの加熱制御は個別に自在である、請求項1から7の何れか一つに記載の光偏向デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の進行方向を制御する光偏向デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
周囲の物体までの距離を2次元画像として取得するレーザ計測を用いたレーザレーダーもしくはライダー装置(LiDAR(Light Detection and Ranging, Laser Imaging Detection and Ranging))の技術分野は、車の自動運転や3次元地図作製等に利用されており、その基盤技術はレーザプリンタやレーザディスプレイ等にも適用可能である。
【0003】
この技術分野では、光ビームを物体に当て、物体で反射して戻ってくる反射光を検出し、その時間差や周波数差から距離の情報を取得すると共に、光ビームを2次元的に走査することによって広角の3次元情報を取得する。
【0004】
光ビーム走査には光偏向デバイスが必須である。従来は、機器全体の回転、多角形ミラー(ポリゴンミラー)、ガルバノミラーといった機械式ミラー、マイクロマシーン技術(MEMS技術)による小型集積ミラーなど、いずれも機械式の機構が用いられているが、大型、高価、振動する移動体での不安定性などの問題があり、近年、非機械式の光偏向デバイスの研究が盛んとなっている。
【0005】
非機械式の光偏向デバイスとして、光の波長やデバイスの屈折率を変えることで光偏向を実現するフェーズド・アレイ型や回折格子型が提案されている。しかしながら、フェーズド・アレイ型の光偏向デバイスはアレイ状に並べられた多数の光放射器の位相調整が非常に難しく、高品質な鋭い光ビームを形成することができないという課題がある。一方、回折格子型の光偏向デバイスは鋭いビームの形成が容易であるが、光偏向角が小さいという課題がある。
【0006】
小さな光偏向角の課題に対して、本発明の発明者は、スローライト導波路を回折格子等の回折機構に結合させることによって光偏向角を増大させる技術を提案している(特許文献1)。スローライト光はフォトニック結晶導波路のようなフォトニックナノ構造の中で発生し、低群速度を持ち、波長や導波路の屈折率のわずかな変化により、伝搬定数を大きく変化させるという特徴を持つ。このスローライト導波路の内部、もしくは直近に回折機構を設置すると、スローライト導波路が回折機構に結合して漏れ導波路となり、自由空間に光を放射する。このとき伝搬定数の大きな変化は放射光の偏向角に反映し、結果として大きな偏向角が実現される。
【0007】
図9Aは、低群速度をもつ光(スローライト)を伝搬するフォトニック結晶導波路に回折機構を導入したデバイス構造、及び放射光ビームの概要を示している。光偏向デバイス101は、フォトニック結晶の面内に導波路に沿って2種類の異なる直径の円孔を繰り返してなる二重周期構造を有するフォトニック結晶導波路102を備える。二重周期構造は回折機構を構成し、スローライト伝搬光を放射条件に変換して空間に放射する。
【0008】
光偏向デバイス101は、SiO等の低屈折率材料からなるクラッド113上の高屈折率部材110に低屈折率部位111が配列された格子配列103によってフォトニック結晶導波路102が形成される。低屈折率部位111の格子配列103は、例えば、大径の円孔を繰り返す周期構造と、小径の円孔を繰り返す周期構造の二重周期構造である。フォトニック結晶導波路102の格子配列103において、円孔111が設けられない部分は入射光を伝搬する導波路コア112を構成する。
【0009】
図9B図9Cは放射光ビームのビーム強度分布を説明するための図であり、図9Bは縦方向のビーム強度分布を示し、図9Cは横方向のビーム強度角度分布を示している。
【0010】
図9Bにおいて、放射光ビームは導波路コアに沿って徐々に漏れ出すことで縦方向のビーム強度分布は揃った鋭いビームとなる。図9Cにおいて、横方向のビーム強度角度分布は広い角度分布を有する。
【0011】
フォトニック結晶導波路を用いた光偏向デバイスによって形成された光ビームは、光偏向デバイスへの入射光の波長、または導波路の屈折率もしくは導波モードの等価的な屈折率の変化によって縦方向の放射角度が変化する。したがって、光偏向デバイスは、入射光の波長、または導波路の屈折率もしくは導波モードの等価的な屈折率を高速かつ連続的に変化させることで放射角度を変化させ、これによって放射光ビームを走査させることができる。
【0012】
光偏向デバイスは、放射光ビームを走査する機能を備えることによって初めて光偏向器として機能する。
【0013】
実用的な光偏向デバイスでは、入射光の波長を変える場合に、レーザ光源に求められる波長スペクトルとして以下の要件が挙げられる。
(a) 波長線幅は、例えば1MHz 以下の狭幅である。
(b) 波長の振り幅は、例えば30nm 以上の広範囲である。
(c) 波長は連続的に走査可能である。
(e) 出力は、例えば100mWに近い高出力である。
(f) 小型である。
【0014】
しかしながら、現状ではこのような条件を満たすレーザ光源は存在しない。現在得られる実用的な半導体レーザとしては、要件(c)について、波長の連続走査はできないが、ミリ秒~秒の時間をかけて波長を特定の値に設定することができ、その他の要件を満たすものが知られている。
【0015】
したがって、現状においては、実現可能な光偏向デバイスとしては、前記した半導体レーザを光源として、特定の波長を用いて導波路の屈折率を逐次的に変えることによって光ビームを走査する構成が想定される。
【0016】
このような光偏向デバイスをライダー装置(LiDAR)に適用する場合、ライダー装置の典型的な仕様として、例えば、距離画像を得る2次元の画素数を320×32≒1万点とし、画像のフレームレートを10フレーム毎秒とすると、全体で10万点/秒のデータ量を走査する必要がある。このデータ量は100kHzの走査速度に相当する。光偏向デバイスによって光ビームを走査して画像データを取得するには、放射光ビームを走査するために変化させる屈折率の変化速度はこの走査速度に対応できる高速である必要がある。
【0017】
光偏向デバイスにおいて、導波路の屈折率もしくは導波モードの等価的な屈折率を変える手段として、現状では、マイクロマシーン等の微小機械、非線形効果(光カー効果)、キャリアプラズマ効果、熱光学効果等が検討対象となり得る。
【0018】
これらの手段のうち、マイクロマシーン等の微小機械を用いた光偏向デバイスは、前記した光偏向ミラーとしてのマイクロマシーンと同様に高速動作が難しく、上記した走査速度を得るのは困難である。また、不安定で低信頼性という問題もある。
【0019】
非線形効果(光カー効果)を用いた光偏向デバイスは、例えば、導波路材料としてシリコン(Si)を使ったフォトニック結晶導波路では10W級の高い光パワーが必要である。しかしながら、100mW以上の光パワーを連続的に導入すると、非線形吸収(二光子吸収)が発生して光が減衰するだけでなく、導波路が損傷を受けるという問題がある。
【0020】
キャリアプラズマ効果は、Siなどの半導体にp-n接合ダイオードを形成し、そこに順方向または逆方向のバイアスを掛けて導波路中のキャリアの量を変えると、半導体の屈折率が変わる効果である。キャリアプラズマ効果を用いた光偏向デバイスでは、10GHz以上の高速な応答が得られるが、屈折率の変化量は10-3以下と小さく、十分な走査範囲を得ることが難しい。また、光吸収が同時に発生し、光偏向デバイスで想定される1mm以上の長さの光偏向デバイスにスローライトを伝搬させる場合の吸収損失は10dB以上と大きくなるため、光偏向デバイスとしての利用は難しい。
【0021】
熱光学効果は、材料を加熱することで屈折率変化が起こる効果である。熱光学効果を用いた光偏向デバイスは、加熱温度にも依るが、例えばSiを使ったときには温度変化1K当たりの屈折率変化は0.000186となり、仮に現実的に可能な温度変化である400Kの温度変化を与えると0.0744という大きな屈折率変化が生じる。この屈折率変化は31°という大きな偏向角に相当する。図9Dは、Siのフォトニック結晶スローライト偏向器のSi層に温度変化ΔTを与えたときの偏向角θの変化を示している。なお、図9Dの特性は、Siフォトニック結晶スラブの屈折率を3.5、厚さを210nm、上下クラッドの屈折率を1.45、フォトニック結晶の格子定数a=400nmとし、フォトニック結晶の円孔の径の大小を繰り返す二重周期構造において、円孔の直径を2r=210±5nmとした例である。
【0022】
図10A図10B図10Cは、スローライト導波路に熱光学効果を発生させるための加熱機構な構造例を示している。図10Aに示す加熱機構201Aは、フォトニック結晶導波路202の横方向の側部にヒータ203を形成し、電源205により通電することで加熱を行う。ヒータ203は、例えばSiCMOSプロセスで形成可能なTiNヒータで形成することができる(非特許文献1)。
【0023】
図10B図10Cに示す加熱機構201Bは、フォトニック結晶導波路202の直上(または直下)にヒータ203を形成するものである(非特許文献2)。フォトニック結晶導波路202の上部のSiOクラッド(図示していない)内において、導波路から1μm以上離れた位置にヒータ203を設置することで、光吸収は十分に低く抑えられる。また、導波路から至近位置に設けることによって、高い加熱効率で小さな熱容量とすることができ、図10Aの加熱機構201Aよりも高速な応答が得られる。なお、図10A図10Bにおいて、符号204はヒータ203による加熱領域を示している。
【0024】
また、Siフォトニック結晶において、光を導波させるSi層をヒータとして利用する技術が非特許文献3に開示されている。この加熱技術は、フェーズド・アレイの各アンテナセルに光を導波する遅延線を加熱することによって位相を制御するものであり、導波路の途中を湾曲させ、湾曲部分の両端間に電流を流すことによって導波路の光の吸収を抑える構成としている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【文献】特願2016-10844
【非特許文献】
【0026】
【文献】Applied Physics Letters," Photonic crystal tunable slow light device integrated with multi-heaters" Norihiro Ishikura, Ryo Hosoi, Ryo Hayakawa, Takemasa Tamanuki, Mizuki Shinkawa, Toshihiko Baba 100,221110(2012) 221110-1~221110-3 published online 31 May 2012 (Fig1.参照)
【文献】Frontiers In Physics Volume2 Article61 p1~p9 "Theoretical and experimental investigation of low-volgage and low-loss 25-Gbps Si photonic crystal slow light Mach-Zehnder modulators with interleaved p/n junction" Yosuke Terada, Hiroyuki Ito, Hong C. Nguyen and Toshihiko Baba November 2014(Fig2., Fig7.参照)
【文献】Nature LETTER "Large-scale nanophotonic phased array" Jie Sun, Erman Timurdogan, Ami Yaacobi, Ehsan Shah Hosseini Michael R. Watts vol493 p195-199, 10 JANUARY 2013 (Fig4a.参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
図10Aに示した加熱機構201Aは、ヒータ203自体は一般に不透明な材料で形成されるため、フォトニック結晶導波路202の導波光に近い場所に設置した場合には光が吸収される。そこで、フォトニック結晶導波路202の中央から十分に離れた位置のSiに接するようにヒータ203を形成し、熱伝導性に優れたSiを通して熱を中央に到達させる構成とする。何れの構成においても、導波路中央はヒータから離れているため、ヒータ周辺に比べると導波路中央の温度は低く、加熱効率が低い。また、加熱面積が増え、全体の熱容量が大きくなるため、高速な応答が難しい。
【0028】
図10B図10Cに示した加熱機構201Bは、フォトニック結晶導波路の導波路中央の直上にヒータが設けられるため、上方に放射する放射光ビームを偏向させる光偏向器において、直上ヒータは光の上方放射を妨げる。したがって、光を基板裏面側に放射させる必要があり、デバイスの全体構成を制約する。
【0029】
これを避けるため、ヒータを導波路の直下のSiOクラッド層の中に形成する構成が検討される。
【0030】
しかしながら、従来、フォトニック結晶導波路はSi基板上のSiO層とSi層で構成されるSOI基板の最上層のSiを加工することで形成されている。ヒータをSi層直下のSiO層の中に形成するためには、SOI基板による構成に代えて、Si基板上に化学気相堆積法などによってSiO層を形成した後にヒータを形成し、さらにSiO層を形成し、Si層を形成するといった手順で層構造を構成する必要がある。
【0031】
この層構造において、導波路層となるSi層はSOI基板の高品質な単結晶層ではなくアモルファス層となる。そのため、導波路の損失増加に加え、LiDARで必要となる光変調器や光検出器の集積化が困難になるという問題がある。
【0032】
上記の非特許文献3においてSi層をヒータとして利用する技術は、導波路を湾曲させることで導波光の分布を導波路の外周部周辺に偏らせ、導波路の内周部に電流を通電する機構を設置することで、光吸収を抑制している。一方、直線状に放射する光ビームの放射角度を変えるフォトニック結晶光偏向デバイスの導波路は直線状であるため、湾曲部を要する導波路のヒータを適用することは困難である。
【0033】
したがって、光偏向デバイスにおいて、従来提案されている加熱機構では、加熱効率、高速応答、及び導波路の低損失を満足することは困難である。
【0034】
本発明は、屈折率を熱変化させる光偏向デバイスにおいて、加熱効率の向上、導波路の低損失化、高速応答を満たす加熱機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明はスローライト導波路に熱光学効果を発生させるための加熱機構に関し、スローライト導波路を構成する半導体上に加熱機構を形成する。
【0036】
フォトニック結晶導波路の材料となるシリコンにドーピングを行って通電を可能にし、導波路中央付近のみをドーピングしない真性領域とすることによって、そこに電圧が集中的にかかるようにし、結果的に導波路中央を集中的に加熱できるようにする。光が伝搬する導波路中央が加熱されることは加熱効率を向上させると共に、加熱応答を高速化することができる。また、導波路中央はドーピングがない真性領域なので、キャリアに伴う伝搬光の吸収を抑制して、導波路を低損失化することができる。
【0037】
本発明の光偏向デバイスは、高屈折率部材の面内に低屈折率部位が周期的に配列される格子配列を備えるフォトニック結晶導波路において、格子配列が形成される領域を、真性領域、及び真性領域を両側で挟む不純物領域及び高濃度拡散層領域とする。加熱機構は、この真性領域を中心として両側に配置した不純物領域及び高濃度拡散層領域によって、電流路を有した加熱機構を形成する。この加熱機構において、高濃度拡散層領域は不純物領域の外側に配置され、上部に電極を備え、電極との間でオーミック接触を行う。
【0038】
電源から電極及び高濃度拡散層領域を介して、不純物領域-真性領域-不純物領域に電流を流すことによって、電気抵抗の高い真性領域に発熱を生じさせ、加熱を行う。また、真性領域は導波路コアにあたるため、真性領域を加熱することによって、導波路の屈折率もしくは導波モードの等価的な屈折率を変えることができる。
【0039】
加熱機構を構成する不純物領域及び高濃度拡散層領域は、p型不純物領域及びp型高濃度拡散層領域とする他、n型不純物領域及びn型高濃度拡散層領域としてもよい。p型不純物領域及びp型高濃度拡散層領域とする加熱機構はp-i-p構造であり、n型不純物領域及びn型高濃度拡散層領域とする加熱機構はn-i-n構造である。なお、ここでiは真性領域を表している。
【0040】
(櫛状の不純物領域)
加熱機構において、不純物領域の一部を真性領域に設ける構成とすることもでき、この構成では真性領域内に櫛状の不純物領域を形成する。櫛状の不純物領域は真性領域に設けられた低屈折率部位の配列に沿って設けることができる。真性領域に不純物領域を設ける構成によれば、同じ電気抵抗でも光吸収を下げることができ、さらに加熱部分を導波路コアにより近い位置に設ける構成によって、発熱を導波路の中央部分に集中させ、加熱効率及び加熱の応答速度を高めることができる。なお、導波路コアにおいて光が伝搬し、光放射する部分には櫛状の不純物領域を設けない。
【0041】
(不純物領域の非対称配置)
加熱機構が、例えばp-i-p構造であるときは、電流の方向がp型不純物領域から真性領域に向かう場合と真性領域からp型不純物領域に向かう場合とでは電界強度に違いがあり、この電界強度の違いによって温度分布に偏りが生じ、温度分布のピークにずれが生じる。n-i-n構造の加熱機構についても同様の温度分布となる。
【0042】
本発明の加熱機構は、この温度分布のピークずれを解消するために、p-i-p構造の不純物領域においては、負側の電極が接続される側の不純物領域を、正側の電極が接続される側の不純物領域よりも真性領域の中心に近接させた非対称な配置とする。この非対称配置によって、真性領域中の導波路部分に温度分布のピークを合わせ、これによって、加熱効率性及び高速応答性がより高まる。n-i-n構造の不純物領域においては、p-i-p構造の不純物領域に対して、非対称な配置が逆になる。
【0043】
(加熱領域の分割構成)
加熱機構は、導波路コアの長さ方向に向かって分割された複数個の加熱ユニットを備え、この各加熱ユニットは加熱制御を個別に自在とする。各加熱ユニットの加熱を個別に制御することによって導波路コアの長さ方向の加熱状態を調整し、これによって導波路コアの長さ方向の光放射ビームの放射角度を調整することができる。
【0044】
放射角度の調整によって、ビーム走査における対象領域の広さを調整したり、デバイスの製造に伴う光ビームの不均一さを補正したりすることができる。
【発明の効果】
【0045】
以上説明したように、本発明の光偏向デバイスの加熱機構は、加熱効率の向上、導波路の低損失化、高速応答を満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1A】本発明の光偏向デバイスの概略構成を説明するための図である。
図1B】本発明の光偏向デバイスの概略構成を説明するための図である。
図2】本発明の加熱機構の構成、及び二つの電極間に電圧を掛けたときの電界の分布を説明するための図である。
図3】温度分布のピークのずれを説明するための図である。
図4A】本発明の不純物領域を非対称配置した構成を示す図である。
図4B】本発明の不純物領域を非対称配置した構成の温度分布の一例を示す図である。
図5】本発明の櫛状の不純物領域を備える加熱機構Aを説明するための図である。
図6A】本発明の加熱機構の櫛状の不純物領域の構成による特性を説明するための図であり、有限要素解析された温度分布の一例を示す図である。
図6B】櫛の幅に対する吸収損失を示す図である。
図6C】加熱の応答の周波数特性を示す図である。
図7】本発明の分割された複数個の加熱ユニットBを備える加熱機構の構成を説明するための図である。
図8A】各加熱ユニットの加熱の態様例を説明するための図であり、加熱機構による加熱を行わない状態を示した図である。
図8B】加熱機構の各加熱ユニットによって均一加熱した状態を示した図である。
図8C】入射光側から遠い位置にある加熱ユニットの温度を高めて屈折率を大きくして、放射角度を大きくする状態を示した図である。
図8D】入射光側に近い位置にある加熱ユニットの温度を高めて屈折率を大きくして、放射角度を大きくする状態を示した図である。
図8E】光偏向デバイスの製作時の不均一性を有した素子における光放射ビームの状態を示した図である。
図8F】各加熱ユニットで温度制御された導波路コアから放射される光放射ビームの放射方向を補正した状態を示した図である。
図9A】スローライト導波路に回折機構を導入したデバイス構造、及び放射光ビームの概要を示すための図である。
図9B】縦方向のビーム強度分布を示した図である。
図9C】横方向のビーム強度分布を示した図である。
図9D】Siのフォトニック結晶スローライト偏向器のSi層に温度変化を与えたときの偏向角の変化を示した図である。
図10A】スローライト導波路に熱光学効果を発生させるための加熱機構な構造例を示すための図である。
図10B】フォトニック結晶導波路の直上にヒータを形成した例を示す図である。
図10C】フォトニック結晶導波路の直下にヒータを形成した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。以下、図1A図1Bを用いて本発明の光偏向デバイス及び加熱機構の概略構成例を説明し、図2を用いて本発明の加熱機構の構成を説明し、図3図4A図4Bを用いて本発明の加熱機構の温度分布ピークを調整する構成を説明し、図5図6A図6Cを用いて本発明の加熱機構の櫛状の不純物領域の構成及び特性を説明し、図7図8A図8Fを用いて本発明の加熱機構の分割加熱ユニットの構成例及び動作例について説明する。
【0048】
(光偏向デバイスの概要)
図1A図1Bは本発明の光偏向デバイス及び加熱機構の概略を説明するための図である。図1Aにおいて、光偏向デバイス1は高屈折率部材10の面内に低屈折率部位11が周期的に格子配列されたフォトニック結晶導波路2を備える。
【0049】
フォトニック結晶導波路2は、Si等の半導体からなる高屈折率部材10に低屈折率部位11を周期的に配した格子配列3により形成される。低屈折率部位11は、例えば、高屈折率部材10に設けた円孔とすることができる。フォトニック結晶導波路2はSi等の半導体材からなるクラッド13上に設けられる。
【0050】
フォトニック結晶導波路2には、格子配列3の一部に低屈折率部位11を設けない部分を設けることによって光を伝搬する導波路コア12が形成される。低屈折率部位11を円孔とする構成では、格子配列3の一部に円孔を配置しない部分を設けることによって導波路コア12が形成される。導波路コア12に入射された入射光は、導波路コア12を長さ方向に伝搬しながら、導波路コア12から外部に放射される。なお、図1A図1B中の矢印は入射光及び放射光ビームを模式的に示している。
【0051】
(加熱機構の概要)
光偏向デバイス1は、導波路コア12を加熱するための加熱機構Aを備える。図1Bにおいて、加熱機構Aは、フォトニック結晶導波路2を構成する格子配列3において、真性領域21、及び真性領域21を両側で挟む不純物領域22及び高濃度拡散層領域23の複数の半導体領域により構成される。高濃度拡散層領域23は、不純物領域22と接合する側と反対側にある外側の側部に電極24を備え、電極24との間でオーミック接触を行う。加熱機構Aは、一方の電極24から、高濃度拡散層領域23,不純物領域22、真性領域21,不純物領域22,高濃度拡散層領域23を介して他方の電極24に向かう電流路が形成され、電流を流すことによって電気抵抗の高い真性領域21を温度分布のピーク域とする発熱を行い、導波路コア12を加熱して屈折率を変化させる。
【0052】
加熱機構Aを構成する不純物領域22及び高濃度拡散層領域23は、p型不純物領域及びp型高濃度拡散層領域とする他、n型不純物領域及びn型高濃度拡散層領域としてもよい。p型不純物領域及びp型高濃度拡散層領域とする加熱機構はp-i-p構造であり、n型不純物領域及びn型高濃度拡散層領域とする加熱機構はn-i-n構造である。なお、iは真性領域を表している。
【0053】
p 型不純物領域22pは、ドーピングに伴う光吸収を避けるために導波路コア12の中央から十分な距離だけ離して設けられる。導波路コア12の中央はドーピングがない真性領域(i 領域)であるため、加熱機構Aは、導波路コア12を真性領域21とするp-i-p構造、あるいはn-i-n構造となる。真性領域21は電気抵抗が大きいため、両電極24間に電圧を印加して電流を流すと、真性領域21が効果的に加熱される。
【0054】
加熱機構Aはp-i-p構造あるいはn-i-n構造の何れの構造とすることができるが、Siフォトニクスでは、同じドーピング濃度に対してn 型不純物領域22nはp型不純物領域22pよりも光吸収係数が大きい。そのため、加熱機構Aをn-i-n構造で構成する場合には、p-i-p構造と同程度の光強度を得るためには、n型不純物領域22nのドーピング濃度をp型不純物領域22pのドーピング濃度よりも下げる必要がある。
【0055】
上記した、p-i-p構造やn-i-n構造の他に、真性領域21の片側をp型とし、反対側をn型とするp-i-n型構造とすることも考えられるが、このp-i-n型構造に順バイアスを掛けて電流を流す場合には、p-i-p構造やn-i-n構造に電流を流す場合と比較して、中央の真性領域21のキャリア密度が高くなるため、光吸収が大きくなる。例えば、p-i-p構造やn-i-n構造では、真性領域(i 領域)のキャリア密度は1×1017cm-3以下であり、光吸収にはほとんど寄与しない。一方、p-i-n構造の場合の真性領域(i 領域)のキャリア密度は1×1018cm-3以上になる。この1×1018cm-3以上のキャリア密度は、スローライト導波路では100dB/cm以上の大きな損失に相当する。この損失は、仮に光偏向デバイスの長さを1mmと短めに設定した場合においても10dB以上となる。したがって、p-i-n構造の加熱機構は損失の点で光偏向デバイスには不適である。
【0056】
図2(a)は加熱機構のp-i-p構造を示し、図2(b)はこの加熱機構に電圧を印加したときの電界強度分布を示している。図2(a)示す加熱機構Aは、Siの真性領域21の両側にp-Siのp型不純物領域22pが配され、さらにその外側にp-Siのp型高濃度拡散層領域23が配された構成であり、p型不純物領域22p、及び真性領域21の中心部を除く部分に円孔11が設けられている。図2(a)では、円孔11の直径を220nmとし、真性領域21の横方向の幅をLiとしている。
【0057】
格子配列3において、円孔11の内部を絶縁体SiOで埋めることによって低屈折率部位が構成される場合には、円孔11の内部は電界が高く、円孔11と円孔11との間も電流経路が狭くなるため、電界が高くなる。
【0058】
図2(b)に示す電界強度分布において、大文字の符号A,B,C,Dの一部,Hの一部,I,J,Kで示す部分はp型不純物領域に対応し、大文字の符号Dの一部,E,F,G,及びHの一部は真性領域に対応し、小文字の符号a~jはドーピングされたSiOの円孔に対応している。
【0059】
電界強度分布の中央部の電界強度は、図2(b)の右側に示した指標の内で(i)で示す高電界強度の範囲に対応し、電界強度分布の両側部の電界強度は図2(b)の右側に示した指標の内で(ii)で示す低電界強度の範囲に対応している、ここで、真性領域の幅Liは4.0μmであり、p型不純物領域のドーピングのアクセプタ濃度はNA=1.05×1018cm-3である。
【0060】
(不純物領域の非対称配置)
加熱機構Aは、真性領域(i領域)に対して両側にp型不純物領域が配されたp-i-p構造 であって対称な構造であるが、電流がp型不純物領域(p 領域)から真性領域(i 領域)に向かう場合と、真性領域(i 領域)からp型不純物領域(p 領域)に向かう場合とでは電界強度に差異があり、真性領域(i 領域)からp型不純物領域(p 領域)に向かう電界強度の方が大きくなる。
【0061】
この電界強度の違いによって温度分布に偏りが生じ、熱の発生がi領域→p領域の方でより大きくなる。その結果、温度分布の最大値が導波路中心にならず、温度分布のピークにずれが生じる。
【0062】
図3は温度分布のピークのずれを説明するための図である。図3(a)は真性領域21に対して不純物領域22及び高濃度拡散層領域23を対称に配した構成を示し、図3(b)はこの対称配置した加熱機構の温度分布を模式的に示している。なお、ここでは、加熱機構Aに対して左方から右方に向かって電流を流したときの温度分布を示している。温度分布のピーク点Pは真性領域21の中心点から負側にずれる。
【0063】
非対称な温度分布は、光ビームの形成においても左右での非対称性が生じ、高品質なビームが形成できないことが予想される。導波路の中心に対して温度分布を左右対称にするために、本発明の加熱機構Aは、負側の電極をつなぐp型不純物領域22p(図では右側の不純物領域)をLsだけ導波路の中央に寄せた非対称な構成とする。この不純物領域の非対称配置は、p-i-p構造に限らずn-i-n構造についても同様に非対称配置することで温度分布を対称とすることができる。ただしn-i-n構造の場合は、正側の電極をつなぐn型不純物領域を導波路の中央に寄せた非対称な構成とする。
【0064】
図3(c)は不純物領域22を導波路の中心側にずらした構成例を示し、図3(d)はこの構成による温度分布を示している。導波路中央が温度分布のピークとなり、導波路に対して左右対称の温度分布となる。
【0065】
図4A図4Bは不純物領域を非対称配置した構成の温度分布の一例を示している。図4A図3(c)と同様に負電極側の不純物領域をLsだけ導波路の中央側に位置をずらした構成例を示し、図4Bはこの構成において、ずれ量Lsを0nm,300nmとしたときの温度分布を示している、なお、ここでは、印加する電圧を30Vとし、真性領域の横方向の長さLiを2.5μmとしている。
【0066】
図4Bの温度分布によれば、左右が完全に対称な状況(Ls=0nm)では温度分布のピークは電界強度が強くなる右側にずれている。ずれ量Lsを300nmとした場合には、導波路中央が温度分布のピークとなり、導波路に対して左右対称の温度分布が得られる。
【0067】
したがって、本発明の加熱機構は、不純物領域において、負側の電極が接続される側の不純物領域を、正側の電極が接続される側の不純物領域よりも真性領域の中心に近接させた非対称な配置とし、この非対称配置によって、真性領域中の導波路部分に温度分布のピークを合わせる。これによって、加熱効率性及び高速応答性がより高まる。
【0068】
(櫛状の不純物領域)
加熱機構において、不純物領域は真性領域に設ける構成とすることもでき、真性領域内に櫛状の不純物領域を形成する。
【0069】
図5は櫛状の不純物領域を備える加熱機構Aを示している。加熱機構Aにおいて、不純物領域の櫛状部位6を真性領域21内に設ける。櫛状部位6は、真性領域21中の円孔11の配列に沿って形成する。なお、導波路コアにおいて光が伝搬し、光放射する部分には櫛状の不純物領域を設けない。
【0070】
櫛状部位6は、フォトニック結晶の三角格子状に並べられた円孔列に沿って斜め櫛状のドーピングを行うことで形成することができる。この斜めの櫛状の形状は、同じ光吸収であれば電気抵抗を下げることができ、同じ電気抵抗であれば光吸収を抑制することができる。さらに、発熱部分を導波路の中央付近に接近させることができるため、発熱が導波路中央付近に集中し、加熱効率及び加熱の応答性が高まる。また、櫛状の形状は、電流の制限を小さくし、ドーピングの領域を限定して光吸収の減衰を減らす効果を奏する。
【0071】
図6Aは有限要素解析された温度分布の一例である。ここで、印加電圧は15Vとし、導波路の中央部分において両側の櫛状部分間のギャップlcが200nmと400nmの場合について、櫛状部分の幅Wcを110nm,130nm,150nmとした時の温度変化ΔT[K]を示している。なお、pドーピングのアクセプタ濃度はNA=1.50×1018cm-3である、
【0072】
ギャップlcが200nmの場合には現実的に可能な温度変化である400Kの温度変化を得ることができ、ギャップlcが400nmの場合においても約400Kに近い温度変化を得ることができる。
【0073】
図6Bは、櫛の幅Wcに対する吸収損失を示している。導波路中央のΔTが400Kに達した際に、櫛状部分の幅Wc=130nm、ギャップlc=400nm、のときの損失は3.5dB/cm(=0.35dB/mm)である。光偏向デバイス1の長さを高品質な縦方向ビームが形成される3mmと仮定すると全損失は約1dBとなり、十分に許容レベルとなる。なお、図6Bのギャップlcや櫛の幅Wc等のパラメータ及びドーピングのアクセプタ濃度NA図6Aと同様である。
【0074】
図6Cは、加熱の応答の周波数特性を示している。なお、p型不純物領域間の電圧は15V、櫛の幅Wcは130nm、ギャップlcは400nmである。この加熱の周波数特性の3dB遮断周波数は110kHzであり、例えば、画素数が1万点で10フレーム毎秒のフレームレートに対応する一画素当たりの走査速度100kHzを満たす周波数応答となる。
【0075】
(加熱領域の分割構成)
加熱機構Aは、導波路コアの長さ方向に向かって分割された複数個の加熱ユニットBを備える構成とすることができる。
【0076】
図7は、加熱機構Aが分割された複数個の加熱ユニットBを備える構成を示している。各加熱ユニットBは前記した加熱機構Aと同様の構成である。各加熱ユニットBの加熱は、それぞれ個別に制御することができる。図7では、複数個の加熱ユニットBを単位とするA1,A2,A3を温度制御部27によって加熱制御を行う構成例を示している。加熱制御を行う加熱ユニットBの個数は、図7に示すような3個等の複数個とする他、1個を単位として加熱制御を行っても良い。
【0077】
各加熱ユニットBは加熱制御を個別に自在とすることによって、導波路コアの長さ方向の加熱状態を調整することができ、これによって導波路コアの長さ方向の光放射ビームの放射角度を調整することができる。また、放射角度の調整によって、ビーム走査における対象領域の広さを調整したり、デバイスの製造に伴う光ビームの不均一さを補正することができる。
【0078】
各加熱ユニットの加熱の態様例を図8A図8Fを用いて説明する。図8Aは加熱機構による加熱を行わない状態を示し、図8Bは加熱機構の各加熱ユニットによって均一加熱した状態を示している。加熱機構によって均一加熱することで光ビームが偏向される。この均一加熱の状態は、単一のヒータによる加熱状態と同様である。
【0079】
図8C図8Dは加熱ユニットの加熱状態を調整して不均一加熱を行ったときの状態を示している。図8Cは、入射光側から遠い位置にある加熱ユニットの温度を高めて屈折率を大きくして、放射角度を大きくする状態を示し、図8Dは、入射光側に近い位置にある加熱ユニットの温度を高めて屈折率を大きくして、放射角度を大きくする状態を示している。この制御状態によって、ビームを意図的に拡散させたり、収束させたりすることができる。この加熱の態様は、LiDARにおいて、広い対象領域の観察、あるいは狭い対象領域の観察といった対象範囲の拡大縮小をアダプティブに切り替える機能を付与する。
【0080】
図8Eは、光偏向デバイスの製作時の不均一性を有した素子における光放射ビームの状態を示している。不均一性を有した素子から放射された光放射ビームは拡散や収束によって放射方向が不均一となる。これに対して、図8Fは、光偏向デバイスの製作時の不均一性を有した素子において、各加熱ユニットの加熱状態を制御することによって、各加熱ユニットで温度制御された導波路コアから放射される光放射ビームの放射方向は補正されて所望の放射角度に調整され、光放射ビームの品質を向上する。
【0081】
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨に基づいて種々変形することが可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の光偏向デバイスは、自動車,ドローン,ロボットなどに搭載することができ、パソコンやスマートフォンに搭載して周囲環境を手軽に取り込む3Dスキャナ、監視システム、光交換やデータセンター用の空間マトリックス光スイッチなどに適用することができる。
【0083】
上記した実施例では、光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路を構成する高屈折率部材としてSiを想定して近赤外光の波長域の光を用いているが、光偏向デバイスを構成する高屈折率部材として可視光材料へ適用することにより、さらにプロジェクタやレーザディスプレイ、網膜ディスプレイ、2D/3Dプリンタ、POSやカード読み取り等への適用が期待される。
【0084】
この出願は、2017年4月6日に出願された日本出願特願2017-076112を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0085】
1 光偏向デバイス
2 フォトニック結晶導波路
3 格子配列
6 櫛状部位
10 高屈折率部材
11 円孔(低屈折率部位)
12 導波路コア
13 クラッド
21 真性領域
22 不純物領域
22n n型不純物領域
22p p型不純物領域
23 高濃度拡散層領域
23n n型高濃度拡散層領域
23p p高濃度拡散層領域
24 電極
27 温度制御部
101 光偏向デバイス
102 フォトニック結晶導波路
103 格子配列
110 高屈折率部材
111 円孔(低屈折率部位)
112 導波路コア
113 クラッド
201A 加熱機構
201B 加熱機構
202 フォトニック結晶導波路
203 ヒータ
204 加熱領域
205 電源
A 加熱機構
B 加熱ユニット
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図10C